説明

トリポード型等速自在継手

【課題】 トラニオン・ジャーナル22とローラ30との間に組み込まれた針状ころ32のスキューを規制してトリポード型等速自在継手の振動を少なくする。
【解決手段】 針状ころ32のスキュー角を所定の規格値内に規制する。好ましくは、円周方向すきまによって生じ得る針状ころ32のスキュー角θ1を、ローラとトラニオン・ジャーナル22との間の環状空間内における径方向すきまによって生じ得る針状ころ32のスキュー角θ2よりも大きくし、かつ、後者のスキュー角θ2を4.0°〜4.5°の範囲内に設定する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、自動車や産業機械等における動力伝達に使用されるスライド式のトリポード型等速自在継手に関する。
【0002】
【従来の技術】トリポード型等速自在継手は、図6の左半分に示すように、内周の円周方向三等分位置に軸方向に延びるトラック溝12’を形成した外側継手部材10’と、軸とトルク伝達可能に嵌合するトラニオン胴部21とトラニオン胴部21の円周方向三等分位置から半径方向に突出したトラニオン・ジャーナル22’とからなるトリポード部材20’と、各トラニオン・ジャーナル22’の回りに複数の針状ころ32’を介して回転可能でトラック溝12’に収容されたローラ30’とを備え、ローラ30’がその外周面にてトラック溝12’の両側壁に形成されたローラ案内面14’によって案内されるようになっている。
【0003】従来のトリポード型等速自在継手においては、トラニオン・ジャーナル22’、針状ころ32’、ローラ30間のすきま(ラジアルすきま、円周方向すきま)はスキュー角を考慮して設定されていなかった。ここで、ころのスキューとは、図3に示すように、ころの軸が進行方向に正しい直角をなさずにある小さな角度(θ)傾くことをいう。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】針状ころが実際にスキューし得る角度いかんによってトリポード型等速自在継手のNVH特性が変わることが判った。スキュー角はラジアルすきま、円周方向すきまから決定されるところ、従来、このことが考慮に入れられていなかった。そのため、トリポード型等速自在継手のプロポーション違いやサイズ等によりNVH特性が違い、最適化が図られていないのが現状である。
【0005】本発明の目的は、針状ころのスキューを抑制してトリポード型等速自在継手の低振動化を図ることにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】針状ころが実際にスキューし得る角度すなわちスキュー角の自由度は、直径すきま(ラジアルすきま)による制約と、ピッチ円におけるころ間のすきま(円周方向すきま)による制約を受け、両者のすきまのうち小さいほうが支配的となる。円周方向すきまによるスキューの場合、ころ同士が接するまでスキューし得るため、このときのスキュー角θ1は数1で表わされる。
【0007】
【数1】


【0008】ここに、Dはローラの内径、dはころ径、Zはころ数である。
【0009】また、ラジアルすきまによるスキューの場合は、ころ両端部がローラ内径に接するまでスキューし得るから、このときのスキュー角θ2は数2で表わされる。
【0010】
【数2】


【0011】ここに、grはラジアルすきま、lはころの有効長さである。
【0012】これらのスキュー角θ1、θ2をそれぞれ求め、小さい方が実際に起こり得るスキュー角である(参照:曽田範宗著『軸受』岩波書店発行)。
【0013】そして、両スキュー角θ1、θ2の関係がθ1>θ2で、かつ、スキュー角θ2が4.0°〜4.5°となるようにラジアルすきまを設定したとき、トリポード型等速自在継手の起振力は最小値を示すことが判明した。このことを考慮することにより、トリポード型等速自在継手の低振動化に関し最適化を図ることができる。
【0014】請求項1の発明は、内周の円周方向三等分位置に軸方向に延びるトラック溝を形成した外側継手部材と、軸とトルク伝達可能に嵌合するトラニオン胴部と前記トラニオン胴部の円周方向三等分位置から半径方向に突出したトラニオン・ジャーナルとからなるトリポード部材と、前記各トラニオン・ジャーナルに複数の針状ころを介して回転可能に取り付けられ前記トラック溝に収容されたローラとを備え、前記ローラがその外周面にて前記トラック溝の両側壁に形成されたローラ案内面によって案内されるようにしたトリポード型等速自在継手において、前記針状ころのスキュー角を所定の規格値内に規制したことを特徴とするトリポード型等速自在継手である。
【0015】請求項2の発明は、請求項1に記載のトリポード型等速自在継手において、前記ローラと前記トラニオン・ジャーナルとの間の環状空間内における前記針状ころの径方向すきまによって生ずる針状ころのスキュー角(θ2)を所定の規格値内に規制したことを特徴とする。スキュー角(θ2)は、上記数2に基づき、ローラ内径D、ラジアルすきまgr、針状ころの有効長さlの各値を適宜組み合わせることによって定めることができる。
【0016】具体的には、スキュー角(θ2)の好ましい範囲は、請求項3の発明のように、4.0°〜4.5°の範囲である。これは、スキュー角(θ2)が4.0°〜4.5°の範囲においてスラスト力が最小となることが判明したことによる。スキュー角(θ2)が4.5°を越えるとスラスト力が上がって、あるレベルでサチュレートし、逆に、スキュー角(θ2)が4.0より小さくなるとスラスト力が上がる傾向にある。
【0017】請求項4の発明は、請求項1ないし3のいずれかに記載のトリポード型等速自在継手において、円周方向すきまによって生じ得る針状ころのスキュー角(θ1)が、前記ローラと前記トラニオン・ジャーナルとの間の環状空間内における径方向すきまによって生じ得る前記針状ころのスキュー角(θ2)よりも大きいことを特徴とする。上述のとおり、円周方向すきまによって生じ得るスキュー角(θ1)と径方向すきまによって生じ得るスキュー角(θ2)のうちどちらか小さい方が実際に起こり得るスキュー角であることから、後者のスキュー角(θ2)を小さくしておくことによって、このスキュー角(θ2)のみを規制することで針状ころのスキュー対策を講じることができる。
【0018】請求項5の発明は、請求項1ないし4のいずれかに記載のトリポード型等速自在継手において、前記ローラと前記ローラ案内面との接触率を1.02〜1.2とし、所定のトルク負荷時に、前記ローラに生ずる接触楕円がローラの端面から外れない程度に前記ローラの幅寸法を小さくしたことを特徴とする。接触率が小さいと、トルク負荷時、接触楕円が大きくなってローラの幅を越えてしまい短寿命となり、逆に、接触率が大きいと接触楕円は小さくなるが、面圧が高くなって接触部の摩耗が促進され、短寿命となるからである。
【0019】また、ローラの幅寸法を小さくすることによって外側継手部材の、ひいてはトリポード型等速自在継手全体のコンパクト化に寄与する。具体的には、請求項6の発明のように、ローラの幅(Ls)と外径(do)との比(Ls/do)の値を0.24〜0.27とするのが好ましい。この比(Ls/do)の値が小さいほどローラの外径doの割に幅Lsが小さくなるためコンパクト化に寄与する度合いは大きいが、過度に小さくすると面圧が高くなって強度、耐久性が低下することになるためその面から下限を定めたものである。
【0020】請求項7の発明は、請求項1ないし5のいずれかに記載のトリポード型等速自在継手において、前記ローラと前記ローラ案内面との間に生ずる接触面圧と、前記トラニオン・ジャーナルと前記針状ころ間に生ずる接触面圧が略等しくなるように、前記ローラの幅寸法と前記針状ころの長さを設定したことを特徴とする。接触面圧を均等にすることによって、どちらかが早期に摩耗してトリポード型等速自在継手全体の耐久性を劣化させることがないようにするためである。
【0021】
【発明の実施の形態】図1ないし図4に従って本発明の実施の形態を説明する。
【0022】まず、トリポード型等速自在継手の基本構成を説明すると、図1および図2に示すように、トリポード型等速自在継手は、連結すべき二軸のうちの一方の回転軸と接続する外側継手部材10と、他方の回転軸と接続するトリポード・ユニット(20,30,32)とを主要な構成要素としている。
【0023】外側継手部材10は、円周方向等分位置に軸方向に延びる3 本のトラック溝12を配置した中空カップ状であり、外側継手部材10の内周は円周方向に交互に現れる小内径部と大内径部とで構成されている。各トラック溝12は対向する側壁にローラ案内面14を形成している。このローラ案内面14は円筒面の一部すなわち部分円筒面である。
【0024】トリポード・ユニットは、トリポード部材20とローラ30と複数の針状ころ32を含んでいる。
【0025】トリポード部材20は、円周方向等分位置に半径方向に突出した3 本のトラニオン・ジャーナル22を有する。各トラニオン・ジャーナル22は、円筒形外周面24と、軸端付近に形成された環状の輪溝26を備えている。トラニオン・ジャーナル22の外周に複数の針状ころ32を介して回転自在にローラ30が外嵌している。トラニオン・ジャーナル22の円筒形外周面24は針状ころ32の内側軌道面を提供する。ローラ30の内周面は円筒形で、針状ころ32の外側軌道面を提供する。
【0026】針状ころ32はトリポード部材20の半径方向で見た外側の端面にてアウタ・ワッシャ34と接し、反対側の端面にてインナ・ワッシャ38と接している。アウタ・ワッシャ34は輪溝26に装着されたサークリップ36によって軸方向移動を規制されているため、結局、針状ころ32も軸方向移動を規制される。アウタ・ワッシャ34は、トラニオン・ジャーナル22の半径方向に延びた円盤部34aと、トラニオン・ジャーナル34の軸線方向に延びた円筒部34bとからなる。アウタ・ワッシャ34の円筒部34bはローラ30の内径より小さな外径を有し、トリポード部材20の半径方向で見た外側の端部34cにてローラ30の内径よりも大径に拡大している。したがって、ローラ30はトラニオン・ジャーナル22の軸線方向に移動することができる。
【0027】ローラ30の外周面は、軸線上に曲率中心を置いた部分球面とするほか、軸線から半径方向に離れた位置に曲率中心を置いた円弧を母線とする凸曲面とすることもできる。また、ローラ案内面14とローラ30の接触形態は、図4(A)に示すようなアンギュラ・コンタクト、あるいは、図4(B)に示すようなサーキュラ・コンタクトとすることもできる。アンギュラ・コンタクトはある接触角をもち、二点で接触するため、接触角方向の二点に接触楕円が発生する。サーキュラ・コンタクトは球面同士の接触であるため一点で接触する。いずれの場合も、所定トルクを負荷したとき、その接触楕円がローラ30の端面から外れずローラ幅内におさまるようにローラ30の幅Wを設定する必要がある。接触率が小さいとトルク負荷時、接触楕円が大きくなってローラ30の幅Lsを越えてしまい、短寿命となる。逆に、接触率が大きいと接触楕円は小さくなるが、面圧が高くなって接触部の摩耗が促進され、短寿命となる。ただし、トリポード型等速自在継手の面圧は、構造上、トラニオン・ジャーナル22/針状ころ32間が最も厳しくなっているため、この部分の面圧を越えないように、接触率を設定すればよい。具体的には、接触率は1.02〜1.2の範囲、より好ましくは1.05〜1.18の範囲とする。また、ローラ30の幅Lsと外径doとの比Ls/doの値を0.24〜0.27とする。
【0028】さらに、ローラ30とローラ案内面14との間に生ずる接触面圧と、トラニオン・ジャーナル22と針状ころ36との間に生ずる接触面圧が略等しくなるように、ローラ30の幅Lsと針状ころ32の有効長さlを設定するのが好ましい。
【0029】上述の実施の形態において、径方向すきまによる針状ころ32のスキュー角θ2のみを異ならせた複数のトリポード型等速自在継手について誘起スラストを測定したところ、図5に示すとおりの結果が得られた。試験条件は次のとおりである。
トルク:294N・m作動角:7deg回転数:150rpm図5は縦軸をトリポード型等速自在継手の誘起スラスト力、横軸を計算上のスキュー角θ2(deg)とし、スラスト力測定データをプロットしたものである。同図より、スキュー角θ2が4.0°〜4.5°の範囲においてスラスト力が最小値を示していることが判る。スキュー角θ2が4.5°を越えるとスラスト力が上がってあるレベルでサチュレートする。また、スキュー角θ2が4.0より小さくなるとスラスト力が上がる傾向にある。したがって、針状ころ32のスキューに関しては、スキュー角θ2を4.0°〜4.5°の範囲に設定することにより、トリポード型等速自在継手の誘起スラストが低減し、低振動化を達成することができる。
【0030】
【発明の効果】以上説明したように、内周の円周方向三等分位置に軸方向に延びるトラック溝を形成した外側継手部材と、軸とトルク伝達可能に嵌合するトラニオン胴部と前記トラニオン胴部の円周方向三等分位置から半径方向に突出したトラニオン・ジャーナルとからなるトリポード部材と、前記各トラニオン・ジャーナルに複数の針状ころを介して回転可能に取り付けられ前記トラック溝に収容されたローラとを備え、前記ローラがその外周面にて前記トラック溝の両側壁に形成されたローラ案内面によって案内されるようにしたトリポード型等速自在継手において、前記針状ころのスキュー角を所定の規格値内に規制することによって、トリポード型等速自在継手の低振動化が可能となる。
【0031】円周方向すきまによって生じ得るスキュー角(θ1)と径方向すきまによって生じ得るスキュー角(θ2)のうちどちらか小さい方が実際に起こり得るスキュー角であることから、請求項4の発明のように、円周方向すきまによって生じ得る針状ころのスキュー角(θ1)を、前記ローラと前記トラニオン・ジャーナルとの間の環状空間内における径方向すきまによって生じ得る前記針状ころのスキュー角(θ2)よりも大きくすることにより(θ1>θ2)、請求項2の発明のように、後者のスキュー角(θ2)のみを規制することで針状ころのスキュー対策を講じることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】(A)はトリポード型等速自在継手の横断面図、(B)はトリポード型等速自在継手の縦断面図である。
【図2】(A)は外側継手部材の端面図、(B)はトラニオン・ジャーナル周りの断面図、(C)は(B)の部分拡大図である。
【図3】針状ころのスキューを説明するための説明図である。
【図4】ローラとローラ案内面との接触部の拡大断面図であって、(A)はアンギュラ・コンタクトの場合、(B)はサーキュラ・コンタクトの場合を示す。
【図5】スキュー角(θ2)と誘起スラストとの関係を示すグラフである。
【図6】本発明の実施の形態と従来例を左右に対比して示すトリポード型等速自在継手の横断面図である。
【符号の説明】
10 外側継手部材
12 トラック溝
14 ローラ案内面
16 小内径部
D1 内径
18 大内径部
D2 内径
20 トリポード部材
22 トラニオン・ジャーナル
24 円筒形外周面
26 輪溝
30 ローラ
do 外径
Ls 幅
32 針状ころ
d ころ径
l 有効長さ
34 アウタ・ワッシャ
34a 円盤部
34b 円筒部
34c 拡径部
36 サークリップ
38 インナ・ワッシャ

【特許請求の範囲】
【請求項1】 内周の円周方向三等分位置に軸方向に延びるトラック溝を形成した外側継手部材と、軸とトルク伝達可能に嵌合するトラニオン胴部と前記トラニオン胴部の円周方向三等分位置から半径方向に突出したトラニオン・ジャーナルとからなるトリポード部材と、前記各トラニオン・ジャーナルに複数の針状ころを介して回転可能に取り付けられ前記トラック溝に収容されたローラとを備え、前記ローラがその外周面にて前記トラック溝の両側壁に形成されたローラ案内面によって案内されるようにしたトリポード型等速自在継手において、前記針状ころのスキュー角を所定の規格値内に規制したことを特徴とするトリポード型等速自在継手。
【請求項2】 前記ローラと前記トラニオン・ジャーナルとの間の環状空間内における前記針状ころの径方向すきまによって生ずる針状ころのスキュー角を所定の規格値内に規制したことを特徴とする請求項1に記載のトリポード型等速自在継手。
【請求項3】 前記スキュー角(θ2)が4.0°〜4.5°の範囲内であることを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載のトリポード型等速自在継手。
【請求項4】 円周方向すきまによって生じ得る針状ころのスキュー角(θ1)が、前記ローラと前記トラニオン・ジャーナルとの間の環状空間内における径方向すきまによって生じ得る針状ころのスキュー角(θ2)よりも大きいことを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載のトリポード型等速自在継手。
【請求項5】 前記ローラと前記ローラ案内面との接触率を1.02〜1.2とし、所定のトルク負荷時に、前記ローラに生ずる接触楕円がローラの端面から外れない程度に前記ローラの幅寸法を小さくしたことを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載のトリポード型等速自在継手。
【請求項6】 前記ローラの幅(Ls)と外径(do)との比(Ls/do)の値を0.24〜0.27の範囲としたことを特徴とする請求項5に記載のトリポード型等速自在継手。
【請求項7】 前記ローラと前記ローラ案内面との間に生ずる接触面圧と、前記トラニオン・ジャーナルと前記針状ころ間に生ずる接触面圧が略等しくなるように、前記ローラの幅寸法と前記針状ころの長さを設定したことを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載のトリポード型等速自在継手。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2001−330050(P2001−330050A)
【公開日】平成13年11月30日(2001.11.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2000−150182(P2000−150182)
【出願日】平成12年5月22日(2000.5.22)
【出願人】(000102692)エヌティエヌ株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】