チロシナーゼ阻害剤
【課題】優れたチロシナーゼ阻害活性を有すると共により安全で且つ安価であり、医薬品、化粧品、食品或いは食品添加剤として有用なチロシナーゼ阻害剤の提供。
【解決手段】 下記一般式(1):
〔式中、R1、R2及びR3はそれぞれ独立して炭素数10〜18の直鎖脂肪酸残基を示す。〕で表されるトリアシルグリセロールを有効成分とするチロシナーゼ阻害剤。
【解決手段】 下記一般式(1):
〔式中、R1、R2及びR3はそれぞれ独立して炭素数10〜18の直鎖脂肪酸残基を示す。〕で表されるトリアシルグリセロールを有効成分とするチロシナーゼ阻害剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬品、食品等として有用なチロシナーゼ阻害剤に関する。
【背景技術】
【0002】
メラニンとは哺乳類のさまざまな部位の色に関する色素であり、メラニンの役割の一つは紫外線から皮膚や組織を保護することである。しかしながら、皮膚での過度なメラニン産生は過着色によるシミ、ソバカス、斑点などの原因になっている。このような過着色はメラニンを産生する酵素の活性に依存しており、チロシナーゼはこのようなメラニンを産生させる酵素として知られている。
【0003】
チロシナーゼ(EC 1.14.18.1)は、その活性発現に銅イオンを必要とし、チロシンを出発物質として、メラニン産生に関する二つの反応であるモノフェノールの水酸化と(モノオキシゲナーゼ活性)、o−ジフェノールからo−キノンへの反応(オキシダーゼ活性)を触媒する。このようにして産生されたo−キノンは高い反応性を持っているため、すぐ高分子化されメラニンになる。また、o−キノンはアミノ酸や蛋白質とも反応し着色度を増やす。したがって、チロシナーゼ阻害剤は、メラニン生成を抑え、美白効果をもたらす素材として有効であると考えられている。
【0004】
一方、チロシナーゼはポリフェノールの酸化剤としても知られており、哺乳類でのメラニン産生だけではなく果物、野菜、キノコ、海老、蟹などの食材における着色(褐色や黒色)にも関係している。チロシナーゼによる食品での着色は栄養と商品価値を落とすため、食品産業においてこのような着色を防ぐことは大きな課題になっている。
【0005】
以上の観点から、過着色の原因となる酵素チロシナーゼの触媒機能を阻害する物質は、化粧品、医薬品、食品産業の分野において有用であるとされ、現在までに、ビタミンC誘導体、プラセンタエキス、アルブチン、コウジ酸、エラグ酸など、多種多様の物質がメラニン生成抑制剤(特許文献1、非特許文献1)、或いはチロシナーゼ阻害剤(特許文献2−5)として利用できることが報告されている。
しかしながら、これまでに開示されているチロシナーゼ阻害剤やメラニン生成抑制剤の臨床的な効果は明確ではなく、コウジ酸のように発がん性を疑われている物質もあり、より安全な素材の開発が望まれているところである。
【0006】
一方、お酒を仕込む杜氏の手は寒くて厳しい労働環境にも関わらず白くて美しいことが経験的に知られ、酒粕またはその抽出物を利用した化粧料や入浴剤に関する出願もあるが(特許文献6、7)、その美白効果に関する科学的な論証はほとんどなされていない。
また、不飽和脂肪酸と1価または2価アルコールとのエステルにチロシナーゼ阻害活性があることが報告され(特許文献8)、また脂肪酸と3価アルコールのエステルが美白化粧料に配合されることが記載されている(特許文献9、10)。
【0007】
しかしながら、トリアシルグリセロールにチロシナーゼ阻害作用があること、或いは美白効果があることは、全く報告されていない。
【非特許文献1】Maeda、K:FRAGRANC JOURNAK、1997年9月号:10-18
【特許文献1】特開2004−59496号公報
【特許文献2】特開2001−240556号公報
【特許文献3】特開2006−69954号公報
【特許文献4】特開平5−194258号公報
【特許文献5】特開平10−265366号公報
【特許文献6】特開2004−346045号公報
【特許文献7】特開平11−196849号公報
【特許文献8】特開昭63−284109号公報
【特許文献9】特開2004−51610号公報
【特許文献10】特開2003−261431号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、優れたチロシナーゼ阻害活性を有すると共により安全で且つ安価であり、医薬品、化粧品、食品或いは食品添加剤として有用なチロシナーゼ阻害剤を提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく研究を行った結果、特定のトリアシルグリセロールに優れたチロシナーゼ阻害活性があることを見出した。
【0010】
すなわち、本発明は、以下の発明に係るものである。
1)下記一般式(1):
【0011】
【化1】
【0012】
〔式中、R1、R2及びR3はそれぞれ独立して炭素数10〜18の直鎖脂肪酸残基を示す。〕
で表されるトリアシルグリセロールを有効成分とするチロシナーゼ阻害剤。
2)上記一般式(1)で表されるトリアシルグリセロールを有効成分とする美白剤。
3)上記一般式(1)で表されるトリアシルグリセロールを有効成分とする食品着色防止剤。
【発明の効果】
【0013】
本発明のチロシナーゼ阻害剤によれば、皮膚におけるメラニンの過剰産生を抑制でき、色素沈着やシミ・ソバカスを予防又は改善することができる。また、本発明のチロシナーゼ阻害剤を果物、野菜、キノコ、海老、蟹などの食材に適用することにより、その着色を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
一般式(1)中、R1、R2及びR3は、それぞれ炭素数10〜18の直鎖脂肪酸残基を示すが、脂肪酸側鎖は飽和又は不飽和の何れでもよく、飽和脂肪酸残基としては、例えば、カプリン酸(デカン酸)、ラウリン酸(ドデカン酸)、トリデカン酸、ミリスチン酸(テトラデカン酸)、ペンタデカン酸、パルミチン酸(ヘキサデカン酸)、ヘプタデカン酸、ステアリン酸(オクタデカン酸)、等の残基が挙げられ、このうち、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、の各残基が好ましい。
【0015】
また、不飽和脂肪酸残基としては、1〜3価の不飽和脂肪酸の残基が好ましく、例えば、デセン酸、ウンデシレン酸、ドデセン酸、トリデセン酸、ミリストレイン酸(テトラデセン酸)、ペンタデセン酸、パルミトレイン酸(ヘキサデセン酸)、ヘプタデセン酸、オレイン酸(オクタデセン酸)、ヘキサデカジエン酸、ヘキサデカトリエン酸、ヘキサデカテトラエン酸、ヘプタデカジエン酸、リノール酸(オクタデカジエン酸(n-6))、α‐リノレン酸(オクタデカトリエン酸(n-3))、γ‐リノレン酸(オクタデカトリエン酸(n-6))、オクタデカテトラエン酸等の残基が挙げられ、このうち、パルミトレイン酸、オレイン酸、リノール酸、α‐リノレン酸、γ‐リノレン酸の各残基が好ましく、オレイン酸残基、リノール酸残基が特に好ましい。
【0016】
このうち、R1、R2及びR3の何れか1つが不飽和の脂肪酸残基であるのが好ましく、R1、R2及びR3の全てが不飽和の脂肪酸残基であるのがより好ましい。
【0017】
本発明のトリアシルグリセロールの好適な例としては、例えばトリラウリン、トリミリスチン、トリパルミチン、トリステアリン、トリオレイン、トリリノレイン、カプロイール−ミリストイール−パルミトイール−グリセロール、カプロイール−ジパルミトイール−グリセロール、カプロイール−リノレオイール−ミリストイール−グリセロール、カプロイール−リノレオイール−パルミトイール−グリセロール、ラウロイール−リノレオイール−パルミトイール−グリセロール、カプロイール−ジリノレオイール−グリセロール、リノレオイール−ミリストイール−パルミトイール−グリセロール、ラウロイール−ジリノレオイール−グリセロール、リノレオイール−ジパルミトイール−グリセロール、リノレオイール−ミリストイール−オレオイール−グリセロール、ジオレオイール−パルミトイール−グリセロール、リノレオイール−オレオイール−パルミトイール−グリセロール、ジリノレオイール−パルミトイール−グリセロール、リノレノイール−オレオイール−パルミトレオイール−グリセロール、ジオレオイール−リノレオイール−グリセロール、リノレノイール−リノレオイール−ステアロイール−グリセロール等が挙げられる。
【0018】
斯かるトリアシルグリセロールは、公知の方法に従い、グリセロールと脂肪酸との縮合反応により合成することができる(第5版 実験科学講座16 有機化合物の合成IV 日本科学会編)。また、常法に従って、トウモロコシ油、大豆油、菜種油、ひまわり油、サフラワー油、オリーブ油、カカオ脂、パーム油、米ぬか油、綿実油、魚油、獣脂等の油脂をエステル交換し、精製することにより得ることができる。更に、本発明のトリアシルグリセロールは、参考例に記載したように、酒粕から有機溶媒抽出して得ることもでき、例えば酒粕のヘキサン抽出画分を本発明のトリアシルグリセロールとして使用することもできる。また、市販品を使用することもできる。
【0019】
本発明のトリアシルグリセロールは、後記実施例に示すように、チロシナーゼ阻害活性を有することから、皮膚におけるメラニンの過剰産生応やチロシナーゼによるポリフェノールの酸化よって生じる魚介類、青果物などの生鮮食料品等の黒変・褐変を抑制することができると考えられる。従って、本発明のトリアシルグリセロールは、チロシナーゼ阻害剤、美白剤或いは食品着色防止剤として使用できる。当該チロシナーゼ阻害剤及び美白剤は、皮膚の褐色化、シミ・ソバカスの発生を予防又は改善するための医薬品、医薬部外品、化粧品、食品等として使用できる。また、食品着色防止剤は、食品添加剤として使用することができる。
【0020】
本発明のチロシナーゼ阻害剤又は美白剤を医薬品として用いる場合の投与形態としては、例えば錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、液剤等による経口投与又は注射剤、外用剤、等による非経口投与のいずれでもよい。当該医薬製剤を調製するには、本発明のトリアシルグリセロールを単独又は2種以上混合して、必要に応じて他の薬学的に許容される賦形剤、結合剤、増量剤、崩壊剤、界面活性剤、滑沢剤、分散剤、緩衝剤、保存剤、嬌味剤、香料、被膜剤、担体、希釈剤等を適宜組み合わせて用いることができる。該製剤中の本発明トリアシルグリセロールの含有量は、0.0001〜1質量%、特に0.0005〜0.02質量%含有することが好ましい。
尚、本発明のチロシナーゼ阻害剤又は美白剤を医薬品として使用する場合、成人1人当たりの1日の投与量は、トリアシルグリセロールとして、例えば1mg〜10g、特に5〜200mgであることが好ましい。
【0021】
また、本発明のチロシナーゼ阻害剤又は美白剤を医薬部外品や化粧料として用いる場合は、ローション、乳液、クリーム、パック等の種々の剤型とすることができる。斯かる製剤は、本発明のトリアシルグリセロールを単独又は2種以上混合し、適宜、医薬部外品、化粧料及び洗浄料に配合される、油性成分、保湿剤、粉体、色素、乳化剤、可溶化剤、洗浄剤、紫外線吸収剤、増粘剤、薬効成分、香料、樹脂、植物抽出物、アルコール類、酸化防止剤等を適宜組み合わせることにより調製することができる。尚、薬効成分としては、コウジ酸、アルブチン、プラセンタエキス等の他の美白成分が挙げられる。
当該医薬部外品、化粧料中の本発明のトリアシルグリセロールの含有量は、0.0001〜1質量%とすることが好ましく、特に0.0005〜0.02質量%とすることが好ましい。
【0022】
本発明のチロシナーゼ阻害剤或いは美白剤を食品として用いる場合は、パン類、ケーキ類、麺類、菓子類、ゼリー類、冷凍食品、乳製品、飲料などの各種食品の他、錠剤、カプセル剤或いは液剤の形態のサプリメント製剤等が挙げられる。種々の形態の食品を調製は、本発明のトリアシルグリセロール単独又は2種以上混合し、他の食品材料や、溶剤、軟化剤、油、乳化剤、防腐剤、香科、安定剤、着色剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、保湿剤、増粘剤等を適宜組み合わせて行うことができる。
【0023】
本発明のチロシナーゼ阻害剤或いは食品着色防止剤を食品添加剤として用いる場合は、上記の経口剤と同様な形態とすることができる。すなわち、必要に応じて他の添加物を混合又は溶解し、例えば粉末、顆粒、ペレット、錠剤、各種液剤の形態に加工製造される。本発明の食品添加剤は、果物、野菜、海産物及びそれらの加工食品、例えば漬物等に添加し、それの経時的な着色を抑えることに利用できる。
【0024】
本発明に係るトリアシルグリセロールの多くは、水に不溶性であることから、上記の製剤においては、食品や化粧品の分野で一般的に使われている乳化剤を用いることにより水溶性を付与することができる。斯かる乳化剤としては、例えば、酢酸モノグリセリド、乳酸モノグリセリド、クエン酸モノグリセリド、ジアセチル酒石酸モノグリセリド、コハク酸モノグリセリド、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リノシール酸エステルなどのグリセリン脂肪酸エステル類、キラヤの樹皮、ダイズの種子、チャの種子などから抽出して得られるサポニン類、ショ糖とステアリン酸、パルミチン酸、オレイン酸などの高級脂肪酸あるいは酢酸、イソ酪酸などの低級脂肪酸からなるショ糖脂肪酸エステル類、アブラナやダイズの種子から得られる植物レシチンあるいは卵黄から抽出して得られる動物レシチンなどのリン脂質類などが挙げられる。中でも、微生物、特に酵母が産生するバイオサーファクタントを用いることが好ましい。
【0025】
その他、陰イオン系界面活性剤であるアルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキル硫酸エステル塩、アルキルエーテル硫酸エステル塩、モノアルキルリン酸エステル塩、アルファオレフィンスルホン酸塩、アルカンスルホン酸塩、非イオン系界面活性剤であるソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、脂肪酸アルカノールアミド、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、n-オクチル-β-D-グルコシド、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、両性イオン系界面活性剤であるアルキルアミノ脂肪酸塩、アルキルベタイン、アルキルアミンオキシド、陽イオン系界面活性剤であるアルキルトリメチルアンモニウム塩、ジアルキルジメチルアンモニウム塩、アルキルジメチルベンジルアンモニウム塩、N-メチルビスヒドロキシエチルアミン脂肪酸エステル塩酸塩なども使用できる。
【実施例】
【0026】
(1)試薬等
凍結乾燥酒粕は中国醸造株式会社から入手した。マッシュルームチロシナーゼ、トリオレイン、((DPPH (2、2-diphenyl-1-picrylhydrazyl))はシグマ社(米国)から購入し、精製せず使用した。L-ドーパ(3、4-dihydroxy-L-phenylalanine)とトリリノレインはナカライテスク株式会社(日本)から、L-チロシンやコウジ酸(5-hydroxy-2-(hydroxymethyl)-4H-pyron-4-one)をはじめその他のすべての試薬および溶媒は和光純薬工業株式会社(日本)から購入した。
【0027】
(2)放線菌(S. castaneoglobisporus)由来チロシナーゼの調製
放線菌(S. castaneoglobisporus)のチロシナーゼはpAKM1を含んでいるS. lividans を用いて大量発現された(Appl. Microbiol. Biotechnol. 45、 80-85、 1996)。TSB培地(10%シュークロース、30g/Lトリプトン ソーヤ ブロス)400mLにCuSO4を最終濃度8mM、チオストレプトンを最終濃度45mg/Lになるように加えた。また、放線菌が凝集することを防ぐためスプリングを培地のオートクレーブの前に入れた。S. lividansの胞子懸濁液400μLを投入して28℃で46時間培養した。その後の精製過程はすべて4℃で行った。培養後、27、000×g、20分、4℃にて遠心分離によって菌体を除去した後、上清を10mM リン酸緩衝液(pH6.8)で平衝化したDEAEセルロースカラム(ワットマン、湿体積400mL)に通し、メラニンを除去した。溶出させた溶液にNaClを最終濃度4M、リン酸ナトリウムを最終濃度10mMとなるように加え、pHを6.8に合わせた。このサンプルを4M NaCl、10mMリン酸緩衝液(pH6.8)で平衝化したフェニルセファロースカラム(アマシャム社、湿体積50mL)に通すと、直ちに10mMリン酸緩衝液(pH6.8)で溶出させた。溶出液をMACROSEP 10K (PALL)を用いて濃縮後、得られた濃縮液を適量のDEAEセルロースを用いてメラニン除去操作を2回行った。溶出液をアクロディスクシリンジフィルター(0.45μm HT Tuffryn Membrane、 PALL)を用いてフィルターろ過を行った後、4MNaCl、10mMリン酸緩衝液(pH6.8)で平衝化したフェニルセファロースカラム(アマシャム社、湿体積10 mL)に入れた。10ベッド量の4MNaCl、10mMリン酸緩衝液(pH6.8)にてカラムを洗浄した。4から0MNaClへのグラジエントによりチロシナーゼを溶出した。精製されたチロシナーゼはSDS-PAGEを用いて確認しMACROSEP 10K (PALL)にて濃縮した。チロシナーゼは4℃で保存した。
【0028】
参考例1 チロシナーゼ阻害活性物質の抽出、精製および同定
一番強いチロシナーゼ阻害は凍結乾燥酒粕のヘキサン抽出物から確認された。そこで凍結乾燥酒粕(700g)を室温で3時間ずつ、ヘキサン3Lで7回抽出を行った。抽出物は減圧下、40℃で濃縮され22.64gが得られた。
【0029】
得られた抽出物を少量のシリカゲルカラムクロマトグラフィーにアプライし、ヘキサン:酢酸エチルを1:0、32:1、16:1、8:1、0:1に変え溶出させ、五つの分画を得られた。この中で一番阻害活性が強いヘキサン:酢酸エチル=32:1である分画をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(径5cm × 20cm)に入れてヘキサン:酢酸エチルを8:1で精製を行い、四つの分画に分けた。四つの分画の中、2番目に分画を少量のシリカゲルカラムクロマトグラフィーに入れてスポットが確認されないまでヘキサンで洗浄した後、ヘキサン:CHCl3= 9:1で精製を行い、阻害物質1.817gを得た(Rf = 0.4 、 CHCl3)。
その物質は、1HNMR、 13CNMR、 GCMSおよびIRからトリアシルグリセロールの混合物であることが判明した。
【0030】
IR(NEAT):3011、2955、2855、1747、1464、1215、1163、1099、760cm-1
【0031】
表1は、凍結乾燥酒粕から得られたトリアシルグリセロールの1H-NMRスペクトル、表2は13C-NMRスペクトルを示す。また、マススペクトルはEIモードとCIモードの両方で測定した。GCMSの結果、この混合物の中には何種類かのトリアシルグリセロールが含まれていることが明らかになった(表3)。その混合物の成分を表4に示した。
【0032】
【表1】
【0033】
【表2】
【0034】
【表3】
【0035】
【表4】
【0036】
実施例1 モノオキシゲナーゼに対する阻害活性
阻害活性測定の基質としてモノオキシゲナーゼ活性に対しては100μlの1mMLチロシン、後述のオキシダーゼ活性においては100μlの10mML-ドーパ溶液を96穴プレートに入れ、74μlの0.1Mリン酸緩衝液(pH6.8)を加えた。この混合溶液を25℃で5分間培養した後、6μlのサンプルが含まれているDMSOと含まれていないDMSOをそれぞれ培養した混合液に混ぜた。その後、200units/mlのチロシナーゼ水溶液を20μl加え、475nmで5分間吸光度の直線的な増加を測定した。阻害活性はチロシナーゼ活性を50%阻害するときの阻害剤の濃度であるIC50で示した。コントロール実験はサンプルが入っていないDMSOの直線的な増加で評価した。チロシナーゼ阻害剤としてよく知られているコウジ酸をポジティブコントロールとして利用した。阻害様式は様々な濃度のL-チロシンとL-ドーパ溶液に400ユニット/mlチロシナーゼ水溶液を20μl加え、ラインウィーバー-バークプロットとディクソンプロットによって決定した。
【0037】
トリオレイン、トリリノレインそしてポジティブコントロールとしてコウジ酸を用いてマッシュルームチロシナーゼのモノオキシゲナーゼ活性に対する阻害効果を調べた結果を図1に示す。トリリノレインはマッシュルームチロシナーゼに対してトリオレインよりも強い阻害性を見せた。トリリノレインは10、50、100、200μMでマッシュルームチロシナーゼをそれぞれ8.3%、32.9%、42.8%、 75.4%阻害し、IC50は122μMであった。測定溶液は水がベースであるため、トリオレインは溶解性が低く、IC50を測定できる濃度まではいたらなかった。100と200μMのトリオレインはモノオキシゲナーゼ 活性にそれぞれ1.4%と27.5%を阻害した。なお、コウジ酸のIC50は8.0μMであった。
S. castaneoglobisporusのチロシナーゼのモノオキシゲナーゼ活性に対する阻害効果を図2に示す。コウジ酸のIC50が2.7μMであるにも関わらず、トリオレインとトリリノレインでは弱い阻害しか確認されなかった。
【0038】
L-チロシンの酸化であるモノオキシゲナーゼ活性に対するトリリノレインの阻害様式を様々な濃度のL-チロシンとトリリノレインで調べた。マッシュルームチロシナーゼに対する阻害様式は図3と図4に、S. castaneoglobisporusのチロシナーゼに対する阻害様式は図5と図6に示した。図3と図5の横軸である1/[L-チロシン]は基質であるL-チロシンの濃度の逆数であり、 縦軸の1/Vはチロシナーゼの活性を示している反応速度の逆数である。1/[L-チロシン]に対する1/Vであるラインウィーバー-バークプロットは阻害剤の濃度によってチロシナーゼのVmaxは変化したが Kmは変わらなかった。すなわち、トリリノレインはラインウィーバー-バークプロットの結果から非競合阻害剤であることが分かった。また、 図4と図6ではディクソンプロットを用いて阻害様式が調べた。様々な濃度の基質での[I]に対する1/Vからトリリノレインがチロシナーゼのモノオキシゲナーゼ活性において非競合阻害剤として働くことが確認された。
【0039】
実施例2 オキシダーゼに対する阻害活性
トリオレイン、トリリノレインそしてポジティブコントロールとしてコウジ酸を用いてマッシュルームチロシナーゼのオキシダーゼ活性に関する阻害を評価した(図7)。トリリノレインは5、10、25、 50μMでマッシュルームチロシナーゼをそれぞれ17.6%、25.0%、55.6%、 70.8%阻害した。トリオレインは水が基本である測定溶液に溶けにくく、トリオレインが完全に解ける三つの濃度からそのIC50を予測した。L-ドーパを含んでいる測定溶液に25μM と50μMのトリオレインを加えた時、それぞれの阻害率は19.4%、26.4%であった。また、100μMのトリオレインを加えたときには直線的に阻害率が増加し34.4%に至ったため、IC50は431μMであると推測される。トリリノレインとコウジ酸のIC50はそれぞれ22.1と14.1μMであった。
【0040】
S. castaneoglobisporusのチロシナーゼに関する阻害率は図8に示した。トリリノレインはポジティブコントロールであるコウジ酸よりも高い阻害率を示した。5μMのトリリノレインは85.5%の阻害率を見せ、トリオレインは5μM、10μM、25μM、50μMでそれぞれ2.2%、33.8%、45.8%、 66.7%阻害した。すなわ
ち、 S. castaneoglobisporus のチロシナーゼのオキシダーゼ 活性に対するトリオレイン、トリリノレイン、コウジ酸のIC50はそれぞれ30.0、2.9、7.8μMであって、 トリリノレインはコウジ酸よりも2.5倍も強く阻害した。
【0041】
マッシュルームチロシナーゼとS. castaneoglobisporus のチロシナーゼによるL-ドーパを基質とした酸化であるオキシダーゼ活性に対するトリリノレインの阻害様式が調べられた。図9と図10はそれぞれマッシュルームチロシナーゼを使った時のラインウィーバー-バークプロットとディクソンプロットである。トリリノレインによるS. castaneoglobisporus のチロシナーゼの阻害様式は図11と図12に現した。1/[S]対する1/Vであるラインウィーバー-バークプロットからトリリノレインの濃度によってVmax減少するがKmは変わらなかった。この結果からトリリノレインはラインウィーバー-バークプロットからモノオキシゲナーゼ活性だけではなくオキシダーゼ活性においても非競合阻害であることが明らかになった。
【0042】
図10と図12には様々な濃度の基質に対するディクソンプロットからの阻害様式が分析された。[I]に対する1/Vであるディクソンプロットはチロシナーゼのオキシダーゼ活性に対してラインウィーバー-バークプロットと一致した非競合阻害であることが確認された。
【0043】
実施例3 メラニン合成抑制効果→組換えチロシナーゼに対する阻害効果
図13と図14にはチロシナーゼを生産するプラスミドであるpET-mel2もしくはpET−mel3を持っている大腸菌BL21(DE3)−pLysS(Protein Expr. Purif.、 34、 202-207、2004)をトリリノレイン(阻害剤)が含まれている寒天培地で培養させることで、その阻害を確認している。図13と図14の(a)、(b)、(c)にはそれぞれトリリノレインが0μl、15μl、30μlずつ含まれている。寒天培地の上においている二つのろ紙の中で 左側には50μlの蒸留水が、右側には50μlの0.125mM/mlIPTG水溶液を加えた。蒸留水を加えたろ紙の周辺は黒くなってないが、IPTG水溶液を加えたところには黒くなっている。すなわち、黒くなった理由はIPTGによって誘導された、分泌されたチロシナーゼによるものであることが分かる。図13にはpET-mel2を持つ大腸菌BL21(DE3)−pLysSを0、21、24時間培養した時の写真であり、図14にはpET-mel3を含んでいる大腸菌BL21(DE3)−pLysSを0、24、28時間培養した時の写真である。図13と図14で確認できるようにトリリノレインの濃度に依存的に黒くなる時間が遅くなることが確認された。
【0044】
実施例4 阻害活性機構
1)キレート形成
トリアシルグリセロールによる阻害がCu2+とのキレート形成によるものかを評価するために、240−540nmのUV−visスペクトルを観測した。1.8mlの0.1Mリン酸緩衝液(pH6.8)と1.0mlの蒸留水の混合液に0.1ml(0.005mM)のサンプル溶液を加えた。そして0.1mlのチロシナーゼ水溶液(100 単位)もしくは CuSO4水溶液(125μM)を加えて25℃で30分間培養してそのス
ペクトル変化を測定した。チロシナーゼとCuSO4の有無によるバソクロミックシフトの有無を調べたが、図15と図16に示すように、バソクロミックシフトを示さなかった。この結果は、 チロシナーゼと銅イオンとの間でキレート形成がなされなかったことを示唆するものである。
【0045】
2)フリーラジカル-スカベンジャー活性
ラジカルへのトリアシルグリセロールの影響を調べることで抗酸化能を調べた。0.1mlのトリアシルグリセロール溶液(DMSO)に0.1mlの0.1mMDPPHエタノール溶液を加えた。この混合液を混ぜて30分間、 室温の暗室で放置し、517nmでの吸光度減少を測定した。図17と図18は517nmでの吸収の変化を示す。ブランクとほとんど変化がないことから、 抗酸化活性は認められない。
ところで、チロシナーゼが活性を示すためには銅イオンが必須であるが、実施例(7)に示すように、トリアシルグリセロールは銅イオンとキレートを形成せず、また抗酸化活性も示さなかった。すなわち、トリアシルグリセロールは、チロシナーゼの疎水性領域に結合し構造変化を起こすことにより阻害活性を示すと考えられる。さらにこのようなアシル基の不飽和度は溶解性に影響を与え、阻害活性の増強に関係すると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】マッシュルームチロシナーゼのモノオキシゲナーゼ活性に対する阻害効果を示したグラフ。
【図2】放線菌チロシナーゼのモノオキシゲナーゼ活性に対する阻害効果を示したグラフ。
【図3】モノオキシゲナーゼ活性に対するトリリノレインの阻害様式を示したグラフ。
【図4】モノオキシゲナーゼ活性に対するトリリノレインの阻害様式を示したグラフ。
【図5】モノオキシゲナーゼ活性に対するトリリノレインの阻害様式を示したグラフ。
【図6】モノオキシゲナーゼ活性に対するトリリノレインの阻害様式を示したグラフ。
【図7】マッシュルームチロシナーゼのオキシダーゼ活性に対する阻害効果を示したグラフ。
【図8】放線菌チロシナーゼのモノオキシゲナーゼ活性に対する阻害効果を示したグラフ。
【図9】オキシダーゼ活性に対するトリリノレインの阻害様式を示したグラフ。
【図10】オキシダーゼ活性に対するトリリノレインの阻害様式を示したグラフ。
【図11】オキシダーゼ活性に対するトリリノレインの阻害様式を示したグラフ。
【図12】オキシダーゼ活性に対するトリリノレインの阻害様式を示したグラフ。
【図13】トリリノレインの組換えチロシナーゼ(pET-mel2)に対する阻害効果を示した写真。 寒天培地(a)、(b)、(c)にはそれぞれトリリノレインを0μl、15μl、30μlを含む。寒天培地の左側ろ紙には50μlの蒸留水、右側には50μlの0.125mM/mlIPTG水溶液を滴下。
【図14】トリリノレインの組換えチロシナーゼ(pET-mel3)に対する阻害効果を示した写真。 寒天培地(a)、(b)、(c)にはそれぞれトリリノレインを0μl、15μl、30μlを含む。寒天培地の左側ろ紙には50μlの蒸留水、右側には50μlの0.125mM/mlIPTG水溶液を滴下。
【図15】Cu2+とのキレート形成を示したグラフ。
【図16】Cu2+とのキレート形成を示したグラフ。
【図17】トリオレインによるフリーラジカル-スカベンジャー活性を示したグラフ。
【図18】トリリノレインによるフリーラジカル-スカベンジャー活性を示したグラフ。
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬品、食品等として有用なチロシナーゼ阻害剤に関する。
【背景技術】
【0002】
メラニンとは哺乳類のさまざまな部位の色に関する色素であり、メラニンの役割の一つは紫外線から皮膚や組織を保護することである。しかしながら、皮膚での過度なメラニン産生は過着色によるシミ、ソバカス、斑点などの原因になっている。このような過着色はメラニンを産生する酵素の活性に依存しており、チロシナーゼはこのようなメラニンを産生させる酵素として知られている。
【0003】
チロシナーゼ(EC 1.14.18.1)は、その活性発現に銅イオンを必要とし、チロシンを出発物質として、メラニン産生に関する二つの反応であるモノフェノールの水酸化と(モノオキシゲナーゼ活性)、o−ジフェノールからo−キノンへの反応(オキシダーゼ活性)を触媒する。このようにして産生されたo−キノンは高い反応性を持っているため、すぐ高分子化されメラニンになる。また、o−キノンはアミノ酸や蛋白質とも反応し着色度を増やす。したがって、チロシナーゼ阻害剤は、メラニン生成を抑え、美白効果をもたらす素材として有効であると考えられている。
【0004】
一方、チロシナーゼはポリフェノールの酸化剤としても知られており、哺乳類でのメラニン産生だけではなく果物、野菜、キノコ、海老、蟹などの食材における着色(褐色や黒色)にも関係している。チロシナーゼによる食品での着色は栄養と商品価値を落とすため、食品産業においてこのような着色を防ぐことは大きな課題になっている。
【0005】
以上の観点から、過着色の原因となる酵素チロシナーゼの触媒機能を阻害する物質は、化粧品、医薬品、食品産業の分野において有用であるとされ、現在までに、ビタミンC誘導体、プラセンタエキス、アルブチン、コウジ酸、エラグ酸など、多種多様の物質がメラニン生成抑制剤(特許文献1、非特許文献1)、或いはチロシナーゼ阻害剤(特許文献2−5)として利用できることが報告されている。
しかしながら、これまでに開示されているチロシナーゼ阻害剤やメラニン生成抑制剤の臨床的な効果は明確ではなく、コウジ酸のように発がん性を疑われている物質もあり、より安全な素材の開発が望まれているところである。
【0006】
一方、お酒を仕込む杜氏の手は寒くて厳しい労働環境にも関わらず白くて美しいことが経験的に知られ、酒粕またはその抽出物を利用した化粧料や入浴剤に関する出願もあるが(特許文献6、7)、その美白効果に関する科学的な論証はほとんどなされていない。
また、不飽和脂肪酸と1価または2価アルコールとのエステルにチロシナーゼ阻害活性があることが報告され(特許文献8)、また脂肪酸と3価アルコールのエステルが美白化粧料に配合されることが記載されている(特許文献9、10)。
【0007】
しかしながら、トリアシルグリセロールにチロシナーゼ阻害作用があること、或いは美白効果があることは、全く報告されていない。
【非特許文献1】Maeda、K:FRAGRANC JOURNAK、1997年9月号:10-18
【特許文献1】特開2004−59496号公報
【特許文献2】特開2001−240556号公報
【特許文献3】特開2006−69954号公報
【特許文献4】特開平5−194258号公報
【特許文献5】特開平10−265366号公報
【特許文献6】特開2004−346045号公報
【特許文献7】特開平11−196849号公報
【特許文献8】特開昭63−284109号公報
【特許文献9】特開2004−51610号公報
【特許文献10】特開2003−261431号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、優れたチロシナーゼ阻害活性を有すると共により安全で且つ安価であり、医薬品、化粧品、食品或いは食品添加剤として有用なチロシナーゼ阻害剤を提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく研究を行った結果、特定のトリアシルグリセロールに優れたチロシナーゼ阻害活性があることを見出した。
【0010】
すなわち、本発明は、以下の発明に係るものである。
1)下記一般式(1):
【0011】
【化1】
【0012】
〔式中、R1、R2及びR3はそれぞれ独立して炭素数10〜18の直鎖脂肪酸残基を示す。〕
で表されるトリアシルグリセロールを有効成分とするチロシナーゼ阻害剤。
2)上記一般式(1)で表されるトリアシルグリセロールを有効成分とする美白剤。
3)上記一般式(1)で表されるトリアシルグリセロールを有効成分とする食品着色防止剤。
【発明の効果】
【0013】
本発明のチロシナーゼ阻害剤によれば、皮膚におけるメラニンの過剰産生を抑制でき、色素沈着やシミ・ソバカスを予防又は改善することができる。また、本発明のチロシナーゼ阻害剤を果物、野菜、キノコ、海老、蟹などの食材に適用することにより、その着色を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
一般式(1)中、R1、R2及びR3は、それぞれ炭素数10〜18の直鎖脂肪酸残基を示すが、脂肪酸側鎖は飽和又は不飽和の何れでもよく、飽和脂肪酸残基としては、例えば、カプリン酸(デカン酸)、ラウリン酸(ドデカン酸)、トリデカン酸、ミリスチン酸(テトラデカン酸)、ペンタデカン酸、パルミチン酸(ヘキサデカン酸)、ヘプタデカン酸、ステアリン酸(オクタデカン酸)、等の残基が挙げられ、このうち、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、の各残基が好ましい。
【0015】
また、不飽和脂肪酸残基としては、1〜3価の不飽和脂肪酸の残基が好ましく、例えば、デセン酸、ウンデシレン酸、ドデセン酸、トリデセン酸、ミリストレイン酸(テトラデセン酸)、ペンタデセン酸、パルミトレイン酸(ヘキサデセン酸)、ヘプタデセン酸、オレイン酸(オクタデセン酸)、ヘキサデカジエン酸、ヘキサデカトリエン酸、ヘキサデカテトラエン酸、ヘプタデカジエン酸、リノール酸(オクタデカジエン酸(n-6))、α‐リノレン酸(オクタデカトリエン酸(n-3))、γ‐リノレン酸(オクタデカトリエン酸(n-6))、オクタデカテトラエン酸等の残基が挙げられ、このうち、パルミトレイン酸、オレイン酸、リノール酸、α‐リノレン酸、γ‐リノレン酸の各残基が好ましく、オレイン酸残基、リノール酸残基が特に好ましい。
【0016】
このうち、R1、R2及びR3の何れか1つが不飽和の脂肪酸残基であるのが好ましく、R1、R2及びR3の全てが不飽和の脂肪酸残基であるのがより好ましい。
【0017】
本発明のトリアシルグリセロールの好適な例としては、例えばトリラウリン、トリミリスチン、トリパルミチン、トリステアリン、トリオレイン、トリリノレイン、カプロイール−ミリストイール−パルミトイール−グリセロール、カプロイール−ジパルミトイール−グリセロール、カプロイール−リノレオイール−ミリストイール−グリセロール、カプロイール−リノレオイール−パルミトイール−グリセロール、ラウロイール−リノレオイール−パルミトイール−グリセロール、カプロイール−ジリノレオイール−グリセロール、リノレオイール−ミリストイール−パルミトイール−グリセロール、ラウロイール−ジリノレオイール−グリセロール、リノレオイール−ジパルミトイール−グリセロール、リノレオイール−ミリストイール−オレオイール−グリセロール、ジオレオイール−パルミトイール−グリセロール、リノレオイール−オレオイール−パルミトイール−グリセロール、ジリノレオイール−パルミトイール−グリセロール、リノレノイール−オレオイール−パルミトレオイール−グリセロール、ジオレオイール−リノレオイール−グリセロール、リノレノイール−リノレオイール−ステアロイール−グリセロール等が挙げられる。
【0018】
斯かるトリアシルグリセロールは、公知の方法に従い、グリセロールと脂肪酸との縮合反応により合成することができる(第5版 実験科学講座16 有機化合物の合成IV 日本科学会編)。また、常法に従って、トウモロコシ油、大豆油、菜種油、ひまわり油、サフラワー油、オリーブ油、カカオ脂、パーム油、米ぬか油、綿実油、魚油、獣脂等の油脂をエステル交換し、精製することにより得ることができる。更に、本発明のトリアシルグリセロールは、参考例に記載したように、酒粕から有機溶媒抽出して得ることもでき、例えば酒粕のヘキサン抽出画分を本発明のトリアシルグリセロールとして使用することもできる。また、市販品を使用することもできる。
【0019】
本発明のトリアシルグリセロールは、後記実施例に示すように、チロシナーゼ阻害活性を有することから、皮膚におけるメラニンの過剰産生応やチロシナーゼによるポリフェノールの酸化よって生じる魚介類、青果物などの生鮮食料品等の黒変・褐変を抑制することができると考えられる。従って、本発明のトリアシルグリセロールは、チロシナーゼ阻害剤、美白剤或いは食品着色防止剤として使用できる。当該チロシナーゼ阻害剤及び美白剤は、皮膚の褐色化、シミ・ソバカスの発生を予防又は改善するための医薬品、医薬部外品、化粧品、食品等として使用できる。また、食品着色防止剤は、食品添加剤として使用することができる。
【0020】
本発明のチロシナーゼ阻害剤又は美白剤を医薬品として用いる場合の投与形態としては、例えば錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、液剤等による経口投与又は注射剤、外用剤、等による非経口投与のいずれでもよい。当該医薬製剤を調製するには、本発明のトリアシルグリセロールを単独又は2種以上混合して、必要に応じて他の薬学的に許容される賦形剤、結合剤、増量剤、崩壊剤、界面活性剤、滑沢剤、分散剤、緩衝剤、保存剤、嬌味剤、香料、被膜剤、担体、希釈剤等を適宜組み合わせて用いることができる。該製剤中の本発明トリアシルグリセロールの含有量は、0.0001〜1質量%、特に0.0005〜0.02質量%含有することが好ましい。
尚、本発明のチロシナーゼ阻害剤又は美白剤を医薬品として使用する場合、成人1人当たりの1日の投与量は、トリアシルグリセロールとして、例えば1mg〜10g、特に5〜200mgであることが好ましい。
【0021】
また、本発明のチロシナーゼ阻害剤又は美白剤を医薬部外品や化粧料として用いる場合は、ローション、乳液、クリーム、パック等の種々の剤型とすることができる。斯かる製剤は、本発明のトリアシルグリセロールを単独又は2種以上混合し、適宜、医薬部外品、化粧料及び洗浄料に配合される、油性成分、保湿剤、粉体、色素、乳化剤、可溶化剤、洗浄剤、紫外線吸収剤、増粘剤、薬効成分、香料、樹脂、植物抽出物、アルコール類、酸化防止剤等を適宜組み合わせることにより調製することができる。尚、薬効成分としては、コウジ酸、アルブチン、プラセンタエキス等の他の美白成分が挙げられる。
当該医薬部外品、化粧料中の本発明のトリアシルグリセロールの含有量は、0.0001〜1質量%とすることが好ましく、特に0.0005〜0.02質量%とすることが好ましい。
【0022】
本発明のチロシナーゼ阻害剤或いは美白剤を食品として用いる場合は、パン類、ケーキ類、麺類、菓子類、ゼリー類、冷凍食品、乳製品、飲料などの各種食品の他、錠剤、カプセル剤或いは液剤の形態のサプリメント製剤等が挙げられる。種々の形態の食品を調製は、本発明のトリアシルグリセロール単独又は2種以上混合し、他の食品材料や、溶剤、軟化剤、油、乳化剤、防腐剤、香科、安定剤、着色剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、保湿剤、増粘剤等を適宜組み合わせて行うことができる。
【0023】
本発明のチロシナーゼ阻害剤或いは食品着色防止剤を食品添加剤として用いる場合は、上記の経口剤と同様な形態とすることができる。すなわち、必要に応じて他の添加物を混合又は溶解し、例えば粉末、顆粒、ペレット、錠剤、各種液剤の形態に加工製造される。本発明の食品添加剤は、果物、野菜、海産物及びそれらの加工食品、例えば漬物等に添加し、それの経時的な着色を抑えることに利用できる。
【0024】
本発明に係るトリアシルグリセロールの多くは、水に不溶性であることから、上記の製剤においては、食品や化粧品の分野で一般的に使われている乳化剤を用いることにより水溶性を付与することができる。斯かる乳化剤としては、例えば、酢酸モノグリセリド、乳酸モノグリセリド、クエン酸モノグリセリド、ジアセチル酒石酸モノグリセリド、コハク酸モノグリセリド、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リノシール酸エステルなどのグリセリン脂肪酸エステル類、キラヤの樹皮、ダイズの種子、チャの種子などから抽出して得られるサポニン類、ショ糖とステアリン酸、パルミチン酸、オレイン酸などの高級脂肪酸あるいは酢酸、イソ酪酸などの低級脂肪酸からなるショ糖脂肪酸エステル類、アブラナやダイズの種子から得られる植物レシチンあるいは卵黄から抽出して得られる動物レシチンなどのリン脂質類などが挙げられる。中でも、微生物、特に酵母が産生するバイオサーファクタントを用いることが好ましい。
【0025】
その他、陰イオン系界面活性剤であるアルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキル硫酸エステル塩、アルキルエーテル硫酸エステル塩、モノアルキルリン酸エステル塩、アルファオレフィンスルホン酸塩、アルカンスルホン酸塩、非イオン系界面活性剤であるソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、脂肪酸アルカノールアミド、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、n-オクチル-β-D-グルコシド、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、両性イオン系界面活性剤であるアルキルアミノ脂肪酸塩、アルキルベタイン、アルキルアミンオキシド、陽イオン系界面活性剤であるアルキルトリメチルアンモニウム塩、ジアルキルジメチルアンモニウム塩、アルキルジメチルベンジルアンモニウム塩、N-メチルビスヒドロキシエチルアミン脂肪酸エステル塩酸塩なども使用できる。
【実施例】
【0026】
(1)試薬等
凍結乾燥酒粕は中国醸造株式会社から入手した。マッシュルームチロシナーゼ、トリオレイン、((DPPH (2、2-diphenyl-1-picrylhydrazyl))はシグマ社(米国)から購入し、精製せず使用した。L-ドーパ(3、4-dihydroxy-L-phenylalanine)とトリリノレインはナカライテスク株式会社(日本)から、L-チロシンやコウジ酸(5-hydroxy-2-(hydroxymethyl)-4H-pyron-4-one)をはじめその他のすべての試薬および溶媒は和光純薬工業株式会社(日本)から購入した。
【0027】
(2)放線菌(S. castaneoglobisporus)由来チロシナーゼの調製
放線菌(S. castaneoglobisporus)のチロシナーゼはpAKM1を含んでいるS. lividans を用いて大量発現された(Appl. Microbiol. Biotechnol. 45、 80-85、 1996)。TSB培地(10%シュークロース、30g/Lトリプトン ソーヤ ブロス)400mLにCuSO4を最終濃度8mM、チオストレプトンを最終濃度45mg/Lになるように加えた。また、放線菌が凝集することを防ぐためスプリングを培地のオートクレーブの前に入れた。S. lividansの胞子懸濁液400μLを投入して28℃で46時間培養した。その後の精製過程はすべて4℃で行った。培養後、27、000×g、20分、4℃にて遠心分離によって菌体を除去した後、上清を10mM リン酸緩衝液(pH6.8)で平衝化したDEAEセルロースカラム(ワットマン、湿体積400mL)に通し、メラニンを除去した。溶出させた溶液にNaClを最終濃度4M、リン酸ナトリウムを最終濃度10mMとなるように加え、pHを6.8に合わせた。このサンプルを4M NaCl、10mMリン酸緩衝液(pH6.8)で平衝化したフェニルセファロースカラム(アマシャム社、湿体積50mL)に通すと、直ちに10mMリン酸緩衝液(pH6.8)で溶出させた。溶出液をMACROSEP 10K (PALL)を用いて濃縮後、得られた濃縮液を適量のDEAEセルロースを用いてメラニン除去操作を2回行った。溶出液をアクロディスクシリンジフィルター(0.45μm HT Tuffryn Membrane、 PALL)を用いてフィルターろ過を行った後、4MNaCl、10mMリン酸緩衝液(pH6.8)で平衝化したフェニルセファロースカラム(アマシャム社、湿体積10 mL)に入れた。10ベッド量の4MNaCl、10mMリン酸緩衝液(pH6.8)にてカラムを洗浄した。4から0MNaClへのグラジエントによりチロシナーゼを溶出した。精製されたチロシナーゼはSDS-PAGEを用いて確認しMACROSEP 10K (PALL)にて濃縮した。チロシナーゼは4℃で保存した。
【0028】
参考例1 チロシナーゼ阻害活性物質の抽出、精製および同定
一番強いチロシナーゼ阻害は凍結乾燥酒粕のヘキサン抽出物から確認された。そこで凍結乾燥酒粕(700g)を室温で3時間ずつ、ヘキサン3Lで7回抽出を行った。抽出物は減圧下、40℃で濃縮され22.64gが得られた。
【0029】
得られた抽出物を少量のシリカゲルカラムクロマトグラフィーにアプライし、ヘキサン:酢酸エチルを1:0、32:1、16:1、8:1、0:1に変え溶出させ、五つの分画を得られた。この中で一番阻害活性が強いヘキサン:酢酸エチル=32:1である分画をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(径5cm × 20cm)に入れてヘキサン:酢酸エチルを8:1で精製を行い、四つの分画に分けた。四つの分画の中、2番目に分画を少量のシリカゲルカラムクロマトグラフィーに入れてスポットが確認されないまでヘキサンで洗浄した後、ヘキサン:CHCl3= 9:1で精製を行い、阻害物質1.817gを得た(Rf = 0.4 、 CHCl3)。
その物質は、1HNMR、 13CNMR、 GCMSおよびIRからトリアシルグリセロールの混合物であることが判明した。
【0030】
IR(NEAT):3011、2955、2855、1747、1464、1215、1163、1099、760cm-1
【0031】
表1は、凍結乾燥酒粕から得られたトリアシルグリセロールの1H-NMRスペクトル、表2は13C-NMRスペクトルを示す。また、マススペクトルはEIモードとCIモードの両方で測定した。GCMSの結果、この混合物の中には何種類かのトリアシルグリセロールが含まれていることが明らかになった(表3)。その混合物の成分を表4に示した。
【0032】
【表1】
【0033】
【表2】
【0034】
【表3】
【0035】
【表4】
【0036】
実施例1 モノオキシゲナーゼに対する阻害活性
阻害活性測定の基質としてモノオキシゲナーゼ活性に対しては100μlの1mMLチロシン、後述のオキシダーゼ活性においては100μlの10mML-ドーパ溶液を96穴プレートに入れ、74μlの0.1Mリン酸緩衝液(pH6.8)を加えた。この混合溶液を25℃で5分間培養した後、6μlのサンプルが含まれているDMSOと含まれていないDMSOをそれぞれ培養した混合液に混ぜた。その後、200units/mlのチロシナーゼ水溶液を20μl加え、475nmで5分間吸光度の直線的な増加を測定した。阻害活性はチロシナーゼ活性を50%阻害するときの阻害剤の濃度であるIC50で示した。コントロール実験はサンプルが入っていないDMSOの直線的な増加で評価した。チロシナーゼ阻害剤としてよく知られているコウジ酸をポジティブコントロールとして利用した。阻害様式は様々な濃度のL-チロシンとL-ドーパ溶液に400ユニット/mlチロシナーゼ水溶液を20μl加え、ラインウィーバー-バークプロットとディクソンプロットによって決定した。
【0037】
トリオレイン、トリリノレインそしてポジティブコントロールとしてコウジ酸を用いてマッシュルームチロシナーゼのモノオキシゲナーゼ活性に対する阻害効果を調べた結果を図1に示す。トリリノレインはマッシュルームチロシナーゼに対してトリオレインよりも強い阻害性を見せた。トリリノレインは10、50、100、200μMでマッシュルームチロシナーゼをそれぞれ8.3%、32.9%、42.8%、 75.4%阻害し、IC50は122μMであった。測定溶液は水がベースであるため、トリオレインは溶解性が低く、IC50を測定できる濃度まではいたらなかった。100と200μMのトリオレインはモノオキシゲナーゼ 活性にそれぞれ1.4%と27.5%を阻害した。なお、コウジ酸のIC50は8.0μMであった。
S. castaneoglobisporusのチロシナーゼのモノオキシゲナーゼ活性に対する阻害効果を図2に示す。コウジ酸のIC50が2.7μMであるにも関わらず、トリオレインとトリリノレインでは弱い阻害しか確認されなかった。
【0038】
L-チロシンの酸化であるモノオキシゲナーゼ活性に対するトリリノレインの阻害様式を様々な濃度のL-チロシンとトリリノレインで調べた。マッシュルームチロシナーゼに対する阻害様式は図3と図4に、S. castaneoglobisporusのチロシナーゼに対する阻害様式は図5と図6に示した。図3と図5の横軸である1/[L-チロシン]は基質であるL-チロシンの濃度の逆数であり、 縦軸の1/Vはチロシナーゼの活性を示している反応速度の逆数である。1/[L-チロシン]に対する1/Vであるラインウィーバー-バークプロットは阻害剤の濃度によってチロシナーゼのVmaxは変化したが Kmは変わらなかった。すなわち、トリリノレインはラインウィーバー-バークプロットの結果から非競合阻害剤であることが分かった。また、 図4と図6ではディクソンプロットを用いて阻害様式が調べた。様々な濃度の基質での[I]に対する1/Vからトリリノレインがチロシナーゼのモノオキシゲナーゼ活性において非競合阻害剤として働くことが確認された。
【0039】
実施例2 オキシダーゼに対する阻害活性
トリオレイン、トリリノレインそしてポジティブコントロールとしてコウジ酸を用いてマッシュルームチロシナーゼのオキシダーゼ活性に関する阻害を評価した(図7)。トリリノレインは5、10、25、 50μMでマッシュルームチロシナーゼをそれぞれ17.6%、25.0%、55.6%、 70.8%阻害した。トリオレインは水が基本である測定溶液に溶けにくく、トリオレインが完全に解ける三つの濃度からそのIC50を予測した。L-ドーパを含んでいる測定溶液に25μM と50μMのトリオレインを加えた時、それぞれの阻害率は19.4%、26.4%であった。また、100μMのトリオレインを加えたときには直線的に阻害率が増加し34.4%に至ったため、IC50は431μMであると推測される。トリリノレインとコウジ酸のIC50はそれぞれ22.1と14.1μMであった。
【0040】
S. castaneoglobisporusのチロシナーゼに関する阻害率は図8に示した。トリリノレインはポジティブコントロールであるコウジ酸よりも高い阻害率を示した。5μMのトリリノレインは85.5%の阻害率を見せ、トリオレインは5μM、10μM、25μM、50μMでそれぞれ2.2%、33.8%、45.8%、 66.7%阻害した。すなわ
ち、 S. castaneoglobisporus のチロシナーゼのオキシダーゼ 活性に対するトリオレイン、トリリノレイン、コウジ酸のIC50はそれぞれ30.0、2.9、7.8μMであって、 トリリノレインはコウジ酸よりも2.5倍も強く阻害した。
【0041】
マッシュルームチロシナーゼとS. castaneoglobisporus のチロシナーゼによるL-ドーパを基質とした酸化であるオキシダーゼ活性に対するトリリノレインの阻害様式が調べられた。図9と図10はそれぞれマッシュルームチロシナーゼを使った時のラインウィーバー-バークプロットとディクソンプロットである。トリリノレインによるS. castaneoglobisporus のチロシナーゼの阻害様式は図11と図12に現した。1/[S]対する1/Vであるラインウィーバー-バークプロットからトリリノレインの濃度によってVmax減少するがKmは変わらなかった。この結果からトリリノレインはラインウィーバー-バークプロットからモノオキシゲナーゼ活性だけではなくオキシダーゼ活性においても非競合阻害であることが明らかになった。
【0042】
図10と図12には様々な濃度の基質に対するディクソンプロットからの阻害様式が分析された。[I]に対する1/Vであるディクソンプロットはチロシナーゼのオキシダーゼ活性に対してラインウィーバー-バークプロットと一致した非競合阻害であることが確認された。
【0043】
実施例3 メラニン合成抑制効果→組換えチロシナーゼに対する阻害効果
図13と図14にはチロシナーゼを生産するプラスミドであるpET-mel2もしくはpET−mel3を持っている大腸菌BL21(DE3)−pLysS(Protein Expr. Purif.、 34、 202-207、2004)をトリリノレイン(阻害剤)が含まれている寒天培地で培養させることで、その阻害を確認している。図13と図14の(a)、(b)、(c)にはそれぞれトリリノレインが0μl、15μl、30μlずつ含まれている。寒天培地の上においている二つのろ紙の中で 左側には50μlの蒸留水が、右側には50μlの0.125mM/mlIPTG水溶液を加えた。蒸留水を加えたろ紙の周辺は黒くなってないが、IPTG水溶液を加えたところには黒くなっている。すなわち、黒くなった理由はIPTGによって誘導された、分泌されたチロシナーゼによるものであることが分かる。図13にはpET-mel2を持つ大腸菌BL21(DE3)−pLysSを0、21、24時間培養した時の写真であり、図14にはpET-mel3を含んでいる大腸菌BL21(DE3)−pLysSを0、24、28時間培養した時の写真である。図13と図14で確認できるようにトリリノレインの濃度に依存的に黒くなる時間が遅くなることが確認された。
【0044】
実施例4 阻害活性機構
1)キレート形成
トリアシルグリセロールによる阻害がCu2+とのキレート形成によるものかを評価するために、240−540nmのUV−visスペクトルを観測した。1.8mlの0.1Mリン酸緩衝液(pH6.8)と1.0mlの蒸留水の混合液に0.1ml(0.005mM)のサンプル溶液を加えた。そして0.1mlのチロシナーゼ水溶液(100 単位)もしくは CuSO4水溶液(125μM)を加えて25℃で30分間培養してそのス
ペクトル変化を測定した。チロシナーゼとCuSO4の有無によるバソクロミックシフトの有無を調べたが、図15と図16に示すように、バソクロミックシフトを示さなかった。この結果は、 チロシナーゼと銅イオンとの間でキレート形成がなされなかったことを示唆するものである。
【0045】
2)フリーラジカル-スカベンジャー活性
ラジカルへのトリアシルグリセロールの影響を調べることで抗酸化能を調べた。0.1mlのトリアシルグリセロール溶液(DMSO)に0.1mlの0.1mMDPPHエタノール溶液を加えた。この混合液を混ぜて30分間、 室温の暗室で放置し、517nmでの吸光度減少を測定した。図17と図18は517nmでの吸収の変化を示す。ブランクとほとんど変化がないことから、 抗酸化活性は認められない。
ところで、チロシナーゼが活性を示すためには銅イオンが必須であるが、実施例(7)に示すように、トリアシルグリセロールは銅イオンとキレートを形成せず、また抗酸化活性も示さなかった。すなわち、トリアシルグリセロールは、チロシナーゼの疎水性領域に結合し構造変化を起こすことにより阻害活性を示すと考えられる。さらにこのようなアシル基の不飽和度は溶解性に影響を与え、阻害活性の増強に関係すると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】マッシュルームチロシナーゼのモノオキシゲナーゼ活性に対する阻害効果を示したグラフ。
【図2】放線菌チロシナーゼのモノオキシゲナーゼ活性に対する阻害効果を示したグラフ。
【図3】モノオキシゲナーゼ活性に対するトリリノレインの阻害様式を示したグラフ。
【図4】モノオキシゲナーゼ活性に対するトリリノレインの阻害様式を示したグラフ。
【図5】モノオキシゲナーゼ活性に対するトリリノレインの阻害様式を示したグラフ。
【図6】モノオキシゲナーゼ活性に対するトリリノレインの阻害様式を示したグラフ。
【図7】マッシュルームチロシナーゼのオキシダーゼ活性に対する阻害効果を示したグラフ。
【図8】放線菌チロシナーゼのモノオキシゲナーゼ活性に対する阻害効果を示したグラフ。
【図9】オキシダーゼ活性に対するトリリノレインの阻害様式を示したグラフ。
【図10】オキシダーゼ活性に対するトリリノレインの阻害様式を示したグラフ。
【図11】オキシダーゼ活性に対するトリリノレインの阻害様式を示したグラフ。
【図12】オキシダーゼ活性に対するトリリノレインの阻害様式を示したグラフ。
【図13】トリリノレインの組換えチロシナーゼ(pET-mel2)に対する阻害効果を示した写真。 寒天培地(a)、(b)、(c)にはそれぞれトリリノレインを0μl、15μl、30μlを含む。寒天培地の左側ろ紙には50μlの蒸留水、右側には50μlの0.125mM/mlIPTG水溶液を滴下。
【図14】トリリノレインの組換えチロシナーゼ(pET-mel3)に対する阻害効果を示した写真。 寒天培地(a)、(b)、(c)にはそれぞれトリリノレインを0μl、15μl、30μlを含む。寒天培地の左側ろ紙には50μlの蒸留水、右側には50μlの0.125mM/mlIPTG水溶液を滴下。
【図15】Cu2+とのキレート形成を示したグラフ。
【図16】Cu2+とのキレート形成を示したグラフ。
【図17】トリオレインによるフリーラジカル-スカベンジャー活性を示したグラフ。
【図18】トリリノレインによるフリーラジカル-スカベンジャー活性を示したグラフ。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1):
【化1】
〔式中、R1、R2及びR3はそれぞれ独立して炭素数10〜18の直鎖脂肪酸残基を示す。〕
で表されるトリアシルグリセロールを有効成分とするチロシナーゼ阻害剤。
【請求項2】
下記一般式(1):
【化2】
〔式中、R1、R2及びR3はそれぞれ独立して炭素数10〜18の直鎖脂肪酸残基を示す。〕
で表されるトリアシルグリセロールを有効成分とする美白剤。
【請求項3】
下記一般式(1):
【化3】
〔式中、R1、R2及びR3はそれぞれ独立して炭素数10〜18の直鎖脂肪酸残基を示す。〕
で表されるトリアシルグリセロールを有効成分とする食品着色防止剤。
【請求項1】
下記一般式(1):
【化1】
〔式中、R1、R2及びR3はそれぞれ独立して炭素数10〜18の直鎖脂肪酸残基を示す。〕
で表されるトリアシルグリセロールを有効成分とするチロシナーゼ阻害剤。
【請求項2】
下記一般式(1):
【化2】
〔式中、R1、R2及びR3はそれぞれ独立して炭素数10〜18の直鎖脂肪酸残基を示す。〕
で表されるトリアシルグリセロールを有効成分とする美白剤。
【請求項3】
下記一般式(1):
【化3】
〔式中、R1、R2及びR3はそれぞれ独立して炭素数10〜18の直鎖脂肪酸残基を示す。〕
で表されるトリアシルグリセロールを有効成分とする食品着色防止剤。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2008−24618(P2008−24618A)
【公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−197355(P2006−197355)
【出願日】平成18年7月19日(2006.7.19)
【出願人】(504136568)国立大学法人広島大学 (924)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年7月19日(2006.7.19)
【出願人】(504136568)国立大学法人広島大学 (924)
【Fターム(参考)】
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