説明

ディザマトリックス生成方法コンピュータープログラム

【課題】印刷処理に用いるディザマトリックスに関する技術を提供する。
【解決手段】ディザマトリックスの生成方法であって、ディザマトリックスの閾値が格納されていない空白要素に格納すべき複数の閾値の一つを着目閾値として選択する着目閾値選択工程と、複数の空白要素の中から、着目閾値を格納したとした場合の所定の評価方法による評価が最も高くなる空白要素を抽出し、抽出した空白要素に着目閾値を格納することによって最適化を行う着目閾値格納工程とを繰り返し、所定の評価方法は、空白要素に着目閾値を格納したとした場合のディザマトリックスを、所定の分割方法によって複数の分割マトリックスに分割し、ディザマトリックスに対応する全体マトリックスと複数の分割マトリックスとの各々に対して第1の評価値を算出し、第1の評価値の各々に、着目閾値の大きさに依存して相互に相対的な大きさが変化する重み付け係数を付した値に基づいて評価を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷媒体上にドットを形成して画像を印刷する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
コンピューターで作成した画像や、デジタルカメラで撮影した画像などの出力装置として、印刷媒体上にドットを形成して画像を印刷する印刷装置が広く使用されている。かかる印刷装置は、入力階調値に対して形成可能なドットの階調値が少ないためハーフトーン処理によって階調表現が行われる。ハーフトーン処理の1つとして、ディザマトリックスを用いたディザ法が広く用いられている。ディザ法は、ディザマトリックスの閾値の配置が画質に大きな影響を与えるため、たとえば特許文献1に開示されるように人間の視覚を考慮した評価関数を用いたシミュレーテッドアニーリングや遺伝的アルゴリズムといった解析手法によってディザマトリックスの最適化が図られてきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7−177351号公報
【特許文献2】特開平7−81190号公報
【特許文献3】特開平10−329381号公報
【特許文献4】特開2007−15359
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献4において、印刷媒体上の共通の領域を、印刷装置が備える印刷ヘッドが複数回走査することによってインクドットを形成する場合も考慮したディザマトリックスを生成する方法が、本発明の発明者によって提案されている。具体的には、印刷ヘッドの往動時および復動時に印刷媒体上にドットを形成する双方向印刷において、往動時にドットを形成する場合と、復動時にドットを形成する場合とで、ドットの形成位置にずれが生じた場合や、印刷装置におけるヘッドの走査方向を主走査方向とした場合の副走査方向のずれ、つまり紙送り量のずれ等が生じた場合も考慮したものである。発明者等は、特許文献4に示した上記ディザマトリックスを更に改良することを目的として、本発明を完成した。
【0005】
本発明は、従来の技術における上述した課題を解決するためになされたものであり、印刷媒体上の共通の領域を複数回走査することによってインクドットを形成しつつ画像を印刷する場合の画質の劣化を抑制する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態又は適用例として実現することが可能である。
[適用例1]
入力画像データに対して、印刷装置が備える印刷ヘッドが印刷媒体上の印刷画素に形成するドットの形成状態を決定するハーフトーン処理に用いるディザマトリックスの生成方法であって、ディザマトリックスの閾値が格納されていない要素である空白要素に格納すべき複数の前記閾値の一つを着目閾値として選択する着目閾値選択工程と、複数の前記空白要素の中から、前記着目閾値を格納したとした場合の所定の評価方法による評価が最も高くなる空白要素を抽出し、該抽出した前記空白要素に前記着目閾値を格納することによって最適化を行う着目閾値格納工程とを前記空白要素が所定数以下となるまで繰り返すものとして備え、前記所定の評価方法は、前記空白要素に前記着目閾値を格納したとした場合の前記ディザマトリックスを、所定の規則に則した1種類以上の分割方法の各々によって複数の分割マトリックスに分割し、前記ディザマトリックスに対応する全体マトリックスと複数の前記分割マトリックスとの各々に対して第1の評価値を算出し、前記第1の評価値の各々に、前記着目閾値の大きさに依存して相互に相対的な大きさが変化する重み付け係数を付し、前記重み付け係数を付した値に基づいて第2の評価値を算出し、該第2の評価値を用いた評価が最も高くなるように行うディザマトリックス生成方法。
【0007】
このディザマトリックスの生成方法によると、第1の評価値の各々に、着目閾値の大きさに依存して相互に相対的な大きさが変化する重み付け係数を付して第2の評価値を算出するので、重み付け係数の変化のさせ方によって、種々の特性を備えたディザマトリックスを生成することができる。
【0008】
[適用例2]
適用例1記載のディザマトリックス生成方法であって、前記着目閾値格納工程は、前記繰り返しにおいて、前記全体マトリックスに対応する前記第1の評価値に付する前記重み付け係数が、前記分割マトリックスに対応する前記第1の評価値に付する前記重み付け係数の少なくとも1つよりも小さい状態で、前記所定の評価方法による前記評価を少なくとも1回行うディザマトリックス生成方法。
【0009】
このディザマトリックスの生成方法によると、全体マトリックスに対応する第1の評価値に付する重み付け係数が、分割マトリックスに対応する第1の評価値に付する重み付け係数の少なくとも1つより小さい着目閾値格納工程を含むので、生成されたディザマトリックスを用いて印刷データにハートーン処理を行った後のドットパターンは、その印刷データの入力階調値が所定の値である画像においては、画像全体のドットの粒状性よりも、分割マトリックスに対応するドットパターンにおけるドットの粒状性を重視したドットパターンとなる。なお、「粒状性」については、後に詳しく説明する。
【0010】
[適用例3]
入力画像データに対して、印刷装置が備える印刷ヘッドが印刷媒体上の印刷画素に形成するドットの形成状態を決定するハーフトーン処理に用いるディザマトリックスの生成方法であって、ディザマトリックスの閾値が格納されていない要素である空白要素に格納すべき複数の前記閾値の一つを着目閾値として選択する着目閾値選択工程と、
複数の前記空白要素の中から、前記着目閾値を格納したとした場合の所定の評価方法による評価が最も高くなる空白要素を抽出し、該抽出した前記空白要素に前記着目閾値を格納することによって最適化を行う着目閾値格納工程とを前記空白要素が所定数以下となるまで繰り返すものとして備え、前記所定の評価方法は、前記空白要素に前記着目閾値を格納したとした場合の前記ディザマトリックスを、所定の規則に則した1種類以上の分割方法の各々によって複数の分割マトリックスに分割し、前記ディザマトリックスに対応する全体マトリックス、および複数の前記分割マトリックスの各々に対して第1の評価値を算出し、前記各第1の評価値に重み付け係数を付した値に基づいて第2の評価値を算出し、該第2の評価値を用いた評価が最も高くなるように行い、前記各重み付け係数の大きさは一定であり、前記全体マトリックスに対する前記第1の評価値に付する前記重み付け係数を前記分割マトリックスに付する前記重み付け係数より小さい重みとしたディザマトリックス生成方法。
【0011】
このディザマトリックスの生成方法によって生成したディザマトリックスを用いて印刷データにハーフトーン処理を行った後のドットパターンは、ドットパターン全体のドットの粒状性の低さよりも、各分割マトリックスに対応するドットパターンのドットの粒状性の低さを重視したドットパターンとすることができる。
【0012】
[適用例4]
前記所定の評価方法において、前記全体マトリックスに対する前記第1の評価値に付する前記重み付け係数は0(零)である適用例3記載のディザマトリックス生成方法。
このディザマトリックスの生成方法によって生成したディザマトリックスを用いて印刷データにハーフトーン処理を行った後のドットパターンは、ドットパターン全体の粒状性は考慮していないが、各分割マトリックスに対応するドットパターンの粒状性は考慮しているので、例えば、印刷ヘッドの往動時および復動時に印刷媒体上にドットを形成する双方向印刷において、往動時にドットを形成する場合と、復動時にドットを形成する場合とで、ドットの形成位置にずれが生じた場合や、印刷装置におけるヘッドの走査方向を主走査方向とした場合の副走査方向のずれ、つまり紙送り量のずれ等が生じた場合でも、各分割マトリックスに対応するドットパターンの粒状性を低くすることができる。
【0013】
[適用例5]
適用例1ないし適用例4のいずれか記載のディザマトリックス生成方法であって、前記ドットは前記印刷ヘッドによる主走査方向への往動時と復動時とで前記印刷媒体上に形成され、前記分割方法は、前記印刷ヘッドが前記往動時に前記ドットを形成する前記印刷画素と前記印刷ヘッドが前記復動時に前記ドットを形成する前記印刷画素とに対応して、前記ディザマトリックスを分割する方法を含むディザマトリックス生成方法。
【0014】
このディザマトリックスの生成方法によって生成したディザマトリックスを用いて印刷データにハーフトーン処理を行った後のドットパターンは、印刷ヘッドが往動時に形成するドットと、復動時に形成するドットの各々に対して粒状性を考慮したドットパターンとなる。従って、印刷ヘッドの往動時および復動時に印刷媒体上にドットを形成する双方向印刷において、往動時にドットを形成する場合と、復動時にドットを形成する場合とで、ドットの形成位置にずれが生じた場合にでも、印刷ヘッドが往動時に形成するドットと、復動時に形成するドットの各々に対してのドット粒状性を考慮することができる。
【0015】
[適用例6]
適用例1ないし適用例5のいずれか記載のディザマトリックス生成方法であって、前記印刷画素には各々、前記印刷ヘッドの何回目の主走査で前記ドットが形成されるかを示すパス番号が関連付けられており、前記分割方法は、前記パス番号が関連付けられた前記印刷画素に対応して、前記ディザマトリックスを前記パス番号に則して分割する方法を含むディザマトリックス生成方法。
【0016】
このディザマトリックスの生成方法によって生成したディザマトリックスを用いて印刷データにハーフトーン処理を行った後のドットパターンは、そのパス番号毎にドットの粒状性を考慮しているので、例えば、印刷処理において印刷装置がパス毎に紙送りを行う場合に、紙送り量にズレが生じた場合でも、その印刷処理によって印刷媒体上に形成されたドットにおいて、パス毎のドットパターンにおけるドットの粒状性を考慮することができる。
【0017】
[適用例7]
入力画像データに対して、印刷装置が備える印刷ヘッドが印刷媒体上の印刷画素に形成するドットの形成状態を決定するハーフトーン処理に用いるディザマトリックスの生成をコンピューターに実行させるコンピュータープログラムであってディザマトリックスの閾値が格納されていない要素である空白要素に格納すべき複数の前記閾値の一つを着目閾値として選択する着目閾値選択機能と、複数の前記空白要素の中から、前記着目閾値を格納したとした場合の所定の評価方法による評価が最も高くなる空白要素を抽出し、該抽出した前記空白要素に前記着目閾値を格納することによって最適化を行う着目閾値格納機能とを前記空白要素が所定数以下となるまで繰り返すものとして前記コンピューターに実現させ、前記所定の評価方法は、前記空白要素に前記着目閾値を格納したとした場合の前記ディザマトリックスを、所定の規則に則した1種類以上の分割方法の各々によって複数の分割マトリックスに分割し、前記ディザマトリックスに対応する全体マトリックスと複数の前記分割マトリックスとの各々に対して第1の評価値を算出し、前記第1の評価値の各々に、前記着目閾値の大きさに依存して相互に相対的な大きさが変化する重み付け係数を付し、前記重み付け係数を付した値に基づいて第2の評価値を算出し、該第2の評価値を用いた評価が最も高くなるように行うコンピュータープログラム。
【0018】
このコンピュータープログラムによると、第1の評価値の各々に、着目閾値の大きさに依存して相互に相対的な大きさが変化する重み付け係数を付して第2の評価値を算出しコンピューターにディザマトリックス生成させるので、重み付け係数の変化のさせ方によって、種々の特性を備えたディザマトリックスをコンピューターに生成させることができる。
【0019】
[適用例8]
入力画像データに対して、印刷装置が備える印刷ヘッドが印刷媒体上の印刷画素に形成するドットの形成状態を決定するハーフトーン処理に用いるディザマトリックスの生成をコンピューターに実行させるコンピュータープログラムであって、ディザマトリックスの閾値が格納されていない要素である空白要素に格納すべき複数の前記閾値の一つを着目閾値として選択する着目閾値選択機能と、複数の前記空白要素の中から、前記着目閾値を格納したとした場合の所定の評価方法による評価が最も高くなる空白要素を抽出し、該抽出した前記空白要素に前記着目閾値を格納することによって最適化を行う着目閾値格納機能とを前記空白要素が所定数以下となるまで繰り返すものとして前記コンピューターに実現させ、前記所定の評価方法は、前記空白要素に前記着目閾値を格納したとした場合の前記ディザマトリックスを、所定の規則に則した1種類以上の分割方法の各々によって複数の分割マトリックスに分割し、前記ディザマトリックスに対応する全体マトリックス、および複数の前記分割マトリックスの各々に対して第1の評価値を算出し、前記各第1の評価値に重み付け係数を付した値に基づいて第2の評価値を算出し、該第2の評価値を用いた評価が最も高くなるように行い、前記各重み付け係数の大きさは一定であり、前記全体マトリックスに対する前記第1の評価値に付する前記重み付け係数は、前記分割マトリックスに付する前記重み付け係数より小さい重みとしたコンピュータープログラム。
【0020】
このコンピュータープログラムによってコンピューターに生成させたディザマトリックスを用いて印刷データにハーフトーン処理を行った後のドットパターンは、ドットパターン全体のドットの粒状性よりも、各分割マトリックスに対応するドットパターンのドットの粒状性を重視したドットパターンとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の第1実施例において印刷ヘッド10がドットを形成し印刷画像を生成する様子を示す説明図である。
【図2】複数の画素グループが組み合わされて1つの印刷画素が形成されている様子を示す説明図である。
【図3】着目領域における往動時および復動時に形成されるドットに対応する画素からなる画素グループによるグループ化を示す説明図である。
【図4】ディザマトリックスについて説明する説明図である。
【図5】第1実施例におけるディザマトリックス生成処理の流れを示すフローチャートである。
【図6】全体マトリックスM0を説明する説明図である。
【図7】分割マトリックスMp1〜Mp4を説明する説明図である。
【図8】分割マトリックスMs1,Ms2を説明する説明図である。
【図9】第1実施例における生成途中のディザマトリックスを示す説明図である。
【図10】ディザマトリックス評価処理の流れについて説明するフローチャートである。
【図11】格納候補要素に着目閾値を格納した一例を示す説明図である。
【図12】VTFを概念的に示した説明図である。
【図13】ディザマトリックスの1行1列を格納候補要素として選択した場合の各マトリックスを説明する説明図である。
【図14】総合評価値の算出式を示す説明図である。
【図15】総合評価値決定処理ルーチンの流れを示したフローチャートである。
【図16】重み付け係数設定処理の流れを示したフローチャートである。
【図17】ディザマトリックス(6行6列)の生成処理において、重み付け係数の値を変化させていることを示すグラフである。
【図18】重み付け係数設定処理における方法1を説明するグラフである。
【図19】重み付け係数設定処理における方法2を説明するグラフである。
【図20】方法2に基づく印刷画像の被覆率変化量を示すグラフである。
【図21】方法2に基づく印刷画像の粒状性指数を示すグラフである。
【図22】重み付け係数設定処理における方法3を説明するグラフである。
【図23】本発明によって生成したディザマトリックスを用いて印刷を行う印刷システム1の構成を示すブロック図である。
【図24】印刷装置20の概略構成図である。
【図25】印刷ヘッドユニット60および印刷ヘッド10を説明する説明図である。
【図26】重み付け係数設定処理における方法4を説明するグラフである。
【図27】重み付け係数設定処理における方法5を説明するグラフである。
【図28】方法5に基づく印刷画像の被覆率変化量を示すグラフである。
【図29】方法5に基づく印刷画像の粒状性指数を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の実施の形態を実施例に基づいて説明する。
A.第1実施例:
(A1)印刷画素のグループ化:
図1は、本発明の第1実施例において、印刷装置(図示省略)が備える印刷ヘッド10が、主走査と副走査とを行いつつインクドット(以下、単に「ドット」とも呼ぶ)を印刷媒体上に形成し、印刷画像を生成する様子を示す説明図である。主走査とは、印刷媒体に対して印刷ヘッド10を図1に示す主走査方向に相対的に移動させる動作を意味する。副走査とは、印刷媒体に対して印刷ヘッド10を副走査方向(主走査方向に対して垂直な方向)に相対的に移動させる動作を意味する。印刷ヘッド10は、インク滴を吐出してインクドットを形成するように構成されており、インク滴を吐出する10個のノズルNzを備えている。また、各ノズルNzは、ノズル1個分の間隔を有して副走査方法に1列に並んでいる。
【0023】
印刷画像の生成は、印刷ヘッド10が主走査と副走査を行いつつ以下のように行われる。図1に示すパス1の主走査では、ラスタ番号が1、3、5、7、9、11、13、15、17、19の10本の主走査ラインのうちで、画素位置番号が1、3、5の画素にインクドットが形成される。主走査ラインとは、主走査方向に連続する画素によって形成される線を意味する。各丸は、ドットの形成位置を示している。各丸の中の数字は、同時にインクドットが形成される複数の画素から構成される画素グループを示している。パス1では、第1の画素グループに属する印刷画素にドットが形成される。また、印刷ヘッド10は、主走査方向の往復動作における、往動時および復動時の両方で印刷媒体上にインクドットを形成する、いわゆる双方向印刷を実行する。具体的には、パス1は往動の動作に相当し、後述するパス2は復動時の動作に相当する。つまり、パス番号が奇数のパスは、印刷ヘッド10の往動時の動作に相当し、パス番号が偶数のパスは、印刷ヘッド10の復動時の動作に相当する。
【0024】
パス1の主走査(往動)が完了すると、副走査方向にノズルNzの5倍の移動量Lsで副走査送りが行われる。一般には、印刷媒体を移動させることによって副走査送りは行われるが、本実施例では、説明を分かりやすくするために印刷ヘッド10が副走査方向に移動するものとしている。副走査送りが完了すると、パス2の主走査が行われる。
【0025】
パス2の主走査(復動)では、ラスタ番号が6、8、10、12、14、16、18、20、22、24の10本の主走査ラインのうちで、画素位置番号が1、3、5の画素にインクドットが形成される。このようにして、パス2では、第2の画素グループに属する印刷画素にドットが形成される。なお、ラスタ番号が22、24の2本の主走査ラインは、図示が省略されている。パス2の主走査が完了すると、前述と同様の副走査送りが行われた後に、パス3の主走査が行われる。
【0026】
パス3の主走査(往動)では、ラスタ番号が11、13、15、17、19の主走査ラインを含む10本の主走査ラインのうちで、画素位置番号が2、4、6の画素にインクドットが形成される。パス4の主走査では、ラスタ番号が16、18、20の3本の主走査ラインを含む10本の主走査ラインのうちで、画素位置番号が2、4、6の画素にインクドットが形成される。このようにして、ラスタ番号が15以降の副走査位置に隙間なくインクドットが形成可能であることが分かる。パス3とパス4では、それぞれ第3と第4の画素グループに属する印刷画素にドットが形成される。
【0027】
このような印刷画像の生成を一定の領域に着目して観察する。たとえばラスタ番号が15〜20で画素位置番号が1〜6の領域を着目領域とすると、着目領域では、第1〜第4の複数の画素グループの各々に属する印刷画素が、共通の印刷領域で相互に組み合わされている事によって、1つの印刷画素が形成されていることが分かる。その様子を図2に示した。図2から分かるように、印刷画素は、印刷ヘッド10がドットを形成する各パスの番号に対応した画素毎に、画素グループと言う形でグループ化が可能である。
【0028】
本実施例における印刷画素は、上述したパス番号による画素グループへのグループ化の他に、印刷ヘッド10の往動時に形成されるドットに対応する画素からなる画素グループ(以下、往動画素グループとも呼ぶ)と、復動時に形成されるドットに対応する画素からなる画素グループ(以下、復動画素グループ)とにグループ化をすることが可能である。図3は、着目領域において、印刷ヘッド10の往動時に形成されるドットに対応する画素からなる画素グループと、復動時に形成されるドットに対応する画素からなる画素グループとのグループ化を示す図である。上述したように、パス番号が奇数のパスは、印刷ヘッド10の往動時の動作に相当し、パス番号が偶数のパスは、印刷ヘッド10の復動時の動作に相当する。このように、本実施例における印刷画素は、往動・復動によるグループ化が可能であることが分かる。つまり、往動画素グループ,復動画素グループの各々に属する印刷画素が、共通の印刷領域で相互に組み合わせられることによって印刷画像が形成されている。
【0029】
上記説明したように、印刷画素のグループ化は、印刷ヘッド10のドット形成時のパスの相違や、往動・復動による相違など、ドットの形成過程における物理的相違によって複数の画素グループへのグループ化が可能である。上記のグループ化の他に、例えば、複数の印刷ヘッドを備えた印刷装置で印刷を行う印刷画素においては、各印刷ヘッド毎のグループ化、つまり各印刷ヘッドがドットを形成する画素毎に印刷画素をグループ化をすることが可能である。その他、印刷ヘッドに備えられた複数のインクノズルから吐出したインク滴が印刷媒体上にドットを形成する過程において、各ノズルがドットを形成する画素毎にグループ化をすることも可能である。
【0030】
(A2)ディザマトリックスのグループ化:
印刷装置によって印刷処理を行う際に、画像データの入力階調値をドットで表現する方法として、ディザマトリックスを用いたハーフトーン処理(ディザ法)がある。図4はディザマトリックスについて説明する説明図である。ディザマトリックスは、入力された画像データの各印刷画素の階調値と、ディザマトリックスの中で対応する位置(要素)に記憶されている閾値とを比較し、画像画素の階調値の方がディザマトリックスの要素に格納されている閾値より大きい場合にはドットが形成され(以下、「ドットがオンの状態」とも言う)、画像画素の階調値の方がディザマトリックスの要素に格納されている閾値より小さい場合にはドットが形成されない(以下、「ドットがオフの状態」とも言う)。図4において、ハッチングを付した画素は、ドットの形成対象となる画素、つまりドットがオンとなる画素を意味している。
【0031】
図4から分かるように、画像データにおける各印刷画素と、ディザマトリックスにおける各要素とは対応付けて考えることができる。上述したように、印刷画素は、各印刷画素へのドットの形成過程における物理的相違によって複数のグループ化が可能である。従って、ディザマトリックスの各要素を、各印刷画素と対応させて、上記説明したグループ化を行うことができる。つまり、印刷画素に対応させて、ディザマトリックスの各要素を、印刷ヘッド10のパスによってグループ化をすることや、往動・復動によってグループ化をすることなど、ドットの形成過程における物理的相違による複数のグループ化が可能である。以下、各印刷画素に対応付けてディザマトリックスをグループ化することを、単にディザマトリックスのグループ化と呼ぶ。
【0032】
(A3)ディザマトリックスの生成方法:
次に、第1実施例におけるディザマトリックスの生成方法について説明する。本発明におけるディザマトリックスは、印刷データのハーフトーン処理に用いてドットパターンを生成した場合の、ドットパターン全体のドットの粒状性を考慮して生成される。加えて、当該ディザマトリックスに含まれる各要素に対して、上述したグループ化を行い、各グループ毎の要素群をそれぞれ独立したディザマトリックスとした場合の、ドットパターンにおけるドットの粒状性も考慮して生成される。なお、ディザマトリックスにおけるドットの粒状性については後で詳しく説明する。
【0033】
図5は、第1実施例におけるディザマトリックスを生成する処理であるディザマトリックス生成処理の流れを示すフローチャートである。なお、説明を分かりやすくするために、本実施例では6行6列の小さなディザマトリックスを生成するものとする。ディザマトリックスの生成処理として、最初に、各要素に閾値が格納されていないディザマトリックスに対してグループ化処理を行う(ステップS100)。本実施例では、パス毎および往動・復動毎にそれぞれディザマトリックスの各要素をグループ化し分割する。なお、グループ化による分割を行う前のディザマトリックスを、説明上、全体マトリックスM0と呼ぶ。
【0034】
図6は、全体マトリックスM0を説明する説明図である。全体マトリックスM0の各要素には、図3の着目領域に対応したパス番号が記載されている。図7は、全体マトリックスM0をパス毎にグループ化処理した後のディザマトリックス(以下、分割マトリックスMp1〜Mp4と呼ぶ)を示す説明図である。分割マトリックスMp1は、全体マトリックスM0の要素のうち、第1の画素グループに属する画素に対応する要素と、空欄となっている複数の要素である空欄要素とから構成されている。空欄要素は入力階調値にかかわらず常にドットが形成されない要素である。分割マトリックスMp2〜Mp4はそれぞれ、全体マトリックスM0の要素のうち、第2〜第4の画素グループに属する画素に対応する複数の要素と空欄要素とから構成されている。
【0035】
図8は、全体マトリックスM0を往動・復動毎にグループ化処理をした後のディザマトリックス(以下、分割マトリックスMs1,Ms2と呼ぶ)を示す説明図である。分割マトリックスMs1は、全体マトリックスM0の要素のうち、往動画素グループに属する画素に対応する要素と、空欄要素とから構成されている。分割マトリックスMs2は、全体マトリックスM0の要素のうち、復動画素グループに属する画素に対応する要素と、空欄要素とから構成されている。
【0036】
このように、ディザマトリックス生成処理におけるグループ化処理(図5:ステップS100)では、全体マトリックスM0を、パス毎(Mp1〜Mp4)、往動・復動毎(Ms1,Ms2)に分割する処理を行う。グループ化処理が行われると、次に、着目閾値決定処理(ステップS200)が行われる。着目閾値決定処理とは、格納要素の決定対象となる閾値を決定する処理である。本実施例では、小さな値の閾値、すなわちドットの形成されやすい値の閾値から順に選択することによって着目閾値を決定する。これは、ドットの粒状性が目立つハイライト領域に対して、ドット配置に大きな自由度を与えるためである。また、本実施例におけるディザマトリックス生成処理では、説明の便宜上、既に8個の閾値について格納される要素が決定済みで、9番目の閾値を格納する要素を決定するものとする。つまり、全ての閾値のうち、格納要素が決定済みの閾値も含めて、小さい方から9番目の閾値を、着目閾値として決定する処理である。図9は、8個の閾値が格納された生成途中のディザマトリックスを示す説明図である。図に示した黒丸は、格納される要素が決定している閾値を示し、黒丸が付してあるディザマトリックス上の要素は、格納される閾値が決定している要素(以下、格納閾値決定要素と呼ぶ)を示す。また、「*」は着目閾値を示し、本例の場合、上述したように、全ての閾値の中で小さい方から9番目の閾値を示す。
【0037】
ステップS200(図5)において着目閾値が決定すると、次に、ディザマトリックス評価処理(ステップS300)を行う。ディザマトリックス評価処理とは、格納される閾値が未決定の要素(以下、空白要素(図9参照)とも呼ぶ)のいずれか1つに着目閾値が格納されるとした場合について、その各々の場合のディザマトリックスに対して、所定の評価方法で評価値(以下、総合評価値とも呼ぶ)を算出する処理ルーチンである。つまり、図9に示した生成途中のディザマトリックスの36個(6行6列)の要素のうち、8個の格納閾値決定要素を除いた28個の空白要素の1つの要素に着目閾値が格納された場合の総合評価値を算出し、その算出処理を、28個の空白要素の1つ1つについて、全ての空白要素に対して行う。なお、ディザマトリックス評価処理については、後で詳しく説明する。
【0038】
ディザマトリックス評価処理が行われると、次に、格納要素決定処理(図5:ステップS400)が行われる。格納要素決定処理は、着目閾値を28個の空白要素の各々に格納した各場合において、最も総合評価値が低かった場合を選択し、その場合の、着目閾値が格納されている空白要素を、格納要素決定処理における格納要素として決定する。なお、後で詳しく説明するが、総合評価値は、値が低いほどディザマトリックスとしての評価は高い。
【0039】
格納要素決定処理が行われると、次に、全ての要素に閾値が格納されているか確認する(図5:ステップS500)。全ての要素に閾値が格納されている場合(ステップS500:Yes)は、ディザマトリックス生成処理は終了する。閾値が格納されていない要素、つまり空白要素が残っている場合(ステップS500:No)は、全ての要素に閾値が格納されるまで、ステップS200から処理を繰り返す。
【0040】
次に、ディザマトリックス生成処理におけるディザマトリックス評価処理(ステップS300)の処理ルーチンについて説明する。図10は、ディザマトリックス評価処理の流れについて説明するフローチャートである。ディザマトリックス生成処理の着目閾値決定処理(図5:ステップS200参照)において着目閾値が決定すると、ディザマトリックス評価処理(図10)として、格納閾値決定要素のドットをオンとする(図10:ステップS310)。
【0041】
格納閾値決定要素のドットをオンにした後、空白要素のうちの一つを、着目閾値が格納される可能性のある要素(以下、格納候補要素とも呼ぶ)として選択し、選択した格納候補要素に着目閾値を格納する(ステップS320)。図11にその一例を示す。図11に示すように、ディザマトリックスの1行1列の空白要素を、格納候補要素として選択し、着目閾値を格納する。その後、格納候補要素のドットをオンにすることにより(ステップS340)、ステップS310でドットをオンにした格納閾値決定要素も含めて、閾値が格納されている全ての要素のドットをオンの状態とする。次に、その状態のディザマトリックスを、所定の評価方法にて総合評価値を決定する(ステップS340)。つまり、全ての空白要素(本例の場合は28個)から選択した1つの格納候補要素(本例の場合、1行1列の要素)に着目閾値を格納したディザマトリックスの総合評価値を算出する。
【0042】
次に、全ての空白要素に対して、格納候補要素として着目閾値を格納した場合の総合評価値を算出したかを確認する(ステップS360)。つまり、上記説明では28個の空白要素のうち、格納候補要素として1行1列の要素を選択し総合評価値を算出したが、残りの27個の空白要素が格納候補要素として選択された場合においても同様の処理を行う。従って、この処理によって28個の総合評価値が算出される。そして、全ての空白要素に対して、格納候補要素として選択された場合の総合評価値を算出した場合は(ステップS360:Yes)、ディザマトリックス評価処理は終了し、そうでない場合には(ステップS360:No)、全ての空白要素に対して総合評価値を算出するまで、ステップS310〜ステップS340の処理を繰り返し行う。
【0043】
次に、総合評価値について説明する。総合評価値とは、生成途中のディザマトリックスにおいて、格納候補要素に着目閾値を格納し、閾値が格納されている全ての要素(格納候補要素と格納閾値決定要素)のドットをオンとした場合の、全体マトリックスM0、及び、分割マトリックス(Mp1〜Mp4,Ms1,Ms2)の各々のマトリックスにおける粒状性指数に基づいて算出した値である。粒状性指数とは、人間が有する視覚の空間周波数に対する感度特性である視覚の空間周波数特性VTF(Visual Transfer Function)に基づいて、ドットが人間の視覚に訴える粒状感を定量化した値である。図12は、VTFを概念的に示した説明図である。図12におけるグラフGは、観察距離が30cmの時のVTFを示すグラフである。空間周波数が1〜2〔cycle/mm〕で、人間は最もその空間周波数を視認しやすいことが分かる。図12における式F1は、視覚の空間周波数特性VTFを表す代表的な実験式を示している。式F1中の変数Lは観察距離を表しており、変数uは空間周波数を表している。F2は、粒状性指数を定義する式である。式F2中の係数Kは、得られた値を人間の感覚と合わせるための係数である。
【0044】
このような人間の視覚に訴える粒状感の定量化は、人間の視覚系に対するディザマトリックスのきめ細かな最適化を可能とするものである。具体的には、ディザマトリックスに各入力階調値を入力した際に想定されるドットパターンに対してフーリエ変換を行ってパワースペクトルFSを求めるとともに、視覚の空間周波数特性VTFと乗算した後に全周波数で積分(式F2)することによって得ることができる粒状性指数をディザマトリックスの評価関数として利用する。また、粒状性指数は、その値が低いほど、人間の視覚がドットパターンのドットに粒状感を感じにくいことを示す。つまり、粒状性指数とは、どの程度、人間の視覚がドットの粒状を視認しないようにドットが分散しているかを示す指数である。また上記説明で記載した「粒状性」とは、この粒状性指数の大きさを示す。換言すれば、粒状性指数が低いほど粒状性は低いことを示し、粒状性指数が高いほど粒状性は高いことを示す。また、粒状性指数としては、人間の主観評価との相関性が確認されていれば、これ以外の指数を用いても良く、例えばRMS粒状度やそれに類する指数を用いても良い。RMS粒状度は主に銀塩フィルムの粒状性を示す指数として利用されてきたもので、ドット分布パターンに対して適当なローパスフィルターを用いた平滑化処理を行った後に、その標準偏差値を粒状度としたものである。
【0045】
上記説明した粒状性指数を、生成途中のディザマトリックスにおいて、全ての要素(格納閾値要素と格納閾値決定要素)のドットをオンとした場合の、全体マトリックスM0、及び、分割マトリックスの各々のマトリックスに適用する。つまり全体マトリックスM0、分割マトリックス(Mp1〜Mp4,Ms1,Ms2)の各々のドットパターンに対してパワースペクトルを求め、粒状性指数を算出する。図13は、図11に示した生成途中のディザマトリックスの1行1列を格納候補要素として選択した場合の、全体マトリックスM0と分割マトリックス(Mp1〜Mp4,Ms1,Ms2)を示す説明図である。図13に示した各マトリックスに付した黒丸および着目閾値である「*」が、各マトリックスにおけるドットを示す。本実施例では、図13に示す各マトリックスのドットパターンに対して、パワースペクトル、及び粒状性指数を求める。
【0046】
上記説明において、総合評価値は各マトリックスの粒状性指数に基づいて算出すると説明したが、具体的には、図14に示す総合評価値算出式である式F3に示すように、各マトリックスの粒状性指数に重み付け係数を乗じ、加算処理を行うことによって算出する。式F3に示す、W0,Wp,Wsは、全体マトリックス及び各画素グループに対応した分割マトリックス毎の粒状性指数に付する重み付け係数である。重み付け係数は、どのマトリックスにおけるドットパターンの粒状性を重視してディザマトリックスを生成するかを決定する係数である。例えば、全体マトリックスに付する係数(W0)を、他の分割マトリックスに付する係数(Wp,Ws)に比べて相対的に大きい値に設定することで、この総合評価値に基づいて生成したディザマトリックスは、全体マトリックスに相当する「ディザマトリックス全体」におけるドットパターンの粒状性を重視したディザマトリックスとなる。その他の例として、パス毎の分割マトリックスに付する係数(Wp)を、他のマトリックスに付する係数(W0,Ws)に比べて相対的に大きい値に設定することで、この総合評価値に基づいて生成したディザマトリックスは、パス毎のドットパターンの粒状性を重視したディザマトリックスとなる。
【0047】
次に、この総合評価値の算出を行う総合評価値決定処理ルーチン(図10:ステップS340)について説明する。図15は、総合評価値決定処理ルーチンの流れを示したフローチャートである。総合評価値決定処理ルーチンは、ディザマトリックス評価処理(図10参照)において、生成途中のディザマトリックスの格納候補要素を選択して着目閾値を格納し、閾値が格納されている全ての要素(格納候補要素と格納閾値決定要素)のドットをオンとしたドットパターンの総合評価値を算出する。総合評価値を算出するにあたり、まず各マトリックスの粒状性指数を算出する。従って、総合評価値決定処理として、最初に、粒状性指数を算出するマトリックスを選択する。具体的には、全体マトリックスM0、分割マトリックス(Mp1〜Mp4,Ms1,Ms2)の中から1つ、粒状性指数を算出するマトリックスを選択する(ステップS341)。マトリックスを選択後、そのマトリックスにおける粒状性指数を算出する(ステップS342)。つまり、先述したように、選択したマトリックスにおけるドットパターンに対してフーリエ変換を行い、パワースペクトルFSを求めるとともに、図12に示した式F2を用いて粒状性指数を算出する。この粒状性指数の算出を、全てのマトリックスのドットパターンにおいて算出する(ステップS343)。本実施例においては、図13に示した各マトリックス(M0,Mp1〜Mp4,Ms1,Ms2)のドットパターンの各粒状性指数(DM0,DMp1〜DMp4,DMs1,DMs2)を算出する。全てのマトリックスにおける粒状性指数を算出後、次に、総合評価値を算出するための、各粒状性指数に付する重み付け係数(W1〜W3)を設定する(ステップS344)。この重み付け係数の設定処理では、その処理の段階における着目閾値の大きさによって、各重み付け係数の相対的な大きさを変化させ設定する。重み付け係数設定処理については、後で詳しく説明する。
【0048】
ステップS344で各マトリックスの粒状性指数に付する重み付け係数を設定後、図14に示した式F3に従い総合評価値を算出し(ステップS345)、総合評価値決定処理は終了する。図10のディザマトリックス評価処理にて説明したように、この総合評価値を全ての格納候補要素において算出し、図5のディザマトリックス生成処理に示した格納要素決定処理(図5:ステップS400)において、この全ての格納候補要素における総合評価値の中から、最も総合評価値が小さい格納候補要素を選択し、着目閾値を格納する要素として決定する。なお、粒状性指数と同様に、総合評価値はその値が小さいほど、ドットパターンにおける粒状性は低く、人間が粒状感を感じにくい。上記説明した処理を繰り返すことによって、最適化しながらディザマトリックスを生成していく。
【0049】
次に、重み付け係数設定処理(図15:ステップS344)について説明する。重み付け係数設定処理は、その処理の段階における着目閾値の大きさによって、各重み付け係数の相対的な大きさを変化させて設定する処理である。図16は、重み付け係数設定処理の流れを示したフローチャートである。総合評価値決定処理(図15)において、着目閾値を格納したディザマトリックスの全体マトリックスM0および分割マトリックスの粒状性指数を算出すると(ステップS341〜ステップS343)、重み付け係数設定処理(図16)として、着目閾値の値を確認する(ステップS351)。そして、その着目閾値に対応した重み付け係数を読み込む(ステップS352)。図17は、その一例として、図9に示したディザマトリックスの36個(6行6列)の要素に、1〜36の閾値を格納するディザマトリックス生成処理について、格納する着目閾値の値によって設定する重み付け係数の値を変化させていることを示すグラフである。図17のグラフが示すように、重み付け係数設定処理として、パス毎の分割マトリックスの粒状性指数に付する係数であるW2および、往動・復動毎の分割マトリックスの粒状性指数に付する係数W3を、「W2=20」,「W3=20」で一定とし、全体マトリックスM0の粒状性指数に付する係数W1を、着目閾値の値が大きくなるにつれて小さくし、着目閾値が36の時においては、W1=0(零)とする。このグラフから、現処理の段階における着目閾値に対応した、W1〜W3を読み込み(ステップS352)、総合評価値の算出に用いる式F3の重み付け係数として設定することにより(ステップS353)、重み付け係数設定処理は終了する。また、本処理によって重み付け係数を設定後、総合評価値決定処理として、式F3を用いて総合評価値を算出する(図15:ステップS345)。なお、本実施例に係るディザマトリックス生成処理をコンピューターによる演算処理によって行う場合は、図17に示したグラフを、ルックアップテーブル(以下、LUTとも呼ぶ)としてコンピューターが備えるメモリーに記憶させ、本処理に用いるとしてもよい。このように、ディザマトリックスの生成処理において、格納する着目閾値の値によって、重み付け係数W1〜W3の間で相対的に大きさを変化させて設定し、最適化を行いながらディザマトリックスを生成することで、様々な特性を持ったディザマトリックスの生成が可能となる。その具体例を次に示す。
【0050】
上記説明では、説明の便宜上、6行6列のディザマトリックスに対して、図17に示したグラフに則して重み付け係数を変化させながら総合評価値を算出して、ディザマトリックスを生成する具体例を挙げたが、次に、より具体的な例として、16行16列、計256個の要素からなるマトリックスに、0〜255の閾値を格納してディザマトリックスを生成する場合における重み付け係数設定処理について説明する。本説明においては、具体的な重み付け係数の設定方法として、方法1〜方法4を例示して説明する。
【0051】
図18は、重み付け係数の設定方法である方法1を説明するグラフである。図18に示したグラフは、16行16列のディザマトリックスを生成する処理において、格納する着目閾値の値によって、設定する重み付け係数の値を変化させている様子を示すグラフである。図18のグラフが示すように、重み付け係数設定処理として、パス毎の分割マトリックスの粒状性指数に付する係数であるW2および、往動・復動毎の分割マトリックスの粒状性指数に付する係数W3を、「W2=20」,「W3=20」で一定とし、全体マトリックスM0の粒状性指数に付する係数W1を、着目閾値の値が大きくなるにつれて小さくし、着目閾値が255の時においては、W1=0(零)とする。
【0052】
このような重み付け係数の設定をして生成されたディザマトリックスは、以下のような特性をもつ。方法1によって生成したディザマトリックスは、要素に格納されている閾値のうち、値が小さい閾値に関しては、ディザマトリックス全体の粒状性を重視して最適化が行われている。具体的には、先述したように、全体マトリックスM0の粒状性指数であるW1が、他の重み付け係数W2,W3に対して相対的に大きく設定され最適化が行われている。その結果、このディザマトリックスを用いて、入力された印刷データのハーフトーン処理を行うと、入力階調値の値が小さい画素データに対して生成されたドットパターン、つまり、ディザマトリックスにおける小さい閾値が格納されている要素の配置位置の粒状性が大きく反映されるドットパターンにおいては、ドットパターン全体の粒状性が低く、視覚的に粒状性が目立たない高画質なドットパターンとなる。
【0053】
一方、要素に格納されている閾値のうち、値が大きい閾値に関しては、分割マトリックス(パス毎、往動・復動毎)の粒状性を、ディザマトリックス全体の粒状性に比べて相対的に重視して最適化が行われている。具体的には、着目閾値が255の時には、W1=0,W2=W3=20として設定され最適化が行われている。その結果、このディザマトリックスを用いて、入力された印刷データのハーフトーン処理を行うと、入力階調値の値が大きい画素データに対して生成されたドットパターンは、ドットパターン全体の粒状性より、パス毎、及び、往動・復動毎の画素グループに対応したドットパターンに粒状性を相対的に反映したドットパターンとなる。
【0054】
パス毎の粒状性を大きく反映させたドットパターンは、例えば、印刷処理において印刷装置がパス毎に紙送りを行う場合(印刷ヘッド10の副走査に相当)、紙送り量にズレが生じた場合でも、その印刷処理によって印刷媒体上に形成されたインクドットは、パス毎のドットパターンの粒状性が低くなるように最適化されたディザマスクによって生成されたドットパターンなので、粒状性が低く保たれる。つまり、印刷画像の画質劣化を抑えることができる。
【0055】
また、往動・復動毎の粒状性の低さを大きく反映させたドットパターンは、例えば、印刷ヘッド10は主走査方向に往動と復動を繰り返しながら印刷媒体上にドットを形成する場合に、主走査方向の往動と復動との間で印刷ヘッド10の移動量にズレが生じた場合でも、その印刷処理によって印刷媒体上に形成されたインクドットは、往動・復動毎のドットパターンの粒状性が低くなるように最適化されたディザマスクによって生成されたドットパターンなので、粒状性が低く保たれる。つまり、印刷画像の画質劣化を抑えることができる。
【0056】
続いて、重み付け係数の設定方法である方法2について説明する。図19は、方法2を説明するグラフである。図に示すように、方法2は、着目閾値が0から128にかけて、W1が60から0へと変化し、着目閾値が129から255にかけては、W1=0で一定となる。一方、着目閾値の値が0から255にかけて、W2,W3は、W2=W3=20で一定である。
【0057】
このような重み付け係数の設定をして生成されたディザマトリックスは以下のような特性をもつ。方法2によって生成したディザマトリックスは、方法1の場合と同様に、値が小さい閾値に関しては、ディザマトリックス全体の粒状性を重視して最適化が行われている。そして、図19のグラフに示した、交点Qに相当する着目閾値より大きい値(着目閾値が86以上)に対しては、ディザマトリックス全体の粒状性より、パス毎、往動・復動毎の粒状性を重視して最適化が行われている。その結果、このディザマトリックスを用いて、入力された印刷データのハーフトーン処理を行うと、入力階調値の値が小さい画素データに対して生成されたドットパターン、つまり、ディザマトリックスにおける小さい閾値の配置位置の粒状性が大きく反映されるドットパターンにおいては、ドットパターン全体の粒状性が低いドットパターンとなる。そして、入力階調値の値が86以上の画素データに対して生成されたドットパターンにおいては、ドットパターン全体の粒状性より、パス毎、及び、往動・復動毎の画素グループに対応したドットパターンに粒状性の低さを相対的に反映したドットパターンとなる。
【0058】
上記説明した方法1、方法2はどちらも、着目閾値が大きくなるにつれて、W1の値は小さくなり、反対に、相対的にW2,3の値は大きくなる。このような方法1、方法2により生成したディザマトリックスは、印刷処理におけるドットの形成過程において、予めパス毎、往動・復動毎のズレが想定される場合に用いるのに適している。なぜならば、このようなディザマトリックスを用いると、1つの印刷画像において入力階調値における値の小さい画像部分、つまり、印刷画像内の単位面積あたりのドット数が少なくパス毎、往動・復動毎のドットのズレが視覚的に目立ちにくい部分では、画像全体の画質の劣化(粒状性の増大)を抑えて印刷をすることができる。一方、入力階調値の大きい画像部分、つまり、印刷画像内の単位面積当たりのドット数が多く、パス毎、往動・復動毎のドットのズレが視覚的に目立ちやすい部分では、パス毎、往動・復動毎のドットのズレによる画質の劣化を抑えた印刷をすることができるからである。
【0059】
次に、印刷時のドットのズレに対する画質劣化を抑制していることを示す効果を示す。図20は、方法2によって生成したディザマトリックスを用いて印刷を行った際の、印刷媒体におけるインクドットの発生量ごとの被覆率変化量について、シミュレーションにより算出したグラフである。被覆率とは、単位面積当たりの印刷媒体を覆うインクドットの面積の割合(百分率)を示す。被覆率変化量とは、印刷時に、ドットのズレが生じていない場合の被覆率と、ドットのズレが生じた場合の被覆率との差分を示す。被覆率変化量が大きいほど印刷画像の色ムラが発生しやすい。換言すれば、被覆率変化量が0(ゼロ)に近いほど色むらが発生しにくいことを示す。比較対象サンプルとして、W1=60で一定、W2=W3=20で一定として生成したディザマトリックスを用いて印刷を行った際の印刷画像の被覆率変化量を示すグラフを図20(a)に示す。図20(b)は、方法2によって生成したディザマトリックスを用いた印刷による被覆率変化量を示すグラフである。図20(a)に示すように、比較対象サンプルにおいては、ドットのズレが1ドットの場合で最大約2.5ポイント、2ドットの場合で最大約2.0ポイント、4ドットの場合で最大約3.8ポイントの被覆率変化量がある。一方、図20(b)に示すように、方法2に基づく印刷画像では、ドットのズレが1ドットの場合は比較対象サンプルと比較して、被覆率変化量は、ほぼ変化が無いものの、2ドット、4ドットのズレの場合には、比較対象サンプルと比べて、被覆率変化量の最大値が小さくなっている。方法2に基づいて生成したディザマトリックスを用いると、印刷時にドットのズレが発生しても色ムラの発生を抑え、画質劣化を抑制する。なお、本実施例においては副走査方向にドットがずれている場合について示したが、主走査方法にドットがずれた場合も同様の結果が得られる。
【0060】
次に、方法2によって生成したディザマトリックスを用いて印刷を行った際の、粒状性指数について示す。図21は、方法2に基づくディザマトリックスを用いて印刷を行った際の、印刷媒体におけるインクドットの発生量ごとの粒状性指数について示すグラフである。また、比較対象として、上述した比較対象サンプルのインクドットの発生量ごとの粒状性指数もグラフに示した。グラフ中のT1は、比較対象サンプルであるディザマトリックスを用いて印刷をした際にドットのズレが生じなかった場合のドット発生量ごとの粒状性指数を示し、T2は印刷時に2ドットのズレが生じた場合の粒状性指数を示す。T3は、方法2によって生成したディザマトリックスを用いて印刷をした際に、ドットのズレが生じなかった場合のドット発生量ごとの粒状性指数を示し、T4は印刷時に2ドットのズレが生じた場合の粒状性指数を示す。比較対象サンプルに基づく粒状性指数は、ドットにズレが生じると、どのドット発生量においても、ほぼ一定量、上昇していることがグラフから分かる。一方、方法2に基づく粒状性指数は、ドット発生量が約128までは、ドットにズレが生じると、ドットにズレが無い場合(T3)に比べて上昇しているが、ドット発生量が128より多い場合は、ドットにズレが無い場合(T3)と、ドットにズレがある場合(T4)とで、粒状性指数はほぼ変化をしないことが分かる。
【0061】
続いて、重み付け係数の設定方法である方法3について説明する。図22は、方法3を説明するグラフである。図に示すように、方法3は、着目閾値が0から255にかけて、W1=60、W2=20で一定であり、W3が20から80へと変化している。方法3により生成されたディザマトリックスを用いて、入力された印刷データのハーフトーン処理を行うと、入力階調値の値が大きくなるにつれて、往動・復動毎のドットパターンの粒状性の低さを大きく反映したドットパターンが生成される。つまり、印刷ヘッド10の主走査方向のズレに対する印刷画像の画質劣化を抑えることができる。なお、図17のグラフにおいて説明した処理と同様に、方法1〜3に用いた図18,図19,図22に示したグラフは、本実施例に係るディザマトリックス生成処理をコンピューターによる演算処理によって行う場合は、LUTとしてコンピューターが備えるメモリーに記憶させ、本処理に用いるとしてもよいのは勿論である。
【0062】
(A4)印刷装置の構成:
次に、上記説明において生成したディザマトリックスを用いた印刷を行う場合のハードウェア構成について説明する。図23は、本発明によって生成したディザマトリックスを用いて印刷を行う印刷システム1の構成を示すブロック図である。印刷システム1は、印刷制御装置としてのコンピューター90と、印刷部としての印刷装置20と、を備えている。コンピューター90では、所定のオペレーティングシステムの下で、アプリケーションプログラム91が動作している。オペレーティングシステムには、ビデオドライバー92やプリンタドライバー94が組み込まれており、アプリケーションプログラム91からは、これらのドライバーを介して、印刷装置20に転送するための印刷データが出力されることになる。アプリケーションプログラム91は、処理対象の画像に対して所望の処理を行い、また、ビデオドライバー92を介してCRT93に画像を表示する。
【0063】
アプリケーションプログラム91が印刷命令を発すると、コンピューター90のプリンタドライバー94が、画像データをアプリケーションプログラム91から受け取り、これを印刷装置20に供給するための印刷データに変換する。図23に示した例では、プリンタドライバー94の内部には、解像度変換モジュール95と、色変換モジュール96と、ハーフトーンモジュール97と、ラスタライザー98と、色変換テーブルLUTと、ディザマトリックスTHMが備えられている。このディザマトリックスTHMが本発明によって生成されたディザマトリックスである。
【0064】
解像度変換モジュール95は、アプリケーションプログラム91が扱っているカラー画像データの解像度を、プリンタドライバー94が扱うことができる解像度に変換する役割を果たす。こうして解像度変換された画像データは、まだRGBの3色からなる画像情報である。色変換モジュール96は、色変換テーブルLUTを参照しつつ、画素ごとに、RGB画像データを、印刷装置20が利用可能な複数のインク色の多階調データに変換する。
【0065】
色変換された多階調データは、例えば256階調の階調値を有している。ハーフトーンモジュール97は、インクドットを分散して形成することにより、印刷装置20でこの階調値を表現するためのハーフトーン処理を実行する。ハーフトーン処理にはディザマトリックスTHMを用いる。つまり、画像データの各画素の階調値と、ディザマトリックスTHMの閾値(各画素の位置に対応した位置に格納されている閾値)とを比較し、各画素の階調値がディザマトリックスTHMの閾値より大きい場合はドットを形成し(ドットオン)、小さい場合はドットを形成しない(ドットオフ)とする(図4参照)。その後、ハーフトーン処理された画像データは、ラスタライザー98により印刷装置20に転送すべきデータ順に並べ替えられ、最終的な印刷データとして出力される。
【0066】
プリンタドライバー94は、印刷データを生成する機能を実現するためのプログラムに相当する。プリンタドライバー94の機能を実現するためのプログラムは、コンピューターで読み取り可能な記録媒体に記録された形態で供給される。このような記録媒体としては、フレキシブルディスクやCD−ROM、光磁気ディスク、ICカード、ROMカートリッジ、パンチカード、バーコードなどの符号が印刷された印刷物、コンピューターの内部記憶装置(RAMやROMなどのメモリ)および外部記憶装置等の、コンピューターが読み取り可能な種々の媒体を利用できる。
【0067】
図24は、印刷装置20の概略構成図である。印刷装置20は、紙送りモーター22によって印刷用紙Pを副走査方向に搬送する副走査送り機構と、キャリッジモーター24によってキャリッジ30をプラテン26の軸方向(主走査方向)に往復動させる主走査送り機構と、キャリッジ30に搭載された印刷ヘッドユニット60(「印刷ヘッド集合体」とも呼ぶ)を駆動してインクの吐出およびドット形成を制御するヘッド駆動機構と、これらの紙送りモーター22,キャリッジモーター24,印刷ヘッドユニット60および操作パネル32との信号のやり取りを司る制御回路40とを備えている。制御回路40は、コネクター56を介してコンピューター90に接続されている。
【0068】
印刷用紙Pを搬送する副走査送り機構は、紙送りモーター22の回転をプラテン26と用紙搬送ローラ(図示せず)とに伝達するギヤトレインを備える(図示省略)。また、キャリッジ30を往復動させる主走査送り機構は、プラテン26の軸と並行に架設されキャリッジ30を摺動可能に保持する摺動軸34と、キャリッジモーター24との間に無端の駆動ベルト36を張設するプーリ38と、キャリッジ30の原点位置を検出する位置センサー39とを備えている。また、印刷ヘッドユニット60は、印刷ヘッド10を有しており、また、インクカートリッジを搭載可能である。
【0069】
図25は、印刷ヘッドユニット60および印刷ヘッド10を説明する説明図である。印刷ヘッドユニット60には、印刷ヘッド10として、ブラックインクを吐出するための印刷ヘッド10K、シアンインクを吐出するための印刷ヘッド10C、マゼンタインクを吐出するための印刷ヘッド10M、イエローインクを吐出するための印刷ヘッド10Yを備えている。各印刷ヘッド10はインクを吐出する吐出孔としてのノズルNzを備えている。各ノズルNzには、ノズルNzを駆動してインク滴を吐出させるための駆動素子としてのピエゾ素子(図示せず)が設けられている。印刷時には、印刷ヘッド10が主走査方向に移動しつつ、各ノズルからインク滴が吐出される。
【0070】
以上説明したハードウェア構成を有する印刷装置20は、紙送りモーター22により用紙Pを搬送しつつ、キャリッジ30をキャリッジモーター24により往復動させ、同時に印刷ヘッド10のピエゾ素子を駆動して、各色インク滴の吐出を行い、インクドットを形成して用紙P上に多色多階調の画像を形成する。本発明におけるディザマトリックスを用いた印刷は、このようなハードウェア構成のもとで行われる。なお、図1における説明では、説明の便宜上、印刷ヘッド10は1つとして記載しているが、実際には、図25で示すように、印刷装置20はインクの色数分だけ印刷ヘッド10を備えている。
【0071】
以上、説明したように、ディザマトリックスの生成において、着目閾値の値に依存して重み付け係数の大きさを相対的に変化させながら総合評価値を算出し最適化を行うことによって、各々に特性の異なる複数のディザマトリックスを生成することが可能である。また、重み付け係数の変化の態様により、ディザマトリックスの特性を制御することができる。例えば、上記説明したように、入力階調値の小さい画像部分と大きい画像部分とで、印刷媒体上に形成されるドットの性質を変えることができる。つまり、印刷処理に用いる印刷装置の特性、例えばパス毎のズレの大小や、往動・復動毎のズレの大小などの特性よって、その印刷装置の特性に適合したディザマトリックスの生成が可能である。
【0072】
B.第2実施例:
次に第2実施例について説明する。第1実施例と第2実施例との違いは、重み付け係数設定処理における重み付け係数W1〜W3の設定方法ある。よって、重み付け係数設定処理以外の部分は第1実施例と同様であるので説明は省略する。第1実施例では、重み付け係数設定処理として、重み付け係数W1〜W3の大きさを相対的に変化させた。第2実施例では、重み付け係数W1〜W3の大きさは相対的に一定とし、かつ、W1を、W2およびW3の値以下の値に設定する。第2実施例における重み付け係数の設定方法として、方法4、方法5を例示して説明する。
【0073】
図26は、第2実施例における重み付け係数設定処理として方法4を説明するグラフである。図26に示すように、方法4は、着目閾値が0から255にかけて、W1=W2=W3=20で一定に設定されている。このような重み付け係数の設定をして生成したディザマトリックスを用いてハーフトーン処理を行うと、生成されたドットパターンは、パス毎、及び、往動・復動毎の画素グループに対応したドットパターンの粒状性を、ドットパターン全体の粒状性と同等に重視したドットパターンとなる。
【0074】
従来のディザマトリックスの生成方法における重み付け係数は、W1が他の重み付け係数(本実施例ではW2,W3)より大きく設定されていた。このように従来の方法で設定することで、紙送り量のズレや、印刷ヘッド10の往動と復動との間でのズレが無い場合は、印刷により出力された印刷画像の粒状性は低く、画像として高画質となる。一方、方法4は、パス毎、及び、往動・復動毎の画素グループに対応したドットパターンの粒状性を、ドットパターン全体の粒状性と同等に重視してディザマトリックスが生成されているので、このディザマトリックスを用いて印刷を行った場合は、紙送り量のズレや、印刷ヘッド10の往動と復動との間でのズレが発生した場合でも、パス毎、及び、往動・復動毎のドットパターンの粒状性の低さは保たれ、印刷画像の画質の劣化を抑えることができる。
【0075】
続いて、重み付け係数の設定方法である方法5について説明する。図27は、方法5を説明するグラフである。図27に示すように、方法5は、W1は、「W1=0」で一定として設定されている。方法5により生成されたディザマトリックスを用いて、入力された印刷データのハーフトーン処理を行うと、入力階調値の全ての範囲において、印刷ヘッド10の主走査方向のズレ、および紙送り量のズレによる印刷媒体上のドットのズレが目立ちにくく粒状性の低さを重視した印刷画像を印刷することができる。一方、W1=M(M>0)に設定して生成したディザマトリックス、例えば方法4によるドットパターンと比較して、印刷画像におけるドットパターン全体の粒状性は高くなる。つまり、方法5により生成されたディザマスクによる印刷画像のドットパターンは、印刷ヘッド10の主走査方向のズレ、および紙送り量のズレによる印刷媒体上のドットのズレが無い場合は、ドットパターンの粒状性は、W1=M(M>0)の設定によって生成されたドットパターンより、全体の粒状性は高いが、印刷ヘッド10の主走査方向のズレ、および紙送り量のズレによる印刷媒体上のドットのズレが生じた場合に、それらのズレによる粒状性の増加を抑えるように重み付け係数が設定され処理されているので、W1=M(M>0)の設定の場合に比べ、粒状性の増加を抑え、印刷画像の画質の劣化を最小限に抑えることができる。
【0076】
図28は、方法5によって生成したディザマトリックスを用いて印刷を行った際の、印刷媒体におけるインクドットの発生量ごとの被覆率変化量について、シミュレーションにより算出したグラフである。上述した比較対象サンプル(図20(a)参照)と比較すると、方法5に基づく印刷画像においては、印刷の際にドットが2ドットおよび4ドットずれた場合には、被覆率変化量が小さいことがわかる。
【0077】
図29は、方法5に基づくディザマトリックスを用いて印刷を行った際の、印刷媒体におけるインクドットの発生量ごとの粒状性指数について示すグラフである。また、比較対象として、上述した比較対象サンプルのインクドットの発生量ごとの粒状性指数(T1,T2)もグラフに示した。T5は、方法5によって生成したディザマトリックスを用いて印刷をした際に、ドットのズレが生じなかった場合のドット発生量ごとの粒状性指数を示し、T6は印刷時に2ドットのズレが生じた場合の粒状性指数を示す。方法5に基づく粒状性指数は、T5、T6ともドット発生量毎の値が等しく、ドットにズレが生じた場合も、ズレが生じていない場合と比べて、粒状性指数に変化が無いことが分かる。つまり、方法5によって生成したディザマトリックスを用いて印刷を行うと、印刷時にドットにズレが生じても粒状性指数の上昇を抑制する。
【0078】
以上、第2実施例で説明したように、全体マトリックスM0の粒状性指数に付する係数W1を、他の重み付け係数(本実施例ではW2,W3)以下の値で、かつ、W1〜W3を、階調値の全範囲で一定値とすることで、入力階調値の大きさによらず、印刷ヘッド10の主走査方向のズレ、および紙送り量のズレによる印刷媒体上のドットのズレに対して、粒状性の増加を抑え、画質の劣化を抑制するドットパターンで印刷出力を行うことができる。
【0079】
以上、本発明における実施例について説明したが、本発明はこれらの態様に限られるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲で、種々の態様で実施をすることができる。例えば、上記実施例では、印刷ヘッド10のドット形成過程におけるパス毎および往動・復動毎に、印刷画素のグループ化を行ったが、複数の印刷ヘッドを備えた印刷装置で印刷を行う印刷画素においては、各印刷ヘッド毎のグループ化、つまり各印刷ヘッドがドットを形成する画素毎に印刷画素をグループ化することが可能である。その他、印刷ヘッドに備えられた複数のインクノズルから吐出したインク滴が印刷媒体上にドットを形成する過程において、各ノズルがドットを形成する画素毎にグループ化をすることも可能である。その他、印刷装置が備えるインクの色毎に印刷画素をグループ化し、ディザマトリックスを生成することも可能である。
【符号の説明】
【0080】
1…印刷システム
10…印刷ヘッド
10C…印刷ヘッド
10K…印刷ヘッド
10M…印刷ヘッド
10Y…印刷ヘッド
20…印刷装置
22…モーター
24…キャリッジモーター
26…プラテン
30…キャリッジ
32…操作パネル
34…摺動軸
36…駆動ベルト
38…プーリ
39…位置センサー
40…制御回路
56…コネクター
60…印刷ヘッドユニット
90…コンピューター
91…アプリケーションプログラム
92…ビデオドライバー
94…プリンタドライバー
95…解像度変換モジュール
96…色変換モジュール
97…ハーフトーンモジュール
98…ラスタライザー
G…グラフ
L…変数
u…変数
K…係数
P…印刷用紙
Q…交点
M0…全体マトリックス
FS…パワースペクトル
Ls…移動量
Nz…ノズル
THM…ディザマトリックス
VTF…空間周波数特性
Mp1…分割マトリックス
Mp2…分割マトリックス
Ms1…分割マトリックス
Ms2…分割マトリックス
LUT…色変換テーブル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力画像データに対して、印刷装置が備える印刷ヘッドが印刷媒体上の印刷画素に形成するドットの形成状態を決定するハーフトーン処理に用いるディザマトリックスの生成方法であって、
ディザマトリックスの閾値が格納されていない要素である空白要素に格納すべき複数の前記閾値の一つを着目閾値として選択する着目閾値選択工程と、
複数の前記空白要素の中から、前記着目閾値を格納したとした場合の所定の評価方法による評価が最も高くなる空白要素を抽出し、該抽出した前記空白要素に前記着目閾値を格納することによって最適化を行う着目閾値格納工程と
を前記空白要素が所定数以下となるまで繰り返すものとして備え、
前記所定の評価方法は、前記空白要素に前記着目閾値を格納したとした場合の前記ディザマトリックスを、所定の規則に則した1種類以上の分割方法の各々によって複数の分割マトリックスに分割し、前記ディザマトリックスに対応する全体マトリックスと複数の前記分割マトリックスとの各々に対して第1の評価値を算出し、前記第1の評価値の各々に、前記着目閾値の大きさに依存して相互に相対的な大きさが変化する重み付け係数を付し、前記重み付け係数を付した値に基づいて第2の評価値を算出し、該第2の評価値を用いた評価が最も高くなるように行う
ディザマトリックス生成方法。
【請求項2】
請求項1記載のディザマトリックス生成方法であって、
前記着目閾値格納工程は、前記繰り返しにおいて、
前記全体マトリックスに対応する前記第1の評価値に付する前記重み付け係数が、前記分割マトリックスに対応する前記第1の評価値に付する前記重み付け係数の少なくとも1つよりも小さい状態で、前記所定の評価方法による前記評価を少なくとも1回行う
ディザマトリックス生成方法。
【請求項3】
入力画像データに対して、印刷装置が備える印刷ヘッドが印刷媒体上の印刷画素に形成するドットの形成状態を決定するハーフトーン処理に用いるディザマトリックスの生成方法であって、
ディザマトリックスの閾値が格納されていない要素である空白要素に格納すべき複数の前記閾値の一つを着目閾値として選択する着目閾値選択工程と、
複数の前記空白要素の中から、前記着目閾値を格納したとした場合の所定の評価方法による評価が最も高くなる空白要素を抽出し、該抽出した前記空白要素に前記着目閾値を格納することによって最適化を行う着目閾値格納工程と
を前記空白要素が所定数以下となるまで繰り返すものとして備え、
前記所定の評価方法は、前記空白要素に前記着目閾値を格納したとした場合の前記ディザマトリックスを、所定の規則に則した1種類以上の分割方法の各々によって複数の分割マトリックスに分割し、前記ディザマトリックスに対応する全体マトリックス、および複数の前記分割マトリックスの各々に対して第1の評価値を算出し、前記各第1の評価値に重み付け係数を付した値に基づいて第2の評価値を算出し、該第2の評価値を用いた評価が最も高くなるように行い、
前記各重み付け係数の大きさは一定であり、前記全体マトリックスに対する前記第1の評価値に付する前記重み付け係数を前記分割マトリックスに付する前記重み付け係数より小さい重みとした
ディザマトリックス生成方法。
【請求項4】
前記所定の評価方法において、前記全体マトリックスに対する前記第1の評価値に付する前記重み付け係数は0(零)である請求項3記載のディザマトリックス生成方法。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか記載のディザマトリックス生成方法であって、
前記ドットは前記印刷ヘッドによる主走査方向への往動時と復動時とで前記印刷媒体上に形成され、
前記分割方法は、前記印刷ヘッドが前記往動時に前記ドットを形成する前記印刷画素と前記印刷ヘッドが前記復動時に前記ドットを形成する前記印刷画素とに対応して、前記ディザマトリックスを分割する方法を含む
ディザマトリックス生成方法。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれか記載のディザマトリックス生成方法であって、
前記印刷画素には各々、前記印刷ヘッドの何回目の主走査で前記ドットが形成されるかを示すパス番号が関連付けられており、
前記分割方法は、前記パス番号が関連付けられた前記印刷画素に対応して、前記ディザマトリックスを前記パス番号に則して分割する方法を含む
ディザマトリックス生成方法。
【請求項7】
入力画像データに対して、印刷装置が備える印刷ヘッドが印刷媒体上の印刷画素に形成するドットの形成状態を決定するハーフトーン処理に用いるディザマトリックスの生成をコンピューターに実行させるコンピュータープログラムであって
ディザマトリックスの閾値が格納されていない要素である空白要素に格納すべき複数の前記閾値の一つを着目閾値として選択する着目閾値選択機能と、
複数の前記空白要素の中から、前記着目閾値を格納したとした場合の所定の評価方法による評価が最も高くなる空白要素を抽出し、該抽出した前記空白要素に前記着目閾値を格納することによって最適化を行う着目閾値格納機能と
を前記空白要素が所定数以下となるまで繰り返すものとして前記コンピューターに実現させ、
前記所定の評価方法は、前記空白要素に前記着目閾値を格納したとした場合の前記ディザマトリックスを、所定の規則に則した1種類以上の分割方法の各々によって複数の分割マトリックスに分割し、前記ディザマトリックスに対応する全体マトリックスと複数の前記分割マトリックスとの各々に対して第1の評価値を算出し、前記第1の評価値の各々に、前記着目閾値の大きさに依存して相互に相対的な大きさが変化する重み付け係数を付し、前記重み付け係数を付した値に基づいて第2の評価値を算出し、該第2の評価値を用いた評価が最も高くなるように行う
コンピュータープログラム。
【請求項8】
入力画像データに対して、印刷装置が備える印刷ヘッドが印刷媒体上の印刷画素に形成するドットの形成状態を決定するハーフトーン処理に用いるディザマトリックスの生成をコンピューターに実行させるコンピュータープログラムであって、
ディザマトリックスの閾値が格納されていない要素である空白要素に格納すべき複数の前記閾値の一つを着目閾値として選択する着目閾値選択機能と、
複数の前記空白要素の中から、前記着目閾値を格納したとした場合の所定の評価方法による評価が最も高くなる空白要素を抽出し、該抽出した前記空白要素に前記着目閾値を格納することによって最適化を行う着目閾値格納機能と
を前記空白要素が所定数以下となるまで繰り返すものとして前記コンピューターに実現させ、
前記所定の評価方法は、前記空白要素に前記着目閾値を格納したとした場合の前記ディザマトリックスを、所定の規則に則した1種類以上の分割方法の各々によって複数の分割マトリックスに分割し、前記ディザマトリックスに対応する全体マトリックス、および複数の前記分割マトリックスの各々に対して第1の評価値を算出し、前記各第1の評価値に重み付け係数を付した値に基づいて第2の評価値を算出し、該第2の評価値を用いた評価が最も高くなるように行い、
前記各重み付け係数の大きさは一定であり、前記全体マトリックスに対する前記第1の評価値に付する前記重み付け係数は、前記分割マトリックスに付する前記重み付け係数より小さい重みとした
コンピュータープログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【公開番号】特開2011−71829(P2011−71829A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−222208(P2009−222208)
【出願日】平成21年9月28日(2009.9.28)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】