説明

ヌクレオシドトリホスフェート誘導体

【課題】 PCRなどにおいて起きる取り込みエラーを防止するため、相補的なヌクレオシドを正確に認識するヌクレオシド誘導体を提供する。
【解決手段】 3位の窒素原子がオキシド化されたシトシン又は1位の窒素原子がオキシド化されたアデニンを有するヌクレオシドトリホスフェート誘導体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なヌクレオシドトリホスフェート誘導体、並びにその用途及び製造方法に関する。本発明のヌクレオシドトリホスフェート誘導体は、相補的な塩基を正確に認識することができるので、核酸合成時におけるミスマッチ塩基対の発生を抑制することができる。
【背景技術】
【0002】
DNAは生体内で生成した活性酸素により酸化を受け、酸化損傷塩基を生成することが知られている。DNAの複製時において、DNAが酸化されて生成した酸化損傷塩基が鋳型鎖に含まれていると、DNAポリメラーゼによる鎖伸長反応を阻害する原因、または突然変異を誘発させる原因となる。そのため、細胞にエラーを引き起こす変異原として広く認識されている。その一方、DNAの酸化損傷の機構を考えるうえで、鋳型鎖に酸化損傷塩基が含まれる場合とは別にもう1つ重要な論点が存在する。それは、酵素によって取り込まれるトリリン酸体の酸化損傷についてである。ヌクレオチドプールと呼ばれるトリリン酸体の貯蔵庫に対してもDNAの二重鎖に対する酸化と同様に活性酸素による酸化が起こるため、トリリン酸の酸化損傷体が生成する。トリリン酸の酸化損傷体が生成すると、DNAの複製時に酵素が酸化損傷塩基を基質として認識しなくなる場合や、鋳型鎖にある塩基が非相補的な塩基であっても基質として取り込み鎖伸長する場合が考えられる。後者の具体的な報告例として代表的な酸化損傷塩基である8-オキソグアニンについて述べる(非特許文献1〜4)。
【0003】
8-オキソグアニンのトリリン酸体はヌクレオチドプールにて生成し、このトリリン酸体は鋳型鎖のアデニン塩基に対して取り込まれ鎖伸長する。これはDNA二重鎖が酸化され鋳型鎖に8-オキソグアニンが存在する場合と同様の変異を引き起こす。
【0004】
【非特許文献1】Shimizu, M., Gruz, P., Kamiya, H., Masutani, C., Xu, Y., Usui, Y., Sugiyama, H., Harashima, H., Hanaoka, F., Nohmi, T. Biochemistry 2007, 46, 5515-5522.
【非特許文献2】Einolf, H. J., Guengerich, F. P. J. Biol. Chem. 2001, 276, 3764-3771.
【非特許文献3】Einolf, H. J., Schnetz-Boutaud, N., Guengerich, F. P. Biochemistry 1998, 37, 13300-13312.
【非特許文献4】Miller, H., Prasad, R., Wilson, S. H., Johnson, F., Grollman, A. P. Biochemistry 2000, 39, 1029-10
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、遺伝子解析等で一般的に用いられているPCRなどのDNA増幅方法では、鋳型となるDNAと相補的でないヌクレオシドが取り込まれてしまうこと(取り込みエラー)が問題となっている。本発明は、このような取り込みエラーを防止するため、相補的なヌクレオシドを正確に認識するヌクレオシド誘導体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、N-オキシド化されたシトシン及びアデニンが、天然の(N-オキシド化されていない)シトシン及びアデニンよりも相補的な塩基を認識する能力が高いことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
代表的な酸化損傷塩基である8-オキソグアニンは、相補的な塩基を認識する能力が低く、シトシンだけでなく、アデニンとも対合してしまう。従って、8-オキソグアニンと同様に酸化損傷塩基であるN-オキシド化されたシトシン及びアデニンが高い相補塩基認識能力を持つことは、本願の出願時においては全く予測できないことであった。
【0008】
本発明は、以上の知見に基づき完成されたものである。
【0009】
即ち、本発明は、以下の(1)〜(7)を提供するものである。
【0010】
(1)一般式(I)又は一般式(II)
【0011】
【化1】

【0012】
【化2】

〔式中、Xは水素原子又は水酸基を表す。〕
で表されるヌクレオシドトリホスフェート誘導体。
【0013】
(2)基質、核酸合成酵素、鋳型となる単鎖核酸、及びプライマーを用いて核酸を合成する方法であって、基質として(1)に記載のヌクレオシドトリホスフェート誘導体を使用することを特徴とする核酸の合成方法。
【0014】
(3)核酸合成酵素がDNA合成酵素であり、単鎖核酸が単鎖DNAであることを特徴とする(2)に記載の核酸の合成方法。
【0015】
(4)ポリメラーゼ連鎖反応を利用することを特徴とする(2)又は(3)に記載の核酸の合成方法。
【0016】
(5)(1)に記載のヌクレオシドトリホスフェート誘導体を含有することを特徴とする核酸合成用基質。
【0017】
(6)シチジン-5'-トリホスフェート、アデノシン-5'-トリホスフェート、デオキシシチジン-5'-トリホスフェート、又はデオキシアデノシン-5'-トリホスフェートを酸化剤と反応させることを特徴とする一般式(I)又は一般式(II)
【0018】
【化3】

【0019】
【化4】

〔式中、Xは水素原子又は水酸基を表す。〕
で表されるヌクレオシドトリホスフェート誘導体の製造方法。
【0020】
(7)酸化剤が、メタクロロ過安息香酸であることを特徴とする(6)に記載のヌクレオシドトリホスフェート誘導体の製造方法。
【発明の効果】
【0021】
本発明のヌクレオシドトリホスフェート誘導体は、相補的な塩基を正確に認識することができるので、鎖伸長反応やPCR反応時におけるミスマッチ塩基対の発生を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0023】
本発明のヌクレオシドトリホスフェート誘導体は、一般式(I)又は一般式(II)
【0024】
【化5】

【0025】
【化6】

〔式中、Xは水素原子又は水酸基を表す。〕
で表されるものである。
【0026】
本発明のヌクレオシドトリホスフェート誘導体は、シトシン又はアデニンを持つ天然のヌクレオシドトリホスフェート(即ち、シチジン-5'-トリホスフェート、アデノシン-5'-トリホスフェート、デオキシシチジン-5'-トリホスフェート、及びデオキシアデノシン-5'-トリホスフェート)を酸化剤と反応させることにより製造できる。
【0027】
酸化剤としては、メタクロロ過安息香酸(mCPBA)を使用することができるが、他の酸化剤、例えば、過酸化水素、モノ過フタル酸などを使用してもよい。
【0028】
使用する酸化剤の量は特に限定されないが、ヌクレオシドトリホスフェートに対して、1〜20モル当量とするのが好ましく、5〜6モル当量とするのがより好ましい。
【0029】
酸化剤による反応は、通常、溶媒存在下で行う。使用する溶媒は特に限定されず、例えば、水、メタノール、アセトニトリル、N,N-ジメチルホルムアミド、ジオキサン、N-メチルピロリドンなどを使用することができる。これらの溶媒は二以上混合して使用してもよい。
【0030】
反応時の温度は特に限定されないが、15〜60℃とするのが好ましく、20〜25℃とするのがより好ましい。
【0031】
反応時間も特に限定されないが、0.5〜24時間とするのが好ましく、3〜6時間とするのがより好ましい。
【0032】
反応時のpHも特に限定されないが、4.0〜8.0とするのが好ましく、5.0〜6.0とするのがより好ましい。
【0033】
本発明のヌクレオシドトリホスフェート誘導体は、核酸合成用の基質として使用することができる。より具体的には、本発明のヌクレオシドトリホスフェート誘導体は、基質、核酸合成酵素、鋳型となる単鎖核酸、及びプライマーを用いて核酸を合成する方法における基質として使用することができる。このような核酸合成方法の例として、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)などを挙げることができる。また、使用する核酸合成酵素は、DNAポリメラーゼ、RNAポリメラーゼのいずれでもよく、例えば、DNAポリメラーゼI Klenow Fragment、Taqポリメラーゼ、T7 RNAポリメラーゼ、DNAポリメラーゼβ、DNAポリメラーゼλなどを使用できる。
【0034】
核酸合成の基質として本発明のヌクレオシドトリホスフェート誘導体を使うことにより、従来法よりもミスマッチの少ない核酸鎖を合成できる。
【実施例】
【0035】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。
【0036】
〔参考例〕 N-オキシド化された酸化損傷塩基の塩基対形成能の評価
デオキシシチジン-3-N-オキシド(dCO)及びデオキシアデノシン-1-N-オキシド(dAO)を含むDNAオリゴマーの二重鎖融解温度(Tm値)を測定することで、それらの塩基対形成能を評価した。用いた配列と条件を図1に示す。
【0037】
DNA14量体中央(X)にdCOあるいはdAOを配置し、その相補的位置の塩基(Y)をA、T、G、Cと変えたDNA二重鎖を用いてTm値を測定した。その結果を図2に示す。
【0038】
まず、天然dCと酸化損傷塩基dCOとの二重鎖融解温度の比較について説明する(図2a)。天然の塩基であるdCはdGと塩基対を形成するため、dCを含む二重鎖のTm値は47.8℃と高い値を示したのに対し、酸化損傷塩基dCOを含む場合は31.0℃となり大幅にTm値が減少した。天然の場合と比べて、dCOとdGの塩基対形成が不安定化した原因として、シトシン塩基のN3位に酸素原子が存在するため、通常のWatson-Crick水素結合が形成されにくくなっていることが考えられる。一方、酸化損傷塩基dAOについてもdCOと同様の結果となった(図2b)。dTに対して天然塩基dAを含む二重鎖のTm値は45.7℃と高い値を示したのに対し、酸化損傷塩基dAOを含む場合は11.3℃となり10℃以上もTm値が減少した。dAOにおいてもN1位に酸素原子が付加しているためにWatson-Crickの水素結合様式が変化したことが、塩基対形成が不安定化した原因であると思われる。
【0039】
また、他の塩基との塩基対形成能にも注目すると、dCOまたはdAOを含む二重鎖のTm値はdA、dT、dG、dCいずれの塩基に対してもほぼ同等の値を示した。このことからN-オキシド化された塩基は天然の四種類の塩基いずれに対しても、相補的な塩基として塩基対を形成しにくくなることが分かった。この結果より、N-オキシド化された塩基が相補的な塩基を認識する能力は低く、そのためDNAの複製時にDNAポリメラーゼがいずれの塩基をも取り込んでしまう可能性があることが予想された。
【0040】
〔実施例1〕 トリリン酸体に対するN-オキシド化の検討
N-オキシド化された塩基dCO及びdAOのトリリン酸体(pppdCO、pppdAO)の合成は、天然のdC及びdAのトリリン酸(pppdC、pppdA)に対してN-オキシド化を行い合成することを考えた。まず、pppdCを用いて酸化条件の検討を行った(表1)。
【0041】
【表1】

pppdC(化合物1)にmCPBAをMeOH:H2O中で反応させ、生成物の確認をDEAE-HPLCにて行った。表1に示した生成比はDEAE-HPLCより得られた化合物1と化合物2のピーク面積の比とした。mCPBAを加え長時間反応させたところ、N-オキシド体(化合物2)の生成比の上昇が認められた(entry 1,2)。また、反応溶媒の構成比を変化させ適切な反応溶媒の検討を行ったが大きな変化は観測されなかった(entry 3)。そこで、mCPBAを過剰量に用いることでN-オキシド体(化合物2)の増加を期待した。その結果、mCPBAの当量を上げるにつれてN-オキシド体(化合物2)の生成比が向上し、さらに時間の短縮も認められた(entry 4,5)。定量的に化合物2を得ることを目指してさらに長時間反応させたが、生成比はほとんど変化がなかった。定量的に反応が進行しない原因として反応系内のpHが考えられる。シトシン塩基のmCPBAによるN-オキシド化の至適pHは6.0であるが、上述した反応系は試薬残査の安息香酸とリン酸部の影響もあり、より酸性に傾いているものと思われる。そこで、酸性を中和させるため重曹水を加え酸化反応を行った。その結果、予想した通りN-オキシド体(化合物2)がほぼ完全に生成したことを確認した(entry 6)。
【0042】
〔実施例2〕 pppdCO及びpppdAOの合成
実施例1において検討した酸化条件を用い、下記のように、pppdCO及びpppdAOの合成を行った。
【0043】
【化7】

天然のトリリン酸である化合物1、化合物3に対してMeOH:NaHCO3中でmCPBAを反応させ、N-オキシド化された塩基のトリリン酸体化合物2、化合物4をそれぞれ合成した。これらのトリリン酸体の精製はDEAE-HPLCを用いて行い、UV(260 nm)の吸光度から収率を求めた。1H-NMR及び31P-NMR測定により目的のトリリン酸体化合物2、化合物4が合成できたことを確認した。
【0044】
〔実施例3〕 DNAポリメラーゼを用いた一塩基鎖伸長反応
DNAポリメラーゼを用いた鎖伸長反応におけるN-オキシド化された塩基の基質特異性を調べるために、合成したpppdCO及びpppdAOを用いて一塩基鎖伸長反応を行った。これにより、ヌクレオチドプールにおいてシトシン塩基またはアデニン塩基が酸化されて得られたpppdCO、pppdAOのDNA複製時に与える影響が明らかになると期待した。一塩基鎖伸長反応で用いた酵素は5’→3’エキソヌクレアーゼ活性が欠如したDNAポリメラーゼI Klenow Fragmentを用いた。反応の詳しい条件及び用いた配列等を図3に示す(Shimizu, M., Gruz, P., Kamiya, H., Masutani, C., Xu, Y., Usui, Y., Sugiyama, H., Harashima, H., Hanaoka, F., Nohmi, T. Biochemistry 2007, 46, 5515-5522.、Taniguchi, Y., Kool, E. T. J. Am. Chem. Soc. 2007, 129, 8836-8844.、Wu, Y., Ogawa, A. K., Berger, M., McMinn, D. L., Schultz, P. G., Romesberg, F. E. J. Am. Chem. Soc. 2000, 122, 7621-7632.、Hirao, I., Harada, Y., Kimoto, M., Mitsui, T., Fujiware, T., Yokoyama, S. J. Am. Chem. Soc. 2004, 126, 13298-13305.)。
【0045】
図3に示したように、templateは25量体のDNAを用い、3’末端から19番目の位置に鋳型となる四種類の塩基(A、G、C、T)を配置した。一方、primerは18量体のDNAを用い、5’末端に蛍光修飾基であるFAM基を導入し蛍光検出により観測できるようにした。評価を行ったトリリン酸体は、酸化損傷塩基であるpppdCO及びpppdAOとコントロールとして天然のpppdC及びpppdAを用いて行った。まず、template-primer二重鎖に対し基質となるトリリン酸を加え、DNAポリメラーゼの至適温度である37℃で10分間反応させた。その後、98% formamideを加えることで反応を停止させた。7 Mの尿素で変性させたポリアクリルアミドゲルを用いて電気泳動を行い、蛍光検出により一塩基鎖伸長の様子を観察した。その結果を図4に示す。
【0046】
まず、pppdCOの一塩基鎖伸長反応について説明する(図4a)。pppdCOの酵素による取り込みは、予想していなかったことに鋳型がdGに対してのみ鎖伸長が認められた。このことから、天然のトリリン酸pppdCと同様の傾向にあることが示された。また、天然のpppdCではdG以外にもわずかに鎖伸長が起こっていることが観測されたが、酸化損傷体pppdCOでは他の塩基における鎖伸長反応は認められなかった。つぎに、pppdAOの一塩基鎖伸長反応について説明する(図4b)。pppdAOの酵素による取り込みもpppdCOを用いた場合と同様の結果となった。鎖伸長反応が観測されたものは鋳型がdTのときのみであり、他の塩基に対しては鎖伸長が起こらなかった。以上の結果は、参考例(二重鎖融解温度の結果)から考察された「塩基識別能がないため、いずれの塩基に対しても取り込まれて鎖伸長を起こす」、もしくは「塩基形成能がないため、いずれの塩基に対しても酵素が認識せず鎖伸長が起こらない」ことと反しており、大変興味深い結果となった。
【0047】
〔合成例〕
新規化合物、あるいは従来法とは異なる方法で合成した化合物について、その合成法を示す。
【0048】
(1)2’-デオキシシチジン-3-N-オキシド-5'-トリホスフェート(化合物2)
事前に化合物1を水に溶解し0.4 Mのstock solution Aを調製した。また、mCPBAをMeOHに溶解し1.2 Mのstock solution Bを調製した。
【0049】
0.4 M stock solution A(50 μL, 20 μmol)に飽和重曹水(50 μL)とstocl solution B(100 μL, 120 μmol)を加え、室温で6時間反応させた。反応液に水(500 μL)を加え0度で10分静置し、沈殿物を濾過して取り除いた。DEAE-HPLC(eluted by TEAB-buffer)により精製し、化合物2(42%)を得た。収率はUV(260 nm)の吸光度を測定し、dCOのε値(3910)を用いて算出した。
【0050】
UV (H2O) λmax 272 nm, λmax 224 nm. 1H NMR (D2O) δ 1.14 (t, 27H, J = 7.5 Hz), 2.20-2.30 (m, 1H), 2.33-2.43 (m, 1H), 3.03-3.11 (m, 18H), 4.10-4.11 (m, 3H), 4.48-4.53 (m, 1H), 6.20 (t, 1H, J = 6.4 Hz), 6.27 (d, 1H, J = 7.9 Hz), 7.84 (d, 1H, J = 7.9 Hz); 31P NMR (D2O) δ -22.6 (t, J = 21.0 Hz, J = 20.0 Hz), -10.9 (d, J = 20.0 Hz), -10.1 (d, J = 21.0 Hz).
(2)2’-デオキシアデノシン-1-N-オキシド-5'-トリホスフェート(化合物4)
事前に化合物3を水に溶解し0.4 Mのstock solution Aを調製した。また、mCPBAをMeOHに溶解し1.2 Mのstock solution Bを調製した。
【0051】
0.4 M stock solution A(50 μL, 20 μmol)に飽和重曹水(50 μL)とstocl solution B(100 μL, 120 μmol)を加え、室温で6時間反応させた。反応液に水(500 μL)を加え0度で10分静置し、沈殿物を濾過して取り除いた。DEAE-HPLC(eluted by TEAB-buffer)により精製し、化合物4(48%)を得た。収率はUV(260 nm)の吸光度を測定し、dAOのε値(7930)を用いて算出した。
【0052】
UV (H2O) λmax 261 nm, λmax 232 nm. 1H NMR (D2O) δ 1.09 (t, 27H, J = 7.4 Hz), 2.38-2.46 (m, 1H), 2.63-2.73 (m, 1H), 2.97-3.05 (m, 18H), 4.01-4.11 (m, 3H), 6.36 (t, 1H, J = 6.6 Hz), 8.41-8.42 (2s, 2H); 31P NMR (D2O) δ -22.3 (t, J = 19.5 Hz), -10.7 (d, J = 19.5 Hz), -7.9 (d, J = 19.5 Hz).
(3)一塩基鎖伸長反応
用いたpppdCO、pppdAOは化合物2、4をMeOH(100 μL)に溶解し、0.6 M NaClO4/acetone(600 μL)を加え、白色粉体を遠心分離により沈殿させたのち溶液を取り除き、acetoneで4回洗浄することでNa+-formとした。5’末端をFAMで蛍光ラベル化したprimerを使用した。用いたprimer及びtempleteの配列は図3に示す通りである。
【0053】
100 nM templete-primer duplex、DNA polymerase Klenow fragment exo-(0.01 unit)、10 μMトリリン酸体を含んだバッファー(50 mM Tris-HCl (pH 7.2)、10 mM MgSO4、0.1 mM DTT)10 μLを37℃で10分間インキュベートした。反応停止剤(98% formamide、20 mM EDTA)を30 μL加え、7 M尿素を含む変性20%ポリアクリルアミドゲルを用いて電気泳動を行った。検出はフルオロイメージアナライザー(FUJIFILM FLA-2000G)により蛍光検出した。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】dCO及びdAOを含むDNAオリゴマーの塩基対形成能評価実験に用いた配列と条件を示す図。
【図2】二重鎖融解温度を用いたdCO及びdAOの塩基対形成能の評価実験の結果を示す図。
【図3】一塩基鎖伸長反応で用いた配列と条件を示す図。
【図4】一塩基鎖伸長反応の実験結果を示す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I)又は一般式(II)
【化1】

【化2】

〔式中、Xは水素原子又は水酸基を表す。〕
で表されるヌクレオシドトリホスフェート誘導体。
【請求項2】
基質、核酸合成酵素、鋳型となる単鎖核酸、及びプライマーを用いて核酸を合成する方法であって、基質として請求項1に記載のヌクレオシドトリホスフェート誘導体を使用することを特徴とする核酸の合成方法。
【請求項3】
核酸合成酵素がDNA合成酵素であり、単鎖核酸が単鎖DNAであることを特徴とする請求項2に記載の核酸の合成方法。
【請求項4】
ポリメラーゼ連鎖反応を利用することを特徴とする請求項2又は3に記載の核酸の合成方法。
【請求項5】
請求項1に記載のヌクレオシドトリホスフェート誘導体を含有することを特徴とする核酸合成用基質。
【請求項6】
シチジン-5'-トリホスフェート、アデノシン-5'-トリホスフェート、デオキシシチジン-5'-トリホスフェート、又はデオキシアデノシン-5'-トリホスフェートを酸化剤と反応させることを特徴とする一般式(I)又は一般式(II)
【化3】

【化4】

〔式中、Xは水素原子又は水酸基を表す。〕
で表されるヌクレオシドトリホスフェート誘導体の製造方法。
【請求項7】
酸化剤が、メタクロロ過安息香酸であることを特徴とする請求項6に記載のヌクレオシドトリホスフェート誘導体の製造方法。

【図1】
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【図3】
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【図2】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−215171(P2009−215171A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−57295(P2008−57295)
【出願日】平成20年3月7日(2008.3.7)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】