説明

チタニア繊維およびチタニア繊維の製造方法

【課題】繊維径が小さく、十分な光触媒活性を発現し、後の加工が容易であり、バインダー等を添加して固定化せずともそのまま触媒として用いることのできるチタニア繊維および当該チタニア繊維の製造方法を提供すること。
【解決手段】チタニア繊維を形成するための繊維形成用組成物として、ニオブ元素を含む組成物を用いて、当該組成物から静電紡糸法にて繊維集合体を製造し、これを焼成することにより、平均繊維径が50nm以上1000nm以下であり、繊維全体の質量に対してニオブ元素を酸化ニオブ換算で0.1質量%以上10質量%以下含むチタニア繊維を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チタニア繊維および当該チタニア繊維の製造方法に関する。さらに詳しくは、繊維径が小さく、十分な光触媒活性を発現し、後の加工が容易であり、バインダー等を添加して固定化せずともそのまま触媒として用いることのできる、光触媒フィルターや半導体材料として有用なチタニア繊維および当該チタニア繊維の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セラミック繊維は、電気絶縁性、低熱伝導性、高弾性等の性質を活かして、電気絶縁材、断熱材、フィラー、フィルター等様々な分野で用いることのできる有用な材料である。このようなセラミック繊維は、通常、溶融法、スピンドル法、ブローイング法等によって作製されており、その繊維径は、一般的に数μmである(特許文献1参照)。
【0003】
ところで、近年、特にフィラーやフィルターの分野においては、マトリックス材料との接着面積の増大や、フィルター効率の向上のために、より細いセラミック繊維が求められるようになってきている。
【0004】
ここで、従来の繊維よりも細い繊維を作製する方法としては、有機高分子からなる材料を中心として、エレクトロスピニング法(静電紡糸法)が知られている。エレクトロスピニング法(静電紡糸法)とは、有機高分子等の繊維形成性の溶質を溶解させた溶液に、高電圧を印加して帯電させることにより、溶液を電極に向かって噴出させ、噴出によって溶媒が蒸発することから、極細の繊維構造体を簡便に得ることのできる方法である(特許文献2参照)。
そして、チタニア繊維についても、このようなエレクトロスピニング法によって繊維を作製する方法は既に知られている(非特許文献1〜2参照)。
【0005】
また、チタニアの光触媒活性を向上させることを目的として、白金やルビジウム、銀等の金属、または、酸化タングステンや酸化モリブデン、酸化バナジウム等の金属酸化物をチタニアに担持させることが知られている。中でも、酸化ニオブを特定量含有させたチタニア光触媒は、その他の金属や金属酸化物を担持させた場合と比較して、同等の活性を発現するとともに、人体に対して安全で環境汚染がなく、且つ安価に製造することができる(特許文献3参照)。
【0006】
【特許文献1】特開2003−105658号公報
【特許文献2】特開2002−249966号公報
【特許文献3】特開平09−267037号公報
【非特許文献1】Dan Li、Younan Xia著、「Direct Fabrication of Composite and Ceramic Hollow Nanofibersby Electrospinning」、NanoLetters、US、The American Chemical society、2004年5月、第4巻、第5号、P933〜938
【非特許文献2】Mi Yeon Song、Do Kyun Kim、Kyo Jin Ihn、SeongMu Jo、Dong Young Kim著、「ElectrospunTiO2 electrodes for dye-sensitized solar cells」、Nanotechnology、US、Institute Of Physics、2004年12月、第15巻、12号、P1861〜1865
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記非特許文献1に記載された方法においては、チタニア原料化合物に対して0.1〜0.5倍量もの有機高分子を添加する必要がある。このため、上記非特許文献1に記載された方法によって得られるチタニア繊維は、多孔構造となることが予想される。
【0008】
多孔構造のチタニア繊維は、比較的表面積が大きいと考えられることから、金属触媒等の担持材としての用途には適していると思われる。しかしながら、多孔構造のチタニア繊維は、一般的に力学的な強度が低く、このため、強度を必要とする用途に用いることは困難であった。さらに、多孔構造のチタニア繊維は、格子欠陥を多く含んだ結晶性の低いものと考えられるため、格子欠陥を多く含むことに起因して、電子と正孔の再結合が多く起こり、十分な光触媒活性を発現することができないと考えられる。
【0009】
また、特許文献3に記載されたチタニア系光触媒は、粉末形状の触媒であることから、使用に際しては何かに固定することが必須となる。固定化の方法としては、粉末スラリーとして成膜する方法、有機または無機バインダーにて結合する方法等が挙げられるが、これらはいずれもスラリー化、成膜化、混合、塗布等の新たな工程が発生してしまう。
【0010】
さらに、スラリーから得られるチタニア膜は、強度が脆く、耐久性が低いものとなっていた。また、有機バインダーを使用する場合には、光触媒反応の際にバインダーが一緒に分解されてしまうため、チタニア粉末の脱落が発生してしまう。一方で、無機バインダーを使用する場合には、耐久性はあるものの、十分な反応面積(チタニアの表面への露出面積)を確保するためにはバインダーを大量に使用をせねばならず、その結果、触媒効率が低下する問題があった。
【0011】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、繊維径が小さく、十分な光触媒活性を発現し、後の加工が容易であり、バインダー等を添加して固定化せずともそのまま触媒として用いることのできるチタニア繊維および当該チタニア繊維の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記の課題に鑑み鋭意検討を重ねた。その結果、チタニア繊維を形成するための繊維形成用組成物として、ニオブ元素を含む組成物を用いて、当該組成物から静電紡糸法にて繊維集合体を製造し、これを焼成することにより、繊維径が小さく、十分な光触媒活性を発現し、後の加工が容易であり、バインダー等を添加して固定化せずともそのまま触媒として用いることのできる繊維が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち本発明は、平均繊維径が50nm以上1000nm以下であり、繊維全体の質量に対してニオブ元素を酸化ニオブ換算で0.1質量%以上10質量%以下含むチタニア繊維である。
【0014】
また別の本発明は、チタン酸アルキル、チタン酸アルキルとの錯体形成性化合物、および、ニオブアルコキシドを含む混合物、水、ならびに、繊維形成性溶質を含む繊維形成用組成物を調製する繊維形成用組成物調製工程と、静電紡糸法にて前記繊維形成用組成物を噴出することにより繊維を得る紡糸工程と、前記繊維を累積させて繊維集合体を得る累積工程と、前記繊維集合体を焼成して繊維構造体を得る焼成工程と、を含むチタニア繊維の製造方法である。
【発明の効果】
【0015】
本発明のチタニア繊維は、平均繊維径がナノスケールと小さいことから、柔軟性を有する繊維となる。また、従来のチタニア繊維と比較して、表面積が大きくなるため、光触媒用フィルターや触媒担持基材等に使用した場合に、十分な触媒効率を発現することができる。
【0016】
さらに、本発明のチアニア繊維は、多孔構造となることを抑制することができるため、ある程度の表面積を有しつつも、力学的な強度を保持することができる。また、格子欠陥を多く含む繊維と比較して、電子と正孔の再結合を抑制でき、したがって、十分な光触媒活性を発現することができる。
【0017】
また、本発明のチタニア繊維は、ニオブ元素を含むことから、光触媒として使用した場合の触媒活性を向上させることができる。
【0018】
さらには、繊維形状であることから、従来の粉末の光触媒材料と比較して、後の加工が容易であり、また、バインダー等を添加して固定化せずともそのまま触媒として用いることのできることから、フィルター等として使用した場合に、バインダー分解による粒子の脱落や、バインダー多含有による触媒効率の低下を防止することができる。
【0019】
したがって、本発明のチタニア繊維は、繊維径が小さく、十分な光触媒活性を発現し、後の加工が容易であり、バインダー等を添加して固定化せずともそのまますることができることから、光触媒フィルター、触媒担持基材、半導体材料として非常に有用である。
【0020】
さらに、本発明のチタニア繊維は、編み込む等の加工を施すことで様々な構造体を形成することができる。また、取り扱い性やその他の要求事項に合わせて、本発明のチタニア繊維以外のセラミック繊維と組み合わせて用いることもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明について詳細に説明する。
<チタニア繊維>
本発明のチタニア繊維は、特定範囲の平均繊維径を有し、ニオブ元素を特定量含むチタニア繊維である。すなわち、本発明のチタニア繊維は、平均繊維径が50nm以上1000nm以下であり、繊維全体の質量に対してニオブ元素を酸化ニオブ換算で0.1質量%以上10質量%以下含むチタニア繊維である。
【0022】
ここで、「チタニア繊維」とは、酸化チタンを主成分とする酸化物系セラミックスからなる繊維構造体のことを指す。本発明においては、副成分としてニオブ元素を酸化ニオブ換算で0.1質量%以上10質量%以下含み、これ以外の副成分として、Al、SiO、LiO、NaO、MgO、CaO、SrO、BaO、B、P、SnO、ZrO、KO、CsO、ZnO、Sb、As、CeO、V、Cr、MnO、Fe、CoO、NiO、Y、Lu、Nb、Er、Yb、HfO等の酸化物系セラミックスを含んでいてもよい。
【0023】
[ニオブ元素の含有量]
本発明のチタニア繊維における、ニオブ元素の含有量は、チタニア繊維全体の質量に対して酸化ニオブ換算で0.1質量%以上10質量%以下の範囲であり、より好ましくは、0.3質量%以上5質量%以下の範囲である。ニオブ元素の含有量が0.1質量%未満の場合には、光触媒としての活性を向上させる効果が低く、一方で、10質量%を超える場合には、繊維形成用組成物調製工程において溶液がゲル化するため調整困難となり、また、その後得られた繊維においてもそれ以上の添加効果を得ることが困難となる。
【0024】
酸化チタンと酸化ニオブ以外の酸化物系セラミックス(副成分)の存在比としては、チタニア繊維の結晶性の観点から、チタニア繊維の質量に対して5質量%以下であることが好ましい。より好ましくは1質量%以下であり、特に好ましくは0.1質量%以下である。
【0025】
[チタニア繊維の平均繊維径]
次に、チタニア繊維の平均繊維径について説明する。本発明のチタニア繊維の平均繊維径は、50nm以上1000nm以下である。より好ましくは、100nm以上500nm以下の範囲である。チタニア繊維の平均繊維径が1000nmを越える場合には、チタニア繊維の柔軟性が乏しくなるため好ましくない。
【0026】
[チタニア繊維の繊維長]
次に、チタニア繊維の平均繊維長について説明する。本発明のチタニア繊維の繊維長は、100μm以上であることが好ましい。より好ましくは150μm以上であり、特に好ましくは1mm以上である。チタニア繊維の繊維長が100μm未満となる場合には、繊維の集合によって得られるチタニア繊維構造体の力学強度が不十分なものとなる。
【0027】
[チタニア繊維のBET比表面積]
次に、チタニア繊維のBET比表面積について説明する。本発明のチタニア繊維のBET比表面積は、0.1m/g以上10m/g以下であることが好ましい。より好ましくは0.1m/g以上5m/g以下であり、さらに好ましくは0.1m/g以上1m/g以下であり、特にに好ましくは0.1m/g以上0.5m/g以下である。チタニア繊維のBET比表面積が0.1m/gより小さい場合には、チタニア繊維を光触媒として用いた場合に光触媒活性が低下したり、あるいは、チタニア繊維を触媒担持基材として用いた場合に担持される触媒量が低下する等により、好ましくない。一方で、BET比表面積が10m/gより大きい場合には、チタニア繊維表面が多孔構造となることからチタニア繊維の強度が低下するため好ましくない。
【0028】
[チタニア繊維の結晶形]
次に、チタニア繊維の結晶形について説明する。酸化チタンの結晶形には、アナターゼ型、ルチル型、ブルッカイト型が存在する。本発明のチタニア繊維は、これらの中でも主としてアナターゼ型から構成されることが好ましい。アナターゼ型以外の結晶形が存在すると、チタニア繊維の強度が低下したり、チタニア繊維の光触媒活性が低下してしまう。
【0029】
アナターゼ型結晶とルチル型結晶の存在については、チタニア繊維のX線回折図形において、アナターゼ結晶を示す25〜26°のピーク強度と、ルチル型結晶を示す27〜28°のピーク強度にて確認することができる。本発明のチタニア繊維においては、X線回折図形にアナターゼ型以外の回折ピークが確認されないことが好ましい。
【0030】
<チタニア繊維の製造方法>
次に、本発明のチタニア繊維を製造するための態様について説明する。
本発明のチタニア繊維を製造するには、前述の要件を同時に満足するようなチタニア繊維が得られる手法であればいずれも採用することができるが、チタン酸アルキル、チタン酸アルキルとの錯体形成性化合物、および、ニオブアルコキシドを含む混合物、水、ならびに、繊維形成性溶質を含む繊維形成用組成物を調製する繊維形成用組成物調製工程と、静電紡糸法にて前記繊維形成用組成物を噴出することにより繊維を得る紡糸工程と、前記繊維を累積させて繊維集合体を得る累積工程と、前記繊維集合体を焼成して繊維構造体を得る焼成工程と、を含むチタニア繊維の製造方法を、好ましい一態様として挙げることができる。
【0031】
以下に、本発明のチアニア繊維を得るための好ましい製造方法の一態様に用いられるとなる繊維形成用組成物の構成成分、および、各製造工程につき説明する。
【0032】
[繊維形成用組成物の構成]
本発明のチタニア繊維を得るための好ましい製造方法の一態様に用いられる繊維形成用組成物について説明する。好ましい態様として用いられる繊維形成用組成物は、チタン酸アルキル、チタン酸アルキルとの錯体形成性化合物、および、ニオブアルコキシドを含む混合物、水、ならびに、繊維形成性溶質を含む組成物である。繊維形成用組成物の構成について以下に説明する。
【0033】
〔チタン酸アルキル〕
好ましい製造方法の態様において用いられるチタン酸アルキルとしては、例えば、チタンテトラメトキシド、チタンテトラエトキシド、チタンテトラノルマルプロポキシド、チタンテトライソプロポキシド、チタンテトラノルマルブトキシド、チタンテトラターシャリーブトキシド等が挙げられる。これらの中では、入手の容易さの観点から、チタンテトライソプロポキシド、チタンテトラノルマルブトキシドが好ましい。
【0034】
〔チタン酸アルキルとの錯体形成性化合物〕
次に、チタン酸アルキルとの錯体形成性化合物について説明する。チタン酸アルキルとの錯体形成性化合物としては、カルボン酸類、アミド類、エステル類、ケトン類、ホスフィン類、エーテル類、アルコール類、チオール類等の配位性の化合物が挙げられる。
【0035】
後記する繊維形成用組成物調製工程においては、チタン酸アルキル、チタン酸アルキルとの錯体形成性化合物、および、ニオブアルコキシドを含む混合物と、水と、を混合する。このため、チタン酸アルキルとの錯体形成性化合物としては、常温で水との反応性を示さない程度までに強固な錯体を形成する化合物を用いることは好ましくない。この観点からは、チタン酸アルキルとの錯体形成性化合物としてカルボン酸類を用いることが好ましく、より好ましくは脂肪族カルボン酸であり、特に好ましくは酢酸である。
【0036】
また、チタン酸アルキルとの錯体形成性化合物の添加量としては、本発明のチタニア繊維を作製するための繊維形成用組成物を作製することができる量であれば特に限定されないが、チタン酸アルキルに対して5当量以上であることが好ましく、7当量以上10当量以下であることがより好ましい。
【0037】
〔ニオブアルコキシド〕
好ましい製造方法の態様において用いられるニオブアルコキシドとしては、例えば、ニオブテトラメトキシド、ニオブテトラエトキシド、ニオブテトラノルマルプロポキシド、ニオブテトライソプロポキシド、ニオブテトラノルマルブトキシド、ニオブテトラターシャリーブトキシドなどが挙げられる。これらの中では、入手の容易さの観点から、ニオブエトキシドが好ましい。
【0038】
〔水〕
好ましい製造方法の態様において用いられる水は、特に限定されるものではないが、金属イオンが不純物として含まれると、作製されたチタニア繊維中に前記金属が残存するため好ましくない。このため、好ましい製造方法に用いられる水としては、蒸留水やイオン交換水が好ましい。
【0039】
また、添加する水の量は、繊維形成用組成物からチタニア繊維を作製することのできる量であれば特に限定されるものではないが、チタン酸アルキルの質量に対して0.5倍量以上10倍量以下であることが好ましい。さらに好ましくはチタン酸アルキルの質量に対して0.5倍量以上3倍量以下であり、特に好ましくは0.5倍量以上1.5倍量以下である。
【0040】
〔繊維形成性溶質〕
次に、繊維形成性溶質について説明する。本発明のチタニア繊維を得るための好ましい製造方法の態様においては、繊維形成用組成物に曳糸を持たせることを目的として、繊維形成用組成物に繊維形成性溶質を溶解させる必要がある。用いられる繊維形成性溶質としては、本発明のチタニア繊維を作製することのできるものであれば特に限定されないが、取り扱いの容易さの観点や、焼成工程において除去される必要があることから、有機高分子を用いることが好ましい。
【0041】
用いられる有機高分子としては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリビニルエステル、ポリビニルエーテル、ポリビニルピリジン、ポリアクリルアミド、エーテルセルロース、ペクチン、澱粉、ポリ塩化ビニル、ポリアクリロニトリル、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリ乳酸−ポリグリコール酸共重合体、ポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンサクシネート、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリヘキサメチレンカーボネート、ポリアリレート、ポリビニルイソシアネート、ポリブチルイソシアネート、ポリメチルメタクリレート、ポリエチルメタクリレート、ポリノルマルプロピルメタクリレート、ポリノルマルブチルメタクリレート、ポリメチルアクリレート、ポリエチルアクリレート、ポリブチルアクリレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリパラフェニレンテレフタラミド、ポリパラフェニレンテレフタラミド−3,4’−オキシジフェニレンテレフタラミド共重合体、ポリメタフェニレンイソフタラミド、セルロースジアセテート、セルローストリアセテート、メチルセルロース、プロピルセルロース、ベンジルセルロース、フィブロイン、天然ゴム、ポリビニルアセテート、ポリビニルメチルエーテル、ポリビニルエチルエーテル、ポリビニルノルマルプロピルエーテル、ポリビニルイソプロピルエーテル、ポリビニルノルマルブチルエーテル、ポリビニルイソブチルエーテル、ポリビニルターシャリーブチルエーテル、ポリビニリデンクロリド、ポリ(N−ビニルピロリドン)、ポリ(N−ビニルカルバゾル)、ポリ(4−ビニルピリジン)、ポリビニルメチルケトン、ポリメチルイソプロペニルケトン、ポリプロピレンオキシド、ポリシクロペンテンオキシド、ポリスチレンサルホン、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン610、ナイロン612、並びにこれらの共重合体等が挙げられる。中でも、水に対する溶解性の観点から、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリビニルエステル、ポリビニルエーテル、ポリビニルピリジン、ポリアクリルアミド、エーテルセルロース、ペクチン、澱粉が好ましく、ポリエチレングリコールが特に好ましい。
【0042】
用いられる有機高分子の平均分子量は、本発明のチタニア繊維を作製することができれば特に限定されるものではないが、平均分子量が低い場合には、有機高分子の添加量を大きくせねばならないことから、焼成工程において発生する気体が多くなり、また、得られるチタニア繊維の構造に欠陥が発生する可能性が高くなるため好ましくない。一方で、平均分子量が高い場合には、粘度が高くなりすぎるため紡糸が困難となるため好ましくない。用いられる有機高分子の好ましい平均分子量は、ポリエチレングリコールの場合には、100,000以上6,000,000以下の範囲であり、より好ましくは100,000以上600,000以下の範囲である。
【0043】
繊維形成性溶質の添加量としては、チタニア繊維の表面構造の緻密性を向上させる観点から、繊維を形成することのできる濃度範囲において可能な限り少量であることが好ましく、繊維形成用組成物全体に対して0.01質量%以上2質量%以下の範囲が好ましく、0.01質量%以上1.5質量%以下の範囲がより好ましい。
【0044】
〔その他成分〕
本発明のチタニア繊維を得るための好ましい製造方法の態様においては、繊維形成用組成物から繊維を形成でき、本発明の要旨を超えない範囲であれば、上記の必須成分以外の成分を繊維形成用組成物の成分として含有させてもよい。
【0045】
好ましい態様の繊維形成用組成物においては、水を必須成分として用いるが、この水は溶媒としての役割をも果たすものである。繊維形成用組成物においては、組成物の安定性や紡糸の安定性を向上させる観点から、水以外の溶媒、例えばアルコール等を添加することも可能であるし、塩化アンモニウム等の塩や塩酸等の酸を添加することも可能である。
【0046】
[繊維形成用組成物調製工程]
繊維形成用組成物調製工程においては、チタン酸アルキル、チタン酸アルキルとの錯体形成性化合物、および、ニオブアルコキシドを含む混合物、水、ならびに、繊維形成性溶質を含む繊維形成用組成物を調製する。
【0047】
本発明のチタニア繊維を得るための好ましい製造方法の態様においては、まず、チタン酸アルキル、チタン酸アルキルとの錯体形成性化合物、および、ニオブアルコキシドを含む混合物を得る。なお、チタン酸アルキル、チタン酸アルキルとの錯体形成性化合物、および、ニオブアルコキシドの混合により得られる混合物は、均一な溶液となる。
【0048】
混合の方法は、特に限定されるものではなく、攪拌等の周知の方法を採用することができる。また、混合の順序も特に限定されるものではなく、同時添加であっても、あるいは逐次添加であっても差し支えない。
【0049】
続いて、上記で得られたチタン酸アルキル、チタン酸アルキルとの錯体形成性化合物、および、ニオブアルコキシドを含む混合物と、水と、を混合する。これらを混合すると、ゲルが生成する。繊維形成用組成物調製工程においては、生成したゲルを解離させることにより、最終的に透明なチタン含有溶液を調製する。
【0050】
チタン酸アルキル、チタン酸アルキルとの錯体形成性化合物、および、ニオブアルコキシドを含む混合物に水を添加する際には、水の濃度が局所的に高くなると、解離困難なゲルが生成する可能性がある。このため、チタン酸アルキル、とチタン酸アルキルとの錯体形成性化合物、および、ニオブアルコキシドを含む混合物を攪拌しつつ、水を徐々に添加することが好ましい。
【0051】
また、生成したゲルの解離にあたっては、さらに攪拌を続けることによってゲルを解離させることができる。ゲルが解離すると、透明なチタン含有溶液を得ることができる。
【0052】
引き続き、上記で得られたチタン含有溶液に、繊維形成性溶質を添加することにより、最終的に繊維形成用組成物を得る。繊維形成性溶質の添加の方法は、チタン含有溶液と繊維形成性溶質がほぼ均一に混合できれば、特に限定されるものではない。また、添加順序も特に限定されるものではなく、一方をベースとして他方を添加する形態でも、あるいは、同量ずつを同時に添加する形態でもよい。
【0053】
なお、繊維形成性溶質の添加時期は、チタン含有溶液の調整時であっても差し支えない。この場合には、チタン酸アルキル、チタン酸アルキルとの錯体形成性化合物、および、ニオブアルコキシドを含む混合物を得る時点であっても、また、当該混合物と水とを混合する時点であってもよい。繊維形成性溶質を水と同時に添加する場合には、例えば、水と繊維形成性溶質とを予め混合しておき、チタン酸アルキル、チタン酸アルキルとの錯体形成性化合物、および、ニオブアルコキシドを含む混合物に徐々に添加することも可能である。
【0054】
本発明において、繊維形成用組成物の溶液の安定性や紡糸の安定性の観点から、水以外の溶媒を繊維形成用組成物に添加する場合や、その他の任意成分を添加する場合には、チタン酸アルキル、チタン酸アルキルとの錯体形成性化合物、および、ニオブアルコキシドを含む混合物を得る時点、当該混合物と水とを混合する時点、あるいは、さらに繊維形成性溶質を添加する時点、のいずれの時点においても添加することが可能であるが、錯体形成に影響を与えないためにも、繊維形成性溶質を添加する時点が好ましい。
【0055】
[紡糸工程]
紡糸工程においては、静電紡糸法にて上記で得られた繊維形成用組成物を噴出することにより、繊維を作製する。以下に、紡糸工程における紡糸方法および紡糸装置について説明する。
【0056】
〔紡糸方法〕
好ましい態様の紡糸工程においては、静電紡糸法によって繊維を作製する。ここで、「静電紡糸法」とは、繊維形成性の基質等を含む溶液または分散液を、電極間で形成された静電場中に吐出し、溶液または分散液を電極に向けて曳糸することにより、繊維状物質を形成する方法である。なお、紡糸により得られる繊維状物質は、後記する累積工程において、捕集基板である電極上に積層される。
【0057】
また、形成される繊維状物質は、繊維形成用組成物に含まれていた繊維形成性溶質や溶媒等が完全に留去した状態のみならず、これらが繊維状物質に含まれたまま残留する状態も含む。
【0058】
なお、通常の静電紡糸は室温で行われるが、本発明においては、溶媒等の揮発が不十分な場合等、必要に応じて紡糸雰囲気の温度を制御したり、あるいは、後記する累積工程で用いられる捕集基板の温度を制御することも可能である。
【0059】
〔紡糸装置〕
次いで、静電紡糸法で用いる装置について説明する。
静電場を形成するための電極は、導電性を示しさえすれば、金属、無機物、または有機物等のいかなるものであってもよい。また、絶縁物上に導電性を示す金属、無機物、または有機物等の薄膜を設けたものであってもよい。
【0060】
静電紡糸法で用いられる静電場は、一対または複数の電極間で形成されるものであり、静電場を形成するいずれの電極に高電圧を印加しても良い。これは、例えば、電圧値が異なる高電圧の電極2つ(例えば15kVと10kV)と、アースにつながった電極1つの合計3つの電極を用いる場合をも含み、または3つを越える数の電極を用いる場合も含む。
【0061】
[累積工程]
累積工程においては、上記の紡糸工程で得られた繊維を累積させて、繊維集合体を得る。具体的には、上記の紡糸工程で形成される繊維状物質を、捕集基板である電極上に累積(積層)することによって繊維集合体を得る。
【0062】
したがって、捕集基板となる電極として平面を用いれば平面状の繊維集合体を得ることができるが、捕集基板の形状を変えることによって、所望の形状の繊維集合体を作製することもできる。また、繊維集合体が捕集基板上の一箇所に集中して累積(積層)される等、均一性が低い場合には、基板を揺れ動かしたり、回転させたりすることも可能である。
【0063】
なお、焼成前の繊維集合体は強度が低いことから、捕集基板上に累積(積層)された繊維集合体を剥離する際に、その構造の一部が壊れてしまうことがある。このため、捕集基板とノズルとの間に静電気除去装置等を設置し、ノズルと静電気除去装置との間に綿状に繊維集合体を積層させることも可能である。
【0064】
また、繊維集合体は上記同様に、繊維形成用組成物に含まれていた溶媒等が完全に留去して集合体となっている状態のみならず、溶媒等が繊維状物質に含まれたまま残留する状態も含まれる。
【0065】
[焼成工程]
焼成工程においては、上記の累積工程において得られた繊維集合体を焼成することにより、本発明のチタニア繊維の繊維構造体を得る。
【0066】
焼成にあたっては、一般的な電気炉を用いることができるが、必要に応じて炉内の気体を置換可能な電気炉を用いてもよい。また、焼成温度は、十分なアナターゼ型の結晶成長とルチル型の結晶転位を抑制するために、300℃以上900℃以下の範囲とすることが好ましく、500℃以上800℃以下の範囲がより好ましい。
【実施例】
【0067】
以下、本発明を実施例および比較例を挙げてさらに具体的に説明するが、本発明は、その要旨を越えない限りこれらに何等限定を受けるものではない。
【0068】
<測定・評価方法>
実施例および比較例においては、以下の項目について、以下の方法によって測定・評価を実施した。
【0069】
[平均繊維径]
走査型電子顕微鏡(株式会社日立製作所製、商品名:S−2400)により、得られたチタニア繊維の表面を撮影(倍率:2000倍)し、写真図を得た。得られた写真図から無作為に20箇所を選択し、フィラメントの径を測定した。繊維径のすべての測定結果(n=20)の平均値を求めて、チタニア繊維の平均繊維径とした。
【0070】
[繊維長]
得られたチタニア繊維の表面を走査型電子顕微鏡(株式会社日立製作所製、型式:S−2400)により撮影(倍率400倍)し、得られた写真図を観察し、繊維長100μm以下の繊維が存在するかを確認した。
【0071】
[光触媒活性]
メチレンブルーの退色反応を用いて、得られたチタニア繊維の光触媒活性の評価を実施した。具体的には、直径37mmのシャーレに10ppmのメチレンブルー水溶液を5mL注ぎ入れ、この溶液にチタニア繊維(またはチタニア粒子)5mgを浸した。続いて、チタニア繊維(またはチタニア粒子)を浸した溶液に、強度14mW/cmの紫外線を照射し、紫外線照射時間30分時点での665nmの吸光度を測定することにより、光触媒活性を評価した。なお、紫外線照射前の吸光度は1.896Aであった。
【0072】
[X線回折(結晶型)]
X線回折装置(株式会社リガク社製)を使用し、X線源にCuのKα線を用いて、多層膜コンフォーカルミラーにより単色化し、得られたチタニア繊維につきX線回折図形を得た。
【0073】
<実施例1>
[繊維形成用組成物調製工程]
チタンテトラノルマルブトキシド(和光純薬工業株式会社製、一級)1質量部とニオブエトキシド(和光純薬工業株式会社製、99.9%)0.008質量部に、酢酸(和光純薬工業株式会社製、特級)1.3質量部を添加混合することにより、均一な溶液を得た。得られた溶液に、イオン交換水1質量部とポリエチレングリコール(和光純薬工業株式会社製、一級、平均分子量:300,000〜500,000)0.016質量部を混合した溶液を、攪拌しながら添加したところ、溶液中にゲルが生成した。さらに攪拌を続けることにより、生成したゲルは解離し、透明な繊維形成用組成物(紡糸溶液)を調製することができた。
【0074】
[紡糸工程・累積工程]
上記で得られた繊維形成用組成物(紡糸溶液)を用いて、図1に示す静電紡糸装置により繊維形成用組成物を噴出し、繊維を紡糸した。さらに、連続紡糸を行うことにより繊維を蓄積させて、繊維集合体を作製した。このときの噴出ノズル1の内径は0.2mm、電圧は15kV、噴出ノズル1から電極4までの距離は15cmであった。
【0075】
[焼成工程]
上記で得られた繊維集合体を、空気雰囲気下で、電気炉を用いて600℃まで10時間かけて昇温し、その後、600℃で2時間保持することによりチタニア繊維の繊維構造体を得た。
【0076】
[測定・評価]
得られたチタニア繊維につき、上記の各種測定・評価を実施した。その結果、平均繊維径は150nmであり、繊維長100μm以下の繊維は確認されなかった。また、光触媒活性の評価にあたり紫外線照射後の吸光度を測定したところ、結果は0.423Aであった。さらに、得られたチタニア繊維のX線回折測定を行ったところ、2θ=25.4°に鋭いピークが認められたことから、アナターゼ型結晶が形成されていることが確認された。
チタニア繊維の表面の走査型電子顕微鏡写真を図2に、X線回折図形を図3に示す。
【0077】
<比較例1>
チタニア粒子(チタン工業株式会社製、商品名:PC−101A)を用意した。そして、このチタニア粒子について、上記の光触媒活性の評価を行った。紫外線照射後の吸光度を測定したところ、結果は1.391Aであった。
【0078】
実施例1のチタニア繊維の場合の方が、比較例1のチタニア粒子の場合よりも吸光度が小さいことから、メチレンブルーの退色反応がより進行していることが示され、したがって、光触媒活性が高いことが判る。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】本発明のチタニア繊維を製造するための製造装置を模式的に示した図である。
【図2】実施例1で得られたチタニア繊維の表面を走査型電子顕微鏡で撮影(2000倍)して得られた写真図である。
【図3】実施例1で得られたチタニア繊維のX線回折図形である。
【符号の説明】
【0080】
1 繊維形成用組成物噴出ノズル
2 繊維形成用組成物
3 繊維形成用組成物保持槽
4 電極
5 高電圧発生器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均繊維径が50nm以上1000nm以下であり、繊維全体の質量に対してニオブ元素を酸化ニオブ換算で0.1質量%以上10質量%以下含むチタニア繊維。
【請求項2】
前記チタニア繊維は、アナターゼ型結晶からなる請求項1記載のチタニア繊維。
【請求項3】
チタン酸アルキル、チタン酸アルキルとの錯体形成性化合物、および、ニオブアルコキシドを含む混合物、水、ならびに、繊維形成性溶質を含む繊維形成用組成物を調製する繊維形成用組成物調製工程と、
静電紡糸法にて前記繊維形成用組成物を噴出することにより繊維を得る紡糸工程と、
前記繊維を累積させて繊維集合体を得る累積工程と、
前記繊維集合体を焼成して繊維構造体を得る焼成工程と、を含むチタニア繊維の製造方法。
【請求項4】
前記繊維形成用組成物調製工程は、前記チタン酸アルキル、前記チタン酸アルキルとの錯体形成性化合物、および、ニオブアルコキシドを含む混合物と、水と、を混合することにより生成するゲルを、解離させることにより繊維形成用組成物を調製する工程を含むものである請求項3記載のチタニア繊維の製造方法。
【請求項5】
前記繊維形成性溶質は、有機高分子である請求項3または4記載のチタニア繊維の製造方法。
【請求項6】
前記有機高分子は、ポリエチレングリコールである請求項5記載のチタニア繊維の製造方法。
【請求項7】
前記チタン酸アルキルとの錯体形成性化合物は、カルボン酸類である請求項3から6いずれか記載のチタニア繊維の製造方法。
【請求項8】
前記カルボン酸類は、酢酸である請求項7記載のチタニア繊維の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−38314(P2008−38314A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−217965(P2006−217965)
【出願日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】