説明

チタン材、その製造方法および排気管

【課題】 耐酸化性に優れたチタン材、その製造方法および排気管を提供する。
【解決手段】 (1) 純Ti又はTi合金よりなる基材上に、Al又はAl及びSiを90質量%以上含有する厚さ1μm以上のAl含有層が形成されているチタン材であって、チタン材の長手方向に14mm間隔で3点をとり、この3点の中の中心の点でのAl含有層の膜厚と、他の2点でのAl含有層の膜厚との差が、前記中心の点におけるAl含有層の膜厚に対して30%以内であることを特徴とするチタン材、(2) 純Ti又はTi合金よりなる基材上に、Al又はAl及びSiを90質量%以上含有する厚さ1μm以上のAl含有層がAl−Ti金属間化合物層を介して形成されているチタン材であって、チタン材の長手方向に14mm間隔で3点をとり、この3点の中の中心の点でのAl含有層の膜厚と、他の2点でのAl含有層の膜厚との差が、前記中心の点におけるAl含有層の膜厚に対して30%以内であることを特徴とするチタン材等。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チタン材、その製造方法および排気管に関する技術分野に属し、特には、2輪車用または4輪車用の排気管の構成材料として用いられるチタン材に関する技術分野に属するものである。
【背景技術】
【0002】
チタン合金は一般的な鉄鋼材料に比較して、比強度が高く、軽量化が強く指向されている自動車を中心とする輸送機分野への適用が進んでいる。その中でエンジン周りの排気系の排気管材料としては、現在ステンレス鋼が主流であるが、上記軽量化の目的のために排気管のチタン化が検討されている。しかしながら、排気管の温度は部位によっては500 ℃以上になるために、未処理のチタン合金では酸化の進行が早く(耐酸化性が低くて不充分であり)、耐久性に問題がある。
【0003】
チタン合金の耐酸化性向上のために、チタン合金表面にAl板をクラッド化した材料(特開平10-99976号公報)、Al−Ti系の蒸着めっきを施す方法(特開平6-88208 号公報)あるいはPVD法によりTiCrAlN 系皮膜を形成する方法(特開平9-256138号公報)などが提案されている。しかしながら、クラッド化する方法では、製造が大変であり、コストが高くて経済性が悪い。また、上記蒸着めっき(PVD法の一種)を施す方法や、PVD法による方法では、管内面への耐酸化性皮膜形成が困難であるという問題点がある。
【特許文献1】特開平10−99976号公報
【特許文献2】特開平6−88208号公報
【特許文献3】特開平9−256138号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、前記従来の技術の有する問題点を改善し、耐酸化性に優れたチタン材、その製造方法および排気管を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記目的を達成するため、鋭意研究を行なった結果、本発明を完成するに至った。本発明によれば上記目的を達成することができる。
【0006】
このようにして完成され上記目的を達成することができた本発明は、チタン材、その製造方法および排気管に係わり、これは請求項1〜7記載のチタン材(第1〜7発明に係るチタン材)、請求項8〜9記載のチタン材の製造方法(第8〜9発明に係るチタン材の製造方法)、請求項10記載の排気管(第10発明に係る排気管)であり、それは次のような構成としたものである。
【0007】
即ち、請求項1記載のチタン材は、純TiまたはTi基合金よりなる基材上に、AlまたはAl及びSiを90質量%以上含有する厚さ1μm以上のAl含有層が形成されているチタン材であって、チタン材の長手方向に14mm間隔で3点をとり、この3点の中の中心の点におけるAl含有層の膜厚と、他の2点におけるAl含有層の膜厚との差が、前記中心の点におけるAl含有層の膜厚に対して30%以内であることを特徴とするチタン材である〔第1発明〕。
【0008】
請求項2記載のチタン材は、純TiまたはTi基合金よりなる基材上に、AlまたはAl及びSiを90質量%以上含有する厚さ1μm以上のAl含有層が、Al−Ti金属間化合物層を介して形成されているチタン材であって、チタン材の長手方向に14mm間隔で3点をとり、この3点の中の中心の点におけるAl含有層の膜厚と、他の2点におけるAl含有層の膜厚との差が、前記中心の点におけるAl含有層の膜厚に対して30%以内であることを特徴とするチタン材である〔第2発明〕。
【0009】
請求項3記載のチタン材は、前記Al−Ti金属間化合物がAl3 Tiである請求項2記載のチタン材である〔第3発明〕。
【0010】
請求項4記載のチタン材は、前記Al−Ti金属間化合物層の厚さが平均0.5μm以上15μm以下である請求項2または3記載のチタン材である〔第4発明〕。
【0011】
請求項5記載のチタン材は、前記基材に0.5〜10質量%のAlが含有されている請求項1〜4のいずれかに記載のチタン材である〔第5発明〕。
【0012】
請求項6記載のチタン材は、前記基材が実質的にAlおよびTiからなる請求項5記載のチタン材である〔第6発明〕。
【0013】
【0014】
【0015】
請求項7記載のチタン材は、前記Al含有層が溶融めっき法により形成されている請求項1〜6記載のチタン材である〔第7発明〕。
【0016】
【0017】
請求項8記載のチタン材の製造方法は、請求項1〜7のいずれかに記載のチタン材の製造方法であって、Al含有層の形成を溶融めっき法により行い、この際に、溶融めっき浴からのチタン基材の引き上げ速度を1〜20cm/秒とすることを特徴とするチタン材の製造方法である〔第8発明〕。
【0018】
請求項9記載のチタン材の製造方法は、請求項1〜7のいずれかに記載のチタン材の製造方法であって、Al含有層の形成を溶融めっき法により行い、この後に、硬質粒子によるブラスト処理を施すことを特徴とするチタン材の製造方法である〔第9発明〕。
【0019】
請求項10記載の排気管は、請求項1〜9のいずれかに記載のチタン材を用いて作製された2輪車用または4輪車用の排気管である〔第10発明〕。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係るチタン材は、耐酸化性に優れており、また、管内面等のような複雑形状部への適用も容易である。従って、2輪車用または4輪車用の排気管の構成材料として好適に用いることができ、その耐久性の向上がはかれるようになるという効果を奏する。
【0021】
本発明に係る2輪車用または4輪車用の排気管は、上記チタン材を用いて作製されているので、軽量化がはかれるだけでなく、耐酸化性に優れて耐久性の向上がはかれる。
【0022】
本発明に係るチタン材の製造方法によれば、耐酸化性に優れたチタン材を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明に係るチタン材において、その第1発明に係るチタン材は、純TiまたはTi基合金よりなる基材上に、AlまたはAl及びSiを90質量%以上含有する厚さ1μm以上のAl含有層が形成されているチタン材であって、チタン材の長手方向に14mm間隔で3点をとり、この3点の中の中心の点におけるAl含有層の膜厚と、他の2点におけるAl含有層の膜厚との差が、前記中心の点におけるAl含有層の膜厚に対して30%以内であることを特徴とするチタン材であることとしている〔第1発明〕。
【0024】
このAl含有層は、耐酸化性を有して耐酸化性を向上させる層(耐酸化性向上層)である。この耐酸化性向上層としては、上記のように純TiまたはTi基合金よりなる基材上にAlまたはAl+Si(Al及びSi)を90質量%以上含有する層(Al含有層)を厚さ1μm以上形成することが必要である。この理由としては、このようにAl或いは高濃度でAlを含有する合金(層)は、高温酸化雰囲気中においては生成自由エネルギーが負の大きな値をとる緻密なアルミ酸化物が優先的に生成され、これが保護被膜となって以降の酸化を抑制するためである。なお、Siは耐酸化性を向上させる元素であり、Al含有層にSiが含有されていると耐酸化性が向上することから良い。Al含有層にSiも含有する場合、このAl含有層中のAl量とSi量との合計量を90質量%以上とする。
【0025】
このとき、Al含有層(耐酸化性向上層)中のAlあるいはAl+Siの濃度は、90質量%以上である必要があり、90質量%未満では耐酸化性向上効果が低いことから、90質量%(重量%)を下限とした。
【0026】
Al+Siの量に占めるSiの割合は、1〜20質量%が好ましい。Siが1質量%未満では耐酸化性向上効果が低い。Siを20質量%を超えて含有させると、Al含有層の形成を溶融めっきにより行う際に、溶融めっきが困難となる。かかる点から、Al+Siの量に占めるSiの割合は、10%前後が最も好ましい。
【0027】
Al含有層(AlまたはAl+Siを含有する層)において、Al、Si以外の元素としては、通常の溶融めっき法で入る可能性のあるMg,Cu,Fe等が含有され、また、基材(純TiまたはTi基合金)からTi等が含有される。
【0028】
また、Al含有層の厚みに関しては、1μm以上でないと、ピンホールなどの欠陥により、基材が酸化される。耐酸化性の効果は、ピンホール等の欠陥がない場合、厚いほうが向上することから、厚みの上限は定めないが、厚すぎると基材の加工性を損なうことから、100μm程度以下が目安となる。なお、Al含有層の厚さは、チタン材の断面を任意の複数個所、例えば三ヶ所測定して求められる各厚さの平均値により求める。
【0029】
Al含有層(耐酸化性向上層)を形成する方法としては、溶融めっき法等が代表的な方法として推奨される。溶融めっき法では、内面などの複雑形状にも均一に層を形成することが可能であり、かつ、安価であって経済性に優れているためである。また、溶融めっき法によれば、溶融Alに漬浸時に溶融Alと基材(純TiまたはTi基合金)表面の自然酸化膜が還元されるために、Al含有層と基材との密着性が良好となるからである。溶融めっきの条件としては、浴温度700〜800℃で漬浸時間5〜20分が推奨されるが、基材の熱容量や材種により変化する。
【0030】
この他に、Alフレークを含有する有機系塗料を基材に塗布する方法でも、Al含有層を形成することが可能である。
【0031】
本発明の第1発明に係るチタン材は、上記のことからわかるように、耐酸化性に優れており、また、管内面等のような複雑形状部でも耐酸化性向上層を容易に形成することができると共に安価に経済性に優れて形成することが可能な溶融めっき法等の表面処理法により得ることができる。即ち、前記従来技術の有する問題点を改善することができ、しかも優れた耐酸化性を有することができる〔第1発明〕。
また、チタン材の長手方向に14mm間隔で3点をとり、この3点の中の中心の点におけるAl含有層の膜厚と、他の2点におけるAl含有層の膜厚との差が、前記中心の点におけるAl含有層の膜厚に対して30%以内であることとしていることにより、Al含有層の膜厚の均一性に優れており、ひいてはチタン材の耐酸化性の均一性に優れると共にチタン材の板厚の寸法精度に優れている。
【0032】
基材〔純TiまたはTi基合金(以下、チタンともいう)〕上に密着性に優れたAl含有層を形成する場合、まず、基材の表面に存在する酸化皮膜を除去する必要がある。チタン表面の自然酸化皮膜は、厚みが通常数十nm程度であり、高温の溶融Al中にチタンを浸漬することにより、3TiO2 +2Al→2Al2 3 +3Tiの反応により還元除去される。しかしながら、これだけでは密着性が十分でない場合がある。このような場合、自然酸化皮膜の還元除去の後に連続して溶融Alめっき中に浸漬することにより、溶融AlとTiの反応により形成されるAl−Ti金属間化合物層により、より高い密着性が得られることを見出した。即ち、基材上にAl−Ti金属間化合物層が形成され、その上にAl含有層が形成される(つまり、基材上にAl含有層がAl−Ti金属間化合物層を介して形成されている)ようにすると、このAl−Ti金属間化合物層により、基材とAl含有層との密着性がより高くなることがわかった。
【0033】
そこで、本発明の第2発明に係るチタン材は、純TiまたはTi基合金よりなる基材上に、AlまたはAl及びSiを90質量%以上含有する厚さ1μm以上のAl含有層が、Al−Ti金属間化合物層を介して形成されているチタン材であって、チタン材の長手方向に14mm間隔で3点をとり、この3点の中の中心の点におけるAl含有層の膜厚と、他の2点におけるAl含有層の膜厚との差が、前記中心の点におけるAl含有層の膜厚に対して30%以内であることを特徴とするチタン材であることとしている〔第2発明〕。このチタン材は、上記のことからわかるように、前記第1発明に係るチタン材の場合に比較し、基材とAl含有層との密着性に優れ、密着性が十分でない場合が少なくなり、より確実に(高い水準で)優れた密着性を有することができる。
【0034】
前記Al−Ti金属間化合物(前記Al−Ti金属間化合物層のAl−Ti金属間化合物)がAl3 Tiである場合に、特に優れた密着性が得られることを見出した。そこで、本発明の第3発明に係るチタン材は、前記第2発明に係るチタン材においてAl−Ti金属間化合物(Al−Ti金属間化合物層のAl−Ti金属間化合物)がAl3 Tiであることとしている〔第3発明〕。このチタン材は、上記のことからわかるように、特に優れた密着性を有するものである。
【0035】
なお、Al−Ti化合物としてはTi3 Al、TiAlおよびAl3 Tiが知られているが、この中、前2者のAl−Ti化合物(Ti3 Al、TiAl)はもろくて割れやすいので、この化合物層がAl含有層と基材〔チタン(純TiまたはTi基合金)〕の界面に形成された場合、この化合物層中にて割れが発生し、密着性不良の原因となる。これまでにも、Ti板上にAl箔をクラッドし、熱処理による固相反応によって界面に化合物を形成し、密着性を高める方法は知られていたが、固相反応の場合、界面でのTi3 AlやTiAl層の形成を抑制することが出来ず、密着性不良の原因となっていた。
【0036】
前記第3発明においては、基材(チタン)上、即ち、基材とAl含有層との界面に、Al3 Ti層が形成される必要があるので、このようなAl3 Ti層の形成をすることができる必要がある。本発明者らは、このようなAl3 Ti層の形成をすることができた。即ち、このようなAl3 Ti層の形成のメカニズムは明確ではないが、本発明者らは溶融Al法を使用して、浸漬時間、浴温度を適切に設定することにより、基材とAl含有層との界面にAl3 Tiのみ(Ti3 AlやTiAlを含まない)からなるAl3 Ti層を形成することに成功した。このとき、溶融Alの温度(浴温度)や浸漬時間は、被処理体(チタン)の質量により異なるが、おおむね浴温度:700〜800℃の間、浸漬時間:2〜10分程度が目安となる。
【0037】
前記Al−Ti金属間化合物層の厚さに関しては、平均0.5μm以上15μm以下であることが望ましい〔第4発明〕。Al3 Ti層等のAl−Ti金属間化合物層の厚みは、溶融めっきの際の浴温度や浸漬時間により制御可能であり、浴温度が高いほど、また、浸漬時間が長いほど、厚くなる傾向を示すが、厚すぎた場合には耐酸化性を担うAl含有層が基材(チタン)と相互拡散し、薄くなり、また、Al含有層の密着性も低下する傾向を示すことから、前記Al−Ti金属間化合物層の厚さの上限を15μmとした。一方、前記Al−Ti金属間化合物層の厚さが薄すぎた場合、その密着性の向上効果が減少してなくなることから、前記Al−Ti金属間化合物層の厚さの下限を0.5μmとした。なお、Al−Ti金属間化合物層の厚さは、チタン材の断面を任意の複数個所、例えば三ヶ所測定して求められる各厚さの平均値により求める。この測定は、例えば5000倍のSEM観察により行うことができる。Al−Ti金属間化合物層のAlとTiの量(ひいては、金属間化合物の組成)は、例えばEPMAにより測定することができる。上記Al−Ti金属間化合物層の厚さは、更には平均1μm超5μm以下であることが望ましい。
【0038】
本発明において基材(純TiまたはTi基合金)としては特には限定されず、種々のものを用いることができるが、基材にAlが含有されている場合にAl含有層(耐酸化性向上層)と基材の密着性が更に向上し、Al含有層の形成後に、曲げ加工などを行っても剥離などの問題がないことを見いだした。このように密着性を向上させるために必要な基材中のAl含有量は0.5質量%以上であり、これ以下(0.5質量%未満)では密着性向上効果は低い。Al含有量:0.5質量%以上の場合において、Al量により密着性は大きく変化しないが、Al含有量が多くなり過ぎると、基材が割れやすくなるなどの問題があり、この点から10質量%以下とすることが望ましい。従って、基材としては、0.5〜10質量%のAlが含有されているものを用いることが望ましい〔第5発明〕。
【0039】
このように基材に0.5〜10質量%のAlが含有されている場合に、更にチタン材の加工性の点を考慮に入れると、Al以外の残部は実質的にTiであることが好ましい。即ち、チタン材の加工性の点から、前記基材が実質的にAlおよびTiからなることが望ましい〔第6発明〕。なお、基材が実質的にAlおよびTiからなることとは、基材がAlおよび不可避的不純物を含有するTi合金からなることをいう。
【0040】
【0041】
【0042】
【0043】
【0044】
【0045】
【0046】
【0047】
【0048】
本発明において、Al含有層(耐酸化性向上層)を形成する方法としては、表面処理法を用いる。換言すれば、本発明に係るチタン材は、表面処理チタン材である。この表面処理法としては、その種類は特には限定されず、種々の表面処理法を適用することができ、例えば、溶融めっき法や前述したようなAlフレークを含有する有機系塗料を塗布する方法を適用することができる。なお、Al板をクラッドする方法は表面処理法に該当せず、上記表面処理法には含まれない。このようにAl含有層を形成するための表面処理法としては種々の表面処理法を適用することができるが、中でも溶融めっき法を推奨することができる。溶融めっき法では、前述のように、内面などの複雑形状にも均一に層を形成することが可能であり、かつ、安価であって経済性に優れている。また、溶融めっき法によれば、溶融Alに漬浸時に基材(純Ti又はTi合金)表面の自然酸化膜が還元されるために、Al含有層と基材との密着性が良好となる。更に、溶融Alめっき中への浸漬時間等のめっき条件によって基材上にAl−Ti金属間化合物層を形成することができるので、第2発明に係るチタン材あるいは更に第3〜4発明に係るチタン材を溶融めっき法という1工程で得ることができる。かかる点から、Al含有層は溶融めっき法により形成されることが望ましい〔第7発明〕。
【0049】
本発明においてはAl含有層を形成する方法の1態様として、溶融めっき法(溶融Alめっき法)を好ましい形態として推奨している。溶融めっき法においてはAl含有層との密着性を左右する溶融めっき浴へのチタン基材の浸漬時間に加えて、溶融めっき浴からのチタン基材の引き上げ時の速度(引き上げ速度)により、形成されるAl含有層の特性が影響される。この溶融めっき浴からのチタン基材の引き上げ速度としては1〜20cm/秒が好適である〔第8発明〕。この理由を以下に説明する。
【0050】
溶融めっき法においては浴から基材を引き上げる際に、引き上げ速度が速すぎると、形成されたAl含有層の膜厚が引き上げた基体の上部と下部で大きく異なる。浴からの引き上げ時には表面に付着したAlは固化せずに浴の外に引き上げられ、その後冷却されるまでに下部へと移動し、結果として下部には上部より厚い膜が形成される。
【0051】
これに対して、20cm/秒以下に引き上げ速度を制御した場合、Alの移動速度は引き上げ速度以上の大きさの速度であり、下部に移動したAlはそのままAl浴へと吸収される。従って、上部と下部における膜厚差は生じない。この点から、引き上げ速度:20cm/秒以下とすることが望ましい。
【0052】
引き上げ速度が1cm/秒の場合、例えば1mの長さの板を引き上げるのに100秒かかり、通常浸漬時間は1〜2分で十分であることから、1cm/秒未満の引き上げ速度では上部と下部では浸漬時間が大きく異なってしまう。この場合、Alとチタン基材の反応が進みすぎ、チタン材の板厚が薄くなる可能性もある。かかる点から、引き上げ速度:1cm/秒以上とすることが望ましい。
【0053】
なお、上記のような点から更に引き上げ速度を2〜15cm/秒とすることが一層望ましい。そうすると、上記のような膜厚差がより小さくなり、また、チタン材の板厚が薄くなる可能性がより小さくなる。
【0054】
上記のように溶融めっき浴からのチタン基材の引き上げ速度を1〜20cm/秒とした場合、上部と下部でのAl含有層の膜厚差が小さいものが得られる。例えば、チタン材の長手方向に14mm間隔で3点をとり、この3点の中の中心の点におけるAl含有層の膜厚と、他の2点におけるAl含有層の膜厚との差が、前記中心の点におけるAl含有層の膜厚に対して30%以内であるチタン材が得られる。このチタン材は、Al含有層の膜厚の均一性に優れており、ひいてはチタン材の耐酸化性の均一性に優れると共にチタン材の板厚の寸法精度に優れている。
【0055】
溶融Alめっき法によるAl含有層の形成においては、溶融めっき浴からの基体の引き上げ条件や基体の状態によってはめっき層中に空隙やめっきが形成されない部分が生じることがある。また、溶融Alがチタン基材上で固化するとき、最表面には大気との反応により、薄い酸化被膜が形成されることから、表面の光沢が失われることがある。本発明者らは、これらの問題を解決すべく鋭意検討した結果、Al含有層形成後に、ガラスあるいは金属球などの硬質粒子でブラスト処理することにより、Al層中に生じる空隙やめっきが形成されない部分を埋めて無くすことができ、耐酸化性をより高めることができることを見出した。また、同時にブラスト処理により表面の酸化皮膜が除去され、金属光沢を有する美麗な表面を呈するようになることもわかった。ここで、除去される酸化膜は溶融Alめっき浴から引き上げ時に、浴の表面に形成された酸化膜を巻き込んでいるので、自然酸化膜よりかなり厚くなっている。ブラスト処理によりこれらの厚い酸化皮膜を除去すると、薄い自然酸化膜は形成されるが、非常に薄いので、光沢を有する美麗な表面性状を損なうことはない。
【0056】
従って、溶融めっき法によりAl含有層を形成した後、硬質粒子によるブラスト処理を施すようにすることが望ましい〔第9発明〕。このようにブラスト処理をした場合、溶融めっき法で形成されたAl含有層に空隙やめっきが形成されない部分が生じた場合でも、これらを埋めて無くすことができ、ひいては耐酸化性をより高めることができ、また、表面の酸化皮膜が除去され、金属光沢を有する美麗な表面のものを得ることができる。
【0057】
上記ブラスト処理には、Alよりも高硬度の硬質粒子を使用する。しかし、硬すぎるとAl含有層が削られるため、アルミナ以下の硬度のものを使用することが望ましく、ガラス以下の硬度の硬質粒子を使用することが一層望ましい。硬質粒子の大きさに関しては、通常ブラスト処理に使用される#100番程度の大きさのものが使用できる。粒径でいえば、数百μm のものが使用できる。粒径があまり小さいと、衝突により空孔を埋める効果が小さいので、10μm以上のものが好ましい。ブラストの方法としては、空気圧により硬質粒子を投射する方法が最も簡便であり、その点で推奨されるが、空気圧が高すぎるとAl含有層が除去されるので、空気圧は5kg・cm2 以下が推奨される。好ましくは3kg・cm2 以下である。
【0058】
本発明に係るチタン材(第1〜第7発明に係るチタン材)は、以上のように、耐酸化性に優れており、また、管内面等のような複雑形状部でも耐酸化性向上層を容易に形成することができると共に安価に経済性に優れて形成することが可能な溶融めっき法等の表面処理法により得ることができる。従って、2輪車用または4輪車用の排気管の構成材料として好適に用いることができ、その耐久性の向上がはかれる〔第10発明〕。
【実施例】
【0059】
本発明の実施例および比較例を以下説明する。なお、本発明はこの実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれる。
【0060】
〔参考例1、比較例1〕
基材として純チタン(JIS1種、厚さ1mm)を使用し、溶融めっき法、蒸着法、あるいは、Al粒子を含有するものをスプレーするスプレー法により、基材上に表1に示す組成のAl含有層(耐酸化性層)を形成し、これにより本発明の参考例および比較例に係るチタン材を得た。このとき、溶融めっき法においては、浴温度:700〜750℃、漬浸時間:5〜20分の範囲という条件で、基材を漬浸し、Al含有層の形成を行った。
【0061】
上記チタン材には、基材とAl含有層との界面にAl−Ti金属間化合物層が形成されているものと形成されていないものとがある。この確認のため、EPMAによる元素の定量分析を実施し、Al−Ti金属間化合物層の有無を調べた。
【0062】
なお、表1において、組成の欄はAl含有層(耐酸化性層)の組成を示すものである。この組成の欄において、No.2〜3 のAl100は、Al量:100質量%のことであり、Alおよび不可避的不純物からなることを示すものである。No.4のAl95Ti5は、Al量:95質量%、Ti量:5質量%のことであり、Al:95質量%とTi:5質量%と不可避的不純物からなることを示すものである。No.6のAl95Si5は、Al量:95質量%、Si量:5質量%のことであり、Al:95質量%とSi:5質量%と不可避的不純物からなることを示すものである。これら以外のものについても、上記と同様の読み方をするものとし、後述の表2以降の各組成の欄においても、上記と同様の読み方をするものとする。
【0063】
このようにして得られたチタン材について、800℃の大気雰囲気下に100時間さらすという高温酸化試験を行い、この高温酸化試験前後の肉厚を測定し、この高温酸化試験での酸化による肉厚減少量を求め、これにより耐酸化性を評価した。また、純チタン(純Ti)について、上記と同様の高温酸化試験を行い、同様の方法により、耐酸化性を評価した。
【0064】
この結果を表1に示す。表1からわかるように、純Ti(No.1)の場合は、高温酸化試験での酸化による肉厚減少量が200μmと大きく、耐酸化性がよくない。No.5の比較例に係るチタン材は、肉厚減少量が150μmであり、耐酸化性が少し向上するが、その向上の程度は小さい。
【0065】
これに対し、No.7の本発明の参考例に係るチタン材は、肉厚減少量が小さく、耐酸化性に優れており、更に、No.2〜4 、No.6およびNo.8の本発明の参考例に係るチタン材は、肉厚減少量が極めて小さく、耐酸化性に著しく優れている。
【0066】
No.2〜4 、No.6およびNo.8の本発明の参考例に係るチタン材において、Al含有層中でのAl量とSi量の合計量(Siなしの場合は、Al量)が大きい場合の方が肉厚減少量が小さく、耐酸化性に優れている。
【0067】
〔参考例2〕
基材として純チタン(JIS1種、厚さ1mm)、及び、Alを含有するTi基合金(Al量:それぞれ異なる)を用い、溶融めっき法により、基材上にAl含有層(耐酸化性層)を形成し、これにより本発明の参考例に係るチタン材を得た。なお、このAl含有層の組成は、表2に示すように、いずれの場合もAl100(Al量:100質量%)である。溶融めっき法の条件は、参考例1の場合と同様である。表2の基材の欄において、Ti−1.5Alは、Ti−1.5質量%Alのことであり、Al:1.5質量%を含有し、残部が不可避的不純物からなるTi基合金であることを示すものである。これら以外のものについても、上記と同様の読み方をするものとし、後述の表3以降の各基材の欄においても、上記と同様の読み方をするものとする。
【0068】
このようにして得られたチタン材について、90°曲げ試験を行い、コーナー部の剥離状況によりAl含有層と基材との密着性を評価した。
【0069】
更に、上記曲げ試験後のチタン材について、参考例1の場合と同様の高温酸化試験を行い、同様の評価方法により耐酸化性を評価した。
【0070】
この結果を表2に示す。表2からわかるように、基材がTi−15Al合金(Al量:15質量%のTi合金)の場合には、曲げ試験において基材に割れが発生している(No.6)。基材が純チタンの場合には、曲げ試験において基材割れは発生していないものの、剥離が発生している。
【0071】
これに対し、基材としてAlを含有するTi合金でAl量がAl量:0.5〜10質量%を充たすTi合金を用いた場合には、曲げ試験において剥離が発生しなくて、Al含有層と基材との密着性に優れている(No.2〜5 )。
【0072】
なお、耐酸化性に関しては、No.2〜5 のチタン材は、いずれも肉厚減少量が小さく、耐酸化性に優れている。これらのチタン材は、肉厚減少量に大きな差はなく、耐酸化性は同程度の水準にある。
【0073】
【0074】
【0075】
【0076】
【0077】
【0078】
【0079】
【0080】
【0081】
〔参考例3、比較例2〕
基材として純Ti(JIS1種、厚さ1mm)を用い、溶融めっき法により、基材上にAl含有層(耐酸化性層)を形成し、これによりチタン材を得た。このとき、溶融めっき法においては、浴温度:750℃、漬浸時間:0.1〜60分の範囲という条件で、基材を漬浸し、Al含有層の形成を行った。なお、上記チタン材には、基材とAl含有層との界面にAl−Ti金属間化合物層が形成されているものと形成されていないものとがある。この確認のため、参考例1の場合と同様の方法(EPMAによる元素の定量分析)により、Al−Ti金属間化合物層の有無を調べた。
【0082】
また、純Ti表面にAl板をクラッド化した材料(Alクラッドチタン材)を、作製した。そして、このAlクラッドチタン材について、大気中で500℃で60分加熱する熱処理を行い、これにより、基材(純Ti)とAl板との界面にAl−Ti化合物層を形成した。この確認のため、上記と同様の方法(EPMAによる元素の定量分析)により、Al−Ti金属間化合物層の有無を調べた。
【0083】
このようにして得られたチタン材について、90°曲げ試験を行い、曲げ部の剥離状況によりAl含有層あるいはAl板と基材との密着性を評価した。
【0084】
更に、上記曲げ試験後のチタン材について、参考例1の場合と同様の高温酸化試験(大気雰囲気下、800℃×100時間)を行い、曲げ部についての高温酸化試験での酸化による肉厚減少量を求め、これにより耐酸化性を評価した。
【0085】
この結果を表4に示す。また、チタン材(溶融めっき後曲げ試験前)の基材とAl含有層との界面およびその近傍についての電子顕微鏡写真の一例を、図1に示す。この図1は、表4のNo.3のチタン材(溶融めっき後曲げ試験前)についてのものである。このチタン材の場合、図1からわかるように、基材(Ti材)とAl含有層(Al層)との界面にAl3 Ti層(Al3Ti層)が形成されている。
【0086】
表4からわかるように、基材(純Ti)の溶融めっき浴への漬浸時間が0.1分の場合は、基材とAl含有層との界面にAl−Ti金属間化合物層が形成されておらず、また、基材表面に酸化膜が残留している(No.1)。
【0087】
これに対し、基材の溶融めっき浴への漬浸時間が長くなると、基材とAl含有層との界面にAl3 Ti(表ではAl3Tiと表示)層が形成されている(No.2〜6 、No.8)。このとき、上記漬浸時間が長くなるに伴い、Al3 Ti層の厚みが厚くなっている。
【0088】
上記チタン材(No.1〜6 、No.8)において、No.1のものは、前述のように基材とAl含有層との界面にAl−Ti金属間化合物層が形成されておらず、曲げ試験において剥離が発生している。これに対して、No.2〜6 のものは、基材とAl含有層との界面にAl3 Ti層が形成され、その厚みは1〜10.5μm(平均0.5〜15μmを充たす)であり、曲げ試験において剥離が発生しておらず、Al含有層と基材との密着性に優れている。No.8のものは、基材とAl含有層との界面に形成されたAl3 Ti層の厚みが20μm(平均0.5〜15μmを充たさない)であって更に厚く、曲げ試験において一部剥離が発生している。
【0089】
No.7のものはAlクラッドチタン材であって基材(純Ti)とAl板との界面にTi3 Al、TiAl、Al3 Tiを含むAl−Ti金属間化合物層(厚み8.6μm)を形成したものである。このAlクラッドチタン材も、曲げ試験において一部剥離が発生している。
【0090】
曲げ試験後のチタン材についての高温酸化試験の結果は、表4に示すとおりであり、Alクラッドチタン材の場合に比べて、No.2〜6 のチタン材の場合は、高温酸化試験での酸化による肉厚減少量が小さく、耐酸化性に優れている。従って、No.2〜6 のチタン材は、Al含有層と基材との密着性に優れていると共に耐酸化性に優れている。
【0091】
上記No.2〜6 のチタン材の中でも、No.3〜4 のチタン材(Al3 Ti層の厚みが2.5〜4.5μmであって1μm超5μm以下を充たすもの)は特に耐酸化性に優れている。従って、No.3〜4 のチタン材は、特に、Al含有層と基材との密着性に優れていると共に耐酸化性に優れている。
【0092】
上記No.2〜4 のチタン材において、Al3 Ti層の厚みが厚い方が耐酸化性に優れている。
【0093】
なお、表4のNo.1のチタン材は、表2のNo.1のチタン材や、表1のNo.3〜5 のチタン材と構成が同様もしくはほぼ同様であるので、Al含有層の形成後(溶融めっき後)曲げ試験前においては、表2のNo.1のチタン材や、表1のNo.3〜5 のチタン材と同等の耐酸化性を示すものであり、耐酸化性に優れている。しかし、曲げ試験後のチタン材(No.1)についての高温酸化試験の結果は、表4に示すとおりであり、高温酸化試験での酸化による肉厚減少量が大きく、耐酸化性に優れていない結果となっている。これは、前述のように曲げ試験において剥離が発生し、この剥離部を対象としての高温酸化試験を行った(この剥離部についての高温酸化試験での酸化による肉厚減少量を求めた)からである。
【0094】
〔実施例1、比較例3〕
浴温度700℃の純Al溶湯(不純物として2%程度のFeを含む)に1分間純チタン板(形状30cm×10cm、厚み1mm)を浸漬し、その後、このチタン板について長手方向に0.05〜50cm/秒の引き上げ速度にて引き上げを行った。このようにして得られたチタン材について、上部(上端より1cmの個所)、中央(上端より15cmの個所)、下部(上端より29cmの個所)の部分のAl含有層(Al層)の膜厚を調査した。
【0095】
この結果を表5に示す。表5からわかるように、溶融めっき浴(純Al溶湯)からのチタン基材(純チタン板)の引き上げ速度が速いほど、厚い膜(Al層)が形成されるが、引き上げ速度の増加に伴いAl層の膜厚が増加し、特に下部における膜厚が増加し、この下部でのAl層の膜厚の増加により、膜厚分布が大きくなる。即ち、上部、中央、下部でのAl層の膜厚の差が大きくなる。
【0096】
引き上げ速度:50cm/秒の場合、中央でのAl層の膜厚と上部でのAl層の膜厚との差(中央と上部でのAl層の膜厚の差)は中央でのAl層の膜厚に対して31.2%〔=100×(80−55)/80〕であり、中央でのAl層の膜厚と下部でのAl層の膜厚の差(中央と下部でのAl層の膜厚の差)は中央でのAl層の膜厚に対して150%である。引き上げ速度:30cm/秒の場合、中央と上部でのAl層の膜厚の差は中央でのAl層の膜厚に対して27.7%であり、中央と下部でのAl層の膜厚の差は中央でのAl層の膜厚に対して38.5%である。
【0097】
引き上げ速度:15cm/秒の場合、中央と上部でのAl層の膜厚の差は中央でのAl層の膜厚に対して20%〔=100×(55−44)/55〕であり、中央と下部でのAl層の膜厚の差は中央でのAl層の膜厚に対して18.2%である。これらは上記引き上げ速度:50cm/秒の場合に比較して小さく、引き上げ速度:15cm/秒の場合に比較しても小さい。
【0098】
引き上げ速度:10cm/秒の場合、中央でのAl層の膜厚に対する中央と上部でのAl層の膜厚の差の割合も、中央と下部でのAl層の膜厚の差の割合も、上記引き上げ速度:15cm/秒の場合に比較して小さい。引き上げ速度:2cm/秒の場合、中央でのAl層の膜厚に対する中央と上部でのAl層の膜厚の差の割合も、中央と下部でのAl層の膜厚の差の割合も、上記引き上げ速度:10cm/秒の場合に比較して小さい。
【0099】
上記引き上げ速度が15cm/秒の場合、10cm/秒の場合、2cm/秒の場合は、いずれの場合も「溶融めっき浴からのチタン基材の引き上げ速度を1〜20cm/秒とする」という条件(第8発明に係る要件)を満たしている。そして、この場合、前述のことや表5からわかるように、「チタン材の長手方向に14mm間隔で3点をとり、この3点の中の中心の点におけるAl含有層の膜厚と、他の2点におけるAl含有層の膜厚との差が前記中心の点におけるAl含有層の膜厚に対して30%以内である」という条件(第1発明、第2発明に係る要件)を満たすものが得られている。
【0100】
なお、引き上げ速度:0.05cm/秒の場合、中央と上部でのAl層の膜厚の差は中央でのAl層の膜厚に対して2%であり、中央と下部でのAl層の膜厚の差は中央でのAl層の膜厚に対して6.1%であり、Al含有層の膜厚の均一性に優れているが、上部と下部での浸漬時間が大きく異なり、Alとチタン基材の反応が進みすぎ、チタン材の板厚が薄くなってしまう場合があった。
【0101】
〔実施例2、比較例4〕
浴温度700℃の純Al溶湯(不純物として2%程度のFeを含む)に1分間純チタン板(形状30cm×10cm、厚み1mm)を浸漬し、その後、このチタン板について長手方向に3cm/秒の引き上げ速度にて引き上げを行った。このようにして得られたチタン材について、硬質粒子によるブラスト処理を施した。このとき、硬質粒子としてはガラスビーズを用いた。ブラスト処理の際の圧縮空気の圧力は2kg/cm2とし、ブラストの時間は10秒とした。
【0102】
上記ブラスト処理後のチタン材(以下、チタン材Aともいう)について、800℃の大気雰囲気下に100時間さらすという大気酸化試験を行い、この大気酸化試験前後の質量を測定し、この高温酸化試験での酸化による質量の増大量(酸化増量)を求め、これより耐酸化性を評価した。また、ブラスト処理を施さず、この点を除き上記と同様の方法により得られたチタン材(即ち、上記と同様の純Al溶湯から同様の引き上げ速度にて引き上げを行って得られたチタン材)(以下、チタン材Bともいう)について、上記と同様の大気酸化試験を行い、同様の方法により、耐酸化性を評価した。
【0103】
この結果、チタン材B(ブラスト処理を施さなかったもの)の場合、酸化増量が3mg/cm2 であった。これに対し、チタン材A(ブラスト処理を施したもの)の場合、酸化増量が1.9mg/cm2 であり、耐酸化性に優れていた。
【0104】
上記チタン材Aおよびチタン材Bについて表面の観察を行ったところ、チタン材A(ブラスト処理を施したもの)は、金属光沢を有する美麗な表面を呈しており、チタン材B(ブラスト処理を施さなかったもの)に比べて表面が美麗であった。
【0105】
【表1】

【0106】
【表2】

【0107】
【0108】
【表4】

【0109】
【表5】

【産業上の利用可能性】
【0110】
本発明に係るチタン材は、耐酸化性に優れており、また、管内面等のような複雑形状部への適用も容易であるので、2輪車用または4輪車用の排気管の構成材料として好適に用いることができ、その軽量化がはかれるだけでなく、耐酸化性に優れて耐久性の向上がはかれる。
【図面の簡単な説明】
【0111】
【図1】本発明の実施例に係る基材(Ti材)とAl含有層(Al層)との界面にAl3 Ti層(Al3Ti層)が形成されていることを示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
純TiまたはTi基合金よりなる基材上に、AlまたはAl及びSiを90質量%以上含有する厚さ1μm以上のAl含有層が形成されているチタン材であって、チタン材の長手方向に14mm間隔で3点をとり、この3点の中の中心の点におけるAl含有層の膜厚と、他の2点におけるAl含有層の膜厚との差が、前記中心の点におけるAl含有層の膜厚に対して30%以内であることを特徴とするチタン材。
【請求項2】
純TiまたはTi基合金よりなる基材上に、AlまたはAl及びSiを90質量%以上含有する厚さ1μm以上のAl含有層が、Al−Ti金属間化合物層を介して形成されているチタン材であって、チタン材の長手方向に14mm間隔で3点をとり、この3点の中の中心の点におけるAl含有層の膜厚と、他の2点におけるAl含有層の膜厚との差が、前記中心の点におけるAl含有層の膜厚に対して30%以内であることを特徴とするチタン材。
【請求項3】
前記Al−Ti金属間化合物がAl3 Tiである請求項2記載のチタン材。
【請求項4】
前記Al−Ti金属間化合物層の厚さが平均0.5μm以上15μm以下である請求項2または3記載のチタン材。
【請求項5】
前記基材に0.5〜10質量%のAlが含有されている請求項1〜4のいずれかに記載のチタン材。
【請求項6】
前記基材が実質的にAlおよびTiからなる請求項5記載のチタン材。
【請求項7】
前記Al含有層が溶融めっき法により形成されている請求項1〜6記載のチタン材。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載のチタン材の製造方法であって、Al含有層の形成を溶融めっき法により行い、この際に、溶融めっき浴からのチタン基材の引き上げ速度を1〜20cm/秒とすることを特徴とするチタン材の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれかに記載のチタン材の製造方法であって、Al含有層の形成を溶融めっき法により行い、この後に、硬質粒子によるブラスト処理を施すことを特徴とするチタン材の製造方法。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載のチタン材を用いて作製された2輪車用または4輪車用の排気管。

【図1】
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【公開番号】特開2008−297629(P2008−297629A)
【公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−161950(P2008−161950)
【出願日】平成20年6月20日(2008.6.20)
【分割の表示】特願2004−133867(P2004−133867)の分割
【原出願日】平成16年4月28日(2004.4.28)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】