説明

ハードコートフィルム

【課題】 表面硬度が高く、指紋等の汚れが付着しても目立ちにくく、しかも指紋等の汚れを容易に除去できるハードコートフィルムを提供する。
【解決手段】 本発明のハードコートフィルムは、透明基材フィルムの少なくとも片面にハードコート層を有するハードコートフィルムであって、前記ハードコート層が、アクリル系モノマー又はオリゴマー(A)と、該アクリル系モノマー又はオリゴマー(A)100重量部に対して0.025〜5重量部のラジカル重合性基を有する撥水・親油性樹脂(B)と、ラジカル重合開始剤(C)とを含むラジカル硬化性組成物を硬化して得られる層であり、該ハードコート層表面の鉛筆硬度が2H以上であることを特徴とする。アクリル系モノマー又はオリゴマー(A)は、少なくとも多官能(メタ)アクリレートを含むのが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハードコートフィルムに関する。より詳しくは、液晶表示装置(LCD)、プラズマディスプレイパネル(PDP)、有機ELディスプレイ、フィールドエミッションディスプレイ(FED)、陰極管表示装置(CRT)などのディスプレイ、タッチパネル等の表面を保護するために用いられるハードコートフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置(LCD)、プラズマディスプレイパネル(PDP)等の画像表示装置においては、プラスチック製のディスプレイ表面の物理強度を高めるため、該ディスプレイ表面にハードコート層を設けることが広く行われている。しかし、従来のハードコート層は、表面に人の指紋(皮脂)、汗、化粧品などの汚れが付着しやすく、製品の美観を損ねたり、視認性や操作性に支障をきたすことがあった。また、一旦付着した指紋等の汚れは拭き取り等の方法では容易に除去できないという問題があった。
【0003】
このような問題を解決する手段として、(1)表面エネルギーの低いパーフルオロアルキル基を有するポリマーを塗装し、表面に撥水・撥油性を付与する方法、(2)同じく表面エネルギーの低いポリジメチルシロキサン骨格を有するポリマーを塗装し、表面に撥水・撥油性を付与する方法、(3)表面に微細な凹凸を設け、撥水・撥油性をさらに向上させるとともに、接触面積を減らすことによって汚れを付きにくくする方法が知られている。しかし、これらの方法では、塗膜が撥油性であるため、付着した皮脂、指紋等の油分をはじいてしまい、かえって汚れが目立つという問題がある。
【0004】
また、上記以外の方法として、(4)表面を超親水化することにより、汚れを付着しにくくする方法、(5)前記の撥水・撥油基とともに、特定の親水基を導入したポリマーを塗装して、汚れの除去性を改善した方法がある。しかし、上記(4)の方法は、汚れは付着しにくくなるものの、一旦付着した汚れが逆にとりにくくなるという欠点を有する。また、(5)の方法は汚れが目立つという欠点を有する。
【0005】
さらに、これらの方法とは別の発想から、(6)表面を撥水・親油化することにより、皮脂成分とのなじみをよくし、付着しても目立たなくする方法が提案されている。例えば、特許文献1には、基材にシロキサン結合を介してステアリン酸エステル基等が結合している汚れ目立ち防止被膜が開示されている。しかし、この被膜は表面の耐傷つき性や耐久性が十分でなく、また塗膜の形成に煩雑な操作を必要とする。特許文献2には、炭素数12以上のアルキル基等を撥水性基として有する(メタ)アクリレートを共重合成分として含む(メタ)アクリル系共重合体を主成分とする耐汚染性付与剤、及びこの耐汚染性付与剤から形成された塗膜を表面に有する耐汚染性物品が提案されている。しかし、この耐汚染性物品は、汚れ除去性の維持性に劣る。なお、前記耐汚染性付与剤のみでは硬度の低い塗膜しか得られない。特許文献3には、炭素数10以上の脂肪族又は脂環式アルキル基の重合体末端にラジカル性二重結合を有するモノマーと、硬化性官能基を有するモノマーと、その他のモノマーとを反応させて得られるグラフト重合体を主成分とする塗料組成物が開示されている。しかし、この塗料組成物において、前記硬化性官能基は基本的にカチオン硬化性官能基であるため、反応速度が遅く、また、UV硬化終了時も経時的に反応が進むという欠点を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−353808号公報
【特許文献2】特開2004−359834号公報
【特許文献3】特開2009−249584号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、表面硬度が高く、且つ指紋等の汚れを容易に除去できるハードコートフィルムを提供することにある。
本発明の他の目的は、さらに、汚れ除去性を長期間維持できるハードコートフィルムを提供することにある。
本発明の別の目的は、さらに、指紋等の汚れが付着しても目立ちにくいハードコートフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、ハードコートフィルムのハードコート層を、アクリル系モノマー又はオリゴマーと、特定量のラジカル重合性基を有する撥水・親油性樹脂と、ラジカル重合開始剤とからなるラジカル硬化性組成物を硬化することにより形成すると、表面硬度が高く、指紋等の汚れが付着しても目立たず、該汚れを簡単に拭き取ることができるという優れた効果が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、透明基材フィルムの少なくとも片面にハードコート層を有するハードコートフィルムであって、前記ハードコート層が、アクリル系モノマー又はオリゴマー(A)と、該アクリル系モノマー又はオリゴマー(A)の総量100重量部に対して0.025〜5重量部のラジカル重合性基を有する撥水・親油性樹脂(B)と、ラジカル重合開始剤(C)とを含むラジカル硬化性組成物を硬化して得られる層であり、該ハードコート層表面の鉛筆硬度が2H以上であることを特徴とするハードコートフィルムを提供する。
【0010】
前記アクリル系モノマー又はオリゴマー(A)としては、少なくとも多官能(メタ)アクリレートを含んでいるのが好ましい。
【0011】
前記ラジカル重合性基を有する撥水・親油性樹脂(B)としては、ラジカル重合性基を有するとともに、側鎖に炭素数10以上の非芳香族炭化水素基を有するアクリル系ポリマーであるのが好ましい。
【0012】
前記透明基材フィルムとして、ポリエステル系、アクリル系又はポリオレフィン系フィルムなどを使用できる。
【0013】
ハードコート層表面の鉛筆硬度は3H以上であるのが好ましい。
【0014】
ハードコートフィルムのヘイズ値は1.8%以下であるのが好ましい。
【0015】
ハードコートフィルムはディスプレイ又はタッチパネル表面保護用ハードコートフィルムとして用いられる。
【発明の効果】
【0016】
本発明のハードコートフィルムによれば、ハードコート層が、アクリル系モノマー又はオリゴマーと、特定量のラジカル重合性基を有する撥水・親油性樹脂とを含む組成物を硬化して形成されるので、表面硬度が高く、且つ指紋等の汚れが付着しても容易に除去できる。また、ハードコート層が親油性を示すので、指紋等の汚れが付着しても目立ちにくいという利点がある。さらに、ラジカル重合性基を有する撥水・親油性樹脂とアクリル系モノマー又はオリゴマーとが反応して架橋構造が形成されるためか、汚れ除去性を長期にわたって維持できる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明のハードコートフィルムは、透明基材フィルムの少なくとも片面にハードコード層を有している。
【0018】
[透明基材フィルム]
透明基材フィルムとしては、透明性と適度の機械的強度を有するフィルムであれば特に限定されない。該フィルムを構成する樹脂として、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル系樹脂;ポリメチルメタクリレート等のアクリル系樹脂;ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂;環状オレフィン系樹脂;ポリカーボネート;セルローストリアセテート、セルロースジアセテート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート等のセルロース系樹脂;ポリアミド;アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂(ABS樹脂)、アクリロニトリル−スチレン樹脂(AS樹脂)等のポリスチレン系樹脂;ポリアリレート;ポリスルホン;ポリエーテルスルホン;ポリエーテルケトン;ポリエーテルケトンイミド;ポリイミド;ポリ塩化ビニリデン;ポリビニルアルコール;エチレン−ビニルアルコール共重合樹脂などが挙げられる。透明基材フィルムとしては、なかでも、透明性が高く、可撓性に優れている点で、ポリエステル系樹脂フィルム、アクリル系樹脂フィルム又はポリオレフィン系樹脂フィルムが好ましい。
【0019】
透明基材フィルムの可視光の透過率は、例えば、60%以上が好ましく、さらに好ましくは80%以上であり、特に好ましくは90%以上である。
【0020】
透明基材フィルムの厚みは、用途によっても異なるが、一般には20〜300μm、好ましくは50〜188μmである。
【0021】
[ハードコート層]
本発明におけるハードコート層は、アクリル系モノマー又はオリゴマー(A)と、該アクリル系モノマー又はオリゴマー(A)の総量100重量部に対して0.025〜5重量部のラジカル重合性基を有する撥水・親油性樹脂(B)と、ラジカル重合開始剤(C)とを含むラジカル硬化性組成物を硬化して得られる層である。
【0022】
[アクリル系モノマー又はオリゴマー(A)]
アクリル系モノマー又はオリゴマー(A)としては、単官能のアクリル系モノマー又はオリゴマー、多官能のアクリル系モノマー又はオリゴマーの何れであってもよく、それぞれ1又は2以上を組み合わせて使用できる。
【0023】
単官能のアクリル系モノマーとして、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、t−アミル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、テトラデシル(メタ)アクリレート、ヘキサメチル(メタ)アクリレート、オクタデシル(メタ)アクリレート等のC1-20アルキル(メタ)アクリレート;2−メトキシエチル(メタ)アクリレート、2−エトキシエチル(メタ)アクリレート、3−メトキシプロピル(メタ)アクリレート、3−メトキシブチル(メタ)アクリレート等のアルコキシアルキル(メタ)アクリレート;シクロペンチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、トリシクロ[5.2.1.02,6]デカンモノメタノール(メタ)アクリレート、アダマンチル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート等の脂環式炭化水素基を有する(メタ)アクリレート;フェニル(メタ)アクリレート等のアリール(メタ)アクリレート;ベンジル(メタ)アクリレート、2−フェニルエチル(メタ)アクリレート等のアラルキル(メタ)アクリレート;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等の水酸基含有(メタ)アクリレート;(メタ)アクリル酸等のカルボキシル基含有モノマー;アクリルアミド、メタクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロイルモルホリン等のアミド基含有モノマー;(メタ)アクリル酸アミノエチル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸t−ブチルアミノエチル等のアミノ基含有モノマー;グリシジル(メタ)アクリレート等のグリシジル基含有モノマーなどが挙げられる。
【0024】
多官能のアクリル系モノマーとしては、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、トリシクロ[5.2.1.02,6]デカンジメタノールジ(メタ)アクリレート等の2官能の(メタ)アクリレート;トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、グリセリントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート等の3官能の(メタ)アクリレート;ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンヘキサ(メタ)アクリレート等の4官能以上の(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0025】
アクリル系オリゴマーとしては、例えば、エポキシ(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレートなどが挙げられる。アクリル系オリゴマーの分子量は、通常1000未満である。
【0026】
アクリル系モノマー又はオリゴマー(A)は、オルガノポリシロキサンを有するモノマー及びフッ化アルキル基を有するモノマーを含まないのが好ましい。
【0027】
アクリル系モノマー又はオリゴマー(A)としては、少なくとも多官能(メタ)アクリレート(多官能のアクリル系モノマー)を含むのが好ましい。多官能(メタ)アクリレートの中でも、3官能以上の(メタ)アクリレートがより好ましく、4官能以上の(メタ)アクリレートがさらに好ましく、6官能以上の(メタ)アクリレートが特に好ましい。多官能(メタ)アクリレート[例えば、2官能以上の(メタ)アクリレート、好ましくは4官能以上の(メタ)アクリレート、さらに好ましくは6官能以上の(メタ)アクリレート]の使用量は、アクリル系モノマー又はオリゴマー(A)全体の50重量%以上が好ましく、より好ましくは70重量%以上、特に好ましくは85重量%以上である。
【0028】
[ラジカル重合性基を有する撥水・親油性樹脂(B)]
ラジカル重合性基を有する撥水・親油性樹脂(B)において、ラジカル重合性基としては、(メタ)アクリロイル基[(メタ)アクリロイルオキシ基を含む]、ビニル基などが挙げられる。これらの中でも、(メタ)アクリロイルオキシ基が好ましい。
【0029】
ラジカル重合性基を有する撥水・親油性樹脂(B)としては、分子内に、撥水・親油性部位と少なくとも1つのラジカル重合性基を有していればよい。撥水・親油性部位としては、例えば、側鎖に炭素数10以上の非芳香族炭化水素基を有するアクリルポリマー鎖部が挙げられる。このような側鎖に炭素数10以上の非芳香族炭化水素基を有するアクリルポリマー鎖部を有する樹脂はアクリル系ポリマーに含まれる。また、ラジカル重合性基を有する撥水・親油性樹脂(B)において、ラジカル重合性基は主鎖(例えば、アクリルポリマー鎖等)の側鎖部位に位置していてもよく、主鎖の末端部位に位置していてもよい。
【0030】
前記炭素数10以上の非芳香族炭化水素基としては、例えば、デシル、イソデシル、ウンデシル、ドデシル、トリデシル、テトラデシル、ペンタデシル、ヘキサデシル、ヘプタデシル、オクタデシル、ノナデシル、イコシル、ヘンイコシル、ドコシル基等の炭素数10以上の直鎖状又は分岐鎖状アルキル基;シクロデシル、シクロドデシル、アダマンチル、イソボルニル、トリシクロ[5.2.1.02,6]デシル、トリシクロ[6.2.1.02,7]ウンデシル、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデシル基等の炭素数10以上の脂環式炭化水素基;前記脂環式炭化水素基に、メチレン基、エチレン基等の炭素数1〜4程度のアルキレン基が1又は2以上結合した基等が挙げられる。非芳香族炭化水素基の炭素数は、例えば10〜24、好ましくは10〜20、さらに好ましくは10〜18程度である。
【0031】
側鎖に炭素数10以上の非芳香族炭化水素基を有するアクリルポリマー鎖(及び該ポリマー鎖を有するアクリル系ポリマー)は、炭素数10以上の非芳香族炭化水素基を有する(メタ)アクリレートを少なくとも含むモノマー成分を重合することにより得ることができる。
【0032】
炭素数10以上の非芳香族炭化水素基を有する(メタ)アクリレートの代表的な例として、例えば、デシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、テトラデシル(メタ)アクリレート、ヘキサデシル(メタ)アクリレート、オクタデシル(メタ)アクリレート等のアルキル部分の炭素数が10以上(例えば10〜24、好ましくは10〜20、さらに好ましくは10〜18)のアルキル(メタ)アクリレート;アダマンチル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、トリシクロ[5.2.1.02,6]デカンモノメタノール(メタ)アクリレート等の、炭素数が10以上(例えば10〜24、好ましくは10〜20、さらに好ましくは10〜18)の脂環式炭化水素基を有する(メタ)アクリレートなどが挙げられる。これらは単独で又は2以上を組み合わせて使用できる。
【0033】
前記モノマー成分中には、炭素数10以上の非芳香族炭化水素基を有する(メタ)アクリレート以外のモノマーが含まれていてもよい。
【0034】
炭素数10以上の非芳香族炭化水素基を有する(メタ)アクリレート以外のモノマーとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、t−アミル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート等のC1-9アルキル(メタ)アクリレート;2−メトキシエチル(メタ)アクリレート、2−エトキシエチル(メタ)アクリレート、3−メトキシプロピル(メタ)アクリレート、3−メトキシブチル(メタ)アクリレート等のアルコキシアルキル(メタ)アクリレート;シクロペンチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート等の炭素数3〜9の脂環式炭化水素基を有する(メタ)アクリレート;フェニル(メタ)アクリレート等のアリール(メタ)アクリレート;ベンジル(メタ)アクリレート、2−フェニルエチル(メタ)アクリレート等のアラルキル(メタ)アクリレート;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート[=1,2−プロピレングリコール−1−(メタ)アクリレート]、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等の水酸基含有(メタ)アクリレート;(メタ)アクリル酸等のカルボキシル基含有モノマー;アクリルアミド、メタクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロイルモルホリン等のアミド基含有モノマー;(メタ)アクリル酸アミノエチル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸t−ブチルアミノエチル等のアミノ基含有モノマー;グリシジル(メタ)アクリレート[=2,3−エポキシプロピル(メタ)アクリレート]等のエポキシ基(グリシジル基等)含有モノマーなどが挙げられる。
【0035】
また、炭素数10以上の非芳香族炭化水素基を有する(メタ)アクリレート以外のモノマーとして、多官能のアクリル系モノマーを用いることができる。多官能のアクリル系モノマーとして、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、トリシクロ[5.2.1.02,6]デカンジメタノールジ(メタ)アクリレート等の2官能の(メタ)アクリレート;トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、グリセリントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート等の3官能の(メタ)アクリレート;ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンヘキサ(メタ)アクリレート等の4官能以上の(メタ)アクリレート;エポキシ(メタ)アクリレート;ポリエステル(メタ)アクリレート;ウレタン(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0036】
上記の側鎖に炭素数10以上の非芳香族炭化水素基を有するアクリル系ポリマーにおいて、分子内にラジカル重合性基を導入する方法としては特に限定されない。
【0037】
例えば、アクリルポリマー鎖の側鎖にラジカル重合性基を導入する方法としては、(i)炭素数10以上の非芳香族炭化水素基を有する(メタ)アクリレートと多官能のアクリル系モノマーを共重合させ、分子内に未反応の(メタ)アクリロイル基を有するポリマーを得る方法、(ii)炭素数10以上の非芳香族炭化水素基を有する(メタ)アクリレートと、反応性官能基xを有するラジカル重合性モノマーとを共重合させた後、得られたポリマーの側鎖の反応性官能基xを、前記反応性官能基xと反応しうる官能基yを有するラジカル重合性モノマーと反応させる方法が挙げられる。(i)と(ii)を併用してもよい。
【0038】
上記(i)において、多官能のアクリル系モノマーとしては上記例示のものを使用できる。上記(ii)において、反応性官能基xを有するラジカル重合性モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸等の官能基xとしてカルボキシル基を有するラジカル重合性モノマー;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等の官能基xとして水酸基を有するラジカル重合性モノマー;3−(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン等の官能基xとしてアルコキシシリル基を有するラジカル重合性モノマーなどが挙げられる。また、上記(ii)において、反応性官能基xと反応しうる官能基yを有するラジカル重合性モノマーとしては、官能基xがカルボキシル基の場合は、3,4−エポキシシクロへキシルメチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート[=2,3−エポキシプロピル(メタ)アクリレート]等の官能基yとしてエポキシ基を有するラジカル重合性モノマー;官能基xが水酸基の場合は、無水マレイン酸、(メタ)アクリロイルイソシアネートなどの官能基yとして酸無水物基又はイソシアナート基を有するラジカル重合性モノマー;官能基xがアルコキシシリル基の場合は、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン等の官能基yとしてヒドロキシル基又はアルコキシシリル基を有するラジカル重合性モノマーなどが挙げられる。
【0039】
前記共重合は、アゾビスイソブチロニトリル等の慣用のラジカル重合開始剤を用い、常法により行うことができる。例えば、有機溶媒中、30〜120℃程度の温度で重合を行うことができる。有機溶媒としては、例えば、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素;ヘキサン、オクタン等の脂肪族炭化水素;シクロヘキサン等の脂環式炭化水素;酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル等のエステル;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノール等のアルコール;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトンなどが挙げられる。これらの有機溶媒は単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。上記(ii)において、共重合により得られたポリマーと、官能基xと反応しうる官能基yを有するラジカル重合性モノマーとの反応は、溶媒中又は溶媒の非存在下、例えば60〜140℃程度の温度で実施される。溶媒としては、前記の有機溶媒などが挙げられる。
【0040】
得られるポリマーの数平均分子量(スチレン換算)は、例えば、500〜50000、好ましくは800〜25000程度である。ポリマーの数平均分子量が小さすぎると、塗膜としたときの撥水・親油性が低下しやすくなる。また、ポリマーの数平均分子量が大きすぎると溶媒に対する溶解性が低下しやすくなる。
【0041】
こうして得られるラジカル重合性基を有する撥水・親油性樹脂(B)は、反応後の反応液をそのままアクリル系モノマー又はオリゴマー(A)及びラジカル重合開始剤(C)との配合に使用してもよいし、必要に応じて、沈殿精製等により単離精製して用いることもできる。
【0042】
ラジカル重合性基を有するとともに、側鎖に炭素数10以上の非芳香族炭化水素基を有するアクリル系ポリマーにおいて、該ポリマーを構成するモノマー成分のうち炭素数10以上の非芳香族炭化水素基を有する(メタ)アクリレートとしては、アルキル部分の炭素数が10〜16のアルキル(メタ)アクリレートが好ましく、なかでも、ドデシル(メタ)アクリレートが特に好ましい。
【0043】
また、該ポリマーを構成するモノマー成分のうち炭素数10以上の非芳香族炭化水素基を有する(メタ)アクリレート以外のモノマーとしては、(a)ブチル(メタ)アクリレート等のC1-8アルキル(メタ)アクリレート、(b)シクロヘキシル(メタ)アクリレート等のC5-6シクロアルキル(メタ)アクリレート、(c)ベンジル(メタ)アクリレート、(d)2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等の水酸基含有メタ(アクリレート)、(e)(メタ)アクリル酸等のカルボキシル基含有モノマー、(f)エチレングリコールジ(メタ)アクリレートやグリセリントリ(メタ)アクリレート等の多官能(メタ)アクリレート、(g)グリシジル(メタ)アクリレート等のエポキシ基含有(メタ)アクリレート、(h)3−(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン等のアルコキシシリル基含有(メタ)アクリレート、(i)(メタ)アクリロイルイソシアネート等のイソシアナート基を有する(メタ)アクリレートなどが挙げられる。これらは2以上を組み合わせて使用できる。炭素数10以上の非芳香族炭化水素基を有する(メタ)アクリレート以外のモノマーを2以上用いる場合、その好ましい組合せとして、(1)(a)と、(d)及び/又は(e)と、(f)、(g)、(h)及び(i)から選択された少なくとも1種との組合せ、(2)(a)と、(b)及び/又は(c)と、(d)及び/又は(e)と、(f)、(g)、(h)及び(i)から選択された少なくとも1種との組合せである。とりわけ、(a)と(b)と(c)と(d)と(e)と(f)と(g)の組合せが好適である。
【0044】
ラジカル重合性基を有するとともに、側鎖に炭素数10以上の非芳香族炭化水素基を有するアクリル系ポリマーにおいて、該ポリマーを構成する全モノマー成分に対する炭素数10以上の非芳香族炭化水素基を有する(メタ)アクリレートの割合は、例えば15重量%以上(例えば15〜95重量%)、好ましくは20重量%以上(例えば20〜90重量%)、さらに好ましくは30重量%以上(例えば30〜80重量%)である。この割合が少なすぎると、撥水・親油性が得られにくくなり、汚染除去性、耐指紋付着性が低下しやすくなる。また、この割合が多すぎると、塗膜の硬度が低下しやすくなる。
【0045】
ラジカル重合性基を有するとともに、側鎖に炭素数10以上の非芳香族炭化水素基を有するアクリル系ポリマーの二重結合当量は、例えば100〜3000g/eq、好ましくは200〜2000g/eq、さらに好ましくは300〜1000g/eqである。
【0046】
ラジカル重合性基を有する撥水・親油性樹脂(B)としては、上記のほか、撥水・親油性部位として側鎖に炭素数10以上の非芳香族炭化水素基を有するアクリルポリマー鎖部を有し、且つ前記アクリルポリマー鎖の末端部位にラジカル重合性基を有する樹脂が挙げられる。
【0047】
このような樹脂は、例えば、反応性官能基xを含む連鎖移動剤の存在下、炭素数10以上の非芳香族炭化水素基を有する(メタ)アクリル酸エステルを少なくとも含むモノマー成分を重合した後、アクリルポリマー鎖末端の官能基xを、前記官能基xと反応しうる官能基yを有するラジカル重合性モノマーと反応させることにより製造できる。
【0048】
官能基xを含む連鎖移動剤としては、連鎖移動部として機能するメルカプト基と、他の官能基xとを有していれば特に限定されないが、例えば、メルカプト酢酸、メルカプトプロピオン酸、メルカプトコハク酸、チオリンゴ酸、チオサリチル酸などの官能基xとしてカルボキシル基を有する連鎖移動剤;2−メルカプトエタノール、1−メルカプト−1−プロパノール、3−メルカプト−2−ブタノール、1−チオグリセロール、メルカプトフェノールなどの官能基xとして水酸基を有する連鎖移動剤;3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシランなどの、官能基xとしてアルコキシシリル基を有する連鎖移動剤などが挙げられる。
【0049】
重合は前記の共重合と同様にして行うことができる。得られるポリマーの数平均分子量(スチレン換算)は、例えば500〜100000、好ましくは800〜50000程度である。ポリマーの数平均分子量が小さすぎると、塗膜としたときの撥水・親油性が低下しやすくなる。また、ポリマーの数平均分子量が大きすぎると溶媒に対する溶解性が低下しやすくなる。
【0050】
前記官能基xと反応しうる官能基yを有するラジカル重合性モノマーとしては、前記と同様のものが挙げられる。なかでも、反応性等の観点から、イソシアナート基を有するラジカル重合性モノマーが好ましい。
【0051】
前記ポリマーと、官能基xと反応しうる官能基yを有するラジカル重合性モノマーとの反応は、溶媒中又は溶媒の非存在下、例えば60〜140℃程度の温度で実施される。溶媒としては、前記の有機溶媒などが挙げられる。この反応により、ラジカル重合性基を有する撥水・親油性樹脂(B)[撥水・親油性部位として側鎖に炭素数10以上の非芳香族炭化水素基を有するアクリルポリマー鎖部を有し、且つ前記アクリルポリマー鎖の末端部位にラジカル重合性基を有する樹脂]を得ることができる。
【0052】
ポリマーを構成するモノマー成分の例、及び該モノマー成分の好ましい組合せは前記と同様である。
【0053】
こうして得られるポリマーは、反応後の反応液をそのままアクリル系モノマー又はオリゴマー(A)及びラジカル重合開始剤(C)との配合に使用してもよいし、必要に応じて、沈殿精製等により単離精製して用いることもできる。
【0054】
さらに、ラジカル重合性基を有する撥水・親油性樹脂(B)としては、前記で得られるアクリルポリマー鎖の末端部位(又は側鎖)にラジカル重合性基を有する撥水・親油性樹脂の有するラジカル重合性基をさらに重合に付して、側鎖に炭素数10以上の非芳香族炭化水素基を有するアクリルポリマー鎖と、側鎖にラジカル重合性基を有するビニルポリマー鎖とを含むグラフト共重合体とし、これをラジカル重合性基を有する撥水・親油性樹脂(B)として用いることもできる。
【0055】
このグラフト共重合体は、例えば、上記で得られるアクリルポリマー鎖の末端部位(又は側鎖)にラジカル重合性基を有する撥水・親油性樹脂と、多官能のアクリル系モノマー又は反応性官能基xを有するラジカル重合性モノマーと、必要に応じて他のラジカル重合性モノマーとを共重合し、モノマー(b2)として反応性官能基xを有するラジカル重合性モノマーを用いた場合には、重合後のポリマーと、前記反応性官能基xと反応しうる官能基yを有するラジカル重合性モノマーとを反応させることにより得ることができる。
【0056】
多官能のアクリル系モノマー、反応性官能基xを有するラジカル重合性モノマー、反応性官能基xと反応しうる官能基yを有するラジカル重合性モノマーとしては、前記例示のものを使用できる。
【0057】
他のラジカル重合性モノマーとしては、前記炭素数10以上の非芳香族炭化水素基を有する(メタ)アクリレート以外のモノマーとして例示したものを使用できる。
【0058】
グラフト共重合体は、溶液ラジカル重合等の慣用の方法により製造することができる。溶液重合に用いる溶媒としては、前記の有機溶媒を使用できる。グラフト共重合体の重量平均分子量は、例えば1000〜200000、好ましくは5000〜100000程度である。
【0059】
グラフト共重合体を構成するモノマー成分の例、及び該モノマー成分の好ましい組合せは前記と同様である。
【0060】
[ラジカル重合開始剤(C)]
ラジカル重合開始剤(C)は、アクリル系モノマー又はオリゴマー(A)、ラジカル重合性基を有する撥水・親油性樹脂(B)の硬化を促進させるために用いられる。ラジカル重合開始剤(C)は単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0061】
ラジカル重合開始剤(C)としては、一般にラジカル重合に用いられる公知の光ラジカル重合開始剤、熱ラジカル重合開始剤を用いることができる。光ラジカル重合開始剤の代表的な例として、3,3’,4,4’−テトラ(t−ブチルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,3’−ジ(t−ブチルパーオキシカルボニル)−4,4’−ジ(メトキシカルボニル)ベンゾフェノン、t−ブチルペルオキシベンゾエートなどの過酸化エステル類;t−ブチルヒドロペルオキシド、ジ−t−ブチルペルオキシドなどの過酸化物類;ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテルなどのベンゾイン・ベンゾインアルキルエーテル類;アセトフェノン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、2,2−ジエトキシ−2−フェニルアセトフェノン、1,1−ジクロロアセトフェノンなどのアセトフェノン類;1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトンなどのシクロヘキシルフェニルケトン類;2−メチルアントラキノン、2−エチルアントラキノンなどのアントラキノン類;2,4−ジメチルチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントンなどのチオキサントン類;アセトフェノンジメチルケタール、ベンジルジメチルケタールなどのケタール類;ベンゾフェノンなどのベンゾフェノン類;キサントン類;1,7−ビス(9−アクリジニル)ヘプタン;チタノセン化合物;芳香族ヨードニウム塩、芳香族スルホニウム塩;などが挙げられる。熱ラジカル重合開始剤の代表的な例として、2,2′−アゾビスイソブチロニトリル、2,2′−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2′−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、ジメチル−2,2′−アゾビス(2−メチルプロピオネート)、ジエチル−2,2′−アゾビス(2−メチルプロピオネート)、ジブチル−2,2′−アゾビス(2−メチルプロピオネート)等のアゾ化合物、ベンゾイルペルオキシド、ラウロイルペルオキシド、t−ブチルペルオキシピバレート、1,1−ビス(t−ブチルペルオキシ)シクロヘキサン等の有機過酸化物、過酸化水素などが挙げられる。過酸化物をラジカル重合開始剤として使用する場合、還元剤を組み合わせてレドックス型の開始剤としてもよい。
【0062】
[ラジカル硬化性組成物]
本発明において、ラジカル硬化性組成物は、アクリル系モノマー又はオリゴマー(A)と、ラジカル重合性基を有する撥水・親油性樹脂(B)と、ラジカル重合開始剤(C)とを含んでいる。
【0063】
ラジカル硬化性組成物において、ラジカル重合性基を有する撥水・親油性樹脂(B)の量は、アクリル系モノマー又はオリゴマー(A)の総量100重量部に対して、0.025〜5重量部であり、好ましくは0.03〜4.5重量部、さらに好ましくは0.05〜4重量部である。ラジカル重合性基を有する撥水・親油性樹脂(B)の量が少なすぎると、汚染物質除去性が低下するとともに、指紋が付着した場合に、指紋が目立ちやすくなる。逆に、ラジカル重合性基を有する撥水・親油性樹脂(B)の量が多すぎると、ハードコート層の表面硬度が低下しやすくなる。特に、アクリル系モノマー又はオリゴマー(A)を用いず、ラジカル重合性基を有する撥水・親油性樹脂(B)とラジカル重合開始剤(C)のみでハードコート層を形成した場合には、表面硬度が著しく低下する。
【0064】
ラジカル重合開始剤(C)の量は、その種類によっても異なるが、アクリル系モノマー又はオリゴマー(A)とラジカル重合性基を有する撥水・親油性樹脂(B)の総量100重量部に対して、例えば、0.1〜15重量部、好ましくは0.5〜10重量部、さらに好ましくは1〜6重量部程度である。ラジカル重合開始剤(C)の量が少なすぎると、十分に硬化が進行しなくなることがあり、逆に多すぎると、塗膜が脆くなる場合がある。
【0065】
ラジカル硬化性組成物には、塗工性等を調節する目的で、有機溶媒などの溶剤を使用することが好ましい。上記溶剤としては、アクリル系モノマー又はオリゴマー(A)やラジカル重合性基を有する撥水・親油性樹脂(B)の種類によっても異なり、特に限定されないが、例えば、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン;トルエン、キシレン等の炭化水素;酢酸エチル、酢酸ブチル、3-メトキシブチルアセテート、メトキシプロピルアセテート、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のエステル;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、メトキシプロパノール、3-メトキシブタノール、エトキシエタノール等のアルコール;ジイソプロピルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテルなどが挙げられる。溶剤の量としては、アクリル系モノマー又はオリゴマー(A)とラジカル重合性基を有する撥水・親油性樹脂(B)の合計量(100重量部)に対して、5〜500重量部が好ましい。
【0066】
ラジカル硬化性組成物には、上記のほか、本発明の効果を阻害しない範囲内で、他の樹脂、消泡剤、光増感剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、光安定剤、ブロッキング防止剤、レベリング剤、界面活性剤、増量剤、顔料、染料、防錆剤、帯電防止剤、導電材、可塑剤、滑剤、樹脂微粒子、無機微粒子などの各種の添加剤を添加してもよい。
【0067】
ラジカル硬化性組成物中のアクリル系モノマー又はオリゴマー(A)及びラジカル重合性基を有する撥水・親油性樹脂(B)の占める割合は、合計で、溶剤を除く全成分(全不揮発分)に対して、例えば70重量%以上、好ましくは80重量%以上、さらに好ましくは90重量%以上、特に好ましくは95重量%以上である。
【0068】
ラジカル硬化性組成物を透明基材フィルム上に塗布する方法としては、例えば、スピンコート法、はけ塗り、スプレー法(吹き付け)、ディップコート法、ブレードコート法、ロールコート法、フローコート法、バーコート法、グラビアコート法、エアナイフコート法などが挙げられる。塗布後、溶剤を用いた場合には溶剤を乾燥し、好ましくは活性エネルギー線を照射することにより硬化させ、透明基材フィルム表面にハードコート層を形成する。
【0069】
照射する活性エネルギー線としては、紫外線、X線、電子線などを用いることができる。中でも、安全性、反応効率などの工業性の観点などから紫外線が最も好ましく用いられる。用いられる紫外線の波長は200〜400nmが好ましく、好ましい照射条件としては、例えば、照度1〜1000mW/cm2、照射量0.1〜10000mJ/cm2である。活性エネルギー線の照射装置としては、例えば、高圧水銀ランプ、低圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、エキシマランプなどのランプ光源、アルゴンイオンレーザーやヘリウムネオンレーザーなどのパルス、連続のレーザー光源などを用いることができる。
【0070】
さらに、上記硬化処理に加えて熱処理を行うと、硬化が十分に進行しやすくなるため、好ましい。熱処理は硬化処理の後が好ましく、条件はラジカル硬化性組成物が塗布される透明基材フィルムの種類によっても異なるが、例えば、室温〜180℃の温度で、10分〜1週間程度行うことが好ましい。
【0071】
ハードコート層の厚みは、例えば、2〜100μmが好ましく、より好ましくは3〜50μmである。上記好ましい範囲よりもハードコート層が薄い場合には耐傷付き性が低下する場合があり、厚いとコスト面で不利となり、また意匠性が低下する場合や、ハードコート層自体が剥離しやすくなる場合がある。
【0072】
このようにして、表面硬度の高いハードコート層を有するハードコートフィルムを得ることができる。本発明のハードコートフィルムのハードコート層の鉛筆硬度は2H以上であり、より好ましくは3H以上である。
【0073】
また、本発明のハードコートフィルムのハードコート層は耐傷つき性に優れている。例えば、スチールウール(#0000)に1kgfの錘を載せ、ハードコート層表面を20往復擦る試験を行った場合、傷が付かない。
【0074】
さらに、本発明のハードコートフィルムのハードコート層は耐指紋付着性及び汚染物質除去性に優れている。すなわち、ハードコート層表面に指紋を付着させ、黒地にのせても、指紋が目立たない。また、ハードコート層表面に指紋を付着させ、ティッシュペーパーで拭くと5回以内(特に、3回以内)の操作で指紋が除去される。
【0075】
さらにまた、本発明のハードコートフィルムのハードコート層の水に対する接触角は、例えば80度以上、特に85度以上である。水に対する接触角が80度未満の場合には、撥水性が低く、指紋や皮脂を拭き取ることが困難になりやすい。また、本発明のハードコートフィルムのハードコート層のノルマルヘキサデカン(nHD)に対する接触角は、例えば10度以下、特に8度以下である。ノルマルヘキサデカン(nHD)に対する接触角が大きすぎると、親油性が低く、指紋や皮脂が付着したとき、非常に目立ちやすい。また、光沢度も低下する。
【0076】
また、本発明のハードコートフィルムは、ヘイズ値が小さく、全光線透過率が高い。ハードコートフィルムのヘイズ値は、例えば、2.0%以下、好ましくは1.8%以下(とりわけ1.5%以下)である。例えば、ハードコート層の厚みが6μm、透明基材フィルムがポリエチレンテレフタレートフィルムで厚み188μmの場合において、ヘイズ値は2.0%以下、特に1.8%以下(さらには1.5%以下)である。全光線透過率は、例えば、85%以上、特に90%以上である。全光線透過率が85%未満である場合には、光学材料として使用困難な場合や、意匠性が低下する場合がある。
【0077】
本発明のハードコートフィルムは、上記のような特性を有するため、例えば、液晶表示装置(LCD)、プラズマディスプレイパネル(PDP)、有機ELディスプレイ、フィールドエミッションディスプレイ(FED)、陰極管表示装置(CRT)などのディスプレイやタッチパネル、特にフラットパネルディスプレイの表面を保護するために用いられるハードコートフィルムとして有用である。
【実施例】
【0078】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0079】
実施例1
アクリル系モノマー[多官能(メタ)アクリレート]としてジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(ダイセルサイテック社製、商品名「DPHA」)100重量部に、ラジカル重合性基を有する撥水・親油性樹脂[富士化成工業社製、商品名「ZX−214−A」;ラジカル重合性基及び撥水・親油性基を有するアクリル系オリゴマーの酢酸ブチル/イソプロピルアルコール溶液;二重結合当量560g/eq(不揮発分)]0.06重量部(樹脂:0.03重量部)、及びラジカル重合開始剤(チバスペシャリティケミカルズ社製、商品名「イルガキュア184」;ラジカル光重合開始剤)3.00重量部を添加したものを、組成物中の不揮発分が40重量%となるようにメチルエチルケトンで希釈してコーティング組成物を得た。
続いて、膜厚188μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(三菱樹脂株式会社製、商品名「O321E188W76A」、PETフィルム)の片面に、上記のコーティング組成物をバーコーター♯12を用いて塗布した後、乾燥機により100℃で1分間乾燥し、紫外線を照射することにより硬化して[光源:高圧水銀ランプ、コンベアスピード:15m/分、照射回数:3パス、積算光量:1000mJ/cm2]、表面に、厚み約6μmの塗膜(ハードコート層)を有するPETフィルムを得た。
こうして得られた表面に塗膜(ハードコート層)を有するPETフィルムを24時間室温で放置した後、表面の塗膜に対して、鉛筆硬度、耐スチールウール性、耐指紋付着性、汚染物質除去性、水・n−ヘキサデカン(nHD)接触角を測定した。また、PETフィルムと塗膜全体に対し、ヘイズ値・全光線透過率を測定した。測定結果を表1に示す。
【0080】
実施例2〜6、比較例1〜4
アクリル系モノマー[多官能(メタ)アクリレート]、ラジカル重合性基を有する撥水・親油性樹脂及びラジカル重合開始剤の配合割合を表1に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様にして、表面に、厚み約6μmの塗膜(ハードコート層)を有するPETフィルムを得た。
こうして得られた表面に塗膜(ハードコート層)を有するPETフィルムを24時間室温で放置した後、表面の塗膜に対して、鉛筆硬度、耐スチールウール性、耐指紋付着性、汚染物質除去性、水・n−ヘキサデカン(nHD)接触角を測定した。また、PETフィルムと塗膜全体に対し、ヘイズ値・全光線透過率を測定した。測定結果を表1に示す。
【0081】
評価方法
(1)鉛筆硬度
JIS K5600に準じて、引っかき硬度(鉛筆法)試験装置(新東科学社製、商品名「HE1DON−14D」)を使用し、荷重1kg、45度法、測定距離30mmにて鉛筆硬度を評価した。3H及び2Hの鉛筆で、それぞれ5回測定して、それぞれ、3回以上傷が付かなかった場合を「○」、3回以上傷が付いた場合を「×」とした。
【0082】
(2)耐スチールウール性(耐傷つき性)
♯0000スチールウールに荷重1kgかけて、20往復擦ったときに傷が付かなかったものを「○」、傷が付いたものを「×」とした。
【0083】
(3)耐指紋付着性
塗膜に指紋を付着させ、黒地にのせて目視で指紋の付着度合いを観察した。指紋が目立たないものを「○」、少し目立つものを「△」とした。
【0084】
(4)汚染物質除去性
塗膜に指紋を付着させ、ティッシュペーパーで拭き取って指紋の除去性を評価した。指紋が除去されるまでのティッシュペーパーの拭き取り回数を示した。4回までなら許容範囲であるが、3回以下であるのが好ましい。
【0085】
(5)水・n−ヘキサデカン(nHD)接触角
自動・動的接触角計(協和界面科学社製、型式DCA−UZ)を使用し、塗膜に対し、約5μLの各液の接触角を5点測定して平均した。
【0086】
(6)ヘイズ値・全光線透過率
ヘイズ値・全光線透過率をヘイズメーター(日本分光社製、商品名「300A型」)を使用し、5点以上測定して、平均した。ヘイズ値はJIS K7136に準拠して測定した。
【0087】
【表1】

【0088】
表1に示されるように、実施例のハードコートフィルムは、硬度、耐指紋付着性、汚染物質除去性及び透明性に優れる。これに対し、比較例3及び4のハードコートフィルムは硬度の点で劣り、比較例1及び2は汚染物質除去性の点で劣る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基材フィルムの少なくとも片面にハードコート層を有するハードコートフィルムであって、前記ハードコート層が、アクリル系モノマー又はオリゴマー(A)と、該アクリル系モノマー又はオリゴマー(A)の総量100重量部に対して0.025〜5重量部のラジカル重合性基を有する撥水・親油性樹脂(B)と、ラジカル重合開始剤(C)とを含むラジカル硬化性組成物を硬化して得られる層であり、該ハードコート層表面の鉛筆硬度が2H以上であることを特徴とするハードコートフィルム。
【請求項2】
アクリル系モノマー又はオリゴマー(A)が、少なくとも多官能(メタ)アクリレートを含む請求項1記載のハードコートフィルム。
【請求項3】
ラジカル重合性基を有する撥水・親油性樹脂(B)が、ラジカル重合性基を有するとともに、側鎖に炭素数10以上の非芳香族炭化水素基を有するアクリル系ポリマーである請求項1又は2記載のハードコートフィルム。
【請求項4】
透明基材フィルムが、ポリエステル系、アクリル系又はポリオレフィン系フィルムである請求項1〜3の何れかの項に記載のハードコートフィルム。
【請求項5】
ハードコート層表面の鉛筆硬度が3H以上である請求項1〜4の何れかの項に記載のハードコートフィルム。
【請求項6】
ヘイズ値が1.8%以下である請求項1〜5の何れかの項に記載のハードコートフィルム。
【請求項7】
ディスプレイ又はタッチパネル表面保護用ハードコートフィルムである請求項1〜6の何れかの項に記載のハードコートフィルム。

【公開番号】特開2012−22173(P2012−22173A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−160461(P2010−160461)
【出願日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【出願人】(505339058)ダイセルバリューコーティング株式会社 (13)
【Fターム(参考)】