説明

ニオブ酸カリウム薄膜の製造方法、表面弾性波素子、周波数フィルタ、周波数発振器、電子機器、及びKxNa1−xNb1−yTayO3薄膜の製造方法

【課題】各種単結晶基板上で表面モフォロジーに優れかつ単相の高品質なKNbO単結晶薄膜を製造する方法と、この方法で得られた薄膜を備えることによって、k(電気機械結合係数)が高く広帯域化、小型化、及び省電力化に優れる表面弾性波素子、周波数フィルタ、周波数発振器、電子回路、及び電子機器を提供する。
【解決手段】所定の酸素分圧におけるKNbOと3KO・Nbとの共晶点Eにおける温度及びモル組成比をT、xとするとき(xは、KNb1−xで表現されるときのカリウム(K)とニオブ(Nb)とのモル比)、0.5≦x≦xの範囲となるK、Nb、Oからなるプラズマプルームを基板11に供給する。そして、この状態における完全溶融温度をTとし、基板11の温度TをT≦T≦Tの範囲に保持して基板11上に堆積したKNb1−xからKNbO単結晶12を析出させ、残った液相部27を蒸発させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニオブ酸カリウム単結晶薄膜の製造方法、表面弾性波素子、周波数フィルタ、周波数発振器、電子回路、及び電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話等の移動体通信を中心とした通信分野の著しい発展に伴い、これらに使用される表面弾性波素子の需要が急速に拡大している。表面弾性波素子の開発の方向としては、携帯電話機等と同様、小型化、高効率化、高周波化の方向にあり、そのためには、より大きな電気機械結合係数(以下、k)、より大きな表面弾性波伝播速度、が必要となる。例えば、高周波フィルタとして用いる場合には、損失の小さく帯域幅の広い通過帯域を得るために高kが望まれる。共振周波数を高周波化するためには、インターディジタル型電極(Inter−Digital Transducer、以下、IDT)のピッチを形成する際のデザインルールに限界があるため、より音速の速い材料が望まれている。さらに、使用温度領域での特性の安定化を得るためには、中心周波数温度係数(TCF)が小さいことが必要となる。
【0003】
表面弾性波素子は、従来、主として圧電体の単結晶上にIDTを形成した構造が用いられてきた。圧電単結晶の代表的なものとしては、水晶、ニオブ酸リチウム(以下、LiNbO)、タンタル酸リチウム(以下、LiTaO)等である。例えば、広帯域化や通過帯域の低損失化が要求されるRFフィルタの場合には、kの大きいLiNbOが用いられる。一方、狭帯域でも安定な温度特性が必要なIFフィルタの場合は、TCFの小さい水晶が用いられる。さらに、k及びTCFがそれぞれLiNbOと水晶との間にあるLiTaOは、その中間的な役割を果たしている。ただし、kの最も大きいLiNbOでも、k〜20%程度であった。
【0004】
最近、ニオブ酸カリウム(以下、KNbO)(a=0.5695nm、b=0.5721nm、c=0.3973nm、以下、斜方晶としては本指数表示に従う)単結晶において、大きなkの値を示すカット角が見出された。0°YカットX伝播(以下、0°Y−X)KNbO単結晶板が、k=53%と非常に大きな値を示すことが計算によって予測された(例えば、非特許文献1参照。)。また、0°Y−XKNbO単結晶板が、k〜50%の大きな値を示すことが実験でも確認され、45°から75°までの回転Y−XKNbO単結晶板を用いたフィルタの発振周波数が、室温付近で零温度特性を示すことが報告されている(例えば、非特許文献2参照。)。これらの単結晶板が、表面弾性波基板として用いられている(例えば、特許文献1参照。)。
【0005】
圧電単結晶基板を用いた表面弾性波素子では、k、温度係数、音速等の特性は材料固有の値であり、カット角及び伝播方向で決定される。0°Y−XKNbO単結晶板はkに優れるが、45°から75°までの回転Y−XKNbO単結晶板のような零温度特性は室温付近において示さない。また、伝播速度は同じペロブスカイト型酸化物である、チタン酸ストロンチウム(以下、SrTiO)やチタン酸カルシウム(以下、CaTiO)に比べて遅い。このように、KNbO単結晶板を用いるだけでは、高音速、高k、零温度特性を全て満足させることはできない。
【0006】
そこで、何等かの基板上に圧電体薄膜を堆積し、その膜厚を制御して、音速やk、温度特性を向上させることが期待される。サファイア基板上に酸化亜鉛(ZnO)薄膜を形成したもの(例えば、非特許文献3参照。)、LiNbO薄膜を形成したもの(例えば、非特許文献4参照。)等が挙げられる。従って、KNbOについても、基板上に薄膜化して諸特性を全て向上させることが期待される。
【0007】
ここで、圧電薄膜としては、そのk、温度特性を引き出すために最適な方向に配向することが望ましく、リーキー波伝播に伴う損失をなるべく小さくするためには、平坦で緻密なエピタキシャル膜であることが望ましい。ここで、k〜50%のY−XKNbO薄膜は、擬立方晶(100)に相当し、k〜10%の90°Y−XKNbO薄膜は、擬立方晶(110)に相当する。従って例えば、SrTiO(100)或いは(110)単結晶基板を用いることで、k〜50%のY−XKNbO薄膜、或いはk〜10%の90°Y−XKNbO薄膜を得ることができる。
【0008】
従来の気相法やゾルゲル法といった一般的な薄膜形成方法でKNbO薄膜を製膜する場合には、Nbに比べてKの飽和蒸気圧が著しく高いために、Nbに比べてKが蒸発しやすく、作製後の薄膜における組成が出発組成と比べてNb過剰側にずれる。この組成ずれを補償するために、あらかじめKを過剰にしたターゲットを用いていた(例えば、非特許文献5参照。)。
しかし、図19に示すKO−Nbの二元系状態図(例えば、非特許文献6参照。)から明らかなように、KNbOのK過剰組成側には3KO・Nb化合物が存在し、KNbOと3KO・Nbの共晶温度845℃以下ではKNbOと3KO・Nbがともに固相として共存し、KNbOのNb過剰組成側には2KO・3Nb化合物が存在し、KNbOの融点である1039℃以下ではKNbOと2KO・3Nbがともに固相として共存する。従って、気相法で製造する場合、レーザーによってアブレーションされた出発原料が基板に到達した時点で厳密にK:Nb=50:50の組成となっていなければ、K過剰側にずれてもNb過剰側にずれても作製された薄膜は異相を含み、単一相は得られないことになる。
【0009】
一方、KNbOバルク単結晶の場合は、Top Seeded Solution Growth(TSSG)法等によって、K:Nb=50:50よりもわずかにK過剰組成の液相中から種結晶による引き上げによって大型の単結晶が得られている(例えば、非特許文献7参照。)。この場合、図19に示すKO−Nb二元系状態図において、KO:Nb=50:50からKO:Nb=65:35程度までの間の組成を有する出発原料を、KNbOと3KO・Nbの共晶温度845℃以上に存在するKNbOと液相との共存領域に置くことにより得られる。即ち、図20において、組成Cを有する出発原料を液相線温度Tから結晶成長温度Tへ冷却したとき、液相中からKNbOが析出し、液相はTを液相線温度とする組成CまでK過剰側にずれる。このときの結晶成長速度はC−Cが大きいほど速くなるので、KNbOよりも若干K過剰ではあるがKNbOに近い組成のものを、なるべくKNbOと3KO・Nbの共晶温度845℃付近まで冷却する。ただし、以上の挙動は、大気中においてのものであり、しかも大量の液相中からKNbOバルク単結晶を成長させる場合においてのものである。
【0010】
一方、TSSG法により大気中で液相中から単結晶を析出させる結晶成長プロセスを、減圧下の気相法による薄膜作製プロセスに適用する方法が開発されてきている。Tri−Phase−Epitaxy法は、このような方法の一つであり、気相原料を固液共存領域の温度に保持した基板に堆積し、液相中から固相を析出させるもので、NdBaCu材料において単結晶薄膜成長後に液相BaCuO・CuOの残渣だけを選択的にエッチングして単結晶薄膜を得る適用例が報告されている(例えば、非特許文献8参照。)。
【非特許文献1】Eletron. Lett., vol.33 (1997) 193
【非特許文献2】Jpn. J. Appl. Phys., vol.37 (1998) 2929
【非特許文献3】Jpn. J. Appl. Phys., vol.32 (1993) 2337
【非特許文献4】Jpn. J. Appl. Phys., vol.32 (1993) L745
【非特許文献5】Appl. Phys. Lett. Vol.68 (1996) 1488
【非特許文献6】J. Am. Chem. Soc. Vol.77 (1955) 2117
【非特許文献7】J. Crystal Growth Vol.78 (1986) 431
【非特許文献8】Appl. Phys. Lett. Vol.80 (2002) 61
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上記従来のTri−Phase−Epitaxy法をKNbO単結晶薄膜の製造方法にそのまま適用しても、KNbO単結晶薄膜成長後に液相3KO・Nbの残渣だけを選択的にエッチングすることは不可能であった。そのため、単結晶表面に液相が残存して表面モフォロジーに優れた薄膜が得られなかった。
本発明は上記事情に鑑みて成されたものであり、各種単結晶基板上で表面モフォロジーに優れかつ単相の高品質なKNbO単結晶薄膜を製造する方法と、この方法で得られた薄膜を備えることによって、kが高く広帯域化、小型化、及び省電力化に優れる表面弾性波素子、周波数フィルタ、周波数発振器、電子回路、及び電子機器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上記課題を解決するため以下の手段を採用する。
本発明に係るニオブ酸カリウム単結晶薄膜の製造方法は、気相法によるニオブ酸カリウム単結晶薄膜の製造方法であって、所定の酸素分圧におけるニオブ酸カリウムと3KO・Nbとの共晶点Eにおける温度及びモル組成比をT、xとするとき(xは、KNb1−xで表現されるときのカリウム(K)とニオブ(Nb)とのモル比)、基板上に堆積させた直後の前記xが、0.5≦x≦xの範囲となるように気相状態の原料を前記基板に供給し、前記酸素分圧及び前記xにおける完全溶融温度をTとするとき、前記基板の温度TをT≦T≦Tの範囲に保持して、ニオブ酸カリウム単結晶を析出させる析出工程と、固相部と液相部とが共存する前記KNb1−xから液相部を蒸発させる蒸発工程とを備えていることを特徴とする。
また、本発明は、前記蒸発工程と前記析出工程とを繰り返してニオブ酸カリウム単一相単結晶薄膜を連続して成長させることが好ましい。
この方法によれば、基板上に堆積させた固相部と液相部とが共存するKNb1−xからニオブ酸カリウム単結晶を析出させた後に、組成のずれを有する残液を蒸発させるので、組成のずれが抑えられた単一層のニオブ酸カリウム単結晶を析出させることができる。これにより、表面モフォロジーに優れたニオブ酸カリウム単結晶薄膜を得ることができ、そして、このようなニオブ酸カリウム単結晶薄膜を用いることによって、kに優れた表面弾性波素子を作製することができる。
【0013】
本発明は、前記基板として、該基板表面の垂直及び面内方向ともに配向した結晶軸を表面に有するものを用い、前記基板上に、前記単結晶をエピタキシャル成長させることが好ましい。
この方法によれば、基板を種結晶として薄膜全体にわたって配向方向がそろったニオブ酸カリウム単結晶薄膜を得ることができ、従って、このニオブ酸カリウム単結晶薄膜からkに優れた表面弾性波素子を作製することができる。
【0014】
本発明は、前記基板として、ニオブ酸カリウムより大きい熱膨張率を有し、かつ、ペロブスカイト構造擬立方晶単位格子が(100)配向で前記基板表面全体に面内配向しているものを用いることが好ましい。
また、前記基板として、チタン酸ストロンチウム(100)単結晶基板を用いることが好ましい。
この方法によれば、基板上にニオブ酸カリウム単結晶を斜方晶(110)配向で析出させることができる。また、汎用的なペロブスカイト型酸化物単結晶基板であるチタン酸ストロンチウム(100)単結晶基板を用いて、良好な表面モフォロジーを有するニオブ酸カリウム単結晶薄膜を得ることができ、さらに、kが最大約30%と優れた表面弾性波素子を作製することができる。
【0015】
本発明では、前記基板として、ニオブ酸カリウムより小さい熱膨張率を有し、かつ、ペロブスカイト構造擬立方晶単位格子が(100)配向で前記基板表面全体に面内配向しているものを用いることを特徴とする。
また、前記基板として、シリコン単結晶基板と、前記シリコン単結晶基板上にエピタキシャル成長させたバッファ層とから構成されるものを用いることが好ましい。
この方法によれば、基板上にエピタキシャル成長したニオブ酸カリウム単結晶を斜方晶(001)配向で析出させることができ、また、安価な単結晶基板であるシリコン単結晶基板上に得られたニオブ酸カリウム単結晶薄膜から、kが最大約50%と優れた表面弾性波素子を作製することができる。
【0016】
本発明では、前記バッファ層として、NaCl型酸化物で構成される第1バッファ層と、該第1バッファ層の上にエピタキシャル成長させた単純ペロブスカイト型酸化物で構成される第2バッファ層とを作製することを特徴とする。
また、前記バッファ層として、フルオライト型酸化物で構成される第1バッファ層と、該第1バッファ層の上にエピタキシャル成長させた層状ペロブスカイト型酸化物と該層状ペロブスカイト型酸化物上にエピタキシャル成長させた単純ペロブスカイト型酸化物とから構成される第2バッファ層とを作製することを特徴とする。
この方法によれば、シリコン単結晶とニオブ酸カリウム単結晶との間に、双方に好適なバッファ層が形成されるので、安価な単結晶基板であるシリコン単結晶基板上でもニオブ酸カリウム単結晶を製膜することができ、このニオブ酸カリウム単結晶薄膜からkの理論値約50%により近い値の優れた表面弾性波素子を得ることができる。
【0017】
本発明では、前記基板として、石英、水晶、SiO被覆シリコン、ダイヤモンド被覆シリコンの何れかの材料で構成される基板本体と、該基板本体上に形成されたバッファ層とから構成されるものを用い、該バッファ層として、前記基板上に該基板面の結晶方位とは無関係に面内配向成長させた第1バッファ層と、該第1バッファ層上にエピタキシャル成長させた酸化物からなる第2バッファ層とを、イオンビーム照射を伴う気相法によって作製することを特徴とする。
この方法によれば、表面弾性波素子に好適で安価な石英、水晶、SiO被覆シリコン、ダイヤモンド被覆シリコンなどの材料からなる基板上にも、高品質なニオブ酸カリウム単結晶薄膜を製膜することができ、このニオブ酸カリウム単結晶薄膜から、kが最大約50%と優れた表面弾性波素子を得ることができる。
【0018】
本発明では、前記第1バッファ層をNaCl型酸化物で作製し、前記第2バッファ層を単純ペロブスカイト型酸化物で作製することを特徴とする。
また、前記第1バッファ層をフルオライト型酸化物で作製し、前記第2バッファ層を、層状ペロブスカイト型酸化物と該層状ペロブスカイト型酸化物上にエピタキシャル成長させた単純ペロブスカイト型酸化物とで作製することを特徴とする。
この方法によれば、安価な石英、水晶、SiO被覆シリコン、ダイヤモンド被覆シリコン等の任意の材料の基板上に、高品質なニオブ酸カリウム単結晶薄膜を製膜することができ、このニオブ酸カリウム単結晶薄膜から、kの理論値約50%により近い値の優れた表面弾性波素子を得ることができる。
【0019】
本発明の表面弾性波素子は、本発明に係る製造方法によって製造するニオブ酸カリウム単結晶薄膜を備えていることを特徴とする。
この表面弾性波素子によれば、大きなkを有するニオブ酸カリウム単結晶薄膜を備えているので、表面弾性波素子の小型化を図ることができる。
【0020】
本発明の周波数フィルタは、本発明に係る表面弾性波素子を備えていることを特徴とする。
また、本発明の周波数発振器は、本発明に係る表面弾性波素子を備えることを特徴とする。
この周波数フィルタ及び周波数発振器によれば、小型であるとともに、フィルタ特性の広帯域化を実現することができる。
【0021】
本発明の電子回路は、本発明に係る周波数発振器を備えていることを特徴とする。
この周波数発振器によれば、広帯域のフィルタ特性を有し、小型であるとともに、省電力化に対応することができる。
また、本発明の電子機器は、本発明に係る周波数フィルタ、周波数発振器、電子回路のうち少なくとも1つを備えていることを特徴とする。
この電子機器によれば、小型化、広帯域化、省電力化を向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
次に、本発明の第1の実施形態について、図1から図6を参照して説明する。
本実施形態に係るKNbO単結晶薄膜10は、図1(d)に示すように、基板11と、この基板11上に斜方晶(001)配向または斜方晶(110)配向でエピタキシャル成長したKNbO単結晶層12とを備えている。
基板11は、表面に垂直方向に(100)配向及び面内に(001)配向の結晶軸を有しているSrTiO単結晶基板13と、このSrTiO単結晶基板13上にエピタキシャル成長したK、Nb、Sr、Ti、Oの何れかからなる初期層14とから構成されている。
SrTiO単結晶基板13は、その熱膨張率が11.1×10−6(K−1)であり、KNbO単結晶層12のc軸の熱膨張率14.1×10−6(K−1)よりは小さいものの、a、b軸の熱膨張率5.0×10−6(K−1)、0.5×10−6(K−1)よりも大きいものとなっている。
初期層14は、SrTiOからKNbOへ構造が移行するための界面層であり、構造および組成は限定されないがSrTiO単結晶基板13上にエピタキシャル成長していればよい。
【0023】
このKNbO単結晶層12は、イオンビーム照射を伴う気相法によって製膜される。本実施形態では、パルス・レーザー蒸着(Pulsed Laser Deposition :PLD)法にて薄膜を作製する。この成膜時に使用する成膜装置15は、図2に示すように、内部を減圧可能なプロセスチャンバ16と、SrTiO単結晶基板13に対向して配設された成膜母材17と、成膜母材17を載置して自公転可能とした母材支持部18と、SrTiO単結晶基板13を保持する保持部19とを備えている。
また、成膜装置15は、反射高速電子線回折(Reflection High Energy Electron Diffraction、RHEEDと略称する)法で薄膜20を分析する際に用いるRHEED源21と、RHEED源21からSrTiO単結晶基板13上に堆積した薄膜20に入射されて反射されたビームを検知するRHEEDスクリーン22とを備えている。
【0024】
PLD法とは、基板の上に薄膜を形成している間は、プロセスチャンバ16の内部空間を非常に低い圧力とした酸素雰囲気、例えばおよそ大気圧の千分の一程度とした圧力下において、自転している成膜母材17にArF又はKrFエキシマ・レーザー・ビーム23をパルス的に照射し、この照射によって成膜母材17を構成している成分をプラズマプルーム(プラズマや分子状態)24としてSrTiO単結晶基板13まで飛翔させて被成膜面上に薄膜20を堆積させる成膜法である。
【0025】
次に、本実施形態に係るKNbO単結晶薄膜10の製造方法について説明する。
この製造方法は、所定の酸素分圧におけるKNbOと3KO・Nbとの共晶点Eにおける温度及びモル組成比をT、xとするとき(xは、KNb1−xで表現されるときのカリウム(K)とニオブ(Nb)とのモル組成比)、基板11上に堆積させた直後の液相状態の組成xが、0.5≦x≦xの範囲となる気相状態の原料であるプラズマプルーム24を基板11に供給し、また、この酸素分圧及びこのxにおける完全溶融温度をTとするとき、基板11の温度TをT≦T≦Tの範囲に保持して、プラズマプルーム24から基板11上に堆積させたKNb1−xの残液を蒸発させる蒸発工程と、KNb1−xからKNbO単結晶を基板11上に析出させる析出工程とを備えている。
以下、製造方法を順に説明する。
【0026】
まず、蒸発工程の前に、SrTiO単結晶基板13上にKNb1−xを供給して堆積させる工程について説明する。
始めに、SrTiO単結晶基板13を有機溶媒に浸漬し超音波洗浄機を用いて脱脂洗浄を行う。有機溶媒としては、例えばエチルアルコールとアセトンが1:1で混合された混合液を使用することができるが、これに限るものではない。
【0027】
脱脂洗浄したSrTiO単結晶基板13に、まず、初期層14を形成する。
SrTiO単結晶基板13を保持部19に装填した後、プロセスチャンバ16内へ導入して、真空度が、1.33×10−6Pa(1×10−8Torr)まで減圧する。続いて、1.33Pa(1×10−2Torr)の酸素分圧になるように酸素ガスを導入し、図示しない赤外線ランプを用いて20℃/分で500℃まで加熱昇温する。このときのSrTiO<010>方向からのRHEEDパターンには、図3(a)に示すようにストリーク状の回析パターンが観測される。
なお、昇温速度、基板温度、圧力などの条件は、これに限るものではない。
【0028】
圧力が一定となった後、KNb1−xで表現されるときのカリウム(K)とニオブ(Nb)とのモル比xが、0.5≦x≦xの範囲である0.6となるK0.6Nb0.4の成膜母材17aを、SrTiO単結晶基板13に対向し互いの距離が30mm以上50mm以下となるように配設する。そして、基板温度が500℃以上850℃以下、堆積時の酸素分圧が1.33×10−1Pa(1×10−3Torr)以上13.3Pa(1×10−1Torr)以下の条件で、成膜母材17a表面にレーザーエネルギー密度が2J/cm以上3J/cm以下、及びレーザー周波数が1Hz以下となるエキシマ・レーザー・ビーム23を照射する。
【0029】
ここでは、レーザーエネルギー密度2.5J/cm、レーザー周波数10Hz、パルス長10nsの条件でKrFエキシマ・レーザー・ビーム23のパルス光を入射する。そして、成膜母材17aの表面に、K、Nb、Oからなるプラズマプルーム24を発生させる。このプラズマプルーム24を成膜母材17aから40mm離れた位置に配設されたSrTiO単結晶基板13に、基板温度500℃、酸素分圧1.33Pa(1×10−2Torr)の条件で2分間照射して、図1(a)に示すようにK0.6Nb0.4層25を2nm堆積する。
なお、プラズマプルーム24が、十分SrTiO単結晶基板13に到達でき、初期層14としてエピタキシャル成長できるのであれば、各条件は上記に限られるものではない。
【0030】
上記酸素分圧におけるKNbOと3KO・Nbとの共晶点Eは750℃〜800℃にあるため、この段階では、K0.6Nb0.4層25はエピタキシャル成長していない。このときのSrTiO<010>方向からのRHEEDパターンには、図3(b)に示すように回析パターンが消えた状態が観測される。そこで、上記酸素分圧及び組成における完全溶融温度の850℃まで、図示しない赤外線ランプを用いて20℃/分で昇温加熱する。
すると、750℃〜800℃で、RHEEDパターンとして図3(c)に示すようなスポットパターンが現れる。
800℃以上では、K0.6Nb0.4がKNbOの固液相の共存状態から液相のほとんどが蒸発していき、残ったKNbOがSrTiO単結晶基板13と反応する。こうして図1(b)に示すように、K、Nb、Sr、Ti、Oの何れかからなる初期層14をエピタキシャル成長させる。
【0031】
次に、蒸発工程及び析出工程について説明する。
基板温度を750℃以上850℃以下、堆積時の酸素分圧が1.33×10−1Pa(1×10−3Torr)以上13.3Pa(1×10−1Torr)以下の条件下で、K0.6Nb0.4の成膜母材17a表面にレーザーエネルギー密度が2J/cm以上3J/cm以下、及びレーザー周波数が5Hz以下となるエキシマ・レーザー・ビーム23を照射する。
【0032】
ここでは、レーザーエネルギー密度2.5J/cm、レーザー周波数10Hz、パルス長10nsの条件でKrFエキシマ・レーザー・ビーム23のパルス光を入射する。そして、成膜母材17aの表面にK、Nb、Oからなるプラズマプルーム24を発生させる。このプラズマプルーム24を成膜母材17aから40mm離れた位置に配設され、基板温度800℃、酸素分圧1.33Pa(1×10−2Torr)の条件下にあるSrTiO単結晶基板13に60分間照射して、図1(c)に示すようにK0.6Nb0.4層25aを200nm堆積する。堆積直後のK0.6Nb0.4層25a中には、固相部26と液相部27とが共存している。
【0033】
ここで、KrFエキシマ・レーザー・ビーム23がパルス光なので、プラズマプルーム24をSrTiO単結晶基板13に間欠的に供給させることになる。
このパルス供給の間に、初期層14を結晶成長の核として、図1(d)に示すように、固相部26からKNbO単結晶層12が析出し、残った液相部27が蒸発する。
こうして、KNbO単結晶層12を200nmエピタキシャル成長させる。
得られたKNbO単結晶層12を観察すると、図3(d)に示す回析パターン及び図4に示す平滑な表面状態を確認できる。
この結果と図5に示すX線回析結果とから、KNbO、SrTiOをそれぞれ斜方晶、立方晶指数表示した場合、膜面に垂直方向にKNbO(110)/SrTiO(100)、面内方向にKNbO<001>//SrTiO<001>の方位関係を有するKNbO単結晶薄膜10が得られることを確認できる。
ここで、KNbOが斜方晶(110)配向となるのは、降温過程において熱膨張率の比較的大きなSrTiO単結晶基板13から圧縮応力を受け、a、b、c、3つの軸のうち一番熱膨張率の大きなc軸が基板面内に配向するためである。
なお、プラズマプルーム24が、十分SrTiO単結晶基板13に到達でき、かつ液相部27が残留しないように堆積速度と液相部27との蒸発量バランスが取れるならば、各条件は上記に限られるものではない。
また、上述した析出工程において、成膜母材17aをx=0.6のK0.6Nb0.4としたが、当該酸素分圧下で0.5≦x≦xの範囲内であれば、同様のKNbO単結晶薄膜を得ることができる。
【0034】
次に、本実施形態に係る表面弾性波素子28について説明する。
この表面弾性波素子28は、図6に示すように、上述したKNbO単結晶薄膜10を備える。
以下、表面弾性波素子28の製造方法について説明する。
まず、金属アルミニウム(Al)を用いた真空蒸着により、基板温度45℃、真空度6.65×10−5Pa(5×10−7Torr)の条件で、KNbO単結晶薄膜10上に一対のAl電極29a、29bを堆積する。
なお、基板温度、真空度はこれに限るものではない。
次に、Al電極29a、29bに対して、レジスト塗布、露光、ドライエッチング、レジスト除去によるパターンニングプロセスの連続プロセスを行い、一対のIDT30a、30bを形成する。
こうして、表面弾性波素子28を製造する。
【0035】
得られた表面弾性波素子28において、IDT30a、30b間を伝播する表面弾性波の遅延時間Vopenから求めた音速は4000m/sであった。また、IDT30a、30b間を金属薄膜で覆った場合の表面弾性波の遅延時間Vshortとの差から求めたkは25%であった。
KNbO単結晶薄膜を行わなかった場合、音速は4000m/sであっても得られたkは10%程度であることから、十分大きなk値を得ることができた。
なお、成膜母材17aとして、ニオブ酸カリウムの代わりにニオブ酸タンタル酸カリウムナトリウムを用いても、K1−xNaNb1−yTa(0≦x≦1、0≦y≦1)なる固溶体薄膜が同様に得られる。
【0036】
このKNbO単結晶薄膜の製造方法によれば、汎用的な基板であるペロブスカイト型酸化物単結晶基板のSrTiO(100)単結晶基板13上にも、組成のずれが抑えられた単一相のKNbO単結晶を斜方晶(110)配向で析出させることができ、表面モフォロジーに優れるKNbO単結晶薄膜10を得ることができる。また、このKNbO単結晶薄膜10から、kに優れた表面弾性波素子28を作製することができる。
【0037】
次に、本発明に係る第2の実施形態について、図7から図10を参照して説明する。なお、以下の説明において、上記実施形態において説明した構成要素には同一符号を付し、その説明は省略する。
第2の実施形態が上記第1の実施形態と異なる点は、第1の実施形態のKNbO単結晶薄膜10は、SrTiO単結晶基板13と初期層14とからなる基板11上にKNbO単結晶をエピタキシャル成長させて製造するようにしたのに対して、第2の実施形態では、シリコン(以下、Si)単結晶基板31aとその上にエピタキシャル成長させたバッファ層32とからなる基板31上に、初期層14を介してKNbO単結晶をエピタキシャル成長させ、KNbO単結晶薄膜33を製造するようにした点である。
【0038】
このSi単結晶基板31aは、その熱膨張率が3.0×10−6(K−1)であり、KNbO単結晶層12のb軸の熱膨張率0.5×10−6(K−1)よりは大きいものの、a、c軸の熱膨張率5.0×10−6(K−1)、14.1×10−6(K−1)よりは小さいものとなっている。また基板表面は自然酸化膜で被膜されている。
バッファ層32は、図7に示すように、第1バッファ層34と、第1バッファ層34上にエピタキシャル成長させた第2バッファ層35とから構成されている。
第1バッファ層34は、イットリア安定化ジルコニア(以下、YSZ)からなる第1バッファ層34aと、第1バッファ層34aの上にエピタキシャル成長させたCeOからなる第1バッファ層34bとから構成されている。
【0039】
第1バッファ層34a及び第1バッファ層34bは、金属酸化物で構成される。この金属酸化物としては、NaCl構造又はフルオライト構造の金属酸化物が挙げられる。これらの中でも、Siよりも熱力学的に酸素と結合しやすい金属を含む、MgO、CaO、SrO、BaO、若しくはこれらを含む固溶体のうち少なくとも1種、又はYSZ、CeO、ZrO、若しくはこれらを含む固溶体のうちの少なくとも1種を用いるのが好ましい。ここでは、第1バッファ層34aとして、YSZを立方晶(100)配向でエピタキシャル成長させ、第1バッファ層34bとして、CeOを立方晶(100)配向でエピタキシャル成長させて構成するものとしている。
【0040】
第2バッファ層35は、層状ペロブスカイト型酸化物であるYBaCuを正方晶又は斜方晶(001)配向でエピタキシャル成長させた第2バッファ層35aと、第2バッファ層35aの上に単純ペロブスカイト型酸化物であるSrTiOを立方晶(100)配向でエピタキシャル成長させた第2バッファ層35bとから構成されている。
KNbO単結晶層12は、第2バッファ層35の上にエピタキシャル成長したK、Nb、Sr、Ti、Oの何れかからなる初期層14の上にエピタキシャル成長させた斜方晶(110)又は(001)配向のKNbO単結晶で構成される。
第1バッファ層34を、MgOのようなNaCl構造の金属酸化物で作製する場合には、第2バッファ層35として、SrTiOのみを立方晶(100)配向でエピタキシャル成長させても同様の効果を得ることができる。
【0041】
次に、本実施形態に係るKNbO単結晶薄膜33の製造方法について説明する。
本実施形態においても、第1の実施形態と同様に、プラズマプルーム24から基板31上に堆積させたKNb1−xの残液を蒸発させる蒸発工程と、KNb1−xからKNbO単結晶を基板31上に析出させる析出工程とを備えている。
以下、製造方法を順に説明する。
【0042】
Si単結晶基板31aを有機溶媒に浸漬し超音波洗浄機を用いて脱脂洗浄を行う。有機溶媒としては、例えばエチルアルコールとアセトンが1:1で混合された混合液を使用することができるが、これに限るものではない。また、自然酸化膜を残した状態とするため、通常のSi単結晶基板の代表的な洗浄方法であるRCA洗浄や弗酸洗浄といった自然酸化膜を除去する工程を行う必要はない。
【0043】
次に、バッファ層32を、PLD法によって図2に示す成膜装置15にて製膜する方法について説明する。
まず、第1バッファ層34aをSi単結晶基板31a上に製膜する。
脱脂洗浄したSi単結晶基板31aを保持部19に装填した後、プロセスチャンバ16内へ導入して、1.33×10−6Pa(1×10−8Torr)まで減圧し、図示しない赤外線ランプを用いて10℃/分で700℃まで加熱昇温する。途中500℃以上の温度領域で、自然酸化膜が一部SiOとして蒸発するために、真空度が1.33×10−4Pa(1×10−6Torr)まで上昇するが、700℃では6.65×10−5Pa(5×10−7Torr)以下の一定値となる。なお、Si単結晶基板31a表面に新たな熱酸化膜を形成しない範囲内であれば、昇温速度、基板温度、圧力等の条件は、これに限るものではない。
この時点では、図8(a)に示すSi<011>方向からのRHEEDパターンに回析パターンが観測されないように、Si単結晶基板31a表面は自然酸化膜に覆われたままの状態になっている。
【0044】
圧力が一定となった後、YSZからなる成膜母材17aを、Si単結晶基板31aに対向し互いの距離が30mm以上50mm以下となるように配設する。そして、基板温度が650℃以上750℃以下、堆積時の酸素分圧が1.33×10−3Pa(1×10−5Torr)以上1.33×10−2Pa(1×10−4Torr)以下の条件で、成膜母材17a表面にレーザーエネルギー密度が2J/cm以上3J/cm以下、及びレーザー周波数が5Hz以上15Hz以下となるエキシマ・レーザー・ビーム23を照射する。
このとき、Y、Zrプラズマが選択的に基板に到達でき、基板上の自然酸化膜をSiOとして除去しながらYSZとしてエピタキシャル成長できるのであれば、各条件は上記の範囲に限らない。
ただし、条件によっては、YSZ第1バッファ層34aが形成されても、Si単結晶基板31aとの界面に酸素が供給されて新しい酸化膜が形成される場合がある。
なお、ZrOが立方晶として固溶体を形成するのであれば、成膜母材17aのYの代わりにLa、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Mg、Ca、Sr、Baの何れか1つの元素を添加してもよい。
【0045】
ここでは、レーザーエネルギー密度2.5J/cm、レーザー周波数10Hz、パルス長10nsの条件でKrFエキシマ・レーザー・ビーム23のパルス光を入射する。そして、成膜母材17aの表面にY、Zr、Oからなるプラズマプルーム24を発生させる。このプラズマプルーム24を成膜母材17aから40mm離れた位置に配設されたSi単結晶基板31aに、基板温度700℃、酸素分圧6.65×10−3Pa(5×10−5Torr)の条件で10分間照射して、図7に示すようにYSZ第1バッファ層34aを5nmエピタキシャル成長させる。エピタキシャル成長は、図8(b)に示すSi<011>方向からのRHEEDパターンにストリーク状の回析パターンが現れていることから確認できる。
【0046】
続いて、第1バッファ層34bの製膜を行う。
CeOからなる成膜母材17bがSi単結晶基板31aと対向する位置となるように母材支持部18を回転移動する。この成膜母材17bの表面に、上述と同様にKrFエキシマ・レーザー・ビーム23のパルス光を照射する。このときの照射条件はYSZの場合と同様である。
ここでは、レーザーエネルギー密度2.5J/cm、レーザー周波数10Hz、パルス長10nsの条件とする。
そして、成膜母材17b表面にCe、Oからなるプラズマプルーム24を発生させる。このプラズマプルーム24を成膜母材17bから40mm離れた位置に配設されたSi単結晶基板31aに、基板温度700℃、酸素分圧6.65×10−3Pa(5×10−5Torr)の条件で10分間照射して、図7に示すようにCeO第1バッファ層34bを10nmエピタキシャル成長させる。エピタキシャル成長は、図8(c)に示すSi<011>方向からのRHEEDパターンにスポット状の回析パターンが現れていることから確認できる。
CeOとしてエピタキシャル成長できるのであれば、各条件は上記のものに限るものではない。また、CeOが立方晶として固溶体を形成するのであれば、Pr又はZrを添加しても同様の効果が得られる。
【0047】
次に、第2バッファ層35aの製膜を行う。
YBaCuからなる成膜母材17cがSi単結晶基板31aと対向する位置となるように母材支持部18を回転移動する。この成膜母材17cの表面に、上述と同様にKrFエキシマ・レーザー・ビーム23のパルス光を照射する。このときの照射条件は、基板温度が550℃以上650℃以下、堆積時の酸素分圧が1.33×10−1Pa(1×10−3Torr)以上13.3Pa(1×10−1Torr)以下であること以外は、YSZの場合と同様である。
ここでは、レーザーエネルギー密度2.5J/cm、レーザー周波数10Hz、パルス長10nsの条件とする。
そして、成膜母材17cの表面にY、Ba、Cu、Oからなるプラズマプルーム24を発生させる。このプラズマプルーム24を成膜母材17cから40mm離れた位置に配設されたSi単結晶基板31aに、基板温度600℃、酸素分圧1.33Pa(1×10−2Torr)の条件で2分間照射して、図7に示すようにYBaCu第2バッファ層35aを2nmエピタキシャル成長させる。エピタキシャル成長は、図8(d)に示すSi<011>方向からのRHEEDパターンにストリーク状の回析パターンが現れていることから確認できる。
【0048】
Y、Ba、Cuプラズマが1:2:3の定比で基板に到達でき、YBaCuとしてエピタキシャル成長できるのであれば、各条件は上記に限るものではない。また、YBaCuの代わりに、MRuO(MはCa、Sr,Baの何れか1つの元素を示す。)、RENiO(REはLa、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Yの何れか一つの元素を示す。)とNiOの固溶体、REBaCu(REはLa、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luのうち何れか一つの元素を示す。)、(Bi、RE)Ti12(RE=La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Yのうち何れか一つの元素を示す。
)を用いても同様の効果が得られる。
【0049】
そして、第2バッファ層35bの製膜を行う。
SrTiOからなる成膜母材17dがSi単結晶基板31aと対向する位置となるように母材支持部18を回転移動する。この成膜母材17dの表面に、KrFエキシマ・レーザー・ビーム23のパルス光を照射する。このときの照射条件は、基板温度が550℃以上650℃以下、堆積時の酸素分圧が1.33×10−1Pa(1×10−3Torr)以上13.3Pa(1×10−1Torr)以下であること以外は、YSZの場合と同様である。
ここでは、レーザーエネルギー密度2.5J/cm、レーザー周波数10Hz、パルス長10nsの条件とする。
そして、成膜母材17dの表面にSr、Ti、Oからなるプラズマプルーム24を発生させる。このプラズマプルーム24を成膜母材17dから40mm離れた位置に配設されたSi単結晶基板31aに、基板温度600℃、酸素分圧1.33Pa(1×10−2Torr)の条件で30分間照射して、図7に示すようにSrTiO第2バッファ層35bを100nmエピタキシャル成長させる。
エピタキシャル成長は、図8(e)に示すSi<011>方向からのRHEEDパターンにスポット状の回析パターンが現れていることから確認できる。
【0050】
Sr、Tiプラズマが1:1の定比でSi単結晶基板31aに到達でき、SrTiOとしてエピタキシャル成長できるのであれば、各条件は上記に限るものではない。また、SrTiOの代わりに、MTiO(MはCa、Baのうち何れか一つの元素を示す。)、REAlO(REはLa、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Yのうち何れか一つの元素を示す。)、MAlO(MはMg、Ca、Sr、Baのうち何れか一つの元素を示す。)、REGaO(REはLa、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Yのうち何れか一つの元素を示す。)を用いても同様の効果が得られる。
【0051】
成膜したバッファ層32の上に、上述した第1の実施形態と同様の方法にて初期層14を成膜する。ただし、第1の実施形態では、始めにK0.6Nb0.4層を500℃で堆積した後に800℃に昇温して初期層14を得たが、ここでは、始めから800℃で堆積しても同様の効果が得られる。
本実施形態では、レーザーエネルギー密度2.5J/cm、レーザー周波数10Hz、パルス長10nsの条件でKrFエキシマ・レーザー・ビーム23のパルス光を成膜母材17eに入射する。そして、成膜母材17eの表面に、気相状態の原料となるK、Nb、Oからなるプラズマプルーム24を発生させる。このプラズマプルーム24を成膜母材17eから40mm離れた位置に配設されたSi単結晶基板31aに、基板温度800℃、酸素分圧1.33Pa(1×10−2Torr)の条件で5分間照射して、図7に示すようにK0.6Nb0.4層25を5nm堆積する。
なお、プラズマプルーム24が、十分Si単結晶基板31aに到達でき、初期層14としてエピタキシャル成長できるのであれば、各条件は上記に限られるものではない。
【0052】
次に、第1実施形態と同様、蒸発工程及び析出工程に移行する。
本実施形態では、レーザーエネルギー密度2.5J/cm、レーザー周波数10Hz、パルス長10nsの条件でKrFエキシマ・レーザー・ビーム23のパルス光を入射する。そして、成膜母材17eの表面にK、Nb、Oからなるプラズマプルーム24を発生させる。このプラズマプルーム24を成膜母材17eから40mm離れた位置に配設され、基板温度800℃、酸素分圧1.33Pa(1×10−2Torr)の条件下にあるSi単結晶基板31aに360分間照射して、図7に示すようにK0.6Nb0.4層25aを200nm堆積する。
堆積直後のK0.6Nb0.4層25aに対し、第1の実施形態と同様にKrFエキシマ・レーザー・ビーム23のパルス供給の間に、初期層14を結晶成長の核として固相部26からKNbO単結晶層12を析出させ、残った液相部27を蒸発させる。
こうして、KNbO単結晶層12を200nmエピタキシャル成長させる。
エピタキシャル成長は、図8(f)に示すSi<011>方向からのRHEEDパターンにスポット状の回析パターンが現れていることから確認できる。
【0053】
こうして、図9に示すX線回析結果と合わせて、KNbO、SrTiO、YBaCu、CeO、YSZ、及びSiをそれぞれ斜方晶、立方晶、正方晶、立方晶、立方晶、及び立方晶で指数表示した場合、膜面に垂直方向にKNbO(001)/SrTiO(100)/YBaCu(001)/CeO(100)/YSZ(100)/Si(100)、面内方向にKNbO<110>//SrTiO<010>//YBaCu<100>//CeO<011>//YSZ<011>//Si<011>の方位関係を有するKNbO単結晶薄膜33が得られることが確認できる。
ここで、KNbOが斜方晶(001)配向となるのは、降温過程において熱膨張率の比較的小さなSi単結晶基板31aから引張応力を受け、a、b、c、3つの軸のうち一番熱膨張率の小さなb軸が基板面内に配向するためである。
なお、プラズマプルーム24が、十分Si単結晶基板31aに到達でき、かつ液相部27が残留しないように堆積速度と液相部27との蒸発量バランスが取れるならば、各条件は上記に限られるものではない。
また、上述した析出工程において、成膜母材17eをx=0.6のK0.6Nb0.4としたが、当該酸素分圧下で0.5≦x≦xの範囲内であれば、同様のKNbO単結晶薄膜を得ることができる。
【0054】
上述したKNbO単結晶薄膜33上に、第1の実施形態と同様の方法で一対のIDT30a、30bを形成して、図10に示す本実施形態に係る表面弾性波素子36を製造する。
得られた表面弾性波素子36において、IDT30a、30b間を伝播する表面弾性波の遅延時間Vopenから求めた音速は5000m/sであった。また、IDT30a、30b間を金属薄膜で覆った場合の表面弾性波の遅延時間Vshortとの差から求めたkは、KNbO単結晶薄膜33が(001)配向であるため35%と、第1の実施形態で得られる表面弾性波素子28よりも高い値であった。
なお、成膜母材17aとして、ニオブ酸カリウムの代わりにニオブ酸タンタル酸カリウムナトリウムを用いても、K1−xNaNb1−yTa(0≦x≦1、0≦y≦1)なる固溶体薄膜が同様に得られる。
【0055】
このKNbO単結晶薄膜の製造方法によれば、Si単結晶基板31a上にバッファ層32を形成することによって、安価なSi単結晶基板31aを使用してKNbO単結晶を析出して、KNbO単結晶薄膜33を得ることができる。
また、KNbO単結晶を斜方晶(001)配向で析出させるので、このKNbO単結晶薄膜33から、kが最大約50%と優れた表面弾性波素子36を作製することができる。
【0056】
次に、本発明に係る第3の実施形態について、図11及び図12を参照して説明する。なお、以下の説明において、上記実施形態において説明した構成要素には同一符号を付し、その説明は省略する。
第3の実施形態が上記第2の実施形態と異なる点は、第2の実施形態では、Si単結晶基板31a上にバッファ層32を作製し、KNbO単結晶をエピタキシャル成長させるようにしたのに対して、第3の実施形態では、水晶基板(基板本体)40上にバッファ層32を作製した上にKNbO単結晶をエピタキシャル成長させるようにした点である。
【0057】
本実施形態に係るKNbO単結晶薄膜41は、図11に示すように、基板42と、その上にエピタキシャル成長させたKNbO単結晶層12とから構成されている。
基板42は、水晶基板40と、この水晶基板40上に形成されたバッファ層32とから構成されている。
水晶基板40の構成材料は、水晶以外の石英、SiO被覆シリコン、ダイヤモンド被覆シリコンの何れかの材料であってもよく、多結晶YSZ基板のようなセラミックスや、ガラス基板のようなアモルファスであってもよい。また、ペロブスカイト型酸化物がエピタキシャル成長できないような結晶構造を有していても良い。ここでは、汎用的であり、表面弾性波素子用基板として重要な水晶としている。水晶基板40は、その熱膨張率が0.5×10−6(K−1)であり、KNbO単結晶層12のb軸の熱膨張率0.5×10−6(K−1)と同程度であるものの、a、c軸の熱膨張率5.0×10−6(K−1)、14.1×10−6(K−1)よりは小さいものとなっている。
【0058】
バッファ層32は、第1バッファ層34と、この第1バッファ層34上に立方晶(100)配向でエピタキシャル成長させた単純ペロブスカイト型酸化物であるSrTiOからなる第2バッファ層35とから構成されている。
第1バッファ層34は、金属酸化物で構成される。この金属酸化物としては、NaCl構造又はフルオライト構造の金属酸化物が挙げられる。これらの中でも、Siよりも熱力学的に酸素と結合しやすい金属を含む、MgO、CaO、SrO、BaO、若しくはこれらを含む固溶体のうち少なくとも1種、又はYSZ、CeO、ZrO、若しくはこれらを含む固溶体のうちの少なくとも1種を用いるのが好ましい。さらに面内配向方向は、基板面の結晶方位とは無関係であって構わない。
【0059】
本実施形態の第1バッファ層34は、NaCl型酸化物であり立方晶(100)で面内配向成長したMgOで構成されている。
なお、第1バッファ層34にYSZ或いはYSZ/CeOのようなフルオライト型酸化物を用いる場合には、以下に示す構造のものをエピタキシャル成長させて使用する。
すなわち、第2バッファ層35として、YBaCuなどの層状ペロブスカイト構造の金属酸化物を、正方晶又は斜方晶(001)配向でエピタキシャル成長させ、さらにその上に、SrTiOを立方晶(100)配向でエピタキシャル成長させた構成とする。
KNbO単結晶層12は、KNbO単結晶が、斜方晶(110)又は(001)配向で構成されている。
【0060】
次に、上述したKNbO単結晶薄膜41の製造方法について、以下、工程を追って説明する。
本実施形態においても、上述の実施形態と同様に、プラズマプルーム24から基板42上に堆積させたKNb1−xの残液を蒸発させる蒸発工程と、KNb1−xからKNbO単結晶を基板42上に析出させる析出工程とを備えている。
以下、製造方法を順に説明する。
まず、水晶基板40を有機溶媒に浸漬し超音波洗浄機を用いて脱脂洗浄を行う。有機溶媒としては、例えばエチルアルコールとアセトンが1:1で混合された混合液を使用することができるが、これに限るものではない。
【0061】
続いて、水晶基板40上にバッファ層32を図2に示す成膜装置15にて製膜する。
まず、第1バッファ層32を水晶基板40上に製膜する。
脱脂洗浄した水晶基板40を保持部19に装填した後、プロセスチャンバ16内へ導入し、アルゴン:酸素=100:1の分圧比で1.33×10−2Pa(1×10−4Torr)の圧力となるよう混合ガスを導入する。
なお、圧力条件は、これに限るものではない。
【0062】
圧力が一定となった後、Mg又はMgOからなる成膜母材17aを水晶基板40に対向し互いの距離が30mm以上50mm以下となるように配設する。そして、堆積時の圧力が1.33×10−3Pa(1×10−5Torr)以上1.33×10−2Pa(1×10−4Torr)以下の条件で、成膜母材17aの表面に、レーザーエネルギー密度が2J/cm以上3J/cm以下、レーザー周波数が5Hz以上15Hz以下となるエキシマレーザーを照射する。
なお、MgOとして面内配向成長できるのであれば、各条件はこれに限るものではない。
【0063】
ここでは、Mgの成膜母材17aに、レーザーエネルギー密度2.5J/cm、レーザー周波数10Hz、パルス長10nsの条件でKrFエキシマ・レーザー・ビーム23のパルス光を入射する。そして、成膜母材17aの表面にMgのプラズマプルーム24を発生させる。このプラズマプルーム24を成膜母材17aから40mm離れた位置に配設された水晶基板40に、圧力1.33×10−2Pa(1×10−4Torr)の条件で10分間照射して、図11に示すようにMgO第1バッファ層34を10nmエピタキシャル成長させる。
【0064】
このとき、水晶基板40の表面における法線方向と45度をなす方向から、アルゴンイオンビームを基板上に照射する。ここで、イオンビームソース源としては、Kauffmannイオンソースが好ましく、イオンビームの加速電圧は200eV程度、電流を10mA程度とするのが好ましい。
基板温度は、特にヒータ等による温度制御をするものではないが、アルゴンイオンビームの衝撃により基板温度は50〜70℃に上昇する。
【0065】
MgO第1バッファ層34を堆積した後、第2の実施形態と同様の方法にて、SrTiO第2バッファ層35を100nmエピタキシャル成長させて、基板42を得る。
成膜したバッファ層32の上に、上述した第2の実施形態と同様の方法にて初期層14を5nm堆積させる。
同様に蒸発工程及び析出工程に移行して、初期層14の上にK0.6Nb0.4層25aを200nm堆積する。
堆積直後のK0.6Nb0.4層25aに対し、第1の実施形態と同様にKrFエキシマ・レーザー・ビーム23のパルス供給の間に、初期層14を結晶成長の核として固相部26からKNbO単結晶層12を析出させ、残った液相部27を蒸発させる。
こうして、KNbO単結晶層12を200nmエピタキシャル成長させる。
【0066】
こうして、KNbO及びSrTiOをそれぞれ斜方晶及び立方晶で指数表示した場合、膜面に垂直方向にKNbO(001)/SrTiO(100)/MgO(100)、面内方向にKNbO<110>//SrTiO<010>//MgO<010>の方位関係を有するKNbO単結晶薄膜41を製膜する。
ここで、KNbOが斜方晶(001)配向となるのは、降温過程において熱膨張率の比較的小さな水晶基板40から引張応力を受け、a、b、c、3つの軸のうち一番熱膨張率の小さなb軸が基板面内に配向するためである。
なお、プラズマプルーム24が、十分水晶基板40に到達でき、かつ液相部27が残留しないように堆積速度と液相部27との蒸発量バランスが取れるならば、各条件は上記に限られるものではない。
また、上述した析出工程において、成膜母材17aをx=0.6のK0.6Nb0.4としたが、当該酸素分圧下で0.5≦x≦xの範囲内であれば、同様のKNbO単結晶薄膜を得ることができる。
【0067】
上述したKNbO単結晶薄膜41上に、第2の実施形態と同様の方法で一対のIDT30a、30bを形成して、図12に示す本実施形態に係る表面弾性波素子43を製造する。
得られた表面弾性波素子43において、IDT30a、30b間を伝播する表面弾性波の遅延時間Vopenから求めた音速は3000m/sであった。また、IDT30a、30b間を金属薄膜で覆った場合の表面弾性波の遅延時間Vshortとの差から求めたkは、KNbO単結晶薄膜41が(001)配向であるため35%と、本実施形態においても第1の実施形態で得られる表面弾性波素子28より高い値であった。
なお、成膜母材17aとして、ニオブ酸カリウムの代わりにニオブ酸タンタル酸カリウムナトリウムを用いても、K1−xNaNb1−yTa(0≦x≦1、0≦y≦1)なる固溶体薄膜が同様に得られる。
【0068】
このKNbO単結晶薄膜の製造方法によれば、表面弾性波素子に好適で安価な石英、水晶、SiO被覆シリコン、ダイヤモンド被覆シリコンなどの任意の材料からなる基板上にも、バッファ層32を形成することによってKNbO単結晶を析出してKNbO単結晶薄膜を得ることができる。また、KNbO単結晶薄膜を斜方晶(001)配向で析出させるので、このKNbO単結晶薄膜41から、kが最大約50%と優れた表面弾性波素子43を作製することができる。
【0069】
次に、本発明に係る表面弾性波素子が設けられた周波数フィルタについて説明する。
図13に示す周波数フィルタ60は、KNbO単結晶薄膜10、33、41の何れか一つからなる表面弾性波素子61と、表面弾性波素子61の表面を伝播する表面弾性波を吸収する一対の吸音部62a、62bとを備えている。
表面弾性波素子61の上面には、一対のIDT63a、63bが形成されている。このIDT電極63a、63bは、Al又はAl合金で構成され、厚さがIDTピッチの100分の1程度に設定されている。
IDT電極63aには、高周波信号源64が接続されており、IDT63bには、端部に端子65a、65bとを備える信号線65が接続されている。
吸音部62a、62bは、IDT63a、63bを挟み込むように形成されている。
【0070】
周波数フィルタ60においては、高周波数信号源64から高周波信号を出力するとIDT63aに印加して、表面弾性波素子61の上面に表面弾性波が発生する。この表面弾性波は、約4000m/s程度の速度で表面弾性波素子61上面を伝播する。この表面弾性波のうち、IDT63aから吸音部62a側へ伝播した表面弾性波は、吸音部62aで吸収される。しかし、IDT63b側に伝播した表面弾性波のうち、IDT63bの配線ピッチ等に応じて定まる特定の周波数、又は特定の帯域における周波数を有する表面弾性波は電気信号に変換される。
残りの大部分は、IDT63bを通過して吸音部62bに吸収される。
【0071】
この周波数フィルタ60によれば、IDT63aに供給した電気信号のうち、特定の周波数、又は、特定の帯域における周波数を有する表面弾性波のみを高効率で得る(フィルタリング)ことができる。
【0072】
図14に示す周波数発振器70は、KNbO単結晶薄膜10、33、41の何れか一つからなる表面弾性波素子71を備えている。
表面弾性波素子71の上面には、IDT72と、このIDT72を挟み込んで一対のIDT73a、73bが形成されている。これらのIDT72、73a、73bは、Al又はAl合金で構成され、厚さがIDTピッチの100分の1程度に設定されている。
IDT72は、さらに、一対の櫛歯状電極72a、72bを備えている。一方の櫛歯状電極72aには、高周波信号源74が接続されており、他方の櫛歯状電極72bには端子75a、75bを有する信号線76が接続されている。
【0073】
この周波数発振器70において、高周波信号源74から高周波信号を出力すると、この周波数信号は、櫛歯状電極72aに印加され、表面弾性波素子71の上面にIDT73a側に伝播する表面弾性波、及びIDT73b側に伝播する表面弾性波を発生させる。この表面弾性波は、約4000m/s程度の速度である。
これらの表面弾性波のうちの特定の周波数成分の表面弾性波が、IDT73a、73bそれぞれで反射され、IDT73a、73bの間に定在波が発生する。この定在波のうち、特定の周波数成分が共振して振幅が増大する。
この周波数成分、又は、特定の帯域における周波数成分を有する表面弾性波の一部が、櫛歯状電極72bから取り出されて、IDT73a、73bの共振周波数に応じた周波数(又は、ある程度の帯域を有する周波数)の電気信号が端子75a、75bから取り出される。
【0074】
図15に、この周波数発振器70をVCSO(Voltage Controlled SAW Oscillator:電圧制御SAW発振器)80に応用した一例を示す。このVCSO80は、金属製(アルミニウム、又はステンレススチール製)の筐体81内部に実装されている。VCSO80は、SAW基板82上に、IC(Integrated Circuit)83と周波数発振器84とが実装されている。IC83は、図示しない外部回路から入力した電圧値に応じて、周波数発振器84に印加する周波数を制御するものである。
周波数発振器84が具備する表面弾性波素子85上には、IDT86a、86b、86cが形成されている。SAW基板82上には、IC83と周波数発振器84とを電気的に接続するための配線87がパターンニングされている。IC83及び配線87が金線等のワイヤ線88a、88bによって接続されて電気的にも接続される。
【0075】
このVCSO80は、例えば、図16に示すPLL(Phase Locked Loop)回路90のVCO(Voltage Controlled Oscillator)91として用いられる。PLL回路90は、入力端子92、位相比較器93、低減フィルタ94、増幅器95とを他に備えている。
位相比較器93は、入力端子92から入力される信号の位相(又は周波数)とを比較し、その差に応じて値が設定される誤差電圧信号を出力する。低減フィルタ94は、位相比較器93から出力される誤差電圧信号の位置の低周波数成分のみを通過させ、増幅器95は、低減フィルタ94から出力される信号を増幅する。VCO91は、入力される電圧値に応じてある範囲で連続的に発振周波数が変化する発振回路である。
【0076】
このPLL回路90は、入力端子92から入力される位相(又は周波数)との差が減少するように動作する。すなわち、VCO91から出力される信号の周波数が入力端子92から入力される信号の周波数に同期すると、その後は、一定の位相差を除いて入力端子92から入力する信号に一致し、入力信号の変化に追従する信号を出力する。
この周波数発振器70によれば、KNbO単結晶薄膜10、33、41の何れか一つを備えているので、小型で安価であるとともに、広帯域の信号に対応できる高機能なフィルタ特性を得ることができる。
【0077】
次に、周波数フィルタ60及び周波数発振器70が具備され、図17に示す電気的構成を有する電子回路100について説明する。この電子回路100は、例えば、図18に示す携帯電話機(電子機器)101の内部に設けられている。この携帯電話機101は、液晶表示部102、及び操作釦103とを備えている。
電子回路100は、送話器104、送信信号処理回路105、送信ミキサ106、送信フィルタ107、送信電力増幅器108、送受分波器109、アンテナ110、低雑音増幅器111、受信フィルタ112、受信ミキサ113、受信信号処理回路114、受話器115、周波数シンセザイザ116、制御回路117、及び入力/表示回路118とを備えている。
【0078】
送話器104は、音声等の音波信号を電波信号に変換するマイクロフォン等であり、送信信号処理回路105は、送話器104から出力される電気信号に対して、D/A変換処理、変調処理等の処理を行っている。送信ミキサ106は、周波数シンセサイザ116から出力される信号を用いて送信信号処理回路105から出力される信号をミキシングする。送信フィルタ107は、図13に示す周波数フィルタ60であり、中間周波数(IF)のうち必要となる周波数を有する信号のみを通過させ、不要となる周波数の信号をカットする。通過した信号は、図示しない変換回路によってRF信号に変換される。送信電力増幅器108は、RF信号の電力を増幅し、送受分波器109へ出力する。
送受分波器109は、増幅されたRF信号をアンテナ110から電波の形で送信する。また、アンテナ110から受信した受信信号を分波して、低雑音増幅器111へ出力する。
【0079】
低雑音増幅器111は、入力された信号を増幅して図示しない変換回路に出力し、変換回路は、この信号をIFに変換する。受信フィルタ112は、図13に示す周波数フィルタ60であって、IFのうち必要となる周波数を有する信号のみを通過させ、不要となる信号をカットする。
受信ミキサ113は、周波数シンセサイザ116から出力される信号を用いて受信フィルタ112から出力される信号をミキシングする。
受信信号処理回路114は、受信ミキサ113から出力される電気信号に対して、D/A変換処理、復調処理等の処理を行っている。
受話器115は、電波信号を音声等の音波信号に変換する小型スピーカ等で構成されている。
【0080】
周波数シンセサイザ116は、上述した図16に示すPLL回路90を備え、PLL回路90から出力する信号を分周して送信ミキサ106及び受信ミキサ113に供給する信号を生成し、一部をさらに分周して受信ミキサ113へ供給する信号を生成する。これらの信号は、送信フィルタ107及び受信フィルタ112で個別に設定されている。
入力/表示回路118は、携帯電話機101の使用者に対して機器の状態を表示したり、使用者の指示を入力するためのものであり、図18に示す液晶表示部102及び操作釦103に相当する。
制御回路117は、上記の送信信号処理回路105、受信信号処理回路114、周波数シンセサイザ116、及び入力/表示回路118を制御することによって、携帯電話機101の全体動作を制御する。
この電子回路100及び携帯電話機101によれば、KNbO単結晶薄膜10、33、41の何れか一つを備えているので、小型化、広帯域化、省電力化を向上することができる。
【0081】
なお、本発明の技術範囲は上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、上記実施形態では電子機器として携帯電話機101とし、電子回路として携帯電話機101内に設けられた電子回路100としたが、本発明は、携帯電話機に限られるものではなく、種々の移動体通信機器及びその内部に設けられる電子機器に適用することができる。
【0082】
さらに、移動体通信機器のみならずBS(Broadcast Satellite)及びCS(Commercial Satellite)放送を受信するチューナ等の据置状態で使用される通信機器及びその内部に設けられる電子回路にも適用することができる。また、通信キャリアとして空中を伝播する電波を使用する通信機器のみならず、同軸ケーブル中を伝播する高周波信号、又は光ケーブル中を伝播する光信号を用いるHUB等の電子機器及びその内部に設けられる電子回路にも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】第1の実施形態におけるKNbO薄膜の断面図である。
【図2】第1の実施形態における成膜装置を示す斜視図である。
【図3】第1の実施形態にて観察されるRHEEDパターン写真である。
【図4】第1の実施形態にて得られた薄膜表面の走査型電子顕微鏡写真。
【図5】第1の実施形態にて得られた薄膜表面のX線回析パターン結果。
【図6】第1の実施形態における表面弾性波素子の断面を示す図である。
【図7】第2の実施形態におけるKNbO薄膜の断面を示す図である。
【図8】第2の実施形態にて観察されるRHEEDパターン写真である。
【図9】第2の実施形態にて得られた薄膜表面のX線回析パターン結果。
【図10】第2の実施形態における表面弾性波素子の断面を示す図である。
【図11】第3の実施形態におけるKNbO薄膜の断面を示す図である。
【図12】第3の実施形態における表面弾性波素子の断面図である。
【図13】本発明の実施形態における周波数フィルタの斜視図である。
【図14】本発明の実施形態における周波数発振器を示す斜視図である。
【図15】本発明の実施形態における周波数発振器を示す斜視図である。
【図16】本発明の実施形態のPLL回路を示すブロック図である。
【図17】本発明の実施形態における電子回路を示すブロック図である。
【図18】本発明の実施形態における携帯電話機を示す斜視図である。
【図19】KO−Nbの二元系状態図である。
【図20】KNbOの組成比と温度との関係を示す状態図である。
【符号の説明】
【0084】
10、33、41 ニオブ酸カリウム単結晶薄膜、11、31、42 基板、12 ニオブ酸カリウム単結晶層(ニオブ酸カリウム単結晶)、13 チタン酸ストロンチウム単結晶基板(基板)、24 プラズマプルーム(原料)、26 固相部、27 液相部、28、36、43、61、71、85 表面弾性波素子、31a シリコン単結晶基板(基板)、32 バッファ層、34 第1バッファ層、35 第2バッファ層、40 水晶基板(基板本体)、60 周波数フィルタ、70、84 周波数発振器、100 電子回路、101 携帯電話機(電子機器)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
気相法によるニオブ酸カリウム単結晶薄膜の製造方法であって、
所定の酸素分圧におけるニオブ酸カリウムと3KO・Nbとの共晶点Eにおける温度及びモル組成比をT、xとするとき(xは、KNb1−xで表現されるときのカリウム(K)とニオブ(Nb)とのモル比)、
基板上に堆積させた直後の前記xが、0.5≦x≦xの範囲となるように気相状態の原料を前記基板に供給し、
前記酸素分圧及び前記xにおける完全溶融温度をTとするとき、
前記基板の温度TをT≦T≦Tの範囲に保持して、ニオブ酸カリウム単結晶を析出させる析出工程と、
固相部と液相部とが共存する前記KNb1−xから液相部を蒸発させる蒸発工程とを備えていることを特徴とするニオブ酸カリウム単結晶薄膜の製造方法。
【請求項2】
前記蒸発工程と前記析出工程とを繰り返して、ニオブ酸カリウム単一相単結晶薄膜を連続して成長させることを特徴とする請求項1記載のニオブ酸カリウム単結晶薄膜の製造方法。
【請求項3】
前記基板として、該基板表面の垂直及び面内方向ともに配向した結晶軸を表面に有するものを用い、
前記基板上に、前記単結晶をエピタキシャル成長させることを特徴とする請求項1又は2記載のニオブ酸カリウム単結晶薄膜の製造方法。
【請求項4】
前記基板として、ニオブ酸カリウムより大きい熱膨張率を有し、かつ、ペロブスカイト構造擬立方晶単位格子が(100)配向で前記基板表面全体に面内配向しているものを用いることを特徴とする請求項3記載のニオブ酸カリウム単結晶薄膜の製造方法。
【請求項5】
前記基板として、チタン酸ストロンチウム(100)単結晶基板を用いることを特徴とする請求項4記載のニオブ酸カリウム単結晶薄膜の製造方法。
【請求項6】
前記基板として、ニオブ酸カリウムより小さい熱膨張率を有し、かつ、ペロブスカイト構造擬立方晶単位格子が(100)配向で前記基板表面全体に面内配向しているものを用いることを特徴とする請求項3記載のニオブ酸カリウム単結晶薄膜の製造方法。
【請求項7】
前記基板として、シリコン単結晶基板と、前記シリコン単結晶基板上にエピタキシャル成長させたバッファ層とから構成されるものを用いることを特徴とする請求項6記載のニオブ酸カリウム単結晶薄膜の製造方法。
【請求項8】
前記バッファ層として、NaCl型酸化物で構成される第1バッファ層と、該第1バッファ層の上にエピタキシャル成長させた単純ペロブスカイト型酸化物で構成される第2バッファ層とを作製することを特徴とする請求項7記載のニオブ酸カリウム単結晶薄膜の製造方法。
【請求項9】
前記バッファ層として、フルオライト型酸化物で構成される第1バッファ層と、該第1バッファ層の上にエピタキシャル成長させた層状ペロブスカイト型酸化物と該層状ペロブスカイト型酸化物上にエピタキシャル成長させた単純ペロブスカイト型酸化物とから構成される第2バッファ層とを作製することを特徴とする請求項7記載のニオブ酸カリウム単結晶薄膜の製造方法。
【請求項10】
前記基板として、石英、水晶、SiO被覆シリコン、ダイヤモンド被覆シリコンの何れかの材料で構成される基板本体と、該基板本体上に形成されたバッファ層とから構成されるものを用い、
該バッファ層として、前記基板上に該基板面の結晶方位とは無関係に面内配向成長させた第1バッファ層と、該第1バッファ層上にエピタキシャル成長させた酸化物からなる第2バッファ層とを、イオンビーム照射を伴う気相法によって作製することを特徴とする請求項6記載のニオブ酸カリウム単結晶薄膜の製造方法。
【請求項11】
前記第1バッファ層をNaCl型酸化物で作製し、前記第2バッファ層を単純ペロブスカイト型酸化物で作製することを特徴とする請求項10記載のニオブ酸カリウム単結晶薄膜の製造方法。
【請求項12】
前記第1バッファ層をフルオライト型酸化物で作製し、前記第2バッファ層を、層状ペロブスカイト型酸化物と該層状ペロブスカイト型酸化物上にエピタキシャル成長させた単純ペロブスカイト型酸化物とで作製することを特徴とする請求項10記載のニオブ酸カリウム単結晶薄膜の製造方法。
【請求項13】
請求項1から12の何れか記載の製造方法によって作製されるニオブ酸カリウム単結晶薄膜を備えていることを特徴とする表面弾性波素子。
【請求項14】
請求項13記載の表面弾性波素子を備えていることを特徴とする周波数フィルタ。
【請求項15】
請求項13記載の表面弾性波素子を備えていることを特徴とする周波数発振器。
【請求項16】
請求項15記載の周波数発振器を備えていることを特徴とする電子回路。
【請求項17】
請求項14記載の周波数フィルタ、請求項15記載の周波数発振器、請求項16記載の電子回路のうち少なくとも1つを備えていることを特徴とする電子機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2009−84151(P2009−84151A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−318604(P2008−318604)
【出願日】平成20年12月15日(2008.12.15)
【分割の表示】特願2003−85872(P2003−85872)の分割
【原出願日】平成15年3月26日(2003.3.26)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】