説明

トルク推定装置及びトルク推定方法

【課題】偏心量に対する変速比の特性が幾何学的に非線形な無段変速機における入力トルク及び/又は出力トルクを高い精度で推定するトルク推定装置を提供すること。
【解決手段】四節リンク機構式の無段変速機におけるトルクを推定するトルク推定装置は、動力源からの回転動力による無段変速機の入力側の回転数である入力回転数と、無段変速機の出力側の回転数である出力回転数と、無段変速機に設定されている偏心量とに基づいて、無段変速機の変速比毎に異なるトルクと偏心量の関係から、無段変速機に入力されるトルクである入力トルク及び/又は無段変速機が出力するトルクである出力トルクを推定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏心量に対する変速比の特性が幾何学的に非線形な無段変速機に入力されるトルク及び/又は当該無段変速機が出力するトルクを推定するトルク推定装置及びトルク推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関の動力で走行する車両では、内燃機関の動力を伝達する変速機の出力トルクは推定値で得られる。すなわち、変速機の出力トルクは、内燃機関の出力トルクを推定し、その推定値に変速機の変速比を掛け合わせることによって得られる。但し、内燃機関の出力トルクは、内燃機関における回転数や吸入空気流量、圧力、温度、スロットル開度等の検出値に基づいて演算した結果であるため精度が良くない。これは、内燃機関のトルク特性が、基本的には、シリンダー内で起こる燃料と空気の化学反応とシリンダーからクランクシャフトまでの機械的な関係で決まるためである。また、変速機においても、内部でのフリクション等でトルク損失が発生するため、上記方法で得られる変速機の出力トルクの推定値の精度は良くない。
【0003】
したがって、変速機の出力トルクを精度良く導出可能な技術が望まれる。また、変速機の入力トルクは内燃機関の出力トルクと略同義であるが、上述したように、内燃機関の出力トルクの精度も良くないため、変速機の入力トルクを精度良く導出可能な技術も望まれる。
【0004】
ところで、変速機の種類は様々であるが、その一つに、IVT(Infinity Variable Transmission)と呼ばれる無段変速機がある。IVTは、内燃機関の出力軸の回転運動を揺動運動に変換し、更に揺動運動を回転運動に変換して変速機の出力軸から出力する。このため、IVTでは、クラッチを使用せずに変速比を無段階に変更できると共に、変速比の最大値を無限大に設定することができる。なお、IVTにおいて、変速比が無限大に設定されたときの出力回転数はゼロである。
【0005】
図3は、IVTと呼ばれる無段変速機の一部の構成を軸線方向から見た側断面図である。図3に示す無段変速機は、内燃機関等の動力源からの回転動力を受けることで入力中心軸線O1の周りを回転する入力軸101と、入力軸101と一体回転する偏心ディスク104と、入力側と出力側を結ぶ連結部材130と、出力側に設けられたワンウェイクラッチ120とを備える。
【0006】
偏心ディスク104は、第1支点O3を中心とした円形形状に形成されている。第1支点O3は、入力中心軸線O1に対して変更可能な偏心量r1を保ちつつ、入力中心軸線O1の周りに入力軸101と共に回転するように設定されている。したがって、偏心ディスク104は、偏心量r1を保った状態で、入力中心軸線O1の周りを入力軸101が回転するに伴って偏心回転するように設けられている。
【0007】
偏心ディスク104は、図3に示すように、外周側円板105と、入力軸101に一体形成された内周側円板108とで構成されている。内周側円板108は、入力軸101の中心軸線である入力中心軸線O1に対して一定の偏心距離だけ中心を偏倚させた肉厚円板として形成されている。外周側円板105は、第1支点O3を中心にした肉厚円板として形成されており、その中心(第1支点O3)を外れた位置に中心を持つ第1円形孔106を有している。そして、この第1円形孔106の内周に回転可能に内周側円板108の外周が嵌っている。
【0008】
また、内周側円板108には、入力中心軸線O1を中心とすると共に周方向の一部が内周側円板108の外周に開口した第2円形孔109が設けられており、その第2円形孔109の内部にピニオン110が回転自在に収容されている。ピニオン110の歯は、第2円形孔109の外周の開口を通して、外周側円板105の第1円形孔106の内周に形成した内歯歯車107に噛み合っている。
【0009】
このピニオン110は、入力軸101の中心軸線である入力中心軸線O1と同軸に回転するように設けられている。即ち、ピニオン110の回転中心と入力軸101の中心軸線である入力中心軸線O1とが一致している。ピニオン110は、直流モータ及び減速機構によって構成される図示しないアクチュエータにより、第2円形孔109の内部で回転させられる。通常時は、入力軸101の回転と同期させてピニオン110を回転させ、同期する回転数を基準として、ピニオン110に入力軸101の回転数を上回るか下回るかする回転数を与えることにより、ピニオン110を入力軸101に対して相対回転させる。例えば、ピニオン110およびアクチュエータの出力軸が互いに連結されるように配置し、アクチュエータの回転が入力軸101の回転に対して回転差が生じる場合には、その回転差に減速比をかけた分だけ入力軸101とピニオン110の相対角度が変化する減速機構(例えば遊星歯車)を用いることで実現できる。この際、アクチュエータと入力軸101の回転差がなく同期している場合には偏心量r1は変化しない。
【0010】
従って、ピニオン110を回すことにより、ピニオン110の歯が噛合している内歯歯車107つまり外周側円板105が内周側円板108に対して相対回転し、それにより、ピニオン110の中心(入力中心軸線O1)と外周側円板105の中心(第1支点O3)との間の距離(つまり偏心ディスク104の偏心量r1)が変化する。
【0011】
この場合、ピニオン110の回転によって、ピニオン110の中心(入力中心軸線O1)に外周側円板105の中心(第1支点O3)を一致させることができるように設定されており、両中心を一致させることにより、偏心ディスク104の偏心量r1を「ゼロ」に設定できる。
【0012】
また、ワンウェイクラッチ120は、入力中心軸線O1から離れた出力中心軸線O2の周りを回転する出力部材(クラッチインナー)121と、外部から回転方向の動力を受けることで出力中心軸線O2の周りを揺動するリング状の入力部材(クラッチアウター)122と、入力部材122および出力部材121を互いにロック状態または非ロック状態にするために入力部材122と出力部材121の間に挿入された複数のローラ(係合部材)123とを有する。なお、ワンウェイクラッチ120には、出力部材121の断面における辺数と同数のローラ123が設けられている。
【0013】
ワンウェイクラッチ120の入力部材122から出力部材121への動力(トルク)の伝達は、入力部材122の正方向(図3中矢印RD1方向)の回転速度が出力部材121の正方向の回転速度を超えた条件でのみ行われる。つまり、ワンウェイクラッチ120では、入力部材122の回転速度が出力部材121の回転速度より高くなったときに初めてローラ123を介しての噛み合い(ロック)が発生し、入力部材122の揺動動力が出力部材121の回転運動に変換される。
【0014】
入力部材122の周方向の1箇所には張り出し部124が設けられており、その張り出し部124に、出力中心軸線O2から離間した第2支点O4が設けられている。そして、入力部材122の第2支点O4上にピン125が配置され、このピン125によって、連結部材130の先端(他端部)132が入力部材122に回転自在に連結されている。
【0015】
連結部材130は、一端側にリング部131を有し、そのリング部131の円形開口133の内周が、ベアリング140を介して、偏心ディスク104の外周に回転自在に嵌合されている。従って、このように連結部材130の一端が偏心ディスク104の外周に回転自在に連結されると共に、連結部材130の他端が、ワンウェイクラッチ120の入力部材122上に設けられた第2支点O4に回動自在に連結されることにより、図4に示すように、入力中心軸線O1、第1支点O3、出力中心軸線O2、第2支点O4の4つの節を回動点とする四節リンク機構が構成される。
【0016】
図4は、四節リンク機構として構成された無段変速機の駆動力伝達原理の説明図である。この四節リンク機構では、入力軸101から偏心ディスク104に与えられる回転運動が、連結部材130を介して、ワンウェイクラッチ120の入力部材122に対して該入力部材122の揺動運動として伝えられ、その入力部材122の揺動運動が出力部材121の回転運動に変換される。偏心ディスク104を回転させる入力軸101が1回転すると、ワンウェイクラッチ120の入力部材122は1往復揺動する。図4に示すように、偏心ディスク104の偏心量r1の値に関係なく、ワンウェイクラッチ120の入力部材122の揺動周期は常に一定である。入力部材122の角速度ω2は、偏心ディスク104(入力軸101)の回転角速度ω1と偏心量r1によって決まる。
【0017】
その際、ピニオン110、ピニオン110を収容する第2円形孔109を備えた内周側円板108、内周側円板108を回転可能に収容する第1円形孔106を備えた外周側円板105、アクチュエータなどにより構成された変速比可変機構112の前記ピニオン110をアクチュエータで動かすことにより、偏心ディスク104の偏心量r1を変化させることができる。そして、偏心量r1を変更することで、ワンウェイクラッチ120の入力部材122の揺動角度θ2を変更することができ、それにより、入力軸101の回転数に対する出力部材121の回転数の比(変速比:レシオi)を変えることができる。即ち、入力中心軸線O1に対する第1支点O3の偏心量r1を調節することで、偏心ディスク104からワンウェイクラッチ120の入力部材122に伝えられる揺動運動の揺動角度θ2を変更し、それにより、入力軸101に入力される回転動力が、偏心ディスク104および連結部材130を介してワンウェイクラッチ120の出力部材121に回転動力として伝達される際の変速比を変更することができる。
【0018】
図5(a)〜(d)及び図6(a)〜(c)は、図3に示した無段変速機における変速比可変機構112による変速原理の説明図である。図5及び図6に示すように、変速比可変機構112のピニオン110を回転させて、内周側円板108に対して外周側円板105を回転させることにより、偏心ディスク104の入力中心軸線O1(ピニオン110の回転中心)に対する偏心量r1を調節することができる。
【0019】
例えば、図5(a)及び図6(a)に示すように、偏心ディスク104の偏心量r1を「大」にした場合は、ワンウェイクラッチ120の入力部材122の揺動角度θ2を大きくすることができるので、小さな変速比iを実現することができる。また、図5(b)及び図6(b)に示すように、偏心ディスク104の偏心量r1を「中」にした場合は、ワンウェイクラッチ120の入力部材122の揺動角度θ2を「中」にすることができるので、中くらいの変速比iを実現することができる。また、図5(c)及び図6(c)に示すように、偏心ディスク104の偏心量r1を「小」にした場合は、ワンウェイクラッチ120の入力部材122の揺動角度θ2を小さくすることができるので、大きな変速比iを実現することができる。また、図5(d)に示すように、偏心ディスク104の偏心量r1を「ゼロ」にした場合は、ワンウェイクラッチ120の入力部材122の揺動角度θ2を「ゼロ」にすることができるので、変速比iを「無限大(∞)」にすることができる。
【0020】
図7は、ワンウェイクラッチ120の断面図及びその一部拡大図である。また、図8(a)〜(c)は、ワンウェイクラッチ120の各状態における一部拡大図である。図7及び図8(a)〜(c)に示すように、出力部材121のローラ123と接する面は、入力部材122の揺動運動に応じてその揺動方向にローラ123が移動可能な窪みを有する。但し、当該窪みの深さは、入力部材122が図7に示す空転方向の位置とトルク伝達方向の位置とで異なり、空転方向の位置の深さはトルク伝達方向の位置の深さよりも深い。
【0021】
入力部材122が相対的に出力部材121よりも空転方向に振れると、ローラ123も空転方向に移動する。空転方向の位置における入力部材122から出力部材121までの空間はローラ123の大きさよりも若干広い。このため、当該位置に移動したローラ123は空転する。一方、入力部材122が相対的に出力部材121よりもトルク伝達方向に振れると、ローラ123もトルク伝達方向に移動する。トルク伝達方向の位置における入力部材122から出力部材121までの空間はローラ123の大きさよりも若干狭い。このため、当該位置に移動したローラ123は、図8(a)に示すように、入力部材122と出力部材121とによって挟まれ、それぞれから対向する方向に圧力を受ける。このとき、ローラ123を介した入力部材122と出力部材121の噛み合い(ロック)が発生し、入力部材122の揺動動力が出力部材121の回転運動に変換される。この後、入力部材122の回転速度が出力部材121の回転速度より低下して、入力部材122が相対的に出力部材121よりも空転方向に振れると、ローラ123を介したロックが解除されて、図8(c)に示したように、ワンウェイクラッチ120はフリーな状態(空転状態)に戻る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0022】
【特許文献1】特許第4553863号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
上記説明した四節リンク機構で構成された無段変速機のトルク特性は機械的な関係のみで決まる。このため、内燃機関から当該無段変速機に入力されるトルク(入力トルク)や当該無段変速機が出力するトルク(出力トルク)を無段変速機の状態値に基づいて導出した値は、内燃機関の出力トルクの推定値を基に導出した値よりも精度が高いと考えられる。
【0024】
本発明の目的は、偏心量に対する変速比の特性が幾何学的に非線形な無段変速機における入力トルク及び/又は出力トルクを高い精度で推定可能なトルク推定装置及びトルク推定方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0025】
上記課題を解決して係る目的を達成するために、請求項1に記載の発明のトルク推定装置は、動力源(例えば、実施の形態での内燃機関)からの回転動力を受けることで入力中心軸線(例えば、実施の形態での入力中心軸線O1)の周りを回転する入力軸(例えば、実施の形態での入力軸101)と、前記入力中心軸線に対する偏心量(例えば、実施の形態での偏心量r1)を変更可能な第1支点(例えば、実施の形態での第1支点O3)をそれぞれの中心に有して、該偏心量を保ちつつ前記入力中心軸線の周りを前記入力軸と共に回転する偏心ディスク(例えば、実施の形態での偏心ディスク104)と、前記入力中心軸線から離れた出力中心軸線(例えば、実施の形態での出力中心軸線O2)の周りを回転する出力部材(例えば、実施の形態での出力部材121)と、外部から回転方向の動力を受けることで前記出力中心軸線の周りを揺動する入力部材(例えば、実施の形態での入力部材122)と、前記入力部材及び前記出力部材を互いにロック状態又は非ロック状態にする係合部材(例えば、実施の形態でのローラ123)と、を有し、前記入力部材の正方向の回転速度が前記出力部材の正方向の回転速度を上回ったとき、前記入力部材に入力された回転動力を前記出力部材に伝達し、それにより前記入力部材の揺動運動を前記出力部材の回転運動に変換するワンウェイクラッチ(例えば、実施の形態でのワンウェイクラッチ120)と、一端が前記偏心ディスクの外周に前記第1支点を中心に回転自在に連結され、他端が前記ワンウェイクラッチの前記入力部材上の前記出力中心軸線から離間した位置に設けられた第2支点(例えば、実施の形態での第2支点O4)に回動自在に連結されることで、前記入力軸から前記偏心ディスクに与えられる回転運動を、前記ワンウェイクラッチの前記入力部材に対し当該入力部材の揺動運動として伝える連結部材(例えば、実施の形態での連結部材130)と、前記入力中心軸線に対する前記第1支点の偏心量を調節することで、前記偏心ディスクから前記ワンウェイクラッチの前記入力部材に伝えられる揺動運動の揺動角度を変更するアクチュエータを有し、それにより、前記入力軸に入力される回転動力が前記偏心ディスク及び前記連結部材を介して前記ワンウェイクラッチの出力部材に回転動力として伝達される際の変速比を変更すると共に、前記偏心量がゼロに設定可能とされることで前記変速比を無限大に設定する変速比可変機構(例えば、実施の形態での変速比可変機構112)と、を備えた四節リンク機構式の無段変速機におけるトルクを推定するトルク推定装置であって、前記動力源からの回転動力による前記無段変速機の入力側の回転数である入力回転数と、前記無段変速機の出力側の回転数である出力回転数と、前記無段変速機に設定されている偏心量とに基づいて、前記無段変速機の変速比毎に異なるトルクと偏心量の関係から、前記無段変速機に入力されるトルクである入力トルク及び/又は前記無段変速機が出力するトルクである出力トルクを推定することを特徴としている。
【0026】
さらに、請求項2に記載の発明のトルク推定装置では、前記入力回転数と、前記出力回転数と、前記無段変速機に設定されている偏心量と、前記無段変速機内の潤滑油の温度である油温とに基づいて、前記無段変速機の変速比毎に異なるトルクと偏心量と油温の関係から、前記入力トルク及び/又は前記出力トルクを推定することを特徴としている。
【0027】
さらに、請求項3に記載の発明のトルク推定方法では、動力源(例えば、実施の形態での内燃機関)からの回転動力を受けることで入力中心軸線(例えば、実施の形態での入力中心軸線O1)の周りを回転する入力軸(例えば、実施の形態での入力軸101)と、前記入力中心軸線に対する偏心量(例えば、実施の形態での偏心量r1)を変更可能な第1支点(例えば、実施の形態での第1支点O3)をそれぞれの中心に有して、該偏心量を保ちつつ前記入力中心軸線の周りを前記入力軸と共に回転する偏心ディスク(例えば、実施の形態での偏心ディスク104)と、前記入力中心軸線から離れた出力中心軸線(例えば、実施の形態での出力中心軸線O2)の周りを回転する出力部材(例えば、実施の形態での出力部材121)と、外部から回転方向の動力を受けることで前記出力中心軸線の周りを揺動する入力部材(例えば、実施の形態での入力部材122)と、前記入力部材及び前記出力部材を互いにロック状態又は非ロック状態にする係合部材(例えば、実施の形態でのローラ123)と、を有し、前記入力部材の正方向の回転速度が前記出力部材の正方向の回転速度を上回ったとき、前記入力部材に入力された回転動力を前記出力部材に伝達し、それにより前記入力部材の揺動運動を前記出力部材の回転運動に変換するワンウェイクラッチ(例えば、実施の形態でのワンウェイクラッチ120)と、一端が前記偏心ディスクの外周に前記第1支点を中心に回転自在に連結され、他端が前記ワンウェイクラッチの前記入力部材上の前記出力中心軸線から離間した位置に設けられた第2支点(例えば、実施の形態での第2支点O4)に回動自在に連結されることで、前記入力軸から前記偏心ディスクに与えられる回転運動を、前記ワンウェイクラッチの前記入力部材に対し当該入力部材の揺動運動として伝える連結部材(例えば、実施の形態での連結部材130)と、前記入力中心軸線に対する前記第1支点の偏心量を調節することで、前記偏心ディスクから前記ワンウェイクラッチの前記入力部材に伝えられる揺動運動の揺動角度を変更するアクチュエータを有し、それにより、前記入力軸に入力される回転動力が前記偏心ディスク及び前記連結部材を介して前記ワンウェイクラッチの出力部材に回転動力として伝達される際の変速比を変更すると共に、前記偏心量がゼロに設定可能とされることで前記変速比を無限大に設定する変速比可変機構(例えば、実施の形態での変速比可変機構112)と、を備えた四節リンク機構式の無段変速機におけるトルクを推定するトルク推定方法であって、前記動力源からの回転動力による前記無段変速機の入力側の回転数である入力回転数と、前記無段変速機の出力側の回転数である出力回転数と、前記無段変速機に設定されている偏心量とに基づいて、前記無段変速機の変速比毎に異なるトルクと偏心量の関係から、前記無段変速機に入力されるトルクである入力トルク及び/又は前記無段変速機が出力するトルクである出力トルクを推定することを特徴としている。
【0028】
さらに、請求項4に記載の発明のトルク推定方法では、前記入力回転数と、前記出力回転数と、前記無段変速機に設定されている偏心量と、前記無段変速機内の潤滑油の温度である油温とに基づいて、前記無段変速機の変速比毎に異なるトルクと偏心量と油温の関係から、前記入力トルク及び/又は前記出力トルクを推定することを特徴としている。
【発明の効果】
【0029】
請求項1及び2に記載の発明のトルク推定装置、並びに、請求項3及び4に記載の発明のトルク推定方法によれば、偏心量に対する変速比の特性が幾何学的に非線形な無段変速機における入力トルク及び/又は出力トルクを高い精度で推定できる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】図3に示した無段変速機への入力トルクに対して設定される偏心量r1を変速比i毎に示すグラフ
【図2】一実施形態のトルク推定装置の内部構成を示すブロック図
【図3】IVTと呼ばれる無段変速機の一部の構成を軸線方向から見た側断面図
【図4】四節リンク機構として構成された無段変速機の駆動力伝達原理の説明図
【図5】(a)〜(d)は、図3に示した無段変速機における変速比可変機構112による変速原理の説明図
【図6】(a)〜(c)は、図3に示した無段変速機における変速比可変機構112による変速原理の説明図
【図7】ワンウェイクラッチ120の断面図及びその一部拡大図
【図8】(a)〜(c)は、ワンウェイクラッチ120の各状態における一部拡大図
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。
【0032】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。なお、本発明に係るトルク推定装置は、上記説明したIVT(Infinity Variable Transmission)と呼ばれる図3〜図8に示した無段変速機(以下「BD」とも表記する)における入力トルク及び/又は出力トルクを推定する。なお、無段変速機における入力トルクとは、動力源から当該無段変速機に入力されるトルクであり、無段変速機における出力トルクとは、当該無段変速機から出力されるトルクである。また、以下の説明では、無段変速機の入力側の動力源を、車両の駆動源である内燃機関として説明する。内燃機関のクランク軸は無段変速機の入力軸に直結されている。したがって、内燃機関の出力がそのまま無段変速機に入力される。
【0033】
図3〜図8に示した無段変速機のワンウェイクラッチ120を構成するローラ123は、一般的には高い剛性を有する金属等の物質によって形成されてはいるが、トーション(ねじれ)特性を有する。このトーション特性は、入力部材122及び出力部材121に対するローラ123の滑りによる特性と、入力部材122及び出力部材121からの圧力による弾性変形による特性とを合わせた特性である。このようなトーション特性を有するローラ123を備えた無段変速機における偏心量r1に対する変速比の特性は、幾何学的に非線形である。図1は、図3に示した無段変速機への入力トルクに対して設定される偏心量r1を変速比i毎に示すグラフである。図1に示すように、偏心量r1に対する入力トルクの特性は変速比に応じて異なる。
【0034】
四節リンク機構で構成された無段変速機のトルク特性は機械的な関係のみで決まり、かつ、図1に示した特性によれば、偏心量r1と変速比iから入力トルクが導出され得ると考えられるため、入力トルクの推定値の精度は高いと推測される。したがって、本実施形態のトルク推定装置は、図1に示したグラフに基づくマップを利用して、四節リンク機構で構成されたIVTと呼ばれる無段変速機(BD)の入力トルクを推定する。
【0035】
なお、無段変速機の入力トルクに限らず、出力トルクも図1と同様の関係を有する。すなわち、無段変速機(BD)の出力トルク、偏心量r1及び変速比iの関係は図1と同様である。したがって、本実施形態のトルク推定装置は、図1に示したグラフとは異なるグラフに基づくマップを利用して、無段変速機(BD)の出力トルクも推定する。
【0036】
図2は、一実施形態のトルク推定装置の内部構成を示すブロック図である。図2に示すトルク推定装置は、入力回転数センサ201と、出力回転数センサ203と、偏心量センサ205と、ローパスフィルタ(LPF)207A〜207Cと、変速比算出部209と、トルク導出部211とを備える。
【0037】
入力回転数センサ201は、内燃機関からの回転動力による無段変速機(BD)の入力側の回転数(以下「入力回転数」という)Ninを検出する。なお、入力回転数Ninは、第1支点O3を支点とした入力軸101の回転数と同義である。出力回転数センサ203は、無段変速機(BD)の出力側の回転数(以下「出力回転数」という)Noutを検出する。なお、出力回転数Noutは、出力中心軸線O2を中心とした出力部材121の回転数と同義である。
【0038】
偏心量センサ205は、第1支点O3に対する入力中心軸線O1の離間距離である偏心量r1を検出する。偏心量センサ205は、例えば、図5(d)に示した偏心量r1を「ゼロ」にした状態を基準として、第1支点O3からピニオン110の中心点までの距離を測定し、当該測定値を偏心量r1として出力する。なお、偏心量センサ205は、アクセスペダル開度(AP開度)、車両の走行速度(車速)、内燃機関の回転数に等しい無段変速機(BD)の入力回転数Nin、及び無段変速機(BD)の出力回転数Noutに基づいて導出した偏心量r1の指示値を出力しても良い。
【0039】
ローパスフィルタ(LPF)207A〜207Cは、入力回転数センサ201が出力した入力回転数Nin、出力回転数センサ203が出力回転数Nout、偏心量センサ205が出力した偏心量r1の各高周波成分を除去する。
【0040】
変速比算出部209は、ローパスフィルタを介した、出力回転数Noutに対する入力回転数Ninの値(=Nin/Nout)を算出する。当該値は無段変速機(BD)における変速比iに等しい。トルク導出部211は、変速比算出部209が算出した変速比i及びローパスフィルタを介した偏心量r1に基づいて、図1に示したグラフに基づくマップから入力トルク又は出力トルクを推定値として導出する。なお、上述したように、トルク導出部211が入力トルクを導出する際に利用するマップと、トルク導出部211が出力トルクを導出する際に利用するマップは、それぞれ異なるマップである。
【0041】
トルク導出部211は、他の実施形態として、無段変速機(BD)のトルク、偏心量r1及び変速比iに応じた特性が、無段変速機(BD)内の潤滑油の温度(油温)によってもさらに異なることを示すマップを利用しても良い。ピニオン110は潤滑油を掻いて回転することと、油温が低いほど潤滑油の粘性が高いことと、偏心量r1が大きいほどピニオン110が1回転するときの移動距離が長いことから、無段変速機(BD)を伝達するトルクの伝達率は油温によって異なる。したがって、トルク導出部211が油温をパラメータとして含むマップを利用する場合、トルク推定装置は、無段変速機(BD)の潤滑油の油温を検出する温度センサ(図示せず)を備える。
【0042】
また、トルク導出部211は、他の実施形態として、入力トルクのみを推定値として導出しても良い。この場合、トルク導出部211は、入力トルクの推定値に無段変速機(BD)のトルク伝達率を乗算した値を出力トルクの推定値として導出する。また、トルク導出部211は、出力トルクのみを推定値として導出しても良い。この場合、トルク導出部211は、出力トルクの推定値に無段変速機(BD)のトルク伝達率の逆数を乗算した値を入力トルクの推定値として導出する。
【0043】
以上説明したように、本実施形態によれば、機械的な関係のみによって影響を受けるトルク特性の無段変速機(BD)における状態値、すなわち、入力回転数Nin、出力回転数Nout及び偏心量r1に基づいて、図1に示したマップ又は類似のマップから、当該無段変速機(BD)における入力トルク及び出力トルクを高い精度で推定することができる。さらに、無段変速機(BD)の潤滑油の油温によって内部におけるフリクションが異なるが、トルク導出部211が油温も加味したマップを利用すれば、入力トルク及び出力トルクをさらに高い精度で推定することができる。
【符号の説明】
【0044】
101 入力軸
104 偏心ディスク
110 ピニオン
112 変速比可変機構
120 ワンウェイクラッチ
121 出力部材
122 入力部材
123 ローラ(係合部材)
130 連結部材
131 一端部(リング部)
132 他端部
133 円形開口
140 ベアリング
201 入力回転数センサ
203 出力回転数センサ
205 偏心量センサ
207A〜207C ローパスフィルタ(LPF)
209 変速比算出部
211 トルク導出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
動力源からの回転動力を受けることで入力中心軸線の周りを回転する入力軸と、
前記入力中心軸線に対する偏心量を変更可能な第1支点をそれぞれの中心に有して、該偏心量を保ちつつ前記入力中心軸線の周りを前記入力軸と共に回転する偏心ディスクと、
前記入力中心軸線から離れた出力中心軸線の周りを回転する出力部材と、外部から回転方向の動力を受けることで前記出力中心軸線の周りを揺動する入力部材と、前記入力部材及び前記出力部材を互いにロック状態又は非ロック状態にする係合部材と、を有し、前記入力部材の正方向の回転速度が前記出力部材の正方向の回転速度を上回ったとき、前記入力部材に入力された回転動力を前記出力部材に伝達し、それにより前記入力部材の揺動運動を前記出力部材の回転運動に変換するワンウェイクラッチと、
一端が前記偏心ディスクの外周に前記第1支点を中心に回転自在に連結され、他端が前記ワンウェイクラッチの前記入力部材上の前記出力中心軸線から離間した位置に設けられた第2支点に回動自在に連結されることで、前記入力軸から前記偏心ディスクに与えられる回転運動を、前記ワンウェイクラッチの前記入力部材に対し当該入力部材の揺動運動として伝える連結部材と、
前記入力中心軸線に対する前記第1支点の偏心量を調節することで、前記偏心ディスクから前記ワンウェイクラッチの前記入力部材に伝えられる揺動運動の揺動角度を変更するアクチュエータを有し、それにより、前記入力軸に入力される回転動力が前記偏心ディスク及び前記連結部材を介して前記ワンウェイクラッチの出力部材に回転動力として伝達される際の変速比を変更すると共に、前記偏心量がゼロに設定可能とされることで前記変速比を無限大に設定する変速比可変機構と、
を備えた四節リンク機構式の無段変速機におけるトルクを推定するトルク推定装置であって、
前記動力源からの回転動力による前記無段変速機の入力側の回転数である入力回転数と、前記無段変速機の出力側の回転数である出力回転数と、前記無段変速機に設定されている偏心量とに基づいて、前記無段変速機の変速比毎に異なるトルクと偏心量の関係から、前記無段変速機に入力されるトルクである入力トルク及び/又は前記無段変速機が出力するトルクである出力トルクを推定することを特徴とするトルク推定装置。
【請求項2】
請求項1に記載のトルク推定装置であって、
前記入力回転数と、前記出力回転数と、前記無段変速機に設定されている偏心量と、前記無段変速機内の潤滑油の温度である油温とに基づいて、前記無段変速機の変速比毎に異なるトルクと偏心量と油温の関係から、前記入力トルク及び/又は前記出力トルクを推定することを特徴とするトルク推定装置。
【請求項3】
動力源からの回転動力を受けることで入力中心軸線の周りを回転する入力軸と、
前記入力中心軸線に対する偏心量を変更可能な第1支点をそれぞれの中心に有して、該偏心量を保ちつつ前記入力中心軸線の周りを前記入力軸と共に回転する偏心ディスクと、
前記入力中心軸線から離れた出力中心軸線の周りを回転する出力部材と、外部から回転方向の動力を受けることで前記出力中心軸線の周りを揺動する入力部材と、前記入力部材及び前記出力部材を互いにロック状態又は非ロック状態にする係合部材と、を有し、前記入力部材の正方向の回転速度が前記出力部材の正方向の回転速度を上回ったとき、前記入力部材に入力された回転動力を前記出力部材に伝達し、それにより前記入力部材の揺動運動を前記出力部材の回転運動に変換するワンウェイクラッチと、
一端が前記偏心ディスクの外周に前記第1支点を中心に回転自在に連結され、他端が前記ワンウェイクラッチの前記入力部材上の前記出力中心軸線から離間した位置に設けられた第2支点に回動自在に連結されることで、前記入力軸から前記偏心ディスクに与えられる回転運動を、前記ワンウェイクラッチの前記入力部材に対し当該入力部材の揺動運動として伝える連結部材と、
前記入力中心軸線に対する前記第1支点の偏心量を調節することで、前記偏心ディスクから前記ワンウェイクラッチの前記入力部材に伝えられる揺動運動の揺動角度を変更するアクチュエータを有し、それにより、前記入力軸に入力される回転動力が前記偏心ディスク及び前記連結部材を介して前記ワンウェイクラッチの出力部材に回転動力として伝達される際の変速比を変更すると共に、前記偏心量がゼロに設定可能とされることで前記変速比を無限大に設定する変速比可変機構と、
を備えた四節リンク機構式の無段変速機におけるトルクを推定するトルク推定方法であって、
前記動力源からの回転動力による前記無段変速機の入力側の回転数である入力回転数と、前記無段変速機の出力側の回転数である出力回転数と、前記無段変速機に設定されている偏心量とに基づいて、前記無段変速機の変速比毎に異なるトルクと偏心量の関係から、前記無段変速機に入力されるトルクである入力トルク及び/又は前記無段変速機が出力するトルクである出力トルクを推定することを特徴とするトルク推定方法。
【請求項4】
請求項3に記載のトルク推定方法であって、
前記入力回転数と、前記出力回転数と、前記無段変速機に設定されている偏心量と、前記無段変速機内の潤滑油の温度である油温とに基づいて、前記無段変速機の変速比毎に異なるトルクと偏心量と油温の関係から、前記入力トルク及び/又は前記出力トルクを推定することを特徴とするトルク推定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−29140(P2013−29140A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−164697(P2011−164697)
【出願日】平成23年7月27日(2011.7.27)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】