説明

ニトロ基還元用触媒

【課題】安価で高活性なニトロ基還元用触媒を提供する。
【解決手段】ニトロ基の還元用触媒であって、下記の一般式(I):


(R1はn価の有機分子残基、nは1〜6、R2及びR3は1価の有機基、x、y、及びzは1〜4、mは0〜10でデンドリマーの世代数を示す)で表されるアミドアミンデンドリマーとロジウム錯体とが錯形成したアミドアミンデンドリマー・ロジウム錯体を還元することにより得ることができるロジウムナノ微粒子、又は上記アミドアミンデンドリマーとロジウム錯体及び鉄錯体とが錯形成したアミドアミンデンドリマー・ロジウム/鉄錯体を還元することにより得ることができるロジウム/鉄ナノ微粒子を含む触媒。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はニトロ基の還元用触媒に関するものであり、より具体的には、アミドアミンデンドリマーロジウム錯体を還元して得られるロジウムナノ微粒子を含むニトロ基還元用触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
金属ナノ微粒子はバルク金属や金属錯体にはない特異な触媒特性を発現することが知られている。例えば、10ナノメートル以下の金属微粒子は活性表面積が増加することから多くの原子が反応に関与することができ、バルク金属よりも高い触媒活性を有するようになる。しかしながら、金属を微粒子化すると粒子同士の凝集により著しく触媒活性が低下してしまうという問題があり、さらに単分散微粒子の形成が非常に困難であるという問題もある。
【0003】
この問題を解決するために、デンドリマーに金属ナノ微粒子を内包して安定化させる方法が提案されており(特表2001-508484号公報)、不対電子を有する窒素を骨格に持つデンドリマーの内部に金属錯体などのルイス酸を取り込ませて窒素原子と錯形成させ、得られたデンドリマー金属錯体を還元してデンドリマー内部に金属ナノ微粒子を安定に包含する金属ナノクラスターを製造する方法が提案されている。
【0004】
例えば、ポルフィリンをコアに有する第4世代のフェニルアゾメチンデンドリマー(TPP-DPA)のイミン部分にロジウム錯体(例えば塩化ロジウム(III)など)を錯形成させたフェニルアゾメチンデンドリマー・ロジウム錯体を還元して得られるロジウムナノ微粒子(TPP-DPA G4-Rh)が二重結合の水素化反応において高い活性を有することが報告されている(日本化学会春期年会、演題番号:1Pc-117、学会要旨集2006年3月13日発行、社団法人日本化学会)。また、これとは別のデンドリマー金属錯体として、アミドアミンデンドリマー(PAMAM)と塩化ロジウム(III)とが錯形成したアミドアミンデンドリマー・ロジウム錯体を還元して得られるロジウムナノ微粒子(PAMAM-Rh)も報告されているが、このロジウムナノ微粒子はTPP-DPA G4-Rhに比べてアルケンの水素化反応において非常に低活性である(上記学術集会における報告)。
【0005】
一方、ニトロ基のアミノ基への還元反応は有機合成化学の分野で基本的かつ有用な反応であり、多様な反応が報告され実用化されている。ニトロ基の還元反応を金属触媒と水素ガスを用いた接触還元により行う方法も数多く知られており、パラジウムやロジウムなどの金属を用いた多様な触媒がすでに実用化されている。しかしながら、ニトロ基の触媒的還元方法は触媒が相当量必要であることや副生成物が多いこと、あるいは不均一系での反応を行う必要があることなど種々の問題を有している。
【0006】
上記のフェニルアゾメチンデンドリマー(TPP-DPA)由来のロジウムナノ微粒子(TPP-DPA G4-Rh)を触媒として用いたニトロ基の還元反応が報告されており(高分子討論会、演題番号1Pc-105、学会要旨集2006年9月4日発行、社団法人高分子学会)、この触媒を均一反応系において高活性触媒として利用できることが知られているが、フェニルアゾメチンデンドリマーは高価で入手が困難であり、このロジウムナノ微粒子を工業的に用いるにはコストや安定供給の面で問題がある。
【特許文献1】特表2001-508484号公報
【非特許文献1】日本化学会春期年会、演題番号:1Pc-117、学会要旨集2006年3月13日発行、社団法人日本化学会
【非特許文献2】高分子討論会、演題番号1Pc-105、学会要旨集2006年9月4日発行、社団法人高分子学会
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、安価で高活性なニトロ基還元用触媒を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記の課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、安価かつ安定的に供給されているアミドアミンデンドリマーを用いて調製したロジウムナノ微粒子又はロジウム/鉄ナノ微粒子がニトロ基の還元反応における触媒として極めて高い活性を有していること、及びこの触媒が熱的に安定で均一反応系において失活しにくいなど優れた特徴を有することを見出した。本発明は上記の知見に基づいて完成されたものである。
【0009】
すなわち、本発明により、ニトロ基の還元用触媒であって、下記の一般式(I):
【化1】

(式中、R1はn価の有機分子残基を示し、nは1から6の整数を示し、R2及びR3はそれぞれ独立に1価の有機基を示し、x、y、及びzはそれぞれ独立に1から4の整数を示し、mは0から10の整数を示し、デンドリマーの世代数を示す)で表されるアミドアミンデンドリマーとロジウム錯体とが錯形成したアミドアミンデンドリマー・ロジウム錯体を還元することにより得ることができるロジウムナノ微粒子、又は上記アミドアミンデンドリマーとロジウム錯体及び鉄錯体とが錯形成したアミドアミンデンドリマー・ロジウム/鉄錯体を還元することにより得ることができるロジウム/鉄ナノ微粒子を含む触媒が提供される。
【0010】
本発明の好ましい態様によれば、nが4であり、x、y、及びzが2であり、mが4であり、R2及びR3がそれぞれ独立に水酸基を有する1価の有機基である上記の触媒;R1がエチレンジアミン骨格を含む有機分子の残基である上記の触媒;R2及びR3が2-ヒドロキシエチル基である上記の触媒;アミドアミンデンドリマー・ロジウム錯体がアミドアミンデンドリマーに含まれる3級アミンのうち実質的に全ての3級アミンにおいてロジウム錯体と錯形成したアミドアミンデンドリマー・ロジウム錯体である上記の触媒;アミドアミンデンドリマー・ロジウム/鉄錯体がアミドアミンデンドリマーに含まれる3級アミンのうち実質的に全ての3級アミンにおいてロジウム錯体又は鉄錯体と錯形成したアミドアミンデンドリマー・ロジウム/鉄錯体である上記の触媒が提供される。
【0011】
さらに好ましい態様によれば、アミドアミンデンドリマーが下記の式(II):
【化2】

で表されるアミドアミンデンドリマーである上記の触媒が提供される。
【0012】
別の観点からは、ニトロ基の還元方法であって、上記の触媒の存在下でニトロ化合物と水素ガスとを接触させる工程を含む方法;及び、均一反応系で行う上記の方法が提供される。
【0013】
さらに別の観点からは、上記アミドアミンデンドリマーとロジウム錯体及び鉄錯体とが錯形成したアミドアミンデンドリマー・ロジウム/鉄錯体が提供され、その好ましい態様により、アミドアミンデンドリマーに含まれる3級アミンのうち実質的に全ての3級アミンにおいてロジウム錯体又は鉄錯体が錯形成した上記アミドアミンデンドリマー・ロジウム/鉄錯体が提供される。さらに、上記のアミドアミンデンドリマー・ロジウム/鉄錯体を還元することにより得ることができるロジウム/鉄ナノ微粒子;及び該微粒子の製造方法であって、上記のアミドアミンデンドリマーとロジウム錯体及び鉄錯体とを錯形成させてアミドアミンデンドリマー・ロジウム/鉄錯体を得る工程、及び上記工程により得られた該アミドアミンデンドリマー・ロジウム/鉄錯体を還元する工程を含む方法が提供される。
【0014】
また、本発明により、上記ロジウム/鉄ナノ微粒子を含む還元用触媒が提供され、好ましい態様として、還元反応が水素化反応、好ましくは炭素-炭素二重結合及び/又は炭素-炭素三重結合の水素化反応、あるいはニトロ基の還元反応である上記の還元用触媒が提供される。
【発明の効果】
【0015】
本発明の触媒はニトロ基の還元反応に極めて高い活性を有しており、均一反応系で安定に使用できるという特徴がある。また、アミドアミンデンドリマーとして多様な化合物が安価に提供されていることから、本発明の触媒を反応基質の種類などに応じて適宜選択して工業的規模の反応に利用することが可能である。
また、アミドアミンデンドリマー・ロジウム/鉄錯体から調製されるロジウム/鉄ナノ微粒子は水素化反応においても極めて高い触媒活性を有しており、安定かつ安価な水素化反応用触媒として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
R1はn価の有機分子残基を示す。nは1から6の整数を示し、好ましくは2から5の整数、さらに好ましくは3又は4である。有機分子の種類は特に限定されず、脂肪族炭化水素や芳香族炭化水素、1個以上のヘテロ原子を含む脂肪族化合物又は複素環化合物(ヘテロ原子としては例えば窒素原子、酸素原子、イオウ原子などが挙げられ、2個以上のヘテロ原子を含む場合にはそれらは同一でも異なっていてもよい)など、いかなる有機分子であってもよい。有機分子は任意の種類の置換基を1又は2以上有していてもよく、2以上の置換基を有する場合にはそれらは同一でも異なっていてもよい。
【0017】
n価の有機分子残基は、一般的には任意の有機分子からn個の水素原子を除去して得られる残基であることが好ましい。有機分子としては、例えばエチレンジアミン骨格を含む有機分子が好ましく、例えば、N,N,N',N'-テトラエチルエチレンジアミンなどを用いることができ、有機分子残基としては、例えば、N,N,N',N'-テトラエチルエチレンジアミンの4個のエチル基からそれぞれ2位の水素原子を1個ずつ取り除いた4価の残基が好ましい。もっとも、有機分子残基は上記の特定の残基に限定されることはない。
【0018】
R2及びR3はそれぞれ独立に1価の有機基を示す。R2及びR3は同一でも異なっていてもよく、アミドアミンデンドリマー中の複数のR2は同一でも異なっていてもよく、R3についても同様である。1価の有機基の種類は特に限定されず、脂肪族炭化水素基や芳香族炭化水素基、1個以上のヘテロ原子を含む脂肪族基又は複素環基(ヘテロ原子としては例えば窒素原子、酸素原子、イオウ原子などが挙げられ、2個以上のヘテロ原子を含む場合にはそれらは同一でも異なっていてもよい)など、いかなる有機基であってもよい。有機基は任意の種類の置換基を1又は2以上有していてもよく、2以上の置換基を有する場合にはそれらは同一でも異なっていてもよい。置換基としては、例えば水酸基などが好適である。1価の有機基としてはエチル基などを挙げることができ、該エチル基は水酸基やアミノ基などの置換基を有していてもよい。R2及びR3としてヒドロキシエチル基などを用いることが好ましい。
【0019】
x、y、及びzはそれぞれ独立に1から4の整数を示し、好ましくはx、y、及びzはそれぞれ独立に2又は3であり、x、y、及びzが2であることが好ましい。mは0から10の整数を示し、デンドリマーの世代数を示す。mは2から6の整数であることが好ましく、さらに好ましくは3から5の整数であり、特に好ましくは4である。R1で表される有機分子残基に2個以上のデンドロンが結合する場合には、それらは同一でも異なっていてもよく、デンドロンの世代数は同一でも異なっていてもよい。複数のデンドロンを有する場合には、それらのデンドロンが全て同一であることが好ましい。アミドアミンデンドリマーとして特に好ましい化合物は上記の式(II)で表されるアミドアミンデンドリマーであり、この化合物の世代数は4(すなわちmが4)である。
【0020】
上記一般式(I)に包含されるアミドアミンデンドリマーとして上記式(II)で表される化合物は市販されており(Sigma-Aldrich)、世代数の異なる化合物やR2及びR3の異なる化合物など多様な化合物を容易に入手することができる。また、アミドアミンデンドリマーを用いた金属錯体については、例えばPhysical Chemistry Chemical Physics, 9(42), pp.5712-5720, 2007; Langmuir, 23(23), pp.11901-11906, 2007; Nanotechnology, 17(4), pp.1072-1078, 2006; Langmuir, 21(22), pp.10209-10213, 2005; Langmuir, 19(18), pp.7682-7684, 2003などが報告されており、これらの刊行物に記載されたアミドアミンデンドリマーを用いることもできる。また、アミドアミンデンドリマーの製造方法に関しては、例えば、Macromolecules, 19(9), pp.2466-2468, 1986; Advanced Materials, 41(2), pp.1324-1325, 2000; Nano Letter, 4(5), 771-777, 2004などの文献を参照することができる。
【0021】
アミドアミンデンドリマー・ロジウム錯体又はアミドアミンデンドリマー・ロジウム/鉄錯体は、上記の一般式(I)で表されるアミドアミンデンドリマーとロジウム錯体又はロジウム錯体及び鉄錯体とを反応させてアミドアミンデンドリマーの3級アミン部位にロジウム錯体又はロジウム錯体及び鉄錯体を錯形成させることにより製造することができる。デンドリマーと金属錯体とを反応させてデンドリマー内部の窒素原子などの反応部位とルイス酸である金属錯体とを錯形成させる方法は当業者に汎用されており、当業者が利用可能な一般的な方法に従って錯形成を容易に行うことができる。一般的には、アミドアミンデンドリマー中の3級アミンのうち実質的に全ての3級アミン部位でロジウム錯体との錯形成、又はロジウム錯体及び鉄錯体との錯形成を行うことが好ましい。もっとも、使用するロジウム錯体の当量、又は使用するロジウム錯体及び鉄錯体のモル当量を適宜調節することにより、アミドアミンデンドリマー中の3級アミンの一部の3級アミン部位において錯形成させたアミドアミンデンドリマー・ロジウム錯体又はアミドアミンデンドリマー・ロジウム/鉄錯体を調製することも可能である。このような手法により、アミドアミンデンドリマーに保持される金属量や金属粒子サイズを適宜調節することができ、触媒活性を調節できる場合がある。
【0022】
ロジウム錯体は3級アミンと錯形成可能なものであればその種類は特に限定されないが、例えば、配位子としてハロゲン原子、アセチルアセトン、トリフルオロメタンスルホン酸などの配位子を有するロジウム錯体を好ましく用いることができ、特に3価のロジウム錯体、例えば塩化ロジウム(III)を用いることが特に好ましい。鉄錯体は3級アミンと錯形成可能なものであればその種類は特に限定されないが、例えば、ハロゲン化鉄(III)(FeX3)、テトラフルオロホウ酸鉄(II)(Fe(BF4)2)、トリス(2,5-ペンタジオナト)鉄(III)(Fe(acac)3)などが挙げられる。ロジウム錯体及び鉄錯体を組み合わせて用いる場合において、ロジウム錯体と鉄錯体との組み合わせ比率は特に限定されないが、例えば、鉄とロジウムとのモル比(Fe/Rh)が60/40以下であることが好ましく、50/50以下であることがより好ましく、40/60以下であることがさらに好ましい。鉄錯体とロジウム錯体とを組み合わせて用いる場合には、アミドアミンデンドリマーに対して鉄錯体又はロジウム錯体のどちらを先に反応させてもよく、例えば所定量の鉄錯体を用いて一部の3級アミン部位に先に錯形成させ、残りの3級アミン部位にロジウム錯体を錯形成させる方法、あるいはその逆の順序で錯形成させる方法のいずれを採用してもよく、この工程を複数回の繰り返して錯形成を行ってもよい。鉄錯体及びロジウム錯体を所望のモル比で含む混合物を調製して反応させてもよい。必要に応じて、鉄錯体及びロジウム錯体以外の貴金属錯体、例えばパラジウム錯体などを少量添加することもできる。
【0023】
アミドアミンデンドリマー・ロジウム錯体又はアミドアミンデンドリマー・ロジウム/鉄錯体を還元することにより、ロジウムナノ微粒子又はロジウム/鉄ナノ微粒子を調製することができる。デンドリマーの内部で錯形成した金属錯体を還元する反応は当業者に汎用されており、当業者に利用可能な一般的な方法に従ってナノ微粒子を調製するための還元反応を行うことができる。例えば、還元試薬として、水素化ホウ素ナトリウム、クエン酸、ポリオールなどの還元剤を用いる方法、熱による還元、電気化学による電解還元、光照射による還元などの手法が知られており、これらのいずれか、又は複数の方法を組み合わせて適宜還元を行うことができる。好ましくは水素化ホウ素ナトリウムを用いることができ、例えば、還元すべきアミドアミンデンドリマー・ロジウム錯体又はアミドアミンデンドリマー・ロジウム/鉄錯体中の金属錯体に対して1.5〜5.5当量程度の水素化ホウ素ナトリウムを用いることが好ましい。
【0024】
このようにして得られるロジウムナノ微粒子又はロジウム/鉄ナノ微粒子は、一般式(I)で表されるアミドアミンデンドリマーの内部にナノサイズ、例えばO.5〜数nm程度、好ましくは1〜2 nm程度の粒径の金属ロジウム粒子又は金属ロジウム/鉄粒子を安定に保持した構造を有している。本明細書において用いられる「ロジウムナノ微粒子」又は「ロジウム/鉄ナノ微粒子」の用語は、上記のように一般式(I)で表されるアミドアミンデンドリマーとその内部に保持されたナノサイズの金属ロジウム粒子又は金属ロジウム/鉄粒子とを包含する概念として用いる。
【0025】
本発明により提供されるニトロ基還元用触媒は、上記のようにして調製されるロジウムナノ微粒子又はロジウム/鉄ナノ微粒子を含むことを特徴としている。本発明の触媒により還元可能なニトロ化合物の種類は特に限定されず、脂肪族ニトロ化合物又は芳香族ニトロ化合物などのいずれであってもよい。ニトロ化合物は還元反応に不活性な任意の置換基を有していてもよい。還元反応に対して活性な置換基については適宜の保護基で保護しておくことが望ましい。ニトロ基の還元反応は、例えば不活性溶媒を用いて好ましくは均一反応系で行うことができる。溶媒としては、ロジウムナノ微粒子又はロジウム/鉄ナノ微粒子を十分に分散することができ、かつニトロ化合物を十分に溶解することができる不活性溶媒を用いることができる。例えば、メタノールやエタノールなどのアルコール系溶媒、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル系溶媒、酢酸エチルなどのエステル系溶媒、酢酸などの有機酸系溶媒、N, N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドなどの高極性溶媒、トルエンなどの炭化水素系溶媒などを用いることができる。ニトロ基の還元反応を不均一系で行うことも可能である。
【0026】
還元反応は一般的には0℃〜50℃程度の温度下、好ましくは室温下に行うことができ、ニトロ化合物に対してロジウムナノ微粒子又はロジウム/鉄ナノ微粒子を金属量として0.01〜1.0 mol%程度の割合、好ましくは0.1〜0.5 mol%程度の割合で加えて水素ガスを導入することにより行うことができる。反応系におけるニトロ化合物の濃度は特に限定されないが、例えば、0.1 M程度である。必要に応じて、適宜の酸又は塩基の存在下で反応を行うこともできる。一般的には、反応の進行をGC-MS、高速液体クロマトグラフィー、薄層クロマトグラフィーなどの分析方法により追跡し、原料のニトロ化合物が消失した時点で反応を停止して、常法に従って後処理することにより目的物であるアミン化合物を単離することができる。
【0027】
本発明により提供されるロジウム/鉄ナノ微粒子を含む触媒は、不飽和結合の水素化反応用触媒、好ましくは炭素-炭素二重結合及び/又は炭素-炭素三重結合の水素化反応用触媒として用いることもできる。水素化反応用触媒として用いる場合、アルキンやアルケンに対して0.01〜1.0 mol%程度、好ましくは0.1〜0.5 mol%程度の濃度で使用することができる。フェニルアゾメチンデンドリマーロジウム錯体を還元して得られるロジウムナノ微粒子(TPP-DPA G4-Rh)を触媒として用いた二重結合の水素化反応が報告されており(日本化学会春期年会、演題番号:1Pc-117、学会要旨集2006年3月13日発行、社団法人日本化学会)、この方法に準じて水素化反応を行うことができる。本発明により提供されるロジウム/鉄ナノ微粒子は、上記学術集会において報告されたロジウムナノ微粒子とほぼ同等の触媒活性を有しており、水素化反応用触媒として有用である。
【実施例】
【0028】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明の範囲は下記の実施例に限定されることはない。
例1
反応は全て窒素雰囲気下で遮光して行った。式(II)で表されるPAMAM G4-OH(0.500 g、3.50 mmol、10%メタノール溶液)の溶媒を留去し, 残留物を蒸留水(4 mL)に溶解した。この水溶液に2 mLの蒸留水に溶解した塩化ロジウム(III)三水和物(0.0550 g、210 mmol, デンドリマーに対して60当量、これはデンドリマー中の全3級アミンのモル当量に相当する)を加えて真空ポンプにより溶液の脱気を行った。30分撹拌した後、この溶液に水素化ホウ素ナトリウム(0.0397 g、1050 mmol、ロジウムに対して5当量)のメタノール溶液(2 mL)を滴下した。この溶液を終夜よく撹拌してデンドリマー内部にナノサイズの金属ロジウムを保持したロジウムナノ微粒子(PAMAM G4-OH-Rh)の分散液を得た。
【0029】
例2
反応は全て窒素雰囲気下で遮光して行った。PAMAM G4-OH(0.500 g、3.50 mmol、10%メタノール溶液)の溶媒を留去し、残留物を蒸留水(4 mL)に溶解した。この水溶液に1 mLの蒸留水に溶解した塩化鉄(III)の六水和物(0.0265 g、98.0 mmol、デンドリマーに対して28当量)を加え、真空ポンプにより溶液の脱気を行った。30分撹拌した後、1 mLの蒸留水に溶解した塩化ロジウム(III)三水和物(0.0295 g、112 mmol、デンドリマーに対して32当量)を加えた。溶液をさらに30分撹拌し、水素化ホウ素ナトリウム(0.0397 g、1050 mmol、鉄とロジウムの合計に対して5当量)のメタノール溶液(2 mL)を滴下した。この溶液を終夜よく撹拌してデンドリマー内部にナノサイズの金属ロジウム/鉄を保持したロジウム/鉄ナノ微粒子(PAMAM G4-OH-Rh/Fe)の分散液を得た。このデンドリマー内部に保持された金属ロジウム/鉄粒子を透過型電子顕微鏡(TEM)により観察したところ粒径1.2±0.2 nmの均一な粒子であった。
【0030】
例3
例1で得た本発明のロジウムナノ微粒子(PAMAM G4-OH-Rh)を用いてニトロ基の還元反応を以下の方法に従って行った。全ての反応を遮光及び室温下に1気圧の水素雰囲気下で行った。よく乾燥させた磁気撹拌子を入れたシュレンクを窒素ガスにより置換した。ニトロ化合物(0.7 mmol)のメタノール溶液(5 mL)をこのシュレンクに導入し、本発明のロジウムナノ微粒子又はロジウム/鉄ナノ微粒子(ニトロ化合物に対して0.3 mol%の金属を含む)の分散液を加えた。水素ガスを風船から供給し、溶液をよく撹拌して還元反応を進行させた。反応の追跡は反応液を一部採取してGC-MSを測定することにより行った。比較のためフェニルアゾメチンデンドリマーロジウム錯体を還元して得られるロジウムナノ微粒子(TPP-DPA G4-Rh)を触媒として用いて同様の反応を行った。結果を図1〜5に示す。いずれの反応においても本発明の触媒はTPP-DPA G4-Rhに比べて顕著に高い触媒活性を有しており、ニトロ基の還元において極めて高活性な触媒として使用できることが示された。
【0031】
例4
例2で得た本発明のロジウム/鉄ナノ微粒子(PAMAM G4-OH-Rh/Fe)を用いてオレフィンの還元及びニトロ基の還元を行った。ニトロ基の還元反応は上記例3と同様に行い、オレフィンの還元では基質の物質量を1.75 mmolとしてニトロ基の還元の場合と同様に反応を行った。結果を図6及び7に示す。本発明のロジウム/鉄ナノ微粒子(PAMAM G4-OH-Rh/Fe)はオレフィンの水素化反応及びニトロ基の還元反応のいずれにおいても極めて高活性であり、オレフィンの水素化反応においてフェニルアゾメチンデンドリマーロジウム錯体を還元して得られるロジウムナノ微粒子(TPP-DPA G4-Rh)を触媒として用いる場合と同等の触媒活性を有することが示された。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の触媒(ロジウムナノ微粒子)を用いてニトロベンゼンを還元してアニリンを製造する反応の進行を示した図である。図中、◆は本発明のロジウムナノ微粒子(PAMAM G4-OH-Rh)、■はフェニルアゾメチンデンドリマーロジウム錯体を還元して得られるロジウムナノ微粒子(TPP-DPA G4-Rh)、●はフェニルアゾメチンデンドリマーロジウム/鉄錯体を還元して得られるロジウム/鉄ナノ微粒子(TPP-DPA G4-Rh/Fe)、及び▲はウィルキンソン触媒を用いた場合の結果を示す。グラフの縦軸は還元生成物のモル比(Product mol ratio)を示す。図2から5においても同様である。
【図2】本発明の触媒(ロジウムナノ微粒子)を用いてp-メトキシカルボニルニトロベンゼンを還元してp-メトキシカルボニルアニリンを製造する反応の進行を示した図である。
【図3】本発明の触媒(ロジウムナノ微粒子)を用いてp-アセチルニトロベンゼンを還元してp-アセチルアニリンを製造する反応の進行を示した図である。
【図4】本発明の触媒(ロジウムナノ微粒子)を用いてp-アミノニトロベンゼンを還元して1,4-フェニレンジアミンを製造する反応の進行を示した図である。
【図5】本発明の触媒(ロジウムナノ微粒子)を用いてp-メトキシニトロベンゼンを還元してp-メトキシアニリンを製造する反応の進行を示した図である。
【図6】本発明の触媒(ロジウム/鉄ナノ微粒子)を用いてブチルアクリレートの炭素-炭素二重結合を水素化する反応の進行を示した図である。図中、■はフェニルアゾメチンデンドリマーロジウム錯体を還元して得られるロジウムナノ微粒子(TPP-DPA G4-Rh)、●はフェニルアゾメチンデンドリマーロジウム/鉄錯体を還元して得られるロジウム/鉄ナノ微粒子(TPP-DPA G4-Rh/Fe)、及び×は本発明のロジウム/鉄ナノ微粒子(PAMAM G4-OH-Rh/Fe)を用いた場合の結果を示す。グラフの縦軸は反応前のニトロ化合物に対する還元生成物のモル比(Product mol ratio)を示す。
【図7】本発明の触媒(ロジウム/鉄ナノ微粒子)を用いてニトロベンゼンを還元してアニリンを製造する反応の進行を示した図である。◆は本発明のロジウムナノ微粒子(PAMAM G4-OH-Rh)、■はフェニルアゾメチンデンドリマーロジウム錯体を還元して得られるロジウムナノ微粒子(TPP-DPA G4-Rh)、●はフェニルアゾメチンデンドリマーロジウム/鉄錯体を還元して得られるロジウム/鉄ナノ微粒子(TPP-DPA G4-Rh/Fe)、及び×は本発明のロジウム/鉄ナノ微粒子(PAMAM G4-OH-Rh/Fe)を用いた場合の結果を示す。グラフの縦軸は反応前のニトロ化合物に対する還元生成物のモル比(Product mol ratio)を示す。
【図8】上段は例2の反応により得られる本発明のロジウム/鉄ナノ微粒子(PAMAM G4-OH-Rh/Fe)の内部に保持された金属ロジウム/鉄ナノ粒子の様子を模式的に示した図であり、下段は金属ロジウム/鉄ナノ粒子のTEM像を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニトロ基の還元用触媒であって、下記の一般式(I):
【化1】

(式中、R1はn価の有機分子残基を示し、nは1から6の整数を示し、R2及びR3はそれぞれ独立に1価の有機基を示し、x、y、及びzはそれぞれ独立に1から4の整数を示し、mは0から10の整数を示し、デンドリマーの世代数を示す)で表されるアミドアミンデンドリマーとロジウム錯体とが錯形成したアミドアミンデンドリマー・ロジウム錯体を還元することにより得ることができるロジウムナノ微粒子、又は上記アミドアミンデンドリマーとロジウム錯体及び鉄錯体とが錯形成したアミドアミンデンドリマー・ロジウム/鉄錯体を還元することにより得ることができるロジウム/鉄ナノ微粒子を含む触媒。
【請求項2】
nが4であり、x、y、及びzが2であり、mが4であり、R2及びR3がそれぞれ独立に水酸基を有する1価の有機基である請求項1に記載の触媒。
【請求項3】
アミドアミンデンドリマーが下記の式(II):
【化2】

で表されるアミドアミンデンドリマーである請求項1に記載の触媒。
【請求項4】
アミドアミンデンドリマー・ロジウム錯体がアミドアミンデンドリマーに含まれる3級アミンのうち実質的に全ての3級アミンにおいてロジウム錯体と錯形成したアミドアミンデンドリマー・ロジウム錯体である請求項1ないし3のいずれか1項に記載の触媒。
【請求項5】
アミドアミンデンドリマー・ロジウム/鉄錯体がアミドアミンデンドリマーに含まれる3級アミンのうち実質的に全ての3級アミンにおいてロジウム錯体又は鉄錯体と錯形成したアミドアミンデンドリマー・ロジウム/鉄錯体である請求項1ないし3のいずれか1項に記載の触媒。
【請求項6】
ニトロ基の還元方法であって、請求項1ないし5のいずれか1項に記載の触媒の存在下でニトロ化合物と水素ガスとを接触させる工程を含む方法。
【請求項7】
請求項1に記載のアミドアミンデンドリマーとロジウム錯体及び鉄錯体とが錯形成したアミドアミンデンドリマー・ロジウム/鉄錯体。
【請求項8】
請求項7に記載のアミドアミンデンドリマー・ロジウム/鉄錯体を還元することにより得ることができるロジウム/鉄ナノ微粒子。
【請求項9】
請求項8に記載のロジウム/鉄ナノ微粒子を含む還元用触媒。
【請求項10】
還元反応が水素化反応又はニトロ基の還元反応である請求項9に記載の触媒。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−183904(P2009−183904A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−28303(P2008−28303)
【出願日】平成20年2月8日(2008.2.8)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度 文部科学省、戦略的創造研究推進事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】