説明

チューブ構造体、およびそれを用いた浄水器、浄水システム、浄水方法

【課題】 浄水器内部に溜まった水の細菌増殖を長期間に渡って抑制することができるとともに、安全性の高い飲料水を製造できる浄水器および浄水システムを提供することである。
【解決手段】抗菌剤を含む成形体をチューブの内部に有するチューブ構造体であって、前記チューブ構造体を形成するチューブは高分子材料からなり、かつ、前記抗菌剤を含む成形体が前記チューブと一体に成形されることなく形成されたチューブ構造体およびそれを用いた浄水器、浄水方法とすることである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水道蛇口に接続して水道水の浄化を行う浄水器、特にシステムキッチンなどに組み込まれるアンダーシンク浄水器に用いられるチューブ構造体に関するものである。より詳しくは、浄水器の通水部に接続された浄水チューブ内の細菌汚染を防止するために、例えば、銀単体またはハロゲン化銀、硝酸銀、硫酸銀、硫化銀、酸化銀、炭酸銀、リン酸銀に代表される抗菌剤を含有する成形体を内部に含んでなるチューブ構造体、およびそれを浄水出口側の通水部に設置した浄水器、浄水システム、浄水方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、水道蛇口に接続して水道水を浄化する浄水器のカ−トリッジとしては、活性炭や中空糸膜を充填したものが多く知られている。これらのろ過材料を通過させることにより水道水が浄化されるのであるが、ろ過材料の能力には限りがあるため、使用者は必要に応じて新しいカ−トリッジに交換する。
【0003】
水道水に含まれる遊離残留塩素を分解するろ過材料としては、特許文献1に記載されているような粒状活性炭や、特許文献2に記載されているような繊維状活性炭の成形体などがある。粒状活性炭あるいは繊維状活性炭で遊離塩素を分解した浄水は、カルキ臭が無く飲用に適しているが、長期間の放置などによって空気中の細菌が侵入すると、水道水に比べて細菌が増殖しやすい。浄水器内部の水についても同様で、浄水出口に細菌が付着すると、カートリッジの出口から浄水器の浄水出口までの間に溜まった浄水中で細菌が増殖する可能性がある。しかしながら、活性炭として粒状活性炭を用いる場合には、粒状活性炭に銀を添着することで抗菌効果を発揮することが出来るものの、遊離塩素の分解という点では性能が低いものとなる。一方、抗菌効果と除塩素性能とを共に高めるためには繊維状活性炭を用いることが好ましいが、その場合、製法上の問題から繊維状活性炭に銀を添着させることが難しい。
【0004】
さらには、内層チューブの外周面に混合樹脂から成る外層チューブを積層し、該内層チューブに抗菌剤を含有して共押出成形された浄水器用積層チューブを用いた浄水システム(例えば、特許文献3参照)が提案されている。しかしながら、この浄水器用積層チューブを用いた浄水システムでは、抗菌剤を浄水流路の内表面もしくは流路のある一断面に設けるだけであるので、水のごく一部が抗菌剤に接触するだけであるため、充分な抗菌作用を発揮することが出来ない。また、一度浄水流路が汚染されると殺菌することが困難である。
【特許文献1】特開平11−47733号公報
【特許文献2】特開平9−248557号公報
【特許文献3】特開2004−204920号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上述のような問題点に鑑み、抗菌能を有する抗菌剤を含有させた成形体を含んでなるチューブ構造体を浄水器の通水部に設置することにより、成形体に含まれた抗菌剤を徐々に水中に溶出させることによって、浄水器内部に溜まった水の細菌増殖を長期間に渡って抑制することができるとともに、安全性の高い飲料水を製造できる浄水器および浄水システム、浄水方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための本発明は、次の(1)〜(10)を特徴とするものである。
【0007】

(1)抗菌剤を含む成形体をチューブの内部に有するチューブ構造体であって、前記チューブ構造体を形成するチューブは高分子材料からなり、かつ、前記抗菌剤を含む成形体が前記チューブと一体に成形されることなく形成されたチューブ構造体。
(2)高分子材料がポリアミド、ポリエステル、ポリスルホン、ポリエチレン、エチレン・酢酸ビニル共重合体、ポリプロピレン、ポリアクリロニトリル、ポリビニルアルコール、およびポリフッ化ビニリデンからなる群から選ばれる少なくとも1種を含む樹脂組成物であることを特徴とする(1)に記載のチューブ構造体。
【0008】
(3)抗菌剤を含む成形体を水と接触させることにより、成形体に含まれる抗菌剤が前記水中に溶出することを特徴とする(1)または(2)に記載のチューブ構造体。
【0009】
(4)成形体に含まれる抗菌剤が、銀単体または銀化合物であることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載のチューブ構造体。
【0010】
(5)銀化合物が、ハロゲン化銀、硝酸銀、硫酸銀、硫化銀、酸化銀、炭酸銀、およびリン酸銀からなる群から選ばれる少なくとも1種を含むことを特徴とする(4)に記載のチューブ構造体。
【0011】
(6)抗菌剤を含む成形体が、銀添着活性炭を含んでなるものであることを特徴とする(4)または(5)に記載のチューブ構造体。
【0012】
(7)抗菌剤を含む成形体の形状が、平膜状、繊維状、棒状、筒状のいずれかであることを特徴とする(1)〜(6)のいずれかに記載のチューブ構造体。
【0013】
(8)(1)〜(7)のいずれかに記載のチューブ構造体が浄水出口側の通水部に設置されてなる浄水器。
【0014】
(9)(8)に記載の浄水器と、吐出口と、給水栓とを備えてなる浄水システム。
【0015】
(10)(8)に記載の浄水器を用いて浄水することを特徴とする浄水方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、浄水器内部に溜まった水の細菌増殖を長期間に渡って抑制することができ、安全性の高い飲料水を製造できる浄水器、浄水システム、および浄水方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に、本発明の望ましい実施の形態を説明する。なお、本発明は以下に示す実施の態様に限定されるものではない。
【0018】
本発明は、抗菌剤を含む成形体をチューブの内部に有するチューブ構造体であって、前記チューブ構造体を形成するチューブは高分子材料からなり、かつ、前記抗菌剤を含む成形体が前記チューブと一体に成形されることなく形成されたチューブ構造体を提供するものである。さらに、かかるチューブ構造体を浄水出口側の通水部に設置した浄水器とし、当該浄水器の浄水出口側の通水部を通過する、または当該浄水器の浄水出口側の通水部内で滞留する水を、前記抗菌剤を含む成形体と接触させることにより、抗菌剤を前記水中に徐々に溶出させて、前記浄水出口側の通水部の細菌汚染を効果的に防止することができる浄水器、浄水システムおよび浄水方法を提供するものである。
【0019】
本発明のチューブに用いられる高分子材料は、加熱溶融して成形可能な樹脂組成物であることが好ましく、かかる樹脂組成物としては、ポリアミド、ポリエステル、ポリスルホン、ポリエチレン、エチレン・酢酸ビニル共重合体、ポリプロピレン、ポリアクリロニトリル、ポリビニルアルコール、およびポリフッ化ビニリデンからなる群から選ばれる少なくとも1種を含んでなる樹脂組成物であることが好ましい。さらに好ましい樹脂組成物としては、有機溶媒に可溶なポリスルホンやポリフッ化ビニリデンなどが挙げられる。なお、ここで言う成形可能とは、熱を加えると高分子材料の原料全体が軟らかくなり、流動性を持つ有機高分子化合物であることを意味する。
【0020】
かかる高分子材料を用いて本発明のチューブとするためには、例えば、前記高分子材料を加熱溶融した後に、金型内に押し込んで直接チューブを成形する方法(「金型成形法」と称する。)や、前記高分子材料を加熱溶融し、板、棒、管などに成形した成形体に孔を開けたり、曲げたりして最終的にチューブとする方法(「成形後加工法」と称する。)が採用され得るが、一回的に成形することが可能な金型成形法が好ましく用いられる。
【0021】
また、本発明のチューブは、単数の樹脂組成物、または複数の樹脂組成物の混合物を押出成形したり、複数の樹脂組成物を共押出成形したりすることなどによっても得られる。本発明のチューブが、複数の樹脂組成物を共押出成形することにより得られる方法としては、例えば、ポリエチレン、またはポリプロピレンからなる内層チューブの外周面に、可塑剤を添加せずに、水素添加スチレン・ブタジエン・ラバー40〜90重量%と、エチレン系コポリマー60〜10重量%の配合割合で混合して得られる混合樹脂を用いて外層チューブを一体的に積層する方法などが挙げられる。かかる方法により得られたチューブの内層チューブの厚みは1mm以下であって、かつ内外層チューブの全肉厚が4mm以下であることが好ましい。
【0022】
なお、ポリエチレン、ポリプロピレン、あるいはエチレン・酢酸ビニル共重合体からなり、可塑剤を含有しない単層のチューブを用いる場合、柔軟性(撓み性)が十分でないことがあり、例えば、アンダーシンク型や据置型の浄水器本体を設置する際や、狭いスペース内(例えば、台所のシンク下)に配置する際に、配管を屈曲させる作業の効率が悪くなることがあるため、共押出成形により積層チューブとすることで柔軟性を改善することが好ましい。
【0023】
本発明のチューブ構造体を形成する抗菌剤を含む成形体を、前記チューブ内部に配置して、チューブ構造体とする方法としては、該抗菌剤を含む成形体がチューブから飛び出すことを防止する構成とすることが好ましく、例えば、チューブ端面に逆止弁やメッシュフィルターを用いることが好ましく採用される。
【0024】
本発明のチューブ構造体を形成する成形体に含まれる抗菌剤は、銀単体または銀化合物であることが好ましい。ここで、銀化合物としては、ハロゲン化銀、硝酸銀、硫酸銀、硫化銀、酸化銀、炭酸銀、リン酸銀などが例示される。また、かかる抗菌剤を含む成形体は、銀単体または銀化合物を物質の表面ないし内部に付着させた銀を含有する担体を含んでなることが好ましく、中でも、担体として活性炭を用いた銀添着活性炭や、銀ゼオライト、銀リン酸ジルコニウム、銀リン酸亜鉛カルシウム、銀リン酸カルシウム、銀ガラスが好ましく用いられる。また、イオン交換機能を持つゼオライトを担体とした銀ゼオライトを選択した場合には、銀イオンをゼオライト内部の陽イオンとあらかじめ置換して担持させておくことができ、銀単体を水中に溶出しやすい形態で保持することができる点で好ましく用いられる。
【0025】
ここで、本発明に用いられる成形体に含まれる前記銀添着活性炭の形状は、球状、粉末状、繊維状、顆粒状、破砕状等のいずれでも良いが、中でも粉末状または粒状が均一に混合することができるため好ましい。かかる銀添着活性炭の製造方法としては、例えば、硝酸銀溶液中に活性炭を入れ硝酸銀を吸着させながら活性炭表面近傍で還元処理を行い、金属銀(銀単体)、酸化銀、塩化銀を析出させ、その後、還元処理後の活性炭を洗浄し、硝酸イオンを取り除き脱水・乾燥を行うことで達成できる。
【0026】
本発明に用いられる成形体に含まれる抗菌剤は、銀添着活性炭の場合、該成形体が水中の酸素や微量の塩素などの酸化剤と接触することにより、前記銀添着活性炭の表面近傍に析出し、析出した抗菌剤が酸化されて溶出する。
【0027】
このようにして水中に溶出した抗菌剤の濃度は、例えば、抗菌剤が銀の担体または銀化合物である場合、該抗菌剤を含む成形体を内部に有するチューブ構造体に通水して得られた浄水をガラス瓶などの容器に採取し、その体積の約1%の硝酸を添加して銀を完全にイオン化した後、ICP(誘導結合プラズマ発光分析装置)もしくは原子吸光分析法で測定をすることができる。このようにして測定した水中に溶出した銀イオン濃度は、米国環境保護庁(EPA)の飲料水質ガイドラインに健康へのリスクは無いと記載されている100ppb以下であれば良く、また、細菌の数が増加しない抗菌効果の点で5ppb以上さらに好ましくは10ppb以上であれば細菌の数が減少する殺菌効果も期待できるため、さらに望ましい。
【0028】
成形体に含まれた抗菌剤の水中への溶出は、長期間に渡って細菌の繁殖抑制効果が持続するように、かつ、通水初期に大部分が溶出して飲料水中に過剰に含まれないようにするため、抗菌剤単独でまたは抗菌剤を含んでなる担体を、成形体に用いられる高分子材料に練り混んで成形したり、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)やN,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)などの有機溶媒に溶解した成形体に用いられる高分子材料中に、抗菌剤単独でまたは抗菌剤を含んでなる担体を混合して成形したりすることが好ましく採用される。あるいは、抗菌剤単独でまたは抗菌剤を含んでなる担体を表面にコーティングしたり、平膜状の成形体の内層に挟んだり、または筒状の中空部に充填したりすることも、水に接触しない抗菌剤を減らして、効果的に抗菌剤の溶出持続性を向上することができる。
【0029】
また、前記成形体の形状は、平膜状、繊維状、棒状、筒状等のいずれの形状でも良いが、ハンドリング性や容易に交換可能であることから筒状が好ましい。なお、ここでいう筒状の成形体には、中空糸膜状に成形された成形体も含まれるものとする。他方、本発明で用いられる抗菌剤を含む成形体のかわりに、抗菌剤を含んだ粒状体が用いられる場合、微粉が流出し、それを飲用する危険がある。従って、図2〜5に示すように平膜状、繊維状、棒状、筒状の成形体とすることにより上記危険性を回避できるほか、取り扱いや組立および交換が容易となる。
【0030】
本発明に用いられる抗菌剤を含む成形体を製造する場合において、成形体に用いられる高分子材料に親水性高分子を添加する方法も好ましく採用される。このように親水性高分子を添加することは、前記成形体に用いられる高分子材料に親水性や高い含水率を付与する上で好ましく、かかる親水性高分子を前記高分子材料中に1〜30重量%含まれるように調製するのが良い。また、前記親水性高分子は、前記成形体を成形した後の熱処理や、有機溶媒で抽出・除去することにより当該成形体の細孔が形成され、かつ、前記親水性高分子の分子量が大きくなると当該細孔の孔径が大きくなるので好ましい。すなわち、成形体に形成された細孔の孔径を大きくすることにより、前記成形体内部の抗菌剤と水を接触させる機会を増大させ、抗菌剤の溶出を増進させる効果が得られるためである。
【0031】
かかる親水性高分子としては、例えば、ポリエチレングリコール(PEG300、平均分子量300)やポリビニルピロリドン(PVP、K30、分子量4万)などの親水性に優れた高分子を使用することができる。一方、前記成形体からの抗菌剤の溶出により抗菌剤の濃度が100ppb以上になる場合には、親水性高分子を添加しない態様が好ましく採用される。
【0032】
本発明に用いられる抗菌剤を含む成形体は、例えば以下のようにして成形することができる。すなわち、成形体に用いられる高分子材料としてポリスルホンをDMAcに溶解した後、銀添着活性炭を添加して均一混合してポリマー溶液とする。そして、このポリマー溶液をガラス板上に流延し、均一の厚みになるように引き伸ばした後、水中に投入して凝固させる。このようにして得られた平膜を、熱水洗浄して過剰のDMAcを除去後、乾燥して銀添着活性炭入り平膜とする。さらには、平膜にする代わりに該ポリマー溶液をモノフィラメントや、中空糸膜などにコーティングする方法などによって、繊維状物、棒状物、ならびに筒状物が得られ、これらを熱水洗浄後、乾燥して銀添着活性炭入り成形体が得られるのである。
【0033】
本発明の浄水器としては、給水栓に連結して流入する原水をろ過する浄水器用カートリッジを備えており、前記カートリッジには活性炭に代表される吸着剤層と中空糸膜束とが原水の流れ方向にこの順で配置されているものであって、前記チューブ構造体を当該浄水器の浄水出口側の通水部に設置されたものが例示される。吸着剤層では水道水中の遊離残留塩素を分解するのでカルキ臭が除去され、中空糸膜束では鉄サビや細菌などが除去され、より安全で美味しい水を供給することができる。
ここで言う中空糸膜束とは、例えば複数本の中空糸膜を束ねてストレート状或いはU字状に折り曲げた中空糸膜の集合体をいう。かかる中空糸膜の孔径は、10μm以下であると好ましく、さらに好ましくは2μm以下である。さらに微小な固体を除去する場合には、孔径0.1μm以下のものを用いると好ましい。その素材としては、ポリアクリロニトリル、ポリフェニレンスルフォン、ポリフェニレンスルフィドスルフォン、ポリフッ化ビニリデン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスルホン、ポリビニルアルコール、酢酸セルロースやセラミック等の有機・無機素材からなる群から選ばれる少なくとも1種を含んでいると好ましく、さらに好ましくはポリスルホンやポリフッ化ビニリデンが良い。
【0034】
本発明の浄水システムは、前記浄水器と給水栓と吐出口とを備えてなり、前記チューブ構造体を浄水側チューブとして用いられることを特徴とする。ビルトインタイプのいわゆるアンダーシンク型の浄水器の設置図を示す図6を用いて説明すると、本発明の浄水システムは図6に示すように給水栓5と、前記浄水器用カートリッジ6と、水道蛇口7と、浄水器用バルブ8と、吐出口9とからなっており、給水栓5と浄水器用カートリッジ6が原水側チューブ3および浄水側チューブ4と接続されている。このようなアンダーシンク型の浄水システムは、流し台の上部には水道蛇口7と、浄水器用カートリッジ8と、吐出口9のみが存在し、その他の部材は流し台の下部に収納されるため流し台周辺の見栄えに影響を及ぼさず好適である。
【0035】
本発明の浄水方法は、アンダーシンク型の浄水器の設置図を示す図6を参照しながら説明する。前記浄水器用カートリッジ6は略円柱型の形をなしており、水道蛇口7に設けられた浄水器用バルブ8を開くと、水道水が原水受入口から浄水器用カートリッジ6の内部に流入する。水道水はカートリッジ内を流れ、活性炭で遊離塩素が分解され、次いで中空糸膜モジュールの中空糸膜により鉄サビや細菌などが除去され、浄水として浄水供給口から水道蛇口7に供給され、水道蛇口の吐出口9から吐出される。
【0036】
水道蛇口7の浄水器用バルブ8を閉じると通水が停止し、浄水器用カートリッジ6の浄水供給口から水道蛇口の吐出口9までの間に、浄水が滞留する。
【0037】
そして、浄水器の浄水出口側の通水部に滞留した水は、殺菌効果を有する塩素が除去されているため、吐出口の先端から一般細菌が侵入して繁殖し、やがては浄水器用カートリッジにまで及ぶ危険がある。特にアンダーシンク型の浄水システムはその構造上、チューブが長くならざるを得ないため、この部分で一般細菌が繁殖しやすくなっている。そのため、本発明のチューブ構造体を浄水器の浄水出口側の通水部に設置して、前記浄水システムを用いた浄水方法を採用することにより細菌汚染のない安全で美味しい水を得ることができるのである。特に、本発明のチューブ構造体は、抗菌剤を含む成形体が前記チューブと一体に成形されることなく形成されているので、抗菌剤を含む成形体のみを交換することが可能であり、長期間に渡って細菌増殖が抑制できるという優れた効果が得られることになる。
【実施例】
【0038】
以下に実施例を記載して本発明をより具体的に説明する。なお、本発明はこの実施例に何ら限定されるものではない。なお、銀イオンの溶出試験およびポリフッ化ビニリデン(PVDF)中空糸膜の製造方法は以下の方法で行った。
【0039】
[銀イオンの溶出試験(銀イオン濃度測定)]
(1)各浸漬条件における銀イオン濃度
飲料水100ml中に、実施例および比較例で得られた抗菌剤を含む成形体を入れ、40℃静置下で24時間または120時間浸漬した。該浸漬液を採取し、その体積の約1%の硝酸を添加して銀を完全にイオン化した後、ICPにて銀イオン濃度を測定し、表1に示した。
【0040】
(2)通水/滞水時における銀イオン濃度
チューブ内に抗菌剤を含む成形体を入れ、遊離塩素が分解された水を4L/分の通水量で所定時間通水後停止した。1晩(15時間)滞水後、チューブ内の滞留水を抜き出し、滞留水中の銀イオン濃度を測定した。この通水/滞水操作を通水量が2万Lになるまで繰り返し、各通水時点で銀イオン濃度を測定し、表2に示した。
【0041】
[ポリフッ化ビニリデン(PVDF)中空糸膜の製造方法]
重量平均分子量42万のフッ化ビニリデンホモポリマー30重量%とジメチルスルホキシド70重量%を120℃で溶解させてポリマー溶液を得た。乾式長2cmでチューブインオリフィス(オリフィス外径2.0mm、チューブ外径0.8mm、チューブ内径0.5mm)のオリフィスから前記ポリマー溶液を、チューブから80重量%ジメチルスルホキシド水系液を共に押出して、液温25℃の80重量%ジメチルスルホキシド水系液中で凝固させ、中空糸を得た。得られた中空糸を30℃で水洗した。引き続き80℃の熱水浴に8m/分で供給して、熱水浴中で1.5倍(引取速度12m/分)に延伸した後、さらに緊張下に11.2m/分に減速して7%の弛緩率で弛緩させ、70℃の温水中で脱溶媒して中空糸膜を得た。この中空糸膜は、純水透過量3.1m/(m・h・100kPa)、内径0.86mm、外径1.32mm、強度5.2MN/m以上、伸度87%であった。
【0042】
[実施例1]
<抗菌剤を含む成形体>
ポリスルホン(AMOCO社製)20gをDMAc(98%、和光純薬)180gに加え、90℃に加熱しながら2時間攪拌して溶解した後、室温まで冷却して銀添着活性炭(ヤシ殻を原料とした粒状活性炭を母体とし、その表面または内部に銀化合物を1重量%担持させた粒度が24〜42メッシュのもの)1gを加えて混合した。該ポリマー溶液中にポリフッ化ビニリデン(PVDF)中空糸膜(内径0.86mm、外径1.31mm)を1分間浸漬後、水中に投入して凝固させた。この後、90℃熱水で10分間抽出・洗浄した後、40℃で乾燥して抗菌剤を含む成形体である銀添着活性炭コーティングPVDF中空糸膜を得た。
【0043】
また、銀添着活性炭の代わりに銀ゼオライト(シナネンゼオミック)を用いて同様にして銀ゼオライトコーティングPVDF中空糸膜を得た。
【0044】
<チューブ>
ポリエチレンチューブ(山一化工製、外径18mm、内径15mm、長さ60cm)を用いた。
【0045】
<チューブ構造体>
上記チューブの一端に密栓をし、図2のように抗菌剤を含む成形体(銀添着活性炭コーティングPVDF中空糸膜、長さ55cm)0.55gを挿入後、飲料水100mlを充填して密栓をした。該チューブを40℃静置下で24時間放置した後、密栓を外して飲料水を抜き出し、飲料水中の銀イオン濃度を測定したところ、33ppbであった。
【0046】
[実施例2]
実施例1記載の抗菌剤を含む成形体(銀添着活性炭コーティングPVDF中空糸膜、長さ55cm)0.55gを飲料水100ml容試薬ビンに入れ、40℃静置下で浸漬した。24時間毎に飲料水を全量入れ替えると共に、飲料水中の銀イオン濃度をその都度測定した。浸漬時間は120時間まで行った。銀イオン濃度は120時間後も検出でき、平均値は30ppbであった。
【0047】
[実施例3]
ポリスルホン(AMOCO社製)20gをDMAc(98%、和光純薬)180gに加え、90℃に加熱しながら2時間攪拌して溶解した後、PEG(PEG300、平均分子量300、和光純薬)4gを加えて均一溶液とした。室温に冷却後、銀添着活性炭(ヤシ殻を原料とした粒状活性炭を母体とし、その表面または内部に銀化合物を1重量%担持させ、粒度が24〜42メッシュのもの)1gを加えて混合した。該ポリマー溶液中にポリフッ化ビニリデン(PVDF)中空糸膜(内径0.86mm、外径1.32mm)を1分間浸漬後、水中に投入して凝固させた。この後、90℃熱水で10分間抽出・洗浄した後、40℃で乾燥して抗菌剤を含む成形体である銀添着活性炭コーティングPVDF中空糸膜を得た。
【0048】
図2のように抗菌剤を含む成形体(銀添着活性炭コーティングPVDF中空糸膜、長さ55cm)0.55gを飲料水100ml容試薬ビンに入れ、40℃静置下で浸漬した。24時間毎に飲料水全量を入れ替えると共に、飲料水中の銀イオン濃度を測定した。浸漬時間は120時間まで行った。銀イオン濃度は120時間後も検出でき、平均値は35ppbであった。
【0049】
[実施例4]
内層チューブ(材質:ポリエチレン)と外層チューブが共押出成形されたチューブ(内径10mm、長さ80cm、容積60ml)内に、実施例1記載の抗菌剤を含む成形体(銀添着活性炭コーティングPVDF中空糸膜、77cmを3本)2.32gを挿入した。浄水器側のチューブには逆止弁、他端にはメッシュフィルターがあるので抗菌剤を含む成形体が飛び出すことは無い。該PVDF中空糸膜からの銀溶出寿命を測定するために、飲料水を活性炭および中空糸膜が充填された浄水器に通水して、遊離塩素が分解された水を上記チューブに4L/分の通水量で8時間通水後停止した。15時間滞水後、チューブ内の滞留水を抜き出し、滞留水中の銀イオン濃度を測定した。この通水/滞水操作を通水量が2万Lになるまで繰り返し、各通水時点で銀イオン濃度を測定した。その結果、2万L通水後15時間滞留水中の銀イオン濃度は28ppbであり、まだ銀イオンの溶出寿命を保持しており、かつ抗菌効果があるとされる5ppb以上であった。
【0050】
[実施例5]
ポリスルホン(AMOCO社製)20gをDMAc(98%、和光純薬)180gに加え、90℃に加熱しながら2時間攪拌して溶解した後、室温まで冷却して、銀ゼオライト(シナネンゼオミック、銀担持量2.5%)1gを加えて混合した。該溶液中にポリフッ化ビニリデン(PVDF)中空糸膜(内径0.86mm、外径1.32mm)を1分間浸漬後、水中に投入して凝固させた。この後、90℃熱水で10分間抽出・洗浄した後、40℃で乾燥して抗菌剤を含む成形体である銀ゼオライトコーティングPVDF中空糸膜を得た。
【0051】
該銀ゼオライト中空糸膜(長さ77cmを3本)2.32gを実施例4記載のチューブに挿入した。通水/滞水操作は実施例4と同様にして2万Lまで通水した後、滞留水中の銀イオン濃度を測定したところ30ppbであった。銀ゼオライトをコーティングした中空糸膜でも銀添着活性炭と同様銀イオン溶出寿命が保持されていた。
【0052】
[比較例1]
銀添着活性炭粉末(ヤシ殻を原料とした粒状活性炭を母体とし、その表面または内部に銀化合物を1重量%担持させ、粒度が24〜70メッシュのもの)1gを飲料水100mlに入れ、実施例1と同様にして銀イオン濃度を測定したところ、66ppbであった。銀イオン濃度は目標範囲内であるが、成形体とはせずに粉末状とした場合には銀添着活性炭からの微粉が流出するのでチューブ内に保持しておくことは困難であった。
【0053】
[比較例2]
実施例4記載の内層チューブ(材質:ポリエチレン)と外層チューブが共押出成形されたチューブ(内径10mm、長さ80cm、容積60ml)のみで実施例4と同様の通水/滞水操作で滞留水中の銀イオン濃度を測定した。各通水時点とも銀イオン濃度は検出限界以下であった。
【0054】
【表1】

【0055】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】抗菌剤を含む内層チューブと外層チューブとが共押出成形された従来のチューブの概略図である。
【図2】本発明の好ましい実施態様である、抗菌剤を含む成形体が筒状であるチューブ構造体の概略図である。
【図3】本発明の好ましい実施態様である、抗菌剤を含む成形体が棒状であるチューブ構造体の概略図である。
【図4】本発明の好ましい実施態様である、抗菌剤を含む成形体が繊維状(集合体の場合)であるチューブ構造体の概略図である。
【図5】本発明の好ましい実施態様である、抗菌剤を含む成形体が平膜状であるチューブ構造体の概略図である。
【図6】浄水器用カートリッジをアンダーシンク浄水器に装着した状態を示す概略図である。
【符号の説明】
【0057】
1 チューブ(図1の場合は、チューブの外層)
2 抗菌剤を含む成形体(図1の場合は、チューブの内層)
3 原水側チューブ
4 浄水側チューブ
5 給水栓
6 浄水器用カートリッジ
7 水道蛇口
8 浄水器用バルブ
9 吐出口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗菌剤を含む成形体をチューブの内部に有するチューブ構造体であって、前記チューブ構造体を形成するチューブは高分子材料からなり、かつ、前記抗菌剤を含む成形体が前記チューブと一体に成形されることなく形成されたチューブ構造体。
【請求項2】
高分子材料がポリアミド、ポリエステル、ポリスルホン、ポリエチレン、エチレン・酢酸ビニル共重合体、ポリプロピレン、ポリアクリロニトリル、ポリビニルアルコール、およびポリフッ化ビニリデンからなる群から選ばれる少なくとも1種を含む樹脂組成物であることを特徴とする請求項1に記載のチューブ構造体。
【請求項3】
抗菌剤を含む成形体を水と接触させることにより、成形体に含まれる抗菌剤が前記水中に溶出することを特徴とする請求項1または2に記載のチューブ構造体。
【請求項4】
成形体に含まれる抗菌剤が、銀単体または銀化合物であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のチューブ構造体。
【請求項5】
銀化合物が、ハロゲン化銀、硝酸銀、硫酸銀、硫化銀、酸化銀、炭酸銀、およびリン酸銀からなる群から選ばれる少なくとも1種を含むことを特徴とする請求項4に記載のチューブ構造体。
【請求項6】
抗菌剤を含む成形体が、銀添着活性炭を含んでなるものであることを特徴とする請求項4または5に記載のチューブ構造体。
【請求項7】
抗菌剤を含む成形体の形状が、平膜状、繊維状、棒状、筒状のいずれかであることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のチューブ構造体。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載のチューブ構造体が浄水出口側の通水部に設置されてなる浄水器。
【請求項9】
請求項8に記載の浄水器と、吐出口と、給水栓とを備えてなる浄水システムであって、前記チューブ構造体を浄水側チューブとして用いられることを特徴とする浄水システム。
【請求項10】
請求項8に記載の浄水器を用いて浄水することを特徴とする浄水方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−348966(P2006−348966A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−172009(P2005−172009)
【出願日】平成17年6月13日(2005.6.13)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】