説明

ディーゼル内燃機関の排ガス浄化方法及び装置

【課題】停止中でアイドリング運転中に手動操作で自己再生型フィルタ装置を再生させる場合に、騒音を低減しかつ再生時間を短縮可能にする。
【解決手段】車両に搭載され、圧縮開放型エンジンブレーキ手段42と、排ガス路26に設けられた自己再生型フィルタ装置30とを備え、排ガス中のPMをDPF36で捕捉し捕捉したPMを酸化触媒34で酸化昇温して該DPFに堆積したPMを燃焼除去するディーゼル内燃機関10の排ガス浄化方法において、車両の停止中でアイドリング運転中に少なくとも一部の気筒12a、12c及び12eにピストンが圧縮上死点付近に位置する時に圧縮開放型エンジンブレーキ手段42を作動させることにより、ディーゼル内燃機関10の負荷を増加させ、負荷の増加分に対応して他の気筒12b、12d及び12fの燃料噴射量を増加させ、前記自己再生型フィルタ装置30でPMの酸化反応温度を確保するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載され、圧縮開放型エンジンブレーキ手段を備えると共に、自己再生型フィルタ装置からなる排ガス浄化装置を備えたディーゼル内燃機関において、圧縮開放型エンジンブレーキ手段を利用して、車両の停止中でアイドリング運転中に手動操作で該自己再生型フィルタ装置の自己再生を可能にした排ガス浄化方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
トラック、バス等の車両に搭載されたディーゼル内燃機関から排出される粒子状物質(以下「PM」という)の排出量は、NO、CO及びHC等と共に年々規制が強化されている。このPMをディーゼル・パーティキュレート・フィルタ(DPF;Diesel Particulate Filter)と称されるフィルタで捕集し、PM排出量を低減する技術が開発されている。
【0003】
このフィルタ装置に高温の排ガスを与えることによって、DPFに捕集されたPMを燃焼除去できる自己再生が可能になる。また、DPFの上流側に酸化触媒を設けるか、又はDPFに酸化触媒を担持させることによって高温の排ガスによってPMを焼却する自己再生型フィルタ装置がある。
【0004】
前者の自己再生型フィルタ装置は、白金等を担持した酸化触媒により、排ガス中のNOを酸化してNOとし、このNOで下流側のDPFに捕集されたPMを酸化し、COにして除去するものである。後者の自己再生型フィルタ装置は、酸化セリウムCeO等の酸化触媒付きフィルタで構成され、該酸化触媒によりDPFに捕集されたPMを酸化除去している。これらの酸化触媒により、排ガス温度が概ね300℃以上であれば、PMを酸化除去できる。
【0005】
しかしながら、内燃機関のアイドリング運転や低負荷・低速度運転等においては、排ガス温度が前記温度以下に下がるため、酸化触媒による酸化反応が促進されない。また、NOが不足するので、酸化反応が進まない。そのため、PMの堆積が進んでDPFへの目詰まりを起こす。
【0006】
そのため、気筒内に燃料のポスト噴射(後噴射)を行って排ガス中に燃料(HC)を供給し、排ガス中の燃料(HC)を酸化触媒で燃焼(酸化)し、その燃焼熱で酸化触媒を活性化温度以上に昇温することにより、DPFに捕集されたPMを酸化除去してDPFを再生するようにしている。
【0007】
例えば、特許文献1(特開2005−299418号公報)又は特許文献2(特開2005−299438号公報)には、車両に搭載されたディーゼルエンジンの排ガス経路に前記自己再生型フィルタ装置を設けると共に、気筒内にポスト噴射を行なって、DPFに捕集されたPMを酸化除去する排ガス浄化システムが開示されている。
【0008】
また、DPFに過剰のPMが堆積してしまった場合などでは、車両を停止し、運転者の意志で手動再生を行なう場合がある。この場合、排ガス温度を上昇させるため、エンジン回転数を上昇させる必要がある。例えば、エンジン回転数をアイドリング時では650rpmに対して、1500rpmに上昇させる。
【0009】
別な排ガス温度上昇手段として、排気ブレーキを利用する方法がある。この方法は、排ガス路に設けられたバルブを閉じることで気筒内の排ガス圧力を高め、エンジン負荷を高めることにより、ピストンにブレーキ力を発生させるものである。こうして排ガス路を閉じることにより、排ガス温度を高め、DPFの自己再生を行なう。
特許文献3(特開2005−220840号公報)には、この方法を採用する場合の排気ブレーキの構成が開示されている。
【0010】
【特許文献1】特開2005−299418号公報
【特許文献2】特開2005−299438号公報
【特許文献3】特開2005−220840号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、車両が停止しエンジンがアイドリング運転の時に、手動再生のためにエンジン回転数を増加させると、エンジン回転数の割には排ガス温度が上がらず、逆に騒音が大きくなるという問題がある。
【0012】
また、排気ブレーキを利用する方法では、図5に示すように、第1ステージで排気ブレーキを利用して排ガス温度を250℃に上げた後、第2ステージでは、燃料のポスト噴射を行なって、自己再生型フィルタ装置に未燃燃料(HC)を供給する。そして、HCを燃焼(酸化)させて排ガス温度を酸化触媒の酸化反応温度まで上昇させている。
第2ステージでは、捕集されたPMを燃焼させるために、排ガス路に新鮮空気を供給する必要があり、そのため、第2ステージでは排ガス路を閉じることができず、排気ブレーキを利用できない。
また、ポスト噴射を行なうことで、車両の走行に使用されない燃料消費が多くなるという問題がある。
【0013】
本発明は、かかる従来技術の問題に鑑み、ディーゼル内燃機関を搭載した車両において、停止中でアイドリング運転中に手動操作で自己再生型フィルタ装置を再生させる場合に、騒音を低減しかつ再生時間を短縮可能にし、さらに燃費を低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するため、本発明のディーゼル内燃機関の排ガス浄化方法は、
車両に搭載され、圧縮開放型エンジンブレーキ手段と、排ガス路に設けられ酸化触媒及びDPFからなる自己再生型フィルタ装置とを備え、
DPFの上流側に配置された酸化触媒で酸化反応により排ガス温度を上昇して該DPFに捕捉された排ガス中の粒子状物質を酸化除去するようにしたディーゼル内燃機関の排ガス浄化方法において、
車両の停止中でアイドリング運転中に少なくとも一部の気筒にピストンが圧縮上死点付近に位置する時に前記圧縮開放型エンジンブレーキ手段を作動させることにより、ディーゼル内燃機関の負荷を増加させ、
負荷の増加分に対応して他の気筒の燃料噴射量を増加させ排ガス温度を高めることにより、前記自己再生型フィルタ装置における粒子状物質の酸化反応温度を確保するようにしたものである。
【0015】
本発明方法は、車両に搭載され、圧縮開放型エンジンブレーキ手段を備えたディーゼル内燃機関を対象とする。ディーゼル内燃機関の気筒の圧縮工程で、ピストンが上死点に達し、気筒内の空気が圧縮されると、通常運転時ではこの段階で燃料を噴射して燃焼させ、燃焼エネルギでピストンを押し下げて車輪の回転エネルギを得る。
【0016】
圧縮開放型エンジンブレーキ手段は公知であり(例えば特開平9−2105号公報参照)、圧縮開放型エンジンブレーキ手段を用いてピストンにブレーキ力を付与する場合、次のように動作させる。圧縮工程で燃料を噴射せず気筒の排気弁を開け、気筒内の空気を排出させるようにする。そのため、気筒内で空気の圧縮が行なわれずピストンの運動エネルギが失われる。さらに、ピストンが上死点を通過した後、膨張工程で排気弁を閉めると、ピストンの下降で気筒内が負圧となり、ピストンの下降動作に対して抵抗となる。この操作により、所要ブレーキ力の85〜90%を確保できる。
【0017】
本発明方法では、車両の停止中でアイドリング運転中に少なくとも一部の気筒に圧縮開放型エンジンブレーキ手段を作動させる。これによって、ディーゼル内燃機関の負荷抵抗を増大させ、負荷の増加分に対応して他の気筒の燃料噴射量を増加させることにより、排ガス温度を高めることができる。従って、内燃機関の回転数を高回転とすることなく、排ガス温度を上げることができる。
さらに、圧縮開放型エンジンブレーキ手段を作動された気筒では、圧縮された高温の空気が排ガス路に放出される。これらの結果から、排ガス温度を250℃まで上げることができる。そして、次にポスト噴射を行なって自己再生型フィルタ装置の酸化触媒の酸化反応温度を確保できる。
【0018】
このように、内燃機関の回転数を高回転とすることなく、排ガス路内の空気温度を250℃まで上げることができるので、騒音を低減できる。
なお、ポスト噴射を行なう第2段階でも、圧縮開放型エンジンブレーキ手段を作動させるようにすれば、排ガス路内の空気温度をさらに上げることができる。
【0019】
本発明方法において、一部の気筒に前記圧縮開放型エンジンブレーキ手段を作動させると同時に、該気筒内に燃料のポスト噴射を行なうようにするとよい。
これによって、圧縮された高温の空気と共に未燃燃料が排ガス路に放出されるので、高温空気と未燃燃料の燃焼による相乗効果により、排ガス温度を効率良く上昇させることができる。そのため、再生時間を短縮できると共に、ポスト噴射時の燃料を低減でき、燃費を向上できる。
【0020】
さらには、圧縮された高圧空気を排ガス路に放出できるので、ポスト噴射された燃料の霧化を促進できる。そのため、未燃燃料(HC)の燃焼反応を促進でき、排ガス温度を効率良く上昇できる。
また、ピストンが上死点付近に位置する時にポスト噴射するので、噴射した燃料はピストン面で受けられ、燃料が気筒の内壁に付着しない。従って、燃料がクランク室に浸入し、潤滑油に混入して、オイルダイリューション(希釈)を起こす虞がない。
【0021】
また、前記本発明方法の実施に直接使用可能な本発明のディーゼル内燃機関の排ガス浄化装置は、
車両に搭載され、圧縮開放型エンジンブレーキ手段と、DPFの上流側に配置された酸化触媒で酸化反応により排ガス温度を上昇して該DPFに捕捉された排ガス中の粒子状物質を酸化除去する自己再生型フィルタ装置と、を備えたディーゼル内燃機関の排ガス浄化装置において、
ピストンが圧縮上死点付近に位置する時に、少なくとも一部の気筒に前記圧縮開放型エンジンブレーキ手段を作動させてディーゼル内燃機関の負荷を増加させ、負荷の増加分に対応して他の気筒の燃料噴射量を増加させる制御装置を設け、
車両の停止中でアイドリング運転中に該制御装置により該圧縮開放型エンジンブレーキ手段を作動させ排ガス温度を高めることにより、前記自己再生型フィルタ装置における粒子状物質の酸化反応温度を確保するように構成したものである。
【0022】
本発明装置では、車両の停止中でアイドリング運転中に、自己再生型フィルタ装置の自己再生が必要な場合は、運転者が前記制御装置を作動させ、少なくとも一部の気筒に圧縮開放型エンジンブレーキ手段を作動させる。これによって、ディーゼル内燃機関の負荷を増加させ、他の気筒で負荷の増加に対応して燃料噴射量を増加させることにより、排ガス温度を上げることができる。
さらに、圧縮開放型エンジンブレーキ手段を作動された気筒では、圧縮された高温の空気が排ガス路に放出されるので、これらの結果から、排ガス温度を250℃まで上げることができる。
【0023】
本発明装置において、前記制御装置により、一部の気筒に前記圧縮開放型エンジンブレーキ手段を作動させると同時に、該気筒内に燃料のポスト噴射を行なうように構成するとよい。
これによって、自己再生型フィルタ装置の酸化触媒の酸化反応温度を確保できる。従って、内燃機関の回転数を高回転とする必要がないので、騒音を低減できる。
【0024】
本発明装置において、前記制御装置により、一部の気筒に前記圧縮開放型エンジンブレーキ手段によるエンジンブレーキ力を付与すると同時に、該気筒内に燃料のポスト噴射を行なうように構成するとよい。
これによって、圧縮された高温の空気と共に未燃燃料が排ガス路に放出されるので、該未燃燃料の燃焼反応によって、排ガス温度を効率良く上昇させることができる。そのため、再生時間を短縮できると共に、ポスト噴射時の燃料を低減でき、燃費を向上できる。
【0025】
また、本発明装置において、手動によりオンとすることにより前記制御装置に前記圧縮開放型エンジンブレーキ手段を作動させる作動スイッチを設けるとよい。
これによって、運転者が該作動スイッチを操作することにより、手動再生操作を起動できる。こうして、運転者が必要と判断した時のみ手動再生を行なうことができる。
【0026】
また、本発明装置において、前記圧縮開放型エンジンブレーキ手段を作動させる気筒の数を内燃機関の運転バランス又は排ガス温度の上昇効果に基づいて決定するとよい。
エンジンブレーキを作動させる気筒の数によって、ディーゼル内燃機関に付与される負荷抵抗が異なる。
そのため、エンジンブレーキを作動させる気筒の数を調節することによって、手動再生時のディーゼル内燃機関の回転数を調節可能になる。
【0027】
また、本発明装置において、圧縮開放型エンジンブレーキ手段を作動させる気筒と、該圧縮開放型エンジンブレーキ手段を作動させない気筒とを交互に配置するとよい。
手動再生中、エンジンブレーキを作動させる気筒と作動させない気筒とでは、気筒及び排ガス路の温度が異なってくる。そのため、エンジンブレーキを作動させる気筒を一箇所に集中させると、内燃機関全体として熱歪が生じる。前記構成とすることにより、この熱歪を無くすことができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明方法によれば、車両に搭載され、圧縮開放型エンジンブレーキ手段と、排ガス路に設けられ酸化触媒及びDPFからなる自己再生型フィルタ装置とを備え、DPFの上流側に配置された酸化触媒で酸化反応により排ガス温度を上昇して該DPFに捕捉された排ガス中の粒子状物質を酸化除去するようにしたディーゼル内燃機関の排ガス浄化方法において、排ガス中の粒子状物質を該DPFフィルタで捕捉し捕捉した粒子状物質をDPFフィルタの上流側に配置された酸化触媒で酸化昇温して該DPFフィルタに堆積した粒子状物質を燃焼除去するようにしたディーゼル内燃機関の排ガス浄化方法において、車両の停止中でアイドリング運転中に少なくとも一部の気筒にピストンが圧縮上死点付近に位置する時に前記圧縮開放型エンジンブレーキ手段を作動させることにより、ディーゼル内燃機関の負荷を増加させ、負荷の増加分に対応して他の気筒の燃料噴射量を増加させ排ガス温度を高めることにより、前記自己再生型フィルタ装置における粒子状物質の酸化反応温度を確保するようにしたので、内燃機関の回転数を高回転とすることなく、排ガス温度を250℃まで上げることができ、従って、騒音を低減できる。また、再生時間を短縮できると共に、ポスト噴射時の燃料を低減でき、燃費を向上できる。
【0029】
また、本発明装置によれば、車両に搭載され、圧縮開放型エンジンブレーキ手段と、DPFの上流側に配置された酸化触媒で酸化反応により排ガス温度を上昇して該DPFに捕捉された排ガス中の粒子状物質を酸化除去する自己再生型フィルタ装置と、を備えたディーゼル内燃機関の排ガス浄化装置において、ピストンが圧縮上死点付近に位置する時に、少なくとも一部の気筒に前記圧縮開放型エンジンブレーキ手段を作動させてディーゼル内燃機関の負荷を増加させ、負荷の増加分に対応して他の気筒の燃料噴射量を増加させる制御装置を設け、車両の停止中でアイドリング運転中に該制御装置により該圧縮開放型エンジンブレーキ手段を作動させ排ガス温度を高めることにより、前記自己再生型フィルタ装置における粒子状物質の酸化反応温度を確保するように構成したので、前記本発明方法の実施が可能になり、本発明方法と同様の作用効果を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施形態を例示的に詳しく説明する。但しこの実施形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は特に特定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれに限定する趣旨ではない。
【0031】
本発明の一実施形態を図1〜図4に基づいて説明する。図1は、車両に搭載されたディーゼルエンジンの排ガス浄化装置を示す。図1において、ディーゼルエンジン10は、6個のシリンダ12a〜fからなる。各シリンダの頭部には、吸気弁14が設けられた吸気口を有し、該吸気口には吸気枝路22が接続されている。また、排気弁16が設けられた排気口を有し、該排気口には排気枝路24が接続されている。さらに、燃料をシリンダ内に噴射するインジェクタ18を備えている。
【0032】
各シリンダの吸気枝路22は集合して主吸気路20となり、各シリンダの排気枝路24は集合して主排気路26となっている。
主排気路26には自己再生型フィルタ装置30が介設されている。自己再生型フィルタ装置30は、主排気路26に介設された容器32の中に、排ガス流れ方向上流側から順に酸化触媒34及びDPF36が排ガス流路に面して配置されている。酸化触媒34上流側の排ガス流路には、排ガス温度計33が設けられている。また、DPF36内の排ガス流路には圧力計38が設けられ、圧力計38によって排ガスの圧力損失を検出し、この検出値により、PMの堆積により生じるDPF36の目詰まり状態を検出する。
【0033】
酸化触媒34は、例えば、白金等を担持した酸化触媒であり、DPF36は、例えば、セラミック製のハニカム形フィルタ、又はセラミックや金属を繊維状にしたフィルタで構成されている。
【0034】
各シリンダ12a〜f内で燃料が燃焼した後の排ガスは、排気枝路24及び主排気路26を通って自己再生型フィルタ装置30に到達する。自己再生型フィルタ装置30では、酸化触媒34により、排ガス中のNOを酸化してNOとし、このNOで下流側のDPF36に捕集されたPMを酸化し、COにして除去する。しかし、酸化触媒34の酸化反応温度は250℃以上であり、車両の停止中でアイドリング運転中に、排ガス温度が酸化反応温度以下であると、酸化反応は生じない。従って、DPF36の自己再生が困難になる。
【0035】
ディーゼルエンジン10は、ディーゼルエンジン10の燃焼を制御するエンジンコントロールユニット(ECU)40を備えている。ECU40は、運転時にインジェクタ18を制御して、燃料の噴射時期や噴射量を制御する。
【0036】
ディーゼルエンジン10は、各シリンダ12a〜fにエンジンブレーキ力を付与する圧縮開放型エンジンブレーキ手段42を備えている。このエンジンブレーキ手段42は、次のように動作する。即ち、圧縮工程で燃料を噴射せずシリンダ12a〜fの排気弁16を開け、シリンダ内の空気を排出させるようにする。そのため、シリンダ内で空気の圧縮が行なわれずピストンの運動エネルギが失われる。
【0037】
さらに、ピストンが上死点を通過した後、膨張工程で排気弁16を閉めると、ピストンの下降でシリンダ内が負圧となり、ピストンの下降動作に対して抵抗となる。即ち、通常のピストン回転方向と逆方向のブレーキ力が発生する。この操作により、補助ブレーキ力を確保できる。
【0038】
圧縮開放型エンジンブレーキ手段42により排気弁16を駆動する油圧回路は2系統に分割されている。一方の油圧回路44は、シリンダ12a、12c及び12eの排気弁16を駆動し、他方の油圧回路46は、シリンダ12b、12d及び12fの排気弁16を駆動する。2つの油圧回路44又は46には、夫々ソレノイドバルブ48又は50が介設され、ECU40がソレノイドバルブ48又は50を制御して、作動油の給排を制御している。かかる構成により、油圧回路44又は46に接続された排気弁16は、夫々別々に作動する。
【0039】
図2は、本実施形態に係るディーゼルエンジン10の排気弁16のリフト時期と燃料噴射のタイミングを示す。図2(a)は、通常運転の場合を示し、(b)及び(c)は、車両の停止中でアイドリング運転中に、手動により自己再生型フィルタ装置30の自己再生を行なう場合を示し、(b)はその第1段階、(c)は第2段階を示す。
【0040】
図2(a)に示す通常運転中では、全シリンダ12a〜fのピストンが圧縮上死点付近の位置にある時に燃料の主噴射Mが行われる。そして、燃料の燃焼によりピストンが下降し、その後、ピストンが下死点から排気上死点に向う工程で排気弁16がリフトされ、排ガスが排気枝路24に排出される。このタイミングに合わせてポスト噴射Pが行なわれ、未燃燃料(HC)が混じった燃焼排ガスが排気枝路24に排出される。
通常運転中は、排ガスは250℃以上の温度を有するので、排ガス中に混じった未燃燃料を酸化触媒34で燃焼(酸化)することにより、酸化触媒34の活性化温度を得、DPF36に捕集されたPMを酸化除去する自己再生が可能になる。
【0041】
図2(b)では、手動再生操作の第1段階として、ピストンが圧縮上死点付近の位置にある時に、主噴射Mを止めると共に、ソレノイドバルブ48を作動し、油圧回路44に接続されたシリンダ12a、12c及び12eの排気弁16を駆動し、排気枝路24を開放して、エンジン負荷を増加させる。
これによって、ディーゼルエンジン10の負荷抵抗が増大し、この負荷増加分に対応して他のシリンダ12b、12d及び12fの燃料噴射量を増加させることにより、排ガス温度を高めることができる。
【0042】
さらに、シリンダ12a、12c及び12eでは、圧縮された高温の空気が排気枝路24に放出される。これらの結果から、排ガス温度を250℃まで上げることができる。従って、ディーゼルエンジン10の回転数を高回転とすることなく、排ガス温度を上げることができる。
【0043】
次に、図2(c)に示すように、手動再生操作の第2段階として、主噴射Mを止め、代わりにインジェクタ18からポスト噴射Pを行なう。この操作で燃料の混じったシリンダ内空気が排気枝路24に放出される。これによって、空気に混じった燃料(HC)を酸化触媒34で酸化し、そのとき発生する反応熱により排ガス温度を高め、酸化触媒34を酸化反応温度まで高めることができる。そして、酸化触媒34による酸化反応によりPMを酸化除去することができる。
【0044】
なお、ポスト噴射は、ピストンが上死点付近ある時に行なうポスト噴射Pの代わりに、ピストンが下死点から排気上死点に向う途中で行なうポスト噴射Pを行なってもよい。しかし、ピストンが上死点付近ある時に行なうポスト噴射Pのほうがポスト噴射Pよりも、圧縮された高温の空気を排気枝路24に放出できるので、酸化触媒34の加熱効果をより向上できる。
【0045】
図3(a)に手動再生を行なう場合のシリンダ12a〜fのP−V線図を模式的に示す。図3(a)において、左側のP−V線図は、エンジンブレーキ手段を作動させないシリンダ12b、12d及び12fのP−V線図を示し、右側のP−V線図Wは、各シリンダ12a〜fにエンジン負荷を付与させず、燃焼による通常の回転力を発生させる場合のP−V線図を示す。シリンダ12a、12c及び12eにエンジン負荷を付与することにより、シリンダ12b、12d及び12fではその分を補うだけの多くの仕事Aを行なう必要がある。また、シリンダ12a、12c及び12eでは、圧縮空気を排気枝路24に放出するときに圧縮空気に熱量を付加する。
【0046】
従って、シリンダ12b、12d及び12fの仕事量Aと、シリンダ12a、12c及び12eにより圧縮空気に付加される熱量との和は、全シリンダ12a〜fに通常のアイドリング運転をさせるときの仕事量Aより大きくなる。
図3(b)は、この関係を熱量基準で示したものである。即ち、シリンダ12b、12d及び12fの仕事量Aで発生する熱量q1とシリンダ12a、12c及び12eで圧縮空気に付加される熱量Qとの和は、全シリンダ12a〜fに通常のアイドリング運転をさせるときの仕事量Aにより発生する熱量q2より大きくなる。
そのため、手動再生の第1段階で、シリンダ12a〜fは負荷運転となり、低い回転数で排ガス温度を上げることができる。
【0047】
次に、図4により、手動再生時の操作手順を説明する。図4において、ステップ1で、車両の停止中でアイドリング運転中に、自己再生型フィルタ装置30の手動再生要求があったとする。手動再生の要否は、圧力計38により検出される圧力損失が限界値を超えた等の場合に図示しない警報ランプが点滅する等の手段によって判別できる。
【0048】
そこで運転者が作動スイッチ43をオンにする(ステップ2)。作動スイッチ43をオンにしたことで、ECU40がディーゼルエンジン10の稼動状態を手動再生に最適の浄化装置に制御する(ステップ3)。次に、図2(b)に示すように、ECU40が主噴射Mを停止させ、油圧回路44のソレノイドバルブ48を作動して、シリンダ12a、12c及び12eの排気弁16を開放する(ステップ4)。これによって、シリンダ12a、12c及び12eにエンジン負荷が付与される。
【0049】
シリンダ12a、12c及び12eにエンジン負荷がの付与されることにより、全シリンダ12a〜fの負荷抵抗が増加する。この負圧抵抗の増加分だけシリンダ12b、12d及び12fの燃料噴射量が増加するので、排ガス温度が上がる。また、シリンダ12a、12c及び12eでは、圧縮工程で圧縮された高温空気を排気枝路24に放出する。
これらの結果、主排気路26の温度を250℃以上にすることができる。従って、全シリンダの回転数を抑え、騒音を抑えながら排ガス温度を250℃以上に上げることができる。
【0050】
次に、第2段階として、図2(c)に示すように、ポスト噴射P(又はP)を行い、未燃燃料を酸化触媒34で燃焼(酸化)し、その燃焼熱で酸化触媒34を活性化温度以上に昇温するため、DPF36に捕集されたPMを酸化除去して、DPF36を自己再生できる。
【0051】
このように、本実施形態によれば、車両の停止中でアイドリング運転中に、圧縮開放型エンジンブレーキ手段42を利用して、シリンダ12a〜fの排ガス温度を高めることができるので、自己再生型フィルタ装置30の再生処理を可能とする。
また、シリンダ12a〜fの負荷を増加させて、低回転数で再生を可能するので、騒音を低減できる。
【0052】
また、圧縮開放型エンジンブレーキ手段42を作動させるシリンダ12a、12c及び12eでは、ピストンが圧縮上死点付近に位置する時に排気弁16を開放して、圧縮された高温の空気を主排気路26に放出するので、酸化触媒34を効率良く加熱できる。
【0053】
また、ポスト噴射Pをピストンが圧縮上死点付近に位置する時に行ない、圧縮された高圧空気と共に排気枝路24に放出するので、シリンダ12a、12c、12e内に噴射した燃料の霧化を促進でき、そのため、自己再生型フィルタ装置30での酸化反応を促進できるので、排ガス温度を効率良く高めることができる。その結果、DPFフィルタ36の再生時間を短縮できると共に、ポスト噴射の燃料を節減でき、燃費を向上できる。
また、ピストンが上死点付近に位置する時に、ポスト噴射するので、噴射した燃料をピストン面で受け、燃料がシリンダ12a、12c、12eの内壁に付着しない。従って、燃料がクランク室に浸入し、潤滑油に混入して、オイルダイリューション(希釈)を起こす虞がない。
【0054】
また、作動スイッチ43を設け、運転者が作動スイッチ43をオンとした時に、手動再生を行なうようにしたので、操作が容易になると共に、運転者が必要と判断した時のみ手動再生を実施できる。
また、エンジンブレーキを作動させるシリンダ12a、12c及び12eとエンジンブレーキを作動させないシリンダ12b、12d及び12fとを交互に配置し、前者のシリンダを一箇所に集中させないようにしたので、ディーゼルエンジン10全体として熱歪が生じることはない。
【0055】
なお、前記実施形態では、3個のシリンダ12a、12c及び12eにエンジンブレーキ手段を作動させたが、エンジンブレーキ手段を作動するシリンダの個数を多くすれば、その分アイドリング運転時のディーゼルエンジン10の回転数を低減することができ、回転数の低減に対応して、騒音の程度を低減できる。
このように、エンジンブレーキ手段を作動させるシリンダの数は、エンジン回転数との兼ね合いで適宜に設定することができる。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明によれば、車両に搭載されたディーゼル内燃機関の排ガス浄化装置の自己再生を低騒音でかつ低燃費で可能にできる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の一実施形態に係るディーゼルエンジンの構成図である。
【図2】前記実施形態に係る排気弁のリフト操作と燃料噴射タイミングを示す線図である。
【図3】前記実施形態に係るシリンダの作動を模式的に示すP−V線図である。
【図4】前記実施形態に係る手動再生の操作手順を示すフローチャートである。
【図5】従来の手動再生方法を示す線図である。
【符号の説明】
【0058】
10 ディーゼルエンジン
12a〜f シリンダ(気筒)
14 吸気弁
16 排気弁
18 インジェクタ
24 排気枝路
26 主排気路
30 自己再生型フィルタ装置
34 酸化触媒
36 DPF
40 ECU(制御装置)
42 圧縮開放型エンジンブレーキ手段
43 作動スイッチ
44、46 油圧回路
48、50 ソレノイドバルブ
M 主噴射
、P ポスト噴射

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載され、圧縮開放型エンジンブレーキ手段と、排ガス路に設けられ酸化触媒及びDPFからなる自己再生型フィルタ装置とを備え、
DPFの上流側に配置された酸化触媒で酸化反応により排ガス温度を上昇して該DPFに捕捉された排ガス中の粒子状物質を酸化除去するようにしたディーゼル内燃機関の排ガス浄化方法において、
車両の停止中でアイドリング運転中に少なくとも一部の気筒にピストンが圧縮上死点付近に位置する時に前記圧縮開放型エンジンブレーキ手段を作動させることにより、ディーゼル内燃機関の負荷を増加させ、
負荷の増加分に対応して他の気筒の燃料噴射量を増加させ排ガス温度を高めることにより、前記自己再生型フィルタ装置における粒子状物質の酸化反応温度を確保するようにしたことを特徴とするディーゼル内燃機関の排ガス浄化方法。
【請求項2】
前記一部の気筒に前記圧縮開放型エンジンブレーキ手段を作動させると同時に、該気筒内に燃料のポスト噴射を行なうようにしたことを特徴とする請求項1に記載のディーゼル内燃機関の排ガス浄化方法。
【請求項3】
車両に搭載され、圧縮開放型エンジンブレーキ手段と、DPFの上流側に配置された酸化触媒で酸化反応により排ガス温度を上昇して該DPFに捕捉された排ガス中の粒子状物質を酸化除去する自己再生型フィルタ装置と、を備えたディーゼル内燃機関の排ガス浄化装置において、
ピストンが圧縮上死点付近に位置する時に、少なくとも一部の気筒に前記圧縮開放型エンジンブレーキ手段を作動させてディーゼル内燃機関の負荷を増加させ、負荷の増加分に対応して他の気筒の燃料噴射量を増加させる制御装置を設け、
車両の停止中でアイドリング運転中に該制御装置により該圧縮開放型エンジンブレーキ手段を作動させ排ガス温度を高めることにより、前記自己再生型フィルタ装置における粒子状物質の酸化反応温度を確保するように構成したことを特徴とするディーゼル内燃機関の排ガス浄化装置。
【請求項4】
前記制御装置により、前記一部の気筒に前記圧縮開放型エンジンブレーキ手段を作動させると同時に、該気筒内に燃料のポスト噴射を行なうように構成したことを特徴とする請求項3に記載のディーゼル内燃機関の排ガス浄化装置。
【請求項5】
手動によりオンとすることにより前記制御装置に前記圧縮開放型エンジンブレーキ手段を作動させる作動スイッチを設けたことを特徴とする請求項3に記載のディーゼル内燃機関の排ガス浄化装置。
【請求項6】
前記圧縮開放型エンジンブレーキ手段を作動させる気筒の数を内燃機関の運転バランス又は排ガス温度の上昇効果に基づいて決定することを特徴とする請求項3に記載のディーゼル内燃機関の排ガス浄化装置。
【請求項7】
前記圧縮開放型エンジンブレーキ手段を作動させる気筒と、該圧縮開放型エンジンブレーキ手段を作動させない気筒とを交互に配置したことを特徴とする請求項3に記載のディーゼル内燃機関の排ガス浄化装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−112281(P2010−112281A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−286154(P2008−286154)
【出願日】平成20年11月7日(2008.11.7)
【出願人】(303002158)三菱ふそうトラック・バス株式会社 (1,037)
【Fターム(参考)】