説明

ハイブリッド車両およびその制御方法

【課題】エンジンおよび電動機を搭載したハイブリッド車両において、車両の状態に応じて電磁騒音のレベルを適切に制御するように、ランダムキャリア制御を実行する。
【解決手段】電動機を駆動するための電力変換器の電力用半導体スイッチング素子のオンオフは、パルス幅変調制御によって制御される。パルス幅変調制御に用いられるキャリア信号の周波数は、ランダムキャリア制御によって、所定の中心周波数に対して制御幅Δfを有する周波数範囲内でランダムに変動される。制御幅Δfは、車外に対して積極的に音を出力したい車両状態であるエンジン停止時には相対的に狭く設定される(Δf=f1)。一方、車室内で感知される騒音を抑制したい車両状態であるエンジン起動時には、制御幅Δfは相対的に広く設定される(Δf=f3)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ハイブリッド車両およびその制御方法に関し、より特定的には、ハイブリッド車両に搭載された電動機の制御に用いられるキャリア周波数の制御に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、電動機制御に用いられる電力変換器(インバータおよびコンバータ)に、パルス幅変調制御(PWM制御)を適用することが行なわれている。
【0003】
たとえば、特開2004−048844号公報(特許文献1)には、ハイブリッド車両に搭載された電動機を制御するインバータのキャリア周波数を、エンジン回転数および車速に応じて制御することが記載されている。具体的には、エンジン回転数が低いとインバータのキャリア周波数を高くする一方で、エンジン回転数が高いとキャリア周波数を低くすることが記載されている。また、車速が低いとキャリア周波数を高くする一方で、車速が高いとキャリア周波数を低くすることが記載されている。
【0004】
また、特開2002−171606号公報(特許文献2)には、ハイブリッド車用インバータシステムにおいて、インバータ回路のPWM制御周波数(キャリア周波数)を、所定の周波数範囲で乱数的に変動することによって、電磁騒音を低減することが記載されている。さらに、電動機の速度増加に伴って、キャリア周波数を変調する周波数範囲を狭くすることが記載されている。
【0005】
また、特開2010−130850号公報(特許文献3)および特開2007−020320号公報(特許文献4)にも、特許文献2と同様に、コンバータあるいはインバータのPWM制御に用いるキャリア周波数を、所定の周波数範囲内でランダムに変動させること(以下、「ランダムキャリア制御」とも称する)が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−048844号公報
【特許文献2】特開2002−171606号公報
【特許文献3】特開2010−130850号公報
【特許文献4】特開2007−020320号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
インバータおよびコンバータ等の電力変換器において、PWM制御でのキャリア周波数が低いと、出力電流(電圧)に含まれる高調波成分(リップル成分)が大きくなる。これにより、電動機制御では、ステータに生じる渦電流が大きくなることから、鉄損の増加による損失の増大が懸念される。さらに、リップル電流の影響によって電流誤差が大きくなる可能性がある。また、永久磁石モータでは、磁石温度の上昇によって減磁が発生することが懸念される。一方で、キャリア周波数が高いと、単位時間内のスイッチング回数が多くなることによって電力変換器での電力損失が増加することが懸念される。
【0008】
特許文献1に記載のキャリア周波数制御では、キャリア周波数を固定的に低下あるいは上昇させるため、キャリア周波数を固定的に低下する場合において、上述のようなリップル電流の増大による問題が懸念される。
【0009】
特許文献2〜4に記載されたランダムキャリア制御では、キャリア周波数を所定周波数範囲内で変動させることにより、電磁騒音の発生レベルを抑制することができる。しかしながら、ハイブリッド車両の電動機制御では、ランダムキャリア制御における周波数の変化幅によっては、キャリア周波数が瞬間的に低くなったときに、リップル電流が大きくなることが懸念される。特に、キャリア周波数が低くなった期間で電流制御の誤差が大きくなることによって、車両駆動トルクの変動に起因して、走行性能が低下する虞がある。
【0010】
また、ハイブリッド車両では、エンジンを停止して電動機のみによって走行する場合に、車両の発生音が小さいため、車両周囲の歩行者等が車両の接近を認識し難いことが指摘されている。したがって、このような場面でランダムキャリア制御を適用すると、車両周囲に対する車両接近の報知性がさらに低下する虞がある。
【0011】
この発明は、このような問題点を解決するためになされたものであって、この発明の目的は、エンジンおよび電動機を搭載したハイブリッド車両において、車両の状態に応じて電磁騒音のレベルを適切に制御するように、ランダムキャリア制御を実行することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この発明のある局面では、内燃機関と電動機とを搭載したハイブリッド車両は、電力変換器と、電力変換器を制御するための制御装置とを含む。電力変換器は、蓄電装置と電動機との間に配置されるとともに、少なくとも1つのスイッチング素子を含むように構成される。制御装置は、スイッチング素子のオンオフ制御に用いられるキャリア信号を発生するためのキャリア発生部と、キャリア発生部が発生するキャリア信号の周波数を制御するためのキャリア周波数制御部と、パルス幅変調部とを含む。パルス幅変調部は、電力変換器の制御指令と、キャリア発生部からのキャリア信号との比較に基づいて、スイッチング素子のオンオフを制御する。キャリア周波数制御部は、内燃機関の起動時には、所定周波数を中心とした第1の周波数範囲内でキャリア信号の周波数を変動させる一方で、内燃機関の停止時には、所定周波数を含む第2の周波数範囲内でキャリア信号の周波数を変動させるようにキャリア発生部を制御する。そして、第2の周波数範囲は、第1の周波数範囲よりも狭い。
【0013】
好ましくは、キャリア周波数制御部は、内燃機関の停止時であって、かつ、ハイブリッド車両の車速が所定速度よりも低いときには、キャリア信号の周波数を固定する。
【0014】
また好ましくは、キャリア周波数制御部は、内燃機関の起動後には、所定周波数を中心とした第3の周波数範囲内でキャリア信号の周波数を変動させるように、キャリア発生部を制御し、第3の周波数範囲は、内燃機関の回転数が高いほど狭くなるように設定される。
【0015】
あるいは好ましくは、キャリア周波数制御部は、内燃機関の停止時であって、かつ、ハイブリッド車両の車速が所定速度よりも高いときには、車速が高いほど第2の周波数範囲を狭く設定する。
【0016】
この発明の他の局面では、ハイブリッド車両の制御方法であって、ハイブリッド車両は、内燃機関と、電動機と、蓄電装置と、蓄電装置および電動機の間に配置され、少なくとも1つのスイッチング素子を含むように構成された電力変換器とを搭載する。制御方法は、スイッチング素子のオンオフ制御に用いられるキャリア信号の周波数を制御するステップと、制御するステップにより決められたキャリア信号の周波数に従って、キャリア信号を発生するステップと、電力変換器の制御指令と、キャリア信号との比較に基づいて、スイッチング素子のオンオフを制御する信号を発生するステップとを含む。制御するステップは、内燃機関の起動時に、所定周波数を中心とした第1の周波数範囲内でキャリア信号の周波数を変動させるステップと、内燃機関の停止時に、所定周波数を含む第2の周波数範囲内でキャリア信号の周波数を変動させるステップとを含む。そして、第2の周波数範囲は、第1の周波数範囲よりも狭い。
【0017】
好ましくは、制御するステップは、内燃機関の停止時にハイブリッド車両の車速を所定速度と比較するステップと、内燃機関の停止時に、車速が所定速度よりも低いときに、キャリア信号の周波数を固定するステップとをさらに含む。
【0018】
また好ましくは、制御するステップは、内燃機関の起動後において、所定周波数を中心とした第3の周波数範囲内でキャリア信号の周波数を変動させるステップをさらに含む。この第3の周波数範囲は、内燃機関の回転数が高いほど狭くなるように設定される。
【0019】
あるいは好ましくは、制御するステップは、内燃機関の停止時にハイブリッド車両の車速を所定速度と比較するステップと、内燃機関の停止時であって、かつ、車速が所定速度よりも高いときに、車速が高いほど第2の周波数範囲を狭く設定するステップとをさらに含む。
【発明の効果】
【0020】
この発明によれば、エンジンおよび電動機を搭載したハイブリッド車両において、車両の状態に応じて電磁騒音のレベルを適切に制御するように、ランダムキャリア制御を実行することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施の形態によるハイブリッド車両の全体構成を説明するブロック図である。
【図2】図1のハイブリッド車両におけるエンジンおよびモータジェネレータ間の回転数の関係を示す共線図である。
【図3】図1に示したモータジェネレータを駆動するための電気システムの構成を示す回路図である。
【図4】本発明の実施の形態によるハイブリッド車両における電動機制御を説明するための機能ブロック図である。
【図5】図4に示したパルス幅変調部によるPWM制御を説明するための概念的な波形図である。
【図6】キャリア周波数とリップル電流との関係を説明するための概念的な波形図である。
【図7】各インバータでのキャリア周波数の制御を説明する概念図である。
【図8】図7に示したランダムキャリア制御における電磁騒音の音圧レベル分布を示す概念図である。
【図9】本発明の実施の形態によるハイブリッド車両における電動機制御の処理手順を説明するためのフローチャートである。
【図10】ランダムキャリア制御の処理手順の第1の例を説明するフローチャートである。
【図11】ランダムキャリア制御の処理手順の第2の例を説明するフローチャートである。
【図12】図3に示したコンバータに適用されるPWM制御を説明するための概念的な波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。なお、以下図中の同一または相当部分には同一符号を付して、その説明は原則的に繰返さないものとする。
【0023】
図1は、本発明の実施の形態によるハイブリッド車両の全体構成を説明するブロック図である。
【0024】
図1を参照して、ハイブリッド車両は、エンジン100と、第1モータジェネレータ110(以下、単に「MG1」とも称する)と、第2モータジェネレータ120(以下、単に「MG2」とも称する)と、動力分割機構130と、減速機140と、バッテリ150と、ECU(Electronic Control Unit)170とを備える。MG1およびMG2の各々は、本発明の実施の形態による電動機制御の対象となる「電動機」に対応する。
【0025】
図1に示すハイブリッド車両は、エンジン100およびMG2のうちの少なくとも一方からの駆動力により走行する。エンジン100、MG1およびMG2は、動力分割機構130を介して接続されている。エンジン100が発生する動力は、動力分割機構130により、2経路に分割される。一方は減速機140を介して駆動輪190を駆動する経路である。もう一方は、MG1を駆動させて発電する経路である。
【0026】
エンジン100は、ガソリンまたは軽油などの炭化水素系の燃料により動力を出力する「内燃機関」である。エンジン100は、ECU170からの指令に従って、停止あるいは起動される。エンジン起動後には、エンジン100がECU170によって定められた動作点(トルク・回転数)で動作するように、燃料噴射制御や点火制御、吸入空気量制御などのエンジン制御が実行される。エンジン100には、図示しないクランクシャフトのクランク角度やエンジン回転数等、エンジン100の運転状態を検出する各種センサが設けられている。これらのセンサ出力は、必要に応じてECU170へ伝達される。
【0027】
MG1およびMG2の各々は、代表的には三相の交流回転電機である。MG1は、動力分割機構130により分割されたエンジン100の動力により発電する。MG1により発電された電力は、車両の走行状態や、バッテリ150のSOC(State Of Charge)に応じて使い分けられる。たとえば、通常走行時では、MG1により発電された電力はそのままMG2を駆動させる電力となる。一方、バッテリ150のSOCが予め定められた値よりも低い場合、MG1により発電された電力は、後述するインバータにより交流から直流に変換される。その後、後述するコンバータにより電圧が調整されてバッテリ150に蓄えられる。
【0028】
MG1が発電機として作用している場合、MG1は負のトルクを発生している。ここで、負のトルクとは、エンジン100の負荷となるようなトルクをいう。MG1が電力の供給を受けて電動機として作用している場合、MG1は正のトルクを発生する。ここで、正のトルクとは、エンジン100の負荷とならないようなトルク、すなわち、エンジン100の回転をアシストするようなトルクをいう。なお、MG2についても同様である。代表的には、エンジン100の起動時に、MG1はエンジン100をモータリングするための正のトルクを出力する。
【0029】
MG2は、バッテリ150に蓄えられた電力およびMG1により発電された電力のうちの少なくとも一方の電力によりトルクを発生する。MG2のトルクは、減速機140を介して駆動輪190に伝えられる。これにより、MG2はエンジン100をアシストしたり、MG2からの駆動力により車両を走行させたりする。
【0030】
ハイブリッド車両の回生制動時には、減速機140を介して駆動輪190によりMG2が駆動され、MG2が発電機として作動する。これによりMG2は、制動エネルギを電力に変換する回生ブレーキとして作動する。MG2により発電された電力は、バッテリ150に蓄えられる。
【0031】
動力分割機構130は、サンギヤと、ピニオンギヤと、キャリアと、リングギヤとを含む遊星歯車から構成される。ピニオンギヤは、サンギヤおよびリングギヤと係合する。キャリアは、ピニオンギヤが自転可能であるように支持する。サンギヤはMG1の回転軸に連結される。キャリアはエンジン100のクランクシャフトに連結される。リングギヤはMG2の回転軸および減速機140に連結される。
【0032】
エンジン100、MG1およびMG2が、遊星歯車からなる動力分割機構130を介して連結されることで、エンジン100、MG1およびMG2の回転数は、図2に示すように、共線図において直線で結ばれる関係になる。
【0033】
図1に示すハイブリッド車両は、発進時や低車速時等のエンジン100の効率が悪い運転領域では、基本的には、エンジン100を停止してMG2による駆動力のみによって走行する。そして、通常走行時には、エンジン100を効率の高い領域で作動させるとともに、動力分割機構130によりエンジン100の動力を2経路に分ける。一方の経路に伝達された動力は、駆動輪190を駆動する。他方の経路に伝達された動力は、MG1を駆動して発電を行なう。このとき、MG2は、MG1の発電電力を用いてトルクを出力することによって、駆動輪190の駆動を補助する。また、高速走行時には、さらにバッテリ150からの電力をMG2に供給することでMG2のトルクを増大させることにより、駆動輪190に対して駆動力の追加を行なう。
【0034】
一方、減速時には、駆動輪190により従動するMG2が発電機として機能して回生制動による発電を行なう。回生発電によって回収された電力は、バッテリ150に充電される。なお、ここで言う回生制動とは、ハイブリッド自動車を運転するドライバによるフットブレーキ操作があった場合の回生発電を伴う制動や、フットブレーキを操作しないものの走行中にアクセルペダルをオフすることで回生発電をさせながら車両減速(または加速の中止)させることを含む。
【0035】
バッテリ150は、複数の二次電池セル(図示せず)により構成された組電池である。バッテリ150の電圧は、たとえば200V程度である。バッテリ150には、MG1およびMG2が発電した電力の他、車両の外部電源から供給される電力によって充電されてもよい。
【0036】
エンジン100、MG1およびMG2は、ECU170により制御される。なお、ECU170は複数のECUに分割するようにしてもよい。ECU170は、図示しないCPU(Central Processing Unit)およびメモリを内蔵した電子制御ユニットにより構成され、当該メモリに記憶されたマップおよびプログラムに基づいて、各センサによる検出値を用いた演算処理を行なうように構成される。あるいは、ECUの少なくとも一部は、電子回路等のハードウェアにより所定の数値・論理演算処理を実行するように構成されてもよい。
【0037】
図3には、図1に示したMG1,MG2を駆動するための電気システムの構成が示される。
【0038】
図3を参照して、ハイブリッド車両には、コンバータ200と、MG1に対応する第1インバータ210と、MG2に対応する第2インバータ220と、SMR(System Main Relay)250とが設けられる。
【0039】
SMR250は、バッテリ150とコンバータ200との間に設けられる。SMR250が開放されると、バッテリ150が電気システムから遮断される。一方、SMR250が閉成されると、バッテリ150が電気システムに接続される。これにより、バッテリ150の出力電圧に応じた直流電圧VLがコンバータ200へ供給される。直流電圧VLは、電圧センサ182により検出される。電圧センサ182の検出結果は、ECU170に送信される。
【0040】
SMR250の状態は、ECU170により制御される。たとえば、ハイブリッド車両のシステム起動を指示するパワーオンスイッチ(図示せず)のオン操作に応答して、SMR250が閉成される一方で、パワーオンスイッチのオフ操作に応答して、SMR250は開放される。
【0041】
コンバータ200は、リアクトルと、直列接続された2個の電力用半導体スイッチング素子(以下、単に「スイッチング素子」とも称する)Q1,Q2と、各スイッチング素子に対応して設けられた逆並列ダイオードと、リアクトルとを含む。電力用半導体スイッチング素子としては、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)、電力用MOS(Metal Oxide Semiconductor)トランジスタ、電力用バイポーラトランジスタ等を適宜採用することができる。
【0042】
リアクトルは、バッテリ150の正極側に一端が接続され、スイッチング素子Q1,Q2の接続点に他端が接続される。各スイッチング素子Q1,Q2のオンオフは、ECU170により制御される。以下では、スイッチング素子Q1を上アーム素子とも称し、スイッチング素子Q2を下アーム素子とも称する。
【0043】
コンバータ200と、第1インバータ210および第2インバータ220との間の直流電圧VH(以下、システム電圧VHとも称する)は、電圧センサ180により検出される。電圧センサ180の検出結果は、ECU170に送信される。
【0044】
コンバータ200は、スイッチング素子Q1および/またはQ2のオンオフ制御により、直流電圧VLおよびVHの間で双方向の直流電圧変換を実行するように構成されている。コンバータ200による電圧変換比(VH/VL)は、スイッチング素子Q1,Q2のデューティ比に応じて制御される。基本的には、スイッチング素子Q1およびQ2は、各スイッチング周期内で相補的かつ交互にオンオフするように制御される。このようにすると、コンバータ200の制御動作を特に切換えることなく、バッテリ150の充電および放電のいずれにも対応して、直流電圧VHを制御することができる。
【0045】
なお、直流電圧VHを直流電圧VLから昇圧する必要がない場合には、スイッチング素子Q1およびQ2をオンおよびオフにそれぞれ固定することにより、VH=VL(電圧変換比=1.0)とすることもできる。
【0046】
第1インバータ210は、一般的な三相インバータで構成され、並列接続されたU相アーム、V相アームおよびW相アームを含む。U相アーム、V相アームおよびW相アームは、各々、直列に接続された2個のスイッチング素子(上アーム素子および下アーム素子)を有する。各スイッチング素子には、逆並列ダイオードが接続される。
【0047】
MG1は、星型結線されたU相コイル、V相コイルおよびW相コイルを固定子巻線として有する。各相コイルの一端は、中性点112で互いに接続される。各相コイルの他端は、第1インバータ210の各相アームのスイッチング素子の接続点とそれぞれ接続される。
【0048】
第1インバータ210は、車両走行時には、車両走行に要求される出力(車両駆動トルク、発電トルク等)を発生するために設定される動作指令値(代表的にはトルク指令値)に従ってMG1が動作するように、MG1の各相コイルの電流または電圧を制御する。第1インバータ210は、バッテリ150から供給される直流電力を交流電力に変換してMG1に供給する電力変換動作と、MG1により発電された交流電力を直流電力に変換する電力変換動作との双方向の電力変換を実行可能である。
【0049】
第2インバータ220は、第1インバータ210と同様に、一般的な三相インバータで構成される。MG2は、MG1と同様に、星型結線されたU相コイル、V相コイルおよびW相コイルを固定子巻線として有する。各相コイルの一端は、中性点122で互いに接続される。各相コイルの他端は、第2インバータ220の各相アームのスイッチング素子の接続点とそれぞれ接続される。なお、MG1およびMG2の各々には、ロータ(図示せず)の回転位置(角度)を検出するための、図示しない回転角センサ(代表的にはレゾルバ)が配置される。この回転角センサの出力に基づいて、MG1およびMG2の回転数を検知することができる。
【0050】
第2インバータ220は、車両走行時には、車両走行に要求される出力(車両駆動トルク、回生制動トルク等)を発生するために設定される動作指令値(代表的にはトルク指令値)に従ってMG2が動作するように、MG2の各相コイルの電流または電圧を制御する。第2インバータ220についても、バッテリ150から供給される直流電力を交流電力に変換してMG2に供給する電力変換動作と、MG2により発電された交流電力を直流電力に変換する電力変換動作との双方向の電力変換を実行可能である。
【0051】
図4は、本発明の実施の形態によるハイブリッド車両における電動機制御を説明するための機能ブロック図である。図4に示した各機能ブロックについては、当該ブロックに相当機能を有する回路(ハードウェア)をECU170に構成してもよいし、予め設定されたプログラムに従ってECUがソフトウェア処理を実行することにより実現してもよい。
【0052】
図4を参照して、ECU170は、電動機指令演算部300,305と、パルス幅変調部310,315と、キャリア周波数制御部350と、キャリア発生部360,365とを含む。
【0053】
電動機指令演算部300は、MG1のフィードバック制御により、第1インバータ210の制御指令を演算する。ここで、制御指令は、各インバータ210,220によって制御される、MG1,MG2へ供給される電圧または電流の指令値である。以下では、制御指令として、MG1,MG2の各相の電圧指令Vu,Vv,Vwを例示する。たとえば、電動機指令演算部300は、MG1の各相の電流Imt(1)のフィードバックにより、MG1の出力トルクを制御する。具体的には、電動機指令演算部300は、MG1のトルク指令値Tqcom(1)に対応した電流指令値を設定するとともに、当該電流指令値と電流Imt(1)との偏差に応じて電圧指令Vu,Vv,Vwを発生する。この際に、MG1の回転角θ(1)を用いた座標変換(代表的には、dq軸変換)を伴う制御演算を用いることが一般的である。
【0054】
電動機指令演算部305は、電動機指令演算部300と同様に、MG2のフィードバック制御によって、第2インバータ220の制御指令、具体的には、MG2の各相電圧指令Vu,Vv,Vwを発生する。すなわち、MG2の電流Imt(2)、回転角θ(2)およびトルク指令値Tqcom(2)に基づいて、電圧指令Vu,Vv,Vwが生成される。
【0055】
パルス幅変調部310は、キャリア発生部360からのキャリア信号160(1)と、電動機指令演算部300からの電圧指令Vu,Vv,Vwとに基づいて、第1インバータ210のスイッチング素子の制御信号S11〜S16を発生する。制御信号S11〜S16により、第1インバータ210のU相、V相、W相の上下アームを構成する6個のスイッチング素子のオンオフが制御される。
【0056】
同様に、パルス幅変調部315は、キャリア発生部365からのキャリア信号160(2)と、電動機指令演算部305からの電圧指令Vu,Vv,Vwとに基づいて、第2インバータ220のスイッチング素子の制御信号S21〜S26を発生する。制御信号S21〜S26により、第2インバータ220のU相、V相、W相の上下アームを構成する6個のスイッチング素子のオンオフが制御される。
【0057】
パルス幅変調部310,315では、キャリア信号160(160(1)および160(2)を総称するもの)と、電圧指令Vu,Vv,Vwとを比較するPWM制御が実行される。
【0058】
図5はパルス幅変調部310,315によるPWM制御を説明する波形図である。
図5を参照して、PWM制御では、キャリア信号160と、電圧指令270(電圧指令Vu,Vv,Vwを総称するもの)との電圧比較に基づき、インバータの各相のスイッチング素子のオンオフが制御される。この結果、MG1,MG2の各相コイル巻線には、各相に疑似正弦波電圧としてのパルス幅変調電圧280が印加される。キャリア信号160は、周期的な三角波やのこぎり波によって構成することができる。
【0059】
再び図4を参照して、キャリア周波数制御部350は、第1インバータ210でのPWM制御に用いられるキャリア周波数f1と、第2インバータ220のPWM制御に用いられるキャリア周波数f2とを制御する。キャリア周波数制御部350には、エンジン100の状態と、ハイブリッド車両の車速とに関する情報が入力される。車速は、図示しない車速センサの出力信号によって検出できる。また、エンジン100の状態は、エンジン100が停止中/起動中/動作中(起動後)のいずれの状態であるかを検知できる情報と、エンジン回転数とを含む。
【0060】
キャリア発生部360は、キャリア周波数制御部350によって設定されたキャリア周波数f1に従ってキャリア信号160(1)を発生する。キャリア発生部365は、キャリア周波数制御部350によって設定されたキャリア周波数f2に従ってキャリア信号160(2)を発生する。
【0061】
すなわち、キャリア信号160(1)および160(2)の周波数は、キャリア周波数制御部350によって設定されたキャリア周波数f1およびf2に従って変化する。この結果、第1インバータ210および第2インバータ220での、PWM制御によるスイッチング周波数が、キャリア周波数制御部350によって制御される。
【0062】
インバータ210,220では、キャリア周波数に従って図3に示したスイッチング素子がオンオフされる。このため、インバータ210,220からMG1,MG2に供給される電流には、スイッチング周波数に従う高調波電流(リップル電流)が重畳される。
【0063】
図6は、キャリア周波数とリップル電流との関係を説明するための概念的な波形図である。
【0064】
図6を参照して、制御指令値に従った交流電流285を発生するように、スイッチング素子のオンオフが、キャリア周波数に従って制御される。このため、モータジェネレータMG1,MG2へ供給される電流290は、交流電流285に、スイッチング周波数に従ったリップル電流が重畳した波形となる。リップル電流の大きさΔIrpは、電流経路のインダクタンスと、スイッチング周期(スイッチング周波数の逆数)によって決まる。したがって、スイッチング周波数が低くなると、ΔIrpが大きくなることが理解される。
ΔIrpが大きくなると、電流制御の誤差も大きくなる。このため、ランダムキャリア制御によってキャリア周波数が瞬間的に低くなったときに、電流誤差が大きくなることによって、車両駆動トルクの制御性が低下する虞がある。
【0065】
図6に示したリップル電流によって、MG1,MG2に作用する電磁力が、スイッチング周波数に従った周期で変動する。一方、MG1,MG2を始めとするハイブリッド車両の搭載機器によって、質量要素およびばね要素の組み合わせによる機械振動系が複数形成される。たとえば、MG1,MG2では、ロータを質量要素とし、支持ベアリングをばね要素とする機械振動系や、ステータおよびケースによって構成される機械振動系が存在する。また、図示しないトランスミッションケース等によっても、機械振動系が構成される。これらの機械振動系は、外力の作用や、振動が伝達されることによって振動し、空気を振動させることによって音を発生する。
【0066】
MG1,MG2では、リップル電流によって、ステータおよびロータ間に作用する電磁力がキャリア周波数に従って周期的に変動することにより、ロータおよびステータの機械振動系に振動が発生する。この振動は、さらに他の機械振動系へも伝達されるので、これら機械振動系の振動によって、音(いわゆる、電磁騒音)が生じることになる。電磁騒音は、電動車両の作動音として、車両外部へ伝播するとともに、車室内へも伝播する。
【0067】
図7は、本発明の実施の形態によるハイブリッド車両における各インバータ210,220でのキャリア周波数制御(ランダムキャリア制御)を説明する概念図である。図7にはインバータ210のキャリア周波数f1の制御が例示される。
【0068】
図7を参照して、キャリア周波数制御部350は、キャリア周波数f1を、所定の周波数範囲420内で、時間経過に応じて一定周期あるいはランダム周期で変化させる。周波数範囲420の中心値はfa(中心周波数)であり、周波数の制御幅はΔfである。この結果、キャリア周波数の上限値f1maxはfa+Δfであり、下限値f1minはfa−Δfとなる。
【0069】
キャリア周波数f1は、上限値f1max〜下限値f1minの周波数範囲内で、変更周期Trが経過するごとに変更される。Trが固定値であるときには、キャリア周波数は一定周期で変動することなる。一方、Trを変化させて、キャリア周波数をランダムな周期で変動させることも可能である。
【0070】
図8は、図7に示したランダムキャリア制御における電磁騒音の音圧レベル分布を示す概念図である。
【0071】
図8を参照して、符号400は、キャリア周波数f1=faに固定した場合の音圧レベルの周波数分布が示される。この場合には、周波数faに対応した固定周波数の音圧レベルが高くなるため、当該周波数の騒音が車室内で感知されやすくなる。
【0072】
一方で、符号410は、図7に示したようにキャリア周波数f1を下限値f1minから上限値f1maxの周波数範囲で変動させた場合の音圧レベルの周波数分布である。各キャリア周波数で発生する電磁騒音のレベルが一定であれば、キャリア周波数を変更する周期を短くすることにより(たとえば、Tr=2〜10[ms]程度)、人間の聴覚には、当該周波数範囲で一様な強度の音として認識される。この結果、符号410に示すように、当該周波数領域内で音圧レベルを分散することができるため、騒音の音圧レベルを低減することが可能となる。
【0073】
このように、一般的には、ランダムキャリア制御によって、インバータによる電動機制御によって発生する電磁騒音を低減することができる。なお、ランダムキャリア制御の実行時には、キャリア周波数の平均値が中心周波数faとなるように、周波数の変動パターンが予め設定される。
【0074】
図8から理解されるように、制御幅Δfが広く設定されるほど、電磁騒音の音圧レベルが低下するので、電磁騒音は抑制される。一方で、キャリア周波数の下限値も低下することから、キャリア周波数低下に伴う、電流制御性(トルク制御性)の低下が懸念される。
【0075】
これに対して、制御幅Δfが狭く設定されるほど、電磁騒音の音圧レベルは高くなるため、電磁騒音は相対的に大きくなる。一方で、キャリア周波数低下に伴う制御性の低下は抑制される。
【0076】
図9は、本発明の実施の形態によるハイブリッド車両における電動機制御の処理手順を説明するためのフローチャートである。図9に示す制御処理は、ECU170によって所定周期で実行される。すなわち、図9を始めとする各フローチャートに記載された各ステップは、ECU170によるソフトウェア処理および/またはハードウェア処理によって実現されるものとする。
【0077】
図9を参照して、ECU170は、ステップS100により、インバータ210,220でのキャリア周波数を決定するためのランダムキャリア制御を行なう。ステップS100による処理は、図4のキャリア周波数制御部350の機能に対応する。
【0078】
図10は、図9のステップS100(ランダムキャリア制御)の処理手順の第1の例を説明するためのフローチャートである。
【0079】
図10を参照して、ECU170は、ステップS110では、エンジン100が停止中であるか否かを判定する。そして、エンジン停止中(S110のYES判定時)には、ECU170は、ステップS150に処理を進めて、ランダムキャリア制御の制御幅Δf=f1に設定する。
【0080】
一方、エンジン停止中でないとき(S110のNO判定時)には、ECU170は、ステップS120により、エンジン100の起動中であるかどうかを判定する。エンジン起動中(S120のYES判定時)には、ECU170は、ステップS160により、制御幅Δf=f3に設定する。
【0081】
これに対して、ECU170は、エンジンの起動後、すなわち、エンジン動作中(S120のNO判定時)には、ステップS170に処理を進めて、制御幅Δf=f2に設定する。
【0082】
制御幅f1〜f3の間には、f1<f2<f3の関係が成立する。すなわち、ランダムキャリア制御の制御幅Δfは、エンジン停止中には最も狭く設定される。なお、f1=0として、エンジン停止中には、ランダムキャリア制御を中止して、キャリア周波数を中心周波数faに固定してもよい。
【0083】
車両の発生音が小さいエンジン停止中には、制御幅Δfを相対的に狭くすることにより、電磁騒音を相対的に大きくする。この結果、車両周囲に対する車両接近の報知性を高めることができる。なお、本願発明において、エンジン停止中の周波数変化範囲が相対的に狭く設定されることは、エンジン停止時以外にランダムキャリア制御を実行する一方で、エンジン停止中にランダムキャリア制御を中止(キャリア周波数を固定)することを含む概念である点について、確認的に記載する。
【0084】
さらに、エンジン停止時には、モータジェネレータMG2の出力のみで走行することになるが、ランダムキャリア制御によるキャリア周波数の低下が抑制されるため、電流制御性、すなわち、車両駆動トルクの制御性の低下を抑制することができる。
【0085】
一方、ランダムキャリア制御の制御幅Δfは、エンジン起動中には最も広く設定される。そして、エンジン動作中には、ランダムキャリア制御の制御幅Δfは、エンジン起動中と、エンジン停止中との中間の広さに設定される。
【0086】
エンジン停止時以外では、車外への発生音を高める必要性が低いので、車内騒音を抑制するために、ランダムキャリア制御の制御幅を相対的に広くして、電磁騒音の音圧レベルを低くする。特に、エンジン回転数が低いエンジン起動時には、ランダムキャリア制御の制御幅Δfは最も広くなる(Δf=f3)。エンジン動作中には、制御幅Δfは、エンジン停止時とエンジン起動時との中間的な値とされる(Δf=f2)。
【0087】
図11には、図9のステップS100(ランダムキャリア制御)の処理手順の第2の例が示される。
【0088】
図11を参照して、ECU170は、図10と同様のステップS110およびS120により、「エンジンが停止中であるか否か」および、「エンジン起動中であるか否か」を判定する。そして、ECU170は、エンジン停止中(S110のYES判定時)には、ステップS130により、ハイブリッド車両の車速が所定のしきい値V1よりも低いか否かを判定する。このしきい値V1は、車両周囲の歩行者等に対して車両接近を報知することが必要と思われる低車速領域を峻別できるように、予め設定される。
【0089】
ECU170は、車速<V1の低車速時(S120のYES判定時)には、ステップS155により、Δf=f1に設定する。好ましくは、f1=0として、ランダムキャリア制御を中止することにより、エンジン100が停止されている低車速時において、車外へ出力される電磁騒音を高めることができる。
【0090】
一方、車速>V1のとき(S120のNO判定時)には、ECU170は、ステップS152により、車速に応じてΔfを設定する。具体的には、車速が高くなるほど、ロードノイズの増加によって電磁騒音が車室内で感知されにくくなるので、Δfは狭く設定される。なお、ステップS152では、ステップS155で設定されるf1よりも高い範囲に制御幅Δfを設定する。
【0091】
一方、エンジンの非停止時(S100のNO判定時)であって、エンジン起動中のとき(S120のYES判定時)には、ECU170は、図10と同様のステップS160を実行して、制御幅Δf=f3に設定する。図10の場合と同様に、f3>f1である。
【0092】
これに対して、ECU170は、エンジンの起動完了後、すなわち、エンジン動作中(S120のNO判定時)には、ステップS170♯に処理を進めて、エンジン回転数に応じて制御幅Δfを設定する。具体的には、エンジン回転数が高くなるほど、作動音の増大によって電磁騒音が車室内で感知されにくくなるので、Δfは狭く設定される。なお、ステップS170♯で設定される制御幅Δfは、ステップS160で設定されるf3よりも狭い。
【0093】
このように、図10および図11を通じて、ランダムキャリア制御における制御幅Δfは、エンジン100の状態に応じて可変に設定される。好ましくは、図11に示されるように、ハイブリッド車両の車速をさらに反映して、制御幅Δfは可変に設定される。
【0094】
図10,図11において、エンジン起動中にステップS160で設定された制御幅によって決まる周波数範囲は、「第1の周波数範囲」に対応する。同様に、エンジン停止中にステップS150〜S155で設定された制御幅によって決まる周波数範囲は、「第2の周波数範囲」に対応する。また、エンジン動作中(起動後)にステップS170,S170♯で設定された制御幅によって決まる周波数範囲は、「第3の周波数範囲」に対応する。これらの第1〜第3の周波数範囲の間で中心周波数faは共通とすることが好ましいが、エンジンの状態等の条件に応じて、第1〜第3の周波数範囲の中心周波数を変化させてもよい。
【0095】
再び図9を参照して、ECU170は、ステップS200では、ステップS100で決定されたキャリア周波数f1,f2に従って、キャリア信号160(1),160(2)を発生する。すなわち、ステップS200による処理は、図4のキャリア発生部360,365の機能に対応する。
【0096】
ECU170は、ステップS300では、第1インバータ210および第2インバータ220の制御指令を演算する。代表的には、制御指令として、インバータ各相の電圧指令Vu,Vv,Vwが演算される。すなわち、ステップS300による演算は、図4の電動機指令演算部300,305と同様に実行できる。
【0097】
ECU170は、ステップS400では、第1インバータ210の制御指令とキャリア信号160(1)とを比較するPWM制御によって、第1インバータ210のスイッチング素子のオンオフ制御信号を発生する。ステップS400では、さらに、第2インバータ220の制御指令とキャリア信号160(2)とを比較するPWM制御によって、第2インバータ220のスイッチング素子のオンオフ制御信号が発生される。すなわち、ステップS400による処理は、図4のパルス幅変調部310,315と同様に実行できる。
【0098】
ステップS100〜S400の処理を所定周期で繰返すことによって、図10または図11で説明したランダムキャリア制御に従ったキャリア周波数を用いて、MG1,MG2を制御する第1インバータ210および第2インバータ220でのPWM制御を実行できる。
【0099】
以上説明したように、本実施の形態によるハイブリッド車両では、ランダムキャリア制御におけるキャリア周波数の変化範囲(Δf)を、エンジンの状態に応じて設定する。これにより、車外に対して積極的に音を出力したい車両状態と、車室内で感知される騒音を抑制したい車両状態とを判別して、ランダムキャリア制御を適切に実行することができる。
【0100】
さらに、車速に応じて、車室内で騒音が感知されにくい状態になる程、キャリア周波数の変化範囲を小さくすることにより、キャリア周波数の低下に伴うデメリットを最小限に抑制しつつ、電磁騒音が車室内で感知されること抑制するように、ランダムキャリア制御を適切に実行することができる。
【0101】
なお、以上の実施の形態では、インバータ210,220でのPWM制御におけるランダムキャリア制御について説明したが、同様のランダムキャリア制御は、コンバータ200にも適用することもできる。
【0102】
図12は、図3に示したコンバータに適用されるPWM制御を説明するための概念的な波形図である。
【0103】
図12を参照して、コンバータ200のスイッチング素子Q1,Q2のオンオフは、キャリア信号165と、制御電圧指令値Vcntとの比較に基づいて制御される。制御電圧指令値Vcntは、コンバータ制御での「制御指令」に対応する。
【0104】
制御電圧指令値Vcntは、システム電圧VHを電圧指令値と一致させるためのフィードフォワード制御および/またはフィードバック制御によって演算された値である。たとえば、直流電圧VHの指令値と、直流電圧VLとの電圧比に基づいてフィードフォワード制御が実行される。また、直流電圧VHの指令値と検出値との偏差に基づいて、フィードバック制御を実行することができる。
【0105】
キャリア信号165の方が制御電圧指令値Vcntよりも高電圧の区間では、上アーム素子Q1がオンされる(下アーム素子Q2はオフ)一方で、制御電圧指令値Vcntの方がキャリア信号165よりも高電圧の区間では、下アーム素子Q2がオンされる(上アーム素子Q1はオフ)。
【0106】
制御電圧指令値Vcntが高くなると、下アーム素子Q2がオンされる期間が長くなるので、コンバータ200の昇圧比が高くなる。すなわち、システム電圧VHが上昇する。反対に、制御電圧指令値Vcntが低くなると、上アーム素子Q1がオンされる期間が長くなるので、コンバータ200の昇圧比が低くなる。すなわち、システム電圧VHが低下する。このようにして、コンバータ200は、PWM制御によって、システム電圧VHを制御することができる。
【0107】
コンバータ200では、キャリア信号165の周波数に従ったリップル電流がリアクトル(図3)を通過する。このため、リップル電流に起因してリアクトルに作用する磁界の変動することにより、キャリア周波数に従う電磁騒音が発生する可能性がある。一方、コンバータ200の制御に用いるキャリア信号165についても、インバータ制御に用いるキャリア信号160と同様に、キャリア周波数を任意に制御可能な構成とすることは容易である。
【0108】
したがって、コンバータ200のPWM制御へも、本実施の形態で説明したランダムキャリア制御を適用することが可能である。すなわち、キャリア信号165の周波数についても、図10または図11に示した制御処理に従って、同様に設定することができる。
【0109】
このように、本実施の形態(図1,図3)の構成であれば、コンバータ200、インバータ210およびインバータ220の各々について、上述のランダムキャリア制御を適用することができる。また、コンバータ200、インバータ210およびインバータ220の一部のみにランダムキャリア制御を適用してもよい。
【0110】
なお、本実施の形態では、本発明によるランダムキャリア制御が適用されるハイブリッド車両として図1および図3の構成を例示したが、本発明の適用はこのような例に限定されるものではない。すなわち、キャリア信号を用いるPWM制御によって制御される電力変換器(インバータおよび/またはインバータ)によって駆動される電動機と、エンジンとを搭載したハイブリッド車両であれば、図1とは異なる駆動系の構成を有するハイブリッド車両にも、本発明を適用可能である。すなわち、電動機(モータジェネレータ)の個数についても特に限定されることはなく、電動機が1個、あるいは3個以上搭載されるハイブリッド車両に対しても、本発明は適用可能である点について確認的に記載する。
【0111】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0112】
本発明は、PWM制御によって制御される電力変換器によって駆動される電動機と、エンジンとを搭載したハイブリッド車両に適用することができる。
【符号の説明】
【0113】
100 エンジン、110 第1モータジェネレータ(MG1)、112,122 中性点、120 第2モータジェネレータ(MG2)、130 動力分割機構、140 減速機、150 バッテリ、160(1),160(2),165 キャリア信号、180 電圧センサ、190 駆動輪、200 コンバータ、210,220 インバータ、270 電圧指令、280 パルス幅変調電圧、285 交流電流、290 リップル電流、300,305 電動機指令演算部、310,315 パルス幅変調部、350 キャリア周波数制御部、360,365 キャリア発生部、420 周波数範囲(ランダムキャリア制御)、Q1 電力用半導体スイッチング素子(上アーム素子)、Q2 電力用半導体スイッチング素子(下アーム素子)、S11〜S16,S21〜S26 制御信号、Imt(1),Imt(2) 電流(MG1,MG2)、Tqcom(1),Tqcom(2) トルク指令値、Tr 変更周期(ランダムキャリア制御)、VH 直流電圧(システム電圧)、VL 直流電圧、Vcnt 制御電圧指令値、Vu,Vv,Vw 各相電圧指令、Δf,f1〜f3 制御幅、f1max キャリア周波数上限値、f1min キャリア周波数下限値、f1,f2 キャリア周波数、fa 中心周波数。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関と電動機とを搭載したハイブリッド車両であって、
蓄電装置と前記電動機との間に配置された、少なくとも1つのスイッチング素子を含むように構成された電力変換器と、
前記電力変換器を制御するための制御装置とを備え、
前記制御装置は、
前記スイッチング素子のオンオフ制御に用いられるキャリア信号を発生するためのキャリア発生部と、
前記キャリア発生部が発生するキャリア信号の周波数を制御するためのキャリア周波数制御部と、
前記電力変換器の制御指令と、前記キャリア発生部からの前記キャリア信号との比較に基づいて、前記スイッチング素子のオンオフを制御するためのパルス幅変調部とを含み、
前記キャリア周波数制御部は、前記内燃機関の起動時には、所定周波数を中心とした第1の周波数範囲内で前記キャリア信号の周波数を変動させる一方で、前記内燃機関の停止時には、前記所定周波数を含む第2の周波数範囲内で前記キャリア信号の周波数を変動させるように前記キャリア発生部を制御し、
前記第2の周波数範囲は、前記第1の周波数範囲よりも狭い、ハイブリッド車両。
【請求項2】
前記キャリア周波数制御部は、前記内燃機関の停止時であって、かつ、前記ハイブリッド車両の車速が所定速度よりも低いときには、前記キャリア信号の周波数を固定する、請求項1記載のハイブリッド車両。
【請求項3】
前記キャリア周波数制御部は、前記内燃機関の起動後には、前記所定周波数を中心とした第3の周波数範囲内で前記キャリア信号の周波数を変動させるように、前記キャリア発生部を制御し、
前記第3の周波数範囲は、前記内燃機関の回転数が高いほど狭くなるように設定される、請求項1または2記載のハイブリッド車両。
【請求項4】
前記キャリア周波数制御部は、前記内燃機関の停止時であって、かつ、前記ハイブリッド車両の車速が所定速度よりも高いときには、前記車速が高いほど前記第2の周波数範囲を狭く設定する、請求項1記載のハイブリッド車両。
【請求項5】
内燃機関と、電動機と、蓄電装置と、前記蓄電装置および前記電動機の間に配置され、少なくとも1つのスイッチング素子を含むように構成された電力変換器とを搭載したハイブリッド車両の制御方法であって、
前記スイッチング素子のオンオフ制御に用いられるキャリア信号の周波数を制御するステップと、
前記制御するステップにより決められたキャリア信号の周波数に従って、前記キャリア信号を発生するステップと、
前記電力変換器の制御指令と、前記キャリア信号との比較に基づいて、前記スイッチング素子のオンオフを制御する信号を発生するステップとを備え、
前記制御するステップは、
前記内燃機関の起動時に、所定周波数を中心とした第1の周波数範囲内で前記キャリア信号の周波数を変動させるステップと、
前記内燃機関の停止時に、前記所定周波数を含む第2の周波数範囲内で前記キャリア信号の周波数を変動させるステップとを含み、
前記第2の周波数範囲は、前記第1の周波数範囲よりも狭い、ハイブリッド車両の制御方法。
【請求項6】
前記制御するステップは、
前記内燃機関の停止時に前記ハイブリッド車両の車速を所定速度と比較するステップと、
前記内燃機関の停止時に、前記車速が前記所定速度よりも低いときに、前記キャリア信号の周波数を固定するステップとをさらに含む、請求項5記載のハイブリッド車両の制御方法。
【請求項7】
前記制御するステップは、
前記内燃機関の起動後において、前記所定周波数を中心とした第3の周波数範囲内で前記キャリア信号の周波数を変動させるステップをさらに含み、
前記第3の周波数範囲は、前記内燃機関の回転数が高いほど狭くなるように設定される、請求項5または6記載のハイブリッド車両の制御方法。
【請求項8】
前記制御するステップは、
前記内燃機関の停止時に前記ハイブリッド車両の車速を所定速度と比較するステップと、
前記内燃機関の停止時であって、かつ、前記車速が所定速度よりも高いときに、前記車速が高いほど前記第2の周波数範囲を狭く設定するステップとをさらに含む、請求項5記載のハイブリッド車両の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−171369(P2012−171369A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−31924(P2011−31924)
【出願日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】