ディーゼル内燃機関及びその制御装置
【課題】僅かな含水素ガス添加量で熱効率の向上やスート排出量の低減などの効果が得られるディーゼル内燃機関及びその制御装置を提供すること。
【解決手段】ディーゼルエンジン1は、気筒11に連通する複数の吸気ポート12,13と、吸気に含水素ガスを添加する水素インジェクタ33と、気筒11内に含軽油燃料を噴射する燃料インジェクタと、を備える。複数の吸気ポート12,13は、ヘリカルポートであるセカンダリ吸気ポート13とタンジェンシャルポートであるプライマリ吸気ポート12を含み、上記水素インジェクタ33は、これら吸気ポート12,13のうち、セカンダリ吸気ポート13を介して気筒11に導入される吸気にのみ含水素ガスを添加する。
【解決手段】ディーゼルエンジン1は、気筒11に連通する複数の吸気ポート12,13と、吸気に含水素ガスを添加する水素インジェクタ33と、気筒11内に含軽油燃料を噴射する燃料インジェクタと、を備える。複数の吸気ポート12,13は、ヘリカルポートであるセカンダリ吸気ポート13とタンジェンシャルポートであるプライマリ吸気ポート12を含み、上記水素インジェクタ33は、これら吸気ポート12,13のうち、セカンダリ吸気ポート13を介して気筒11に導入される吸気にのみ含水素ガスを添加する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディーゼル内燃機関及びその制御装置に関する。より詳しくは、含水素ガスが添加された吸気を気筒内に導入し、当該気筒内に含軽油燃料を噴射することで燃焼させるディーゼル内燃機関及びその制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、内燃機関の熱効率やエミッションの改善などを目的として、内燃機関の混合気や吸気中に水素を添加する水素添加燃焼の内燃機関の開発が盛んである。
例えば特許文献1には、吸気工程中と圧縮工程中に、筒内の点火プラグに向けて水素を噴射する技術が開示されている。この技術によれば、水素はガソリンよりも最小点火エネルギーが低いことから、水素濃度の高い領域を点火に利用することで混合気の着火性が向上するとともに、筒内にまんべんなく水素を分散させることで火炎伝播特性が向上する。このように、特許文献1の技術では、水素を添加することで初期燃焼及び後期燃焼を有効に作用させ、熱効率を向上し、ひいてはNOx排出量を削減している。
【0003】
また、特許文献2には、ガソリンが吸気ポートに噴射されるとガソリンの一部が吸気ポートに付着してしまい、ガソリンが遅れて筒内に吸入されることから加速時のトルク応答性が悪化するという課題に鑑み、加速時にはガソリンとは別に水素を筒内に添加することで、上記トルク応答性の改善を図る技術が開示されている。
【0004】
また、特許文献3には、吸気に水素を添加する水素添加燃焼のディーゼル内燃機関において、熱効率と吸気の水素濃度との間に相関関係(特許文献3の図8参照)があることに着目し、熱効率が高くなるように、内燃機関の状態に応じて適切な燃料の噴射時期と水素添加濃度とを決定する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−76679号公報
【特許文献2】特開2006−37888号公報
【特許文献3】特開2010−255442号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
以上のように、水素添加燃焼の内燃機関によれば、水素を添加しない場合と比較して様々な利点があることが認められている。しかしながら、従来では、水素の添加量を抑える点については十分に検討されていない。より具体的には、ディーゼル内燃機関を例にとれば、熱効率や騒音を有意に改善するためには、内燃機関の燃焼条件を最適化することによりある程度変動するものの、一般的には吸入空気量に対して8[vol%]程度の水素が必要とされている。
【0007】
従来の技術において、吸気や混合気に添加される水素は、例えば、車両に搭載した水素ボンベに貯蔵されているものを用いたり、車両上で燃料を改質したりすることで賄われるが、これら水素ボンベや燃料改質器にかかるコストや燃費などを考慮すれば、水素の添加量はできるだけ少ない方が好ましいことは言うまでもない。
【0008】
本発明は、気筒に導入される吸気に水素を添加するディーゼル内燃機関であって、僅かな含水素ガス添加量で熱効率の向上やスート排出量の低減などの効果が得られるディーゼル内燃機関及びその制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため本発明は、気筒(例えば、後述の気筒11)に連通する複数の吸気ポート(例えば、後述の2つの吸気ポート12,13)と、吸気に含水素ガスを添加する水素供給装置(例えば、後述の水素供給装置30)と、前記気筒内に含軽油燃料を噴射する燃料供給装置(例えば、後述の燃料供給装置20)と、を備えたディーゼル内燃機関(例えば、後述のディーゼル内燃機関1)であって、前記複数の吸気ポートは、ヘリカルポート(例えば、後述のセカンダリ吸気ポート13)及びタンジェンシャルポート(例えば、後述のプライマリ吸気ポート12)を含み、前記水素供給装置は、前記複数の吸気ポートのうちヘリカルポートを介して前記気筒に導入される吸気にのみ含水素ガスを添加するディーゼル内燃機関を提供する。
【0010】
本発明では、吸気に水素を添加するディーゼル内燃機関において、2つの吸気ポートを、気筒の内壁に沿ったスワールを発生させるタンジェンシャルポートと、このタンジェンシャルポートに対し比較的小さな旋回流を発生させるヘリカルポートとで構成し、このうちヘリカルポートを介して気筒内に導入される吸気にのみ含水素ガスを添加する。これにより、燃焼室内には、添加された水素を局所的に偏在させることができる。これにより、水素の濃淡に応じて段階的に着火が進行し、燃焼が緩慢になるので、従来と比較して僅かな水素添加量でも熱効率を向上し、ひいては燃費を向上することができる。また、このような緩慢燃焼を実現することにより、熱発生率のピークを低減し、内燃機関の振動や騒音を抑制することもできる。さらに、ヘリカルポートを介してのみ水素を供給することにより、多くの水素をスキッシュエリア内に導入できるので、スートの排出量も低減できる。
【0011】
この場合、前記ヘリカルポートから導入される吸気の旋回流の向きは、前記タンジェンシャルポートから導入される吸気によって気筒内に発生するスワールの向きと逆であることが好ましい。
【0012】
本発明では、タンジェンシャルポートから導入される吸気によって生じるスワールの向きに対し、ヘリカルポートから導入される吸気の旋回流の向きを逆にすることにとり、ヘリカルポートを介して供給した水素が筒内で拡散するのを抑制できるので、燃焼室内における水素の偏在度合いをさらに高くし、ひいては熱効率をさらに向上できる。
【0013】
この場合、ディーゼル内燃機関の上死点後−360〜−330[deg.ATDC]の期間内において前記水素供給装置により含水素ガスを供給させることが好ましい。
本発明によれば、熱効率を向上しながらかつスート排出量も低減できる。
【0014】
この場合、前記ディーゼル内燃機関の上死点後−360〜−180[deg.ATDC]の期間内において前記水素供給装置により含水素ガスを供給させることが好ましい。
本発明によれば、特に熱効率を向上できる。
【0015】
この場合、前記ディーゼル内燃機関の上死点後180〜300[deg.ATDC]の期間内において前記水素供給装置により含水素ガスを供給させることが好ましい。
本発明によれば、特にスートの排出量を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施形態に係るエンジンとその制御装置の構成を示す図である。
【図2】エンジンとその吸気ポート構造を示す透明斜視図である。
【図3】エンジンとその吸気ポート構造を示す透明側面図である。
【図4】吸気の流れを模式的に示す説明図である。
【図5】スワール弁の開度とスワール比との関係を示すグラフである。
【図6】ECUに構成された筒内圧制御に係るブロック図である。
【図7】水素噴射タイミングと図示平均有効圧との相関を示す図である。
【図8】水素噴射タイミングと燃焼室内における水素の分布との相関を示す図である。
【図9】水素噴射タイミングを−360,0[deg.ATDC]とした場合における、燃焼室内の水素の分布を示す図である。
【図10】水素噴射タイミングとスートの排出量との相関を示す図である。
【図11】水素噴射タイミングとスキッシュエリアにおける水素の分布との相関を示す図である。
【図12】PAHの生成量と水素濃度との相関を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[実施形態]
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照して説明する。
図1は、本実施形態に係るディーゼル内燃機関(以下、単に「エンジン」という)1と、その制御装置(以下、「ECU」という)6の構成を示す図である。なお、図1には、エンジン1の複数の気筒のうちの1つのみの構成を図示する。
【0018】
エンジン1には、気筒11内に燃料を供給する燃料供給装置20と、吸気に水素を供給する水素供給装置30とが設けられている。
【0019】
燃料供給装置20は、燃料を貯蔵する燃料タンク21と、図示しない高圧ポンプやコモンレールにより調圧された燃料タンク21内の燃料をエンジン1の気筒11内に噴射する燃料インジェクタ22と、を含んで構成される。燃料インジェクタ22は、エンジン1の気筒11ごとに設けられ、気筒11内に直接燃料を噴射する。
【0020】
ここで、燃料タンク21に貯蔵する燃料としては、軽油、又は軽油とその他の燃料との混合燃料等が用いられる。上述のその他の燃料としては、バイオ燃料や、GTL燃料等が挙げられる。軽油及びGTL燃料には、アルカン類、アルケン類、アルキン類、芳香族化合物、アルコール類、アルデヒド類、エステル類等が含まれる。また、バイオ燃料には、エタノール、脂肪酸メチルエステル、水素バイオディーゼル燃料が含まれる。
【0021】
水素供給装置30は、燃料タンク21内の燃料を改質して含水素の改質ガスを生成する燃料改質器31と、生成された改質ガスを貯蔵する蓄圧タンク32と、蓄圧タンク32内の改質ガスを吸気に噴射する水素インジェクタ33と、を含んで構成される。
【0022】
燃料改質器31は、改質触媒を備え、空気、酸素富化空気、窒素富化空気、酸素、窒素、二酸化炭素、水蒸気、及び燃焼排出ガスの雰囲気下で、燃料タンク21から供給された燃料を改質し、水素を含む改質ガスを生成する。燃料改質器31で生成された改質ガスは、図示しない圧縮機により蓄圧タンク32内に貯蔵される。ここで、改質触媒における改質反応は、例えば、水蒸気改質法、部分酸化法、炭酸ガス改質法、並びに、水蒸気改質法及び部分酸化法を組み合わせたオートサーマル法よりなる群から選ばれる1種の反応であることが好ましい。
水素インジェクタ33は、図示しないレギュレータを介して調圧された蓄圧タンク32内の改質ガスを吸気に噴射する。なお以下では、水素インジェクタ33から噴射される含水素の改質ガスを単に水素ガスという。
【0023】
図2は、エンジン1とその吸気ポート構造を示す透視斜視図である。
エンジン1には、1つの気筒11に対し、2つの吸気ポート12,13と、2つの排気ポート(図示せず)が設けられ、各ポートには一対の吸気バルブ14a,14b及び一対の排気バルブ(図示せず)が設けられている。なお、これら吸気ポート12,13及び排気ポートは、図示を省略したシリンダヘッドにより区画形成される。
【0024】
図3は、エンジン1とその吸気ポート構造を示す透明側面図である。なお、図3には、クランク角度が30[deg.ATDC]のときにおけるピストン15を一点鎖線で示す。
ピストン15が上死点に達したとき、ピストン15の中心に形成された凹部15aと気筒11の上端面11aとの間に燃焼室16が構成され、ピストン15の上面15bと気筒11の上端面11aとの間にスキッシュエリア17が構成される。
【0025】
後に図7〜12を参照して検証するように、本実施形態のような水素添加燃焼のディーゼル内燃機関では、吸気に添加され、気筒11内に導入された水素と、熱効率やスート排出量との間には、以下のような相関関係がある。
(A)燃焼室16内に水素が偏在すると、すなわち燃焼室16内における水素濃度の分布にむらがあると、熱効率が向上する。
(B)スキッシュエリア17内に水素が多く(2[vol.%]程度)存在すると、スート排出量が減少する。
以下では、このような本願出願人によって見出された効果(A)、(B)を前提とした本実施形態に係るエンジン1の吸気ポート構造について説明する。
【0026】
図2に戻って、2つの吸気ポート12,13のうち、一方の吸気ポート13に接続される吸気管には、吸気流量を制御するスワール弁が設けられている。以下では、吸気流量が制御可能な吸気ポート13をセカンダリ吸気ポートといい、他方の吸気ポート12をプライマリ吸気ポートという。また、水素インジェクタ33は、2つの吸気ポート12,13のうち、セカンダリ吸気ポート13にのみ設けられており、プライマリ吸気ポート12には設けられていない。
【0027】
図4は、気筒11の軸線方向に沿って視た図であり、吸気の流れを模式的に示す説明図である。図4に示すように、プライマリ吸気ポート12とセカンダリ吸気ポート13とは略平行に形成されている。各吸気ポート12,13の下流端は、気筒11内に臨む開口12a,13aとなっている。
【0028】
プライマリ吸気ポート12は、気筒11の軸線方向に沿って視て、その軸線3Aが、気筒11の軸心を中心として開口12aの中心を通る仮想円3Bに接するように形成されており、所謂タンジェンシャルポートとなっている。
セカンダリ吸気ポート13は、開口13aの近傍手前において、その軸線3Cに対してプライマリ吸気ポート12側の断面積が徐々に小さくなり、開口13aの近傍において螺旋形状に形成されており、所謂ヘリカルポートとなっている。
【0029】
以上のように構成された吸気ポート構造によれば、プライマリ吸気ポート12から気筒11内に導入される吸気は、開口12aの下方に摺動したバルブヘッドによって進行方向を変化させ、その一部はプライマリ吸気ポート12内の進行方向と逆方向に進むが、その大半はその慣性力によってプライマリ吸気ポート12内の進行方向と同一方向に進み、気筒11の内壁に沿って図4中時計周りのスワールSを発生させる。
一方、セカンダリ吸気ポート13から気筒11内に導入される吸気は、開口13aの近傍においてプライマリ吸気ポート13と反対側へ絞られるとともに、螺旋形状に沿って図4中反時計周りの旋回流となり、バルブヘッドによって開口13aの周方向へ広がり、プライマリ吸気ポート12によって生じるものより小径かつ逆向きのスワールを発生させる。
【0030】
図5は、スワール弁の開度とスワール比との関係を示すグラフである。なお、実線は、本実施形態、すなわち、タンジェンシャルポートであるプライマリ吸気ポートによって発生するスワールの向きと、ヘリカルポートであるセカンダリ吸気ポートによって発生するスワールの向きとが逆向きになるように吸気ポート構造を構成したもの(逆方向スワール)を示し、破線は、これらスワールの向きが同一になるように吸気ポート構造を構成したもの(順方向スワール)を示す。図5に示すように、スワール弁を開き、セカンダリ吸気ポートの吸気量を増加させると、スワール比は減少する。
【0031】
図1に戻って、ECU6には、上述の水素インジェクタ33、燃料インジェクタ22、及びスワール弁72の他、排気管19から吸気管18に還流される排気の流量を調整するEGR弁74、及び吸気管18を流通する吸気の流量を調整するスロットル弁73などの装置が接続されており、これら装置はECU6からの制御信号に基づいて作動する。また、制御装置6には、エンジン1の状態を検出するためのセンサとして、気筒11内の圧力を検出する筒内圧センサ71、図示しないクランクシャフトの回転角度を検出するクランク角度センサ75、及びスロットル弁73の開度を検出するスロットル開度センサ76が接続されている。
【0032】
図6は、ECU6に構成された筒内圧制御に係るブロック図である。図6に示す筒内圧制御に係る制御ブロックでは、エンジンの筒内圧を所定の目標値に制御するため、燃料インジェクタから噴射させる燃料の噴射量(燃料噴射量)、燃料の噴射タイミング(燃料噴射タイミング)、EGR弁の開度(EGR弁開度)、水素インジェクタから噴射させる水素ガスの噴射量(水素噴射量)、及び水素ガスの噴射タイミング(水素噴射タイミング)などのパラメータに対する指令値が決定される。燃料インジェクタ、EGR弁、及び水素インジェクタは、ここで決定された指令値に応じて駆動され、筒内圧が目標値に制御される。
【0033】
ECU6には、上記指令値を決定するため、目標トルク算出部61と、目標筒内圧算出部62と、マップ値算出部63と、補正値算出部64とが構成されている。
【0034】
目標トルク算出部61は、スロットル開度センサの出力に基づいて算出されたスロットル開度と、クランク角度センサの出力に基づいて算出されたエンジン回転数とに基づいて、エンジンの目標トルクを算出する。
目標筒内圧算出部62は、目標トルクに基づいて、エンジンの筒内圧の目標値(目標筒内圧)を算出する。
【0035】
マップ値算出部63には、最適な燃料噴射量及び燃料噴射タイミングが定められた燃料噴射マップと、最適なEGR弁開度が定められたEGRマップと、最適な水素噴射量及び水素噴射タイミングが定められた水素噴射マップとが構成されている。マップ値算出部63は、目標筒内圧、エンジン回転数、及びスロットル開度に基づいて、これらマップを検索することにより、燃料噴射量、燃料噴射タイミング、EGR弁開度、水素噴射量、水素噴射タイミングの最適な値(以下、「マップ値」という)を算出する。
【0036】
ここで、水素噴射マップについてより詳細に説明する。後に図7〜12を参照して説明するように、本実施形態に係るエンジンでは、吸気の水素濃度が4[vol.%]以上である場合に、顕著な燃費の向上及びスート排出量の低減の効果が認められる。そこで、この水素噴射マップでは、蓄圧タンクに貯蔵されている水素ガスの水素濃度を考慮した上で、吸気の水素濃度が4[vol.%]以上となるように水素噴射量を決定する。
【0037】
また、後に詳細に説明するように、燃費を優先して向上させる場合、スート排出量を優先して低減する場合、又は燃費の向上とスート排出量の低減とを両立させる場合とで、最適な水素噴射タイミングは異なる。より具体的には、例えば、エンジン回転数を1500[rpm]とし、燃料噴射量を29.8[mm3/st]とし、EGR率(新気に対する還流される排気の割合)を35[%]とし、吸気の水素濃度を4[vol.%]とした場合において、燃費を優先して向上させるためには、水素噴射タイミングを−360〜−180[deg.ATDC]の範囲内に設定することが好ましく、スート排出量を優先して低減させるためには、水素噴射タイミングを180〜300[deg.ATDC]の範囲内に設定することが好ましく、また燃費の向上とスート排出量の低減とを両立させるためには、水素噴射タイミングを180〜300[deg.ATDC]の範囲内に設定することが好ましい(後述の図7〜12参照)。
【0038】
そこでこの水素噴射マップでは、エンジン回転数、燃料噴射量、EGR率、及び吸気の水素濃度ごとに、最適な水素噴射タイミングを予め目的別に規定しておき、燃費を優先して向上する場合、スート排出量を優先して低減する場合、又は燃費の向上とスート排出量の低減とを両立する場合に応じて最適な水素噴射タイミングを決定する。
【0039】
補正値算出部64は、筒内圧センサの出力が目標筒内圧に収束するように、上記燃料噴射量、燃料噴射タイミング、EGR弁開度、水素噴射量、及び水素噴射タイミングのマップ値に対する補正値を算出する。燃料噴射量、燃料噴射タイミング、EGR弁開度、水素噴射量、及び水素噴射タイミングに対する指令値は、マップ値算出部63により算出されたマップ値に、補正値算出部64により算出された補正値を加算されることにより算出される。
【0040】
本実施形態によれば、以下の効果がある。
(1)本実施形態では、2つの吸気ポート12,13を、気筒の内壁に沿ったスワールを発生させるタンジェンシャルポートと、このタンジェンシャルポートに対し比較的小さな旋回流を発生させるヘリカルポートとで構成し、このうちヘリカルポートであるセカンダリ吸気ポート12を介して気筒11内に導入される吸気にのみ水素ガスを添加する。これにより、燃焼室16内には、添加された水素を局所的に偏在させることができる。これにより、水素の濃淡に応じて段階的に着火が進行し、燃焼が緩慢になるので、従来と比較して僅かな水素添加量でも熱効率を向上し、ひいては燃費を向上することができる。また、このような緩慢燃焼を実現することにより、熱発生率のピークを低減し、エンジンの振動や騒音を抑制することもできる。さらに、ヘリカルポートを介してのみ水素を供給することにより、多くの水素をスキッシュエリア17内に導入できるので、スートの排出量も低減できる。
【0041】
(2)本実施形態では、タンジェンシャルポートから導入される吸気によって生じるスワールの向きに対し、ヘリカルポートから導入される吸気の旋回流の向きを逆にすることにより、ヘリカルポートを介して供給した水素が筒内で拡散するのを抑制できるので、燃焼室内における水素の偏在度合いをさらに高くし、ひいては熱効率をさらに向上できる。
【0042】
(3)本実施形態によれば、水素噴射タイミングを−360〜−330[deg.ATDC]とすることにより、燃費を向上しながらかつスート排出量も低減できる。
(4)本実施形態によれば、水素噴射タイミングを−360〜−180[deg.ATDC]とすることにより、特に熱効率を向上できる。
(5)本発明によれば、水素噴射タイミングを180〜300[deg.ATDC]とすることにより、特にスート排出量を低減できる。
【0043】
なお、本発明は上述した実施形態に限るものではなく、種々の変形が可能である。
上記実施形態では、吸気に水素を添加するために、燃料改質器31により燃料を改質して含水素の改質ガスを生成し、これを水素インジェクタ33により吸気に添加した。すなわち、吸気に添加する水素を車両上で生成したが、本発明はこれに限らない。例えば、予め精製された水素ガスが貯留された水素ボンベを車両に搭載し、この水素ボンベの水素ガスを吸気に添加してもよい。
【0044】
また、上記実施形態では、逆方向スワールとなるヘリカルポートとタンジェンシャルポートとの組み合わせを例に説明したが、本発明はこれに限らず、順方向スワールを構成してもよい。逆方向スワールの方が燃焼室内に水素を偏在させるという効果は高いものの順方向スワールにしても、燃焼室内に水素を偏在させるという効果が損なわれることはない。
【0045】
また、上記実施形態では、1つの気筒当りに2つの吸気ポートを備えるエンジンを例に説明したが、吸気ポートの数はこれに限らず、3つ以上であってもよい。このように3つ以上の吸気ポートを備える場合、そのうちの少なくとも1つをヘリカルポートで構成し、このヘリカルポートに水素を添加することにより、燃焼室内に水素を偏在させることができるので、上記実施形態と同様の効果を奏する。
【0046】
[効果検証試験]
先に説明したように、上記実施形態のエンジン及びその制御装置は、上述の効果(A)、(B)を前提として構成されたものである。以下では、これら効果を検証した試験について説明する。
【0047】
以下の説明において、実施例1及び2は、上記実施形態のエンジンにおいて水素を添加したものに対応し、比較例は、上記実施形態のエンジンにおいて水素を添加しなかったものに対応する。また、実施例1は、一定期間(18[deg.]程度)でのみ水素を供給したものに対応し、実施例2は、水素を垂れ流しで供給した場合、すなわち常に一定の割合で水素を供給し続けた場合に対応する。また、水素噴射量は、実施例1,2何れも、吸気に対する水素の割合が4[vol.%]となるように調整した。
【0048】
図7は、水素の噴射タイミングと図示平均有効圧(IMEP)[kPa]との相関を示す図である。なお、図7の試験は、実施例及び比較例ともに無過給、エンジン回転数1500[rpm]、EGR率35%、燃料噴射量29.8[mm3/st]とした上、等NOxすなわちエンジンから排出されるNOx量[mg/sec]が一定値になるような条件下で行った。また、水素を添加した実施例1,2では、添加した水素の発熱量の分だけ燃料噴射量を少なくすることにより、水素と燃料のトータルの発熱量は、比較例と実施例で同じになるようにした。図7において、太実線は比較例の結果を示し、太破線は実施例2の結果を示し、複数の黒点及びこれら黒点から外挿した細実線は実施例1の結果を示す。
【0049】
図7の実施例2の結果が示すように、4[vol.%]程度の少量の水素でも、水素無添加の比較例に対し有意なIMEPの向上が認められる。したがって、これにより、上記実施形態、より具体的にはヘリカルポートのみから水素を添加することの有効性が検証された。
【0050】
また、実施例1の結果が示すように、−360〜0[deg.ATDC]の範囲内で水素を噴射した場合には、同量を一定の割合で供給し続けた場合(実施例2)と比較して、有意なIMEPの向上が認められる。特に、−360〜−180[deg.ATDC]すなわち吸気工程でのIMEPの向上が顕著である。したがって、これにより、上記実施形態、より具体的には吸気工程及び圧縮工程、とりわけ吸気工程中にヘリカルポートのみから水素を添加することの有効性が検証された。
【0051】
図8は、水素の噴射タイミングと燃焼室内における水素の分布との相関を示す図である。図8には、左側から順に、水素の噴射タイミングを−360,−210,0,270[deg.ATDC]とした例を示す。また、上段は、燃料噴射開始直後である10[deg.ATDC]における燃焼室内の分布を示し、下段は、燃料噴射終了直後である20[deg.ATDC]における燃焼室内の分布を示す。
【0052】
図7を参照して説明したように、水素噴射タイミングを−360〜−180[deg.ATDC]とした場合に、顕著なIMEPの向上が認められている。これに対し、図8に示すように、水素噴射タイミングを−360,−210[deg.ATDC]とした場合には、燃焼室内に水素濃度の薄い領域が認められるが、水素噴射タイミングを0,270[deg.ATDC]とした場合には、燃焼室内の水素濃度は概ね一定である。これにより、上述の(A)の効果、すなわち、燃焼室内に水素を偏在させることにより、熱効率を向上できるという効果が検証された。次に、図9を参照して、効果(A)に対する理論的な考察を加える。
【0053】
図9は、水素噴射タイミングを−360,0[deg.ATDC]とした場合における、燃焼室内の水素の分布を示す図である。
一般的に、水素と軽油を比較すると、自着火温度[℃]は軽油の方が低く、最小点火エネルギー[mJ]は水素の方が低く、また、最大燃焼速度[cm/s]は水素の方が速い。水素には、軽油と比較してこのような特性があることから、燃焼室内に水素が均一に分布する場合(図9中右側)には、一斉に着火が進行すると考えられるのに対し、偏在する場合(図9中左側)には、水素による着火の促進、抑制効果が不均一になり、段階的に着火が進行すると考えられる。燃焼室内に水素が偏在すると、このような時差着火が進行することから、燃焼が緩慢になり、熱損失が低下し熱効率が向上するものと考えられる。また、この緩慢燃焼が実現することにより、熱発生率が進角化するため、さらに熱効率が向上する。
【0054】
図10は、水素の噴射タイミングとスートの排出量との相関を示す図である。なお、図10の試験は、図7と同じ条件下で行われた。
図10の実施例2の結果が示すように、4[vol.%]程度の少量の水素でも、水素無添加の比較例に対し有意なスート排出量の低下が認められる。したがって、この点からも、上記実施形態、より具体的には、ヘリカルポートのみから水素を添加することの有効性が検証された。
【0055】
また、実施例1の結果が示すように、−360〜−330[deg.ATDC]、−90〜0[deg.ATDC]、180〜300[deg.ATDC]の範囲内で水素を噴射した場合には、同量を一定の割合で供給し続けた場合(実施例2)と比較して、有意なスート排出量の低下が認められる。特に、排気工程に含まれる180〜300[deg.ATDC]での効果が顕著である。したがって、これにより、上記実施形態、より具体的には、排気工程中にヘリカルポートのみから水素を添加することの有効性が検証された。
【0056】
図11は、水素の噴射タイミングとスキッシュエリアにおける水素の分布との相関を示す図である。図11には、左側から順に、水素の噴射タイミングを−360,−210,0,270[deg.ATDC]とした例を示す。また、上段は、燃料噴射開始直後である10[deg.ATDC]における燃焼室内の分布を示し、下段は、燃料噴射終了直後である20[deg.ATDC]における燃焼室内の分布を示す。
【0057】
図10を参照して説明したように、水素噴射タイミングを、−360〜−330、−90〜0、180〜300[deg.ATDC]とした場合に、スート排出量の低下が認められている。これに対し、図11に示すように、水素の噴射タイミングを−360、0、270[deg.ATDC]とした場合には、スキッシュエリア内に水素濃度の高い領域が認められるが、水素の噴射タイミングを−210[deg.ATDC]とした場合には、スキッシュエリア内の水素濃度は概ね低い。このことから、上述の(B)の効果、すなわちスキッシュエリア内に多くの水素を導入することにより、スートの排出量を低減できるという効果が検証された。また、この結果から、ヘリカルポートから燃焼室内への流入角を小さくすることにより、スキッシュエリア内への水素の導入量を増やすことができるので、スート排出量はさらに少なくなるといえる。
【0058】
次に、この効果(B)について、スートの前駆体であるPAHと水素との関係から検証した試験について説明する。
図12は、PAHの生成量と水素濃度との相関を示す図である。図12の結果は、水素共存下でのPAH生成試験を行うことで得られる。なお、図12の試験は、図7と同じ条件下で行われた。なおPAHとしては、ナフタレン、ナフトール、ナフタジエンを選定した。
【0059】
図12に示すように、水素濃度を2[vol.%]以上にすると、PAHの生成量が有意に低下する。より具体的には、水素濃度を2[vol.%]とすると、40%程度のPAH生成量が低下し、水素濃度を4[vol.%]とすると、70%程度のPAH生成量の低下が認められる。ここで、PAHはスートの前駆体であるため、PAHの生成を抑制することにより、スート排出量も低下すると考えられる。したがって、この結果からも、スキッシュエリア内に多くの水素、より具体的には2[vol.%]以上の水素が存在することにより、スート排出量が低下するという効果(B)が検証された。
【符号の説明】
【0060】
1…エンジン(ディーゼル内燃機関)
11…気筒
12…プライマリ吸気ポート(吸気ポート、タンジェンシャルポート)
13…セカンダリ吸気ポート(吸気ポート、ヘリカルポート)
20…燃料供給装置
30…水素供給装置
6…ECU(制御装置)
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディーゼル内燃機関及びその制御装置に関する。より詳しくは、含水素ガスが添加された吸気を気筒内に導入し、当該気筒内に含軽油燃料を噴射することで燃焼させるディーゼル内燃機関及びその制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、内燃機関の熱効率やエミッションの改善などを目的として、内燃機関の混合気や吸気中に水素を添加する水素添加燃焼の内燃機関の開発が盛んである。
例えば特許文献1には、吸気工程中と圧縮工程中に、筒内の点火プラグに向けて水素を噴射する技術が開示されている。この技術によれば、水素はガソリンよりも最小点火エネルギーが低いことから、水素濃度の高い領域を点火に利用することで混合気の着火性が向上するとともに、筒内にまんべんなく水素を分散させることで火炎伝播特性が向上する。このように、特許文献1の技術では、水素を添加することで初期燃焼及び後期燃焼を有効に作用させ、熱効率を向上し、ひいてはNOx排出量を削減している。
【0003】
また、特許文献2には、ガソリンが吸気ポートに噴射されるとガソリンの一部が吸気ポートに付着してしまい、ガソリンが遅れて筒内に吸入されることから加速時のトルク応答性が悪化するという課題に鑑み、加速時にはガソリンとは別に水素を筒内に添加することで、上記トルク応答性の改善を図る技術が開示されている。
【0004】
また、特許文献3には、吸気に水素を添加する水素添加燃焼のディーゼル内燃機関において、熱効率と吸気の水素濃度との間に相関関係(特許文献3の図8参照)があることに着目し、熱効率が高くなるように、内燃機関の状態に応じて適切な燃料の噴射時期と水素添加濃度とを決定する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−76679号公報
【特許文献2】特開2006−37888号公報
【特許文献3】特開2010−255442号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
以上のように、水素添加燃焼の内燃機関によれば、水素を添加しない場合と比較して様々な利点があることが認められている。しかしながら、従来では、水素の添加量を抑える点については十分に検討されていない。より具体的には、ディーゼル内燃機関を例にとれば、熱効率や騒音を有意に改善するためには、内燃機関の燃焼条件を最適化することによりある程度変動するものの、一般的には吸入空気量に対して8[vol%]程度の水素が必要とされている。
【0007】
従来の技術において、吸気や混合気に添加される水素は、例えば、車両に搭載した水素ボンベに貯蔵されているものを用いたり、車両上で燃料を改質したりすることで賄われるが、これら水素ボンベや燃料改質器にかかるコストや燃費などを考慮すれば、水素の添加量はできるだけ少ない方が好ましいことは言うまでもない。
【0008】
本発明は、気筒に導入される吸気に水素を添加するディーゼル内燃機関であって、僅かな含水素ガス添加量で熱効率の向上やスート排出量の低減などの効果が得られるディーゼル内燃機関及びその制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため本発明は、気筒(例えば、後述の気筒11)に連通する複数の吸気ポート(例えば、後述の2つの吸気ポート12,13)と、吸気に含水素ガスを添加する水素供給装置(例えば、後述の水素供給装置30)と、前記気筒内に含軽油燃料を噴射する燃料供給装置(例えば、後述の燃料供給装置20)と、を備えたディーゼル内燃機関(例えば、後述のディーゼル内燃機関1)であって、前記複数の吸気ポートは、ヘリカルポート(例えば、後述のセカンダリ吸気ポート13)及びタンジェンシャルポート(例えば、後述のプライマリ吸気ポート12)を含み、前記水素供給装置は、前記複数の吸気ポートのうちヘリカルポートを介して前記気筒に導入される吸気にのみ含水素ガスを添加するディーゼル内燃機関を提供する。
【0010】
本発明では、吸気に水素を添加するディーゼル内燃機関において、2つの吸気ポートを、気筒の内壁に沿ったスワールを発生させるタンジェンシャルポートと、このタンジェンシャルポートに対し比較的小さな旋回流を発生させるヘリカルポートとで構成し、このうちヘリカルポートを介して気筒内に導入される吸気にのみ含水素ガスを添加する。これにより、燃焼室内には、添加された水素を局所的に偏在させることができる。これにより、水素の濃淡に応じて段階的に着火が進行し、燃焼が緩慢になるので、従来と比較して僅かな水素添加量でも熱効率を向上し、ひいては燃費を向上することができる。また、このような緩慢燃焼を実現することにより、熱発生率のピークを低減し、内燃機関の振動や騒音を抑制することもできる。さらに、ヘリカルポートを介してのみ水素を供給することにより、多くの水素をスキッシュエリア内に導入できるので、スートの排出量も低減できる。
【0011】
この場合、前記ヘリカルポートから導入される吸気の旋回流の向きは、前記タンジェンシャルポートから導入される吸気によって気筒内に発生するスワールの向きと逆であることが好ましい。
【0012】
本発明では、タンジェンシャルポートから導入される吸気によって生じるスワールの向きに対し、ヘリカルポートから導入される吸気の旋回流の向きを逆にすることにとり、ヘリカルポートを介して供給した水素が筒内で拡散するのを抑制できるので、燃焼室内における水素の偏在度合いをさらに高くし、ひいては熱効率をさらに向上できる。
【0013】
この場合、ディーゼル内燃機関の上死点後−360〜−330[deg.ATDC]の期間内において前記水素供給装置により含水素ガスを供給させることが好ましい。
本発明によれば、熱効率を向上しながらかつスート排出量も低減できる。
【0014】
この場合、前記ディーゼル内燃機関の上死点後−360〜−180[deg.ATDC]の期間内において前記水素供給装置により含水素ガスを供給させることが好ましい。
本発明によれば、特に熱効率を向上できる。
【0015】
この場合、前記ディーゼル内燃機関の上死点後180〜300[deg.ATDC]の期間内において前記水素供給装置により含水素ガスを供給させることが好ましい。
本発明によれば、特にスートの排出量を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施形態に係るエンジンとその制御装置の構成を示す図である。
【図2】エンジンとその吸気ポート構造を示す透明斜視図である。
【図3】エンジンとその吸気ポート構造を示す透明側面図である。
【図4】吸気の流れを模式的に示す説明図である。
【図5】スワール弁の開度とスワール比との関係を示すグラフである。
【図6】ECUに構成された筒内圧制御に係るブロック図である。
【図7】水素噴射タイミングと図示平均有効圧との相関を示す図である。
【図8】水素噴射タイミングと燃焼室内における水素の分布との相関を示す図である。
【図9】水素噴射タイミングを−360,0[deg.ATDC]とした場合における、燃焼室内の水素の分布を示す図である。
【図10】水素噴射タイミングとスートの排出量との相関を示す図である。
【図11】水素噴射タイミングとスキッシュエリアにおける水素の分布との相関を示す図である。
【図12】PAHの生成量と水素濃度との相関を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[実施形態]
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照して説明する。
図1は、本実施形態に係るディーゼル内燃機関(以下、単に「エンジン」という)1と、その制御装置(以下、「ECU」という)6の構成を示す図である。なお、図1には、エンジン1の複数の気筒のうちの1つのみの構成を図示する。
【0018】
エンジン1には、気筒11内に燃料を供給する燃料供給装置20と、吸気に水素を供給する水素供給装置30とが設けられている。
【0019】
燃料供給装置20は、燃料を貯蔵する燃料タンク21と、図示しない高圧ポンプやコモンレールにより調圧された燃料タンク21内の燃料をエンジン1の気筒11内に噴射する燃料インジェクタ22と、を含んで構成される。燃料インジェクタ22は、エンジン1の気筒11ごとに設けられ、気筒11内に直接燃料を噴射する。
【0020】
ここで、燃料タンク21に貯蔵する燃料としては、軽油、又は軽油とその他の燃料との混合燃料等が用いられる。上述のその他の燃料としては、バイオ燃料や、GTL燃料等が挙げられる。軽油及びGTL燃料には、アルカン類、アルケン類、アルキン類、芳香族化合物、アルコール類、アルデヒド類、エステル類等が含まれる。また、バイオ燃料には、エタノール、脂肪酸メチルエステル、水素バイオディーゼル燃料が含まれる。
【0021】
水素供給装置30は、燃料タンク21内の燃料を改質して含水素の改質ガスを生成する燃料改質器31と、生成された改質ガスを貯蔵する蓄圧タンク32と、蓄圧タンク32内の改質ガスを吸気に噴射する水素インジェクタ33と、を含んで構成される。
【0022】
燃料改質器31は、改質触媒を備え、空気、酸素富化空気、窒素富化空気、酸素、窒素、二酸化炭素、水蒸気、及び燃焼排出ガスの雰囲気下で、燃料タンク21から供給された燃料を改質し、水素を含む改質ガスを生成する。燃料改質器31で生成された改質ガスは、図示しない圧縮機により蓄圧タンク32内に貯蔵される。ここで、改質触媒における改質反応は、例えば、水蒸気改質法、部分酸化法、炭酸ガス改質法、並びに、水蒸気改質法及び部分酸化法を組み合わせたオートサーマル法よりなる群から選ばれる1種の反応であることが好ましい。
水素インジェクタ33は、図示しないレギュレータを介して調圧された蓄圧タンク32内の改質ガスを吸気に噴射する。なお以下では、水素インジェクタ33から噴射される含水素の改質ガスを単に水素ガスという。
【0023】
図2は、エンジン1とその吸気ポート構造を示す透視斜視図である。
エンジン1には、1つの気筒11に対し、2つの吸気ポート12,13と、2つの排気ポート(図示せず)が設けられ、各ポートには一対の吸気バルブ14a,14b及び一対の排気バルブ(図示せず)が設けられている。なお、これら吸気ポート12,13及び排気ポートは、図示を省略したシリンダヘッドにより区画形成される。
【0024】
図3は、エンジン1とその吸気ポート構造を示す透明側面図である。なお、図3には、クランク角度が30[deg.ATDC]のときにおけるピストン15を一点鎖線で示す。
ピストン15が上死点に達したとき、ピストン15の中心に形成された凹部15aと気筒11の上端面11aとの間に燃焼室16が構成され、ピストン15の上面15bと気筒11の上端面11aとの間にスキッシュエリア17が構成される。
【0025】
後に図7〜12を参照して検証するように、本実施形態のような水素添加燃焼のディーゼル内燃機関では、吸気に添加され、気筒11内に導入された水素と、熱効率やスート排出量との間には、以下のような相関関係がある。
(A)燃焼室16内に水素が偏在すると、すなわち燃焼室16内における水素濃度の分布にむらがあると、熱効率が向上する。
(B)スキッシュエリア17内に水素が多く(2[vol.%]程度)存在すると、スート排出量が減少する。
以下では、このような本願出願人によって見出された効果(A)、(B)を前提とした本実施形態に係るエンジン1の吸気ポート構造について説明する。
【0026】
図2に戻って、2つの吸気ポート12,13のうち、一方の吸気ポート13に接続される吸気管には、吸気流量を制御するスワール弁が設けられている。以下では、吸気流量が制御可能な吸気ポート13をセカンダリ吸気ポートといい、他方の吸気ポート12をプライマリ吸気ポートという。また、水素インジェクタ33は、2つの吸気ポート12,13のうち、セカンダリ吸気ポート13にのみ設けられており、プライマリ吸気ポート12には設けられていない。
【0027】
図4は、気筒11の軸線方向に沿って視た図であり、吸気の流れを模式的に示す説明図である。図4に示すように、プライマリ吸気ポート12とセカンダリ吸気ポート13とは略平行に形成されている。各吸気ポート12,13の下流端は、気筒11内に臨む開口12a,13aとなっている。
【0028】
プライマリ吸気ポート12は、気筒11の軸線方向に沿って視て、その軸線3Aが、気筒11の軸心を中心として開口12aの中心を通る仮想円3Bに接するように形成されており、所謂タンジェンシャルポートとなっている。
セカンダリ吸気ポート13は、開口13aの近傍手前において、その軸線3Cに対してプライマリ吸気ポート12側の断面積が徐々に小さくなり、開口13aの近傍において螺旋形状に形成されており、所謂ヘリカルポートとなっている。
【0029】
以上のように構成された吸気ポート構造によれば、プライマリ吸気ポート12から気筒11内に導入される吸気は、開口12aの下方に摺動したバルブヘッドによって進行方向を変化させ、その一部はプライマリ吸気ポート12内の進行方向と逆方向に進むが、その大半はその慣性力によってプライマリ吸気ポート12内の進行方向と同一方向に進み、気筒11の内壁に沿って図4中時計周りのスワールSを発生させる。
一方、セカンダリ吸気ポート13から気筒11内に導入される吸気は、開口13aの近傍においてプライマリ吸気ポート13と反対側へ絞られるとともに、螺旋形状に沿って図4中反時計周りの旋回流となり、バルブヘッドによって開口13aの周方向へ広がり、プライマリ吸気ポート12によって生じるものより小径かつ逆向きのスワールを発生させる。
【0030】
図5は、スワール弁の開度とスワール比との関係を示すグラフである。なお、実線は、本実施形態、すなわち、タンジェンシャルポートであるプライマリ吸気ポートによって発生するスワールの向きと、ヘリカルポートであるセカンダリ吸気ポートによって発生するスワールの向きとが逆向きになるように吸気ポート構造を構成したもの(逆方向スワール)を示し、破線は、これらスワールの向きが同一になるように吸気ポート構造を構成したもの(順方向スワール)を示す。図5に示すように、スワール弁を開き、セカンダリ吸気ポートの吸気量を増加させると、スワール比は減少する。
【0031】
図1に戻って、ECU6には、上述の水素インジェクタ33、燃料インジェクタ22、及びスワール弁72の他、排気管19から吸気管18に還流される排気の流量を調整するEGR弁74、及び吸気管18を流通する吸気の流量を調整するスロットル弁73などの装置が接続されており、これら装置はECU6からの制御信号に基づいて作動する。また、制御装置6には、エンジン1の状態を検出するためのセンサとして、気筒11内の圧力を検出する筒内圧センサ71、図示しないクランクシャフトの回転角度を検出するクランク角度センサ75、及びスロットル弁73の開度を検出するスロットル開度センサ76が接続されている。
【0032】
図6は、ECU6に構成された筒内圧制御に係るブロック図である。図6に示す筒内圧制御に係る制御ブロックでは、エンジンの筒内圧を所定の目標値に制御するため、燃料インジェクタから噴射させる燃料の噴射量(燃料噴射量)、燃料の噴射タイミング(燃料噴射タイミング)、EGR弁の開度(EGR弁開度)、水素インジェクタから噴射させる水素ガスの噴射量(水素噴射量)、及び水素ガスの噴射タイミング(水素噴射タイミング)などのパラメータに対する指令値が決定される。燃料インジェクタ、EGR弁、及び水素インジェクタは、ここで決定された指令値に応じて駆動され、筒内圧が目標値に制御される。
【0033】
ECU6には、上記指令値を決定するため、目標トルク算出部61と、目標筒内圧算出部62と、マップ値算出部63と、補正値算出部64とが構成されている。
【0034】
目標トルク算出部61は、スロットル開度センサの出力に基づいて算出されたスロットル開度と、クランク角度センサの出力に基づいて算出されたエンジン回転数とに基づいて、エンジンの目標トルクを算出する。
目標筒内圧算出部62は、目標トルクに基づいて、エンジンの筒内圧の目標値(目標筒内圧)を算出する。
【0035】
マップ値算出部63には、最適な燃料噴射量及び燃料噴射タイミングが定められた燃料噴射マップと、最適なEGR弁開度が定められたEGRマップと、最適な水素噴射量及び水素噴射タイミングが定められた水素噴射マップとが構成されている。マップ値算出部63は、目標筒内圧、エンジン回転数、及びスロットル開度に基づいて、これらマップを検索することにより、燃料噴射量、燃料噴射タイミング、EGR弁開度、水素噴射量、水素噴射タイミングの最適な値(以下、「マップ値」という)を算出する。
【0036】
ここで、水素噴射マップについてより詳細に説明する。後に図7〜12を参照して説明するように、本実施形態に係るエンジンでは、吸気の水素濃度が4[vol.%]以上である場合に、顕著な燃費の向上及びスート排出量の低減の効果が認められる。そこで、この水素噴射マップでは、蓄圧タンクに貯蔵されている水素ガスの水素濃度を考慮した上で、吸気の水素濃度が4[vol.%]以上となるように水素噴射量を決定する。
【0037】
また、後に詳細に説明するように、燃費を優先して向上させる場合、スート排出量を優先して低減する場合、又は燃費の向上とスート排出量の低減とを両立させる場合とで、最適な水素噴射タイミングは異なる。より具体的には、例えば、エンジン回転数を1500[rpm]とし、燃料噴射量を29.8[mm3/st]とし、EGR率(新気に対する還流される排気の割合)を35[%]とし、吸気の水素濃度を4[vol.%]とした場合において、燃費を優先して向上させるためには、水素噴射タイミングを−360〜−180[deg.ATDC]の範囲内に設定することが好ましく、スート排出量を優先して低減させるためには、水素噴射タイミングを180〜300[deg.ATDC]の範囲内に設定することが好ましく、また燃費の向上とスート排出量の低減とを両立させるためには、水素噴射タイミングを180〜300[deg.ATDC]の範囲内に設定することが好ましい(後述の図7〜12参照)。
【0038】
そこでこの水素噴射マップでは、エンジン回転数、燃料噴射量、EGR率、及び吸気の水素濃度ごとに、最適な水素噴射タイミングを予め目的別に規定しておき、燃費を優先して向上する場合、スート排出量を優先して低減する場合、又は燃費の向上とスート排出量の低減とを両立する場合に応じて最適な水素噴射タイミングを決定する。
【0039】
補正値算出部64は、筒内圧センサの出力が目標筒内圧に収束するように、上記燃料噴射量、燃料噴射タイミング、EGR弁開度、水素噴射量、及び水素噴射タイミングのマップ値に対する補正値を算出する。燃料噴射量、燃料噴射タイミング、EGR弁開度、水素噴射量、及び水素噴射タイミングに対する指令値は、マップ値算出部63により算出されたマップ値に、補正値算出部64により算出された補正値を加算されることにより算出される。
【0040】
本実施形態によれば、以下の効果がある。
(1)本実施形態では、2つの吸気ポート12,13を、気筒の内壁に沿ったスワールを発生させるタンジェンシャルポートと、このタンジェンシャルポートに対し比較的小さな旋回流を発生させるヘリカルポートとで構成し、このうちヘリカルポートであるセカンダリ吸気ポート12を介して気筒11内に導入される吸気にのみ水素ガスを添加する。これにより、燃焼室16内には、添加された水素を局所的に偏在させることができる。これにより、水素の濃淡に応じて段階的に着火が進行し、燃焼が緩慢になるので、従来と比較して僅かな水素添加量でも熱効率を向上し、ひいては燃費を向上することができる。また、このような緩慢燃焼を実現することにより、熱発生率のピークを低減し、エンジンの振動や騒音を抑制することもできる。さらに、ヘリカルポートを介してのみ水素を供給することにより、多くの水素をスキッシュエリア17内に導入できるので、スートの排出量も低減できる。
【0041】
(2)本実施形態では、タンジェンシャルポートから導入される吸気によって生じるスワールの向きに対し、ヘリカルポートから導入される吸気の旋回流の向きを逆にすることにより、ヘリカルポートを介して供給した水素が筒内で拡散するのを抑制できるので、燃焼室内における水素の偏在度合いをさらに高くし、ひいては熱効率をさらに向上できる。
【0042】
(3)本実施形態によれば、水素噴射タイミングを−360〜−330[deg.ATDC]とすることにより、燃費を向上しながらかつスート排出量も低減できる。
(4)本実施形態によれば、水素噴射タイミングを−360〜−180[deg.ATDC]とすることにより、特に熱効率を向上できる。
(5)本発明によれば、水素噴射タイミングを180〜300[deg.ATDC]とすることにより、特にスート排出量を低減できる。
【0043】
なお、本発明は上述した実施形態に限るものではなく、種々の変形が可能である。
上記実施形態では、吸気に水素を添加するために、燃料改質器31により燃料を改質して含水素の改質ガスを生成し、これを水素インジェクタ33により吸気に添加した。すなわち、吸気に添加する水素を車両上で生成したが、本発明はこれに限らない。例えば、予め精製された水素ガスが貯留された水素ボンベを車両に搭載し、この水素ボンベの水素ガスを吸気に添加してもよい。
【0044】
また、上記実施形態では、逆方向スワールとなるヘリカルポートとタンジェンシャルポートとの組み合わせを例に説明したが、本発明はこれに限らず、順方向スワールを構成してもよい。逆方向スワールの方が燃焼室内に水素を偏在させるという効果は高いものの順方向スワールにしても、燃焼室内に水素を偏在させるという効果が損なわれることはない。
【0045】
また、上記実施形態では、1つの気筒当りに2つの吸気ポートを備えるエンジンを例に説明したが、吸気ポートの数はこれに限らず、3つ以上であってもよい。このように3つ以上の吸気ポートを備える場合、そのうちの少なくとも1つをヘリカルポートで構成し、このヘリカルポートに水素を添加することにより、燃焼室内に水素を偏在させることができるので、上記実施形態と同様の効果を奏する。
【0046】
[効果検証試験]
先に説明したように、上記実施形態のエンジン及びその制御装置は、上述の効果(A)、(B)を前提として構成されたものである。以下では、これら効果を検証した試験について説明する。
【0047】
以下の説明において、実施例1及び2は、上記実施形態のエンジンにおいて水素を添加したものに対応し、比較例は、上記実施形態のエンジンにおいて水素を添加しなかったものに対応する。また、実施例1は、一定期間(18[deg.]程度)でのみ水素を供給したものに対応し、実施例2は、水素を垂れ流しで供給した場合、すなわち常に一定の割合で水素を供給し続けた場合に対応する。また、水素噴射量は、実施例1,2何れも、吸気に対する水素の割合が4[vol.%]となるように調整した。
【0048】
図7は、水素の噴射タイミングと図示平均有効圧(IMEP)[kPa]との相関を示す図である。なお、図7の試験は、実施例及び比較例ともに無過給、エンジン回転数1500[rpm]、EGR率35%、燃料噴射量29.8[mm3/st]とした上、等NOxすなわちエンジンから排出されるNOx量[mg/sec]が一定値になるような条件下で行った。また、水素を添加した実施例1,2では、添加した水素の発熱量の分だけ燃料噴射量を少なくすることにより、水素と燃料のトータルの発熱量は、比較例と実施例で同じになるようにした。図7において、太実線は比較例の結果を示し、太破線は実施例2の結果を示し、複数の黒点及びこれら黒点から外挿した細実線は実施例1の結果を示す。
【0049】
図7の実施例2の結果が示すように、4[vol.%]程度の少量の水素でも、水素無添加の比較例に対し有意なIMEPの向上が認められる。したがって、これにより、上記実施形態、より具体的にはヘリカルポートのみから水素を添加することの有効性が検証された。
【0050】
また、実施例1の結果が示すように、−360〜0[deg.ATDC]の範囲内で水素を噴射した場合には、同量を一定の割合で供給し続けた場合(実施例2)と比較して、有意なIMEPの向上が認められる。特に、−360〜−180[deg.ATDC]すなわち吸気工程でのIMEPの向上が顕著である。したがって、これにより、上記実施形態、より具体的には吸気工程及び圧縮工程、とりわけ吸気工程中にヘリカルポートのみから水素を添加することの有効性が検証された。
【0051】
図8は、水素の噴射タイミングと燃焼室内における水素の分布との相関を示す図である。図8には、左側から順に、水素の噴射タイミングを−360,−210,0,270[deg.ATDC]とした例を示す。また、上段は、燃料噴射開始直後である10[deg.ATDC]における燃焼室内の分布を示し、下段は、燃料噴射終了直後である20[deg.ATDC]における燃焼室内の分布を示す。
【0052】
図7を参照して説明したように、水素噴射タイミングを−360〜−180[deg.ATDC]とした場合に、顕著なIMEPの向上が認められている。これに対し、図8に示すように、水素噴射タイミングを−360,−210[deg.ATDC]とした場合には、燃焼室内に水素濃度の薄い領域が認められるが、水素噴射タイミングを0,270[deg.ATDC]とした場合には、燃焼室内の水素濃度は概ね一定である。これにより、上述の(A)の効果、すなわち、燃焼室内に水素を偏在させることにより、熱効率を向上できるという効果が検証された。次に、図9を参照して、効果(A)に対する理論的な考察を加える。
【0053】
図9は、水素噴射タイミングを−360,0[deg.ATDC]とした場合における、燃焼室内の水素の分布を示す図である。
一般的に、水素と軽油を比較すると、自着火温度[℃]は軽油の方が低く、最小点火エネルギー[mJ]は水素の方が低く、また、最大燃焼速度[cm/s]は水素の方が速い。水素には、軽油と比較してこのような特性があることから、燃焼室内に水素が均一に分布する場合(図9中右側)には、一斉に着火が進行すると考えられるのに対し、偏在する場合(図9中左側)には、水素による着火の促進、抑制効果が不均一になり、段階的に着火が進行すると考えられる。燃焼室内に水素が偏在すると、このような時差着火が進行することから、燃焼が緩慢になり、熱損失が低下し熱効率が向上するものと考えられる。また、この緩慢燃焼が実現することにより、熱発生率が進角化するため、さらに熱効率が向上する。
【0054】
図10は、水素の噴射タイミングとスートの排出量との相関を示す図である。なお、図10の試験は、図7と同じ条件下で行われた。
図10の実施例2の結果が示すように、4[vol.%]程度の少量の水素でも、水素無添加の比較例に対し有意なスート排出量の低下が認められる。したがって、この点からも、上記実施形態、より具体的には、ヘリカルポートのみから水素を添加することの有効性が検証された。
【0055】
また、実施例1の結果が示すように、−360〜−330[deg.ATDC]、−90〜0[deg.ATDC]、180〜300[deg.ATDC]の範囲内で水素を噴射した場合には、同量を一定の割合で供給し続けた場合(実施例2)と比較して、有意なスート排出量の低下が認められる。特に、排気工程に含まれる180〜300[deg.ATDC]での効果が顕著である。したがって、これにより、上記実施形態、より具体的には、排気工程中にヘリカルポートのみから水素を添加することの有効性が検証された。
【0056】
図11は、水素の噴射タイミングとスキッシュエリアにおける水素の分布との相関を示す図である。図11には、左側から順に、水素の噴射タイミングを−360,−210,0,270[deg.ATDC]とした例を示す。また、上段は、燃料噴射開始直後である10[deg.ATDC]における燃焼室内の分布を示し、下段は、燃料噴射終了直後である20[deg.ATDC]における燃焼室内の分布を示す。
【0057】
図10を参照して説明したように、水素噴射タイミングを、−360〜−330、−90〜0、180〜300[deg.ATDC]とした場合に、スート排出量の低下が認められている。これに対し、図11に示すように、水素の噴射タイミングを−360、0、270[deg.ATDC]とした場合には、スキッシュエリア内に水素濃度の高い領域が認められるが、水素の噴射タイミングを−210[deg.ATDC]とした場合には、スキッシュエリア内の水素濃度は概ね低い。このことから、上述の(B)の効果、すなわちスキッシュエリア内に多くの水素を導入することにより、スートの排出量を低減できるという効果が検証された。また、この結果から、ヘリカルポートから燃焼室内への流入角を小さくすることにより、スキッシュエリア内への水素の導入量を増やすことができるので、スート排出量はさらに少なくなるといえる。
【0058】
次に、この効果(B)について、スートの前駆体であるPAHと水素との関係から検証した試験について説明する。
図12は、PAHの生成量と水素濃度との相関を示す図である。図12の結果は、水素共存下でのPAH生成試験を行うことで得られる。なお、図12の試験は、図7と同じ条件下で行われた。なおPAHとしては、ナフタレン、ナフトール、ナフタジエンを選定した。
【0059】
図12に示すように、水素濃度を2[vol.%]以上にすると、PAHの生成量が有意に低下する。より具体的には、水素濃度を2[vol.%]とすると、40%程度のPAH生成量が低下し、水素濃度を4[vol.%]とすると、70%程度のPAH生成量の低下が認められる。ここで、PAHはスートの前駆体であるため、PAHの生成を抑制することにより、スート排出量も低下すると考えられる。したがって、この結果からも、スキッシュエリア内に多くの水素、より具体的には2[vol.%]以上の水素が存在することにより、スート排出量が低下するという効果(B)が検証された。
【符号の説明】
【0060】
1…エンジン(ディーゼル内燃機関)
11…気筒
12…プライマリ吸気ポート(吸気ポート、タンジェンシャルポート)
13…セカンダリ吸気ポート(吸気ポート、ヘリカルポート)
20…燃料供給装置
30…水素供給装置
6…ECU(制御装置)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
気筒に連通する複数の吸気ポートと、
吸気に含水素ガスを添加する水素供給装置と、
前記気筒内に含軽油燃料を噴射する燃料供給装置と、を備えたディーゼル内燃機関であって、
前記複数の吸気ポートは、ヘリカルポート及びタンジェンシャルポートを含み、
前記水素供給装置は、前記複数の吸気ポートのうちヘリカルポートを介して前記気筒に導入される吸気にのみ含水素ガスを添加することを特徴とするディーゼル内燃機関。
【請求項2】
前記ヘリカルポートから導入される吸気の旋回流の向きは、前記タンジェンシャルポートから導入される吸気によって気筒内に発生するスワールの向きと逆であることを特徴とする請求項1に記載のディーゼル内燃機関。
【請求項3】
前記ディーゼル内燃機関の上死点後−360〜−330[deg.ATDC]の期間内において前記水素供給装置により含水素ガスを供給させることを特徴とする請求項1又は2に記載のディーゼル内燃機関の制御装置。
【請求項4】
前記ディーゼル内燃機関の上死点後−360〜−180[deg.ATDC]の期間内において前記水素供給装置により含水素ガスを供給させることを特徴とする請求項1又は2に記載のディーゼル内燃機関の制御装置。
【請求項5】
前記ディーゼル内燃機関の上死点後180〜300[deg.ATDC]の期間内において前記水素供給装置により含水素ガスを供給させることを特徴とする請求項1又は2に記載のディーゼル内燃機関の制御装置。
【請求項1】
気筒に連通する複数の吸気ポートと、
吸気に含水素ガスを添加する水素供給装置と、
前記気筒内に含軽油燃料を噴射する燃料供給装置と、を備えたディーゼル内燃機関であって、
前記複数の吸気ポートは、ヘリカルポート及びタンジェンシャルポートを含み、
前記水素供給装置は、前記複数の吸気ポートのうちヘリカルポートを介して前記気筒に導入される吸気にのみ含水素ガスを添加することを特徴とするディーゼル内燃機関。
【請求項2】
前記ヘリカルポートから導入される吸気の旋回流の向きは、前記タンジェンシャルポートから導入される吸気によって気筒内に発生するスワールの向きと逆であることを特徴とする請求項1に記載のディーゼル内燃機関。
【請求項3】
前記ディーゼル内燃機関の上死点後−360〜−330[deg.ATDC]の期間内において前記水素供給装置により含水素ガスを供給させることを特徴とする請求項1又は2に記載のディーゼル内燃機関の制御装置。
【請求項4】
前記ディーゼル内燃機関の上死点後−360〜−180[deg.ATDC]の期間内において前記水素供給装置により含水素ガスを供給させることを特徴とする請求項1又は2に記載のディーゼル内燃機関の制御装置。
【請求項5】
前記ディーゼル内燃機関の上死点後180〜300[deg.ATDC]の期間内において前記水素供給装置により含水素ガスを供給させることを特徴とする請求項1又は2に記載のディーゼル内燃機関の制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2013−83193(P2013−83193A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−223321(P2011−223321)
【出願日】平成23年10月7日(2011.10.7)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年10月7日(2011.10.7)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
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