説明

ノイズ防止コイル回路

通信入力部と通信回路の間に接続するコイル回路で、高周波信号の交流電圧をE、コイル回路の端子HS間の電圧をV、負荷の内部抵抗をrとする通信回路において、入力の高周波信号に対して信号の交流電圧Eと端子HS間の電圧の比がV/E<=0.1になり、インピーダンスが小さく、高周波信号を負荷に流すことができ、異常な大きいノイズに対しては、インピーダンスが非常に大きくなって、ノイズが負荷に流れるのを防止するノイズ防止コイル回路である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、通信機器等の電子機器の通信入力部における外部からのノイズの流入を防止する保護回路に関する。
【背景技術】
情報通信は、専用の通信線、あるいは、商用電源の交流電圧線に高周波信号を流して行うが、専用の通信線には、雷による誘導電圧ノイズが発生したり、また、交流電圧線には、雷による誘導電圧ノイズやパワーの大きな電気機器のオン、オフによるサージ電圧ノイズが流れたりする。
従来の高周波回路のノイズ防止方法は、第19図のように、通信入力部の線(H)とグランド間にバリスタやアレスタ等の定電圧素子を接続し、負荷側に抵抗R30を直列に接続する。大きなノイズの流入に対しては、大きなノイズ電流が抵抗R30に流れることで抵抗R30に発生する電圧により、定電圧素子にかかる電圧を上昇させ、定電圧素子を機能させて、高電圧の電流をグランドに流し、通信入力部の高電圧を下げることにより、大きなノイズが負荷に流れるのを抵抗R30で少し弱めている。大きな抵抗値の抵抗を接続すると、ノイズを大きく弱めることができるが、同時に正常な高周波信号も大きく減衰するために、抵抗値を大きく設定することはできない。
また、信号の周波数が比較的低い低周波回路においては、第19図の抵抗R30の替わりにコイルを接続している。ノイズが負荷に流れるのをコイルで防止するためには、ある程度の大きさのインダクタンスのコイルが必要であるために、低周波回路においては使用できるが、高周波回路においては、コイルのインピーダンスが大きくなって高周波信号を大きく減衰させるために、コイルを使用できない。従って、高周波回路では、抵抗でノイズを少し弱めるだけで、ノイズを十分に防止できないという欠点があった。
高周波信号で行う情報通信において、この欠点は通信機器や通信ネットワークの安全性、信頼性に関して大きな障害である。具体的には、大きい雷サージ等のノイズでその地域の多くの通信機器が故障し、また、通信ネットワークが寸断するなどの問題があった。
この改善策として、通信の同軸ケーブルに誘導する雷ノイズを吸収するために、同軸ケーブルをトランスの1次側線とし、2次側巻線の線条の両端部間に抵抗を接続した回路(特開平7−39071)がある。しかしこの回路は、同軸ケーブルに適用するものであり、単線ケーブルに適用できない。さらに、同軸ケーブルに適用した場合であっても、トランスの1次側と2次側のインダクタンスの大きさが、正常な高周波信号に対しても、異常な大きいノイズに対しても、同じであるため、インダクタンスをあまり大きくすると、正常な高周波信号を減衰また劣化させることになり、インダクタンスをあまり大きくできない。そのために、このトランスのインダクタンスでは、異常な大きいノイズを確実に防止することができない。
別の改善策として、第20図のISDN回線の雷サージ保護回路のように、通信線(F)と他方の通信線(N)の間に両方向サイリスタ31の定電圧素子を接続し、両通信線(F、N)とグランドの間に3極ガスチューブアレスタ33(以下、3極アレスタ)の定電圧素子を接続し、それらの定電圧素子より負荷(通信機器)側の通信線(F)と他方の通信線(N)に協調用インピーダンス35a、35bを接続した回路(特開2002−354662)がある。協調用インピーダンス35a、35bは、抵抗、また、フェライトコア、また、両通信線(F、N)をねじることによるインダクタンスである。
第20図の回路では、ISDN通信の160kHzにおいて60dB以上を確保するために、両通信線(F、N)とグランドの間に、静電容量が数pFの3極アレスタを用いている。アレスタは、過電圧が印加されてから、2〜6μsec遅れて放電を開始するために、その遅れの間に、大きなノイズが負荷に流れるが、その大きなノイズを弱めるために、協調用インピーダンス35a、35bを接続している。しかし、協調用インピーダンス35a、35bのインピーダンスを大きくすると、ノイズを大きく弱めることができるが、同時に正常な高周波信号も大きく減衰させるために、インピーダンスをあまり大きく設定することはできない。
また、第20図の回路の両通信線(F、N)間は、両方向サイリスタ31で接続しているが、両通信線(F、N)間にかかる大きなノイズを両方向サイリスタ31だけで吸収する(流す)ためには、短絡電流が大きい両方向サイリスタが必要になるが、短絡電流が大きい両方向サイリスタは、静電容量が数100pFと大きいために、周波数が比較的低い通信はできるが、高周波通信はできない。また、高周波通信をするために、静電容量の小さい両方向サイリスタを使用すると、短絡電流が小さく、大きなノイズを十分に吸収することができないという問題がある。
従って、本発明は、従来の通信線のノイズ防止回路では、正常な高周波信号を減衰させることなく、異常な大きいノイズが負荷に流れるのを防止できなかった問題点を解決するために、通信入力部の定電圧素子と負荷(通信回路)の間に、通信の正常な高周波信号に対しては、非常に小さいインダクタンスで高周波信号を流すことができ、雷ノイズやサージ電圧ノイズに対しては、非常に大きなインピーダンスを発生して、ノイズが負荷に流れるのを確実に防止することができ、さらに、両通信線間の静電容量と、両通信線とグランド間の静電容量を小さくすることにより高周波信号を流すことができるノイズ防止コイル回路を提供することを目的としている。
【発明の開示】
本発明は、通信入力部と通信回路(負荷)の間に、正常な高周波信号に対しては、インピーダンスが非常に小さくなり、また、異常な大きいノイズに対しては、インピーダンスが非常に大きくなるように構成したコイル回路を接続して、正常な高周波信号は減衰させずに負荷に流し、異常な大きいノイズが負荷に流れるのを確実に防止するノイズ防止コイル回路を実現したものである。
【図面の簡単な説明】
第1図は、通信入力部と負荷の間に接続した本発明のノイズ防止コイル回路を説明する図である。
第2図は、ノイズ防止コイル回路の第1の実施例を説明する図である。
第3図は、第2図のノイズ防止コイル回路の特性図である。
第4図は、ノイズ防止コイル回路の第2の実施例を説明する図である。
第5図は、ノイズ防止コイル回路の第3の実施例を説明する図である。
第6図は、ノイズ防止コイル回路の第4の実施例を説明する図である。
第7図は、ノイズ防止コイル回路の第5の実施例を説明する図である。
第8図は、ノイズ防止コイル回路の第6の実施例を説明する図である。
第9図は、ノイズ防止コイル回路の第7の実施例を説明する図である。
第10図は、ノイズ防止コイル回路の第8の実施例を説明する図である。
第11図は、ノイズ防止コイル回路の第9の実施例を説明する図である。
第12図は、第9の実施例のディファレンシャル・モード部を説明する図である。
第13図は、第12図のノイズ防止コイル回路の特性図である。
第14図は、第12図のノイズ防止コイル回路にノイズが印加した場合の電圧電流特性図である。
第15図は、第12図のノイズ防止コイル回路の別の回路を説明する図である。
第16図は、第9の実施例のコモン・モード部を説明する図である。
第17図は、第16図のノイズ防止コイル回路にノイズが印加した場合の電圧電流特性図である。
第18図は、ノイズ防止コイル回路の第10の実施例を説明する図である。
第19図は、従来例の第1の雷防護回路を説明する図である。
第20図は、従来例の第2の雷防護回路を説明する図である。
【発明を実施するための最良の形態】
図面にもとづき以下、発明の実施例の詳細を説明する。
第1図は、通信入力部(端子H)と通信回路(端子S、負荷側)の間に本発明のノイズ防止コイル回路を接続したものであり、通信信号の交流電圧をE、コイル回路の端子Hと端子S間の電圧をV、負荷の内部抵抗をrとする。電源に並列に定電圧素子を接続する。
第1図により、本発明のノイズ防止コイル回路の正常な高周波信号に対するインピーダンスの大きさを説明する。
高周波信号が流れる時のコイル回路のインピーダンスの大きさの指標として、信号の交流電圧Eと端子HS間の電圧Vの比(V/E)をとることができる。すなわち、コイル回路の内部抵抗が、負荷の内部抵抗rにくらべて無視できなくなる大きさになると、大きな電圧が端子HS間に発生し、V/Eは大きくなる。V/Eの値がいくら以下なら無視できると言う明確な基準はないが、一般的にはV/E<=0.1の場合、コイル回路のインピーダンスは許容される大きさの範囲であると言える。V/E>0.1の場合は、コイル回路における信号の減衰が大きくなり好ましくない。
本発明のノイズ防止コイル回路は、正常な高周波信号に対してインピーダンスが小さく、信号の交流電圧Eと端子HS間の電圧Vの比がV/E<=0.1になり、異常な大きいノイズに対してインピーダンスが非常に大きくなり、ノイズが負荷に流れるのを確実に防止できるコイル回路である。
第2図は、本発明のノイズ防止コイル回路の第1の実施例であり、コイルL1にコンデンサC1を並列に接続したコイル回路である。端子Hを入力側とし、端子Sを負荷側とする。コイルL1のインダクタンスは、入力端子Hに流れ込む大きなノイズを防止するのに必要な大きさである。今、第2図のLC並列回路を第1図のコイル回路に置き換えて、コイルL1のインダクタンスL=5mH、負荷内部抵抗r=200Ωとする。入力高周波信号の周波数fとコンデンサC1の容量Cに対するV/Eの大きさを、表1に示す。コンデンサC1の容量C=100pFの場合、V/E<=0.1になるのは、信号の周波数f>約50MHzである。また、コンデンサC1の容量C=1nFの場合、V/E<=0.1になるのは、信号の周波数f>約5MHzである。コイルL1のインダクタンスL=5mHは1例で、これに限定するものではなく、コイルのインダクタンスとコンデンサの容量と信号の周波数の値は、あくまでも、使用条件、取付け場所等に合わせて調整する。
従って、入力端子Hに流れ込む大きなノイズを防止するのに必要な大きさのインダクタンスのコイルL1に、入力高周波信号ISに対して信号の交流電圧Eと端子HS間の電圧Vの比がV/E<=0.1になる容量CのコンデンサC1を並列に接続することにより、高周波信号ISを大きく減衰させることなく負荷に流すことができる。
表1に示すように、周波数の低い入力信号に対して、コンデンサC1の容量Cを大きくすることにより、信号の交流電圧Eと端子HS間の電圧Vの比をV/E<=0.1にすることができるが、コンデンサ容量Cが大きくなると、雷ノイズまたスパークノイズ等の100kHzから数100kHzのノイズも流れ易くなるために、コンデンサ容量Cをあまり大きく出来ない。コンデンサC1の容量Cの大きさの上限は、異常なノイズに対して、信号の交流電圧Eと端子HS間の電圧Vの比がV/E>0.5の範囲が好ましい。
第3図に、正常な高周波信号がコイルL1とコンデンサC1を流れるようすを示す。コイルL1には、高周波信号ISの直流分の一定電流IL1が流れ、コンデンサC1には、充放電電流として交流分の振幅電流IC1が流れる。そして、出力端子Sから負荷に、高周波信号ISが流れる。
また、入力端子Hに大きなノイズが流れ込む場合、コンデンサC1の容量は、高周波信号の交流分の振幅電流を流すことができる程度の小さい容量であるので、大きなノイズはコイルL1を流れようとするが、大きいノイズによる急激な電流変化(増大)に対しては、コイルL1は大きいインダクタンスとして機能して大きなインピーダンスが発生するために、大きいノイズが負荷に流れるのを確実に防止することができる。
コイルL1をインダクタンス可変型にする、また、コンデンサC1を容量可変型にすることにより、使用場所、使用条件、異常状況に合わせて、最適な状態のノイズ防止コイル回路に調整できる。可変方法は、直列方式(直列の値の変更)でも、また、並列方式(並列の値の変更)でもよく、そして、手動でも自動でも可能である。
同様に、方形波の高周波信号ISに対しても、コンデンサの容量を方形波の高周波信号ISに合わせて選ぶことにより流すことができる。
【表1】

第4図は、本発明のコイル回路の第2の実施例であり、第2図のコイルL1とコンデンサC1の並列回路に、コイルL5を直列に接続したコイル回路である。端子Hを入力側とし、端子Sを負荷側とする。コイルL1とL5は、磁気けつごうしていない。
入力信号ISにおいて、信号の交流電圧Eと、コイルL1とコンデンサC1の並列回路の電圧Vの比がV/E>0.1になる場合は、コイルL1とコンデンサC1の並列回路にコイルL5を直列に接続し、コンデンサC1とコイルL5を直列共振させることにより、コイル回路全体のインピーダンスを小さくすることができる。
1例として、コイルL1のインダクタンスL=5mH、コンデンサC1の容量C=1nF、負荷内部抵抗r=200Ωにおいて、入力信号の周波数f=2MHzの場合、表1からV/E=0.2である。今、コイルL5のインダクタンスL=6μHとすると、コイルL1とコンデンサC1の並列回路における電圧とコイルL5における電圧とは逆相で、これらの電圧はほぼ等しくなり、等価的にはコイル回路全体が短絡された形となり、V/E=0.02になる。これにより、このコイル回路は、高周波信号ISを減衰させず、位相をずらさずに負荷に流すことができる。
コイルL5のインダクタンスを可変にすることにより、位相を可変でき、必要な位相の進み具合に、位相を合わせることができ、また、高周波信号の周波数に合わせてコイル回路全体のインピーダンスを小さく、あるいは、必要な値に調整することができる。
入力端子Hに大きなノイズが流れ込む場合、第1の実施例と同様に、コイルL1が、大きなノイズが負荷に流れるのを確実に防止する。
第5図は、本発明のコイル回路の第3の実施例であり、コイルL2に、コイルL3とコンデンサC3の直列回路を並列に接続したコイル回路である。端子Hを入力側とし、端子Sを負荷側とする。コイルL2とL3は、入力端子H側を巻き始め(黒丸)として磁気結合している。
コイルL2は、入力端子Hに流れ込む大きなノイズを防止するのに必要な大きさのインダクタンスである。コイルL2とコイルL3は、巻き始めが同じで、磁気結合しているため、コイルL2を流れる電流IL2の交流電流は、高周波信号ISを負荷に流すとともに、コンデンサC3の充放電に従って、コイルL3とコンデンサC3を電流IC3として流れ循環するので、コンデンサの容量を高周波信号ISとコイルL2とL3のインダクタンスの組み合わせに合わせて選ぶことにより、入力端子Hと出力端子Sの間のインダクタンスは等価的に小さくなり、高周波信号ISを流すことができる。
1例として、コイルL2、L3のインダクタンスを、L2=5mH、L3=500μH、コンデンサC3の容量C=3nF、負荷内部抵抗r=200Ωにおいて、入力信号の周波数f=20MHzの場合、V/E=0.03である。
入力端子Hに大きなノイズが流れ込む場合、コンデンサC3の容量は、コイルL2とL3との組み合わせで、高周波信号の電流を流す程度の小さい容量であるので、大きなノイズはコイルL2を流れようとするが、大きいノイズによる急激な電流変化に対しては、コイルL2は大きいインダクタンスとして機能し、大きなインピーダンスが発生するために、負荷にノイズが流れるのを確実に防止することができる。また、コイルL3は、異常時にコンデンサC3に突入電流が流れるのを抑えるはたらきもする。
コイルL2がノイズを防止した時、コイルL2に大きい逆電圧が発生するが、コイルL2と磁気結合したコイルL3にも、コイルL2とL3のそれぞれのインダクタンスの大きさに関係して電圧が発生するために、コンデンサC3には、コイルL2の電圧とコイルL3の電圧の差の電圧のみがかかる。従って、コイルL3は、コンデンサC3に大きな電圧がかかるのを防ぐことができる。
第6図は、本発明のコイル回路の第4の実施例であり、コイルL2に、コイルL3とコンデンサC3の直列回路を並列に接続した第3の実施例のコイル回路に、コイルL5を直列に接続したコイル回路である。端子Hを入力側とし、端子Sを負荷側とする。コイルL2とL3は、磁気結合し、コイルL2、L3とL5は、磁気結合していない。
このコイル回路は、第2の実施例と同様に、コイルL2とL3とコンデンサC2のコイル回路における等価インダクタンスに合わせて、コイルL5のインダクタンスを選ぶことにより、コイルL2とL3とコンデンサC3の回路における電圧とコイルL5における電圧とは逆相で、これらの電圧はほぼ等しくなり、等価的にはコイル回路全体が短絡された形となる。これにより、このコイル回路は、高周波信号ISを減衰させず、位相をずらさずに負荷に流すことができる。
コイルL5のインダクタンスを可変にすることにより、位相を可変でき、必要な位相の進み具合に、位相を合わせることができ、また、高周波信号の周波数に合わせてコイル回路全体のインピーダンスを小さく、あるいは、必要な値に調整することができる。
入力端子Hに大きなノイズが流れ込む場合、コイルL2が、大きなノイズが負荷に流れるのを確実に防止する。
第7図は、本発明のコイル回路の第5の実施例であり、コイルL2に、コイルL3とコンデンサC3の直列回路を並列に接続した第3の実施例のコイル回路のコイルL3とコンデンサC3の接合箇所とグランドの間に2個のツェナーダイオードD2、D3を逆向き直列に接続したコイル回路である。端子Hを入力側とし、端子Sを負荷側とする。コイルL2とL3は、入力端子H側を巻き始めとして、磁気結合している。コイルL2とL3とコンデンサC2の組み合わせは第3の実施例と同じであり、同じ機能の説明は省略する。
入力端子Hに大きなノイズが流れ込む場合、コイルL2は大きいインダクタンスとして機能して、負荷にノイズが流れるのを防止するが、その時、コイルL3とコンデンサC2の接続箇所の電圧が上昇してツェナーダイオードD2、D3が導通し、コイルL3からグランドに電流が流れる。グランドに流れる電流は、コンデンサC3を流れないために、コイルL3をコイルの巻き始めから巻き終わりに向かって流れる。それにより、コイルL2には巻き終わりから巻き始めに向かって電流を流そうとする電圧が発生して、コイルL2はノイズが負荷に流れるのをより強く防止する。
また、入力端子Hの電圧が大きくマイナスに下がる負のノイズがかかる場合は、ツェナーダイオードD2、D3が導通して、ツェナーダイオードD2、D3からコイルL3に電流が流れるために、コイルL2には、巻き始めから巻き終わりに向かって電流を流そうとする電圧が発生して、コイルL2は、負荷から入力端子Hに向かって負のノイズが流れるのを防止する。
第8図は、本発明のコイル回路の第6の実施例であり、端子Hと端子Sの間にコイルL2とコイルL3を並列接続し、端子Hとグランドの間に、コイルL4と逆向き直列に接続した2個のツェナーダイオードD2、D3を直列に接続したコイル回路である。端子Hを入力側とし、端子Sを負荷側とする。コイルL2とL3とL4は、入力端子H側を巻き始めとして磁気結合している。コイルL2とL3とL4の各コイル単体のインダクタンスの大きさは、正常な高周波信号ISが正確に流れ、ノイズに対しては大きなインピーダンスが発生して、ノイズを防止できるように決める。
1例として、コイルL2、L3、L4のインダクタンスを、L2=150μH、L3=135μH、L4=140μH、負荷内部抵抗r=200Ωにおいて、 V/E=0.035である。このコイル回路は、コイルだけで構成しているため、信号の周波数を変えても、V/Eの値は同じである。
入力端子Hに正常なサイン波形や方形波の高周波信号ISが入る場合、コイルL2には、コイルL2からコイルL3へ循環する電流も流れるために、コイルL2の等価インダクタンスは非常に小さくなり、入力端子Hから負荷に高周波信号ISが流れる。
入力端子Hに大きなノイズが流れ込む場合、そのノイズにより入力端子Hの電圧が上昇すると、ツェナーダイオードD2、D3が導通して、コイルL4を通ってグランドヘ電流が流れる。コイルL4に大きな電流が流れると、コイルL4に大きな逆電圧が発生し、コイルL4と磁気結合しているコイルL2とL3に逆向きの電圧が発生して、コイルL2とL3はノイズが負荷に流れるのを防止する。
入力端子Hの電圧が大きくマイナスに下がる負のノイズがかかる場合は、ツェナーダイオードD2、D3が導通して、ツェナーダイオードD2、D3からコイルL4に逆方向の電流が流れるために、コイルL2とL3は負荷から入力端子Hに向かって負のノイズが流れるのを防止する。
第9図は、本発明のコイル回路の第7の実施例であり、端子Hと端子Sの間にコイルL2を接続し、端子Hとグランドの間に、コイルL3とコンデンサC4の並列回路に逆向き直列に接続した2個のツェナーダイオードD2、D3を直列に接続したコイル回路である。端子Hを入力側とし、端子Sを負荷側とする。コイルL2とL3は入力端子H側を巻き始めとし、コイルL2とL3は磁気結合している。コイルL2とL3の各コイル単体のインダクタンスの大きさを正常な高周波信号ISが正確に流れ、ノイズに対しては大きなインピーダンスが発生してノイズを防止できるように決める。
入力端子Hに正常なサイン波形や方形波の高周波信号ISが入る場合、正常な高周波信号ISが流れることによりコイルL2に逆電圧が発生すると、コイルL3にも同じ大きさの電圧が発生するが、第1の実施例と同様に、コイルL3に発生した電圧により、コイルL3とコンデンサC4を循環する電流が流れることにより、コイルL3における電圧は小さくなる。そのために、コイルL2の等価インダクタンスは非常に小さくなり、入力端子Hから負荷に高周波信号ISが流れる。
入力端子Hに大きなノイズが流れ込む場合、そのノイズにより入力端子の電圧が上昇して、ツェナーダイオードD2、D3が導通すると、コンデンサC4からはグランドヘ電流が流れず、コイルL3を通ってグランドヘ電流が流れるため、コイルL3に大きな逆電圧が発生し、コイルL3と磁気結合しているコイルL2に逆向きの電圧が発生して、コイルL2はノイズが負荷に流れるのを防止する。
入力端子Hの電圧が大きくマイナスに下がる負のノイズがかかる場合は、ツェナーダイオードD2、D3が導通して、ツェナーダイオードD2、D3からコイルL3に電流が流れるために、コイルL2は負荷から入力端子Hに向かって負のノイズが流れるのを防止する。
第10図は、本発明のコイル回路の第8の実施例であり、端子Hを入力端子とし、端子Sを負荷側の端子とし、端子Hと端子Sの間にエンハンスメント型の第1のMOSFET(以下、MOS(M1)とする)とコイルL2と第2のMOSFET(以下、MOS(M2)とする)を接続する。端子HにMOS(M1)のドレインを接続し、MOS(M1)のソースにコイルL2の巻き始めを接続し、コイルL2の巻き終わりにMOS(M2)のソースを接続し、MOS(M2)のドレインを端子Sに接続する。コイルL3の巻き始めは、コイルL2の巻き終わりに接続し、コイルL3の巻き終わりとグランドの間に逆向き直列に接続した2個のツェナーダイオードD2、D3を直列に接続する。コイルL3にコンデンサC4を並列に接続する。コイルL2とコイルL3は、巻き方向が同じであり、磁気結合している。2個のMOS(M1、M2)は、エンハンスメントのP型である。入力端子Hとグランドの間に抵抗R2と抵抗R3を直列に接続し、MOS(M1)とMOS(M2)のゲートは、抵抗R2と抵抗R3の接続箇所に接続する。正常時、MOS(M1、M2)が導通状態になり高周波信号が流れるように抵抗R2とR3を選ぶ。抵抗R2とR3の抵抗値は大きい。
コイルL2は、コンデンサC4と並列接続したコイルL3と磁気結合しているために、コイルL2は非常に小さいインダクタンスのコイルと等価になり、正常な高周波信号ISを負荷に流すことができる。
入力端子Hにプラスの大きなノイズが流れ込む場合、そのノイズにより入力端子の電圧が上昇して、ツェナーダイオードD2、D3が導通すると、電流はコンデンサC4を流れず、コイルL3を通ってグランドヘ流れるため、コイルL3に大きな逆電圧が発生し、コイルL3と磁気結合しているコイルL2に逆向きの電圧が発生して、コイルL2はノイズが負荷に流れるのを防止する。
そして、MOS(M2)のゲートは入力端子Hと抵抗R2で接続しているので、コイルL2に大きな電圧が発生するとMOS(M2)のゲートの電圧が上がり、MOS(M2)は不導通状態になるため、入力端子Hに大きなノイズが印加している間、MOS(M2)はノイズを完全に遮断することができる。
もちろん、コイルL2で発生する電圧を検出して、MOS(M2)のゲート電圧を制御することによりMOS(M2)を不導通状態にすることもできる。
入力端子Hにマイナスの大きなノイズが流れ込む場合、そのノイズにより入力端子の電圧が降下して、ツェナーダイオードD2、D3が導通すると、電流はコンデンサC4を流れず、コイルL3を通ってグランドから入力端子Hへ流れるため、コイルL3に大きな逆電圧が発生し、コイルL3と磁気結合しているコイルL2に逆向きの電圧が発生して、コイルL2はノイズが負荷から入力端子Hに流れるのを防止する。
そして、MOS(Ml)のゲートはグランドと抵抗R3で接続しているので、コイルL2に逆向きの大きな電圧が発生するとMOS(M1)のゲートの電圧が上がり、MOS(M1)が不導通状態になるために、入力端子Hにマイナスの大きなノイズが印加している間、MOS(M1)はノイズを完全に遮断することができる。
もちろん、コイルL2で発生する電圧を検出して、MOS(M1)のゲート電圧を制御することによりMOS(M1)を不導通状態にすることもできる。また、N型のMOSFETによっても構成することができる。
第11図は、本発明のコイル回路の第9の実施例であり、通信線(F)と通信線(N)に接続した負荷を、ディファレンシャル・モードノイズとコモン・モードノイズから保護するためのノイズ防止コイル回路である。通信線(F、N)の入力部と負荷(通信機器)の間に、ディファレンシャル・モードノイズ用のノイズ防止コイル回路とコモン・モードノイズ用のノイズ防止コイル回路を接続する。通信線(F)の入力部と負荷の間にコイルL11とコイルL14を直列に接続し、通信線(N)の入力部と負荷の間にコイルL12とコイルL15を直列に接続する。入力部とコイルL11、L12の間の両通信線(F、N)間に、コイルL13と抵抗R11とバリスア1、7、8と2極アレスタ5と3極アレスタ6を接続する。コイルL13の1端を通信線(F)に接続し、コイルL13の他端と通信線(N)の間にバリスタ1を接続し、コイルL13と並列に抵抗R11を接続する。両通信線(F、N)の間に2極アレスタ5とバリスタ7を直列に接続し、両通信線(F、N)に3極アレスタ6の両端電極を接続し、3極アレスタの中間電極とグランドの間にバリスタ8を接続する。通信線(F)のコイルLllとコイルL14の接続箇所と通信線(N)のコイルL12とコイルLL5の接続箇所の間に、バリスタ2、3を直列に接続し、バリスア2とバリスア3の接続箇所とグランドの間に、コイルL16を接続する。各コイルの巻き方向(巻き始め)は、黒丸で示している。また、バリスタ7、8は、ノイズの印加が終わった時に、アレスタ5、6の続流を止めるために接続している。
第11図の実施例の回路のディファレンシャル・モードノイズ用のコイル回路部を第12図において、コモン・モードノイズ用のコイル回路部を第16図において、別々に説明する。第12図の回路は、コイルL11、L12、L13と抵抗R11とバリスタ1、7と2極アレスタ5で構成している。コイルL11、L12、L13は、互いに磁気結合している。いま、ISND通信の信号を電流ISとする。電流ISは、直流電流に、信号の交流電流が重なった電流である。ISND通信の電流ISが、通信線(F)の入力部からコイルL11を通って負荷、コイルL12、通信線(N)の入力部へ流れる場合、コイルL11、L12の直流電流抵抗は、数10mΩと非常に小さいために、電流ISの直流電流による電圧降下は無視できるほど小さい。コイルL11、L12のインダクタンスと信号の交流電流により、コイルL11、L12の各々に信号周期の電圧変動が発生するが、コイルL11、L12と磁気結合しているコイルL13にも、同じ周期の同じ大きさの電圧変動が発生する。コイルL13には、抵抗R11が並列に接続しているので、コイルL13に発生した電圧変動により、コイルL13と抵抗R11を、電流ISの信号の交流電流に近い大きさの交流電流が循環して流れる。コイルL11、L12のインダクタンスの大きさは、同じである。コイルL13のインダクタンスは、1例であるが、コイルL11、L12のインダクタンスの大きさの合計の2倍か、それに近い大きさである。もちろん、回路の保護特性に合わせて、コイルL11、L12とL13のインダクタンスの割合は調整することができる。
電流ISとコイルL13の電流IL13と抵抗R11の電流IR11を、第13図に示す。第12図のように、コイルL11、L12とコイルL13は、磁気結合しているので、コイルL13に、電流ISの信号の交流電流と同じ大きさで、向きが逆の電流IL13が流れ、抵抗R11に電流IR11として循環して流れる。抵抗R11の抵抗の大きさを小さくすると、電流IR11によって、抵抗R11に発生する電圧変動の大きさを小さくすることができる。抵抗R11における電圧変動の大きさが小さくなると、コイルL11、L12における電圧変動も小さくなる。従って、保護すべきノイズの大きさにより、コイルL11、L12のインダクタンスの大きさを決定し、電流ISの信号の交流電流の大きさにより、抵抗R11の抵抗の大きさを選ぶことにより、コイルL11、L12における電圧降下を小さくすることができる。
次に、通信線(F)と通信線(N)の間に、大きなノイズが印加された場合について説明する。各部の電圧電流特性の特徴は第14図に示す。いま、仮に、立上り時間1μsec、立下り時間数10μsecで、波高値が1000Vのノイズが印加されたとすると、コイルL11、L12には、急激な電流変化に対して、大きな逆電圧VL11、VL12が発生する。同時に、コイルL13にも、コイルL11とL12の逆電圧の合計と同じ大きさの電圧VLl3が発生する。その後、バリスタ1にバリスタ電圧以上の電圧が加わると、バリスタ1は導通して、コイルL13の電流IL13と抵抗Rllの電流IR11が流れることにより、コイルL13に電圧VL13が継続して発生するために、コイルL11、L12の逆電圧も継続して発生する。そして、コイルL11、L12の継続する逆電圧が、ノイズの印加後のアレスタ5が導通しない2〜6μsec間、ノイズの大きな電圧が負荷に加わるのを防ぐために、負荷には、バリスタ電圧しか加わらない。ノイズ印加の2〜6μsec後、2極アレスタ5が導通して、大きな電流IA5が流れて、両通信線間(F、N)の電圧VF−Nがバリスタ電圧に下がると、コイルL11、L12の逆電圧VL11、VL12とコイルL13の電圧VL13は、0Vになる。コイルL13の電流IL13は、両通信線間(F、N)の電圧VF−Nがバリスタ電圧に下がっても、ノイズの印加電圧がバリスタ電圧に下がるまでの間、ほぼ一定で流れ、その後、減少する。抵抗R11の電流IR11は、両通信線間(F、N)の電圧VF−Nがバリスタ電圧に下がると止まる。2極アレスタ5の電流IA5は、ノイズの印加電圧がバリスタ電圧に下がるまでの間流れて、ノイズの印加電圧がバリスタ電圧に下がると、バリスタ7が不導通になり止まる。
従って、両通信線間に大きなノイズ電圧が印加しても、負荷には、バリスタ電圧以上の電圧は加わらないので、負荷を大きなノイズ電圧から保護することができる。また、バリスタ1に流れる電流は、コイルL13の電流IL13と抵抗R11の電流IR11であるが、電流IL13は、コイルL13のインダクタンスにより制限され、電流IR11は、抵抗R11の抵抗で制限されるので、2極アレスタ5の電流IA5の1/数10の小さい電流であるので、バリスタ1はサージ電流耐量の小さい、静電容量の小さいバリスタを使用することができる。
アレスタは、過電圧印加後2〜6μsec遅れて放電を開始するとしているが、アレスタによっては、10μsec以上遅れて放電を開始するものもある。アレスタ5の放電が10μsec以上遅れても、アレスタ5が放電するまでバリスタ1にバリスタ電圧以上の電圧が加わり、コイルL13に電流IL13が流れ続け、コイルL11、L12の逆電圧は継続して発生するので、負荷にはバリスタ電圧しか加わらない。
第15図の回路で示すように、第12図の回路の1方の通信線(N)がグランドに接続している場合は、通信線(N)のコイルL12を外すことができる。そして、その他は、第12図の回路と同様であるので、負荷にはバリスタ電圧以上の電圧は加わらずに、大きなノイズを防止することができる。この場合、コイルL13のインダクタンスの大きさは、1例として、コイルL11と同じか、それに近い大きさである。もちろん、回路の保護特性に合わせて、コイルL11とL13のインダクタンスの割合は調整することができる。
次に、コモン・モードノイズ用の第16図の回路は、コイルL14、L15、L16とバリスタ2、3、8と3極アレスタ6で構成している。コイルL14、L15、L16は、互いに磁気結合している。コイルL14、L15は、コモン・モード用であるので、ISND通信の信号電流ISの交流電流によるコイルL14、L15における電圧降下(変動)は、非常に小さく無視できる大きさである。従って、両通信線(F、N)とグランドの間に、コモン・モードの大きなノイズが印加された場合について説明する。各部の電圧電流特性の特徴は、第7図に示す。いま、立上り時間1μsec、立下り時間数10μsecで、波高値が1000Vのノイズが印加されたとすると、コイルL14、L15には、急激な電流変化に対して、大きな逆電圧VL14、VL15が発生する。同時に、コイルL16にも、コイルL14、L15の逆電圧と同じ大きさの電圧VL16が発生する。その後、バリスタ2、3にバリスタ電圧以上の電圧が加わると、バリスタ2、3は導通して、コイルL16の電流IL16が流れることにより、コイルL16に電圧VL16が継続して発生するために、コイルL14、L15の逆電圧も継続して発生する。そして、コイルL14、L15の継続する逆電圧が、ノイズの印加後の3極アレスタ6が導通しない2〜6μsec間、大きな電圧が負荷に加わるのを防ぐために、負荷とグランド間には、バリスタ電圧しか加わらない。ノイズ印加の2〜6μsec後、3極アレスタ6が導通して、大きな電流IA6が流れて、両通信線(F、N)とグランド間の電圧VFN−Gがバリスタ電圧に下がると、コイルL14、L15の逆電圧VL14、VLl5とコイルL16の電圧VL16は、0Vになる。コイルL16の電流IL16は、両通信線(F、N)とグランド間の電圧VFN−Gがバリスタ電圧に下がっても、ノイズの印加電圧がバリスタ電圧に下がるまでの間、ほぼ一定で流れ、その後、減少する。3極アレスタ6の電流IA6は、ノイズの印加電圧がバリスタ電圧に下がるまでの間流れて、ノイズの印加電圧がバリスタ電圧に下がると、バリスタ8が不導通になり止まる。コイルL16のインダクタンスの大きさは、1例として、コイルL14、L15と同じか、それに近い大きさである。もちろん、回路の保護特性に合わせて、コイルL14、L15とL13のインダクタンスの割合は調整することができる。
従って、両通信線とグランド間に大きなノイズ電圧が印加しても、負荷とグランド間には、バリスタ電圧以上の電圧は加わらないので、負荷を大きなノイズ電圧から保護することができる。また、バリスタ2、3に流れる電流は、コイルL16の電流IL16であるが、電流IL16は、コイルL16のインダクタンスにより制限されるため、3極アレスタ6の電流IA6の1/数10の小さい電流であるので、バリスタ2、3はサージ電流耐量の小さい、静電容量の小さいバリスタを使用することができる。
第18図は、通信線(F)の入力部と負荷の間にコイルL17を接続し、通信線(N)の入力部と負荷の間にコイルL19を接続する。入力部とコイルL17、L19の間の両通信線(F、N)間に、バリスタ9とコイルL18とコイルL20とバリスタ10を直列に接続し、直列接続のコイルL18、L20に並列に抵抗R12を接続し、コイルL18とコイルL20の接続箇所とグランド間にバリスタ11を接続する。両通信線(F、N)の間に2極アレスタ5とバリスタ7を直列に接続し、両通信線(F、N)に3極アレスタ6の両端電極を接続し、3極アレスタの中間電極とグランドの間にバリスタ8を接続する。コイルL17とL18は互いに磁気結合し、また、コイルL19とL20は互いに磁気結合している。各コイルの巻き方向は、黒丸で示している。バリスタ7、8は、ノイズの印加が終わった時に、アレスタ5、6の続流を止めるために接続している。
第18図の回路にISDN通信の信号電流ISが、通信線(F)の入力部からコイルL17を通って負荷、コイルL19、通信線(N)の入力部へ流れる場合、図12の回路と同様に、コイルL17、L19の直流電流抵抗は、数10mΩと非常に小さいために、電流ISの直流電流による電圧降下は無視できるほど小さい。コイルL17、L19のインダクタンスと信号の交流電流により、コイルL17、L19の各々に信号周期の電圧変動が発生するが、コイルL17と磁気結合しているコイルL18にも、また、コイルL19と磁気結合しているコイルL20にも、同じ周期の同じ大きさの電圧変動が発生する。直列接続のコイルL18とコイルL20には、抵抗R12が並列に接続しているので、コイルL18とL20に発生した電圧変動により、コイルL18、L20と抵抗R12を、電流ISの信号の交流電流に近い大きさの交流電流が循環して流れる。コイルL17、L19のインダクタンスの大きさは、同じである。コイルL18、L20のインダクタンスは、1例であるが、コイルL17、L19のインダクタンスの大きさと同じか、それに近い大きさである。もちろん、回路の保護特性に合わせて、コイルL17、L19とL18、L20のインダクタンスの割合は調整することができる。
次に、通信線(F)と通信線(N)の間に、ディファレンシャル・モードの大きなノイズが印加された場合について説明する。いま、仮に、立上り時間1μsec、立下り時間数10μsecで、波高値が1000Vのノイズが印加されたとすると、コイルL17、L19には、急激な電流変化に対して、大きな逆電圧が発生する。同時に、コイルL18にはコイルL17の逆電圧と同じ大きさで同じ向きの電圧が、コイルL20にはコイルL19の逆電圧と同じ大きさで同じ向きの電圧が、発生する。その後、バリスタ9、10にバリスタ電圧以上の電圧が加わると、バリスタ9、10は導通して、コイルL18とL20と抵抗R12に電流が流れることにより、コイルL18とL20に電圧が継続して発生するために、コイルL17、L19の逆電圧も継続して発生する。そして、コイルL17、L20の継続する逆電圧が、ノイズの印加後のアレスタ5が導通しない2〜6μsec間、大きな電圧が負荷に加わるのを防ぐために、負荷には、バリスタ電圧しか加わらない。ノイズ印加の2〜6μsec後、2極アレスタ5が導通して、大きな電流IA5が流れて、両通信線間(F、N)の電圧VF−Nがバリスタ電圧に下がると、コイルL17、L19の逆電圧とコイルL18、L20の電圧は、0Vになる。コイルL18、L20の電流は、両通信線間(F、N)の電圧VF−Nがバリスタ電圧に下がっても、ノイズの印加電圧がバリスタ電圧に下がるまでの間、ほぼ一定で流れ、その後、減少する。抵抗R12の電流は、両通信線間(F、N)の電圧VF−Nがバリスタ電圧に下がると止まる。2極アレスタ5の電流IA5は、ノイズの印加電圧がバリスタ電圧に下がるまでの間流れて、ノイズの印加電圧がバリスタ電圧に下がると、バリスタ7が不導通になり止まる。
両通信線(F、N)とグランドの間に、コモン・モードの大きなノイズが印加された場合について説明する。いま、立上り時間1μsec、立下り時間数10μsecで、波高値が1000Vのノイズが印加されたとすると、コイルL17、L19には、急激な電流変化に対して、大きな逆電圧が発生する。同時に、コイルL18にはコイルL17の逆電圧と同じ大きさで同じ向きの電圧が、コイルL20にはコイルL19の逆電圧と同じ大きさで同じ向きの電圧が、発生する。その後、バリスタ9、10、11にバリスタ電圧以上の電圧が加わると、バリスタ9、10、11は導通して、バリスタ9とコイルL18を通ってバリスタ11に、また、バリスタ10とコイルL20を通ってバリスタ11に電流が流れることにより、コイルL18とL20に電圧が継続して発生するために、コイルL17、L19の逆電圧も継続して発生する。
そして、コイルL17、L19の継続する逆電圧が、ノイズの印加後の3極アレスタ6が導通しない2〜6μsec間、大きな電圧が負荷に加わるの防ぐために、負荷とグランド間には、バリスタ電圧しか加わらない。ノイズ印加の2〜6μsec後、3極アレスタ6が導通して、大きな電流IA6が流れて、両通信線(F、N)とグランド間の電圧VFN−Gがバリスタ電圧に下がると、コイルL17、L19の逆電圧とコイルL18、L20の電圧は、0Vになる。コイルL18、L20の電流は、両通信線(F、N)とグランド間の電圧VFN−Gがバリスタ電圧に下がっても、ノイズの印加電圧がバリスタ電圧に下がるまでの間、ほぼ一定で流れ、その後、減少する。3極アレスタ6の電流IA6は、ノイズの印加電圧がバリスタ電圧に下がるまでの間流れて、ノイズの印加電圧がバリスタ電圧に下がると、バリスタ8が不導通になり止まる。また、バリスタ9、10、11のバリスタ電圧は、バリスタ7、8のバリスタ電圧の1/2である。
従って、両通信線間に大きなノイズ電圧が印加しても、負荷には、バリスタ電圧以上の電圧は加わらないので、負荷を大きなノイズ電圧から保護することができ、両通信線とグランド間に大きなノイズ電圧が印加しても、負荷とグランド間には、バリスタ電圧以上の電圧は加わらないので、負荷を大きなノイズ電圧から保護することができる。また、バリスタ9、10、11に流れる電流は、コイルL18、L20の電流であるが、コイルL18、L20のインダクタンスにより制限され、2極アレスタ5の電流IA5、また、3極アレスタ6の電流IA6の1/数10の小さい電流であるので、バリスタ9、10、11はサージ電流耐量の小さい、静電容量の小さいバリスタを使用することができる。
ディファレンシャル・モード用とコモン・モード用の回路を合わせて、両通信線間の静電容量と両通信線とグランド間の静電容量を、20pF、10pF、あるいは、それ以下にすることができるので、ISDN通信、ADSL通信、また、もっと高速の通信を行うことができる。バリスタを、必要により、アバランシェ・ダイオードやサイリスタ(PNPN素子)に置換えられることは自明である。
【産業上の利用可能性】
以上述べたように、本発明のノイズ防止回路は、正常な高周波信号は流すことができ、大きなノイズは確実に防止することができるために、情報通信機器、及び、通信インターフェイスを有する広範囲な電子機器等に使用できる。また、このノイズ防止コイル回路は、商用電源の交流、直流の電力供給線における雷サージ、高調波ノイズを防護(遮断)できるので、広範囲の電力機器等の保護にも使用できる。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】

【図11】

【図12】

【図13】

【図14】

【図15】

【図16】

【図17】

【図18】

【図19】

【図20】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
通信入力部と通信回路の間に接続するコイル回路において、正常な高周波信号に対しては、信号の交流電圧Eと前記コイル回路における電圧Vの比が、V/E<=0.1の小さいインピーダンスになり、異常な大きいノイズに対しては、V/E>0.5の非常に大きいインピーダンスになるノイズ防止コイル回路。
【請求項2】
コイル(L1)にコンデンサ(C1)を並列に接続する請求項1記載のノイズ防止コイル回路。
【請求項3】
可変型のコイル(L1)にコンデンサ(C1)を並列に接続する請求項1記載のノイズ防止コイル回路。
【請求項4】
コイル(L1)に可変型のコンデンサ(C1)を並列に接続する請求項1記載のノイズ防止コイル回路。
【請求項5】
可変型のコイル(L1)に可変型のコンデンサ(C1)を並列に接続する請求項1記載のノイズ防止コイル回路。
【請求項6】
コイル(L1)とコンデンサ(C1)の並列回路に、前記並列回路の電圧と逆相でほぼ等しい電圧を発生するコイル(L5)を直列に接続する請求項1記載のノイズ防止コイル回路。
【請求項7】
コイル(L1)とコンデンサ(C1)の並列回路に、前記並列回路の電圧と逆相でほぼ等しい電圧を発生する可変型のコイル(L5)を直列に接続する請求項1記載のノイズ防止コイル回路。
【請求項8】
コイル(L2)に、コイル(L3)とコンデンサ(C3)の直列回路を並列に接続し、前記コイル(L2、L3)は巻き始めを同じとして、磁気結合している請求項1記載のノイズ防止コイル回路。
【請求項9】
コイル(L2)に、コイル(L3)とコンデンサ(C3)の直列回路を並列に接続し、前記コイル(L2、L3)は巻き始めを同じとして、磁気結合している回路にコイル(L5)を直列に接続する請求項1記載のノイズ防止コイル回路。
【請求項10】
コイル(L2)に、コイル(L3)とコンデンサ(C3)の直列回路を並列に接続し、前記コイル(L2、L3)は巻き始めを同じとして、磁気結合している回路の前記コイル(L3)と前記コンデンサ(C3)の接続箇所とグランドの間に、2個のツェナーダイオード(D2、D3)を逆向き直列に接続する請求項1記載のノイズ防止コイル回路。
【請求項11】
通信入力部と通信回路の間に接続するコイル回路において、入力端子と通信回路の間にコイル(L2)とコイル(L3)を並列に接続し、入力端子とグランドの間に、コイル(L4)と逆向き直列の2個のツェナーダイオード(D2、D3)を直列に接続し、前記コイル(L2、L3、L4)は巻き始めを同じとして、磁気結合している請求項1記載のノイズ防止コイル回路。
【請求項12】
通信入力部と通信回路の間に接続するコイル回路において、入力端子と通信回路の間にコイル(L2)を接続し、入力端子とグランドの間に、コイル(L3)とコンデンサ(C4)の並列回路と逆向き直列の2個のツェナーダイオード(D2、D3)を直列に接続し、前記コイル(L2、L3)は巻き始めを同じとして、磁気結合している請求項1記載のノイズ防止コイル回路。
【請求項13】
通信入力端子にエンハンスメント型の第1のMOSFETのドレインを接続し、前記第1のMOSFETのソースにコイル(L2)の巻き始めを接続し、前記コイル(L2)の巻き終りにエンハンスメント型の第2のMOSFETのソースを接続し、前記第2のMOSFETのドレインを通信回路に接続し、コイル(L3)の巻き始めを、前記コイル(L2)の巻き終りに接続し、前記コイル(L3)の巻き終りとグランドの間に2個のツェナーダイオード(D2、D3)を逆向き直列に接続し、前記コイル(L3)にコンデンサ(C4)を並列に接続し、前記コイル(L2、L3)は磁気結合し、前記通信入力端子とグランドの間に抵抗(R2)と抵抗(R3)を直列に接続し、前記第1のMOSFETのゲートと前記第2のMOSFETのゲートを、前記抵抗(R2)と前記抵抗(R3)の接続箇所に接続している請求項1記載のノイズ防止コイル回路。
【請求項14】
通信線(F)の入力部と負荷の間にコイル(L11)を接続し、通信線(N)の入力部と負荷の間にコイル(L12)を接続し、両通信線(F、N)の入力部間に、コイル(L13)とバリスタ(1)を接続し、前記コイル(L13)と並列に抵抗(R11)を接続し、両通信線(F、N)の入力部間に2極アレスタ(5)とバリスタ(7)を直列に接続し、前記コイル(L11、L12、L13)が磁気結合しているディファレンシャル・モードノイズ用回路と、通信線(F)の入力部と負荷の間にコイル(L14)を接続し、通信線(N)の入力部と負荷の間にコイル(L15)を接続し、バリスタ(2)とバリスタ(3)を直列に接続し、前記バリスア(2)と前記バリスア(3)の接続箇所とグランドの間に、コイル(L16)を接続し、両通信線(F、N)の入力部間に3極アレスタ(6)の両端電極を接続し、前記3極アレスタ(6)の中間電極とグランドの間にバリスタ(8)を接続し、前記コイル(L14、L15、L16)が磁気結合しているコモン・モードノイズ用回路を直列に接続するノイズ防止コイル回路。
【請求項15】
前記コイル(L13)のインダクタンスの大きさは、前記コイル(L11、L12)のインダクタンスの大きさの合計の2倍か、それに近い大きさであり、前記コイル(L16)のインダクタンスの大きさは、前記コイル(L14、L15)と同じか、それに近い大きさである請求項14記載のノイズ防止コイル回路。
【請求項16】
通信線(F)の入力部と負荷の間にコイル(L11)に接続し、通信線(F)の入力部とグランド間に、コイル(L13)とバリスタ(1)を直列に接続し、前記コイル(L13)と並列に抵抗(R11)を接続し、通信線(F)とグランド間に2極アレスタ(5)とバリスタ(7)を直列に接続する請求項14記載のディファレンシャル・モードノイズ用のノイズ防止コイル回路。
【請求項17】
通信線(F)の入力部と負荷の間にコイル(L17)を接続し、通信線(N)の入力部と負荷の間にコイル(L19)を接続し、入力部とコイル(L17、L19)の間の両通信線(F、N)間に、バリスタ(9)とコイル(L18)とコイル(L20)とバリスタ(10)を直列に接続し、直列接続の前記コイル(L18、L20)に並列に抵抗(R12)を接続し、前記コイル(L18)と前記コイル(L20)の接続箇所とグランド間にバリスタ(11)を接続し、両通信線(F、N)の間に2極アレスタ(5)とバリスタ(7)を直列に接続し、両通信線(F、N)に3極アレスタ(6)の両端電極を接続し、前記3極アレスタ(6)の中間電極とグランドの間にバリスタ(8)を接続し、前記コイル(L17、L18)は磁気結合し、また、前記コイル(L19、L20)は磁気結合しているノイズ防止コイル回路。

【国際公開番号】WO2005/036741
【国際公開日】平成17年4月21日(2005.4.21)
【発行日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−514692(P2005−514692)
【国際出願番号】PCT/JP2004/015574
【国際出願日】平成16年10月14日(2004.10.14)
【出願人】(000102429)エス・オー・シー株式会社 (6)
【Fターム(参考)】