説明

ハードコートフィルムの製造方法

【課題】本発明のハードコートフィルムの製造方法は、耐光試験後の密着性、耐擦傷性、鉛筆硬度等の塗膜硬度、塗工時のレベリング性に優れたハードコートフィルムを提供できる。このような特性に優れたハードコートフィルムを用いた画像表示装置は、従来両立し難かった、信頼性と擦傷性、鉛筆硬度等の塗膜硬度に優れる。
【解決手段】トリアセチルセルロース透明基板上に、ハードコート層を有してなるハードコートフィルムの製造方法であって、
前記ハードコート層が、少なくとも3つ以上のエチレン性不飽和二重結合を有する化合物(A)、
光重合開始剤(B)および
一般式[1]または一般式[2]で表されるカーボネート系溶剤(C)よりなる電離放射線硬化型組成物を、トリアセチルセルロース透明基板上に塗工後、電離放射線にて硬化して形成されたハードコートフィルムの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テレビ、コンピューター、カーナビゲーションシステム、車載用計器盤、携帯電話等の画像表示装置として用いられる、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、ELディスプレイ、リアプロジェクションディスプレイ、CRTディスプレイ等各種ディスプレイにおいて、ディスプレイ表面を保護する目的で設けるハードコートフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、CRT、PDP、LCD、ELD等の画像表示装置、特にPDP、LCD、ELDなどの表面がフラットな画像表示装置に用いられるハードコートフィルムは、光学特性の他にも、耐擦傷性、鉛筆硬度、耐薬品性、耐候性等が要求されるため、通常、熱硬化型樹脂、あるいは紫外線硬化型等の電離放射線硬化樹脂を透明基板上に直接、あるいはプライマー層を介して4〜20μm程度の薄い塗膜を形成して製造される。
【0003】
透明基材としてトリアセチルセルロースフィルム(以下、TACフィルムという)を使用した場合、ハードコート層との密着性が問題となっていた。即ち、室内向けテレビのみならず車載向けカーナビゲーション用ディスプレイ等はハードコートフィルムが使用されているが、車の内部で温度と湿度の大きな変化が繰り返される。TACフィルムは、ハードコート層を形成する樹脂との接着性が悪い傾向があるが、更に熱膨張率が高く、吸湿性が大きいために、温度湿度の変化で寸法変化し易い。そのため、TACフィルムとハードコート層と間に内部応力が生じ、接着性が更に低下し、耐久性に問題を有することがあった。
また、車の内部でディスプレイに直接太陽光が当たるため、ハードコート層の耐光性が悪いと、黄変したり基材との密着性が低下する問題があった。
【0004】
TACフィルムとハードコート層との接着性を得るために、従来、ハードコート層塗工液の溶剤組成を、TACフィルムを溶解する酢酸エチル、メチルエチルケトン等の溶剤を用いてTACフィルムの表面を多少溶解し、TACフィルムとハードコート層との接着性を向上させるという手法が知られている。
また、同様にTACフィルムとハードコート層との接着性を得るために、TACフィルムを溶解する一種以上の溶剤と、該TACフィルムを溶解しない一種以上の溶剤とから構成される溶剤を用いた塗工液を使用するという手法が、特許文献1に記載されている(特許文献1:特開2002−169001号公報参照)。ここで、TACフィルムを溶解する一種以上の溶剤としては、ジブチルエーテル、ジメトキシメタン、ジメトキシエタン、プロピレンオキシド、1,3−ジオキソラン、1,4−ジオキサン、テトラヒドロフラン、アセトン、酢酸エチル、シクロヘキサノン、ジアセトンアルコール、酢酸メチル、メチレンクロライド、メチルエチルケトン等が挙げられ、TACフィルムを溶解しない一種以上の溶剤としては、メタノール、1−プロパノール、2−オクタン、メチルイソブチルケトン等が挙げられている。また、TACフィルムを溶解する溶剤の総量(A)とTACフィルムを溶解しない溶剤の総量(B)の重量割合(A/B)は、5/95〜50/50であることが記載されている。
【0005】
更に、TACフィルムとハードコート層との接着性を得るために、TACフィルムに塗工する塗料が、少なくともメチルイソブチルケトンを含有していることを特徴とするフィルム塗工用塗料が、特許文献2に記載されている(特許文献2:特開平11−209717号公報参照)。
【0006】
また同様に、TACフィルム基材とハードコート層との接着性を得るために、TACフィルム基材上に少なくとも1層の中間層を塗設した後、ハードコート層を塗設して光学フィルムを製造する方法であって、該中間層を設けるための塗布組成物が、基材を膨潤または溶解し得る溶剤を少なくとも1種含むことを特徴とする光学フィルムの製造方法が、特許文献3に記載されている(特許文献3:特開2005−70744号公報参照)。
【0007】
しかしながら、実際に温度湿度の変化のある信頼性試験(温度60℃、湿度60%の雰囲気中に500時間等)や耐光性試験(サンシャイン型カーボンアーク耐光性試験機にて500時間等)実施後の密着性を良好にするには、ハードコート層塗工液の溶剤組成として、酢酸メチル、ジブチルエーテル、ジメトキシメタン、ジメトキシエタン、プロピレンオキシド、1,3−ジオキソラン、1,4−ジオキサン、テトラヒドロフラン、メチレンクロライド等のエステル系溶剤やエーテル系溶剤、ハロゲン化炭化水素系溶剤のTACフィルムを短時間で膨潤・溶解する溶剤を使用しなくてはならない事があった。しかしながら、前記エステル系溶剤やエーテル系溶剤、ハロゲン化炭化水素系溶剤は、沸点が80℃以下のものが多く、これらの溶剤を含む塗工液をTACフィルムに塗工する場合、例えばグラビアコーター等で塗工する時に、塗工液の乾燥が早いために、グラビア版上で塗工液が乾燥し版詰まりし易くなり、塗工面に筋やかすれ、ムラが生じ、レベリング不足となるという問題があった。また、沸点が80℃以上のエーテル系溶剤として1,4−ジオキサンが挙げられるが、毒性に問題があった。
【0008】
更には、TACフィルムを短時間で膨潤・溶解する溶剤を多用すると、TACフィルムが膨潤・溶解しすぎてフィルム表面が波打つためにハードコート層の平面性に劣り、反射像をみると細かい波打ち状のムラが認められた。更には、TACフィルムが膨潤・溶解しすぎるとハードコート樹脂がTACフィルムと混在し入り込み、実際のハードコート層の膜厚が低下するため、鉛筆硬度が低下するという問題があった。
【0009】
また、TACフィルムに塗工する塗料が、少なくともメチルイソブチルケトンを含むものは、温度湿度の変化のある信頼性試験や耐光性試験後の密着性が不充分であった。更に、中間層に基材を膨潤または溶解し得る溶剤を少なくとも1種含む塗布組成物を使用したハードコートフィルムは、塗工工程が増えるために生産性、コストにおいて劣ることがある。
【0010】
【特許文献1】特開2002−169001号公報
【特許文献2】特開平11−209717号公報
【特許文献3】特開2005−70744号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】

本発明の目的は、温度湿度の変化のある信頼性試験や耐光性試験後の密着性と平面性に優れ、塗工時に筋、かすれ、ムラの少ないハードコートフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意検討した結果、トリアセチルセルロース透明基板上に、ハードコート性を有するエチレン性不飽和二重結合を有する化合物と特定の溶剤を組み合わせた電離放射線硬化型組成物を硬化させてなるハードコート層が、これらの欠点を解消し得ることを見出し、本発明を完成した。
【0013】
即ち、本発明は、トリアセチルセルロース透明基板上に、ハードコート層を有してなるハードコートフィルムの製造方法であって、
前記ハードコート層が、少なくとも3つ以上のエチレン性不飽和二重結合を有する化合物(A)、
光重合開始剤(B)および
一般式[1]または一般式[2]で表されるカーボネート系溶剤(C)よりなる電離放射線硬化型組成物を、トリアセチルセルロース透明基板上に塗工後、電離放射線にて硬化して形成されたハードコートフィルムの製造方法に関する。

一般式[1]
【化1】


一般式[2]
【化2】


[式中R、Rは、それぞれ独立してC〜Cのアルキル基、Rは、C〜Cのアルキレン基を表す。]

【0014】
また、本発明は、一般式[1]または一般式[2]で表されるカーボネート系溶剤が、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネートである上記記載のハードコートフィルムの製造方法に関する。
【0015】
また、本発明は、上記ハードコートフィルムの製造方法で製造されてなるハードコートフィルムに関する。
【発明の効果】
【0016】
本発明のハードコートフィルムは、従来両立が困難であった温度湿度の変化のある信頼性試験や耐光性試験後の密着性と、鉛筆硬度、平面性、塗工適性に優れている。このような特性に優れたフィルムを用いた画像表示装置は、従来両立し難かった耐久性試験、耐引っ掻き性に優れ、表面筋、かすれ、ムラも少ない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明におけるトリアセチルセルロース透明基板としては、例えば溶液流延法によって作製されているTACフィルムが好ましく用いられる。例えば、ベルトやドラムなどの支持体上にトリアセチルセルロースを含む溶液(ドープともいう)を流延し、ある程度乾燥したところで支持体から剥離し、更に乾燥させてTACフィルムを得る方法がとられる。トリアセチルセルロースとしては、セルロースの低級脂肪酸エステルであり、数平均分子量(Mn)で80000〜200000のものが用いられ、100000〜200000が好ましく、150000〜200000がさらに好ましい。トリアセチルセルロースを含む溶液には、微粒子、可塑剤、紫外線吸収剤、寸法安定性改良剤等の各種添加剤を含むこともできる。
【0018】
トリアセチルセルロース透明基板の厚さは、適宜に決定しうるが、一般には強度や取り扱い等の作業性、薄層性等の点より10〜500μm程度である。特に20〜300μmが好ましく、30〜200μmがより好ましい。
【0019】
本発明における、少なくとも3つ以上のエチレン性不飽和二重結合を有する化合物(A)は、硬化皮膜の耐摩耗性、強靱性、密着性を発現させるために用いられる。具体的な例を挙げると、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、EO変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、PO変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート、カプロラクトン変性トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、アルキル変性ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、アルキル変性ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、アルキル変性ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、1,2,3−シクロヘキサンテトラ(メタ)アクリレート等の多価アルコールと(メタ)アクリル酸とのエステル化合物;
ポリウレタンポリ(メタ)アクリレート、ポリエステルポリ(メタ)アクリレート、ポリエーテルポリ(メタ)アクリレート、ポリアクリルポリ(メタ)アクリレート、ポリアルキッドポリ(メタ)アクリレート、ポリエポキシポリ(メタ)アクリレート、ポリスピロアセタールポリ(メタ)アクリレート、ポリブタジエンポリ(メタ)アクリレート、ポリチオールポリエンポリ(メタ)アクリレート、ポリシリコンポリ(メタ)アクリレート等の多官能化合物のポリ(メタ)アクリレート化合物;
多価アルコールと多塩基酸及び(メタ)アクリル酸とから合成されるエステル化合物、例えばトリメチロールエタン/コハク酸/アクリル酸=2/1/4モルから合成されるエステル化合物等が挙げられる。
【0020】
分子内に少なくとも3つ以上のエチレン性不飽和二重結合を有する化合物(A)のうち、塗膜強度、耐擦傷性の観点より、少なくとも6つの官能基を有するポリウレタンポリ(メタ)アクリレート、ポリエポキシポリ(メタ)アクリレート等のポリ(メタ)アクリレート類、分子内に4個以上のアクリロイル基を有する多官能のアクリレート類が好適に使用することができる。
【0021】
ポリエポキシポリ(メタ)アクリレートは、エポキシ樹脂のエポキシ基を(メタ)アクリル酸でエステル化し官能基を(メタ)アクリロイル基としたものであり、ノボラック型エポキシ樹脂への(メタ)アクリル酸付加物等がある。
【0022】
ポリウレタンポリ(メタ)アクリレートは、例えば、ジイソシアネートと水酸基を有する(メタ)アクリレート類と反応させて得られるもの、ポリオールとポリイソシアネートとをイソシアネート基過剰の条件下に反応させてなるイソシアネート基含有ウレタンプレポリマーを、水酸基を有する(メタ)アクリレート類と反応させて得られるものがある。あるいは、ポリオールとポリイソシアネートとを水酸基過剰の条件下に反応させてなる水酸基含有ウレタンプレポリマーを、イソシアネート基を有する(メタ)アクリレート類と反応させて得ることもできる。
ポリオールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ブチレングリコール、1,6−ヘキサンジオール、3−メチル−1,5−ペンタングリコール、ネオペンチルグリコール、ヘキサントリオール、トリメリロールプロパン、ポリテトラメチレングリコール、アジピン酸とエチレングリコールとの縮重合物等が挙げられる。
ポリイソシアネートとしては、トリレンジイソシアネート、キシレンジイソシアネート、水素添加キシレンジイソシアネート、ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート、水素添加ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート、ノルボルナンージイソシアネートメチル、イソホロンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート等が挙げられる。
水酸基をもつ(メタ)アクリレート類としては、2−ヒドロキシエチルアクリレート,2−ヒドロキシプロピルアクリテート、4−ヒドロキシブチルアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート等が挙げられる。
イソシアネート基を有する(メタ)アクリレート類としては、(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアネート、(メタ)アクリロイルオキシプロピルイソシアネート、(メタ)アクリロイルイソシアネート等が挙げられる。
【0023】
これら少なくとも3つ以上のエチレン性不飽和二重結合有する化合物(A)は、単独または2種以上の混合物が好ましい。
【0024】
本発明における、光重合開始剤(B)としては、例えばアセトフェノン類、ベンゾイン類、ベンゾフェノン類、ホスフィンオキシド類、ケタール類、アントラキノン類、チオキサントン類等が挙げられる。具体的には、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインブチルエーテル、ジエトキシアセトフェノン、ゲンジルジメチルケタール、2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオフェノン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、ベンゾフェノン、2,4,6−トリメチルベンゾインジフェニルホスフィンオキシド、ミヒラーズケトン、N,N−ジメチルアミノ安息香酸イソアミル、2−クロロチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン等が挙げられ、これらの光重合開始剤は2種以上を適宜併用することもできる。
【0025】
本発明で用いられる一般式[1]または一般式[2]について説明する。
式中R、Rは、それぞれ独立にC〜Cのアルキル基、Rは、C〜Cのアルキレン基を表す。
〜Cのアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基が挙げられる。具体的に、たとえば、ジメチルカーボーネート、ジエチルカーボネート、ジ−n−プロピルカーボーネート、ジイソプロピルカーボネート、非対称の例としては、メチルエチルカーボネート、メチルn−プロピルカーボネート、エチルn−プロピルカーボネートである。
〜Cのアルキレン基としては、エチレン基、イソプロピレン基が挙げられる。具体的には、たとえば、炭酸エチレン、炭酸プロピレンである。

【0026】
一般式[1]または一般式[2]で表されるカーボネート系溶剤(C)は、トリアセチルセルロース透明基板上にハードコート層を形成させる場合、温度湿度の変化のある信頼性試験や耐光性試験後の密着性とハードコート層の平面性の両立を図るために使用される。つまり、トリアセチルセルロース透明基材を短時間で膨潤・溶解する溶剤であり、耐光性試験後の密着性を良好にするとともに、TACフィルムに塗工する場合、例えばグラビアコーター、マイクログラビアコーター等で塗工する時に、塗工経時にてグラビア版上で塗工液が乾燥し版詰まりする事も無く、塗工面に筋やかすれが生じず、レベリング性が良好となる。特に単層流延法によって作成されたTACフィルムは、複数層共流延法と比較し、フィルム表面の平滑性が劣る傾向があり、防眩層をウエット塗工した際に生じるTACフィルムの平面性不良起因の筋状の塗工ムラ等が発生し易いが、沸点が80℃以上、好ましくは85℃以上の溶剤を使用すると、平面性不良起因の筋状の塗工ムラ等が改善できる傾向があり、塗工適性上優位である。
一般式[1]または一般式[2]で表されるカルボネート系溶剤(C)は、トリアセチルセルロース透明基材を短時間で膨潤・溶解し、且つ沸点が85℃以上であるため、耐光試験後の密着性と塗工適性を同時に満たすものである。
一般式[1]または一般式[2]で表されるカーボネート系溶剤(C)のうち、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネートが、乾燥性、コスト等の点より好ましい。
【0027】
更には、塗工時の乾燥性、更なるレベリング性向上等を考慮し、一般式[1]または一般式[2]で表されるカルボネート系溶剤(C)以外の有機溶剤を、密着性、耐光性試験後の密着性、塗膜硬度、塗工時のレベリング性が低下しない範囲で使用できる。係る有機溶剤としては、例えばジブチルエーテル、ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、プロピレンオキシド、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキソラン、1,3,5−トリオキサン、テトラヒドロフラン、アニソール、フェネトール、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、ジプロピルケトン、ジイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン、蟻酸エチル、蟻酸プロピル、蟻酸ペンチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、γ−プチロラクトン、2−メトキシ酢酸メチル、2−エトキシ酢酸メチル、2−エトキシ酢酸エチル、2−エトキシプロピオン酸エチル、2−メトキシエタノール、2−プロポキシエタノール、2−ブトキシエタノール、1,2−ジアセトキシアセトン、アセチルアセトン、ジアセトンアルコール、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル等メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、シクロヘキシルアルコール、酢酸イソブチル、メチルイソブチルケトン、2−オクタノン、2−ペンタノン、2−ヘキサノン、エチレングリコールエチルエーテル、エチレングリコールイソプロピルエーテル、エチレングリコールブチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテル、エチルカルビトール、ブチルカルビトール、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン等が挙げられ、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0028】
電離放射線硬化型組成物をトリアセチルセルロース基材に形成する方法としては、電離放射線硬化型組成物をバーコーティング、ブレードコーティング、スピンコーティング、リバースコーティング、ダイティング、スプレーコーティング、ロールコーティング、グラビアコーティング、マイクログラビアコーティング、リップコーティング、エアーナイフコーティング、ディッピング法等の塗工方法で透明基材に塗工した後、必要に応じ溶剤を乾燥させ、更に電離放射線を照射することにより、塗工した電離放射線硬化型組成物を架橋硬化させることによって形成される。前記電離放射線としては、キセノンランプ、低圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、メタルハライドランプ、カーボンアーク灯、タングステンランプ等の光源から発せられる紫外線あるいは、通常20〜2000KeVのコックロフワルトン型、バンデグラフ型、共振変圧型、絶縁コア変圧器型、直線型、ダイナミトロン型、高周波型等の電子線加速器から取り出される電子線、α線、β線、γ線等を用いることができる。このようにして形成されるハードコート層の膜厚は特に限定されないが、通常1〜20μm、好ましくは5〜15μmの厚みとする。
【0029】
また、前記ハードコート層の表面には、画面表示のコントラストの改善や反射防止機能を付与する方法として、前記ハードコート層の屈折率よりも低い屈折率の低屈折率層を設けることもできる。これら低屈折率層には例えばポリシロキサン構造を有するものが用いられ、好ましくはフッ素含有ポリシロキサン構造を有するものである。このような低屈折率層は、たとえばフッ素含有アルコキシシランにより形成することができる。低屈折率層の厚さは0.05〜0.15μmとするのが好ましい。低屈折率層は適宜な方法にてハードコート層の表面に形成することができる。形成方法としては、ハードコート層の形成と同様の方法を使用できる。
【0030】
また、前記ハードコートフィルムには、光学素子を接着することができる。光学素子としては、偏光板、位相差板、楕円偏光板、光学補償付き偏光板等が挙げられ、これらは積層体として用いることができる。光学素子の接着は、接着に応じてアクリル系、ゴム系、シリコーン系等の粘着剤やホットメルト系接着剤などの透明性や耐候性等に優れる適宜な接着層を用いることができる。
【0031】
偏光板としては、ポリビニルアルコール系フィルム、部分ホルマール化ポリビニルアルコール系フィルム、エチレン・酢酸ビニル共重合体系部分ケン化フィルム等の親水性高分子フィルムにヨウ素や染料等を吸着させて延伸したもの、ポリビニルアルコールの脱水処理物やポリ塩化ビニルの脱塩酸処理物等の偏向フィルムが挙げられる。位相差板としては、前記透明基板で例示したポリマーフィルムの一軸または二軸延伸フィルムや液晶ポリマーフィルム等が挙げられる。位相差板は、2層以上の延伸フィルムから形成されていてもよい。楕円偏光板、光学補償付き偏光板は、偏光板と位相差板を積層することにより形成しうる。楕円偏光板、光学補償付き偏光板は、偏光板側の面に防眩層を形成している。
【実施例】
【0032】

以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれら具体例のみに限定されるものではない。なお、例中[部][%]とあるのは、それぞれ[重量部][重量%]を示す。
【0033】
[配合例1]
脂肪族イソシアネートからなる、アクリロイル基の数が6個のウレタンアクリレート化合物である紫光UV7605B(日本合成化学社製)100部を、化学式(2)で示されるジメチルカーボネート100部に溶解、光重合開始剤(イルガキュア184,チバガイギー社製)を5部加え撹拌混合しハードコート塗布液(1)を調製した。
【0034】
[配合例2]
脂肪族イソシアネートからなる、アクリロイル基の数が6個のウレタンアクリレート化合物である紫光UV7605B(日本合成化学社製)100部を、化学式(2)で示されるジメチルカーボネート75部およびメチルエチルケトン25部に溶解、光重合開始剤(イルガキュア184,チバガイギー社製)を5部加え撹拌混合しハードコート塗布液(2)を調製した。
[配合例3]
配合例1で使用したウレタンアクリレートである紫光UV7605B100部を、トルエン100部に溶解し、光重合開始剤(イルガキュア184,チバガイギー社製)を5部加え撹拌混合しハードコート塗布液(3)を調製した。
【0035】
[配合例4]
配合例1で使用したウレタンアクリレートである紫光UV7605B100部を、酢酸メチル100部に溶解し、光重合開始剤(イルガキュア184,チバガイギー社製)を5部加え撹拌混合しハードコート塗布液(4)を調製した。
【0036】
[配合例5]
配合例1で使用したウレタンアクリレートである紫光UV7605B100部を、メチルエチルケトン100部に溶解し、光重合開始剤(イルガキュア184,チバガイギー社製)を5部加え撹拌混合しハードコート塗布液(5)を調製した。
【0037】
[配合例6]
配合例1で使用したウレタンアクリレートである紫光UV7605B100部を、1,3−ジオキソラン100部に溶解し、光重合開始剤(イルガキュア184,チバガイギー社製)を5部加え撹拌混合しハードコート塗布液(6)を調製した。
【0038】
[実施例1]
厚さ80μmのトリアセチルセルロースフィルム(富士写真フィルム社製)に配合例1のハードコート塗布液(1)をバーコーターを用いて塗布し、70℃−1分で乾燥後させた。その後窒素パージによって0.3%以下酸素濃度雰囲気にて、高圧水銀ランプを用いて紫外線を照射量400mJ/cm2で照射して塗布層を硬化させ、厚さ8μmのハードコート層を形成した。得られたハードコートフィルムの評価結果を表1に示した。
また、厚さ80μmのトリアセチルセルロースフィルム(富士写真フィルム社製)にハードコート塗布液(1)を乾燥装置、紫外線硬化装置を備えたマイクログラビアコーター(康井精機製)を用いて、塗工速度10m/分で塗工、80℃乾燥後、高圧水銀ランプを用いて紫外線を照射量400mJ/cm2で照射して塗布層を硬化させ、厚さ7μmのハードコート層を形成した。得られたハードコートフィルムの表面レベリング性の評価結果を表1に示した。
【0039】
(1)ヘイズ:ヘイズメーター300A(東京電色社製)を用いてヘイズ値を
測定。
(2)全光線透過率:ヘイズメーター300A(東京電色社製)を用いて全光線透過率を測定。
(3)鉛筆硬度:JIS K5400による。
(4)密着性試験:JIS K5400の碁盤目テープ法(間隔1mm)による。
(5)耐光性試験後の密着性試験:サンシャインカーボンウエザーメーター(スガ試験機社製、型式:S80)にて、温度63℃、湿度45%の雰囲気中に500時間の条件にて耐光性試験を実施後、JIS K5400の碁盤目テープ法(間隔1mm)により、密着性試験を実施。
(6)耐擦傷性:スチールウール#0000を用い、500g/10往復評価
○ : 良好
△ : やや劣る
× : 劣る
(7)レベリング性:マイクログラビアコーターにて塗工したハードコートフィルムから、30cmX50cmの大きさの試料片を切り出し試料台に固定し、ハードコート表面の筋、凸凹、むらを目視判定して評価した。
○:塗工面に筋、凸凹、むらが無く均一
△:塗工面にレベリング不良によりむら、凸凹がやや見られる
×:塗工面にレベリング不良によりむら、凸凹、筋が多く見られる
[実施例2]
以下、実施例1と同様にハードコート塗布液(2)を塗工硬化させ、ハードコート層を形成した。得られたハードコートフィルムの評価結果を表1に示した。
[比較例1〜4]
実施例1と同様にハードコート塗布液(3)〜(6)を塗工硬化させ、ハードコート層を形成した。得られたハードコートフィルムの評価結果を表1に示した。
【0040】
【表1】

【0041】
表1に示される結果から以下のことが明らかである。実施例1〜2の本発明で特定されるハードコートフィルムは、耐光試験後の密着性が良好であり、かつ鉛筆硬度、耐擦傷性を同時に満たすと共に、マイクログラビアコーターで塗工したときのレベリング性も良好で、むら、凹凸、筋が見られない。
【0042】
一方、比較例1は、トリアセチルセルロース透明基板を溶解しない溶剤であるトルエンを使用しているため、マイクログラビアコーターで塗工したときのレベリング性も良好で、ヘイズむら・筋が見られないが、耐光試験後の密着性が不良である。
比較例2は、トリアセチルセルロース透明基板を溶解する酢酸メチルを使用しているため耐光試験後の密着性は良好であるが、溶剤の沸点が58℃と低くマイクログラビアコーターで塗工したときのレベリング性が不良で、むら、凸凹、筋が見られる。
比較例3は、トリアセチルセルロース透明基板を溶解するメチルエチルケトンを使用しているが、トリアセチルセルロース透明基板の溶解性が不十分なため、耐光試験後の密着性は十分ではなく、且つ溶剤の沸点が79℃と低くマイクログラビアコーターで塗工したときのレベリング性がやや不良で、筋は見られないが、凸凹がやや見られる。
比較例4は、トリアセチルセルロース透明基板を溶解する1,3−ジオキソランを使用しているが、トリアセチルセルロース透明基板を短時間で溶解性しすぎるため、ハードコート樹脂がトリアセチルセルロース透明基板と混在し入り込み、ハードコート層の膜厚が低下し、鉛筆硬度が低下する。また、溶剤の沸点が76℃と低くマイクログラビアコーターで塗工したときのレベリング性がやや不良で、筋は見られないが、凸凹がやや見られる。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明のハードコートフィルムよりなる画像表示装置は、表示面に傷が付きにくく、耐光性試験等における信頼性に優れるとともに、塗工時のレベリング性も良好である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
トリアセチルセルロース透明基板上に、ハードコート層を有してなるハードコートフィルムの製造方法であって、
前記ハードコート層が、少なくとも3つ以上のエチレン性不飽和二重結合を有する化合物(A)、
光重合開始剤(B)および
一般式[1]または一般式[2]で表されるカーボネート系溶剤(C)よりなる電離放射線硬化型組成物を、トリアセチルセルロース透明基板上に塗工後、電離放射線にて硬化して形成されたハードコートフィルムの製造方法。

一般式[1]
【化1】


一般式[2]
【化2】


[式中R、Rは、それぞれ独立してC〜Cのアルキル基、Rは、C〜Cのアルキレン基を表す。]

【請求項2】
一般式[1]または一般式[2]で表されるカーボネート系溶剤が、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネートである請求項1記載のハードコートフィルムの製造方法。
【請求項3】
請求項1または2記載のハードコートフィルムの製造方法で製造されてなるハードコートフィルム。

【公開番号】特開2007−268420(P2007−268420A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−97489(P2006−97489)
【出願日】平成18年3月31日(2006.3.31)
【出願人】(000222118)東洋インキ製造株式会社 (2,229)
【Fターム(参考)】