説明

テラヘルツ波エミッタ装置

【課題】光スイッチをアレイ化してもスクリーニング効果により、十分なテラヘルツ波の出力が得られない。
【解決手段】テラヘルツ波を発生するテラヘルツ波エミッタ装置であって、半導体テンプレート14と、その上に形成されたアンテナパターンとを備え、前記アンテナパターンは、ダイポールアンテナを構成する第1のアンテナ電極と第2のアンテナ電極とからなる光スイッチ12が複数並べられた光スイッチアレイと、複数の光スイッチ12の第1のアンテナ電極同士を接続する第1の伝送線路11と、複数の光スイッチの第2のアンテナ電極同士を接続する第2の伝送線路11とを有し、複数の光スイッチ12は、前記第1のアンテナ電極の先端部と前記第2のアンテナ電極の先端部とがギャップ13を介して対向し、それぞれのアンテナ電極の先端部が、ギャップ13に向けて漸次幅狭に形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はテラヘルツ波を発生させる装置に関する。
【背景技術】
【0002】
周波数が100GHz〜10THzであるテラヘルツ波は、その直進性やセラミック、プラスチック、紙などの不透明な物質に対する透過性という特徴から、分光学、バイオメディカル、イメージング、及びセキュリティー分野などへの応用展開が注目されている。これに伴い、上記分野への応用開発が活発になされているが、同時に、基本的な構成要素であるテラヘルツ検出器や発振器の性能向上に関する開発は必須課題である。なかでも、小型で高出力のテラヘルツ波発生器の開発需要は大きい。
【0003】
図18は、従来のテラヘルツ波の発生原理を概略説明した図である。同図は、フェムト秒レーザ501が、光伝導効果や光学的非線形効果を有する結晶基板502に入射されることにより、テラヘルツ波503が放射されることを示している。同図(a)は透過モードを、また、同図(b)は反射モードを表している。通常、高出力のテラヘルツ波が必要とされるときは、透過モードを使用する方が有利である。
【0004】
また、結晶基板材料としては、無機結晶材料であるZnTe、GaSe、InP、InAsや、有機結晶材料であるDAST(4−(dimethylamino) stilbazolium p−toluensulfonate)などが使用されている。
【0005】
しかしながら、これらの材料を用いてテラヘルツ波を発生させるためには、上記結晶材料が有する光伝導効果や非線形効果を引き出すための高出力のレーザが必要とされる。この高出力のフェムト秒レーザ501は一般的に高価でサイズが大きい。
【0006】
これに対し、比較的低出力で小型のフェムト秒レーザおよび光伝導効果を用いた光スイッチによるテラヘルツ波の発生も確認されている。図19は、小型のフェムト秒レーザおよび光スイッチを用いた従来のテラヘルツ波発生装置の構成図を示す。同図に示されるテラヘルツ波発生装置は、フェムト秒レーザ501と、テラヘルツ波503と、半絶縁性GaAsウェハ504と、低温成長GaAsテンプレート505と、電極506および507と、電極506および507が最接近している部分であるギャップ部508と、半球状Siレンズ509と、DCバイアス電圧510とを備える。
【0007】
光スイッチは2つの電極506および507とギャップ部508とで構成される。
【0008】
電極506および507は、半絶縁性GaAsウェハ504上に低温成長した膜厚1〜4μmの低温成長GaAsテンプレート上に形成される。GaAsは高い移動度および短いキャリア寿命をもつといった点で、テラヘルツ波発生に適した材料と考えられている。また、電極506および507は、2つの伝送線路とその間に設けられたダイポールアンテナから構成される。
【0009】
ギャップ部508に、集光されたフェムト秒レーザ501が照射されると、ギャップ部508にキャリアである電子正孔対が生成される。そして、DCバイアス電圧510の印加により、電子および正孔がそれぞれ正極および負極へ加速され、テラヘルツ波503の発生が加速される。また、DCバイアス電圧510の供給タイミングとフェムト秒レーザ501のビーム照射のタイミングを同期させることにより、テラヘルツ波出力の高効率化およびSN比の改善がなされる。
【0010】
ここで、空気とGaAsウェハの屈折率の差のため、放射されたテラヘルツ波503は、アンテナとして機能する電極506および507面からよりもむしろ、その反対側の半絶縁性GaAsウェハ504の裏面から放射される。この光スイッチが形成された半絶縁性GaAsウェハ504の裏面には、光スイッチから放射されるテラヘルツ波503を最大限集光するために、半球状Siレンズ509が配置されている。この場合、半球状Siレンズ509のセンターと光スイッチのギャップ部508の位置調整が必要となる。この半球状Siレンズ509を使うことにより、テラヘルツ波503の内部での全反射が防止される。
【0011】
しかし、図19に示されるような単一のGaAs光スイッチを用いてテラヘルツ波の発生装置を構成した場合、以下のような問題点が挙げられる。
【0012】
(1)光スイッチとしての有効面積が小さい
図19をみて明らかなように、テラヘルツ波503の発生に寄与しているのは、高価な低温成長GaAsテンプレート505上の僅かな面積を占めるギャップ部508であり、残りの低温成長GaAsテンプレート505領域は、光スイッチを構造的に支持してはいるが、テラヘルツ波503の発生には直接貢献していない。また、貴重なフェムト秒レーザ501の一部のパワーしかテラヘルツ波503へと変換できない。
【0013】
(2)光スイッチとしての静電容量が小さい
単一の光スイッチは、静電容量が小さく、DCバイアス電圧510から供給された電荷を十分保持できないので、テラヘルツ波503の出力が制限される。
【0014】
上述した、単一の光スイッチで構成されたテラヘルツ波発生装置の課題を解決する手段として、光スイッチをアレイ化し、それぞれの光スイッチに独立したバイアス電圧を供給することが提案されている(特許文献1)。この提案によれば、光スイッチのアレイ化および供給バイアス電圧の最適化により、高価な半導体基板が有効に利用されること、また、レンズにより分配されたフェムト秒レーザが複数の光スイッチアレイに同時に照射されること、また、電気回路定数や材料物性を最適化にすることでほぼ光スイッチアレイの規模に応じた高出力のテラヘルツ波発生が期待される。
【特許文献1】特開2000−49402号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかしながら、上述した光スイッチのアレイ化においては、隣接する光スイッチのギャップ部の相互干渉が考慮されておらず、また、ギャップ部の形状に応じて楕円状のレーザが照射されたとき、結果的に強力なスクリーニング効果により、テラヘルツ波の出力が予想に反して減少してしまう。
【0016】
さらに、個々の光スイッチに独立したバイアス電圧を供給するためには、少なくとも片側の伝送線路は電位が共通化されず、接続された個々のダイポールアンテナに対して引き出し電極が必要となり、また、電圧供給回路も複雑化され、回路規模が大きくなってしまう。
【0017】
ここでいうスクリーニング効果とは、フェムト秒レーザなどの光照射により励起されて発生した電子および正孔が空間的に混在した状態であるとき、バイアス電圧の印加により加速されて瞬時電流が流れる時に、相互作用により発生を打ち消し合い、テラヘルツ波発生を飽和状態にしてしまう現象をいう(非特許文献1)。
【0018】
以下、スクリーニング効果について検証した結果を説明する。
【0019】
図20は、スクリーニング効果を検証したときの測定システムの構成図であり、また、図21(a)および図21(b)は、フェムト秒レーザのビーム径を変えたときのテラヘルツ波出力の比較波形図である。図20に示す測定システムは、フェムト秒レーザ501と、オプティカルチョッパ511と、単一の光スイッチを備えたテラヘルツ波発生器512と、球面ミラー513と、レーザフィルタ用Siウェハ514と、ボロメータ515と、ロックインアンプ516と、オシロスコープ517とを備える。
【0020】
ボロメータ515を用いてテラヘルツ波が検出されることにより、スクリーニング効果が観察される。サファイア上に1ミクロン厚のカーボンドープされたGaN層を用いて単一光スイッチが作製された。フェムト秒レーザ501が単一光スイッチ上に照射され、半球面状のSiレンズと1組の球面ミラー513を介して、ボロメータ515によりテラヘルツ波の出力が測定された。ボロメータ515により測定された出力は、オプティカルチョッパ511やレーザドライバからの参照信号を用いてロックインアンプ516により分析された。テラヘルツ波の出力は電気信号として測定され、図21(a)および図21(b)に示されるようにオシロスコープで観測された。このときのフェムト秒レーザ501のビーム径はそれぞれ4mmおよび0.8mmであった。このとき、フェムト秒レーザ501のそれぞれのパワー密度は同じである。
【0021】
図21(a)および図21(b)に示された測定データにより、以下のような結果が得られた。
【0022】
(1)光スイッチのギャップサイズより十分大きなビーム径をもつレーザがギャップ近辺に広く照射された場合、発生する光電流は大きいと推察されるがテラヘルツ波の出力521は小さい。
【0023】
(2)光スイッチのギャップサイズと同程度に小さなビーム径をもつレーザがギャップ近辺に集中して照射された場合、発生する光電流は小さいと推察されるがテラヘルツ波の出力531は大きい。
【0024】
以上の検証により、スクリーニング効果は、照射するレーザビーム径と光スイッチのギャップの大きさとの相対関係、および印加バイアス電圧を考慮しなかった場合、テラヘルツ波の出力を抑制してしまい、結果的に、光スイッチをアレイ化しても所望のテラヘルツ波の高出力は得られないという問題が生じる。
【0025】
本発明は、上述したスクリーニング効果を最小に抑え、小さなパワーのレーザ照射でテラヘルツ波の高出力化を果たすテラヘルツ波エミッタ装置を提供することを目的とする。
【非特許文献1】Dae Sim Kim et al., “Enhancement of terahertz radiation from photoconductors by elliptically focused excitation”, Applied Physics Letters, vol.87, 061108 (2005)
【課題を解決するための手段】
【0026】
上記目的を達成するために、本発明に係るテラヘルツ波エミッタ装置は、光伝導効果によりテラヘルツ波を発生するテラヘルツ波エミッタ装置であって、半導体基板と、前記半導体基板上に形成されたアンテナパターンとを備え、前記アンテナパターンは、ダイポールアンテナを構成する第1のアンテナ電極と第2のアンテナ電極とからなる光スイッチが複数並べられた光スイッチアレイと、前記複数の光スイッチの第1のアンテナ電極同士を接続する第1の伝送線路と、前記複数の光スイッチの第2のアンテナ電極同士を接続する第2の伝送線路とを有し、前記複数の光スイッチのそれぞれでは、前記第1のアンテナ電極の先端部と前記第2のアンテナ電極の先端部とがギャップを介して対向し、前記第1のアンテナ電極の先端部と前記第2のアンテナ電極の先端部とは、それぞれ、前記ギャップに向けて漸次幅狭に形成されていることを特徴とする。
【0027】
これにより、ギャップ間の電界がギャップの先端に集中し、電界密度の高い領域が局所的に形成される。よって、レーザは、そのビーム径を絞ることにより小さなパワーで効果的に照射されるので、各々の光スイッチにおけるスクリーニング効果が減少する。また、高い電界密度が得られることも相まって、個々のテラヘルツ波の出力は増加する。これをアレイ化することにより、スクリーニング効果が最小化され、小さなレーザパワーでテラヘルツ波の高出力が得られる。
【0028】
また、前記第1のアンテナ電極の先端部および前記第2のアンテナ電極の先端部が共に先鋭形状を有していることが好ましい。
【0029】
これにより、アンテナ電極の先端の電界密度が最大化され、個々のテラヘルツ波出力が増加する。
【0030】
また、前記複数の光スイッチのそれぞれでは、前記第1のアンテナ電極の長さと、前記第2のアンテナ電極の長さとが等しく、前記光スイッチアレイでは、すべての前記第1のアンテナ電極の長さが等しく、かつ、すべての前記第2のアンテナ電極の長さが等しく、かつ、前記第1のアンテナ電極の先端部と前記第2のアンテナ電極の先端部との距離であるギャップ長がすべて等しくてもよい。
【0031】
これにより、コヒーレントで狭帯域なテラヘルツ波の高出力化が実現される。
【0032】
また、前記複数の光スイッチのそれぞれでは、前記第1のアンテナ電極の長さと、前記第2のアンテナ電極の長さとが異なり、前記光スイッチアレイでは、すべての前記第1のアンテナ電極の長さが等しく、かつ、すべての前記第2のアンテナ電極の長さが等しく、かつ、前記第1のアンテナ電極の先端部と前記第2のアンテナ電極の先端部との距離であるギャップ長がすべて等しくてもよい。
【0033】
これにより、テラヘルツ波の放射がギャップの両側に位置するダイポールアンテナの長短により、非対称となる。よって、コヒーレントでアンテナ電極方向に指向性を持つテラヘルツ波の高出力化が実現される。
【0034】
また、前記光スイッチアレイでは、隣り合う光スイッチ同士は、前記第1のアンテナ電極の長さが異なり、かつ隣り合う光スイッチ同士は、前記第2のアンテナ電極の長さが異なり、前記第1のアンテナ電極の長さおよび前記第2のアンテナ電極の長さの変化パターンが段階的であり、前記光スイッチアレイにわたり前記変化パターンが周期的に繰り返され、かつ、前記第1のアンテナ電極の先端部と前記第2のアンテナ電極の先端部との距離であるギャップ長がすべて等しくてもよい。
【0035】
これにより、隣り合う光スイッチ間でのギャップは近接せず、ギャップ間のスクリーニング効果が抑制され、テラヘルツ波の高出力化が実現される。さらに、照射されるレーザビームを必要以上に絞る必要がない。
【0036】
また、前記光スイッチアレイでは、前記第1のアンテナ電極の長さ、前記第2のアンテナ電極の長さ、及び、前記第1のアンテナ電極の先端部と前記第2のアンテナ電極の先端部との距離であるギャップ長がランダムに異なって配置されていてもよい。
【0037】
これにより、広帯域なテラヘルツ波の高出力化が実現される。
【0038】
また、前記第1の伝送線路と前記第2の伝送線路との間隔は、少なくとも前記第1のアンテナ電極および前記第2のアンテナ電極が接続されている領域において、一定であることが好ましい。
【0039】
これにより、光スイッチアレイが多段化された場合に、その構成がコンパクトとなり、高密度なテラヘルツ放射がなされ、テラヘルツ波の高出力化が実現される。
【0040】
さらに、前記光スイッチアレイでは、隣り合う光スイッチどうしの間隔が、すべての光スイッチにわたり段階的に変化してもよい。
【0041】
これにより、伝送線路の方向に、高密度または低密度のテラヘルツ放射がなされる部分が存在する。よって、伝送線路の方向に指向性を持つテラヘルツ波の高出力化が実現される。
【0042】
また、前記光スイッチアレイでは、隣り合う光スイッチ同士の間隔がすべて等しく、前記間隔はNλ/4nであり、前記Nは整数であり、前記λは発生するテラヘルツ波の波長であり、前記nは前記半導体基板の屈折率であってもよい。
【0043】
これにより、コヒーレントなテラヘルツ波の高出力化が実現される。
【0044】
また、前記光スイッチのそれぞれでは、前記光スイッチのアンテナ形状が中央部にギャップを有するボウタイ型であってもよい。
【0045】
これにより、広帯域なテラヘルツ波の高出力化が実現される。
【0046】
また、前記光スイッチアレイでは、前記複数の光スイッチが2列以上並べられていてもよい。
【0047】
これにより、光スイッチアレイが高密度化され、使用される半導体ウェハの有効利用が実現される。また、レーザビームを同心円状に分配または集光することが可能となり、レンズのハンドリングが容易となる。
【0048】
また、列方向隣接する前記光スイッチの方向が、前記光スイッチのピッチの間隔の半分だけ列方向にずれていてもよい。
【0049】
これにより、個々の光スイッチにレーザビームを照射する際にレンズアレイを用いる場合に、レンズアレイを構成する個々のレンズの配置をより緻密にすることが可能となる。
【0050】
また、前記半導体基板は、GaAsにより形成された結晶の基板、または、GaAsにより形成された結晶の基板の表面に低温成長した低温成長GaAsテンプレートを備える基板であってもよい。
【0051】
これにより、レーザ照射により発生するキャリアのキャリア寿命が短く、また、移動度が高くなることに起因して、個々の光スイッチのテラヘルツ波の高出力化が実現される。
【0052】
また、前記半導体基板は、サファイアにより形成された結晶の基板の表面に成長したGaNテンプレート、または、SiCにより形成された結晶の基板の表面に成長したGaNテンプレート、または、Siにより形成された結晶の基板の表面に成長したGaNテンプレートを備えてもよい。
【0053】
また、前記半導体基板は、SiCにより形成された結晶の基板、または、サファイアにより形成された結晶の基板の表面に成長したSiCテンプレート、または、SiCにより形成された結晶の基板の表面に成長したSiCテンプレート、または、Siにより形成された結晶の基板の表面に成長したSiCテンプレートを備えてもよい。
【0054】
これにより、個々の光スイッチのブレークダウン電圧が高いことに起因して、個々の光スイッチへの印加電圧を高く設定することが可能となり、テラヘルツ波の高出力化が実現される。
【0055】
また、上記手段は、さらに、前記SiCテンプレートの膜厚は0.1〜5μmとすることにより、テラヘルツ波の高出力化が促進される。
【0056】
また、前記半導体基板は、別の半導体基板上に設けられていてもよい。
【0057】
これにより、光スイッチアレイを含むコアの半導体基板と、その他の引き出し電極などで構成された周辺部とを分離し、周辺部を別の安価な半導体で構成することにより、低コストのテラヘルツ波エミッタ装置が実現される。
【0058】
また、前記半導体基板は、別の半導体基板の表面に設けられた凹部に実装されていてもよい。
【0059】
これにより、光スイッチアレイを含む半導体基板と、その他の引き出し電極などで構成された周辺部とを分離し、周辺部を別の安価な半導体で構成することにより、低コストのテラヘルツ波エミッタ装置が実現される。さらに、レーザビームと光スイッチアレイの被照射部との位置合わせが自動的になされ、損失のない高効率なレーザ照射が実現される。
【0060】
また、前記テラヘルツ波エミッタ装置は、前記複数のギャップのそれぞれに対してレーザビームを分配して照射するためのレンズアレイを備えてもよい。
【0061】
これにより、個々の光スイッチに対して、個別にレーザビームを照射することができ、レーザ照射の損失が抑制され、高い変換効率を有するテラヘルツ波エミッタ装置が実現される。
【0062】
また、前記テラヘルツ波エミッタ装置は、前記複数のギャップのそれぞれに対してレーザビームを分配して照射するためのレンズアレイを備え、前記レンズアレイは、外周部を接して一列に配置されたレンズの列が複数列配置され、隣接する前記レンズ列どうしは、一個のレンズの半径分だけずれて接している凸型マイクロレンズアレイであってもよい。
【0063】
また、前記テラヘルツ波エミッタ装置は、前記複数のギャップのそれぞれに対してレーザビームを分配して照射するためのレンズアレイを備え、前記レンズアレイは、六角形状でかつ中心に向かってステップ状に厚みを増していく凸型形状である個々のレンズが、互いに外周部を接して密に配置されたレンズ群である回折型マイクロレンズアレイであってもよい。
【0064】
これにより、個々の光スイッチに対して、個別にレーザビームを照射することができ、レーザ照射の損失が抑制され、高い変換効率を有するテラヘルツ波エミッタ装置が実現される。また、高密度のレンズアレイが構成されるためレンズおよび光スイッチアレイの小型化が実現される。
【0065】
また、前記テラヘルツ波エミッタ装置は、前記すべてのギャップに対してレーザビームを集束して照射するための単体のレンズを備えてもよい。
【0066】
これにより、複雑なレンズアレイを構成することなく、また、ビームを単体の光スイッチアレイのサイズレベルまで集束する必要がないので、安価な構成にてテラヘルツ波エミッタ装置が実現される。
【0067】
なお、本発明は、このような特徴的な手段を備えるテラヘルツ波エミッタ装置として実現することができるだけでなく、テラヘルツ波エミッタ装置の製造方法として実現できる。
【発明の効果】
【0068】
本発明により、光スイッチのスクリーニング効果を最小に抑え、小さなレーザパワーで高出力のテラヘルツ波を発生させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0069】
(実施の形態1)
本実施の形態1におけるテラヘルツ波エミッタ装置は、光伝導効果を有する半導体基板の表面に形成されたアンテナパターンが、2本の伝送線路と、それらに挟まれダイポールアンテナ構造をもった複数の光スイッチからなる光スイッチアレイとを備える。また、光スイッチのギャップ付近の形状は、ギャップに向かって漸次幅狭となっている。これにより、光スイッチのスクリーニング効果を最小に抑え、小さなレーザパワーで高出力のテラヘルツ波を発生させることができる。
【0070】
以下、本発明の実施の形態1について、図面を参照して詳細に説明する。
【0071】
図1は、本発明の実施の形態1におけるテラヘルツ波エミッタ装置の構成を示す外観図である。同図におけるテラヘルツ波エミッタ装置は、光スイッチアレイチップ1と、フェムト秒レーザビーム2と、バイアス電圧3とを備える。さらに、光スイッチアレイチップ1は、伝送線路11と、複数のアンテナ電極12と、複数のギャップ13と、半導体テンプレート14とを備える。
【0072】
伝送線路11、アンテナ電極12、およびギャップ13とが、発生したテラヘルツを放射するためのアンテナパターンを形成する。
【0073】
伝送線路11は、互いに対向した第1の伝送線路および第2の伝送線路を備え、バイアス電圧3の印加により、それぞれ正極直流電極または負極直流電極としての役割を担う。
【0074】
アンテナ電極12は、第1の伝送線路に接続されている第1のアンテナ電極と、第2の伝送線路に接続されている第2のアンテナ電極を備え、テラヘルツ波の放射アンテナとして、また、それぞれ正極直流電極または負極直流電極としての役割を担う。
【0075】
ギャップ13は、フェムト秒レーザビーム2の照射により励起されたキャリアが高密度に発生する部分であり、バイアス電圧3の印加により、光励起されたキャリアが加速され、波長変換されることによりテラヘルツ波が発生する。
【0076】
アンテナパターンの形状は、図1に示されるように、第1のアンテナ電極の長さL1および第2のアンテナ電極の長さL2は等しく、また、すべてのダイポールアンテナにわたり同じ形状で、ダイポールアンテナ同士の間隔Lnは等しい。さらに、第1のアンテナ電極と第2のアンテナ電極との距離であるギャップ長L3もすべてのダイポールアンテナにわたり同じ形状である。
【0077】
寸法としては、例えば、L1およびL2は30μm、L3は5μm、ダイポールアンテナ同士の間隔Lnは42.8μmである。この寸法により、例えば、空気中で300μmの波長を持つ1THzのテラヘルツ波をアレイ全体としてコヒーレントに放射することができる。ここで、LnはNλ/4n(N=2、λ=300μm、n=3.5(GaAsの屈折率))として計算した値を採用した。また、導電膜の膜厚は300nm未満であり、Ni、Cr、およびAuを主成分としている。
【0078】
半導体テンプレート14は、照射されたレーザパルス光により励起されたキャリアを発生する半導体基板として機能し、材料としては、例えば、半絶縁性のGaAs(Semi−Insulating GaAs、以降SI−GaAsと呼ぶ。)の結晶基板上に低温成長させた低温成長GaAsテンプレート(Low−Temperature−grown GaAs、以降LT−GaAsテンプレートと呼ぶ。)、または、GaAsからなる結晶基板そのものである。このLT−GaAsテンプレートは、キャリア寿命が短く、移動度が高いので、光励起による瞬時電流の発生および変化に対し有利な材料である。
【0079】
また、半導体テンプレート14の別の材料としては、サファイアにより形成された結晶の基板上、半絶縁性のSiCにより形成された結晶の基板上、または、半絶縁性のSiにより形成された結晶の基板上に成長させた半絶縁性のGaNテンプレートであってもよい。この半絶縁性のGaNテンプレートは、耐電圧が高いので、高バイアス電圧を印加することができる点で、有利な材料である。
【0080】
また、半導体テンプレート14の別の材料としては、半絶縁性のSiCにより形成された結晶の基板上、または、半絶縁性のSiにより形成された結晶の基板上、またはサファイアにより形成された結晶の基板上に成長させた半絶縁性のSiCテンプレート、または半絶縁性のSiCにより形成された結晶の基板そのものであってもよい。この半絶縁性のSiCテンプレートおよびSiC結晶基板も、上述した半絶縁性のGaNテンプレート同様、耐電圧が高いので、高バイアス電圧を印加することができる点で、有利な材料である。
【0081】
また、これらのLT−GaAsテンプレート、半絶縁性のGaNテンプレート、および半絶縁性のSiCテンプレートは、0.1μm以下の場合、表層欠陥により光励起されたキャリアがトラップされてしまい、テラヘルツ波の放射が減少してしまう。一方、膜厚が5μm以上の場合、光励起されたキャリアが深さ方向に拡散してしまい、キャリア密度が減少してしまう。よって、これらの膜厚は0.1μm〜5μmであることが好ましい。
【0082】
フェムト秒レーザビーム2は、レーザパルス光として機能し、例えば、半導体テンプレート14としてLT−GaAsテンプレートが使用される場合は、波長800nmのレーザビームが最適であり、また、半導体テンプレート14として半絶縁性のGaNテンプレートが使用される場合は、波長266nmのUV帯レーザビームが最適である。
【0083】
ここで、光スイッチによるテラヘルツ波の発生原理を説明する。
【0084】
時間幅が100フェムト秒(1フェムト秒は10-15秒)以下のレーザパルスを光スイッチアレイチップ1のギャップ13に照射すると、光励起によりギャップ13表面にキャリア(電子と正孔)が生成され、印加されたバイアス電圧3によりキャリアの移動が加速され、瞬時電流が流れ、この電流の時間微分に比例したテラヘルツパルス波が発生する。ギャップ13の間隔は5μm程度であり、放射されるテラヘルツ波の波長(数百μm程度)に比べて十分小さい。よって、瞬時電流が流れる時、キャリアは集団で動くと考えられ、放射されるテラヘルツ波はコヒーレントな放射となる。
【0085】
一般に、一つの光スイッチからのテラヘルツ出力の大きさは、低バイアス電圧領域および低レーザパワー領域においては、印加バイアス電圧およびレーザパワーに比例する。一方、高バイアス電圧領域または、高レーザパワー領域においては、一つの光スイッチからのテラヘルツ出力の大きさは、生成されたキャリアのスクリーニング効果により飽和する傾向にある。
【0086】
図1に示されるように、ギャップ13付近におけるアンテナ電極12の先端形状は、ギャップ13に向かって、漸次幅狭となっている。これにより、先端形状がアンテナ電極12の幅にわたり一様な間隔のギャップを形成している場合に比べ、同じバイアス電圧を印加しても、ギャップに発生する電界は先端部に集中し、電界密度は高くなる。さらに、照射するフェムト秒レーザビーム2の径をギャップ13の形状に応じてより小さくすることが可能となり、狭い領域で大きな瞬時電流が流れることになり、スクリーニング効果の抑制が実現される。すなわち、小さなバイアス電圧印加および小さなレーザパワー照射でも、大きなテラヘルツ波の出力が得られる。
【0087】
なお、光スイッチの数が増加するほど個々の光スイッチで発生したテラヘルツ波出力が総和され、また、アンテナとしての電荷容量が増加するので、光スイッチアレイとしてのテラヘルツ出力は増加する。
【0088】
ここで、本発明の実施の形態1におけるテラヘルツ波エミッタ装置の製造プロセスを説明する。
【0089】
図2は、本発明の実施の形態1におけるテラヘルツ波エミッタ装置を構成する光スイッチアレイチップ1の作製プロセスを示す図である。ここでは、半導体テンプレート14として、前述したLT−GaAsテンプレートを使用した場合を例に挙げる。
【0090】
まず、SI−GaAs基板201上にLT−GaAsテンプレート202を低温成長させる(S21)。次にフォトレジストをLT−GaAsテンプレート202上に塗布し、フォトリソグラフィー法により所望のアンテナパターンを反映したフォトレジスト層203にパターニングする(S22)。最後に、パターニングされたフォトレジスト層203上に、膜厚が300nm未満であるNi、Cr、Alを主成分とする金属膜を成膜し、リフトオフプロセスにより、金属膜のアンテナパターン204が形成される(S23)。
【0091】
以上のように、本発明の実施の形態1におけるテラヘルツ波エミッタ装置によれば、光スイッチのギャップ付近の形状が、ギャップに向かって漸次幅狭となっている光スイッチをアレイ化することで、光スイッチアレイのスクリーニング効果を最小に抑え、小さなレーザパワーで高出力のテラヘルツ波を発生させることができる。また、光伝導効果が発生する半導体テンプレートとして、短いキャリア寿命、高い移動度、高い耐電圧をもつ半導体膜を選択することにより、更なるテラヘルツ波の高出力化が達成される。
【0092】
図3は、本発明の実施の形態1における第1の変形例を示す光スイッチアレイチップの平面図である。図3(a)は光スイッチアレイチップ4の全体平面図であり、同図(b)は光スイッチが並列接続されている部分の拡大図である。同図におけるテラヘルツ波エミッタ装置は、光スイッチアレイチップ4と、フェムト秒レーザビーム21と、バイアス電圧3とを備える。光スイッチアレイチップ4は、伝送線路41と、アンテナ電極42と、ギャップ43と、半導体テンプレート44と、バイアス電圧印加正電極45と、バイアス電圧印加負電極46とを備える。
【0093】
同図における光スイッチアレイチップ4は、図1における光スイッチアレイチップ1と比較して、アンテナ電極42が並列接続されている一段の光スイッチアレイが、その長手方向と直交する方向へ、複数段配置されている点が機能的に異なる。また、各部の使用材料および作製プロセスは、図1における光スイッチアレイチップ1と同様である。
【0094】
実施の形態1と同じ点は説明を省略し、以下、異なる点について詳細に説明をする。
【0095】
図3(b)の拡大図は、アンテナ電極42が並列接続されている複数の光スイッチが、その3列配置されていることを示している。ここで、第1のアンテナ長L1と第2のアンテナ長L2は等しく、すべての光スイッチは同じ形状であり、ギャップ長L3もすべて同じである。光スイッチの複数列化により、光スイッチアレイ全体の形状が正方形に近づき、一本の円形状のレーザビームで光スイッチアレイ全体にフェムト秒レーザビーム21を照射する場合の照射効率が、1列の光スイッチからなる長方形状の光スイッチアレイに比べ、相対的に向上し、結果的に、テラヘルツ波の高出力化が図られる。
【0096】
なお、本実施の形態における変形例では3列の光スイッチを採用したが、光スイッチの列数は、照射するレーザビームの形状に応じて、また、光スイッチアレイチップ全体のサイズに応じて調整してよい。
【0097】
例えば、単体レンズを用いてレーザビームを集光させる場合は、光スイッチアレイの形状を正方形または円形とすることにより、効率的なレーザビームの照射が達成される。
【0098】
以上のように、本発明の実施の形態1の第1の変形例によるテラヘルツ波エミッタ装置によれば、光スイッチアレイの形状をレーザビームの形状に合わせることにより、レーザビームの照射効率が向上し、小さなレーザパワーで高出力のテラヘルツ波を発生させることができる。
【0099】
図4は、本発明の実施の形態1における第2の変形例を示す光スイッチアレイチップの平面図である。図4(a)は光スイッチアレイチップ5の全体平面図であり、同図(b)は光スイッチが並列接続されている部分の拡大図である。同図におけるテラヘルツ波エミッタ装置は、光スイッチアレイチップ5と、フェムト秒レーザビーム22と、バイアス電圧3とを備える。光スイッチアレイチップ5は、伝送線路41と、アンテナ電極42と、ギャップ43と、半導体テンプレート44と、バイアス電圧印加正電極45と、バイアス電圧印加負電極46とを備える。
【0100】
同図における光スイッチアレイチップ5は、図3における光スイッチアレイチップ4と比較して、アンテナ電極42およびギャップ43の配置が光スイッチの列毎に異なる。また、各部の使用材料および作製プロセスは、図1における光スイッチアレイチップ1と同様である。
【0101】
実施の形態1における第1の変形例と同じ点は説明を省略し、以下、異なる点について詳細に説明をする。
【0102】
図4(b)に示されるように、1列の光スイッチ列401においては、光スイッチは等間隔で配列されている。また、隣接する光スイッチ列401同士は、光スイッチ同士の間隔Lnの半分だけ左右にシフトして配置されている。
【0103】
この配置を採れば、開口効率の高いレンズアレイを用いることが可能となる。
【0104】
図5は、マイクロレンズアレイの平面図および断面図である。図5(a)は六角形状の回折型マイクロレンズアレイ51の平面図および断面図であり、図5(b)は各レンズの中心を結んだ形状が六角形状に配置された凸型マイクロレンズアレイ52の平面図および断面図を示している。いずれのレンズアレイもレンズの間の隙間が最小となっており、緻密に配列されているため開口効率が高い。材質は、ガラス基板とエポキシの組み合わせ、またはソーダ系高透明ガラスが使用される。
【0105】
図4(b)に示されるフェムト秒レーザビーム22の照射パターンと、図5(a)および図5(b)に示されるレンズアレイの配列パターンとは形状がよく一致する。よって、両者の組み合わせにより、分光されたフェムト秒レーザビーム22は、各光スイッチのギャップ43を中心に効率よく照射される。
【0106】
なお、本実施の形態における変形例では4列の光スイッチを採用したが、光スイッチの列数は、照射するレーザビームの形状に応じて、また、光スイッチアレイチップ全体のサイズに応じて調整してよい。
【0107】
例えば、単体レンズを用いてレーザビームを集光させる場合は、光スイッチアレイの形状を正方形または円形とすることにより、効率的なレーザビームの照射が達成される。
【0108】
以上のように、本発明の実施の形態1の第2の変形例によるテラヘルツ波エミッタ装置によれば、隣り合う光スイッチ列の配置を光スイッチのピッチの半分だけずらせることにより、照射効率の高いマイクロレンズアレイを使用することが可能となり、レーザビームの入射効率が高く、かつ、高出力のテラヘルツ波を発生させることができる。
【0109】
図6は、本発明の実施の形態1における第3の変形例を示す光スイッチアレイチップの平面図である。図6(a)は光スイッチアレイチップ6の全体平面図であり、同図(b)はアンテナ電極が並列接続されている部分の拡大図である。同図(a)において、光スイッチアレイチップ6は、伝送線路61と、アンテナ電極42と、ギャップ43と、半導体テンプレート44と、バイアス電圧印加正電極45と、バイアス電圧印加負電極46とを備える。
【0110】
同図における光スイッチアレイチップ6は、図4における光スイッチアレイチップ5と比較して、伝送線路61が直線形状ではない点が異なる。また、各部の使用材料および作製プロセスは、図1における光スイッチアレイチップ1と同様である。
【0111】
実施の形態1における第2の変形例と同じ点は説明を省略し、以下、異なる点について詳細に説明をする。
【0112】
図6(b)は、光スイッチアレイチップ6の中央部の拡大図である。伝送線路61はジグザグ形状となっている。つまり、アンテナ電極42の存在する部分の2本の伝送線路61の間隔を大きくし、それ以外の部分の伝送線路61の間隔を狭くすることにより、図5に示される六角形状の回折型マイクロレンズアレイ51または各レンズの中心を結んだ形状が六角形状に配置された凸型マイクロレンズアレイ52を効率良く使用する場合、比較的大きなビーム形状でよく、ビームを厳しく絞る必要がない。さらには、光スイッチアレイチップ6全体に占める光スイッチの密度が向上し、省面積化に貢献できる。
【0113】
なお、本実施の形態における変形例では3列の光スイッチを採用したが、光スイッチの列数は、照射するレーザビームの形状に応じて、また、光スイッチアレイチップ全体のサイズに応じて調整してよい。
【0114】
例えば、単体レンズを用いてレーザビームを集光させる場合は、光スイッチアレイの形状を正方形または円形とすることにより、効率的なレーザビームの照射が達成される。
【0115】
以上のように、本発明の実施の形態1の第3の変形例によるテラヘルツ波エミッタ装置によれば、伝送線路をジグザグ形状に配置することにより、照射効率の高いマイクロレンズアレイを使用する場合のビーム径の絞り込みが緩和され、かつ、省面積化が図られる。
【0116】
(実施の形態2)
本実施の形態2におけるテラヘルツ波エミッタ装置は、複数列の光スイッチを備え、それぞれの光スイッチのギャップ付近の形状は、ギャップに向かって漸次幅狭となっており、第1のアンテナ長と第2のアンテナ長が異なる。これにより、光スイッチのスクリーニング効果を最小に抑え、小さなレーザパワーで指向性をもつ高出力のテラヘルツ波を発生させることができる。
【0117】
以下、本発明の実施の形態2について、図面を参照して詳細に説明する。
【0118】
図7は、本発明の実施の形態2におけるテラヘルツ波エミッタ装置の構成を示す外観図である。図7(a)は光スイッチアレイチップ7の全体平面図であり、同図(b)は光スイッチが並列接続されている部分の拡大図である。同図におけるテラヘルツ波エミッタ装置は、光スイッチアレイチップ7と、フェムト秒レーザビーム21と、バイアス電圧3とを備える。さらに、光スイッチアレイチップ7は、伝送線路41と、アンテナ電極72と、ギャップ73と、半導体テンプレート44と、バイアス電圧印加正電極45と、バイアス電圧印加負電極46とを備える。
【0119】
同図における光スイッチアレイチップ7は、図3における光スイッチアレイチップ4と比較して、アンテナ電極72の形状およびそれに伴うギャップ73の位置が異なる。また、各部の使用材料および作製プロセスは、図1における光スイッチアレイチップ1と同様である。
【0120】
実施の形態1における第1の変形例と同じ点は説明を省略し、以下、異なる点について詳細に説明をする。
【0121】
図7(b)の拡大図において、第1のアンテナの長さL1と第2のアンテナの長さL2が異なり、すべての光スイッチは同形状である。また、ギャップ長L3もすべての光スイッチで同じである。
【0122】
一般的に、電磁波は金属膜と容易に結合するが、その金属膜の形状により、結合度合いが異なる。従って、本発明に係る実施の形態2のように、第1のアンテナ長L1と第2のアンテナ長L2が異なると、アンテナ電極間でのテラヘルツ波の放射量の差異により、全体的なテラヘルツ波放射に指向性が生じる。よって、第1のアンテナ長L1と第2のアンテナ長L2を調整することにより、光スイッチの長手方向と平行な方向に、テラヘルツ波の指向性を任意に制御することが可能となる。
【0123】
なお、本実施の形態では3列の光スイッチを採用したが、光スイッチの列数は、照射するレーザビームの形状に応じて、また、光スイッチアレイチップ全体のサイズに応じて調整してよい。
【0124】
例えば、単体レンズを用いてレーザビームを集光させる場合は、光スイッチアレイの形状を正方形または円形とすることにより、効率的なレーザビームの照射が達成される。
【0125】
以上のように、本発明の実施の形態2によるテラヘルツ波エミッタ装置によれば、光スイッチアレイの形状をレーザビームの円形状に合わせ、かつ、アンテナ長を調整することにより、小さなレーザパワーで指向性のある高出力のテラヘルツ波を発生させることができる。
【0126】
(実施の形態3)
本実施の形態3におけるテラヘルツ波エミッタ装置は、複数列の光スイッチを備え、それぞれの光スイッチのギャップ付近の形状は、ギャップに向かって漸次幅狭となっており、さらに、所定本数の光スイッチの間で第1のアンテナの長さと第2のアンテナの長さが段階的に変化し、この変化パターンがすべての光スイッチにわたり周期的に繰り返される。これにより、隣接する光スイッチ同士の干渉によるスクリーニング効果を最小に抑え、かつ、レンズアレイを高密度に配置することができるので、小型のレンズアレイを用いて高出力のテラヘルツ波を発生させることができる。
【0127】
以下、本発明の実施の形態3について、図面を参照して詳細に説明する。
【0128】
図8は、本発明の実施の形態3におけるテラヘルツ波エミッタ装置の構成を示す外観図である。図8(a)は光スイッチアレイチップ7の全体平面図であり、同図(b)は光スイッチが並列接続されている部分の拡大図である。同図におけるテラヘルツ波エミッタ装置は、光スイッチアレイチップ8と、フェムト秒レーザビーム22と、バイアス電圧3とを備える。さらに、光スイッチアレイチップ8は、伝送線路41と、アンテナ電極82と、ギャップ83と、半導体テンプレート44と、バイアス電圧印加正電極45と、バイアス電圧印加負電極46とを備える。
【0129】
同図における光スイッチアレイチップ8は、図3における光スイッチアレイチップ4と比較して、アンテナ電極82の形状およびそれに伴うギャップ83の位置が異なる。また、各部の使用材料および作製プロセスは、図1における光スイッチアレイチップ1と同様である。
【0130】
実施の形態1における第1の変形例と同じ点は説明を省略し、以下、異なる点について詳細に説明をする。
【0131】
図8(b)に示されるように、光スイッチアレイチップ8は、3本の光スイッチを1周期として、それぞれ3つの異なるアンテナ電極の長さの対を持つ。例えば、
光スイッチ821:L1=30μm、L2=50μm、L3=5μm、
光スイッチ822:L1=40μm、L2=40μm、L3=5μm、
光スイッチ823:L1=50μm、L2=30μm、L3=5μmであり、この3本の光スイッチを1周期として繰り返される。
【0132】
図9は、光スイッチアレイチップ8にフェムト秒レーザビーム221が照射された場合のギャップ付近の拡大図である。フェムト秒レーザビーム221の照射により、光励起されたキャリア441は同図に示されるように楕円形の分布となる。これは、光励起されたキャリア441がギャップ83の電界方向に垂直に拡散する現象によるものである。この構造をとれば、隣接するアンテナ電極82の不連続部により存在するギャップ83同士は隣接せず、相互干渉によるスクリーニング効果を抑制することができる。
【0133】
また、さらにマイクロレンズアレイを用いて、フェムト秒レーザビーム221のように分光して照射させる方式を採る場合、隣接する光スイッチ同士の相互干渉によるスクリーニング効果を考慮する必要が無く、必要以上にフェムト秒レーザビーム221を絞ったり、開口効率を下げたりする必要がなくなる。
【0134】
なお、本実施の形態では3列の光スイッチを採用したが、光スイッチの列数は、照射するレーザビームの形状に応じて、また、光スイッチアレイチップ全体のサイズに応じて調整してよい。
【0135】
例えば、単体レンズを用いてレーザビームを集光させる場合は、光スイッチアレイの形状を正方形または円形とすることにより、効率的なレーザビームの照射が達成される。
【0136】
以上のように、本発明の実施の形態3によるテラヘルツ波エミッタ装置によれば、隣接するギャップを段階的にずらせることにより、隣接するギャップ同士の相互干渉によるスクリーニング効果を抑制することができ、また、レーザビームを必要以上に絞ったり、開口効率を落としたりする必要がないので、レーザパワー効率が高く、高出力のテラヘルツ波を発生させることができる。
【0137】
(実施の形態4)
本実施の形態4におけるテラヘルツ波エミッタ装置は、複数列の光スイッチを備え、それぞれの光スイッチのギャップ付近の形状は、ギャップに向かって漸次幅狭となっており、さらに、第1のアンテナの長さ、第2のアンテナの長さ、および、ギャップの間隔が、光スイッチ全体にわたってランダムに変化している。これにより、広帯域かつ高出力のテラヘルツ波を発生させることができる。
【0138】
以下、本発明の実施の形態4について、図面を参照して詳細に説明する。
【0139】
図10は、本発明の実施の形態4におけるテラヘルツ波エミッタ装置の構成を示す外観図である。図10(a)は光スイッチアレイチップ9の全体平面図であり、同図(b)は光スイッチが並列接続されている部分の拡大図である。同図におけるテラヘルツ波エミッタ装置は、バイアス電圧3と、光スイッチアレイチップ9と、フェムト秒レーザビーム21とを備える。さらに、光スイッチアレイチップ9は、伝送線路41と、アンテナ電極92と、ギャップ93と、半導体テンプレート44と、バイアス電圧印加正電極45と、バイアス電圧印加負電極46とを備える。
【0140】
同図における光スイッチアレイチップ9は、図3における光スイッチアレイチップ4と比較して、アンテナ電極92およびギャップ93の形状が異なる。また、各部の使用材料および作製プロセスは、図1における光スイッチアレイチップ1と同様である。
【0141】
実施の形態1における第1の変形例と同じ点は説明を省略し、以下、異なる点について詳細に説明をする。
【0142】
図10(b)に示されるように、光スイッチアレイチップ9は、第1のアンテナの長さL1、第2のアンテナの長さL2、およびギャップ長L3の総和が100μmという制限のもと、ランダムに配置されている。
【0143】
一般に、ギャップ長L3が異なると、放射されるテラヘルツ波の波長が異なり、周波数が異なる。従って、本実施の形態では、各光スイッチから放射されるテラヘルツ波の周波数が異なるため、光スイッチアレイ全体としての放射スペクトルは広帯域化される。
【0144】
なお、本実施の形態では3列の光スイッチを採用したが、光スイッチの列数は、照射するレーザビームの形状に応じて、また、光スイッチアレイチップ全体のサイズに応じて調整してよい。
【0145】
例えば、単体レンズを用いてレーザビームを集光させる場合は、光スイッチアレイの形状を正方形または円形とすることにより、効率的なレーザビームの照射が達成される。
【0146】
以上のように、本発明の実施の形態4によるテラヘルツ波エミッタ装置によれば、アンテナ長およびギャップ長が、光スイッチアレイ全体にわたってランダムに変化しているので、広帯域かつ高出力のテラヘルツ波を発生させることができる。
【0147】
(実施の形態5)
本実施の形態5におけるテラヘルツ波エミッタ装置は、複数列の光スイッチを備え、それぞれの光スイッチのギャップ付近の形状は、ギャップに向かって漸次幅狭となっており、さらに、隣接する光スイッチ同士の間隔が光スイッチ全体にわたり段階的に変化している。これにより、テラヘルツ波の放射密度が変化するので、伝送線路に平行な方向での指向性の制御が可能となる。
【0148】
以下、本発明の実施の形態5について、図面を参照して詳細に説明する。
【0149】
図11は、本発明の実施の形態5におけるテラヘルツ波エミッタ装置の構成を示す外観図である。図11(a)は光スイッチアレイチップ10の全体平面図であり、同図(b)は光スイッチが並列接続されている部分の拡大図である。同図におけるテラヘルツ波エミッタ装置は、バイアス電圧3と、光スイッチアレイチップ10と、フェムト秒レーザビーム21とを備える。さらに、光スイッチアレイチップ10は、伝送線路41と、アンテナ電極102と、ギャップ103と、半導体テンプレート44と、バイアス電圧印加正電極45と、バイアス電圧印加負電極46とを備える。
【0150】
同図における光スイッチアレイチップ10は、図3における光スイッチアレイチップ4と比較して、隣接するアンテナ電極102が等間隔でなく、段階的に間隔が変化している点が異なる。また、各部の使用材料および作製プロセスは、図1における光スイッチアレイチップ1と同様である。
【0151】
実施の形態1における第1の変形例と同じ点は説明を省略し、以下、異なる点について詳細に説明をする。
【0152】
図11(b)に示されるように、本実施例では、中央の2本の光スイッチ(1番目のダイポールアンテナ:k=1)の間隔は10μmであり、k番目光スイッチ1024と(k+1)番目光スイッチ1025との間隔は、(10+k*Nλ/4n)μmとなっている。ここで、例えば、N=2、λ=300(μm)、n=3.5(GaAsの屈折率)である。このように光スイッチが配置されると、光スイッチアレイの中央部は高密度のテラヘルツ波が放射され、端部では低密度のテラヘルツ波が放射される。この場合、図12に示されるように、高い指向性をもつテラヘルツ波の出力ビームが得られる。本現象は、テラヘルツ波の出力がレンズにより集光された場合と同等の効果を生じさせる。
【0153】
なお、本実施の形態では3列の光スイッチを採用したが、光スイッチの列数は、照射するレーザビームの形状に応じて、また、光スイッチアレイチップ全体のサイズに応じて調整してよい。
【0154】
例えば、単体レンズを用いてレーザビームを集光させる場合は、光スイッチアレイの形状を正方形または円形とすることにより、効率的なレーザビームの照射が達成される。
【0155】
以上のように、本発明の実施の形態5によるテラヘルツ波エミッタ装置によれば、光スイッチの間隔を段階的に変化させるので、伝送線路と平行な方向に指向性をもち、かつ高出力のテラヘルツ波を発生させることができる。
【0156】
(実施の形態6)
本実施の形態6におけるテラヘルツ波エミッタ装置は、光伝導効果を起こしテラヘルツ波を発生する光スイッチアレイおよび必要最小限の伝送線路のみから構成されるコアの半導体基板と、その他のバイアス電圧印加電極などで構成された周辺部との材料を分離し、周辺部をコアの半導体基板とは別の安価な半導体基板で構成することにより、低コストのテラヘルツ波エミッタ装置が実現される。さらに、周辺部の半導体基板に凹部を設け、そこにコアの半導体基板を実装することにより、レーザビームと光スイッチアレイの被照射部との位置合わせが自動的になされ、損失のない高効率なレーザ照射が実現される。
【0157】
以下、本発明の実施の形態6について、図面を参照して詳細に説明する。
【0158】
図13は、本発明の実施の形態6におけるテラヘルツ波エミッタ装置の構成を示す平面図である。同図におけるテラヘルツ波エミッタ装置は、フェムト秒レーザビーム21と、光スイッチアレイチップ210と、実装基板301と、バイアス電圧印加正電極303と、バイアス電圧印加負電極304と、金ワイヤ305とを備える。
【0159】
光スイッチアレイチップ210は、光伝導効果を起こしテラヘルツ波を発生する光スイッチアレイおよび伝送線路のみから構成され、材料としては、前述したGaAs基板、LT−GaAsテンプレート、半絶縁性のGaNテンプレート、または半絶縁性のSiCテンプレートのいずれかである。また、光スイッチアレイチップ210は、図1、図3、図4、図6、図7、図8、図10、および図11に図示されたアンテナパターン、またはこれらの組み合わせパターンのいずれかを備える。
【0160】
実装基板301は、安価な半絶縁性のSiやSiCなどの結晶基板であるウェハを材料としており、中央部に光スイッチアレイチップ210をセットするための、凹部が形成されている。また凹部の周辺にはバイアス電圧3を供給するためのバイアス電圧印加正電極303およびバイアス電圧印加負電極304が形成されている。
【0161】
図14は、図13で示されたテラヘルツ波エミッタ装置の光スイッチアレイチップ210と実装基板301との実装関係を説明する構成図である。
【0162】
まず、安価なSiウェハ300をパターニングして加工することにより、規則正しく配列された凹部302およびバイアス電圧印加正電極303およびバイアス電圧印加負電極304が形成される。この凹部は、光スイッチアレイチップ210が挿入されるようなサイズとなっている。次に凹部302が形成されたSiウェハをダイシングし、実装基板301が完成する。凹部302の役割は、光スイッチアレイチップ210の位置決めが容易になされることである。電極パターンは図14に示されるように、基板上の凹部302の周りに形成されており、光スイッチアレイチップ210が凹部302に実装され、金線などのワイヤボンディング法または熱圧着法により基板と接続される。
【0163】
図15は、図13で示された光スイッチアレイチップ210および実装基板301とを含んだテラヘルツ波エミッタ装置の断面構成図である。同図におけるテラヘルツ波エミッタ装置は、フェムト秒レーザビーム21と、光スイッチアレイチップ210と、実装基板301と、金ワイヤ305と、光学レンズ311と、テラヘルツ波312とを備える。光スイッチアレイチップ210は、同図(a)のように実装基板301の凹部302に完全にはめ込まれ、または、同図(b)のように、一部凹部302にはめ込まれる。本構造では、テラヘルツ波は実装基板301を介し透過モードで放射される。
【0164】
なお、光学レンズ311は、各実施の形態で説明したそれぞれの光スイッチの配置に応じたマイクロレンズアレイを使用してもよいし、また、単体レンズを使用してもよい。
【0165】
マイクロレンズアレイとしては、例えば、前述した回折型マイクロレンズアレイ51や凸型マイクロレンズアレイ52である。
【0166】
図16は、本発明の実施の形態6におけるテラヘルツ波エミッタ装置を構成する光スイッチアレイチップ210の作製プロセスおよび実装基板301への実装プロセスを示す図である。ここでは、光スイッチアレイチップ210の材料として、前述したLT−GaAsテンプレートを、また実装基板301の材料として半絶縁性のSiウェハを使用した場合を例に挙げる。
【0167】
まず、SI−GaAs基板201上にLT−GaAsテンプレート202を低温成長させる(S21)。
【0168】
次にフォトレジストをLT−GaAsテンプレート202上に塗布し、フォトリソグラフィー法により所望のアンテナパターンを反映したフォトレジスト層203にパターニングする(S22)。
【0169】
次に、パターニングされたフォトレジスト層203上に、膜厚が300nm未満であるNi、Cr、Alを主成分とする金属膜を成膜し、リフトオフプロセスにより、金属膜のアンテナパターン204が形成される(S23)。
【0170】
次に、LT−GaAsテンプレート202を含んだ光スイッチアレイチップ210をSI−GaAs基板201から分離し、半絶縁性のSiウェハ表面の凹部に光スイッチアレイチップ210を接着する。
【0171】
最後に、接着された光スイッチアレイチップ210とバイアス電圧供給用の電極との導通をとるため、熱圧着方式、または金線のワイヤボンディング、またはそれらの両用により電気的に結合させる。
【0172】
以上のように、本発明の実施の形態6によるテラヘルツ波エミッタ装置によれば、光スイッチアレイチップである半導体基板と、その他のバイアス電圧印加電極などで構成された周辺部との材料を分離し、周辺部を別の安価な半導体基板で構成することにより、低コストのテラヘルツ波エミッタ装置が実現される。さらに、周辺部の半導体に凹部を設けることにより、レーザビームと光スイッチアレイの被照射部との位置合わせが自動的になされ、損失のない高効率なレーザ照射が実現される。
【0173】
なお、本実施の形態では、半絶縁性のSiまたはSiCウェハから作製される実装基板に凹部を設けることとしたが、実装基板に凹部を設けず、実装基板上に光スイッチアレイチップを実装してもよい。この場合、実装基板の位置合わせを人為的に実施する必要が生じることになるが、前もって半絶縁性のSiまたはSiCウェハに凹部を加工する必要がない。よって、上記凹部を設けた場合と同様、低コスト化が実現される。
【0174】
以上、本発明のテラヘルツ波エミッタ装置について、実施の形態に基づいて説明したが、本発明は、これらの実施の形態に限定されるものではない。本発明の趣旨を逸脱しない限り、当業者が思いつく各種変形を本実施の形態に施したものや、異なる実施の形態における構成要素を任意に組み合わせて構築される形態も、本発明の範囲内に含まれる。
【0175】
例えば、実施の形態3、実施の形態5、および実施の形態6を組み合わせることにより、隣り合う光スイッチ同士のスクリーニング効果を最大限抑制し、発生したテラヘルツ波に集光レンズで集光したような効果をもたせることができるので、低コスト化、高指向性を備えた高出力のテラヘルツ波エミッタ装置が実現される。
【0176】
また、例えば、実施の形態1における第3の変形例、実施の形態4、および実施の形態6を組み合わせることにより、隣り合う光スイッチ同士のスクリーニング効果を最大限抑制し、光スイッチの高密度な配置がなされるので、小型化、低コスト化、および広帯域化を備えた高出力のテラヘルツ波エミッタ装置が実現される。
【0177】
また、これらの実施の形態では、ダイポールアンテナの形状として、ギャップ付近の先端部が、ギャップに向かって漸次幅狭となっているものを示したが、ダイポールアンテナの形状としては図17に示されるようなボウタイ型の形状をとってもよい。つまり、アンテナ電極171と伝送線路41との接続部からギャップ172へ向かって直線的に幅狭となっている形状であってもよい。これにより、スクリーニング効果の抑制については、同様の効果を奏し、また、ボウタイ型アンテナの特徴である広帯域化が図られる。
【0178】
なお、実施の形態4、実施の形態5、実施の形態6において2本の伝送線路の間隔が一定(すなわちL1+L2+L3が一定)であってもよい。この2本の伝送線路の間隔が一定である領域は、少なくとも第1のアンテナ電極および第2のアンテナ電極が配置されている領域であればよい。
【産業上の利用可能性】
【0179】
本発明のテラヘルツ波エミッタ装置は、センシング分野やイメージング分野における検出装置や、バイオメディカル分野における非破壊検査用光源等に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0180】
【図1】本発明の実施の形態1におけるテラヘルツ波エミッタ装置の構成を示す外観図である。
【図2】本発明の実施の形態1における光スイッチアレイチップの作製プロセスを示す図である。
【図3】本発明の実施の形態1における第1の変形例を示す光スイッチアレイチップの平面図である。
【図4】本発明の実施の形態1における第2の変形例を示す光スイッチアレイチップの平面図である。
【図5】マイクロレンズアレイの平面図および断面図である。
【図6】本発明の実施の形態1における第3の変形例を示す光スイッチアレイチップの平面図である。
【図7】本発明の実施の形態2におけるテラヘルツ波エミッタ装置の構成を示す外観図である。
【図8】本発明の実施の形態3におけるテラヘルツ波エミッタ装置の構成を示す外観図である。
【図9】光スイッチアレイチップにフェムト秒レーザビームが照射された場合のギャップ付近の拡大図である。
【図10】本発明の実施の形態4におけるテラヘルツ波エミッタ装置の構成を示す外観図である。
【図11】本発明の実施の形態5におけるテラヘルツ波エミッタ装置の構成を示す外観図である。
【図12】高い指向性をもつテラヘルツ波の出力ビームを説明する図である。
【図13】本発明の実施の形態6におけるテラヘルツ波エミッタ装置の構成を示す平面図である。
【図14】本発明におけるテラヘルツ波エミッタ装置の光スイッチアレイチップと実装基板との実装関係を説明する構成図である。
【図15】光スイッチアレイチップおよび実装基板とを含んだテラヘルツ波エミッタ装置の断面構成図である。
【図16】本発明の実施の形態6における光スイッチアレイチップの作製プロセスおよび実装基板への実装プロセスを示す図である。
【図17】本発明の実施の形態におけるボウタイアンテナの平面図である。
【図18】従来のテラヘルツ波の発生原理を概略説明した図である。
【図19】小型のフェムト秒レーザおよび光スイッチを用いた従来のテラヘルツ波発生装置の構成図である。
【図20】スクリーニング効果を検証したときの測定システムの構成図である。
【図21】フェムト秒レーザのビーム径を変えたときのテラヘルツ波出力の比較波形図である。
【符号の説明】
【0181】
1、4、5、6、7、8、9、10、210 光スイッチアレイチップ
2、21、22、221 フェムト秒レーザビーム
3 バイアス電圧
11、41、61 伝送線路
12、42、72、82、92、102、171 アンテナ電極
13、43、73、83、93、103、172 ギャップ
14、44 半導体テンプレート
45、303 バイアス電圧印加正電極
46、304 バイアス電圧印加負電極
51 回折型マイクロレンズアレイ
52 凸型マイクロレンズアレイ
201 SI−GaAs基板
202 LT−GaAsテンプレート
203 フォトレジスト層
204 アンテナパターン
300 Siウェハ
301 実装基板
302 凹部
305 金ワイヤ
311 光学レンズ
312、503 テラヘルツ波
401 光スイッチ列
441 光励起されたキャリア
501 フェムト秒レーザ
502 結晶基板
504 半絶縁性GaAsウェハ
505 低温成長GaAsテンプレート
506、507 電極
508 ギャップ部
509 半球状Siレンズ
510 DCバイアス電圧
511 オプティカルチョッパ
512 単一の光スイッチを備えたテラヘルツ波発生器
513 球面ミラー
514 レーザフィルタ用Siウェハ
515 ボロメータ
516 ロックインアンプ
517 オシロスコープ
521、531 テラヘルツ波の出力
541 チョッパ周波数信号
821、822、823、1021、1022、1023、1024、1025 光スイッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光伝導効果によりテラヘルツ波を発生するテラヘルツ波エミッタ装置であって、
半導体基板と、
前記半導体基板上に形成されたアンテナパターンとを備え、
前記アンテナパターンは、
ダイポールアンテナを構成する第1のアンテナ電極と第2のアンテナ電極とからなる光スイッチが複数並べられた光スイッチアレイと、
前記複数の光スイッチの第1のアンテナ電極同士を接続する第1の伝送線路と、
前記複数の光スイッチの第2のアンテナ電極同士を接続する第2の伝送線路とを有し、
前記複数の光スイッチのそれぞれでは、
前記第1のアンテナ電極の先端部と前記第2のアンテナ電極の先端部とがギャップを介して対向し、
前記第1のアンテナ電極の先端部と前記第2のアンテナ電極の先端部とは、それぞれ、前記ギャップに向けて漸次幅狭に形成されている
ことを特徴とするテラヘルツ波エミッタ装置。
【請求項2】
前記第1のアンテナ電極の先端部および前記第2のアンテナ電極の先端部が共に先鋭形状を有している
ことを特徴とする請求項1記載のテラヘルツ波エミッタ装置。
【請求項3】
前記複数の光スイッチのそれぞれでは、
前記第1のアンテナ電極の長さと、前記第2のアンテナ電極の長さとが等しく、
前記光スイッチアレイでは、
すべての前記第1のアンテナ電極の長さが等しく、
かつ、すべての前記第2のアンテナ電極の長さが等しく、
かつ、前記第1のアンテナ電極の先端部と前記第2のアンテナ電極の先端部との距離であるギャップ長がすべて等しい
ことを特徴とする請求項1記載のテラヘルツ波エミッタ装置。
【請求項4】
前記複数の光スイッチのそれぞれでは、
前記第1のアンテナ電極の長さと、前記第2のアンテナ電極の長さとが異なり、
前記光スイッチアレイでは、
すべての前記第1のアンテナ電極の長さが等しく、
かつ、すべての前記第2のアンテナ電極の長さが等しく、
かつ、前記第1のアンテナ電極の先端部と前記第2のアンテナ電極の先端部との距離であるギャップ長がすべて等しい
ことを特徴とする請求項1記載のテラヘルツ波エミッタ装置。
【請求項5】
前記光スイッチアレイでは、
隣り合う光スイッチ同士は、前記第1のアンテナ電極の長さが異なり、
かつ隣り合う光スイッチ同士は、前記第2のアンテナ電極の長さが異なり、
前記第1のアンテナ電極の長さおよび前記第2のアンテナ電極の長さの変化パターンが段階的であり、前記光スイッチアレイにわたり前記変化パターンが周期的に繰り返され、
かつ、前記第1のアンテナ電極の先端部と前記第2のアンテナ電極の先端部との距離であるギャップ長がすべて等しい
ことを特徴とする請求項1記載のテラヘルツ波エミッタ装置。
【請求項6】
前記光スイッチアレイでは、
前記第1のアンテナ電極の長さ、前記第2のアンテナ電極の長さ、及び、前記第1のアンテナ電極の先端部と前記第2のアンテナ電極の先端部との距離であるギャップ長がランダムに異なって配置されている
ことを特徴とする請求項1記載のテラヘルツ波エミッタ装置。
【請求項7】
前記第1の伝送線路と前記第2の伝送線路との間隔は、少なくとも前記第1のアンテナ電極および前記第2のアンテナ電極が接続されている領域において、一定である
ことを特徴とする請求項6記載のテラヘルツ波エミッタ装置。
【請求項8】
前記光スイッチアレイでは、
隣り合う光スイッチどうしの間隔が、すべての光スイッチにわたり段階的に変化する
ことを特徴とする請求項1ないし7のいずれか1項に記載のテラヘルツ波エミッタ装置。
【請求項9】
前記光スイッチアレイでは、
隣り合う光スイッチ同士の間隔がすべて等しく、
前記間隔はNλ/4nであり、
前記Nは整数であり、前記λは発生するテラヘルツ波の波長であり、前記nは前記半導体基板の屈折率である
ことを特徴とする請求項1ないし7のいずれか1項に記載のテラヘルツ波エミッタ装置。
【請求項10】
前記光スイッチのそれぞれでは、
前記光スイッチのアンテナ形状が中央部にギャップを有するボウタイ型である
ことを特徴とする請求項1ないし9のいずれか1項に記載のテラヘルツ波エミッタ装置。
【請求項11】
前記光スイッチアレイでは、
前記複数の光スイッチが2列以上並べられている
ことを特徴とする請求項1ないし10のいずれか1項に記載のテラヘルツ波エミッタ装置。
【請求項12】
列方向隣接する前記光スイッチの方向が、前記光スイッチのピッチの間隔の半分だけ列方向にずれている
ことを特徴とする請求項11記載のテラヘルツ波エミッタ装置。
【請求項13】
前記半導体基板は、
GaAsにより形成された結晶の基板、
または、GaAsにより形成された結晶の基板の表面に低温成長した低温成長GaAsテンプレートを備える基板である
ことを特徴とする請求項1ないし12のいずれか1項に記載のテラヘルツ波エミッタ装置。
【請求項14】
前記半導体基板は、
サファイアにより形成された結晶の基板の表面に成長したGaNテンプレート、
または、SiCにより形成された結晶の基板の表面に成長したGaNテンプレート、
または、Siにより形成された結晶の基板の表面に成長したGaNテンプレートを備える
ことを特徴とする請求項1ないし12のいずれか1項に記載のテラヘルツ波エミッタ装置。
【請求項15】
前記半導体基板は、
SiCにより形成された結晶の基板、
または、サファイアにより形成された結晶の基板の表面に成長したSiCテンプレート、
または、SiCにより形成された結晶の基板の表面に成長したSiCテンプレート、
または、Siにより形成された結晶の基板の表面に成長したSiCテンプレートを備える
ことを特徴とする請求項1ないし12のいずれか1項に記載のテラヘルツ波エミッタ装置。
【請求項16】
前記SiCテンプレートの膜厚は0.1〜5μmである
ことを特徴とする請求項15記載のテラヘルツ波エミッタ装置。
【請求項17】
前記半導体基板は、別の半導体基板上に設けられている
ことを特徴とする請求項1ないし16のいずれか1項に記載のテラヘルツ波エミッタ装置。
【請求項18】
前記半導体基板は、別の半導体基板の表面に設けられた凹部に実装されている
ことを特徴とする請求項1ないし16のいずれか1項に記載のテラヘルツ波エミッタ装置。
【請求項19】
前記テラヘルツ波エミッタ装置は、前記複数のギャップのそれぞれに対してレーザビームを分配して照射するためのレンズアレイを備える
ことを特徴とする請求項1ないし18のいずれか1項に記載のテラヘルツ波エミッタ装置。
【請求項20】
前記テラヘルツ波エミッタ装置は、前記複数のギャップのそれぞれに対してレーザビームを分配して照射するためのレンズアレイを備え、
前記レンズアレイは、
外周部を接して一列に配置されたレンズの列が複数列配置され、隣接する前記レンズ列どうしは、一個のレンズの半径分だけずれて接している凸型マイクロレンズアレイである
ことを特徴とする請求項12記載のテラヘルツ波エミッタ装置。
【請求項21】
前記テラヘルツ波エミッタ装置は、前記複数のギャップのそれぞれに対してレーザビームを分配して照射するためのレンズアレイを備え、
前記レンズアレイは、
六角形状でかつ中心に向かってステップ状に厚みを増していく凸型形状である個々のレンズが、互いに外周部を接して密に配置されたレンズ群である回折型マイクロレンズアレイである
ことを特徴とする請求項12記載のテラヘルツ波エミッタ装置。
【請求項22】
前記テラヘルツ波エミッタ装置は、前記すべてのギャップに対してレーザビームを集束して照射するための単体のレンズを備える
ことを特徴とする請求項1から18のいずれか1項に記載のテラヘルツ波エミッタ装置。
【請求項23】
請求項1ないし22のいずれか1項に記載のテラヘルツ波エミッタ装置を製造する方法であって、
GaAsにより形成された結晶の基板の表面に低温成長GaAsテンプレートを低温成長させ、もしくは、サファイアにより形成された結晶の基板の表面にGaNテンプレートを成長させ、もしくは、SiCにより形成された結晶の基板の表面にSiCテンプレートを成長させる薄膜形成ステップと、
前記薄膜形成ステップにて形成されたテンプレート上に、所望の電極パターンを形成するため、フォトレジストを塗布し、露光し、露光されたフォトレジストを前記電極パターン形状にパターニングするフォトレジスト形成ステップと、
前記フォトレジスト形成ステップの後、パターニングされた前記フォトレジストを有する前記テンプレートの上に、膜厚300nm以上のNi、Cr、Auを有する導電性薄膜を形成し、リフトオフプロセスにより前記電極パターンを形成する電極形成ステップとを含む
ことを特徴とするテラヘルツ波エミッタ装置を製造する方法。
【請求項24】
請求項17または18に記載のテラヘルツ波エミッタ装置を製造する方法であって、
GaAsにより形成された結晶の基板の表面に低温成長GaAsテンプレートを低温成長させ、もしくは、サファイアにより形成された結晶の基板の表面にGaNテンプレートを成長させ、もしくは、SiCにより形成された結晶の基板の表面にSiCテンプレートを成長させる薄膜形成ステップと、
前記薄膜形成ステップにて形成されたテンプレート上に、所望の電極パターンを形成するため、フォトレジストを塗布し、露光し、露光された前記フォトレジストを前記電極パターン形状にパターニングするフォトレジスト形成ステップと、
前記フォトレジスト形成ステップの後、パターニングされた前記フォトレジストを有する前記テンプレートの上に、膜厚300nm以上のNi、Cr、Auを有する導電性薄膜を形成し、リフトオフプロセスにより前記電極パターンを形成する電極形成ステップと、
前記電極形成ステップの後、表面に電極形成された前記低温成長GaAsテンプレート、もしくは、前記GaNテンプレート、もしくは、前記SiCテンプレートを、それぞれ、前記GaAsにより形成された結晶の基板、もしくは、前記サファイアにより形成された結晶の基板、もしくは、前記SiCにより形成された結晶の基板から分離し、Siにより形成された結晶の基板上に、前記低温成長GaAsテンプレート、もしくは、前記GaNテンプレート、もしくは、前記SiCテンプレートを接着する接着ステップと、
前記接着ステップにて接着されたテンプレートは、熱圧着方式、または金線のワイヤボンディング方式、または前記2つの方式の併用により実装される実装ステップとを含む
ことを特徴とするテラヘルツ波エミッタ装置を製造する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2009−105102(P2009−105102A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−273212(P2007−273212)
【出願日】平成19年10月19日(2007.10.19)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】