説明

チョッパー分光器および回転制御装置

【課題】回転速度の高速化および回転速度の高精度化を図ると共に、外部装置と同期運転を可能にした回転制御装置およびチョッパー分光器を提供する。
【解決手段】中性子源で発生するパルス状の中性子ビームを単色化するチョッパー分光器1は、フェルミ本体2と、磁気浮上制御回路3と、インバータ4と、モータ制御回路5とを備える。モータ制御回路5は、ロータ11の目標回転速度に応じた周波数指令値をインバータ4へ出力すると共に、光回転センサ14で検出されるロータ11の回転速度に基づき、誘導モータ12の回転速度を制御する速度制御と、外部から入力される同期信号と、光回転センサ14で検出されるロータ11の回転位置とに基づき、誘導モータ12の位相を制御する位相制御と、を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中性子透過部と中性子遮蔽部が交互に積層されたスリットと一体に回転するロータを高真空中で磁気浮上させて誘導モータにより回転させ、中性子源で発生するパルス状の中性子ビームを単色化するチョッパー分光器、およびロータを高真空中で磁気浮上させて誘導モータにより回転させる回転制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ロータを高真空中で磁気浮上させて誘導モータにより回転させる装置として、ターボ分子ポンプ(TMP:Turbo Molecular Pump)が知られている(例えば、特許文献1参照)。また、TMPに用いる磁気軸受の制御装置が知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0003】
一方、特許文献3には、パルス中性子非弾性散乱測定で用いられるフェルミチョッパーに関し、磁気ベアリングによりロータを真空中に浮上させ、600Hzもの高速回転が実現されていることが記載されている。そのロータには中性子透過窓に相当するスリットパッケージが装填される。
【特許文献1】特開平10−281093号公報
【特許文献2】特開2002−13532号公報
【特許文献3】特開2007−303909号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、TMPは、速度の制御精度(ロータの回転速度精度)は1Hzレベルの制御精度であり、また、同期制御が不要であることから、その制御回路の搭載がされていない。
【0005】
一方、フェルミチョッパーは、600Hz、±0.25マイクロ秒が現状性能である。
【0006】
本発明の目的は、回転速度の高速化および回転速度の高精度化を図ると共に、外部装置と同期運転を可能にしたチョッパー分光器を提供することにある。
【0007】
本発明の別の目的は、回転速度の高速化および回転速度の高精度化を図った回転制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、中性子透過部と中性子遮蔽部が交互に積層されたスリットと一体に回転するロータを高真空中で磁気浮上させて誘導モータにより回転させ、中性子源で発生するパルス状の中性子ビームを単色化するチョッパー分光器において、前記ロータの回転速度と回転位置を検出する回転センサと、入力される周波数指令値に応じて前記誘導モータの各相のコイルに供給する電力を変化させるインバータと、前記インバータを制御して前記誘導モータを駆動制御するモータ制御部と、を備え、前記モータ制御部は、周波数指令値を前記インバータへ出力し、前記回転センサで検出される前記ロータの回転速度に基づき、前記誘導モータの回転速度を制御する速度制御と、外部から入力される同期信号と前記回転センサで検出される前記ロータの回転位置とに基づき、前記誘導モータの位相を制御する位相制御と、を行うことを特徴とする。
【0009】
この構成によれば、ロータの回転速度の高速度化および回転速度の高精度化を図ることができ、かつ外部の上位装置と同期してロータを回転させることができる。チョッパー分光器の現状の性能は、600Hz,±0.25マイクロ秒程度である。これに対して、本発明によれば、1000Hzの高速回転で、かつ回転速度変化(ばらつき)が±0.1マイクロ秒の高精度な回転を実現できる。また、外部の上位装置と同期してロータを回転させることで、発生源から出射されるパルス状の中性子ビームから、希望する正しいエネルギーレベルの中性子パルスを得ることができる。
【0010】
請求項2に記載の発明は、前記モータ制御部は、外部の電子機器と電気的に接続され、該電子機器により入力された前記ロータの目標回転速度に応じた周波数指令値を前記インバータへ出力することを特徴とする。
【0011】
請求項3に記載の発明は、前記インバータは、前記モータ制御部から出力される周波数指令値に応じた電力を、前記誘導モータの各相のコイルに供給することを特徴とする。
【0012】
請求項4に記載の発明は、前記インバータは、前記モータ制御部から出力される周波数指令値に応じて、前記誘導モータの各相のコイルに電流が流れている時間の長さを制御するPWM制御信号を出力することを特徴とする。
【0013】
請求項5に記載の発明は、前記インバータは、前記モータ制御部から出力される周波数指令値に応じた周波数の正弦波を、前記誘導モータの各相のコイルに出力することを特徴とする。
【0014】
請求項6に記載の発明は、中性子源で発生するパルス状の中性子ビームを単色化するチョッパー分光器において、中性子透過部と中性子遮蔽部が交互に積層されたスリットと、該スリットが搭載され該スリットと一体に回転するロータと、該ロータを回転させる誘導モータと、前記ロータを磁気浮上させる磁気軸受と、前記ロータの回転速度と回転位置を検出する回転センサとを有するフェルミ本体と、前記磁気軸受を制御して前記ロータを磁気浮上させる磁気浮上制御部と、入力される周波数指令値に応じて前記誘導モータの各相に供給する電力を変化させるインバータと、前記インバータを制御して前記誘導モータを駆動制御するモータ制御部と、を備え、前記モータ制御部は、周波数指令値を前記インバータへ出力し、前記回転センサで検出される前記ロータの回転速度に基づき、前記誘導モータの回転速度を制御する速度制御と、外部から入力される同期信号と前記回転センサで検出される前記ロータの回転位置とに基づき、前記誘導モータの位相を制御する位相制御と、を行うことを特徴とする。
【0015】
請求項7に記載の発明は、前記フェルミ本体は、前記中性子ビームが通過する窓を有するハウジングを備え、前記ロータ、前記スリット、および前記磁気軸受が高真空にされた前記ハウジング内に収容されており、前記ロータは、高真空中で、磁気浮上されて回転することを特徴とする。
【0016】
請求項8に記載の発明は、ロータを高真空中で磁気浮上させて誘導モータにより回転させる回転制御装置において、前記ロータの回転速度と回転位置を検出する回転センサと、入力される周波数指令値に応じて前記誘導モータの各相のコイルに供給する電力を変化させるインバータと、前記インバータを制御して前記誘導モータを駆動制御するモータ制御部と、を備え、前記モータ制御部は、周波数指令値を前記インバータへ出力し、前記回転センサで検出される前記ロータの回転速度に基づき前記誘導モータの回転速度を制御する速度制御と、前記回転センサで検出される前記ロータの回転位置とに基づき、前記誘導モータの位相を制御する位相制御と、を行うことを特徴とする。この構成によれば、ロータの回転速度の高速度化および回転速度の高精度化を実現できる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ロータの回転速度の高速度化および回転速度の高精度化を図ることができ、かつ外部の上位装置と同期してロータを回転させることができるチョッパー分光器が得られる。
【0018】
本発明によれば、ロータの回転速度の高速度化および回転速度の高精度化を図ることができる回転制御装置が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
次に、本発明を具体化した一実施形態を図面に基づいて説明する。
(一実施形態)
図1は、一実施形態に係るチョッパー分光器1全体の構成を概略的に示している。図2は、チョッパー分光器1全体の更に詳細な構成を示している。図3は、フェルミ本体の内部構造を詳細に示している。図4は、フェルミ本体の構造を概略的に示している。図5は、フェルミ本体のロータを概略的に示している。図6は、ロータに搭載されてロータと一体に回転するスリットを概略的に示している。図7は、スリット支持部材にスリットが挿入された状態を示す横断面図である。そして、図8は、中性子ビームとスリットの関係を示す説明図である。
【0020】
チョッパー分光器1は、中性子源(図示省略)で発生するパルス状の中性子ビームを単色化する装置である。このチョッパー分光器1は、図1に示すように、フェルミ本体2と、磁気浮上制御回路3と、インバータ4と、モータ制御回路5とを備える。
【0021】
フェルミ本体2は、図1に示すように、中性子透過部と中性子遮蔽部が交互に積層されたスリット10と、スリット10が搭載されこのスリット10と一体に回転するロータ11と、ロータ11を回転させる誘導モータ12と、ロータ11を磁気浮上させる磁気軸受13と、ロータ11の回転速度と回転位置を検出する回転センサとしての光回転センサ14とを有する。
【0022】
フェルミ本体2は、図4に示すように、中性子ビームが通過する窓15を有するハウジング16を備える。このハウジング16内部は高真空にされており、このハウジング16内に、スリット10、ロータ(シャフト)11、誘導モータ12および磁気軸受13(図3参照)が収容されている。フェルミ本体2は、ロータ11が高真空(1*10−6Pa)中で、磁気浮上されて回転するようになっている。
【0023】
ハウジング16は、ベースプレート17と、ベースプレート17に固定された筒体18と、この筒体18に固定された筒体19と、この筒体19に固定され、左右に中性子ビームが透過する窓15を有する筒体20と、この筒体20の上部開口端を塞ぐ蓋21とを有する。
【0024】
また、フェルミ本体2には、図3に示すように、ロータ11をx,y,zの3軸方向で磁気浮上させるために、スラスト磁気軸受22、一対のラジアル磁気軸受23,24、スラスト制御センサ25、および一対のラジアル制御センサ26,27が設けられている。磁気浮上制御回路3は、各センサ25乃至27で検出されるロータ11のx,y,z位置に基づき、磁気軸受22乃至24の各電磁コイルへの給電を制御する。
【0025】
図5に示すように、ロータ11の上端部にあるフランジ28に、スリット支持部材29の下端部にあるフランジ30が締結されている。これにより、スリット支持部材29がロータ11に固定されている。このスリット支持部材29の溝29aに、図6に示すスリット10が挿入されている。
【0026】
このスリット10は、ボロン繊維とアルミニウムの複合板からなる中性子遮蔽材(中性子遮蔽部)10aと、アルミニウムスペーサ(中性子透過部)10bを複数回交互に重ねて、両側を保持部材10c、10dで挟持している。中性子遮蔽材10aとアルミニウムスペーサ10bはそれぞれ所定の曲率で湾曲している。中性子遮蔽材10aとアルミニウムスペーサ10bは、交互に複数回重ねた状態で、中性子遮蔽材10aおよびアルミニウムスペーサ10bと同じ曲率の曲面をそれぞれ持つ保持部材10c、10dで挟まれている。このようなスリット10が、スリット支持部材29の溝29aに挿入されている。また、スリット10は、複数のネジでスリット支持部材29に固定される。これにより、スリット10がロータ11と一体に回転するようになっている。
【0027】
ここで、中性子遮蔽材10aの厚さをdとし、アルミニウムスペーサ10bの幅をWとすると、ロータ11の直径Dおよびロータ11の回転周波数f(ロータ11の回転速度)に対して、開口時間Δtは、Δt=2πDfで与えられる。
【0028】
チョッパー分光器1では、f=600HzではΔt=1.5μs程度、f=1kHzではΔt=0.7μsをそれぞれ目指している。
【0029】
また、図1乃至図3に示すインバータ4は、入力される周波数指令値(例えば指令値600Hz)に応じて三相交流電源の周波数を変え、誘導モータ12の各相のコイル(ステータコイル)に供給する電力(電流値)を変化させる。例えば、インバータ4は、電流を自由にオン、オフすることのできる半導体素子を用い、モータ制御回路5から出力される周波数指令値に応じて、誘導モータ12のU相、V相およびW相の各コイルに電流が流れている時間の長さを制御(PWM制御)するPWM制御信号を出力して、誘導モータ12の各相のコイルに供給する電力(電流値)を変化させる(PWM方式の)構成になっている。
【0030】
本実施形態で用いるインバータ4は、例えば、0.01Hz刻みで、0.1〜1500Hzの範囲で周波数指令値を与えられる仕様の部品である。例えば、モータ制御回路5からインバータ4へ600Hzの周波数指令値を与えると、この指令値の周波数に応じた電力(電流値)が、誘導モータ12の各相のコイルに供給されることになり、この周波数で誘導モータ12が回転する。当然誘導モータ12の回転速度誤差があるが、この誤差は光回転センサ14で検出される回転速度が指令値(600Hz)になるように、モータ制御回路5によりフィードバック制御される。このように、インバータ4は、モータ制御回路5から出力される周波数指令値に応じた電力(電流値)を、誘導モータ12の各相のコイルに供給するようになっている。
【0031】
図2に示すように、インバータ4の各入力端子(R,S,T)には、3つの位相差のある三相交流電源(3φ電源)32からR,S,T各相の交流電源が、漏電遮断器33、入力側リアクトル34、ノイズフィルタ35、電磁接触器36、およびラジオノイズフィルタ37を介してそれぞれ入力されるようになっている。また、インバータ4の各入力端子には、入力側ラジオノイズフィルタ38が接続されている。
【0032】
インバータ4の各出力端子(U,V,W)は、ラジオノイズフィルタ39を介して誘導モータ12のU,V,W各相のコイルに接続されている。また、インバータ4の出力端子Wと、誘導モータ12のW相のコイルとを接続する配線には、過電流保護のために、その配線に流れる電流を検出するためのカレントトランス(CT:Current Transformer)40が設けられている。このカレントトランス40により、その配線に所定のしきい値を越える過電流が流れていることが検出されると、電磁接触器33が開状態になり、誘導モータ12の各相のコイルへの電力供給が遮断されるようになっている。
【0033】
また、インバータ4には、高調波抑制のために直流リアクトル41が接続されている。また、インバータ4には、回生制動ユニット42と制動抵抗器43とが接続されている。さらに、インバータ4は、接地されている。そして、磁気浮上制御回路3には電源44が接続されている。
【0034】
モータ制御回路5は、ロータ11の目標回転速度に応じた周波数指令値をインバータ4へ出力すると共に、光回転センサ14で検出されるロータ11の回転速度(回転周波数f)に基づき、誘導モータ12の回転速度を制御する速度制御と、外部から入力される同期信号と、光回転センサ14で検出されるロータ11の回転位置とに基づき、誘導モータ12の位相を制御する位相制御と、を行うようになっている。
【0035】
チョッパー分光器1には、パルス状の中性子ビームを発生させる加速器の発生源から、パルス状の中性子ビームが25Hzごとに飛んでくる。そのため、モータ制御回路5には、25Hzごと(40msごと)のパルス状の中性子ビーム50(図8参照)の発生周期である25Hzのクロック信号が同期信号として入力されている。
【0036】
モータ制御回路5は、外部から入力されるその同期信号(25Hzのクロック信号)をロータ11の位相の目標値として使用し、この同期信号と光回転センサ14で検出されるロータ12の回転位置とに基づき、誘導モータ12の位相を制御する位相制御を行う。この位相制御を行うことにより、図8に示すように、スリット10と一体に回転するロータ11を加速器の発生源で発生するパルス状の中性子ビーム50の発生に同期して回転させることができる。これにより、スリット10の中性子透過部であるアルミニウムスペーサ10bが中性子ビーム50と平行になったときにのみ、中性子を、アルミニウムスペーサ10bを透過させて単色化を行うことができる。つまり、希望する中性子エネルギーのパルスを生成できる。
【0037】
また、モータ制御回路5は、このモータ制御回路5とネットワーク、例えばLAN(Local Area Network)を介して電子機器としてのパーソナルコンピュータ(PC)45と電気的に接続されている。PC45で入力されたロータ11の目標回転速度の情報がモータ制御回路5に出力されると、モータ制御回路5は、その目標回転速度に応じた周波数指令値をインバータ4へ出力するようになっている。さらに、モータ制御回路5は、ロータ11の回転速度、回転位置等の情報をPC45へ転送して、それらの情報をPC45で表示させるモニタ機能を備えている。
【0038】
なお、図3および図4に示すフェルミ本体2には、ロータ11が運転開始するとき、または静止するときに、ロータ11をラジアルおよびアキシャルの2方向で支持する軽負荷の機械的なベアリング(タッチダウンベアリング)が設けられている。
【0039】
以上のように構成された一実施形態によれば、以下の作用効果を奏する。
・ロータ11の回転速度の高速度化および回転速度精度の高精度化を実現できる。つまり、ロータ11を高速回転で、かつ回転速度変化(ばらつき)の小さい高精度で回転させることができる。
・加速器などの外部の上位装置と同期してロータ11を回転させることができる。これにより、加速器の発生源で発生するパルス状の中性子ビーム50の発生時刻とフェルミ本体2のスリット10での中性子透過時刻を同期させることができ、その発生源から出射されるパルス状の中性子ビームから、希望する正しいエネルギーレベルの中性子パルスを得ることができる。
・インバータ4として、0.01Hz刻みで、0.1〜1500Hzの範囲で周波数指令値を与えられる仕様の部品を用いることで、モータ制御回路5からインバータ4へ1000Hzの周波数指令値を与えると、1000Hzの高速回転で、かつ±0.1マイクロ秒の高精度回転が得られる。
・高分解能チョッパー分光器(HRC)で、E=2eVまでの領域でΔE/Ei=1%のエネルギー分解能を実現するために要求されるスリット(フェルミチョッパー)10の開口時間ΔT=0.72マイクロ秒を実現できる。
【0040】
(実施例)
上記一実施形態において、モータ制御回路5からインバータ4へ400Hzの周波数指令値を与えた実験では、ロータ11の回転精度は、399.97Hzから399.98Hzの値を示した。よって、ロータ11の回転速度変化(ばらつき)は0.01Hzの範囲内で変化していることが、確認できた。
【0041】
なお、加速器の発生源で発生するパルス状の中性子ビーム50(図8参照)が伝搬してくる中性子ビームライン内での運転は、無負荷運転状態であり、かつロータ11は高真空中で磁気浮上されて回転するので、ロータ11の機械的な負荷(摩擦、攪拌損失)はほとんど無視できる。したがって、ロータ11の上記の回転精度の幅(0.01Hzの範囲)は、400Hz以外の指令値条件、例えば、600Hzや1000Hzの周波数指令値の場合にも満足できると判断している。
【0042】
この回転精度について対象とするチョッパー分光器1のフェルミ本体(フェルミチョッパー)2の仕様上の特性から評価すると下記のようになる。
【0043】
ロータ11の回転速度変化(ばらつき)をΔTとし、ロータ11の回転によるスリット10の開口時間をΔtとすると、
【数1】

の関係が維持されなければならない。一方、中性子ビーム50の発散角度を5mradとして2eVのエネルギーの中性子ビームを制御するには、ΔT=0.72マイクロ秒であることから、ΔTは、数式1へ代入して
【数2】

となる。
【0044】
上述したように、ΔT=0.01Hzを得られた。よって、フェルミ本体(フェルミチョッパー)2を有するチョッパー分光器1の要求仕様を十分満足している。
【0045】
(比較例)
図9は、比較例に係るチョッパー分光器の制御系を示している。このチョッパー分光器100は、図1に示す一実施形態に係るチョッパー分光器1と同様のフェルミ本体2を用いている。このチョッパー分光器100において、従来のTMPと同様にモータ制御回路105から磁気浮上制御回路(TMP controller)103へアナログ信号(電圧信号)を指令値として与え、ロータ11の回転数の最適化を狙った試験を行った。
【0046】
この試験結果から、回転精度(ロータ11の回転速度変化)は別として、600Hzまでの高速度回転が可能であることが判明した。しかし、モータ制御回路105から磁気浮上制御回路103へ出力されるアナログ信号(電圧信号)に対して、ロータ11の回転数は、図10に示すように1Hzごとに離散化されていて、その回転数を連続的に制御できなかった。なお、図10において、a点,b点,c点,d点およびe点は、モータ制御回路105から磁気浮上制御回路103へ出力されるアナログ信号の電圧を1.080(V),1.081(V),1.082(V),1.083(V)および1.084(V)としてときのロータ11の回転数(周波数)をそれぞれ示している。
【0047】
また、比較例のチョッパー分光器100を、実際に中性子ビームラインに設置し、ロータ11を100Hzで回転した試験結果を図11に示す。図11のグラフから、透過中性子強度が7ミリ秒(7ms)の幅を持っており、チョッパー分光器としての機能を果たせないことが分かる。
【0048】
以上説明した比較例から理解できるように、図9に示すような従来のTMPの制御系は、同図に示すフェルミ本体2を有しかつ高い回転精度が必要なフェルミチョッパーに不適である。また、従来のTMPの制御系には外部信号に同期する機能がない。
【0049】
なお、この発明は以下のように変更して具体化することもできる。
・上記一実施形態において、インバータ4は、モータ制御回路5から出力される周波数指令値に応じた周波数の正弦波を、誘導モータの各相のコイル(ステータコイル)に出力して、誘導モータ12の各相のコイルに供給する電力(電流値)を変化させる(正弦波変調方式の)構成であってもよい。
・上記一実施形態では、一例として本発明を具体化したチョッパー分光器1について説明したが、本発明は、チョッパー分光器に限らず、真空中で磁気浮上されて回転するロータを高速度でかつ高精度で回転させることが要求される装置(回転制御装置)に広く適用可能である。例えば、現在のTMP自体には高精度な回転制御は不要のようであるが、将来TMPにおいて高速度でかつ高精度で回転させることが要求される場合に本発明を有効に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】一実施形態に係るチョッパー分光器全体の概略構成を示すブロック図。
【図2】チョッパー分光器全体の更に詳細な構成を示すブロック図。
【図3】フェルミ本体の内部構成を詳細に示すブロック図。
【図4】フェルミ本体の構造を概略的に示す断面図。
【図5】フェルミ本体のロータを概略的に示す断面図。
【図6】ロータと一体に回転するスリットを概略的に示す斜視図。
【図7】スリット支持部材にスリットが挿入された状態を示す断面図。
【図8】中性子ビームとスリットの関係を示す説明図。
【図9】比較例の制御系を示すブロック図。
【図10】比較例の試験で得られた電圧と周波数の関係を示すグラフ。
【図11】比較例のチョッパー分光器を用いた試験結果を示すグラフ。
【符号の説明】
【0051】
1:チョッパー分光器
2:フェルミ本体
3:磁気浮上制御回路
4:インバータ
5:モータ制御回路
10:スリット
10a:中性子遮蔽材(中性子遮蔽部)
10b:アルミニウムスペーサ(中性子透過部)
11:ロータ
12:誘導モータ
13:磁気軸受
14:光回転センサ
15:窓
16:ハウジング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中性子透過部と中性子遮蔽部が交互に積層されたスリットと一体に回転するロータを高真空中で磁気浮上させて誘導モータにより回転させ、中性子源で発生するパルス状の中性子ビームを単色化するチョッパー分光器において、
前記ロータの回転速度と回転位置を検出する回転センサと、
入力される周波数指令値に応じて前記誘導モータの各相のコイルに供給する電力を変化させるインバータと、
前記インバータを制御して前記誘導モータを駆動制御するモータ制御部と、を備え、
前記モータ制御部は、周波数指令値を前記インバータへ出力し、前記回転センサで検出される前記ロータの回転速度に基づき、前記誘導モータの回転速度を制御する速度制御と、外部から入力される同期信号と前記回転センサで検出される前記ロータの回転位置とに基づき、前記誘導モータの位相を制御する位相制御と、を行うことを特徴とするチョッパー分光器。
【請求項2】
前記モータ制御部は、外部の電子機器と電気的に接続され、該電子機器により入力された前記ロータの目標回転速度に応じた周波数指令値を前記インバータへ出力することを特徴とする請求項2に記載の回転制御装置。
【請求項3】
前記インバータは、前記モータ制御部から出力される周波数指令値に応じた電力を、前記誘導モータの各相のコイルに供給することを特徴とする請求項1又は2に記載のチョッパー分光器。
【請求項4】
前記インバータは、前記モータ制御部から出力される周波数指令値に応じて、前記誘導モータの各相のコイルに電流が流れている時間の長さを制御するPWM制御信号を出力することを特徴とする請求項3に記載のチョッパー分光器。
【請求項5】
前記インバータは、前記モータ制御部から出力される周波数指令値に応じた周波数の正弦波を、前記誘導モータの各相のコイルに出力することを特徴とする請求項3に記載のチョッパー分光器。
【請求項6】
中性子源で発生するパルス状の中性子ビームを単色化するチョッパー分光器において、
中性子透過部と中性子遮蔽部が交互に積層されたスリットと、該スリットが搭載され該スリットと一体に回転するロータと、該ロータを回転させる誘導モータと、前記ロータを磁気浮上させる磁気軸受と、前記ロータの回転速度と回転位置を検出する回転センサとを有するフェルミ本体と、
前記磁気軸受を制御して前記ロータを磁気浮上させる磁気浮上制御部と、
入力される周波数指令値に応じて前記誘導モータの各相に供給する電力を変化させるインバータと、
前記インバータを制御して前記誘導モータを駆動制御するモータ制御部と、を備え、
前記モータ制御部は、周波数指令値を前記インバータへ出力し、前記回転センサで検出される前記ロータの回転速度に基づき、前記誘導モータの回転速度を制御する速度制御と、外部から入力される同期信号と前記回転センサで検出される前記ロータの回転位置とに基づき、前記誘導モータの位相を制御する位相制御と、を行うことを特徴とするチョッパー分光器。
【請求項7】
前記フェルミ本体は、前記中性子ビームが通過する窓を有するハウジングを備え、前記ロータ、前記スリット、および前記磁気軸受が高真空にされた前記ハウジング内に収容されており、前記ロータは、高真空中で、磁気浮上されて回転することを特徴とする請求項6に記載のチョッパー分光器。
【請求項8】
ロータを高真空中で磁気浮上させて誘導モータにより回転させる回転制御装置において、
前記ロータの回転速度と回転位置を検出する回転センサと、
入力される周波数指令値に応じて前記誘導モータの各相のコイルに供給する電力を変化させるインバータと、
前記インバータを制御して前記誘導モータを駆動制御するモータ制御部と、を備え、
前記モータ制御部は、周波数指令値を前記インバータへ出力し、前記回転センサで検出される前記ロータの回転速度に基づき前記誘導モータの回転速度を制御する速度制御と、前記回転センサで検出される前記ロータの回転位置とに基づき、前記誘導モータの位相を制御する位相制御と、を行うことを特徴とする回転制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−25902(P2010−25902A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−191104(P2008−191104)
【出願日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【出願人】(504151365)大学共同利用機関法人 高エネルギー加速器研究機構 (125)
【出願人】(508224409)有限会社テクノエーピー (2)
【Fターム(参考)】