説明

ハイブリッド車両及びその制御方法

【課題】 一方向の回転だけを許容するオイルポンプでは変速機に潤滑油を供給することのできないリバース走行時に変速機の焼き付きを防止する。
【解決手段】 オイルポンプは、少なくともエンジン及び電動機のいずれか一方からの機械的動力に基づき回転する駆動軸の一方向の回転に従ってのみ変速機に対し潤滑油を供給する。ポンプを駆動する駆動軸は、変速機において前進側変速段に確立された場合に潤滑油を供給する向きに回転する一方で、リバース変速段に確立された場合に潤滑油を供給しない反対向きに回転するように設けられる。変速機においてリバース変速段に確立された状態での車両走行中は、オイルポンプによる変速機への潤滑油の供給ができないことになる。そうした場合に、車両の車速を制限する制御を行うことにより、例えオイルポンプから変速機に対して潤滑油が供給できなくても、油膜切れによる変速機の焼き付きをすぐさま生じさせることがない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動源として内燃機関エンジンと電動機とを備えた車両(いわゆるハイブリッド車両)及びその制御方法に関し、特に一方向の回転だけを許容する機械式のオイルポンプを前進走行時にのみ動作するよう変速機に設けてなる場合に、変速機に潤滑油を供給できないリバース(後進)走行時において変速機の焼き付きを防止する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用の変速機には、近年、変速時における機械的動力の伝達の途切れをなくすために、奇数段の変速段で構成される第1の変速機構の入力軸(以下、第1入力軸という)と内燃機関の出力軸(以下、機関出力軸又はエンジン出力軸という)とを係合可能な第1のクラッチと、偶数段の変速段で構成される第2の変速機構の入力軸(以下、第2入力軸という)と機関出力軸とを係合可能な第2のクラッチとを備え、これら2つのクラッチを交互につなぎ替えることで変速を行う、いわゆるデュアルクラッチ式変速機が知られている。このデュアルクラッチ式変速機は、例えば、奇数段から偶数段に変速する際には、偶数段の歯車対を予め噛み合わせておき(プレシフト又はプリシフトなどと呼ばれる)、奇数段に機械的動力を伝達する第1のクラッチを解放状態にすると共に、偶数段に機械的動力を伝達する第2のクラッチを締結状態にすることで、変速時における動力伝達の途切れを抑制している。
【0003】
下記に示す特許文献1には、上述のように2つの変速機構を備え、一方の変速機構の入力軸に係合する電動機(モータ)を更に具えたハイブリッドタイプの車両が示されている。このようなハイブリッド車両においては、エンジンのみで車両を走行するエンジン単独走行、電動機のみで車両を走行するモータ単独走行、エンジンと電動機とを組み合わせて車両を走行するハイブリッド走行のいずれかに、車両の運転状況に応じて適切に制御されるようになっている。
【0004】
また、ハイブリッド車両においても、変速機に対し潤滑油(又は作動油ともいう)を供給するための機械式オイルポンプが設けられている(例えば下記に示す特許文献2参照)。特許文献2に示されるように、ハイブリッド車両では別体の動力源を用いることなくエンジン又は電動機などの駆動源をそのままオイルポンプの動力源としても用いることによって、上記機械式オイルポンプを作動させるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010‐164192号
【特許文献2】特開2006‐183861号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、ハイブリッド車両においてもコスト低減等の観点から、変速機に対し潤滑油を供給する機械式オイルポンプとして一方向の回転だけを許容するタイプのオイルポンプを用いたいという要望がある。しかしながら、特許文献1に示したようなデュアルクラッチ式変速機を備えたハイブリッド車両では、変速機の機構上、エンジン及び電動機などの駆動源をそのままオイルポンプの動力源としても用いる場合に、どうしても前進走行時には正回転される一方で後進(リバース)走行時には逆回転されるようにしか前記機械式のオイルポンプを配置することのできないようになっている。そこで、従来では、リバース走行に比較すると一般的に走行機会が多い前進走行時に動作して変速機に対し潤滑油を供給可能とするべく前記オイルポンプが配置されている。より具体的には、電動機に係合されている第1入力軸の正回転時に動作するよう前記オイルポンプは設けられる。
【0007】
しかし、前進走行に比べれば走行機会が少ないとは言え、リバース走行時にオイルポンプが動作せずに変速機を潤滑できないとなると、特には高速/長時間のリバース走行が行われた場合に油膜切れによる変速機の焼き付きを生じさせる恐れがあることから、非常に都合が悪い。
【0008】
本発明は上述の点に鑑みてなされたもので、潤滑油を供給する機械式オイルポンプの動力源にエンジン及び電動機などの駆動源を共用している機構からなる変速機を備えたハイブリッド車両において、機械式オイルポンプが動作せずに変速機に潤滑油が供給されないリバース走行時に車速を制限して変速機の焼き付きの防止を図るようにしたハイブリッド車両及びその制御方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の請求項1に係るハイブリッド車両は、同軸に配置された第1入力軸(IMS)及び第2入力軸(OMS)であって、前記第1入力軸(IMS)は電動機(3)に接続されてなるものと、エンジン(2)の駆動力を前記第1入力軸(IMS)に伝達する第1断接手段(C1)と、前記エンジン(2)の駆動力を前記第2入力軸(OMS)に伝達する第2断接手段(C2)と、前記第1入力軸(IMS)及び前記第2入力軸(OMS)と平行に配置された出力軸(CS)と、前記第1入力軸(IMS)及び前記第2入力軸(OMS)との間で回転方向を反転して駆動力を伝達する反転機構と、前記第1入力軸(IMS)及び前記第2入力軸(OMS)の一方に設けられた入力ギヤ(43,45,47)と、前記出力軸(CS)に設けられて前記入力ギヤ(43,45,47)に常時連動する出力ギヤ(51,52,53)とを有し、所定の前進側変速段の確立時に、前記エンジン(2)の駆動力は、前記第1断接手段(C1)及び前記第2断接手段(C2)の一方と、前記第1入力軸(IMS)及び前記第2入力軸(OMS)の一方に設けられた前記入力ギヤ(43,45,47)と、前記出力軸(CS)に設けられた前記出力ギヤ(51,52,53)とを介して駆動輪(7R,7L)に伝達され、リバース変速段の確立時に、前記エンジン(2)の駆動力は、前記第1断接手段(C1)及び前記第2断接手段(C2)の他方と、前記反転機構と、前記第1入力軸(IMS)及び前記第2入力軸(OMS)の一方に設けられた前記入力ギヤ(43,45,47)と、前記出力軸(CS)に設けられた前記出力ギヤ(51,52,53)とを介して駆動輪(7R,7L)に伝達されることを特徴とする変速機(4)と、少なくともエンジン(2)及び電動機(3)のいずれか一方からの機械的動力に基づき回転する駆動軸(OS)の一方向の回転に従ってのみ前記変速機(4)に対し潤滑油を供給可能な機械式のオイルポンプ(OP)であって、前記駆動軸(OS)は、前記変速機(4)において前進側変速段に確立された場合に潤滑油を供給する向きに回転する一方で、前記変速機(4)においてリバース変速段に確立された場合に潤滑油を供給しない反対向きに回転するものと、前記変速機(4)においてリバース変速段に確立された状態にあり前記オイルポンプ(OP)による前記変速機(4)への潤滑油の供給ができない場合に、当該車両の車速を制限する制御を行う制御手段(10)とを備える。
【0010】
本発明にかかるハイブリッド車両は、駆動源にエンジン(2)と電動機(3)とを有した車両であって、第1及び第2の2つの断接手段(C1,C2)を有するデュアルクラッチ式変速機(4)を備えたものにおいて、オイルポンプ(OP)から前記変速機(4)への潤滑油の供給ができない場合に当該車両の車速を制限する制御を行う。前記オイルポンプ(OP)は、少なくとも前記エンジン(2)及び前記電動機(3)のいずれか一方からの機械的動力に基づき回転する駆動軸(OS)の一方向の回転に従ってのみ前記変速機(4)に対し潤滑油を供給することが可能な機械式のオイルポンプである。このオイルポンプ(OP)を駆動する駆動軸(OS)は、前記変速機(4)において前進側変速段に確立された場合に潤滑油を供給する向きに回転する一方で、前記変速機(4)においてリバース変速段に確立された場合に潤滑油を供給しない反対向きに回転するように設けられる。前記変速機(4)においてリバース変速段に確立された状態での車両走行中は、前記オイルポンプ(OP)による前記変速機(4)への潤滑油の供給ができないことになる。そうした場合に、車両の車速を制限する制御を行うことにより、例えオイルポンプ(OP)から変速機(4)に対して潤滑油が供給できなくても、油膜切れによる変速機(4)の焼き付きをすぐさま生じさせることがない。
【0011】
本発明の請求項2に係るハイブリッド車両は、駆動源にエンジン(2)と電動機(3)とを有してなり、前記電動機(3)に接続されてなる一方で前記エンジン出力軸とは係合及び非係合に切り替え可能な入力軸(IMS)を有してなり、前記エンジン出力軸及び前記電動機(3)からの機械的動力を前記入力軸(IMS)で受け、複数の変速段のうちいずれか1つを係合して前記入力軸(IMS)と駆動輪(7R,7L)とを係合させることが可能な変速機(4)であって、該変速機(4)は前記電動機(3)の回転向きにより前進走行又はリバース走行のいずれかに切り替えられるものと、前記電動機(3)からの機械的動力に基づき回転する駆動軸(OS)の一方向の回転に従ってのみ前記変速機(4)に対し潤滑油を供給可能な機械式のオイルポンプ(OP)であって、前記駆動軸(OS)は、前記変速機(4)が前進走行に切り替えられた場合に潤滑油を供給する向きに回転される一方で、前記変速機(4)がリバース走行に切り替えられた場合に潤滑油を供給しない反対向きに回転されるものと、前記変速機(4)が前記電動機(3)の回転向きに応じてリバース走行に切り替えられて前記オイルポンプ(OP)による前記変速機(4)への潤滑油の供給ができない場合に、当該車両の車速を制限する制御を行う制御手段(10)とを備える。これにより、デュアルクラッチ式変速機でないハイブリッド車両においても、前記オイルポンプ(OP)による前記変速機(4)への潤滑油の供給ができないリバース走行中に車両の車速を制限することによって、油膜切れによる変速機(4)の焼き付きをすぐさま生じさせることがない。
【0012】
なお、上記で括弧内に記した図面参照符号は、後述する実施形態において対応する構成要素等を参考のために例示したものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、デュアルクラッチ式変速機を備えたハイブリッド車両又はデュアルクラッチ式変速機でない変速機を備えたハイブリッド車両において、一方向の回転に従ってのみ潤滑油を供給可能な機械式のオイルポンプを用いるが故に、変速機への潤滑油の供給ができないリバース走行中に当該車両の車速を制限する制御を行うことによって、油膜切れによる変速機の焼き付きをすぐさま生じさせることがない、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態における車両の概略的な接続構成図。
【図2】図1に示す変速機のスケルトン図。
【図3】図1に示す電子制御ユニットにより実行されるリバース走行時の車速制限処理の概略を示すフローチャート。
【図4】リバース走行時の車速制限について説明するためのタイミングチャート。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、この発明の実施の形態を添付図面に従って詳細に説明する。
【0016】
まず、本実施形態における車両の構成を説明する。図1は、本発明の一実施形態における車両の概略的な接続構成図である。本実施形態の車両1は、いわゆるハイブリッド車両であり、図1に示すように、駆動源としてのエンジン2及びモータ3と、モータ3を制御するためのモータ制御手段20と、バッテリ30と、変速機4と、ディファレンシャル機構5と、左右のドライブシャフト6R、6Lと、左右の駆動輪7R、7Lと、電動サーボブレーキ8とを備える。エンジン2とモータジェネレータ3の回転駆動力は、変速機4、ディファレンシャル機構5およびドライブシャフト6R、6Lを介して左右の駆動輪7R、7Lに伝達される。
【0017】
また、この車両1は、エンジン2、モータ3、変速機4、ディファレンシャル機構5、電動サーボブレーキ8、モータ制御手段20およびバッテリ30をそれぞれ制御するための電子制御ユニット(ECU:Electronic Control Unit)10を備える。電子制御ユニット10は1つのユニットとして構成されるだけでなく、例えばエンジン2を制御するためのエンジンECU、モータジェネレータ3やモータジェネレータ制御手段20を制御するためのモータジェネレータECU、バッテリ30を制御するためのバッテリECU、変速機4を制御するためのATECUなど複数のECUから構成されてもよい。この実施形態に示す電子制御ユニット10は、エンジン2を制御するとともに、モータ3やバッテリ30、変速機4、電動サーボブレーキ8を制御する。
【0018】
電子制御ユニット10は、各種の運転条件に応じて、モータ3のみを動力源とするモータ単独走行(EV走行)をするように制御したり、エンジン2のみを動力源とするエンジン単独走行をするように制御したり、エンジン2とモータ3の両方を動力源として併用する協働走行(HEV走行)をするように制御する。また、電子制御ユニット10は、公知の各種の制御パラメータに従って後述のリバース走行時における車速制限のために必要な各種の制御(図3参照)や、その他の各種の運転に必要な制御を行う。この実施形態においては、制御パラメータとして、例えば係合中のギヤ段(変速段)を検出するシフトセンサA1からのシフト位置、モータ3の回転数を検出する回転数センサA2からのモータ回転数、モータ3のトルクを検出するトルクセンサA3(例えばレゾルバなど)からのモータトルク、車両の速度を検出する車速センサA4からの車両速度、エンジン2の回転数を検出する回転数センサA5からのエンジン回転数、エンジン2のトルクを検出するトルクセンサA6からのエンジントルク、その他センサA7からの例えばアクセルペダル開度やブレーキペダル開度などの運転者の操作に応じた各種信号さらには道路の勾配に応じた車両の傾斜角などが入力されるようになっている。勿論、ここに記載した以外の信号が入力されてよい。
【0019】
エンジン2は、燃料を空気と混合して燃焼することにより車両1を走行させるための駆動力を発生する内燃機関エンジンである。モータ3は、エンジン2とモータ3との協働走行やモータ3のみのEV走行の際には、バッテリ30の電気エネルギーを利用して車両1を走行させるための駆動力を発生するモータとして機能するとともに、車両1の減速時にはモータ3の回生により電力を発電する発電機としても機能する。すなわち、モータ3は例えば界磁に永久磁石を利用した永久磁石式3相交流モータ等のブラシレスDCモータであって、モータ制御手段20に接続されている。モータ制御手段20は例えばインバータ(電力変換器)であって、電子制御ユニット10によるスイッチング制御に従ってバッテリ30から受ける直流電圧を3相交流電圧に変換し、その変換した3相交流電圧をモータ3へ出力する。これにより、モータ3は指定されたトルクを発生するように駆動される。また、モータ制御手段20は、エンジン2の出力を受けてモータ3が発電した3相交流電圧を電子制御ユニット10によるスイッチング制御に従って直流電圧に変換し、その変換した直流電圧をバッテリ30へ出力する。このモータ3の回生時には、バッテリ30は、モータ3により発電された電力(回生エネルギー)により充電される。
【0020】
電動サーボブレーキ8は上記モータ3とは別の電動モータと油圧サーボ(図示せず)とを有してなり、当該電動モータの制御に応じて油圧サーボが動作されることにより駆動輪7R,7Lを機械的に制動するブレーキである。電子制御ユニット10は、信号線を介して所定の信号を送ることで前記電動モータの制御を行う(所謂ブレーキバイワイヤ)。なお、ここでは図示の都合上、電動サーボブレーキ8を駆動輪7R側に1つだけ示しているが、駆動輪7L側にも電動サーボブレーキ8が設けられてよい。
【0021】
次に、本実施形態の変速機4の構成を説明する。図2は、図1に示す変速機4のスケルトン図である。ここに示す変速機4は、前進7速、後進1速の平行軸式トランスミッションであり、乾式のデュアルクラッチ式変速機(DCT:デュアルクラッチトランスミッション)である。
【0022】
変速機4には、エンジン2の機関出力軸をなすクランクシャフト(図示せず)およびモータ3に接続される内側メインシャフトIMS(第1入力軸)と、この内側メインシャフトIMSの外筒をなす外側メインシャフトOMS(第2入力軸)と、内側メインシャフトIMSにそれぞれ平行なセカンダリシャフトSS(第2入力軸)、アイドルシャフトIDS、リバースシャフトRVSと、これらのシャフトに平行で出力軸をなすカウンタシャフトCSとが設けられる。
【0023】
これらのシャフトのうち、外側メインシャフトOMSがアイドルシャフトIDSを介してリバースシャフトRVSおよびセカンダリシャフトSSに常時係合し、カウンタシャフトCSがさらに図2では図示しないディファレンシャル機構5に常時係合するように配置される。
【0024】
また、変速機4は、奇数段用の第1クラッチC1(第1断接装置)と、偶数段用の第2クラッチC2(第2断接装置)とを備える。第1および第2クラッチC1、C2は乾式のクラッチである。第1クラッチC1は内側メインシャフトIMS(第1入力軸)に結合される。第2クラッチC2は、外側メインシャフトOMS(第2入力軸の一部)に結合され、外側メインシャフトOMS上に固定されたギヤ48からアイドルシャフトIDSを介してリバースシャフトRVSおよびセカンダリシャフトSS(第2入力軸の一部)に連結される。
【0025】
内側メインシャフトIMS(第1入力軸)のモータ3よりの所定箇所にはプラネタリギヤ機構70が固定配置されており、プラネタリギヤ機構70のサンギヤ71はモータ3のロータに、キャリア73は3速駆動ギヤ43に、リングギヤ75は内側メインシャフトIMS(第1入力軸)にそれぞれ接続されている。内側メインシャフトIMS(第1入力軸)の外周には、図2において左側から順に、1速駆動ギヤとなるプラネタリギヤ機構70のキャリヤ73と、3速駆動ギヤ43と、7速駆動ギヤ47と、5速駆動ギヤ45が配置される。3速駆動ギヤ43、7速駆動ギヤ47、5速駆動ギヤ45はそれぞれ内側メインシャフトIMSに対して相対的に回転可能であり、また上記したようにギヤ43はプラネタリギヤ機構70のキャリヤ73に連結されている。更に、内側メインシャフトIMS上には、3速駆動ギヤ43と7速駆動ギヤ47との間に3−7速シンクロメッシュ機構(セレクタ機構)81が軸方向にスライド可能に設けられ、かつ、5速駆動ギヤ45に対応して5速シンクロメッシュ機構(セレクタ機構)82が軸方向にスライド可能に設けられる。所望のギヤ段に対応するシンクロメッシュ機構(セレクタ機構)をスライドさせて該ギヤ段のシンクロを入れることにより、該ギヤ段が内側メインシャフトIMS(第1入力軸)に連結される。メインシャフトIMS(第1入力軸)に関連して設けられたこれらのギヤ及びシンクロメッシュ機構によって、奇数段の変速段を実現するための第1変速機構が構成される。第1変速機構の各駆動ギヤは、カウンタシャフトCS上に設けられた対応する従動ギヤに噛み合い、カウンタシャフトCSを回転駆動する。
【0026】
セカンダリシャフトSS(第2入力軸)の外周には、図2において左側から順に、2速駆動ギヤ42、6速駆動ギヤ46と、4速駆動ギヤ44とが相対的に回転可能に配置される。更に、セカンダリシャフトSS上には、2速駆動ギヤ42と6速駆動ギヤ46との間に2−6速シンクロメッシュ機構83が軸方向にスライド可能に設けられ、かつ、4速駆動ギヤ44に対応して4速シンクロメッシュ機構(セレクタ機構)84が軸方向にスライド可能に設けられる。この場合も、所望のギヤ段に対応するシンクロメッシュ機構(セレクタ機構)をスライドさせて該ギヤ段のシンクロを入れることにより、該ギヤ段がセカンダリシャフトSS(第2入力軸)に連結される。セカンダリシャフトSS(第2入力軸)に関連して設けられたこれらのギヤ及びシンクロメッシュ機構によって、偶数段の変速段を実現するための第2変速機構が構成される。第2変速機構の各駆動ギヤも、カウンタシャフトCS上に設けられた対応する従動ギヤに噛み合い、カウンタシャフトCSを回転駆動する。なお、セカンダリシャフトSSに固定されたギヤ49はアイドルシャフトIDSに結合しており、該アイドルシャフトIDSから外側メインシャフトOMSを介して第2クラッチC2に結合される。
【0027】
なお、第1変速機構において、任意の或る変速段を選択するとは、当該変速段に対応するギヤのシンクロが入れられて該ギヤが内側メインシャフトIMS(第1入力軸)に連結されることを意味する。また、この第1変速機構において、エンジン走行用の変速段(又は駆動ギヤ段)を実現するとは、該変速段(又は駆動ギヤ段)を上記のように選択した(シンクロを入れた)上で、対応する第1クラッチC1を係合させて内側メインシャフトIMS(第1入力軸)をエンジン出力軸に連結することを意味する。
【0028】
同様に、第2変速機構において、任意の或る変速段を選択するとは、当該変速段に対応するギヤのシンクロが入れられて該ギヤがセカンダリシャフトSS(第2入力軸)に連結されることを意味する。また、この第2変速機構において、エンジン走行用の変速段(又は駆動ギヤ段)を実現するとは、該変速段(又は駆動ギヤ段)を上記のように選択した(シンクロを入れた)上で、対応する第2クラッチC2を係合させてセカンダリシャフトSS(第2入力軸)をエンジン出力軸に連結することを意味する。
【0029】
リバースシャフトRVSの外周には、リバース駆動ギヤ46が相対的に回転可能に配置される。また、リバースシャフトRVS上には、リバース駆動ギヤ46に対応してリバースシンクロメッシュ機構85が軸方向にスライド可能に設けられ、また、アイドルシャフトIDSに係合するギヤ50が固定されている。リバース走行する場合は、シンクロメッシュ機構85のシンクロを入れて、第2クラッチC2を係合することにより、第2クラッチC2の回転が外側メインシャフトOMS及びアイドルシャフトIDSを介してリバースシャフトRVSに伝達され、リバース駆動ギヤ46が回転される。リバース駆動ギヤ46は内側メインシャフトIMS上のギヤ56に噛み合っており、リバース駆動ギヤ46が回転するとき内側メインシャフトIMSは前進時とは逆方向に回転(逆回転)する。内側メインシャフトIMSの逆方向の回転は、プラネタリギヤ機構70に連結したギヤ43を介してカウンタシャフトCSに伝達される。リバースシャフトRVSに関連して設けられた上記ギヤ及びシンクロメッシュ機構によって、リバース段の変速段を実現するための反転機構が構成される。
【0030】
リバース駆動ギヤ46はオイルポンプ駆動シャフトOS上のギヤOGとも噛み合っていることから、リバース駆動ギヤ46の回転はギヤOGを介してオイルポンプ駆動シャフトOSへと伝達される。オイルポンプ駆動シャフトOSが回転することに伴い、第1変速機構及び第2変速機構の各部に潤滑油(作動油)を供給するオイルポンプOPが駆動される。すなわち、上記リバース駆動ギヤ46はエンジン2及び/又は電動機3の駆動に伴って回転することから、この実施形態ではエンジン2及び電動機3などの駆動源をオイルポンプOPの動力源として共用していることになる。ただし、機械式オイルポンプOPは一方向の回転だけを許容するタイプのオイルポンプであることから、オイルポンプ駆動シャフトOSが正回転(ここでは、例えば図中において記号Xを付した矢印向きを便宜的に正回転とする)した場合には動作して変速機4の各部に潤滑油を供給する一方で、オイルポンプ駆動シャフトOSが逆回転した場合には動作せずに変速機4の各部に潤滑油を供給しない。
【0031】
カウンタシャフトCS上には、図2において左側から順に、2−3速従動ギヤ51と、6−7速従動ギヤ52と、4−5速従動ギヤ53と、パーキング用ギヤ54と、ファイナル駆動ギヤ55とが固定的に配置される。ファイナル駆動ギヤ55は、ディファレンシャル機構5のディファレンシャルリングギヤ(図示せず)と噛み合うようになっており、これにより、カウンタシャフトCSの出力軸の回転がディファレンシャル機構5の入力軸(つまり車両推進軸、足軸とも呼ばれる)に伝達される。
【0032】
また、プラネタリギヤ機構70のリングギヤ75とプラネタリギヤ72,74に係合するように、ワンウェイクラッチ41が設けられる。
【0033】
2−6速シンクロメッシュ機構83のシンクロスリープを左方向にスライドすると、2速駆動ギヤ42がセカンダリシャフトSSに結合され、右方向にスライドすると、6速駆動ギヤ46がセカンダリシャフトSSに結合される。また、4速シンクロメッシュ機構84のシンクロスリープを右方向にスライドすると、4速駆動ギヤ44がセカンダリシャフトSSに結合される。このように偶数の駆動ギヤ段を選択した状態で、第2クラッチC2を係合することにより、変速機4は偶数の変速段(2速、4速、又は6速)に設定される。
【0034】
3−7速シンクロメッシュ機構81のシンクロスリープを左方向にスライドすると、3速駆動ギヤ43が内側メインシャフトIMSに結合されて3速の変速段が選択され、右方向にスライドすると、7速駆動ギヤ47が内側メインシャフトIMSに結合されて7速の変速段が選択される。また、5速シンクロメッシュ機構82のシンクロスリープを右方向にスライドすると、5速駆動ギヤ45が内側メインシャフトIMSに結合されて5速の変速段が選択される。シンクロメッシュ機構81、82がどのギヤ43、47、45も選択していない状態では、プラネタリ機構70のキャリア73の回転がこれに連結したギヤ43を介してカウンタシャフトCSに伝達され、1速の変速段が選択されることになる。奇数の駆動ギヤ段を選択した状態で第1クラッチC1を係合することにより、変速機4は奇数の変速段(1速、3速、5速、又は7速)に設定される。
【0035】
変速機4で実現すべき変速段の決定及び該変速段を実現するための制御(第1変速機構及び第2変速機構における変速段の選択すなわちシンクロの切り替え制御と、第1クラッチ及び第2クラッチの係合及び解放(係合解除)の制御等)は、公知のように運転状況に従って電子制御ユニット10によって実行される。
【0036】
図2からも理解できるように、図2に示すデュアルクラッチ式変速機4は、少なくともオイルポンプ駆動シャフトOSの回転向きと内側メインシャフトIMSの回転向きが常に同じ向きとなる。そのため、オイルポンプOPの動作を左右するオイルポンプ駆動シャフトOSの回転向き(正回転又は逆回転)は、内側メインシャフトIMSが正回転する前進段走行時には正回転するし、内側メインシャフトIMSが逆回転するリバース走行時には逆回転する。上述したように、オイルポンプ駆動シャフトOSが逆回転した場合にはオイルポンプOPが動作せずに変速機4の各部に潤滑油が供給されないことからすれば、オイルポンプ駆動シャフトOSが逆回転するリバース走行が高速/長時間にわたって行われると、潤滑油が供給されないことによる変速機4の焼き付きが生じてしまう可能性が大いにある。
【0037】
そこで、本実施形態に示すハイブリッド車両では、リバース走行時における変速機4の焼き付きの発生を防止するべく、リバース走行中である場合にある程度の時間にわたって潤滑油が供給されなくともすぐには変速機4に焼き付きを生じさせる恐れのない車速(例えば30Km前後など、以下では制限車速と呼ぶ)以下となるよう、リバース走行中の車速を自動的に制限する車速制御が電子制御ユニット(ECU)10によって実行されるようにしている。なお、上記「制限車速」は車両のリバース走行が開始されてからの時間経過に従って変化させてよく、具体的には長い時間が経過するにつれて制限車速をより遅い速度へと変化させるとよい。
【0038】
次に、電子制御ユニット10によって実行されるリバース走行時における車速制限のための制御例について、図3及び図4を用いて説明する。図3は、リバース走行時における車速制限処理の一実施例を示すフローチャートである。図3に示す車速制限処理は、車両が運転に供されている間、例えば運転者によりイグニッションキーがオンされることに応じて開始されてイグニッションキーがオフされるまでの間に繰り返し実行するなどしてよい。図4はリバース走行時の車速制限について説明するためのタイミングチャートであり、上から順に運転者(ドライバ)による減速操作(例えばアクセルオフ操作やブレーキオン操作など)、ギヤ段(シフト位置)、車両が走行中の道路の勾配変化、車速、エンジンスロートルク要求、モータトルク要求を示している。
【0039】
ステップS1は、車両がリバース走行中であるか否かを判定する。ハイブリッド車両におけるリバース走行に関しても前進段走行と同様に、駆動源をエンジン2のみ(エンジン単独走行)、電動機3のみ(モータ単独走行)、エンジン2及び電動機3(ハイブリッド走行)とする異なる3つの走行態様があり得る。リバース走行中であるか否かの判定は、例えばシフト位置が後進段(リバース段)でありかつ車速が「0」でないなどの所定の判定条件(勿論、これに限られない)を満たしたときに、当該車両はリバース走行中であると判定される。上記条件に従って車両がリバース走行中でないと判定した場合には(ステップS1のNO)、当該処理を終了する。すなわち、車両がリバース走行中でなく前進段走行中である場合には、オイルポンプOPは正回転(図2の矢印Xの向き)しており変速機4への潤滑油の供給が滞る恐れがないことから、特に以下に示すような車速を制限する制御を行う必要はない。
【0040】
車両がリバース走行中であると判定した場合には(ステップS1のYES)、リバース走行中である車両の速度(車速)が予め決められている制限車速以上であるか否かを判定する(ステップS2)。リバース走行中の車両の速度が制限車速以上でないと判定した場合には(ステップS2のNO)、オイルポンプOPが逆回転(図2の矢印Xの反対向き)していたとしても変速機4への潤滑油が滞る恐れの小さい比較的に遅い車速でのリバース走行であるので、特に車速制限を行うことなく当該処理を終了してよい。
【0041】
一方、リバース走行中の車両の速度が制限車速以上であると判定した場合には(ステップS2のYES)、エンジンスロートルク要求に基づいてエンジン2のトルクを落とす制御を実行することによりエンジンブレーキをかける(ステップS3)。このエンジンブレーキをかけるために実行されるエンジントルクを落とす制御は、その時々の車両の走行態様によって異なる。例えば、エンジン単独走行時やハイブリッド走行時においては、エンジン2自体の出力トルクを選択中の駆動ギヤやアクセルペダル開度などから決められる目標エンジントルクよりも落とす制御、あるいは燃料供給をカットして駆動中のエンジン2を停止する制御を行えばよい。モータ単独走行時においては、駆動していないエンジン2をモータ3の回転によって連れ回すように、内側メインシャフトIMSに繋がる第1クラッチC1を締結する制御を行えばよい。ステップS4は、ハイブリッド走行又はモータ単独走行によるリバース走行である場合に、モータトルク要求に基づいて逆回転駆動されているモータ3をオフする制御を行う(このとき、第1のクラッチC1は解除状態にある)。
【0042】
ステップS5では、エンジン2を利用しての車速調節によって車速が「制限車速+リセットオフセット値」を下回ったか否かを判定する。ここで、リセットオフセット値は予め決めてある所定値(例えば−5Kmなど)である。車速が「制限車速+リセットオフセット値(例えば30‐5=25Km)」を下回ったと判定した場合には(ステップS5のYES)、エンジン2を利用しての車速調節によって車速を十分に落とすことができたとして、上記ステップS3で実行したエンジントルクを落とす制御を終了させて(ステップS10)、当該処理を終了する。
【0043】
図4に示すように、変速段がニュートラルからリバース段に変更されてリバース走行が開始されると(このときを便宜的に時刻t0とする)、車両は道路の勾配変化にあわせて速度を増しながら走行する。このとき、オイルポンプOPはオイルポンプ駆動シャフトOSの回転向きが逆回転となることから動作せず、変速機4には潤滑油が供給されていない状態となる。特に車両が上り勾配の坂道をリバース走行している場合には、運転者の意思に関わらずに(つまりは運転者がアクセルを踏んでいなくとも)勾配にあわせて車両の速度が段々と増していく。
【0044】
上述したように、リバース走行時に車両の速度が必要以上に増してオイルポンプOPによる変速機4への潤滑油の供給が行われていない状態が続くと都合が悪いので、車速が所定の制限車速を超える場合には(時刻t1)、まずエンジン2を利用した車速調整による車速の低下を実現するべくエンジン2のトルクを落とす又はエンジン2を停止する制御を行ってエンジンブレーキがかかるようにする。また、このときにはモータ3が駆動中であればモータ3をオフする制御も同時に行われるので、モータ3の出力トルクは「0」になる。こうしたエンジン2のトルクを利用しての車速調節によって車速が段々と低下して「制限速度+リセットオフセット値」を下回るようになれば(時刻t5以降参照)、エンジンスロートルク要求及びモータトルク要求を車速制限前に指定されていた目標エンジントルク及び目標モータトルクにそれぞれ戻して、「制限速度+リセットオフセット値」以下の任意の速度(目標エンジントルク及び/又は目標モータトルクに従う速度)でのリバース走行を続けるよう制御する。車速を下げることができれば、変速機4の焼き付きが生じる可能性を大きく減らし得る。
【0045】
上記したエンジン2のトルクを利用しての車速調節によって車速が「制限速度+リセットオフセット値」を下回ればよいが、例えば5%以上の上り勾配の道路でのリバース走行であるような場合だとあまり車速が落ちずに制限車速あたりの速度で走行を続けたり(時刻t1〜時刻t2参照)、あるいは勾配変化がさらに急になったりすると車速が制限車速以上に再度あがることがある(時刻t3参照)。そうなると、オイルポンプOPによる変速機4への潤滑油の供給が行われていない状態がより長い時間にわたって続くことになるので都合が悪い。
【0046】
そこで、図3に示す処理では、車速が「制限車速+リセットオフセット値」を下回らないと判定した場合つまりエンジン2を利用しての車速調節によっては車速を十分に落とすことができなかった場合には(ステップS5のNO)、エンジン2(詳しくはエンジンブレーキ)だけでなくさらにモータ3をも利用した車速調整による車速の低下を実現するべく、モータトルク要求に従ってモータ3を回生する制御を実行する(ステップS6)。ステップS7は、モータ3の回生制御の実行に伴い車速が「制限車速+リセットオフセット値」を下回ったか否かを判定する。モータ3の回生制御により車速が「制限車速+リセットオフセット値」を下回ったと判定した場合には(ステップS7のYES)、エンジン2及びモータ3を利用しての車速調節によって車速を十分に落とすことができたとして、当該処理を終了する。一方、車速が「制限車速+リセットオフセット値」を下回らないと判定した場合には(ステップS7のNO)、引き続きモータ3の回生制御を行うことによってモータトルクをより一層増加するべく上記ステップS6の処理に戻るとよい。
【0047】
図4に示すように、エンジン2を利用しての車速調節によって車速が大きく低下しなかった(「制限車速+リセットオフセット値」を下回らなかった)場合には、モータ3の回生制御が行われる(時刻t3)。具体的には、解除状態にあった第1のクラッチC1を締結する。モータ3の回生制御が行われると、リバース走行時における内側メインシャフトIMSの回転方向とは反対向きのトルクが増すことになるので、速度は低下し始める(時刻t4)。こうしたモータ3の回生制御に応じて生ずるモータトルクを利用しての車速調節によって車速が段々と低下するので、これにより「制限速度+リセットオフセット値」を下回る速度に車速を下げることができれば(時刻t5以降参照)、変速機4の焼き付きが生じる可能性を大きく減らし得る。
【0048】
ここで、上記したように、モータ3の回生制御に伴いモータ3で発電された電力(回生エネルギー)によってバッテリ30は充電されるようになっている。しかし、バッテリ30が既に満充電状態でありさらに充電する余裕がない場合にモータ3が回生制御されると、バッテリ30が過充電されて故障する恐れがある。そこで、上記ステップS6の処理に戻る前にバッテリ30が満充電状態であるか否かを判定し(ステップS8)、バッテリ30が満充電状態でない場合にのみ(ステップS8のNO)、上記ステップS6の処理に戻ってモータ回生制御を続行するようにしている。バッテリ30が満充電状態である場合には(ステップS8のYES)、バッテリ30保護の観点からこれ以上はモータ3の回生制御を行うことができずに、結局はモータ3を利用した車速調整によっても車速の低下を実現することができないことになる。しかし、変速機4の保護の観点からすれば、オイルポンプOPから潤滑油が供給されていないリバース走行ではできる限りにおいて車速を低下させるのがよいことから、ステップS9では電動サーボブレーキ8を自動的に動作させて車速を強制的に低下させる制御を行うようにしている。
【0049】
以上説明したように、本発明にかかるハイブリッド車両では、駆動源にエンジン2と電動機3とを有し、また第1断接手段C1及び第2断接手段C2からなるデュアルクラッチ式の変速機4を備えたものにおいて、機械式のオイルポンプOPから前記変速機4への潤滑油の供給ができないリバース走行時に当該車両の車速を制限する制御を行う。前記オイルポンプOPは、少なくともエンジン2及び電動機3のいずれか一方からの機械的動力に基づき回転する駆動軸OSの一方向の回転に従ってのみ前記変速機4に対し潤滑油を供給することが可能なものであって、前記駆動軸OSは前記変速機4において前進側変速段に確立された場合に潤滑油を供給する向きに回転する一方で、前記変速機4においてリバース変速段に確立された場合に潤滑油を供給しない反対向きに回転するように設けられている。そのため、前記変速機4においてリバース変速段に確立された状態での車両走行中は、前記オイルポンプOPによる前記変速機4への潤滑油の供給ができないことになる。そこで、車両がリバース走行である場合には、車両の車速を制限することによって、例えオイルポンプOPから変速機4に対して潤滑油が供給できなくても、油膜切れによる変速機4の焼き付きをすぐさま生じさせることのないようにすることができる。なお、車速を制限する制御としては、例えばエンジントルクを落とす制御(図3のステップS3参照)、モータ回生制御(図3のステップS6参照)、電動サーボブレーキの制御(図3のステップS9参照)などがある。
【0050】
以上、図面に基づいて実施形態の一例を説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、様々な実施形態が可能であることは言うまでもない。例えば、上述した実施例においては、本発明に係るハイブリッド車両が2つのクラッチからなるデュアルクラッチ式変速機を備えたものに適用した例を示したがこれに限らない。一方向の回転だけを許容する機械式オイルポンプが前進段走行時に動作する一方でリバース走行時に動作しないよう変速機に設けられたハイブリッド車両であれば、変速機の機構は上述したようなデュアルクラッチ式の機構でなくてもよい。
【符号の説明】
【0051】
1 ハイブリッド車両
2 エンジン
3 モータ(電動機)
4 変速機
5 ディファレンシャル機構
6R,6L ドライブシャフト
7R,7L 駆動輪
8 電動サーボブレーキ
10 電子制御ユニット
20 モータ制御手段
30 バッテリ
70 プラネタリギヤ機構
71 サンギヤ
72,74 プラネタリギヤ
73 キャリア
75 リングギヤ
C1 第1クラッチ
C2 第2クラッチ
IMS 内側メインシャフト
OMS 外側メインシャフト
SS セカンダリシャフト
CS カウンタシャフト
RVS リバースシャフト
IDS アイドルシャフト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
同軸に配置された第1入力軸及び第2入力軸であって、前記第1入力軸は電動機に接続されてなるものと、
エンジンの駆動力を前記第1入力軸に伝達する第1断接手段と、
前記エンジンの駆動力を前記第2入力軸に伝達する第2断接手段と、
前記第1入力軸及び前記第2入力軸と平行に配置された出力軸と、
前記第1入力軸及び前記第2入力軸との間で回転方向を反転して駆動力を伝達する反転機構と、
前記第1入力軸及び前記第2入力軸の一方に設けられた入力ギヤと、
前記出力軸に設けられて前記入力ギヤに常時連動する出力ギヤとを有し、
所定の前進側変速段の確立時に、前記エンジンの駆動力は、前記第1断接手段及び前記第2断接手段の一方と、前記第1入力軸及び前記第2入力軸の一方に設けられた前記入力ギヤと、前記出力軸に設けられた前記出力ギヤとを介して駆動輪に伝達され、リバース変速段の確立時に、前記エンジンの駆動力は、前記第1断接手段及び前記第2断接手段の他方と、前記反転機構と、前記第1入力軸及び前記第2入力軸の一方に設けられた前記入力ギヤと、前記出力軸に設けられた前記出力ギヤとを介して駆動輪に伝達されることを特徴とする変速機と、
少なくともエンジン及び電動機のいずれか一方からの機械的動力に基づき回転する駆動軸の一方向の回転に従ってのみ前記変速機に対し潤滑油を供給可能な機械式のオイルポンプであって、前記駆動軸は、前記変速機において前進側変速段に確立された場合に潤滑油を供給する向きに回転する一方で、前記変速機においてリバース変速段に確立された場合に潤滑油を供給しない反対向きに回転するものと、
前記変速機においてリバース変速段に確立された状態にあり前記オイルポンプによる前記変速機への潤滑油の供給ができない場合に、当該車両の車速を制限する制御を行う制御手段と
を備えるハイブリッド車両。
【請求項2】
駆動源にエンジンと電動機とを有してなり、
前記電動機に接続されてなる一方で前記エンジン出力軸とは係合及び非係合に切り替え可能な入力軸を有してなり、前記エンジン出力軸及び前記電動機からの機械的動力を前記入力軸で受け、複数の変速段のうちいずれか1つを係合して前記入力軸と駆動輪とを係合させることが可能な変速機であって、該変速機は前記電動機の回転向きにより前進走行又はリバース走行のいずれかに切り替えられるものと、
前記電動機からの機械的動力に基づき回転する駆動軸の一方向の回転に従ってのみ前記変速機に対し潤滑油を供給可能な機械式のオイルポンプであって、前記駆動軸は、前記変速機が前進走行に切り替えられた場合に潤滑油を供給する向きに回転される一方で、前記変速機がリバース走行に切り替えられた場合に潤滑油を供給しない反対向きに回転されるものと、
前記変速機が前記電動機の回転向きに応じてリバース走行に切り替えられて前記オイルポンプによる前記変速機への潤滑油の供給ができない場合に、当該車両の車速を制限する制御を行う制御手段と
を備えるハイブリッド車両。
【請求項3】
前記制御手段は、エンジンを停止する制御又は停止中のエンジンを入力軸に係合させる制御を行うことにより生ずる前記エンジンと前記入力軸との差回転によって車速を減ずることを特徴とする請求項1又は2に記載のハイブリッド車両。
【請求項4】
前記制御手段は、前記電動機からの機械的動力を制限して前記電動機を回生させる制御を行うことによって車速を減ずることを特徴とする請求項1又は2に記載のハイブリッド車両。
【請求項5】
前記制御手段は、さらに前記駆動輪を機械的に停止するブレーキをかける制御を行うことによって車速を減ずることを特徴とする請求項3又は4に記載のハイブリッド車両。
【請求項6】
駆動源にエンジンと電動機とを有するハイブリッド車両の制御方法であって、
前記ハイブリッド車両は、
同軸に配置された第1入力軸及び第2入力軸であって、前記第1入力軸は前記電動機に接続されてなるものと、
前記エンジンの駆動力を前記第1入力軸に伝達する第1断接手段と、
前記エンジンの駆動力を前記第2入力軸に伝達する第2断接手段と、
前記第1入力軸及び前記第2入力軸と平行に配置された出力軸と、
前記第1入力軸及び前記第2入力軸との間で回転方向を反転して駆動力を伝達する反転機構と、
前記第1入力軸及び前記第2入力軸の一方に設けられた入力ギヤと、
前記出力軸に設けられて前記入力ギヤに常時連動する出力ギヤとを有し、
所定の前進側変速段の確立時に、前記エンジンの駆動力は、前記第1断接手段及び前記第2断接手段の一方と、前記第1入力軸及び前記第2入力軸の一方に設けられた前記入力ギヤと、前記出力軸に設けられた前記出力ギヤとを介して駆動輪に伝達され、リバース変速段の確立時に、前記エンジンの駆動力は、前記第1断接手段及び前記第2断接手段の他方と、前記反転機構と、前記第1入力軸及び前記第2入力軸の一方に設けられた前記入力ギヤと、前記出力軸に設けられた前記出力ギヤとを介して駆動輪に伝達されることを特徴とする変速機と、
少なくともエンジン及び電動機のいずれか一方からの機械的動力に基づき回転する駆動軸の一方向の回転に従ってのみ前記変速機に対し潤滑油を供給可能な機械式のオイルポンプであって、前記駆動軸は、前記変速機において前進側変速段に確立された場合に潤滑油を供給する向きに回転する一方で、前記変速機においてリバース変速段に確立された場合に潤滑油を供給しない反対向きに回転するものと、
前記変速機においてリバース変速段に確立された状態にあり前記オイルポンプによる前記変速機への潤滑油の供給ができない場合に、当該車両の車速を制限する制御を行う制御手段と
を備えてなり、
前記制御手段は、
エンジンを停止する制御又は停止中のエンジンを入力軸に係合させる制御を行うことにより生ずる前記エンジンと前記入力軸との差回転によって車速を減ずるステップと、
前記電動機からの機械的動力を制限して前記電動機を回生させる制御を行うステップと
を備えるハイブリッド車両の制御方法。
【請求項7】
駆動源にエンジンと電動機とを有するハイブリッド車両の制御方法であって、
前記ハイブリッド車両は、
前記電動機に接続されてなる一方で前記エンジン出力軸とは係合及び非係合に切り替え可能な入力軸を有してなり、前記エンジン出力軸及び前記電動機からの機械的動力を前記入力軸で受け、複数の変速段のうちいずれか1つを係合して前記入力軸と駆動輪とを係合させることが可能な変速機であって、該変速機は前記電動機の回転向きにより前進走行又はリバース走行のいずれかに切り替えられるものと、
前記電動機からの機械的動力に基づき回転する駆動軸の一方向の回転に従ってのみ前記変速機に対し潤滑油を供給可能な機械式のオイルポンプであって、前記駆動軸は、前記変速機が前進走行に切り替えられた場合に潤滑油を供給する向きに回転される一方で、前記変速機がリバース走行に切り替えられた場合に潤滑油を供給しない反対向きに回転されるものと、
前記変速機が前記電動機の回転向きに応じてリバース走行に切り替えられて前記オイルポンプによる前記変速機への潤滑油の供給ができない場合に、当該車両の車速を制限する制御を行う制御手段と
を備えてなり、
前記制御手段は、
エンジンを停止する制御又は停止中のエンジンを入力軸に係合させる制御を行うことにより生ずる前記エンジンと前記入力軸との差回転によって車速を減ずるステップと、
前記電動機からの機械的動力を制限して前記電動機を回生させる制御を行うステップと
を備えるハイブリッド車両の制御方法。
【請求項8】
前記制御手段は、さらに前記駆動輪を機械的に停止するブレーキをかけるステップを備えることを特徴とする請求項6又は7に記載のハイブリッド車両の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−35404(P2013−35404A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−172922(P2011−172922)
【出願日】平成23年8月8日(2011.8.8)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】