説明

チロシンキナーゼ阻害剤としてのピペリジルキナゾリン誘導体

本発明は、式(I)(式中、RおよびRは、本明細書中に定義のいずれかの意味を有する)のキナゾリン;それらの製造方法、それらを含有する医薬組成物、およびerbB、具体的には、EGF受容体チロシンキナーゼの阻害に感受性である腫瘍の予防または処置に増殖抑制薬として用いるための薬剤の製造におけるそれらの使用に関する。


【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、抗腫瘍活性を有し、したがって、ヒトまたは動物体の処置方法に有用である、ある種の新規なキナゾリン誘導体、またはそれらの薬学的に許容しうる塩または薬学的に許容しうるエステルに関する。本発明は、更に、それらキナゾリン誘導体の製造方法、それらを含有する医薬組成物、および治療的方法における、例えば、ヒトなどの温血動物の充実性腫瘍疾患の予防または処置に用いるための薬剤の製造におけるそれらの使用に関する。
【0002】
乾癬または癌のような、細胞増殖の異常な調節に起因する疾患のための現行の処置方式の多くは、DNA合成および細胞増殖を阻害する化合物を利用している。これまでのところ、このような処置に用いられる化合物は、概して、細胞に傷害性であるが、しかしながら、腫瘍細胞のような急速に分裂している細胞へのそれらの増大した作用は、有益でありうる。これら細胞傷害性抗腫瘍薬への別のアプローチ、例えば、細胞シグナリング経路の選択的阻害剤は、現在、開発されている。これらタイプの阻害剤は、腫瘍細胞に対する作用の増大した選択性を示す可能性を有すると考えられるので、望ましくない副作用を有する療法の確率を減少させると考えられる。
【0003】
真核細胞は、生体内の細胞間の連絡を可能にする多数の多様な細胞外シグナルに絶えず応答している。これらシグナルは、増殖、分化、アポトーシスおよび運動性を含めた、細胞中の広範囲の物理的応答を調節する。それら細胞外シグナルは、増殖因子並びにパラ分泌因子および内分泌因子を含めた多種多様な可溶性因子の形をとる。特異的膜貫通受容体に結合することにより、これらリガンドは、細胞外シグナルを細胞内シグナリング経路へと組込み、したがって、原形質膜を越えてシグナルを伝達し、個々の細胞がその細胞外シグナルに応答することを可能にする。これらシグナル伝達過程の多くは、これら多様な細胞応答の促進に関与しているタンパク質のリン酸化の可逆過程を利用している。標的タンパク質のリン酸化状態は、哺乳動物ゲノムによってコードされた全タンパク質の約3分の1の調節に関与する特異的キナーゼおよびホスファターゼによって調節される。リン酸化は、シグナル伝達過程におけるこのような重要な調節機構であるので、これら細胞内経路での逸脱が、異常な細胞増殖および分化を引き起こし、そして細胞形質転換を促進するということは、驚くべきことではない(Cohen et al, Curr Opin Chem Biol, 1999, 3, 459-465 に概説された)。
【0004】
多数のこれらチロシンキナーゼが、構成的に活性な形に突然変異される、および/または過発現された場合に種々のヒト細胞の形質転換を引き起こすということは、広く示されている。これら突然変異した形および過発現した形のキナーゼは、ヒト腫瘍の大部分に存在する(Kolibaba et al, Biochimica et Biophysica Acta, 1997, 133, F217-F248 に概説された)。チロシンキナーゼは、種々の組織の増殖および分化において基本的な役割を果たしているので、新規な抗癌療法の開発では、多くの焦点がこれら酵素に集中している。この酵素ファミリーは、二つの群、すなわち、受容体および非受容体チロシンキナーゼ、例えば、それぞれ、EGF受容体およびSRCファミリーに分けられる。Human Genome Project を含めた大多数の研究の結果から、約90種類のチロシンキナーゼが、ヒトゲノム中で識別されており、この内の58種類は受容体タイプであり、32種類は非受容体タイプである。これらは、20種類の受容体チロシンキナーゼサブファミリーと10種類の非受容体チロシンキナーゼサブファミリーに区分することができる(Robinson et al, Oncogene, 2000, 19, 5548-5557)。
【0005】
それら受容体チロシンキナーゼは、細胞複製を開始するマイトジェンシグナルの伝達において特に重要である。これら大きい糖タンパク質は、細胞の原形質膜に広がり、(上皮増殖因子(EGF)受容体のEGFのような)それらの特異的リガンドのための細胞外結合ドメインを有する。リガンドの結合は、その受容体の細胞内部分によってコードされている受容体のキナーゼ酵素活性の活性化を引き起こす。この活性は、標的タンパク質中の鍵チロシンアミノ酸をリン酸化して、細胞の原形質膜を越えた増殖シグナルの伝達を引き起こす。
【0006】
受容体チロシンキナーゼのerbBファミリーには、EGFR、erbB2、erbB3およびerbB4が含まれるが、これらは、しばしば、腫瘍細胞の増殖および生存を推進するのに関与しているということが知られている(Olayioye et al., EMBO J., 2000, 19, 3159 に概説された)。これを達成しうる一つの機構は、概して、遺伝子増幅の結果としての、タンパク質レベルでの受容体の過発現による。これは、多くの一般的なヒト癌(Klapper et al., Adv. Cancer Res., 2000, 77, 25 に概説された)において、乳癌(Sainsbury et al., Brit. J. Cancer, 1988, 58, 458; Guerin et al., Oncogene Res., 1988, 3, 21; Slamon et al., Science, 1989, 244, 707; Klijn et al., Breast Cancer Res. Treat., 1994, 29, 73、および Salomon et al., Crit. Rev. Oncol. Hematol., 1995, 19, 183 に概説)、腺癌を含めた非小細胞性肺癌(NSCLC)(Cerny et al., Brit. J. Cancer, 1986, 54, 265; Reubi et al., Int. J. Cancer, 1990, 45, 269; Rusch et al., Cancer Research, 1993, 53, 2379; Brabender et al, Clin. Cancer Res., 2001, 7, 1850)、更には、肺のその他の癌(Hendler et al., Cancer Cells, 1989, 7, 347; Ohsaki et al., Oncol. Rep., 2000, 7, 603)、膀胱癌(Neal et al., Lancet, 1985, 366; Chow et al., Clin. Cancer Res., 2001, 7, 1957, Zhau et al., Mol Carcinog., 3, 254)、食道癌(Mukaida et al., Cancer, 1991, 68, 142)、結腸、直腸または胃癌のような胃腸癌(Bolen et al., Oncogene Res., 1987, 1, 149; Kapitanovic et al., Gastroenterology, 2000, 112, 1103; Ross et al., Cancer Invest., 2001, 19, 554)、前立腺癌(Visakorpi et al., Histochem. J., 1992, 24, 481; Kumar et al., 2000, 32, 73; Scher et al., J. Natl. Cancer Inst., 2000, 92, 1866)、白血病(Konaka et al., Cell, 1984, 37, 1035, Martin-Subero et al., Cancer Genet Cytogenet., 2001, 127, 174)、卵巣(Hellstrom et al., Cancer Res., 2001, 61, 2420)、頭頸部(Shiga et al., Head Neck, 2000, 22, 599)または膵臓癌(Ovotny et al., Neoplasma, 2001, 48, 188)などで認められた。より多くのヒト腫瘍組織が、受容体チロシンキナーゼのerbBファミリーの発現について調べられるにつれて、それらの広範囲にわたる優勢および重要性は、将来は更に増大するであろうと考えられる。
【0007】
一つまたはそれを超えるこれら受容体の誤調節の結果として、多くの腫瘍は、臨床的に一層攻撃的になるので、患者にとっては一層気の毒な予後と相関すると広く考えられている(Brabender et al, Clin. Cancer Res., 2001, 7, 1850; Ross et al, Cancer Investigation, 2001, 19, 554, Yu et al., Bioessays, 2000, 22.7, 673)。これら臨床的知見に加えて、豊富な前臨床情報は、受容体チロシンキナーゼのerbBファミリーが、細胞形質転換に関与するということを示唆している。これには、多くの腫瘍細胞系が、一つまたはそれを超えるerbB受容体を過発現するという知見、およびEGFRまたはerbB2が、非腫瘍細胞中にトランスフェクションされた場合、これら細胞を形質転換する能力を有するという知見が含まれる。この腫瘍発生可能性は、erbB2を過発現するトランスジェニックマウスが、自発的に乳腺に腫瘍を発生するように、更に証明された。これに加えて、多数の前臨床研究は、増殖抑制作用が、一つまたはそれを超えるerbB活性を、低分子阻害剤、ドミナントネガティブ(dominant negatives)または阻害性抗体によってノックアウトすることにより誘発することができるということを示した(Mendelsohn et al., Oncogene, 2000, 19, 6550 に概説された)。したがって、これら受容体チロシンキナーゼの阻害剤は、哺乳動物癌細胞の増殖の選択的阻害剤として価値があるはずであるということが理解された(Yaish et al. Science, 1988, 242, 933, Kolibaba et al, Biochimica et Biophysica Acta, 1997, 133, F217-F248; Al-Obeidi et al, 2000, Oncogene, 19, 5690-5701; Mendelsohn et al, 2000, Oncogene, 19, 6550-6565)。
【0008】
最近、低分子EGFRチロシンキナーゼ阻害剤である Iressa(ゲフィチニブ(gefitinib)およびZD1834としても知られる)は、進行した非小細胞性肺癌の処置での使用が認可された。更に、EGFRおよびerbB2に対する阻害性抗体(それぞれ、c−225およびトラスツズマブ(trastuzumab))を用いた知見は、選択された充実性腫瘍の処置について臨床において有益であることを証明した(Mendelsohn et al, 2000, Oncogene, 19, 6550-6565 に概説された)。
【0009】
erbB受容体チロシンキナーゼのメンバーの増幅および/または活性は、検出されているので、乾癬(Ben-Bassat, Curr. Pharm. Des., 2000, 6, 933; Elder et al., Science, 1989, 243, 811)、良性前立腺増殖症(BPH)(Kumar et al., Int. Urol. Nephrol., 2000, 32,73)、アテローム性動脈硬化症および再狭窄(Bokemeyer et al., Kidney Int., 2000, 58, 549)のような多数の非悪性増殖性障害においてある役割を果たしていることが暗示された。したがって、erbBタイプ受容体チロシンキナーゼの阻害剤は、過度の細胞増殖のこれらおよび他の非悪性障害の処置に有用であろうと考えられる。
【0010】
欧州特許出願EP566226号は、受容体チロシンキナーゼ阻害剤である、ある種の4−アニリノキナゾリンを開示している。
国際特許出願WO96/33977号、WO96/33978号、WO96/33979号、WO96/33980号、WO96/33981号、WO97/30034号、WO97/38994号は、アニリノ置換基を4位に、および6位および/または7位に置換基を有するある種のキナゾリン誘導体が、受容体チロシンキナーゼ阻害活性を有するということを開示している。
【0011】
欧州特許出願EP837063号は、キナゾリン環上の6位または7位にアリール基またはヘテロアリール基を含有する部分を有するアリール置換4−アミノキナゾリン誘導体を開示している。それら化合物は、高増殖性障害を処置するのに有用であると述べられている。
【0012】
国際特許出願WO97/30035号およびWO98/13354号は、7位に置換されたある種の4−アニリノキナゾリンが、血管内皮増殖因子受容体チロシンキナーゼ阻害剤であることを開示している。
【0013】
WO00/55141号は、6位および/または7位にある置換基が、エステル連結部分(RO−CO)を有するということを特徴とする6,7−置換4−アニリノキナゾリン化合物を開示している。
【0014】
WO00/56720号は、癌またはアレルギー反応の処置のための6,7−ジアルコキシ−4−アニリノキナゾリン化合物を開示している。
WO02/41882号は、置換されたピロリジニルアルコキシ基またはピペリジニルアルコキシ基で6位および/または7位に置換された4−アニリノキナゾリン化合物を開示している。
【0015】
同時係属PCT出願PCT/GB03/01306号(本出願の優先日後にWO03/082831号として公開された)は、6位にヘテロシクリルオキシ基またはヘテロシクリルアルコキシ基で置換された4−(2,3−ジハロゲノアニリノ)キナゾリン化合物であって、erbB、具体的には、EGFRチロシンキナーゼ阻害剤である化合物を開示している。PCT出願PCT/GB03/01306号は、実施例16として、6−(1−アセチルピペリジン−4−イルオキシ)−4−(3−クロロ−2−フルオロアニリノ)−7−メトキシキナゾリン:
【0016】
【化1】

【0017】
という化合物、および実施例28として、4−(3−クロロ−2−フルオロアニリノ)−6−[1−(ヒドロキシアセチル)ピペリジン−3−イルオキシ]−7−メトキシキナゾリン:
【0018】
【化2】

【0019】
という化合物を開示している。
本発明者は、ここで、驚くべきことに、置換されたピペリジン−4−イル基で6位に置換されたある種の4−(3−クロロ−2−フルオロアニリノ)キナゾリン化合物が、強力な in-vivo 抗腫瘍活性を有し、しかも改善された細胞および in-vivo 効力を含めた多数の他の好都合な性質、および/または好都合なDMPK性質、例えば、高いバイオアベイラビリティーおよび/または高い血漿不含レベルおよび/または好都合な半減期および/または好都合な分布容量および/または溶解性などの十分な物理的性質を有するということを発見した。更に、本発明による化合物は、hERG検定において不活性であるまたは僅かに弱く活性であると考えられる。
【0020】
本発明に開示された化合物が、単一の生物学的過程への作用によってのみ薬理活性を有するということを暗示したくはないが、それら化合物は、腫瘍細胞の増殖をもたらすシグナルトランスダクション段階(signal transduction steps)に関与するerbBファミリーの一つまたはそれを超える受容体チロシンキナーゼの阻害によって抗腫瘍作用を与えると考えられる。具体的には、本発明の化合物は、EGFRチロシンキナーゼの阻害によって抗腫瘍作用を与えると考えられる。
【0021】
概して、本発明の化合物は、例えば、EGFRおよび/またはerbB2および/またはerbB4受容体チロシンキナーゼの阻害によって、erbB受容体チロシンキナーゼファミリーに対する強力な阻害活性を有するが、他のキナーゼに対してはあまり強力でない阻害活性を有する。更に、本発明の化合物は、EGFRチロシンキナーゼに対して、erbB2チロシンキナーゼに対するよりも実質的に十分な効力を有する。したがって、本発明による化合物を、EGFRチロシンキナーゼを阻害するには十分であるが、erbB2(またはその他の)チロシンキナーゼには有意に作用しない用量で投与することは可能でありうる。本発明による化合物によって与えられる選択的阻害は、EGFRチロシンキナーゼによって媒介される状態のための処置を与えることができるが、同時に、例えば、他のチロシンキナーゼの阻害に関連することがありうる望ましくない副作用を減少させることができる。
【0022】
本発明の一つの側面により、式I:
【0023】
【化3】

【0024】
(式中、Rは、水素およびメトキシより選択され;そして
は水素である)
を有するキナゾリン誘導体、またはその薬学的に許容しうる塩または薬学的に許容しうるエステルを提供する。
【0025】
式Iのある種の化合物が、溶媒和の形で、更には、例えば、水和した形のような非溶媒和の形で存在してよいということは理解されるはずである。本発明が、増殖抑制活性を有するこのような溶媒和の形を全て包含するということは理解されるはずである。
【0026】
式Iのある種の化合物が、多形を示すことがありうるということ、および本発明が、増殖抑制活性を有するこのような形を全て包含するということは理解されるはずである。
式Iの化合物の適する薬学的に許容しうる塩は、例えば、式Iの化合物の酸付加塩、例えば、無機酸または有機酸との酸付加塩である。適する無機酸には、例えば、塩酸、臭化水素酸または硫酸が含まれる。適する有機酸には、例えば、トリフルオロ酢酸、クエン酸、マレイン酸、酒石酸、フマル酸、メタンスルホン酸または4−トルエンスルホン酸が含まれる。本発明の一つの態様において、具体的な薬学的に許容しうる酸付加塩は、例えば、マレイン酸、酒石酸またはメタンスルホン酸などの有機酸で形成される塩である。本発明者は、これら塩が、例えば、式Iのキナゾリン誘導体の遊離塩基の形と比較して、好都合な性質、例えば、改善された溶解速度、および/または改善されたバイオアベイラビリティーのような薬力学的性質を有するということを発見した。
【0027】
概して、式Iのキナゾリン誘導体の薬学的に許容しうる塩は、特に、これが、キナゾリン誘導体を高純度で製造することを可能にするという理由で、結晶性であることが好ましい。式Iのキナゾリン誘導体が結晶性であるということが、本明細書中に述べられている場合、X線粉末回折データによって決定される結晶化度は、好都合には、約60%より大、より好都合には、約70%より大、好ましくは、約80%より大、そしてより好ましくは、約90%より大、なお一層好ましくは、約95%より大である。最も好ましくは、X線粉末回折データによって決定される結晶化度は、約98%より大である。X線粉末回折を用いた結晶化度の決定は、当業者に周知である。
【0028】
本明細書中で用いられる「薬学的に許容しうるエステル」という用語は、in vivo で加水分解して、親化合物またはその薬学的に許容しうる塩を脱離する式Iのキナゾリン誘導体のエステルを意味する。式Iのキナゾリンの in-vivo 加水分解性エステルは、親化合物の物理的および/または薬物動態学的プロフィール、例えば、溶解度を変化させるまたは改善するのに用いることができる。薬学的に許容しうるエステルプロドラッグの形成に用いることができる適するエステル基は、例えば、次に論じられるように、周知である。例えば、
Pro-drugs as Novel Delivery Systems, T. Higuchi and V. Stella, Vol. 14 of the ACS Symposium Series, and in Edward B. Roche, ed.;
Bioreversible Carriers in Drug Design, American Pharmaceutical Association and Pergamon Press, 1987;
Design of Prodrugs, edited by H. Bundgaard, (Elsevier, 1985) and Methods in Enzymology, Vol. 42, p. 309-396, edited by K. Widder, et al. (Academic Press, 1985);
A Textbook of Drug Design and Development, edited by Krogsgaard-Larsen and H. Bundgaard, Chapter 5 “Design and Application of Prodrugs”, by H. Bundgaard p. 113-191 (1991);
H. Bundgaard, Advanced Drug Delivery Reviews, 8, 1-38 (1992);
H. Bundgaard, et al., Journal of Pharmaceutical Sciences, 77, 285 (1988);および
N. Kakeya, et al., Chem Pharm Bull, 32, 692 (1984)。
【0029】
式Iのキナゾリン誘導体またはその薬学的に許容しうる塩の具体的な薬学的に許容しうるエステルは、式I中にORで表されるヒドロキシ基で形成されるエステルであって、ヒトなどの温血動物に投与された場合に、そのヒトまたは動物体内で加水分解されて、式Iの親キナゾリンを生じるエステルである。式Iのキナゾリン誘導体またはその薬学的に許容しうる塩のこのような薬学的に許容しうるエステルの例には、リン酸エステルのような無機エステル;α−アシルオキシアルキルエーテルおよび関連化合物;および薬学的に許容しうる脂肪族カルボン酸、具体的には、アルカン酸、アルケン酸、シクロアルカン酸およびアルカンジオン酸であって、好都合には、各々のアルキル部分またはアルケニル部分が6個以下の炭素原子を有する酸から誘導されるエステルが含まれる。投与後、その薬学的に許容しうるエステルは、in-vivo 加水分解で分解されて、式Iのキナゾリン誘導体中に親ヒドロキシ基を生じる。α−アシルオキシアルキルエーテルの例には、アセトキシメトキシおよび2,2−ジメチルプロピオニルオキシメトキシが含まれる。式I中のヒドロキシ基のための薬学的に許容しうるエステル形成性基の選択肢には、(1−6C)アルカノイル、ベンゾイル、フェニルアセチル、および置換されたベンゾイルおよびフェニルアセチル、(1−6C)アルコキシカルボニル(炭酸アルキルエステルを生じる)、ジ−(1−4C)アルキルカルバモイルおよびN−(ジ−(1−4C)アルキルアミノエチル)−N−(1−4C)アルキルカルバモイル(カルバメートを生じる)、ジ−(1−4C)アルキルアミノアセチルおよびカルボキシアセチルが含まれる。ベンゾイル上の置換基の例には、クロロメチルまたはアミノメチル、(1−4C)アルキルアミノメチルおよびジ−((1−4C)アルキル)アミノメチル、および環窒素原子からメチレン結合基によってベンゾイル環の3位または4位に連結したモルホリノまたはピペラジノが含まれる。
【0030】
具体的な薬学的に許容しうるエステルは、式Iのキナゾリン誘導体またはその薬学的に許容しうる塩中のヒドロキシ基で形成されるリン酸エステルである。より具体的には、薬学的に許容しうるエステルには、式I中のORで表されるヒドロキシが、式(PD1):
【0031】
【化4】

【0032】
を有するホスホリル(npdは1である)またはホスフィリル(npdは0である)エステルを形成する式Iのキナゾリン誘導体またはその薬学的に許容しうる塩が含まれる。
別の具体的な薬学的に許容しうるエステルは、式I中のORで表されるヒドロキシが、ホスホリルを形成して、npdが1である式(PD1)を有する基を生じる式Iのキナゾリン誘導体である。
【0033】
このようなエステルの製造に有用な中間体には、(PD1)中のどちらかまたは双方の−OH基が、独立して、(1−4C)アルキル(このような化合物も、それら自体、興味深い化合物である)、フェニルまたはフェニル−(1−4C)アルキル(このようなフェニル基は、(1−4C)アルキル、ニトロ、ハロおよび(1−4C)アルコキシより独立して選択される1個または2個の基で置換されていてよい)で保護されている式(PD1)の基を含有する化合物が含まれる。
【0034】
(PD1)のような基を含有する式Iのキナゾリン誘導体の薬学的に許容しうるエステルは、式Iのキナゾリン誘導体と、好適に保護されたホスホリル化剤(例えば、クロロまたはジアルキルアミノ脱離基を含有する)との反応後、酸化(必要ならば)および脱保護を行うことによって製造することができる。適するホスホリル化剤は周知であり、それには、例えば、N,N−ジ−[(1−6C)アルキル]−ホスホロアミダイトのような保護されたホスホロアミダイト化合物、例えば、ジ−tert−ブチルN,N−ジエチルホスホロアミダイトが含まれる。
【0035】
式Iのキナゾリン誘導体中のエステル基は、そのエステル基の薬学的に許容しうる塩を形成してよいということ、およびこのような塩は、本発明の一部分を形成するということは理解されるはずである。薬学的に許容しうるエステルの薬学的に許容しうる塩が必要とされる場合、これは、当業者に周知の慣用的な技法によって達成される。したがって、例えば、式(PD1)の基を含有する化合物は、(部分的にまたは完全に)イオン化して、適当多数の対イオンと塩を形成することができる。例として、式Iのキナゾリン誘導体の薬学的に許容しうるエステルプロドラッグが、(PD1)基を含有する場合、2個のHO−P−官能基が存在し、それらは各々、適する対イオンと適当な塩を形成することができる。式(PD1)の基の適する塩は、塩基塩であって、アルカリ金属塩、例えば、ナトリウム塩、アルカリ土類金属塩、例えば、カルシウム塩またはマグネシウム塩、または有機アミン塩、例えば、トリエチルアミンまたはトリス−(2−ヒドロキシエチル)アミンなどである。したがって、例えば、基(PD1)は、一または二ナトリウム塩を形成することができる。
【0036】
本発明の好ましい化合物は、
4−(3−クロロ−2−フルオロアニリノ)−6−[1−(ヒドロキシアセチル)ピペリジン−4−イルオキシ]−7−メトキシキナゾリンである式Iのキナゾリン誘導体;またはその薬学的に許容しうる塩(好ましくは、薬学的に許容しうる酸付加塩)またはその薬学的に許容しうるエステルである。
【0037】
本発明の一つの態様において、本明細書中の前に定義の式(I)のキナゾリン誘導体またはその薬学的に許容しうる塩を提供する。
本明細書中において、「アルキル」という包括的用語には、プロピル、イソプロピルおよび tert−ブチルのような、直鎖および分岐状鎖双方のアルキル基、およびシクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシルおよびシクロヘプチルなどの(3−7C)シクロアルキル基が含まれる。しかしながら、「プロピル」のような個々のアルキル基の意味は、直鎖型のみを特定し、「イソプロピル」のような個々の分岐状鎖アルキル基の意味は、分岐状鎖型のみを特定する。同様の慣例が、他の包括的用語に当てはまり、例えば、(1−6C)アルコキシには、メトキシ、エトキシ、シクロプロピルオキシおよびシクロペンチルオキシが含まれ、(1−6C)アルキルアミノには、メチルアミノ、エチルアミノ、シクロブチルアミノおよびシクロヘキシルアミノが含まれ、そしてジ−[(1−6Cアルキル]アミノには、ジメチルアミノ、ジエチルアミノ、N−シクロブチル−N−メチルアミノおよびN−シクロヘキシル−N−エチルアミノが含まれる。
【0038】
本明細書中の前にまたは以下に定義のいろいろな基のいずれにも適する意味には、次が含まれる。
ハロゲノについて、フルオロ、クロロ、ブロモおよびヨード;
(1−6C)アルキルについて:メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、tert−ブチル、ペンチルおよびヘキシル;
(1−6C)アルコキシについて:メトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソプロポキシおよびブトキシ;
(1−6C)アルキルアミノについて: メチルアミノ、エチルアミノ、プロピルアミノ、イソプロピルアミノおよびブチルアミノ;
ジ−[(1−6C)アルキル]アミノについて:ジメチルアミノ、ジエチルアミノ、N−エチル−N−メチルアミノおよびジイソプロピルアミノ;
(1−6C)アルコキシカルボニルについて:メトキシカルボニル、エトキシカルボニル、プロポキシカルボニルおよび tert−ブトキシカルボニル;
N−(1−6C)アルキルカルバモイルについて:N−メチルカルバモイル、N−エチルカルバモイル、N−プロピルカルバモイルおよびN−イソプロピルカルバモイル;
N,N−ジ−[(1−6C)アルキル]カルバモイルについて:N,N−ジメチルカルバモイル、N−エチル−N−メチルカルバモイルおよびN,N−ジエチルカルバモイル;
(2−6C)アルカノイルについて:アセチル、プロピオニルおよびイソブチリル;および
(2−6C)アルカノイルオキシについて:アセトキシおよびプロピオニルオキシ。
【0039】
式Iのキナゾリン誘導体の合成
本発明のもう一つの側面は、式Iのキナゾリン誘導体、またはその薬学的に許容しうる塩または薬学的に許容しうるエステルを製造する方法を提供する。ある種の次の方法の際に、ある種の置換基が、それらの望ましくない反応を妨げるように保護を必要とすることがありうるということは理解されるであろう。当化学者は、このような保護が必要とされる場合、およびこのような保護基を適所に入れ、その後除去することができる方法を理解するであろう。
【0040】
保護基に例については、それに関する多数の一般的な教本の一つ、例えば、‘Protective Groups in Organic Synthesis’ by Theodora Green(発行者:John Wiley & Sons)を参照されたい。保護基は、問題の保護基の除去について適宜、参考文献に記載のまたは当化学者に知られているいずれか好都合な方法によって除去することができるが、このような方法は、分子中のどこか他の基の妨害を最小限にして、保護基の除去を行うように選択される。
【0041】
したがって、反応物が、例えば、アミノまたはヒドロキシのような基を包含する場合、本明細書中に述べられた若干の反応において、その基を保護することが望まれることがありうる。
【0042】
アミノ基またはアルキルアミノ基に適する保護基は、例えば、アシル基、例えば、アセチルなどのアルカノイル基;アルコキシカルボニル基、例えば、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基またはt−ブトキシカルボニル基;アリールメトキシカルボニル基、例えば、ベンジルオキシカルボニル;またはアロイル基、例えば、ベンゾイルである。上の保護基の脱保護条件は、必然的に、保護基の選択肢で異なる。したがって、例えば、アルカノイル基またはアルコキシカルボニル基またはアロイル基のようなアシル基は、例えば、アルカリ金属水酸化物、例えば、水酸化リチウムまたは水酸化ナトリウムのような適する塩基での加水分解によって除去することができる。或いは、t−ブトキシカルボニル基のようなアシル基は、例えば、塩酸、硫酸またはリン酸、またはトリフルオロ酢酸のような適する酸での処理によって除去することができ、そしてベンジルオキシカルボニル基のようなアリールメトキシカルボニル基は、例えば、炭素上パラジウムのような触媒上での水素化によって、またはルイス酸、例えば、トリス(トリフルオロ酢酸)ホウ素での処理によって除去することができる。第一級アミノ基に適する別の保護基は、例えば、アルキルアミン、例えば、ジメチルアミノプロピルアミンでのまたはヒドラジンでの処理によって除去することができるフタロイル基である。
【0043】
ヒドロキシ基に適する保護基は、例えば、アシル基、例えば、アセチルなどのアルカノイル基;アロイル基、例えば、ベンゾイル;またはアリールメチル基、例えば、ベンジルである。上の保護基の脱保護条件は、必然的に、保護基の選択肢で異なるであろう。したがって、例えば、アルカノイル基またはアロイル基のようなアシル基は、例えば、アルカリ金属水酸化物、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウムまたはアンモニアなどの適する塩基での加水分解によって除去することができる。或いは、ベンジル基などのアリールメチル基は、例えば、炭素上パラジウムなどの触媒上での水素化によって除去することができる。
【0044】
それら保護基は、合成中のいずれか好都合な段階で、当化学技術分野において周知の慣用的な技法を用いて除去することができる。
式Iのキナゾリン誘導体、またはその薬学的に許容しうる塩または薬学的に許容しうるエステルは、化学的に関連した化合物の製造に応用可能であることが知られているいずれかの方法によって、例えば、WO03/082831号に記載されたのと同様の方法を用いて製造することができる。このような方法は、式Iのキナゾリン誘導体、またはその薬学的に許容しうる塩または薬学的に許容しうるエステルを製造するのに用いられる場合、本発明のもう一つの特徴として提供されるし、次の代表的な変法によって詳しく説明される。必要な出発物質は、有機化学の標準法(例えば、Advanced Organic Chemistry (Wiley-Interscience), Jerry March を参照されたい)によって得ることができる。このような出発物質の製造は、添付の非制限実施例の中に記載されている。或いは、必要な出発物質は、有機化学の常套技術の範囲内である、詳しく説明されたのと同様の手順によって入手可能である。
【0045】
次の、式Iのキナゾリン誘導体、またはその薬学的に許容しうる塩または薬学的に許容しうるエステルの製造方法において、特に断らない限り、変数は上に定義の通りである。
好都合には、適する塩基の存在下において、式II:
【0046】
【化5】

【0047】
(式中、Rは、本明細書中の前に定義の通りであり、式IIの化合物中の任意の官能基は、必要ならば保護されている)
を有する化合物またはその塩を、式III:
【0048】
【化6】

【0049】
(式中、Rは、本明細書中の前に定義の通りであり、式IIIの化合物中の任意の官能基は、必要ならば保護されている)
を有するカルボン酸またはその反応性誘導体とカップリングさせ;そしてその後、必要ならば(任意の順序で)、
(i)慣用的な技法によって任意の保護基を除去し;
(ii)薬学的に許容しうる塩を形成し;そして
(iii)薬学的に許容しうるエステルを形成することによる。上の反応に具体的な条件は、次の通りである。
【0050】
カップリング反応は、好都合には、ジシクロヘキシルカルボジイミドなどのカルボジイミドのような適するカップリング剤、または適するペプチドカップリング剤、例えば、O−(7−アザベンゾトリアゾール−1−イル)−N,N,N’,N’−テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスフェート(HATU)の存在下で行われる。カップリング反応は、好都合には、ジメチルアミノピリジンまたは4−ピロリジノピリジンのような触媒の存在下で行われる。
【0051】
カップリング反応は、好都合には、適する塩基の存在下で行われる。適する塩基は、例えば、有機アミン塩基、例えば、ピリジン、2,6−ルチジン、コリジン、4−ジメチルアミノピリジン、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、N−メチルモルホリンまたはジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エンなど、または例えば、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の炭酸塩、例えば、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウム、炭酸カルシウム、または例えば、アルカリ金属水素化物、例えば、水素化ナトリウムである。
【0052】
その反応は、好都合には、適する不活性溶媒または希釈剤、例えば、酢酸エチルなどのエステル;塩化メチレン、クロロホルムまたは四塩化炭素などのハロゲン化溶媒;テトラヒドロフランまたは1,4−ジオキサンなどのエーテル;トルエンなどの芳香族溶媒;またはN,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリジン−2−オン、ジメチルスルホキシドまたはアセトニトリルなどの双極性非プロトン性溶媒の存在下で行われる。反応は、好都合には、例えば、0〜120℃の範囲内の温度で、具体的には、周囲温度またはその付近の温度で行われる。
【0053】
式IIの化合物は、遊離塩基の形で、または適する塩、例えば、塩酸塩のような酸付加塩の形で用いることができる。
式IIIのカルボン酸の「反応性誘導体」という用語により、式IIの化合物と反応して、該当するアミドを生じるであろうカルボン酸誘導体を意味する。式IIIのカルボン酸の適する反応性誘導体は、例えば、ハロゲン化アシル、例えば、酸と無機酸塩化物、例えば、塩化チオニルとの反応によって形成される塩化アシル;混合無水物、例えば、酸と、クロロギ酸イソブチルなどのクロロホルメートとの反応によって形成される無水物;活性エステル、例えば、酸と、ペンタフルオロフェノールなどのフェノール、トリフルオロ酢酸ペンタフルオロフェニルなどのエステル、またはメタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノールまたはN−ヒドロキシベンゾトリアゾールなどのアルコールとの反応によって形成されるエステル;またはアシルアジド、例えば、酸と、ジフェニルホスホリルアジドなどのアジドとの反応によって形成されるアジド;アシルシアニド、例えば、酸と、ジエチルホスホリルシアニドなどのシアニドとの反応によって形成されるシアニドである。式IIIの酸の具体的な反応性誘導体は、式IIIa:
【0054】
【化7】

【0055】
(式中、Rは、本明細書中の前に定義の通りであり;Xは、ハロゲノ、例えば、クロロであり;そして式IIIの化合物中の任意の官能基は、必要ならば保護されている)
を有するハロゲン化アシルである。
【0056】
上記のようなカルボン酸の反応性誘導体とアミン(式IIの化合物など)との反応は、当該技術分野において周知である。例えば、式IIの化合物は、式IIIaのハロゲン化アシルと、上記のような塩基、例えば、ピリジンまたは4−ジメチルアミノピリジンなどの有機塩基の存在下において、双極性非プロトン性溶媒、例えば、アセトニトリルのような適する溶媒中で反応させることができる。その反応は、好都合には、上記の温度で、例えば、周囲温度またはその付近の温度で行うことができる。
【0057】
式Iのキナゾリン誘導体の薬学的に許容しうる塩、例えば、酸付加塩が必要とされる場合、それは、例えば、このキナゾリン誘導体と適する酸との反応により、慣用的な手順を用いて得ることができる。薬学的に許容しうる塩の製造方法は、当該技術分野において周知であり、本出願の実施例に詳しく説明される。例えば、式Iのキナゾリン誘導体と酸との反応後、必要な酸付加塩は、式Iのキナゾリン誘導体を含有する溶液を過飽和にすることにより、その溶液から沈殿させることができる。過飽和は、周知の技法を用いて、例えば、溶液を冷却することにより、溶媒を蒸発によって除去することにより、または適するアンチソルベントを加えて塩を沈殿させることにより達成することができる。
【0058】
式Iのキナゾリン誘導体の製造中にその単離を容易にするためには、その化合物を、薬学的に許容しうる塩ではない塩の形で製造してよい。次に、得られた塩を、慣用的な技法によって修飾して、その化合物の薬学的に許容しうる塩を生じることができる。このような塩修飾法は周知であり、それには、例えば、イオン交換法、または上記のような薬学的に許容しうる対イオンの存在下の溶液からの化合物の再沈殿、例えば、HClのような適する酸の存在下の、式Iのキナゾリン誘導体の塩酸塩酸付加塩を生じる再沈殿が含まれる。
【0059】
出発物質の製造
式IIの化合物は、慣用的な手順によって得ることができる。例えば、反応スキーム1:
【0060】
【化8】

【0061】
(式中、Rは、本明細書中の前に定義の通りであり;
Lgは、置換可能な基、例えば、クロロなどのハロゲノであり;そして
Pgは、適するアミン保護基、例えば、tert−ブトキシカルボニル(BOC)である)
に示される通り。
【0062】
工程(1)Mitsunobu カップリング反応を用いたカップリング。適する Mitsunobu 条件には、例えば、適する第三級ホスフィンおよびアゾジカルボン酸ジアルキルの存在下、THFまたは好適には、ジクロロメタンなどの溶媒中、0℃〜60℃の温度範囲であるが、好適には、周囲温度またはその付近の温度での反応が含まれる。適する第三級ホスフィンには、例えば、トリ−n−ブチルホスフィンまたは具体的には、トリフェニルホスフィンが含まれる。適するアゾジカルボン酸ジアルキルには、例えば、アゾジカルボン酸ジエチル(DEAD)または好適には、アゾジカルボン酸ジ−tert−ブチルが含まれる。Mitsunobu 反応の詳細は、Tet. Letts., 31, 699, (1990); The Mitsunobu Reaction, D.L.Hughes, Organic Reactions, 1992, Vol.42, 335-656 および Progress in the Mitsunobu Reaction, D.L.Hughes, Organic Preparations and Procedures International, 1996, Vol.28, 127-164 の中にある。
【0063】
工程(2)
反応は、好都合には、適する不活性溶媒または希釈剤、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノールまたは酢酸エチルなどのアルコールまたはエステル;塩化メチレン、クロロホルムまたは四塩化炭素などのハロゲン化溶媒;テトラヒドロフランまたは1,4−ジオキサンなどのエーテル;トルエンなどの芳香族溶媒;またはN,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリジン−2−オン、アセトニトリルまたはジメチルスルホキシドなどの双極性非プロトン性溶媒の存在下で行われる。反応は、好都合には、例えば、10〜250℃の範囲内、好都合には、40〜120℃に範囲内の温度で、または溶媒または希釈剤が用いられる場合はその還流温度で行われる。好都合には、反応は、イソプロパノールなどのプロトン性溶媒の存在下、好都合には、酸、例えば、ジエチルエーテルまたはジオキサン中の塩化水素ガス、または塩酸、例えば、ジオキサン中の4M塩化水素溶液の存在下において、上記の条件下で行われる。
【0064】
或いは、式IVaの化合物を、適する塩基の存在下でアニリンと反応させることができる。この反応に適する塩基は、式IIおよび式IIIの化合物の反応に関して本明細書中の前に定義の通りである。この反応は、好都合には、不活性溶媒または希釈剤中において高温で行われる。適する溶媒および反応条件は、上記の反応スキーム1の工程2について上に記載されたのと同様であるが、この場合、式IVaの化合物を、酸の存在下でアニリンと反応させる。
【0065】
もう一つの変法において、式IVaの化合物は、追加の酸または塩基の不存在下においてアニリンと直接的に反応させることができる。この反応では、カップリング反応によって生じた酸が、更なる反応のための触媒として作用する。
【0066】
式IIの化合物は、反応スキーム2:
【0067】
【化9】

【0068】
(式中、Rは、本明細書中の前に定義の通りであり;
Lgは、適する置換可能な基、例えば、クロロなどのハロゲノであり;
Lgは、適する置換可能な基であり;
Pgは、適するアミン保護基、例えば、tert−ブトキシカルボニル(BOC)であり;そして
Pgは、適するヒドロキシ保護基、例えば、アセチルなどのアシル基である)
によって製造することもできる。
【0069】
工程1:
Lgが、クロロなどのハロゲノである場合、式Vの化合物を、適するハロゲン化剤、例えば、塩化チオニル、またはオキシ塩化リンまたは五塩化リンなどのハロゲン化リン誘導体と反応させる。そのハロゲン化反応は、好都合には、適する塩基の存在下で行われる。適する塩基は、式IIおよび式IIIの化合物の反応に関して本明細書中の前に定義の通りであり、例えば、ジイソプロピルアミンなどの有機アミン塩基である。反応は、好適には、適する不活性溶媒、例えば、トルエンなどの芳香族溶媒中で行われる。反応は、好適には、高温で、例えば、30〜120℃、好ましくは、60〜90℃の温度で行われる。
【0070】
工程2
反応スキーム1の工程2に用いられたのと同様の条件。好都合には、式Vbの化合物は、式Vの化合物から、式Vaの化合物を単離することなく、直接的に製造することができる。この変法では、アニリンを反応混合物に直接的に加えた後、式Vの化合物への置換可能な基Lgの導入を行う。
【0071】
工程3
慣用的な技法を用いたヒドロキシ保護基の除去。例えば、Pgがアシル基である場合、アルカリ金属水酸化物、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウムまたはアンモニアのような適する塩基での加水分解による。
【0072】
工程4
Lgで表される適する置換可能な基には、例えば、ハロゲノ、アルカンスルホニルオキシまたはアリールスルホニルオキシが含まれる。具体的なLg基は、クロロ、ブロモ、メタンスルホニルオキシ、4−ニトロベンゼンスルホニルオキシおよびトルエン−4−スルホニルオキシより選択され、より具体的には、Lgは、メタンスルホニルオキシ、4−ニトロベンゼンスルホニルオキシおよびトルエン−4−スルホニルオキシより選択される。
【0073】
反応は、好都合には、塩基の存在下で行われる。適する塩基は、式IIおよび式IIIの化合物の反応に関して本明細書中に定義されたもの、例えば、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウムまたは炭酸カルシウムなどのアルカリ金属またはアルカリ土類金属の炭酸塩、またはアルカリ金属水酸化物、例えば、水酸化ナトリウムである。反応は、好適には、不活性溶媒または希釈剤、例えば、メタノール、エタノール、2−プロパノールまたは酢酸エチルなどのアルカノールまたはエステル;塩化メチレン、トリクロロメタンまたは四塩化炭素などのハロゲン化溶媒;テトラヒドロフランまたは1,4−ジオキサンなどのエーテル;トルエンなどの芳香族炭化水素溶媒;または(好適には)N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリジン−2−オンまたはジメチルスルホキシドなどの双極性非プロトン性溶媒の存在下で行われる。反応は、好都合には、例えば、10〜150℃(または溶媒の沸点)の範囲内、好適には、70〜110℃に範囲内の温度で行われる。
【0074】
工程5
慣用法を用いたアミン保護基Pgの除去。例えば、PgがBOC基である場合、式Vcの化合物を、塩酸のような適する酸で処理することによる。
【0075】
反応スキーム1および2で用いられる出発物質は、知られているし、または類似の化合物の製造について知られている方法を用いて製造することができる。出発物質および中間体の適する製造方法の例は、下の実施例に詳しく説明される。
【0076】
上のおよび以下の方法の項における「不活性溶媒」という表現は、所望の生成物の収量に悪影響を与える方式で、出発物質、試薬、中間体または生成物と反応することがない溶媒を意味する。
【0077】
当業者は、本発明の化合物を、別の方式で、若干の場合、一層好都合な方式で得るために、本明細書中の前に述べられた個々の処理工程を、異なった順序で行うことができる、および/または個々の反応を、全体の経路の異なった段階で行うことができる(すなわち、化学変換は、本明細書中の前の具体的な反応に関連したものへの異なった中間体について行うことができる)ということを理解するであろう。
【0078】
生物学的定量法
次の検定を用いて、erbBチロシンキナーゼの阻害剤としての、KB細胞(ヒト鼻咽頭癌(naso-pharangeal carcinoma)細胞)の in-vitro 増殖阻害剤としての、およびLoVo腫瘍細胞(結腸直腸腺癌)の異種移植片のヌードマウスにおける in vivo 成長阻害剤としての本発明の化合物の作用を測定することができる。
【0079】
(a)プロテインチロシンキナーゼリン酸化検定
この試験は、erbBチロシンキナーゼ酵素によるチロシン含有ポリペプチド基質のリン酸化を阻害する試験化合物の能力を測定する。
【0080】
EGFR、erbB2およびerbB4のリコンビナント細胞内フラグメント(それぞれ、受託番号X00588、X03363およびL07868)をクローン化し、バキュロウイルス/Sf21系中で発現させた。溶解産物を、これら細胞から、プロテアーゼ阻害剤を加えた氷冷溶解緩衝液(20mM N−2−ヒドロキシエチルピペラジン−N’−2−エタンスルホン酸(HEPES)pH7.5、150mM NaCl、10%グリセロール、1% Triton X−100、1.5mM MgCl、1mMエチレングリコールビス(β−アミノエチルエーテル)N’,N’,N’,N’−四酢酸(EGTA)での処理によって調製後、遠心分離によって清澄にした。
【0081】
リコンビナントタンパク質の構成的キナーゼ活性は、合成ペプチド(グルタミン酸、アラニンおよびチロシンの6:3:1の比率のランダムコポリマーから作られる)をリン酸化するそれらの能力によって決定した。具体的には、MaxisorbTM96−ウェルイムノプレートを、合成ペプチドで被覆した(100μlのリン酸緩衝化生理食塩水(PBS)溶液中に0.2μgのペプチド、そして4℃で一晩インキュベートした)。プレートを、PBS−T(0.5% Tween 20を含むリン酸緩衝化生理食塩水)中で洗浄後、室温の50mM HEPES pH7.4中で洗浄して、過剰の未結合の合成ペプチドを全て除去した。EGFR、ErbB2またはErbB4チロシンキナーゼ活性を、ペプチド被覆プレート中において、100mM HEPES pH7.4、それぞれの酵素のKm濃度でのアデノシン三リン酸(ATP)、10mM MnCl、0.1mM NaVO、0.2mM DL−ジチオトレイトール(DTT)、0.1% Triton X−100中で、DMSO中の試験化合物(2.5%の最終濃度)と一緒に、22℃で20分間のインキュベーションによって評価した。反応は、検定の液体成分の除去後、プレートをPBS−Tで洗浄することによって停止した。
【0082】
その反応の固定されたホスホペプチド生成物を、免疫学的方法によって検出した。最初に、プレートを、マウスで上昇した抗ホスホチロシン一次抗体(Upstate Biotechnology 製の4G10)と一緒に室温で90分間インキュベーションした。十分な洗浄後、プレートを、西洋ワサビペルオキシダーゼ(Horseradish Peroxidase)(HRP)結合ヒツジ抗マウス二次抗体(Amersham 製のNXA931)で、室温において60分間処理した。更に洗浄後、プレートの各ウェル中のHRP活性を、22’−アジノジ−[3−エチルベンゾチアゾリンスルホネート(6)]二アンモニウム塩結晶(Roche 製のABTSa)を基質として用いて比色定量測定した。
【0083】
発色およびそれによる酵素活性の定量は、Molecular Devices ThermoMax マイクロプレートリーダーにおいて405nmでの吸光度の測定によって行った。ある与えられた化合物のキナーゼ阻害を、IC50値として表した。これは、この検定においてリン酸化の50%阻害を与えるのに必要とされた化合物の濃度の計算によって決定した。リン酸化の範囲は、正(ビヒクル+ATP)および負(ビヒクル−ATP)の対照値より計算した。
【0084】
(b)EGFRで推進されるKB細胞増殖検定
この検定は、KB細胞(American Type Culture Collection(ATCC)より入手したヒト鼻咽頭癌細胞)の増殖を阻害する試験化合物の能力を測定する。
【0085】
KB細胞を、10%ウシ胎児血清、2mMグルタミンおよび非必須アミノ酸を含有するダルベッコ修飾イーグル培地(Dulbecco’s modified Eagle’s medium)(DMEM)中で、7.5%COエアインキュベーター中、37℃において培養した。細胞を、原液フラスコから、トリプシン/エチルアミンジアミン四酢酸(EDTA)を用いて採取した。細胞密度を、血球計算板を用いて測定し、そして生存能力を、トリパンブルー溶液を用いて計算した後、2.5%の木炭でストリッピングした血清、1mMグルタミンおよび非必須アミノ酸を含有するDMEM中に、96ウェルプレートのウェル当たり1.25x10個の細胞密度で、7.5%CO中、37℃において播種し、4時間静置した。
【0086】
プレートへの接着後、それら細胞を、EGFでまたはEGF不含で(1ng/mlの最終濃度)、およびジメチルスルホキシド(DMSO)中の一定範囲の濃度(1%最終)の化合物でまたは化合物不含で処理後、4日間インキュベーションした。そのインキュベーション時間後、50μlの3−(4,5−ジメチルチアゾール−2−イル)−2,5−ジフェニルテトラゾリウムブロミド(MTT)(5mg/ml原液)の2時間の添加によって、細胞数を決定した。次に、MTT溶液を、傾瀉除去し(tipped off)、プレートを静かにたたいて乾燥させ(tapped dry)、そして100μlのDMSOの添加で細胞を溶解させた。
【0087】
可溶化した細胞の吸光度を、Molecular Devices ThermoMax マイクロプレートリーダーを用いて540nmで読み取った。増殖の阻害を、IC50値として表した。これは、増殖の50%阻害を与えるのに必要とされた化合物の濃度の計算によって決定した。増殖の範囲は、正(ビヒクル+リガンド)および負(ビヒクル−リガンド)の対照値より計算した。
【0088】
(c)クローン24ホスホ−erbB2細胞検定
この免疫蛍光終点検定は、完全長野生型erbB2タンパク質を過発現する細胞系(以下、「クローン24」細胞)を生じる標準的な方法を用いて、完全長erbB2遺伝子でMCF7(乳癌)細胞をトランスフェクションすることによって生じたMCF7由来細胞系中でerbB2のリン酸化を阻害する試験化合物の能力を測定する。
【0089】
クローン24細胞を、増殖培地(Growth Medium)(10%ウシ胎児血清、2mMグルタミンおよび1.2mg/mlのG418を含有するフェノールレッド不含ダルベッコ修飾イーグル培地(DMEM))中で、7.5%COエアインキュベーター中、37℃において培養した。細胞を、T75原液フラスコから、PBS(リン酸緩衝化生理食塩水、pH7.4,Gibco No.10010−015)中で1回洗浄することによって採取し、2mlのトリプシン(1.25mg/ml)/エチルアミンジアミン四酢酸(EDTA)(0.8mg/ml)溶液を用いて採取した。それら細胞を、増殖培地中に再懸濁させた。細胞密度を、血球計算板を用いて測定し、そして生存能力を、トリパンブルー溶液を用いて計算した後、増殖培地中で更に希釈し、そして透明な底の96ウェルプレート(Packard,No.6005182)中に、1x10個/ウェル(100ul中)の細胞密度で播種した。
【0090】
3日後、増殖培地をウェルから除去し、そしてerbB阻害剤化合物を含むかまたは含まない、100ulの検定培地(Assay Medium)(フェノールレッド不含DMEM,2mMグルタミン,1.2mg/mlのG418)と交換した。プレートを、インキュベーターに4時間戻した後、20μlのPBS中20%ホルムアルデヒド溶液を各ウェルに加え、そのプレートを室温で30分間放置した。この固定溶液を、マルチチャンネルピペットで除去し、100μlのPBSを各ウェルに加えた後、マルチチャンネルピペットで除去し、そして次に、50μlのPBSを各ウェルに加えた。次に、プレートを密封し、4℃で2週間まで貯蔵した。
【0091】
免疫染色を、室温で行った。ウェルを、プレート洗浄器を用いて、200μlのPBS/Tween 20(1サッシェのPBS/Tween 乾燥粉末(Sigma,No.P3563)を1Lの二重蒸留HOに加えることによって作られる)で1回洗浄後、200μlのブロッキング溶液(Blocking Solution)(PBS/Tween 20中の5% Marvel 脱脂粉乳(Nestle))を加え、10分間インキュベートした。ブロッキング溶液を、プレート洗浄器を用いて除去し、200μlの0.5% Triton X−100/PBSを加えて、それら細胞を透過性にした。10分後、そのプレートを、200μlのPBS/Tween 20で洗浄後、200μlのブロッキング溶液をもう1回加え、15分間インキュベートした。ブロッキング溶液をプレート洗浄器で除去後、ブロッキング溶液中で1:250に希釈された30μlのウサギ多クローン性抗ホスホErbB2 IgG抗体(エピトープホスホ−Tyr1248,SantaCruz,No.SC−12352−R)を、各ウェルに加え、2時間インキュベートした。次に、この一次抗体溶液を、プレート洗浄器を用いてウェルから除去後、200μlのPBS/Tween 20洗浄を、プレート洗浄器を用いて2回行った。次に、ブロッキング溶液中で1:750に希釈された30μlの Alexa-Fluor 488ヤギ抗ウサギIgG二次抗体(Molecular Probes,No.A−11008)を、各ウェルに加えた。これ以後、可能な場合は必ず、プレートを、この段階において黒色バッキングテープで密封することにより、露光から保護した。それらプレートを、45分間インキュベート後、二次抗体溶液をウェルから除去した後、200μlのPBS/Tween 20洗浄を、プレート洗浄器を用いて2回行った。次に、100μlのPBSを各プレートに加え、10分間インキュベート後、プレート洗浄器を用いて除去した。次に、更に100μlのPBSを各プレートに加えた後、長時間インキュベーションすることなく、プレート洗浄器を用いて除去した。次に、50μlのPBSを各ウェルに加え、そしてプレートを、黒色バッキングテープで再度密封し、4℃で2日間まで貯蔵後、分析を行った。
【0092】
各ウェルの蛍光シグナルを、レーザー走査によって生じた画像の特徴を速やかに定量するのに用いることができるプレートリーダーである Acumen Explorer Instrument(Acumen Bioscience Ltd.)を用いて測定した。その装置は、設定限界値より上の蛍光物体の数を測定するように設定したので、これが、erbB2タンパク質のリン酸化状態の尺度を与えた。各々の化合物で得られた蛍光用量反応データを、適するソフトウェアパッケージ(Origin など)中にエクスポートして、曲線適合分析を行った。erbB2リン酸化の阻害を、IC50値として表した。これは、erbB2リン酸化シグナルの50%阻害を与えるのに必要な化合物濃度の計算によって決定した。
【0093】
(d)in vivo 異種移植検定
この検定は、雌 Swiss 無胸腺マウス(Alderley Park,nu/nu遺伝子型)におけるLoVo腫瘍(ATCCより入手した直腸結腸腺癌)の成長を阻害する試験化合物の能力を測定する。
【0094】
雌Swiss 無胸腺(nu/nu遺伝子型)マウスは、Alderley Park において、陰圧 Isolators(PFI Systems Ltd.)中で交配し且つ維持した。マウスを、隔離室中に12時間明/暗サイクルで収容し、滅菌した食物および水を制約なしに与えた。全ての手順を、少なくとも8週令のマウスについて行った。LoVo腫瘍細胞(ATCCより入手した直腸結腸腺癌)異種移植片を、ドナーマウスの後側腹部に、100μlの血清不含培地中に1x10個/匹の新鮮培養細胞の皮下注射によって樹立した。植込み後5日目に、マウスを無作為に7グループに分けた後、0.1ml/10g体重で1日1回投与される化合物またはビヒクル対照での処置を行った。腫瘍体積を、両側 Vernier カリパス測定により、式(長さx幅)xO(長さx幅)x(π/6)を用いて週2回評価したが、この長さは、腫瘍を横断する最長径であり且つ幅は、対応する垂直線であった。研究の開始からの成長阻害を、対照群と被処置群についての平均腫瘍体積変化の比較によって計算し、それら二つの群間の統計的有意性は、スチューデントt検定を用いて評価した。
【0095】
(e)hERGにコードされたカリウムチャンネル阻害検定
この検定は、ヒトether−a−go−go−関連遺伝子(hERG)にコードされたカリウムチャンネルを介して流れるテール(tail)電流を阻害する試験化合物の能力を決定する。
【0096】
hERGにコードされたチャンネルを発現しているヒト胎生腎(HEK)細胞を、10%ウシ胎児血清(Labtech International;製品番号4−101−500)、10%M1血清不含サプリメント(Egg Technologies;製品番号70916)および0.4mg/mlの Geneticin G418(Sigma-Aldrich;カタログ番号G7034)を補足したイーグル最小必須培地(Minimum Essential Medium Eagle)(EMEM;Sigma-Aldrich カタログ番号M2279)中で成長させた。各々の実験の1日または2日前に、それら細胞を、標準的な組織培養法を用いて、Accutase(TCS Biologicals)で組織培養フラスコから引き離した。次に、それらを、12ウェルプレートのウェル中にあるカバーガラス上に載せ、2mlの増殖用培地で覆った。
【0097】
記録された各々の細胞について、それら細胞が入っているカバーガラスを、浴溶液(下を参照されたい)が入っている Perspex 室の底に室温(約20℃)で置いた。この室を、倒立位相差顕微鏡のステージに固定した。カバーガラスを室中に置いた直後に、浴溶液を、自重供給貯槽から室中に、約2ml/分の速度で2分間灌流させた。この時間後、灌流を止めた。
【0098】
ホウケイ酸ガラス管(GC120F,Harvard Apparatus)からP−97マイクロピペット吸引器(puller)(Sutter Instrument Co.)を用いて作られたパッチピペットに、ピペット溶液(以下を参照されたい)を満たした。そのピペットを、パッチクランプ増幅器(Axopatch 200B,Axon Instruments)のヘッドステージに、銀/塩化銀ワイヤによって連結した。ヘッドステージ接地面を、アース電極に連結した。これは、0.85%塩化ナトリウムで作られた3%寒天中に埋封された銀/塩化銀ワイヤから構成された。
【0099】
細胞を、パッチクランプ法のホールセル配置で記録した。−80mVの保持電位(増幅器で設定される)で行われた「ブレークイン(break-in)」、および直列抵抗およびキャパシタンス制御の適当な調整の後、電気生理学ソフトウェア(Clampex,Axon Instruments)を用いて、保持電位(−80mV)を設定し、電圧プロトコールを送達した。このプロトコールは、15秒毎に適用したが、+40mVへの1s工程、次に−50mVへの1s工程から成った。各々課せられた電圧プロトコールへの電流応答は、増幅器によって1kHzで濾過された低通過であった。次に、濾過されたシグナルを、増幅器からのこのアナログ信号をアナログ・ディジタル変換器でディジタル化することによって、オンラインで獲得した。次に、ディジタル化された信号を、計算機作業用 Clampex ソフトウェア(Axon Instruments)で捕捉した。保持電位および+40mVへの工程中に、電流を1kHzでサンプリングした。次に、サンプリング速度を、電圧プロトコールの残部について、5kHzに設定した。
【0100】
浴およびピペット溶液の組成、pHおよびオスモル濃度を、下に表示する。
【0101】
【表1】

【0102】
【表2】

【0103】
+40mV〜−50mVの工程後のhERGにコードされたカリウムチャンネルテール電流の振幅を、Clampex ソフトウェア(Axon Instruments)によってオンラインで記録した。そのテール電流振幅の安定化後、試験物質用のビヒクルを含有する浴溶液を、細胞に適用した。そのビヒクル適用が、テール電流振幅に有意に作用しなかったという条件ならば、次に、化合物への累積濃度作用曲線を作成した。
【0104】
各々の濃度の試験化合物の作用は、ある与えられた濃度の試験化合物の存在下におけるテール電流振幅を、ビヒクルの存在下におけるそれの百分率として表すことによって定量した。
【0105】
試験化合物効力(IC50)は、標準的なデータ適合パッケージを用いて、濃度−作用を構成している阻害値百分率を4パラメーター Hill 式に適合することによって決定した。最高試験濃度で認められた阻害レベルが、50%を超えなかった場合、効力値は生じなかったので、その濃度での阻害値百分率を引用した。
【0106】
式Iの化合物の薬理学的性質は、考えられるような構造変化で異なるが、概して、式Iの化合物が有する活性は、上の試験(a)、(b)、(c)および(d)の一つまたはそれを超える試験において、次の濃度または用量で示すことができる。
【0107】
試験(a):− 例えば、0.001〜0.1μMの範囲内のIC50
試験(b):− 例えば、0.001〜0.1μMの範囲内のIC50
試験(c):− 例えば、0.1〜10μMの範囲内のIC50
試験(d):− 例えば、1〜200mg/kg/日の範囲内の活性。
【0108】
試験(d)において、本発明の試験された化合物の有効量では、生理学的に許容し得ない毒性が認められなかった。したがって、本明細書中の前に定義の式Iの化合物またはその薬学的に許容しうる塩を、以下に定義の投薬量範囲で投与する場合、不都合な毒物学的作用は考えられない。
【0109】
例として、EGFRチロシンキナーゼタンパク質リン酸化の阻害についての試験(a)、および上記のerbB2チロシンキナーゼタンパク質リン酸化の阻害についての試験(a)を用いると、本明細書中の実施例1に記載の化合物は、下の表Aに示されるIC50結果を生じた。
【0110】
【表3】

【0111】
本発明のもう一つの側面により、医薬組成物であって、本明細書中の前に定義の式Iのキナゾリン誘導体、またはその薬学的に許容しうる塩または薬学的に許容しうるエステルを、薬学的に許容しうる希釈剤または担体と一緒に含む医薬組成物を提供する。
【0112】
本発明のそれら組成物は、経口使用に(例えば、錠剤、舐剤、硬または軟カプセル剤、水性または油状懸濁剤、乳剤、分散性散剤または顆粒剤、シロップ剤またはエリキシル剤として)、局所使用に(例えば、クリーム剤、軟膏剤、ゲル剤、または水性または油状液剤または懸濁剤として)、吸入による投与に(例えば、微粉散剤または液体エアゾル剤として)、吹入による投与に(例えば、微粉散剤として)、または非経口投与に(例えば、静脈内、皮下、筋肉内または筋肉内投与用の滅菌水性または油状液剤として、または直腸投与用の坐剤として)適した形であってよい。
【0113】
本発明のそれら組成物は、当該技術分野において周知の慣用的な医薬賦形剤を用いて慣用法によって得ることができる。したがって、経口使用を予定した組成物は、例えば、一つまたはそれを超える着色剤、甘味剤、着香剤および/または保存剤を含有してよい。
【0114】
一つまたはそれを超える賦形剤と混合されて単一剤形を生じる活性成分の量は、必然的に、処置される宿主および具体的な投与経路に依って異なるであろう。例えば、ヒトへの経口投与を予定した製剤は、概して、全組成物の約5重量%〜約98重量%であってよい適切且つ好都合な量の賦形剤と配合される、例えば、0.5mg〜0.5gの活性剤(より好適には、0.5〜100mg、例えば、1〜30mg)を含有するであろう。
【0115】
式Iのキナゾリン誘導体の治療目的または予防目的の用量サイズは、当然ながら、周知の医学原則にしたがって、状態の性状および重症度、動物または患者の年齢および性別、および投与経路に依って異なるであろう。
【0116】
治療目的または予防目的に式Iのキナゾリン誘導体を用いる場合、それは、概して、必要ならば分割量で与えられる、例えば、0.1mg/kg〜75mg/kg(体重)の範囲内の1日用量が与えられるように投与されるであろう。非経口経路が用いられる場合、概して、より少ない用量が投与されるであろう。したがって、例えば、静脈内投与には、概して、例えば、0.1mg/kg〜30mg/kg(体重)の範囲内の用量が用いられるであろう。同様に、吸入による投与には、例えば、0.05mg/kg〜25mg/kg(体重)の範囲内の用量が用いられるであろう。しかしながら、経口投与は、特に、錠剤の形で好適である。典型的には、単位剤形は、約0.5mg〜0.5gの本発明の化合物を含有するであろう。
【0117】
本発明者は、本発明の化合物が、それらのerbBファミリー受容体チロシンキナーゼ阻害活性、具体的には、EGF受容体(erbB1)チロシンキナーゼの阻害によって生じると考えられる抗癌性のような増殖抑制性を有するということを発見した。更に、本発明によるある種の化合物は、EGF受容体チロシンキナーゼに対して、他のチロシンキナーゼ酵素、例えば、erbB2に対するよりも実質的に優れた効力を有する。このような化合物は、EGF受容体チロシンキナーゼに対して、EGF受容体チロシンキナーゼを阻害するのに十分な量でそれらを用いることができるような十分な効力を有するが、erbB2などの他のチロシンキナーゼに対しては、有意に低い活性を示す、またはほとんど示さない。このような化合物は、EGF受容体チロシンキナーゼの選択的阻害に有用であると考えられ、しかも例えば、EGFに推進される腫瘍の有効な処置に有用であると考えられる。
【0118】
したがって、本発明の化合物は、erbB受容体チロシンキナーゼ(特に、EGF受容体チロシンキナーゼ)によって単独でまたは部分的に媒介される疾患または医学的状態の処置に有用であると考えられる、すなわち、それら化合物は、このような処置を必要としている温血動物においてerbB受容体チロシンキナーゼ阻害作用を生じるのに用いることができる。したがって、本発明の化合物は、erbBファミリーの一つまたはそれを超える受容体チロシンキナーゼの阻害を特徴とする悪性細胞の処置方法を提供する。具体的には、本発明の化合物は、erbB受容体チロシンキナーゼの阻害によって単独でまたは部分的に媒介される増殖抑制作用および/またはプロアポトーシス作用および/または抗浸潤作用を生じるのに用いることができる。具体的には、本発明の化合物は、これら腫瘍細胞の増殖および生存を推進するシグナルトランスダクション段階に関与しているEGFおよび/またはerbB2および/またはerbB4受容体チロシンキナーゼ(特に、EGF受容体チロシンキナーゼ)のような一つまたはそれを超えるerbB受容体チロシンキナーゼの阻害に感受性であるそれら腫瘍の予防または処置に有用であると考えられる。したがって、本発明の化合物は、増殖抑制作用を与えることによって、乾癬、良性前立腺増殖症(BPH)、アテローム性動脈硬化症および再狭窄および/または癌の処置に、具体的には、erbB受容体チロシンキナーゼ感受性癌の処置に有用であると考えられる。このような良性または悪性の腫瘍は、いずれの組織にも影響を与えることがありうるし、そしてそれには、白血病、多発性骨髄腫またはリンパ腫のような非充実性腫瘍、そして更には、充実性腫瘍、例えば、総胆管、骨、膀胱、脳/CNS、乳房、結腸直腸、子宮内膜、胃、頭頸部、肝、肺、神経細胞、食道、卵巣、膵臓、前立腺、腎、皮膚、精巣、甲状腺、子宮および外陰部の癌が含まれる。
【0119】
本発明のこの側面により、薬剤として用いるための、式Iのキナゾリン誘導体、またはその薬学的に許容しうる塩または薬学的に許容しうるエステルを提供する。
本発明のもう一つの側面により、ヒトなどの温血動物の増殖抑制作用の生成に用いるための、式Iの化合物、またはその薬学的に許容しうる塩または薬学的に許容しうるエステルを提供する。
【0120】
したがって、本発明のこの側面により、ヒトなどの温血動物の増殖抑制作用の生成に用いるための薬剤の製造における、本明細書中の前に定義の式Iのキナゾリン誘導体、またはその薬学的に許容しうる塩または薬学的に許容しうるエステルの使用を提供する。
【0121】
本発明のこの側面のもう一つの特徴により、増殖抑制作用を生じさせる処置を必要としているヒトなどの温血動物において増殖抑制作用を生じさせる方法であって、この動物に、本明細書中の前に定義の式Iのキナゾリン誘導体、またはその薬学的に許容しうる塩または薬学的に許容しうるエステルの有効量を投与することを含む方法を提供する。
【0122】
本発明のもう一つの側面により、腫瘍細胞の増殖をもたらすシグナルトランスダクション段階に関与している、EGFRおよび/またはerbB2および/またはerbB4(特に、EGFR)のようなerbB受容体チロシンキナーゼの阻害に感受性であるそれら腫瘍の予防または処置に用いるための薬剤の製造における、本明細書中の前に定義の式Iのキナゾリン誘導体、またはその薬学的に許容しうる塩または薬学的に許容しうるエステルの使用を提供する。
【0123】
本発明のこの側面のもう一つの特徴により、腫瘍細胞の増殖および/または生存をもたらすシグナルトランスダクション段階に関与している、EGFRおよび/またはerbB2および/またはerbB4(特に、EGFR)のようなerbBファミリーの一つまたはそれを超える受容体チロシンキナーゼの阻害に感受性であるそれら腫瘍の処置を必要としているヒトなどの温血動物でのそれら腫瘍の予防または処置の方法であって、この動物に、本明細書中の前に定義の式Iのキナゾリン誘導体、またはその薬学的に許容しうる塩または薬学的に許容しうるエステルの有効量を投与することを含む方法を提供する。
【0124】
本発明のこの側面のもう一つの特徴により、腫瘍細胞の増殖をもたらすシグナルトランスダクション段階に関与している、EGFRおよび/またはerbB2および/またはerbB4(特に、EGFR)のようなerbB受容体チロシンキナーゼの阻害に感受性であるそれら腫瘍の予防または処置に用いるための、式Iの化合物、またはその薬学的に許容しうる塩または薬学的に許容しうるエステルを提供する。
【0125】
本発明のもう一つの側面により、EGFRおよび/またはerbB2および/またはerbB4(特に、EGFR)チロシンキナーゼ阻害作用を与える場合に用いるための薬剤の製造における、本明細書中の前に定義の式Iのキナゾリン誘導体、またはその薬学的に許容しうる塩または薬学的に許容しうるエステルの使用を提供する。
【0126】
本発明のこの側面のもう一つの特徴により、EGFRおよび/またはerbB2および/またはerbB4(特に、EGFR)チロシンキナーゼ阻害作用を与えることを必要としているヒトなどの温血動物にそのチロシンキナーゼ阻害作用を与える方法であって、この動物に、本明細書中の前に定義の式Iのキナゾリン誘導体、またはその薬学的に許容しうる塩または薬学的に許容しうるエステルの有効量を投与することを含む方法を提供する。
【0127】
本発明のこの側面のもう一つの特徴により、EGFRおよび/またはerbB2および/またはerbB4(特に、EGFR)チロシンキナーゼ阻害作用を与える場合に用いるための、式Iの化合物、またはその薬学的に許容しうる塩または薬学的に許容しうるエステルを提供する。
【0128】
本発明のもう一つの特徴により、選択的EGFRチロシンキナーゼ阻害作用を与える場合に用いるための薬剤の製造における、本明細書中の前に定義の式Iのキナゾリン誘導体、またはその薬学的に許容しうる塩または薬学的に許容しうるエステルの使用を提供する。
【0129】
本発明のこの側面のもう一つの特徴により、選択的EGFRチロシンキナーゼ阻害作用を与えることを必要としているヒトなどの温血動物に選択的EGFRチロシンキナーゼ阻害作用を与える方法であって、この動物に、本明細書中の前に定義の式Iのキナゾリン誘導体、またはその薬学的に許容しうる塩または薬学的に許容しうるエステルの有効量を投与することを含む方法を提供する。
【0130】
本発明のこの側面のもう一つの特徴により、選択的EGFRチロシンキナーゼ阻害作用を与える場合に用いるための、式Iの化合物、またはその薬学的に許容しうる塩または薬学的に許容しうるエステルを提供する。
【0131】
「選択的EGFRキナーゼ阻害作用」により、式Iのキナゾリン誘導体は、EGF受容体チロシンキナーゼに対して、他のキナーゼに対するよりも強力であるということを意味する。具体的には、本発明による若干の化合物は、EGF受容体キナーゼに対して、他のerbB受容体チロシンキナーゼのような他のチロシンキナーゼ、具体的には、erbB2に対するよりも強力である。例えば、本発明による選択的EGFRキナーゼ阻害剤は、適する検定における相対IC50値から決定されるように(例えば、上記のようなある与えられた試験化合物について、KB細胞検定からのIC50値と、クローン24ホスホ−erbB2細胞検定からのIC50値とを比較することによる)、EGF受容体チロシンキナーゼに対して、erbB2チロシンキナーゼに対するよりも少なくとも5倍、好ましくは、少なくとも10倍強力である。
【0132】
本発明のもう一つの側面により、癌(例えば、白血病、多発性骨髄腫、リンパ腫、総胆管、骨、膀胱、脳/CNS、乳房、結腸直腸、子宮内膜、胃、頭頸部、肝、肺、神経細胞、食道、卵巣、膵臓、前立腺、腎、皮膚、精巣、甲状腺、子宮および外陰部の癌より選択される癌)の処置に用いるための薬剤の製造における、本明細書中の前に定義の式Iのキナゾリン誘導体、またはその薬学的に許容しうる塩または薬学的に許容しうるエステルの使用を提供する。
【0133】
本発明のこの側面のもう一つの特徴により、癌(例えば、白血病、多発性骨髄腫、リンパ腫、総胆管、骨、膀胱、脳/CNS、乳房、結腸直腸、子宮内膜、胃、頭頸部、肝、肺、神経細胞、食道、卵巣、膵臓、前立腺、腎、皮膚、精巣、甲状腺、子宮および外陰部の癌より選択される癌)の処置を必要としているヒトなどの温血動物の癌を処置する方法であって、この動物に、本明細書中の前に定義の式Iのキナゾリン誘導体、またはその薬学的に許容しうる塩または薬学的に許容しうるエステルの有効量を投与することを含む方法を提供する。
【0134】
本発明のもう一つの側面により、癌(例えば、白血病、多発性骨髄腫、リンパ腫、総胆管、骨、膀胱、脳/CNS、乳房、結腸直腸、子宮内膜、胃、頭頸部、肝、肺、神経細胞、食道、卵巣、膵臓、前立腺、腎、皮膚、精巣、甲状腺、子宮および外陰部の癌より選択される癌)の処置に用いるための、式Iのキナゾリン誘導体、またはその薬学的に許容しうる塩または薬学的に許容しうるエステルを提供する。
【0135】
上述のように、具体的な疾患の治療的または予防的処置に必要な用量サイズは、特に、処置される宿主、投与経路、および処置されている疾患の重症度に依って、必然的に異なるであろう。
【0136】
本明細書中の前に定義の増殖抑制処置は、単独の療法として与えられてよいし、または本発明のキナゾリン誘導体に加えて、慣用的な外科手術または放射線療法または化学療法を伴ってよい。このような化学療法には、次の分類の一つまたはそれを超える抗腫瘍薬が含まれてよい。
【0137】
(i)医学腫瘍学で用いられるような増殖抑制薬/抗腫瘍薬およびそれらの組合せであって、アルキル化剤(例えば、シスプラチン、カルボプラチン、シクロホスファミド、ナイトロジェンマスタード、メルファラン、クロラムブシル、ブスルファンおよびニトロソ尿素);代謝拮抗薬(例えば、5−フルオロウラシルおよびテガフルのようなフルオロピリミジン類、ラルチトレキセド(raltitrexed)、メトトレキサート、シトシンアラビノシドおよびヒドロキシ尿素などの葉酸拮抗薬;抗腫瘍抗生物質(例えば、アドリアマイシン、ブレオマイシン、ドキソルビシン、ダウノマイシン、エピルビシン、イダルビシン(idarubicin)、マイトマイシンC、ダクチノマイシンおよびミトラマイシンのようなアントラサイクリン系);有糸分裂阻止薬(例えば、ビンクリスチン、ビンブラスチン、ビンデシンおよびビノレルビン(vinorelbine)のようなビンカアルカロイド類、およびタキソールおよびタキソテールのようなタキソイド類(taxoids));およびトポイソメラーゼ阻害剤(例えば、エトポシドおよびテニポシドのようなエピポドフィロトキシン類、アムサクリン、トポテカン(topotecan)およびカンプトテシン)のようなもの;
(ii)細胞分裂抑制薬であって、抗エストロゲン(例えば、タモキシフェン、トレミフェン(toremifene)、ラロキシフェン(raloxifene)、ドロロキシフェン(droloxifene)およびヨードキシフェン(iodoxyfene))、エストロゲン受容体ダウンレギュレーター(例えば、フルヴェストラント(fulvestrant))、抗アンドロゲン(例えば、ビカルタミド(bicalutamide)、フルタミド、ニルタミド(nilutamide)および酢酸シプロテロン)、LHRHアンタゴニストまたはLHRHアゴニスト(例えば、ゴセレリン、ロイプロレリン(leuprorelin)およびブセレリン(buserelin))、プロゲストゲン(例えば、酢酸メゲストロール)、アロマターゼ阻害剤(例えば、アナストロゾール(anastrozole)、レトラゾール(letrazole)、ボラゾール(vorazole)およびエクセメスタン(exemestane))、およびフィナステリドのような5α−レダクターゼ阻害剤のようなもの;
(iii)癌細胞浸潤を阻害する薬剤(例えば、マリマスタト(marimastat)のようなメタロプロテイナーゼ阻害剤およびウロキナーゼプラスミノーゲンアクチベーター受容体機能の阻害剤);
(iv)増殖因子機能の阻害剤、例えば、このような阻害剤には、増殖因子抗体、増殖因子受容体抗体(例えば、抗erbb2抗体トラスツズマブ[HerceptinTM]および抗erbb1抗体セツキシマブ(cetuximab)[C225])、ファルネシルトランスフェラーゼ阻害剤、チロシンキナーゼ阻害剤およびセリン/トレオニンキナーゼ阻害剤、例えば、上皮増殖因子ファミリーの他の阻害剤(例えば、N−(3−クロロ−4−フルオロフェニル)−7−メトキシ−6−(3−モルホリノプロポキシ)キナゾリン−4−アミン(ゲフィチニブ(gefitinib),AZD1839)、N−(3−エチニルフェニル)−6,7−ビス(2−メトキシエトキシ)キナゾリン−4−アミン(エルロチニブ(erlotinib),OSI−774)および6−アクリルアミド−N−(3−クロロ−4−フルオロフェニル)−7−(3−モルホリノプロポキシ)キナゾリン−4−アミン(CI 1033)などのEGFRファミリーチロシンキナーゼ阻害剤)、例えば、血小板由来増殖因子ファミリーの阻害剤、そして例えば、肝細胞増殖因子ファミリーの阻害剤が含まれる;
(v)抗血管新生薬であって、血管内皮増殖因子の作用を阻害するもの(例えば、抗血管内皮細胞増殖因子抗体ベヴァシズマブ(bevacizumab)[AvastinTM]、国際特許出願WO97/22596号、WO97/30035号、WO97/32856号およびWO98/13354号に開示されたような化合物)、および他の機構によって作用する化合物(例えば、リノマイド(linomide)、インテグリンαvβ3機能の阻害剤およびアンギオスタチン(angiostatin))のようなもの;
(vi)血管損傷性薬であって、Combretastatin A4、および国際特許出願WO99/02166号、WO00/40529号、WO 00/41669号、WO01/92224号、WO02/04434号およびWO02/08213号に開示された化合物のようなもの;
(vii)アンチセンス療法、例えば、ISIS2503、抗rasアンチセンスのような、上に挙げられた標的に向けられているもの;
(viii)遺伝子治療アプローチであって、例えば、異常p53または異常BRCA1またはBRCA2のような異常遺伝子を置き換えるアプローチ;シトシンデアミナーゼ、チミジンキナーゼまたは細菌ニトロレダクターゼ酵素を用いたものなどのGDEPT(遺伝子に支配される酵素プロドラッグ療法(gene-directed enzyme pro-drug therapy))アプローチ;および多剤耐性遺伝子治療のような、化学療法または放射線療法への患者耐性を増加させるアプローチを含めたもの;および
(ix)免疫療法アプローチであって、例えば、インターロイキン2、インターロイキン4または顆粒球−マクロファージコロニー刺激因子などのサイトカインでのトランスフェクションのような、患者腫瘍細胞の免疫原性を増加させる ex-vivo および in-vivo アプローチ;T細胞アネルギーを減少させるアプローチ;サイトカインでトランスフェクションされた樹状細胞のような、トランスフェクションされた免疫細胞を用いたアプローチ;サイトカインでトランスフェクションされた腫瘍細胞系を用いたアプローチ;および抗イディオタイプ抗体を用いたアプローチを含めたもの。
【0138】
このような共同処置は、その処置の個々の成分の同時の、逐次的または別々の投与によって達成することができる。このような組合せ製品は、本明細書中の前に記載の投薬量範囲内の本発明の化合物と、承認された投薬量範囲内の他の薬学的活性剤を用いる。
【0139】
本発明のこの側面により、癌の共同処置のための、本明細書中の前に定義の式Iのキナゾリン誘導体および本明細書中の前に定義の追加の抗腫瘍薬を含む医薬製品を提供する。
式Iのキナゾリン誘導体は、主に、温血動物(ヒトを含めた)に用いるための治療薬として価値があるが、それらは、更に、erbB受容体チロシンプロテインキナーゼの作用を阻害することが要求される場合はいつでも有用である。したがって、それらは、新しい生物学的試験の開発においておよび新しい薬理学的物質の探求において用いるための薬理学的標準として有用である。
【0140】
本発明を、ここで、次の非制限実施例によって詳しく説明するが、ここにおいて、特に断らない限り、
(i)温度は、摂氏度(℃)で与えられている;操作は、室温または周囲温度で、すなわち、18〜25℃の範囲内の温度で行った;
(ii)有機溶液は、無水硫酸マグネシウム上で乾燥させた;溶媒の蒸発は、減圧下(600〜4000パスカル;4.5〜30mmHg)においてロータリーエバポレーターを用いて、60℃までの浴温度で行った;
(iii)クロマトグラフィーとは、シリカゲル上のフラッシュクロマトグラフィーを意味する;薄層クロマトグラフィー(TLC)は、シリカゲルプレート上で行った;
(iv)概して、反応経過を、TLCおよび/または分析用LC−MSで追跡したが、反応時間は、単に例示のために与えられている;
(v)最終生成物は、納得のいくプロトン核磁気共鳴(NMR)スペクトルおよび/または質量スペクトルデータを有した;
(vi)収率は、単に例示のために与えられていて、高度な方法開発によって得ることができるものでは必ずしもない;より多くの材料が必要な場合、製造を反復した;
(vii)与えられている場合のNMRデータは、特に断らない限り、溶媒としてペルジュウテリオジメチルスルホキシド(DMSO−d)を用いて300MHzで決定され、内部標準としてのテトラメチルシラン(TMS)に相対する百万分率(ppm)で与えられる、主要な診断用プロトンのδ値の形である;次の略語を用いた:s,一重線;d,二重線;t,三重線;q,四重線;m,多重線;br,幅広;
(viii)化学記号は、それらの通常の意味を有する;SI単位および記号が用いられている;
(ix)溶媒比は、容量:容量(v/v)という用語で与えられる;そして
(x)質量スペクトル(MS)は、直接暴露プローブを用いた化学イオン化(CI)法において70電子ボルトの電子エネルギーで実験し、イオン化は、エレクトロスプレーで行った;m/zの値が与えられている;概して、親質量を示すイオンのみを報告している;そして特に断らない限り、引用された質量イオンは、(MH)である;
(xi)合成が、前の実施例に記載されたのと同様であると記載されている場合、用いられる量は、前の実施例で用いられた量へのミリモル比相当量である;
(xii)融点は未補正であるが、Mettler SP62自動融点装置または Buchi 535融点装置を用いて決定した;そして
(xiii)次の略語を用いた:
DMA N,N−ジメチルアセトアミド
HATU O−(7−アザベンゾトリアゾール−1−イル)−N,N,N’,N’−テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスフェート
IMS 工業用変性アルコール
IPA イソプロピルアルコール
MeOH メタノール;および
NMP N−メチルピロリジン−2−オン。
【実施例】
【0141】
実施例1
4−(3−クロロ−2−フルオロアニリノ)−6−[1−(ヒドロキシアセチル)ピペリジン−4−イルオキシ]−7−メトキシキナゾリン
【0142】
【化10】

【0143】
HATU(28.9g)を、塩化メチレン(900ml)中の4−(3−クロロ−2−フルオロアニリノ)−7−メトキシ−6−(ピペリジン−4−イルオキシ)キナゾリン二塩酸塩(30g)、グリコール酸(5.40g)およびジイソプロピルエチルアミン(44.70ml)の撹拌溶液に加えた。1.5時間後、反応混合物を、水酸化ナトリウム溶液(2M)、水および飽和ブラインで洗浄した。次に、得られた生成物を、シリカ上のフラッシュクロマトグラフィーにより、3%MeOH/塩化メチレンで溶離して精製した。所望の生成物を含有する画分を一緒にし、真空中で減少させて、標題生成物を、アセトニトリルから再結晶した白色固体として生じた(29.6g)。
【0144】
【化11】

【0145】
出発物質である4−(3−クロロ−2−フルオロアニリノ)−7−メトキシ−6−(ピペリジン−4−イルオキシ)キナゾリン二塩酸塩は、次のように製造した。
6−アセトキシ−4−クロロ−7−メトキシキナゾリン(WO01/66099号の実施例25−5;10.0g,39.6mmole)を、氷/水浴中で10℃に冷却され、撹拌された7Nメタノール性アンモニア溶液(220ml)に少量ずつ加えた。1時間撹拌後、沈殿を濾過し、ジエチルエーテルで洗浄し、高真空下で十分に乾燥させて、4−クロロ−6−ヒドロキシ−7−メトキシキナゾリン(5.65g,67.8%)を生じた。
【0146】
【化12】

【0147】
塩化メチレン(20ml)中のアゾジカルボン酸ジ−tert−ブチル(9.22g)を、塩化メチレン(100ml)中の4−クロロ−6−ヒドロキシ−7−メトキシキナゾリン(5.63g)、4−ヒドロキシ−1−tert−ブトキシカルボニルピペリジン(8.06g)およびトリフェニルホスフィン(10.5g)の撹拌懸濁液に、窒素雰囲気下において5℃で徐々に加えた。その反応混合物を室温に16時間暖めた。次に、反応混合物を、真空下で蒸発させ、シリカ上に吸着させ、そして生成物を、イソヘキサン/酢酸エチル/トリエチルアミン(75/24/1の後、70/29/1)で溶離した。所望の生成物を含有する画分を一緒にし、真空下で蒸発させて、4−[(4−クロロ−7−メトキシキナゾリン−6−イル)オキシ]ピペリジン−1−カルボン酸 tert−ブチルを白色固体(10.3g)として生じた。
【0148】
【化13】

【0149】
ジオキサン中の4.0M HCl(4.0ml)を、イソプロパノール(50ml)中の4−[(4−クロロ−7−メトキシキナゾリン−6−イル)オキシ]ピペリジン−1−カルボン酸 tert−ブチル(2.62g)および3−クロロ−2−フルオロアニリン(1.08g)の懸濁液に加えた。その反応混合物を撹拌し、100℃で2時間加熱した。黄色沈殿を熱濾過し、そしてイソプロパノールで、次にジエチルエーテルで洗浄し、真空下で乾燥させて、6−(ピペリジン−4−イルオキシ)−4−(3−クロロ−2−フルオロアニリノ)−7−メトキシキナゾリンを二塩酸塩(2.38g)として生じた。
【0150】
【化14】

【0151】
実施例2
4−(3−クロロ−2−フルオロアニリノ)−6−[1−(ヒドロキシアセチル)ピペリジン−4−イルオキシ]−7−メトキシキナゾリンL−酒石酸塩二水和物。
【0152】
水(5ml)中のL−酒石酸(0.85g)の溶液を、IMS(25ml)中の4−(3−クロロ−2−フルオロアニリノ)−6−[1−(ヒドロキシアセチル)ピペリジン−4−イルオキシ]−7−メトキシキナゾリン(2.5g)に80℃で加えた。80℃で5分間撹拌後、その溶液を、周囲温度に1時間にわたって冷却した。約45℃で、固体が晶出した。その混合物を、周囲温度で30分間撹拌後、0〜5℃に冷却した。固体を濾過し、IMS(2x7.5ml)で洗浄した。その固体を、真空下において50℃で恒量まで乾燥させて、標題生成物(3.13g;89.3%収率)を生じた。
【0153】
【化15】

【0154】
融点:開始128.8℃、ピーク137.4℃。
実施例3
4−(3−クロロ−2−フルオロアニリノ)−6−[1−(ヒドロキシアセチル)ピペリジン−4−イルオキシ]−7−メトキシキナゾリンマレイン酸塩
IMS(10ml)中のマレイン酸(0.66g)の溶液を、IMS(25ml)中の4−(3−クロロ−2−フルオロアニリノ)−6−[1−(ヒドロキシアセチル)ピペリジン−4−イルオキシ]−7−メトキシキナゾリン(2.5g)に80℃で加えた。水(3ml)を加えた。80℃で5分間撹拌後、その溶液を、周囲温度に1時間にわたって冷却した。約50℃で、固体が晶出した。その混合物を、周囲温度で30分間撹拌後、0〜5℃に冷却した。固体を濾過し、IMS(2x7.5ml)で洗浄した。その固体を、真空下において50℃で恒量まで乾燥させた。次に、その固体を、10%水性IPA中において82〜85℃で1時間加熱後、周囲温度に1時間にわたって冷却した。固体を濾過し、IPA(2x5ml)で洗浄した。その固体を、真空下において50℃で恒量まで乾燥させて、標題生成物(1.63g;52.3%収率)を生じた。
【0155】
【化16】

【0156】
融点:開始165.4℃、ピーク169.7℃。
実施例4
4−(3−クロロ−2−フルオロアニリノ)−6−[1−(ヒドロキシアセチル)ピペリジン−4−イルオキシ]−7−メトキシキナゾリンメタンスルホン酸塩
実施例4.1
水(7ml)中のメタンスルホン酸(1.02g)の溶液を、IPA(25ml)中の4−(3−クロロ−2−フルオロアニリノ)−6−[1−(ヒドロキシアセチル)ピペリジン−4−イルオキシ]−7−メトキシキナゾリン(4.6g)に40℃で加えた。その混合物を80℃に加熱し、その間に、固体は全て溶解した。その溶液を、清浄な容器中に、50℃より上に溶液を維持しながら濾過した。15%水性IPA(18ml)のラインウォッシュ(line wash)後、合わせた濾液およびウォッシュを、40℃で加熱した。撹拌すると、固体が晶出した。その混合物を、周囲温度に30分間にわたって冷却し、この温度で1時間撹拌した。固体を濾過し、IPA(2x7ml)で洗浄し、そして真空下において50℃で恒量まで乾燥させて、4−(3−クロロ−2−フルオロアニリノ)−6−[1−(ヒドロキシアセチル)ピペリジン−4−イルオキシ]−7−メトキシキナゾリンメタンスルホン酸塩(4.66g;83%収率)を生じた。
【0157】
【化17】

【0158】
融点:開始228.9℃、ピーク232℃。
実施例4.2
4−(3−クロロ−2−フルオロアニリノ)−6−[1−(ヒドロキシアセチル)ピペリジン−4−イルオキシ]−7−メトキシキナゾリン(25g)を、NMP(125ml)中に、35〜40℃に加熱することによって溶解させた。得られた溶液を、清浄な容器に、35〜40℃で温度を維持しながら濾過した。NMP(25ml)のラインウォッシュ後、メタンスルホン酸(5.48g)を加えた後、IMS(150ml)を加えた。その混合物を、周囲温度に2時間にわたって冷却するが、その間に、メタンスルホン酸塩が晶出する。反応混合物を、0〜5℃に更に冷却する。固体を濾過し、IMS(2x50ml)で洗浄し、そして真空下において55℃で恒量まで乾燥させて、4−(3−クロロ−2−フルオロアニリノ)−6−[1−(ヒドロキシアセチル)ピペリジン−4−イルオキシ]−7−メトキシキナゾリンメタンスルホン酸塩(26.48g;87.6%収率)を生じた。
【0159】
【化18】

【0160】
融点:開始230.5℃、ピーク232℃。
実施例5
4−(3−クロロ−2−フルオロアニリノ)−6−[1−(ヒドロキシアセチル)ピペリジン−4−イルオキシ]−7−メトキシキナゾリン
4−(3−クロロ−2−フルオロアニリノ)−7−メトキシ−6−(ピペリジン−4−イルオキシ)−キナゾリン二塩酸塩エタノール溶媒和化合物(91.8g)、4−(ジメチルアミノ)ピリジン(73.3g)およびアセトニトリル(330ml)を、窒素下において20℃〜25℃で撹拌した。アセトキシアセチルクロリド(28ml)を、30℃未満で温度を維持しながら加えた後、アセトニトリルラインウォッシュ(37ml)を加えた。その反応混合物を、周囲温度で60分間撹拌後、水(250ml)および47%w/w水酸化ナトリウム溶液(77.2ml)を加えた後、水ラインウォッシュ(25ml)を、30℃未満で温度を維持しながら加えた。反応混合物を周囲温度で120分間撹拌後、下方水性層を分離した。水(735ml)を有機層に加え、そして混合物を周囲温度で、固体が晶出するまで撹拌した。固体を濾過し、50%水性アセトニトリル(2x90ml)で洗浄後、50℃〜55℃の真空オーブン中で乾燥させて、標題生成物(65.8g;83.9%収率)を生じた。
【0161】
融点195.5〜196.5℃。
【0162】
【化19】

【0163】
出発物質である4−(3−クロロ−2−フルオロアニリノ)−7−メトキシ−6−(ピペリジン−4−イルオキシ)−キナゾリン二塩酸塩エタノール溶媒和化合物は、次のように製造した。
【0164】
工程1:4−(3−クロロ−2−フルオロアニリノ)−6−ヒドロキシ−7−メトキシキナゾリンの製造
6−アセトキシ−7−メトキシ−4(1H)−キナゾリノン(150g;WO96/15118号の実施例39に記載のように製造される)、N,N−ジイソプロピルエチルアミン(123ml)およびトルエン(1275ml)を、窒素下において70℃で撹拌した。そのスラリーに、オキシ塩化リン(150ml)を70℃で15分間にわたって加えた。混合物を70℃で2時間保持して、塩素化を完了させた。オキシ塩化リンを添加後、30分後に暗褐色溶液が形成した。トルエン(680ml)を反応混合物に加えた後、3−クロロ−2−フルオロアニリン(78ml)を70℃で10分間にわたって加えた。添加完了時に、固体が沈殿して、ベージュ色スラリーを生じた。そのスラリーを、70℃で1時間保持した後、周囲温度に冷却した。反応混合物を濾過し、そしてトルエン(2x300ml)、水性IMS(2x450ml)およびIMS(2x450ml)で洗浄した。その固体を、フィルター上で吸引乾燥させて、6−アセトキシ−4−(3−クロロ−2−フルオロアニリノ)−7−メトキシキナゾリン・HCl塩を生じた。
【0165】
【化20】

【0166】
6−アセトキシ−4−(3−クロロ−2−フルオロアニリノ)−7−メトキシキナゾリン・HCl塩(約253g)、メタノール(1900ml)および水(632.5ml)を、周囲温度で撹拌した。水酸化ナトリウム溶液(47%w/w;108ml)を滴加し、反応混合物を60℃に加熱して、暗色溶液を形成した。その溶液を、60℃で1時間保持した後、清浄な容器へとスクリーニングした。混合物を周囲温度に冷却後、酢酸(72.8ml)を加えた。沈殿した固体を濾過し、50%水性メタノール(500ml)およびメタノール(500ml)で洗浄後、真空オーブン中において45℃で乾燥させて、4−(3−クロロ−2−フルオロアニリノ)−6−ヒドロキシ−7−メトキシキナゾリンを生じた(204.8g;75.7%収率)。
【0167】
融点265〜268℃。
【0168】
【化21】

【0169】
工程2:4−[4−(3−クロロ−2−フルオロアニリノ)−7−メトキシキナゾリン−6−イルオキシ]ピペリジン−1−カルボン酸 tert−ブチルの製造
4−(3−クロロ−2−フルオロアニリノ)−6−ヒドロキシ−7−メトキシキナゾリン(116.7g)、4−メチルスルホニルオキシピペリジン1−カルボン酸 tert−ブチル(153.1g)、炭酸カリウム(75.7g)およびNMP(700ml)を、窒素下において100℃〜105℃で24時間撹拌した。その混合物を、75℃〜80℃に冷却後、70℃より上に温度を維持しながら、水(1080ml)を加えた。混合物を70℃〜75℃で90分間撹拌後、20℃〜25℃に冷却した。得られた固体を濾過し、水(2x175ml)で洗浄後、50℃〜55℃の真空オーブン中で乾燥させて、4−[4−(3−クロロ−2−フルオロアニリノ)−7−メトキシキナゾリン−6−イルオキシ]ピペリジン−1−カルボン酸 tert−ブチルを生じた(174.4g;95%収率)。
【0170】
融点:192〜193.5℃。
【0171】
【化22】

【0172】
工程3:4−(3−クロロ−2−フルオロアニリノ)−7−メトキシ−6−(ピペリジン−4−イルオキシ)−キナゾリン二塩酸塩エタノール溶媒和化合物の製造
4−[4−(3−クロロ−2−フルオロアニリノ)−7−メトキシキナゾリン−6−イルオキシ]ピペリジン−1−カルボン酸 tert−ブチル(107.9g)、エタノール(1208ml)、濃塩酸(67ml)およびエタノールラインウォッシュ(100ml)を、70℃〜75℃で2時間撹拌した。その混合物を、60℃に1時間にわたって冷却後、4−(3−クロロ−2−フルオロアニリノ)−7−メトキシ−6−(ピペリジン−4−イルオキシ)−キナゾリン二塩酸塩の種結晶を加えた後、0℃〜5℃に3時間にわたって冷却した。得られた固体を濾過し、エタノール(2x100ml)で洗浄後、50℃〜55℃の真空オーブン中で乾燥させて、4−(3−クロロ−2−フルオロアニリノ)−7−メトキシ−6−(ピペリジン−4−イルオキシ)−キナゾリン二塩酸塩エタノール溶媒和化合物を生じた(94.3g;81.4%収率)。
【0173】
融点:212〜214℃。
【0174】
【化23】

【0175】
注記1:用いられた種結晶は、上記と同じ合成を用いるが、種結晶を加え且つ徐々に冷却することなく得た。
実施例6
リン酸二水素2−[4−{4−[3−クロロ−2−フルオロアニリノ]−7−メトキシキナゾリン−6−イルオキシ}ピペリジン−1−イル]−2−オキソエチル
【0176】
【化24】

【0177】
1,4−ジオキサン中の4M塩化水素(1.95ml)を、1,4−ジオキサン(16ml)中の2−[4−(4−[3−クロロ−2−フルオロアニリノ]−7−メトキシキナゾリン−6−イルオキシ)ピペリジン−1−イル]−2−オキソエチルリン酸ジ−tert−ブチル(0.951g)の撹拌溶液に加えた。その混合物を一晩撹拌した後、ジエチルエーテル(50ml)を加えた。得られた沈殿を、濾過によって集め、乾燥させて、標題生成物を白色固体(0.77g)として生じた。
【0178】
【化25】

【0179】
出発物質として用いられた2−[4−(4−[3−クロロ−2−フルオロアニリノ]−7−メトキシキナゾリン−6−イルオキシ)ピペリジン−1−イル]−2−オキソエチルリン酸ジ−tert−ブチルは、次のように製造した。
【0180】
テトラゾール(0.46g)およびジ−tert−ブチルN,N−ジエチルホスホロアミダイト(2.16g)を、DMA(17ml)中の4−(3−クロロ−2−フルオロアニリノ)−6−[1−(ヒドロキシアセチル)ピペリジン−4−イルオキシ]−7−メトキシキナゾリン(1.00g)の撹拌溶液に加えた。その混合物を室温で1時間撹拌後、0℃に冷却した。30%水性過酸化水素(1.23ml)を滴加し、得られた混合物を室温に暖め、更に2時間撹拌した。次に、混合物を0℃に冷却し、水性ピロ亜硫酸ナトリウムを加えた(10%,5ml)。20分後、水性飽和重炭酸ナトリウムを、その溶液が塩基性になるまで加えた。次に、反応混合物を酢酸エチル(3x50ml)で抽出し、そしてシリカ上のフラッシュカラムクロマトグラフィーによって精製して、2−[4−(4−[3−クロロ−2−フルオロアニリノ]−7−メトキシキナゾリン−6−イルオキシ)ピペリジン−1−イル]−2−オキソエチルリン酸ジ−tert−ブチルを白色固体として生じた(0.951g)。
【0181】
質量スペクトル:(M+H)653。
実施例7
医薬組成物
次は、ヒトの治療的または予防的使用のための、本明細書中に定義の本発明の代表的な医薬剤形を詳しく説明する(活性成分は、「化合物X」と称する)。
【0182】
(a)
【0183】
【表4】

【0184】
(b)
【0185】
【表5】

【0186】
上の製剤は、当薬学技術分野において周知の慣用法によって製造することができる。例えば、錠剤は、それら成分を一緒にブレンドし、そしてその混合物を打錠して錠剤にすることによって製造することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式I:
【化1】

(式中、Rは、水素およびメトキシより選択され;そして
は水素である)
を有するキナゾリン誘導体、またはその薬学的に許容しうる塩または薬学的に許容しうるエステル。
【請求項2】
4−(3−クロロ−2−フルオロアニリノ)−6−[1−(ヒドロキシアセチル)ピペリジン−4−イルオキシ]−7−メトキシキナゾリンである、請求項1に記載のキナゾリン誘導体;またはその薬学的に許容しうる塩または薬学的に許容しうるエステル。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のキナゾリン誘導体またはその薬学的に許容しうる塩。
【請求項4】
薬学的に許容しうる酸付加塩の形の、請求項1または請求項2に記載のキナゾリン誘導体。
【請求項5】
薬学的に許容しうる酸付加塩が、マレイン酸、酒石酸およびメタンスルホン酸より選択される有機酸で形成される酸付加塩である、請求項4に記載のキナゾリン誘導体。
【請求項6】
請求項1または請求項2に記載のキナゾリン誘導体またはその薬学的に許容しうる塩の薬学的に許容しうるリン酸エステル。
【請求項7】
リン酸二水素2−[4−{4−[3−クロロ−2−フルオロアニリノ]−7−メトキシキナゾリン−6−イルオキシ}ピペリジン−1−イル]−2−オキソエチルである、請求項1に記載のキナゾリン誘導体またはその薬学的に許容しうる塩。
【請求項8】
医薬組成物であって、請求項1または請求項2に記載の式Iのキナゾリン誘導体、またはその薬学的に許容しうる塩または薬学的に許容しうるエステルを、薬学的に許容しうる希釈剤または担体と一緒に含む医薬組成物。
【請求項9】
薬剤として用いるための、請求項1または請求項2に記載の式Iのキナゾリン誘導体、またはその薬学的に許容しうる塩または薬学的に許容しうるエステル。
【請求項10】
ヒトなどの温血動物での増殖抑制作用の生成に用いるための薬剤の製造における、請求項1または請求項2に記載の式Iのキナゾリン誘導体、またはその薬学的に許容しうる塩または薬学的に許容しうるエステルの使用。
【請求項11】
腫瘍細胞の増殖をもたらすシグナルトランスダクション段階に関与しているerbB受容体チロシンキナーゼの阻害に感受性である腫瘍の予防または処置に用いるための薬剤の製造における、請求項1または請求項2に記載の式Iのキナゾリン誘導体、またはその薬学的に許容しうる塩または薬学的に許容しうるエステル塩の使用。
【請求項12】
増殖抑制作用を生じさせる処置を必要としている温血動物で増殖抑制作用を生じさせる方法であって、該動物に、前に定義の式Iのキナゾリン誘導体、またはその薬学的に許容しうる塩または薬学的に許容しうるエステルの有効量を投与することを含む方法。
【請求項13】
腫瘍細胞の増殖および/または生存をもたらすシグナルトランスダクション段階に関与しているerbBファミリーの一つまたはそれを超える受容体チロシンキナーゼの阻害に感受性である腫瘍の処置を必要としている温血動物でのこのような腫瘍の予防または処置の方法であって、該動物に、請求項1または請求項2に記載の式Iのキナゾリン誘導体、またはその薬学的に許容しうる塩または薬学的に許容しうるエステルの有効量を投与することを含む方法。
【請求項14】
選択的EGFRチロシンキナーゼ阻害作用を与えることを必要としている温血動物で選択的EGFRチロシンキナーゼ阻害作用を与える方法であって、該動物に、請求項1または請求項2に記載の式Iのキナゾリン誘導体、またはその薬学的に許容しうる塩または薬学的に許容しうるエステルの有効量を投与することを含む方法。
【請求項15】
癌を処置することを必要としている温血動物で癌を処置する方法であって、該動物に、請求項1または請求項2に記載の式Iのキナゾリン誘導体、またはその薬学的に許容しうる塩または薬学的に許容しうるエステルの有効量を投与することを含む方法。
【請求項16】
請求項1または請求項2に記載の式Iのキナゾリン誘導体、またはその薬学的に許容しうる塩または薬学的に許容しうるエステルの製造方法であって、
式II:
【化2】

(式中、Rは、請求項1に定義の通りであり、式IIの化合物中の任意の官能基は、必要ならば保護されている)
を有する化合物またはその塩を、式III:
【化3】

(式中、Rは、請求項1に定義の通りであり、式IIIの化合物中の任意の官能基は、必要ならば保護されている)
を有するカルボン酸またはその反応性誘導体とカップリングさせ;そしてその後、必要ならば(任意の順序で)、
(i)慣用的な技法によって任意の保護基を除去し;
(ii)薬学的に許容しうる塩を形成し;そして
(iii)薬学的に許容しうるエステルを形成すること
を含む方法。

【公表番号】特表2007−500177(P2007−500177A)
【公表日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−521660(P2006−521660)
【出願日】平成16年7月27日(2004.7.27)
【国際出願番号】PCT/GB2004/003259
【国際公開番号】WO2005/012290
【国際公開日】平成17年2月10日(2005.2.10)
【出願人】(300022641)アストラゼネカ アクチボラグ (581)
【Fターム(参考)】