説明

トリウムタングステン合金、トリウムタングステン線、トリウムタングステン線コイル、ならびに電子管用陰極構体

【課題】平均粒径が0.3μm以下の粒子状で分散してなるトリウムタングステン(Th−W)合金、Th−W線、及び耐変形性が改善されたコイル、並びに電子管用陰極構体の提供。
【解決手段】Wマトリクス中にTh及び/又はTh化合物が粒子状で分散してなるTh−W合金であって、前記Th及び/又は化合物の含有量が0.5〜2重量%でありかつこのTh及び/又はTh化合物粒子の平均粒径が0.3μm以下である、Th−W合金、
上記Th−W合金よりなる、Th−W線、
上記のTh−W線よりなるコイル、及び
一対の支持部材間に加熱線条が支持されてなる電子管用陰極構体であって、前記加熱線条が上記Th−W線よりなる、電子管用陰極構体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トリウムタングステン合金、トリウムタングステン線、その製造方法、トリウムタングステン線コイル、ならびに電子管用陰極構体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来よりタングステンおよびタングステン合金は、その優れた耐熱性および機械的強度から各種の用途において使用されている。特にトリウムを添加したトリウムタングステン合金(トリエーテッドタングステン)は、電子管用陰極構体や電子管等の各種フィラメントやコイル材料などとして広く利用されている(例えば、特開昭61−12615号公報)。このようなトリウムタングステン合金において、トリウムはタングステンからなるマトリクス中にトリウム単体あるいは酸化トリウム(ThO)等のトリウム化合物の状態で粒子状で分散している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭61−12615号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のこのようなトリウムタングステン合金はそれなりに有用なものではある。しかし、用途によっては未だ機械的強度が充分でない場合があって、必ずしも満足できるものとは言えなかった。特にトリウムタングステン合金をコイル状に加工したものにあっては、使用時の振動等による変形が大きく特性劣化が比較的早い段階から生じてしまうので実用上問題となる場合があった。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、耐変形性特性に優れたトリウムタングステン合金、トリウムタングステン合金線、およびその製造方法、さらには前記トリウムタングステン線よりなるトリウムタングステン線コイルおよび前記トリウムタングステン線を加熱線条に用いた電子管陰極構体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、従来のトリウムタングステン合金に見られた変形はトリウム粒子のタングステンマトリクス中での分散状態に起因することを見出し、タングステンマトリクスにおけるトリウム粒子の分散状態を適正化することによって、上記の問題点が解決されることを見出した。
【0007】
そして、本発明者らは、所定のタングステン原料を使用することおよび製造条件を特定化することによって、トリウム粒子の分散状態を適正化されたトリウムタングステン合金、トリウムタングステン線およびトリウムタングステン線コイル、ならびに特性劣化が抑制された電子管用陰極構体が得られることを見出した。
従って、本発明によるタングステン合金は、タングステンからなるマトリクス中にトリウムおよび/またはトリウム化合物が粒子状で分散してなるトリウムタングステン合金であって、前記トリウムおよび/またはトリウム化合物の含有量が0.5重量%以上でありかつこのトリウムまたはトリウム化合物の粒子の平均粒径が0.3μm以下であること、を特徴とするものである。
【0008】
そして、本発明によるトリウムタングステン線は、上記のトリウムタングステン合金よりなること、を特徴とするものである。
【0009】
そして、本発明によるトリウムタングステン線の製造方法は、金属タングステン粉末とトリウムおよび/またはトリウム化合物溶液を混合し、前記混合物を還元性雰囲気中で加熱還元して、タングステン粉末中にトリウムおよび/またはトリウム化合物粒子を分散させた粉末を製造し、前記粉末を成形、焼結して焼結体を製造した後、前記焼結体に対し圧延、伸線加工を施すこと、を特徴とするものである。
そして、本発明によるトリウムタングステン線コイルは、上記のトリウムタングステン線よりなること、を特徴とするものである。
【0010】
そして、本発明による電子管用陰極構体は、一対の支持部材間に加熱線条が支持されてなる電子管用陰極構体であって、前記加熱線条が上記のトリウムタングステン線よりなること、を特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、タングステンからなるマトリクス中にトリウムおよび/またはトリウム化合物が平均粒径0.3μm以下の粒子状で分散してなるトリウムタングステン合金が得られる。
【0012】
このトリウムタングステン合金は、線材の形成の特に適したものであり、そしてこのようなトリウムタングステン線から製造されたコイルは耐変形性が改善されたものである。
【0013】
そして、このトリウムタングステン線コイルを加熱線条として適用してなる本発明による電子管用陰極構体は、優れた耐久性を有するものである。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施例による電子管用陰極構体の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明によるトリウムタングステン合金は、タングステンからなるマトリクス中にトリウムおよび/またはトリウム化合物が粒子状で分散してなるトリウムタングステン合金であって、前記トリウムおよび/またはトリウム化合物の含有量が0.5重量%以上でありかつこのトリウムおよび/またはトリウム化合物の粒子の平均粒径が0.3μm以下であるものである。この本発明によるトリウムタングステン合金は、そこに存在しているトリウムまたはトリウム化合物の量、ならびにトリウム及び/又はトリウム化合物が粒子状で分散してなるという要件から明らかになるように連続マトリクスである。
【0016】
尚、本発明によるトリウムタングステン合金は、タングステンのみからなるマトリクス中にトリウムまたはトリウム化合物のみが粒子状で分散してなるトリウムタングステン合金のみに限定されるものではなく、例えば、(イ)そのマトリックスとしてタングステンと他の合金化元素からなるタングステン合金、および(ロ)トリウムおよび/またはトリウム化合物以外の他の成分が分散粒子として共存しているのもの、を排除しない。上記(イ)における「合金化元素」としては、コバルト(Co)あるいはカリウム(K)等を含有することが可能であり、さらに原料および製造過程に不可避的に存在することになる不可避的成分(具体的にはアルミニウム(Al)、シリコン(Si)等)を例示することができる。このような不可避的成分の含有量は、本発明によるトリウムタングステン合金に対し、総量で0.1重量%以下程度であることが好ましい。また、上記(ロ)における「トリウムおよび/またはトリウム化合物以外の他の成分」の典型例としては、従来からタングステン合金においてドープ剤として用いられてきた金属酸化物(例えば、酸化ハフニウム、酸化ジルコニウム、酸化ランタン、酸化セリウムおよび酸化スカンジニウム等)を例示することができる。尚、本発明ではトリウムおよび/またはトリウム化合物を使用すればよく、他のドープ剤の併用は必須でないことは言うまでもない。
【0017】
本発明によるトリウムタングステン合金で使用されるトリウムおよび/またはトリウム化合物とは、トリウム(Th)、酸化トリウム(ThO)および硝酸トリウム(Th(NO)を例示することができる。これらは2種以上混合して使用することもできる。本発明では、トリウム(Th)および酸化トリウム(ThO)が特に好ましい。
【0018】
本発明によるトリウムタングステン合金における、トリウムおよびトリウム化合物の含有量は、これを配合するタングステンに対し0.5重量%以上である。含有量が0.5重量%未満であると、強度向上効果が得られず、本発明の変形改善効果が実質的に見られない。本発明の目的である耐変形特性改善の観点からはトリウムおよびトリウム化合物の上限を定める理由は特にないが、トリウムおよび/またはトリウム化合物の含有量が過度に多いとトリウムタングステン合金の加工性が悪くなる傾向が見られ、トリウムタングステン線等に加工にする際に破断等を生じやすくなる。よって、本発明におけるトリウムおよび/またはトリウム化合物の含有量は、通常、0.5重量%以上、2.2重量%以下であり、好ましくは0.5〜2重量%、である。
【0019】
前記の通り、本発明によるタングステン合金は、タングステンからなるマトリクス中にトリウムまたはトリウム化合物が粒子状で分散してなるものであって、前記トリウムまたはトリウム化合物の粒子の平均粒径が0.3μm以下であるものである。
【0020】
このような本発明によるトリウムタングステン合金を使用すれば、耐変形特性の向上が達成されて耐変形性改善されたタングステン線を得ることができる。これは、トリウムおよび/またはトリウム化合物がこのような微小な粒子で分散していることによってトリウムおよび/またはトリウム化合物の適正分散が得られたことによるものと考えられる。
【0021】
トリウムおよび/またはトリウム化合物からなる分散粒子が平均粒径0.3μmを超える場合、トリウムおよび/またはトリウム化合物の絶対量(即ち、配合量)が同じであるならば、分散粒子の点数(即ち、分散粒子数)は少なくなることになる。従って、そのような場合、トリウムおよび/またはトリウム化合物の適正分散が得られず、本発明の主目的である耐変形特性の向上が図れない。
【0022】
本発明は、上記トリウムタングステン合金を線材として使用することにより耐変形性特性に優れたトリウムタングステン線を製造することができる。
【0023】
このトリウムタングステン線においても、本発明のトリウムタングステン合金で規定するトリウムおよび/またはトリウム化合物の含有量、さらにそれらの粒子の平均粒径は適用されるものである。
【0024】
本発明においては、特に線経の細いトリウムタングステン線に適用することが好ましく、具体的には1mm以下の線材に適用されることで、耐変形特性の改善効果を顕著に得ることが可能になる。
上記のトリウムタングステン合金よりなるトリウムタングステン線は、例えば下記のような方法によって製造することができる。
【0025】
金属タングステン粉末とトリウムおよび/またはトリウム化合物溶液を混合し、前記混合物を還元性雰囲気中で加熱還元して、タングステン粉末中にトリウムおよび/またはトリウム化合物粒子を分散させた粉末を製造し、前記粉末を成形、焼結して焼結体を製造した後、前記焼結体に対し圧延、伸線加工を施すことを特徴とする、トリウムタングステン線の製造方法。本発明は、このようなトリウムタングステン線の製造方法に関するものでもある。
【0026】
本発明によるトリウムタングステン線の製造方法においては、金属タングステン粉末(およびこれとトリウム及び/又はトリウム化合物とからなる)混合物を、還元性雰囲気中で加熱還元することが特に重要である。
【0027】
従来法のように、タングステン酸化物(WO)とトリウムおよび/またはトリウム化合物の粉末とからなる混合物を、還元条件に付してタングステンの還元を行う場合(あるいはタングステンとトリウム、トリウム化合物の両者の還元を行う場合)には、この還元に際してトリウムおよび/またはトリウム化合物粒子の成長が避けられず、その結果、トリウムおよび/またはトリウム化合物の粒子の平均粒径が0.3μm以下であるトリウムタングステン合金(即ち、本発明によるトリウムタングステン合金)を得ることは出来ない。
【0028】
金属タングステン粉末を使用する本発明では、従来法のようなタングステン酸化物(WO)の還元を何等考慮することなくトリウムおよび/またはトリウム化合物の還元に最も適した還元条件を設定することができるので、そしてこのトリウムおよび/またはトリウム化合物の還元に最も適した還元条件は従来法における通常の還元条件よりも温和な還元条件であることから、本発明では粒径増大が抑制されたトリウムおよびトリウム化合物粒子の適正分散が実現されて、その結果として上記目的が達成される。
【0029】
本発明において使用される金属タングステン粉末としては、平均粒径が1〜5μmのものが好ましく、平均粒径が1.5〜3.5μmのものが特に好ましい。
【0030】
なお、本発明における金属タングステン粉末は、トリウムおよび/またはトリウム化合物と混合し、この混合物を焼成に付す段階において、金属タングステン粉末、特に好ましくは上記粒径範囲内のもの、になっていることが好ましい。よって、使用するタングステン粉末が金属タングステンでない場合あるいは上記好ましい粒径のものでない場合には、混合ないし焼成に先立って、上記の好ましい粒径の金属タングステン粉末を生成させるための処理に付しておくことができる。
【0031】
また、本発明において使用されるトリウムおよび/またはトリウム化合物は、本発明の目的・効果が達成されるならば固体状(例えば粉末ないし粒状の形態)で前記の金属タングステン粉末と配合することも可能であるが、溶液状で前記金属タングステン粉末と配合するのが一般的でありかつ好ましい。その場合の溶液としては硝酸溶液が特に好ましい。
【0032】
本発明によるトリウムタングステン線の製造方法における還元は、水素ガス、一酸化炭素等の還元性雰囲気中で加熱して行われる。ここで、この還元の際の加熱温度は、400〜950℃、好ましくは400〜800℃、である。また、加熱時間は、2〜6時間、好ましくは3〜5時間、である。加熱温度が上記範囲外である場合には還元を充分に行うことが難しくなる。還元性雰囲気としては、水素雰囲気が特に好ましい。
【0033】
金属タングステン粉末とトリウムからなる混合物は、上記の加熱還元処理の後、定法に従って、タングステン粉末中にトリウムおよび/またはトリウム化合物粒子を分散させた粉末を製造し、前記粉末を成形、焼結して焼結体を製造した後、前記焼結体に対し圧延、伸線加工を施すことによって、トリウムタングステン線とすることができる。ここで、圧延は、一回の加工で5〜20%の減面率になるように設定するのが好ましい。減面率がこれより小さいと材料表面部と中心部との加工歪みが大きくなることでクラック発生要因となる場合があり、一方、減面率が20%を越えると、加工時の割れ発生の要因となることがあって、好ましくない。圧延加工時の加熱温度が500℃より低いと加工時の割れ発生の要因となり、1600℃より越えると材料の酸化による損失量が著しく、そして加工ダイスの摩耗が早くなるので、好ましくない。
【0034】
圧延加工の途中段階において、必要に応じて熱処理を実施してトリウムタングステンを再結晶させることができる。この熱処理の処理温度は2000〜2300℃が好ましい。2000℃未満ではトリウムタングステンが再結晶せず、2300℃超過では材料が脆くなるので好ましくない。伸線加工は、一回の加工で5〜35%の減面率になるように設定するのが好ましい。減面率がこれより小さいと材料表面部と中心部との加工歪みが大きくなることでクラック発生要因となる場合があり、一方、減面率が35%を越えると、伸線加工時に線径時が細くなり、極端な場合は断線が発生することがある。伸線加工時の温度は、550〜1300℃が好ましい。550℃未満では加工時にクラック発生しやすくなり、1300℃超過では加工時の線径が細くなりダイスの摩耗が激しくなる。
【0035】
このようにして、タングステンマトリクス中にトリウムおよび/またはトリウム化合物が平均粒径0.3μm以下の粒子状で分散してなるトリウムタングステン合金からなるトリウムタングステン線を得ることができる。
【0036】
このようなトリウムタングステン線からなるコイルは、後記の実施例に記載されているように、耐変形性が改善されたものである。
【0037】
そして、このようなトリウムタングステン線コイルは、図1に示されるような、一対の支持部材2間に加熱線条1が支持されてなる電子管用陰極構体(例えば、電子レンジ用のマグネトロンの陰極後構体)における加熱線条1として、特に有用なものである。本発明は、また、一対の支持部材2間に加熱線条1が支持されてなる電子管用陰極構体であって、加熱線条1が上記トリウムタングステン線よりなる電子管用陰極構体に関するものでもある。
【実施例】
【0038】
<実施例1〜15>
金属タングステン粉末(平均粒径3μm)に硝酸トリウム溶液を添加して、両者をよく混合した。硝酸トリウム溶液の添加量は、目的とするトリウム量により算出した。表1に示されるようなトリウム量が異なるトリウムタングステン合金が得られるように複数の混合物(試料No.11〜13、No.18〜20、No.25〜27、No.32〜34、No.39〜41)を調製した。
【0039】
上記の各混合物を大気雰囲気中で400〜900℃で加熱して、硝酸トリウムを酸化トリウムとした。更に、この粉末を水素雰囲気中で、表1に示される温度範囲で還元した。
この粉末を13mm×13mm×600mmの角形金型により成形した後、通電により2600℃に加熱して焼結させた。
【0040】
得られた焼結体を、1回の加工で10%の減面率になるように設定し、焼結体からの総加工率が75%となるまで圧延加工した。この圧延加工時の温度は1300℃であった。この加工の途中で2300℃の熱処理を2回実施した。
【0041】
次いで、1回の加工で15〜20%の減面率になるように設定し、線径が1mmになるまで伸線加工した。加工の進行につれて、加熱温度を1300℃から500℃まで徐々に低下させた。
【0042】
得られたトリウムタングステン線0.5mmから内径3mm、長さ10mmのコイルを製造した。同様にして、同一の試料から合計100個のコイルを製造した。
【0043】
製造したコイルを水平にし両端を把持し、5Vの電圧(これは定格の140%に相当する)をかけた状態で、振幅5mm、5Gの振動を12時間を与えた。
振動を与え終わった100個のコイルの変形を調べた。コイル変形は、コイルを水平にした時のたわみ量を計り、100個のコイルのうちたわみ量が1mm以上であるコイルがいくつあるかによって評価した。
【0044】
結果は、表1に示されるとおりである。表1には、トリウムタングステン合金のトリウム量および合金中のトリウム粒子の粒子径も示されている。ここで、タングステン合金のトリウム量は、JIS H1405に定める塩素水素ガス揮散重量法によって分析したときのものであり、合金中のトリウム粒子の粒子径は、トリウムタングステン線を2mm間隔で3ケ所切断し、その切断面を研磨後、研磨面の幅0.4mm、長さ0.4mmの視野を200倍で観察し、露出したトリウム粒子の大きさを面積基準で算出したときの平均値である。
【0045】
<比較例1〜34>
金属タングステン粉末の代わりにタングステン酸化物を用い、実施例と同様にして、表1に示されるトリウム量のタングステン混合物(試料No.1〜10、No.14〜17、No.21〜24、No.28〜31、No.35〜38、No.42〜49)の調製し、表1に示される通りの温度で変水素雰囲気中で還元し、成形し、焼結した。そして、実施例と同様に圧延加工および伸線加工をしてコイルを製造した。製造したコイルについて、同様にコイル変形を評価した。
結果は、表1に示されるとおりである。
【0046】
【表1】

【0047】
【表2】

【0048】
表1に示されるように、金属タングステンとトリウムとからなる混合物を400〜800℃の温度で還元処理されて得られる合金は、トリウムが平均粒径0.3μm以下の粒子状で分散してなるものであり、そしてこのようなトリウムタングステン合金から得られたトリウムタングステン線は耐変形性が改善されたものである。
【0049】
上記本発明に係る実施例のトリウムタングステン線を、常法によりコイル形状に加工し、図1に示す電子管用陰極構体の加熱線条として用いたところ、従来に比し、特性の劣化が抑制された。
【0050】
<発明の効果>
本発明によれば、タングステンからなるマトリクス中にトリウムおよび/またはトリウム化合物が平均粒径0.3μm以下の粒子状で分散してなるトリウムタングステン合金が得られる。
【0051】
このトリウムタングステン合金は、線材の形成の特に適したものであり、そしてこのようなトリウムタングステン線から製造されたコイルは耐変形性が改善されたものである。
【0052】
そして、このトリウムタングステン線コイルを加熱線条として適用してなる本発明による電子管用陰極構体は、優れた耐久性を有するものである。
【符号の説明】
【0053】
1 加熱線条
2 支持部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属タングステンおよび不可避的成分からなるマトリクス中にトリウムおよび/またはトリウム化合物が粒子状で分散してなるトリウムタングステン合金であって、前記トリウムおよび/またはトリウム化合物の含有量が0.5〜2重量%以上でありかつこのトリウムおよび/またはトリウム化合物の粒子の平均粒径が0.3μm以下であることを特徴とする、トリウムタングステン合金。
【請求項2】
トリウム化合物が酸化トリウムである、請求項1に記載のトリウムタングステン合金。
【請求項3】
請求項1または2に記載のトリウムタングステン合金よりなることを特徴とする、トリウムタングステン線。
【請求項4】
線径が1mm以下のものである、請求項3に記載のトリウムタングステン線。
【請求項5】
金属タングステン粉末とトリウムおよび/またはトリウム化合物溶液を混合し、前記混合物を大気雰囲気中で加熱した後、還元性雰囲気中で加熱還元して、タングステン粉末中にトリウムおよび/またはトリウム化合物粒子を分散させた粉末を製造し、前記粉末を成形、焼結して焼結体を製造した後、前記焼結体に対し圧延、伸線加工を施すことによって製造された、請求項3または4に記載のトリウムタングステン線。
【請求項6】
トリウムおよび/またはトリウム化合物の加熱還元が400〜800℃の温度で行なわれたものである、請求項5に記載のトリウムタングステン線。
【請求項7】
大気雰囲気中での加熱が400〜900℃で行なわれたものである、請求項5または6に記載のトリウムタングステン線。
【請求項8】
請求項3〜7のいずれか1項に記載のトリウムタングステン線よりなることを特徴とする、タングステン線コイル。
【請求項9】
一対の支持部材間に加熱線条が支持されてなる電子管用陰極構体であって、前記加熱線条が請求項3〜7のいずれか1項に記載のトリウムタングステン線よりなることを特徴とする、電子管用陰極構体。

【図1】
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【公開番号】特開2012−167376(P2012−167376A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−91044(P2012−91044)
【出願日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【分割の表示】特願2001−26521(P2001−26521)の分割
【原出願日】平成13年2月2日(2001.2.2)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】