説明

ノイズフィルタ部品,ノイズフィルタ構造及びノイズフィルタ部品の使用方法

【課題】高速な差動信号と低速なシングルエンド信号が同一ライン上に混在するような伝送規格において、差動信号及びシングルエンド信号を、その波形品質に影響を与えることなく通すことができるノイズフィルタ部品,ノイズフィルタ構造及びノイズフィルタ部品の使用方法を提供する。
【解決手段】ノイズフィルタ部品1−1はコモンモードチョークコイル部2とコイル3とコイル4と外部電極6−1〜6−4とを備える。コモンモードチョークコイル部2は、高周波帯の差動信号を通す部分であり、コイル21,22を有する。外部電極6−1,6−2はコイル21の両端部に接続され、外部電極6−3,6−4はコイル22の両端部に接続されている。コイル3,4は、差動信号よりも低い周波数帯のシングルエンド信号を通すためのコイルであり、コイル21,22に並列に接続されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、高速差動伝送路上のノイズ対策を図ったノイズフィルタ部品,ノイズフィルタ構造及びノイズフィルタ部品の使用方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の技術としては、例えば特許文献1に開示のノイズ対策部品がある。
この技術は、USB規格等の高速な差動伝送路に対応した1チップのノイズ対策部品を形成して、部品の小型化を図ったものであり、図18に示すように、1つのコモンモードチョークコイル部210と2本のライン部221,222を磁性体部230で包容し、8つの外部電極231,232〜237,238を取り付けている。
具体的には、コモンモードチョークコイル部210をコイル211,212で構成し、ライン部221,222を1対の直状ラインで構成することにより、コモンモードチョークコイル部210を通じて、差動信号を通し、コモンモードノイズを抑制すると共に、ライン部221,222を用いて、電源やグランドと接続している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−302810号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記技術では、コモンモードチョークコイル部210をデータ信号ラインに接続して、差動信号を通す構成であるので、差動信号以外の信号をデータ信号ラインで伝送する場合には、不都合が生じる。つまり、高速な差動信号と低速なシングルエンド信号とが混在するようなデータ信号を差動伝送路に伝送すると、コモンモードチョークコイル部210の磁気結合によってシングルエンド信号にスパイク電圧が発生し、シングルエンド信号の波形品質が劣化してしまうおそれがある。
【0005】
この発明は、上述した課題を解決するためになされたもので、高速な差動信号と低速なシングルエンド信号が同一ライン上に混在するような伝送規格において、差動信号及びシングルエンド信号を、その波形品質に影響を与えることなく通すことができるノイズフィルタ部品,ノイズフィルタ構造及びノイズフィルタ部品の使用方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、請求項1の発明に係るノイズフィルタ部品は、一方端及び他方端が絶縁体の前面の第1の外部電極及び後面の第2の外部電極にそれぞれ接続された状態で絶縁体に内包された第1のコイルと、この第1のコイルに並設され、一方端及び他方端が絶縁体の前面の第3の外部電極及び後面の第4の外部電極にそれぞれ接続された第2のコイルとを有し、高周波帯の差動信号を通し且つ高周波帯のコモンモードノイズを抑制するコモンモードチョークコイル部と、コモンモードチョークコイル部の第1のコイルに並列に接続された状態で絶縁体に内包され、差動信号よりも低い周波数帯のシングルエンド信号を通す第3のコイルと、第2のコイルに並列に接続された状態で絶縁体に内包され、差動信号よりも低い周波数帯のシングルエンド信号を通す第4のコイルとを備える構成とした。
かかる構成により、第1及び第2の外部電極を差動伝送路の第1の線路に接続すると共に、第3及び第4の外部電極を差動伝送路の第2の線路に接続することで、ノイズフィルタ部品を差動伝送路に実装することができる。かかる状態で、高周波帯の高速な差動信号を差動伝送路上に伝送すると、第1及び第3の外部電極からノイズフィルタ部品に入力した差動信号は、コモンモードチョークコイル部を通り、第2及び第4の外部電極から差動伝送路に出力される。また、コモンモードノイズ等のコモンモードノイズが、第1及び第3の外部電極からコモンモードチョークコイル部に入力しようとすると、コモンモードチョークコイル部によって抑制される。また、低周波帯の低速なシングルエンド信号を差動伝送路上に伝送すると、第1及び第3の外部電極からノイズフィルタ部品に入力したシングルエンド信号は、コモンモードチョークコイル部の第1及び第2のコイルに並列に接続された第3及び第4のコイルを通って、第2及び第4の外部電極から差動伝送路に出力される。
したがって、高周波帯の高速な差動信号と低周波帯の低速なシングルエンド信号とが混在する差動伝送路上では、差動信号がコモンモードチョークコイル部を通り、シングルエンド信号は第2及び第4のコイルを通って、差動伝送路に出力されることとなる。
【0007】
請求項2の発明に係るノイズフィルタ部品は、一方端及び他方端が絶縁体の前面の第1の外部電極及び後面の第2の外部電極にそれぞれ接続された状態で絶縁体に内包された第1のコイルとこの第1のコイルに並設され、一方端及び他方端が絶縁体の前面の第3の外部電極及び後面の第4の外部電極にそれぞれ接続された第2のコイルとを有し、高周波帯の差動信号を通し且つ高周波帯のコモンモードノイズを抑制するコモンモードチョークコイル部と、一方端が絶縁体に設けた第5の外部電極に接続され、他方端が第1のコイルの他方端に接続された状態で絶縁体に内包され、差動信号よりも低い周波数帯のシングルエンド信号を通す第3のコイルと、一方端が絶縁体に設けた第6の外部電極に接続され、他方端が第2のコイルの他方端に接続された状態で絶縁体に内包され、差動信号よりも低い周波数帯のシングルエンド信号を通す第4のコイルとを備える構成とした。
かかる構成により、第1及び第2の外部電極を差動伝送路の第1の線路に接続すると共に、第3及び第4の外部電極を第2の線路に接続することで、コモンモードチョークコイル部の第1及び第2のコイルと差動伝送路の第1及び第2の線路とが接続された状態になる。そして、第1の分岐線路を第1の線路から分岐させると共に、第5の外部電極を当該第1の分岐線路に接続し、第2の分岐線路を第2の線路から分岐させると共に、第6の外部電極を当該第2の分岐線路に接続することで、絶縁体内部の第3のコイルとコモンモードチョークコイル部の第1のコイルとが並列接続状態になり、第4のコイルとコモンモードチョークコイル部の第2のコイルとが並列接続状態になる。
これにより、高周波帯の差動信号が、第1及び第3の外部電極とコモンモードチョークコイル部と第2及び第4の外部電極とを通過し、低周波帯のシングルエンド信号が第1及び第2の分岐線路と第5及び第6の外部電極と第3及び第4のコイルと第2及び第4の外部電極とを通過する。したがって、高周波帯の高速な差動信号と低周波帯の低速なシングルエンド信号とが混在する差動伝送路上では、差動信号がコモンモードチョークコイル部を通り、シングルエンド信号は第3及び第4のコイルを通って、差動伝送路に出力される。
【0008】
請求項3の発明は、請求項2に記載のノイズフィルタ部品において、第5の外部電極を、絶縁体の前面又は側面に配設すると共に、第6の外部電極を、絶縁体の前面又は側面と対向する側面に配設した構成とする。
【0009】
請求項4の発明に係るノイズフィルタ構造は、請求項2又は請求項3のに記載のノイズフィルタ部品における第1及び第2の外部電極を、差動伝送路の第1の線路に接続すると共に、第3及び第4の外部電極を、第2の線路に接続し、第1の分岐線路を、第1の線路から分岐させると共に、第5の外部電極を、当該第1の分岐線路に接続し、第2の分岐線路を、第2の線路から分岐させると共に、第6の外部電極を、当該第2の分岐線路に接続した構成とする。
かかる構成により、高周波帯の差動信号が、第1及び第3の外部電極とコモンモードチョークコイル部と第2及び第4の外部電極とを通過し、低周波帯のシングルエンド信号が第1及び第2の分岐線路と第5及び第6の外部電極と第3及び第4のコイルと第2及び第4の外部電極とを通過する。したがって、高周波帯の高速な差動信号と低周波帯の低速なシングルエンド信号とが混在する差動伝送路上では、差動信号がコモンモードチョークコイル部を通り、シングルエンド信号は第3及び第4のコイルを通って、差動伝送路に出力される。
【0010】
請求項5の発明は、請求項4に記載のノイズフィルタ構造において、第1のコンデンサを、第1の外部電極の接続点と第1の分岐線路の分岐点との間の第1の線路上に設け、第2のコンデンサを、第3の外部電極の接続点と第2の分岐線路の分岐点との間の第2の線路上に設けた構成とする。
かかる構成により、低周波帯のシングルエンド信号が、第1及び第2の線路上の第1及び第2のコンデンサによって抑制されるので、このシングルエンド信号は、コモンモードチョークコイル部に入力することなく、第1及び第2の分岐線路と第5及び第6の外部電極を通じて、第3及び第4のコイルに入力し、第2及び第4の外部電極から差動伝送路に出力される。したがって、この発明のノイズフィルタ構造を用いることにより、高周波帯の高速な差動信号と低周波帯の低速なシングルエンド信号とを確実に切り分けることができる。
【0011】
請求項6の発明に係るノイズフィルタ部品の使用方法は、第1の分岐線路を、差動伝送路の第1の線路から分岐させると共に、第2の分岐線路を、第2の線路から分岐させ、請求項2又は請求項3に記載のノイズフィルタ部品における上記第1及び第2の外部電極を、上記第1の線路に接続すると共に、上記第3及び第4の外部電極を、第2の線路に接続し、且つ、上記第5の外部電極を、上記第1の分岐線路に接続すると共に、上記第6の外部電極を、上記第2の分岐線路に接続することにより、差動伝送路上の差動信号を上記コモンモードチョークコイル部に通し、シングルエンド信号を、上記第1及び第2の分岐線路を通じて、上記第3及び第4のコイルに通す構成とした。
【発明の効果】
【0012】
以上詳しく説明したように、この発明のノイズフィルタ部品,ノイズフィルタ構造及びノイズフィルタ部品の使用方法によれば、高周波帯の高速な差動信号と低周波帯の低速なシングルエンド信号とが混在する差動伝送路上において、差動信号をコモンモードチョークコイル部で通過させ、シングルエンド信号を第3及び第4のコイルで通過させるので、ノイズ抑制効果を損なうことなく、差動信号及びシングルエンド信号の波形品質に影響を与えることなく、通過させることができるという優れた効果がある。
特に、請求項5の発明によれば、高周波帯の高速な差動信号と低周波帯の低速なシングルエンド信号とを確実に切り分けることができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】この発明の第1実施例に係るノイズフィルタ部品を示す電気的構成図である。
【図2】図1のノイズフィルタ部品の外観図である。
【図3】図2のノイズフィルタ部品の分解斜視図である。
【図4】ノイズフィルタ部品の作用及び効果を説明するためのノイズフィルタ部品実装図である。
【図5】この発明の第2実施例に係るノイズフィルタ部品を示す電気的構成図である。
【図6】図5のノイズフィルタ部品の外観図である。
【図7】図5のノイズフィルタ部品の分解斜視図である。
【図8】このノイズフィルタ部品の使用例を示すノイズフィルタ構造の電気的構成図である。
【図9】シミュレーションに用いた評価回路図である。
【図10】ディファレンシャルモード時における透過特性を示す線図である。
【図11】コモンモード時における反射特性を示す線図である。
【図12】通過前のシングルエンド信号の波形図である。
【図13】コモンモードチョークコイル単体を通過したシングルエンド信号の波形図である。
【図14】ノイズフィルタ回路を通過したシングルエンド信号の波形図である。
【図15】この発明の第3実施例に係るノイズフィルタ部品を示す電気的構成図である。
【図16】図15のノイズフィルタ部品の外観図である。
【図17】この発明の第3実施例に係るノイズフィルタ構造を電気的構造図である。
【図18】従来技術を示す電気的構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、この発明の最良の形態について図面を参照して説明する。
【実施例1】
【0015】
図1は、この発明の第1実施例に係るノイズフィルタ部品を示す電気的構成図であり、図2は、図1のノイズフィルタ部品の外観図であり、図3は、図2のノイズフィルタ部品の分解斜視図である。
【0016】
図1に示すように、この実施例のノイズフィルタ部品1−1は、コモンモードチョークコイル部2と、第3のコイルとしてのコイル3と、第4のコイルとしてのコイル4と、第1ないし第4の外部電極としての外部電極6−1〜6−4とを備えている。
【0017】
コモンモードチョークコイル部2は、高周波帯の高速な差動信号を通し且つ高周波帯のコモンモードノイズを抑制する部分であり、絶縁体5に内包された状態で並設された第1のコイルとしてのコイル21と第2のコイルとしてのコイル22とを有している。
具体的には、図3に示すように、コイル21の他方端としての引き出し端部21bを、絶縁体5を構成する最下位の絶縁層51上に形成して、絶縁層51の後縁まで引き出し、絶縁層52を、引き出し端部21b上に積層した。そして、コイル21を、絶縁層52上に形成し、一方端としての引き出し端部21aを絶縁層52の前縁迄引き出した。また、コイル21の内端21cと引き出し端部21bとを、絶縁層52に形成したビアホール52aを通じて接続し、絶縁層53を、コイル21上に積層した。
しかる後、コイル22を、絶縁層53上に形成すると共に、一方端としての引き出し端部22aを絶縁層53の前縁迄引き出した。そして、絶縁層54を、コイル22上に積層した。しかる後、コイル22の他方端としての引き出し端部22bを絶縁層54上に形成して、絶縁層54の後縁まで引き出すと共に、コイル22の内端22cと引き出し端部22bとを、絶縁層54に形成したビアホール54aを通じて接続した。そして、最上位の絶縁層55を、引き出し端部22b上に積層することで、コモンモードチョークコイル部2を絶縁体5の内部に形成した。
【0018】
外部電極6−1〜6−4は、このようなコモンモードチョークコイル部2を内包した絶縁体5の側面に設けられている。
具体的には、図2に示すように、外部電極6−1を絶縁体5の前面5aの左側に、外部電極6−2を前面5aと対向する後面5bの左側に、外部電極6−3を前面5aの右側に、外部電極6−4を後面5bの右側にそれぞれ設けている。
そして、図3に示すように、外部電極6−1をコイル21の引き出し端部21aに接続し、外部電極6−2を引き出し端部21bに接続している。また、外部電極6−3をコイル22の引き出し端部22aに接続し、外部電極6−4を引き出し端部22bに接続している。
【0019】
コイル3,4は、差動信号よりも低い周波数帯のシングルエンド信号を通すためのコイルであり、図1に示すように、コモンモードチョークコイル部2のコイル21,22にそれぞれ並列に接続された状態で絶縁体5に内包されている。
具体的には、図3に示すように、コイル3を、絶縁層52上に形成し、その引き出し端部31をコイル21の引き出し端部21aに接続した。また、コイル3の引き出し端部32は、絶縁層51上に形成し、コイル21の引き出し端部21bに接続した。そして、コイル3の引き出し端部31と引き出し端部32とを、絶縁層52のビアホール52bを通じて接続した。つまり、コイル3をコイル21に並列に接続した。
一方、コイル4は、絶縁層53上に形成し、その引き出し端部41をコイル22の引き出し端部22aに接続した。また、コイル4の引き出し端部42は、絶縁層54上に形成し、コイル22の引き出し端部22bに接続した。そして、コイル4の引き出し端部41と引き出し端部42とを、絶縁層54のビアホール54bを通じて接続した。つまり、コイル4をコイル22に並列に接続した。
【0020】
次に、この実施例のノイズフィルタ部品が示す作用及び効果について説明する。
図4は、この実施例のノイズフィルタ部品1−1の作用及び効果を説明するためのノイズフィルタ部品実装図である。
図4に示すように、ノイズフィルタ部品1−1の外部電極6−1及び外部電極6−2をこの差動伝送路100の第1の線路としての線路101に接続すると共に、外部電極6−3及び外部電極6−4を第2の線路としての線路102に接続することで、ノイズフィルタ部品1−1を差動伝送路100に実装することができる。
かかる状態で、高周波帯の高速な差動信号S+,S−と低周波帯の低速なシングルエンド信号S,Sとを混在させて、差動伝送路100の線路101,102上に伝送すると、高周波帯の差動信号S+,S−は、外部電極6−1,6−3からノイズフィルタ部品に流入し、コモンモードチョークコイル部2を通って、外部電極6−2,6−4から差動伝送路100の線路101,102に流出する。
一方、シングルエンド信号S,Sは、外部電極6−1,6−3からノイズフィルタ部品1−1に流入すると、低周波のシングルエンド信号S,Sに対して、コイル3,4のインピーダンスの方がコモンモードチョークコイル部2のインピーダンスよりも低くなるため、シングルエンド信号S,Sは、低インピーダンスのコイル3,4を通る。このとき、コイル3,4は互いに遠く離れ、コイル3,4間に磁気結合が生じないので、シングルエンド信号S,Sにスパイク電圧が生じることはない。したがって、波形品質を維持したシングルエンド信号S,Sが、コイル3,4を通って、外部電極6−2,6−4から差動伝送路100の線路101,102に流出することとなる。つまり、コイル3,4がローパスフィルタとして機能する。
すなわち、高周波帯の差動信号S+,S−と低周波帯のシングルエンド信号S,Sとが混在する差動伝送路100上において、差動信号S+,S-がコモンモードチョークコイル部2を通り、シングルエンド信号S,Sは、波形品質に影響を与えないコイル3,4を通ることとなる。
なお、差動伝送路100に図示しない高周波のコモンモードノイズが生じると、このノイズは、外部電極6−1,6−3を通じてコモンモードチョークコイル部2に入力し、コモンモードチョークコイル部2によって減衰される。
【0021】
この実施例のノイズフィルタ部品1−1は、絶縁体5に内包された4つのコイル21,22,3,4のうちの内側2本のコイル21,22をコモンモードチョークコイル部2に使用し、2本のコイル3,4をコモンモードチョークコイル部2の外側に配した構成であるので、図18に示した従来のノイズ対策部品と同じサイズに納めることができる。また、従来のノイズ対策部品が外部電極数が8つであるのに対して、この実施例の外部電極数が4つであるので、その分ノイズフィルタ部品1−1の実装工程数の削減と実装不良の低減化とを図ることができる。
【実施例2】
【0022】
次に、この発明の第2実施例について説明する。
図5は、この発明の第2実施例に係るノイズフィルタ部品を示す電気的構成図であり、図6は、図5のノイズフィルタ部品の外観図であり、図7は、図5のノイズフィルタ部品の分解斜視図である。
図5に示すように、この実施例のノイズフィルタ部品1−2は、コイル3,4の接続構造が、上記第1実施例と異なる。
すなわち、コイル3のその一方端が、外部電極6−1に接続せず、第5の外部電極としての外部電極6−5に接続されている。そして、コイル4の一方端も、第6の外部電極としての外部電極6−6に接続されている。
【0023】
具体的には、図6に示すように、外部電極6−5を、絶縁体5の前面5aの最左側に配設すると共に、外部電極6−6を、前面5aの最右側に配設した。
そして、図7に示すように、コイル3の引き出し端部31を、コイル21の引き出し端部21aから切り離して、外部電極6−5に接続した。また、コイル4の引き出し端部41も、コイル22の引き出し端部22aから切り離して、外部電極6−6に接続した。
【0024】
次に、この実施例のノイズフィルタ部品1−2の使用例について説明する。
なお、この使用例は、この発明のノイズフィルタ構造の具体的な一例を示すと共に、この発明のノイズフィルタ部品の使用方法を具体的に実行するものでもある。
図8は、このノイズフィルタ部品1−2の使用例を示すノイズフィルタ構造の電気的構成図である。
図8に示すように、この構造においては、第1の分岐線路としての分岐線路11を、線路101から分岐させると共に、第2の分岐線路としての分岐線路12を、線路102から分岐させておく。
そして、外部電極6−1,6−2を差動伝送路100の線路101に接続すると共に、外部電極6−3,6−4を線路102に接続することで、ノイズ対策部品1−2のコモンモードチョークコイル部2が線路101,102に接続した状態になる。
さらに、外部電極6−5を分岐線路11に接続し、外部電極6−6を分岐線路12に接続すると、絶縁体5内部のコイル3とコモンモードチョークコイル部2のコイル21とが並列接続状態になり、コイル4とコモンモードチョークコイル部2のコイル22とが並列接続状態になる。
これにより、高周波帯の差動信号が、外部電極6−1,6−3とコモンモードチョークコイル部2と外部電極6−2,6−4とを通過し、低周波帯のシングルエンド信号が分岐線路11,12と外部電極6−5,6−6とコイル3,4と外部電極6−2,6−4とを通過する。
したがって、高周波帯の差動信号と低周波帯のシングルエンド信号とが混在する差動伝送路100上では、差動信号がノイズフィルタ部品1−2のコモンモードチョークコイル部2を通り、シングルエンド信号は分岐線路11,12を通じてコイル3,4を通り、差動伝送路100に出力される。この結果、波形品質が保持されたシングルエンド信号がノイズフィルタ部品1−2から出力される。
【0025】
発明者はかかる効果を確認すべく、次のようなシミュレーションを行った。
図9は、シミュレーションに用いた評価回路図である。
図9に示すように、この評価回路では、1つのコモンモードチョークコイル2′と2つのコイル素子3′,4′とを並列に接続して、ノイズフィルタ回路1′を構成し、このノイズフィルタ回路1′を差動伝送路100の線路101,102に組み付けることで、図8のノイズフィルタ構造と実質的に同一な構造にした。
また、差動信号及びシングルエンド信号生成用のパルスジェネレータ121,122を差動伝送路100の送信側に接続し、レシーバIC110を受信側に接続した。
【0026】
このような評価回路において、まず、レシーバIC110の内部の終端条件を50Ωに設定して、高速1Gbpsの差動信号S+,S−をパルスジェネレータ121,122から差動伝送路100の線路101,102に出力した。
【0027】
このとき、コモンモードチョークコイル2′のみの場合とコモンモードチョークコイル2′及びコイル素子3′,4′で構成されたノイズフィルタ回路1′との場合に分けて、ディファレンシャルモード時における透過特性Sdd21(dB)とコモンモード時における反射特性Scc11(dB)とを調べた。
図10は、ディファレンシャルモード時における透過特性Sdd21を示す線図であり、図11は、コモンモード時における反射特性Scc11を示す線図である。
まず、図9において、コイル素子3′,4′を取り除き、コモンモードチョークコイル2′のみを組み込んだ回路において、Sパラメータを算出したところ、図10の曲線S1で示す結果を得た。
次に、図9に示すように、コイル素子3′,4′をコモンモードチョークコイル2′に並列に接続したノイズフィルタ回路1′において、Sパラメータを算出したところ、図10の曲線S2で示す結果を得た。
これらの結果から、コモンモードチョークコイル2′単体及びノイズフィルタ回路1′の双方において、低周波から高周波の差動信号S+,S−を通す。つまり、双方とも、約1Gbpsという高速の差動信号S+,S−を減衰させることなく、通過させることができることが確認された。
また、コモンモードチョークコイル2′のみを組み込んだ回路において、Sパラメータを算出したところ、図11の曲線S1で示す結果を得た。
次に、コイル素子3′,4′をコモンモードチョークコイル2′に組み付けたノイズフィルタ回路1′において、Sパラメータを算出したところ、図11の曲線S2で示す結果を得た。
これらの結果から、コモンモードチョークコイル2′単体の場合は、曲線S1で示すように、低周波から高周波の広い帯域でシングルエンド信号S,Sが反射されているが、ノイズフィルタ回路1′に場合には、曲線S2で示すように、低周波帯のシングルエンド信号S,Sを、曲線S1に比べて、ほとんど反射せずに、透過させることが確認された。
すなわち、ノイズフィルタ回路1′の場合には、約800MHz〜2GHzという高周波のコモンモードノイズに対しては十分な減衰効果を発揮し、約40Mbps迄(〜20MHz)の低速なシングルエンド信号S,Sに対しては、波形品質に極力影響を与えることなく通過させることが判る。つまり、ノイズフィルタ回路1′の場合には、シングルエンド信号S,Sが、磁気結合を生じないコイル素子3′,4′を通るため、スパイク電圧がシングルエンド信号S,Sに生じないと考えられる。
【0028】
そこで、発明者は、シングルエンド信号S,Sの波形品質に関するシミュレーションを行った。
図12は、通過前のシングルエンド信号の波形図であり、図13は、コモンモードチョークコイル単体を通過したシングルエンド信号の波形図であり、図14は、ノイズフィルタ回路を通過したシングルエンド信号の波形図である。
まず、上記シミュレーションと同様に、低速10Mbpsのシングルエンド信号S,Sをパルスジェネレータ121,122から差動伝送路100に出力した。
そして、コモンモードチョークコイル2′単体の場合とコモンモードチョークコイル2′と2つのコイル素子3′,4′とで構成されたノイズフィルタ回路1′との場合とに分けて、これらを通過する直前、即ち図9のa点及びb点におけるシングルエンド信号S,Sの波形を調べた。
すると、コモンモードチョークコイル2′単体及びノイズフィルタ回路1′の双方において、線路101,102を伝わるシングルエンド信号S,Sの波形は、図12の(a)及び(b)に示すような矩形波であった。なお、これらの図において、線路101を伝わるシングルエンド信号を符号Sl01で表示し、線路102を伝わるシングルエンド信号を符号S102で表示した。
次に・コモンモードチョークコイル2′単体の場合において、これを通過した後、即ち図9のc点及びd点におけるシングルエンド信号S,S(Sl01,Sl02)の波形を調べた。
すると・図13の(a)及び(b)に示すように、シングルエンド信号S101,S102の立ち上がりや立ち下がりに大きな振幅のスパイク電圧S′が生じた。つまり、上記した従来技術のように、コモンモードチョークコイル2′単体の場合には、大きなスパイク電圧が発生することが判る。
最後に、ノイズフィルタ回路1′の場合において、これを通過した後、即ち図9のc点及びd点におけるシングルエンド信号S,S(S101,S102)の波形を調べた。
すると、図14の(a)及び(b)に示すように、シングルエンド信号S101,S102の立ち上がりや立ち下がりのスパイク電圧S′の振幅は非常に小さかった。つまり、上記した従来技術のように、ノイズフィルタ回路1′の場合には、スパイク電圧が抑制されることが判る。
【0029】
また、高速1Gbpsの差動信号S+,S−についても、同様のシミュレーションを行ったところ、差動信号S+,S−は、コモンモードチョークコイル2′単体及びノイズフィルタ回路1′のいずれの場合にも、波形品質が損なわれることなく、通過することが判った。
その他の構成、作用及び効果は、上記第1実施例と同様であるので、その記載は省略する。
【実施例3】
【0030】
次に、この発明の第3実施例について説明する。
図15は、この発明の第3実施例に係るノイズフィルタ部品を示す電気的構成図であり、図16は、図15のノイズフィルタ部品の外観図である。
この実施例は、外部電極の配置が、上記第2実施例と異なる。
具体的には、この実施例のノイズフィルタ部品1−3では、図15及び図16に示すように、外部電極6−5を、絶縁体5の左側面5cに配設すると共に、外部電極6−6を、絶縁体5の左側面5cと対向する右側面5dに配設した。
そして、コイル3の引き出し端部31を左側面5cの外部電極6−5に接続すると共に、コイル4の引き出し端部41を右側面5dの外部電極6−6に接続した。
【0031】
上記第2実施例では、4つの外部電極6−1,6−3,6−5,6−6を絶縁体5の 前面5aに配置したため、ノイズ対策部品がやや大きめになるが、この実施例のように、外部電極6−5,6−6を両側面5c,5dに配置することで、ノイズフィルタ部品を小型にすることができる。
その他の構成、作用及び効果は、上記第2実施例と同様であるので、その記載は省略する。
【実施例4】
【0032】
次に、この発明の第4実施例について説明する。
図17は、この発明の第3実施例に係るノイズフィルタ構造を電気的構造図である。
図17に示すように、この構造においては、上記第2実施例と同様に、ノイズフィルタ部品1−2の外部電極6−1,6−2を差動伝送路100の線路101に接続し、外部電極6−3,6−4を線路102に接続すると共に、外部電極6−5を分岐線路11に接続し、外部電極6−6を分岐線路12に接続している。
そして、第1のコンデンサとしてのコンデンサ7を、線路101と外部電極6−1の接続点P1と分岐線路11の分岐点P2との間に設けると共に、第2のコンデンサとしてのコンデンサ8を、線路102と外部電極6−3との接続点P3と分岐線路12の分岐点P4との間に設けた。
【0033】
これにより、低周波帯のシングルエンド信号S,Sが、線路101,102を通ってコモンモードチョークコイル部2側に向かおうとすると、コンデンサ7,8によって抑制される。したがって、シングルエンド信号S,Sは、コモンモードチョークコイル部2に入力することなく、分岐線路11,12を通って外部電極6−5,外部電極6−6からコイル3,4に入力する。
すなわち、この実施例のノイズフィルタ構造を用いることにより、高周波帯の差動信号と低周波帯のシングルエンド信号とを確実に切り分けることができる。
その他の構成、作用及び効果は、上記第2実施例と同様であるので、その記載は省略する。
【符号の説明】
【0034】
1−1〜1−3…ノイズフィルタ部品、 1′…ノイズフィルタ回路、 2…コモンモードチョークコイル部、 2′…コモンモードチョークコイル、 3,4,21,22…コイル、 3′,4′…コイル素子、 5…絶縁体、 5a…前面、 5b…後面、 5c,5d…側面、 6−1〜6−6…外部電極、 7,8…コンデンサ、 11,12…分岐線路、 21a,21b,22a,22b,31,32,41,42…引き出し端部、 21c,22c…内端、 51〜55…絶縁層、 52a,52b,54a,54b…ビアホール、 100…差動伝送路、 101,102…線路、 P1,P3…接続点、 P2,P4…分岐点、 S+,S-…差動信号、 S…シングルエンド信号、 S′…スパイク電圧。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方端及び他方端が絶縁体の前面の第1の外部電極及び後面の第2の外部電極にそれぞれ接続された状態で絶縁体に内包された第1のコイルと、この第1のコイルに並設され、一方端及び他方端が絶縁体の前面の第3の外部電極及び後面の第4の外部電極にそれぞれ接続された第2のコイルとを有し、高周波帯の差動信号を通し且つ高周波帯のコモンモードノイズを抑制するコモンモードチョークコイル部と、
上記コモンモードチョークコイル部の第1のコイルに並列に接続された状態で絶縁体に内包され、上記差動信号よりも低い周波数帯のシングルエンド信号を通す第3のコイルと、
上記第2のコイルに並列に接続された状態で絶縁体に内包され、上記差動信号よりも低い周波数帯のシングルエンド信号を通す第4のコイルと
を備えることを特徴とするノイズフィルタ部品。
【請求項2】
一方端及び他方端が絶縁体の前面の第1の外部電極及び後面の第2の外部電極にそれぞれ接続された状態で絶縁体に内包された第1のコイルとこの第1のコイルに並設され、一方端及び他方端が絶縁体の前面の第3の外部電極及び後面の第4の外部電極にそれぞれ接続された第2のコイルとを有し、高周波帯の差動信号を通し且つ高周波帯のコモンモードノイズを抑制するコモンモードチョークコイル部と、
一方端が上記絶縁体に設けた第5の外部電極に接続され、他方端が上記第1のコイルの上記他方端に接続された状態で上記絶縁体に内包され、上記差動信号よりも低い周波数帯のシングルエンド信号を通す第3のコイルと、
一方端が上記絶縁体に設けた第6の外部電極に接続され、他方端が上記第2のコイルの上記他方端に接続された状態で上記絶縁体に内包され、上記差動信号よりも低い周波数帯のシングルエンド信号を通す第4のコイルと
を備えることを特徴とするノイズフィルタ部品。
【請求項3】
請求項2に記載のノイズフィルタ部品において、
上記第5の外部電極を、上記絶縁体の前面又は側面に配設すると共に、上記第6の外部電極を、絶縁体の前面又は上記側面と対向する側面に配設した、
ことを特徴とするノイズフィルタ部品。
【請求項4】
請求項2又は請求項3のに記載のノイズフィルタ部品における上記第1及び第2の外部電極を、差動伝送路の第1の線路に接続すると共に、上記第3及び第4の外部電極を、第2の線路に接続し、
第1の分岐線路を、上記第1の線路から分岐させると共に、上記第5の外部電極を、当該第1の分岐線路に接続し、
第2の分岐線路を、上記第2の線路から分岐させると共に、上記第6の外部電極を、当該第2の分岐線路に接続した、
ことを特徴とするノイズフィルタ構造。
【請求項5】
請求項4に記載のノイズフィルタ構造において、
第1のコンデンサを、上記第1の外部電極の接続点と上記第1の分岐線路の分岐点との間の上記第1の線路上に設け、
第2のコンデンサを、上記第3の外部電極の接続点と上記第2の分岐線路の分岐点との間の上記第2の線路上に設けた、
ことを特徴とするランド構造。
【請求項6】
第1の分岐線路を、差動伝送路の第1の線路から分岐させると共に、第2の分岐線路を、第2の線路から分岐させ、
請求項2又は請求項3に記載のノイズフィルタ部品における上記第1及び第2の外部電極を、上記第1の線路に接続すると共に、上記第3及び第4の外部電極を、第2の線路に接続し、且つ、上記第5の外部電極を、上記第1の分岐線路に接続すると共に、上記第6の外部電極を、上記第2の分岐線路に接続することにより、
差動伝送路上の差動信号を上記コモンモードチョークコイル部2に通し、シングルエンド信号を、上記第1及び第2の分岐線路を通じて、上記第3及び第4のコイルに通す、
ことを特徴とするノイズフィルタ部品の使用方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2011−129996(P2011−129996A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−284005(P2009−284005)
【出願日】平成21年12月15日(2009.12.15)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】