説明

ハイブリッド自動二輪車

【課題】2つの電動モータを用いてエネルギ効率の向上を図ることができるハイブリッド自動二輪車を提供する。
【解決手段】クランク軸Cと変速機Tとの間に駆動力を断接するクラッチ65が配設されたエンジンEを含むパワーユニットPを備えたハイブリッド自動二輪車1において、クランク軸Cにワンウェイクラッチ72を介して連結されると共に、エンジンEの始動およびクランク軸Cへの駆動力アシストが可能な第1モータM1と、変速機Tのカウンタシャフト50と対をなすメインシャフト49に直結されると共に、メインシャフト49への駆動力アシストおよび回生発電が可能な第2モータM2とを備える。第1モータM1をクランク軸Cと同軸上に配置する。第2モータM2を、エンジンEのシリンダ38の車体後方かつクランクケース20の上方に配設する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッド自動二輪車に係り、特に、内燃機関と電動モータを協働させて車両の駆動力を得るようにしたハイブリッド自動二輪車に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、内燃機関と電動モータを協働させて車両の駆動力を得ることによりエネルギ効率の向上を可能としたハイブリッド自動二輪車が知られている。
【0003】
特許文献1には、内燃機関(エンジン)のクランク軸の一端部にスプロケットを固定し、このスプロケットに巻き掛けられるサイレントチェーンを介して駆動用の電動モータを連結するようにしたハイブリッド自動二輪車が開示されている。このハイブリッド自動二輪車によれば、電動モータの駆動力によってクランク軸の回転をアシストすることが可能となり、一方、減速時にクランク軸に余剰動力が発生する場合には、電動モータを発電機として作動させて車載バッテリを回生充電することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−269253号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載された、クランクにモータを直接連結する構造を有するハイブリッド自動二輪車では、クランク軸と電動モータとが直結されて同期回転する構造であるため、クランク軸を回転させることなく電動モータの駆動力のみで走行させることはできなかった。また、特許文献1に記載されたハイブリッド自動二輪車では、もうひとつのモータとして、エンジンを始動するためにクランク軸を回転させるスタータモータを備えているものの、このスタータモータをエンジンの始動以外の目的で使用することは考慮されていなかった。さらに、自動二輪車は四輪車に比較してスペースが少なく、ハイブリッドシステムを構成する部品の配置等に困難性がある。
【0006】
本発明の目的は、上記従来技術の課題を解決し、2つの電動モータを用いてエネルギ効率の向上を図ることができるハイブリッド自動二輪車を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するために、本発明は、クランク軸(C)と変速機(T)との間に駆動力を断接するクラッチ(65)が配設されたエンジン(E)を含むパワーユニット(P)を備えたハイブリッド自動二輪車(1)において、前記クランク軸(C)にワンウェイクラッチ(72)を介して連結されると共に、前記エンジン(E)の始動および前記クランク軸(C)への駆動力アシストが可能な第1モータ(M1)と、前記変速機(T)のカウンタシャフト(50)と対をなすメインシャフト(49)に直結されると共に、前記メインシャフト(49)への駆動力アシストおよび回生発電が可能な第2モータ(M2)とを備えた点に第1の特徴がある。
【0008】
また、前記第1モータ(M1)は、前記クランク軸(C)と同軸上に配置されている点に第2の特徴がある。
【0009】
また、前記クラッチ(65)は、前記メインシャフト(49)の両端部のうち、前記クランク軸(C)に前記第1モータ(M1)が配置される側と反対側に位置する一端側に配設されており、前記第2モータ(M2)は、前記メインシャフト(49)の他端側に固定された伝達ギヤ(48)を介して駆動力が伝達されるように、前記エンジン(E)のシリンダ(38)の車体後方かつクランクケース(20)の上方に配設されている点に第3の特徴がある。
【0010】
また、前記第1モータ(M1)、第2モータ(M2)およびクラッチ(65)を制御する制御ユニット(21)を備え、前記制御ユニット(21)は、前記第2モータ(M2)を主に発電機として用いる第1モード(91a)と、発進時から所定速度に達するまで間の駆動力を前記第2モータ(M2)で供給する第2モード(91b)とを切り替え可能とする第2モータの駆動モード切替部(91)を具備する点に第4の特徴がある。
【0011】
また、前記制御ユニット(21)は、前記第1モード(91a)で走行中に前記エンジン(E)の燃料の残容量が所定値を下回ったことを検知すると、前記第1モード(91a)から前記第2モード(91b)に切り替える点に第5の特徴がある。
【0012】
また、前記制御ユニット(21)は、前記第1モータ(M1)および第2モータ(M2)に電力を供給する車載バッテリ(31)の残容量が所定値を下回ったことを検知すると、前記第2モード(91b)での走行を禁止する点に第6の特徴がある。
【0013】
また、前記制御ユニット(21)は、前記第1モータ(M1)および第2モータ(M2)に電力を供給する車載バッテリ(31)の残容量が第2の所定値を下回っていることを検知すると、車両の減速時に、前記クラッチ(65)を切断すると共に前記第2モータ(M2)を発電機として機能させる点に第7の特徴がある。
【0014】
さらに、前記第1モータ(M1)は、少なくともエンジン回転数が所定範囲に入ると共に車速が所定範囲に入った所定状態となると、前記クランク軸(C)への駆動力アシストを行うように設定されている点に第8の特徴がある。
【発明の効果】
【0015】
第1の特徴によれば、クランク軸にワンウェイクラッチを介して連結されると共に、エンジンの始動およびクランク軸への駆動力アシストが可能な第1モータと、変速機のカウンタシャフトと対をなすメインシャフトに直結されると共に、メインシャフトへの駆動力アシストおよび回生発電が可能な第2モータとを備えたので、クラッチを切断状態とすることで、クランク軸を回転させずに第2モータの駆動力のみで走行可能なハイブリッド自動二輪車を得ることができる。また、エンジンによる走行もしくは第1モータによってクランク軸に駆動力アシストを実行している時でも、第2モータによる回生発電を行って車載バッテリを充電することが可能となる。これにより、2つのモータを有効利用してエネルギ効率を高めることが可能となる。
【0016】
第2の特徴によれば、第1モータは、クランク軸と同軸上に配置されているので、通常のエンジンにおいて発電機を配設するスペースに第1モータが配設されることとなり、これにより、第1モータを配設するための専用スペースを確保する必要がなく、エンジンの大型化を避けることが可能となる。
【0017】
第3の特徴によれば、クラッチは、メインシャフトの両端部のうち、クランク軸に第1モータが配置される側と反対側に位置する一端側に配設されており、第2モータは、メインシャフトの他端側に固定された伝達ギヤを介して駆動力が伝達されるように、エンジンのシリンダの車体後方かつクランクケースの上方に配設されているので、通常のエンジンにおいてスタータモータを配設するスペースに第2モータが配置されることとなり、これにより、第2モータを配設するための専用スペースを確保する必要がなく、エンジンの大型化を避けることが可能となる。
【0018】
第4の特徴によれば、第1モータ、第2モータおよびクラッチを制御する制御ユニットを備え、制御ユニットは、第2モータを主に発電機として用いる第1モードと、発進時から所定速度に達するまで間の駆動力を第2モータで供給する第2モードとを切り替え可能とする第2モータの駆動モード切替部を具備するので、第2モータの駆動力のみによる静粛性の高い走行が求められる場合や、車載バッテリの残容量が少なく電力消費量を抑えたい場合等、走行条件の違いに基づいて運転モードを切り替えることでエネルギ効率の向上を図ることが可能となる。
【0019】
第5の特徴によれば、制御ユニットは、第1モードで走行中にエンジンの燃料の残容量が所定値を下回ったことを検知すると、第1モードから第2モードに切り替えるので、燃料の残容量がゼロとなる前にモータ駆動モードを第2モードに自動的に切り替えることで、燃料を温存しながら乗員に給油を促すことが可能となる。
【0020】
第6の特徴によれば、制御ユニットは、第1モータおよび第2モータに電力を供給する車載バッテリの残容量が所定値を下回ったことを検知すると、第2モードでの走行を禁止するので、車載バッテリの過放電を防いで、車載バッテリを保護することが可能となる。
【0021】
第7の特徴によれば、制御ユニットは、第1モータおよび第2モータに電力を供給する車載バッテリの残容量が第2の所定値を下回っていることを検知すると、車両の減速時に、クラッチを切断すると共に第2モータを発電機として機能させるので、車両の減速時に、第2モータによる回生発電を優先させることで車載バッテリを迅速に充電することが可能となる。これにより、車載バッテリの過放電を防止し、車載バッテリを保護することが可能となる。
【0022】
第8の特徴によれば、第1モータは、少なくともエンジン回転数が所定範囲に入ると共に車速が所定範囲に入った所定状態となると、クランク軸への駆動力アシストを行うように設定されているので、第1モータによって駆動力アシストを実行する走行条件を細かく設定することが容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の一実施形態に係るハイブリッド自動二輪車の左側面図である。
【図2】パワーユニットの上方の部品を取り外した状態のハイブリッド自動二輪車の斜視図である。
【図3】パワーユニットの左側面図である。
【図4】パワーユニットの断面図である。
【図5】第2モータと変速機との配置関係を示す断面図である。
【図6】ハイブリッドシステムの構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照して本発明の好ましい実施の形態について詳細に説明する。図1は、本発明の一実施形態に係るハイブリッド自動二輪車1の左側面図である。また、図2は、パワーユニットPの上方の部品を取り外した状態のハイブリッド自動二輪車1の斜視図である。ハイブリッド自動二輪車1は、エンジンE、第1モータM1および第2モータM2を含むパワーユニットPにより、エンジン動力とモータ動力とを協働させて後輪WRを駆動する鞍乗型二輪車である。
【0025】
車体フレーム5の前方側には、左右一対のフロントフォーク2を操舵可能に軸支するヘッドパイプ6が設けられている。フロントフォーク2の下端部には、前輪WFが回動自在に軸支されており、一方の上端部には、操向ハンドル4が取り付けられている。ヘッドパイプ6の前方には、ウインドスクリーン14、左右一対のウインカ装置15、ヘッドライト16を支持するフロントカウル17が取り付けられている。フロントフォーク2には、前輪WFを覆うフロントフェンダ3と、左右一対のフォグランプ18とが取り付けられている。操向ハンドル4には、左右一対のバックミラー13が取り付けられている。
【0026】
車体フレーム5は、大径パイプによる左右一対のメインフレーム8を備え、その車体下部に、並列2気筒のエンジンE、第1モータM1および第2モータM2を含むパワーユニットP全体が吊り下げられるように支持されている。ヘッドパイプ6の後方下方には、エンジンEのシリンダヘッド37まで延びるハンガフレーム7が設けられている。また、ヘッドパイプ6の上部寄りの位置からは、メインフレーム8の補強パイプ5aが延出し、メインフレーム8の後端部には、左右一対のピボットプレート9が連結されている。
【0027】
後輪WRを回転自在に軸支するスイングアーム26の前端部は、ピボット軸10によってピボットプレート9に揺動自在に取り付けられている。スイングアーム26は、リンク機構を介してリヤクッション24によって車体フレーム5に吊り下げられている。パワーユニットPの出力は、ドライブチェーン25を介して後輪WRに伝達される。
【0028】
パワーユニットPのクランクケース20の略中央には、車幅方向に指向するクランク軸(クランクシャフト)Cが配設されている。パワーユニットPは、クランク軸Cと同軸に配設される第1モータM1と、シリンダ38の車体後方かつクランクケース20の上部に配設される第2モータM2とを備えている。シリンダ38に取り付けられるシリンダヘッド37には、スロットルボディ23が取り付けられる吸気ポート(不図示)と、排気管22が取り付けられる排気ポート(不図示)とが形成されている。
【0029】
スロットルボディ23の内部には、スロットルバルブおよび燃料噴射装置のインジェクタ(不図示)が備えられ、排気管22の内部には三元触媒が配設されている。スロットルボディ23の一端部にはエアクリーナボックス32が連結され、排気管22の一端部にはマフラ27が連結されている。また、シリンダヘッド37の車体前方には、エンジン冷却水のラジエータ19が配設されている。
【0030】
ピボットプレート9の後部には、左右一対の上側シートレール11および下側シートレール12が接続されている。上側シートレール11および下側シートレール12の間には、車体前後方向に延在する燃料タンク35が収められており、その上部にはシート34が配設されている。上側シートレール11および下側シートレール12の後端部には、ウインカ装置を一体に形成した尾灯装置28およびリヤフェンダ29が取り付けられている。
【0031】
第1モータM1および第2モータM2に電力を供給する車載バッテリ31は、ヘッドパイプ6とシート34との間に配設されており、車載バッテリ31の周囲は、カバー部材30で覆われている。車載バッテリ31の後方には、モータやクラッチ等を制御する制御ユニット21が配設されており、制御ユニット21の下方には、モータの出力制御を行うPDU(パワー・ドライブ・ユニット)33が配設されている。本実施形態では、制御ユニット21の内部に、車載バッテリ31の容量を管理するBMU(バッテリ・マネジメント・ユニット)を含むように構成しているが、制御ユニットや車載バッテリ、PDU等の電装部品の構成は、種々の変更が可能である。
【0032】
図2を参照して、エンジンEのシリンダヘッド37は、車体フレーム5のハンガフレーム7の内側に収まる寸法とされている。第2モータM2は、シリンダ38の車体後方かつクランクケース20の上部に配設されるケース43の内部に収納されている。本実施形態に係るパワーユニットPでは、エンジンEのシリンダ38が車体前方に大きく傾斜しているため、クランクケース20上部のスペースを確保しやすく、この位置に第2モータM2を配置することによりパワーユニットPのマスの集中および小型化も図られる。
【0033】
図3は、パワーユニットPの左側面図である。また、図4は、パワーユニットPの断面図である。図3を参照して、動弁機構を有するシリンダヘッド37の車幅方向左側には、カムシャフト60に同期して作動するウォータポンプ機構40が配設されている。カムシャフト60は、その車幅方向右側端部に取り付けられたカムスプロケット61にカムチェーン62を巻き掛け、このカムチェーン62を介して伝達されるクランク軸Cの駆動力によって被動回転する。
【0034】
シリンダヘッド37には、吸気ポートに連なる吸気口41および排気ポートに連なる排気口41aが形成されている。シリンダヘッド37の上部には、シリンダヘッドカバー39が取り付けられている。クランクケース20の下部にはオイルパン42が取り付けられ、かつ車体前方側には、カートリッジ式のオイルフィルタ36が取り付けられている。
【0035】
本実施形態に係るパワーユニットPは、第1モータM1および第2モータM2のそれぞれの制御方法に工夫を施すことで、エネルギ効率の向上が図られている。第1モータM1は、エンジンEの始動およびクランク軸Cへの駆動力アシストを可能とするものである。また、第2モータM2は、変速機Tのメインシャフト49に連結されて該メインシャフト49への駆動力アシストおよび回生発電を可能とするものである。第1モータM1はクランク軸Cと同軸に配設されており、第2モータM2は、シリンダ38の車体後方かつクランクケース20の上面に配設されている。
【0036】
本実施形態に係るパワーユニットPでは、クランク軸Cと同軸の第1モータM1がスタータモータ(セルモータ)としても機能するため、通常、シリンダ38の車体後方かつクランクケースの上面に配設される始動専用のスタータモータが不要となる。第2モータM2は、この不要となったスペースに配置されるため、第2モータM2を配設するための専用スペースを確保する必要がなく、エンジンの大型化を避けることが可能となる。
【0037】
図4を参照して、シリンダ38には、コンロッド64を介してクランク軸Cに連結されるピストン63が摺動可能に収納されている。クランク軸Cの駆動力は、クランク軸Cの車幅方向右端部に固定されたプライマリドライブギヤ64から、該プライマリドライブギヤ64と噛合するプライマリドリブンギヤ66を介して、湿式多板式のクラッチ65に伝達される。
【0038】
変速機Tは、メインシャフト49とカウンタシャフト50との間に変速段に応じた数の変速ギヤ対を有し、変速操作に応じて回動するシフトドラム(不図示)の角度に応じて変速する周知のシーケンシャル式6速ミッションとされる。プライマリドリブンギヤ66に伝達された駆動力は、クラッチ65が接続状態にあれば、メインシャフト49から変速ギヤ対を介してカウンタシャフト50に伝達される。カウンタシャフト50の車幅方向左端部には、ドライブチェーン25が巻き掛けられるドライブスプロケット51が固定されており、このドライブチェーン25を介して後輪WRに駆動力が伝達される。
【0039】
クラッチ65は、乗員のクラッチ操作によって接続状態から切断状態に切り替わるノーマリクローズ式とされるが、本実施形態では、乗員によるクラッチ操作のほか、所定条件が満たされるとアクチュエータ等からなるクラッチ駆動手段(図6参照)によって自動的に切断状態に切り替えることができるように構成されている。
【0040】
第1モータM1は、エンジンEの始動およびクランク軸Cへの駆動力アシストを可能とするため、クランク軸Cに対してワンウェイクラッチ72を介して取り付けられている。具体的には、第1モータM1は、クランクケース20に固定されるステータ70と、磁石71を有してクランク軸Cに支持されるロータ75とから構成されている。ロータ75は、磁石71が取り付けられた外側ロータ74と、クランク軸Cに回転不能に取り付けられた内側ロータ73とからなり、その間にワンウェイクラッチ72が配設されている。
【0041】
この構成によれば、第1モータM1の駆動力でクランク軸Cを一方向に回転させることができると共に、第1モータM1よりクランク軸Cの回転速度の方が上回る場合には、第1モータM1との動力伝達が自動的に切り離されるようになる。したがって、第1モータM1は、エンジンEの始動時にクランク軸Cを回転させるスタータモータとして機能した後、クランク軸Cの駆動力をアシストする駆動モータとして機能することができる上、クランク軸Cの回転数が上昇した場合には任意に停止することが可能である。
【0042】
なお、第1モータM1による駆動力アシストは、例えば、エンジン回転数および車速からなる所定条件が満たされた場合に実行される。より具体的には、「車速が30〜40km/hの範囲内にあり、かつ回転上限を4000rpmとするエンジンの回転数が3000rpmを超えたとき」等の条件が設定される。駆動力アシストの条件は種々の変形が可能であり、例えば、1〜10km/hの低速域等で実行したり、所定条件にスロットル開度を含むように構成してもよい。
【0043】
これに対し、第2モータM2は、クランク軸Cを回転させることなく、直接、変速機Tへ駆動力アシストを行うことができるように、変速機Tのメインシャフト49に連結されている。具体的には、メインシャフト49の車幅方向左端部、すなわち、クラッチ65と反対側の端部に伝達ギヤ48を取り付け、この伝達ギヤ48を含むギヤ駆動機構によって第2モータM2との間の駆動力伝達が行われる。
【0044】
図5は、第2モータM2と変速機Tとの配置関係を示す断面図である。メインシャフト49は、軸受75,76によってクランクケース20に軸支されており、該メインシャフト49の車幅方向左端部に第2モータM2との間の駆動力伝達を行う伝達ギヤ48が設けられている。第2モータM2は、ケース43に固定されたステータ80と、回転軸45を含むロータ81とから構成されている。回転軸45の車幅方向左端部は、ケース43に嵌合された軸受82,83,84によって軸支されている。軸受83と軸受84との間で、回転軸45の左端部には、出力ギヤ44が設けられている。出力ギヤ44には、中間ギヤ46が噛合しており、この中間ギヤ46とメインシャフト49の伝達ギヤ48が噛合することで、第2モータM2とメインシャフト49との間の駆動力伝達が可能となる。
【0045】
図3に示したように、メインシャフト49は、パワーユニットPの左側面視において、クランク軸Cとカウンタシャフト50との間で、かつ両軸より車体上方の位置に配設されている。そして、メインシャフト49の車体上方に、支軸47によってクランクケース20に軸支される中間ギヤ46、第2モータM2の回転軸45と同軸の出力ギヤ44が配設されている。
【0046】
上記したような第2モータM2の配設方法によれば、クラッチ65を切断状態に切り替えることで、第2モータM2と後輪WRとが変速機Tを介して直結されることとなる。これにより、クランク軸Cを切り離した状態で第2モータM2によるメインシャフト49への駆動力アシスト、すなわち、第2モータM2の駆動力のみを用いたEV走行が可能となる。一方、車両の減速時には、クランク軸Cを切り離した状態で第2モータM2を回生発電させることが可能となる。前記したように、クラッチ65は、油圧やソレノイド等のアクチュエータからなるクラッチ駆動手段100によって切断状態に切り替え可能とされているので、走行条件に応じて自動的に駆動力アシストの態様を変更することが可能となる。
【0047】
図6は、ハイブリッドシステムの構成を示すブロック図である。第1モータM1および第2モータM2は、各センサ情報に基づいて制御ユニット21によって制御される。制御ユニット21には、第2モータの駆動モード切替部91、第1モータ制御部92、クラッチ制御部93、第2モータ制御部94が含まれる。クラッチ制御部93には、クラッチ駆動手段100が接続されている。
【0048】
制御ユニット21には、燃料タンク35の残容量を検知する燃料残容量センサ95、乗員のスロットル操作量を検知するスロットル開度センサ96、エンジン回転数を検知するNeセンサ97、車速センサ98、車載バッテリ31の残容量を検知するバッテリ残容量センサ99、燃料残容量センサ95により検知された残容量を表示する燃料残容量表示手段90が接続されている。燃料残容量表示手段90は、燃料の残容量が所定値を下回ったことを点滅等により乗員に報知する機能を有する。なお、同様の表示装置を用いてバッテリ残容量を表示する手段を備えることもできる。制御ユニット21は、各センサ出力および予め定められたマップ等に基づいて、エンジンE、第1モータM1および第2モータM2を協働させてハイブリッド自動二輪車1の駆動力を発揮させる。
【0049】
第2モータの駆動モード切替部91は、第1モータM1および第2モータM2をエンジンと協働させる際の制御モードとして、第2モータM2を主に発電機として用いる第1モード91aと、発進時から所定速度に達するまで間の駆動力を第2モータM2で供給する第2モード91bとを備えている。両モード間は、各センサ出力に応じて自動的にまたは乗員の操作により任意に切り替え可能とされている。
【0050】
第1モード91aは、第1モータM1によるクランク軸Cへの駆動力アシストを主とし、第2モータM2を主に発電機として用いるようにした制御モードである。また、第2モード91bは、発進時から所定速度に達するまで、クラッチ65を切断して第2モータM2によるメインシャフト49への駆動力アシストを行うようにした制御モードである。
【0051】
両モード間の切替において、制御ユニット21は、第1モード91aで走行中に燃料残容量センサ95によって燃料の残容量が所定値を下回ったことが検知されると、第1モード91aから第2モード91bに切り替えるように設定されている。これにより、燃料の残容量がゼロとなる前にモータ駆動モードを第2モード91bに自動的に切り替えることで、燃料を温存しながら乗員に給油を促すことが可能となる。
【0052】
また、制御ユニット21は、バッテリ残容量センサ99によって車載バッテリ31の残容量が所定値(例えば、50%)を下回ったことが検知されると、第2モード91bでの走行を禁止するように設定されている。これにより、車載バッテリ31の過放電を防いで、車載バッテリ31を保護することが可能となる。また、第2モード91bでの走行が禁止された場合には、第1モータM1による駆動力アシストも禁止される。
【0053】
さらに、制御ユニット21は、車両の減速時に、車載バッテリ31の残容量が第2の所定値(例えば、30%)を下回っていることを検知すると、クラッチ制御部93からの駆動信号を受けたクラッチ駆動手段100がクラッチ65を切断すると共に第2モータM2を発電機として機能させるように設定されている。これにより、車両の減速時に、第2モータM2の発電負荷によりエンジンブレーキのような減速感を与えると共に、クランク軸Cを被動回転させることによるエネルギ損失を排除した高効率の回生発電を行うことが可能となる。
【0054】
上記したように、本発明に係るハイブリッド自動二輪車によれば、クランク軸Cにワンウェイクラッチ72を介して連結されると共にエンジンEの始動およびクランク軸Cへの駆動力アシストが可能な第1モータM1と、変速機Tのメインシャフト49に直結されると共にメインシャフト49への駆動力アシストおよび回生発電が可能な第2モータM2とを備えたので、クラッチ65を切断状態とすることで、クランク軸Cを回転させずに第2モータM2の駆動力のみで走行可能なハイブリッド自動二輪車1を得ることが可能となる。
【0055】
また、第1モータM1によってクランク軸Cに駆動力アシストを実行している時に、第2モータM2による回生発電を行って車載バッテリ31を充電することが可能となる。これにより、2つのモータを有効利用してエネルギ効率を高めることが可能となる。
【0056】
なお、制御ユニット21は、車載バッテリ31の残容量および燃料タンク35の残容量がいずれも十分に残っている場合の加速時には、第1モータM1および第2モータM2の両方を用いて大きな駆動力アシストを実行することもできる。
【0057】
ハイブリッド自動二輪車のエンジン形式、変速機やクラッチの構造、第1モータおよび第2モータの構造や配置、ワンウェイクラッチの構造、第2モータとメインシャフト間の動力伝達構造、第1モードおよび第2モードの態様等は、上記実施形態に限られず、種々の変更が可能である。本発明に係るハイブリッドシステムは、自動二輪車に限られず、鞍乗型の三/四輪車等の各種車両に適用することが可能である。
【符号の説明】
【0058】
1…ハイブリッド自動二輪車、20…クランクケース、38…シリンダ、31…車載バッテリ、35…燃料タンク、45…回転軸、44…出力ギヤ、46…中間ギヤ、48…伝達ギヤ、49…メインシャフト、50…カウンタシャフト、51…ドライブスプロケット、65…クラッチ、72…ワンウェイクラッチ、90…燃料残容量表示手段、91…第2モータの駆動モード切替部、91a…第1モード、91b…第2モード、92…第1モータ制御部、93…クラッチ制御部、94…第2モータ制御部、95…燃料残容量センサ、96…スロットル開度センサ、97…Neセンサ、98…車速センサ、99…バッテリ残容量センサ、100…クラッチ駆動手段、C…クランク軸、E…エンジン、M1…第1モータ、M2…第2モータ、T…変速機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クランク軸(C)と変速機(T)との間に駆動力を断接するクラッチ(65)が配設されたエンジン(E)を含むパワーユニット(P)を備えたハイブリッド自動二輪車(1)において、
前記クランク軸(C)にワンウェイクラッチ(72)を介して連結されると共に、前記エンジン(E)の始動および前記クランク軸(C)への駆動力アシストが可能な第1モータ(M1)と、
前記変速機(T)のカウンタシャフト(50)と対をなすメインシャフト(49)に直結されると共に、前記メインシャフト(49)への駆動力アシストおよび回生発電が可能な第2モータ(M2)とを備えたことを特徴とするハイブリッド自動二輪車。
【請求項2】
前記第1モータ(M1)は、前記クランク軸(C)と同軸上に配置されていることを特徴とする請求項1に記載のハイブリッド自動二輪車。
【請求項3】
前記クラッチ(65)は、前記メインシャフト(49)の両端部のうち、前記クランク軸(C)に前記第1モータ(M1)が配置される側と反対側に位置する一端部に配設されており、
前記第2モータ(M2)は、前記メインシャフト(49)の他端側に固定された伝達ギヤ(48)を介して駆動力が伝達されるように、前記エンジン(E)のシリンダ(38)の車体後方かつクランクケース(20)の上方に配設されていることを特徴とする請求項1または2に記載のハイブリッド自動二輪車。
【請求項4】
前記第1モータ(M1)、第2モータ(M2)およびクラッチ(65)を制御する制御ユニット(21)を備え、
前記制御ユニット(21)は、前記第2モータ(M2)を主に発電機として用いる第1モード(91a)と、発進時から所定速度に達するまで間の駆動力を前記第2モータ(M2)で供給する第2モード(91b)とを切り替え可能とする第2モータの駆動モード切替部(91)を具備することを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載のハイブリッド自動二輪車。
【請求項5】
前記制御ユニット(21)は、前記第1モード(91a)で走行中に前記エンジン(E)の燃料の残容量が所定値を下回ったことを検知すると、前記第1モード(91a)から前記第2モード(91b)に切り替えることを特徴とする請求項4に記載のハイブリッド自動二輪車。
【請求項6】
前記制御ユニット(21)は、前記第1モータ(M1)および第2モータ(M2)に電力を供給する車載バッテリ(31)の残容量が所定値を下回ったことを検知すると、前記第2モード(91b)での走行を禁止することを特徴とする請求項4または5に記載のハイブリッド自動二輪車。
【請求項7】
前記制御ユニット(21)は、前記第1モータ(M1)および第2モータ(M2)に電力を供給する車載バッテリ(31)の残容量が第2の所定値を下回っていることを検知すると、車両の減速時に、前記クラッチ(65)を切断すると共に前記第2モータ(M2)を発電機として機能させることを特徴とする請求項4ないし6のいずれかに記載のハイブリッド自動二輪車。
【請求項8】
前記第1モータ(M1)は、少なくともエンジン回転数が所定範囲に入ると共に車速が所定範囲に入った所定状態となると、前記クランク軸(C)への駆動力アシストを行うように設定されていることを特徴とする請求項1ないし7のいずれかに記載のハイブリッド自動二輪車。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−67252(P2013−67252A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−206525(P2011−206525)
【出願日】平成23年9月21日(2011.9.21)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】