説明

ハイブリッド駆動系

【課題】 ハイブリッド駆動系を提供する。
【解決手段】 本発明は、ステータ(16)と、クラッチハウジング(18)に固定されたそのステータ(16)に対して、半径方向ギャップ(22)を形成して回転できるロータ(20)とを含む電気機械(15)と、少なくとも1つのオイル通過開口(41)を備えた外側多重ディスク担体(24)を含む湿式運転型多重ディスククラッチ装置(8)とを有するハイブリッド駆動系(1)に関する。構造が単純で、安価に製造できるハイブリッド駆動系を提供するために、ロータ(20)とステータ(16)との間の半径方向ギャップ(22)は、オイル遮断装置(50)によって外側多重ディスク担体(24)のオイル通過開口(41)から遮断される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステータと、クラッチハウジングに固定されたそのステータに対して、半径方向にギャップを形成して回転できるロータとを備えた電気機械と、少なくとも1つのオイル通過開口を備えた外側多重ディスク担体を含む湿式運転型多重ディスククラッチ装置とを有するハイブリッド駆動系に関する。
【背景技術】
【0002】
湿式運転型クラッチおよび電気モータを有する駆動系は、例えば、すでに公開された文献である下記特許文献1、下記特許文献2、下記特許文献3、下記特許文献4、下記特許文献5、下記特許文献6、および下記特許文献7による様々な実施形態から公知である。第1に、湿式運転型クラッチを含む湿った空間から封止装置によって封止された、乾いた空間に電気モータを収容することが可能である。これは比較的複雑で費用がかかる。第2に、オイルを利用し、これを用いて湿式運転型クラッチを冷却し、さらに、電気モータを冷却することが可能である。オイルの代わりに別の冷却剤および/または潤滑媒体を使用できるのは言うまでもない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許第6,354,974B1号明細書
【特許文献2】欧州特許第1 112 884B1号明細書
【特許文献3】米国特許第6,736,228B2号明細書
【特許文献4】米国特許第7,293,637B2号明細書
【特許文献5】米国特許出願公開第2007/0108857A1号明細書
【特許文献6】米国特許出願公開第2007/0089962A1号明細書
【特許文献7】国際公開第2008/092426A2号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、請求項1の前提部分によるハイブリッド駆動系を提供することであり、このハイブリッド駆動系は、構造が単純で安価に製造することができる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
ステータと、クラッチハウジングに固定されたそのステータに対して、半径方向にギャップを形成して回転できるロータとを備えた電気機械と、少なくとも1つのオイル通過開口を備えた外側多重ディスク担体を含む湿式運転型多重ディスククラッチ装置とを有するハイブリッド駆動系において、オイル遮断装置を用いて、ロータとステータとの間の半径方向ギャップを外側多重ディスク担体のオイル通過開口から保護(遮断)することで上記の目的が達成される。本発明の基本的な一態様によれば、オイル遮断装置は封止装置ではない。オイル遮断装置には、特に、外側多重ディスク担体とクラッチハウジングとの間に封止材がない。
【0006】
このハイブリッド駆動系の好ましい例示的な一実施形態は、オイル遮断装置が、外側多重ディスク担体からクラッチハウジングの近くまで延びることを特徴とする。「近く」とは、オイル遮断装置がクラッチハウジングまで完全に延びるわけではないことを意味する。
【0007】
このハイブリッド駆動系のさらに好ましい例示的な一実施形態は、オイル遮断装置が、クラッチハウジングから半径方向に若干離間していることを特徴とする。このように離間していることで、オイル遮断装置は、確実にクラッチハウジングと接触しなくなるので、オイル遮断装置とクラッチハウジングとの間の摩擦も何ら発生しない。本発明の基本的な一態様によれば、オイル遮断装置とクラッチハウジングとの間をオイルが若干通過することが意図的に容認される。
【0008】
このハイブリッド駆動系のさらに好ましい例示的な一実施形態は、オイルが若干通過するのを可能にする少なくとも1つのオイル通過ギャップを、オイル遮断装置とクラッチハウジングとの間に設けることを特徴とする。オイル遮断装置とクラッチハウジングとの間を若干通過するこのオイルの限度は、オイル通過ギャップの対応する寸法によって、運転中にオイル通過ギャップを通ってステータとロータとの間の半径方向ギャップに流入したオイルが、電気機械を悪くさせないように、定められる。
【0009】
このハイブリッド駆動系のさらに好ましい例示的な一実施形態は、オイル遮断装置が、外側多重ディスク担体から半径方向外側に延びる遮断プレートを含むことを特徴とする。遮断プレートの大きさおよびデザインは、電気機械、特にステータおよびロータの大きさおよびデザインに部分的に合わせられる。
【0010】
このハイブリッド駆動系のさらに好ましい例示的な一実施形態は、遮断プレートが外側多重ディスク担体に一体で、または材料を結合した態様で連結されることを特徴とする。外側多重ディスク担体のデザインは、電気機械のデザイン、特に、ロータおよび/またはステータのデザインに部分的に合わせられる。
【0011】
このハイブリッド駆動系のさらに好ましい例示的な一実施形態は、多重ディスククラッチ装置が、2つの湿式運転型多重ディスククラッチを含むことを特徴とし、これらの湿式運転型多重ディスククラッチを介して、外側多重ディスク担体を第1または第2の変速機入力シャフトに連結することができる。この種のクラッチはデュアルクラッチとも呼ばれる。
【0012】
ハイブリッド駆動系のさらに好ましい例示的な一実施形態は、多重ディスククラッチ装置が、主駆動部と外側多重ディスク担体との間に連結された多重ディスク構造の湿式運転型分離クラッチを含むことを特徴とする。分離クラッチは、主駆動部、好ましくは内燃機関と外側多重ディスク担体との間の回転方向の固定連結を解除するように機能する。
【0013】
このハイブリッド駆動系のさらに好ましい例示的な一実施形態は、分離クラッチが外側多重ディスク担体要素を含み、この外側多重ディスク担体要素は、少なくとも1つのオイル通過開口が設けられ、外側多重ディスク担体および電気機械のロータの半径方向内側に環状の空間を形成して配置されることを特徴とする。分離クラッチは、電気機械のロータと軸方向に重なるように配置されるのが好ましい。
【0014】
以下の説明から本発明のさらなる利点、特徴、および細部が明らかになり、その説明では、図面を参照して様々な実施形態が詳細に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明によるハイブリッド駆動系を半断面で示している。
【発明を実施するための形態】
【0016】
添付の図1は、主駆動部4(符号による指示のみ)および補助駆動部5を有するハイブリッド駆動系1を示している。2つの駆動部4、5は、選択的に、湿式運転型多重ディスククラッチ装置8を介して、2つの変速機入力シャフト11、12の一方に連結することができる。
【0017】
補助駆動部5は、クラッチハウジング18に固定されたステータ16を有する電気機械15を含む。電気機械15のロータ20は、エアギャップとも呼ばれる半径方向ギャップ22を形成して、ステータ16の半径方向内側に回転可能に配置されている。ロータ20は、湿式運転型多重ディスククラッチ装置8の外側多重ディスク担体24に固定されている。
【0018】
湿式運転型多重ディスククラッチ装置8は、第1の湿式運転型多重ディスククラッチ31を含み、これを介して、外側多重ディスク担体24を第1の変速機入力シャフト11に回転方向に固定した態様で連結することができる。さらに、湿式運転型多重ディスククラッチ装置8は、第2の湿式運転型多重ディスククラッチ32を含み、これを介して、外側多重ディスク担体24を第2の変速機入力シャフト12に回転方向に固定した態様で連結することができる。
【0019】
さらに、湿式運転型多重ディスク装置8は分離クラッチ35を含み、これを介して、主駆動部4と外側多重ディスク担体24とを回転方向に固定連結したり、またはこれを解除したりすることができる。
【0020】
外側多重ディスク担体24は、2つの多重ディスククラッチ31、32の半径方向外側に少なくとも1つのオイル通過開口41を有する。少なくとも1つのさらなるオイル通過開口42が、分離クラッチ35の外側多重ディスク担体要素44に設けられている。外側多重ディスク担体要素44は、外側多重ディスク担体24に固定して連結されている。
【0021】
2つの多重ディスククラッチ31、32および分離クラッチ35の作動時、オイルは、冷却するために多重ディスクを通るように案内される。そのオイルは、オイル通過開口41を通って湿式運転型多重ディスククラッチ装置8から外に出て、外側多重ディスク担体24とクラッチハウジング18との間に延在し、電気機械15が配置された環状空間に流入する。
【0022】
オイル通過開口41から出たオイルが、ロータ20とステータ16との間の半径方向ギャップ22に難なく流入しないように、オイル遮断装置50が外側多重ディスク担体24に取り付けられている。
【0023】
オイル遮断装置50は、ステータ16の近辺で、外側多重ディスク担体24からクラッチハウジング18に向かって半径方向外側に延びる遮断プレート52を含む。実質的に円形の環状ディスク構造である遮断プレート52の半径方向外側周縁部は、クラッチハウジングから若干離間していて、オイル通過ギャップ55を形成している。
【0024】
遮断プレート52とクラッチハウジング18との間のオイル通過ギャップ55の構成および寸法は、オイル通過開口41で多重ディスククラッチ装置8から出たオイルのうちのきわめて少量が、正確に言うと、好ましくはオイルミストの形態で、半径方向ギャップ22に流入するように選択される。
【0025】
オイル通過開口41、42を備えたクラッチ装置8の開口構造により、ハイブリッド駆動系1の作動時に、冷却オイルが回転による遠心力を受けて、半径方向外側に離脱することが可能になる。結果として、多重ディスククラッチ装置8内の望ましくない抵抗損失を最小限にすることができる。
【0026】
本発明によるオイル遮断装置50により、ロータ20をオイル通過開口41から出たオイルが付着しない状態に維持して、望ましくない飛散を防止することができる。先行技術に関連して前述した従来の問題解決策と比較して、本発明では中庸を取っている。電気機械15には、意図した通り、オイルが存在しないこともなければ、冷却オイルが電気機械15を貫流することもない。
【0027】
ベアリング装置60は、冷却オイルが多段ディスククラッチ装置8から主駆動部4の方向に不要に流出するのを防止する。電気機械15は、主駆動部4から見て外方に面した側で、本発明によるオイル遮断装置50によって遮断(保護)されている。遮断プレート52により、オイルがギャップ55を通って電気機械15の領域に流入するのを最小限にすることができる。
【0028】
代替案として、または、それに加えて、対応する突起をクラッチハウジング18に設けるか、あるいは外側多重ディスク担体24とクラッチハウジング18との間にラビリンスを設けることができる。本発明によるオイル遮断装置50により、電気機械15はオイルミスト内で作動することになる。こうすることで構造が比較的単純になり、それと同時に、湿式運転型多重ディスククラッチ装置8での抵抗損失が最小限になる。
【符号の説明】
【0029】
1 ハイブリッド駆動系
4 主駆動部
5 補助駆動部
8 湿式運転型多重ディスククラッチ装置
11 第1の変速機入力シャフト
12 第2の変速機入力シャフト
15 電気機械
16 ステータ
18 クラッチハウジング
20 ロータ
22 半径方向ギャップ
24 外側多重ディスク担体
31 湿式運転型ディスククラッチ
32 湿式運転型ディスククラッチ
35 分離クラッチ
41 オイル通過開口
42 オイル通過開口
44 外側多重ディスク担体要素
50 オイル遮断装置
52 遮断プレート
55 オイル通過ギャップ
60 ベアリング装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステータ(16)と、クラッチハウジング(18)に固定された前記ステータ(16)に対して、半径方向ギャップ(22)を形成して回転できるロータ(20)とを含む電気機械(15)と、少なくとも1つのオイル通過開口(41)を備えた外側多重ディスク担体(24)を含む湿式運転型多重ディスククラッチ装置(8)とを有するハイブリッド駆動系(1)であって、前記ロータ(20)と前記ステータ(16)との間の前記半径方向ギャップ(22)が、オイル遮断装置(50)によって前記外側多重ディスク担体(24)の前記オイル通過開口(41)から遮断される、ハイブリッド駆動系(1)。
【請求項2】
前記オイル遮断装置(50)は、前記外側多重ディスク担体(24)から前記クラッチハウジング(18)の近くまで延びる、請求項1に記載のハイブリッド駆動系。
【請求項3】
前記オイル遮断装置(50)は、前記クラッチハウジング(18)から半径方向に若干離間する、請求項1または請求項2に記載のハイブリッド駆動系。
【請求項4】
オイルが若干通過するのを可能にする少なくとも1つのオイル通過ギャップ(55)が、前記オイル遮断装置(50)と前記クラッチハウジング(18)との間に設けられる、請求項1乃至3のいずれか一項に記載のハイブリッド駆動系。
【請求項5】
前記オイル遮断装置(50)は、前記外側多重ディスク担体(24)から半径方向外側に延びる遮断プレート(52)を含む、請求項1乃至4のいずれか一項に記載のハイブリッド駆動系。
【請求項6】
前記遮断プレート(52)は、一体で、または、材料を結合した態様で、前記外側多重ディスク担体(24)に連結される、請求項5に記載のハイブリッド駆動系。
【請求項7】
前記多重ディスククラッチ装置(8)は、2つの湿式運転型ディスククラッチ(31、32)を含み、これらを介して、前記外側多重ディスク担体(24)を第1の変速機入力シャフト(11)または第2の変速機入力シャフト(12)に連結することができる、請求項1乃至6のいずれか一項に記載のハイブリッド駆動系。
【請求項8】
前記多重ディスククラッチ装置(8)は、主駆動部(4)と前記外側多重ディスク担体(24)との間に連結された、多重ディスク構造の湿式運転型分離クラッチ(35)を含む、請求項1乃至7のいずれか一項に記載のハイブリッド駆動系。
【請求項9】
前記分離クラッチ(35)は外側多重ディスク担体要素(44)を含み、この外側多重ディスク担体要素(44)は、少なくとも1つのオイル通過開口(42)が設けられ、前記外側多重ディスク担体(24)および前記電気機械(15)の前記ロータ(20)の半径方向内側に環状空間を形成して配置される、請求項8に記載のハイブリッド駆動系。
【請求項10】
前記分離クラッチ(35)は、前記電気機械(15)の前記ロータ(20)と軸方向に重なるように配置される、請求項8または請求項9に記載のハイブリッド駆動系。

【図1】
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【公開番号】特開2011−7326(P2011−7326A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2010−133590(P2010−133590)
【出願日】平成22年6月11日(2010.6.11)
【出願人】(508174975)ドクトル イング ハー ツェー エフ ポルシェ アクチエンゲゼルシャフト (134)
【氏名又は名称原語表記】Dr. Ing. h.c. F. Porsche Aktiengesellschaft
【住所又は居所原語表記】Porscheplatz 1, D−70435 Stuttgart, Germany
【Fターム(参考)】