説明

ハニカム構造体

【課題】耐熱衝撃性に優れたハニカム構造体を提供する。
【解決手段】コージェライトを主成分とし、平均細孔径が4μm以上10μm以下、全細孔容積が0.18cm/g以上0.22cm/g以下、ヤング率が4GPa以上6GPa以下であるハニカム構造体の提供による。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱衝撃性に優れたハニカム構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の排ガスに含有される粒子状物質を捕集するため、更には排ガス中のNOx、CO及びHC等を、担持した触媒により吸着・吸収するために、コージェライトセラミックからなるハニカム構造体が使用されている。このようなハニカム構造体は、高温排ガス等により加熱され、頻繁に熱衝撃を受けるので、高い耐熱衝撃性が必要となる。
【0003】
近年、排ガス規制強化に伴い、触媒の早期活性化のため、ハニカム構造体を用いた触媒コンバータをエンジン近傍に設置し、又は、エンジンの後方にも(床下)触媒コンバータを設置する方式が主流となってきた。このうちエンジン近傍の触媒コンバータは、排ガス温度が比較的高温であり且つ温度変化も激しいことから、以前よりも更に高い耐熱衝撃性が必要とされるようになった。
【0004】
このような状況下、従来は、主に熱膨張係数を低下させて低熱膨張化し、高い耐熱衝撃性を備えたハニカム構造体を得ていた(例えば、特許文献1,2を参照)。
【特許文献1】特公平7−61892号公報
【特許文献2】国際公開第01/777043号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
具体的には、(1)コージェライト化原料を構成する粒子の平均粒径を小さくすることで原料の反応性を高めたり、(2)コージェライト化原料の1つであるタルク粒子の平板度合いを大きくすることによって配向性を増大させたり、(3)不純物を減らすことでマイクロクラックを増加させ熱膨張曲線の凹みを大きくして、ハニカム構造体の熱膨張係数(CTE)を低下させる方法が知られている。
【0006】
しかし、コージェライトセラミックとなるコージェライト化原料の品質管理を、常に一定に保持することはなかなかに困難である。そのため、上記の(2)及び(3)の手段を採った場合に、原料の品質が悪化すると、容易に熱膨張係数が変化してしまい、高い耐熱衝撃性を確保することが困難な場合があった。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、耐熱衝撃性に優れたハニカム構造体を得る新たな手段を提供することを課題とする。この課題を達成するため、本発明は、以下のハニカム構造体を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
即ち、本発明によれば、先ず、コージェライトを主結晶相とする材料からなり、平均細孔径が4μm以上10μm以下、全細孔容積が0.18cm/g以上0.22cm/g以下、ヤング率が4GPa以上6GPa以下であるハニカム構造体が提供される。
【0009】
本発明に係るハニカム構造体においては、曲げ強度が、2MPa以上3.5MPa以下であることが好ましい。
【0010】
本発明に係るハニカム構造体においては、曲げ強度(MPa)/ヤング率(GPa)の比が、0.55〜0.60であることが好ましい。
【0011】
次に、本発明によれば、平均粒径(粒子径)が10μm以上30μm以下のタルクを含むコージェライト化原料を主原料とする坏土用材料を混合及び混練して坏土を得て、得られた坏土をハニカム形状に成形してハニカム成形体を得て、得られたハニカム成形体を乾燥させた後、焼成して上記した何れかのハニカム構造体を得るハニカム構造体の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係るハニカム構造体は、平均細孔径が4μm以上10μm以下、全細孔容積が0.18cm/g以上0.22cm/g以下、ヤング率が4GPa以上6GPa以下であり、従来と比して、全細孔容積を維持しつつ、平均細孔径を大きくし、ヤング率を低下させたものである。本発明に係るハニカム構造体は、このようにヤング率を低下させているので、耐熱衝撃性に優れており、熱衝撃破壊抵抗係数として2以上、好ましくは3以上を実現している。
【0013】
本発明に係るハニカム構造体の製造方法は、平均粒径が10μm以上30μm以下のタルクを含むコージェライト化原料を用いてハニカム構造体を得る方法であり、従来の思想とは反対に、コージェライト化原料を構成する粒子の平均粒径を大きくしている。本発明に係るハニカム構造体の製造方法は、高い耐熱衝撃性を備えた本発明に係るハニカム構造体を得ることが出来るという優れた効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明について、適宜、図面を参酌しながら、実施の形態を説明するが、本発明はこれらに限定されて解釈されるべきものではない。本発明の要旨を損なわない範囲で、当業者の知識に基づいて、種々の変更、修正、改良、置換を加え得るものである。例えば、図面は、好適な本発明の実施の形態を表すものであるが、本発明は図面に表される態様や図面に示される情報により制限されない。本発明を実施し又は検証する上では、本明細書中に記述されたものと同様の手段若しくは均等な手段が適用され得るが、好適な手段は、以下に記述される手段である。
【0015】
先ず、本発明に係るハニカム構造体について説明する。本発明に係るハニカム構造体は、材料、平均細孔径、全細孔容積、ヤング率で特定され、加えて好ましい態様においては、曲げ強度で特定されるものである。その形状、大きさ等は特に限定されるものではない。ここで、図1は、本発明に係るハニカム構造体の一の実施形態を示す斜視図である。図1に示されるハニカム構造体1は、複数のセル11が隔壁12により区画形成され、隔壁12を囲むようにその外周に外周壁13が配設された、全体の形状が円柱状の多孔質体である。
【0016】
本発明に係るハニカム構造体において、その形状は、四角柱等の角柱状であってもよい。大きさとしては、例えば円柱状である場合には、端面の直径が30〜500mm、中心軸方向の長さが25〜350mmとすることが出来る。セルの密度は100〜1500セル/inchであることが好ましい。
【0017】
本発明に係るハニカム構造体において、隔壁の厚さは、0.038〜0.500mmであることが好ましい。ノギス、公知の画像解析手法、レーザー測定機等により測定することが出来る外周壁の厚さは、均一であり、0.1〜0.8mmであることが好ましい。本発明に係るハニカム構造体は、中心軸方向に垂直な断面(外周壁方向の断面)でのセルの形状が多角形であることが好ましい。具体的には、三角形、四角形、五角形、六角形等であることが好ましい。
【0018】
本発明に係るハニカム構造体は、所定のセルの一方の端部が目封じされ、更に残余のセルの端部が目封じされていることが好ましい。このように形成することにより、DPFとして好適に利用することが可能である。目封じされたセルの配置は特に限定されるものではないが、柱状のハニカム構造体の、一方の端面が目封じされるセルと、他方の端面が目封じされるセルとが、互い違いに配置されるようにすることが好ましい。
【0019】
本発明に係るハニカム構造体における平均細孔径、全細孔容積は、「JASO 自動車規格 自動車排気ガス浄化触媒セラミックモノリス担体の試験方法 M505−87の6.3に記載の全細孔容積、メジアン細孔径」の方法で測定された値である。
【0020】
本発明に係るハニカム構造体におけるヤング率の測定方法は、JIS R1602(ファインセラミックスの弾性率試験方法(曲げ共振法))に準ずる。試験片は、図2に示されるように、ハニカム構造体の中心軸に沿って切り出したものであり、長さH100mm、幅W20mm、厚さD10mmである。
【0021】
本発明に係るハニカム構造体における曲げ強度の測定方法は、JIS R1601(ファインセラミックスの曲げ強さ試験方法(4点曲げ))に準ずる。試験片は、図2に示されるように、ハニカム構造体の中心軸に沿って切り出したものであり、長さH70mm、幅W20mm、厚さD10mmである。又、下部支点間距離を60mm、上部荷重点間距離を30mmとした。
【0022】
次に、本発明に係るハニカム構造体の製造方法について説明する。坏土用材料としてコージェライト化原料を用意する。この主原料であるコージェライト化原料は、コージェライト結晶の理論組成(化学組成としてシリカ(SiO)が42〜56質量部、アルミナ(Al)が30〜45質量部、マグネシア(MgO)が12〜16質量部の範囲)となるように各成分を配合するため、シリカ源成分、マグネシア(MgO)源成分、及びアルミナ源成分等を含むものである。本発明に係るハニカム構造体の製造方法では、そのうちのマグネシア源成分として、平均粒径が10μm以上30μm以下のタルクを含むものを用いる。
【0023】
アルミナ源成分は、不純物が少ないという点で、酸化アルミニウム又は水酸化アルミニウムの何れか一種又はこれら両方を採用することが出来る。マグネシア源成分としては、タルクの他、マグネサイトや、不純物としてFe、CaO、NaO、KO等を含有してもよい。シリカ源成分としては、石英、溶融シリカを用いる。
【0024】
次に、コージェライト化原料に添加する坏土用材料(添加剤)を用意する。添加剤として、少なくともバインダと、必要に応じて造孔剤を用い、その他に分散剤や界面活性剤を使用する。このうち造孔剤としては、例えば、グラファイト、小麦粉、澱粉、フェノール樹脂、ポリメタクリル酸メチル、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレートなどの中空又は中実の樹脂、発泡樹脂、吸水性ポリマー等を挙げることが出来る。バインダとしては、例えば、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシルメチルセルロース、ポリビニルアルコール等を挙げることが出来る。分散剤としては、例えば、デキストリン、ポリアルコール等を挙げることが出来る。界面活性剤としては、例えば、脂肪酸石鹸を挙げることが出来る。
【0025】
次いで、上記坏土用材料を混合し混練して坏土を得て、その坏土を、押出し成形法、射出成形法、プレス成形法等で、ハニカム構造を有する形状に成形し、生のセラミック成形体を得る。連続成形が容易であり、例えばコージェライト結晶を配向させて低熱膨張性にすることが出来ることから、押出し成形法を採用することが好ましい。押出し成形法は、真空土練機、ラム式押出し成形機、2軸スクリュー式連続押出成形機等の装置を用いて行うことが可能である。
【0026】
次いで、生のセラミック成形体を乾燥させる。セラミック成形体の乾燥は、熱風乾燥、マイクロ波乾燥、誘電乾燥、減圧乾燥、真空乾燥、凍結乾燥等で行うことが出来る。全体を迅速且つ均一に乾燥することが出来ることから、熱風乾燥と、マイクロ波乾燥又は誘電乾燥と、を組み合わせて乾燥を行うことが好ましい。
【0027】
そして、乾燥させたセラミック成形体を焼成する。焼成は、通常、コージェライト化原料を用いたセラミック成形体では、大気雰囲気下、1410〜1440℃の温度で、3〜10時間焼成する。1100℃〜最高温度までの昇温速度は、140℃/時間以上280℃/時間以下とすることが好ましい。最高温度は、好ましくは1435℃を超えないようにし、最高温度保持時間は3時間以上が好ましい。
【0028】
本発明に係るハニカム構造体の製造方法において、タルクを含む原料の平均粒径は、ストークスの液相沈降法を測定原理としX線透過法により検出を行う(セディグラフ法の)X線透過式粒度分布測定装置(例えば、株式会社島津製作所製、セディグラフ5000−02型等)で測定することが出来る。粒子径の分布から、原料を構成する粒子の平均粒径を求めることが可能である。
【実施例】
【0029】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0030】
(実施例1)タルク(平均粒径:10μm)、カオリン(平均粒径:5μm)、アルミナ(平均粒径:5μm)、シリカ(平均粒径:5μm)を、タルク42質量%、カオリン20質量%、アルミナ25質量%、シリカ13質量%の割合で混合してコージェライト化原料を調製した。次いで、このコージェライト化原料100質量部に対して、バインダとしてヒドロキシプロピルメチルセルロース4質量部、界面活性剤としてラウリン酸カリ石鹸0.5質量部、そして水30質量部を混合し、混練して可塑性とし、この可塑性の原料を、真空土練機でシリンダー状の坏土を成形し、押出し成形機に投入してハニカム状に成形し、ハニカム成形体を得た。
【0031】
次いで、得られた成形体を、誘電乾燥の後、熱風乾燥で絶乾し、所定の寸法に両端面を切断した。そして、1430℃で、5時間、焼成して、φ144mm×L152mm、隔壁厚さ:165μm、セル数:400セル/inchのハニカム構造体を得た。得られたハニカム構造体について、中心軸方向の熱膨張係数、吸水率、平均細孔径、全細孔容積、曲げ強度、ヤング率、熱衝撃破壊抵抗係数を測定又は計算した。結果を、表1に示す。尚、平均細孔径、全細孔容積、曲げ強度、ヤング率の測定方法は、既述の通りであり、中心軸方向の熱膨張係数、吸水率、熱衝撃破壊抵抗係数は、後述する通りである。
【0032】
(実施例2〜4、比較例1〜3)
タルクの平均粒径を表1に示す大きさに変えたこと以外は、実施例1と同様にしてハニカム構造体を得た。得られたハニカム構造体について、実施例1と同様に測定又は計算を行った。結果を、表1に示す。
【0033】
【表1】

【0034】
表1の結果より、実施例1〜4によれば、全細孔容積が比較例1〜3と同等以上であり、曲げ強度/ヤング率比が大きく、且つ、熱衝撃破壊抵抗係数が大きく耐熱衝撃性に優れたハニカム構造体を得られることがわかる。
【0035】
[熱膨張係数(中心軸方向)]社団法人自動車技術会規格会議制定の自動車規格:自動車排気ガス浄化触媒用セラミックモノリス担体の試験方法(JASO M 505−87)に記載の方法に準拠して、測定した。
【0036】
[吸水率]先ず、ハニカム構造体の乾燥質量(M1)を測定する。そして、試料のセル方向を鉛直にして水の中に入れ、1分間浸漬して試料を水中から取り出し、軽く振って水切りする。その後、再び、試料のセル方向を鉛直にして水の中に入れ、1分間浸漬して試料を水中から取り出す。試料のセル方向を鉛直にしてコンベアに載せ、コンベアの進行方向に直角に往復運動するエアーノズルの下を通過させ、エアーにより余剰水を吹き飛ばした後に、試料の吸水質量(M2)を測定する。以上を行い、吸水率WABは、WAB=(M2−M1)/M1×100(質量%)で求めた。
【0037】
[熱衝撃破壊抵抗係数]曲げ強度/(ヤング率×熱膨張係数)で求めた。
【0038】
[平均粒径]タルク等の原料は、市販の粉体を粉砕、及び、篩にかけて所定の平均粒径に調整して、使用した。原料である各粒子の平均粒径は、株式会社島津製作所製、セディグラフ5000−02型、によって測定した。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明に係るハニカム構造体は、フィルタとして、自動車の排気ガス中の粒子状物質を捕集する用途に利用することが出来る。又、排気ガス中のNOx、CO及びHC等を浄化するための触媒を担持する触媒担体として利用することが可能である。特に、優れた耐熱衝撃性を必要とする環境において好適に利用することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明に係るハニカム構造体を模式的に示す斜視図である。
【図2】本発明に係るハニカム構造体において、試料切り出し位置を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0041】
1 ハニカム構造体、11 セル、12 隔壁、13 外周壁。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コージェライトを主結晶相とする材料からなり、平均細孔径が4μm以上10μm以下、全細孔容積が0.18cm/g以上0.22cm/g以下、ヤング率が4GPa以上6GPa以下であるハニカム構造体。
【請求項2】
曲げ強度が、2MPa以上3.5MPa以下である請求項1に記載のハニカム構造体。
【請求項3】
曲げ強度(MPa)/ヤング率(GPa)の比が、0.55〜0.60である請求項1又は2に記載のハニカム構造体。
【請求項4】
平均粒径が10μm以上30μm以下のタルクを含むコージェライト化原料を主原料とする坏土用材料を混合及び混練して坏土を得て、得られた坏土をハニカム形状に成形してハニカム成形体を得て、得られたハニカム成形体を乾燥させた後、焼成して請求項1〜3の何れか一項に記載のハニカム構造体を得るハニカム構造体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−67628(P2009−67628A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−237570(P2007−237570)
【出願日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】