説明

バイポーラプレート製造用成形組成物

【課題】バイポーラプレートの製造方法を提供する。
【解決手段】(a)エポキシ樹脂と;(b)エポキシ樹脂用硬化剤と;(c)カルボン酸基を含有するミクロゲルと窒素含有塩基との反応生成物と;(d)充填剤の総量を基準にして少なくとも75重量%の黒鉛を含む導電性充填剤の組合せと、を含む組成物は、バイポーラプレートを製造するのに特に適する。成分(a)としてエポキシフェノールノボラックまたはエポキシクレゾールノボラックを含有する。成分(c)中のミクロゲルが、少なくとも1種類の不飽和カルボン酸と少なくとも1種類の多官能性架橋結合剤との共重合体である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性充填剤混合物を含むエポキシ樹脂組成物、およびバイポーラプレート製造用のこの組成物の使用に関する。
【0002】
高い熱および電気伝導率を有する成形組成物は、電気産業における特定の用途、たとえば燃料電池用バイポーラプレートの製造にますます重要性を得ている。
【0003】
WO 99/19389は、10〜30重量%の低粘度樹脂と70〜90重量%の導電性充填剤とを含む、高温硬化性組成物を記載している。この組成物は、優れた熱および電気伝導率、ならびに高いクラッキング耐性を有する。しかし、これらの成形組成物は、溶媒の存在下でのみ、かつ/または液体の樹脂硬化剤成分を用いてのみ、製造することができるにすぎない。
【0004】
ビニルエステル樹脂、黒鉛粉末、および適切な場合には強化繊維の混合物が、バイポーラプレートの製造用複合材料としてWO 00/25372に提唱されている。これらの系では、必要ならば溶媒を使用しなくてもよい。しかし、これらの製品は、実用には不充分な貯蔵安定性を有するか、または大量生産には長すぎる硬化時間を有する。高温多湿の気候中で燃料電池を操作するとき、エステル官能からの酸の不可避的な開裂は、触媒および膜にさらに問題を生じさせる。
【0005】
効率的な方法(押出し、カレンダー加工)によって、ペレット形態で製造することができ、適切な場合は、特にエポキシ成形組成物に対する通常の方法(射出成形、トランスファ成形、圧縮成形)によって、加工してバイポーラプレートを提供することができる、溶媒フリーで、貯蔵安定的であり、急速に硬化するエポキシ樹脂系を提供することが、本発明の目的である。
【0006】
ここでとりわけ難題なのは、充分に優れた伝導率をバイポーラプレートで達成するには、極めて高い含有量の導電性充填剤を加えなければならないことである。同時に、充填剤含量の上昇に付随する成形組成物の流動性の低下が、加工性を制限することを許してはならない。ここで考慮すべきもう一つの要因は、熱硬化性成形組成物の流動性が、硬化反応の開始による熱との何らかの事前の接触(たとえば、押出し、前可塑化、射出成形シリンダ内の滞留時間)によって、最後の圧縮成形用型への導入前にさらに低下しかねないことである。これは、硬化速度の全般的低減によって対抗することができるが、それが型温度での硬化速度も低減させることになる。バイポーラプレートを、1分未満の硬化時間で有用な量産を可能にしようとするならば、型温度での高い硬化速度は、特別な必要条件となる。
【0007】
理論的には、充填剤含量の上昇による流動性の低下は、液体の、または非常に低粘度の樹脂成分もしくは硬化剤成分を用いることによって、対抗することができるが、この利点は、一連の多大な欠点、または新たな問題を伴う。
【0008】
1.問題のある均質化工程(液体成分への固体の不溶性成分の均質な導入、沈澱の問題の可能性)と組み合わされた、より困難な液体成分の取扱いは、装置および時間の双方に関して、全体的に著しくより多い資源を要求する製造法を結果的に生じるであろう。対照的に、固体のみの混合物は、商業的に入手できる高速ミキサー内で数秒以内に均質化することができる。そうして、直接押出し加工が可能になる。実際、理想的な場合、事前混合工程は、固体成分を押出し装置内に直接計り入れ、そこで混合することもできるため、完全に省略することができる。
【0009】
2.液体マトリックス成分の含量が増大することから、経験によって、たとえば、DIN7708("Rieselfaehige duroplastische Formmassen - Herstellung von Probekoerpen und Bestimmung der Eigensxhaften"[自由流動熱硬化性成形組成物−試験標本の製造および特性の決定])またはASTM、D3123−72(「低圧熱硬化性成形化合物のらせん流れ」)に記載されたような慣用の圧縮法およびパラメータを、適切な圧力(69バール超え)および圧縮温度(150〜190℃)で用いるときは、マトリックスからの滲出が多少とも予測されることが示されている。ここで、マトリックスは、成形用型自体および周囲の充填剤から、成形用型の分離表面を通じて放出され、分離表面では、これが公知な関連付けられる欠点(接着傾向の増大、機械的な後処理の必要性、材料の損失)とともに望ましくないばりを形成する。同時に、マトリックスでのこの損失は、機械的特性の低下を生じて、極端な場合、成型品の成形用型からの離型を妨げる。加えて、成形用型表面の低充填剤含量のマトリックス層は、2枚のバイポーラプレート間の接触抵抗を増大させる。一方、より低い圧力は、空気の封入、収縮の増大、および成形工程の際の充填の問題に付随する、不充分な緻密化を生じる。
【0010】
3.マトリックスが液体を含むときは、一般的に、潜伏性はより低く、貯蔵安定性はより不充分であると予測することができる。
【0011】
ここに、必要とされる特性プロファイルは、特定のミクロゲル−アミン触媒、および特定の等級の黒鉛を同時に用いることによっても、液体マトリックス成分の使用、ならびにこれらに付随する欠点を伴わずに達成できることが見出された。
【0012】
したがって、本発明は、
(a)エポキシ樹脂と;
(b)エポキシ樹脂用硬化剤と;
(c)カルボン酸基を含有するミクロゲルと窒素含有塩基との反応生成物と;
(d)充填剤の総量を基準にして少なくとも75重量%の黒鉛を含む導電性充填剤の組合せとを含む組成物を提供する。
【0013】
本発明の組成物を製造するのに適切な成分(a)は、エポキシ樹脂技術からの通常のエポキシ樹脂である。エポキシ樹脂の例は:
【0014】
(I)分子内に少なくとも二つのカルボキシル基を有する化合物と、エピクロロヒドリンまたはβ−メチルエピクロロヒドリンとを反応させることによって得られる、ポリグリシジルおよびポリ(β−メチルグリシジル)エステル。反応は、塩基の存在下で有用に生じる。用いる分子内に少なくとも二つのカルボキシル基を有する化合物は、脂肪族ポリカルボン酸であってよい。これらのポリカルボン酸の例は、シュウ酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、および二量体もしくは三量体化されたリノール酸である。
【0015】
しかしながら、脂環族のポリカルボン酸、たとえばテトラヒドロフタル酸、4−メチルテトラヒドロフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸または4−メチルヘキサヒドロフタル酸を用いることも可能である。
【0016】
芳香族ポリカルボン酸、たとえばフタル酸、イソフタル酸またはテレフタル酸も用いてよい。
【0017】
(II)少なくとも二つの遊離アルコール性ヒドロキシル基および/またはフェノール性ヒドロキシル基を有する化合物とエピクロロヒドリンまたはβ−メチルエピクロロヒドリンとを、アルカリ性条件下でか、または酸性触媒の存在下で、次いでアルカリによる処理を伴って反応させることによって得られる、ポリグリシジルもしくはポリ(β−メチルグリシジル)エーテル。
【0018】
これらのグリシジルエーテルは、たとえば非環式アルコール、たとえばエチレングリコール、ジエチレングリコールもしくは高級ポリオキシエチレングリコール、またはプロパン−1,2−ジオールもしくはポリオキシプロピレングリコール、またはプロパン−1,3−ジオール、ブタン−1,4−ジオール、ポリオキシテトラメチレングリコール、ペンタン−1,5−ジオール、ヘキサン−1,6−ジオール、ヘキサン−2,4,6−トリオール、グリセロール、1,1,1−トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、またソルビトールにか、もしくは他にポリエピクロロヒドリンにも由来する。
【0019】
この種のその他のグリシジルエーテルは、脂環族アルコール、たとえば1,4−シクロヘキサンジメタノール、ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)メタンもしくは2,2−ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)プロパンにか、または芳香族基および/もしくは他の官能基を有するアルコール、たとえばN,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)アニリンまたはp,p′−ビス(2−ヒドロキシエチルアミノ)ジフェニルメタンに由来する。
【0020】
グリシジルエーテルは、単核フェノール、たとえばレゾルシノールもしくはヒドロキノンにか、または多核フェノール、たとえばビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、4,4′−ジヒドロキシビフェニル、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、1,1,2,2−テトラキス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンまたは2,2−ビス(3,5−ジブロモ−4−ヒドロキシフェニル)プロパンに基づいてもよい。グリシジルエーテルを製造するのに適切なその他のヒドロキシ化合物は、アルデヒド(たとえばホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、クロラールまたはその他のフルフルアルデヒド)と、非置換であるか、または塩素原子もしくはC1〜C9アルキル基で置換されたフェノールもしくはビスフェノール(たとえばフェノール、4−クロロフェノール、2−メチルフェノールまたは4−tert−ブチルフェノール)との縮合によって得られるノボラックである。
【0021】
(III)エピクロロヒドリンと、少なくとも二つのアミン水素原子を有するアミンとの反応の生成物の脱塩化水素によって得られる、ポリ(N−グリシジル)化合物。これらのアミンの例は、アニリン、n−ブチルアミン、ビス(4−アミノフェニル)メタン、m−キシレンジアミンおよびビス(4−メチルアミノフェニル)メタンである。
【0022】
ポリ(N−グリシジル)化合物は、イソシアヌール酸トリグリシジル、シクロアルキレン尿素(たとえばエチレン尿素または1,3−プロピレン尿素)のN,N′−ジグリシジル誘導体、およびヒダントイン(たとえば5,5−ジメチルヒダントイン)のジグリシジル誘導体も包含する。
【0023】
(IV)ポリ(S−グリシジル)化合物、たとえば、ジチオール(たとえばエタン−1,2−ジチオールまたはビス(4−メルカプトメチルフェニル)エーテル)に由来するジ−S−グリシジル誘導体。
【0024】
(V)脂環族エポキシ樹脂、たとえばビス(2,3−エポキシシクロペンチル)エーテル、2,3−エポキシシクロペンチルグリシジルエーテル、1,2−ビス(2,3−エポキシシクロペンチルオキシ)エタンまたは3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3′,4′−エポキシシクロヘキサンカルボキシラート。
【0025】
異なるヘテロ原子または官能基に1,2−エポキシ基が結合しているエポキシ樹脂を用いることも可能であり;これらの化合物の例は、4−アミノフェノールのN,N,O−トリグリシジル誘導体、サリチル酸のグリシジルエーテルグリシジルエステル、N−グリシジル−N′−(2−グリシジルオキシプロピル)−5,5−ジメチルヒダントインおよび2−グリシジルオキシ−1,3−ビス(5,5−ジメチル−1−グリシジルヒダントイン−3−イル)プロパンである。
【0026】
本発明のエポキシ樹脂組成物を製造するには、固体のポリグリシジルエーテル、または固体のポリグリシジルエステル、特に脂環族もしくは芳香族ジカルボン酸の固体のジグリシジルビスフェノールエーテル、または固体のポリグリシジルエステルを用いるのが好ましい。エポキシ樹脂の混合物を用いることも可能である。
【0027】
固体のエーテルに基づくエポキシ樹脂を用いるのが好ましい。用い得る固体のポリグリシジルエーテルは、その融点が室温以上ないし約250℃である化合物である。固体化合物の融点は、好ましくは、50〜150℃の範囲内である。これらの固体化合物は、公知であり、そのいくつかは、商業的に入手できる。液体ポリグリシジルエーテルの事前の展開によって得られる上級生成物を、固体のポリグリシジルエーテルとして用いてもよい。
【0028】
特に好適な成分(a)は、エポキシフェノールノボラックおよびエポキシクレゾールノボラックである。
【0029】
原則として、エポキシ樹脂技術から、当業者に公知のいかなる硬化剤も、成分(b)として用いてよい。
【0030】
好適な硬化剤は、フェノールノボラックおよびクレゾールノボラックである。
【0031】
成分(c)として用いようとする、カルボン酸の基を含有するミクロゲルと窒素含有塩基との反応生成物(ミクロゲル−アミン塩)は、米国特許第5,994,475号明細書から公知である。
【0032】
成分(c)中のミクロゲルは、好ましくは、少なくとも1種類の不飽和カルボン酸、特にアクリル酸またはメタクリル酸と、少なくとも1種類の多官能性架橋結合剤との共重合体である。
【0033】
成分(c)中のミクロゲルを調製するには、好ましくは、脂肪族、脂環族もしくは芳香族ポリオールの多官能性アクリラートまたはメタクリラート、アクリル酸もしくはメタクリル酸とポリグリシジル化合物との付加物、アクリル酸もしくはメタクリル酸とアクリル酸もしくはメタクリル酸グリシジルとの付加物、アクリル酸アルケニルもしくはメタクリル酸アルケニル、ジアルケニルシクロヘキサン、あるいはジアルケニルベンゼンを多官能性架橋結合剤として利用する。
【0034】
特に好適な官能性架橋結合剤は、エチレングリコール=ジアクリラート、エチレングリコール=ジメタクリラート、プロピレングリコール=ジアクリラート、プロピレングリコール=ジメタクリラート、1,4−ブタンジオール=ジアクリラート、1,4−ブタンジオール=ジメタクリラート、ポリエチレングリコール=ジアクリラート、ポリエチレングリコール=ジメタクリラート、ポリプロピレングリコール=ジアクリラート、ポリプロピレングリコール=ジメタクリラート、1,1,1−トリメチロールプロパン=トリアクリラート、1,1,1−トリメチロールプロパン=トリメタクリラート、ビスフェノールAジグリシジルエーテル=ジアクリラート、ビスフェノールAジグリシジルエーテル=ジメタクリラート、アクリル酸アリル、メタクリル酸アリル、ジビニルシクロヘキサン、およびジビニルベンゼンである。
【0035】
成分(c)を調製するのに用いられる窒素含有塩基は、好ましくは、アミン、ポリアミン、または特にイミダゾールである。
【0036】
特に好適な窒素含有塩基は、2−フェニルイミダゾール、2−イソプロピルイミダゾール、2−ドデシルイミダゾール、2−ヘプタデシルイミダゾール、2−エチルイミダゾールおよび2−エチル−4−メチルイミダゾールである。
【0037】
本発明の組成物の導電性充填剤の組合せ(d)は、純粋な黒鉛で構成するか、または充填剤の組合せ(d)全体中の黒鉛の比率が、75重量%以上、好ましくは85重量%以上、特に好ましくは95重量%以上である限り、他の無機もしくは鉱物性もしくは金属性充填剤、またはカーボンブラックとの混合物で構成してもよい。
【0038】
充填剤の粒径も重要である。
【0039】
用いられる黒鉛粉末は、0.1〜500μm、より好ましくは1〜300μm、特に好ましくは10〜250μm、特別に好ましくは50〜100μmの平均粒径を有する。黒鉛は、層構造を有して、電子はこれらの層に沿って流動する。成形されたプレートが製造されるとき、粒度が増大するにつれて、これらの層は平面に配向されるため、プレートの平面における電気伝導率は、それを横断するそれより高くなる。
【0040】
より少ない配向を有することから、合成黒鉛を用いるのが好ましい。天然の黒鉛とは異なり、燃料電池の膜に包埋され、そのため性能を低下させかねない二価および三価の陽イオンによる汚染も、非常に低レベルであるにすぎない。
【0041】
本発明の組成物中の成分(a)、(b)、(c)および(d)の量的比率は、広い範囲内で変動してよい。
【0042】
硬化剤(b)に対するエポキシ樹脂(a)の量的比率は、当業者に公知の慣用の範囲内である。好ましいのは、成分(a)の100重量%を基準にして、20〜75重量%の成分(b)を含む組成物である。
【0043】
成分(c)の量は、成分(a)の100重量%を基準にして、0.1〜25重量%、好ましくは1〜20重量%である。
【0044】
充填剤の組合せ(d)の量は、成分(a)+(b)+(c)+(d)の組成物全体を基準にして、50〜90重量%、好ましくは70〜85重量%である。
【0045】
本発明の組成物は、その他の慣用の添加剤、たとえば抗酸化剤、光安定剤、可塑化剤、染料、顔料、チキソトロピー効果を有する薬剤、強靱化剤、消泡剤、帯電防止剤、潤滑剤および離型剤を含んでもよい。添加剤の含有量は、充填剤成分(d)に包含される。
【0046】
驚くべきことに、硬化させたエポキシ樹脂の電気伝導率は、オルガノシランを加えることによって著しく上昇させることができる、適切なオルガノシランの例は、オクチルトリエトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシランおよびγ−グリシジルオキシプロピルトリメトキシシランである。
【0047】
加えられるシランの量は、組成物全体を基準にして、好ましくは0.05〜1重量%、特に0.1〜0.5重量%である。
【0048】
配合物中の黒鉛の比率が上昇するにつれ、硬化した樹脂の機械的特性は不充分になる。繊維性充填剤を用いて、機械的強さを上昇させることは、文献から公知である。しかし、たとえばWO 00/25372に記載されたとおり、繊維性充填剤を加えたとき、表面品質の損失、成形組成物のより不充分な加工性、および特に大表面積の用途、たとえばバイポーラプレートの場合における繊維の配向の危険性、があることを認めなければならない。エポキシマトリックスの特性プロファイルは、充分に優れているため、成分(a)+(b)+(c)の比率が15〜30重量%であっても、得られる強さは、離型および燃料電池組立ての際のプレートの信頼できる取扱いを許すことが見出されている。繊維性充填剤の省略は、極めて優れた表面品質とともに非常に微細な構造を有する成型品を許す。
【0049】
本発明のエポキシ樹脂組成物を硬化して、成型品、コーティングなどを与えることは、例示として"Handbook of Epoxy Resins", 1967にH. LeeおよびK. Nevilleが記載したとおり、エポキシ樹脂技術に常用される方式で実施する。
【0050】
本発明は、本発明の組成物を硬化することによって製造される導電性材料も提供する。
【0051】
本発明の組成物は、電気の用途における金属の代替物として適切であり、燃料電池用バイポーラプレートを製造するのに特に適切である。
【0052】
PEM燃料電池を製造するには、非常に多数のバイポーラプレートが必要とされる。これらの数を費用効率的に製造する能力を有するためには、製造工程は、非常に短いサイクル時間、および高水準の自動化とともに稼働できなければならない。この特性プロファイルを達成するには、成形組成物の高い潜伏性が必要とされる。
【0053】
下記の実施例は、次の成分を用いた:
エポキシ樹脂1:4.35価/kgのエポキシ含量を有するエポキシクレゾールノボラック
エポキシ樹脂2:2.2価/kgのエポキシ含量を有するビスフェノールAジグリシジルエーテル
硬化剤1:8.5価/kgのヒドロキシル基含量を有するクレゾールノボラック
触媒1:米国特許第5,994,475号明細書の例II.5におけるとおりに製造した、メタクリル酸メチル、メタクリル酸、エチレングリコールジメタクリラート、トリメチロールプロパン=トリメタクリラートおよび2,4−エチルメチルイミダゾールから製造したミクロゲル−アミン塩
EMI:2,4−エチルメチルイミダゾール
20μmの平均粒径を有する黒鉛粉末
【0054】
本発明の組成物(例1を参照されたい)は、60〜110℃の温度で高い潜伏性を有する。これは、加工の際、前可塑化のために、該組成物をこれらの温度まで加熱しなければならないことから、重要である。同時に、高い充填剤レベル自体が組成物に高い粘度を与えることから、粘度のそれ以上のいかなる上昇も回避して、成形用型充填の際の充分な流動性を確保しなければならない。成形組成物の加工の際のこの挙動を模擬実験するために、例1からの成形組成物のペレットを、異なる二つの温度設定のカレンダにて3分間および6分間調整し、らせん流れの変化を比較した。表1は、その流動性が当初でさえ比較的不充分であるEMI含有製品の、初期流動性から30〜40%の低下があるが、ミクロゲル触媒を用いたときは、この数字は13〜15%であるにすぎなかった。実用上、これは、慣用的に加速される成形組成物の場合、製造における僅かな中断でさえ、バイポーラプレートの品質に対して重大な効果を有することを明確に示している。不充分な流動性を有する成形組成物の、数多い短所のうちの一つは、適切な緻密化できないことであり、これは、PEM燃料電池の信頼できる稼動のための最も重要な要件である、プレートの気密特性の損失になりかねない。
【0055】
例1:流動性および潜伏性
表1に示した成分を、ビーズミルにて混合し、カレンダにて90〜110℃で均質化した。次いで、得られたペレットの流動性を、ASTM−D3123により決定した。
【0056】
【表1】

【0057】
例2:体積抵抗
硬化した混合物の体積抵抗に対するオルガノシランの効果は、組成物CおよびDを比較したとき、明白であった。表2における成分についての定量データは、重量部である。
【0058】
【表2】

【0059】
現在の最新技術は、燃料電池の性能に対するいかなる不都合な作用をも避けるため、バイポーラプレートについて0.1オーム・cm未満の体積抵抗を要求する。測定を、代表的には、直径3.5cmおよび厚さ1.5cm以上の円形標本(圧延体)に対して行った。この方法は、電極と圧延体との間の接触面積に大きく依存することから、1〜5N/mm2の圧力を段階的に試験片に印加した。値の変化を、圧延体表面の品質の基準として評価することができる。意図が電気伝導率に対する非平坦性の効果を排除することを意図するならば、電極と圧延体との間に、柔軟な黒鉛マットを置いてもよい。図1に、体積抵抗を決定するのに適切な試験アセンブリの線図を示す。図内の参照番号は、以下を示す。1=ホルダ、2=ロードセル、3=絶縁体、4=黒鉛マット、5=コンタクト、6=試験標本、7=電圧計、8=電流計、9=電源。図2に、明細書で用いた測定原理を、4点導電度測定システムの電気配線図の形で示す。図2内の参照番号は、以下を示す。1=電源、2=試験標本、3=電流計、4=電圧計。
【0060】
下表3は、これらの低い抵抗を達成するには、高い黒鉛含量が必要とすることを示した。体積抵抗の低減は、不適当なことに、流動性の低下をも伴なう。この効果は、表3からも明らかである。表3における成分についての定量データは、重量部である。
【0061】
【表3】

【0062】
黒鉛の等級の選択:
成分(d)の適切な粒度分析によって、配合物のらせん流動性および伝導率を最適化することができる。天然黒鉛は、1〜3%の多価陽イオンを含み、それが膜に包埋されて、不都合な作用となりかねないことから、ここでは合成黒鉛を主として使用すべきである。下表4は、上記配合物G(表3)の体積抵抗を、用いられる黒鉛の等級の関数として示している。かっこ内のデータは、黒鉛の平均粒径である。
【0063】
【表4】

【0064】
これらの配合物の流動性は、黒鉛の粒度の増加とともに自然に上昇するが、これと平行して硬化した成形組成物の表面品質も損なう。成形組成物がばりを形成する傾向が増大し、そのため、後処理操作の必要性も増大する。
【0065】
表4によれば、最大電気伝導率は、約60μmの平均粒度を有する黒鉛の合成等級の使用の結果得られる。成分(a)+(b)+(c)+(d)の組成全体を基準にして、約73重量%が、ここでは、伝導率と流動性との間の理想的な妥協点であると判明した。ここで、この最適化された配合物の流動性を、同じ配合のEMIで触媒される変形態様と比較するならば、EMIの使用は、適切な流動性を欠くために、不充分な加工性を与えることが再び見出される(実施例SおよびT)。結論として、配合物は、混合用カレンダにて100/110℃のロール温度で3〜4分間均質化した。
【0066】
EMIで触媒される実施例Iについてのらせん流路は、4分間という短時間後に半減したのに対し、ミクロゲルの変形態様(実施例QおよびR)については、約25.4cmから約22.9cmまで(10インチから9インチまで)の僅かな低下のみが見出されるにすぎない。下表5を参照されたい。
【0067】
カレンダにおける工程パラメータの選択は、成形組成物についての流動特性(らせん路)が、押出し工程についてのそれに類似するようにした。混合工程後のらせん路が約12.7cm(5インチ)以下ならば、充分な加工は不可能になる。組成物の潜伏性の挙動に応じて、この値は、実際の適用の工程前に、組成物をその他の加熱効果(たとえば圧縮行程のための前可塑化)に付すならば、増加する。
【0068】
【表5】

【0069】
配合物Qの特性を、下表6に示す:
【0070】
【表6】

【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】体積抵抗を決定するのに適切な試験アセンブリの線図である。図1内の参照番号は、1=ホルダ、2=ロードセル、3=絶縁体、4=黒鉛マット、5=コンタクト、6=試験標本、7=電圧計、8=電流計、9=電源である。
【図2】試験に用いた測定原理を示す、四点伝導率測定装置系の電気回路の線図である。図2内の参照番号は、1=電源、2=試験標本、3=電流計、4=電圧計である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)エポキシ樹脂と;
(b)エポキシ樹脂用硬化剤と;
(c)カルボン酸基を含有するミクロゲルと窒素含有塩基との反応生成物と;
(d)充填剤の総量を基準にして少なくとも75重量%の黒鉛を含む導電性充填剤の組合せと
を含む組成物。
【請求項2】
成分(a)としてエポキシフェノールノボラックまたはエポキシクレゾールノボラックを含有する、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
成分(c)中のミクロゲルが、少なくとも1種類の不飽和カルボン酸と少なくとも1種類の多官能性架橋結合剤との共重合体である、請求項1または2記載の組成物。
【請求項4】
不飽和カルボン酸が、アクリル酸またはメタクリル酸である、請求項3記載の組成物。
【請求項5】
多官能性架橋結合剤が、脂肪族、脂環族もしくは芳香族ポリオールの多官能性アクリラートまたはメタクリラート、アクリル酸もしくはメタクリル酸とポリグリシジル化合物との付加物、アクリル酸もしくはメタクリル酸とアクリル酸もしくはメタクリル酸グリシジルとの付加物、アクリル酸アルケニルもしくはメタクリル酸アルケニル、ジアルケニルシクロヘキサン、あるいはジアルケニルベンゼンである、請求項3記載の組成物。
【請求項6】
多官能性架橋結合剤が、エチレングリコール=ジアクリラート、エチレングリコール=ジメタクリラート、プロピレングリコール=ジアクリラート、プロピレングリコール=ジメタクリラート、1,4−ブタンジオール=ジアクリラート、1,4−ブタンジオール=ジメタクリラート、ポリエチレングリコール=ジアクリラート、ポリエチレングリコール=ジメタクリラート、ポリプロピレングリコール=ジアクリラート、ポリプロピレングリコール=ジメタクリラート、1,1,1−トリメチロールプロパン=トリアクリラート、1,1,1−トリメチロールプロパン=トリメタクリラート、ビスフェノールAジグリシジルエーテル=ジアクリラート、ビスフェノールAジグリシジルエーテル=ジメタクリラート、アクリル酸アリル、メタクリル酸アリル、ジビニルシクロヘキサン、およびジビニルベンゼンから選択される、請求項3記載の組成物。
【請求項7】
成分(c)中の窒素含有塩基が、アミン、ポリアミンまたはイミダゾールである、請求項1または2記載の組成物。
【請求項8】
窒素含有塩基が、2−フェニルイミダゾール、2−イソプロピルイミダゾール、2−ドデシルイミダゾール、2−ヘプタデシルイミダゾール、2−エチルイミダゾールまたは2−エチル−4−メチルイミダゾールである、請求項7記載の組成物。
【請求項9】
充填剤の組合せ(d)が、0.1〜500μm、好ましくは1〜300μm、より好ましくは10〜250μm、特に好ましくは50〜100μmの平均粒径を有する黒鉛粉末を含む、請求項3記載の組成物。
【請求項10】
充填剤の組合せ(d)が、合成黒鉛の形態での黒鉛粉末を含む、請求項1記載の組成物。
【請求項11】
成分(a)の100重量部を基準にして、0.1〜25重量部の成分(c)を含む、請求項1記載の組成物。
【請求項12】
全成分(a)+(b)+(c)+(d)を基準にして、50〜90重量%、好ましくは70〜85重量%の成分(d)を含む、請求項1記載の組成物。
【請求項13】
オルガノシランも含む、請求項1記載の組成物。
【請求項14】
請求項1記載の組成物を硬化させて製造する導電性材料。
【請求項15】
バイポーラプレート製造用の請求項1記載の組成物の使用。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−179786(P2008−179786A)
【公開日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2007−326802(P2007−326802)
【出願日】平成19年12月19日(2007.12.19)
【分割の表示】特願2002−589538(P2002−589538)の分割
【原出願日】平成14年5月6日(2002.5.6)
【出願人】(507195520)ドゥレスコ・ゲーエムベーハー (1)
【氏名又は名称原語表記】Duresco GmbH
【Fターム(参考)】