説明

ニッケル及びマンガンフリーの生体用又は医療用器材用高Nオーステナイト系ステンレス鋼焼結用粉末及び該粉末を用いた生体用又は医療用焼結器材

【課題】Ni、Mnに関するアレルギーを発症させることがなく、しかも高強度、高耐摩耗性、非磁性、高耐食性も備え、更には延性脆性遷移温度が0℃以下であるニッケル及びマンガンフリーの生体用又は医療用器材用高Nオーステナイト系ステンレス鋼粉末を用いた生体用又は医療用焼結器材を提供すること。
【解決手段】
ニッケル及びマンガンフリーの生体用又は医療用器材用高Nオーステナイト系ステンレス鋼粉末を用いた生体用又は医療用焼結器材で、化学成分組成として、0.1質量%≦C≦0.3質量%、又は0.001質量%≦B≦0.003質量%のいずれか一方、20質量%≦Cr≦28質量%、1質量%≦Mo≦3質量%、0.9質量%≦N≦1.2質量%、を含有し、残部がFe及び不可避不純物からなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種機械的強度及び耐摩耗性、耐食性に優れ、しかも体内における合金成分の溶出によるアレルギー反応の発生が忌避されるインプラントのような生体用器材や手術用に用いられる複雑な形状の医療用器材に最適な焼結用金属粉末及び該粉末を用いた生体用又は医療用焼結器材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、医療分野において、生体内に埋め込まれたり、生体に接して使用される生体用又は手術用のような医療器材を構成する金属材料が引き起こす金属アレルギーが問題となっている。金属アレルギーとは、生体用又は医療用器材を構成する金属材料中のある成分が、体内でイオン化され、生成したこの金属イオンが人体の表皮、粘膜上皮又は細胞内の蛋白と結合することにより、人体が本来有していない化学物質が生成され、この化学物質に対して生体細胞が拒絶反応を引き起すことにより人体に異常をきたすとされており、その代表的な金属元素がニッケル(Ni)であり、マンガン(Mn)であると言われている。金属アレルギーを阻止するためには、使用合金が使用環境である体内での体液に対する耐食性に優れていることとNiやMnの溶出量ができるだけ少ないこと、好ましくは零であることが挙げられる。
【0003】
また、最近では医療現場にMRIのような撮像部位近傍に強磁性体があると画像が歪むことからこれを嫌う装置もあり、生体用・医療用金属材料としてはこれら装置に影響を与えない非磁性であることも重要な性質である。更に、手術用部材として使用される場合、体内臓器に触れるだけでなく、筋肉を貫通したり切開したりするようなことや他の部材(例えばカテーテルや電気メスなどの手術用器具)を伴う場合もあり、部材によっては相当な強度と破壊靱性が求められるだけでなく、曲がりくねった形状、管状、多数の孔、溝、突起或いは凹部、更にはこれらの組み合わせによる複雑な形状が要求されることもある。
【0004】
そのような用途の素材として、特許文献1に示されるオーステナイト系ステンレス鋼がある。該オーステナイト系ステンレス鋼は、Niの含有量は0質量%以上0.05質量%未満、Mnは0質量%以上1.50質量%以下で、高N(1.00質量%を超え、2.00質量%以下)を特徴とするもので、耐食性、強度、延性及び耐摩耗性に優れるだけでなく、Ni、Mnの含有量が0質量%の場合、Ni、Mnフリーということになり、両金属アレルギーに対応している。しかしながら、Mnの含有量が0質量%の場合、この組成では延性−脆性遷移挙動が認められ、形成された部材の脆化温度が約60℃であった。この材料は生体用材料や医療用器材は体内で使用されるものであるから、少なくとも低温脆性領域は体温より遥かに低い温度、例えば0℃以下でなければならない。そうでなければインプラント後に低温脆性により埋め込まれた生体用器材や手術用の医療用器材が手術中或いは体内で破断する虞があり到底使用に耐え得ない。従って、このような場合、少なくとも低温脆性を起こさないような温度領域での使用に限定されてしまう。
【0005】
また、特許文献開示の合金は、粉末冶金法でなく溶製法で作られるため、要求形状とするには機械加工が必要となる。しかし、溶製材の成形性は高N含有のため優れていると言えず、複雑形状のものの大量生産には不向きであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−51368
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は掛かる従来例の問題点に鑑みてなされたもので、Niのみならず、Mnの添加もなくて両金属アレルギーに対して優れるだけでなく、高強度、高耐摩耗性、非磁性、高耐食性も備え、更には延性−脆性遷移温度(Ductile −Brittle Transition Temperature 以下、DBTTと言う。)が0℃以下であるニッケル及びマンガンフリーの生体用又は医療用器材用高Nオーステナイト系ステンレス鋼粉末及び該粉末を用いた生体用又は医療用焼結器材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載のニッケル及びマンガンフリーの生体用又は医療用器材用高Nオーステナイト系ステンレス鋼粉末は、化学成分組成として、
0.1質量%≦C≦0.3質量%、又は0.001質量%≦B≦0.003質量%のいずれか一方、
20質量%≦Cr≦28質量%、
1質量%≦Mo≦3質量%、
を含有し、残部がFe及び不可避不純物からなり、その脱脂体の焼結時の固相窒素吸収処理時に窒素含有量が0.9質量%≦N≦1.2質量%となるように調製されることを特徴とする。
【0009】
請求項1に記載の粉末は、0.1質量%≦N≦0.3質量%の範囲でNが予め含有されていることを特徴とする。
【0010】
請求項3に記載のニッケル及びマンガンフリーの生体用又は医療用器材用高Nオーステナイト系ステンレス鋼粉末を用いた生体用又は医療用焼結器材は、化学成分組成として、
0.1質量%≦C≦0.3質量%、又は0.001質量%≦B≦0.003質量%のいずれか一方、
20質量%≦Cr≦28質量%、
1質量%≦Mo≦3質量%、
0.9質量%≦N≦1.2質量%、
を含有し、残部がFe及び不可避不純物からなることを特徴とする。
【0011】
請求項4に記載の生体用又は医療用焼結器材は、請求項3の生体用又は医療用焼結器材において、その成分組成が
耐孔食性指数:PI=Cr+3.3Mo+16N>43となるような成分範囲であることを特徴とする。
【0012】
請求項5に記載の生体用又は医療用焼結器材は、請求項3又は4において、
2質量%≦Cu≦3質量%を更に含有することを特徴とする。
【0013】
請求項6に記載の生体用又は医療用焼結器材は、請求項3〜5のいずれかにおいて、
0.02質量%≦Nb≦0.06質量%を更に含有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、Niのみならず、Mnフリーであるから、従来、人体の金属アレルギーの発症が問題視されていたインプラントなどの生体用若しくは医療用器材は勿論、オーステナイト系で非磁性であるところからMRIの断層画像形成を損なわず、更にはNの存在により優れた強度、耐摩耗性を有するのみならず、特にC又はBの存在によりDBTTは0℃以下とすることができた。なお、素材はNを含まない(或いは固相N吸収処理時間を短縮化するために予定の固溶範囲より少ない0.2質量%前後、本実施例では0.1質量%≦N≦0.3質量%の範囲でNを予め含有させた)金属粉末を用い、粉末冶金法による焼結工程の固相窒素吸収処理によってNを予定の固溶範囲とするので、焼結品は要求される製品形状に非常に近いニアネットの高N含有製品とすることが出来る。また、Cuの添加による加工性の向上(ニアネットであるとしてもなお若干の機械加工を必要とする場合に有効)、Nbの添加によるピン止め効果によるオーステナイト相の結晶粒の微細化によって靱性の向上も実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明すると共に、この発明の望ましい実施形態について説明する。本発明の最終製品はインプラントなどの生体用又は医療用器材或いは複雑な形状を有する手術用器材の全部又はその一部を構成するステンレス鋼粉末冶金焼結体である。
【0016】
そのために、人体に対してNiアレルギーは勿論、Mnアレルギーも発症させないようにするために、Ni及びMnの含有量を0質量%にして体内使用下においても溶出Niや溶出Mnを0質量%にし、しかも非磁性とすることによって本発明材料を用いた器材が使用状態において磁場の影響を受けず医療現場で使い易くさせ、また耐食性、機械的高強度及びDBTTを0℃以下とし、更に安定したオーステナイト相とするために必要な化学成分組成を有するもの、及び特にインプラントのような長期間体内埋込使用型のものや繰り返して長期間にわたって使用される手術用器具のようなものには高耐食性を有するものに限定してある。
【0017】
ここでインプラントのような生体用や手術用のような医療用器材としては、具体的に次のものが好適である。先ず、インプラントとしては、成形外科用に比較的短期間人体内部に使用されるボルトのような金属材料、永久的乃至半永久的に人体内部に使用される接骨材料や人工関節用材料、また脳外科で頭骨接合等に使用されるビス、歯科治療用材料として使用される義歯固設用インプラント、義歯用金属床及び義歯用磁性アタッチメント等、各種の歯科治療用インプラント材料などが挙げられる。そして手術用のような医療用器具としては、手術用の各種器具の内、止血用クリップ、縫合時用クリップ、手術用かん子及びメスの刃、複雑な形状と手術中に破損しないような機械的強度が要求される腹腔手術用内視鏡の構成部材、人体各所の血管進入用カテーテルのガイドワイヤー等が挙げられる。また前記調整された組成を持つ本発明成分のステンレス鋼焼結体はSUS316L(比透磁率:1.0124)に比べて遥かに低く透磁率1.0027以下の非磁性を示し、特に磁性を拒絶する例えばMRI関連部品等への展開が可能となる。
【0018】
本発明において、そのステンレス鋼粉末冶金焼結体を構成すべき化学成分としては、C、Cr、Mo及びN、残りFe、必要に応じて添加されるCu、Nb或いはCの代わりにPPMオーダーで添加されるBがあり、特に長期間使用のものには耐孔食性指数PI=Cr+3.3Mo+16N>43となるような範囲の成分構成のものが好ましい。なお、Nは焼結時の固相N吸収処理で所定範囲に固溶されることになるので、ステンレス鋼焼結用粉末の時点ではNを含まないか、或いは所定範囲以下の質量%で僅かに固溶された状態となる。以下、係る元素組成とした理由を以下で説明する。
【0019】
C(炭素):0.1質量%〜0.3質量%
Cは、侵入型元素であることから0.005質量%以上の添加によって鋼の強度向上に寄与すると共に、オーステナイト相生成元素として有効であり、且つ少量の添加で脆化温度を低下させることが出来る。C含有量が0.05質量%の場合、その焼結体の脆化温度は60℃を示す。0.1質量%では脆化温度は0℃、0.3質量%で−30℃であり、Cの増加に従って脆化温度は下がる。ただ、Cの含有量を増加させると焼結体の場合、気孔が発生しやすくなる。圧延が出来ないような複雑形状の場合には気孔を圧延により圧壊することが出来ないため、その上限を0.3質量%とする。気孔の発生率はC:0.1質量%で単位断面積当たり5%以下、C:0.3質量%で単位断面積当たり7%程度である。ただ、過剰なCの添加はCrと結合して炭化物を形成し、耐食性を低下させることから、その0.25質量%に設定することが好ましい。なお、CはNの固溶を妨げる元素であるからCの含有量の増加は相対的にNの固溶量を低下させる。これらを勘案して、C含有量は下限値を0.1質量%とし、上限値を0.3質量%とする。好ましくは0.15質量%〜0.25質量%、更に好ましくは0.17質量%〜0.23質量%である。
【0020】
Cr;20質量%〜28質量%
Crは、ステンレス焼結体に耐食性を付与するための最も重要な構成元素であり、特に塩分等のClマイナスイオンを含有する体液などの腐食環境における耐局部腐食の抑制を実現するための元素で、そのためにはCr含有量を20質量%以上とすべきである。また、20質量%以下の場合、溶体化処理でマルテンサイト組織となり、非磁性でなくなる。しかしながら、Crはフェライト生成元素でもあり、過剰に含有させるとσ相等の金属間化合物が析出し易くなり、その結果、ステンレス焼結体の脆化を招く。従って、Cr含有量は28質量%以下にすべきである。生体用としての耐食性と必要強度を備えるためには、23質量%〜25質量%の含有が好ましい。
【0021】
Mo;1質量%〜3質量%
Moは、耐食性の向上に寄与し、Nとの複合添加はその効果が高い。また、マトリックスの窒素溶解度を増大させる効果があるため、その下限を1質量%とした。一方、3質量%を越えるとDBTTが0℃以上に上昇して生体用又は医療用器材として使用できない。なお、好ましくは1.5質量%〜2.5質量%である。
【0022】
N;0.9質量%〜1.2質量%
Nは、本発明の最も重要な元素の一つで侵入型元素であり、Ni代替性を持ち、固溶状態のNが塩分等のClマイナスイオンを含有する体液、人汗などの腐食環境における耐食性の向上に有効であり、更に、オーステナイト生成元素でもある。ステンレス鋼粉末冶金焼結体におけるNの固溶は、オーステナイト相の安定化に大きく寄与する。焼結中のMIM脱脂体へのNの吸収は、後述する射出成形で形成されたグリーン体の脱脂体を所定圧力の不活性雰囲気などで焼結を行ない、この時点でNガスを炉内に供給してNの固溶を行う。オーステナイト結晶構造の安定化を図るためには、N含有量の下限は0.9質量%以上にすべきである。また、N含有量を高めることは、強度向上にも寄与する。しかしながら、N含有量が1.2質量%を超えると、脆化温度が0℃以上に上昇して手術用や生体用器材としては適さなくなる。なお、好ましくは0.91質量%〜1.18質量%である。
【0023】
Cu(銅):2質量%〜3質量%
Cuは、必要に応じて添加される元素で、オーステナイト相を安定させ、塩分等のClマイナスイオンを含有する体液、汗などの腐食環境における耐局部腐食(耐すきま腐食性)と機械的特性の向上に有効な元素であり、しかも抗菌性を発揮する元素ある。2質量%以上の添加で加工特性を向上させるが、3質量%を超えると降伏応力が著しく低下し、耐食性も低下するので、その上限は3質量%とした。なお、好ましくは2.2質量%〜2.6質量%である。
【0024】
Nb;0.02質量%〜0.06質量%
Nbは、必要に応じて添加される元素で、合金炭化物であるNb(CN)を形成し、オーステナイト結晶粒のピン止め効果を持ち、靱性を向上させる。Nbが0.02質量%より少ない場合、固溶Nbが増加し、合金炭化物が減少する。Nbが0.06質量%を超えると逆に合金炭化物が多く析出するために固溶炭素及びNが減少する。
【0025】
B;0.001質量%〜0.003質量%
Cの代替元素で、上記範囲でCと同等の働きを示す。
【0026】
PIとは耐孔食性指数で、43を越えると優れた耐孔食性を示す。短期使用は兎も角、長期の体内埋設使用では重要なファクターである。本発明に係る焼結器材は体内に留置され或いは手術用器材となるため、体液に侵されないことが要求される。本発明に係る焼結器材の組成は、特に長期使用が予定されるような器材では、PI=Cr+3.3Mo+16N>43となるような成分範囲であることが要求される。
【0027】
出発原料の平均粒径は1〜20μmで、粉末の製法や形状は問わないが、均一な窒素分布を得易いという点からは球形状のガスアトマイズ粉末が望ましいが、一般的には水アトマイズ粉末が使用されている。
【0028】
本発明のステンレス鋼粉末冶金焼結体は通常の粉末射出成形プロセスを経て既に述べた各種器材のニアネット製品となる。前記粉末射出成形法は、平均粒径が1〜20μmで、前記範囲の本発明組成で調製された粉末に複数の有機バインダーを調合・混練して成形材料を作り、射出成形機でこれを加熱・混練して用意された金型に射出してグリーン体を得、続いて、プログラム制御された電気炉でグリーン体から有機バインダーを熱分解除去(脱脂)し、最後に窒素ガス雰囲気下において焼結炉内で該脱脂体を緻密に焼結すると共に焼結体のN含有量が0.9質量%〜1.2質量%の範囲となるように窒素を焼結体内に浸透させることで所定形状の部材を製作する方法である。HIP炉を使用することにより、より稠密にすることができる。粉末射出成形法は上記のようなプロセスで成形されるので、機械加工が困難な複雑形状やN含有による難切削材料の部材の大量生産に力を発揮する。
【0029】
上記粉末射出成形法は、成形材料が複雑形状でも金型内に等分布に充填されるので、全体にわたって緻密な材質が得られ、特に前述のHIP炉を使用することで中実体の材質特性と殆んど同じものが得られる。射出成形機による金型成形のため、前述のように機械加工が困難な複雑形状の部材の製造に威力を発揮し、バインダー除去(脱脂)と焼結を計画的に管理することで、要求寸法の±0.5%の寸法精度を達成し、結果として、後加工が省略でき、コストダウンに貢献する
【0030】
その工程の詳細を以下に示す。前述の組成の金属粉末と所定の有機バインダーとを所定の温度でニーダーにて混合・混練し、コンパウンドを形成する。続いて必要に応じて、該コンパウンドを粉砕若しくはペレット化し、射出成形の原材料とする。用いられる金属粉末は焼結体が既述の組成となるように一種類若しくは数種類の金属粉末を混合した粉末である。
【0031】
有機バインダーは公知のものであり、通常、熱可塑性樹脂、ワックス類を主成分として、射出成形性、脱脂性、脱脂時の保形性を付与する為に必要に応じて、可塑剤、潤滑剤、脱脂促進剤等を混合した物である。熱可塑性樹脂としてはアクリル系、ポリプロピレン系、ポリエチレン系等があり、必要に応じて2種類以上を用いる。ワックス類としてはパラフィンワックス、合成ロウ、蜜ロウ、ミクロクリスタリンワックス等があり、必要に応じて2種類以上を用いる。可塑剤としてはフタル酸ジ−n−ブチル、フタル酸ジ−エチル等があり、バインダーの主成分に適した物を適宜選択し、必要に応じて2種類以上を用いる。潤滑剤としては高級脂肪酸、脂肪酸エステル等があり、パラフィンワックスを兼用することも可能であり、必要に応じて2種類以上を用いる。脱脂促進剤として、昇華性物質である樟脳等を添加することも可能である。
【0032】
射出成形における射出条件は用いたコンパウンドの流動性或は金型構造によって異なるが通常射出圧として、30MPaから120MPaで、シリンダー温度は100℃から230℃である。
【0033】
脱脂温度は使用した有機バインダーに因って異なり、有機バインダーが流動する温度を適宜選択する。用いられる温度範囲として、一般的には300℃〜500℃である。脱脂方法としては、加熱分解法、溶媒脱脂法、真空加熱分解法或いは触媒分解法等があり、用いたバインダーに因って適切な方法を選択する。通常は加熱分解法或いは真空加熱分解法が用いられる。
【0034】
焼結方法として、真空雰囲気、Ar等の不活性ガス雰囲気、窒素雰囲気或いは不活性ガスと還元性ガスの混合雰囲気中で昇温し、1から5時間保持し、この間に窒素を導入して窒素導入を行い、その後、窒素とCrの析出物が発生しないように急冷を行なう。なお、使用した金属粉末の組成によって保持温度及び保持時間が異なる。
【0035】
(1)DBTT試験
【表1】

表1の数字は質量% Ni、Mnは0質量%である。

【0036】
テスト結果によれば、C:0.109質量%で、DBTTが0℃、C:0.292質量%でDBTTが−30℃であった。従って、C:0.1質量%以上でDBTTを満足する。
【0037】
(2)腐食試験
(孔食電位 JIS:G0577に準拠した方法にて測定)
溶液は塩酸−6質量%塩化第二鉄溶液で、試験温度は50℃、24時間保持し、重量減の有無を調べた。また、比較としてSUS316Lも調べた。SUS316Lでは、11%の重量ロスが見られたが、N含有量が0.9質量%以上の本系の焼結体はいずれも重量変化はなかった。SUS316L及び比較例と比べて著しい耐孔食性を示す。
【0038】
なお、本発明ではC単独、B単独の添加であるが、焼結条件が許す限り両者を同時添加してもよい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学成分組成として、
0.1質量%≦C≦0.3質量%、又は0.001質量%≦B≦0.003質量%のいずれか一方、
20質量%≦Cr≦28質量%、
1質量%≦Mo≦3質量%、
を含有し、残部がFe及び不可避不純物からなり、その脱脂体の焼結時の固相窒素吸収処理時に窒素含有量が0.9質量%≦N≦1.2質量%となるように調製されることを特徴とするニッケル及びマンガンフリーの生体用又は医療用器材用高Nオーステナイト系ステンレス鋼粉末。
【請求項2】
請求項1に記載の粉末は、0.1質量%≦N≦0.3質量%の範囲でNが予め含有されていることを特徴とするニッケル及びマンガンフリーの生体用又は医療用器材用高Nオーステナイト系ステンレス鋼粉末。
【請求項3】
化学成分組成として、
0.1質量%≦C≦0.3質量%、又は0.001質量%≦B≦0.003質量%のいずれか一方、
20質量%≦Cr≦28質量%、
1質量%≦Mo≦3質量%、
0.9質量%≦N≦1.2質量%、
を含有し、残部がFe及び不可避不純物からなることを特徴とするニッケル及びマンガンフリーの生体用又は医療用器材用高Nオーステナイト系ステンレス鋼粉末を用いた生体用又は医療用焼結器材。
【請求項4】
その成分組成が、耐孔食指数:PI=Cr+3.3Mo+16N>43となるような成分範囲であることを特徴とする請求項3に記載の生体用又は医療用焼結器材。
【請求項5】
2質量%≦Cu≦3質量%を更に含有することを特徴とする請求項3又は4に記載の生体用又は医療用焼結器材。
【請求項6】
0.02質量%≦Nb≦0.06質量%を更に含有することを特徴とする請求項3〜5のいずれかに記載の生体用又は医療用焼結器材。


【公開番号】特開2013−36090(P2013−36090A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−173803(P2011−173803)
【出願日】平成23年8月9日(2011.8.9)
【出願人】(593087271)ガウス株式会社 (2)
【Fターム(参考)】