説明

ディスクブレーキ装置

【課題】 間隔の大きなばね上とばね下間にも高い全方向の自由度を確保して取り付けることが可能で、パワーブレーキ力と同等のパーキングブレーキ力が得られて、組付け性に優れ、精度の高い確実な隙間調整機能も有するディスクブレーキ装置を提供する。
【解決手段】 ピストン5Bが全方向に自由度を有して揺動するブレーキアーム22を介してプレーキパッド3を押圧作動させ、左右一対の自動隙間調整機構5、5間に設置されたカムピン9を支点として、サービスおよびパーキングブレーキチャンバ7S、7Pのいずれかによって揺動するカムレバー12S、12Pにより自動隙間調整機構5、5のいずれもが離反軸動するので、ブレーキアーム22の作動量に追従してパッド3の磨耗を自動隙間調整でき、ブレーキアーム22側を組み付けた際の全方向に自由度を有するブレーキアーム22の揺動誤差も均等に自動隙間調整5、5により適切に調整できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクチュエータにより軸動する自動隙間調整機構を介してピストンがプレーキパッドを押圧作動させるディスクブレーキ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両において使用されるディスクブレーキ装置にあっては、ブレーキパッドとブレーキディスクとの間の隙間が大きくなったときには、その隙間を初期に設定した適正隙間になるように自動的に調整する自動隙間調整機構を備えている。この自動隙間調整機構としては様々な技術が提案されて採用されている。従来、カム機構を用いた機械式の操作装置を有するディスクブレーキ装置に自動隙間調整機構を採用しようとすると、ブレーキパッドとブレーキディスクとの隙間を調整したとき、カム機構を構成する駆動部分と従動部分との間にブレーキパッドの摩耗相当分の隙間(遊び)が発生し、操作ストローク量が変化するという問題があった。このような自動隙間調整に関連して、操作系の操作ストローク量を適正に自動調整するものが提案された(下記特許文献1参照)。
【0003】
一方、ディスクブレーキ装置にあって、通常使用する制動力の大きなサービスブレーキに対して車両の駐車時に作動させるやや制動力の小さいパーキングブレーキを備えるものが提案されている(下記特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2004−218680号公報(公報要約書参照)
【特許文献2】特開平5−196068号公報(公報要約書参照)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記特許文献1に開示され図7に示したディスクブレーキ装置は、ディスクブレーキ装置110において、ブレーキレバー117とナット部材119との間に、円筒状のガイド141とストッパ142とコイルスプリング143とからなる隙間吸収機構140を配置し、アジャスター機構130が摩擦パッド112とディスク111との間の隙間Cを適正隙間に調整したとき、コイルスプリング143がガイド141を介してブレーキレバー117を左側の摩擦パッド112に押し付け、これにより、ブレーキレバー117と左側の摩擦パッド112との間に生じる隙間を吸収し、操作系のストローク量を初期設定ストローク量に調整するものである。
【0005】
詳述すると、図7(C)に示すように、パッド部113とディスク111との間の隙間Cが磨耗して拡大すると、パッドプレート114が第1の調整機構130におけるスペーサ134を左方向へ押圧する。一方向(左方向)への移動が可能なストッパ133がガイド132内にて非可逆的に左方向へ移動する。これにより、パッド部113とディスク111との間の隙間Cが自動調整される。この自動隙間調整により一対のパッド部113すなわちパッドプレート114、114間の寸法が縮小することになる。
【0006】
一方、図7(A)(B)に示すように、図示外のブレーキペダル等のブレーキ操作によりブレーキレバー117が支持軸116を揺動中心として揺動するとき、ブレーキレバー117の支軸部がくの字状に曲折形成されたカム機構118を有しているため、ブレーキレバー117の揺動に伴い、ボール118bと第2の隙間吸収機構140におけるガイド140との間を押し広げる。ブレーキ操作の解除時には前記第1の調整機構130により調整されてパッドプレート114、114間の寸法が縮小した分、ボール118bとブレーキレバー117の板カム部118aとの間に隙間が生じる。このとき、コイルスプリング143にて底板141aを付勢しているガイド141はストッパ142に対して右方向の一方向にしか非可逆的に移動ができないため、前記ボール118bと板カム部118aとの間の隙間が吸収され、その結果、操作系の操作ストローク量が適正状態に調整されることになる。
【0007】
しかしながら、この第1従来の調整機構では、1回の作動での送り量が少ないため、車両組付け時に隙間が大きいと、所定隙間となるまでになるまでに多くの作動回数を要する上に、初期隙間を小さくすると、車両への組付けが困難になる虞れがあった。また、パッド部が変形するほどの大きな制動軸力が作用した場合に過度の隙間調整がなされてしまう虞れもあった。さらには、隙間調整機構がパッドプレート間に配設されているために、磨耗したブレーキパッドを交換するには、ブレーキ装置を全てを分解しなければならず面倒であった。
【0008】
また、前記特許文献2に開示され図8に示したディスクブレーキ装置は、ブレーキディスクDは半径方向外側の第1制動面243aと半径方向内側の第2制動面243bとを備え、サービスブレーキャリパCsは前記外側の第1制動面243aを把持し、パーキングブレーキキャリパCpは前記内側の第2制動面243bを把持する。これにより、パーキングブレーキキャリパCpはサービスブレーキャリパCsにより荒らされた第1制動面243aを使用することなく、専用の第2制動面243bを使用することが可能となり、パーキングブレーキキャリパCpの制動力が確保される。
【0009】
しかしながら、この第2従来例のものでは、1つのブレーキディスクDを、サービスブレーキキャリパCsとパーキングブレーキキャリパCpとでそれぞれ制動させることができるものの、油圧等により作動するサービスブレーキキャリパCsに対して、パーキングブレーキキャリパCpは、パーキングブレーキペダル等にワイヤを介して連結されたアーム237の揺動により前進する早螺子236によって作動するものである。つまり、動力源を異にするそれぞれのアクチュエータによって作動する。したがって、サービスブレーキキャリパCsとパーキングブレーキキャリパCpとの間にブレーキ力の差が生じるのは避けられなかった。
【0010】
一方、鉄道車両のように、アクチュエータ等のパワーユニットが取り付けられるばね上と、ブレーキディスクへの制動部を構成するブレーキパッドが動作するばね下との間隔が離れていて相対移動が大きい場合には、それらに対応する機構が求められる。前述の各従来例のように比較的小型の機械式操作機構の場合は、パワーユニット部をブレーキディスク近傍に配設できるので、格別の対応する機構は必要としないが、鉄道車両のように、パワーユニットが取り付けられるばね上と、ブレーキパッドが動作するばね下とが離れている場合には、ブレーキアームのような梃子を用いたものが知られている。そして、必要とされる全方向の自由度と強度を両立させるため、大型で複雑なリンク機構等となり易く、パッド磨耗に対する自動隙間調整機構の組込みが困難となり、組付け作業も複雑となった。
【0011】
そこで本発明は、前記従来のディスクブレーキ装置の諸課題を解決して、間隔の大きなばね上とばね下間にも高い全方向の自由度を確保して取り付けることが可能で、パワーブレーキ力と同等のパーキングブレーキ力が得られて、組付け性に優れ、格別の精度を要せずして、隙間調整後にアクチュエータである操作側にずれを生じることがなく、精度の高い確実な隙間調整機能も有するディスクブレーキ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
このため本発明は、アクチュエータにより軸動する自動隙間調整機構を介してピストンがプレーキパッドを押圧作動させるディスクブレーキ装置において、前記ピストンが全方向に自由度を有して揺動するブレーキアームを介してプレーキパッドを押圧作動させるように構成するとともに、前記アクチュエータからピストンまでをサブアセンブリ化してパワーユニットとし、該パワーユニットに対してブレーキアーム側を組み付けるように構成するとともに、前記自動隙間調整機構を左右一対それぞれ配設し、それらの間に設置されたカムピンを支点としてサービスブレーキチャンバおよびパーキングブレーキチャンバのいずれかによって揺動するカムレバーにより前記自動隙間調整機構のいずれもが離反軸動するように構成されたことを特徴とする。また本発明は、前記サービスブレーキチャンバとパーキングブレーキチャンバとを対向配置したことを特徴とする。また本発明は、前記カムピンと、該カムピンの両側に配設された各カムレバーと自動隙間調整機構との間に配設されるカムベアリングとが、前記自動隙間調整機構の中心軸方向に移動可能にカムガイドに保持されたことを特徴とする。また本発明は、前記カムガイドと自動隙間調整機構におけるアジャストプラグが回転不能に組み付けられたことを特徴とするもので、これらを課題解決のための手段とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、アクチュエータにより軸動する自動隙間調整機構を介してピストンがプレーキパッドを押圧作動させるディスクブレーキ装置において、前記ピストンが全方向に自由度を有して揺動するブレーキアームを介してプレーキパッドを押圧作動させるように構成するとともに、前記アクチュエータからピストンまでをサブアセンブリ化してパワーユニットとし、該パワーユニットに対してブレーキアーム側を組み付けるように構成するとともに、前記自動隙間調整機構を左右一対それぞれ配設し、それらの間に設置されたカムピンを支点としてサービスブレーキチャンバおよびパーキングブレーキチャンバのいずれかによって揺動するカムレバーにより前記自動隙間調整機構のいずれもが離反軸動するように構成されたことにより、プレーキパッドを先端に有するブレーキアームの作動量に追従してパッドの磨耗を自動隙間調整することが可能であり、しかもパワーユニットに対してブレーキアーム側をユニットとして簡便に組み付けた際の全方向に自由度を有するブレーキアームの揺動誤差も自動隙間調整により適切に調整できるのみならず、カムピンを挟んでカムレバーが互いに向き合う均衡の取れたカム機構により、サービス用およびパーキング用のいずれのチャンバからの操作力入力にても、均等に自動隙間調整機構を介して左右のブレーキアームに制動力を伝達することができる。。
【0014】
また、前記サービスブレーキチャンバとパーキングブレーキチャンバとを対向配置した場合は、カムピンを挟んでカムレバーが互いに向き合う均衡の取れたカム機構として、互いの対向位置に、容易に同等の制動力が得られるブレーキチャンバを簡単かつ容易に追加することができる。
【0015】
さらに、前記カムピンと、該カムピンの両側に配設された各カムレバーと自動隙間調整機構との間に配設されるカムベアリングとが、前記自動隙間調整機構の中心軸方向に移動可能にカムガイドに保持された場合は、カムピン、各カムレバーおよびカムベアリングがフーティング形態にてカムガイドに保持されるため、サービスブレーキチャンバおよびパーキングブレーキチャンバのいずれかによって揺動する一方のカムレバーの作動によっても、互いの反作用により、均等に自動隙間調整機構を介して左右のブレーキアームに制動力を効果的に伝達することができる。しかも、カムガイドは板金等にて容易に加工できる。
【0016】
さらにまた、前記カムガイドと自動隙間調整機構におけるアジャストプラグが回転不能に組み付けられた場合は、カム機構と自動隙間調整機構とをパワーユニットとしてユニット化する際に確実に回り止めされ、自動隙間調整機構における調整作用を精度よく行うことが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下本発明に係るディスクブレーキ装置を実施するための好適な形態を図面に基づいて説明する。図1は本発明のディスクブレーキ装置の1つの実施例を示す全体断面図、図2は同、平面図、図3は同、側断面図、図4は同、パワーユニットとしてのエアチャンバから自動隙間調整機構までの要部拡大断面図、図5は同、カム機構の分解斜視図、図6は同、カム機構から自動隙間調整機構を含むリンクピストンまでの組立図である。本発明のディスクブレーキ装置の基本的な構成は、図1に示すように、アクチュエータ(7〜12)により軸動する自動隙間調整機構5を介してピストン5Bがプレーキパッド3、4を押圧作動させるディスクブレーキ装置において、前記ピストン5Bが全方向に自由度を有して揺動するブレーキアーム22を介してプレーキパッド3、3を押圧作動させるように構成するとともに、前記アクチュエータからピストンまでをサブアセンブリ化してパワーユニットとし、該パワーユニットに対してブレーキアーム22側を組み付けるように構成するとともに、前記自動隙間調整機構5を左右一対それぞれ配設し、それらの間に設置されたカムピン9を支点としてサービスブレーキチャンバ7Sおよびパーキングブレーキチャンバ7Pのいずれかによって揺動するカムレバー12S、12Pにより前記自動隙間調整機構5、5のいずれもが離反軸動するように構成されたことを特徴とする。
【実施例1】
【0018】
図1に示すように、本発明のディスクブレーキ装置は、キャリパボディ1の左右(図面上、以下同じ)に設置されたサービス用のエアチャンバ7S、パーキング用のエアチャンバ7Pにより動力を得る。好適には空気圧等の流体圧(正圧あるいは負圧のいずれも可能)を動力源とし、それぞれの軸動するエアチャンバ7S、7Pの各ロッド7Bの進退によりレバー12S、12Pがこれらの下端近傍の間に配設されたカムピン9を支点として揺動する。レバー12S、12Pの揺動に伴う上下方向のずれは各中間リンク7Cにより吸収される。カムピン9を含むカム機構および後述する自動隙間調整機構5ならびにピストン5B等がブラケット5H内に収納されてアジャストユニット20として前記エアチャンバ7S、7Pの下方に配設され、これら両者によってパワーユニットとしてユニット化される。
【0019】
前記アジャストユニット20の両端部の各ピストン5Bに接続された各リンクピストン16に、左右のアームシャフト21に軸支された各ブレーキアーム22の上端部が連結される。各ブレーキアーム22の下端部にはそれぞれブレーキパッド3、3がブレーキボルト23により上下首振り自在に支持される。かくして、前記アクチュエータ7〜12からピストンまでをサブアセンブリ化してパワーユニットとし、該パワーユニットに対してブレーキアーム22側をユニットとしてアームシャフト21により容易に組み付けることができる。
【0020】
図2は本発明のディスクブレーキ装置の1つの実施例を示す平面図で、キャリパボディ1の平面視形状が明確に理解できる。キャリパボディ1の側面に連結されたサポータ2とキャリパボディ1の上面の取付部1Aとにより、パワーユニットとして車体静止部に取り付けられる。左右に対向配置されるサービス用のエアチャンバ7Sとパーキング用のエアチャンバ7P、各チャンバにおけるロッドに接続された中間リンク7Cやカムピン9の配設状態が分かる。一部にユニットとしてパワーユニットに取り付けられたブレーキアーム22と該ブレーキアーム22に支持されたブレーキパッド3が見えている。
【0021】
図3は本発明のディスクブレーキ装置の1つの実施例を示す側断面図である。下端部にブレーキパッド3が水平状のブレーキボルト23、23により上下に首振り自在に支持されたブレーキアーム22がパワーユニットを含むキャリパボディ1に対してアームシャフトにより軸支されて組み付けられる状態が明確に理解される。側面視で略門型形状のキャリパボディ1に対して、ブレーキアーム22の上端部22Aを前述した自動隙間調整機構5に接続するリンクピストン16(図1)部に連結するとともに、その下方の中間部をアームシャフト21により軸支して取り付ける。
【0022】
両者の軸方向の相対揺動面間にはアンカプラグ28、28が介設され、アームシャフト21とブレーキアーム22の軸孔との間には隙間27を配するとともに、アームシャフト21の中間部とブレーキアーム22の中間部との間にはスペーサ26および球面ベアリング19が配設される。これらの隙間27、スペーサ26および球面ベアリング19の介在により、ブレーキアーム22がパワーユニットすなわちキャリパボディ1に対して、前後、左右および上下方向の全方向に自在に僅かの揺動が可能に構成される。スペーサ26、アンカプラグ28は可撓性を有する。
【0023】
ブレーキアーム22の上端部と自動隙間調整機構5から出力されたリンクピストン16との連結について説明する。図4の拡大図にて示すように、詳細は後述する自動隙間調整機構5の末端部を構成するピストン5Bに当接して押圧されるリンクピストン16に、該リンクピストン16の外端部に挿入されたリンクロッド18が連結ピン17により連結される。リンクピストン16に隣接して球面部材16Aと、該球面部材16Aと球面係合する球面シート22Bが配設される。図1に示すように、前記リンクロッド18を収納する形態にてブレーキアーム22の上端部に形成された遊嵌孔部を挿入する。ブレーキアーム22の外側においてスプリング24にて弾接してスプリングシート25により保持させる。したがって、球面部材16A、球面シート22Bおよび遊嵌孔部の介設によって、リンクピストン16に対するブレーキアーム22の全方向の揺動を吸収することができる。
【0024】
次に、図4を用いて自動隙間調整機構5について説明する。自動隙間調整機構5は左右一対それぞれ配設され、それらの間に設置されたカムピン9を支点としてサービスブレーキチャンバ7Sおよびパーキングブレーキチャンバ7P(図4ではパーキングブレーキ側は図示省略されている)のいずれかによって揺動するカムレバー12Sあるいは12Pにより前記自動隙間調整機構5、5のいずれもが離反軸動するように構成される。サービスブレーキ側のみについて説明する。カムレバー12Sのカムピン9を支点とした反時計方向への揺動により、カムベアリング10Sが右方向へ移動し、カムガイド8Sを介してアジャストプラグ5Eをスプリング5Gの復元力に抗して右方向へ移動させる。アジャストプラグ5Eの傾斜面とテーパクラッチ面15を構成する傾斜端面を有するアジャストナット5Cと、該アジャストナット5Cを調整螺合部14にて螺合するアジャストスピンドル5Dとを右方向へ移動させる。
【0025】
前記アジャストプラグ5Eを左方向へ付勢するスプリング5Gは、スプリングシート5Sを介してアジャストプラグ5Eの内周側の段差部を押圧している。スプリングシート5Sの内側には前記アジャストナット5Cを左方向へ付勢する皿ばね5Pが介設されている。前記アジャストスピンドル5Dの端部を収納するピストン5Bは、前記アジャストプラグ5E、テーパクラッチ面15、アジャストナット5C、調整螺合部14およびアジャストスピンドル5Dを介して右方向へ押圧移動される。前記テーパクラッチ面15が接触していてアジャストナット5Cが回転不能となっているため、調整螺合部14にてアジャストナット5Cとアジャストスピンドル5Dが相対回転することはない。したがって、ピストン5Bがリンクピストン16および球面部材16Aを右方向へ押圧する。
【0026】
かくして、図1に示すように、ブレーキアーム22の上端部の溝部に収納された球面部材16Aと球面接触する球面シート22Bを介してブレーキアーム22をアームシャフト21の周りに時計方向に揺動させる。これによって、ブレーキアーム22の下端部に支持されたブレーキパッド3を図示外のブレーキシューに押し付ける。この動作は、前記サービスブレーキ側のカムベアリング10Sの右側への移動の反作用により、パーキング側のカムレバー12Pが作動しなくても、カムピン9や各カムレバー12S、12Pとともに、カムベアリング10Pが左方向に移動するように構成されているので、パーキングブレーキ側でも自動隙間調整機構5、リンクピストン16等を介してブレーキアーム22をアームシャフト21の周りに反時計方向に揺動させることができる。かくして、サービスブレーキチャンバ7Sおよびパーキングブレーキチャンバ7Pのいずれかによって揺動するカムレバー12Sあるいは12Pにより、自動隙間調整機構5、5のいずれもが互いの反作用により離反軸動してほぼ均等の制動力にてブレーキパッド3、3をブレーキディスクに押し付けて挟圧することができる。
【0027】
次に、図4に戻り、サービスブレーキチャンバ7Sの空気圧を開放してロッド7Bを後退させると、カムレバー12Sもカムピン9を支点として時計方向に揺動し、カムベアリング10Sを左方向の初期位置に後退させる。すると、アジャストプラグ5Eもスプリング5Gの復元力により左方向に移動してアジャストナット5Cとのテーパクラッチ面15が開放される。もし、ブレーキパッド3の磨耗やブレーキアーム22のアームシャフト21に対する全方向自由度に基づく誤差等に起因して、ピストン5Bやリンクピストン16のストロークが増大した場合には、ピストン5Bが相対移動し、その隙間増大分に相当する隙間が前記アジャストナット5Cとアジャストプラグ5Eとのテーパクラッチ面15に発生する。この隙間は、前記スプリングシート5S内に介設された皿ばね5Pの復元力により、アジャストナット5Cを左方向に押圧しつつ、アジャストスピンドル5Dとの間の調整螺合部14での回転力を発生させて、テーパクラッチ面15が接触するに到り自動隙間調整が完了する。この隙間調整によって操作部であるアクチュエータ側にずれを生じることはない。何故なら、ブレーキパッドの摩耗等によるピストン5Bとの相対移動はアジャストナット5Cとの回転調整により吸収されるからである。
【0028】
図5は本発明のディスクブレーキ装置の1つの実施例を示すカム機構の分解斜視図である。図1に示すような、サービスブレーキチャンバ7Sおよびパーキングブレーキチャンバ7Pのいずれかによって揺動するカムレバー12Sあるいは12Pが、それらの間に設置されたカムピン9を支点としてそれらの上端部が各チャンバのロッド7B、7Bにより互いに近接する方向に揺動するとき、それぞれのカムレバーの下端部の背面によってカムベアリング10S、10Pのそれぞれが互いの反作用により、離反する方向に均等な制動力が得られるように構成されている。すなわち、中央のカムピン9、カムレバー12S、12Pの下端部、カムベアリング10S、10Pのそれぞれがカムガイド8S、8Pの長孔8B、8Aに、自動隙間調整機構5の中心軸方向に移動可能に保持される。
【0029】
図5(B)に示すように、カムガイド8S、8Pは前後(自動隙間調整機構5の中心軸方向に直交する方向)一対の分割片から構成される。上方に開いたチャンネル状体の後方から自動隙間調整機構5の中心軸方向に延びる延設部を有するパーキング側のカムガイド8Pと、上方に開いたチャンネル状体の前方から自動隙間調整機構5の中心軸方向に延びる延設部を有するパーキング側のカムガイド8Sとを対向させて構成する。それぞれのカムガイド8P、8Sの延設部における中心軸方向の対向部にはカムピン9のための長孔8B、8Bが、自動隙間調整機構5側にはカムベアリング10S、10Pのための長孔8A、8Aが形成される。これら前後左右のカムガイド分割片を組み合わせて、カムピン9、カムレバー12S、12Pの下端部、カムベアリング10S、10Pを、カムガイド8Pとカムガイド8Sとの中に自動隙間調整機構5の中心軸方向に移動可能に保持させて収納する。この状態を示したものが図5(A)である。
【0030】
図6は本発明のディスクブレーキ装置の1つの実施例を示すカム機構から自動隙間調整機構を含むリンクピストンまでの組立図である。図6(A)はカムガイド8S、8Pの中心軸方向の外側にそれぞれ自動隙間調整機構5、5が配設された状態を示す斜視図である。図6(B)に示すように、前記カムガイド8S、8Pの中心軸方向外側端部に形成された凹部に対して、自動隙間調整機構5の中心軸方向内側端部に位置する前記アジャストプラグ5Eの凸部を回転不能に係止する。また、前記カムガイド8S、8Pは、アジャストユニット20を構成するブラケット5H(図6では図示省略、図1参照)内に摺動自在に収納される。したがって、カムガイド8S、8Pおよびアジャストプラグ5Eが妄りに回転することがなく、カム機構(12、9、10、8)と自動隙間調整機構5とをパワーユニットとしてユニット化する際に確実に回り止めされ、自動隙間調整機構5における調整作用を精度よく行うことが可能となる。図6(C)は平面図、図6(D)は側面図である。
【0031】
かくして、カムピン9、各カムレバー12S、12Pおよびカムベアリング10S、10Pがフローティング形態にてカムガイド8S、8Pに保持され、かつ、カムピン9を挟んでカムレバー12S、12Pが互いに向き合う均衡の取れたカム機構を配設したことにより、サービス用およびパーキング用のいずれのチャンバ7S、7Pからの操作力入力にても、揺動する一方のカムレバー12の作動によって、互いの反作用により、均等に自動隙間調整機構5、5を介して左右のブレーキアーム22、22に制動力効果的に伝達することができる。したがって、同等の制動力を容易に得られるパーキングブレーキを簡単に追加することもできる。しかも、カムガイドは板金等にて容易に加工できる。
【0032】
以上、本発明の実施例について説明してきたが、本発明の趣旨の範囲内で、アクチュエータを構成するサービスブレーキ用およびパーキングーキ用のエアチャンバ(正圧型、負圧型のいずれもが採用可能である)の形状、形式(ダイヤフラム型、ピストン型等、場合によってはパーキング側をエアチャンバに代えて機械式としてカムレバーを作動させることもできる)および配設部位(実施例のような対向配設の他、同じ側に配設して作動方向を逆にしてもよい)、ブレーキアームの形状(自動隙間調整機構からの出力部であるリンクピストンとの連結のための球面部材等の介設のための端部形状、断面および側面視形状についても適宜採用できる)、形式およびキャリパボディへの全方向に自由度を有しての揺動軸支形態(隙間、球面ベアリング、可撓性のあるスペーサおよびアンカプラグ等の採用等)、プレーキパッドの形状、形式およびブレーキアームへの軸支形態(上下首振り形態等)、アクチュエータとしてのエアチャンバからカムレバー、自動隙間調整機構、リンクピストンまでのユニット化形態(エアチャンバのロッドとカムレバーとが略同一面内に配置されるが、場合によってはロッドとカムレバーとが同一面からずれて配設されてもよい)等については適宜選定できる。
【0033】
また、カム機構を構成するカムピンの形状、形式、カムベアリングの形状、形式、カムガイドの形状(非円形断面ブラケットへの非円形カムガイドの適合させた嵌合による回転不能収納形態等、カムガイドの分割形態についても実施例の他、同一形状の前後の分割片としてもよい)、形式、カムガイドへのカムピンおよびカムベアリングの中心軸方向への移動が可能な保持形態、自動隙間調整機構の形状、形式(アジャストプラグとアジャストナットとのテーパクラッチ面の傾斜角度等、アジャストナットに対するアジャストスピンドルの螺合形態、アジャストプラグおよびアジャストナットのばねによる復元形態、フリクションリングの形状、形式、フリクションリングとピストンとの組合せ形態、適宜同効の部材の組合せが採用できる、ピストン部材の形状、形式、ピストンの形状、形式、)、カムガイドと自動隙間調整機構におけるアジャストナットとの回転不能組付け形態(対向端面での適合する凹凸溝の係合形態等についても適宜選定できる。実施例に記載の諸元はあらゆる点で単なる例示に過ぎず限定的に解釈してはならない。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明のディスクブレーキ装置の1つの実施例を示す全体断面図である。
【図2】同、平面図である。
【図3】同、側断面図である。
【図4】同、パワーユニットとしてのエアチャンバから自動隙間調整機構までの要部拡大断面図である。
【図5】同、カム機構の分解斜視図である。
【図6】同、カム機構から自動隙間調整機構を含むリンクピストンまでの組立図である。
【図7】第1従来例のディスクブレーキ装置の説明図である。
【図8】第2従来例のディスクブレーキ装置の説明図である。
【符号の説明】
【0035】
1 キャリパボディ
3 ブレーキパッド
5 自動隙間調整機構
5H ブラケット
7B ロッド
7C 中間リンク
7S サービスブレーキ用エアチャンバ
7P パーキングブレーキ用エアチャンバ
8S カムガイド(サービス側)
8P カムガイド(パーキング側)
9 カムピン
10S カムベアリング(サービス側)
10P カムベアリング(パーキング側)
12S カムレバー(サービス側)
12P カムレバー(パーキング側)
16 リンクピストン
16A 球面部材
18 リンクロッド
20 アジャスタユニット
21 アームシャフト
22 ブレーキアーム
22B 球面シート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクチュエータにより軸動する自動隙間調整機構を介してピストンがプレーキパッドを押圧作動させるディスクブレーキ装置において、前記ピストンが全方向に自由度を有して揺動するブレーキアームを介してプレーキパッドを押圧作動させるように構成するとともに、前記アクチュエータからピストンまでをサブアセンブリ化してパワーユニットとし、該パワーユニットに対してブレーキアーム側を組み付けるように構成するとともに、前記自動隙間調整機構を左右一対それぞれ配設し、それらの間に設置されたカムピンを支点としてサービスブレーキチャンバおよびパーキングブレーキチャンバのいずれかによって揺動するカムレバーにより前記自動隙間調整機構のいずれもが離反軸動するように構成されたことを特徴とするディスクブレーキ装置。
【請求項2】
前記サービスブレーキチャンバとパーキングブレーキチャンバとを対向配置したことを特徴とする請求項1に記載のディスクブレーキ装置。
【請求項3】
前記カムピンと、該カムピンの両側に配設された各カムレバーと自動隙間調整機構との間に配設されるカムベアリングとが、前記自動隙間調整機構の中心軸方向に移動可能にカムガイドに保持されたことを特徴とする請求項2に記載のディスクブレーキ装置。
【請求項4】
前記カムガイドと自動隙間調整機構におけるアジャストプラグが回転不能に組み付けられたことを特徴とする請求項3に記載のディスクブレーキ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−151167(P2008−151167A)
【公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−336999(P2006−336999)
【出願日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【出願人】(000000516)曙ブレーキ工業株式会社 (621)
【Fターム(参考)】