説明

ナノ炭素材料複合基板製造方法、ナノ炭素材料複合基板、電子放出素子および照明ランプ

【課題】基板上に成膜するナノ炭素材料への電界集中を好適に行なうことの出来るナノ炭素材料複合基板の製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明のナノ炭素材料複合基板製造方法は、ナノ炭素材料を形成前に触媒層の一部を剥離しスポットを形成する。ナノ炭素材料は触媒層の残存部から生成されることから、生成されたナノ炭素材料の極近傍にナノ炭素材料の存在しないスポットが存在する。このため、電界の集中しやすいナノ炭素材料よりなるエッジ部位を多数備えたナノ炭素材料複合基板を製造することが出来る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノ炭素材料複合基板、該ナノ炭素材料複合基板の製造に適したナノ炭素材料複合基板製造方法、該ナノ炭素材料複合基板を用いた電子放出素子、および、該ナノ炭素材料複合基板を用いた照明ランプに関する。
【背景技術】
【0002】
ナノ炭素材料は、炭素原子のsp2混成軌道で構成された、ナノメーター(nm)サイズの微細形状を有することから、従来の材料を凌駕する特性または従来の材料にはない特性を有しており、強度補強材料、電子放出素子材料、電池の電極材料、電磁波吸収材料、触媒材料、光学材料などの次世代の機能性材料としての応用が期待されている。
【0003】
上述したナノ炭素材料の製造方法として、種々の方法が提案されている。
【0004】
例えば、固液界面接触分解法は、固体基板と有機液体が急激な温度差をもって接触することから生じる特異な界面分解反応に基づいており、精製が不要な高純度のカーボンナノチューブを合成することができ、収率が非常に高い合成方法である(特許文献1参照)。
【0005】
電界電子放出(フィールドエミッション)は、アスペクト比の大きい材料に対して強電界を印加したとき、トンネル効果によりその材料の表面から電子放出が起こる現象のことをいう。フィールドエミッションにより放出される電子を蛍光体に入射し、蛍光体を励起・発光させ、照明器具として利用した装置が電界電子放出型ランプである。電界電子放出型ランプは、従来の白熱電球や蛍光灯などと比較して低消費電力、低公害などのような優れた特徴を有しており、次世代の照明器具として注目を集めている。
【0006】
フィールドエミッションにより電子を放出させるための材料として、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、カーボンナノウォール、カーボンナノフィラメント、カーボンナノコイル、カーボンナノホーンなどのようなナノ炭素材料が挙げられる。これらナノ炭素材料は、仕事関数が低いこと、電界集中係数が高いこと、電気伝導性や熱伝導性が高いこと、など電子放出材料として好適な物性を有している。
【0007】
上述したナノ炭素材料を電子放出材料に用いた電界電子放出型ランプが提案されている。
【0008】
例えば、カソード基板上に化学的成長法によりナノ炭素材料を成膜、このカソード基板に対向するアノード基板に蛍光体層およびメタルバック層を形成し、これらカソード基板とアノード基板を固着、真空封止した電界電子放出型ランプが提案されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2008−214141号公報
【特許文献2】特開2008−053171号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、従来の電界電子放出型ランプにおいては、平坦なカソード基板上に高密度でナノ炭素材料が成膜されているため、カソード基板とアノード基板との間に電圧を印加して動作させた際に、カソード基板上に成膜された個々のナノ炭素材料に電界が集中しずらい。このため一部のナノ炭素材料からのみ電子放出が起こり、この電子がアノード基板に形成された蛍光体に入射するため、結果として発光パターンが不均一になる、という問題点がある。
【0011】
そこで、本発明では、基板上に成膜するナノ炭素材料への電界集中を好適に行なうことの出来るナノ炭素材料複合基板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一実施形態は、基板に触媒層を形成する触媒層形成工程と、前記触媒層に前記基板部位が表出したスポットを複数形成するスポット形成工程と、複数の前記スポット間に残存した前記触媒層にナノ炭素材料を形成するナノ炭素材料形成工程と、を備えたことを特徴とするナノ炭素材料複合基板製造方法である。
【0013】
また、前記スポット形成工程にあたり、前記触媒層にサンドブラスト加工を行なってもよい。
【0014】
また、前記ナノ炭素材料形成工程にあたり、固液界面接触分解法を用いてナノ炭素材料を形成し、前記ナノ炭素材料はカーボンナノチューブであってもよい。
【0015】
本発明の一実施形態は、基板と、前記基板表面に形成された触媒層と、前記触媒層に形成され基板部位が表出したスポットと、前記触媒層表面に形成されたナノ炭素材料と、を備えたことを特徴とするナノ炭素材料複合基板である。
【0016】
また、前記スポットは、スポット側面が斜面であるスポットであることが好ましい。
【0017】
また、前記スポットは、スポット最深部と基板表面の距離が5μm以上50μm以下であるスポットであることが好ましい。
【0018】
また、基板上面から見た前記触媒層が占める面積をaとし、基板上面から見た前記スポットが占める面積をbとし、基板上面における前記スポットの面積占有率をスポット面積占有率(b/(a+b))としたとき、前記スポット面積占有率は、0.10≦(b/(a+b))≦0.69の範囲を満たすことが好ましい。
【0019】
本発明の一実施形態は、前記ナノ炭素材料複合基板を用いた電子放出素子である。
【0020】
本発明の一実施形態は、前記ナノ炭素材料複合基板を用いた電子放出素子を用いた照明ランプであって、前記電子放出素子と、前記電子放出素子と対向して配置され、開口部を有するゲート電極と、前記ゲート電極を挟んで前記電子放出素子と対向して配置されたアノード電極と、前記アノード電極上に設けられた蛍光体と、を備えたことを特徴とする照明ランプである。
【発明の効果】
【0021】
本発明のナノ炭素材料複合基板製造方法は、ナノ炭素材料を形成前に触媒層の一部を剥離しスポットを形成する。ナノ炭素材料は触媒層の残存部から生成されることから、生成されたナノ炭素材料の極近傍にナノ炭素材料の存在しないスポットが存在する。このため、電界の集中しやすいナノ炭素材料よりなるエッジ部位を多数備えたナノ炭素材料複合基板を製造することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明のナノ炭素材料複合基板製造方法の一実施形態を示す概略図である。
【図2】本発明の照明ランプの一実施形態を示す概略図である。
【図3】実施例に係る本発明のナノ炭素材料複合基板を撮像したSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、具体的に、本発明のナノ炭素材料複合基板製造方法について、図1を用いながら説明を行なう。
【0024】
<触媒層形成工程>
まず、基板11に触媒層12を形成する(図1(a))。
【0025】
基板は、触媒層を保持することの出来る材料であれば良い。特に、導電性材料の基板を用いた場合、電子放出素子として用いるとき、基板自体をカソード電極として用いることが出来るため、好ましい。
具体的には、基板材料として、シリコン、ニッケル、モリブデン、ステンレス合金、などの材料を用いても良い。
【0026】
触媒層は、用いるナノ炭素材料形成方法に応じて、ナノ炭素材料を生成する触媒能を有する材料を適宜選択してよい。例えば、ナノ炭素材料を生成する触媒能を有する材料として、鉄、コバルト、ニッケルなど、を用いても良い。
【0027】
触媒層を基板上に形成する方法としては、触媒層として選択した材料に応じて適宜公知の薄膜形成方法を用いて良い。例えば、蒸着、スパッタ法などを用いても良い。
また、触媒層の形成部位は、基板全面または基板の一部いずれであってもよい。
【0028】
<スポット形成工程>
次に、触媒層12に基板部位が表出したスポット13を複数形成する(図1(c))。
スポット13を複数形成することにより、基板上の触媒層が残存部位が斑となり、後述するナノ炭素材料形成工程において、電界の集中しやすいナノ炭素材料よりなるエッジ部位を多数備えたナノ炭素材料複合基板を製造することが出来る。
スポット形成方法としては、適宜公知の機械加工、などを用いて良い。
また、スポット形成方法の加工部位は、(1)基板全面、(2)触媒層形成部位のみ、のいずれであってもよい。
【0029】
また、スポット形成工程にあたり、触媒層にサンドブラスト加工を行なうことが好ましい。
サンドブラスト加工は、研磨剤21を対象に吹き付けることにより、研磨剤21と対象を接触させ、対象を物理的に抉りとる加工である(図1(b))。サンドブラスト加工は研磨剤の接触により物理的に触媒層を剥離することから、得られるスポットはある程度面内に拡散した不規則な配置となる。このため、好適に触媒層の残存部位を斑とすることが出来る。
サンドブラスト加工では、(1)用いる研磨剤の材料、(2)研磨剤の射出圧力、(3)研磨剤の吹きつけ時間、(4)研磨剤の吹きつけ回数、(5)研磨剤の粒径、などの条件を適宜制御することにより、(1)スポットの形状、(2)スポットの深さ、(3)基板上面におけるスポットの面積占有率、などを制御することが出来る。
上述した研磨剤の材料は、条件に応じて適宜選択してよい。具体的には、例えば、セラミック、ガラス、金属、樹脂など、を用いても良い。
【0030】
<ナノ炭素材料形成工程>
次に、複数のスポット13間に残存した触媒層12にナノ炭素材料14を形成する(図1(d))。
【0031】
ナノ炭素材料の形成方法としては、選択した触媒に応じて、適宜公知のナノ炭素材料形成方法を用いて良い。例えば、具体的には、(1)基板上に形成された触媒金属粒子上に化学気相蒸着(Chemical Vapor Deposition、CVD)を利用してカーボンナノチューブを配向成長させる方法、(2)有機液体中で遷移金属または遷移金属の酸化物からなる触媒を担持した基板を加熱してその基板上にカーボンナノチューブを成長させる固液界面接触分解法、などが挙げられる。
【0032】
また、前記ナノ炭素材料形成工程にあたり、固液界面接触分解法を用いてカーボンナノチューブを形成することが好ましい。
固液界面接触分解法を用いて生成されたカーボンナノチューブは、特異に高密度で垂直配向する。このため、スポット近傍のカーボンナノチューブは電子放出方向に向け配向することになり、電界の集中しやすいエッジ部位を特異にカーボンナノチューブの先端部位とすることが出来る。よって、好適に電子放出を行なえるようになる。
【0033】
以下、具体的に、本発明のナノ炭素材料複合基板について説明を行なう。
【0034】
<基板>
基板は、触媒層を保持することの出来る材料であれば良い。特に、導電性材料の基板を用いた場合、電子放出素子として用いるとき、基板自体をカソード電極として用いることが出来るため、好ましい。
具体的には、基板材料として、シリコン、ニッケル、モリブデン、ステンレス合金、などの材料を用いても良い。
【0035】
<触媒層>
触媒層は、前記基板表面に形成される。触媒層は、用いるナノ炭素材料形成方法に応じて、ナノ炭素材料を生成する触媒能を有する材料を適宜選択してよい。例えば、ナノ炭素材料を生成する触媒能を有する材料として、鉄、コバルト、ニッケルなど、を用いても良い。
【0036】
<スポット>
スポットは、前記触媒層および前記基板に形成され、基板部位が表出した部位である。
【0037】
また、前記スポットは、スポット側面が斜面であるスポットであることが好ましい。ナノ炭素材料複合基板にナノ炭素材料形成側から電界をかけた場合、電界分布はナノ炭素材料複合基板の表面形状に沿った形となる。このため、スポット側面が斜面であることにより、スポット近傍のナノ炭素材料により好適に電界が集中する。
【0038】
また、スポットは、スポット最深部と基板表面の距離が5μm以上50μm以下であるスポットであることが好ましい。5μm以上50μm以下の範囲にあることにより、μmオーダーの3次元構造体となり、好適に電界を集中させることが出来る。
【0039】
また、基板上面から見た前記触媒層が占める面積をaとし、基板上面から見た前記スポットが占める面積をbとし、基板上面における前記スポットの面積占有率をスポット面積占有率(b/(a+b))としたとき、前記スポット面積占有率は、0.10≦(b/(a+b))≦0.69の範囲を満たすことが好ましい。
スポット面積占有率が0.10より小さいと、スポットの存在が少ないことから電界の集中するエッジ部が少なくなり、好ましくない。また、スポット面積占有率が0.69より大きいと、電界の集中するナノ炭素材料自体の存在が少なくなり、好ましくない。
【0040】
<ナノ炭素材料>
ナノ炭素材料は、前記触媒層表面に形成される。
ナノ炭素材料としては、例えば、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、カーボンナノウォール、カーボンナノフィラメント、カーボンナノコイル、カーボンナノホーン、などであっても良い。
【0041】
本発明のナノ炭素材料複合基板製造方法は、ナノ炭素材料を形成前に触媒層の一部を剥離しスポットを形成する。ナノ炭素材料は触媒層の残存部から生成されることから、生成されたナノ炭素材料の極近傍にナノ炭素材料の存在しないスポットが存在する。このため、電界の集中しやすいナノ炭素材料よりなるエッジ部位を多数備えたナノ炭素材料複合基板を製造することが出来る。
また、スポットを備えることによりナノ炭素材料の近傍に空隙が出来ることから、ナノ炭素材料の比表面積が大きくなる。よって、電池の電極材料、触媒材料、など、比表面積が大きく影響する用途に用いたとき良好な特性が期待できる。
【0042】
本発明のナノ炭素材料複合基板は、電界集中を行いやすいことから電子放出素子として用いることが好ましい。
以下、一例として、本発明のナノ炭素材料複合基板を電子放出素子として用いた照明ランプについて説明を行なう。
【0043】
電子放出素子は、本発明のナノ炭素材料複合基板とカソード電極を接続させてなる。
カソード電極は、導電性材料であれば良い。例えば、金属材料または半金属材料であれば良く、具体的には、銅、アルミニウム、ニッケル、鋼、ステンレス、インバー、コバール、シリコン、などであってもよい。
なお、ナノ炭素材料複合基板において、基板自体が導電性を示す場合、ナノ炭素材料複合基板の基板部位をカソード電極して機能させることが出来、カソード電極を省略することが出来る。
【0044】
ゲート電極は、カソード電極上の電子放出素子から電子を放出させ、この電子をアノード電極の方向へと導くための電極である。
ゲート電極は、電子を通過させる開口部を有し、導電性材料よりなる。
ゲート電極に用いる導電性材料としては、例えば、銅、アルミニウム、ニッケル、鋼、ステンレス、インバー、コバール、などを用いても良い。
【0045】
ゲート電極の開口部において、ゲート電極の開口部の形成方法は、機械加工、エッチング、スクリーン印刷などの加工方法を用いて良い。
また、ゲート電極の開口部において、開口部を形成する領域は、ゲート電極上において、ゲート電極およびカソード電極に対して垂直な方向から見たとき、少なくともカソード電極上の電子放出素子が成膜された部分の直上に形成されていればよい。
また、ゲート電極の開口部において、開口部の形状は、円形、矩形、ライン状など適宜設計し、決定してよい。
【0046】
また、ゲート電極は、開口部を有する導電性材料であれば良いことから、金属材料からなるメッシュをゲート電極として用いてもよい。
【0047】
アノード電極は、前記ゲート電極を挟んで前記電子放出素子と対向して配置される。
アノード電極は、透明導電膜であればよい。例えば、透明導電膜として、酸化インジウムスズ、酸化亜鉛、酸化スズ、を用いても良い。
また、アノード電極はアノード基板により支持されていてもよい。アノード基板は透光性を示す材料であればよい。例えば、透光性を示す材料として、ガラス、アクリル樹脂、ポリカーボネート、などを用いても良い。
アノード基板上にアノード電極を形成する場合、形成方法として、適宜公知の薄膜形成方法を用いることが出来る。例えば、薄膜形成方法として、スパッタ、真空蒸着、レーザーアブレーション、イオンプレーティング、CVD、スプレー法、ディップ法、などを用いても良い。
【0048】
蛍光体層は、前記アノード電極上に設けられ、電子放出素子から放出された電子を受けて発光する部位である。
蛍光体層に用いる蛍光体は、発光する波長や用途に応じ、適宜選択してよい。例えば、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化イットリウムなどの微粒子を用いても良い。
蛍光体層の形成方法としては、適宜公知の薄膜塗布方法を用いることが出来る。例えば、薄膜塗布方法として、インクジェット、スクリーン印刷などを用いても良い。
また、蛍光体層の上面形状は適宜設計してよい。例えば、全面に蛍光体層を形成してもよいし、蛍光体層に任意のパターンを形成してもよい。
【0049】
カソード電極、ゲート電極、アノード電極は、真空排気された発光容器中に設置される。
また、カソード電極とゲート電極との間、および、カソード電極とアノード電極との間に、外部電源を、発光容器外部より、それぞれ接続することによりそれぞれの電極間に印加する電圧を任意に設定することが出来る。
【0050】
図2に、本発明の照明ランプの一例について具体的に例示する。
図2において、カソード電極16、該カソード電極上16の電子放出素子15、該電子放出素子15に対向して配置された開口部32を有するゲート電極31、該ゲート電極31を挟んで電子放出素子15に対向して配置されたアノード電極42、該アノード電極42を支持するアノード基板41、該アノード電極上に形成された蛍光体層42、カソード電極16およびゲート電極31に印加する外部電源51、カソード電極16およびアノード電極42に印加する外部電源52、である。
【0051】
外部電源51によってカソード電極16とゲート電極31との間に、外部電源52によってカソード電極16とアノード電極42との間に、それぞれ直流電圧を印加することにより、電子放出素子15上に成長したナノ炭素材料14からフィールドエミッションにより電子が放出される。電子はゲート電極31に設けられた開口部32を通り抜け、アノード電極42上の蛍光体層43に入射する。このとき蛍光体層43より光が放出され、この光はアノード基板41を透過してランプ外部に放たれる。
【実施例】
【0052】
<実施例1>
まず、低抵抗シリコン基板上に、アルゴン7Paの雰囲気下で、コバルトを放電電流40mAで8分スパッタすることにより、コバルトを6nm成膜させた。
なお、低抵抗シリコン基板の大きさは7×22mm、コバルトを成膜したのはそのうち6×6mmの領域である。
【0053】
次に、成膜したコバルトを基板上に化学的結合を介して定着させることを目的として、基板の熱処理を行った。石英管内に基板を設置し、窒素80%、酸素20%の混合比の標準ガスを流量100cc/minでフローしながら900℃で10分間保持することにより熱処理を行った。
【0054】
次に、サンドブラスト加工を用いて、基板上に成膜されたコバルトを部分的に除去した。
サンドブラスト装置内に基板を設置し、この基板より60cmの距離から研磨剤(粒径150〜180μmのアルミナ粒子)を噴射圧力5kg/cmで吹き付けることにより、基板表面に成膜されたコバルトを部分的に除去した。なお、このとき、噴射時間を変化させることで除去されるコバルトの比率の制御を試みた。
【0055】
各基板の噴射時間は以下の通りである。
基板1:0.1秒程度噴射を3回繰り返し
基板2:0.1秒程度噴射を10回繰り返し
基板3:0.1秒程度噴射を50回繰り返し
【0056】
このように基板表面に成膜されたコバルトを部分的に除去した後、各基板を操作型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope、SEM)を用いて観察した。また、このときのSEM像を画像処理することにより、基板表面にスパッタで成膜されたコバルトのうち除去された部分の面積比を算出した。
【0057】
このときのSEM像および除去されたコバルトの面積比の算出の結果を図3に示す。
図3より、除去されたコバルトの比率は基板1、基板2、基板3でそれぞれ10%、28%、69%となり、サンドブラスト加工の噴射時間を変化させることで、除去されるコバルトの面積比の制御が可能であることが確認された。
【0058】
上記の各基板について、その表面にナノ炭素材料を生成することで電子放出素子の作製を行った。生成方法としては、2段階の加熱を行なう固液界面接触分解法を利用した。基板をホルダーに取り付け有機溶媒中に浸漬し、窒素雰囲気下で通電加熱を行うことにより、有機溶媒の熱分解反応が進行し、基板表面上にナノ炭素材料膜が成膜された。このときの反応条件は次の通りである。
【0059】
有機溶媒:メタノール(純度99.9%)
反応条件(第1の段階)
合成温度:600℃
合成時間:3分
反応条件(第2の段階)
合成温度:900℃
合成時間:6分
【0060】
上記の反応の後に基板を有機溶媒中から引き上げることにより、基板表面にカーボンナノチューブが形成されたナノ炭素材料複合基板を得た。
【0061】
<実施例2>
実施例1で得たナノ炭素材料複合基板を電子放出素子として用いた照明ランプを製造した。
電子放出素子を高真空チャンバー内に設置し、これと対向するようにゲート電極およびアノード電極を配置した。ゲート電極は、ステンレス基板に開口部を形成することで作製した。
アノード電極は、ガラス基板上に酸化インジウムスズをスパッタで成膜、さらにその上から蛍光体をスクリーン印刷で成膜することで作製した。なおこのとき、電子放出素子からゲート電極までの距離は1mm、電子放出素子からアノード電極までの距離は10mmとした。
【0062】
上記の照明乱費に外部電源を接続し、電子放出素子を設置した上で電子放出素子とアノード電極との間に5kVを印加し、電子放出素子とゲート電極との間の電圧を徐々に昇圧した。
【0063】
このときの電子放出素子からの電子放出特性の評価を行った。しきい値1(電子放出素子からの電子放出によって蛍光体が発光を開始したときのゲート電圧)、しきい値2(電子放出素子からの電子放出によるエミッション電流が1μAに達したときのゲート電圧)をそれぞれ記録した。このときの結果を表1に示す。
【0064】
【表1】

【0065】
表1によれば、基板1はゲート電圧を1.7kVまで印加したときに発光が始まり、ゲート電圧を2.3kVまで印加するとエミッション電流が1μAに達した。サンドブラスト加工により基板上に成膜されたコバルトを部分的に除去し、コバルトの残された部分にのみカーボンナノチューブを成膜することにより、ゲート電圧を昇圧した際に個々のカーボンナノチューブに電界が集中しやすくなり、優れた電子放出特性が発揮されたものと考えられる。
【0066】
基板2では、基板1には及ばないものの良好な電子放出特性と蛍光体の均一な発光が観察された。
基板3では、基板1と同様の良好な電子放出特性と蛍光体の均一な発光が観察された。
【0067】
これらの結果から、サンドブラスト加工により除去する触媒層の比率を、0.10≦(b/(a+b))≦0.69とすることで、良好な電子放出特性を発現する電子放出素子の作製が可能になると考えられる。
【0068】
また、サンドブラスト加工により除去する触媒層の比率を0.10≦(b/(a+b))≦0.69とした電子放出素子を用いることで、良好な発光特性を発現する照明ランプの作製が可能になると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明のナノ炭素材料複合基板は、強度補強材料、電池の電極材料、電磁波吸収材料、触媒材料、光学材料、電子放出素子材料、などの基板としての応用が期待される。
特に、強電界によって電子を放出する電界放射型の電子放出素子としての利用が期待され、具体的には、例えば、光プリンタ、電子顕微鏡、電子ビーム露光装置などの電子発生源や電子銃、平面ディスプレイを構成するアレイ状のフィールドエミッタアレイの面電子源、照明ランプ、などの用途としての電子放出素子として有用である。
特に、照明ランプとして用いる場合、(1)ディスプレイ用途:液晶バックライト、プロジェクタ光源、LEDディスプレイ光源、(2)シグナル用途:交通信号灯、産業/業務用回転灯・信号灯、非常灯・誘導灯、(3)センシング用途:赤外線センサ光源、産業用光センサ光源、光通信用光源、(4)医療・画像処理用途:医療用光源(眼底カメラ・スリットランプ)、医療用光源(内視鏡)、画像処理用光源、(5)光化学反応用途:硬化・乾燥/接着用光源、洗浄/表面改質用光源、水殺菌/空気殺菌用光源、(6)自動車用光源:ヘッドランプ、リアコンビネーションランプ、内装ランプ、(7)一般照明:オフィス照明、店舗照明、施設照明、舞台照明・演出照明、屋外照明、住宅照明、ディスプレイ照明(パチンコ機、自動販売機、冷凍・冷蔵ショーケース)、機器・什器組込照明、などの用途に応用が期待される。
なお、上記の用途に本発明のナノ炭素材料複合基板の用途は限定されるものではない。
【符号の説明】
【0070】
11……基板
12……触媒層
13……スポット
14……ナノ炭素材料
15……電子放出素子
16……カソード電極
21……研磨剤
31……ゲート電極
32……開口部
41……アノード基板
42……アノード電極
43……蛍光体層
51……外部電源
52……外部電源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板に触媒層を形成する触媒層形成工程と、
前記触媒層に前記基板部位が表出したスポットを複数形成するスポット形成工程と、
複数の前記スポット間に残存した前記触媒層にナノ炭素材料を形成するナノ炭素材料形成工程と、
を備えたことを特徴とするナノ炭素材料複合基板製造方法。
【請求項2】
前記スポット形成工程にあたり、前記触媒層にサンドブラスト加工を行なうこと
を特徴とする請求項1に記載のナノ炭素材料複合基板製造方法。
【請求項3】
前記ナノ炭素材料形成工程にあたり、固液界面接触分解法を用いてナノ炭素材料を形成し、
前記ナノ炭素材料はカーボンナノチューブであること
を特徴とする請求項1に記載のナノ炭素材料複合基板製造方法。
【請求項4】
基板と、
前記基板表面に形成された触媒層と、
前記触媒層に形成され基板部位が表出したスポットと、
前記触媒層表面に形成されたナノ炭素材料と、
を備えたことを特徴とするナノ炭素材料複合基板。
【請求項5】
前記スポットは、スポット側面が斜面であるスポットであること
を特徴とする請求項4に記載のナノ炭素材料複合基板。
【請求項6】
前記スポットは、スポット最深部と基板表面の距離が5μm以上50μm以下であるスポットであること
を特徴とする請求項5または6のいずれかに記載のナノ炭素材料複合基板。
【請求項7】
基板上面から見た前記触媒層が占める面積をaとし、
基板上面から見た前記スポットが占める面積をbとし、
基板上面における前記スポットの面積占有率をスポット面積占有率(b/(a+b))としたとき、
前記スポット面積占有率は、
0.10≦(b/(a+b))≦0.69
の範囲を満たすこと
を特徴とする請求項4から6のいずれかに記載のナノ炭素材料複合基板。
【請求項8】
請求項4から7のいずれかに記載のナノ炭素材料複合基板を用いた電子放出素子。
【請求項9】
請求項8に記載の電子放出素子を用いた照明ランプであって、
前記電子放出素子と、
前記電子放出素子と対向して配置され、開口部を有するゲート電極と、
前記ゲート電極を挟んで前記電子放出素子と対向して配置されたアノード電極と、
前記アノード電極上に設けられた蛍光体と、
を備えたことを特徴とする照明ランプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−11952(P2011−11952A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−158573(P2009−158573)
【出願日】平成21年7月3日(2009.7.3)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】