説明

ナノ粒子製造方法およびナノ粒子製造装置

【課題】マイクロ空間を利用した新たな生成原理に基づいて、制御性のよい高品質なナノ粒子を製造することができるナノ粒子製造方法およびナノ粒子製造装置を提供する。
【解決手段】代表長さ5μm〜5mmのマイクロリアクタ11に流路12から前駆体溶液を供給し、マイクロリアクタ11に供給された前駆体溶液に、照射ビーム発生装置13により、レーザー光、電磁波、粒子線または超音波のうちのいずれか単独のエネルギービームまたは複数を複合したエネルギービームを照射してナノ粒子を生成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロリアクタを用いたマイクロ反応場へのエネルギービーム照射によるナノ粒子製造方法およびナノ粒子製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ナノ粒子合成に関する研究は、近年のナノテク分野の隆盛・重点化により盛んになっているが、金など貴金属については古くより行われている。その最も一般的な方法は、金属イオンあるいは金属錯体を含有する溶液の熱と還元剤とによる分解・生成である。この方法は、金属だけではなく、CdSeなどの半導体あるいは酸化物などの無機系について広く適用され、数多くの研究開発がなされている。また、この方法において核生成を適切に制御することにより、量子ドットなど非常に粒径の揃った自己組織化ナノ粒子の合成も多く報告されている。
【0003】
そのほかに、物理的方法として、不活性ガス中での金属蒸気の急冷を利用したドライ製法が知られている。この方法は、自己組織化も可能となる化学的手法と比べると、粒径制御については一般的に劣るが、大量合成が可能であり、微細配線用などを目的としたものが供給され始めている。
【0004】
以上のような一般的なナノ粒子合成法以外に、各種エネルギービームの照射による合成方法も報告されている。紫外光照射による金あるいは銀の貴金属ナノ粒子生成は、光還元として以前より知られている。また、レーザー、特に紫外レーザーの前駆体溶液への照射によって、各種金属・合金あるいは酸化物ナノ粒子合成が可能であることも報告されている。
【0005】
超音波の照射によるナノ粒子生成も報告されている(例えば、非特許文献1参照)。溶液への超音波照射によって超高温・超高圧の場が生成されることが知られており、このような場の効果でナノ粒子が生成される。これらを扱う化学分野は、ソノケミストリーと呼ばれている。
【0006】
また、ガンマ線あるいは電子線などの放射線照射によるナノ粒子合成も報告されている(例えば、特許文献1参照)。これらの放射線が前駆体溶液中を通過することによって、還元性(あるいは酸化性)のラジカルが生じて、ナノ粒子生成に寄与するといわれている。
【0007】
近年、化学分析・化学合成の新しい分野として、マイクロチップなどマイクロ場の効果を利用したマイクロ化学が注目されるようになっている(例えば、非特許文献2参照)。化学反応・合成へのマイクロ場利用の利点としては、一般的に次のことが考えられる。
1.反応・混合の効率化・制御性
2.温度制御の精密化・制御性
3.製造プラントへのスケールアップの容易さ
【0008】
1.については、単位容積あたりの表面積が大きくなることから界面反応が促進されることと、分子拡散による混合時間が短縮されることから、反応・混合が促進される。
2.については、マイクロ場は容積が小さいため熱容量も小さくなり、精密な温度制御が可能となり、したがって化学反応制御の精密化も可能となり、良質な製品が期待される。
3.については、実験室レベルで最適化されたマイクロリアクタを多数並列接続することによって、製造プラントへのスケールアップが容易となる。ゾル合成用として実際に、年間数十トンレベルのプラント試作も行われ始めている。
【0009】
以上のようなマイクロ場のナノ粒子合成への応用は、2、3の研究機関あるいは企業で行われ始めている。例えば、主にCdSeなど半導体ナノ粒子合成に、マイクロリアクタを利用するものがある(特許文献2参照)。この場合、ナノ粒子合成の原理は、熱と還元剤とによる分解・生成であり、マイクロリアクタの利用により、ナノ粒子の高品質化が可能である。
【0010】
また、酸化銅あるいは有機材料ナノ粒子の合成にマイクロリアクタを適用するものもある(特許文献3参照)。この場合も、ナノ粒子合成の原理は、還元剤との混合および加熱からなっている。
【0011】
以上のように、ナノ粒子合成におけるマイクロリアクタの利用は、現状ではいずれも熱分解と還元剤による還元の効果とを利用したものとなっており、他の原理に基づいたナノ粒子合成方法をマイクロ場へ利用した報告例はない。
【0012】
【非特許文献1】Stephen Au Yeung et al、“Formation of gold sols using ultrasound”、J.Chem.Soc.,Chem.Commun.、(英国)、1993年、第4号、p.378
【特許文献1】国際公開第2004/083124号パンフレット
【非特許文献2】北森武彦ほか編、「マイクロ化学チップの技術と応用」、丸善株式会社、2004年
【特許文献2】特開2005−125280号公報
【特許文献3】特開2006−96569号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
ナノ粒子合成へのマイクロリアクタの利用には、制御性のよいナノ粒子を供給できる可能性が存在するが、現在までのところその原理は、熱分解と化学還元とによる報告のみであり、他の生成原理に基づいてマイクロ空間を利用した例はない。
【0014】
本発明は、このような課題に着目してなされたもので、マイクロ空間を利用した新たな生成原理に基づいて、制御性のよい高品質なナノ粒子を製造することができるナノ粒子製造方法およびナノ粒子製造装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成するために、本発明に係るナノ粒子製造方法は、代表長さ5μm〜5mmのマイクロリアクタに供給された前駆体溶液に、レーザー光、電磁波、粒子線または超音波のうちのいずれか単独のエネルギービームまたは複数を複合したエネルギービームを照射してナノ粒子を生成することを、特徴とする。
【0016】
本発明に係るナノ粒子製造装置は、代表長さ5μm〜5mmのマイクロリアクタと、前記マイクロリアクタに前駆体溶液を供給可能に設けられた流路と、レーザー光、電磁波、粒子線または超音波のうちのいずれか単独のエネルギービームまたは複数を複合したエネルギービームを、前記マイクロリアクタに供給された前記前駆体溶液に照射可能に設けられた照射ビーム発生装置とを、有することを特徴とする。
【0017】
本発明に係るナノ粒子製造方法およびナノ粒子製造装置では、エネルギービームをマイクロリアクタに供給された前駆体溶液の微量体積に照射するため、エネルギービームや温度その他の不均一性を抑えることができ、高品質のナノ粒子コロイドを生成することができる。このように、本発明に係るナノ粒子製造方法およびナノ粒子製造装置によれば、熱分解や化学還元によらない、マイクロ空間を利用した新たな生成原理に基づいて、制御性のよい高品質なナノ粒子を製造することができる。
【0018】
エネルギービームの照射がバッチタイプではないため、溶液流速を変化させることにより、前駆体溶液への照射エネルギー量を変化させ、製造されるナノ粒子の粒径を制御することができる。
【0019】
マイクロリアクタは、実験室レベルでは、ガラスや石英などのキャピラリー(毛細管)、またはマイクロ化学チップを用いるのが好ましい。また、マイクロリアクタは、照射するエネルギービームを透過する材料で作製されていることが好ましい。例えば、紫外光・紫外レーザー光の場合には石英あるいは紫外透過樹脂、可視光・可視域レーザー光の場合にはガラス、アクリルなど、遠赤外光・遠赤外レーザー光の場合にはGe、ZnSeなどとなる。
【0020】
なお、金ナノ粒子のバイオ応用では、金ナノ粒子に抗体あるいはDNAなどの生体物質を付加させる複合化処理がよく行われる。本発明に係るナノ粒子製造方法およびナノ粒子製造装置では、マイクロ化学チップなどのマイクロリアクタを使用することにより、このようなナノ粒子の複合化プロセスを一箇所に組み込んで集積化し、一段での処理が可能である。
【0021】
また、金ナノ粒子や銀ナノ粒子などの貴金属ナノ粒子、特に銀ナノ粒子は凝集しやすく、一般的に長期保存は困難である。このような場合、本発明に係るナノ粒子製造方法およびナノ粒子製造装置では、前駆体溶液のみを保存しておき、必要な場合にナノ粒子コロイド溶液を製造することができ、オンデマンドで高品質なナノ粒子を提供することができる。
【0022】
本発明に係るナノ粒子製造方法で、前記マイクロリアクタは、前記代表長さの内径を有する細管状容器、前記代表長さの内厚を有する矩形状もしくは薄膜状容器、または前記代表長さの平均内径を有する多孔質材料のうちの少なくともいずれか1つから成ることが好ましい。本発明に係るナノ粒子製造装置で、前記マイクロリアクタは、前記代表長さの内径を有する細管状容器、前記代表長さの内厚を有する矩形状もしくは薄膜状容器、または前記代表長さの平均内径を有する多孔質材料のうちの少なくともいずれか1つから成ることが好ましい。
【0023】
この場合、特に高品質のナノ粒子を製造することができる。マイクロリアクタの代表長さとは、例えば、キャピラリーなどでの管状流路の内径、マイクロ化学チップなどでの矩形あるいは薄膜状流路の内厚、または多孔質材料の平均内径である。現在の光リソグラフィ技術によれば、1μm程度からのパターン幅の形成は可能であるが、数μm以下の代表長さでは、流体の粘度が高い場合に特に流体抵抗が高くなり、またナノ粒子の流路内壁への付着・凝集が顕著になるため望ましくない。また、代表長さが数mm以上になると、マイクロリアクタ特有の効果が明らかでなくなり、望ましくない。このため、代表長さとしては、50μmから3mmの範囲が好ましく、100μmから1mmの範囲であればさらに好ましい。
【0024】
本発明に係るナノ粒子製造方法で、前記前駆体溶液は複数から成り、各前駆体溶液がそれぞれ異なる複数の流路により前記マイクロリアクタに供給され、各前駆体溶液の混合前、混合と同時または混合後に前記エネルギービームを照射してもよい。本発明に係るナノ粒子製造装置で、前記流路は複数から成り、複数の前駆体溶液をそれぞれ別々に前記マイクロリアクタに供給可能に設けられ、前記照射ビーム発生装置は各前駆体溶液の混合前、混合と同時または混合後に前記エネルギービームを照射可能に設けられていてもよい。
【0025】
この前駆体溶液が複数から成る場合、複数種の前駆体溶液をマイクロリアクタに導入し、マイクロリアクタ内で混合してエネルギービームを照射することができる。各前駆体溶液の混合が層流状態で迅速・均一に行われるため、高品質なナノ粒子コロイドを生成することができる。例えば、分散剤が還元性のものである場合には、前駆体溶液として最初から混合してしまうと不都合な場合がしばしばある。このような場合には、金属塩・金属錯体などのナノ粒子原材料溶液と分散剤溶液とを分けて導入し、マイクロリアクタ内で混合と同時あるいは混合直後にエネルギービームを照射することが好ましい。化合物・合金などの多元系材料のナノ粒子を合成する場合も同様に、各元素の前駆体溶液を個別に供給し、マイクロリアクタ内で混合と同時あるいは混合直後に照射すれば、各前駆体溶液の供給量の調整による組成の調整も可能になる。核(コア)とこれを覆う殻(シェル)から構成されるコアシェル構造(シェルが多層の場合もある)のナノ粒子の場合も同様に、コア用前駆体溶液とシェル用前駆体溶液とを個別に供給して処理することができる。
【0026】
本発明に係るナノ粒子製造方法で、前記エネルギービームは、波長400nm以下の紫外光または紫外レーザー光であってもよい。本発明に係るナノ粒子製造装置で、前記エネルギービームは、波長400nm以下の紫外光または紫外レーザー光であってもよい。この場合、特に高品質のナノ粒子を製造することができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、マイクロ空間を利用した新たな生成原理に基づいて、制御性のよい高品質なナノ粒子を製造することができるナノ粒子製造方法およびナノ粒子製造装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、図面に基づき本発明の実施の形態について説明する。
図1乃至図4は、本発明の実施の形態のナノ粒子製造方法およびナノ粒子製造装置を示している。
図1に示すように、ナノ粒子製造装置10は、マイクロリアクタ11と2つの流路12と照射ビーム発生装置13と温度制御装置14と脱塩処理装置15とナノ粒子コロイド回収容器16とを有している。
【0029】
マイクロリアクタ11として、例えばガラスあるいは石英製のマイクロ化学チップ、キャピラリー集合体、多孔質材料などが利用できる。実施例では、マイクロ化学チップの流路パターンを適宜マスキングして、マイクロリアクタ11として使用した。マイクロリアクタ11は、代表長さが5μmから5mmの範囲であり、50μmから3mmの範囲が好ましく、100μmから1mmの範囲が特に好ましい。代表長さは、マイクロリアクタ11内の前駆体溶液の流路の径である。なお、近年のマイクロ化学分野の進展で、様々なマイクロ化学チップが提供されているため、マイクロリアクタ11には市販の製品を利用することができる。
【0030】
各流路12は、マイクロリアクタ11に接続され、マイクロリアクタ11に前駆体溶液を供給可能に設けられている。各流路12は、複数の前駆体溶液を、それぞれ別々にマイクロリアクタ11に供給可能になっている。
【0031】
照射ビーム発生装置13として、例えばエキシマあるいは固体レーザー発生装置、紫外光発生装置、マイクロ波発生装置、超音波振動子などが利用できる。紫外レーザー発生装置として、最近では小型の半導体レーザモジュールあるいは円盤状結晶を用いるロータリディスクレーザ装置なども開発されており、これらを用いればナノ粒子製造装置全体を大幅に小型化することも可能である。照射ビーム発生装置13は、マイクロリアクタ11に供給された前駆体溶液に、エネルギービームを照射可能に設けられている。エネルギービームは、レーザー光、電磁波、粒子線または超音波のうちのいずれか1種であっても、任意の2種以上の組み合わせであってもよく、また、同種であって波長あるいは周波数が異なるものの組み合わせであってもよい。前駆体は、好適には金属塩または金属錯体である。前駆体としては、例えば金ナノ粒子を合成する場合にはテトラクロロ金(III)酸水素が挙げられる。前駆体溶液は、前駆体を溶媒に溶解させて成る。溶媒の例として、蒸留水、アルコール類、エーテル類などの有機溶媒が利用可能であるが、前駆体の溶解特性によって選択する必要がある。前駆体溶液は、分散剤を含んでいてもよい。分散剤の例としては、ポロビニールピロリドンなどのポリマー類、L−アスコルビン酸、クエン酸、オレイン酸などのカルボン酸、オレイルアミンなどのアミン類、あるいは各種市販の界面活性剤などが挙げられる。前駆体溶液中の前駆体および分散剤の濃度は、限定されないが、例を挙げれば、それぞれ0.25mMから1.0mMである。鉄ペンタカルボニルなどは、金属錯体自身が室温で液体であるため、このような場合には溶媒に溶解しないでそのまま前駆体溶液として用いることができる。照射ビーム発生装置13は、各流路12から別々にマイクロリアクタ11に供給される複数の前駆体溶液の混合前、混合と同時または混合後に、エネルギービームを照射可能になっている。
【0032】
温度制御装置14は、マイクロリアクタ11に接触するよう設けられている。温度制御装置14は、マイクロリアクタ11を一定温度に保つよう、マイクロリアクタ11を冷却・加熱可能になっている。脱塩処理装置15は、電気透析装置などの脱塩処理を行う装置から成り、マイクロリアクタ11に接続されている。脱塩処理装置15は、マイクロリアクタ11で生成されたナノ粒子コロイドに対して、脱塩処理を行うよう構成されている。ナノ粒子コロイド回収容器16は、脱塩処理装置15に接続されている。ナノ粒子コロイド回収容器16は、マイクロリアクタ11で生成され、脱塩処理装置15で脱塩処理されたナノ粒子コロイドを回収可能になっている。
【0033】
本発明の実施の形態のナノ粒子製造方法は、ナノ粒子製造装置10を使用してナノ粒子を生成することができる。まず、複数の前駆体溶液を、各流路12から別々にマイクロリアクタ11に供給する。マイクロリアクタ11に供給される各前駆体溶液の混合前、混合と同時または混合後に、前駆体溶液に照射ビーム発生装置13によりエネルギービームを照射する。これにより、ナノ粒子コロイドを生成することができる。また、このとき、各前駆体溶液の混合が層流状態で迅速・均一に行われるため、高品質なナノ粒子コロイドを生成することができる。
【0034】
マイクロリアクタ11で生成されたナノ粒子コロイドを、脱塩処理装置15で脱塩処理した後、ナノ粒子コロイド回収容器16で回収する。こうして、本発明の実施の形態のナノ粒子製造方法により、熱分解や化学還元によらない、マイクロ空間を利用した新たな生成原理に基づいて、制御性のよい高品質なナノ粒子を製造することができる。
【0035】
ビーカその他容器中の溶液へのバッチタイプの照射の場合には、撹拌などを十分にしたとしても温度あるいは照射するエネルギービームなどの局所的な不均一性を抑えることは困難であり、結果として粒度分布も広がり高品質なナノ粒子を得ることは困難になる。これに対し、本発明の実施の形態のナノ粒子製造方法およびナノ粒子製造装置10によれば、エネルギービームをマイクロリアクタ11に供給された前駆体溶液の微量体積に照射するため、エネルギービームや温度その他の不均一性を抑えることができ、高品質のナノ粒子コロイドを生成することができる。また、エネルギービームの照射がバッチタイプではないため、溶液流速を変化させることにより、前駆体溶液への照射エネルギー量を変化させ、製造されるナノ粒子の粒径を制御することができる。
【0036】
前駆体溶液中の金属イオンあるいは金属錯体などが、照射するエネルギービームによって完全に還元されナノ粒子になる場合には問題ないが、一般的には回収されるナノ粒子コロイド溶液中には、これら未還元のイオンあるいは錯体、あるいは還元後生成するイオン類などが残留している。ナノ粒子製造装置10では、脱塩処理装置15を有しているため、これらの残留物を除去することができる。
【0037】
なお、図1に示すように、マイクロリアクタ11のキャピラリーあるいはマイクロ化学チップを、並列配置・接続あるいは厚み方向に積層すれば、照射するエネルギービームのエネルギーを効率的に利用することが可能である。このようなマイクロ場を複数配置する方法として、場合に応じて多くのバリエーションが設計可能である。
【0038】
製造プラントとして用いる場合には、実験室レベルで条件が最適化されたキャピラリー、マイクロ化学チップなどを多数配置すればよいが、エネルギービームが放射状に照射される場合には、特に円盤状あるいは球状に配置するのが望ましい。キャピラリー集合体あるいはマイクロ化学チップなどのマイクロリアクタ11の流路に、各種ミラーなどの組み込みによるエネルギービームの閉じ込め構造を形成すれば、さらにエネルギービームの利用効率が上がるため、望ましい。マイクロリアクタ11への前駆体溶液の供給は、実験室レベルではシリンジポンプにセットされたシリンジが一般的であるが、その規模に応じてペリスタポンプなどの各種溶液ポンプを用いることができる。
【0039】
また、照射するエネルギービームとしては、電子線あるいはガンマ線などの放射線を利用することも可能である。放射線照射には、医療機器などの殺菌・滅菌、樹脂の架橋を切断する樹脂改質、パワーデバイスなど電子デバイス改質の市場が存在し、これら照射サービスも行われている。ナノ粒子生成において、ガンマ線より電子線の方がより短時間での処理が可能であるため望ましい。
【0040】
金あるいは銀などの貴金属ナノ粒子の場合には、比較的低強度のビームでも分解生成が行われるが、遷移金属ナノ粒子、遷移金属酸化物ナノ粒子、あるいは希土類酸化物ナノ粒子の場合には分解・還元されにくいため、100mJ以上のレーザー光あるいは0.1MeV以上の電子線照射などが望ましい。照射するエネルギービームが超音波の場合には、マイクロリアクタ11本体を水などの液体中に設置することが望ましい。
【0041】
各種エネルギービームの照射によって、あるいは前駆体溶液の反応熱によって、一般的にマイクロリアクタ11は発熱する。ナノ粒子製造装置10では、温度制御装置14によりマイクロリアクタ11を一定温度に保つことができ、より制御性のよいナノ粒子を生成することができる。ガラス・石英などで作られたマイクロリアクタ11を用いる場合、ナノ粒子が流路内壁に付着・凝集しやすいため、内壁の表面処理を行うことが望ましい。この表面処理は、親水処理あるいは撥水処理などによる表面電荷の制御が主となるが、この処理は生成ナノ粒子の表面電荷の状態に応じて決める必要がある。
【実施例1】
【0042】
以下に本発明の実施例を示す。
金ナノ粒子合成用前駆体溶液として表1に示すものを用いて、ナノ粒子合成実験を行った。照射するエネルギービームとしては、KrFエキシマレーザー発生装置(波長248nm、LAMBDA PHYSIK AG社製)を用いた。マイクロリアクタ11としては、紫外光を透過する合成石英製のマイクロ化学チップ(IMT社製、流路断面積:100μm×40μm)の流路パターンを適宜マスキングして使用した。溶液供給は、シリンジポンプにセットされたガスタイトシリンジ(ハミルトン社製)を用いて行った。供給液量は、1mL/hrに設定し、約2時間照射を行った。比較のために、前駆体溶液を満たした100mL容量のビーカへの照射も行った。両者のレーザー照射条件は、レーザパワー〜100mJ、パルスレート5Hzである。
【0043】
【表1】

【0044】
マイクロリアクタ11およびビーカへの照射によって得られたナノ粒子コロイド溶液は、動的光散乱法(DLS)に基づいて粒度分布の測定を行った(Malvern Instruments Ltd.社製)。測定結果を図2に示す。ビーカの場合には、ピーク分布が広がっているのに対し、マイクロリアクタ11の場合には、1本のシャープなピーク分布が得られ、マイクロリアクタ11の方が良質なコロイド溶液が得られることがわかる。
【実施例2】
【0045】
金ナノ粒子合成用前駆体溶液として表2に示すものを用いて、ナノ粒子合成実験を行った。照射するエネルギービームとしては、紫外光発生装置(ウシオ電機製、超高圧UVランプ)を用いた。マイクロリアクタ11としては、紫外光を透過する合成石英製のマイクロ化学チップ(IMT社製、流路断面積:100μm×40μm)の流路パターンを使用した。溶液供給は、シリンジポンプにセットされたガスタイトシリンジ(ハミルトン社製)を用いて行った。供給液量は、2mL/hrに設定し、約1時間照射を行った。比較のために、前駆体溶液を満たした100mL容量のビーカへの照射も行った。両者の照射時のUVランプの電流値は、8Aに設定した。
【0046】
【表2】

【0047】
マイクロリアクタ11およびビーカへの照射によって得られたナノ粒子コロイド溶液は、動的光散乱法(DLS)に基づいて粒度分布の測定を行った(Malvern Instruments Ltd.社製)。測定結果を図3に示す。ビーカの場合には、ピーク分布が2本に分裂して広がっているのに対し、マイクロリアクタ11の場合には、1本のピーク分布のみが得られた。
【実施例3】
【0048】
金ナノ粒子合成用前駆体溶液として表3に示す2種類を用いて、ナノ粒子合成実験を行った。分散剤としてL−アスコルビン酸を用いる場合には、この試薬が還元基を持ち、最初から混合すると分解・還元が進行するため、表3に示すように、前駆体溶液をS1液とS2液とに分けてある。マイクロチップの場合には、両液を2本のシリンジから個別にチップへ供給し、Y字型チャネルで混合し、混合直後にビーム照射が行われるように適宜マスキングが施してある。ビーカの場合には、S2液を最初にビーカに満たし、ビーム照射開始直後にS1液を混合した。
【0049】
【表3】

【0050】
照射するエネルギービームとしては、KrFエキシマレーザー発生装置(波長248nm、LAMBDA PHYSIK AG社製)を用いた。マイクロリアクタ11としては、紫外光を透過する合成石英製のマイクロ化学チップ(IMT社製、流路断面積:100μm×40μm)を使用した。溶液供給は、シリンジポンプにセットされたガスタイトシリンジ(ハミルトン社製)を用いて行った。供給液量は、1mL/hrに設定し、約1時間照射を行った。比較のために、前駆体溶液を満たした100mLビーカへの照射も行った。両者のレーザー照射条件は、レーザパワー〜100mJ、パルスレート5Hzである。
【0051】
マイクロリアクタ11およびビーカへの照射によって得られたナノ粒子コロイド溶液は、動的光散乱法(DLS)に基づいて粒度分布の測定を行った(Malvern Instruments Ltd.社製)。測定結果を図4に示す。ビーカの場合には、2本のピークに分裂し分布が広がっているのに対し、マイクロリアクタ11の場合には、1本の比較的シャープなピーク分布のみが得られた。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の実施の形態のナノ粒子製造方法およびナノ粒子製造装置を示すブロック図である。
【図2】図1に示すナノ粒子製造方法およびナノ粒子製造装置の、分散剤としてPVPを含む前駆体溶液を使用し、光源としてKrFエキシマレーザーを使用したときの、マイクロリアクタ中およびビーカ中で合成した金ナノ粒子の粒度分布を示すグラフである。
【図3】図1に示すナノ粒子製造方法およびナノ粒子製造装置の、分散剤としてPVPを含む前駆体溶液を使用し、光源として紫外光発生装置を使用したときの、マイクロリアクタ中およびビーカ中で合成した金ナノ粒子の粒度分布を示すグラフである。
【図4】図1に示すナノ粒子製造方法およびナノ粒子製造装置の、L−アスコルビン酸を含む前駆体溶液およびテトラクロロ金酸水素を含む前駆体溶液を個別に供給・混合後、KrFエキシマレーザーを使用して、マイクロリアクタ中およびビーカ中で合成した金ナノ粒子の粒度分布を示すグラフである。
【符号の説明】
【0053】
10 ナノ粒子製造装置
11 マイクロリアクタ
12 流路
13 照射ビーム発生装置
14 温度制御装置
15 脱塩処理装置
16 ナノ粒子コロイド回収容器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
代表長さ5μm〜5mmのマイクロリアクタに供給された前駆体溶液に、レーザー光、電磁波、粒子線または超音波のうちのいずれか単独のエネルギービームまたは複数を複合したエネルギービームを照射してナノ粒子を生成することを、特徴とするナノ粒子製造方法。
【請求項2】
前記マイクロリアクタは、前記代表長さの内径を有する細管状容器、前記代表長さの内厚を有する矩形状もしくは薄膜状容器、または前記代表長さの平均内径を有する多孔質材料のうちの少なくともいずれか1つから成ることを、特徴とする請求項1記載のナノ粒子製造方法。
【請求項3】
前記前駆体溶液は複数から成り、各前駆体溶液がそれぞれ異なる複数の流路により前記マイクロリアクタに供給され、各前駆体溶液の混合前、混合と同時または混合後に前記エネルギービームを照射することを、特徴とする請求項1または2記載のナノ粒子製造方法。
【請求項4】
前記エネルギービームは、波長400nm以下の紫外光または紫外レーザー光であることを、特徴とする請求項1、2または3記載のナノ粒子製造方法。
【請求項5】
代表長さ5μm〜5mmのマイクロリアクタと、
前記マイクロリアクタに前駆体溶液を供給可能に設けられた流路と、
レーザー光、電磁波、粒子線または超音波のうちのいずれか単独のエネルギービームまたは複数を複合したエネルギービームを、前記マイクロリアクタに供給された前記前駆体溶液に照射可能に設けられた照射ビーム発生装置とを、
有することを特徴とするナノ粒子製造装置。
【請求項6】
前記マイクロリアクタは、前記代表長さの内径を有する細管状容器、前記代表長さの内厚を有する矩形状もしくは薄膜状容器、または前記代表長さの平均内径を有する多孔質材料のうちの少なくともいずれか1つから成ることを、特徴とする請求項5記載のナノ粒子製造装置。
【請求項7】
前記流路は複数から成り、複数の前駆体溶液をそれぞれ別々に前記マイクロリアクタに供給可能に設けられ、
前記照射ビーム発生装置は各前駆体溶液の混合前、混合と同時または混合後に前記エネルギービームを照射可能に設けられていることを、
特徴とする請求項5または6記載のナノ粒子製造装置。
【請求項8】
前記エネルギービームは、波長400nm以下の紫外光または紫外レーザー光であることを、特徴とする請求項5、6または7記載のナノ粒子製造装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−246394(P2008−246394A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−91897(P2007−91897)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【出願人】(506214460)株式会社スリー・アール (7)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】