説明

ディーゼル排出物質を減少させるための方法

【課題】 本発明は、ディーゼルエンジン排気物質を減少させるために、デュアルインジェクタを用いる方法を提供する。
【解決手段】 エンジン負荷が第1の閾値以下である場合に、ディーゼルエンジンの排気ガス流に第1のインジェクタから第1の試薬を第1の噴射周波数で噴射する工程と、エンジン負荷が第1の閾値を超えた場合に、第1のインジェクタの噴射周波数を第2の噴射周波数に上昇させる工程と、エンジン負荷が第2の閾値を超えた場合に、第2のインジェクタからの排気ガス流への第2の試薬の噴射を開始する工程と、エンジン負荷が第2の閾値を超えている場合に、第2のインジェクタから第2の試薬を第2の噴射周波数で噴射し、第1のインジェクタから第1の試薬を第2の噴射周波数で噴射する工程と、を含む方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全体としてディーゼルエンジンからの排出物質の削減に関する。特に、本発明は、ディーゼルエンジン排気ガスから窒素酸化物(NOx)を減少させるために、尿素水溶液又はディーゼル燃料等の炭化水素等の流体を排気ガス流に噴射するための方法を提供する。より詳細には、本発明は、ディーゼル排出物質を減少させるためのデュアルインジェクタを用いる方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
通常、後処理装置によってディーゼルエンジン排出物質を減少させる場合には、粒子状物質の制御のためのディーゼルパティキュレートフィルタ及びNOxを減少させるためのリーンNOxトラップ(LNT)又は選択的触媒還元(SCR)等の技術を使用する。ディーゼル燃料等の炭化水素(HC)系試薬をディーゼルエンジン排気ガスに噴射し、ディーゼルパティキュレートフィルタ(DPF)にたまった煤を燃焼させてフィルタを再生したり、NOとして蓄積されたNOxの化学的還元のためにLNTを燃料リッチ状態とすることができる。通常、バナジウム、貴金属又はゼオライト触媒を使用してNOxを無害な窒素ガスに化学的に変換するために尿素又はアンモニア水溶液等の試薬が使用される。このような装置は、エンジン作動条件及び後処理条件に応じた広範な試薬流量における排気ガスへの試薬の噴射の精密な制御に依存する。また、2リッター未満(乗用車)から16リッター(大型トラック)という様々なエンジン排気量に対応して異なる量の試薬を排気ガスに噴射しなければならないため、異なる大きさのインジェクタ及び各用途のための異なる設計が必要となり、製造、在庫、サービスコストが上昇する。
【0003】
エンジンECUから回転数(rpm)、負荷、排気ガス温度又は背圧等に関するエンジン信号を受信し、ディーゼルエンジンの排気管の1以上の位置において別々又は同時にHC又は尿素を噴射する1以上のインジェクタに試薬を供給する1以上のポンプを制御することができるコントローラを備えた簡素な装置を提供することが有利である。
【0004】
温度や圧力等のパラメータに基づいて試薬を噴射するためのコントローラを含む装置が知られている。Peter−Hoblynらに付与された米国特許第6,361,754号公報(特許文献1。以下、「Peter−Hoblyn特許」という)は、排出物質を減少させるための装置であって、試薬噴射ポート又はノズルの流量又はパルスを変調するためのコントローラを含む装置を開示している。しかしながら、Peter−Hoblyn特許に開示された装置は2種類の異なる試薬を噴射することはできず、上流のプロセスにおいて尿素水溶液の加水分解によって生成された気体状アンモニアを噴射するだけである。
【0005】
Blakemanらに付与された米国特許第7,264,785号公報(特許文献2。以下、「Blakeman特許」という)は、排気ガス流における複数の位置で窒素含有還元剤であるアンモニアを噴射するための手段を含む選択的触媒還元装置を開示している。Blakeman特許は、アンモニアの噴射を制御するための手段も開示している。しかしながら、Blakeman特許に開示された装置は、所与の時点において1個所で1種類の還元剤のみを排気ガス流に噴射するものである。特に、Blakeman特許に開示された装置は、排気ガス流の第1の領域でアンモニアを噴射し、特定の温度に達した時に第2の領域に移行する。また、Blakeman特許に開示された装置は気体状アンモニアを使用しており、加水分解触媒を使用した尿素から気体状アンモニアへの複雑な触媒転換を必要とする。さらに、Blakeman特許は、エンジンをオフにした時に尿素を噴射し、エンジンをオンにするまで触媒に尿素を蓄積する複雑な手段を開示している。
【0006】
Valentineによる国際特許出願第WO2004/058642号公報(特許文献3。以下、「Valentine出願」という)は、内燃機関のためのNOx削減装置を開示している。Valentine出願に開示された装置は、2種以上の触媒と、触媒の上流における2つの異なる領域で試薬を噴射するためのインジェクタとを含む。コントローラは測定パラメータを受信し、測定パラメータを参照値と比較して試薬の使用を最適化することができる制御信号を生成する。特に、コントローラは、排気ガス温度に基づいて必要に応じて試薬の位置を第1の領域から第2の領域に切り換える。Valentine出願では、上述した従来技術文献と同様に1種類の試薬のみを使用している。また、Valentine出願は、各触媒の上流に単一のインジェクタを配置した場合にエンジン作動条件に必要とされる広範な試薬をどのように使用するかについて開示していない。各触媒の温度制限により、2つのインジェクタを使用して高流量で試薬を同時に噴射することができない。
【0007】
また、0.25〜600g/分の広範な流量で試薬を噴射することができるインジェクタを提供することも有利である。また、合計で1200g/分までの流量で試薬を噴射することができる2つのインジェクタを提供することができればさらに有利である。また、様々なオリフィス直径(0.004〜0.030インチ)を有する着脱可能なオリフィス板のみを物理的に変更し、オン時間(1%〜95%)、作動周波数(1〜10Hz)又は作動圧力(60〜120psi)等の作動パラメータを変化させることによって流量範囲を変化させることができればさらに有利である。また、そのようなインジェクタが噴霧化又は冷却のために空気を必要とせず、最小の滞在空間において150℃〜800℃の温度を有する排気ガスにHC又は尿素系試薬を噴射することができる材料からなり、堆積物がインジェクタに形成されたり、たまったりすることを防止することができれば有利である。また、試薬の複雑な触媒前処理を行うことなく試薬を噴射することができればさらに有利である。
【0008】
本発明の方法及び装置は、上述した利点及びその他の利点を提供するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許第6,361,754号公報
【特許文献2】米国特許第7,264,785号公報
【特許文献3】国際特許出願第WO2004/058642号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、ディーゼルエンジン排気ガスから窒素酸化物(NOx)を減少させるために、尿素水溶液又はディーゼル燃料等の炭化水素等の流体を排気ガス流に噴射するための方法を提供することにある。より詳細には、本発明の目的は、ディーゼル排出物質を減少させるためのデュアルインジェクタを用いる方法を提供することにある。
【0011】
2005年4月22日に出願された米国特許出願第11/112,039号及び2006年3月31日に出願された米国仮特許出願第60/809,918号は、HC又は尿素を噴射するために有用であって、供給圧力、循環速度、オン時間、周波数又はオリフィス直径を変化させることによって流量を調節することができるインジェクタの実施形態を開示している。本発明は、1つ又は2つのポンプを使用し、1つのECUによって制御される2つのインジェクタによって20g/分未満〜1200g/分の合計流量を達成することによって上記出願の開示を発展させるものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の別の目的は、2つ以上の試薬インジェクタを使用してディーゼル排出物質を減少させるための方法であって、ディーゼルエンジンのエンジン負荷を検出する工程と、検出された前記エンジン負荷が第1の閾値以下である場合に、前記ディーゼルエンジンの排気ガス流に第1のインジェクタから第1の試薬を第1の噴射周波数で噴射する工程と、検出された前記エンジン負荷が前記第1の閾値を超えた場合に、前記第1のインジェクタの噴射周波数を第2の噴射周波数に上昇させる工程と、検出された前記エンジン負荷が第2の閾値を超えた場合に、第2のインジェクタからの前記排気ガス流への第2の試薬の噴射を開始する工程と、検出された前記エンジン負荷が前記第2の閾値を超えている場合に、前記第2のインジェクタから前記第2の試薬を前記第2の噴射周波数で噴射し、前記第1のインジェクタから前記第1の試薬を前記第2の噴射周波数で噴射する工程と、を含む方法によって達成される。
【0013】
いくつかの実施形態では、前記第1の噴射周波数は約1.5Hz以下であり、前記第1の閾値は約15%であり、前記第2の噴射周波数は少なくとも約10Hzであり、前記第2の閾値は約40%である。
【0014】
また、本発明は、2つのインジェクタを使用して試薬の噴射を制御する方法であって、約60〜120psiの圧力で少なくとも1種の試薬をリードインジェクタとラグインジェクタに供給するための1以上の流体供給ポンプを用意し、NOx及び微粒子を減少させるための1種以上の後処理触媒を含むディーゼルエンジンの排気ガス流に前記リードインジェクタから第1の試薬を約0.25〜600g/分の流量で供給し、前記ラグインジェクタから前記第1の試薬とは異なる第2の試薬を約0.25〜600g/分の流量で前記排気ガス流に供給し、単一の制御装置から前記第1の試薬及び前記第2の試薬の供給を制御することを含み、前記リードインジェクタ及び前記ラグインジェクタのそれぞれが、約40〜約80μm(SMD)の液滴を供給するための噴霧化用渦巻板を有する単一流体パルス幅変調インジェクタを含む方法を提供する。
【0015】
本発明のその他の目的、特徴及び利点は、添付図面を参照してなされる以下の有利な実施形態の説明によって明らかになるだろう。なお、図面では、同一の部材には同一の参照番号を付している。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施形態のブロック図を示す。
【図2A】本発明の各種実施形態におけるデュアルインジェクタの配置を示すブロック図である。
【図2B】本発明の各種実施形態におけるデュアルインジェクタの配置を示すブロック図である。
【図2C】本発明の各種実施形態におけるデュアルインジェクタの配置を示すブロック図である。
【図2D】本発明の各種実施形態におけるデュアルインジェクタの配置を示すブロック図である。
【図3】本発明の実施形態に係る負荷増加・減少条件における2つのインジェクタ間の流量配分のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して本発明について説明する。図面では、同一の構成要素には同一の参照番号を付している。
【0018】
なお、以下の詳細な説明は実施形態の例示であって、本発明の範囲、利用可能性又は構
成を制限することを意図するものではない。以下の実施形態の詳細な説明は、当業者が本発明の実施形態を実施することを可能とするものである。なお、請求項に記載した本発明の趣旨及び範囲から逸脱することなく、構成要素の機能及び構成に様々な変更を加えることができることを理解されたい。
【0019】
図1は、本発明の実施形態のブロック図を示す。噴射装置ECU12は、2つの12V
DC容積移送式ポンプ16,18を駆動することができるソフトウェアプログラムを含み、ポンプ16,18は、同一又は異なる圧力、周波数、オン時間で動作させることができる同一又は異なる大きさのオリフィス板を含むインジェクタ1,2に試薬をそれぞれ供給する。ECU10は、エンジン作動パラメータ又は噴射信号を噴射装置ECU12に供給することができ、噴射装置ECU12はポンプ16,18及びインジェクタ1,2を制御する。図1に示すように、ポンプ16,18には1つのタンク14から試薬を供給することができる。別の実施形態では、別々のタンクから試薬をポンプ16,18に供給することができ、以下に詳細に説明するように、各タンクは異なる試薬を含むことができる。インジェクタ1,2のオリフィス板は、0.004〜0.030インチの直径を有することができ、作動圧力は60〜120psiであり、循環速度は2.5〜10ガロン/時である。(例えば、エンジンECU10又は噴射装置ECU12を介した)パルス幅変調インジェクタの動作は、1%〜95%のオン時間の範囲で変化させることができ、周波数は1〜10Hzの範囲で変化させることができる。これらの変数は、40〜80μm(SMD)の平均直径の液滴がインジェクタ1,2から噴射されるように選択される。図1において、破線は制御信号の経路を示し、実線は試薬の流体ラインを示す。
【0020】
図1はタンク14からポンプ16,18を介して2つのインジェクタ1,2に試薬が供給される例を示しているが、同一の試薬がインジェクタ1,2に供給される場合には、1つのポンプを使用して共通の試薬をインジェクタ1,2に供給することができる。
【0021】
別の実施形態では、インジェクタ1,2を冷却するために試薬を使用することもできる。この場合、戻りライン16a,16bを介して試薬を試薬タンク14に戻すことができる。
【0022】
本発明における使用に適したインジェクタは、低流量で作動させた場合には固有の設計仕様のために±20%の流量の変動を示す。従って、良好な流量制御精度を維持するために、インジェクタはできるだけ10%を超えるオン時間で作動させることが望ましい。
【0023】
別の実施形態では、図2Aに示すように、DPFの再生とLNTへの噴射に同一の試薬(炭化水素等)を使用する場合には、1つのポンプを使用して試薬を2つのインジェクタに供給することができ、インジェクタは所望の流量範囲を満たすように選択し、作動させる。この場合、DPF20の前に配置された第1のインジェクタと、LNT22の上流に配置された第2のインジェクタに炭化水素試薬を供給する。
【0024】
本発明の別の実施形態では、図2Bに示すように、2つの異なる試薬を使用することができる。例えば、DPFの再生のために炭化水素をDPF20の上流に配置された1つのインジェクタ(例えば、インジェクタ1)を介してディーゼル排気ガス流に噴射し、SCRのために尿素をSCR触媒24の上流に配置された他方のインジェクタ(例えば、インジェクタ2)を介して噴射することができる。そのような実施形態では、(HC試薬及びSCR試薬を含む試薬タンクにそれぞれ接続された)2つのポンプを使用することができる。各ポンプは、試薬を所望の流量で供給することができる大きさを有し、エンジンECU10及び/又は噴射装置ECU12からの信号に基づいて作動する所定のインジェクタに対応する。エンジンECU10又は噴射装置ECU12は、各インジェクタの使用要件に基づいて各インジェクタの作動時間と周波数を変更するように設計することができる。
【0025】
2つの異なる試薬を使用する本発明の別の実施形態を図2Cに示す。この例では、炭化水素をLNTの上流に配置された1つのインジェクタ(例えば、インジェクタ1)を介してディーゼル排気ガス流に噴射し、SCRのために尿素をSCR触媒24の上流に配置された他方のインジェクタ(例えば、インジェクタ2)を介して噴射することができる。そのような実施形態では、(HC試薬及びSCR試薬を含む試薬タンクにそれぞれ接続された)2つのポンプを使用することができる。各ポンプは、試薬を所望の流量で供給することができる大きさを有し、エンジンECU10及び/又は噴射装置ECU12からの信号に基づいて作動する所定のインジェクタに対応する。エンジンECU10又は噴射装置ECU12は、各インジェクタの使用要件に基づいて各インジェクタの作動時間と周波数を変更するように設計することができる。
【0026】
図2Cに示す実施形態では、インジェクタ1,2を同時に作動させることができる。あるいは、エンジン作動条件に応じて、一方のインジェクタをオンにし、他方のインジェクタをオフにすることができる。また、インジェクタ1を最初にオフにし、SCR触媒24に尿素を噴射するインジェクタ2のみを使用して装置を作動させてもよい。インジェクタ2のポンプに尿素を供給するタンク内の尿素の量が所定の低レベルに達した場合に警報を鳴らしてもよい。警報が鳴ると、エンジンECU10及び/又は噴射装置ECU12は尿素の噴射を停止するようインジェクタ2に指示してもよい。警報が鳴った後にタンクに残っている尿素をインジェクタ2に循環させてインジェクタ2を冷却してもよい。インジェクタ2をオフした時に、エンジンECU10及び/又は噴射装置ECU12はインジェクタ1をオンにし、インジェクタ1は尿素タンクが再充填されるまでLNT22に炭化水素を噴射してもよい。インジェクタ1がオフの期間には、インジェクタ1を冷却するために炭化水素をインジェクタ1に循環させてもよい。LNT22とSCR触媒24の両方を有する装置を使用する場合には、図2Cに示すようにLNT22をSCR触媒24の上流に配置し、SCR触媒24がLNT22における炭化水素の反応によって形成されたアンモニア副生成物を利用することができるように構成することが有利な場合がある。ただし、SCR24がLNT22の上流に配置された装置とすることもできる。
【0027】
本発明の別の実施形態では、大量の試薬が必要な場合には(高負荷エンジン等)、デュアルポンプ・デュアルインジェクタ構成を使用して最大1200g/分の合計流量を達成することができる。そのような実施形態では、第1のインジェクタ1をリード(進み)インジェクタとし、インジェクタ2をラグ(遅れ)インジェクタとする。リードインジェクタは、1〜2Hzの小さなパルス幅及び1〜5%の短いオン時間で作動し、周波数を自動的に10Hzに変化させてリードインジェクタからの流量を増加させ、最適な流量範囲で動作を最大とする前に15〜50%のオン時間で作動することによって最小流量から中間流量を達成するような大きさを有することができる。リードインジェクタ1の最大流量の40〜50%に達した時に、第2の(ラグ)インジェクタ2を10Hzの周波数で作動させて装置の制御において必要な追加的な流体を供給することができる。ECUからの要求信号に基づき、最大流量が達成されるまで2つのインジェクタのオン時間を平行して増加させてもよい。
【0028】
本発明のデュアルインジェクタ装置の実施形態が有益な多くの状況が考えられる。例えば、DPFを再生するために低い頻度でHCを噴射する場合には、300マイル毎に1〜5分間にわたって噴射流量を1〜5g/分から400〜600g/分に変化させることができる。DPFの再生のためにHCの噴射が必要ではない期間には、リードインジェクタに炭化水素を連続的に循環させ、リードインジェクタを冷却すると共に炭素がインジェクタに堆積することを防止することができる。専用の尿素循環ポンプから尿素が供給される第2のインジェクタは、エンジン負荷と速度の関数として排出されるNOxによって決定される流量でSCR触媒に尿素試薬を噴射するために使用することができる。通常、流量
は軽負荷用途では0.25g/分〜100g/分、高負荷用途では20g/分〜600g/分であり、オリフィスの大きさ、作動周波数、オン時間及び/又はポンプ圧力に応じて選択される。
【0029】
別の例では、SCR装置には、低負荷における10〜20g/分から高負荷における1000g/分という広範囲の流量が必要となる場合がある。通常の0.025インチのオリフィスを有するインジェクタは、10Hz及び90%のオン時間で約500g/分の流体しか供給することができない。1.5%のオン時間で作動させた場合には、流量は20g/分である。この場合、周波数とオン時間を変更してリードインジェクタを作動させて20〜500g/分の流量を達成し、ラグインジェクタをリードインジェクタと平行して作動させ、約100g/分の流量及び10Hzの周波数から尿素を追加的に供給することができる。2つのインジェクタのオン時間は最大95%に増加させて合計で1000g/分の尿素を供給することができる。いくつかの実施形態では、噴射量を制御するために作動圧力又はポンプ圧力を変化させる。特に、噴射量を増加させるためにポンプ圧力を約80psigを超える圧力まで増加させることができる。
【0030】
以下、図2Dに示す本発明のデュアルインジェクタ装置の実施例の試験結果について説明する。この実施例では、リーンNOxトラップ22又はLNT22の上流においてHC試薬をより反応性の高い種に変換するために使用されるHC改質器26の上流に20g/分以下から800g/分以上の試薬を供給するように設計・プログラミングされたHC系装置について試験を行った。この実施例では、0.028インチのオリフィスを有するインジェクタ1,2がLNT22及びHC改質器26の上流に配置され、インジェクタ1,2には80〜110psiのライン圧力で別々のポンプから流体が供給される。エンジン負荷信号又は対応するエンジンECU試薬噴射信号に合わせて試薬を噴射するように開発されたプログラムに基づいてインジェクタの周波数とオン時間を制御するために1つのECUを使用する。SCR触媒24をLNT22の下流に配置してLNT22における炭化水素の反応によって形成されたアンモニア副生成物を利用することができる。
【0031】
デュアルインジェクタの作動シークエンス
負荷増加条件:表1に示すように、最小負荷(1%)では、インジェクタ1は1.5Hzの周波数及び17g/分の流量で噴射を開始する。負荷が1%から15%に増加すると、インジェクタの周波数は1.5Hzのままだが、インジェクタ1の流量は負荷に比例して17g/分から125g/分に変化する。負荷が15%を超えて増加し続けると、インジェクタの周波数は約60ミリ秒以内に1.5Hzから10Hzに切り替わる。10Hzで動作するインジェクタ1は、負荷が40%となるまで要求された330g/分の流量を供給し続ける。負荷が40%を超えて増加すると、インジェクタ2は10Hzの周波数で噴射を開始し、流量はインジェクタ1からの78%(264g/分)とインジェクタ2からの22%(72g/分)の合計となる。負荷が40%から100%に増加すると、インジェクタ1よりもインジェクタ2において流量が急速に増加し、100%の負荷ではインジェクタ1,2の流量が50/50となり、全流量は816g/分となる。
【0032】
なお、インジェクタ1は低負荷(<15%)の場合に1.5Hzで作動し、15%より高い負荷において10Hzで作動する。インジェクタ2は全ての動作条件において10Hzで動作する。
【0033】
負荷減少条件:負荷が100%から40%に減少すると、インジェクタは負荷増加条件と同様に負荷を共有し、100%の負荷における50/50から、41%の負荷ではインジェクタ1(262g/分)から78%、インジェクタ2から22%(71g/分)という割合でインジェクタ1,2は共に10Hzの周波数で作動する。負荷が40%から21%の間で減少すると、インジェクタ2は10Hzの周波数で流体を噴射し、71g/分の
流量を維持する。インジェクタ1は10Hzの周波数で流体を噴射し、40%の負荷における253g/分から21%の負荷における90g/分に流量を低下させる。負荷が21%未満になると、インジェクタ2は噴射を停止し、インジェクタ1は引き続き10Hzの周波数で流体を噴射し、20%の負荷における162g/分から12%の負荷における95g/分に要求合計流量を低下させる。負荷が12%未満になると、インジェクタ1の周波数は160ミリ秒以内に10Hzから1.5Hzに変化する。インジェクタ1は1.5Hzの周波数で要求流量を噴射し続け、流量は12%の負荷における95g/分から1%の負荷における17g/分へと負荷に比例して低下する。
【0034】
なお、インジェクタ1は低負荷(<12%)の場合に1.5Hzで作動し、12%より高い負荷において10Hzで作動する。インジェクタ2は全ての動作条件において10Hzで動作する。
【0035】
図3は、上述した実施例に係る負荷増加・減少条件におけるインジェクタ1,2間の流量配分のグラフである。線30,32は、負荷増加時のインジェクタ1,2の流量をそれぞれ示している。線34,36は、負荷減少時のインジェクタ1,2の流量をそれぞれ示している。線38は、インジェクタ1,2からの合計流量を示す。
【0036】
負荷の増加及び減少に対するインジェクタ性能の異なる挙動特性は、インジェクタ1,2の最適な噴霧品質を維持しながら、急速な負荷変化条件においてインジェクタ2のショートサイクリング(short cycling)を減少させることを意図するものである。
【0037】
【表1】

【0038】
別の実施形態では、デュアルSCR触媒装置を備える車両において、リードインジェクタによって試薬を噴射する低温運転(200℃未満の排気ガス温度)において貴金属触媒を使用し、温度が200〜250℃よりも高い場合(リードインジェクタは低温触媒に試
薬を噴射しないが、インジェクタを低温に維持するために試薬を循環させ続ける)に、低温触媒の下流に配置されたバナジウム又はゼオライトからなる第2の触媒をラグインジェクタと共に使用することができる。排気ガス温度が200〜250℃の範囲にある場合には、2つのインジェクタを作動させてNOx低減量を最大化し、副生成物の生成を最小化することができる。
【0039】
本発明は、デュアルインジェクタを使用してNOx排出量を低減するための有利な方法と装置を提供する。
【0040】
各種実施形態に関連して本発明について説明したが、請求項に記載した本発明の趣旨及び範囲から逸脱することなく、様々な変形及び改良を加えることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つ以上の試薬インジェクタを使用してディーゼル排出物質を減少させるための方法であって、
ディーゼルエンジンのエンジン負荷を検出する工程と、
検出された前記エンジン負荷が第1の閾値以下である場合に、前記ディーゼルエンジンの排気ガス流に第1のインジェクタから第1の試薬を第1の噴射周波数で噴射する工程と、
検出された前記エンジン負荷が前記第1の閾値を超えた場合に、前記第1のインジェクタの噴射周波数を第2の噴射周波数に上昇させる工程と、
検出された前記エンジン負荷が第2の閾値を超えた場合に、第2のインジェクタからの前記排気ガス流への第2の試薬の噴射を開始する工程と、
検出された前記エンジン負荷が前記第2の閾値を超えている場合に、前記第2のインジェクタから前記第2の試薬を前記第2の噴射周波数で噴射し、前記第1のインジェクタから前記第1の試薬を前記第2の噴射周波数で噴射する工程と、
を含む方法。
【請求項2】
請求項1において、前記第1の噴射周波数が約1.5Hz以下であり、前記第1の閾値が約15%であり、前記第2の噴射周波数が少なくとも約10Hzであり、前記第2の閾値が約40%である方法。
【請求項3】
請求項1において、
検出された前記エンジン負荷が約1%から約15%に増加する時に前記第1のインジェクタのオン時間を増加させて前記第1のインジェクタからの第1の流量を約125g/分とする工程と、
前記第1の流量が少なくとも約330g/分になるまで、前記エンジン負荷が約40%に増加する際に前記第1のインジェクタのオン時間を増加させる工程と、
をさらに含む方法。
【請求項4】
請求項3において、少なくとも816g/分の合計流量が達成されるまで、第1の流量及び前記第2のインジェクタからの第2の流量を増加させる工程をさらに含む方法。
【請求項5】
請求項1において、
検出された前記エンジン負荷が第3の閾値まで減少するまで前記第1の試薬を前記第2の噴射周波数で噴射すると共に前記第2の試薬を前記第2の噴射周波数で噴射する工程と、
検出された前記エンジン負荷が前記第3の閾値未満に減少した場合に前記第2のインジェクタからの前記第2の試薬の噴射を停止させる工程と、検出された前記エンジン負荷が第4の閾値未満に減少した場合に前記第1のインジェクタの噴射周波数を前記第1の噴射周波数に減少させる工程と、
をさらに含む方法。
【請求項6】
請求項5において、前記第3の閾値が約21%であり、前記第4の閾値が約12%である方法。
【請求項7】
請求項1において、前記第1のインジェクタ及び前記第2のインジェクタのそれぞれの流量を変化させる工程をさらに含む方法。
【請求項8】
請求項1において、前記第1の試薬及び前記第2の試薬が尿素である方法。
【請求項9】
請求項1において、前記第1の試薬及び前記第2の試薬が炭化水素である方法。
【請求項10】
請求項1において、
前記第2の試薬の供給が所定の低レベルに達したことを示す警告信号を制御装置において受信する工程と、
前記警告信号を受信した場合に、前記第2の試薬の噴射を停止させ、前記第1の試薬を噴射を開始させるための少なくとも1つの制御信号を前記制御装置から送信する工程と、
をさらに含む方法。
【請求項11】
2つのインジェクタを使用して試薬の噴射を制御する方法であって、
約60〜120psiの圧力で少なくとも1種の試薬をリードインジェクタとラグインジェクタに供給するための1以上の流体供給ポンプを用意し、
NOx及び微粒子を減少させるための1種以上の後処理触媒を含むディーゼルエンジンの排気ガス流に前記リードインジェクタから第1の試薬を約0.25〜600g/分の流量で供給し、
前記ラグインジェクタから前記第1の試薬とは異なる第2の試薬を約0.25〜600g/分の流量で前記排気ガス流に供給し、
単一の制御装置から前記第1の試薬及び前記第2の試薬の供給を制御することを含み、
前記リードインジェクタ及び前記ラグインジェクタのそれぞれが、約40〜約80μm(SMD)の液滴を供給するための噴霧化用渦巻板を有する単一流体パルス幅変調インジェクタを含む方法。
【請求項12】
請求項11において、
前記1種以上の後処理触媒が、ディーゼルパティキュレートフィルタ及び前記ディーゼルパティキュレートフィルタの下流に配置された選択的触媒還元触媒を含み、
前記リードインジェクタが、前記ディーゼルパティキュレートフィルタの上流で炭化水素試薬を噴射し、
前記ラグインジェクタが、前記ディーゼルエンジンパティキュレートフィルタと前記選択的触媒還元触媒との間で尿素試薬を噴射する方法。
【請求項13】
請求項11において、
前記第1のインジェクタ及び前記第2のインジェクタのそれぞれが、約0.004〜約0.030インチのオリフィス直径を有するオリフィス板を含み、
前記第1のインジェクタ及び前記第2のインジェクタが、約1〜約95%のオン時間、約1Hz〜約10Hzの噴射周波数、約60psi〜約120psiの流体圧力、約2.5〜約10ガロン/時の循環速度となるように構成されている方法。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図2D】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−83269(P2013−83269A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2013−13088(P2013−13088)
【出願日】平成25年1月28日(2013.1.28)
【分割の表示】特願2009−532405(P2009−532405)の分割
【原出願日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【出願人】(505318721)テネコ オートモティブ オペレーティング カンパニー インコーポレイテッド (62)
【氏名又は名称原語表記】Tenneco Automotive Operating Company Inc.
【住所又は居所原語表記】500 North Field Drive,Lake Forest,Illinois,The United States of America
【Fターム(参考)】