説明

ディーゼルエンジンの燃料制御装置

【課題】EGRガス中の未燃焼空気量まで考慮し、EGR適用時の排ガス性能とエンジンレスポンスとの両立を簡単な制御によって達成することが可能なディーゼルエンジンの燃料制御装置を提供することを目的とする。
【解決手段】エンジンの排気ガスの一部をEGRガスとして吸気系に還流するEGR装置を有するディーゼルエンジンの燃料制御装置において、燃料噴射弁31によってシリンダ3に噴射される燃料噴射量と吸入空気量とさらに吸気系に還流されるEGRガス中の未燃焼空気量とを用いてシリンダ内の推定空気過剰率を算出する推定空気過剰率算出手段47を備え、前記推定空気過剰率算出手段47によって算出された推定空気過剰率に基づいて急加速時の燃料噴射量を制御する燃料制御手段33、51を備えたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンの排気ガスの一部をEGRガスとして吸気系に還流するEGR装置を有するディーゼルエンジンの燃料制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジンの排ガスで問題となる窒素酸化物(NOx)を低減する技術としてEGR(排気ガス再循環)が知られている。一方で、EGR適用時には新気量(吸入空気量)が低下するため、急加速(急激なアクセル開度上昇)時においては、燃焼室の酸素不足が発生しやすいという問題がある。
これに対して、EGR量を制御して吸入空気量を増加させる対策が考えられるが、比較的応答が遅いEGR制御だけでの対応には限界があり、応答性が速い燃料噴射制御側の対策が必要である。
しかしながら、燃料噴射量または、燃料噴射量を決めるアクセル開度を補正(なまらせる)することは、エンジンの応答性を損なうこととなり、排ガス性能とエンジンレスポンスの両立が技術課題となっている。
【0003】
例えば、加速時に排気スモークの発生を抑えるディーゼルエンジンの燃料噴射量制御について、特許文献1(特開平11−36962号公報)が知られている。この特許文献1には、吸入空気量とエンジン回転数に対する排気スモークが発生しない燃料噴射量の最大値を予めマップとして設定しておき、検出した吸入空気量と、エンジン回転数と、から燃料噴射量の最大値を求めて、スモークの発生を抑制するものである。
また、特許文献2(特開平9−151761号公報)には、EGR系の応答遅れによる加速時の排気黒煙の発生を防止しつつ、良好な加速性能を維持するために、EGR弁開度量を制御すると共に燃料噴射量を一定量ずつ増量するなまし制御を行う技術が示されている。
【0004】
【特許文献1】特開平11−36962号公報
【特許文献2】特開平9−151761号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記特許文献1の技術においては、吸入空気量とエンジン回転数とに対する燃料噴射量の最大値マップを予め作成する必要があり、そのために多くの工数を要する問題があり、また、特許文献2においては、EGRガス中には未燃焼の酸素が存在し、その未燃焼酸素の影響で排気スモーク発生に影響が生じるが、このように排気系から還流されるEGRガス中の未燃焼空気量まで考慮しての制御はされていない。
【0006】
そこで、本発明はかかる従来技術の課題に鑑み、EGRガス中の未燃焼空気量までを考慮し、EGR適用時の排ガス性能とエンジンレスポンスとの両立を簡単な制御によって達成することが可能なディーゼルエンジンの燃料制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明はかかる目的を達成するもので、本発明は、エンジンの排気ガスの一部をEGRガスとして吸気系に還流するEGR装置を有するディーゼルエンジンの燃料制御装置において、燃料噴射装置によってシリンダ内に噴射される燃料噴射量と吸入空気量とさらに吸気系に還流されるEGRガス中の未燃焼空気量とを用いてシリンダ内の推定空気過剰率を算出する推定空気過剰率算出手段を備え、前記推定空気過剰率算出手段によって算出された推定空気過剰率に基づいて急加速時の燃料噴射量を制御する燃料制御手段を備えたことを特徴とする。
【0008】
かかる発明によれば、推定空気過剰率算出手段によって、シリンダ内に噴射される燃料噴射量と、吸気通路を通って該シリンダ内に流入される吸入空気量と、さらに吸気系に還流されるEGRガス中の未燃焼空気量とを用いてシリンダ内の推定空気過剰率を算出するので、EGRガス中の未燃焼空気(酸素)も排気スモークに影響を与えるため、その未燃焼空気(酸素)も考慮した空気過剰率が推定空気過剰率として算出される。
【0009】
そして、この推定空気過剰率を基にして、アクセル開度を制御するため、シリンダ内に存在する空気(酸素)量を的確に反映した制御が可能となる。その結果、EGR適用時に急激な加速操作(アクセル開度上昇操作)がされても、燃焼室内の空気(酸素)不足が原因で発生するスモークを抑制しつつ、NOxの低減およびエンジンのレスポンスの低下を抑えることができる。
【0010】
また、本発明において好ましくは、前記燃料制御手段には、前記推定空気過剰率算出手段によって算出された推定空気過剰率が一定値以下の場合に、アクセル開度最大変化率を一定値以下に制限するアクセル開度制限手段を有しているとよい。
かかる構成によると、前記推定空気過剰率が一定値以下の場合にはアクセル開度制限手段によって、アクセル開度の最大変化率を一定値以下に制限するので、EGR適用時に急激な加速操作(アクセル開度上昇操作)がされても、燃焼室内の空気(酸素)不足が原因で発生するスモークを抑制しつつ、NOxの低減およびエンジンのレスポンスの低下を抑えることができる。
【0011】
また、係る発明において好ましくは、前記推定空気過剰率とアクセル開度最大変化率とがあらかじめ関係付けられたテーブルを備えているとよい。
これによって、推定空気過剰率とアクセル開度最大変化率のテーブルを調整することで、アクセル開度最大変化率の制限値を簡単に調整できるので、排気スモークとエンジンレスポンスとのトレードオフの関係を容易に調整できるようになる。
【0012】
さらに、本発明において好ましくは、前記燃料噴射量制御手段には、前記推定空気過剰率算出手段によって算出された推定空気過剰率が予め設定された目標空気過剰率に追従するようにアクセル開度を制御するアクセル開度制御手段を有しているとよい。
【0013】
かかる構成によれば、前記推定空気過剰率算出手段によって算出された推定空気過剰率が予め設定された目標空気過剰率に追従するように前記アクセル開度を制御するアクセル開度制御手段を備えているため、アクセル開度の変化率の最大値を制限するよりも木目細かいアクセル開度の変化率の制御が行われるため、排気スモークに直接的に作用するEGRガス中の空気(酸素)濃度を考慮した推定空気過剰率を精度よく制御することで排気スモークを抑制できる。
【0014】
また、加速過渡時において、排気スモーク抑制の目的でEGRバルブを閉弁するが、これが原因で吸気マニホールド内の酸素濃度が急激に上昇して、NOxが上昇する問題があるが、これに対しても、推定空気過剰率が精度よく制御可能であるため、EGRバルブをやや緩慢に閉方向に制御して、応答性の速い燃料噴射制御で推定空気過剰率を精度よく制御することで、排気スモークを抑制しつつNOxに対しても低減効果を発揮することも可能になる。
【0015】
また、係る発明において好ましくは、前記急加速時がアクセル開度の変化率が一定値以上であり、該アクセル開度の変化率が一定値以上の場合にだけ前記燃料噴射量の制御を行うとよい。
これにより、空気過剰率が低い高負荷での運転時に定常的な制限がかかるのを防ぐことができる。
【0016】
また、本発明において好ましくは、前記推定空気過剰率算出手段に代えて、EGR通路が吸気通路に接続する位置よりも下流側の吸気通路内に酸素濃度を検出する酸素濃度センサを設置し、該酸素濃度センサからの酸素濃度検出値に基づいて急加速時の燃料噴射量を制御するとよい。
EGR通路が合流する吸気通路の下流側の吸気マニホールド内に設置した酸素濃度センサによって、EGRガス中の未燃焼空気量を含めて燃焼室に流入する酸素量を直接検出して燃料噴射量を制御するので、吸気圧力、吸気温度等を検出して、所定の算出式を用いて推定空気過剰率を算出して制御するよりも制御が簡素化される。
また、排気スモーク発生の原因となる酸素濃度の低下を直接に検出して制御するので、排気スモークの発生を確実に抑制できる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、EGRガス中の未燃焼空気量まで考慮し、EGR適用時の排ガス性能とエンジンレスポンスとの両立を簡単な制御によって達成することが可能なディーゼルエンジンの燃料制御装置を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明を図に示した実施例を用いて詳細に説明する。但し、この実施形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは特に特定的な記載がない限り、この発明の範囲をそれのみに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
【0019】
図1は、本発明の第1実施形態に係るディーゼルエンジンの燃料制御装置の構成を示す。図示のように、4サイクルのディーゼルエンジン1は、シリンダ3内に往復摺動自在に嵌合されたピストン5、該ピストン5の往復動をコネクチングロッド7を介して回転に変換する図示しないクランク軸を備えている。
前記エンジン1は、ピストン5の上面とシリンダ3の内面との間に区画形成される燃焼室9を形成し、該燃焼室9には吸気通路13が接続され、吸気ポートを開閉する吸気弁15を備えている。さらに燃焼室9には排気通路19が接続され、排気ポートを開閉する排気弁21を備えている。
【0020】
前記吸気通路13には排気通路19の途中からEGR(排気ガス再循環)通路23が分岐して、EGR通路23を流れるEGRガスを冷却するEGR冷却器25、およびEGRガス流量を制御するEGR弁27を介して吸気通路13の吸気スロットル弁29の下流側に接続されている。
この吸気スロットル弁29の開度を制御することで燃焼室9内に流入される吸気量が制御されるようになっている。ディーゼルエンジンの場合では、このスロットル弁29はEGR制御時に閉方向に制御されるが、通常全開状態であり空気過剰率は、燃料噴射量によって制御されるようになっている。
【0021】
燃焼室9には燃料噴射弁31が取付けられ、図示しない燃料噴射ポンプによって高圧化された燃料を、コントロールユニット(燃料制御手段)33によって所定の噴射タイミングと噴射量とが制御されて燃焼室9内に噴射されるようになっている。
【0022】
また、吸気通路13の吸気スロットル弁29の上流側には、吸気通路13を通じて燃焼室9に吸入する新気量を検出するためのエアフローメータ35が設けられ、コントロールユニット33に信号が入力される。また、EGRガスにおいても、EGR通路23から吸気通路13に流入するEGRガス量を検出するためのEGRガスフローメータ37が、EGR弁27の上流側に設けられている。
さらに、吸気マニホールド内の圧力、温度を検出する吸気マニホールド圧力センサ39、吸気マニホールド温度41がそれぞれ設けられて、コントロールユニット33に信号が入力される。
また、エンジンの回転速度センサ43、アクセルペダルの踏み込み量、またはアクセルハンドル等の操作量を検出するアクセルセンサ45からの信号も前記コントロールユニット33に入力される。
【0023】
次にコントロールユニット33について説明する。第1実施形態におけるコントロールユニット33には、燃料噴射装置の燃料噴射弁31によってシリンダ3内に噴射される燃料噴射量と、エアフローメータ35によって検出される吸入空気量と、さらに吸気通路13に還流されるEGRガス中の未燃焼空気量とを用いてシリンダ3内の推定空気過剰率を算出する推定空気過剰率算出手段47を備えている。
【0024】
さらに、推定空気過剰率算出手段47によって算出された推定空気過剰率が一定値以下か否かを判定する推定空気過剰率判定手段49を備え、該判定手段よって一定の閾値以下であると判定した場合に、アクセル開度の変化率を一定値以下に制限するアクセル開度制限手段50を有している。
【0025】
図2に示すフローチャートを参照して、コントロールユニット33におけるアクセル開度の制限について制御手順を説明する。
まず、ステップS1でアクセル開度制限処理を開始すると、ステップS2で、アクセル開度信号を読込む。アクセル開度信号は図4(a)のように変化しており、始めの一定開度から立ち上がるように開度が増大していく状態を示す。次に、ステップS3で、アクセル開度変化率に制限をかけるか否かを判定するためのアクセル開度変化率の閾値H、Hを読み込む。閾値H以上の場合には制限ONであり、閾値H以下の場合には制限OFFとなる。閾値HとHとの間にはH>Hの関係をもうけて、閾値において制限がハンチングして不安定な作動となることを防止している。
【0026】
ステップS4では、ステップS2で読込んだアクセル開度信号から、アクセル開度変化率を算出する。アクセル開度変化率は図4(a)のアクセル開度の傾きであり、図4(b)に示すような曲線として算出される。
【0027】
ステップS5では、前記閾値H、Hに基づいて制限の有効、無効の判断を行う。すなわち、アクセル加速時に閾値H以上の場合には有効と判断し、H以下に下がったら無効と判断して、有効、無効フラグを設定する。図4(c)に有効フラグの部分を凸状に示す。
このように、アクセル開度の変化率が一定値以上の場合にだけ制限処理を行うため、空気過剰率が低い高負荷での運転時に定常的に制限がかかるのを防ぐことができる。
【0028】
次に、ステップS6では、推定空気過剰率の算出を行う。この推定空気過剰率λの算出は、推定空気過剰率算出手段47によって行われ、次の式(1)、(2)によって算出される。
【0029】



: 吸入空気質量流量
egr : EGRガス質量流量
egra : EGRガス中の空気質量流量
: 燃料噴射量
th : 理論空燃比
(n−1): 1ステップ前の演算結果
【0030】
式(1)の吸入空気質量流量(G)は、エアフローメータ35からの検出信号によって算出され、またEGRガス質量流量(Gegr)はEGRガスフローメータ37から検出されるEGRガス量、または、図示しないEGR冷却器25の前後差圧を計測してその検出結果から演算処理してEGRガス量を算出する。
EGRガス中の空気質量流量(Gegra)は、式(2)を用いて1ステップ前の演算処理によって算出された推定空気過剰率を用いて推定する。
【0031】
次に、ステップS7では、前記算出した推定空気過剰率λが、推定空気過剰率の閾値K以下であるか否かを推定空気過剰率判定手段49で判定する。閾値K以下の場合には、ステップS8に進んで、最大アクセル開度変化率を算出する。そしてステップS9では該算出された最大アクセル開度変化率をPに制限して、ステップS10で最大アクセル開度変化率がこの制限値Pを超えないように制限後のアクセル開度信号を制御信号として書込み、ステップS10で終了する。
このステップS9、10による最大アクセル開度変化率の制限は、コントロールユニット33内のアクセル開度制限手段50によって実行される。
【0032】
図4(d)に示すように、推定空気過剰率λが閾値K以下になったときには、燃料量が過剰でスモークの発生のおそれがあるとしてその領域では図4(e)に示すように、最大アクセル開度変化率を制限値Pに低下させる。
なお、推定空気過剰率の閾値Kと最大アクセル開度変化率の制限値Pとは図3に示すように予めテーブルに設定されている。
この図3のテーブルの関係より、推定空気過剰率λの閾値Kが1.7から1.5へと小さくなるに従って、すなわち、燃料量が増加する傾向にあれば、最大アクセル開度変化率の制限値Pを小さくして制限を強め、閾値Kが1.5以下では制限値Pを10%の一定値として設定している。
【0033】
このように、推定空気過剰率の閾値Kと最大アクセル開度変化率の制限値Pとをあらかじめ関係付けてテーブルとして備えているため、推定空気過剰率の閾値Kと最大アクセル開度変化率の制限値Pとのテーブルを調整することで、アクセル開度最大変化率の制限値Pを簡単に調整できるので、排気スモークとエンジンレスポンスとのトレードオフの関係を容易に調整できる。
推定空気過剰率という1つのパラメータによって、スモークの発生度合いを制御することができるようになるため、複数のパラメータを使って制御するものに比べて制御ロジックが単純化するとともに、調整が容易化する。
【0034】
以上のように、第1実施形態によると、推定空気過剰率算出手段47によって、シリンダ3内に噴射される燃料噴射量と、吸気通路13を通ってシリンダ3内に流入される吸入空気量と、さらに吸気系に還流されるEGRガス中の未燃焼空気量とを用いてシリンダ3内の推定空気過剰率を算出するので、EGRガス中の未燃焼空気(酸素)も排気スモーク影響を与えるため、その未燃焼空気(酸素)も考慮した空気過剰率が推定空気過剰率として算出される。
【0035】
そして、この推定空気過剰率を基にして、アクセル開度を制御するため、シリンダ内に存在する空気(酸素)量を的確に反映した制御が可能となる。また、前記推定空気過剰率が一定値以下の場合にはアクセル開度制限手段50によって、アクセル開度の最大変化率を一定値以下に制限するので、EGR適用時に急激な加速操作(アクセル開度上昇操作)がされても、燃焼室9内の空気(酸素)不足が原因で発生するスモークを抑制しつつ、NOxの低減およびエンジンのレスポンスの低下を抑えることができる。
【0036】
図4(a)には、制限後のアクセル開度を点線部分Rで示す。制限有効フラグONのときに、最大アクセル開度変化率が制限値Pで制限されるため、アクセル開度の変化率が緩慢になり、燃焼室9内の空気(酸素)不足が原因で発生するスモークを抑制しつつ、NOxの低減およびエンジンのレスポンスの低下を抑えることができる。
【0037】
また、第1実施形態の効果を試験によって確認した結果を図8に示す。図8(a)より、アクセル開度が実線で示すように抑えられ、図8(b)に実線で示すようにアクセル開度が抑えられ、図8(c)に実線で示すように燃料噴射量も抑えられる。そして、その結果図8(d)に実線で示すように、排煙濃度が低下されたことが確認できた。
【0038】
次に、図5〜図7を参照して第2実施形態を説明する。第1実施形態と同様の構成については同一符号を付して説明を省略する。
第1実施形態においては、コントロールユニット33内の推定空気過剰率判定手段49によって推定空気過剰率の低下を判定してアクセル開度制限手段50によって最大アクセル開度変化率の制限を行っているが、第2実施形態では、これら推定空気過剰率判定手段49、アクセル開度制限手段50に代えて、図5、図6に示すようにコントロールユニット51は目標空気過剰率算出手段52、およびアクセル開度制御手段54を備えることが相違し、その他は第1実施形態と同様である。
【0039】
図6に、第2実施形態のコントロールユニット51の構成ブロック図を示す。目標空気過剰率算出手段52では、エンジン回転数と目標燃料噴射量とに対する目標空気過剰率λが予めマップ化されてあおり、回転速度センサ43によって検出されたエンジン回転数に基づいて、目標空気過剰率λがそのマップから設定される。この目標空気過剰率λのマップには、各運転条件においてNOx排出量とスモーク排出量とのトレードオフ関係が最適になる空気過剰率が設定されている。
【0040】
そして、アクセル開度制御手段54においては、推定空気過剰率算出手段47によって算出される推定空気過剰率λを目標空気過剰率λに追従するように、目標空気過剰率λにフィードバック制御する。
【0041】
コントロールユニット51の制御について、図7のフローチャートを参照して説明する。
まず、ステップS21でアクセル開度補正処理を開始し、ステップS22でアクセルセンサ45からアクセル開度信号を読込む。ステップS23では目標空気過剰率算出手段52によって、エンジン回転数、目標燃料噴射量を読込み、ステップS24で目標空気過剰率λを目標空気過剰率λのマップから算出する。
【0042】
次に、ステップS25では推定空気過剰率算出手段47によって、推定空気過剰率λを算出する。この算出は第1実施形態で説明した式(1)、(2)に基づく算出と同様に行う。目標空気過剰率λと推定空気過剰率λとが図6に示す加減算器56によって加減算されて、アンチワインドアップ付PI制御器58に入力され、ここでステップS26のPI制御演算を行う。その後、ステップS27に進み、アクセル開度とPI出力を比較して最小値選択を図6に示す最小値選択器60によって行う。
【0043】
次のステップS28〜S30の間の処理Bは、第1実施形態のステップS3〜S5と同様で、アクセル開度変化率が所定の閾値以上か否かを判定してその後の補正処理に進む。ステップS31で、アクセル開度変化率が所定の閾値以上でアクセル開度に制限をかけることが有効と判定した場合には、ステップS32へ進んで、ステップS27の「処理A」の出力をアクセル開度補正値に設定する。すなわち、図6の最小値選択器60からの出力Miを飽和要素62に入力する。
一方、ステップS31で無効と判定した場合には、ステップS33へ進み、アクセル開度をアクセル開度補正値に設定する。すなわち、図6のアクセル開度信号Acがそのままアクセル開度補正値として飽和要素62に入力される。
【0044】
その後、ステップ34では、飽和処理される。すなわち、図6の飽和要素62に入力されるアクセル開度補正値信号がアクセルへの補正信号として0%〜100%の間の信号になるように処理される。そして、ステップS35で補正処理後のアクセル開度信号を制御信号として書込み、ステップS36で終了する
【0045】
以上のように、第2実施形態によれば、前記第1の実施形態と同様に、推定空気過剰率を基にして、アクセル開度を制御するため、燃焼室内に存在する空気(酸素)量を的確に反映した制御が可能となる。
そして、推定空気過剰率算出手段47によって算出された推定空気過剰率が予め設定された目標空気過剰率に追従するようにアクセル開度を補正するアクセル開度制御手段54を備えているため、アクセル開度変化率の最大値を制限する前記第1実施形態に比べてより木目細かいアクセル開度の変化率の制御が行われるため、排気スモークに直接的に作用するEGRガス中の空気(酸素)濃度を考慮した推定空気過剰率を精度よく制御することで排気スモークを抑制できる。
【0046】
また、加速過渡時において、排気スモーク抑制の目的でEGR弁27を閉弁するが、これが原因で吸気マニホールド内の酸素濃度が急激に上昇して、NOxが上昇する問題があるが、これに対しても、推定空気過剰率が精度よく制御可能であるため、EGR弁27をやや緩慢に閉方向に制御して、応答性の速い燃料噴射制御で推定空気過剰率を精度よく制御することで、排気スモークを抑制しつつNOxに対しても低減効果を発揮することも可能になる。
【0047】
次に、図9を参照して第3実施形態を説明する。第1実施形態と同様の構成については同一符号を付して説明を省略する。
第1実施形態においては、コントロールユニット33内の推定空気過剰率判定手段49によって推定空気過剰率の低下を判定してアクセル開度制限手段50によって最大アクセル開度変化率の制限を行っているが、第3実施形態では、これら推定空気過剰率判定手段49、アクセル開度制限手段50に代えて、図9に示すようにコントロールユニット71は酸素濃度判定手段73、およびアクセル開度制限手段75を備えることが相違し、その他は第1実施形態と同様である。
【0048】
図9の構成図に示すように、EGR通路23が吸気通路13に接続する位置よりも下流側の吸気通路である吸気マニホールド内に酸素濃度を検出する酸素濃度センサ77を設置し、該酸素濃度センサ77からの酸素濃度検出値に基づいて、酸素濃度判定手段73では、第1実施形態の推定空気過剰率判定手段49と同様に予め設定された酸素濃度閾値以下となったかを判定して、該閾値以下の時にはアクセル開度制限手段75によって、最大アクセル開度変化率が制限値を超えないようにアクセル開度信号を制御する。
【0049】
酸素濃度センサ77によって、EGRガス中の未燃焼空気量を含めて燃焼室に流入する酸素濃度を直接検出して燃料噴射量を制御するので、前記したような推定空気過剰率を算出するために吸気圧力、吸気温度等を検出して、所定の算出式を用いて制御するよりも制御が簡素化される。
また、排気スモーク発生の原因となる酸素濃度の低下を直接に検出して制御するので、排気スモークの発生を確実に抑制できる。
【0050】
なお、実施形態1〜3の説明において、アクセル開度の制御について説明したが、アクセル開度でなく、他の燃料噴射量の指令値であればよいことは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明によれば、EGR制御装置を備えた4サイクルガスエンジンにおいて、エンジン回転数の整定時における大幅な回転数の低下の発生を回避して、エンジンの始動性を向上する4サイクルガスエンジンのEGR制御装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の第1実施形態に係るディーゼルエンジンの燃料制御装置の全体構成を示す構成図である。
【図2】第1実施形態に係るコントロールユニットの制御フローチャートである。
【図3】推定空気過剰率の閾値と最大アクセル開度変化率の制限値との関係を示す関係図である。
【図4】第1実施形態の制御の流れを概念的に表した特性図である。
【図5】第2実施形態を示す構成図である。
【図6】第2実施形態のコントロールユニットの構成ブロック図である。
【図7】第2実施形態に係るコントロールユニットの制御フローチャートである。
【図8】第1実施形態の試験確認結果を示す説明図である。
【図9】第3実施形態を示す構成図である。
【符号の説明】
【0053】
1 ディーゼルエンジン
3 シリンダ
9 燃焼室
13 吸気通路
19 排気通路
23 EGR通路
27 EGR弁
31 燃料噴射弁
33、51、71 コントロールユニット(燃料制御手段)
35 エアフローメータ
37 EGRガスフローメータ
47 推定空気過剰率算出手段
49 推定空気過剰率判定手段
50、75 アクセル開度制限手段
52 目標空気過剰率算出手段
54 アクセル開度制御手段
77 酸素濃度センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの排気ガスの一部をEGRガスとして吸気系に還流するEGR装置を有するディーゼルエンジンの燃料制御装置において、
燃料噴射装置によってシリンダ内に噴射される燃料噴射量と吸入空気量とさらに吸気系に還流されるEGRガス中の未燃焼空気量とを用いてシリンダ内の推定空気過剰率を算出する推定空気過剰率算出手段を備え、
前記推定空気過剰率算出手段によって算出された推定空気過剰率に基づいて急加速時の燃料噴射量を制御する燃料制御手段を備えたことを特徴とするディーゼルエンジンの燃料制御装置。
【請求項2】
前記燃料制御手段には、前記推定空気過剰率算出手段によって算出された推定空気過剰率が一定値以下の場合に、アクセル開度最大変化率を一定値以下に制限するアクセル開度制限手段を有していることを特徴とする請求項1記載のディーゼルエンジンの燃料制御装置。
【請求項3】
前記推定空気過剰率とアクセル開度最大変化率とがあらかじめ関係付けられたテーブルを備えたことを特徴とする請求項2記載のディーゼルエンジンの燃料制御装置。
【請求項4】
前記燃料制御手段には、前記推定空気過剰率算出手段によって算出された推定空気過剰率が予め設定された目標空気過剰率に追従するようにアクセル開度を制御するアクセル開度制御手段を有していることを特徴とする請求項1記載のディーゼルエンジンの燃料制御装置。
【請求項5】
前記目標空気過剰率はエンジン回転数と該回転数に対する目標燃料噴射量との関係からスモーク排出およびNOx排出が最も抑制される空気過剰率であることを特徴とする請求項4記載のディーゼルエンジンの燃料制御装置。
【請求項6】
前記急加速時がアクセル開度の変化率が一定値以上であり、該アクセル開度の変化率が一定値以上の場合にだけ前記燃料噴射量の制御を行うことを特徴とする請求項1記載のディーゼルエンジンの燃料制御装置。
【請求項7】
前記推定空気過剰率算出手段に代えて、EGR通路が吸気通路に接続する位置よりも下流側の吸気通路内に酸素濃度を検出する酸素濃度センサを設置し、該酸素濃度センサからの酸素濃度検出値に基づいて急加速時の燃料噴射量を制御することを特徴とする請求項1記載のディーゼルエンジンの燃料制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−270518(P2009−270518A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−122732(P2008−122732)
【出願日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】