説明

バイオマス燃料の製造方法及びバイオマス燃料、並びに、バイオマス炭化処理システム

【課題】自己発熱が抑制されて貯留、保存、輸送時の安全性が向上したバイオマス燃料の製造方法及びバイオマス燃料、上記バイオマス燃料を製造し貯蔵するためのバイオマス炭化処理システムを提供する。
【解決手段】下水汚泥などのバイオマスが低酸素濃度雰囲気下において加熱され、前記バイオマス中に含有される揮発分のうち92%以上がガス化されて、炭化物が生成する炭化工程と、該炭化物が、加湿されることなく所定温度まで冷却される冷却工程とにより、バイオマス燃料を製造する。製造されたバイオマス燃料は、燃料比が2以上であり、炭化処理後に加湿されずに、酸素濃度5%以下の条件で保存される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下水汚泥などを原料とするバイオマス燃料の製造方法、及び、バイオマス燃料を製造し貯蔵するバイオマス炭化処理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
石炭の代替材料であるバイオマス燃料は、炭化炉内で酸素を遮断した雰囲気下にて下水汚泥などのバイオマスを熱分解させて炭化物とした後、100℃程度に冷却されることにより得られる。炭化炉から連続的に排出された炭化物は、一定期間の貯留・保存が必要となる場合が多い。
【0003】
しかし、得られた炭化物はある程度の自己発熱性を有するため、炭化物の利用先である火力発電所などで最終的に消費するまでの期間(3〜5日間程度)に、自己発熱に伴う発火のリスクがある。そのため、特許文献1では、炭化処理後の炭化物に5〜15重量%の水を添加(加湿)することで、炭化物の安定化を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−344099号公報(請求項1〜3、段落[0009]〜[0011]、[0038]〜[0039])
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の汚泥炭化燃料では、以下のような問題がある。
(1)炭化後の燃料の温度が100℃程度にて加湿するため、大量の水蒸気が発生する。これにより、加湿機及び炭化燃料貯蔵槽(ホッパ)内に加湿された燃料が付着し、閉塞の原因となる。
(2)炭化燃料を加湿することにより、炭化燃料中に残留する揮発分(未反応炭化水素(C))と水との水和反応により品温が上昇する。これに伴い、発生する水蒸気量が更に増大する。場合によっては、品温の上昇により燃料が自己発火する可能性がある。
(3)燃料を加湿することにより、発熱量が低下する。また、燃料重量が増加するため、輸送コストが増加する。
【0006】
本発明は、自己発熱が抑制されて貯留、保存、輸送時の安全性が向上したバイオマス燃料の製造方法及びバイオマス燃料を提供することを目的とする。また本発明は、上記バイオマス燃料を製造し貯蔵するためのバイオマス炭化処理システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は、水汚泥などのバイオマスが低酸素濃度雰囲気下において加熱され、前記バイオマス中に含有される揮発分のうち92%以上がガス化されて、炭化物が生成する炭化工程と、該炭化物が、加湿されることなく所定温度まで冷却される冷却工程とを含むバイオマス燃料の製造方法を提供する。上述の炭化条件で炭化することにより、燃料比が2以上であり、炭化処理後に加湿されずに、酸素濃度5%以下の条件で保存されたバイオマス燃料を得ることができる。
【0008】
バイオマス燃料の揮発分ガス化率の上昇に伴い、自己発熱による温度上昇が抑制される。特に、揮発分ガス化率を92%以上とすると、バイオマス燃料を加湿しなくても、酸素濃度5%の条件で保存することで、自己発熱による温度上昇速度を大幅に抑制することができる。このように、本発明のバイオマス燃料は加湿されなくても自己発熱性が抑制されているために、保存性に優れる上、加湿に伴う輸送コストの増加を回避することができる。また、加湿されたバイオマス燃料に比べて、単位重量当たりの発熱量が大きくなる。更に、加湿後のバイオマス燃料による配管等の閉塞を防止できるので、炭化処理システムの保守管理が容易となるという効果も奏する。
【0009】
上記発明では、前記炭化物は、80℃以下に冷却される。
こうすることで、バイオマス燃料の自己発熱性をより向上させることができる。その結果、バイオマス燃料の貯留、保存、輸送時の安全性を飛躍的に向上させることができる。
【0010】
また本発明は、下水汚泥などのバイオマスが、低酸素濃度雰囲気下において加熱され、炭化物が生成する炭化工程と、該炭化物が、加湿されることなく、80℃以下に冷却される冷却工程とを含むバイオマス燃料の製造方法を提供する。
【0011】
バイオマス燃料が貯留中に自己発熱し所定温度まで上昇するのに要する時間は、保存初期の温度に依存することが分かった。バイオマス燃料の製造において、炭化物を80℃以下に冷却すれば、その後の貯留、保存、輸送時での安定性を大幅に向上させることができる。
【0012】
本発明は、下水汚泥などのバイオマスを炭化させ炭化物を生成させる炭化炉と、前記炭化物を加湿せずに、所定温度まで冷却する冷却手段と、該冷却された炭化物を貯蔵する貯蔵槽と、該貯蔵槽に設置され、前記貯蔵された炭化物を排出する排出部とを備えるバイオマス炭化処理システムを提供する。
【0013】
上述の製造方法により製造されるバイオマス燃料は、加湿されなくても優れた安定性を有する。従って、本発明のバイオマス炭化処理システムでは、従来のシステムのように加湿機が不要となり、構成を簡略化することができる。
【0014】
上記発明において、前記冷却手段が気流冷却手段を含むと、炭化処理後のバイオマス燃料を加湿することなく、品温を確実に80℃以下まで冷却することができる。
【0015】
炭化後のバイオマス燃料を加湿する炭化処理システムでは、バイオマス燃料が凝集して流動性が低いために、貯蔵槽下部に燃料排出用のスクリューを設置する必要があった。上記発明では、加湿されていないためバイオマス燃料の流動性が良好であるので、簡易な排出機構である高固気比輸送手段を採用することができる。
また、排出用スクリューを用いる場合は、排出口が1箇所になるため、輸送用コンテナに燃料を均一に積載するためにはコンテナを移動させる必要があったが、高固気比輸送手段を採用すれば複数の排出口を設けることができるので、バイオマス燃料を短時間で効率良くコンテナに積載することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明のバイオマス燃料は、加湿しないために単位重量当たりの発熱量が高い燃料となる。また、水和反応による品温上昇がない上、自己発熱性が抑制されている。そのため、貯留、保存、輸送時における安定性が非常に高く、輸送コストも削減できるため、バイオマス燃料の価値を向上できる。
本発明のバイオマス炭化処理システムは、バイオマス燃料を加湿する必要が無いため、簡略な装置構成を採用することができる。また、装置内部での燃料の付着による閉塞がなく、保守管理コストを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係るバイオマス炭化処理システムの一実施形態を示す概略図である。
【図2】炭化処理温度と炭化物中の平均揮発分ガス化率との関係を示すグラフである。
【図3】排出部として高固気比輸送手段であるLバルブを採用した貯蔵槽の断面図である。
【図4】バイオマス燃料の平均揮発分ガス化率と燃料比との関係を示すグラフである。
【図5】バイオマス燃料中の平均揮発分ガス化率とSIT時間との関係を示すグラフである。
【図6】SIT初期温度とSIT時間との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明に係るバイオマス燃料の製造方法を、図面を参照して説明する。図1に、本発明に係るバイオマス炭化処理システムの一実施形態を示す。
本実施形態のバイオマス炭化処理システム10は、下水汚泥などのバイオマスを炭化処理する外熱式ロータリーキルン型の炭化炉11と、炭化炉11で生成した熱分解ガスから炭化物を分離する集塵装置12と、炭化物を所定温度まで冷却する冷却手段20と、冷却された炭化物(バイオマス燃料)を貯蔵するための貯蔵槽(ホッパ)15とを備える。本実施形態では、冷却手段20は、炭化炉の後段に配置された非接触水冷式スクリューコンベア21と、貯蔵槽15の直前に配置された気流冷却器22とされる。
【0019】
炭化炉11に、定量供給機13から下水汚泥などのバイオマスが供給される。供給される下水汚泥は、定量供給機13の前段に設けられた乾燥炉(不図示)により、汚泥中の水分が30重量%程度になるまで乾燥されていても良い。乾燥後の汚泥は、乾燥炉と定量供給機13との間に設けられるボールミルなどの粉砕機(不図示)により粉砕されていても良い。あるいは、多量の水分を含む汚泥を炭化炉中に供給して、炭化炉内で汚泥を乾燥させることもできる。
【0020】
炭化炉11内で、低酸素濃度雰囲気下でバイオマスが加熱され、熱分解ガスと炭化物とが生成する。ここで、低酸素濃度雰囲気とは、炭化炉内の酸素濃度が5%以下の状態を示す。
生成した炭化物の平均揮発分ガス化率は、JIS M 8812に記載された方法により、式(1)により求められる揮発分ガス化率ηv(%)の平均値として求められる。
ηv=(V1×A2/A1)−V2)/(V1×A2/A1)×100 ・・・(1)
V1:原料中の揮発成分質量分率(%)
V2:炭化物中の揮発成分質量分率(%)
A1:原料中の灰分質量分率(%)
A2:炭化物中の灰分質量分率(%)
炭化物の平均揮発分ガス化率は、図2に示すように、炭化処理温度(ガス化温度)により変動する。図2において、横軸は炭化処理温度、縦軸は炭化物の平均揮発分ガス化率である。
図2より、平均揮発分ガス化率を92%以上とするためには、炭化温度が600℃以上とされる。炭化炉の構成部材の耐久性を考慮すると、炭化温度の上限値は700℃とされる。
【0021】
炭化炉11で生成され排出された熱分解ガス及び炭化物は、集塵装置12にて分離される。分離された熱分解ガスは、燃焼炉(不図示)に導入されて燃焼された後、大気中に放出される。一方、炭化物は、集塵装置12から回収され、スクリューコンベア21で搬送される。スクリューコンベア21は、搬送筒体の外側に冷却水パイプが配置され、パイプ内に冷却水を流通させることにより、炭化物を搬送しながら冷却する。炭化物の品温は、炭化炉(集塵装置)排出直後では420〜450℃程度であるが、スクリューコンベア21排出部では100℃程度まで低下する。
【0022】
スクリューコンベア21から排出された炭化物は、窒素等のキャリアガスとともにフィルタ14へ気流搬送される。フィルタ14は例えばセラミックフィルタなどとされ、フィルタ14によりキャリアガスと分離された炭化物は、気流冷却器22内に導入される。気流冷却器22は、例えば流動層クーラとされ、冷却された窒素ガスまたは空気との熱交換により炭化物を80℃以下、好ましくは50℃以下(常温+10〜15℃程度)に確実に冷却する。なお、フィルタによる分離後に炭化物の品温を80℃以下に確保できる場合には、気流冷却器22を省略することができる。
【0023】
80℃以下に冷却された炭化物(バイオマス燃料)は、貯蔵槽15に一時的に貯留、保存される。貯蔵槽15内部は、酸素濃度5%以下の雰囲気に保持される。
【0024】
図1のバイオマス炭化処理システムは、炭化物(バイオマス燃料)を加湿する手段が設けられていない。従って本実施形態のバイオマス燃料の製造では、炭化処理から貯留までの過程で炭化物が水と接触しない、あるいは、意図的に炭化物に水が添加されない。すなわち、本実施形態のバイオマス燃料は、無加湿とされる。
【0025】
バイオマス燃料を搬送する際、貯蔵槽15下部に設けられた排出部16からバイオマス燃料を排出し、輸送用コンテナ17に積載させる。本実施形態では、図3に示すように、排出部として、高固気比輸送手段であるLバルブを適用することができる。Lバルブは、貯蔵槽の複数箇所(図1では3箇所)に設けると良い。
【0026】
以下に、バイオマス燃料の貯留・保存条件について説明する。
(燃料の加湿及び雰囲気中の酸素濃度が保存性に与える影響)
種々の下水汚泥由来のバイオマス燃料について、JIS M 8812に準拠して、揮発分(固定炭素)を測定し、揮発分ガス化率及び燃料比を算出した。
図4に、バイオマス燃料の平均揮発分ガス化率と燃料比との関係を示す。同図において、横軸は平均揮発分ガス化率、縦軸は燃料比である。平均揮発分ガス化率が92%を超えると、燃料比が急激に上昇する傾向が見られた。平均揮発分ガス化率92%とすることにより、燃料比2以上のバイオマス燃料が得られる。
【0027】
種々の揮発分ガス化率を有する下水汚泥由来のバイオマス燃料(無加湿)について、自然発火試験装置((株)島津製作所製、SIT−2)を用い、雰囲気中の酸素濃度を21%、10.4%、4.8%として自然発火試験(Spontaneous Ignition Test)を実施した。自然発火試験結果から発熱速度式(アレニウス式)を求め、断熱状態で110℃から250℃まで上昇するまでの時間(SIT時間)を算出した。
【0028】
図5に、バイオマス燃料中の平均揮発分ガス化率とSIT時間との関係を示す。同図において、横軸は揮発分ガス化率、縦軸はSIT時間である。酸素濃度21%の雰囲気下では、揮発分ガス化率が上昇するに従ってSIT時間が増加するが、平均揮発分ガス化率が92%以上になると、SIT時間が急激に増大する。酸素濃度10.4%の雰囲気下では、酸素濃度21%の場合と比べて、平均揮発分ガス化率92%以上のときのSIT時間は大きくなるものの、平均揮発分ガス化率に対するSIT時間の増加率は、酸素濃度21%の場合とほぼ同等であった。これに対し、酸素濃度4.8%の雰囲気下では、平均揮発分ガス化率92%以上の領域で、他の酸素濃度雰囲気に比べてSIT時間が長くなる上、平均揮発分ガス化率に対するSIT時間の増加率が大きくなっている。すなわち、平均揮発分ガス化率92%の条件でガス化されたバイオマス燃料は、加湿しなくても、酸素濃度5%以下の雰囲気において安定して保存することができる。
【0029】
(貯留・保存前の冷却温度が保存性に与える影響)
上記自然発火試験装置を用い、試験を開始する温度(SIT初期温度)を変えて、自然発火試験を実施した。試験結果から発熱速度式を求め、断熱状態で110℃から250℃まで上昇するまでの時間(SIT時間)を算出した。
図6に、SIT初期温度とSIT時間との関係を示す。同図において、横軸はSIT初期温度、縦軸はSIT時間である。各プロットは、自然発火試験を3回実施して得られたSIT時間の平均値である。いずれの平均揮発分ガス化率にてガス化されたバイオマス燃料においても、SIT初期温度を80℃以下、特に50℃以下とすることにより、SIT時間を長くすることができた。平均揮発分ガス化率92%以上でガス化されたバイオマス燃料では、特にSIT初期温度50℃以下とすることで、SIT時間を大幅に長くすることができた。
図6の結果より、貯蔵槽に一時的に貯留、保存される前のバイオマス燃料を80℃以下、好ましくは50℃以下(常温+10〜15℃程度)に冷却することにより、自己発熱を防止して安全性に優れたバイオマス燃料することができる。特に、ガス化時の平均揮発分ガス化率を92%以上とすれば、バイオマス燃料保存時の安全性を飛躍的に向上させることが可能である。
【符号の説明】
【0030】
10 バイオマス炭化処理システム
11 炭化炉
12 集塵装置
13 定量供給機
14 フィルタ
15 貯蔵槽
16 排出部
17 輸送用コンテナ
20 冷却手段
21 スクリューコンベア
22 気流冷却器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下水汚泥などのバイオマスが低酸素濃度雰囲気下において加熱され、前記バイオマス中に含有される揮発分のうち92%以上がガス化されて、炭化物が生成する炭化工程と、
該炭化物が、加湿されることなく所定温度まで冷却される冷却工程とを含むバイオマス燃料の製造方法。
【請求項2】
前記炭化物が、80℃以下に冷却される請求項1に記載のバイオマス燃料の製造方法。
【請求項3】
下水汚泥などのバイオマスが、低酸素濃度雰囲気下において加熱され、炭化物が生成する炭化工程と、
該炭化物が、加湿されることなく80℃以下に冷却される冷却工程とを含むバイオマス燃料の製造方法。
【請求項4】
燃料比が2以上であり、炭化処理後に加湿されずに、酸素濃度5%以下の条件で保存されたバイオマス燃料。
【請求項5】
前記炭化処理後に80℃以下に冷却されて保存された請求項4に記載のバイオマス燃料。
【請求項6】
下水汚泥などのバイオマスを炭化させ炭化物を生成させる炭化炉と、
前記炭化物を加湿せずに、所定温度まで冷却する冷却手段と、
該冷却された炭化物を貯蔵する貯蔵槽と、
該貯蔵槽に設置され、前記貯蔵された炭化物を排出する排出部とを備えるバイオマス炭化処理システム。
【請求項7】
前記冷却手段が、気流冷却手段を含む請求項6に記載のバイオマス炭化処理システム。
【請求項8】
前記排出部が、高固気比輸送手段である請求項6または請求項7に記載のバイオマス炭化処理システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−153176(P2011−153176A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−14260(P2010−14260)
【出願日】平成22年1月26日(2010.1.26)
【出願人】(501370370)三菱重工環境・化学エンジニアリング株式会社 (175)
【Fターム(参考)】