説明

トランスミッション

【課題】 小型、構造簡単、低フリクションで安価な噛み合い式クラッチを採用してトランスミッションの軸方向寸法の小型化、構造簡単化、低コスト化、低フリクション化を図りながら、各変速段のスムーズな確立を可能にする。
【解決手段】 出力軸14に相対回転自在に支持した複数のドリブンギヤ25〜28を噛み合い式クラッチ29,30で該出力軸14に選択的に結合すると所望の変速段が確立する。このとき、第1、第2遊星歯車機構41,42よりなるシンクロ装置Sが、ドリブンギヤ25〜28の回転に連動する二つのドライブギヤ22,23の回転を、第1、第2ブレーキB1,B2の選択的係合で制御することで、ドリブンギヤ25〜28の回転を出力軸14の回転に同期させるので、シンクロ機能を持たない代わりに小型で安価な噛み合い式クラッチ29,30を使用してトランスミッションTの軸方向寸法を小型化しながら、ドリブンギヤ25〜28をスムーズに出力軸14に結合することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シンクロ機能を持たない噛み合い式クラッチを用いて所望の変速段を確立するトランスミッションに関する。
【背景技術】
【0002】
一般にオートマチックトランスミッションでは、変速軸に相対回転自在に支持した複数のギヤを油圧クラッチで該変速軸に選択的に結合して所望の変速段を確立している。
【0003】
それに対して、変速軸に相対回転自在に支持した複数のギヤを電気アクチュエータで作動するシンクロ装置で該変速軸に選択的に結合して所望の変速段を確立する、いわゆるオートマチック・マニュアルトランスミッションが、下記特許文献1により公知である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−3625号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、シンクロ装置はギヤおよび変速軸間に差回転が存在する場合であっても、その差回転を吸収してギヤを変速軸にスムーズに結合するシンクロ機能を有しているが、オートマチックトランスミッション並のシフトレスポンスやシフトフィーリングを求めると、シンクロ時間を最小限にするにはシンクロ容量を大容量化する必要があるため、個々のシンクロ装置の軸方向寸法の大型化、ダブルコーン化、トリプルコーン化が必要になり、多くのシンクロ装置を備える多段のトランスミッションでは軸方向寸法の大型化、高コスト化、高フリクション化を招く要因となる問題があった。
【0006】
シンクロ機能を持たないドグクラッチのような噛み合い式クラッチは、シンクロ装置に比べて軸方向寸法が短く、構造簡単、低コスト、低フリクションであるため、シンクロ装置に代えてドグクラッチを採用すればトランスミッションの軸方向寸法の小型化、構造簡単化、低コスト化、低フリクション化を図ることができる。しかしながらドグクラッチでは、ギヤおよび変速軸間に差回転が存在する場合に、それらをスムーズに結合することができないため、前記差回転を吸収するための何らかの手段が必要となる。
【0007】
本発明は前述の事情に鑑みてなされたもので、小型、構造簡単、低フリクションで安価な噛み合い式クラッチを採用してトランスミッションの軸方向寸法の小型化、構造簡単化、低コスト化、低フリクション化を図りながら、各変速段のスムーズな確立を可能にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、請求項1に記載された発明によれば、駆動源からの駆動力が第1クラッチを介して伝達される第1入力軸と、前記駆動源からの駆動力が第2クラッチを介して伝達される第2入力軸と、駆動輪に接続される出力軸と、前記第1入力軸に固設された複数の第1ドライブギヤと、前記第2入力軸に固設された複数の第2ドライブギヤと、前記出力軸に相対回転自在に支持されて前記第1、第2ドライブギヤに噛合する複数のドリブンギヤと、前記複数のドリブンギヤを前記出力軸に選択的に結合する噛み合い式クラッチと、前記噛み合い式クラッチを係合すべく、前記複数のドリブンギヤの回転数を前記出力軸の回転数に一致させるシンクロ装置とを備え、前記第1、第2クラッチを選択的に係合することで前記駆動源からの駆動力を前記第1、第2入力軸に選択的に伝達するトランスミッションであって、前記シンクロ装置は、前記複数の第1ドライブギヤのうちの一つのギヤと、前記複数の第2ドライブギヤのうちの一つのギヤとの差回転を制御することで、前記複数のドリブンギヤの回転と前記出力軸の回転とを同期させることを特徴とするトランスミッションが提案される。
【0009】
また請求項2に記載された発明によれば、請求項1の構成に加えて、前記シンクロ装置は、第1遊星歯車機構および第2遊星歯車機構を備え、前記第1遊星歯車機構の第1要素および前記第2遊星歯車機構の第1要素と一体に設けた第1シンクロギヤが前記複数の第1ドライブギヤのうちの一つのギヤと噛合し、前記第1遊星歯車機構の第2要素および前記第2遊星歯車機構の第2要素と一体に設けた第2シンクロギヤが前記複数の第2ドライブギヤのうちの一つのギヤと噛合し、前記第1遊星歯車機構の第3要素および前記第2遊星歯車機構の第3要素がそれぞれ第1、第2ブレーキを介して制動可能であることを特徴とするトランスミッションが提案される。
【0010】
また請求項3に記載された発明によれば、請求項2の構成に加えて、前記第1シンクロギヤおよび前記第2シンクロギヤの少なくとも一方に駆動力を与える電動モータを備えることを特徴とするトランスミッションが提案される。
【0011】
また請求項4に記載された発明によれば、請求項1の構成に加えて、前記シンクロ装置は遊星歯車機構を備え、前記遊星歯車機構の第1要素と一体に設けた第1シンクロギヤが前記複数の第1ドライブギヤのうちの一つのギヤと噛合し、前記遊星歯車機構の第2要素と一体に設けた第2シンクロギヤが前記複数の第2ドライブギヤのうちの一つのギヤと噛合し、前記遊星歯車機構の第3要素が電動モータにより駆動可能であることを特徴とするトランスミッションが提案される。
【0012】
また請求項5に記載された発明によれば、請求項1の構成に加えて、前記シンクロ装置は、前記複数の第1ドライブギヤのうちの一つのギヤと一体に設けた第1従動ベベルギヤと、前記複数の第2ドライブギヤのうちの一つのギヤと一体に設けた第2従動ベベルギヤと、前記第1、第2従動ベベルギヤに噛合する駆動ベベルギヤと、前記駆動ベベルギヤを駆動する電動モータとを備えることを特徴とするトランスミッションが提案される。
【発明の効果】
【0013】
請求項1の構成によれば、出力軸に相対回転自在に支持した複数のドリブンギヤを噛み合い式クラッチで該出力軸に選択的に結合すると所望の変速段が確立するため、駆動源からの駆動力が第1クラッチを介して伝達される第1入力軸に設けた第1ドライブギヤ、あるいは駆動源からの駆動力が第2クラッチを介して伝達される第2入力軸に設けた第2ドライブギヤから前記ドリブンギヤを介して出力軸に駆動力を伝達することで駆動輪が駆動される。このとき、シンクロ装置が、複数の第1ドライブギヤのうちの一つのギヤと、複数の第2ドライブギヤのうちの一つのギヤとの差回転を制御することで、それらのギヤに噛合するドリブンギヤの回転を制御して出力軸の回転に同期させるので、シンクロ機能を持たない代わりに小型で安価な噛み合い式クラッチを使用してトランスミッションの軸方向寸法を小型化しながら、ドリブンギヤをスムーズに出力軸に結合することができる。
【0014】
また請求項2の構成によれば、第1遊星歯車機構の第1要素および第2遊星歯車機構の第1要素と一体に設けた第1シンクロギヤを複数の第1ドライブギヤのうちの一つのギヤに噛合させ、第1遊星歯車機構の第2要素および第2遊星歯車機構の第2要素と一体に設けた第2シンクロギヤを複数の第2ドライブギヤのうちの一つのギヤに噛合させたので、第1遊星歯車機構の第3要素および第2遊星歯車機構の第3要素をそれぞれ第1、第2ブレーキを介して選択的に制動することで、複数の第1ドライブギヤのうちの一つのギヤおよび複数の第2ドライブギヤのうちの一つのギヤに差回転を発生させ、噛み合い式クラッチにより結合されるドリブンギヤの回転および出力軸の回転を同期させることができる。
【0015】
また請求項3の構成によれば、第1シンクロギヤおよび第2シンクロギヤの少なくとも一方に電動モータで駆動力を与えるので、シフトチェンジのための同期が完了して第1クラッチあるいは第2クラッチが係合解除したとき、フリクションによる不要な回転減速を抑制することができる。
【0016】
また請求項4の構成によれば、遊星歯車機構の第1要素と一体に設けた第1シンクロギヤを複数の第1ドライブギヤのうちの一つのギヤに噛合させ、遊星歯車機構の第2要素と一体に設けた第2シンクロギヤを複数の第2ドライブギヤのうちの一つのギヤに噛合させたので、遊星歯車機構の第3要素を電動モータにより駆動することで、複数の第1ドライブギヤのうちの一つのギヤおよび複数の第2ドライブギヤのうちの一つのギヤに差回転を発生させ、噛み合い式クラッチにより結合されるドリブンギヤの回転および出力軸の回転を同期させることができる。
【0017】
また請求項5の構成によれば、電動モータを駆動すると駆動ベベルギヤに噛合する第1、第2従動ベベルギヤが回転することで、第1、第2従動ベベルギヤと一体に設けた複数の第1ドライブギヤのうちの一つのギヤおよび複数の第2ドライブギヤのうちの一つのギヤに差回転を発生させ、噛み合い式クラッチにより結合されるドリブンギヤの回転および出力軸の回転を同期させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】トランスミッションのスケルトン図(第1の実施の形態)。
【図2】1速変速段の確立状態を示す図(第1の実施の形態)。
【図3】2速変速段の確立状態を示す図(第1の実施の形態)。
【図4】3速変速段の確立状態を示す図(第1の実施の形態)。
【図5】4速変速段の確立状態を示す図(第1の実施の形態)。
【図6】同期装置の速度線図(第1の実施の形態)。
【図7】中間変速段の確立状態を示す図(第1の実施の形態)。
【図8】トランスミッションのスケルトン図(第2の実施の形態)。
【図9】トランスミッションのスケルトン図(第3の実施の形態)。
【図10】トランスミッションのスケルトン図(第4の実施の形態)。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図1〜図7に基づいて本発明の第1の実施の形態を説明する。
【0020】
図1に示すように、いわゆるツインクラッチ式の前進4段のトランスミッションTは、主入力軸11と、第1副入力軸12と、第2副入力軸13と、出力軸14とを備える。第2副入力軸13は主入力軸11の外周に同軸に嵌合し、第1副入力軸12は第2副入力軸13の外周に同軸に嵌合する。出力軸14は主入力軸11と平行に配置される。主入力軸11の右端にはエンジンEのクランクシャフト15が発進クラッチ16を介して接続され、主入力軸11の左端と第1副入力軸12との間に第1クラッチC1が配置されるとともに、主入力軸11の左端と第2副入力軸13との間に第2クラッチC2が配置される。
【0021】
第1副入力軸12には1速ドライブギヤ21および3速ドライブギヤ23が固設され、第2副入力軸13には2速ドライブギヤ22および4速ドライブギヤ24が固設される。出力軸14には1速ドライブギヤ21に噛合する1速ドリブンギヤ25と、3速ドライブギヤ23に噛合する3速ドリブンギヤ27と、2速ドライブギヤ22に噛合する2速ドリブンギヤ26と、4速ドライブギヤ24に噛合する4速ドリブンギヤ28とが相対回転自在に支持される。1速ドリブンギヤ25および3速ドリブンギヤ27は、1速−3速ドグクラッチ29により出力軸14に選択的に結合可能であり、2速ドリブンギヤ26および4速ドリブンギヤ28は、2速−4速ドグクラッチ30により出力軸14に選択的に結合可能である、
尚、1速−3速ドグクラッチ29および2速−4速ドグクラッチ30は、図示せぬ電磁アクチュエータにより作動する。
【0022】
出力軸14の右端に固設されたファイナルドライブギヤ31は、ディファレンシャルギヤ33のファイナルドリブンギヤ32に噛合し、ディファレンシャルギヤ33は左右の駆動輪W,Wに接続される。
【0023】
前記1速−3速ドグクラッチ29および2速−4速ドグクラッチ30をスムーズに係合させるためのシンクロ装置Sは、同軸に配置された第1遊星歯車機構41および第2遊星歯車機構42を備える。
【0024】
第1遊星歯車機構41は、第1サンギヤ43と、第1プラネタリキャリヤ44と、第1リングギヤ45と、第1プラネタリキャリヤ44に回転支持されて第1サンギヤ43および第1リングギヤ45に噛合する複数の第1ピニオン46…と備えており、第1リングギヤ45は第1ブレーキB1を介してハウジング47に結合可能である。
【0025】
第2遊星歯車機構42は、前記第1サンギヤ43と一体の第2プラネタリキャリヤ48と、前記第1プラネタリキャリヤ44と一体の第2サンギヤ49と、第2リングギヤ50と、第2プラネタリキャリヤ48に回転支持されて第2サンギヤ49および第2リングギヤ50に噛合する複数の第2ピニオン51…と備えており、第2リングギヤ50は第2ブレーキB2を介してハウジング47に結合可能である。
【0026】
即ち、第1、第2遊星歯車機構41,42は、第1プラネタリキャリヤ44と第2サンギヤ49とが一体に結合されるとともに、第2プラネタリキャリヤ48と第1サンギヤ43とが一体に結合に結合され(いわゆる、CSCS結合)、かつ第1、第2リングギヤ45,50がそれぞれ第1、第2ブレーキB1,B2によりハウジング47に結合可能である。
【0027】
第1プラネタリキャリヤ44および第2サンギヤ49と一体に形成された第1シンクロギヤ52は前記3速ドライブギヤ23に噛合するとともに、第1サンギヤ43および第2プラネタリキャリヤ48と一体に形成された第2シンクロギヤ53は前記2速ドライブギヤ22に噛合する。
【0028】
しかして、図2に示すように、1速変速段の確立時には、1速−3速ドグクラッチ29で1速ドリブンギヤ25を出力軸14に結合し、第1クラッチC1を係合して主入力軸11を第1副入力軸12に結合した状態で発進クラッチ16を係合すると、エンジンEのクランクシャフト15の駆動力が、発進クラッチ16→主入力軸11→第1クラッチC1→第1副入力軸12→1速ドライブギヤ21→1速ドリブンギヤ25→1速−3速ドグクラッチ29→出力軸14→ファイナルドライブギヤ31→ファイナルドリブンギヤ32→ディファレンシャルギヤ33の経路で左右の駆動輪W,Wに伝達される。
【0029】
図3に示すように、2速変速段の確立時には、2速−4速ドグクラッチ30で2速ドリブンギヤ26を出力軸14に結合し、それまで係合していた第1クラッチC1を係合解除すると同時に第2クラッチC2を係合すると、エンジンEのクランクシャフト15の駆動力が、発進クラッチ16→主入力軸11→第2クラッチC2→第2副入力軸13→2速ドライブギヤ22→2速ドリブンギヤ26→2速−4速ドグクラッチ30→出力軸14→ファイナルドライブギヤ31→ファイナルドリブンギヤ32→ディファレンシャルギヤ33の経路で左右の駆動輪W,Wに伝達される。
【0030】
図4に示すように、3速変速段の確立時には、1速−3速ドグクラッチ29で3速ドリブンギヤ27を出力軸14に結合し、それまで係合していた第2クラッチC2を係合解除すると同時に第1クラッチC1を係合すると、エンジンEのクランクシャフト15の駆動力が、発進クラッチ16→主入力軸11→第1クラッチC1→第1副入力軸12→3速ドライブギヤ23→3速ドリブンギヤ27→1速−3速ドグクラッチ29→出力軸14→ファイナルドライブギヤ31→ファイナルドリブンギヤ32→ディファレンシャルギヤ33の経路で左右の駆動輪W,Wに伝達される。
【0031】
図5に示すように、4速変速段の確立時には、2速−4速ドグクラッチ30で4速ドリブンギヤ28を出力軸14に結合し、それまで係合していた第1クラッチC1を係合解除すると同時に第2クラッチC2を係合すると、エンジンEのクランクシャフト15の駆動力が、発進クラッチ16→主入力軸11→第2クラッチC2→第2副入力軸13→4速ドライブギヤ24→4速ドリブンギヤ28→2速−4速ドグクラッチ30→出力軸14→ファイナルドライブギヤ31→ファイナルドリブンギヤ32→ディファレンシャルギヤ33の経路で左右の駆動輪W,Wに伝達される。
【0032】
ところで、1速−3速ドグクラッチ29および2速−4速ドグクラッチ30はシンクロ機能を備えていないため、1速−3速ドグクラッチ29および2速−4速ドグクラッチ30を係合するとき、1速ドリブンギヤ25、2速ドリブンギヤ26、3速ドリブンギヤ27および4速ドリブンギヤ28の回転数と出力軸14の回転数とを一致させる必要がある。1速ドリブンギヤ25、2速ドリブンギヤ26、3速ドリブンギヤ27および4速ドリブンギヤ28の回転数は主出力軸11の回転数に対してギヤ比により決まる既知の関係があるため、主出力軸11の回転数(つまり第1、第2副入力軸12,13の回転数)を検出する第1回転数センサ54の出力と、出力軸14の回転数を検出する第2回転数センサ55の出力とを比較することで、1速ドリブンギヤ25、2速ドリブンギヤ26、3速ドリブンギヤ27および4速ドリブンギヤ28の回転数が出力軸14の回転数と一致したことを判定することができる。
【0033】
出力軸14の回転数は車速に応じて一義的に決まってしまうため、1速ドリブンギヤ25、2速ドリブンギヤ26、3速ドリブンギヤ27および4速ドリブンギヤ28の回転数、つまり第1、第2副入力軸12,13の回転数をシンクロ装置Sで制御し、1速ドリブンギヤ25、2速ドリブンギヤ26、3速ドリブンギヤ27および4速ドリブンギヤ28の回転数を出力軸14の回転数に一致させれば、シンクロ機能を持たない1速−3速ドグクラッチ29および2速−4速ドグクラッチ30をスムーズに係合することができる。
【0034】
シフトチェンジの際に次段の変速段を確立するためのインギヤ直前の状態では、現変速段以外の動力伝達経路の係合要素は全て非係合の状態にある。このとき、出力軸14は車速に応じた回転数で回転するが、非係合要素には差回転が存在してスムーズに係合できない状態にある。
【0035】
そこで、次段の変速段において出力軸14に結合すべきドリブンギヤの回転数を、シンクロ装置Sにより増速あるいは減速して出力軸14の回転数に一致させ、その状態で非係合ドグクラッチを係合することで、スムーズなインギヤが可能になる。
【0036】
次に、シンクロ装置Sの作用を説明する。
【0037】
シンクロ装置Sの第1シンクロギヤ52は3速ドライブギヤ23に噛合し、第2シンクロギヤ53は2速ドライブギヤ22に噛合するため、第1、第2シンクロギヤ52,53はその時々の状態に応じた種々の回転数で回転する。
【0038】
例えば、3速変速段から4速変速段へとシフトアップする場合を考える。3速変速段が確立しているとき、第1クラッチC1が係合して第1副入力軸12が駆動されているため、第1副入力軸12に固設した第3ドライブギヤ23に噛合する第1シンクロギヤ52がエンジン回転数に応じた回転数で回転している。しかしながら、4速変速段へのシフトアップのために2速−4速ドグクラッチ30で結合される4速ドリブンギヤ28および出力軸14は差回転を有しており、そのままでは2速−4速ドグクラッチ30をスムーズに係合することは困難である。
【0039】
このとき、シンクロ装置Sで第1シンクロギヤ52の回転を速度線図の支点とし、作用点である第2シンクロギヤ53の回転数を減速することで、第2シンクロギヤ53に2速ドライブギヤ22および4速ドライブギヤ24を介して接続された4速ドリブンギヤ28の回転数を、出力軸14の回転数に一致するまで減速し、両者の回転数が一致したときに2速−4速ドグクラッチ30で4速ドリブンギヤ28を出力軸14に結合すれば、差回転のないスムーズな結合が可能になる。
【0040】
そのためには、シンクロ装置Sの第2ブレーキB2を所定のスリップ率で係合し、第2遊星歯車機構42の第2リングギヤ50をハウジング47に結合して制動する。その結果、図6(A)の速度線図に示すように、速度線図の支点である第1シンクロギヤ52の回転数に対して作用点である第2シンクロギヤ53の回転数を減速し、4速ドリブンギヤ28の回転数を出力軸14の回転数に一致させることができる。
【0041】
次に、3速変速段から2速変速段へとシフトダウンする場合を考える。3速変速段が確立しているとき、第1クラッチC1が係合して第1副入力軸12が駆動されているため、第1副入力軸12に固設した第3ドライブギヤ23に噛合する第1シンクロギヤ52がエンジン回転数に応じた回転数で回転している。
【0042】
このとき、シンクロ装置Sで第1シンクロギヤ52の回転を速度線図の支点とし、作用点である第2シンクロギヤ53の回転数を増速することで、第2シンクロギヤ53に2速ドライブギヤ22を介して接続された2速ドリブンギヤ26の回転数を、出力軸14の回転数に一致するまで増速し、両者の回転数が一致したときに2速−4速ドグクラッチ30で2速ドリブンギヤ26を出力軸14に結合すれば、差回転のないスムーズな結合が可能になる。
【0043】
そのためには、シンクロ装置Sの第1ブレーキB1を所定のスリップ率で係合し、第1遊星歯車機構41のリングギヤ45をハウジング47に結合して制動する。その結果、図6(B)の速度線図に示すように、速度線図の支点である第1シンクロギヤ52の回転数に対して作用点である第2シンクロギヤ53の回転数を増速し、2速ドリブンギヤ26の回転数を出力軸14の回転数に一致させることができる。
【0044】
以上、3速変速段から4速変速段へのシフトアップ時の作用と、3速変速段から2速変速段へのシフトダウン時の作用とを説明したが、他の任意の変速段間のシフトチェンジの際の作用も同様である。
【0045】
以上のように、本実施の形態によれば、通常は1速−3速シンクロ装置および2速−4速シンクロ装置を用いるところ、シンクロ機能を持たない代わりに安価で軸方向寸法が小さい1速−3速ドグクラッチ29および2速−4速ドグクラッチ30を用いたことで、トランスミッションTの軸方向寸法を小型化することができ、しかも各変速段に対して共通のシンクロ装置Sを設けることで、全ての変速段の確立時にシンクロ機能を発揮させることができる。
【0046】
図1では、シンクロ装置Sの寸法が大きく描かれているが、このシンクロ装置SはエンジンEの駆動力を伝達するものではなく、単に第1シンクロギヤ52および第2シンクロギヤ53の回転数の調整だけを行うので、各ギヤを小型化してコンパクトに構成することが可能であり、シンクロ装置Sを設けたことでトランスミッションTの軸方向寸法が大型化することはない。
【0047】
尚、本実施の形態によれば、図7に示すように、シンクロ装置Sを利用して1速変速段〜4速変速段の変速比以外の変速比を有する他の変速段を確立することもできる。例えば、2速−4速ドグクラッチ30で2速ドリブンギヤ26を出力軸14に結合し、第1クラッチC1を係合して主入力軸11を第1副入力軸12に結合し、かつ第1ブレーキB1あるいは第2ブレーキB2の何れか一方を係合した状態で発進クラッチ16を係合する。
【0048】
その結果、エンジンEのクランクシャフト15の駆動力が、発進クラッチ16→主入力軸11→第1クラッチC1→第1副入力軸12→3速ドライブギヤ23→第1シンクロギヤ52→第2サンギヤ49→第2プラネタリキャリヤ48→第2シンクロギヤ53→2速ドライブギヤ22→2速ドリブンギヤ26→2速−4速ドグクラッチ30→出力軸14→ファイナルドライブギヤ31→ファイナルドリブンギヤ32→ディファレンシャルギヤ33の経路で左右の駆動輪W,Wに伝達される。
【0049】
このように、シンクロ装置SをエンジンEの駆動力の伝達経路に利用し、1速−3速ドグクラッチ29、2速−4速ドグクラッチ30、第1、第2クラッチC1,C2、第1、第2ブレーキB1,B2の係合・非係合を組み合わせれば、確立可能な変速段の数を増加させることができる。
【0050】
次に、図8に基づいて本発明の第2の実施の形態を説明する。
【0051】
第2の実施の形態は第1の実施の形態の変形であって、小型の電動モータ61に設けたギヤ62を第2シンクロギヤ53に噛合させたものであり、その他の構成は第1の実施の形態と同じである。
【0052】
この実施の形態によれば、シンクロ装置Sによる同期が完了して第1ブレーキB1あるいは第2ブレーキB2の係合を解除したとき、慣性で空転するシンクロ装置Sの構成要素をモータ制御により駆動して同期回転数をより一層安定化させることができる。尚、ギヤ62を第2シンクロギヤ53に噛合させる代わりに、第1シンクロギヤ52に噛合させても良い。
【0053】
次に、図9に基づいて本発明の第3の実施の形態を説明する。
【0054】
第3の実施の形態は、シンクロ装置Sの構造が第1の実施の形態と異なっており、その他の構成は第1の実施の形態と同じである。
【0055】
第3の実施の形態のシンクロ装置Sは単一の遊星歯車機構63を備えるもので、遊星歯車機構63のプラネタリキャリヤ64が電動モータ65に接続され、サンギヤ66と一体の第1シンクロギヤ52が3速ドライブギヤ23に噛合し、リングギヤ67と一体の第2シンクロギヤ53が2速ドライブギヤ22に噛合し、プラネタリキャリヤ64に支持した複数のピニオン68…がサンギヤ66およびリングギヤ67に同時に噛合する。
【0056】
従って、本実施の形態によれば、1速変速段あるいは3速変速段が確立して第1副入力軸12が回転している状態で3速ドライブギヤ23に噛合する第1シンクロギヤ52の回転を速度線図の支点として、電動モータ65を正転駆動あるいは逆転駆動することで、第1シンクロギヤ52の回転数に対して速度線図の作用点である第2シンクロギヤ53の回転数を任意に増速あるいは減速し、第2シンクロギヤ53に2速ドライブギヤ22を介して噛合する第2副入力軸13の回転数、つまり2速ドリブンギヤ26あるいは4速ドリブンギヤ28の回転数を出力軸14の回転数に一致させることができる。
【0057】
同様に、2速変速段あるいは4速変速段が確立して第2副入力軸13が回転している状態で2速ドライブギヤ22に噛合する第2シンクロギヤ53の回転を速度線図の支点として、電動モータ65を正転駆動あるいは逆転駆動することで、第2シンクロギヤ53の回転数に対して速度線図の作用点である第1シンクロギヤ52の回転数を任意に増速あるいは減速し、第1シンクロギヤ52に3速ドライブギヤ23を介して噛合する第1副入力軸12の回転数、つまり1速ドリブンギヤ25あるいは3速ドリブンギヤ27の回転数を出力軸14の回転数に一致させることができる。
【0058】
これにより、シンクロ機能を持たない小型の1速−3速ドグクラッチ29および2速−4速ドグクラッチ30を用いてトランスミッションTの軸方向寸法を短縮しながら、スムーズなインギヤを可能にすることができる。尚、シフトチェンジ時を除く通常時には、電動モータ65をオープン状態(コイルに電流が流れない状態)しておくことで、電動モータ65は無負荷で回転可能な状態とされる。
【0059】
次に、図10に基づいて本発明の第4の実施の形態を説明する。
【0060】
第4の実施の形態は、シンクロ装置Sの構造が第1の実施の形態と異なっており、その他の構成は第1の実施の形態と同じである。
【0061】
第4の実施の形態は、3速ドライブギヤ23および2速ドライブギヤ22の相互に対応する側面にそれぞれ第1、第2従動ベベルギヤ69,70を設け、電動モータ71に設けた駆動ベベルギヤ72を前記第1、第2従動ベベルギヤ69,70に噛合させたものである。
【0062】
従って、電動モータ71を正転駆動あるいは逆転駆動すると、2速ドライブギヤ22(つまり第2副入力軸13)の回転数に対して、3速ドライブギヤ23(つまり第1副入力軸12)の回転数を任意に増速あるいは減速することができ、また3速ドライブギヤ23(つまり第1副入力軸12)の回転数に対して、2速ドライブギヤ22(つまり第2副入力軸13)の回転数を任意に増速あるいは減速することができる。
【0063】
この第4の実施の形態によれば、上述した第3の実施の形態と同様の作用効果を達成しながら、シンクロ装置Sを更に小型化することができる。
【0064】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明はその要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更を行うことが可能である。
【0065】
例えば、実施の形態ではエンジンEを駆動源としているが、電動モータを駆動源としても、エンジンおよび電動モータの両方を駆動源としても良い。
【0066】
また実施の形態ではツインクラッチ式のトランスミッションTを例示したが、本発明は任意の形式のトランスミッションに対して適用することができる。
【0067】
また実施の形態ではシンクロ装置Sの第1、第2シンクロギヤ52,53を2速ドライブギヤ22および3速ドライブギヤ23に噛合させているが、他の変速段のドライブギヤに噛合させても良い。
【0068】
また本発明の噛み合い式クラッチは、実施の形態のドグクラッチ29,30に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0069】
B1 第1ブレーキ
B2 第2ブレーキ
C1 第1クラッチ
C2 第2クラッチ
E エンジン(駆動源)
S シンクロ装置
W 駆動輪
12 第1副入力軸(第1入力軸)
13 第2副入力軸(第2入力軸)
14 出力軸
21 1速ドライブギヤ(第1ドライブギヤ)
22 2速ドライブギヤ(第2ドライブギヤ)
23 3速ドライブギヤ(第1ドライブギヤ)
24 4速ドライブギヤ(第2ドライブギヤ)
25 1速ドリブンギヤ(ドリブンギヤ)
26 2速ドリブンギヤ(ドリブンギヤ)
27 3速ドリブンギヤ(ドリブンギヤ)
28 4速ドリブンギヤ(ドリブンギヤ)
29 1速−3速ドグクラッチ(噛み合い式クラッチ)
30 2速−4速ドグクラッチ(噛み合い式クラッチ)
41 第1遊星歯車機構
42 第2遊星歯車機構
43 第1サンギヤ(第1遊星歯車機構の第2要素)
44 第1プラネタリキャリヤ(第1遊星歯車機構の第1要素)
45 第1リングギヤ(第1遊星歯車機構の第3要素)
48 第2プラネタリキャリヤ(第2遊星歯車機構の第2要素)
49 第2サンギヤ(第2遊星歯車機構の第1要素)
50 第2リングギヤ(第2遊星歯車機構の第3要素)
52 第1シンクロギヤ
53 第2シンクロギヤ
61 電動モータ
63 遊星歯車機構
64 プラネタリキャリヤ(遊星歯車機構の第3要素)
65 電動モータ
66 サンギヤ(遊星歯車機構の第1要素)
67 リングギヤ(遊星歯車機構の第2要素)
69 第1従動ベベルギヤ
70 第2従動ベベルギヤ
72 駆動ベベルギヤ
71 電動モータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源(E)からの駆動力が第1クラッチ(C1)を介して伝達される第1入力軸(12)と、
前記駆動源(E)からの駆動力が第2クラッチ(C2)を介して伝達される第2入力軸(13)と、
駆動輪(W)に接続される出力軸(14)と、
前記第1入力軸(12)に固設された複数の第1ドライブギヤ(21,23)と、
前記第2入力軸(13)に固設された複数の第2ドライブギヤ(22,24)と、
前記出力軸(14)に相対回転自在に支持されて前記第1、第2ドライブギヤ(21〜24に噛合する複数のドリブンギヤ(25〜28)と、
前記複数のドリブンギヤ(25〜28)を前記出力軸(14)に選択的に結合する噛み合い式クラッチ(29,30)と、
前記噛み合い式クラッチ(29,30)を係合すべく、前記複数のドリブンギヤ(25〜28)の回転数を前記出力軸(14)の回転数に一致させるシンクロ装置(S)とを備え、前記第1、第2クラッチ(C1,C2)を選択的に係合することで前記駆動源(E)からの駆動力を前記第1、第2入力軸(12,13)に選択的に伝達するトランスミッションであって、
前記シンクロ装置(S)は、前記複数の第1ドライブギヤ(21,23)のうちの一つのギヤ(23)と、前記複数の第2ドライブギヤ(22,24)のうちの一つのギヤ(22)との差回転を制御することで、前記複数のドリブンギヤ(25〜28)の回転と前記出力軸(14)の回転とを同期させることを特徴とするトランスミッション。
【請求項2】
前記シンクロ装置(S)は、第1遊星歯車機構(41)および第2遊星歯車機構(42)を備え、
前記第1遊星歯車機構(41)の第1要素(44)および前記第2遊星歯車機構(42)の第1要素(49)と一体に設けた第1シンクロギヤ(52)が前記複数の第1ドライブギヤ(21,23)のうちの一つのギヤ(23)と噛合し、
前記第1遊星歯車機構(41)の第2要素(43)および前記第2遊星歯車機構(42)の第2要素(48)と一体に設けた第2シンクロギヤ(53)が前記複数の第2ドライブギヤ(22,24)のうちの一つのギヤ(22)と噛合し、
前記第1遊星歯車機構(41)の第3要素(45)および前記第2遊星歯車機構(42)の第3要素(50)がそれぞれ第1、第2ブレーキ(B1,B2)を介して制動可能であることを特徴とする、請求項1に記載のトランスミッション。
【請求項3】
前記第1シンクロギヤ(52)および前記第2シンクロギヤ(53)の少なくとも一方に駆動力を与える電動モータ(61)を備えることを特徴とする、請求項2に記載のトランスミッション。
【請求項4】
前記シンクロ装置(S)は遊星歯車機構(63)を備え、
前記遊星歯車機構(63)の第1要素(66)と一体に設けた第1シンクロギヤ(52)が前記複数の第1ドライブギヤ(21,23)のうちの一つのギヤ(23)と噛合し、 前記遊星歯車機構(63)の第2要素(67)と一体に設けた第2シンクロギヤ(53)が前記複数の第2ドライブギヤ(22,24)のうちの一つのギヤ(22)と噛合し、 前記遊星歯車機構(41)の第3要素(64)が電動モータ(65)により駆動可能であることを特徴とする、請求項1に記載のトランスミッション。
【請求項5】
前記シンクロ装置(S)は、
前記複数の第1ドライブギヤ(21,23)のうちの一つのギヤ(23)と一体に設けた第1従動ベベルギヤ(69)と、
前記複数の第2ドライブギヤ(22,24)のうちの一つのギヤ(22)と一体に設けた第2従動ベベルギヤ(70)と、
前記第1、第2従動ベベルギヤ(69,70)に噛合する駆動ベベルギヤ(72)と、 前記駆動ベベルギヤ(72)を駆動する電動モータ(71)とを備えることを特徴とする、請求項1に記載のトランスミッション。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−216605(P2010−216605A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−65993(P2009−65993)
【出願日】平成21年3月18日(2009.3.18)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】