説明

ドラムブレーキ式駐車ブレーキ装置

【課題】伝達ロスの少ないリンク式の増力装置を採用する事により、比較的出力の小さい電動モータを使用して小型・軽量化を図る事ができ、しかも、制動に伴う反力を前記増力装置内で相殺して、この増力装置とバックプレート1との結合部に大きな力が加わる事のない構造を実現する。
【解決手段】結合リンク25と、ストラット11cと、第一、第二両拡張レバー26、27とにより拡縮装置23を構成する。制動時に、これら両拡張レバー26、27の基端部を、駆動装置24を構成する第一、第二両押圧部材34、33により、互いに反対側から押圧する。制動に伴う反力は、前記結合リンク25部分で相殺され、前記バックプレート1等に大きな力が加わる事はない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両(自動車)を停止状態に保つ為のドラムブレーキ式駐車ブレーキ装置の改良に関する。具体的には、制動力の反力を効率良く支承できる構造を採用して、ドラムブレーキ式駐車ブレーキ装置の小型・軽量化を図り易い構造の実現を図るものである。
【背景技術】
【0002】
車両の制動を行う為に、ドラムブレーキが広く使用されている。ドラムブレーキには、例えば非特許文献1に記載されている様に、各種型式のものが知られている。このうちで、リーディング・トレーリング式のドラムブレーキが、前進時にも後退時にも安定した制動力を得られる事から、広く使用されている。図15〜17は、特許文献1に記載された、リーディング・トレーリング式のドラムブレーキの1例を示している。このドラムブレーキは、バックプレート1と、アンカ2と、ホイールシリンダ3と、一対のブレーキシュー4a、4bと、ドラム5とを備える。
【0003】
このうちのバックプレート1は、ナックル、アクスルハウジング等の懸架装置の構成部材に支持固定される。又、前記アンカ2は、前記バックプレート1の円周方向1箇所の径方向外寄り部分に支持固定されている。又、前記ホイールシリンダ3は、前記バックプレート1の外径寄り部分で、このバックプレート1の径方向に関して前記アンカ2と反対側位置に固定されている。前記ホイールシリンダ3は、シリンダ筒6の両端部に一対のピストンを油密に内嵌したもので、このシリンダ筒6の中央部内側に油圧を導入する事により、このシリンダ筒6の両端部からの前記両ピストンの突出量を増大させる(これら両ピストン同士の間隔を拡げる)様にしている。又、前記両ブレーキシュー4a、4bは、前記バックプレート1の径方向反対側2箇所位置で前記アンカ2と前記ホイールシリンダ3との間部分に、このバックプレート1の径方向に関する変位を可能に支持している。
【0004】
前記両ブレーキシュー4a、4bはそれぞれ、大略円弧形のウェブ7a、7bと、このウェブ7a、7bの外周縁部にそれぞれの幅方向中央部を溶接等により固定した裏板8a、8bと、この裏板8a、8bの外周面に添着固定したライニング9a、9bとから成る。そして、それぞれのウェブ7a、7bの周方向一端縁を前記アンカ2に突き当てると共に、周方向他端縁を前記両ピストンの先端部に形成した係合溝の底面に突き当てている。更に、前記ドラム5は、鋳鉄等によりシャーレ状に形成されており、前記両ブレーキシュー4a、4bを覆う状態で設けられて車輪と共に回転する。
【0005】
上述の様に構成するドラムブレーキにより制動を行う際には、ブレーキペダルの踏み込みによって前記ホイールシリンダ3内に油圧を導入し、前記シリンダ筒6からの前記両ピストンの突出量を増大させる。すると、これら両ピストンの先端部にそれぞれの周方向他端縁を突き当てた、前記両ウェブ7a、7b同士の間隔が拡がり、前記両ブレーキシュー4a、4bが、前記アンカ2を中心として径方向外方に揺動変位する。この結果、これら両ブレーキシュー4a、4bのライニング9a、9bの外周面が前記ドラム5の内周面に押し付けられて、制動が行われる。制動解除に伴って前記ホイールシリンダ3内の油圧を除くと、前記両ブレーキシュー4a、4bが、リターンスプリング10a、10bの弾力により、前記両ピストンを前記シリンダ筒6内に押し込みつつ、径方向内方に変位する。尚、ドラムブレーキにより制動を行う場合に、前記各周面同士の当接部(摩擦係合部)の面圧が、前記ライニング9a、9bの周方向に関して不均一になる事が、前記非特許文献1に記載される等により、従来から知られている。例えば、上述の図15〜17に示す様な、リーディング・トレーリング型のドラムブレーキで、前記ウェブ7a、7bの端縁を前記アンカ2に対し、径方向の摺動変位を可能に突き当てた構造の場合も、何れのブレーキシュー4a、4bに関しても、前記両ライニング9a、9bの外周面と前記ドラム5の内周面との接触面圧が、周方向に関して不均一となる。
【0006】
又、図15〜17に示した従来構造の第1例の場合、自動間隙調整用のストラット11を設けて、前記ライニング9a、9bの摩耗に拘らず、非制動状態での、これら両ライニング9a、9bの外周面と前記ドラム5の内周面との間の隙間(間隙)を適正値に保てる様にしている。前記ストラット11は、主板部12と副板部13とを枢軸14により連結して成る。又、この枢軸14は、この副板部13に固定されると共に、前記主板部12に形成した長孔15に、この長孔15の長さ方向の変位を可能に係合している。制動に伴って前記両ウェブ7a、7b同士の間隔が拡がると、前記副板部13が前記枢軸14を中心として、図16の時計方向に揺動する。
【0007】
この副板部13の端縁のうちで前記主板部12の端縁と突き当たる部分は、この揺動方向に関して後方(図16の下方)に向かう程前記枢軸14の中心からの距離が長くなっている。この為、この枢軸14を中心とする前記副板部13の揺動変位に伴って、この副板部13の端縁と前記主板部12の端縁とが係合する(突き当たる)。そして、制動解除に伴って前記両ウェブ7a、7b同士の間隔が、前記両リターンスプリング10a、10bの弾力に基づいて収縮した場合でも、その収縮量は、制動の為の拡張量に比べて、前記副板部13の揺動変位に見合う分だけ縮まる。この為、前記両ライニング9a、9bの摩耗に拘らず、これら両ライニング9a、9bの外周面と前記ドラム5の内周面との間の隙間の大きさを適正値に保てる。
【0008】
走行中の車両を減速乃至は停止させる、所謂サービスブレーキの使用時の作用、並びに、自動間隙調整装置の作用は上述の通りであるが、ブレーキペダルを踏み込まずに車両を停止状態に維持する駐車ブレーキ装置を、上述の様なドラムブレーキに組み込む事も、広く行われている。又、サービスブレーキを油圧式に行い、駐車ブレーキを電動モータを駆動源とするリンク機構により機械的に行う事も、特許文献2〜3に記載される等により従来から知られており、一部の車両で実施されている。更に、油圧機構を省略し、電動モータを駆動源とする機械式の増力機構のみで、サービスブレーキと駐車ブレーキとの両方の機能を発揮させる電動式のブレーキ装置も、特許文献4〜6等に記載されて、従来から知られている。
【0009】
図18〜19は、このうちの特許文献3に記載された、サービスブレーキを油圧式に、駐車ブレーキを電動モータを駆動源として機械式に、それぞれ行う、ドラムブレーキの1例を示している。ドラムブレーキの基本的構造に関しては、前述の図15に記載した一般的な構造と同様であるから同等部分には同一符号を付して重複する説明を省略若しくは簡略にし、以下、機械式の駐車ブレーキ装置部分の構成及び作用を中心に説明する。
【0010】
一方のブレーキシュー4bを構成するウェブ7bのうちでホイールシリンダ3寄りの端部にパーキングレバー16の基端部を枢支し、このパーキングレバー16の中間部基端寄り部分と他方のブレーキシュー4aを構成するウェブ7aのホイールシリンダ3寄り部分との間に、押圧ロッド17を掛け渡している。又、前記パーキングレバー16の先端部に、引っ張りロッド18の先端部を結合している。更に、この引っ張りロッド18の基端部を、電動モータ19と、減速機20と、送りねじ装置21とを備えた電動式のアクチュエータ22により引っ張り可能としている。
【0011】
駐車ブレーキ装置の作動時には、このアクチュエータ22により前記引っ張りロッド18を介して前記パーキングレバー16を図18の時計方向に回動させる。そして、前記押圧ロッド17を介して前記他方のブレーキシュー4aを径方向外方に押圧すると共に、この反作用として、前記一方のブレーキシュー4bを径方向外方に変位させる。この結果、これら両ブレーキシュー4a、4bのライニング9a、9bの外周面がドラムの内周面に押し付けられて、制動が行われる。
【0012】
上述の図18〜19に示した様な従来構造の場合、前記両ライニング9a、9bの外周面をドラムの内周面に押し付ける事により発生させる制動力の反力が、パーキングレバー16及び引っ張りロッド18を介して、前記アクチュエータ22に加わる。この為、このアクチュエータ22をバックプレート1に支持固定している部分の剛性を十分に高くする必要があり、ドラムブレーキ式駐車ブレーキ装置の小型・軽量化を図る上で不利になる。この点は、特許文献4、6に記載された構造の場合も同様である。
【0013】
特許文献2には、図20に示す様に、一対のブレーキシュー4a、4b同士の間に、送りねじ装置21aにより伸縮するストラット11aを設けた構造が記載されている。この様な従来構造によれば上述の様な小型・軽量化の問題をなくせるが、図18〜19に示した構造とは異なり、アクチュエータ(送りねじ装置21a)をバックプレート1の裏面側に配置する事はできない。この為、このバックプレート1の裏面側の空間を有効利用する事により、減速機の減速比を確保して、アクチュエータの出力を大きくし、制動力の確保を図る構造を実現する面からは不利になる。
【0014】
又、特許文献5には、送りねじ装置とウォーム式減速機とを組み合わせ、電動モータをバックプレートの裏面側に配置した構造が記載されており、この様な構造によれば、このバックプレートの裏面側の空間を利用できる。但し、この様な特許文献5に記載された構造は、増力機構が、何れも摩擦損失が大きな、歯車式減速機と送りねじ機構とからのみ構成されており、大きな制動力を確保する為には、駆動源となる電動モータとして大型のものを使用する必要がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、上述の様な事情に鑑みて、伝達ロスの少ないリンク式の増力装置を採用する事により、比較的出力の小さな電動モータを使用して小型・軽量化を図る事ができ、しかも、制動に伴う反力を前記増力装置内で相殺して、この増力装置とバックプレートとの結合部に大きな力が加わる事のない構造を実現すべく発明したものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明のドラムブレーキ式駐車ブレーキ装置は、前述した従来から知られているドラムブレーキ式駐車ブレーキ装置と同様に、バックプレートと、一対のブレーキシューと、ドラムと、拡縮装置と、この拡縮装置を駆動する為の駆動装置とを備える。
このうちのバックプレートは、ナックル、アクスルハウジング等の懸架装置の構成部材に支持固定される。
又、前記両ブレーキシューは、前記バックプレートの径方向反対側2箇所位置に、このバックプレートの径方向に関する変位を可能に支持している。
又、前記ドラムは、前記両ブレーキシューを覆う状態で設けられて、車輪と共に回転する。
又、前記拡縮装置は、前記両ブレーキシュー同士の間隔を拡縮する為、これら両ブレーキシューを構成するウェブの内周縁同士の間に設けられている。
更に、前記駆動装置は、前記拡縮装置を駆動する為のものである。
【0017】
特に、本発明のドラムブレーキ式駐車ブレーキ装置に於いては、前記拡縮装置は、結合リンクと、ストラットと、第一、第二両拡張レバーとを備える。
このうちの結合リンクは、前記両ブレーキシューを拡縮する方向に配置されている。
又、前記第一拡張レバーは、前記結合リンクのうちで前記一方のブレーキシュー側の端部にその中間部先端寄り部分を枢支すると共に、その先端部をこの一方のブレーキシューのウェブに、このウェブを径方向外方に押圧可能に(直接又は他の部材を介して)係合させている。
又、前記第二拡張レバーは、前記結合リンクのうちで前記一方のブレーキシューと反対側の端部にその中間部先端寄り部分を枢支すると共に、その先端部を前記ストラットの基端部に枢支している。
又、前記ストラットの先端部は、前記両ブレーキシューのうちの他方のブレーキシューのウェブに、このウェブを径方向外方に押圧可能に(直接又は他の部材を介して)係合させている。
【0018】
一方、前記駆動装置は、一対の押圧部材と、駆動源とを備える。
これら両押圧部材は、前記第一、第二両拡張レバーの基端部を互いに反対側から挟持した状態で、前記結合リンクの配設方向に遠近動する。
又、前記駆動源は、前記両押圧部材同士の間隔を拡縮する。この様な駆動源は、例えば、電動モータと、歯車減速機等の適宜の減速機と、送りねじ機構等の回転運動を直線運動に変換する機構とにより構成する。
更に本発明の場合には、前記結合リンクの端部と前記第一拡張レバーの中間部先端寄り部分との枢支部の中心からこの第一拡張レバーの先端部と前記一方のブレーキシューのウェブの内周縁との係合部までの距離を、この第一拡張レバーと前記押圧部材との係合部までの距離よりも小さくしている。同様に、前記結合リンクの端部と前記第二拡張レバーの中間部先端寄り部分との枢支部の中心からこの第二拡張レバーの先端部と前記ストラットの基端部との枢支部の中心までの距離を、この第二拡張レバーと前記押圧部材との係合部までの距離よりも小さくしている。
【0019】
上述の様な本発明のドラムブレーキ式駐車ブレーキ装置を実施する場合に、例えば請求項2に記載した発明の様に、前記両押圧部材を、その一端部に雌ねじ部と雄ねじ部とのうちの一方のねじ部を有する第一押圧部材と、この一方のねじ部と螺合する、雌ねじ部と雄ねじ部とのうちの他方のねじ部を有する第二押圧部材とする。
そして、これら一方のねじ部と他方のねじ部とを螺合させた状態で、前記第二押圧部材の先端面と前記第一押圧部材の他端部とにより、前記第一、第二両拡張レバーの基端部を互いに反対側から挟持する。
【0020】
この様な請求項2に記載した発明を実施する場合、より具体的には、請求項3に記載した発明の様に、前記第一、第二両拡張レバーの基端部を、前記バックプレートに形成した通孔を通じて、このバックプレートの両側面のうちで前記両ブレーキシューを設置した側と反対側の面である裏面から突出させる。
又、前記バックプレートの裏面で前記通孔を覆う部分に、前記第一押圧部材と前記第二押圧部材とを相対回転させる、前記駆動源を設置する。
そして、これら第一、第二両押圧部材のうちの第一押圧部材を、前記結合リンク及びストラットの配設方向の変位を許容するが回転しない状態で支持する。これに対して、前記第二押圧部材を、この方向の変位及び回転を可能に支持して、前記電動モータによりこの第二押圧部材を、両方向に回転駆動可能とする。
【0021】
或は、前述の様な本発明のドラムブレーキ式駐車ブレーキ装置を実施する場合に、例えば請求項4に記載した発明の様に、前記両押圧部材を、前記バックプレートに固定されたカバー、及び、このカバー内に軸方向の移動のみ可能に支持されたねじ杆とする。
そして、このねじ杆を、このカバー内に回転のみ可能に支持されて前記電動モータにより回転させられる減速用回転部材の中心部に設けられたねじ孔に螺合させる。
更に、前記カバーの一部と前記ねじ杆の先端部とにより、前記第一、第二両拡張レバーの基端部を互いに反対側から挟持する。
【0022】
更に、本発明を実施する場合に好ましくは、請求項5に記載した発明の様に、前記第一、第二両拡張レバーのレバー比を、実質的に等しくする。
尚、このうちの第一拡張レバーに関するレバー比とは、前記結合リンクの端部とこの第一拡張レバーの中間部先端寄り部分との枢支部の中心から、この第一拡張レバーの先端部と前記一方のブレーキシューのウェブの内周縁との係合部までの距離と、この第一拡張レバーと前記押圧部材との係合部までの距離との比とする。
又、前記第二拡張レバーに関するレバー比とは、前記結合リンクの端部と前記第二拡張レバーの中間部先端寄り部分との枢支部の中心から、この第二拡張レバーの先端部と前記ストラットの基端部との枢支部の中心までの距離と、この第二拡張レバーと前記押圧部材との係合部までの距離との比とする。
【0023】
尚、それぞれをこの様に規定する、前記両レバーに関するレバー比は、これら両レバーの変位に拘らず、常に厳密に等しくする事はできないが、その差を小さく抑える事は十分に可能である。そこで、前記請求項5に記載した発明で、前記両レバー比が実質的に等しいとは、一方のレバー比と他方のレバー比とを比較した場合に、その差が±10%以内、好ましくは±5%以内、更に好ましくは±2%以内に収まっている事を言う。
【0024】
又、本発明を実施する場合に好ましくは、請求項6に記載した発明の様に、前記駆動装置を構成する前記両押圧部材のうちの一方の押圧部材で、回転しつつ他方の押圧部材に対して遠近動する押圧部材(第二押圧部材)と駆動源との間に、歯車式の減速装置を備える。そして、この減速装置を構成する複数個の歯車のうち、互いに噛合した1対の歯車のうちの一方の歯車の軸方向寸法を他方の歯車の軸方向寸法よりも長くする事により、前記一方の押圧部材(第二押圧部材)の軸方向変位に拘らず、前記両歯車同士を噛合したままに維持する。
【発明の効果】
【0025】
上述の様に構成する本発明のドラムブレーキ式駐車ブレーキ装置は、次の様に作用して、制動力を発揮する。制動時には、駆動装置により一対の拡張レバーの基端部を反対側から強く挟持し、これら両拡張レバーを、結合リンクの両端部との枢支部を中心として揺動変位させ、これら両拡張レバーの先端部同士の間隔を拡げる。これら両拡張レバーの揺動中心は、出力側であるそれぞれの先端側に偏っている為、これら両拡張レバーの先端部は大きな力で間隔が拡げられる。そして、第一拡張レバーの先端部が一方のブレーキシューのウェブを直接又は他の部材を介して、第二拡張レバーの先端部が他方のブレーキシューのウェブをストラットを介して、それぞれ径方向外方に変位させる。そして、これら両ブレーキシューのライニングをドラムの内周面に押し付けて、制動を行わせる。
【0026】
この制動に伴って、前記両拡張レバーの先端部に、互いに近づく方向の反力が加わる。この反力は、前記結合リンクに圧縮方向の力として加わり、この結合リンク内で相殺される。又、前記駆動装置から前記両拡張レバーの基端部に加えられる力に就いても、前記結合リンクに圧縮方向の力として加わり、この結合リンク内で相殺される。従って、バックプレート等、前記駆動装置を支持している部分に、制動に伴って大きな力が加わる事はない。
【0027】
前述の様に構成し、上述の様に作用する本発明のドラムブレーキ式駐車ブレーキ装置によれば、伝達ロスの少ないリンク式の増力装置を採用する事により、比較的出力の小さな電動モータを使用して小型・軽量化を図る事ができる。しかも、制動に伴う反力を前記拡縮装置内で相殺して、この拡縮装置とバックプレートとの結合部に大きな力が加わる事のない構造を実現できる。この為、前記結合リンク及び前記両拡張レバーにさえ、十分な剛性及び強度を持たせておけば、前記バックプレート等、前記駆動装置を支持している部分の剛性及び強度を特に大きくする必要がない。これらにより、ドラムブレーキ式駐車ブレーキ装置の軽量化を図り易い。
【0028】
又、請求項5に記載した発明の様に、第一、第二両拡張レバーのレバー比を互いに等しくすると、これら両拡張レバーと、駆動装置を構成する一対の押圧部材との位置関係が変化しても、制動力をほぼそのままの大きさに保てる。
即ち、ドラムの偏心運動等により、このドラムの内周面に追従する一対のブレーキシューがバックプレートに対して変位する場合がある。この様な変位が発生すると、これら両ブレーキシューのウェブと係合した、前記両拡張レバーの先端部が変位して、これら両拡張レバーが、それぞれ結合リンクとの枢支部を中心として、同方向に揺動する。前記請求項5に記載した発明の場合には、前記両拡張レバーのレバー比が実質的に等しい為、これら両拡張レバーの揺動変位の前後で、これら両拡張レバーの基端部同士の間隔が変化しない。この為、一対の押圧部材同士の間隔がそのままであっても、前記両拡張レバーの先端部が前記両ブレーキシューのウェブを押圧する力が変化せず、前記制動力をほぼそのままの大きさに保てる。
更に、請求項6に記載した発明によれば、電動モータ等の駆動源を固定としたまま、一対の押圧部材の揺動変位を安定して行わせる事ができ、構造を簡単にして低コスト化を図れる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の実施の形態の第1例を示す、ドラムブレーキの要部断面図。
【図2】図1のA−A断面図。
【図3】一対のブレーキシュー及び拡縮装置を取り出して図1の裏面側から見た図。
【図4】ブレーキシューが変位する状態での各部の挙動を、図1と同方向から見た状態で示す図。
【図5】第二拡張レバーの基端部と第一押圧部材との係合部の好ましい構造を示す、図1のB部に相当する部分断面図。
【図6】本発明の実施の形態の第2例を、ドラムを省略した状態で示す斜視図。
【図7】同じく正面図。
【図8】図7のC−C断面図。
【図9】拡張レバーの先端部と押圧部材との係合部に隙間を介在させる構造の効果を説明する為の、図8のD−D断面に相当する図。
【図10】本発明の実施の形態の第3例を示す、ドラムブレーキの要部断面図。
【図11】一部を省略した状態で示す、図10のE−E断面図。
【図12】拡張レバーの先端部とストラットの端部との係合部に隙間を介在させる構造を適用可能な別構造を示す、図7と同様の正面図。
【図13】ドラムを組み付けて制動状態で示す、図12のF−F断面図。
【図14】同G−G断面図。
【図15】従来構造の第1例を示す正面図。
【図16】図15のH−H断面図。
【図17】同I−I断面図。
【図18】従来構造の第2例を、ドラムを省略した状態で示す略正面図。
【図19】図18の拡大J−J断面図。
【図20】従来構造の第3例を示す正面図。
【発明を実施するための形態】
【0030】
[実施の形態の第1例]
図1〜5は、請求項1〜3、5、6に対応する、本発明の実施の形態の第1例を示している。尚、本例を含めて本発明の特徴は、ドラムブレーキ用の駐車ブレーキ装置の構造にある。駐車ブレーキ装置以外の、ドラムブレーキ本体部分の構造及び作用に就いては、前述の図15〜20に示した従来構造を含めて、従来から広く知られているリーディング・トレーリング式のドラムブレーキと同様であるから、同等部分に関する図示並びに説明は、省略若しくは簡略にし、以下、本発明の特徴部分を中心に説明する。
【0031】
一対のブレーキシュー4a、4b同士の間隔を拡縮する為の拡縮装置23を、これら両ブレーキシュー4a、4bを構成するウェブ7a、7bの内周縁同士の間に設け、駆動装置24により前記拡縮装置23を伸縮させる(駆動する)様にしている。
この拡縮装置23は、結合リンク25と、ストラット11bと、第一、第二両拡張レバー26、27とを備える。このうちの結合リンク25は、本例の構造の場合には、前記両ブレーキシュー4a、4bを拡縮する方向(図1〜4の左右方向)に、これら両ブレーキシュー4a、4bのうちの一方のブレーキシュー4aのウェブ7aの側に片寄せて配置されている。
又、前記第一、第二両拡張レバー26、27は、バックプレート1の円周方向の一部に形成した通孔28内に、前記両ブレーキシュー4a、4bを拡縮する方向に離隔して配置されている。本例の構造の場合には、この通孔28は、この拡縮する方向に長く、長さ方向一端部(図1の右端部)が前記一方のブレーキシュー4aのウェブ7aの径方向中間部に対向する部分に存在し、長さ方向他端部は、前記両ブレーキシュー4a、4bの中央寄り部分にまで延長されている。
【0032】
前記結合リンク25は、前記バックプレート1の表面側(前記両ブレーキシュー4a、4bを設置した面側)で前記通孔28に沿った部分に(この通孔28と平行に)設けられている。又、前記両拡張レバー26、27は、それぞれの中間部を前記通孔28内に配置した状態で、それぞれの中間部先端寄り部分を、前記結合リンク25の両端部に、揺動変位を可能に枢支している。前記両拡張レバー26、27のうちの第一拡張レバー26の先端部は、前記一方のブレーキシュー4aのウェブ7aに、このウェブ7aを径方向外方に押圧可能に係合している。この為、前記第一拡張レバー26の先端部で前記ウェブ7aの内周縁に対向する部分に、このウェブ7aと係合する切り欠き29を形成している。
【0033】
これに対して、前記第二拡張レバー27の先端部は、前記ストラット11bの基端部(図1、4の右端部、図3の左端部)に枢支している。そして、このストラット11bの先端部(図1、4の左端部、図3の右端部)を、前記両ブレーキシュー4a、4bのうちの他方のブレーキシュー4bのウェブ7bに、このウェブ7bを径方向外方(図1、4の左方、図3の右方)に押圧可能に係合させている。この為に本例の場合には、前記ウェブ7bの一部に、前記ストラット11bの長さ方向(図1、3、4の左右方向)に長い係合孔30を形成し、この係合孔30に、前記ストラット11bの先端部に形成した係止曲がり部31を係合させている。このストラット11bの長さ方向に関して、前記係合孔30の寸法は、前記係止曲がり部31のうちでこの係合孔30の内側に存在する部分の寸法よりも少し(非制動時に於ける、ドラム5の内周面と前記両ライニング9a、9bの外周面との間に存在すべき隙間の適正値に見合う分だけ)大きい。
【0034】
本例の場合、前記ストラット11bに、前記各周面同士の間の隙間を適正値に調節する為の、自動間隙調整装置としての機能を、併せ持たせている。この機能を持たせる為に本例の場合には、前記ストラット11bを、主板部12aと副板部13aとから構成している。そして、このうちの主板部12aの側面に突設した凸部32の端縁と、前記副板部13aの基端縁とを係合させている。サービスブレーキの作動に伴って、前記ブレーキシュー4bが図3の右方に変位すると、前記係止曲がり部31と前記係合孔30との係合に基づいて、前記副板部13aが、枢軸14を中心として、図3の時計方向に回動する。この結果、前記ストラット11bが伸張する。サービスブレーキの解除に伴って前記ブレーキシュー4bは、図3の左方に戻るが、この戻り量は、前記両拡張レバー26、27の先端部同士が互いに当接している事で規制される。従って、サービスブレーキ作動時に前記ブレーキシュー4bが径方向外方に変位する量に比べて、サービスブレーキ解除時にこのブレーキシュー4bが径方向内方に変位する量は、前記両ライニング9a、9bの摩耗量に見合う、前記ストラット11bの伸張分だけ短くなり、前記両ブレーキシュー4a、4bのライニング9a、9bの磨耗分を補償する。尚、この様な、自動間隙調整装置の構成及び作用に就いては、基本的には、前述の図15〜16に記載した従来構造とほぼ同様であり、本発明の特徴部分でもない為、これ以上の詳しい説明は省略する。
【0035】
上述したストラット11bと、前述した結合リンク25及び第一、第二両拡張レバー26、27とから成る拡縮装置23は、これら両拡張レバー26、27の基端部同士の間隔を、前記駆動装置24で縮める事により、これら両拡張レバー26、27の先端部同士の間隔を大きな力で広げ、前記両ブレーキシュー4a、4bのウェブ7a、7bのうちで、アンカ2(例えば図15参照)と反対端部寄り同士の間隔を広げる様にしている。この為に、前記両拡張レバー26、27のレバー比を大きくして、これら両拡張レバー26、27の基端部(図1、3、4の下端部)同士の間に入力された力を、増力させた状態で、これら両拡張レバー26、27の先端部同士の間から取り出す様にしている。即ち、前記結合リンク25の一端部と前記第一拡張レバー26の中間部先端寄り部分との枢支部の中心からこの第一拡張レバー26の先端部と前記一方のブレーキシュー4aのウェブ7aの内周縁との係合部までの距離を、前記第一拡張レバー26と前記駆動装置24を構成する、後述する第二押圧部材33との係合部(当接部)までの距離よりも十分に小さくして、前記第一拡張レバー26のレバー比を十分に大きく(1よりも大きく、例えば3〜5程度に)している。同様に、前記結合リンク25の他端部と前記第二拡張レバー27の中間部先端寄り部分との枢支部の中心からこの第二拡張レバー27の先端部と前記ストラット11bの基端部との枢支部の中心までの距離を、この第二拡張レバー27と後述する第一押圧部材34との係合部までの距離よりも十分に小さくして、この第二拡張レバー27のレバー比を十分に大きくしている。本例の場合には、この第二拡張レバー27のレバー比と、前記第一拡張レバー26のレバー比とを、実質的に等しくしている。
【0036】
又、本例の場合には、前記第一、第二両拡張レバー26、27の基端部を、前記バックプレート1に形成した、前記ストラット11bの長さ方向に長い矩形の通孔28を通じて、このバックプレート1の両側面のうちで前記両ブレーキシュー4a、4bを設置した側と反対側の面である裏面(図1の下面)から突出させている。そして、前記バックプレート1の裏面部分に、この裏面から突出した前記両拡張レバー26、27の基端部を、前記ストラット11bの長さ方向に関して両側から挟む様にして、前記駆動装置24を設けている。
【0037】
この駆動装置24は、前記第一、第二両押圧部材34、33と、駆動源である、電動モータ35及び減速機36とを備える。
このうちの第一、第二両押圧部材34、33は、前記第一、第二両拡張レバー26、27の基端部を互いに反対側から挟持した状態で、前記結合リンク25の配設方向に遠近動する。本例の場合、前記第一押圧部材34を、その一端部に設けた雌ねじ部37の幅方向両端部と、他端部に設けた押圧部38の幅方向両端部とを、幅方向に間隔をあけて配置した一対の連結部39、39により連結して成る、長矩形枠状に構成している。これに対して前記第二押圧部材33を、外周面を前記雌ねじ部37と螺合する雄ねじ部40とした、ねじ杆状としている。そして、これら雌ねじ部37と雄ねじ部40とを螺合させた状態で、前記第二押圧部材33の先端面と前記第一押圧部材34の他端部に設けた前記押圧部38の内側面とにより、前記第一、第二両拡張レバー26、27の基端部を互いに反対側から挟持している。
【0038】
この様に前記駆動装置24は、前記第一、第二両押圧部材34、33同士の間隔を拡縮する為に、前記バックプレート1の裏面で、前記通孔28を覆う部分に固定したカバー42内に設置している。又、このカバー42は、基板43を覆う状態で、この基板43に対し固定されており、この基板43には、前記通孔28と同形、同大の通孔44が設けられている。そして、この基板43を前記バックプレート1の裏面に、これら両通孔28、44を整合させた状態で結合固定している。前記駆動装置24は、この様な基板43に、前記両押圧部材34、33と、前記電動モータ35と、前記減速機36とを組み付け、更に前記カバー42により周囲を覆って成る。
【0039】
前記各部材34、33、35、36を前記基板43に組み付ける為に、この基板43に3枚の支持板部45a、45b、45cを、互いに平行に、且つ、前記ストラット11bの長さ方向に離隔して設けている。これら各支持板部45a、45b、45cのうちの中央の支持板部45bの先端部に設けた支持筒部46に、前記第一押圧部材34の一端部で前記雌ねじ部37の周囲部分を、軸方向の変位を可能に支持している。これに対して、両端の支持板部45a、45cに支持孔47a、47bを、前記支持筒部46と同心に設けている。又、前記第一押圧部材34の先端面(他端面)中央部、及び、前記第二押圧部材33の基端面中央部に、それぞれ支持杆部48a、48bを設けている。
【0040】
前記第一、第二両押圧部材34、33は、前記雌ねじ部37と前記雄ねじ部40とを螺合させて互いに結合した状態で、このうちの第一押圧部材34の一端部を前記支持筒部46に、前記両支持杆部48a、48bを前記両支持孔47a、47bに、それぞれ軸方向(前記ストラット11bの長さ方向)の変位を可能に内嵌している。又、前記第二押圧部材33の基端面中央部の支持杆部48bに関しては前記支持孔47bに、回転も可能に内嵌している。この構成により前記第一、第二両押圧部材34、33を前記基板43に組み付けている。この状態でこれら両押圧部材34、33は、このうちの第二押圧部材33の回転運動を、これら両押圧部材34、33同士が軸方向に相対変位する直線運動に変換する、送りねじ機構を構成する。尚、このうちの第二押圧部材33の先端面は、含油メタル、合成樹脂等の滑り易い材料により造った、スラスト滑り軸受49により覆っている。
【0041】
又、前記第二押圧部材33の基端寄り部分で、前記雄ねじ部40と前記支持杆部48bとの間部分に、減速大歯車50を固設している。そして、この減速大歯車50と、前記第二押圧部材33と平行に配置された減速小歯車51とを噛合させている。又、この減速小歯車51と、前記電動モータ35との間に減速歯車列を設けて、この減速小歯車51を、大きなトルクで所望方向に回転駆動自在としている。更に、この減速小歯車51の軸方向寸法を、前記減速大歯車50の軸方向寸法よりも十分に大きくして、この減速大歯車50を固設した前記第二押圧部材33の軸方向変位を可能にすると共に、この軸方向変位に拘らず、前記両歯車50、51同士が噛合したままの状態に保たれる様にしている。
【0042】
上述の様に、前記基板部43に対して組み付けた、前記第一押圧部材34の押圧部38の内面と、前記第二押圧部材33の先端面との間に、前記第一、第二両拡張レバー26、27の基端部を配置している。この状態で、これら両拡張レバー26、27の基端部と、前記第一押圧部材34を構成する一対の連結部39、39との係合により、この第一押圧部材34の回転が阻止される。そして、前記電動モータ35により前記減速機36を介して前記第二押圧部材33を回転させる事で、前記雌ねじ部37と前記雄ねじ部40との螺合に基づき、前記第一押圧部材34の押圧部38の内面と前記第二押圧部材33の先端面との間隔が拡縮される様になる。
【0043】
上述の様に構成する本例のドラムブレーキ式駐車ブレーキ装置は、次の様に作用して、制動力を発揮する。制動時には、前記電動モータ35により前記第二押圧部材33を回転させて、前記第一押圧部材34の押圧部38の内面と前記第二押圧部材33の先端面との間隔を縮める。そして、これら両面同士の間で、前記両拡張レバー26、27の基端部を反対側から強く挟持し、これら両拡張レバー26、27を、前記結合リンク25の両端部との枢支部を中心として揺動変位させ、これら両拡張レバー26、27の先端部同士の間隔を拡げる。これら両拡張レバー26、27の揺動中心は、出力側であるそれぞれの先端側に偏っている(それぞれのレバー比が大きい)為、これら両拡張レバー26、27の先端部は大きな力で間隔が拡げられる。そして、本例の場合には、このうちの第一拡張レバー26の先端部が一方のブレーキシュー4aのウェブ7aを直接、前記第二拡張レバー27の先端部が他方のブレーキシュー4bのウェブ7bを前記ストラット11bを介して、それぞれ径方向外方に変位させる。そして、前記両ブレーキシュー4a、4bのライニング9a、9bを前記ドラム5の内周面に押し付けて、制動を行わせる。前記両拡張レバー26、27による増力機構は、摩擦損失が少なく、優れた伝達効率を有する。歯車式の前記減速機36は、或る程度の摩擦損失を生じる事は避けられないが、前記両拡張レバー26、27部分で増力する分、前記減速機36部分での増力比を小さく抑えられ、その分、この減速機36部分での摩擦損失も低く抑えられる。この為、比較的出力の小さな電動モータを使用して、小型・軽量化を図る事ができる。尚、前記第一拡張レバー26の先端部と前記一方のブレーキシュー4aのウェブ7aとの間に、押圧力を伝達可能な別部材を介在させる事もできる。
【0044】
上述の様にして行う制動に伴って、前記両拡張レバー26、27の先端部に、互いに近づく方向の反力が加わる。この反力は、前記結合リンク25に圧縮方向の力として加わり、更に、前記第一、第二両押圧部材34、33に、互いに逆方向(これら両部材34、33を互いに押し拡げる方向)の力として加わる。そして、これら両部材34、33の係合部で打ち消し合う(相殺される)。従って、前記バックプレート1や前記基板43等、前記駆動装置24の構成各部材を支持している部分に、制動に伴って大きな力が加わる事はない。この為、前記結合リンク25及び前記第一、第二両押圧部材34、33及びこれらの係合部、並びに前記両拡張レバー26、27にさえ、十分な剛性及び強度を持たせておけば、前記バックプレート1や基板43等、前記駆動装置24を支持している部分の剛性及び強度を特に大きくする必要がなく、ドラムブレーキ式駐車ブレーキ装置の軽量化を図り易い。
【0045】
又、本例の場合には、前記第一、第二両拡張レバー26、27のレバー比を互いに等しくしている為、これら両拡張レバー26、27と、前記駆動装置24を構成する第一、第二両押圧部材34、33との位置関係が変化しても、制動力をほぼそのままの大きさに保てる。この点に就いて、図4を参照しつつ説明する。
車両を坂道に駐車した場合等、駐車ブレーキを作動させた後に前記ドラム5に、回転方向の力が加わる場合がある。この場合、このドラム5の内周面が、僅かとは言え偏心運動する場合がある。この偏心運動の結果、それぞれのライニング9a、9bの外周面を前記ドラム5の内周面に押し付けた前記両ブレーキシュー4a、4bが、前記バックプレート1の面方向に変位する。この様な変位の結果、これら両ブレーキシュー4a、4bのウェブ7a、7bの内周縁部にそれぞれの先端部を、直接又は前記ストラット11bを介して係合させた、前記両拡張レバー26、27が、図4の実線状態から鎖線状態にまで変位する。即ち、それぞれの先端部を前記両ウェブ7a、7bに係合させた前記両拡張レバー26、27が、それぞれ前記結合リンク25の両端部との枢支部を中心として、同方向に揺動する。本例の構造の場合には、前記両拡張レバー26、27のレバー比が実質的に等しい為、これら両拡張レバー26、27の揺動変位の前後で、これら両拡張レバー26、27の基端部(図4の下端部)同士の間隔が変化しない。この為、前記両押圧部材34、33(図1〜2参照)同士の間隔がそのままであっても、前記両拡張レバー26、27の先端部(図4の上端部)同士の間隔も殆ど変化せず、これら両拡張レバー26、27が前記両ブレーキシュー4a、4bのウェブ7a、7bを押圧する力が変化せず、前記制動力をほぼそのままの大きさに保てる。
【0046】
尚、本例の構造を実施する場合に、前記第二拡張レバー27の基端部と前記第一押圧部材34の押圧部38とは、図1、5に示す様に、係止突片52と係止切欠53とを係合させた状態で組み合わせる事が好ましい。この理由は、駐車ブレーキの作動時、前記ストラット11bの基端部に、前記駆動装置24から離れる方向の力が加わる場合がある為、この力に拘らず、前記第二拡張レバー27の基端部が、前記第一押圧部材34の内側から抜け出る事を防止する為である。
又、本例の構造とは異なり、前記結合リンク25を前記両ブレーキシュー4a、4bの中央部に配置し、前記第一、第二両拡張レバー26、27の先端部と前記両ウェブ7a、7bとの間に、それぞれストラットを設ける事もできる。
【0047】
[実施の形態の第2例]
図6〜9は、請求項1、4、5に対応する、本発明の実施の形態の第2例を示している。本例の場合には、第一、第二両拡張レバー26、27の基端部を互いに反対側から挟持して押圧する、第一、第二両押圧部材を、バックプレート1に固定されたカバー42aと、このカバー42a内に軸方向の移動のみ可能に支持されたねじ杆54としている。又、このねじ杆54を、前記カバー42a内に回転のみ可能に支持された、減速大歯車或いは減速大プーリ等の減速用回転部材55の中心部に設けたねじ孔56に螺合させている。又、この減速用回転部材55を、駆動源を構成する電動モータにより、ベルト57或いは歯車列を介して回転駆動自在としている。そして、前記カバー42aの一部内面と、前記ねじ杆54の先端部とにより、前記第一、第二両拡張レバー26、27の基端部を互いに反対側から挟持している。前記ねじ杆54は、その先端部に形成した係合溝58と前記第一拡張レバー26の基端部との係合に基づいて、その回転を阻止されている。尚、これら係合溝58の内面と第一拡張レバー26の基端部との間には、図9の(A)に示す様に、若干の隙間を介在させて、この第一拡張レバー26と前記ねじ杆54とが、図9の(B)に示す様に、角度±α分、揺動変位可能としている。この理由は、一対のブレーキシュー4a、4bのライニング9a、9bの偏摩耗により、前記第一拡張レバー26が前記ねじ杆54に対し、前記バックプレート1の面方向(図7の上下方向、図8の表裏方向)に変位した場合でも、この変位を吸収(補償)できる様にする為である。
【0048】
前記両拡張レバー26、27のうち、第一拡張レバー26の先端部は、前述した実施の形態の第1例の場合と同様に、一方のブレーキシュー4aのウェブ7aに、直接突き当てている。これに対して、前記第二拡張レバー27の先端部は、他方のブレーキシュー4bのウェブ7bに、ストラット11cを介して突き当てている。このストラット11cは、特許文献7に記載される等により広く知られている様に、ねじ筒59と、ねじ杆60と、保持筒61とを組み合わせて成る。前記両ライニング7a、7bの磨耗時には、レバー62により前記ねじ杆60を回転させ、前記ストラット11cを伸張させる。この様な自動間隙調整装置の構造及び作用に就いては、前記特許文献7に記載される等により従来から広く知られている為、詳しい説明は省略する。
以上の様な本例の構造によっても、前述した実施の形態の第1例の場合と同様に、ドラムブレーキ式駐車ブレーキ装置の軽量化を図り易い。
【0049】
図10〜11は、請求項1〜3、5、6に対応する、本発明の実施の形態の第3例を示している。本例の場合には、前述した実施の形態の第1例の場合とは逆に、第二押圧部材33aの側に雌ねじ部37aを、第一押圧部材34aの側に雄ねじ部40aを、それぞれ設け、これら両ねじ部37a、40aを互いに螺合させている。そして、前記両押圧部材33a、34aにより、第一、第二両拡張レバー26a、27aの基端部を互いに反対側から挟持して押圧可能とすべく、これら両拡張レバー26a、27aの基端寄り部分の側縁部に、それぞれ被押圧板部64a、64bを設けている。これら両被押圧板部64a、64bは、前記両拡張レバー26a、27aを構成する金属板を、図10の手前側、図11の左側に曲げ形成して成るもので、それぞれが基端縁側に開口する、U字形の切り欠き65を形成している。そして、前記第一押圧部材34aをこれら両切り欠き65、65に挿通した状態で、この第一押圧部材34aに設けた外向フランジ状の押圧部38aと、前記第二押圧部材33aの先端面とにより、前記両被押圧板部64a、64bを挟持して、制動時に押圧可能としている。その他の部分の構成及び作用は、前述した実施の形態の第1例と同様であるから、重複する説明は省略する。
【産業上の利用可能性】
【0050】
前述の図9に示した構造は、本発明とは異なる構造で実施する事もできる。例えば、図12〜14に示す様に、単一の駆動レバー63により一対のブレーキシュー4a、4b同士の間隔を拡げる様な構造に適用する事もできる。即ち、前記駆動レバー63の基端部(図13の下端部、図14の左端部)と、ねじ杆54aの先端部に形成した係合溝58との係合部に隙間を持たせる事により、前記両ブレーキシュー4a、4bのライニング7a、7bの磨耗時に、前記駆動レバー63と前記ねじ杆54aとの変位を補償できる。
【符号の説明】
【0051】
1 バックプレート
2 アンカ
3 ホイールシリンダ
4a、4b ブレーキシュー
5 ドラム
6 シリンダ筒
7a、7b ウェブ
8a、8b 裏板
9a、9b ライニング
10a、10b リターンスプリング
11、11b、11c ストラット
12、12a 主板部
13、13a 副板部
14 枢軸
15 長孔
16 パーキングレバー
17 押圧ロッド
18 引っ張りロッド
19 電動モータ
20 減速機
21、21a 送りねじ装置
22 アクチュエータ
23 拡縮装置
24、24a 駆動装置
25 結合リンク
26、26a 第一拡張レバー
27、27a 第二拡張レバー
28 通孔
29 切り欠き
30 係合孔
31 係止曲がり部
32 凸部
33、33a 第二押圧部材
34、34a 第一押圧部材
35 電動モータ
36 減速機
37、37a 雌ねじ部
38、38a 押圧部
39 連結部
40、40a 雄ねじ部
42、42a カバー
43 基板
44 通孔
45a、45b、45c 支持板部
46 支持筒部
47a、47b 支持孔
48a、48b 支持杆部
49 スラスト滑り軸受
50 減速大歯車
51 減速小歯車
52 係止突片
53 係止切り欠き
54、54a ねじ杆
55 減速用回転部材
56 ねじ孔
57 ベルト
58 係合溝
59 ねじ筒
60 ねじ杆
61 保持筒
62 レバー
63 駆動レバー
64a、64b 被押圧板部
65 切り欠き
【先行技術文献】
【特許文献】
【0052】
【特許文献1】特開2009−168228号公報
【特許文献2】特開平8−244596号公報
【特許文献3】特開平11−105680号公報
【特許文献4】特開2003−28215号公報
【特許文献5】特開2006−336868号公報
【特許文献6】米国特許第5310026号明細書
【特許文献7】特開2003−314594号公報
【非特許文献】
【0053】
【非特許文献1】社団法人日本自動車部品工業会/ブレーキシリンダ技術委員会編,「自動車用液圧ブレーキシステム」,改訂版,社団法人日本自動車部品工業会,1991年3月1日,p.188,191−194

【特許請求の範囲】
【請求項1】
懸架装置の構成部材に支持固定されるバックプレートと、このバックプレートの径方向反対側2箇所位置に、このバックプレートの径方向に関する変位を可能に支持した一対のブレーキシューと、これら両ブレーキシューを覆う状態で設けられて車輪と共に回転するドラムと、これら両ブレーキシュー同士の間隔を拡縮する為、これら両ブレーキシューを構成するウェブの内周縁同士の間に設けられた拡縮装置と、この拡縮装置を駆動する為の駆動装置とを備えたドラムブレーキ式駐車ブレーキ装置に於いて、
このうちの拡縮装置は、結合リンクと、ストラットと、第一、第二両拡張レバーとを備えたものであって、このうちの結合リンクは、前記両ブレーキシューを拡縮する方向に配置されており、前記第一拡張レバーは、前記結合リンクのうちでこの一方のブレーキシューの側の端部にその中間部先端寄り部分を枢支すると共に、その先端部をこの一方のブレーキシューのウェブに、このウェブを径方向外方に押圧可能に係合させており、前記第二拡張レバーは、前記結合リンクのうちで前記一方のブレーキシューと反対側の端部にその中間部先端寄り部分を枢支すると共に、その先端部を前記ストラットの基端部に枢支しており、このストラットの先端部は、前記両ブレーキシューのうちの他方のブレーキシューのウェブに、このウェブを径方向外方に押圧可能に係合させており、
前記駆動装置は、前記第一、第二両拡張レバーの基端部を互いに反対側から挟持した状態で前記結合リンクの配設方向に遠近動する一対の押圧部材と、これら両押圧部材同士の間隔を拡縮する為の駆動源とを備えたものであり、
前記結合リンクの端部と前記第一拡張レバーの中間部先端寄り部分との枢支部の中心からこの第一拡張レバーの先端部と前記一方のブレーキシューのウェブの内周縁との係合部までの距離を、この第一拡張レバーと前記押圧部材との係合部までの距離よりも小さく、前記結合リンクの端部と前記第二拡張レバーの中間部先端寄り部分との枢支部の中心からこの第二拡張レバーの先端部と前記ストラットの基端部との枢支部の中心までの距離を、この第二拡張レバーと前記押圧部材との係合部までの距離よりも小さくしている
事を特徴とするドラムブレーキ式駐車ブレーキ装置。
【請求項2】
前記両押圧部材が、その一端部に雌ねじ部と雄ねじ部とのうちの一方のねじ部を有する第一押圧部材と、この一方のねじ部と螺合する雌ねじ部と雄ねじ部とのうちの他方のねじ部を有する第二押圧部材とであり、これら一方のねじ部と他方のねじ部とを螺合させた状態で、この第二押圧部材の先端面と前記第一押圧部材の他端部とが、前記第一、第二両拡張レバーの基端部を互いに反対側から挟持している、請求項1に記載したドラムブレーキ式駐車ブレーキ装置。
【請求項3】
前記第一、第二両拡張レバーの基端部が、前記バックプレートに形成した通孔を通じて、このバックプレートの両側面のうちで前記両ブレーキシューを設置した側と反対側の面である裏面から突出しており、
前記バックプレートの裏面で前記通孔を覆う部分に、電動モータを駆動源として前記第一押圧部材と前記第二押圧部材とを相対回転させる前記駆動装置が設置されており、
これら第一、第二両押圧部材のうちの第一押圧部材が、前記結合リンク及びストラットの配設方向の変位を許容するが回転しない状態で支持されており、前記第二押圧部材が、この方向の変位及び回転を可能に支持されていて、前記電動モータはこの第二押圧部材を両方向に回転駆動可能としている、請求項2に記載したドラムブレーキ式駐車ブレーキ装置。
【請求項4】
前記両押圧部材が、前記バックプレートに固定されたカバーと、このカバー内に軸方向の移動のみ可能に支持されたねじ杆とであり、このねじ杆が、このカバー内に回転のみ可能に支持されて前記駆動装置により回転させられる減速用回転部材の中心部に設けられたねじ孔に螺合しており、前記カバーの一部と前記ねじ杆の先端部とが、前記第一、第二両拡張レバーの基端部を互いに反対側から挟持している、請求項1に記載したドラムブレーキ式駐車ブレーキ装置。
【請求項5】
前記結合リンクの端部と前記第一拡張レバーの中間部先端寄り部分との枢支部の中心から、この第一拡張レバーの先端部と前記一方のブレーキシューのウェブの内周縁との係合部までの距離と、この第一拡張レバーと前記押圧部材との係合部までの距離との比をこの第一拡張レバーに関するレバー比とし、
前記結合リンクの端部と前記第二拡張レバーの中間部先端寄り部分との枢支部の中心から、この第二拡張レバーの先端部と前記ストラットの基端部との枢支部の中心までの距離と、この第二拡張レバーと前記押圧部材との係合部までの距離との比をこの第二拡張レバーに関するレバー比とした場合に、
これら両レバー比が実質的に等しい、請求項1〜4のうちの何れか1項に記載したドラムブレーキ式駐車ブレーキ装置。
【請求項6】
前記駆動装置を構成する前記両押圧部材のうちの一方の押圧部材で、回転しつつ他方の押圧部材に対し遠近動する押圧部材と駆動源との間に、歯車式の減速装置を備えており、この減速装置を構成する複数個の歯車のうち、互いに噛合した一対の歯車のうちの一方の歯車の軸方向寸法を他方の歯車の軸方向寸法よりも長くする事により、前記一方の押圧部材の軸方向変位に拘らず、前記両歯車同士を噛合したままに維持する、請求項1〜5のうちの何れか1項に記載したドラムブレーキ式駐車ブレーキ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2011−99458(P2011−99458A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−252657(P2009−252657)
【出願日】平成21年11月4日(2009.11.4)
【出願人】(000000516)曙ブレーキ工業株式会社 (621)
【Fターム(参考)】