説明

ハイブリッド電源システム

【課題】架線電圧に拘わらず正常に動作するハイブリッド電源システムを提供する。
【解決手段】集電装置10からの電力を負荷に供給する架線側電源回路2と、バッテリユニット32及びバッテリ側昇降圧チョッパ回路40を有し、負荷に電力を供給するバッテリ側電源回路3と、これらの電源回路2,3の作動を制御するコントローラ60とを備えるハイブリッド電源システム1において、架線側電源回路2が、入力端20aから入力された直流電力の電圧変換を行って出力端20bから出力する昇降圧チョッパ回路20と、集電装置10及び負荷の入力端20a及び出力端0bに対する接続を切り替える接触器群15,16,25,26と、集電装置10の電圧を検知する架線側第1電圧検知器18と、を有し、コントローラ60が、この架線側第1電圧検知器18で検知される電圧に応じて、接触器群の開閉を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、架線ハイブリッド電車などに搭載されるハイブリッド電源システムに関する。
【背景技術】
【0002】
架線ハイブリッド電車とは、駆動時に必要な電力を、架線と車載蓄電装置から同時に供給して走行することができ、且つ、ブレーキ時に発生した電気エネルギーを蓄電装置に蓄えることが可能な電気車である。このようなハイブリッド電車における電源システムは、バッテリからの直流電力をチョッパ回路で制御して、このバッテリに対する放電及び充電を制御している(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2006−340561号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、セクションを通過するときや、近くを力行している電気車が走行しているときのように、架線の電圧がバッテリの出力電圧より低くなると、このバッテリの電力により架線が逆に加圧されてしまうという課題があった。
【0004】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであり、架線電圧に拘わらず正常に動作するハイブリッド電源システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決するために、本発明に係るハイブリッド電源システムは、集電装置により集電した電力を負荷(例えば、実施形態における誘導電動機7a等)に供給する第1の電源回路(例えば、実施形態における架線側電源回路2)と、バッテリ及びチョッパ回路(例えば、実施形態におけるバッテリ側昇降圧チョッパ回路40)を有し、第1の電源回路と並列に接続されて負荷にバッテリの電力を供給する第2の電源回路(例えば、実施形態におけるバッテリ側電源回路3)と、第1及び第2の電源回路の作動を制御するコントローラとを備えるものであり、第1の電源回路が、入力端と出力端とを有し、入力端から入力された直流電力の電圧変換を行って出力端から出力する昇降圧チョッパ回路(例えば、実施形態における架線側昇降圧チョッパ回路20)と、集電装置が入力端に接続され、負荷が出力端に接続された状態、及び、集電装置が出力端に接続され、負荷が入力端に接続された状態を切り替える切替手段と、集電装置の電圧を検知する電圧検知手段(例えば、実施形態における架線側第1電圧検知器18)と、を有し、コントローラが、この電圧検知手段で検知される電圧に応じて、切替手段を制御する。
【0006】
このような本発明に係るハイブリッド電源システムにおいて、切替手段が、集電装置と入力端とを断続する第1の接触器(例えば、実施形態における第2接触器16)と、出力端と負荷とを断続する第2の接触器(例えば、実施形態における第4接触器26)と、集電装置と出力端とを断続する第3の接触器(例えば、実施形態における第1接触器15)と、入力端と負荷とを断続する第4の接触器(例えば、実施形態における第3接触器25)と、から構成されることが好ましい。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係るハイブリッド電源システムを以上のように構成すると、集電装置の電圧が低下したとしても、切替手段を制御することにより集電装置にバッテリの電圧が印加されることはなく、安全に作動させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の好ましい形態について図面を参照して説明する。まず、図1を用いて、本発明に係るハイブリッド電源システムの構成について説明する。このハイブリッド電源システム1は、レールRを走行する電気車に搭載され、直流き電方式によりトロリー線Tから供給される直流電力とバッテリとを併用して走行用の誘導電動機7a,7b,8a,8bや空調等の負荷9を駆動するものであり、架線側電源回路2と、バッテリ側電源回路3と、並列に接続された2台の誘導電動機7a,7bに交流電力を供給する第1駆動用インバータ回路4と、並列に接続された2台の誘導電動機8a,8bに交流電力を供給する第2駆動用インバータ回路5と、負荷9に交流電力を供給する静止型インバータ回路(補助電源装置)6とから構成される。
【0009】
架線側電源回路2は、トロリー線T側から順に、集電装置(パンタグラフ)10と、第1高速度遮断器11と、第1断流器12と、並列に接続された第1電流制限抵抗13a及び第2断流器13bと、並列に接続されたフィルタリアクトル14a及び第3断流器14bとが直列に接続されている。そしてこの並列に接続されたフィルタリアクトル14a及び第3断流器14bの出力端側に、並列に接続された第1接触器15及び第2接触器16の一端が接続されている。なお、グランド線G1が車輪17を介してレールRに接続され、パンタグラフ10とグランド線G1とを繋いで架線側第1電圧検知器18が接続され、第1及び第2接触器15,16の一端側とグランド線Gとを繋いで架線側第2電圧検知器19が接続されている。
【0010】
第1接触器15の他端側とグランド線G1との間には並列に接続された半導体スイッチング素子及びフリーホイルダイオードの組を直列に接続して構成された3組の回路を並列に接続した架線側昇降圧チョッパ回路20が接続されている。また、第2接触器16の他端側には、3個の接触器を有する第1接触器群21が接続され、これらの接触器の各々が、3個の第1スムージングリアクトル22の各々を介して、上述の架線側昇降圧チョッパ回路20を構成する3組の回路の中間点(並列に接続された半導体スイッチ素子及びフリーホイルダイオードの組の接続点であって、以降の説明では入力端20aと呼ぶ)の各々に接続されている。また、第2接触器16の他端側とグランド線G1とを繋いで第1フィルタコンデンサ23が接続されている。
【0011】
架線側昇降圧チョッパ回路20の出力端20bとグランド線Gとの間には、第2フィルタコンデンサ24が接続され、また、この架線側昇降圧チョッパ回路20の出力端20bには第4接触器26の一端が接続されている。さらに、この第4接触器26の他端と第2接触器16の他端とを繋いで第3接触器25が接続されている。
【0012】
一方、バッテリ側電源回路3は、バッテリ30及び配線用遮断器31から構成されるバッテリモジュール32と、第2高速度遮断器33と、第5断流器34と、並列に接続された第2電流制限抵抗35a及び第4断流器35bとが直列に接続されている。そしてこの第2電流制限抵抗35a及び第4断流器35bの出力端側とグランド線G2との間にバッテリ側電圧検知器36と第2フィルタコンデンサ37とが並列に接続されている。
【0013】
さらに、第2電流制限抵抗35a及び第4断流器35bの出力端側には、3個の接触器を有する第2接触器群38の一端が接続され、この第2接触器群38の他端は、3個の第2スムージングリアクトル39を介してバッテリ側昇降圧チョッパ回路40の入力端に接続されている。このバッテリ側昇降圧チョッパ回路40の出力端とグランド線G2との間には第5フィルタコンデンサ41及び第3電圧検知器42が接続されている。
【0014】
架線側電源回路2及びバッテリ側電源回路3の出力端が接続され、またグランド線G1,G2が接続されて構成され、これらの出力端及びグランド線G1,G2に、第1及び第2駆動用インバータ回路4,5並びに静止型インバータ回路6が並列に接続されて構成されている。なお、架線側電源回路2及びバッテリ側電源回路3の出力端と、第1及び第2駆動用インバータ回路4,5並びに静止型インバータ回路6との間には、それぞれ、第5〜第7接触器50,51,52が接続されている。なお、静止型インバータ回路6と負荷9との間にはLCフィルタ53が接続されている。
【0015】
図2は、上述の第1及び第2高速度遮断器11,33、第1〜第3断流器12,13b,14b、第1〜第7接触器15,16,25,26,50〜52、架線側昇降圧チョッパ回路20、及び、バッテリ側昇降圧チョッパ回路40と、これらの作動を制御するコントローラ60とを示している。このコントローラ60は、例えば運転台に設置されたバッテリ操作スイッチ盤70を入出力インターフェースとして用い、また、架線側第1及び第2電圧検知器18,19とバッテリ側電圧検知器36と,第3電圧検知器42と、バッテリモジュール32のバッテリ管理装置30b(後述する)からの検出値に基づいてこれらの接触器等を制御するものである。なお、コントローラ60は、実際には複数の回路から構成されているが、ここではまとめて一つのブロックとして表現する。また、このコントローラ60は、第1及び第2インバータ回路4,5や静止型インバータ回路6の作動制御も行うが、この図2では省略する。さらに、図3に、バッテリ操作スイッチ盤70の外観を示す。
【0016】
以上に説明した本実施例に係るハイブリッド電源システム1は、コントローラ60により架線側及びバッテリ側昇降圧チョッパ回路20,40や接触器の作動を制御して、トロリー線T及びバッテリモジュール32から同時に電力供給を受けることができるとともに、制動時に誘導電動機7a,7b,8a,8bで発生する電気エネルギーをバッテリモジュール32に蓄えることとができるものである。それでは、このような本実施例に係るハイブリッド電源システム1の詳細について説明する。
【0017】
まず、バッテリ側電源回路3のバッテリモジュール32の構成について説明する。バッテリモジュール32は、図4に示すとおり、例えばリチウムイオン二次電池である単セル30aを所定の個数(この実施例では8個)直列に繋げ、高電位側端子に異常時自動トリップ機能を有する配線用遮断器31が接続されて構成されている。そして、このバッテリモジュール32を複数列(この実施例では4列)並列に接続して構成し(図1では1列のみ示す)、所望の電圧(600V)及びエネルギー容量(120Ah)を得ることができるように構成されている。
【0018】
バッテリ30の単セル30aの各々には、バッテリ管理装置30bが接続されており、このバッテリ管理装置30bにより各構成セル電圧及び総電圧の監視が行われる。なお、この配線用遮断器31が投入されている、つまり、バッテリ回路が構成されている状態では、バッテリ管理装置30bによりコントローラ60を介してバッテリ操作スイッチ盤70の電池群投入表示灯71aが点灯され、バッテリ異常又は手動操作により配線用遮断器31が開放されたときは、対応する群の電池群投入表示灯71aが消灯されるように構成されている。
【0019】
また、このバッテリモジュール32に対しては、バッテリ管理装置30bにより過充電及び過放電の保護機能が設けられている。なお、バッテリ管理装置30b自体の供給電源が断たれた場合には、配線用遮断器31が自動開放する構成となっており、このバッテリ管理装置30bが動作しない限りバッテリ主回路は構成されない。バッテリ管理装置30bは、単セル30aが過充電(若しくは過放電)状態であると判断すると、コントローラ60に信号に予告信号を送信する。具体的には、端子電圧が下限値を下回る単セル30aが一つでも発生すると、「過放電予告信号」を送信し、反対に、端子電圧が上限値を上回る単セル30aが一つでも発生すると、「過充電予告信号」が送信される。コントローラ60はこれらの予告信号に応じて、バッテリ操作スイッチ盤70の過充電予告表示灯71b若しくは過放電予告表示灯71cを点灯させる。乗務員は、この表示灯71b,71cの点灯を認識すると、力行ノッチ下げ操作や、バッテリ操作スイッチ盤70に設けられた急速充電OFFスイッチ72の操作を行うことが可能である。
【0020】
また、バッテリ操作スイッチ盤70には、バッテリ緊急遮断スイッチ73が設けられており、走行中、停車中、急速充電中などにおいて、何らかの異常を察した際に、乗務員がこのバッテリ緊急遮断スイッチ73を操作すると、コントローラ60により配線用遮断器31をトリップさせてバッテリ回路(全ブロック)を主回路から切り離すように構成されている。
【0021】
本実施例に係るハイブリッド電源システム1において、バッテリユニット32の自動開放保護は3系統設けられている。第1系統は、バッテリ管理装置30bによる保護であり、上述のようにセル過電圧、セル低電圧、総過電圧の何れかが閾値に達した際に、このバッテリ管理装置30bは、異常セルの存在するバッテリブロック(バッテリユニット32)の配線用遮断器31をトリップさせるように構成されている。なお、バッテリ管理装置30bは、管理する単セル30aの温度も監視しており、この温度が異常温度になると、同様に配線用遮断器31をトリップさせるように構成されている。
【0022】
第2系統は、充放電器による保護である。図5に示すように、バッテリ側電源回路3には、充放電器60a(上記コントローラ60の一部)が設けられており、トロリー線Tから供給される電力や誘導電動機7a,7b,8a,8bで発電される電力を用いてバッテリユニット32を充電し、反対にこのバッテリユニット32の電力を誘導電動機7a,7b,8a,8b等に供給するように構成されている。この充放電器80は、バッテリ側電圧検知器36によりバッテリモジュール32の総電圧を監視しており、この総電圧が所定電圧を逸脱した場合に、充放電器60aによる減流遮断後、第5断流器34が開放されて全バッテリモジュール32が主回路から開放される。なお、バッテリモジュール32の充放電電流が第2高速度遮断器33の動作設定値を超えた場合は、この第2高速度遮断器33が自動トリップするように構成されている。
【0023】
第3系統は、運転指令回路による保護である。バッテリ操作スイッチ盤70の急速充電ONスイッチ72が操作されると、コントローラ60に設けられたタイマーが作動し、例えば1分などの設定時間が経過すると、自動的にコントローラ60は緊急遮断状態になり、配線用遮断器31を一斉に開放する。バッテリモジュール32が高抵抗地絡を起こしてこのバッテリモジュール32に地絡電流が流れると、その値が通常の急速充電時の値と近いため、判断できず正常な保護ができないために設けられたものである。
【0024】
次に、車両駆動時の運転操作について説明する。本実施例に係るハイブリッド電源システム1は、架線側電源回路2に設けられた架線側昇降圧チョッパ回路20と、第1〜第4接触器15,16,25,26により、架線電圧がゼロでも逆印加の無い安全な構成とするとともに、この架線電圧が1500V、750V、600Vのいずれでもバッテリユニット32を充電可能に構成されている。すなわち、直流架線1500V系、直流架線600V系(含む750V)、バッテリ走行の3モードの電圧選択による走行が可能に構成されている。これらの3モードのうち、どの電圧モードを選択するかは、バッテリ操作スイッチ盤70に設けられたモード切替スイッチ74を用いて乗務員により設定される。
【0025】
コントローラ60は、このモード切替スイッチ74により選択された走行モードに応じて、第1〜第4接触器15,16,25,26の開閉を行う。具体的には図6に示すように、600Vモードの時は、第1及び第3接触器15,25を開き、第2及び第4接触器16,26を閉じてトロリー線Tからの直流電力を架線側昇降圧チョッパ回路20の入力端20aから入力して出力端20bから出力させる。反対に1500Vモードの時は、第2及び第4接触器16,26を開き、第1及び第3接触器15,25を閉じてトロリー線Tからの直流電力を架線側昇降圧チョッパ回路20の出力端20bから入力して入力端20aから出力させる。このように、架線側昇降圧チョッパ回路20への直流電力の入出力方向を第1〜第4接触器15,16,25,26の開閉を制御することにより切り替えることができ、架線電圧が600Vでも1500Vでも対応することができる。なお、バッテリモードの場合には第1〜第4接触器15,16,25,26はすべて開かれる。
【0026】
上述のように集電装置10と第1高速度遮断器11との間には、架線電圧を検知するための架線側第1電圧検知器18が設けられており、コントローラ60は、選択した電圧モードに応じた架線検知電圧(600Vモード選択時には、300〜900V、1500Vモード選択時には1000〜1900V等の所定値)の範囲内にあるか否かを判定する。そして、コントローラ60は、架線検知電圧が所定範囲内にあるときのみ第1高速度遮断器11、第1断流器12、第2断流器13b、第1〜第4接触器15,16,25,26及び駆動用インバータ回路4,5を作動させる第5接触器50と第6接触器51の投入が可能となり、主回路が構成される。
【0027】
なお、架線検知電圧が所定範囲外の場合は、バッテリモード選択により、駆動回路が構成され走行が可能となる(第5接触器50及び第6接触器51が投入可能)。このとき架線側の第1高速度遮断器11、第1断流器12、第2断流器13b、及び、第1〜第4接触器15,16,25,26は投入されない。
【0028】
1500Vモード若しくは600Vモードが選択されて、架線ハイブリッド走行の力行中または回生中に、例えば、電気車がセクションを通過することにより、架線側第1電圧検知器18で検知された架線側検知電圧が所定電圧範囲を逸脱した場合、コントローラ60は、バッテリモジュール32からの電力で架線(トロリー線T)が逆加圧されないよう、架線側昇降圧チョッパ回路20の動作を停止させ、架線側電源回路2の第1〜第4接触器15,16,25,26(実際には第1及び第3接触器15,25の組合せ、又は、第2及び第4接触器16,26の組合せ)を開放する。
【0029】
コントローラ60により第1〜第4接触器15,16,25,26が開放されると、第1及び第2駆動用インバータ回路4,5には、バッテリ側電源回路3を介してバッテリモジュール32からの電力が供給または回生され、力行動作または回生動作のままの走行を継続することができる。コントローラ60は、架線側第1電圧検知器18により復電を検知すると、再度、第1〜第4接触器15,16,25,26の該当する接触器を投入し、架線側昇降圧チョッパ回路20を作動させ、元の制御状態に戻す。なお、架線側検知電圧が回路保護レベルを超える場合には図示しない避雷器が動作すると同時に、瞬時に第1高速度遮断器11が開放される。
【0030】
一方、架線ハイブリッドモードで走行中に架線の停電が発生すると、架線側第1電圧検知器18で検知された架線側検知電圧が所定電圧範囲を逸脱し、上述のセクション通過と同様の制御がコントローラ60により実行される。このとき、さらに、架線検知電圧の範囲逸脱時間が10秒などの所定値を超える場合は、架線停電、架線高抵抗地絡、無架線区間進入、意図したパンタグラフ降下によるもののいずれかと判断できるため、コントローラ60は、第1高速度遮断器11、第1断流器12及び第2断流器13bを開放し、また、第1及び第2駆動用インバータ回路4,5の動作を停止させる。
【0031】
このように、第1高速度遮断器11等が開放されると、車両は惰行状態となり、ノッチオフ後再度ノッチ投入しても架線検知電圧が所定範囲外のため、力行、回生が受け付けられない。このとき、乗務員は摩擦ブレーキによる停止を行なうことができ、架線停電時に惰行状態となることで、一般的な電気車と同じ扱いが可能になる。
【0032】
一方、架線停電、無架線区間、パンタグラフ降下状態でも走行継続を行ないたい場合には、乗務員は、バッテリ操作スイッチ盤70のモード切換スイッチ74をバッテリモードに切換える。この操作により、架線側電源回路2の接触器群が開放されると同時に第1及び第2駆動用インバータ回路4,5が動作が可能となり、バッテリ側電源回路3のバッテリユニット32からの電力によって走行継続が可能となる。つまり、乗務員によるモード切替えスイッチ74をバッテリモードに切替える動作には、無電圧状態での走行継続の意思を確認する意味を持たせている。なお、以上の説明において、コントローラ60による接触器の開閉制御をまとめると、図7のようになる。
【0033】
このように、架線側電源回路2に架線側昇降圧チョッパ回路20を設け、第1〜第4接触器15,16,25,26の開閉を制御することにより、架線電圧に拘わらず、入力側、出力側いずれに対しても制御不能電流が流れない構成とすることができる。また、従来の昇降圧チョッパ回路単体と同一回路構成も可能となり、バッテリ直接接続構成も可能となる。
【0034】
また、上述のように、600Vバッテリ搭載電気車を600V架線下でハイブリッド動作させることができるとともに、1500V、750V、600V架線と600Vバッテリの架線ハイブリッド制御や、600Vバッテリのみ直接インバータ駆動が可能となり、各々の電圧で電流路の半導体ロスを最小化することによる高効率動作を実現できる。
【0035】
ところで、このようなハイブリッド電源システム1を電気車に設けると、駅間はバッテリモードで走行し、駅に停車したときに集電装置10をトロリー線T(その駅構内に限定的に敷設されたもの)に接触させてバッテリユニット32を急速充電して、次の駅までの走行用の電力を蓄えるという運用が可能となる。そこで、急速充電を行う場合について説明する。
【0036】
まず、急速充電開始の扱いであるが、バッテリモードで走行してきた後、充電所にて集電装置(パンタグラフ)10の上昇動作を行い、さらに、モード切替えスイッチ74を直流1500V系または直流600V系に切替える操作を行う。すると、コントローラ60は、架線側第1電圧検知器18で検知された架線検知電圧が所定範囲内の場合には、第1高速度遮断器11、第1断流器12及び第2断流器13bと、選択された電圧モードに応じた第1〜第4接触器15,16,25,26のうちの2つの接触器を投入する(この状態は架線ハイブリッドモードと同じである)。
【0037】
そして、乗務員が、バッテリ操作スイッチ盤70に設けられた急速充電ONスイッチ72を操作すると、コントローラ60は、運転台に設けられた急速充電ON表示灯(図示せず)を点灯させる。このとき、コントローラ60は、第3接触器14bを閉じて架線側昇降圧チョッパ回路20の前段に設けられたフィルタリアクトル14aを短絡し、急速充電用主回路を構成する(フィルタリアクトルは充電所側に設けられる)。また、第1及び第2駆動用インバータ回路4,5の前段に設けられた第5及び第6接触器50,51が開放されるため、乗務員が間違ってノッチを投入しても走行できないようになる。なお、急速充電ONスイッチ72が操作された直後から、充放電器60aにより、自動的に予め設定された電流値による急速充電動作が開始される。
【0038】
次に、急速充電の終了動作及び扱いについて説明する。バッテリユニット32が、充放電器60aに予め設定してある電流値によって所定充電量まで充電されると、充放電器60aの動作が自動的に停止する。但し、この段階ではコントローラ60は、まだ急速充電ON表示灯を消灯しない。急速充電途中であっても、停車所定時間を過ぎて出発したい場合は急速充電OFFスイッチ72を操作することで、急速充電動作を停止させることができる。この操作後、コントローラ60は、第3断流器14bを閉じて架線側昇降圧チョッパ回路20の前段に設けられたフィルタリアクトル14aを投入し、第1及び第2駆動用インバータ回路4,5の前段に設けられた第5及び第6接触器50,51を投入することで、架線ハイブリッドモードで走行可能状態となる。
【0039】
なお、急速充電ON表示灯が点灯中は、パンタ下げボタンを操作しても、集電装置10の下降動作を受け付らないように構成することで、大電流遮断による集電装置10の摺板でのアーク発生を防止することができる。さらに、急速充電ONスイッチ72の操作直後からコントローラ60はタイマーを作動させ、例えば1分などの設定時間が経過すると、自動的に緊急遮断状態になるように構成されている。これは、高抵抗地絡を起こしてバッテリユニット32に地絡電流が流れるものの、その値が通常の急速充電時の値と近い場合に、他機器で正常と判断して保護がかからないことを想定した動作である。
【0040】
次に、ユニットカット時の動作と運転操作について説明する。この電気車は、図1に示すとおり、1つの駆動用インバータ回路に対して2台の誘導電動機が接続された1ユニットを構成し、このユニットを2個有して構成されており、健全時は4軸駆動電気車として、4軸ともに均一の駆動力、ブレーキ力が得られる。なお、ブレーキ力のほとんどが回生ブレーキ力となる。故障等で1ユニットを切り離したいときは、運転台に取り付けられたバッテリ操作スイッチ盤70の第1群(第1軸と第4軸)開放スイッチ若しくは第2群(第2軸と第3軸)開放スイッチ(合わせて、「1/2群開放スイッチ75」と呼ぶ)を操作することにより、両端2軸または中央2軸の駆動車両とすることが可能である。この操作により、コントローラ60は、第1若しくは第2駆動用インバータ回路4,5の入力段に設けられた第5若しくは第6接触器50,51を開放するとともに、表示灯71の1群開放若しくは2群開放表示灯71dのうち、開放された群の表示灯を点灯する。
【0041】
空気ブレーキが個別軸ごと、又は、台車ごとに制御できず、4軸一括の場合には、空気ブレーキは全軸均等にかかるため、常用ブレーキにおいて、健全2軸とユニットカット2軸ではブレーキ力に違いが現れる。ただ、第1軸と第4軸のブレーキ力は等しく、また第2軸と第3軸のブレーキ力は等しいため、車体前後のブレーキバランスには問題を生じない。さらに、非常ブレーキ時は全軸とも空気ブレーキのみの動作となり、全軸均一なブレーキ力となるので保安上の問題はない。この1/2群開放スイッチ75によるユニット開放状態から組込み状態に戻すには、図示しない開放リセットスイッチ(通常、コンバータ・インバータ用車室モニタ装置内に設けられている)を操作する。
【0042】
また、バッテリ操作スイッチ盤70には、パワーセーブON/OFFスイッチ76が設けられている。パワーセーブON/OFFスイッチ76が切り替えられると、コントローラ60は架線側昇降圧チョッパ回路20及びバッテリ側昇降圧チョッパ回路40を制御して、第1及び第2駆動用インバータ回路4,5に供給する電力を、4軸駆動ながら2軸相当分のパワーに抑制する。このパワーセーブモードは、例えば、変電所パワーが弱く、また高い加減速を必要としない線区で使用することができる。パワーセーブON/OFFスイッチ76を復帰させることで、コントローラ60は、バッテリ側昇降圧チョッパ回路40を全パワー駆動に復帰する。なお、パワーセーブモードが選択されている時は、急速充電時の電流値も半分にセーブされた値となるようにコントローラ60は架線側昇降圧チョッパ回路20及びバッテリ側昇降圧チョッパ回路40を制御するように構成されている。
【0043】
上述のように本実施例においては、4個のバッテリユニット32から構成されているが、いずれかのバッテリユニット32がトリップした場合(配線用遮断器31がトリップした場合)、トリップしたバッテリユニット32の数に応じて、コントローラ60はバッテリ側昇降圧チョッパ回路20を制御してパワー制限を行う。上述のように、配線用遮断器31の投入状態は、充放電器61aの制御部(すなわちコントローラ60)に常時伝達されており、投入数に応じた走行パワー制限や急速充電時の電流制限が行なわれる。具体的には、コントローラ60は、図8に示すように、トリップ数毎に誘導電動機7a,7b,8a,8bの回転速度と必要なトルクの関係を示すデータを有しており、このデータに応じて駆動用インバータ回路4,5及びバッテリ側昇降圧チョッパ回路20を制御するように構成されている。
【0044】
なお、本実施例においては、力行ノッチ投入中に、速度80km/hに達すると速度リミッタが動作し、ノッチオフ状態になる。回生ブレーキはそれ以上の速度からでもかかるように構成されている。また、パワーセーブモード時には、速度40km/hに達すると速度リミッタが動作し、回生ブレーキはそれ以上の速度からでも動作するように構成されている。
【0045】
本実施例に係るハイブリッド電源システム1は、図1に示すように、架線側電源回路2の第1接触器群21の3個の接触器の各々と3個の第1スムージングリアクトル22の各々との間に3本の接続端子54が設けられている。架線側昇降圧チョッパ回路20は、直流電圧を昇降圧するだけでなく、入力された交流を直流に変換するPWMコンバータとしても動作させることできる。そのため、この3個の接続端子54に三相交流電源(例えば、エンジンで駆動される同期電動機)を接続し、第1接触器群21を開放すると、トロリー線Tから供給される直流電力だけでなく、三相交流電力を誘導電動機7a等やバッテリモジュール32に供給することができる。もちろん、3個の接続端子54のうちの2個の端子に単相交流電源を接続することも可能である。
【0046】
同様に、バッテリ側電源回路3の第2接触器群38の3個の接触器の各々と3個の第2スムージングリアクトル39の各々との間に3本の接続端子55が設けられている。この場合も、接続端子55にエンジンで駆動される同期電動機を接続し、第2接触器群38を開放すると、バッテリモジュール32の変わりにエンジンで駆動される発電機からの電力と、トロリー線Tから供給される電力を用いてこの電気車をハイブリッド運転することができる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明に係るハイブリッド電源システムの構成示す回路図である。
【図2】上記ハイブリッド電源システムの制御回路を示すブロック図である。
【図3】バッテリ操作スイッチ盤を示す図であり、(a)は正面図であり、(b)は表示灯の拡大図である。
【図4】バッテリモジュールの構成を示す回路図である。
【図5】バッテリ側電源回路の要部を示す回路図である。
【図6】走行モード毎の接触器の断続状態を示す説明図である。
【図7】走行モードと架線電圧毎の接触器の断続状態を示す説明図である。
【図8】トリップ数毎の回転速度と電力の関係を示す説明図である。
【符号の説明】
【0048】
1 ハイブリッド電源システム
2 架線側電源回路(第1の電源回路)
3 バッテリ側電源回路(第2の電源回路)
10 集電装置
15 第1接触器(切替手段)
16 第2接触器(切替手段)
18 架線側第1電圧検知器(電圧検知手段)
20 架線側昇降圧チョッパ回路
20a 入力端
20b 出力端
25 第3接触器(切替手段)
26 第4接触器(切替手段)
32 バッテリユニット
40 バッテリ側昇降圧チョッパ回路
60 コントローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
集電装置により集電した電力を負荷に供給する第1の電源回路と、バッテリ及びチョッパ回路を有し、前記第1の電源回路と並列に接続されて前記負荷に前記バッテリの電力を供給する第2の電源回路と、前記第1及び第2の電源回路の作動を制御するコントローラと、を備えるハイブリッド電源システムであって、
前記第1の電源回路が、
入力端と出力端とを有し、前記入力端から入力された直流電力の電圧変換を行って前記出力端から出力する昇降圧チョッパ回路と、
前記集電装置が前記入力端に接続され、前記負荷が前記出力端に接続された状態、及び、前記集電装置が前記出力端に接続され、前記負荷が前記入力端に接続された状態を切り替える切替手段と、
前記集電装置の電圧を検知する電圧検知手段と、を有し、
前記コントローラが、前記電圧検知手段で検知される電圧に応じて、前記切替手段を制御するハイブリッド電源システム。
【請求項2】
前記切替手段が、
前記集電装置と前記入力端とを断続する第1の接触器と、
前記出力端と前記負荷とを断続する第2の接触器と、
前記集電装置と前記出力端とを断続する第3の接触器と、
前記入力端と前記負荷とを断続する第4の接触器と、から構成される請求項1に記載のハイブリッド電源システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−253084(P2008−253084A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−93412(P2007−93412)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成17年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、「エネルギー使用合理化技術戦略的開発/エネルギー有効利用基盤技術先導研究開発/エネルギー回生利用バッテリー駆動型省エネLRV車両の研究開発」、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000173784)財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)
【出願人】(000003115)東洋電機製造株式会社 (380)
【Fターム(参考)】