説明

ディーゼルエンジンの排気浄化装置

【課題】目標スート再生量を設定して、該目標スート再生量になるようにスート再生量を直接制御して、再生温度と再生時間を適正化し、過昇温とオイルダイリューションを抑えることができるディーゼルエンジンの排ガス浄化装置を提供することを目的とする。
【解決手段】排気通路に酸化触媒(DOC)7およびディーゼルパティキュレートフィルター(DPF)9を備えるディーゼルエンジンの排気浄化装置において、DPFの再生制御で燃焼室内に燃焼に寄与しないタイミングで燃料を噴射するレイトポスト噴射制御手段62が、レイトポスト噴射量をDPF9によって再生されるスート再生量が目標スート再生量になるようにフィードバック制御することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディーゼルエンジンの排気浄化装置に関し、特に、排ガス中に含まれるパティキュレートマター(粒子状物質、以下PMと略す)を捕集するディーゼルパティキュレートフィルター(以下DPFと略す)の再生制御に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジンの排ガス規制において、NOx低減と同様に重要なのが、PMの低減である。これに対する有効な技術として、DPFが知られている。
DPFは、フィルターを用いたPM捕集装置であり、排ガス温度が低いエンジン運転状態では、このDPFにPMが堆積し続けるので、強制的に温度を上げてPM(PM中のSoot(スート、煤))を燃焼する強制再生が行われる。
【0003】
DPFの強制再生は、燃料を筒内噴射したレイトポスト噴射(噴射タイミングが遅く、筒内燃焼しない)を行い、DPFの前段に配置された酸化触媒(以下DOCと略す)で酸化反応をさせ、この反応熱でDPF部分の排ガス温度を高温(600〜650℃)に保ち、DPFに堆積したスートを燃焼させる。
【0004】
レイトポスト噴射量はPID制御などのフィードバック制御によりDPF部分の温度を目標温度に制御することが一般的に行われている。このときの目標温度は、DPFの入口ガス温度、DPFの出口ガス温度、もしくはDPFの内部温度など(これらの温度をDPF温度という)が使われる。
【0005】
しかし、DPF温度を目標温度の一定値に制御した場合、次のような問題が生じる。
目標温度を高く設定した場合には、DPFに堆積したスートが燃焼した場合に過昇温が生じる危険性がある。例えば、エンジンがアイドル状態になると、Drop To Idleと呼ばれる過昇温しやすい状態になる。このDrop To Idleのときに、スート堆積量が多いと、DPFの内部温度が急激に上昇し過昇温しやすくなる。
【0006】
Drop To Idleで、DPF触媒が劣化する温度(約800〜900℃)に到達するスート堆積量をスート限界堆積量とすると、DPF入口温度とスート限界堆積量は図14に示すような関係となる。この関係より、スート堆積量が多いほど、DPF目標温度を低く設定する必要があることが分かる。
特に、DPF再生の初期段階では、スート堆積量が多いのでDPF温度が高い場合、DPF過昇温の危険性が高まる。
【0007】
一方、目標温度を低く設定した場合には、再生時間が長くなり、レイトポスト噴射燃料が、シリンダ内壁面からオイルパン内に落ち、オイル希釈(オイルダイリューション)が起こる危険性が高まる。図15に、再生中のスート堆積量の時間変化を示す。DPF再生温度が低いほど、再生時間が長くなることが分かる。
【0008】
そこで、DPF目標温度を何らかの指標により変化させる制御が知られており、例えば特開2007−239470号公報(特許文献1)には、DPFの入口温度目標値が、スート堆積量、スート堆積量変化速度、DPF温度、DPF温度変化速度等の何れかから決定されることが示されている。
【0009】
また、特開2009−138702号公報(特許文献2)には、DPF入口温度目標値をDPFの強制再生の開始からの経過時間に応じて経過時間が短いほど目標温度を低く設定することが示されている。さらに、DPF入口温度目標値を設定するものとして特開2010−071203号公報(特許文献3)も知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2007−239470号公報
【特許文献2】特開2009−138702号公報
【特許文献3】特開2010−071203号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1〜3のような、DPF温度を目標DPF温度になるようにレイトポスト噴射量等の再生条件を制御する技術では、例えば目標DPF温度を、強制再生の開始からの経過時間が短いほど目標温度を低く設定することで、過昇温の防止を行うようにしている。
【0012】
しかし、DPF温度で制御する場合、スート再生量の温度特性が大きく変化するのに対応できない。すなわち、DPF内部温度は、スートが燃焼する(Oにより再生される)ことで、高温になる。
従って、スート堆積量が一定のときの、スート再生量とDPF温度の関係は図16のような傾向で表される。この図16のように、DPF温度に対してスート再生量はリニアでなく指数関数的に変化しているため、DPF温度が上昇することでスート再生量が大きく増加し、一気に過昇温に至る危険性が高まる。例えば、DPF温度が630℃の場合のスート再生速度は、600℃の場合に約2倍である。
このように、DPF温度で制御する場合には、スート再生量を正確に把握できずに過昇温に至る危険性を有している。
【0013】
なお、スート再生量とスート再生速度の算出式は下記式(1)、式(2)のような関係で算出できる。そして、この式(1)、(2)より、図16のようなスート再生量とDPF温度の関係が導かれる。
スート再生量〔g/s〕=スート再生速度〔1/s〕×スート堆積量〔g〕 (1)
スート再生速度〔1/s〕=A×exp(−B/RT)×QOγ (2)
ここで、A、B、γ:定数
R:気体定数
T:DPF温度〔K〕
QO:O流量〔g/s〕
である。
【0014】
前述のように、DPF温度で制御する場合には、スート再生量を正確に把握できず、スートが燃焼することで、高温になる状況を正確に把握できず、過昇温に至る危険性を有している。
そこで、本発明はこれら問題に鑑みてなされたもので、目標スート再生量を設定して、該目標スート再生量になるようにスート再生量を直接制御して、再生温度と再生時間を適正化し、過昇温とオイルダイリューションを抑えることができるディーゼルエンジンの排ガス浄化装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
前記課題を解決するために、本発明は、排気通路に酸化触媒(DOC)および排気中のスート(煤)を捕集するディーゼルパティキュレートフィルター(DPF)を備え、前記DPFに捕集されたスートを再生処理するディーゼルエンジンの内燃機関の排気浄化装置において、前記スートの堆積量が所定値を超えた時に、昇温手段を制御して前記DPFを所定の目標温度近傍まで昇温して堆積したスートを焼却除去する再生制御手段を備え、該再生制御手段は、燃焼室内に燃焼に寄与しないタイミングで燃料を噴射するレイトポスト噴射制御手段を有し、該レイトポスト噴射制御手段は、レイトポスト噴射量をDPFによって再生されるスート再生量が目標スート再生量になるようにフィードバック制御することを特徴とする。
【0016】
かかる発明によれば、スート再生量に基づいてレイトポスト噴射量を制御するため、スート再生量が大きく増加することによって一気にDPF温度が過昇温になるような問題を解消できる。
このように、目標スート再生量を設定して、スート再生量が該目標スート再生量になるようにレイトポスト噴射量を制御することによって、DPFの温度制御の適正化が図れて、その結果、過昇温とオイルダイリューションの危険性を抑えることができる。
【0017】
また、本発明において好ましくは、前記レイトポスト噴射制御手段は、一定量の目標スート再生量を基に制御するとよい。
このように、目標スート再生量を一定値として、スート再生量を一定に制御することによって、スートが一気に燃焼する危険性を抑制でき、過昇温を防止することができる。
【0018】
また、DPF再生が進んで、堆積量が減少すると、仮に、DPF温度を一定に制御した場合は、スート再生量が少なくなり再生時間が長くなり、オイルダイリューションの危険性が高まる。しかし、本発明では、DPF再生が進んでも、スート再生量が一定に保たれるので、再生時間が短くなりオイルダイリューションを抑制することができる。
【0019】
また、本発明において好ましくは、前記レイトポスト噴射制御手段は、レイトポスト噴射開始後の再生経過時間に応じて前記目標スート再生量を、再生開始直後は小さく設定し、再生が進むにつれて大きくし、再生終盤には再び小さくするように変化させるとよい。
このように、再生開始直後には、まだスートが多量に堆積されているため、目標スート再生量を小さくすることで、DPFの過昇温の危険性を低減できる。
再生が進むにつれて、目標スート再生量を大きくするので、再生時間を短くでき、オイルダイリューションの危険性を低減できる。
再生終盤においては、目標スート再生量を再び小さくして、スート再生量が大きくなりすぎるのを抑制して、過昇温の危険性を低減できる。
【0020】
また、本発明において好ましくは、前記レイトポスト噴射制御手段は、レイトポスト噴射開始後のスート堆積量に応じて、前記目標スート再生量を、再生開始直後は小さく設定し、再生が進むにつれて大きくし、再生終盤には再び小さくするように変化させるとよい。
このようにレイトポスト噴射開始後のスート堆積量に応じて目標スート再生量を変化させることによっても、前記のレイトポスト噴射開始後の再生経過時間に応じて前記目標スート再生量を変化させた場合と同様の作用効果を生じ、過昇温及びオイルダイリューションの危険性を低減できる。
【0021】
また、本発明において好ましくは、前記目標スート再生量が2段以上の多段階、または連続的に変化するとよい。
すなわち、前記のレイトポスト噴射開始後の再生経過時間に応じての目標スート再生量の変化、およびレイトポスト噴射開始後のスート堆積量に応じての前記目標スート再生量の変化が2段以上の多段階、または連続的に変化させることによって、レイトポスト噴射開始後の再生の進行に応じた適切な目標再生スート量を設定できる。
【0022】
また、本発明において好ましくは、レイトポスト噴射開始直後に目標スート再生量へとゆっくり変化するようにレートリミッタを設けるとよい。
このようにレートリミッタ、すなわち、スート再生量の上昇率に制限を設けることによって、再生開始直後のスート再生量のオーバーシュートを防止することができ、過昇温を防止できる。
【0023】
また、本発明において好ましくは、前記目標スート再生量にDPFの温度上限値に基づいて求められる目標スート再生量上限値を設定するとよい。
このように、目標スート再生量の上限値として、DPFの触媒劣化の上限値から求めた上限値を設定するので、過昇温によるDPFの劣化を防止できる。
【0024】
また、前記目標スート再生量上限値は、予め計算または試験によって求めた値として一定値として設定され、または、DPF温度を検出してDPFの触媒劣化の限界温度近傍まで上昇させるように設定されてもよい。
このようにDPF温度を監視しつつ目標スート量の上限値を設定する場合には、DPFの熱劣化を生じさせない範囲のぎりぎりの温度で目標スート量を設定するため、過昇温に達しない範囲での高い温度での再生ができ再生効率を向上できので、DPFの過昇温による劣化を防止するとともに、オイルダイリューションを低減できる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、スートの堆積量が所定値を超えた時に、昇温手段を制御して前記DPFを所定の目標温度近傍まで昇温して堆積したスートを焼却除去する再生制御手段を備え、該再生制御手段は、燃焼室内に燃焼に寄与しないタイミングで燃料を噴射するレイトポスト噴射制御手段を有し、該レイトポスト噴射制御手段は、レイトポスト噴射量をDPFによって再生されるスート再生量が目標スート再生量になるようにフィードバック制御するので、すなわち、スート再生量に基づいてレイトポスト噴射量を制御するため、スート再生量が大きく増加することによって一気にDPF温度が過昇温になるような問題を解消できる。また。このように、目標スート再生量を設定して、スート再生量が該目標スート再生量になるようにレイトポスト噴射量を制御することによって、DPFの温度制御の適正化が図れて、その結果、過昇温とオイルダイリューションの危険性を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明のディーゼルエンジンの排気浄化装置の全体構成図である。
【図2】スート堆積量推定手段の構成ブロック図である。
【図3】スート堆積量推定手段を構成するスート排出量演算部の構成ブロック図である。
【図4】スート堆積量推定手段を構成するスート再生速度演算部の構成ブロック図である。
【図5】レイトポスト噴射制御手段の第1実施形態に係る構成ブロック図である。
【図6】目標スート再生量の設定ロジックを示すフローチャートである。
【図7】第2実施形態に係る構成ブロック図である。
【図8】第2実施形態の制御フローチャートである。
【図9】第2実施形態の変形例を示す説明図である。
【図10】第3実施形態に係る構成ブロック図である。
【図11】第3実施形態によるスート再生量の変化状態を示す説明図である。
【図12】第3実施形態の変形例を示す説明図である。
【図13】第4実施形態に係る構成ブロック図である。
【図14】DPF入口制御温度とスート限界堆積量との関係を示す説明図である。
【図15】再生時間とスート堆積量との関係を示す説明図である。
【図16】DPF温度とスート再生量との関係を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明を図に示した実施形態を用いて詳細に説明する。但し、この実施形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは特に特定的な記載がない限り、この発明の範囲をそれのみに限定する趣旨ではない。
【0028】
図1を参照して、本発明に係るディーゼルエンジンの排ガス浄化装置の全体構成について説明する。
図1に示すように、ディーゼルエンジン(以下エンジンという)1の排気通路3には、DOC7と該DOC7の下流側にPMを捕集するDPF9とからなる排ガス後処理装置11が設けられている。
また、排気通路3には排気タービン13とこれに同軸駆動されるコンプレッサ15を有する排気ターボ過給機17を備えており、該排気ターボ過給機17のコンプレッサ15から吐出された空気は給気通路19を通って、インタークーラ21に入り給気が冷却された後、給気スロットルバルブ23で給気流量が制御され、その後、吸気マニホールド25から吸気ポートを通ってエンジン1の吸気弁を介して燃焼室内に流入するようになっている。
【0029】
また、エンジン1においては、図示しない、燃料の噴射時期、噴射量、噴射圧力を制御して燃焼室内に燃料を噴射する燃料噴射装置が接続端子27を介して再生制御装置(ECU)29と連結されている。
また、排気通路3、または排気マニホールド31の途中から、EGR(排ガス再循環)通路33が分岐されて、排ガスの一部が給気スロットルバルブ23の下流側部位にEGRバルブ35を介して投入されるようになっている。
【0030】
エンジン1の燃焼室で燃焼された燃焼ガス、即ち排ガス37は、排気マニホールド31及び排気通路3を通って、排気ターボ過給機17の排気タービン13を駆動してコンプレッサ15の動力源となった後、排気通路3を通って排ガス後処理装置11に流入する。
また、DPF9の再生制御装置29には、DPF入口温度センサ39、DPF出口温度センサ41、DOC入口温度センサ43、エアフローメータ45、吸気温度センサ47からの信号が入力されている。
さらに、EGRバルブ35、給気スロットルバルブ23、エンジン回転数センサ49、吸気マニホールド25内の吸気マニホールド圧力センサ51、および吸気マニホールド温度センサ53からの信号、および燃料噴射装置からの燃料噴射量信号55がそれぞれ再生制御装置(ECU)29に入力されている。
また、再生制御装置29内には、各種マップデータを記憶する記憶部、さらにレイトポスト燃料噴射開始時からの経過時間を計測するタイマー等が設けられている。
【0031】
この再生制御装置29は、DPF9に堆積したPMの堆積量が所定値を超えた時に、昇温手段を制御してDPF9の入口温度を目標設定温度近傍(610〜650℃)まで昇温して堆積したPMを焼却除去する。
再生制御装置29によるPMの燃焼除去についての概要をまず説明する。
【0032】
強制再生を開始する条件、例えば、走行距離、エンジンの運転時間、トータル燃料消費量、スート堆積量推定値、等を基に判定されて、強制再生が開始されるとDOC7を活性化するためのDOC昇温制御が実行される。このDOC昇温制御は、給気スロットルバルブ23の開度が絞られ、燃焼室内に流入する空気量を絞って、排ガス温度を高める。さらに、アーリーポスト噴射によって、主噴射の直後にシリンダ内の圧力がまだ高い状態で主噴射より少量の燃料を噴射する1回目のポスト噴射を行い、このアーリーポスト噴射によって、エンジンの出力には影響を与えずに排ガス温度を高め、この高温化された排ガスがDOC7に流入することで、DOC7を活性化させ、そしてDOC7の活性化に伴い排ガス中の未燃燃料を酸化し、酸化される際に発生する酸化熱で排ガス温度を上昇させる。
【0033】
そして、次に、DOC入口温度が所定温度に達したか、またはDPF入口温度が所定温度に達したかを判定し、超えている場合には、レイトポスト噴射によってDPF9の入口温度をさらに上昇させる。このレイトポスト噴射とは、アーリーポスト噴射後のクランク角度が下死点近傍まで進んだ状態で噴射する2回目のポスト噴射のことをいい、このレイトポスト噴射によって、排気弁の開状態時に燃焼室から排気通路3へ燃料を流出させて、排出された燃料は既に活性化されたDOC7において反応して、発生した酸化熱により排ガス温度をさらに上昇させてDPF9の再生に必要な温度、例えば610〜650℃にしてPMの燃焼を促進する。
【0034】
また、再生制御装置29には、DPFの強制再生の開始条件等に使用するために、スート堆積量推定手段60と、前述したレイトポスト噴射量の制御を行うレイトポスト噴射制御手段62とを備えている。
このスート堆積量推定手段60について、図2〜4を参照して説明する。スート堆積量推定手段60は、DPF9の再生処理の有無にかかわらず常にDPF9に堆積するスート量をエンジンの運転状態に基づいて算出している。
【0035】
スート堆積量推定手段60は、図2に示すように、スート排出量演算部64と、スート再生速度演算部66とを備え、スート排出量演算部64では、エンジン回転数、燃料噴射量、酸素過剰率の検出信号または算出値に基づいて、スート排出量が算出される。具体的には、図3に示すように、空気過剰率λに応じたスート排出量マップ68を備えており、空気過剰率λの変化から過渡状態か否かを過渡状態判定部70で判定して、過渡状態でない場合には、符号Eで示すルートに沿ってベースλを用いたスート排出量マップ72を用いてスート排出量を算出する。前記過渡状態判定部70は、空気過剰率の前回値と今回値との移動平均差Δλを基に、Δλと閾値の比較および今回空気過剰率λと閾値との比較を基に過渡時Fと定常状態Eとを判定する。
【0036】
また、過渡状態と判定した場合には、符号Fで示すルートに沿って空気過剰率λに応じたスート排出量マップ68を用いてスート排出量を算出する。なお、過渡状態の場合には、スート排出量補正部74によって、空気過剰率λに応じた補正係数が算出されて積算器76で積算されて補正する。
【0037】
スート再生速度演算部66は、エンジン回転数、燃料噴射量、排ガス流量、DOC入口温度、DPF入口温度、およびDPF出口温度の検出信号、さらに排気O流量を所定の算出式を用いての算出値に基づいて、スート再生速度が算出される。具体的には、図4に示すように、Oによるスート再生速度マップ80、NO転化率マップ82、NOx排出量マップ84、NOによるスート再生速度マップ86を夫々有している。
によるスート再生速度マップ80は主に強制再生時の算出に用いられるものであり、演算式がマップの代用として用いてもよい。演算式としては、既に説明した下記式(2)を用いる。
スート再生速度〔1/s〕=A×exp(−B/RT)×QOγ (2)
ここで、A、B、γ:定数、
R:気体定数、
T:DPF温度〔K〕、
QOγ:O流量〔g/s〕
である。
【0038】
エンジンの運転状態に応じたNOx排出量をNOx排出量マップ84で算出し、NOxからNOへの転化率をNO転化率マップ82で算出し、NOへの転化率を積算器88でNOx排出量に積算し、NOxからNOへ転化する際に発生するOによって生じるスート再生速度を、NOによるスート再生速度マップ86によって算出し、その算出結果を加算器90によって、Oによるスート再生速度マップ80からの算出値に加算して出力する。
【0039】
ここで、図2に戻って、スート再生速度演算部66で算出したスート再生速度に、スート堆積量推定値を積算器92で掛け合わせて、スート再生量を算出する。そして、このスート再生量を加算器94で、スート排出量演算部64によって算出したスート排出量から減算することによって、すなわち、排出量から再生量を減算して堆積量を推定する。
加算器94の出力は、積分器96によって積分されて、スート堆積量推定値を算出し、スート堆積量推定値を除算器98によって、DPF容量で除算して単位容量当たりの堆積量として出力する。
【0040】
(第1実施形態)
次に、再生制御装置29に備えられているレイトポスト噴射量の制御を行うレイトポスト噴射制御手段62の第1実施形態についてについて、図5、6を参照して説明する。
該レイトポスト噴射制御手段62は、レイトポスト噴射量をDPF9によって再生されるスート再生量が目標スート再生量になるようにフィードバック制御することを特徴とする。
【0041】
図5のように、目標スート再生量が定数で設定され、それに対して、スート再生量が、実際のエンジン運転状態に基づいて算出され、加算器100にそれぞれの再生量が入力されて偏差が算出される。偏差はPID制御器102によってフィードバックPID演算処理がなされ、その出力がレイトポスト噴射量リミッタ104によって上限値が制限されて出力される。
スート堆積量が少ない状態ではスートと再生量が少なく、レイトポスト噴射量が多くなり過ぎるため、過昇温の危険性があるので、レイトポスト噴射量にリミッタ設ける。リミッタの上限値は、例えばDPF9の入口温度を700℃と設定する。運転状態(排気流量、排気温度))により設定すべきレイトポスト噴射量が異なるのでレイトポスト噴射量上限値マップ(エンジン回転数、燃料噴射量をパラメータとする)106で上限値を設定する。
【0042】
目標スート再生量の設定ロジックは、図6に示すように、ステップS1でレイトポスト噴射制御が開始されたか否かを判定し、レイトポスト噴射制御が開始されていれば、ステップS2で目標スート再生量設定値を目標スート再生量とし、レイトポスト噴射制御が開始されていなければ、ステップS3で実際のエンジン運転状態に基づいて算出されスート再生量を目標スート再生量として、偏差をゼロにして、PID制御器102内の積分器でのデータ蓄積を回避する。
なお、実際のエンジン運転状態に基づいて算出されるスート再生量は、図2のスート再生量演算において示したスート再生量を算出するQ部分の再生量を用いる。
【0043】
以上の第1実施形態によれは、スート再生量に基づいてレイトポスト噴射量を制御するため、スート再生量が大きく増加することによって一気にDPF温度が過昇温になるような問題を解消できる。このように、目標スート再生量を設定して、スート再生量が該目標スート再生量になるようにレイトポスト噴射量を制御することによって、DPF9の温度制御の適正化が図れて、その結果、過昇温とオイルダイリューションの危険性を抑えることができる。
【0044】
また、目標スート再生量を一定値として、スート再生量を一定に制御することによって、スートが一気に燃焼する危険性を抑制でき、過昇温を防止することができる。
さらに、DPF再生が進んで、堆積量が減少すると、仮に、DPF温度を一定に制御した場合は、スート再生量が少なくなり再生時間が長くなり、オイルダイリューションの危険性が高まる。しかし、本実施形態では、DPF再生が進んでも、スート再生量が一定に保たれるので、再生時間が短くなりオイルダイリューションを抑制することができる。
【0045】
(第2実施形態)
次に、レイトポスト噴射制御手段62の第2実施形態について、図7〜9を参照して説明する。
第1実施形態とは、目標スート再生量の設定が異なるものであり、その他の構成は第1実施形態と同様であるため、同一符号を付して説明を省略する。
【0046】
図7のように、目標スート再生量が、レイトポスト噴射開始後の再生経過時間に応じて変化する。再生開始直後のM1段階では小さく設定し、再生が進んだ再生中盤のM2段階では、M1段階より大きくし、再生終盤のM3段階では再びM2段階より小さくするように変化させる。
【0047】
再生開始直後のM1段階では、DPF9の温度が低く、スート再生量が小さいので、レイトポスト噴射量が過大となる恐れがある。また、再生直後は、スートが多く堆積している可能性があるため、目標スート再生量を小さくする。
また、再生終盤のM3段階では、再生が進むため、スート堆積量が減少するので、スート再生量が小さくなることで、レイトポスト噴射量が過大となる。そのために、レイトポスト噴射量の上限値を指示し続たり、過昇温する危険性が高くなる。そこで、目標スート再生量を再生終盤にかけて適正化して、M2段階より下げたM3段階に設定する。
【0048】
なお、具体的な目標スート再生量は、再生開示直後、再生中盤、再生終盤、におけるスート堆積量とDPF温度との2つのパラメータを基に、式(1)と式(2)を用いてスート再生量を算出して目標スート再生量とする。
【0049】
次に、図8を参照して、具体的な制御フローについて説明する。
ステップS11で、レイトポスト(LP)噴射制御が開始か否かを判定する。開始している場合には、ステップS12に進んで、レイトポスト噴射制御開始からの再生経過時間が再生経過時間閾値以上かを否かを判定する。閾値以上に経過していていない場合には、ステップS14に進んで、目標スート再生量を、目標スート再生量1段目設定値にする。ステップS12で、閾値以上に経過している場合には、ステップS13に進んで、目標スート再生量を、目標スート再生量2段目設定値にする。
また、ステップS11で、レイトポスト(LP)噴射制御が開始していないと判定した場合には、ステップS15に進んで、目標スート再生量を、実際のスート再生量に設定する。
【0050】
なお、図8のフローチャートは切換えを2段階の説明をしたが、図7のように3段階、さらにそれ以上の複数段階としてもよい。さらに、多段階ではなく連続的に変化させるようにしてもよく、図9に示すように再生経過時間に応じた目標スート再生量演算カーブ108が設定され、または一次の演算式でもよく、その演算カーブ、式を用いて算出してもよい。レイトポスト噴射開始後の再生の進行に応じた適切な目標再生スート量を設定できる。
【0051】
さらに、再生経過時間でなくスート堆積量を切換の判断に用いることもできる。このスート堆積量は、図2のスート堆積量推定値(Sの部分の出力値)を用いて、そのスート堆積量の減少に応じて切換えてもよい。
【0052】
以上の第2実施形態によれば、再生開始直後には、まだスートが多量に堆積されているため、目標スート再生量を小さくすることで、DPFの過昇温の危険性を低減できる。
再生の中盤で目標スート再生量を大きくするので、再生時間を短くでき、オイルダイリューションの危険性を低減できる。
再生終盤においては、目標スート再生量を再び小さくして、スート再生量が大きくなりすぎるのを抑制して、過昇温の危険性を低減できる。
従って、再生温度と再生時間を適正化し、過昇温とオイルダイリューションの危険性を抑えることができる。
【0053】
(第3実施形態)
次に、レイトポスト噴射制御手段62の第3実施形態について、図10〜12を参照して説明する。
第3実施形態は、レイトポスト噴射開始直後に目標スート再生量へとゆっくり変化するようにレートリミッタ110を設けたことに特徴がある。
その他の構成については第1実施形態と同様であり、同一符号を付して説明を省略する。
【0054】
図10のように、目標スート再生量の信号が加算器100に入力される回路に、レートリミッタ110が設けられる。これによって、スート再生量のオーバーシュートが改善されて、過昇温が防止される。図11の2点鎖線の太字と細字で表した、レートリミッタを掛けない場合に比べて、実線の太線と点線で表したレートリミッタを掛けた場合は、スート再生量のオーバーシュートが改善される。
【0055】
また、多段階にレートリミッタの傾斜部を設定してもよい。
さらに、図12のように、レートリミッタの傾斜部の傾斜度合いを、スート堆積量(図2のスート堆積量推定値(Sの部分の出力値))を用いて、そのスート堆積量に応じて変化させるように、傾斜設定マップ112を設けてもよい。
スート堆積量に応じて傾斜度合いを設定することによって、不要にゆっくりと変化させることによる処理時間の長期化によるオイルダイリューションの問題を回避できる。
【0056】
このようにレートリミッタ110を設置することによって、スート再生量の上昇率に制限を設けることができ、再生開始直後のスート再生量のオーバーシュートを防止することができ、過昇温を防止できる。
【0057】
(第4実施形態)
次に、レイトポスト噴射制御手段62の第4実施形態について、図13を参照して説明する。
第4実施形態は、目標スート再生量に上限値を設定するものである。第1実施形態と同一の構成については同一の符号を付して、説明を省略する。
【0058】
図13のように、目標スート再生量の信号が加算器100に入力される回路に、小さい方を選択する選択器113が設けられる。すなわち、この選択器113には目標スート再生量上限値設定手段114からの信号が入力され、目標スート再生量上限値信号と、目標スート再生量信号との小さい方が選択されて加算器100に入力される。
【0059】
また、図13のように、目標スート再生量上限値設定手段114には切換スイッチ116が設けられ、切換スイッチ116には、固定値として設定した目標スート再生量上限値信号u1が入力される。
また、目標スート再生量上限値設定手段114には、スート再生速度を算出するスート再生速度算出部118が設けられて、DPF温度上限値とO流量とを基に式(2)を用いてスート再生速度が算出され、この算出したスート再生速度に、積算器120でスート堆積量が積算されて目標スート再生量が算出される。
そして、この目標スート再生量の信号u2が、切換スイッチ116に入力される。
【0060】
切換スイッチ116を切換えることで、DPF9の温度上限値に基づいて求められる目標スート再生量上限値を、予め計算または試験によって求めた値として一定値として設定でき、また、DPF温度を監視しDPFの触媒劣化の上限値に達するまで、ぎりぎりに上昇させるように目標スート再生量上限値を調整して設定してもよい。
【0061】
つまり、スート再生速度算出部118の入力信号としてのDPF温度上限値を、DPF内部温度を監視しながら調整することで、目標スート再生量上限値をDPFの触媒劣化の上限値に達するぎりぎりの値に設定できる。
【0062】
このようにDPF温度を監視しつつ目標スート量の上限値を設定する場合には、DPFの熱劣化を生じさせない範囲のぎりぎりの温度で目標スート量を設定するため、過昇温に達しない範囲での高い温度での再生ができ再生効率を向上できので、DPFの過昇温による劣化を防止するとともに、オイルダイリューションを低減できる。
【0063】
なお、第1実施形態または第2実施形態に対して第3時施形態と第4実施形態を適宜組み合わせて実施してもよいことは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明によれば、排ガス流量が減少した後に、排ガス流量が少ない状態が継続する場合においても、DPF入口温度を目標温度に安定的に制御できるので、ディーゼルエンジンの排ガス浄化装置への利用に適している。
【符号の説明】
【0065】
1 ディーゼルエンジン
3 排気通路
7 DOC(酸化触媒)
9 DPF(ディーゼルパティキュレートフィルター)
11 排ガス後処理装置
29 再生制御装置
39 DPF入口温度センサ
41 DPF出口温度センサ
43 DOC入口温度センサ
45 エアフローメータ
47 吸気温度センサ
49 エンジン回転数センサ
60 スート堆積量推定手段
62 レイトポスト噴射制御手段
64 スート排出量演算部
66 スート再生速度演算部
102 PID制御器
104 レイトポスト噴射量リミッタ
106 レイトポスト噴射量上限値マップ
110 レートリミッタ
113 選択器
114 目標スート再生量上限値設定手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
排気通路に酸化触媒(DOC)および排気中のスート(煤)を捕集するディーゼルパティキュレートフィルター(DPF)を備え、前記DPFに捕集されたスートを再生処理するディーゼルエンジンの内燃機関の排気浄化装置において、
前記スートの堆積量が所定値を超えた時に、昇温手段を制御して前記DPFを所定の目標温度近傍まで昇温して堆積したスートを焼却除去する再生制御装置を備え、
該再生制御装置は、燃焼室内に燃焼に寄与しないタイミングで燃料を噴射するレイトポスト噴射制御手段を有し、
該レイトポスト噴射制御手段は、レイトポスト噴射量をDPFによって再生されるスート再生量が目標スート再生量になるようにフィードバック制御することを特徴とするディーゼルエンジンの排気浄化装置。
【請求項2】
前記レイトポスト噴射制御手段は、一定量の目標スート再生量を基に制御することを特徴とする請求項1記載のディーゼルエンジンの排気浄化装置。
【請求項3】
前記レイトポスト噴射制御手段は、レイトポスト噴射開始後の再生経過時間に応じて前記目標スート再生量を、再生開始直後は小さく設定し、再生が進むにつれて大きくし、再生終盤には再び小さくするように変化させることを特徴とする請求項1記記載のディーゼルエンジンの排気浄化装置。
【請求項4】
前記レイトポスト噴射制御手段は、レイトポスト噴射開始後のスート堆積量に応じて、前記目標スート再生量を、再生開始直後は小さく設定し、再生が進むにつれて大きくし、再生終盤には再び小さくするように変化させることを特徴とする請求項1記載のディーゼルエンジンの排気浄化装置。
【請求項5】
前記目標スート再生量が2段以上の多段階、または連続的に変化することを特徴とする請求項3または4記載のディーゼルエンジンの排気浄化装置。
【請求項6】
レイトポスト噴射開始直後に目標スート再生量へとゆっくり変化するようにレートリミッタを設けたことを特徴とする請求項1記載のディーゼルエンジンの排気浄化装置。
【請求項7】
前記目標スート再生量にDPFの温度上限値に基づいて求められる目標スート再生量上限値を設定することを特徴とする請求項1記載のディーゼルエンジンの排気浄化装置。
【請求項8】
前記目標スート再生量上限値は、予め計算または試験によって求めた値として一定値として設定され、または、DPF温度を検出してDPFの触媒劣化の限界温度近傍まで上昇させるように設定されることを特徴とする請求項7記載のディーゼルエンジンの排気浄化装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2012−92759(P2012−92759A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−241469(P2010−241469)
【出願日】平成22年10月27日(2010.10.27)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】