説明

トップエミッション型有機発光ディスプレイ

【課題】 トップエミッション型有機発光ディスプレイ(OLED)を構成する有機化合物及びTFT駆動回路から発生する熱を放熱し、かつ、有機化合物等への耐湿効果も十分に行う。
【解決手段】 基板の上に少なくともTFT駆動回路、反射陽極、有機発光層、透明陰極を積層してなり、金属層と絶縁層を含む光透過性を有しない基板を使用することで、TFT駆動回路及び有機発光層からの熱を周囲空気中に十分に放熱することができ、かつ、耐湿効果も十分行うことができるトップエミッション型有機発光ディスプレイ(OLED)を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トップエミッション型有機発光ディスプレイの基板に関する。
【背景技術】
【0002】
有機発光ディスプレイ(以下、OLED(Organic Light Emitting Display)という。)としては、従来、ガラス基板あるいは透明なプラスチック基板および有機フィルム上に順次形成した陽極、発光層等および陰極に直流電流を流して発光させ、マルチカラー表示またはフルカラー表示を可能にする素子が知られている。
また、光を取り出す構造により、(1)基板側から光を取り出すボトムエミッション型、(2)基板と反対側から光を取り出すトップエミッション型、がある。
【0003】
従来のボトムエミッション型OLEDの構造としては、図11に示すように、ガラス基板20上に、透明電極である陽極21、有機化合物からなる正孔輸送層7、有機化合物からなる発光層8、有機化合物からなる電子輸送層9、電子注入層10及び金属電極である陰極22とが順次積層された構造がある。
【0004】
その他にも、陽極21と陰極22の間に、有機化合物からなる発光層8及び有機化合物からなる正孔輸送層7が配された2層構造のもの、あるいは、陰極21と陽極22との間に、有機化合物からなる電子輸送層9、有機化合物からなる発光層8及び有機化合物からなる正孔輸送層7が積層された3層構造のものが知られている。
【0005】
更には、図11を参照すると、陽極21と正孔輸送層7との間に正孔注入層を設け、発光効率を向上させたものも知られている。
正孔輸送層7は陽極21から正孔を輸送する機能と陰極22から輸送されてきた電子をブロックする機能とを有し、電子輸送層9は陰極22から電子を輸送する機能と陽極21から輸送されてきた正孔をブロックする機能とを有する、いわゆる、ダブルヘテロ構造となっている。
【0006】
これらOLEDにおいては、陽極21の外側にはガラス基板20が配されており、陰極22から注入された電子と陽極21から注入された正孔が発光層8にて再結合して励起子を形成し、この励起子が放射失活する過程で光を発生し、この光が陽極21とガラス基板20を透過し外部に放射される。ガラス基板上には、発光領域とは別にOLEDを駆動するTFT駆動回路3が形成されている。
【0007】
従来の基板の材料としては、ソーダガラス、石英、サファイアの無機材料の他に、プラスチックとして、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンー2、6―ナフタレート、ポリカーボネイト、ポリサリフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリアリレート、フッ素樹脂、ポリプロピレン、ポリイミド樹脂、エポキシ樹脂、が知られている。
【0008】
陽極21には、ITO(Indium Tin Oxide)やSnO2等の透明導電性材料が用いられるが、電気抵抗値は素子の消費電力や発熱を低減するため低抵抗にする必要がある。
陰極22には、仕事関数の小さいMg,Al,In,Agの単層金属またはAl−Mg,Ag−Mg,Al−Li,Mg−Ag等の合金が用いられる。
正孔輸送層7は、陽極21の上に形成され、芳香族三級アミン誘導体、フタロシアニン誘導体等がある。また、上記材料の単層構造でもよいし、複層構造であってもよい。
【0009】
発光層8は、正孔輸送層7の上に形成され、発光材料及び必要により添加するドーピング材料からなる。ドーピング材料は、発光層8からの発光効率を向上させ、発光色を変化させる場合に発光層中に添加する材料である。発光材料およびドーピング材料としては、アルミニウムキノリノール錯体、ルブレン、キナクリドン、希土類錯体、イリジウム錯体、アントラセン類、各種蛍光色素等である。
【0010】
電子輸送層9は、発光層8の上に形成され、陰極22から効率よく電子が注入された電子を輸送する能力をもち、発光層に対して優れた電子注入効果を有する。材料としては、アルミニウムキノリノール錯体、トリアゾール錯体等がある。
電子注入層10は、陰極22から効率よく電子を注入しやすくする能力をもち、また電子輸送層9への電子の注入を効率的に行う。材料としては、リチウムなどのアルカリ金属、フッ化リチウム、酸化リチウム、リチウム錯体等がある。
【0011】
また、プラスチック基板を使用し、フレキシブルディスプレイ化を図るに際し、OLEDの有機化合物はプラスチック基板を透過した水分により劣化するため、基板としての防湿性を高める必要があった。
【0012】
従来、OLEDの放熱性を改善するいくつかの技術が提案されている。
例えば、特許文献1には光透過性を有する基板の熱伝導率を0.75(W/m・deg)を超えるものとし、石英基板またはサファイア基板の使用を提案している。
【0013】
また、特許文献2にはガラス基板に熱伝導のよい金属酸化物を添加してガラス基板の熱伝導性を向上させる技術が提案されている。特許文献3には透明性を有する基板の表面または内部の少なくとも一方に基板よりも高い熱伝導率をもつ熱伝導層を設ける構造が提案されている。特許文献3にはプラスチック基板を基板の熱伝導率よりも高い熱伝導率を有する材料よりなる放熱層で被覆する技術が提案されている。また、特許文献5や特許文献6には有機EL素子の陰極上に放熱層を設ける技術が提案されている。また非特許文献1には、プラスチック基板に窒化酸化シリコン膜を形成し防湿性と透明性を図る技術が記載されている。
【0014】
一方、特許文献7には、良好な可撓性と耐久性を備えた有機エレクトロルミネッセンス表示装置として、画面部と当該画面部を駆動する回路部とを備え、画面部はフィルム状金属基板上に直接形成された有機エレクトロルミネッセンス素子と当該有機エレクトロルミネッセンス素子と回路部とを接続する配線とを有する、巻回収納可能な表示装置が提案されている。駆動回路等の回路部は画面部に形成せずに、画面部の所定の一測端部、具体的には、第1電極が形作るストライプと平行な一辺の測端部に例えば輝度信号回路、走査回路、電源回路等の回路を上述した一辺に沿って配置している。
【特許文献1】特開平10−144468号公報
【特許文献2】特開平5−129082号公報
【特許文献3】特開2001−237063号公報
【特許文献4】特開2002−63985号公報
【特許文献5】特開平7−111192号公報
【特許文献6】特開平10−275681号公報
【特許文献7】特開2002−15859号公報
【非特許文献1】「Organic Light Emitting Devices on Polymer Film Substrate」、Proceedings of The 10th International Workshop on Inorganic and Organic Electroluminescence、(EL’00)、p.365〜366、2000
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
従来の、ガラス基板またはプラスチック基板上に形成したOLEDでは、基板の熱伝導率が低いため、たとえ該基板に隣接して放熱層を形成したとしても、発光層等の有機化合物および駆動回路からの発熱を、周囲空気雰囲気へ実用性のある十分な放熱を得ることが困難である。
OLEDの発光輝度は注入電流密度に比例して増大し、現在1万(cd/m2)以上の発光輝度を大面積で実現可能な実力を有しており、ディスプレイの他に照明等への応用展開も可能であるので、放熱対策は最重要課題となる。
発光にともなう発熱および駆動電流による発熱により、OLEDを構成する有機化合物は、酸化、凝集、結晶化等の物理化学的不可逆変化を起こし発光寿命の低下をもたらす。
【0016】
また、TFT等の駆動素子は低温ポリシリコンやアモルファスシリコンを使用しているため、発熱により閾値電圧に変動を起こす。また、OLEDを構成する有機化合物は半導体であり、初期使用時には温度上昇により抵抗が下がり輝度上昇を招く。その温度特性がR,G,B毎に異なっているため、極力発熱による温度上昇を抑制する必要がある。
【0017】
OLEDをフレキシブル化で使用するために、プラスチックフィルム基板の適用等が検討されているが、プラスチックフィルムは前記したように熱伝導率が低く十分な放熱効果が得られない。更に、プラスチックフィルム基板は防湿性が低いため、プラスチックフィルム基板より進入した水分や酸素やアルカリ可動イオンは、OLEDを構成する有機化合物の特性を劣化させ、また、TFT等の駆動素子の動作不良を招くため、水分や酸素やアルカリ可動イオンの進入を極力排除する必要がある。
【0018】
画面部に駆動回路等を形成しないフィルム状金属基板を用いたトップエミッション型OLEDでは、アクティブマトリクス型駆動は不可能であり、パッシブ型駆動となる。パッシブ型駆動は、消費電力および画質の点で、アクティブマトリクス型駆動より明らかに劣るため、アクティブマトリクス型駆動が可能な、画面部に駆動回路等を形成したOLEDが必要である。
【0019】
本発明は、上記の課題を解決するためのものであり、画面部に駆動回路等を形成したアクティブマトリックス駆動のトップエミッション型OLEDにおいて、OLEDを構成する有機化合物およびTFT駆動回路等からの発熱を迅速に放熱し、かつ、水分や酸素やアルカリ可動イオンの進入を防止する基板を備えたOLEDを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明は、このような従来の問題点に鑑みてなされたもので、
基板の上に、駆動回路、反射電極、発光層、透明陰極を積層してなり、前記基板は、光透過性を有しない金属層と絶縁層からなるトップエミッション型OLEDを提案するものである。
また、駆動回路は、前記基板と前記反射電極との間に、前記有機発光層の発光領域と重なる位置に配置されている。
【0021】
基板に金属層を使用することにより、ガラスやプラスチックより熱伝導率を100倍以上高めることが可能であり、十分な放熱効果が得られる。前記絶縁層は、その後形成するプレーナー型TFT駆動回路と金属層との絶縁を図るために設ける。
【0022】
絶縁膜としては、SiOx,SiNx,SiOxNy,AlNx,AlOx等の単層膜または多層膜を用いる。該絶縁層は、前記金属層の陽極酸化層を少なくとも含むこともよい。陽極酸化は電気化学的手法であるが、平面ディスプレイへの応用で要求される無欠陥、大面積の薄膜の作製が可能である。金属板または金属フィルムの表面を陽極酸化し、その上にSiOx,SiNx,SiOxNy,AlNx,AlOx等の単層膜または多層膜の絶縁膜を形成してもよい。
【0023】
基板の金属層は、基本的に安価で無害な金属であればよく、例えば、Al,Zn,W,Cu,Ni,Fe,ステンレス鋼等の単体材料、またはそれらの合金や複合材料でもよい。中でも、Alは軽量化に適し、熱伝導率が約236(W/m・K)とAg,Cuの次に大きく放熱材料に適する。Al合金は、主成分であるAlと、Cu,Pd,Nd,Ti,Si,Mg,Mnの少なくとも1つの添加剤を含む合金が適する。Cu,Pd,Nd,Ti,Si,Mg,Mnの少なくとも1つをAlに添加することにより、応力に対する破壊(すなわち、ストレスマイグレーション)の耐性が向上するのでフレキシブル化を図る際に重要である。また、酸化しにくいので、耐候性も向上する。
【0024】
絶縁層が存在する側と逆側の金属層の表面に凹凸を設けると、放熱に効果的である。該金属層の表面に凹凸を設けることにより、金属表面の面積が増加するので周囲空気雰囲気との接触面積が増加し放熱しやすくなる。ディスプレイの組み立ての関係上、金属層表面に粘着剤や粘着シートや保護膜等を設ける場合でも、金属表面に凹凸を設けておけば、設けない場合より放熱効果は高くなり好ましい。
【0025】
金属表面の凹凸は、金属層に切れ目を入れることや、部分的に圧力を加え圧力を加えた金属層の厚みを他の圧力を加えていない部分より薄くすること、等の物理的手段にても作製可能である、また、金属表面のある部分にマスクを設けてエッチングを行い、マスクを設けた以外の部分の金属層の厚みを薄くする化学的手段においても作製可能である。凹凸の長さは特に限定する必要は無いが、金属層の厚さより小さくする必要があり、また、従来使用のガラス基板の表面粗さより長くすることが好ましい。TFT駆動回路領域の領域では、凹凸の間隔を小さくして、TFT駆動回路からの熱を放熱するための表面積を大きくすることが好ましい。
【0026】
TFT駆動回路領域の少なくとも一部分領域の面積に対応する絶縁層の厚さを、他の領域に対応する絶縁層の厚さより薄くすると、TFT駆動回路領域の放熱に効果的である。絶縁層の厚さを薄くすることにより、駆動電流等にて発生したTFT駆動回路領域からの発熱が迅速に金属層に伝達され放熱効果が増す。TFTは、低温ポリシリコンやアモルファスシリコンを使用し作製されるので、温度により、電流−電圧特性のスレショールド電圧が変動しやすい。特に、アモルファスシリコンは温度による変動が大きいため、極力温度変動を抑制する必要がある。
【0027】
また、基板として金属層を用いるので、金属層の厚さを薄くすることによりフレキシブル化を図ることも容易である。プラスチックフィルムを基板として使用するよりも、水分や酸素やアルカリ可動イオンの進入を防止することが容易であるので、OLEDを構成する有機化合物や金属配線やTFTの劣化を抑制することが可能である。
【発明の効果】
【0028】
本発明は以上のように構成したので、OLEDを構成する有機化合物やTFT駆動回路等から発生する熱を金属層と絶縁層を含む光透過性を有しない基板を通して、周囲空気中や金属表面層に設けた粘着剤または粘着シートまたは保護膜に放熱することができ、かつ、水分や酸素やアルカリ可動イオンの進入を防止することを十分行うことができるので、良好なアクティブマトリックス型駆動トップエミッション型OLEDを提供することが可能である。
【0029】
また、トップエミッション型では、基板内にTFT(Thin Film Transistor)等を含む駆動回路等を形成できるので多機能な素子を実現でき、また、OLED素子から発光する光がTFT等を含む駆動回路等により遮られことがないため、ボトムエミッション型より開口率を高められる利点もある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、本発明の実施の形態を図に基づいて詳細に説明する。
【0031】
[実施の形態1]
図1は、本発明の実施の形態1を示すOLED概略断面図である。
厚さ約1mmのAl層1(熱伝導率236W/m・K)を陽極酸化によりAl2O3で厚さ約100nmの絶縁層2を形成する。Al層1と絶縁層2をもって基板12とする。
【0032】
Al層1の表面には、深さが約0.3mmの溝が形成されている。陽極酸化は、次のように行った。化成液は3wt%の酒石酸水溶液をアンモニア水でPH6.5〜7.0に中和し、更に容量比9倍のエチレングレコールを混合したものを使用した。酸化はAl層1を陽極にPt電極を陰極として化成電流を流して行う。化成電流密度は約12μA/cm2にて行い、化成電圧は8Vで行った。
【0033】
絶縁層2を形成後、TFT駆動回路3および平坦化膜4を形成する。平坦化膜4の上には、順次、陽極(反射電極)5としてAlを100nm厚、正孔注入層6としてアリールアミンを50nm厚、正孔輸送層7としてα―ナフチルフェニルジアミンを50nm厚、発光層8としてトリスアルミニウムを80nm厚、電子輸送層9としてアルミニウムキノリノール錯体を50nm厚、電子注入層10としてLiFを10nm厚、陰極(透明電極)11としてITOを120nm厚、を形成した。
【0034】
ITOはレーザーアブレーション法にて形成し、その他は真空蒸着法にて形成した。真空蒸着は、真空装置の上方に設置した基板に対し、下方にモリブデン製のボートを設置し、真空度5×10−5Paに到達した時点で蒸着を開始し、0.3nm/secの速度で成膜した。基板温度は50℃以下とした。
レーザーアブレーションは、真空度5×10−5Paに真空排気後、ITOターゲットにCO2ガスレーザーを照射し、2nm/secの速度で成膜した。
その後は、図1では省略したが、紫外線硬化性エポキシ樹脂にて封止した。陽極5と陰極11にTFT駆動回路3により直流電圧を印加し、電流を注入して発光層8より発光させる。
【0035】
基板12の金属層1であるAlは、熱伝導率が236(W/m・K)であり、従来のガラスでは熱伝導率0.55〜0.75(W/m・K)であるので、約300倍以上の熱伝導率があるため、OLEDにて発生した熱が外部空気中に効率良く伝達し放熱し、OLEDの温度上昇を抑制することが可能である。
【0036】
また、密度は、Alが2.7(g/cm3)でガラスが2.6(g/cm3)であるので、同一厚さでもほぼ同一の重量にて作製できる。基板を金属層とすることにより、ガラスでは不可能な基板のフレキシブル化も容易に作製可能となる。
【0037】
図12に、無害な主要金属と、ガラスおよびポリカーボネイトの熱伝導率と密度を記載した表1を示す。
【0038】
図12の表1に示した主要金属は、全てガラスやポリカーボネイト(プラスチック類)より大幅に熱伝導率が高く、基板を金属層に使用することにより放熱効果を高めることが可能である。
ただし、Cu,Zn,W,Ni,Fe,Geは酸化しやすいので、金属層の表面(図1の金属層のOLED側と反対側)に酸化防止を図る表面処理や保護膜を設ける、または、酸化防止効果のある合金化を図る必要がある。
基板の軽量化をも考慮すると、Alは伝導率が高く密度が低いのでより好ましい。
【0039】
Al単体でも良いが、Al合金でも良い。AlにCu,Pd,Nd,Ti,Si,Mg,Mnの少なくとも1つの添加剤を含む合金にすることにより、耐応力性、耐食性等が増加し好ましい。TFT駆動回路3は、プレーナー技術または有機半導体技術にて画面部内(正確には画素部内)に形成する。
【実施例1】
【0040】
本発明の実施例1では、金属層1の、発光層8とTFT駆動回路3が配置される側と反対の側に、発光層8とTFT駆動回路3からの熱を放熱するための凹凸部を形成する。
【0041】
Al層1の表面には、深さが約0.3mmの溝を設けたが、溝を設けることにより金属表面の面積が増加するので周囲空気雰囲気との接触面積が増加し放熱しやすくなる。ディスプレイの組み立ての関係上、金属層表面に粘着剤や粘着シートや保護膜等を設ける場合でも、金属表面に凹凸を設けておけば、設けない場合より放熱効果は高くなり好ましい。
【0042】
溝の深さは、本実施例の約0.3mmに限定する必要は無く、金属層1の厚さの約1mm未満であれば良く、0.1mmでも0.8mmでも良い。溝の形状も本実施例に限定するものではなく、楔形状、正方形、円形状、半円形状、等でも良い。
【0043】
図1に記載された実施例1との比較のため、図2に、ガラス基板20を用いたトップエミッション型のOLED構造の比較例を示す。
上記比較例においては、トップエミッション型のOLEDにおいて、ガラス基板20上にTFT駆動回路3を形成し、平坦化層4にて平坦化を図り、平坦化層4の上にOLED素子を形成する。
OLED素子は、順に、陽極(反射電極)5、正孔注入層6、正孔輸送層7、発光層8、電子輸送層9、電子注入層10、陰極(透明電極)11の積層となる。発光層8からの光を陰極11の方向へ放射させるため、陰極11を透明電極にする必要がある。
また、陽極5は反射電極とし、発光層8から陽極5へ到達した光を反射させて陰極側へ戻す機能を持たせている。
【0044】
このOLEDを構成する正孔注入層、正孔輸送層、発光層、電子輸送層、電子注入層に使用する有機化合物の中には、100℃程度で凝集または結晶化し(形成時は非晶質膜である)特性劣化をきたす材料もあり、高輝度を図るため注入電流密度を増加させると、有機化合物が発熱しOLEDの特性が劣化する問題がある。
【0045】
また、室温にて、OLEDに画像を表示させた場合には、ある輝度信号レベル以上では、経過期間とともに素子の温度が上昇する事により輝度が高まり、安定するまで1時間以上を要する問題がある。また、R,G,Bへそれぞれ輝度レベルを設定し、色設定を行った時には経過時間とともに色が変化する問題がある。白色に色設定した場合には、経過時間とともに色温度が大幅に変化する問題がある。初期設定の輝度信号レベルに対し、素子の温度変化によりR,G,Bの輝度変化が大幅に異なっているためと推察された。
【0046】
図1に示した本発明の実施例1と、図2に示した比較例のOLEDとで、初期発光時における輝度と温度の経過時間変化についての検討結果を図3及び図4に示す。
本発明の実施例1では、厚さ1mmのAl金属層1(熱伝導率236W/m・K)を陽極酸化によりAl2O3で厚さ約100nmの絶縁層2を形成した、Al金属層1(溝形成あり)とAl2O3絶縁層2からなる基板12を用いており、
一方、図2に示した比較例では、従来のガラスで、厚さ1mmの板を基板20として用いている。
【0047】
OLEDの素子は、R,G,Bの3色から構成され、2.5インチサイズでQVGAの高精細ディスプレイを作製し、R,G,B駆動回路へ100%の輝度信号を入力しウインドウ(パネル面積の約1/10の面積)を白色に発光させて比較を行った。
【0048】
図3には、上記したAl金属層1(溝形成あり)とAl2O3絶縁層2からなる基板(以下、Al基板)とガラス基板を用いた場合の、点灯開始後の経過時間に対する輝度の変化を示す。初期輝度はどちらの場合も約334(cd/m2)である。
ガラス基板を用いた場合には、点灯直後から輝度が急速に高まり、約40分後から一定輝度の約390(cd/m2)に安定し120分経過まで安定していた。一方、Al基板を用いた場合には、点灯直後から徐々に輝度が高まったが、25分後から一定輝度の約337(cd/m2)に安定し120分経過まで安定していた。
ガラス基板を用いた場合には、輝度が約17(%)も高まったが、Al基板にすることにより、0.9(%)の輝度上昇に抑えることができた。
【0049】
図4に、同パネルの点灯時の温度変化を放射温度計にて測定した結果を示す。初期温度はどちらの場合も室温の約23(℃)である。
図4に示すように、ガラス基板を用いた場合には、点灯直後から温度が上昇し、約40分後から一定輝度の約40(℃)に安定し120分経過まで安定していた。
一方、Al基板を用いた場合には、点灯直後から徐々に温度が上昇したが、25分後から一定温度の約24(℃)に安定し120分経過まで安定していた。
【0050】
図3と図4から判るように、点灯直後の輝度上昇と温度上昇の相関が高いため、輝度上昇の主要因はパネルの温度上昇にあると推察できる。比較の際には、R,G,Bの素子に対して同一輝度信号を入力し白色にて点灯させたが、実際はR,G,B毎に輝度信号階調を変えて色を表現するため、R,G,Bの温度は常にそれぞれ変動しており、またR,G,B毎に温度に対する輝度変化特性を異なるので、十分に放熱対策を行い、温度上昇を抑えないと設定した色が温度変動により変動することになり好ましくない結果となる。
図1に示した本発明の実施例1では、厚さ1mmのAl金属層1(熱伝導率236W/m・K)を陽極酸化によりAl2O3で厚さ約100nmの絶縁層2を形成した、Al金属層1(溝形成あり)とAl2O3絶縁層2からなる基板12を用いており、点灯開始後の経過時間に対する輝度及び温度は安定的に推移した。
【実施例2】
【0051】
図5に、本発明の実施例2を示す。本発明の実施例2においては、Al−0.5wt%Pd金属層1とSiO2絶縁層23からなる基板12を用いたOLEDを提供する。
【0052】
図5は、本発明の実施例2のOLED概略断面図である。厚さ0.3mmのAl−0.5wt%Pd金属層1(熱伝導率約236W/m・K)にスパッタ法にて厚さ約100nmのSiO2絶縁層23を形成する。Al−0.5wt%Pd層1の表面には、深さが約0.1mmの溝が形成されている。
【0053】
また、TFT駆動回路3の下の領域の絶縁層23の膜厚は約85nmと薄くなっている。
絶縁層23を形成後、TFT駆動回路3および平坦化膜4を形成する。
平坦化膜4の上には、順次、陽極(反射電極)5としてAlを100nm厚、正孔注入層6としてアリールアミンを50nm厚、正孔輸送層7としてα―ナフチルフェニルジアミンを50nm厚、発光層8としてトリスアルミニウムを80nm厚、電子輸送層9としてアルミニウムキノリノール錯体を50nm厚、電子注入層10としてLiFを10nm厚、陰極(透明電極)11としてITOを120nm厚、を形成した。
【0054】
SiO2はスパッタにて形成し、ITOはレーザーアブレーション法にて形成し、その他は真空蒸着法にて形成した。真空蒸着は、真空装置の上方に設置した基板に対し、下方にモリブデン製のボートを設置し、真空度5×10−5Paに到達した時点で蒸着を開始し、0.3nm/secの速度で成膜した。基板温度は50℃以下とした。レーザーアブレーションは、真空度5×10−5Paに真空排気後、ITOターゲットにCO2ガスレーザーを照射し、2nm/secの速度で成膜した。スパッタは、真空度1×10−5Paに真空排気後、SiO2ターゲットを使用し、Ar−10%O2ガスを導入し13.5MHzの交流電力500Wを投入し、2nm/secの速度で成膜した。
【0055】
その後は、図5では省略したが、紫外線硬化性エポキシ樹脂にて封止した。陽極5と陰極11にTFT駆動回路3により直流電圧を印加し、電流を注入して発光層8より発光させる。
基板12の金属層1であるAl−0.5wt%Pdは、熱伝導率が約236(W/m・K)であり、従来のガラスでは熱伝導率0.55〜0.75(W/m・K)であるので、約300倍以上の熱伝導率があるため、OLEDにて発生した熱が外部空気中に効率良く伝達し放熱し、OLEDの温度上昇を抑制することが可能である。
【0056】
Al−0.5wt%Pd層1の表面には、深さが約0.1mmの溝を設けたが、溝を設けることにより金属表面の面積が増加するので周囲空気雰囲気との接触面積が増加し放熱しやすくなる。ディスプレイの組み立ての関係上、金属層表面に粘着剤や粘着シートや保護膜等を設ける場合でも、金属表面に凹凸を設けておけば、設けない場合より放熱効果は高くなり好ましい。
TFT駆動回路3の下の領域の絶縁層23の膜厚は約85nmと薄くなっている。薄くすることによりTFT駆動回路3の発熱が迅速にAl−0.5wt%Pd層1に伝達されるので、TFT駆動回路3の温度上昇を抑制することが可能である。
【0057】
AlにPdを添加することにより、耐応力性と耐食性が向上し、0.3mm厚と薄くしてフレキシブル化を図ることもできる。TFT駆動回路3は、プレーナー技術または有機半導体技術にて画面部内(正確には画素部内)に形成する。
【実施例3】
【0058】
図6に、本発明の実施例3を示す。本発明の実施例3においては、Al−1wt%Si−0.5wt%Cu金属層1と陽極酸化によりAl2O3絶縁層2とSiO2絶縁層23からなる基板12を用いたOLEDを提供する。
【0059】
図6は、本発明の実施例3のOLED概略断面図である。
厚さ0.1mmのAl−1wt%Si−0.5wt%Cu金属層1(熱伝導率約236W/m・K)を陽極酸化によりAl2O3で厚さ約150nmの絶縁層2を形成する。
陽極酸化は、次のように行った。化成液は3wt%の酒石酸水溶液をアンモニア水でPH6.5〜7.0に中和し、更に容量比9倍のエチレングレコールを混合したものを使用した。酸化はAl−1wt%Si−0.5wt%Cu金属層1を陽極にPt電極を陰極として化成電流を流して行う。化成電流密度は約60μA/cm2にて行い、化成電圧は約10Vで行った。
【0060】
絶縁層2を形成後、スパッタ法にて厚さ約100nmのSiO2絶縁層23を形成する。
Al−1wt%Si−0.5wt%Cu層1の表面には、深さが約0.02mmの溝が形成されている。また、TFT駆動回路3の下の領域の絶縁層23の膜厚は約85nmと薄くなっている。
【0061】
絶縁層23の上にTFT駆動回路3および平坦化膜4を形成する。平坦化膜4の上には、順次、陽極(反射電極)5としてAlを100nm厚、正孔注入層6としてアリールアミンを50nm厚、正孔輸送層7としてα―ナフチルフェニルジアミンを50nm厚、発光層8としてトリスアルミニウムを80nm厚、電子輸送層9としてアルミニウムキノリノール錯体を50nm厚、電子注入層10としてLiFを10nm厚、陰極(透明電極)11としてITOを120nm厚、を形成した。SiO2はスパッタにて形成し、ITOはレーザーアブレーション法にて形成し、その他は真空蒸着法にて形成した。
真空蒸着は、真空装置の上方に設置した基板に対し、下方にモリブデン製のボートを設置し、真空度5×10−5Paに到達した時点で蒸着を開始し、0.3nm/secの速度で成膜した。基板温度は50℃以下とした。
レーザーアブレーションは、真空度5×10−5Paに真空排気後、ITOターゲットにCO2ガスレーザーを照射し、2nm/secの速度で成膜した。スパッタは、真空度1×10−5Paに真空排気後、SiO2ターゲットを使用し、Ar−10%O2ガスを導入し13.5MHzの交流電力500Wを投入し、2nm/secの速度で成膜した。
【0062】
その後は、図6では省略したが、紫外線硬化性エポキシ樹脂にて封止した。陽極5と陰極11にTFT駆動回路3により直流電圧を印加し、電流を注入して発光層8より発光させる。
基板12の金属層1であるAl−1wt%Si−0.5wt%Cuは、熱伝導率が約236(W/m・K)であり、従来のガラスでは熱伝導率0.55〜0.75(W/m・K)であるので、約300倍以上の熱伝導率があるため、OLEDにて発生した熱が外部空気中に効率良く伝達し放熱し、OLEDの温度上昇を抑制することが可能である。
【0063】
Al−1wt%Si−0.5wt%Cu層1の表面には、深さが約0.02mmの溝を設けたが、溝を設けることにより金属表面の面積が増加するので周囲空気雰囲気との接触面積が増加し放熱しやすくなる。ディスプレイの組み立ての関係上、金属層表面に粘着剤や粘着シートや保護膜等を設ける場合でも、金属表面に凹凸を設けておけば、設けない場合より放熱効果は高くなり好ましい。
【0064】
TFT駆動回路3の下の領域の絶縁層23の膜厚は約85nmと薄くなっている。薄くすることによりTFT駆動回路3の発熱が迅速にAl−1wt%Si−0.5wt%Cu層1に伝達されるので、TFT駆動回路3の温度上昇を抑制することが可能である。
AlにSiとCuを添加することにより、耐応力性と耐食性が向上し、0.1mm厚と薄くしてフレキシブル化を図ることもできる。TFT駆動回路3は、プレーナー技術または有機半導体技術にて画面部内(正確には画素部内)に形成する。
【実施例4】
【0065】
図7に、本発明の実施例4を示す。本発明の実施例4においては、Al−0.5wt%Pd金属層1とSiO2絶縁層23からなる基板12を用いたOLEDを提供する。
【0066】
図7は、本発明の実施例4のOLED概略断面図である。厚さ0.3mmのAl−0.5wt%Pd金属層1(熱伝導率約236W/m・K)にスパッタ法にて厚さ約100nmのSiO2絶縁層23を形成する。Al−0.5wt%Pd層1の表面には、深さが約0.1mmの溝が形成されている。
【0067】
また、TFT駆動回路3の下の領域の絶縁層23の膜厚は約85nmと薄くなっている。
絶縁層23を形成後、TFT駆動回路3および平坦化膜4を形成する。
平坦化膜4の上には、順次、陽極(反射電極)5としてAlを100nm厚、正孔注入層6としてアリールアミンを50nm厚、正孔輸送層7としてα―ナフチルフェニルジアミンを50nm厚、発光層8としてトリスアルミニウムを80nm厚、電子輸送層9としてアルミニウムキノリノール錯体を50nm厚、電子注入層10としてLiFを10nm厚、陰極(透明電極)11としてITOを120nm厚、を形成した。
【0068】
SiO2はスパッタにて形成し、ITOはレーザーアブレーション法にて形成し、その他は真空蒸着法にて形成した。真空蒸着は、真空装置の上方に設置した基板に対し、下方にモリブデン製のボートを設置し、真空度5×10−5Paに到達した時点で蒸着を開始し、0.3nm/secの速度で成膜した。基板温度は50℃以下とした。レーザーアブレーションは、真空度5×10−5Paに真空排気後、ITOターゲットにCO2ガスレーザーを照射し、2nm/secの速度で成膜した。スパッタは、真空度1×10−5Paに真空排気後、SiO2ターゲットを使用し、Ar−10%O2ガスを導入し13.5MHzの交流電力500Wを投入し、2nm/secの速度で成膜した。
【0069】
発光層8からの熱と、TFT駆動回路3からの熱とを効率的に放熱するために、実施例4では、TFT駆動回路3の下の領域の絶縁層23の膜厚は約85nmと薄くするとともに、厚さ0.3mmのAl−0.5wt%Pd金属層1(熱伝導率約236W/m・K)に形成した深さが約0.1mmの溝の間隔を、TFT駆動回路3の下の領域では、密に形成して、放熱表面積を大きくしている。
【0070】
その後は、図7では省略したが、紫外線硬化性エポキシ樹脂にて封止した。陽極5と陰極11にTFT駆動回路3により直流電圧を印加し、電流を注入して発光層8より発光させる。
基板12の金属層1であるAl−0.5wt%Pdは、熱伝導率が約236(W/m・K)であり、従来のガラスでは熱伝導率0.55〜0.75(W/m・K)であるので、約300倍以上の熱伝導率があるため、OLEDにて発生した熱が外部空気中に効率良く伝達し放熱し、OLEDの温度上昇を抑制することが可能である。
【0071】
Al−0.5wt%Pd層1の表面には、深さが約0.1mmの溝を設けたが、溝を設けることにより金属表面の面積が増加するので周囲空気雰囲気との接触面積が増加し放熱しやすくなる。溝の間隔を、TFT駆動回路3の下の領域では、密に形成して、放熱表面積を大きくしたので、TFT駆動回路3からの熱も十分に効率的に放熱することができる。
ディスプレイの組み立ての関係上、金属層表面に粘着剤や粘着シートや保護膜等を設ける場合でも、金属表面に凹凸を設けておけば、設けない場合より放熱効果は高くなり好ましい。
TFT駆動回路3の下の領域の絶縁層23の膜厚は約85nmと薄くなっている。薄くすることによりTFT駆動回路3の発熱が迅速にAl−0.5wt%Pd層1に伝達されるので、TFT駆動回路3の温度上昇を抑制することが可能である。また、Al−0.5wt%Pd層1の表面に設けた深さが約0.1mmの溝の間隔を、TFT駆動回路3の下の領域では、密に形成して、放熱表面積を大きくしたので、TFT駆動回路3からの熱も十分に効率的に放熱することができる。
【0072】
AlにPdを添加することにより、耐応力性と耐食性が向上し、0.3mm厚と薄くしてフレキシブル化を図ることもできる。TFT駆動回路3は、プレーナー技術または有機半導体技術にて画面部内(正確には画素部内)に形成する。
【0073】
[実施の形態2]
図8は、本発明の実施の形態2を示すアクティブマットリックス駆動の有機発光ディスプレイパネル回路の概要を示す図である。
本発明の実施例1から4に示されたトップエミッション型有機発光ディスプレイは、有機発光層8の発光領域と重なる位置にTFT駆動回路を配置することができるので、パネル表面の発光領域を有効に活用できる効率的なアクティブマットリックス駆動の有機発光ディスプレイパネルを構成することができる。
【0074】
図8において、有機発光ディスプレイパネルには、複数の走査線31、31、31、31が水平に配置され、複数のデータ線32、32、32、32が、走査線に垂直に配置される。
走査線31とデータ線32により、各画素領域が画定され、走査線31に供給される走査線信号と、データ線32により供給されるデータ線信号により、各画素領域内の駆動回路3が駆動される。駆動回路3の制御により、陽極5と陰極11との間に直流電圧を印加し、電流を注入して有機発光層8より発光させる。
【0075】
図8には、明示されていないが、図面の画素領域の最下面全体に金属板が配置され、その上に、各駆動回路3を含む層が配置され、また、その上に、反射陽極の層5が配置され、その上に有機発光層8が配置され、更に、その上に、透明陰極11が配置される。また、必要に応じて、電源回路及び電源供給線や制御信号を供給する制御線が付加される。
走査線31とデータ線32により選択された駆動回路3の制御により、有機発光層8から発した光は、有機発光層8より下方に配置された反射陽極5により反射され、有機発光層8より上方に配置された透明陰極11を透過して光が取り出されるトップエミッション型の有機発光ディスプレイパネルとなる。
【0076】
以上のように、本発明では、駆動回路3が、各画素内の発光領域と重なる位置に配置されていても、反射陽極5を画素領域全体に配置することができ、また、その上に、有機発光層8、透明陰極11を画素領域全体に配置することが可能であり、有機発光ディスプレイパネルの発光領域を最大限に活用できるアクティブマットリックス駆動の有機発光ディスプレイパネルを構成できる。
【0077】
そして、本発明によれば、有機発光層8と駆動回路3とを近接配置したことによる発熱等の問題点については、基板を金属層と絶縁層とし、熱伝導性の良い金属材料を選択し、また、駆動回路3の下部の絶縁層の厚さや金属層に設けた放熱用の凹凸などを調整することにより解決することが可能である。
【0078】
[実施の形態3]
図9は、本発明の実施の形態3を示すアクティブマットリックス駆動の有機発光ディスプレイ装置の概要を示す図である。
図9において、アクティブマットリックス駆動の有機発光ディスプレイ装置は、アクティブマットリックス駆動のOLEDパネルと、走査線駆動回路と、データ線駆動回路とを備えている。また、図示されていないが、必要に応じて、電源回路及び電源供給線や制御信号を供給する制御線、電源制御回路、電源電圧供給回路、制御信号駆動回路等が付加される。
【0079】
走査線駆動回路により走査線に走査線信号が供給され、データ線駆動回路によりデータ線にデータ線信号が供給されて、OLEDパネル内の特定の画素が選択されると、画素内の駆動回路3が駆動され、駆動回路3の制御により、有機発光層5からの発光が、反射陽極5で反射されてOLEDパネルから取り出され、OLEDパネルに画像表示を行うことができる。
【0080】
[参考例]
本発明の実施例は、有機発光ディスプレイ内に駆動回路3を含むものであったが、図10には、参考例として、TFT駆動回路を作成せず、ほぼ全面均一に白色に発光する照明への適用例を示す。
参考例においては、Al−2wt%Nd金属層1と陽極酸化によりAl2O3絶縁層2とからなる基板12を用いたOLEDを提供する。
【0081】
図10は本発明の参考例OLED概略断面図である。厚さ0.2mmのAl−2wt%Nd金属層1(熱伝導率約236W/m・K)を陽極酸化によりAl2O3で厚さ約100nmの絶縁層2を形成する。Al−2wt%Nd金属層1とAl2O3絶縁層2をもって基板12とする。
【0082】
Al−2wt%Nd金属層1の表面には、深さが約0.1mmの溝が形成されている。陽極酸化は、次のように行った。化成液は3wt%の酒石酸水溶液をアンモニア水でPH6.5〜7.0に中和し、更に容量比9倍のエチレングレコールを混合したものを使用した。酸化はAl−2wt%Nd金属層1を陽極にPt電極を陰極として化成電流を流して行う。化成電流密度は約12μA/cm2にて行い、化成電圧は8Vで行った。絶縁層2を形成後、順次、陽極(反射電極)5としてAlを100nm厚、正孔注入層6としてアリールアミンを50nm厚、正孔輸送層7としてα―ナフチルフェニルジアミンを50nm厚、発光層8として白色燐光材料を合計膜厚約30nm、電子輸送層9としてアルミニウムキノリノール錯体を50nm厚、電子注入層10としてLiFを10nm厚、陰極(透明電極)11としてITOを120nm厚、を形成した。
【0083】
ITOはレーザーアブレーション法にて形成し、その他は真空蒸着法にて形成した。真空蒸着は、真空装置の上方に設置した基板に対し、下方にモリブデン製のボートを設置し、真空度5×10−5Paに到達した時点で蒸着を開始し、0.3nm/secの速度で成膜した。基板温度は50℃以下とした。レーザーアブレーションは、真空度5×10−5Paに真空排気後、ITOターゲットにCO2ガスレーザーを照射し、2nm/secの速度で成膜した。その後は、図5では省略したが、紫外線硬化性エポキシ樹脂にて封止した。陽極5と陰極11に直流電圧を印加し、電流を注入して発光層8より発光させる。
【0084】
基板12の金属層1であるAl−2wt%Ndは、熱伝導率が約236(W/m・K)であり、従来のガラスでは熱伝導率0.55〜0.75(W/m・K)であるので、約300倍以上の熱伝導率があるため、OLEDにて発生した熱が外部空気中に効率良く伝達し放熱し、OLEDの温度上昇を抑制することが可能である。また、密度は、Al−2wt%Ndが2.7(g/cm3)でガラスが2.6(g/cm3)であるので、同一厚さでもほぼ同一の重量にて作製できる。
【0085】
Al−2wt%Nd層1の表面には、深さが約0.1mmの溝を設けたが、溝を設けることにより金属表面の面積が増加するので周囲空気雰囲気との接触面積が増加し放熱しやすくなる。ディスプレイの組み立ての関係上、金属層表面に粘着剤や粘着シートや保護膜等を設ける場合でも、金属表面に凹凸を設けておけば、設けない場合より放熱効果は高くなり好ましい。基板を金属層とすることにより、ガラスでは不可能な基板のフレキシブル化も容易に作製可能となる。AlにNdを添加することにより、耐応力性と耐食性が向上し、0.2mm厚と薄くしてフレキシブル化を図ることもできる。
【0086】
以上は、照明等への適用提案であり、発光部の電極の加工は必要無く、電極およびOLED構成膜は、べた付けで構わない。
【0087】
[他の実施例]
以上、各実施例、参考例において、詳細に説明したが、絶縁層はAl2O3,SiO2に限定するものではなく、金属層の陽極酸化膜や自然酸化膜、AlN,MgO,Si3N4,SiOxNy等の電気的絶縁性のあるものであれば良く、また、絶縁層は単層に限らず多層膜であっても本発明に含まれる。
金属層の厚さは特に限定するものではなく、板としての使用からフィルム状の使用まで、すなわち、cmの単位からμmの単位まで用途に合わせて使い分けることが可能である。
【0088】
また、金属層表面に形成した溝は、形状、深さ等を規定するものではない。
また、本実施例では低分子系有機化合物からなるOLEDについて記載したが、高分子系有機化合物からなるOLEDにおいても、本発明の範囲に含まれる。
【0089】
また、OLEDの積層構造は、本実施例で示した、陽極、発光層、陰極の積層順番に限定するものではなく、陰極、発光層、陽極の順番でもかまわない。発光層は、R,G,Bの個別の発光層に分けることに限定するものではなく、白色発光層を形成し、R,G,Bのカラーフィルタにより画素を区別する場合でも良く、発光層を形成し、色変換層にて色を変換してその後カラーフィルタにより画素を区別する場合でも良い。
【0090】
また、駆動回路はTFT駆動回路に限定するものではなく、MIM(Metal Insulator Metal)駆動回路、SIT(Static Inductioin Transistor)駆動回路等、でも良い。
【0091】
基板の画面内(正確には画素内)に駆動回路を設けずに、陰極と発光層と陽極をべた付けした照明用OLEDにおいても、金属層と絶縁層からなる基板を用い、金属層の表面に溝形成を行うことにより、水分や酸素やアルカリ可動イオンの遮断と放熱効果を得ることが可能であるので、信頼性の高いOLED照明を実現することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0092】
以上説明したように、本発明は、OLEDを構成する有機化合物やTFT駆動回路等から発生する熱を金属層と絶縁層を含む光透過性を有しない基板を通して放熱することができ、かつ、水分や酸素やアルカリ可動イオンの遮断を行うことができるので良好なトップエミッション型OLEDに利用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】本発明の実施の形態1のトップエミッション型OLED概略断面図(実施例1)。
【図2】ガラス基板を用いた比較例としてのトップエミッション型OLED概略断面図。
【図3】本発明の実施例1と比較例との、点灯開始後の経過時間に対する輝度の変化を示す図。
【図4】本発明の実施例1と比較例との、点灯開始後の経過時間に対する温度の変化を示す図。
【図5】本発明の実施例2のトップエミッション型OLED概略断面図。
【図6】本発明の実施例3のトップエミッション型OLEDの概略断面図。
【図7】本発明の実施例3のトップエミッション型OLEDの概略断面図。
【図8】本発明の実施の形態2のアクティブマトリックス駆動のトップエミッション型OLEDパネルの概略図。
【図9】本発明の実施の形態3のアクティブマトリックス駆動のトップエミッション型OLED装置の概略図。
【図10】TFT駆動回路を作成せず、ほぼ全面均一に白色に発光する照明へ適用する参考例を示す図。
【図11】従来のボトムエミッション型OLED概略断面図である。3絶縁層2とからなる基板12を用いたOLEDを提供する。
【図12】無害な主要金属と、ガラスおよびポリカーボネイトの熱伝導率と密度を記載した表1を示す図。
【符号の説明】
【0094】
1 金属層
2,23 絶縁層
3 TFT駆動回路
4 平坦化層
5 陽極(反射電極)
6 正孔注入層
8 発光層
9 電子輸送層
10 電子注入層
11 陰極(透明電極)
12 金属層と絶縁層からなる基板
20 ガラス基板
21 陽極(透明電極)
22 陰極(反射電極)
31 走査線
32 データ線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の上に、反射電極、有機発光層、透明電極を積層したトップエミッション型有機発光ディスプレイにおいて、
前記基板と前記反射電極との間に、前記有機発光層の発光領域と重なる位置に駆動回路を配置した層を積層すると共に、前記基板は、光透過性を有しない金属層と絶縁層とからなることを特徴とするトップエミッション型有機発光ディスプレイ。
【請求項2】
基板の上に、反射電極、有機発光層を含む層、透明電極を積層したトップエミッション型有機発光ディスプレイにおいて、
前記基板と前記反射電極との間に、前記有機発光層を含む層の発光領域と重なる位置にTFT駆動回路を配置した層を積層すると共に、前記基板は、熱伝導性が良く光透過性を有しない金属層と絶縁層とからなり、前記基板の絶縁層が存在する側と逆側の前記金属層の表面に放熱用の凹凸を設けたことを特徴とするトップエミッション型有機発光ディスプレイ。
【請求項3】
基板の上に、反射電極、有機発光層を含む層、透明電極を積層したトップエミッション型有機発光ディスプレイにおいて、
前記基板と前記反射電極との間に、前記有機発光層を含む層の発光領域と重なる位置にTFT駆動回路を配置した層を積層し、前記基板は、熱伝導性が良く光透過性を有しない金属層と絶縁層とからなり、前記基板の絶縁層の膜厚が前記TFT駆動回路を配置した領域で薄いことを特徴とするトップエミッション型有機発光ディスプレイ。
【請求項4】
基板の上に、反射電極、有機発光層を含む層、透明電極を積層したトップエミッション型有機発光ディスプレイにおいて、
前記基板と前記反射電極との間に、前記有機発光層を含む層の発光領域と重なる位置にTFT駆動回路を配置した層を積層し、前記基板は、熱伝導性が良く光透過性を有しない金属層と絶縁層とからなり、前記基板の絶縁層の膜厚が前記駆動回路の領域で薄く、前記絶縁層が存在する側と逆側の金属層の表面に放熱用の凹凸を設け、前記駆動回路の位置に対応する領域では、前記凹凸の間隔が密で、放熱用の表面積が大きいことを特徴とするトップエミッション型有機発光ディスプレイ。
【請求項5】
前記基板は、AlまたはAl合金からなる金属層と絶縁層とからなることを特徴とする請求項1ないし請求項4記載のトップエミッション型有機発光ディスプレイ。
【請求項6】
前記基板の金属層のAl合金は、主成分であるAlと、Cu,Pd,Nd,Ti,Si,Mg,Mnの少なくとも1つの添加剤を含む合金、であることを特徴とする請求項5記載のトップエミッション型有機発光ディスプレイ。
【請求項7】
前記基板の絶縁層は、前記金属層の陽極酸化層を少なくとも含むことを特徴とする請求項1ないし請求項6記載のトップエミッション型有機発光ディスプレイ。
【請求項8】
請求項1ないし請求項7記載のトップエミッション型有機発光ディスプレイからなる複数の画素と、前記複数の画素内の各駆動回路を駆動して前記有機発光層から発光を行うように制御する走査線及びデータ線と、を備えたアクティブマトリックス駆動のトップエミッション型有機発光ディスプレイパネル。
【請求項9】
請求項8記載のアクティブマトリックス駆動のトップエミッション型有機発光ディスプレイパネルと、前記走査線に走査線信号を供給する走査線駆動回路と、前記データ線にデータ信号を供給するデータ線駆動回路と、を備えたアクティブマトリックス駆動のトップエミッション型有機発光ディスプレイ装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公開番号】特開2006−351314(P2006−351314A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−174746(P2005−174746)
【出願日】平成17年6月15日(2005.6.15)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】