説明

ハニカム構造体及び排ガス浄化装置

【課題】 温度が急激に上昇した場合等の熱衝撃であってもクラックが発生しにくいハニカム構造体を提供すること。
【解決手段】 多数のセルがセル壁を隔てて長手方向に並設された多孔質の炭化ケイ素質ハニカム焼成体を含んで構成されたハニカム構造体であって、前記炭化ケイ素質ハニカム焼成体の表面にはケイ素を含む酸化物層が形成されており、X線光電子分光法(XPS)を用いて測定した前記酸化物層の厚さは、5〜100nmであるハニカム構造体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハニカム構造体及び排ガス浄化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
バス、トラック等の車両又は建設機械等の内燃機関から排出される排ガス中に含有されるスス等のパティキュレート(以下、PMともいう)及びその他の有害成分が環境及び人体に害を及ぼすことが最近問題となっている。そこで、排ガス中のPMを捕集して排ガスを浄化するハニカムフィルタとして、また、その内部に排ガスを通過させることにより排ガス中の有害成分を浄化する触媒担体として、多孔質セラミックからなるハニカム構造体が種々提案されている。
【0003】
このようなハニカム構造体からなるハニカムフィルタとして、特許文献1には、多孔質炭化ケイ素焼結体にシリカ膜(シリカ層)が形成されたものが開示されている。特許文献1によれば、多孔質炭化ケイ素焼結体の孔部内面に強度増加用のシリカ膜が形成され、シリカ膜を含む多孔質炭化ケイ素焼結体の酸素濃度は、1〜10重量%であると記載されている。
【0004】
特許文献1に開示された従来のハニカムフィルタによれば、多孔質炭化ケイ素焼結体を、空気雰囲気下、800〜1600℃の温度で5〜100時間にわたって加熱処理を行い、1〜10重量%の酸素濃度を有する酸化物層を形成することにより、加熱処理していないものと比較して、上記ハニカムフィルタの破壊強度が1.11〜1.57倍に増加することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−218165号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示された従来のハニカムフィルタを、ディーゼルエンジンを備えた車両等の排ガス浄化装置用のフィルタとして使用した際には、使用中にハニカムフィルタにススを含むPMが捕集され、堆積する。
【0007】
このハニカムフィルタに堆積したススは、排ガスの温度を上昇させることにより、堆積したススが燃焼して、除去される。ススが燃焼する際にハニカムフィルタの温度が急激に上昇するため、熱衝撃によりハニカムフィルタの内部に大きな熱応力が発生する。特に、ススがフィルタ全体に多量に堆積した場合、又は、ススがフィルタに局部的に堆積した場合等には、ススが燃焼する際にススの異常発熱が発生し、排気ガスフィルタの温度が、例えば、1500℃以上となる。そのため、排気ガスフィルタの内部により大きな熱応力が発生し、ハニカムフィルタにクラック等が発生し易くなるという問題がある。
【0008】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、ハニカム構造体の温度が急激に上昇した場合等のハニカム構造体に熱衝撃が発生した場合であってもクラックが発生しにくいハニカム構造体及び本発明のハニカム構造体を使用した排ガス浄化装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に記載のハニカム構造体は、多数のセルがセル壁を隔てて長手方向に並設された多孔質の炭化ケイ素質ハニカム焼成体を含んで構成されたハニカム構造体であって、上記炭化ケイ素質ハニカム焼成体の表面にはケイ素を含む酸化物層が形成されており、X線光電子分光法(XPS)を用いて測定した前記酸化物層の厚さは、5〜100nmであることを特徴とする。
【0010】
請求項1に記載のハニカム構造体によると、ハニカム焼成体の表面に形成された酸化物層の厚さが5〜100nmに制御されているため、ハニカム焼成体の骨材(酸化物層を除いたハニカム焼成体)の厚さに対するハニカム焼成体表面に形成された酸化物の厚さの比を小さく保つことができる。従って、ハニカム構造体に堆積したススを燃焼させた時に、ハニカム焼成体の骨材(酸化物層を除いたハニカム焼成体)である炭化ケイ素とその表面に成形された酸化物層との熱膨張率の差に起因する応力が大きくならず、ハニカム構造体にクラックが発生しにくい。
【0011】
なお、本発明において、炭化ケイ素質焼成体とは、炭化ケイ素が60重量%以上の焼成体をいうものとする。上記炭化ケイ素質焼成体は、炭化ケイ素以外の材料を含んでいてもよく、炭化ケイ素以外の材料として、例えば、40重量%以下の金属ケイ素を含んでいてもよい。炭化ケイ素焼成体が金属ケイ素を含む場合には、金属ケイ素の表面にも、ケイ素を含む酸化物層が形成されることになる。
【0012】
ハニカム焼成体の表面に形成された酸化物層の厚さが5nm未満であると、酸化物層の厚さが薄すぎるため、酸化物層を有する炭化ケイ素粒子以外のその内部に存在する炭化ケイ素が酸化され易くなり、炭化ケイ素の酸化によりSiOが発生し易くなる。発生したSiOは融点が低いために気化し、酸化物層を有する炭化ケイ素粒子以外のその内部に存在する炭化ケイ素が侵食され、ハニカム構造体にクラックが発生し易くなって耐熱衝撃性が劣化すると推察される。一方、ハニカム焼成体の表面に形成された酸化物層の厚さが100nmを超えると、ハニカム焼成体の骨材(酸化物層を除いたハニカム焼成体)である炭化ケイ素とその表面に成形された酸化物層との熱膨張率の差に起因する応力が大きくなり、ハニカム構造体にクラックが発生し易くなると推察される。
【0013】
請求項2に記載のハニカム構造体は、所定の時間、1500℃以上の温度に晒される。すなわち、上記ハニカム構造体は、例えば、PMが堆積した際には、PMを燃焼させることによりPMを燃焼、除去する方式の排ガス浄化装置に用いられる。この場合には、PMが多いと、1500℃以上の温度に晒されることになる。この場合であっても、ハニカム焼成体の骨材(酸化物層を除いたハニカム焼成体)である炭化ケイ素とその表面に形成された酸化物層との温度差及び熱膨張率の差に起因する応力が大きくならず、ハニカム構造体にクラックが発生しにくい。
【0014】
請求項3に記載のハニカム構造体では、炭化ケイ素質ハニカム焼成体の一方の端面近傍の酸化物層の厚さから他方の端面近傍の酸化物層の厚さを引いた値が、一方の端面近傍又は他方の端面近傍の酸化物層の厚さを基準としてその0.5〜2倍である。
酸化物層の厚さをハニカム構造体の一方の端面近傍及び他方の端面近傍で規定したのは、ハニカム構造体をフィルタ又は触媒担体として使用した際に、例えば、一方の端面近傍が排ガスが流入する入口側の部分となるとともに、他方の端面近傍が排ガス出口側となり、排ガスの入口側となるか、排ガスの出口側となるかで、ハニカム構造体の温度に大きな差が発生し、酸化のされかたも異なるからである。なお、端面近傍とは、端面から20mmまでの領域のことをいうこととする。
【0015】
請求項3に記載のハニカム構造体では、炭化ケイ素質ハニカム焼成体の一方の端面近傍と他方の端面近傍の酸化物層の厚さの差を、上述のように、0.5〜2倍に抑えているので、フィルタや触媒担体として使用した際、再生時等に発生する熱膨張差に起因する応力がより小さくなり、炭化ケイ素質ハニカム焼成体にクラックがより入りにくくなる。
【0016】
請求項4に記載のハニカム構造体は、1個の上記炭化ケイ素質ハニカム焼成体からなるハニカム構造体(以下、一体型ハニカム構造体ともいう)であり、請求項5に記載の炭化ケイ素質ハニカム焼成体は、接着材層を介して複数個結束されたセラミックブロックを含むハニカム構造体(以下、集合型ハニカム構造体ともいう)である。
請求項6に記載のハニカム構造体は、セルのそれぞれ一方の端部は、交互に封止されている。また、請求項7に記載のハニカム構造体は、1個の上記炭化ケイ素質ハニカム焼成体又は上記セラミックブロックの外周面には、外周コート層が形成されている。
【0017】
請求項8に記載のハニカム構造体は、ディーゼルエンジンより排出されたパティキュレートマターを濾過することにより排ガスを浄化する排ガス浄化装置に用いられ、上記ハニカム構造体には、燃焼を助ける触媒が含まれたパティキュレートが蓄積され、堆積したパティキュレートマターを燃焼させて除去する方式の排ガス浄化装置に用いられる。
【0018】
請求項8に記載のハニカム構造体が用いられる排ガス浄化装置は、ハニカム構造体に堆積したPMを加熱することにより燃焼させて除去する方式の排ガス浄化装置であるが、大量にPMを燃焼させるので、ハニカム構造体の温度が急激に上昇するため、ハニカム構造体に熱衝撃が発生する。しかしながら、請求項8に記載のハニカム構造体は、ハニカム焼成体の表面に形成された酸化物層の厚さが5〜100nmに制御されているため、ハニカム構造体に堆積したススを燃焼させた時に、ハニカム焼成体の骨材(酸化物層を除いたハニカム焼成体)である炭化ケイ素とその表面に成形された酸化物層との熱膨張率の差に起因する応力が大きくならず、ハニカム構造体にクラックが発生しにくい。
【0019】
請求項9に記載の排ガス浄化装置は、排ガス入口及び排ガス出口を備えた金属容器と、上記金属容器内に収容されたハニカム構造体と、上記金属容器及び上記ハニカム構造体との間に介在する保持シール材とを備えた排ガス浄化装置であって、本発明のハニカム構造体は、請求項1〜8に記載のハニカム構造体であるので、ハニカム焼成体の骨材(酸化物層を除いたハニカム焼成体)である炭化ケイ素とハニカム焼成体の表面に成形された酸化物層との温度差や熱膨張率の差に起因する応力が余り大きくならず、ハニカム構造体にクラックが発生しにくい。
【0020】
請求項10に記載の排ガス浄化装置は、ハニカム構造体に堆積したパティキュレートマターを燃焼させて除去する方式の排ガス浄化装置である。
請求項10に記載の排ガス浄化装置では、ハニカム焼成体に堆積したPMを燃焼させるので、ハニカム構造体の温度が急激に上昇する。このため、ハニカム構造体に熱衝撃が発生する。しかしながら、請求項10に記載の排ガス浄化装置では、ハニカム構造体は、本発明の請求項1〜8のいずれかに記載のハニカム構造体であるので、ハニカム構造体に堆積したススを燃焼させた時に、ハニカム焼成体の骨材(酸化物層を除いたハニカム焼成体)である炭化ケイ素とその表面に成形された酸化物層との熱膨張率の差に起因する応力が大きくならず、ハニカム構造体にクラックが発生しにくい。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1は、本発明の実施形態に係わるハニカム構造体の一例を模式的に示す斜視図である。
【図2】図2(a)は、本発明の実施形態に係わるハニカム構造体を構成するハニカム焼成体の一例を模式的に示した斜視図であり、図2(b)は、図2(a)に示すハニカム焼成体のA−A線断面図である。
【図3】図3は、本発明の実施形態に係わるハニカム焼成体を構成する炭化ケイ素粒子同士の結合状態を模式的に示した説明図である。
【図4】図4は、本発明の実施形態に係わる排ガス浄化装置を模式的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
特許文献1に記載された従来のハニカムフィルタは、比較的厚い酸化物層が形成されていると考えられる。また、ハニカムフィルタの表面に形成された二酸化ケイ素からなる酸化物層の熱膨張率とハニカムフィルタの骨材(酸化物層を除いたハニカムフィルタ)である炭化ケイ素の熱膨張率とは異なる。そのため、骨材である炭化ケイ素とその表面に成形された二酸化ケイ素からなる酸化物層との熱膨張率の差に起因して、ハニカムフィルタにクラックが発生し易くなるという問題があると考えられる。
【0023】
また、ハニカムフィルタの表面に形成された二酸化ケイ素からなる酸化物層の熱伝導率は、ハニカムフィルタの骨材である炭化ケイ素に比べて低い。そのため、ハニカムフィルタ表面の酸化物層の厚さが厚いと、放熱が不充分となって、ハニカムフィルタの骨材の温度がさらに上昇し、排気ガスフィルタにより大きな熱応力が発生し易くなる。従って、ハニカムフィルタに、よりクラックが発生し易くなる。
【0024】
本発明者らは、上記問題を解決するために鋭意検討した結果、ハニカム構造体の骨材粒子の表面に形成された酸化物層の厚さを所定の範囲に制御することにより、骨材(酸化物層を除いたハニカム構造体)である炭化ケイ素とその表面に成形された酸化物層との熱膨張率の差に起因する応力を抑制することができ、ハニカム構造体にクラックが発生するのを防止することができることを見出し、本発明を完成させた。
【0025】
本発明におけるケイ素を含む酸化物層の厚さとは、ハニカム構造体を車等に搭載して使用する前の酸化物層の厚さをいう。
【0026】
このような用途にハニカム構造体が使用される際には熱に晒され、場合によっては、1500℃以上の温度に晒される場合もある。ハニカム構造体の使用時に形成される酸化物層の厚さは、ハニカム構造体の排ガス流入側と排ガス流出側とで異なる。すなわち、一般的には、ハニカム構造体の再生処理時には、燃焼熱と伝熱とにより、ハニカム構造体の排ガス流出側が高温になる。
【0027】
そのために、ハニカム構造体をフィルタ等として使用した際に形成される酸化物層は、排ガス流入側が薄く、排ガス流出側が厚いというように、酸化物層の厚さをコントロールすることが困難である。
そのため、ハニカム構造体は、車等に搭載する段階で、より均一な酸化物層の厚さを有することが望ましい。
【0028】
また、特許文献1に記載されている従来のハニカム構造体に形成されている酸化物層の酸素に換算した含有量が1〜10重量%であり、この酸素濃度(酸素含有量)から酸化物層の厚さは、100nmを超える厚さであると推定される。
本発明における酸化物層の厚さは、5〜100nmであり、特許文献1に記載された従来のハニカム構造体とは、酸化物層の厚さが異なると考えられる。
【0029】
(第一実施形態)
以下、本発明のハニカム構造体の一実施形態である第一実施形態について図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の実施形態に係わるハニカム構造体の一例を模式的に示す斜視図であり、図2(a)は、本発明の実施形態に係わるハニカム構造体を構成するハニカム焼成体の一例を模式的に示す斜視図であり、図2(b)は、図2(a)に示すハニカム焼成体のA−A線断面図である。
【0030】
図1に示すハニカム構造体10は、多孔質の炭化ケイ素ハニカム焼成体からなり、図2(a)及び図2(b)に示すような形状のハニカム焼成体20が接着材層11を介して複数個結束されてセラミックブロック13を構成し、セラミックブロック13の外周に外周コート層12が形成されている。
【0031】
図2(a)及び図2(b)に示すハニカム焼成体20には、多数のセル21がセル壁23を隔てて長手方向(図2(a)中、矢印aの方向)に並設されており、セル21のいずれかの端部が封止材22によって封止されている。従って、一方の端面25で開口したセル21に流入した排ガスGは、必ずセル21を隔てるセル壁23を通過した後、他方の端面26で開口した他のセル21から流出するようになっている。このようにして、セル壁23がPM等を捕集するためのフィルタとして機能する。
なお、ハニカム焼成体及びハニカム構造体の表面のうち、セルが開口している面を端面といい、端面以外の面を側面という。
【0032】
図3は、本発明の実施形態に係わるハニカム焼成体を構成する炭化ケイ素粒子同士の結合状態を模式的に示す説明図である。
図3に示すように、ハニカム焼成体を構成する炭化ケイ素粒子31は、互いにネック31aを介して結合されており、その表面には、厚さが5〜100nmのケイ素を含む酸化物層32(シリカ膜)が形成されている。
【0033】
ハニカム焼成体を構成する炭化ケイ素粒子の表面に形成された酸化物層の厚さについては、X線光電子分光法(XPS)を用いて測定することができる。X線光電子分光法は、サンプル表面にX線を照射し、生じる光電子のエネルギーをエネルギーアナライザーとよばれる装置で測定する分析法である。X線光電子分光法(XPS)により、サンプルの構成元素とその電子状態を分析することができる。また、X線光電子分析とイオンスパッタリングを交互に繰り返すことにより、試料の深さ方向の組成の変化を知ることができる。
【0034】
本発明の実施形態に係わるハニカム構造体においては、イオンスパッタリングにより一定速度で表面を削り取りながら、X線光電子分光法(XPS)によりその組成を分析することにより、酸化物層の深さ(厚み)を求めることができる。このような測定方法を用いた測定結果に基づき、上記炭化ケイ素の表面には、厚さが5〜100nmのケイ素を含む酸化物層32(シリカ膜)が形成されているとしている。
【0035】
ハニカム焼成体の製造方法については、後で詳しく説明するが、炭化ケイ素粒子31がネック31a等を介して結合したハニカム焼成体は、脱脂工程、焼成工程を経て製造される。原料粒子の炭化ケイ素粒子の表面には、殆ど酸化物層は形成されていない。
【0036】
すなわち、従来のハニカム構造体の製造方法においては、上記脱脂処理、焼成処理により得られた炭化ケイ素焼成体では、炭化ケイ素粒子の表面には、5nm未満の厚さの酸化物層しか形成されていないと考えられる。一方、特許文献1に記載の従来のハニカム構造体のように、意識的に炭化ケイ素粒子の表面に酸化物層を形成した場合には、例えば、100nmを超えるような比較的厚い酸化物層が形成されていると考えられる。それに対して本発明の実施形態のハニカム構造体では、炭化ケイ素粒子の表面に5〜100nmと従来と異なる厚さの酸化物層が形成されている。
酸化物層の厚さの下限は、5nmが好ましく、20nmがより好ましく、35nmがさらに好ましい。酸化物層の厚さの上限は、100nmが好ましく、90nmがより好ましく、70nmがさらに好ましい。
酸化物層は、8.0〜94.8nmがより好ましい。また、重量増加率は、0.06〜0.49重量%が好ましい。酸化物層の厚さを一定の値となるように制御することができるからである。
【0037】
本発明の実施の形態に係わるハニカム構造体において、ハニカム焼成体の一方の端面近傍の酸化物層の厚さから他方の端面近傍の酸化物層の厚さを引いた値が、一方の端面近傍又は他方の端面近傍の酸化物層の厚さを基準としてその0.5〜2倍であることが好ましい。ハニカム焼成体の一方の端面近傍と他方の端面近傍の酸化物層の厚さの差を、0.5〜2倍に抑えることにより、フィルタや触媒担体として使用した際、再生時等に発生する熱膨張差に起因する応力がより小さくなり、ハニカム焼成体にクラックがより入りにくくなる。
ハニカム焼成体の一方の端面近傍と他方の端面近傍の酸化物層の厚さの差は、0.5〜1.5倍が好ましく、より1.0に近いのがさらに好ましい。
【0038】
本発明の実施の形態に係わるハニカム構造体を構成するハニカム焼成体の気孔率は、30〜70%であることが望ましい。
ハニカム焼成体の気孔率が30〜70%であると、ハニカム焼成体の強度を維持することが可能であるとともに、排ガスがセル壁を通過する際の抵抗を低く保つことができるからである。
【0039】
これに対し、上記ハニカム焼成体の気孔率が30%未満であると、排ガスがセル壁を通過しにくくなり、早期に目詰まりを起こし易くなる。一方、上記ハニカム焼成体の気孔率が70%を超えると、ハニカム焼成体の強度が低下して容易に破壊され易くなる。
【0040】
ハニカム焼成体の平均気孔径は5〜30μmであることが望ましい。
ハニカム焼成体で構成されるハニカム構造体をフィルタとして使用した場合、ハニカム焼成体の平均気孔径が5μm未満であると、ハニカム構造体の圧力損失が高くなる。一方、ハニカム焼成体の平均気孔径が30μmを超えると、ハニカム構造体のPMの捕集効率が低くなる。
上記気孔率及び平均気孔径は、例えば、水銀圧入法により測定することができる。
【0041】
上記ハニカム焼成体のセル壁の厚さは、特に限定されないが、0.12〜0.40mmが望ましい。
ハニカム焼成体のセル壁の厚さが0.12mm未満であると、ハニカム焼成体のハニカム構造を支持するセル壁の厚さが薄くなり、ハニカム焼成体の強度を保つことができなくなり、一方、上記セル壁の厚さが0.40mmを超えると、ハニカム構造体の圧力損失の上昇を引き起こし易くなるからである。
【0042】
また、上記ハニカム焼成体の長手方向に垂直な断面におけるセル密度は特に限定されないが、望ましい下限は、31.0個/cm(200個/in)、望ましい上限は、93.0個/cm(600個/in)、より望ましい下限は、38.8個/cm(250個/in)、より望ましい上限は、77.5個/cm(500個/in)である。
【0043】
次に、本発明の実施形態に係わるハニカム構造体の製造方法について説明する。
まず、セラミック粉末とバインダーとを含む原料ペーストを押出成形することによってハニカム成形体を作製する成形工程を行う。
【0044】
この場合、例えば、セラミック原料として平均粒子径の異なる炭化ケイ素粉末、有機バインダー、液状の可塑剤、潤滑剤及び水を混合することにより、ハニカム成形体製造用の原料ペーストを調製する。
【0045】
続いて、上記原料ペーストを押出成形機に投入する。
上記原料ペーストを押出成形機に投入すると、原料ペーストは押出成形により所定の連続した形状のハニカム成形体となる。次いで、押出成形された連続するハニカム成形体を所定の長さに切断する。
【0046】
次いで、ハニカム成形体をマイクロ波乾燥機、熱風乾燥機、誘電乾燥機、減圧乾燥機、真空乾燥機、凍結乾燥機等を用いて乾燥させる。
【0047】
次に、ハニカム成形体の所定のセルに封止材となる封止材ペーストを充填して上記セルを目封じする封止工程を行う。封止材ペーストとしては、上記原料ペーストを用いることができる。
なお、切断工程、乾燥工程、封止工程の条件は、従来からハニカム焼成体を作製する際に用いられている条件を適用することができる。
【0048】
次に、ハニカム成形体中の有機物を脱脂炉中で加熱、分解する脱脂工程を行う。
この脱脂工程では、ハニカム成形体を酸素含有雰囲気下、300〜650℃に加熱する。
この後、脱脂処理が施されたハニカム成形体を焼成炉に搬送し、非酸化性雰囲気の下、2000〜2200℃に加熱することによりハニカム成形体中の炭化ケイ素粒子を焼結させる焼成工程を行ってハニカム焼成体を作製する。以上の工程によって、炭化ケイ素焼結体からなるハニカム焼成体を作製することができる。
【0049】
そして、得られたハニカム焼成体の側面に、接着材層用ペーストを塗布して接着材層用ペースト層を形成し、この接着材層用ペースト層を介して順次他のハニカム焼成体を積層する。この手順を繰り返して所定数のハニカム焼成体が接着材層用ペーストにより接着されたハニカム焼成体の集合体を作製する。なお、接着材層用ペーストとしては、例えば、無機バインダーと有機バインダーと無機繊維及び/又は無機粒子とからなるものを使用することができる。
【0050】
このハニカム焼成体の集合体を加熱して接着材層用ペースト層を乾燥、固化させて接着材層とすることにより、セラミック集合体を作製するセラミック集合体作製工程を行う。さらに、セラミック集合体の側面をダイヤモンドカッター等を用いて切削加工して円柱状のセラミックブロックを作製する外周加工工程を行う。
【0051】
なお、ハニカム成形体を作製する際、組み合わせると所定の形状(例えば、円柱形状等)となり、外周加工を必要としない種々の形状のハニカム成形体を作製し、それを焼成することにより、種々の形状のハニカム焼成体を作製し、この後、それらのハニカム焼成体を接着材層用ペーストを介して組み合わせることにより、セラミックブロックを作製する方法をとることもできる。この場合には、外周加工工程が必要でなくなる。また、この場合には、以下に記載する外周コート層形成工程も、必ずしも必要でない。
【0052】
次いで、円柱状としたセラミックブロックの外周に、外周コート層用ペーストを塗布し、乾燥、固化して外周コート層を形成する外周コート層形成工程を行う。
なお、上記外周コート層用ペーストを構成する材料としては、上記接着材層用ペーストと同様の材料を用いることができる。上記外周コート層用ペーストは、接着材ペースト層用ペーストと異なる材料を用いてもよい。
【0053】
本発明の実施形態に係わるハニカム構造体の製造方法においては、焼成工程の後、セラミック集合体作製工程の後、外周加工工程の後、又は、外周コート層形成工程の後のいずれかにおいて、酸化性雰囲気の下、700〜1100℃で加熱処理する加熱処理工程を行って、ハニカム焼成体を構成する炭化ケイ素粒子の表面に5〜100nmの厚さの酸化物層を形成する。
【0054】
上記炭化ケイ素粒子の表面に酸化物層を形成する加熱処理条件に関し、700℃で加熱処理する際には、3時間以上加熱処理を行う方が好ましい。加熱処理温度が上昇するに従って、加熱処理時間は短くてもよく、例えば、1000℃では、少なくとも1時間、1100℃では少なくとも30分間加熱処理を行うことが好ましい。加熱処理時間が足りないと、酸化物層の厚さが5nm未満となる。なお、1100℃で加熱する場合には、4時間以下とすることがよい。1100℃で加熱する場合4時間を超えると、酸化物層の厚さが100nmを超えることとなる。しかし、上記条件で加熱することにより5〜100nmの厚さの酸化物層を形成することができる。
【0055】
上述したように、本発明におけるケイ素を含む酸化物層の厚さとは、ハニカム構造体を車等に搭載して使用する前の酸化物層の厚さをいう。
【0056】
また、上記炭化ケイ素粒子の表面に酸化物層を形成する加熱処理時の酸素濃度は、5〜21容量%が好ましい。酸素濃度が5容量%未満では、長時間の加熱が必要となり易く、コストが高くなり易くなる。また、酸素濃度が約5容量%未満では、炭化ケイ素の表面の酸化が不安定となり易く、所定の厚さの酸化物層を形成することが困難になる。一方、酸素濃度が21容量%を超えた場合には、加熱装置内に酸素を供給する必要があるためコストが高くなり易くなる。また、コスト面及び作業効率の面から考えると、空気を用いて酸化物層を形成するのが好ましい。
【0057】
上述したハニカム構造体に外周加工工程が必要ない場合には、セラミック集合体作製工程の後、加熱処理工程を行って酸化物層を形成してもよい。
【0058】
以上の工程によって、5〜100nmの厚さの酸化物層を有するハニカム焼成体が接着材層を介して複数個接着されてなるセラミックブロックの外周部に外周コート層が設けられた円柱形状のハニカム構造体を製造することができる。
【0059】
本発明の実施形態に係わるハニカム構造体の製造方法における接着工程は、接着材層用ペーストを各ハニカム焼成体の側面に塗布する方法以外に、例えば、作製するセラミックブロック(又はハニカム焼成体の集合体)の形状と同形状の型枠内に各ハニカム焼成体を仮固定した状態とし、接着材層用ペーストを各ハニカム焼成体間に注入する方法等によって行ってもよい。
【0060】
以下、本実施形態のハニカム構造体の作用効果について列挙する。
(1)本実施形態のハニカム構造体では、ハニカム焼成体を構成する炭化ケイ素粒子の表面には、厚さが5〜100nmの厚さのケイ素を含む酸化物層が形成されているので、ハニカム焼成体の骨材(酸化物層の除くハニカム焼成体)の厚さに対するハニカム焼成体を構成する粒子の表面に形成された酸化物の厚さの比を小さく保つことができる。従って、ハニカム焼成体に堆積したススを燃焼させた時に、ハニカム焼成体の骨材(酸化物層の除くハニカム焼成体)である炭化ケイ素とその表面に成形された酸化物層との熱膨張率の差に起因する応力が大きくならず、ハニカム構造体にクラックが発生しにくい。
【0061】
(2)本実施形態のハニカム構造体では、5〜100nmの厚さの酸化物層が形成されている。このように充分な厚さの酸化物層が形成されているため、ハニカム構造体が1500℃以上の高温に晒された場合であっても、ハニカム構造体を構成するハニカム焼成体の内部に存在する炭化ケイ素が酸化されにくいので、酸化物層の厚さが厚くなりにくく、安定した特性を有するハニカム焼成体となる。
【実施例】
【0062】
以下、本発明の第一実施形態のハニカム構造体をより具体的に開示した実施例を示すが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0063】
(実施例1)
平均粒子径22μmを有する炭化ケイ素の粗粉末52.8重量%と、平均粒子径0.5μmの炭化ケイ素の微粉末22.6重量%とを混合し、得られた混合物に対して、アクリル樹脂2.1重量%、有機バインダー(メチルセルロース)4.6重量%、潤滑剤(日本油脂社製 ユニルーブ)2.8重量%、グリセリン1.3重量%、及び、水13.8重量%を加えて混練して原料ペーストを得た。得られた原料ペーストを用いて、押出成形及び押出成形体の切断を行い、図2(a)及び図2(b)に示した断面形状と同様の断面形状であってセルの封止がされていない生のハニカム成形体を作製した。マイクロ波乾燥機を用いてこのハニカム成形体を乾燥した。
【0064】
次に、乾燥後のハニカム成形体の所定のセルに封止材ペーストとして上記原料ペーストを充填してセルの封止を行い、再び乾燥機を用いて乾燥させた。
【0065】
乾燥したハニカム成形体を400℃で脱脂し、常圧のアルゴン雰囲気下2200℃、3時間の条件で焼成を行うことにより、炭化ケイ素焼結体からなるハニカム焼成体を作製した。ハニカム焼成体の気孔率は45%、平均気孔径が15μm、高さ34.3mm×幅34.3mm×長さ150mm、セルの数(セル密度)が46.5個/cm、セル壁の厚さが0.25mm(10mil)であった。
そして、得られたハニカム焼成体に対し、空気雰囲気中、700℃で3時間加熱処理を行った。
【0066】
平均繊維長20μm、平均繊維径2μmのアルミナファイバ30重量%、平均粒子径0.6μmの炭化ケイ素粒子21重量%、シリカゾル(固形分30重量%)15重量%、カルボキシメチルセルロース5.6重量%、及び、水28.4重量%を含む耐熱性の接着材層用ペーストを用いて、ハニカム焼成体を多数接着させ、ハニカム焼成体の集合体を作製した。
【0067】
さらに、このハニカム焼成体の集合体を120℃で乾燥させてセラミック集合体とした後、続いて、ダイヤモンドカッターを用いて切断することにより、円柱状のセラミックブロックを作製した。
【0068】
次に、外周コート層用ペーストとして、上記接着材層用ペーストを用いて、セラミックブロックの外周部に厚さ0.2mmの外周コート層用ペースト層を形成した。そして、この外周コート層用ペースト層を120℃で乾燥して外周コート層を形成し、外周に外周コート層が形成された直径143.8mm×長さ150mmの円柱状のハニカム構造体を作製した。
【0069】
(実施例2〜6)
ハニカム焼成体に、表1に示した温度、時間で加熱処理を行ったほかは、実施例1と同様にしてハニカム構造体を作製した。実施例2〜6の処理条件は、それぞれ、900℃10時間、1000℃3時間、1100℃1時間、1100℃3時間、1100℃4時間である。
【0070】
(比較例1)
比較例1では、ハニカム焼成体を作製した後、加熱処理は行わず、そのほかは、実施例1と同様にしてハニカム構造体を作製した。
【0071】
(比較例2)
外周コート層を形成した後、表1に示した温度、時間(1100℃、5時間)で加熱処理を行ったほかは、実施例1と同様にしてハニカム構造体を作製した。
【0072】
(評価方法)
(1)X線光電子分光法(XPS)による酸化物層の厚さの測定
実施例1〜6及び比較例1〜2で作製した加熱処理工程を行ったハニカム焼成体(比較例1は、加熱処理なし)の1つについて、ダイヤモンドカッターを用いて20mm×20mm×0.25mmの板状のXPS測定用サンプルを作製した。そして、XPS測定用サンプルを用いてX線光電子分光法(XPS)により、酸化物層の厚さを測定した。
【0073】
XPS装置としては、ULVAC−PHI社製のQuantera SXMを用い、X線源としては、モノクロ化されたAl−Kα線(Monochromated Al−Kα)を用いた。測定条件は、電圧:15kV、出力:25W、測定領域:100μmφとした。イオンスパッタ条件は、イオン種:Ar、電圧:1kV(実施例1〜4及び比較例1)又は2kV(実施例5及び6並びに比較例2)、スパッタレート(SiO換算):1.5nm/min(実施例1〜4及び比較例1)又は5.4nm/min(実施例5及び6並びに比較例2)とした。
上記XPS装置を用いて、実施例1〜6及び比較例1、2の各XPS測定用サンプルの定性分析(ワイドスキャン)、及び、C、O、Siについての深さ方向分析を行った。深さ方向分析の結果より、SiOプロファイルの最高強度と最低強度の中間となる強度の時間と、各XPS測定用サンプルのスパッタレート(SiO換算)から酸化物層の厚さを算出した。
X線光電子分光法(XPS)による実施例1〜6及び比較例1、2の酸化物層の厚さの測定の結果を表1に示す。実施例1〜6及び比較例1、2の酸化物層の厚さは、それぞれ、8.0nm、26.0nm、36.0nm、45.0nm、64.4nm、94.8nm、≦4nm、108.5nmであった。
【0074】
(2)ハニカム構造体熱衝撃試験
実施例1〜6及び比較例1、2でそれぞれ作製したハニカム構造体を用いて、触媒担体50及び排ガス浄化装置40が図4に示すような2Lのコモンレール式ディーゼルエンジン60の排気管62に接続された装置を組み上げた。そして、ハニカム構造体に堆積したPMの燃焼による熱衝撃試験を行った。そして、ハニカム構造体を構成する炭化ケイ素質ハニカム焼成体にクラックが発生したか否かを目視及び顕微鏡で観察した。
【0075】
具体的には、エンジンを回転数3000min−1、トルク50Nmで所定時間運転し、12g/LのPMをハニカム構造体に捕集させた。その後、エンジンを回転数4000min−1、フルロードにして、排ガスの温度を上昇させ、ハニカム構造体に堆積したPMを強制燃焼させ、ハニカム焼成体にクラックが発生したか否かを肉眼及び走査型電子顕微鏡(SEM)により観察した。実施例1〜6及び比較例1、2の各実施例において、ハニカム構造体の到達した最高温度は、いずれも1500℃を超えていた。また、実施例1〜6及び比較例1、2の実施例において、ディーゼルエンジンより排出された排ガスの水蒸気量は、2容量%であった。
【0076】
なお、ディーゼルエンジンの燃料中に触媒であるセリウム化合物が10ppm含まれるように、燃料にセリウム化合物を添加して、ハニカム構造体の熱衝撃試験(クラック評価)を行った。その結果を表1に示す。実施例1〜6は、クラックが発生しなかった。比較例1、2では、クラックが発生した。
【0077】
(3)重量増加率の測定
実施例1〜6及び比較例2で作製したハニカム焼成体について、実施例1〜6及び比較例2と同様の条件で加熱処理を行い、加熱処理前後の重量を測定することにより、重量増加率を求めた。ここで、重量増加率(%)は、下記の(1)式で表される。
重量増加率(%)=(加熱処理後のハニカム焼成体の重量−加熱処理前のハニカム焼成体の重量)×100/加熱処理前のハニカム焼成体の重量・・・(1)
その結果を表1に示す。実施例1〜6及び比較例1、2の重量増加率は、それぞれ、0.06wt%、0.20wt%、0.25wt%、0.30wt%、0.33wt%、0.49wt%、0wt%、0.56wt%であった。なお、ハニカム焼成体の加熱処理を行わなかった比較例1については、重量増加率は、0wt%とした。
【0078】
【表1】

【0079】
表1に示すように、厚さ8.0〜94.8nmの酸化物層が形成されたハニカム焼成体を用いてハニカム構造体を作製した実施例1〜6では、得られたハニカム構造体にPMを12g/L堆積させ、ハニカム構造体が1500℃を超える温度になるように燃焼させ、熱衝撃を与えた場合であっても、ハニカム構造体にクラックは観察されなかった。これに対し、比較例1のように加熱処理工程を行っていないもの(酸化物層の厚みを測定したところ、4nm以下であった)、及び、比較例2のようにハニカム構造体を構成するハニカム焼成体の酸化物層の厚さが108.5nmと100nmを超えたものでは、上記のような熱衝撃を与えることにより、ハニカム構造体にクラックが観察された。上記の結果から、酸化物層の厚さは、5〜100nmが好ましく、8.0〜94.8nmがより好ましいと考えられる。
【0080】
(第二実施形態)
以下、本発明の一実施形態である第二実施形態に係わる排ガス浄化装置ついて図面を参照しつつ説明する。
【0081】
図4は、本発明の実施形態に係わる排ガス浄化装置を模式的に示す説明図である。
図4に示すように、本実施形態に係わる排ガス浄化装置40は、排ガス入口43及び排ガス出口44を備えた金属容器41と、金属容器41内に保持シール材42を介して収容されたハニカム構造体10からなるハニカムフィルタとを備えている。ハニカムフィルタには、本発明の第一実施形態で説明したハニカム構造体10が用いられている。
【0082】
また、排ガス浄化装置40より排気ガス入口側には、別の金属容器51内に保持シール材52を介して酸化触媒を担持した触媒担体50が収容されている。この触媒担体50が収容された金属容器51は、ディーゼルエンジン60の排気管62に接続されており、酸化触媒と排ガス浄化装置40とにより、ディーゼルエンジン60から排出された排気ガスの浄化を行う。
【0083】
このディーゼルエンジン60は、図示していないが、コモンレール方式を採用しており、また、燃料容器61中の燃料63には、触媒64の添加が可能なように構成されている。
【0084】
このような排ガス浄化装置40、触媒担体50及びディーゼルエンジン60を備えた車両においては、ハニカムフィルタに一定量のPMが堆積すると以下のような方法によりPMを除去する。
【0085】
まず、燃料63にセリウム化合物等の触媒64を添加し、ディーゼルエンジン60から排出された排ガス中に触媒64が混合されるようにする。続いて、ポストインジェクションにより排ガスの温度を上昇させる。本実施形態では、排ガス浄化装置40よりエンジン側に酸化触媒を担持した触媒担体50が配置されているので、温度の上昇した排ガスは、触媒担体50の内部を通るが、これにより未燃焼の燃料が燃焼し、HC及びCOを除去しながら、排ガスの温度をさらに上昇させることができる。
【0086】
また、排ガス中には、触媒64が混入されているため、PMの燃焼開始温度が低下し、ハニカムフィルタに堆積したPMが燃焼、除去される。
【0087】
本実施形態で使用される保持シール材42、52は、ハニカム構造体10及び触媒担体50を金属容器41、51内で保持、固定するとともに、使用中のハニカム構造体10、触媒担体50を保温する断熱材として機能するマット状のものである。
【0088】
以下、本実施形態の排ガス浄化装置の作用効果について列挙する。
(3)本実施形態の排ガス浄化装置は、燃料に触媒を添加してパティキュレートマターの燃焼開始温度を低下させて、ハニカムフィルタに堆積したパティキュレートマターを燃焼させて除去する方式の排ガス浄化装置として、好適に用いられる。その理由としては、以下の理由が考えられる。
すなわち、このような方法で堆積したPMを除去する方式の排ガス浄化装置に、本発明の実施形態のハニカム構造体を採用した場合には、ハニカム構造体にPMを大量に蓄積させることができる。その場合には、ハニカムフィルタ(ハニカム構造体)が1500℃以上の温度となることもある。しかしながら、このようなハニカムフィルタ(ハニカム構造体)の温度が1500℃を超えた場合であっても、ハニカム構造体を構成する炭化ケイ素の表面の酸化物層の厚さが5〜100nmに制御されているため、ハニカム焼成体の骨材(酸化物層の除くハニカム焼成体)である炭化ケイ素とその表面に成形された酸化物層との熱膨張率の差に起因する応力が大きくならず、ハニカム構造体にクラックが発生しにくい。
【0089】
(その他の実施形態)
本発明のハニカム構造体の断面の形状は、円形に限定されるものでなく、例えば、楕円形や、長円形、レーストラック形等であってもよい。
【0090】
本発明に係わるハニカム構造体は、炭化ケイ素粒子が金属ケイ素粒子により結合された状態のハニカム焼成体からなるものであってもよい。この場合、金属ケイ素の全体に対する含有割合は、40重量%以下であることが望ましい。本発明では、上記構成のハニカム焼成体の表面に酸化物層を形成するために、加熱処理を行うが、この加熱処理により金属ケイ素の表面にも酸化物層が形成される。そのため、金属ケイ素の溶融温度を超えるような温度に晒された場合においても、ハニカム焼成体の構造が崩れることはなく、上述した本願発明の効果を奏する。
【0091】
本発明の第一実施形態に係わるハニカム構造体は、炭化ケイ素ハニカム焼成体が接着材層を介して複数個結束されたセラミックブロックの外周に外周コート層が形成されているが、ハニカム構造体の構成は、上記構成に限定されない。
【0092】
本発明のハニカム構造体は、1個の前記炭化ケイ素質ハニカム焼成体からなるものであってよい。この場合にも、本発明の第一実施形態に係わるハニカム構造体と同様の効果を奏する。
【0093】
本発明のハニカム構造体には、排ガスを浄化するための触媒(例えば、酸化物触媒)を担持させてもよい。
【0094】
触媒を担持させる場合には、担持させる触媒としては、例えば、白金、パラジウム、ロジウム等の貴金属が望ましく、このなかでは、白金がより望ましい。また、その他の触媒として、例えば、カリウム、ナトリウム等のアルカリ金属、バリウム等のアルカリ土類金属を用いることもできる。
【0095】
さらに、CeO、ZrO、FeO、Fe、CuO、CuO、Mn、MnO等の金属酸化物、組成式A1−nCO(式中、AはLa、Nd、Sm、Eu、Gd又はYであり、Bはアルカリ金属又はアルカリ土類金属であり、CはMn、Co、Fe又はNiであり、0≦n≦1である)で表される複合酸化物等からなる酸化物触媒を用いることもできる。
これらの触媒は、単独で用いてもよいし、2種以上併用してもよい。
【0096】
また、触媒を担持させる場合には、触媒の高分散を目的として、ハニカム構造体のセル壁に触媒担持層を形成してもよい。上記触媒担持層を形成する材料としては、比表面積が高く触媒を高分散させて担持させることのできる材料であることが望ましく、例えば、アルミナ、チタニア、ジルコニア、シリカ等の酸化物セラミックが挙げられる。
これらの材料は、単独で使用してもよいし、2種以上併用してもよい。
【符号の説明】
【0097】
10 ハニカム構造体
11 接着材層
12 外周コート層
13 セラミックブロック
20 ハニカム焼成体
21 セル
22 封止材
23 セル壁
31 炭化ケイ素粒子
31a ネック
32 酸化物層
40 排ガス浄化装置
41、51 金属容器
42、52 保持シール材
43 排ガス入口
44 排ガス出口
50 触媒担体
60 ディーゼルエンジン
61 燃料容器
62 排気管
63 燃料
64 触媒

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多数のセルがセル壁を隔てて長手方向に並設された多孔質の炭化ケイ素質ハニカム焼成体を含んで構成されたハニカム構造体であって、
前記炭化ケイ素質ハニカム焼成体を構成する炭化ケイ素粒子の表面にはケイ素を含む酸化物層が形成されており、
X線光電子分光法(XPS)を用いて測定した前記酸化物層の厚さは、5〜100nmであることを特徴とするハニカム構造体。
【請求項2】
所定の時間、1500℃以上の温度に晒される請求項1に記載のハニカム構造体。
【請求項3】
前記炭化ケイ素質ハニカム焼成体の一方の端面近傍の酸化物層の厚さから他方の端面近傍酸化物層の厚さを引いた値が、一方の端面近傍又は他方の端面近傍の酸化物層の厚さを基準としてその0.5〜2倍である請求項1又は2に記載のハニカム構造体。
【請求項4】
前記ハニカム構造体は、1個の前記炭化ケイ素質ハニカム焼成体からなる請求項1〜3のいずれかに記載のハニカム構造体。
【請求項5】
前記ハニカム構造体は、前記炭化ケイ素質ハニカム焼成体が接着材層を介して複数個結束されたセラミックブロックを含む請求項1〜3のいずれかに記載のハニカム構造体。
【請求項6】
前記セルのそれぞれ一方の端部は、交互に封止されている請求項1〜5のいずれかに記載のハニカム構造体。
【請求項7】
前記1個の前記炭化ケイ素質ハニカム焼成体又は前記セラミックブロックの外周面には、外周コート層が形成されている請求項4〜6のいずれかに記載のハニカム構造体。
【請求項8】
前記ハニカム構造体は、
ディーゼルエンジンより排出されたパティキュレートマターを濾過することにより排ガスを浄化する排ガス浄化装置に用いられ、
前記ハニカム構造体には、燃焼を助ける触媒が含まれたパティキュレートが蓄積され、堆積したパティキュレートマターを燃焼させて除去する方式の排ガス浄化装置に用いられる請求項1〜7のいずれかに記載のハニカム構造体。
【請求項9】
排ガス入口及び排ガス出口を備えた金属容器と、
前記金属容器内に収容されたハニカム構造体と、
前記金属容器及び前記ハニカム構造体との間に介在する保持シール材とを備えた排ガス浄化装置であって、
前記ハニカム構造体は、請求項1〜8のいずれかに記載のハニカム構造体であることを特徴とする排ガス浄化装置。
【請求項10】
前記排ガス浄化装置は、前記ハニカム構造体に堆積したパティキュレートマターを燃焼させて除去する方式の排ガス浄化装置である請求項9に記載の排ガス浄化装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−102004(P2012−102004A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−225193(P2011−225193)
【出願日】平成23年10月12日(2011.10.12)
【出願人】(000000158)イビデン株式会社 (856)
【Fターム(参考)】