説明

トランスミッションシフトダウン制御システム

選択的に係合する際に複数の出力比をもたらすように構成された複数のギアを有するトランスミッションを有する、機械用のパワートレインを提供する。パワートレインは、シフトダウン事象中に出力ギア比の無効化を必要とする状態を示す少なくとも1つのパラメータを検知するように構成された少なくとも1つのセンサも有する。さらに、パワートレインは、少なくとも1つのパラメータに応じて、トランスミッションを第1モードまたは第2モードのいずれかに調節するように構成されたコントローラを有する。コントローラがトランスミッションを第1モードに調節している間に発生するシフトダウン事象中は、出力ギア比のうちの少なくとも1つが無効になる。さらに、コントローラがトランスミッションを第2モードに調節している間に発生するシフトダウン事象中は、すべての出力ギア比が有効である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、トランスミッション制御システムに関し、特にトランスミッションシフトダウン制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
たとえばホイールローダ、ブルドーザ、バックホー、ダンプトラックおよび他の重機等の機械を用いて、多くの作業が行われる。これら作業を有効に行うために、機械には、1つまたは複数の地面係合装置または作業器具にトランスミッションを介して著しいトルクを提供するエンジンが必要である。多くの場合、これら機械は、所定の組合せで選択的に係合する複数のギアを有するオートマチックトランスミッションを利用して、所望の出力ギア比をもたらす。
【0003】
環境によっては、シフトダウン手続きが必要な場合がある。さらに、シフトダウン手続き中に出力ギア比をスキップする方が、各出力ギア比を通してシフトダウンするより効率的である場合がある。従来のオートマチックトランスミッションは、こうした環境を、操作者(オペレータ)の入力、検知された機械状態および環境状態の組合せに依ることによって確定する。シフトダウン動作中に出力ギア比をスキップするべきか否かを判断する時、トランスミッション制御システムは、機械状態および環境状態をアルゴリズム、マップ、チャートおよび/またはグラフと比較する。しかしながら、制御システムは、操作者、機械および環境からデータを受け取りかつそれを解釈しなければならず、それには一定の時間が必要であるため、シフトダウン中に出力ギア比をスキップするか否かを判断することが、シフトダウンが必要な状態である瞬間とシフトダウン機能が実際に発生する瞬間との間の望ましくない遅延の要因となる可能性がある。
【0004】
2003年4月22日にChhaya他に発行された(特許文献1)(‘301特許)は、シフトダウンが必要な状態である瞬間とシフトが実際に発生する瞬間との間の遅延を低減することができる方法を開示している。(特許文献1)に開示されているシステムは、運転者が行うトルク要求を連続的に監視し格納する。このシステムは、格納されたトルク要求データを用いて、運転者の運転スタイルが攻撃的であるかまたは慎重であるかを判断する。運転者が攻撃的である場合、より頻度が高く、より高速でかつより高いトルク変動が必要である可能性がある。運転者が慎重である場合、より頻度が低く、より低速でかつより低いトルク変動が必要である可能性がある。車両が運転される際、トランスミッション制御システムは、運転者の運転スタイルに基づいて運転者のギアをシフトする必要性を予測する。特に、制御システムは、運転者の運転スタイルの必要性を満たす特定の状況に対し、その状況が実際に発生する前に、最適なトランスミッション出力ギア比を予測する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第6,553,301号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
(特許文献1)が開示するシステムは、シフトダウン手続きが必要な状態である瞬間とシフトが実際に発生する瞬間との間の遅延を低減することができるが、その使用は限られている可能性がある。特に、システムは、現状況に対して最適なトランスミッション出力ギア比を予測する時、操作者の運転スタイルに焦点を合わせる。しかしながら、機械状態および環境状態により、操作者の運転スタイルとは無関係に、シフトダウン手続き中に出力ギア比をスキップすることが必要となる場合がある。こうした状況では、(特許文献1)のシステムは、シフトダウン手続きが必要な瞬間とシフトが実際に発生する瞬間との間の遅延を低減することができない可能性がある。
【0007】
開示するシステムは、上述した問題のうちの1つまたは複数の克服することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
一態様では、本開示は、選択的に係合する際に複数の出力比をもたらすように構成された複数のギアを有するトランスミッションを有する、機械用のパワートレインに関する。さらに、パワートレインは、シフトダウン事象中に出力ギア比の無効化を必要とする状態を示す少なくとも1つのパラメータを検知するように構成された少なくとも1つのセンサも有する。パワートレインは、少なくとも1つのパラメータに応じて、トランスミッションを第1モードまたは第2モードのいずれかに調節するように構成されたコントローラをさらに有する。コントローラがトランスミッションを第1モードに調節している間に発生するシフトダウン事象中は、出力ギア比のうちの少なくとも1つが無効になる。さらに、コントローラがトランスミッションを第2モードに調節している間に発生するシフトダウン事象中は、すべての出力ギア比が有効である。
【0009】
本開示の別の態様と一貫して、トランスミッションを動作させる方法を提供する。本方法は、シフトダウン事象中に出力ギア比を無効にする必要のある現状態を示す少なくとも1つのパラメータを検知するステップを含む。さらに、本方法は、少なくとも1つの現状態を、先のシフトダウン事象中に発生した少なくとも1つの先の状態と比較するステップを含む。本方法は、比較に応じて複数のギアを第1モードまたは第2モードのいずれかで選択的に係合させるステップをさらに含む。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】作業現場における機械の概略図である。
【図2】図1の機械で使用する例示的な開示するオペレータステーションの絵図である。
【図3】図1の機械で使用する例示的な開示するパワートレインである。
【図4】図3に示すパワートレインのトランスミッションを動作させる例示的な方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1は、協働して作業を達成する複数のシステムおよび構成要素を有する例示的な機械10を示す。機械10が行う作業は、採掘、建設、農業、輸送、発電、または本技術分野において既知である他の任意の産業等、特定の産業に関連することができる。たとえば、機械10は、図1に示すホイールローダ、バス、ハイウェイホールトラック、または本技術分野において既知である他の任意のタイプの可動機械等の可動機械を具現化することができる。機械10は、オペレータステーション12、作業器具14および1つまたは複数の牽引装置16を有することができる。
【0012】
図1を参照すると、材料の山20に近づいている機械10が示されている。山20は、作業器具14内に積載され別の場所に降ろされる種々の材料のうちの任意のものを含むことができる。たとえば、山20は、砂利、砂、泥等を含むことができる。機械10がその動作の過程の間に積載すべき材料の山にはさまざまな種類があり得ることが考えられる。
【0013】
図2に示すように、オペレータステーション12は、機械操作者から所望の機械走行操作を示す入力を受け取る装置を有することができる。特に、オペレータステーション12は、オペレータシート24に近接して配置された1つまたは複数のオペレータインタフェース装置22を有することができる。オペレータインタフェース装置22は、所望の機械操作を示す信号を生成することにより機械10の移動を開始しかつ/または調節することができる。一実施形態では、オペレータインタフェース装置22は、左フットペダル26、右フットペダル28およびギアスキップスイッチ30を有することができる。操作者は、左フットペダル26および/または右フットペダル28を操作する(すなわち、左フットペダル26および/または右フットペダル28をニュートラル位置から変位させる)と、対応する機械走行移動を予期しかつそれをもたらすことができる。さらに、操作者は、ギアスキップスイッチ30を係合位置まで移動させると、たとえば、シフトダウン事象中に選択された出力ギア比を無効にすることができるギアスキップモード等、対応するトランスミッション動作モードをもたらすことができる。望ましい場合、機械10の走行制御のために、オペレータステーション12内に、たとえば、ジョイスティック、レバー、スイッチ、ノブ、ホイールおよび本技術分野において既知である他の装置等、フットペダル以外のオペレータインタフェース装置を設けることができることが考えられる。オペレータインタフェース装置22は2つ以上のギアスキップスイッチ30を有してもよく、その場合、各ギアスキップスイッチ30は、特定の出力ギア比を無効にすることに対応し得ることがさらに考えられる。別法として、ギアスキップスイッチ30を省略し得ることが考えられる。
【0014】
作業器具14(図1参照)は、特定の作業を行うために用いられる任意の装置を含むことができる。たとえば、作業器具14は、バケット、フォーク機構、ブレード、ショベル、リッパ、ダンプベッド、ブルーム、スノーブロワ、推進装置、切断装置、把持装置、または本技術分野において既知である他の任意の作業遂行装置を含むことができる。作業器具14を、直接ピボットを介して、リンクシステムを介して、1つまたは複数の液圧シリンダを介して、または他の任意の適切な方法で機械10に連結することができる。作業器具14を、本技術分野において既知である任意の方法で、機械10に対して枢動させ、回転させ、摺動させ、搖動させ、持ち上げまたは移動させるように構成することができる。
【0015】
牽引装置16は、機械10の両側(一方の側のみ示す)に配置された車輪を具現化することができる。別法として、牽引装置16は、無限軌道、ベルトまたは他の既知の牽引装置を含むことができる。機械10上の車輪の任意の組合せを駆動しかつ/または操舵することができることが考えられる。
【0016】
図3に示すように、パワートレイン18は、動力を発生し牽引装置16に伝達するように構成された一体型パッケージであり得る。特に、パワートレイン18は、動力を発生するように動作可能な動力源32と、トルクコンバータ34と、動力を受け取り、それを有用な方法で牽引装置16(図1参照)に伝達するように接続されたトランスミッションユニット36と、1つまたは複数のセンサ38と、1つまたは複数の入力に応じてトランスミッションユニット36の動作を調節するように構成されたコントローラ40とを有することができる。
【0017】
動力源32は、協働して機械的出力または電気的出力を生成する複数のサブシステムを有する内燃機関を有することができる。本開示の目的で、動力源32を、4ストロークディーゼルエンジンとして示し説明する。しかしながら、当業者は、動力源32が、たとえばガソリンまたは気体燃料エンジン等、他の任意のタイプの内燃機関であり得ることを理解するであろう。動力源32に含まれるサブシステムには、たとえば、燃料系、吸気系、排気系、潤滑系、冷却系または他の任意の適切な系統があり得る。
【0018】
トルクコンバータ34は、動力源32をトランスミッションユニット36に結合するように構成された油圧機械装置であり得る。特に、トルクコンバータ34は、動力源32の出力とトランスミッションユニット36の入力との間で加圧流体を流すことにより、トランスミッションユニット36を駆動することができ、一方で、動力源32が依然として、トランスミッションユニット36とは無関係に幾分か回転することができるようにする。この構成において、トルクコンバータ34は、動力源32の出力回転とトランスミッションユニット36の入力回転との間のスリップを可能にするかまたは阻止することにより、動力源32とトランスミッションユニット36との間で移送されるトルクを選択的に吸収しかつ増大させることができる。
【0019】
トランスミッションユニット36は、動力源32からの動力を牽引装置16に伝達するように相互作用する多数の構成要素を有することができる。特に、トランスミッションユニット36は、ニュートラル出力ギア比、複数の前進出力ギア比、後退出力ギア比および1つまたは複数のクラッチ42を有する多段速度双方向機械式トランスミッションであり得る。所望の出力ギア比をもたらすために、クラッチ42をギア44の所定の組合せと係合するように選択的に作動させてもよい。トランスミッションユニット20はオートマチックタイプのトランスミッションであってもよく、シフトは、動力源速度、選択された最大出力ギア比およびシフトマップに基づくことが考えられる。トランスミッションユニット36の出力を、出力シャフト46を介して牽引装置16に接続し、それを回転駆動するように構成することができ、それにより機械10を推進させる。
【0020】
トランスミッションユニット36を、少なくとも部分的に、左フットペダル26および右フットペダル28によって制御することができる。すなわち、左フットペダル26および右フットペダル28は、操作者によって操作されると、たとえば所望のトルク出力および/または所望の速度制限等、所望の被駆動要素の出力を示す電気信号を提供することができる。たとえば、左フットペダル26および右フットペダル28は、最大位置を有し、位置の範囲を通して最大位置まで移動可能であり得る。左フットペダル26および右フットペダル28の各々に関連して、それぞれその変位位置を検知し、変位位置に応じた対応する信号を生成するセンサ48および50を設けることができる。センサ48および50は、たとえばスイッチまたはポテンショメータ等、フットペダル26および28の変位を検知することができるいかなるセンサであってもよい。センサ48および50からの変位信号を、コントローラ40を通してトランスミッションユニット36に向けることにより、クラッチ42およびギア44を制御することができる。
【0021】
センサ38を、機械10全体に配置することができ、シフトダウン事象を行っている時に出力ギア比をスキップするべき時を確定するために有用であり得る、機械状態および環境要因を示す、さまざまなパラメータを検知するように構成することができる。こうした状態および要因には、機械10のグローバル位置、機械10が走行している可能性のある地面の傾斜、作業器具14の位置、作業器具14の状態(すなわち、作業器具14が荷を運搬しているか否か)、操作者の識別、またはギアスキップモードで動作するか否かを判断する時に有用であり得る他の任意の状態があり得る。さらに、センサは、たとえば磁気ピックアップタイプセンサ、近接センサ、GPS受信機、または上述した状態および要因を検知することができる他の任意のタイプの検知装置等、いかなるタイプの検知装置であってもよい。センサ38が生成する信号を、連続的に、周期的に、またはコントローラ40によって要求された時にのみ送信してもよい。
【0022】
コントローラ40を、デフォルトモードまたはギアスキップモードのいずれかで動作するように構成することができ、コントローラ40は、さまざまな受信信号に応じてトランスミッションユニット36の動作を制御する単一のマイクロプロセッサまたは複数のマイクロプロセッサを具現化してもよい。多数の市販のマイクロプロセッサを、コントローラ40の機能を実行するように構成することができる。コントローラ40は、多数の機械機能を制御することができる汎用機械マイクロプロセッサを容易に具現化することができることが理解されるべきである。コントローラ40は、メモリ、補助記憶装置、プロセッサ、およびアプリケーションを実行する他の任意のコンポーネントを有することができる。電源回路、信号調整回路、ソレノイドドライバ回路および他のタイプの回路等、他のさまざまな回路を、コントローラ40に関連付けることができる。
【0023】
デフォルトモードで動作している時、コントローラ40は、トランスミッションユニット36に対し、いかなる出力ギア比も無効にすることなくシフトダウン事象を行わせることができる。たとえば、コントローラ40は、トランスミッションユニット36が第3出力ギア比で動作している時にシフトダウン要求を受け取る場合がある。コントローラ40は、デフォルトモードで動作している時、トランスミッションユニット36に対し、第1出力ギア比にシフトダウンする前に第3出力ギア比から第2出力ギア比までシフトダウンさせることができる。操作者、機械状態および/または環境要因によってコントローラ38がギアスキップモードで動作することにならない限り、コントローラ40はデフォルトモードで動作することができることが理解されるべきである。
【0024】
コントローラ40は、ギアスキップスイッチ30および/またはセンサ38、48および50から受け取った信号に応じてギアスキップモードで動作することができる。操作者は、ギアスキップスイッチ30を作動させることによって、コントローラ40に対しギアスキップモードで動作させることができる。さらに、現機械状態および/または環境要因が、コントローラ40がギアスキップモードで動作していた時の先のシフトダウン事象中に存在した機械状態および/または環境要因に実質的に類似する場合、コントローラ40はギアスキップモードで動作することができる。さらに、ギアスキップスイッチ30およびセンサ38、48および50から受け取ったこうした信号を、信号がシフトダウン事象中に受け取られかつコントローラ40がギアスキップモードで動作している場合、コントローラ40のメモリに格納することができる。
【0025】
ギアスキップモードで動作している時、コントローラ40は、シフトダウン事象中に、選択された出力ギア比を無効にすることができる。たとえば、コントローラ40は、トランスミッションユニット36が第3出力ギア比で動作している時にシフトダウン要求を受け取る場合がある。コントローラ40がギアスキップモードで動作しており、かつ第2出力ギア比が無効であるように選択されている場合、コントローラ40は、トランスミッションユニット36に対し、第3出力ギア比から第1出力ギア比に直接シフトダウンさせることができる。選択された出力ギア比を、コントローラ40のメモリに事前プログラムすることができ、それにより、コントローラ40は、ギアスキップモードで動作している時はいつでも特定の出力ギア比のみを無効にすることができる。たとえば、コントローラ40が、第2出力ギア比を無効にするように事前プログラムされている場合、コントローラ40がギアスキップモードで動作している時はいつでも、第2出力ギア比のみが無効になる唯一の出力ギア比であり得る。
【0026】
別法として、無効にする出力ギア比を動的に選択してもよく、それにより、特定のシフトダウン事象中に任意のギアを無効にすることができる。たとえば、操作者は、第3出力ギア比および第2出力ギア比にそれぞれ対応するギアスキップスイッチ30を作動させることにより、第3出力ギア比を第1シフトダウン事象中に無効にするように選択し、第2出力ギア比を第2シフトダウン事象中に無効にするように選択することができる。さらに、コントローラ40は、現機械状態および環境要因が、先の第3出力ギア比の無効化中に存在した機械状態および環境要因に類似する場合に、第3出力ギア比を無効にするように選択し、現機械状態および環境要因が、先の第2出力ギア比の無効化中に存在した機械状態および環境要因に類似する場合に、第2出力ギア比を無効にするように選択することができる。
【0027】
実施形態によっては、無効にする出力ギア比を、事前プログラムするとともに動的に選択することができることが考えられる。1つの例示的な実施形態では、オペレータインタフェース装置22は、1つのギアスキップスイッチ30しか有していなくてもよい。こうした実施形態では、無効にする出力ギア比を、操作者がギアスキップモードを開始する時に事前プログラムしてもよい。しかしながら、機械状態および/または機械要因によってコントローラ40がギアスキップモードで動作し、操作者がギアスキップスイッチ30を作動させていない場合に、コントローラ40を、上述したように無効にする出力ギア比を動的に選択するように構成してもよい。別の例示的な実施形態では、オペレータインタフェース装置22は、2つ以上のギアスキップスイッチ30を有していてもよい。こうした実施形態では、無効にする出力ギア比を、操作者が動的に選択してもよい。しかしながら、操作者がいかなるギアスキップスイッチ30も作動させておらず、機械状態および/または環境要因によりコントローラがギアスキップモードで動作する場合に、コントローラ40がいかなるシフトダウン事象中にも1つの事前プログラムされた出力ギア比のみを無効にすることができるように、選択された出力ギア比をコントローラ40のメモリに事前プログラムしてもよい。
【0028】
以下の項で説明する図4は、開示したシステムの実施形態を利用する機械10の動作を示す。図4は、シフトダウン事象中にギアをスキップする必要を予期するために用いられる例示的な方法を示す。
【産業上の利用可能性】
【0029】
開示したシステムは、シフトダウンが必要な状態である瞬間とシフトダウン事象が実際に発生する瞬間との間に発生する可能性のある望ましくない遅延を低減するかまたはなくすことができる。特に、開示したシステムは、過去のシフトダウン事象中に存在した先の状態を分析し、シフトダウン事象発生を必要とする状態が発生する前に、出力ギア比を無効にするべきか否かを判断することができる。出力ギア比無効の判断を、シフトダウン事象が必要な状態である瞬間より前に行うことができるため、その判断によって望ましくない遅延がもたらされるのを防止することができ、それによりこうした遅延が低減されるかまたは除去される。ここで、出力ギア比を無効にするべきか否かを判断する方法について説明する。
【0030】
図4は、シフトダウン事象中にギアをスキップすることが必要であり得る時を確定する例示的な方法を示すフローチャートを示す。方法は、ギアスキップスイッチ30が作動されたか否かを判断することによって開始することができる(ステップ200)。コントローラ40は、ギアスイッチ30からそれが作動したことを示す信号を受け取ることによって、ギアスキップスイッチ30が作動したと判断することができる。2つ以上のギアスキップスイッチ30を有する実施形態では、コントローラ40は、作動した特定のギアスキップスイッチ30から信号を受け取ることにより、いずれのギアスキップスイッチ30が作動したかを判断することができる。コントローラ40は、ギアスキップスイッチ30が作動したと判断した場合(ステップ200、Yes)、ギアスキップモードでの動作を開始するかまたは継続することができる(ステップ202)。ギアスキップモードでは、コントローラ40は、任意のダウンシフト時に、選択された出力ギア比を無効にすることができるようにトランスミッションユニット36を調節することができる。オペレータインタフェース装置22が2つ以上のギアスキップスイッチ30を有する場合、選択される出力ギア比を事前プログラムすることができる。こうした実施形態では、コントローラ40は、任意のシフトダウン事象中にも事前プログラムされた出力ギア比のみを無効にすることができる。別法として、オペレータインタフェース装置22が2つ以上のギアスキップスイッチ30を有する場合、操作者が、無効にする出力ギア比を動的に選択してもよい。動的選択を、ギアスキップスイッチ30の任意の1つを作動させることによって行ってもよい。選択された出力ギア比を、シフトダウン事象中、関連するギアスキップスイッチ30が作動しかつコントローラ40がギアスキップモードで動作している間にのみ無効にすることができる、ということが理解されるべきである。ギアスキップモードでの動作を開始するかまたは継続した後、ステップ200を繰り返すことができる(すなわち、コントローラ40は、ギアスキップスイッチ30が作動したか否かを判断することができる)。
【0031】
コントローラ40は、ギアスキップスイッチ30が作動していないと判断した場合(ステップ200、No)、センサ38、48および50から現機械状態および環境データを受け取ることができる(ステップ204)。こうしたデータには、たとえば、操作者識別、機械10のグローバル位置、作業器具14の位置、作業器具14の状態(すなわち、作業器具14が荷を運搬しているか否か)、またはシフトダウン事象中に出力ギア比を無効にすべき時を確定するために有用な他の任意の機械状態および/または環境要因があり得る。
【0032】
コントローラ40は、センサ38、48および50から現データを受け取った後、受け取ったデータをコントローラ40のメモリに格納されているデータと比較することができる(ステップ206)。コントローラ40のメモリに格納されているこうしたデータは、出力ギア比が無効になった過去のシフトダウン動作中に存在した機械状態および/または環境要因を記述することができる。コントローラ40は、現データを格納されたデータと比較した後、現機械状態および/または環境要因により、シフトダウン事象中に出力ギア比を無効にする必要があるか否かを判断することができる(ステップ208)。
【0033】
コントローラ40は、現データと格納データとを比較する時、任意の機械状態または環境要因を用いて、出力ギア比を無効にするべきか否かを判断することができる。機械10が山20から材料を取り除くために用いられる一例では、機械10のグローバル位置を用いて、出力ギア比を無効にするべきか否かを判断することができる。機械10が山20に向かって走行している間、ギア44を第3出力ギア比に設定することができる。しかしながら、作業器具14が山20に突き当たるとすぐに、ギア44を第1出力ギア比に設定する必要がある可能性がある。コントローラ40のメモリに格納されているデータは、機械10が山20に対して特定のグローバル位置にある時、シフトダウン事象中に第2出力ギア比を無効にすることができ、その場合、トランスミッション36が第3出力ギア比から第1出力ギア比にシフトダウンする、ということを示すことができる。現データが、機械10が上述した位置と実質的に類似する位置にあることを示す場合、コントローラ40は、機械10の位置が変化するまで、シフトダウン事象中に第2出力ギア比を無効にする必要があり得ると判断することができる。
【0034】
別の例では、コントローラ40のメモリに格納されたデータは、特定の操作者が機械10を操作する時はいつでも、すべてのシフトダウン事象中に第3出力ギア比を無効にすることができることを示してもよい。したがって、現データが、上述した操作者が機械10を操作していることを示す場合、コントローラ40は、シフトダウン事象中に第3出力ギア比を無効にする必要があり得ると判断することができる。
【0035】
コントローラ40は、現機械状態および/または環境要因により、シフトダウン事象中に出力ギア比を使用停止にする必要があると判断した場合(ステップ208、Yes)、ギアスキップモードでの動作を開始するかまたは継続することができる(ステップ210)。ギアスキップモードでの動作を開始するかまたは継続した後、ステップ200を繰り返すことができる(すなわち、コントローラ40は、ギアスキップスイッチ30が作動したか否かを判断することができる)。コントローラ40は、現機械状態および/または環境要因により、シフトダウン事象中に出力ギア比を無効にする必要がないと判断した場合(ステップ208、No)、デフォルトモードでの動作を開始するかまたは継続することができる(ステップ212)。デフォルトモードでは、シフトダウン事象中にいかなる出力ギア比も決して無効にならない。デフォルトモードでの動作が開始するかまたは継続した後、ステップ200を繰り返すことができる(すなわち、コントローラ40は、ギアスキップスイッチ30が作動したか否かを判断することができる)。
【0036】
開示したシステムは、将来のシフトダウン事象によって特定の出力ギア比を無効にする必要があり得る時を予測することができる。特に、コントローラは、シフトダウン事象に先立って、操作者入力、機械データおよび/または環境データに応じて、シフトダウン事象中に出力ギア比を無効にする必要があり得ると判断することができる。シフトダウン事象に先立って出力ギア比無効の判断を行うことができるため、その判断により、シフトダウン事象を必要とする状態である瞬間とシフトダウン事象が実際に発生する瞬間との間の望ましくない遅延がもたらされるのを防止することができ、それにより遅延が低減するかまたは除去される。さらに、判断が操作者入力、機械データおよび/または環境データに基づくことにより、開示したシステムが、シフトダウン事象を必要とする状態である瞬間とシフトダウン事象が実際に発生する瞬間との間の遅延を低減することができる、状況の多様性を増大させることができる。
【0037】
当業者には、本開示の範囲から逸脱することなく、開示したシステムにおいてさまざまな変更および変形を行うことができることが明らかとなろう。他の実施形態が、本明細書で開示した明細事項を考慮することにより当業者には明らかとなろう。明細事項および例は、単に例示するものとしてみなされるべきであり、真の範囲は以下の特許請求の範囲およびそれらの等価物によって示される、ということが意図されている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
機械用のパワートレインであって、
選択的に係合する際に複数の出力比をもたらすように構成された複数のギアを有するトランスミッションと、
シフトダウン事象中に出力ギア比の無効化を必要とする状態を示す少なくとも1つのパラメータを検知するように構成された少なくとも1つのセンサと、
少なくとも1つのパラメータに応じて、トランスミッションを第1モードまたは第2モードのいずれかに調節するように構成されたコントローラであって、コントローラがトランスミッションを第1モードに調節している間に発生するシフトダウン事象中は、出力ギア比のうちの少なくとも1つが無効になり、コントローラがトランスミッションを第2モードに調節している間に発生するシフトダウン事象中は、すべての出力ギア比が有効である、コントローラと、
を具備するパワートレイン。
【請求項2】
コントローラが、少なくとも1つのセンサから受け取る現データおよび格納データに応じて、トランスミッションを第1モードまたは第2モードのいずれかに調節するように構成される、請求項1に記載のパワートレイン。
【請求項3】
コントローラが、現データが格納データと実質的に類似する時、トランスミッションを第1モードに調節するように構成される、請求項2に記載のパワートレイン。
【請求項4】
現データおよび格納データが、機械データおよび/または環境データを含む、請求項3に記載のパワートレイン。
【請求項5】
コントローラが、トランスミッションを第1モードに調節する時、すべてのシフトダウン事象中、同じ所定出力ギア比を無効にするように構成される、請求項4に記載のパワートレイン。
【請求項6】
コントローラが、トランスミッションを第1モードに調節する時、任意のシフトダウン事象中、出力ギア比のうちの任意のものを無効にするように構成される、請求項4に記載のパワートレイン。
【請求項7】
少なくとも1つの操作者入力装置をさらに有し、コントローラが、少なくとも1つの操作者入力装置から受け取る信号に応じて、トランスミッションを第1モードまたは第2モードのいずれかに調節するように構成される、請求項1に記載のパワートレイン。
【請求項8】
トランスミッションを動作させる方法であって、
シフトダウン事象中に出力ギア比を無効にする必要のある現状態を示す少なくとも1つのパラメータを検知するステップと、
少なくとも1つの現状態を、先のシフトダウン事象中に発生する少なくとも1つの先の状態と比較するステップと、
比較に応じて複数のギアを第1モードまたは第2モードのいずれかで選択的に係合させるステップと、
を含む方法。
【請求項9】
複数のギアの選択的係合が第1モードで発生する時、シフトダウン事象中に出力ギア比のうちの少なくとも1つを無効にするステップをさらに含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
複数のギアの選択的係合が第2モードで発生する時、シフトダウン事象中にすべての出力ギア比が有効である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
少なくとも1つの現状態が少なくとも1つの先の状態と実質的に類似する時、複数のギアを第1モードで選択的に係合させるステップをさらに含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
複数のギアの選択的係合が第1モードで発生する時、すべてのシフトダウン事象中に同じ所定の出力ギア比を無効にするステップをさらに含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
複数のギアの選択的係合が第1モードで発生する時、任意のシフトダウン事象中に出力ギア比のうちの任意のものを無効にするステップをさらに含む、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
シフトダウン事象中に出力ギア比を無効にする要求を示す操作者入力を受け取るステップをさらに含む、請求項8に記載の方法。
【請求項15】
操作者入力に応じて、複数のギアを第1モードまたは第2モードのいずれかで選択的に係合させるステップをさらに含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
機械であって、
動力を発生するように構成された動力源と、
機械を推進させるように構成された少なくとも1つの牽引装置と、
選択的に係合する際に複数の出力比をもたらすように構成された複数のギアを有するトランスミッションと、
シフトダウン事象中に出力ギア比の無効化を必要とする状態を示す少なくとも1つのパラメータを検知するように構成された少なくとも1つのセンサと、
少なくとも1つのパラメータに応じて、トランスミッションを第1モードまたは第2モードのいずれかに調節するように構成されたコントローラであって、コントローラがトランスミッションを第1モードに調節している間に発生するシフトダウン事象中は、出力ギア比のうちの少なくとも1つが無効になり、コントローラがトランスミッションを第2モードに調節している間に発生するシフトダウン事象中は、すべての出力ギア比が有効である、コントローラと、
を具備する機械。
【請求項17】
コントローラが、少なくとも1つのセンサから受け取る現データおよび格納データに応じて、トランスミッションを第1モードまたは第2モードにいずれかに調節するように構成される、請求項16に記載の機械。
【請求項18】
コントローラが、現データが格納データと実質的に類似する時、トランスミッションを第1モードに調節するように構成される、請求項17に記載の機械。
【請求項19】
現データおよび格納データが、機械データおよび/または環境データを含む、請求項18に記載の機械。
【請求項20】
少なくとも1つの操作者入力装置をさらに有し、コントローラが、少なくとも1つの操作者入力装置から受け取る信号に応じて、トランスミッションを第1モードまたは第2モードのいずれかに調節するように構成される、請求項16に記載の機械。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2011−511229(P2011−511229A)
【公表日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−545149(P2010−545149)
【出願日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際出願番号】PCT/US2009/032398
【国際公開番号】WO2009/099884
【国際公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【出願人】(391020193)キャタピラー インコーポレイテッド (296)
【氏名又は名称原語表記】CATERPILLAR INCORPORATED
【Fターム(参考)】