説明

ニッケル基耐熱超合金と耐熱超合金部材

【課題】耐熱特性が大きく改善されたニッケル基耐熱超合金を提供すること。
【解決手段】クロム、コバルト、チタン、アルミニウムおよびニッケルを主要元素として含み、添加成分元素と不可避的不純物元素の含有を許容し、積層欠陥エネルギーが35mJ/m2以下であることを特徴とするニッケル基耐熱超合金に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、航空エンジン、発電用ガスタービンなどの耐熱部材、特に、タービンディスクやタービン翼などに用いられるニッケル基耐熱超合金に関する。
【背景技術】
【0002】
航空エンジン、発電ガスタービンなどの耐熱部材、たとえば、タービンディスクは、動翼を保持し、高速回転する部品であり、このような部品には、非常に大きな遠心力に耐え、かつ疲労強度、クリープ強度および破壊靱性に優れる材料が必要とされる。一方、燃費や性能向上に伴い、エンジンガス温度の向上とタービンディスクの軽量化が求められ、材料にはより高い耐熱性と強度も必要とされる。
【0003】
一般に、タービンディスクにはニッケル基鍛造合金が用いられている。たとえば、γ’’(ガンマダブルプライム)相を強化相として利用したInconel718やγ’’相よりも安定なγ’(ガンマプライム)相を25体積%程度析出させ、強化相として利用したWaspaloyが多用されている。また、1986年以降、高温化の観点からUdimet720が導入されている。Udimet720は、γ’相を45体積%程度析出させ、かつγ相の固溶強化のためにタングステンが添加され、耐熱特性に優れるものである。
【0004】
一方、Udimet720は、組織安定性が必ずしも十分ではなく、有害なTCP(Topologically close packed)相が使用中に形成するため、クロム量を減少させるなどの改良を施したUdimit720Li(U720Li/U720LI)が開発された。しかしながら、改良されたUdimit720Liにおいても、依然TCP相の発生が避けられず、長時間や高温での使用が制限されている状況にある。また、Udimit720およびUdimit720Liは、γ’固相線温度(solvus)と初期溶融温度の差が小さいため、熱間加工や熱処理などの許容範囲が狭いことも指摘される。これらのことに起因して、鋳造鍛造プロセスにより均質なタービンディスクを製造することが難しく、実用上の問題となっている。
【0005】
高強度が求められる高圧タービンディスクには、AF115、N18、Rene88DTなどに代表される粉末冶金合金が使用される場合がある。粉末冶金合金は、強化元素を多く含むにも関わらず、偏析のない均質なディスクが得られるというメリットがある。一方、この粉末冶金合金には、介在物の混入を抑制するために、清浄度の高い真空溶解、粉末分級時のメッシュサイズの適正化などの高度な製造工程管理が要求され、製造コストが大幅に上がるという問題がある。
【0006】
その他に、従来のニッケル基耐熱超合金の化学組成については数多くの改良提案がなされてきている。そのいずれも、主要構成元素として、コバルト、クロム、モリブデンまたはモリブデンとタングステン、アルミニウム、そしてチタンを含有し、さらに、代表的なものでは、ニオブまたはタンタルのいずれか一方または両方を必須の成分元素としている。このようなニオブやタンタルの含有は、上記粉末冶金には適しているものの、鋳造・鍛造を難しくする要因となっている。また、コバルトは、比較的その含有割合が高いが、特定の場合を除き、コストなどとの兼ね合いから含有量は、20質量%程度以下に抑えられている。
【0007】
チタンは、γ’相を強化させ、引張強度や亀裂伝播抵抗を向上させる働きをすることから添加されている。しかしながら、チタンの過剰の添加は、γ’固相線温度を高めることに加え、有害相を生成させ、健全なγ’組織を得ることが難しいとの観点から、5質量%程度までに制限されている。
【0008】
このような状況において、本発明者らは、ニッケル基耐熱超合金の化学組成の最適化について検討を加え、コバルトを55質量%まで積極的に添加することにより有害なTCP相の抑制が可能であることを見出している。また、本発明者らは、コバルトと同時にチタンを所定の比率で増加させることによって、γ/γ’の2相組織を安定化させることが可能であることを見出している。これらの知見に基づき、従来の合金に比べてより高い温度域においても長時間耐えることが可能であり、かつ加工性が良好なニッケル基耐熱超合金を提案している(特許文献1)。
【0009】
一方、ニッケル基耐熱超合金の性能改善では、ニッケル基耐熱合金のミクロ組織に着目した提案がいくつか行われている。たとえば、粉末合金によるニッケル基耐熱合金ビレットを鍛造および熱処理工程を経ることによって、平均結晶粒度が20から40μmの範囲であり、粒子内の全体に30nmの細かいγ’が均一に分布し、かつ結晶粒界に0.3−0.4μmの粗いγ’が形成しているミクロ組織を有する合金が提案されている(特許文献2、3)。
【0010】
また、透過型電子顕微鏡で2次元的に観測される金属組織中に、長径が0.5nm以上である析出物が1μm2当たり700個以上の割合で存在し、かつ析出物の平均径が25nmから1μmの大析出物が含まれる合金が提案されている(特許文献4)。
【0011】
しかしながら、特許文献2、3に記載された合金は、プロセスが複雑で、製造コストの高い粉末合金であり、この合金では、最適なミクロ組織が化学組成によって異なり、一部の限定された材料および製法にのみ適用可能なものであると考えられる。また、特許文献4には、好ましい金属組織の範囲が提案されているだけであり、組織と合金特性との相関性に関する具体的なデータは見出されない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】WO2006/059805号
【特許文献2】特許第2666911号公報
【特許文献3】特許第2667929号公報
【特許文献4】特開2003−89836号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
近年のエネルギ―効率改善を実現するために、航空エンジン、発電ガスタービンなどの耐熱部材については、より高温での使用を可能とする材料の開発が急務となっている。たとえば、タービンディスクについては、疲労強度、高温クリープ強度、破壊靱性、高温クリープ破断耐性などの機械的特性が一段と優れた新しい合金の開発が強く要望されている。
本発明は、以上のとおりの事情に鑑みてなされたものであり、主にはニッケル基耐熱超合金の耐熱特性に大きな影響を与える積層欠陥エネルギーに着目したニッケル基耐熱超合金を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記の課題を解決するために、疲労強度、高温クリープ強度などの機械的特性と、ニッケル基耐熱超合金の積層欠陥エネルギーとの相関性に着目した検討を行い、ニッケル基耐熱合金の元素組成とともに積層欠陥エネルギーを制御することによって、上記機械的特性、特に高温クリープ強度の大幅な改善が可能であることを発見した。本発明は、このような知見に基づいて完成されたものである。
【0015】
すなわち、本発明のニッケル基耐熱超合金は、クロム、コバルト、チタン、アルミニウムおよびニッケルを主要元素として含み、その他の添加成分元素と不可避的不純物元素の含有を許容するニッケル基耐熱超合金であって、積層欠陥エネルギーが35mJ/m2以下であることを特徴とする。
【0016】
このニッケル基耐熱超合金においては、質量%で、クロムを1.0%以上30.0%以下、コバルトを5.0%以上55.0%以下、チタンを2.5%以上15.0%以下、アルミニウムを0.2%以上7.0%以下含むことが好ましい。
【0017】
また、このニッケル基耐熱超合金は、質量%で、クロムを1.0%以上30.0%以下、コバルトを5.0%以上55.0%以下、チタンを2.5%以上15.0%以下、アルミニウムを0.2%以上7.0%以下含み、その他の添加成分元素と不可避的不純物元素の含有を許容するニッケル基耐熱超合金であって、積層欠陥エネルギーが5mJ/m2以上35mJ/m2以下であることを特徴とする。
【0018】
また、このニッケル基耐熱超合金においては、質量%で、コバルトを9.5%以上50.0%以下含むことが好ましい。
【0019】
また、このニッケル基耐熱超合金においては、質量%で、コバルトを15%以上30.0%以下含むことがより好ましい。
【0020】
また、このニッケル基耐熱超合金においては、質量%で、チタンを5.1%以上15.0以下含むことが好ましい。
【0021】
また、このニッケル基耐熱超合金においては、質量%で、チタンを5.3%以上10.0以下含むことがより好ましい。
【0022】
また、このニッケル基耐熱超合金においては、5.0質量%以下のモリブデン、7.0質量%以下のタングステン、5.0質量%以下のニオブの少なくとも一つを添加成分元素として含むことができる。
【0023】
また、このニッケル基耐熱超合金においては、0.01質量%以上0.2%質量以下のジルコニウム、0.01質量%以上0.15%質量以下の炭素、0.005質量%以上0.1質量%以下のホウ素の少なくとも一つを元素として含むことができる。
【0024】
そして、本発明の耐熱超合金部材は、35mJ/m2以下の積層欠陥エネルギーを有するニッケル基耐熱超合金から、鋳造、鍛造または粉末冶金の少なくとも一つの方法により製造されたものであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
本発明の35mJ/m2以下の積層欠陥エネルギーを有するニッケル基耐熱超合金と耐熱超合金部材によれば、耐熱特性が大きく改善される。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】各種のニッケル基耐熱超合金の積層欠陥エネルギーと0.2%クリープと100%クリープにおけるクリープ寿命の関係を図示したものである。
【図2】各種のニッケル基耐熱超合金の積層欠陥エネルギーと各合金中のコバルト含有量との関係を図示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
クリープ試験時の変形強化メカニズムとしては、溶解原子による固溶強化、結晶粒界強化、ナノスケールの双晶の境界による強化などが議論されている。これらの因子は、各種のニッケル基耐熱超合金の機械的特性に対してある程度の相関性を認めることができるものの、引張、高温クリープ、応力破断および疲れ亀裂成長への耐性に対してバランスのとれたニッケル基耐熱超合金の望ましい材料設計因子を導き出すには至っていない。
【0028】
本発明者らは、ニッケル基耐熱超合金の物性とニッケル基耐熱超合金の耐熱特性との相関性について鋭意検討し、積層欠陥エネルギーが35mJ/m2以下において、特に優れた耐熱特性が得られることを初めて見出した。
【0029】
積層欠陥エネルギーとは、完全結晶中に単位面積の積層欠陥を導入するのに必要なエネルギーである。また、積層欠陥とは2本の部分転位の間に生まれる最密面の乱れ、つまり面欠陥のことをいう。積層欠陥エネルギー γSEは、TEM像より部分転位のバーガースベクトルb、部分転位の間隔d、及び転位線方向と部分転位間の角度Φを測定することにより、(1)式より算出することが可能である。
【数1】


ここで、Gは剛性率及びvはポワソン比である.
【0030】
本発明の35mJ/m2以下の積層欠陥エネルギーを有するニッケル基耐熱超合金は、一般的な方法を適用することによって製造することができる。たとえば、所定の化学組成となるように高品質の各種の金属原料を高周波真空溶解し、真空鋳造してインゴットを作製する。このインゴットを繰り返し鍛造して均一な微細組織を有する合金を作製し、最後に所定の形状に型鍛造してビレットとする。または、上記インゴットを溶融し、不活性ガス雰囲気中でアトマイズして合金粉末を作製後、この合金粉末を真空中で圧密化し、鍛造してビレットを作製する。これらのビレットを適切な条件で焼鈍することによって、所望のニッケル基耐熱超合金部材を作製することができる。焼鈍処理の条件は、化学組成などによって異なるが、一般的には、600〜800℃で10〜30時間が例示される。また、焼鈍処理は、1回のみばかりではなく、2回以上の多段処理とすることができる。さらに、焼鈍処理に先立って、900〜1200℃で1〜10時間の溶体化処理を行い、結晶粒径が十分微細で均質なミクロ組織の形成などを促進させることもできる。
【0031】
ニッケル基耐熱超合金の積層欠陥エネルギーを35mJ/m2以下となるように制御することによって、ニッケル基耐熱超合金は、非常に優れた耐熱特性を有するものとなる。これは発生した双晶(ツイン)が高温下での変形を困難にする結果である。積層欠陥エネルギーを小さくすることによって、完全転位は容易に拡張し、材料中には部分転位及び積層欠陥で構成される拡張転位が導入される。更に、積層欠陥エネルギーを35mJ/m2以下に低下すると、部分転位は面心立方の{111}面で規則的に積層するため、焼鈍や変形の際、焼鈍双晶や変形双晶が容易に導入される。この結果、35mJ/m2以下のSFEを有するニッケル基耐熱超合金では、焼鈍双晶や変形初期に生成した変形双晶が、新たな変形双晶の動きを遮断することができるため、高温下での耐熱特性の大幅な改善が達成されるものと考えられる。
【0032】
なお、ニッケル基耐熱超合金の積層欠陥エネルギーは小さいほど望ましい。ニッケル基耐熱超合金の積層欠陥エネルギーは合金組成および製造条件を変化させることに調整可能であるが、小さい場合でも一般に5mJ/m2以上である。
【0033】
本発明のニッケル基耐熱超合金は、クロム、コバルト、チタン、アルミニウムおよびニッケルを主要構成元素として含むものであり、質量%で、クロムを1.0%以上30.0%以下、コバルトを5.0%以上55.0%以下、チタンを2.5%以上15.0%以下、アルミニウムを0.2%以上7.0%以下含むものである。積層欠陥エネルギーは、これらの構成元素の組成範囲によって変化する。これらの要素も考慮すると、本発明のニッケル基耐熱超合金の積層欠陥エネルギーの好ましい範囲は5mJ/m2以上35mJ/m2以下、さらに好ましくは10mJ/m2以上32mJ/m2以下と考えられる。
【0034】
クロムは、耐環境性や疲労亀裂伝播特性改善のために添加される。これらの特性改善のためには、含有量が1.0質量%未満では望ましい特性が得られず、30.0質量%を超えると、有害なTCP相が生成しやすくなる。このため、クロムの含有量は、1.0質量%以上30.0質量%以下であり、好ましくは、5.0質量%以上23.0質量%以下、より好ましくは、9.0質量%以上20.0質量%以下である。
【0035】
コバルトは、γ’相の固相線温度のコントロールに有用な成分であり、コバルトが多くなることによりγ’固相温度が下がり、プロセスの許容範囲が広くなって、鍛造性が向上する効果も生まれる。特にチタンを多く含む場合、TCP相を抑制して高温強度を向上させるために、コバルトはやや多めに添加することができる。しかしながら、コバルト含有量が多くなり過ぎると高温強度が低下してしまうので、通常、コバルトの含有量は、5.0質量%以上55.0質量%以下で用いられる。好ましくは、9.5質量%以上50.0質量%以下で用いられる。コバルトの含有量の適切な組成範囲はチタン含有量によっても変化し、例えば、チタン含有量をおよそ5質量%から6質量%の範囲で用いる場合、積層欠陥エネルギーを35mJ/m2以下に制御するために望ましいコバルト含有量の範囲は、およそ15質量%から30質量%までと考えられる。
【0036】
チタンは、γ’相を強化し、強度向上を導くために望ましい添加元素であり、コバルトとの複合的な添加によって、相安定に優れ、高強度なニッケル基耐熱超合金を実現する。基本的には、γ+γ’2相組織を有する耐熱超合金を選択し、Co+CoTi合金を添加することによって、高合金濃度まで組織が安定であり、強度が高いニッケル基耐熱超合金を実現することができる。チタンの含有量は、通常、2.5質量%以上15.0質量%以下であり、好ましくは、5.1質量%以上15.0質量%以下、さらに好ましくは、5.3質量%以上10.0質量%以下である。
【0037】
アルミニウムは、γ’相を形成する元素であり、適切なγ’相の量となるようにアルミニウムの含有量を調整する。アルミニウムの含有量は、0.2質量%以上7.0質量%以下の範囲である。また、チタンとアルミニウムの含有比率はη相の生成に強く関係し、有害相であるTCP相の生成を抑制するためには、アルミニウムの含有量はできる限り多くすることが好ましい。さらに、アルミニウムは、ニッケル基耐熱超合金の表面におけるアルミニウム酸化物の形成に直接的に関与し、耐酸化性にも寄与する。
【0038】
本発明のニッケル基耐熱超合金は、以上のクロム、コバルト、チタンおよびアルミニウムに加え、ニッケルを主要構成元素として含むものである。また、本発明の35mJ/m2以下の積層欠陥エネルギーを有するニッケル基耐熱超合金は、以下の元素を添加成分として含有することもできる。
モリブデンは、主としてγ相を強化させ、クリープ特性を改善するという効果がある。モリブデンは、密度の高い元素であるため、その含有量があまり多くなると、ニッケル基耐熱超合金の密度が増加するので、実用上好ましくない。通常、モリブデンの含有量は、5.0質量%以下、好ましくは、0.1質量%以上4.0質量%以下である。
【0039】
タングステンは、γ相およびγ’相に溶解し、いずれの相も強化し、高温強度の向上に有効な元素である。タングステンの含有量が少ないと、クリープ特性が不十分になる場合があり、多過ぎると、モリブデンと同様に密度の高い元素であるので、ニッケル基耐熱超合金の密度の増加を招く場合がある。通常、タングステンの含有量は、7.0質量%以下、好ましくは、0.1質量%以上5.0質量%以下である。
【0040】
ニオブは、比重制御および強化元素として有効であるが、含有量がある程度多くなると、高温において望ましくない相の生成や焼き割れが発生する可能性がある。通常、ニオブの含有量は、5.0質量%以下、好ましくは、0.1質量%以上4.0質量%以下である。
【0041】
一方、ジルコニウムは、延性、疲労特性などの改善に有効な元素である。通常、ジルコニウムの含有量は、0.01質量%以上0.2質量%以下、好ましくは0.01質量%以上0.15質量%以下、さらに好ましくは0.01質量%以上0.05質量%以下である。
【0042】
炭素は、高温における延性およびクリープ特性改善に有効な元素である。通常、炭素の含有量は、0.01質量%以上0.15質量%以下、好ましくは、0.01質量%以上0.10質量%以下、さらに好ましくは0.01質量%以上0.05質量%以下である。ホウ素は、高温におけるクリープ特性、疲労特性などを改善することができる。通常、ホウ素の含有量は、0.005質量%以上0.1質量%以下、好ましくは0.005質量%以上0.05質量%以下、さらに好ましくは0.01質量%以上0.03質量%以下である。炭素およびホウ素は、上記含有量の範囲を超えると、クリープ強度を低減させたり、プロセスの許容範囲を狭めたりすることがある。本発明の焼鈍双晶(アニーリングツイン)を含有するニッケル基耐熱超合金おいて、ジルコニウム、炭素およびホウ素は、元素として含有が許容されるものである。
【0043】
本発明の35mJ/m2以下の積層欠陥エネルギーを有するニッケル基耐熱超合金は、その特性を損なわない限り、その他の元素として、レニウム、バナジウム、ハフニウムまたはマグネシウムの少なくとも一つの元素を含有することもできる。含有量を適切に制御しながら添加することが可能である。また、ルテニウムの添加も許容され、ルテニウムは、耐熱性および加工性の改善に有効である。
【0044】
本発明の耐熱超合金部材は、以上のとおりの35mJ/m2以下の積層欠陥エネルギーを有するニッケル基耐熱超合金から、鍛造または粉末冶金の少なくとも一つの方法により製造されるものである。
【0045】
以下、実施例を示し、本発明の35mJ/m2以下の積層欠陥エネルギーを有するニッケル基耐熱超合金と耐熱超合金部材についてさらに詳しく説明する。もちろん、本発明は、以下の例によって限定されることはない。
【実施例】
【0046】
いずれの合金も、所定の化学組成となるように高品質の各種の金属原料を高周波真空溶解し、真空鋳造してインゴットを作製し、さらにそのインゴットを鍛造してビレットを作製した。合金1の組成は、25質量%のコバルト、13.5質量%のクロム、1.2質量%のタングステン、2.8質量%のモリブデン、6.2質量のチタン、2.3質量%のアルミニウム、残余のニッケルおよび不可避的不純物からなるものである。合金1ビレットは熱圧延ロールで圧延したのち、空気中、1,100℃で4時間の溶体化処理を行った。合金1の試料は、その後、650℃で24時間、さらに760℃で16時間の焼鈍処理を行ったのちに、積層欠陥エネルギーおよびクリープ寿命を測定した。
【0047】
合金1の積層欠陥エネルギーを(1)式により算出したところ、19.9mJ/m2であった。また、750℃におけるクリープ寿命を測定したところ、0.2%クリープにおいて74時間、100%クリープ破断において483時間の優れたクリープ寿命を有する極めて耐熱性に優れた合金であることが確認された。
【0048】
同様の方法によって合金2から合金5の試料を作製した。合金2の合金は、24.9質量%のコバルト、13.8質量%のクロム、1.2質量%のタングステン、2.7質量%のモリブデン、5.7質量%のチタン、2.2質量%のアルミニウムを、合金3は21.8質量%のコバルト、14.4質量%のクロム、1.3質量%のタングステン、2.8質量%のモリブデン、5.9質量%のチタン、2.3質量%のアルミニウムを、合金4は26.5質量%のコバルト、13.5質量%のクロム、1.2質量%のタングステン、2.6質量%のモリブデン、5.5質量%のチタン、2.2質量%のアルミニウムを含み、残余がニッケルおよび不可避的不純物からなる合金である。さらに、積層欠陥エネルギーが35mJ/m2以上となる参照合金(合金5)として、14.8質量%のコバルト、16.3質量%のクロム、1.3質量%のタングステン、3.1質量%のモリブデン、4.8質量%のチタン、2.4質量%のアルミニウムを含み、残余がニッケルおよび不可避的不純物からなる試料を作製した。これら作製した試料についても同様に、積層欠陥エネルギーおよびクリープ寿命を測定した。
【0049】
図1は、合金1,2,3および5に関して、積層欠陥エネルギーと、750℃におけるクリープ寿命の相関関係を示したものである。積層欠陥エネルギーに対して、クリープ寿命時間を対数軸でプロットしたところ、0.2%クリープならびに100%クリープ破断ともに良好な直線関係が得られた。すなわち、この結果は、積層欠陥エネルギーを35mJ/m2以下に制御することによって、優れたクリープ特性を有するニッケル基耐熱超合金が得られるという本発明の趣旨を明確に示している。
【0050】
図2は、合金1から5までの合金に関して、コバルトの含有量と積層欠陥エネルギーとの関係を示したものであり、積層欠陥エネルギーを極小化するにはコバルト含有量を最適化する必要があることを示している。チタン含有量とコバルト含有量の相対的な量関係によってこの関係は変化し、特に、チタン含有量を4.8質量%から6.2質量%の範囲とした実施例合金の場合、積層欠陥エネルギーを35mJ/m2以下に制御するために望ましいコバルト含有量の範囲は、およそ15質量%から30質量%の範囲であることが示唆される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クロム、コバルト、チタン、アルミニウムおよびニッケルを主要元素として含み、添加成分元素と不可避的不純物元素の含有を許容するニッケル基耐熱超合金であって、積層欠陥エネルギーが35mJ/m2以下であることを特徴とするニッケル基耐熱超合金。
【請求項2】
請求項1に記載の耐熱超合金において、合金組成が質量%で、クロムを1.0%以上30.0%以下、コバルトを5.0%以上55.0%以下、チタンを2.5%以上15.0%以下、アルミニウムを0.2%以上7.0%以下含むことを特徴とするニッケル基耐熱超合金。
【請求項3】
請求項1および2に記載の耐熱超合金において、積層欠陥エネルギーが5mJ/m2以上35mJ/m2以下であることを特徴とするニッケル基耐熱超合金。
【請求項4】
請求項2および3に記載の耐熱超合金において、質量%で、コバルトを9.5%以上50.0%以下含むことを特徴とするニッケル基耐熱超合金。
【請求項5】
請求項2から4に記載の耐熱超合金において、質量%で、コバルトを15%以上30.0%以下含むことを特徴とするニッケル基耐熱超合金。
【請求項6】
請求項2から5に記載の耐熱超合金において、質量%で、チタンを5.1%以上15.0以下含むことを特徴とするニッケル基耐熱超合金。
【請求項7】
請求項2から6に記載の耐熱超合金において、質量%で、チタンを5.3%以上10.0以下含むことを特徴とするニッケル基耐熱超合金。
【請求項8】
請求項2から7に記載の耐熱超合金において、5.0質量%以下のモリブデン、7.0質量%以下のタングステン、5.0質量%以下のニオブの少なくとも一つを添加成分元素として含むことを特徴とするニッケル基耐熱超合金。
【請求項9】
請求項2から8に記載の耐熱超合金において、0.01質量%以上0.2%質量以下のジルコニウム、0.01質量%以上0.15%質量以下の炭素、0.005質量%以上0.1質量%以下のホウ素の少なくとも一つを添加元素として含むことを特徴とするニッケル基耐熱超合金。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか一項に記載のニッケル基耐熱超合金から、鋳造、鍛造または粉末冶金の少なくとも一つの方法により製造されたものであることを特徴とする耐熱超合金部材。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−107269(P2012−107269A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−255317(P2010−255317)
【出願日】平成22年11月15日(2010.11.15)
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【Fターム(参考)】