説明

ハースロール用カーボン材料、ハースロール及びハースロールの使用方法

【課題】耐酸化性、耐摩耗性、耐ピックアップ性に優れたカーボン材料、該カーボン材料を用いたハースロール及びハースロールの使用方法を提供する。
【解決手段】焼成および黒鉛化処理が施されたカーボン材料であって、該カーボン材料中に存在する気孔の最大径を0.2mm以下、嵩比重を1.55〜2.00g/cm、黒鉛化度を0.5以上、ショア硬度Hsを40以上、70未満とし、さらに、不可避的不純物としてのFeを0.010質量%以下、アルカリ金属元素を0.010質量%以下としたことを特徴とするハースロール用カーボン材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼材の熱処理炉に使用するハースロール用として適したカーボン材料、該カーボン材料を用いたハースロール及び、ハースロールの使用方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鋼材の熱処理を行う熱処理炉では、これら鋼材(とくに鋼帯)の搬送(搬入、搬出も含む)を行うためのハースロールが炉内に設置されている。該ハースロールは高温雰囲気で長時間にわたり連続使用され、その間被熱処理材である鋼材と接触している。このため、ロール表面には、鋼材表面に生じた酸化物や鉄粉等がハースロール表面と反応して凝着し、さらにこれが堆積して、いわゆるピックアップを形成する。このようにハースロールにピックアップが発生すると、被熱処理材である鋼板に表面疵を発生させるため、鋼材の著しい品質低下を招いていた。また、このような品質低下を回避するために、ピックアップが発生すると、操業を中止して、ハースロールを取り替えていたので生産性を損なう原因となっていた。
【0003】
この問題を解決するために、炭素系の材料すなわちカーボン材料をロール表面に用いた技術が提案されている。例えば、特許文献1および特許文献2には、黒鉛質炭素材料を用いたいわゆるカーボンロールが開示されている。
【0004】
一方、カーボン材料を熱処理炉のハースロールとして用いる場合には、耐酸化性の確保も重要な事項である。耐酸化性を改善する手段として、特許文献3には、炭素系材料に、シリカ等で含浸処理を施したハースロールが開示されている。
【0005】
さらに、特許文献4には、炭素基材上にスラリー塗布および熱処理を施すことにより炭化ケイ素−炭素複合層を形成したロール胴部を有する熱処理用ハースロールが開示されている。
このカーボンロールは、炭素材料特有の上記特性や潤滑性を維持しつつ、炭化ケイ素のもつ耐酸化性、耐磨耗性をも兼備している。
【特許文献1】特開昭57−140377号公報
【特許文献2】特開昭57−137419号公報
【特許文献3】特開昭60−92427号公報
【特許文献4】特開2000−45037号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記のカーボンロールにおいても、長時間使用するとピックアップ疵が発生するので、ロール寿命を向上させるには改良の余地が残されている。
にもかかわらず、カーボンロールが開発されて以降、耐ピックアップ性を著しく改善させる改良は成功していない。
また、特許文献3や特許文献4に開示されているカーボンロールの耐酸化性、耐磨耗性の改善効果も持続性が限られていた。
【0007】
本発明は、上述した問題点に鑑みて、耐ピックアップ性を飛躍的に向上させて、従来のカーボンロールに比較してロール寿命を向上させることが可能なハースロール用カーボン材料、および該カーボン材料を用いたハースロールを提供することを目的とする。さらには、ピックアップを長時間発生させない熱処理を行うハースロールの使用方法を提供することをも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、カーボンロールにピックアップが発生する現象について鋭意調査した結果、以下の機構を解明した。
【0009】
従来のカーボン材料には大径の気孔が多いため、熱処理中に鋼板表面に形成された酸化物やカーボンロール表面から脱落したカーボン粒子が、当該気孔に異物として侵入する。この異物は熱処理中の鋼板と接触して、鋼板表面の酸化物を巻き込んで、異物はさらに成長していく。
【0010】
一方、従来のカーボンロールは軟質であるため、ロールのカーボン層が摩耗しても、ロール表面に侵入した酸化物等の異物はカーボンロール中に埋没し続ける。その結果として、異物がカーボンロールに埋没したまま成長を続けるのである。
【0011】
そして、本発明者らは、ハースロール用材料として用いられるカーボン材料中の気孔の最大径を小さくし、さらにカーボン材料の硬度を適正な範囲に設定することによって、ピックアップの発生を防止できることを知見した。
【0012】
一方、耐酸化性を確保するには、特許文献3に開示された技術のように、カーボンロールの表面から気孔中に耐酸化性を有する物質を含浸処理させる方法が考えられるが、気孔の最大径を小さくすると、カーボン材料が緻密となるために、ハースロールの表層部の浅い領域にしか含浸層が形成されないことがわかった。従って、ロール寿命の長期化を目的として、表層から十分深い位置まで含浸処理したハースロールを製造することは困難である。また、特許文献4に開示された技術は通常の含浸に比べれば耐酸化物層の増深が得られるが、今だ不充分である。
【0013】
そこで、更に検討を進めた結果、カーボンの出発原料中にSi炭化物、B炭化物、B窒化物、Si窒化物、Ti硼化物、Zr硼化物、Al酸化物、Si酸化物およびTi酸化物の一種または二種以上を含有させて、順次成形、焼成および黒鉛化処理を施されたカーボン材料は、耐ピックアップ性が飛躍的に向上すると共に、優れた耐酸化性を有することを知見した。
【0014】
本発明は上述した知見に基づき完成されたものであり、その要旨は以下のとおりである。
【0015】
(1)第一の発明は、焼成および黒鉛化処理が施されたカーボン材料であって、該カーボン材料中に存在する気孔の最大径を0.2mm以下、嵩比重を1.55〜2.00g/cm、黒鉛化度を0.5以上、ショア硬度Hsを40以上、70未満とし、さらに、不可避的不純物としてのFeを0.010質量%以下、アルカリ金属元素を0.010質量%以下としたことを特徴とするハースロール用カーボン材料である。
【0016】
(2)第二の発明は、さらに、Si炭化物、B炭化物、B窒化物、Si窒化物、Ti硼化物、Zr硼化物、Al酸化物、Si酸化物およびTi酸化物の一種または二種以上を合計で3〜50質量%含有することを特徴とする第一の発明に記載のハースロール用カーボン材料である。
【0017】
(3)第三の発明は、第一の発明または第二の発明に記載のカーボン材料を胴部に用いたことを特徴とするハースロールである。なお、ロールの胴部が全て当該カーボン材料である必要は無く、当該カーボン材料を少なくとも表面に有すれば足りる。
【0018】
(4)第四の発明は、第三の発明に記載のハースロールを、700℃以上の炉内雰囲気温度で使用することを特徴とするハースロールの使用方法である。
【発明の効果】
【0019】
本発明のハースロール用カーボン材料あるいは本発明のハースロールによれば、カーボン材料中の気孔の大きさを0.2mm以下とすることにより、脱落したカーボン粒子および鋼板からの酸化物がカーボン材料中に侵入することを防止し、ピックアップの起点の形成を抑制し、さらに、カーボン材料の高硬度化により、ピックアップの起点が形成したとしても、カーボン材料自体が摩耗しないので、ピックアップ起点が成長して、カーボン材料中に埋没することを防止できるので、耐ピックアップ性が飛躍的に向上する。
【0020】
さらには、カーボン材料中には、耐酸化性を有する炭化物、窒化物、硼化物、酸化物を有しているので、耐酸化性も十分に確保することが可能となる。
また、本発明のハースロールの使用方法によれば、長時間に渡りピックアップ疵が発生することがなく、また、酸化によるロールの消耗も抑制できるので、ハースロールの寿命を格段に向上させることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明を具体的に説明する。
1.カーボン材料について
本発明のカーボン材料は、通常、以下の手順で製造される。
炭素系原料、例えば天然黒鉛、カーボンブラック、無煙炭、コークス等を粉砕して、これを出発原料とする。
【0022】
この出発原料を、結合材であるタール、ピッチあるいは樹脂等と混合して、型込め圧密や押出し等の方法で成形する。その後、焼成工程、黒鉛化処理工程、あるいは場合によってはさらに、高純度化工程を経てカーボン材料(焼成・黒鉛化カーボン材料)となる。
焼成は公知の温度範囲、例えば約700〜1300℃で行えばよい。黒鉛化処理も公知の温度範囲、例えば約2500〜3000℃で行えばよい。
【0023】
なお、成形に先立ち、さらにSi炭化物、B炭化物、B窒化物、Si窒化物、Ti硼化物、Zr硼化物、Al酸化物、Si酸化物およびTi酸化物の一種または二種以上を合計で3〜50質量%添加し混合してもよい。
得られたカーボン材料において、残部はCおよび不可避的不純物である。重要な不純物については後述する。
【0024】
本発明のカーボン材料の特徴は、最終工程(黒鉛化処理工程あるいは高純度化工程)を経た後に、該カーボン材料中に存在する気孔の最大径が0.2mm以下、嵩比重が1.55〜2.00g/cm、黒鉛化度が0.5以上、ショア硬度Hsが40以上、70未満とし、さらに不可避的不純物としてのFeが0.010質量%以下、アルカリ金属元素が0.010質量%以下であることである。
【0025】
以下に各要件の限定理由について説明する。
【0026】
(a)気孔の最大径:0.2mm以下
カーボン材料中の気孔の最大径は、本発明において重要な要件である。気孔の最大径が0.2mm超えとなると、気孔がピックアップの起点となる確率が非常に高くなる。よって、気孔の最大径は0.2mm以下とするが、0.1mm以下がより好ましく、更には、0.05mm以下とするのがより好ましい。
【0027】
ここで、気孔の径は、カーボン材料の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察できる気孔について、その最も長い差し渡し径を意味するものとする。そして、本発明では、気孔の径を以下の方法で測定するものとする。SEMを用いて、2.5mm×3mmの視野を5視野以上観察し、観察される全ての気孔についてそれぞれ最も長い差し渡し径を測定する。その気孔の径の分布を求め、平均値より標準偏差の3倍(3σ)だけ高い値を最大径とする。
【0028】
図1は、本発明のカーボンロールに用いたカーボン材料のSEM観察による組織写真を、図2は従来のハースロールに用いられていたカーボン材料のSEM観察による組織写真を示す。従来のカーボン材料では、大きな気孔(写真中の黒い部分)が存在しているのに対し、本発明のカーボン材料では、気孔が微細となっていることがわかる。 なお、図1における気孔の最大径は0.19mmで、図2おいては0.46mmであった。
【0029】
なお、気孔の最大径を0.2mm以下とするには、上述した出発原料の最大粒子径を0.50mm以下とすれば良い。出発原料の最大粒子径の調整は、粉砕その後の篩い分けにより行うことができる。 さらに、後述するSi炭化物等の添加物の粒子径についても同様に、0.5mm以下とすることが良い。
【0030】
また、気孔の最大径を0.1mm以下とするためには、出発原料の最大粒子径は0.10mm以下と、また気孔の最大径を0.05mm以下とするためには、出発原料の最大粒子径は0.05mm以下とすることが好ましい。
【0031】
他方、出発原料の最大粒子径を0.02mm未満(気孔の最大径で0.01mm程度に対応)とすることは原料の準備、製造工程の管理コストが増大することから好ましくない。コストをさらに重視するのであれば、出発原料の最大粒子径を0.05mm以上としてもよい。
【0032】
(b)嵩比重:1.55〜2.00g/cm
本発明において、嵩比重を1.55g/cm以上としたのは、カーボンを緻密化してピックアップの起点となる気孔の数を減少させるためである。嵩比重が1.55g/cm未満では、多孔質となり、ピックアップの起点となる気孔の数が増大する。又、嵩比重が2.00g/cm超になると、衝撃値が低下し、カーボン材料をハースロールとして用いたときに、割損することがある。そのため、カーボン材料の嵩比重は1.55〜2.00g/cmとする。
嵩比重は、例えば出発原料の粒子径、焼成条件等に応じて成形の際の成形圧を制御することにより、所定の値に制御することができる。
【0033】
(c)黒鉛化度:0.5以上
本発明のカーボン材料は、黒鉛質炭素材料であり、黒鉛化処理後の黒鉛化度が0.5以上である必要がある。好ましくは0.7以上とする。黒鉛化度が0.5未満では、材料が軟化してカーボン材料の耐摩耗性が劣化し、ハースロールとしての寿命を十分確保できない。それだけでなく、気孔にピックアップの起点が生じると、その周辺のカーボン材料が摩耗して、ピックアップの成長速度が大きくなり、耐ピックアップ性が劣化する。さらには黒鉛化度が十分大きくないと酸化摩耗が生じ易くなるという問題もある。
【0034】
なお、カーボン材料は、炭素質と黒鉛質に分類されるが、本発明でいう黒鉛化度とは、カーボン材料中の黒鉛質の占める比率のことを意味する。本発明では、X線回析によって(002)面の層間隔d(002)を測定し、d(002)=3.354g+3.44(1−g)となるgの値を黒鉛化度とする。
なお、黒鉛化度は、主に黒鉛化処理工程の条件(処理温度、処理時間)で所定の値に制御することができる。
【0035】
(d)ショア硬度Hs:40以上、70未満
黒鉛化処理後のショア硬度Hsが40以上であれば、仮に気孔に酸化物、カーボン粒子等の異物が侵入して、ピックアップの起点が生じたとしても、その周囲のカーボンが十分な硬度を有しているためにカーボン材料の摩耗が進まず、またカーボン中に異物が埋没して行かないため、異物の成長を抑制できる。
【0036】
他方、ショア硬度Hsが70以上と硬すぎる場合には、一度、気孔中に異物が侵入してカーボン材料中に異物が食い込んでしまうと、この異物がカーボン材料から脱落することなく、カーボン材料中に存在しつづけることになり、かえって耐ピックアップ性が劣化する。従って、ショア硬度Hsは40以上、70未満とする。
カーボン材料の硬度は、例えば出発原料の粒子径等に応じて焼成条件(温度、時間等)を制御することにより、所定の値に制御することができる。なお、成形条件(成形方法や圧力等)をさらに調整してもよい。
【0037】
(e)Fe:0.010質量%以下、アルカリ金属元素:0.010質量%以下
カーボン材料中にFeや、アルカリ金属元素(Na等)が不純物として存在していると、これらが触媒となり酸化が促進されるので耐酸化性が低下する。したがって、各々の許容値を0.010質量%以下に低減するものとする。これらの元素の含有量を低減するには、純度の高い出発原料を用いればよい。なお、後述するSi炭化物等の添加物についても純度を管理することが好ましい。
この他、カーボン材料中のアルカリ土類金属(Ca、Mg等)も0.010質量%以下とすることが好ましい。
本発明のカーボン材料は耐酸化性も良好であるが、これをさらに改善するために下記の添加物を含有させてもよい。
【0038】
(f)Si炭化物、B炭化物、B窒化物、Si窒化物、Ti硼化物、Zr硼化物、Al酸化物、Si酸化物およびTi酸化物の一種または二種以上の合計添加量:3〜50質量%
Si炭化物、B炭化物、B窒化物、Si窒化物、Ti硼化物、Zr硼化物、Al酸化物、Si酸化物およびTi酸化物は、いずれも耐酸化性を有する物質であり、カーボン材料中に含有されることで、カーボン材料を高温雰囲気下で使用したときの酸化消耗を抑制する。
さらに、これらの物質は、硬質であるため、カーボン材料の硬質化にも寄与する。これらの含有量の合計が3質量%未満では、耐酸化性向上効果が不十分となる。一方、これらの含有量の合計が50質量%超えでは、著しく脆化してカーボンロールとしての靱性が確保できなくなる。従って、Si炭化物、B炭化物、B窒化物、Si窒化物、Ti硼化物、Zr硼化物、Al酸化物、Si酸化物およびTi酸化物の一種または二種以上の合計添加量を3〜50質量%とする。
なお、上記の中でもB窒化物、B炭化物、Si炭化物およびSi窒化物はとくに、ガラス質の耐酸化被膜を表面及び気孔によく形成するので、効果が高く好ましい。
【0039】
各添加物の含有量は、出発原料に配合する量で調整できる。含有量の確認は、ICP(inductively coupled plasma)質量分析、ICP発光分析、EPMA(electron probe micro-analysis)、EDX(energy dispersive X-ray analysis)などの方法に依ればよい。
【0040】
なお、従来の含浸技術等においては、耐酸化性物質を有する領域が表面付近に限定されるており、高温の炉内での使用で耐酸化性物質が昇華してしまうとその効果が失われるために、耐酸化性の持続性に問題があった。本発明においてはそのような問題が無く、極めて長時間、耐酸化性を維持することができる。
【0041】
2.ハースロールについて
上述したカーボン材料を、熱処理炉のハースロールとして用いた場合には、ピックアップの発生が極端に減少し、ハースロールの寿命が延長する。
本発明のハースロールは、上述したカーボン材料からなる胴部を有する熱処理炉のハースロールである。ここで、胴部の軸まで当該カーボンロールとする必要は無く、ある程度の厚みで胴部の表面を覆っていれば充分である。厚みとしては用途にもよるが20mm以上とする事が好ましい。
【0042】
作業性の観点から好適なハースロールの製造方法としては、上述したカーボン材料をスリーブ形状に削りだし、ロール軸となる鉄芯にはめ込むことで、上述のカーボン材料からなる胴部を有するハースロールとすることができる。あるいは、カーボン材料を加工することにより、軸付ロール形状としたハースロールとしてもよい。製造方法はこれらに限定されない。
【0043】
3.ハースロールの使用方法
上述した本発明のハースロールは、鋼板の熱処理炉のハースロールとして用いるのに好適である。すなわち、鋼板の表面に付着した酸化物がハースロールに付着してピックアップとなることを長時間に渡り抑制できるため、ハースロールの寿命が飛躍的に向上する。
【0044】
なお、ハースロールの使用温度としては、950℃以上の高温でも十分に耐ピックアップ性は向上する。寿命が十分に向上して、本発明の効果が特に発現するのは、700〜1100℃の温度範囲である。ここで、ハースロールの使用温度とは、ハースロール表面の温度を意味するが、通常は、ハースロールを適用する熱処理炉内の温度(炉内温度)あるいは雰囲気温度と実質的に同一である。
【0045】
本発明は使用雰囲気(炉内雰囲気)に関わり無く効果を発揮する。したがって、鋼板の熱処理に通常用いられる雰囲気、例えばH及び/またはNを主成分とし(あるいは含み)、これにHOを含む雰囲気等においても、良好な効果が得られる。
【0046】
【実施例1】
【0047】
カーボン原料として最大粒子径が0.30mmのコークスを出発原料とし、CIP(Cold Isostatic Press)成形を行い、焼成および黒鉛化処理を施して黒鉛化度0.72、ショア硬度Hs40、気孔の最大径0.20mm、嵩比重1.78g/cmのカーボン材料を得た。尚、不可避的不純物としてのFeの含有量は15ppm、アルカリ金属元素の含有量は19ppm(主にNaおよびK、以下同様)であった。そして、このカーボン材料をロール胴部に用いたカーボンロールを制作し、該カーボンロールを薄鋼板の焼鈍炉のハースロールとして使用した。焼鈍炉の炉内温度は1000℃とし、炉内雰囲気はNとした。そして、この焼鈍炉で365日使用したが、ピックアップの発生は皆無であり、また、異常な酸化消耗、割損も発生しなかった。
【0048】
なお、ショア硬度はJIS B 7727(1993年版)に準拠したD形試験機で測定し、測定方法はJIS Z 2246(1992年版)に従った。以下の実施例においても同様である。
【実施例2】
【0049】
カーボン原料として最大粒子径が0.10mmのコークスを出発原料とし用いて、CIP成形を行い、焼成および黒鉛化処理を施して黒鉛化度0.76、硬度Hs55、気孔の最大径0.10mm、嵩比重1.80g/cmのカーボン材料を得た。また、不可避的不純物としてのFeの含有量は5ppm、アルカリ金属元素の含有量は16ppmであった。そして、このカーボン材料をロール胴部に用いたカーボンロールを制作し、該カーボンロールを薄鋼板の焼鈍炉のハースロールとして使用した。焼鈍炉は実施例1と同様、炉内温度は1000℃とし、炉内雰囲気はNとした。そして、この焼鈍炉で365日使用したが、ピックアップの発生は皆無であり、また、異常な酸化消耗、割損も発生しなかった。
【実施例3】
【0050】
カーボン原料として最大粒子径が0.05mmのコークスを出発原料として用い、CIP成形を行い、焼成および黒鉛化処理を施して黒鉛化度0.80、硬度Hs55、気孔の最大径0.05mm、嵩比重1.85g/cmのカーボン材料を得た。不可避的不純物としてのFeの含有量は10ppm、アルカリ金属の含有量は15ppmであった。そして、このカーボン材料をロール胴部に用いたカーボンロールを制作し、該カーボンロールを薄鋼板の焼鈍炉のハースロールとして使用した。焼鈍炉の炉内温度は1000℃とし、炉内雰囲気はNとした。そして、この焼鈍炉で365日使用したが、ピックアップの発生は皆無であり、また、異常な酸化消耗、割損も発生しなかった。
【実施例4】
【0051】
カーボン原料として最大粒子径が0.30mmのコークスを出発原料とし、これにBC(最大粒子径0.15mm)、SiC(最大粒子径0.26mm)を添加して、CIP成形を行い、焼成および黒鉛化処理を施して黒鉛化度0.73、硬度Hs40、気孔の最大径0.20mm、嵩比重1.82g/cmのカーボン材料を得た。ここでいう黒鉛化度とは添加物(BC,SiC)を除くカーボン中の黒鉛質の比率である。黒鉛化処理後のBCの含有量は、10質量%、SiCの含有量は8質量%とした。また、不可避的不純物としてのFeの含有量は16ppm、アルカリ金属元素の含有量は13ppmであった。
【0052】
そして、このカーボン材料をロール胴部に用いたカーボンロールを制作した。このカーボンロールを薄鋼板の焼鈍炉のハースロールとして用いた。焼鈍炉の炉内温度は1000℃とし、炉内雰囲気はNとした。そして、この焼鈍炉で730日使用したが、ピックアップの発生は皆無であり、また、異常な酸化消耗、割損も発生しなかった。
【実施例5】
【0053】
カーボン原料として最大粒子径が0.10mmのコークスを出発原料とし、これにZrB(最大粒子径0.30mm)、SiC(最大粒子径0.15mm)を添加して、CIP成形を行い、焼成および黒鉛化処理を施して黒鉛化度0.70、硬度Hs55、気孔の最大径0.10mm、嵩比重1.86g/cmのカーボン材料を得た。ここでいう黒鉛化度とは添加物(ZrB、SiC)を除くカーボン中の黒鉛質の比率である。黒鉛化処理後のZrBの含有量は、10質量%、SiCの含有量は30質量%とした。また、不可避的不純物としてのFeの含有量は30ppm、アルカリ金属元素の含有量は26ppmであった。
【0054】
そして、このカーボン材料をロール胴部に用いたカーボンロールを制作した。このカーボンロールを薄鋼板の焼鈍炉のハースロールとして用いた。焼鈍炉は実施例1と同様、炉内温度は1000℃とし、炉内雰囲気はNとした。そして、この焼鈍炉で730日使用したが、ピックアップの発生は皆無であり、また、異常な酸化消耗、割損も発生しなかった。
【実施例6】
【0055】
カーボン原料として最大粒子径が0.30mmのコークスを出発原料とし、これにTiB(最大粒子径0.30mm)を添加したものを用いて、CIP成形を行い、焼成および黒鉛化処理を施して黒鉛化度0.76、硬度Hs40、気孔の最大径0.20mm、嵩比重1.78g/cmのカーボン材料を得た。黒鉛化処理後のTiBの含有量は、15質量%とした。また、不可避的不純物としてのFeの含有量は60ppm、アルカリ金属元素の含有量は30ppmであった。
【0056】
そして、このカーボン材料をロール胴部に用いたカーボンロールを制作した。このカーボンロールを薄鋼板の焼鈍炉のハースロールとして用いた。 焼鈍炉の炉内温度は1000℃とし、炉内雰囲気はNとした。そして、この焼鈍炉で730日使用したが、ピックアップの発生は皆無であり、また、異常な酸化消耗、割損も発生しなかった。
【実施例7】
【0057】
カーボン原料として最大粒子径が0.30mmのコークスを出発原料とし、これにZrB(最大粒子径0.18mm)を添加したものを用いて、CIP成形を行い、焼成および黒鉛化処理を施して黒鉛化度0.74、硬度Hs40、気孔の最大径0.20mm、嵩比重1.80g/cmのカーボン材料を得た。黒鉛化処理後のZrBの含有量は、20質量%とした。また、不可避的不純物としてのFeの含有量は45ppm、アルカリ金属元素の含有量は16ppmであった。
【0058】
そして、このカーボン材料をロール胴部に用いたカーボンロールを制作した。このカーボンロールを薄鋼板の焼鈍炉のハースロールとして用いた。焼鈍炉の炉内温度は1000℃とし、炉内雰囲気はNとした。そして、この焼鈍炉で730日使用したが、ピックアップの発生は皆無であり、また、異常な酸化消耗、割損も発生しなかった。
【実施例8】
【0059】
カーボン原料として最大粒子径が0.30mmのコークスを出発原料とし、これにAl(最大粒子径0.20mm)を添加したものを用いて、CIP成形を行い、焼成および黒鉛化処理を施して黒鉛化度0.72、硬度Hs40、気孔の最大径0.20mm、嵩比重1.82g/cmのカーボン材料を得た。黒鉛化処理後のAlの含有量は、35質量%とした。また、不可避的不純物としてのFeの含有量は35ppm、アルカリ金属元素の含有量は60ppmであった。
【0060】
そして、このカーボン材料をロール胴部に用いたカーボンロールを制作した。このカーボンロールを薄鋼板の焼鈍炉のハースロールとして用いた。焼鈍炉の炉内温度は1000℃とし、炉内雰囲気はNとした。そして、この焼鈍炉で730日使用したが、ピックアップの発生は皆無であり、また、異常な酸化消耗、割損も発生しなかった。
【実施例9】
【0061】
カーボン原料として最大粒子径が0.30mmのコークスを出発原料とし、これにSiO(最大粒子径0.10mm)を添加したものを用いて、型込め成形を行い、焼成および黒鉛化処理を施して黒鉛化度0.81、硬度Hs40、気孔の最大径0.20mm、嵩比重1.86g/cmのカーボン材料を得た。黒鉛化処理後のSiOの含有量は、40質量%とした。また、不可避的不純物としてのFeの含有量は50ppm、アルカリ金属元素の含有量は15ppmであった。
【0062】
そして、このカーボン材料をロール胴部に用いたカーボンロールを制作した。このカーボンロールを薄鋼板の焼鈍炉のハースロールとして用いた。焼鈍炉の炉内温度は1000℃とし、炉内雰囲気はNとした。そして、この焼鈍炉で730日使用したが、ピックアップの発生は皆無であり、また、異常な酸化消耗、割損も発生しなかった。
【比較例1】
【0063】
出発原料として最大粒子径が0.6mmのコークスを用いて、CIP成形を行い、焼成および黒鉛化処理を施して黒鉛化度0.7、硬度Hs55、気孔の最大径0.25mm、嵩比重1.70g/cmのカーボン材料を得た。不可避的不純物としてのFeの含有量は13ppm、アルカリ金属の含有量は13ppmであった。
【0064】
そして、このカーボン材料をロール胴部に用いたカーボンロールを制作し、該カーボンロールを薄鋼板の焼鈍炉のハースロールとして用いた。焼鈍炉は実施例1と同様、炉内温度は1000℃とし、炉内雰囲気はNとした。そして、この焼鈍炉で90日使用したところ、ピックアップの発生により、これ以上の連続使用が困難な状態となった。
【比較例2】
【0065】
出発原料として最大粒子径が0.13mmのコークスを用いて、CIP成形を行い、焼成および黒鉛化処理を施して黒鉛化度0.78、硬度Hs75、気孔の最大径0.10mm、嵩比重1.79g/cmのカーボン材料を得た。不可避的不純物としてのFeの含有量は14ppm、アルカリ金属の含有量は18ppmであった。
【0066】
そして、このカーボン材料をロール胴部に用いたカーボンロールを制作し、該カーボンロールを薄鋼板の焼鈍炉のハースロールとして用いた。焼鈍炉は実施例1と同様、炉内温度は1000℃とし、炉内雰囲気はNとした。そして、この焼鈍炉で90日使用したところ、ピックアップの発生により、これ以上の連続使用が困難な状態となった。
【比較例3】
【0067】
出発原料として最大粒子径が1.0mmのコークスを用いて、押出成形を行い、焼成および黒鉛化処理を施して黒鉛化度0.68、硬度Hs20、気孔の最大径0.50mm、嵩比重1.62g/cmのカーボン材料を得た。不可避的不純物としてのFeの含有量は13ppm、アルカリ金属の含有量は18ppmであった。
【0068】
そして、このカーボン材料をロール胴部に用いたカーボンロールを制作し、該カーボンロールを薄鋼板の焼鈍炉のハースロールとして用いた。焼鈍炉は実施例1と同様、炉内温度は1000℃とし、炉内雰囲気はNとした。そして、この焼鈍炉で30日使用したところ、ピックアップの発生により、これ以上の連続使用が困難な状態となった。
【比較例4】
【0069】
出発原料として最大粒子径1.0mmのコークスを用いて、押出成形を行い、焼成および黒鉛化処理を施して黒鉛化度0.73、硬度Hs20、気孔の最大径0.50mm、嵩比重1.68g/cmのカーボン材料を得た。不可避的不純物としてのFeの含有量は52ppm、アルカリ金属元素の含有量は30ppmであった。
【0070】
そして、このカーボン材料をロール胴部に用いたカーボンロールを制作した。このカーボンロールを薄鋼板の焼鈍炉のハースロールとして用いた。焼鈍炉は実施例1と同様、炉内温度は1000℃とし、炉内雰囲気はNとした。そして、この焼鈍炉で使用したところ、30日目にはピックアップが発生し、580日目には酸化消耗による減肉およびピックアップ発生が激しく、これ以上の連続使用が困難な状態となった。
【比較例5】
【0071】
出発原料として最大粒子径0.10mmのコークスを用いて、型込め成形を行い、焼成および黒鉛化処理を施して黒鉛化度0.76、硬度Hs55、気孔の最大径0.10mm、嵩比重1.78g/cmのカーボン材料を得た。不可避的不純物としてのFeの含有量は51ppm、アルカリ金属元素の含有量は31ppmであった。
【0072】
そして、このカーボン材料をロール胴部に用いたカーボンロールを制作した。このカーボンロールを薄鋼板の焼鈍炉のハースロールとして用いた。焼鈍炉は実施例1と同様、炉内温度は1000℃とし、炉内雰囲気はNとした。そして、この焼鈍炉で580日使用したところ、酸化消耗による減肉が激しく、これ以上の連続使用が困難な状態となった。
【実施例10】
【0073】
表1に記載の出発原料(最大粒子径は0.025〜0.70mmの間で適宜調整した)に、必要に応じて耐酸化性添加物(最大粒子径は0.050〜0.50mmの間で適宜調整した)を添付し、CIP成形を行った後、焼成および黒鉛化処理を施してカーボン材料を得た。得られたカーボン材料の気孔の最大径、ショア硬度Hs、黒鉛化度、嵩比重、Fe・アルカリ金属元素(主にNaおよびK)および耐酸化性添加物の含有量をそれぞれ表1に示す。なお、試料No.20については成形を押出し成形で行った。
【0074】
各カーボン材料をロール胴部に用いたカーボンロールを制作し、該カーボンロールを薄鋼板の焼鈍炉のハースロールとして使用した。なお、カーボンロールの制作にあたっては、厚み25mmのスリーブを作成して耐熱鋼製のロール軸にはめ込んだが、No.18についてはカーボン材料そのものをロール型に加工した。
焼鈍炉では通常の雰囲気を用い、炉内温度は1000℃とした。
【0075】
各ハースロールの耐ピックアップ性および耐酸化性は、下記のように評価した。
【0076】
耐ピックアップ性の指標:
1=使用日数90日未満にてピックアップ発生、
2=同90日以上 180日未満にてピックアップ発生、
3=同180日以上 380日未満にてピックアップ発生、
4=同380日以上にてピックアップ発生。
【0077】
耐酸化性の指標:380日使用後重量/使用前重量で下記のように評価
(途中でピックアップが発生しても評価のため380日まで継続使用)
1=80%未満、
2=80%以上 90%未満、
3=90%以上 95%未満、
4=95%以上。
【0078】
【表1】

【0079】
本発明のハースロール用カーボン材料あるいは本発明のハースロールによれば、脱落したカーボン粒子および鋼板からの酸化物がカーボン材料中に侵入することを防止し、ピックアップの起点の形成を抑制する。さらに、カーボン材料の高硬度化により、ピックアップの起点が形成したとしても、カーボン材料自体が摩耗しないので、ピックアップ起点が成長して、カーボン材料中に埋没することを防止できる。したがって、耐ピックアップ性が飛躍的に向上する。
【0080】
さらには、耐酸化性添加物をカーボン材料中に含有させることにより、耐酸化性も十分に確保することが可能となる。
また、本発明のハースロールの使用方法によれば、長時間に渡りピックアップ疵が発生することがなく、また、必要に応じて酸化によるロールの消耗も抑制できるので、ハースロールの寿命を格段に向上させることが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明のハースロールは、長時間に渡りピックアップ疵が発生することがなく、また、酸化によるロールの消耗も抑制できるので、ハースロールの寿命を格段に向上させることが可能となる。
特に、鋼板の熱処理でHおよびNを主成分とし微量のHOを含む700℃以上(とりわけ950℃以上)の高温雰囲気中における焼鈍条件に好適に使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】本発明のカーボンロールのSEM観察による組織写真である。
【図2】従来のカーボンロールのSEM観察による組織写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
焼成および黒鉛化処理が施されたカーボン材料であって、該カーボン材料中に存在する気孔の最大径を0.2mm以下、嵩比重を1.55〜2.00g/cm、黒鉛化度を0.5以上、ショア硬度Hsを40以上、70未満とし、さらに、不可避的不純物としてのFeを0.010質量%以下、アルカリ金属元素を0.010質量%以下としたことを特徴とするハースロール用カーボン材料。
【請求項2】
さらに、Si炭化物、B炭化物、B窒化物、Si窒化物、Ti硼化物、Zr硼化物、Al酸化物、Si酸化物およびTi酸化物の一種または二種以上を合計で3〜50質量%含有することを特徴とする請求項1に記載のハースロール用カーボン材料。
【請求項3】
請求項1または2に記載のカーボン材料をロール胴部に用いたことを特徴とするハースロール。
【請求項4】
請求項3に記載のハースロールを、700℃以上の炉内雰囲気温度で使用することを特徴とするハースロールの使用方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−232660(P2006−232660A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−16168(P2006−16168)
【出願日】平成18年1月25日(2006.1.25)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】