説明

トップエミッション型有機EL表示装置

【課題】画素面積が小さい、高精細画面のトップエミッション型有機EL表示装置における輝度傾斜を小さくする。
【解決手段】有機EL表示装置の表示領域には、下部電極と上部電極の間に有機EL層がマトリクス状に形成されている。上部電極には、表示領域の側辺に配線された電源線から給電される。上部電極の抵抗によって、上部電極の電位は側辺XAにおいて最も高く、表示領域の中心軸上XCにおいて最も低い。上部電極の電位による輝度傾斜を補償するために、有機EL層の表示領域の側辺XA上の膜厚を表示領域の中心軸XC上の膜厚よりも大きくする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は有機EL表示装置に係り、特に、画面の輝度を均一とすることが出来るトップエミッション型有機EL表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL表示装置には、有機EL層から発光した光を、有機EL層等が形成されたガラス基板方向に取り出すボトムエミッション型と、有機EL層等が形成されたガラス基板と逆の方向に取り出すトップエミッション型とがある。トップエミッション型は有機EL層の面積を多く取ることが出来るのでディスプレイの明るさを大きくすることが出来るという利点がある。
【0003】
有機EL表示装置では下部電極と上部電極との間に有機EL層を挟持し、上部電極に一定電圧を印加し、下部電極にデータ信号電圧を印加して有機EL層の発光を制御することによって画像を形成する。下部電極へのデータ信号電圧の供給は薄膜トランジスタ(TFT)を介して行われる。トップエミッション型有機EL表示装置では、このTFT等の上にも有機EL層を形成することが出来るので発光面積を大きくすることが出来る。
【0004】
有機EL表示装置では上部電極から有機EL層に電流を供給する必要がある。トップエミッション型有機EL表示装置は上部電極を通して光を取り出す必要があるので、上部電極は透明でなければならない。透明電極としては、ITO(Indium Tin Oxide)、IZO(Indium Zinc Oxide)、ZnO(酸化亜鉛)、SnO(酸化錫)等が存在するが、これらの金属酸化物導電膜は抵抗が高い。
【0005】
上部電極は、表示領域全体に共通に蒸着あるいはスパッタリング等によって形成される。上部電極の抵抗が大きいと、上部電極の電源を供給する電源付近の電位と電源から遠い部分の電位とが異なることになり、表示領域内で輝度傾斜を生ずる。すなわち、電源に近い部分は明るく、電源から遠い部分は暗くなるという現象を生ずる。
【0006】
「特許文献1」には、画素における発光層の膜厚を変化させることによって、電源からの距離に起因する明るさの変化を補償する技術が記載されている。すなわち、「特許文献1」においては、電源線に沿って、電流の上流側にあっては、下流側よりも発光層の厚さを厚くする構成が記載されている。
【0007】
【特許文献1】特開2006−156773号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
「特許文献1」に記載の技術は、表示領域内にも電源線を配置し、この電源線から上部電極に電流を供給している。表示領域に形成する電源線は幅を大きくとれないために、電源線において、電圧降下が生ずる。「特許文献1」の構成は、この電源線における電圧降下を補償するために、発光層の厚さを変化させている。しかし、表示面積が対角3インチ程度以下の有機EL表示装置においては、画素の面積が小さくなるために、表示領域内に電源線を配線することは困難である。
【0009】
一方、上部電極の上側に、画素と画素の間に補助電極を配線することによって上部電極における電源電圧の低下を防止することが可能であるが、やはり、画面が小さくなって、各画素の大きさが小さくなると、補助電極を配線するスペースが取れなくなる。
【0010】
本発明の課題は、画面が比較的小さな有機EL表示装置において、電源線を表示領域に配線せずに、また、上部電極の上に補助電極を使用せずに、画面の明るさを均一にする有機EL表示装置を実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は上記課題を解決するものであり、具体的手段は次のとおりである。
【0012】
(1)下部電極と上部電極によって有機EL層が挟持された画素がマトリクス状に配置された表示領域が形成された素子基板を有するトップエミッション型有機EL表示装置であって、前記上部電極に電流を供給する電源線は、前記表示領域の外側で、前記表示領域の両側に延在し、前記有機EL層は前記表示領域の前記両側の端部における膜厚が、前記表示領域の中央部における膜厚よりも大きいことを特徴とするトップエミッション型有機EL表示装置。
【0013】
(2)下部電極と上部電極によって有機EL層が挟持された画素がマトリクス状に配置された表示領域が形成された素子基板を有するトップエミッション型有機EL表示装置であって、前記上部電極に電流を供給する電源線は、前記表示領域の外側で、前記表示領域の両側に延在し、前記有機EL層は下部電極に接する層と、発光層と、上部電極に接する層を有し、前記有機EL層の前記下部電極に接する層は、前記表示領域の前記両側の端部における膜厚が、前記表示領域の中央部における膜厚よりも大きく、かつ、前記有機EL層の全膜厚は前記表示領域の前記両側の端部において、前記表示領域の中央部におけるよりも大きいことを特徴とするトップエミッション型有機EL表示装置。
【0014】
(3)下部電極と上部電極によって有機EL層が挟持された画素がマトリクス状に配置された表示領域が形成された素子基板を有するトップエミッション型有機EL表示装置であって、前記上部電極に電流を供給する電源線は、前記表示領域の外側で、前記表示領域の両側に延在し、前記有機EL層は下部電極に接する層と、発光層と、上部電極に接する層を有し、前記有機EL層の前記下部電極に接する層はインクジェットで形成されており、前記発光層と前記上部電極に接する層は蒸着によって形成されていることを特徴とするトップエミッション型有機EL表示装置。
【0015】
(4)前記有機EL層の前記下部電極に接する層は、前記表示領域の前記両側の端部における膜厚が、前記表示領域の中央部における膜厚よりも大きく、かつ、前記有機EL層の全膜厚は前記表示領域の前記両側の端部において、前記表示領域の中央部におけるよりも大きいことを特徴とする(3)に記載のトップエミッション型有機EL表示装置。
【0016】
(5)前記有機EL表示装置はトップカソード型であることを特徴とする(1)〜(4)のいずれか1項に記載の有機EL表示装置。
【0017】
(6)前記表示領域の対角径は3インチ以下であることを特徴とする(1)〜(5)のいずれか1項に記載の有機EL表示装置。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、トップエミッション型有機EL表示装置において、電源線を表示領域の両側に配置するだけで、表示領域における輝度傾斜を小さくすることが出来る。したがって、本発明によれば、上部電極における電圧降下を小さくするための補助電極等を形成する必要がないので、画素面積が小さい、高精細画面を実現することが出来る。
【0019】
また、本発明によれば、複数層から形成された有機EL層のうち、下部電極に接する層をインクジェットによって形成し、他の層は蒸着によって形成するので、小型の有機EL表示装置の表示領域内においても、有機EL層の膜厚を変化させることが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下実施例に従い、本発明の内容を詳細に説明する。
【実施例1】
【0021】
図1は本発明が適用されるトップエミッション型の有機EL表示装置の画素部の断面図である。トップエミッション型有機EL表示装置は、有機EL層22の上にアノードが存在するトップアノード型と、有機EL層22の上にカソードが存在するトップカソード型とが存在する。図1はトップカソード型の場合であるが、トップアノード型の場合も本発明は同様に適用することが出来る。
【0022】
図1において、素子基板10の上にはSiNからなる第1下地膜11と、SiOからなる第2下地膜12が形成されている。ガラス基板からの不純物が半導体層13を汚染することを防止するためである。第2下地膜12の上には半導体層13が形成される。半導体層13はCVDによってa−Si膜が形成されたあと、レーザー照射によってpoly−Si膜に変換する。
【0023】
半導体層13を覆って、SiOからなるゲート絶縁膜14が形成される。ゲート絶縁膜14を挟んで、半導体層13と対向する部分にゲート電極15が形成される。ゲート電極15をマスクにして、半導体層13にリンあるいはボロン等の不純物をイオンインプランテーションによって打ち込み、導電性を付与して、半導体層13にソース部あるいはドレイン部を形成する。
【0024】
ゲート電極15を覆って層間絶縁膜16がSiOによって形成される。ゲート配線とドレイン電極17を絶縁するためである。層間絶縁膜16の上にはドレイン電極17が形成される。ドレイン電極17は層間絶縁膜16およびゲート絶縁膜14のスルーホール65を介して半導体層13のドレイン部と接続する。
【0025】
その後、TFTを保護するために、SiNからなる無機パッシベーション膜18が被着される。無機パッシベーション膜18の上には、有機パッシベーション膜19が形成される。有機パッシベーション膜19は無機パッシベーション膜18とともに、TFTをより完全に保護する役割を有するとともに、有機EL層22が形成される面を平坦にする役割を有する。したがって、有機パッシベーション膜19は1〜4μmと、厚く形成される。
【0026】
有機パッシベーション膜19の上には反射電極211がAlまたはAl合金によって形成される。AlまたはAl合金は反射率が高いので、反射電極211として好適である。反射電極211は有機パッシベーション膜19および無機パッシベーション膜18に形成されたスルーホール65を介してドレイン電極17と接続する。
【0027】
図1はトップカソード型の有機EL表示装置なので、有機EL層22の下部電極21はアノードとなる。反射電極211を構成するAlあるいはAl合金は、仕事関数が小さく、アノードとしては不適なので、反射電極211の上にアノードとなる下部電極21をITO(Indium Tin Oxide)によって形成する。ITOはスパッタリングによって形成した後、アニールすると導電率を上昇させることが出来る。
【0028】
下部電極21の上には有機EL層22が形成される。有機EL層22は複数の層によって形成される。本実施例では、下層からホール輸送層221、発光層222、電子輸送層223、電子注入層224が形成されている。有機EL層22の上にはアノードとなる上部電極23が形成される。本実施例では上部電極23としてはIZO(Indium Zinc Oxide)を用いている。IZOはマスクを用いず、表示領域100全体に蒸着される。IZOの厚さは光の透過率を維持するために、30nm程度に形成される。
【0029】
IZOはアニールをしない状態においては、ITOよりも抵抗が低い。有機ELは過度に熱を加えると破壊する。例えば、上部電極23にITOを使用して、ITOの抵抗を下げるために温度を加えてアニールすると、有機EL層22が破壊するので、上部電極23にはアニール前においては抵抗率の小さいIZOを使用する。
【0030】
有機EL層22は複数の層から成っているが、構成は次のとおりである。電子輸送層223としては電子輸送性を示し、アルカリ金属と共蒸着することにより電荷移動錯体化しやすいものであれば特に限定は無く、例えばトリス(8−キノリノラート)アルミニウム、トリス(4-メチル-8-キノリノラート)アルミニウム、ビス(2-メチル−8−キノリノラート)−4−フェニルフェノラート−アルミニウム、ビス[2-[2-ヒドロキシフェニル]ベンゾオキサゾラート]亜鉛などの金属錯体や2−(4−ビフェニリル)−5−(4−tert−ブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール、1,3−ビス[5−(p−tert−ブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール−2−イル]ベンゼン等を用いることができる。
【0031】
電子注入層224は電子輸送層223に用いた物質に対して電子供与性を示す材料を共蒸着して形成した、例えば、リチウム、セシウムなどのアルカリ金属、マグネシウム、カルシウムなどのアルカリ土類金属、さらには希土類金属等の金属類、あるいはそれらの酸化物、ハロゲン化物、炭酸化物等から選択して電子供与性を示す物質として用いてもかまわない。
【0032】
ホール輸送層221は、例えば、テトラアリールベンジシン化合物(トリフェニルジアミン:TPD)、芳香族三級アミン、ヒドラゾン誘導体、カルバゾール誘導体、トリアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、アミノ基を有するオキサジアゾール誘導体、ポリチオフェン誘導体、銅フタロシアニン誘導体等を用いることができる。
【0033】
発光層222材料としては電子、ホールの輸送能力を有するホスト材料に、それらの再結合により蛍光もしくはりん光を発するドーパントを添加したもので共蒸着により発光層222として形成できるものであれば特に限定は無く、例えば、ホストとしてはトリス(8−キノリノラト)アルミニウム、ビス(8−キノリノラト)マグネシウム、ビス(ベンゾ{f}−8−キノリノラト)亜鉛、ビス(2−メチル−8−キノリノラト)アルミニウムオキシド、トリス(8−キノリノラト)インジウム、トリス(5−メチル−8−キノリノラト)アルミニウム、8−キノリノラトリチウム、トリス(5−クロロ−8−キノリノラト)ガリウム、ビス(5−クロロ−8−キノリノラト)カルシウム、5,7−ジクロル−8−キノリノラトアルミニウム、トリス(5,7−ジブロモ−8−ヒドロキシキノリノラト)アルミニウム、ポリ[亜鉛(II)−ビス(8−ヒドロキシ−5−キノリニル)メタン]のような錯体、アントラセン誘導体、カルバゾール誘導体、等であっても良い。
【0034】
また、ドーパントとしてはホスト中で電子とホールを捉えて再結合させ発光するものであって、例えば赤ではピラン誘導体、緑ではクマリン誘導体、青ではアントラセン誘導体などの蛍光を発光する物質やもしくはイリジウム錯体、ピリジナート誘導体などりん光を発する物質であっても良い。
【0035】
最上層は光を取り出すために透明導電膜14であればよい。本実施例ではIZOとしたが光の透過率と電気抵抗との兼ね合いで他の透明導電膜を用いても良い。さらに、Au、Ag等の金属膜も薄くすると透明となるので、場合によっては上部電極23として使用することが出来る。
【0036】
なお、有機EL層22の端部における段切れによって,上部電極と下部電極が導通することを防止するために、画素と画素の間にバンク20が形成される。バンク20は有機材料で形成する場合もあるし、SiNのような無機材料で形成する場合もあるが,何れの場合も絶縁性材料を用いる。有機材料を使用する場合は、一般にはアクリル樹脂によって形成される。
【0037】
上部電極23は、有機EL層22の上およびバンク20の上等、有機EL表示装置の表示領域100全体に蒸着あるいはスパッタリング等によって形成される。上部電極23の上には空間を挟んでガラスによって形成された封止基板40が設置されている。有機EL層22は水分が存在すると発光効率が低下するので、水分から保護するために封止基板40が配置される。封止基板40は、端部において、TFT基板とシール材50によって接着している。封止基板40とシール材50によって素子基板10に形成された有機EL層22は水分から保護される。
【0038】
図2は、本実施例による有機EL表示装置の平面図である。図2のような液晶表示装置は、表示領域100の対角が3インチ以下の比較的小さなサイズの液晶表示装置である。図2において、有機EL層22等が形成された素子基板10と、素子基板10に形成された有機EL層22を水分から保護するための封止基板40は、周辺に形成されたシール材50を介して接着している。
【0039】
素子基板10は封止基板40よりも大きく形成され、素子基板10が封止基板40によって封止されていない部分に端子部が形成される。この端子部は図示しないフレキシブル配線基板等と接続する。フレキシブル配線基板、および端子部を介して、表示領域100に走査信号、映像信号、電源等が供給される。
【0040】
シール材50の内側には、画像が表示される表示領域100が形成されている。表示領域100よりやや広い面積に上部電極23が形成されている。上部電極23は周辺において、例えば、ドレイン電極と同層で形成された電源線60とスルーホール65を介して接続する。
【0041】
本実施例においては、電源線60は表示領域100内には配線されておらず、表示領域100の両側に配線された電源線60を介して表示領域100内の上部電極23に電流が供給される。表示領域100の両側に形成された電源線60は、幅、あるいは厚さを十分にとることが出来、かつ、Alのような抵抗率の小さな材料を用いることが出来る。したがって、電源線60上では、電圧降下は問題にならない程度に設定することが出来る。
【0042】
図2のような小さな画面においては、画素の大きさも小さいために、表示領域100内に電源線60を配線することは困難である。したがって、本実施例においては、上部電極23には表示領域100の両側に形成された電源線60のみから電流が供給される。上部電極23は金属等に比較して抵抗率の大きいIZOで形成され、かつ、光透過率を維持するために、30nm程度に薄く形成される。したがって、上部電極23において、電圧降下が生ずる。
【0043】
上部電極23における電圧降下の様子を図2のグラフに示す。図2のグラフにおいて、縦軸VAは上部電極23の電位であり、横軸は、短軸方向の位置である。XAは表示領域100の側端部すなわち長辺上、XCは中心すなわち長軸上、XMはその中間である。
【0044】
図2のグラフに示すように、上部電極23の電位VAは中心に向かうにしたがって低下する。画面の大きさが例えば、対角3インチの場合、長軸上における上部電極23の電位は、長辺上における上部電極23の電位の80%程度となる。したがって、有機EL層22の構成が同一であれば、画面中央の輝度は、画面周辺の輝度の80%程度となる。
【0045】
図3は、図2のAで示すコーナー部の拡大図である。図3は素子基板10のみ示し、シール材50は省略されている。図3において、表示領域100には、赤画素101、緑画素102、青画素103が並列して形成されている。各画素には上部電極23がIZOによって共通に形成されている。上部電極23は、画素が形成されている表示領域100よりもやや外側にまで形成され、電源線60とスルーホール65を介して接続している。
【0046】
上部電極23の外側には、電源線60が配線されている。電源線60はAlまたはAl合金で形成されているので、抵抗は小さい。したがって、電源線60において、図3の縦方向の電圧降下はほとんど問題にならない。電源線60は、ドレイン電極等と同層で形成されている。電源線60は、レイアウトによっては、ゲート線あるいは走査線と同層で形成しても良い。
【0047】
電源線60は例えば、ドレイン電極と同層で形成されているので、上部電極23との接続はスルーホール65を介して行われる。図3において、上部電極23の電位は、電源線60の付近が最も電圧が高く、白抜きの矢印で示すように、画面の中心に向かうにしたがって低下する。
【0048】
図5に示すように、画面全面に渡って有機EL層22が同じ厚さで形成されていると、画面中央における有機EL層22に印加される電界強度が画面の側部の有機EL層22に印加される電界強度よりも小さいくなるので、画面中央における明るさが低下する。
【0049】
図5において、縦軸Tは有機EL層22の厚さであり、横軸は画面の短軸方向の位置である。XA、XB、XCは図2に示す位置に対応する。図5の縦軸Tは有機EL層22の膜厚である。図5において、下部電極21の側からホール輸送層221、発光層222、電子輸送層223、電子注入層224が形成されている。図5において、全体膜厚および各層の膜厚は位置XA、XB、XCにおいて全て同じである。図5における各層の膜厚は、例えば、ホール輸送層221は110nm、発光層222は40nm、電子輸送層223は30nm、電子注入層224は30nmである。
【0050】
図5のように各場所の有機EL層22の全体の厚さおよび、個々の層の厚さは全て同じであると、画面中心付近の上部電圧の電圧が低下するので、画面中心における有機EL層22に印加される電界が小さくなり、有機EL層22の電流密度が低下するので、画面中心における輝度が低下する。
【0051】
本発明は、このような画面上の輝度の傾きを軽減するために、画面の側端すなわち長辺部分と、画面の中央すなわち画面の長軸上とで有機EL層22の厚さを変化させる。この様子を図4に示す。
【0052】
図4において、縦軸Tは有機EL層22の厚さであり、横軸は画面の短軸方向の位置である。XA、XB、XCは図2に示す位置に対応する。すなわち、XAは表示領域100の長辺の位置であり、XCは表示領域100の長軸上の位置であり、XBはその中間の位置である。
【0053】
図4において、有機EL層22の厚さは、各場所によって異なっている。有機EL層22は、画面の長辺部において、画面の長軸上よりも厚く形成されている。有機EL層は、複数の層から形成されている。すなわち、下部電極21の側からホール輸送層221、発光層222、電子輸送層223、電子注入層224が形成されている。
【0054】
図4において、画面長軸上において、有機EL層22の全ての層が画面長辺上の有機EL層22に比較して薄くなっているのではなく、最下層のホール輸送層221のみが薄くなっている。そして、ホール輸送層221の上に形成される発光層222、電子輸送層223、電子注入層224等は、画面の長辺上と画面の長軸上とで、同じ厚さとなっている。
【0055】
このような構成とすることによって、発光層222に印加される電界の強度を画面の長辺上と画面の長軸上とで同じにするとともに、発光層222の厚さを同じとすることによって、発光層222における輝度の寿命を画面長軸上と画面の長辺上とで同等にすることが出来る。
【0056】
図4における各層の具体的な厚さは、例えば次のようになっている。場所XAすなわち長辺上では、ホール輸送層221の厚さは160nm、発光層222の厚さは40nm、電子輸送層223の厚さは30nm、電子注入層224の厚さは30nmである。場所XBすなわち長辺と長軸の中間では、ホール輸送層221の厚さは135nm、発光層222、電子輸送層223、電子注入層224の膜厚は位置XAと同じである。場所XCすなわち長軸上では、ホール輸送層221の厚さは110nm、発光層222、電子輸送層223、電子注入層224の厚さは位置XA、位置XBと同じである。本実施例における各層の膜厚は以上のとおりであるが、図4のような膜構成において、最下層のホール輸送層221は、例えば、20nmから180nm程度まで変化させることが出来る。
【0057】
図4において、ホール輸送層221の膜厚のみを変化させる理由は次のとおりである。理由の一つは、ホール輸送層221の膜厚が最も大きいので、膜厚を変化させやすいことである。他の理由は、下部電極21に最も近い有機EL層22だという点である。この点を詳しく説明すると次のとおりである。
【0058】
図2に示すような有機EL表示装置は小型であるので、一個ずつ製造したのでは効率が悪い。したがって、マザー基板に多数の有機EL表示パネルを形成して、完成後に、マザー基板からダイシングあるいはスクライビング等によって個々の有機EL表示パネルを分離する。
【0059】
ところで、有機EL層22は一般には蒸着によって形成される。フォトリソグラフィの工程を使用すると、エッチング液、あるいは、現像液等によって有機EL層22がダメージを受けるからである。すなわち、有機EL層22の形成にはウェットプロセスは使用できない。
【0060】
蒸着によって有機EL層22を形成する場合に、マザー基板に形成された個々の有機EL表示パネルの内部において、膜厚を変化させることは非常に困難である。すなわち、蒸着源の位置、蒸着源と基板との距離等を制御することによって、マザー基板内における蒸着膜厚の分布は制御可能であるが、個々の液晶表示パネル内の膜厚分布は制御不可能である。
【0061】
本発明においては、有機EL層22のうち、最下層はインクジェット方式によって形成する。インクジェット方式によれば、個々の画素毎に有機EL材料の吐出量を制御することが出来る。したがって、個々の有機EL表示パネル内において、表示領域100の位置によって膜厚を変化させることが出来る。なお、インクジェットによる膜形成は大気中において行うことが出来る。
【0062】
一方、発光層222およびそれよりも上の層は表示領域100内で同じ膜厚で良いので、蒸着によって、マザー基板全体に同時に形成することが出来る。発光層222およびそれよりも上の有機EL層22は、図4におけるホール輸送層221をインクジェットによって形成し、ホール輸送層221の溶媒等が十分揮発した後、蒸着によって形成されることになる。
【0063】
以上説明したように、本発明においては、有機EL層22の最下層をインクジェット方式によって形成することによって、個々の有機EL表示パネルにおける有機EL層22全体の膜厚を変化させることが出来る。
【0064】
図2においては、電源線60は、表示領域100の側部の外側に形成しているが、表示領域100の輝度をより均一にするために、表示領域100の短辺外側にも同時に電源線60を形成する場合もありうるが、この場合も、画面の位置によって、有機EL層22の膜厚を変化させることによって、より画面の輝度を均一に出来ることは以上で説明したのと同様である。
【0065】
以上の説明においては、有機EL層22の構成は、ホール輸送層221、発光層222、電子輸送層223、電子注入層224の4層構造であるが、この層構造に限らず、他の層構造、つまり、層数が多い場合であっても、少ない場合であっても、本発明を適用することが出来る。また、層の名前は大きな問題ではない。例えば、層構造が、下部電極21から順にホール注入層、ホール輸送層221、発光層222、電子輸送層223、電子注入層224というような構成となっている場合がある。この場合も、少なくとも最下層をインクジェットで形成することによって有機EL表示パネル内における有機EL層22の膜厚を制御することが出来る。
【0066】
有機EL層22のうち、最下層の膜厚が小さいために、最下層の膜厚のみの変化では、有機EL層22全体の膜厚の制御を十分に出来ない場合は、最下層、および、その上の層の膜厚も変化させることによって有機EL層22全体の膜厚を制御することが出来る。この場合は、最下層とその上の層をインクジェットによって形成する。
【0067】
以上の説明では、図2に示すように、表示領域100の長辺外側に電源線60を配線し、表示領域100内の上部電極23に電流を供給する構成について説明した。しかし、レイアウトの都合により、表示領域100の短辺側に電源線60を配線して、表示領域100内の上部電極23に電流を供給する場合もありうる。本発明は、このような配置の有機EL表示装置についても適用することが出来る。この場合は、実施例の説明における長辺を短辺に読み替え、長軸を短軸に読み替えることによって、本発明を同様に適用することが出来る。
【0068】
また、以上の説明では、いわゆるトップカソードタイプの有機EL表示装置について説明したが、トップアノードタイプの有機EL表示装置についても、同様にして、本発明を適用することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】有機EL表示装置の断面図である。
【図2】本発明の有機EL表示装置の平面図である。
【図3】図2のコーナー部の詳細平面図である。
【図4】本発明の有機EL層の構成である。
【図5】従来例の有機EL層の構成である。
【符号の説明】
【0070】
10…素子基板、 11…第1下地膜、 12…第2下地膜、 13…半導体層、 14…ゲート絶縁膜、 15…ゲート電極、 16…層間絶縁膜、 17…SD電極、 18…無機パッシベーション膜、 19…有機パッシベーション膜、 20…バンク、 21…下部電極、 22…有機EL層、 23…上部電極、 40…封止基板、 50…シール材、 60…電源線、 65…スルーホール、 70…端子部、 100…表示領域、 101…赤画素、 102…緑画素、 103…青画素、 211…反射電極、 221…ホール輸送層、 222…発光層、 223…電子輸送層、 224…電子注入層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下部電極と上部電極によって有機EL層が挟持された画素がマトリクス状に配置された表示領域が形成された素子基板を有するトップエミッション型有機EL表示装置であって、
前記上部電極に給電する電源線は、前記表示領域の外側で、前記表示領域の両側に延在し、前記有機EL層は前記表示領域の前記両側の端部における膜厚が、前記表示領域の中央部における膜厚よりも大きいことを特徴とするトップエミッション型有機EL表示装置。
【請求項2】
下部電極と上部電極によって有機EL層が挟持された画素がマトリクス状に配置された表示領域が形成された素子基板を有するトップエミッション型有機EL表示装置であって、
前記上部電極に給電する電源線は、前記表示領域の外側で、前記表示領域の両側に延在し、
前記有機EL層は下部電極に接する層と、発光層と、上部電極に接する層を有し、
前記有機EL層の前記下部電極に接する層は、前記表示領域の前記両側の端部における膜厚が、前記表示領域の中央部における膜厚よりも大きく、かつ、前記有機EL層の全膜厚は前記表示領域の前記両側の端部において、前記表示領域の中央部におけるよりも大きいことを特徴とするトップエミッション型有機EL表示装置。
【請求項3】
下部電極と上部電極によって有機EL層が挟持された画素がマトリクス状に配置された表示領域が形成された素子基板を有するトップエミッション型有機EL表示装置であって、
前記上部電極に給電する電源線は、前記表示領域の外側で、前記表示領域の両側に延在し、
前記有機EL層は下部電極に接する層と、発光層と、上部電極に接する層を有し、
前記有機EL層の前記下部電極に接する層はインクジェットで形成されており、前記発光層と前記上部電極に接する層は蒸着によって形成されていることを特徴とするトップエミッション型有機EL表示装置。
【請求項4】
前記有機EL層の前記下部電極に接する層は、前記表示領域の前記両側の端部における膜厚が、前記表示領域の中央部における膜厚よりも大きく、かつ、前記有機EL層の全膜厚は前記表示領域の前記両側の端部において、前記表示領域の中央部におけるよりも大きいことを特徴とする請求項3に記載のトップエミッション型有機EL表示装置。
【請求項5】
前記有機EL表示装置はトップカソード型であることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の有機EL表示装置。
【請求項6】
前記表示領域の対角径は3インチ以下であることを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の有機EL表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−27947(P2010−27947A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−189428(P2008−189428)
【出願日】平成20年7月23日(2008.7.23)
【出願人】(502356528)株式会社 日立ディスプレイズ (2,552)
【Fターム(参考)】