説明

バター風味調味料組成物及び飲食品のバター風味増強方法

【課題】飲食品のバター特有の風味やコク味の増強効果に優れる酵母エキスを含有するバター風味調味料組成物、該バター風味調味料組成物の製造方法、及び、該バター風味調味料組成物を用いた飲食品のバター風味増強方法の提供。
【解決手段】バター風味を有するオイル成分及び酵母エキスを含有し、粉末状、顆粒状、又はペースト状であるバター風味調味料組成物、バター風味を有するオイル成分、基材、及び酵母エキスを含有し、粉末状、顆粒状、又はペースト状であるバター風味調味料組成物、バター風味を有するオイル成分及び酵母エキスを混合し、粉末状、顆粒状、又はペースト状にするバター風味調味料組成物の製造方法、バター風味を有するオイル成分、基材、及び酵母エキスを混合し、粉末状、顆粒状、又はペースト状にするバター風味調味料組成物の製造方法、及び、前記いずれかに記載のバター風味調味料組成物を配合する飲食品のバター風味増強方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酵母エキスを含有するバター風味調味料組成物、該バター風味調味料組成物の製造方法、及び、該バター風味調味料組成物を用いた飲食品のバター風味増強方法に関する。
【背景技術】
【0002】
油脂は、飲食品の味や風味を決定する大事な原料である。しかしながら、昨今の穀物原料の高騰や気候変動等により、バター等の乳製品の値上がりや品薄が非常に大きな問題となってきている。従来から、高価なバターの代替品として、マーガリンやショートニング等が広く用いられているものの、これらの代替品は、バター特有の風味やコク味に劣る、と言う問題がある。このため、より優れたバター代替品の開発が強く求められている。
【0003】
近年、酵母エキスを調味料として添加することにより、飲食品にコク味を付与することが行われている。酵母エキスを用いて食品にコク味を付与する方法として、例えば、(2)ペプチドの含量が20重量%以上であり、かつ全アミノ酸に対するペプチドの含有比率が80%以上である酵母エキスを飲食品に添加する方法が開示されている(例えば引用文献2参照。)。このように、ペプチド含量の豊富な酵母エキスを飲食品に添加することにより、飲食品にコク味や濃厚感を付与することができる。
【0004】
一方で、食品産業の発達とともに、油脂の取り扱い性にも簡便さが求められてきている。例えば、ホットケーキミックス等のプレミックスや、インスタントラーメン用粉末スープ等に油脂を配合する場合に、液状油又は半固形状脂では別添する必要があるが、粉末状の油脂であれば、他の粉末状原料と混合して配合することが可能であり、包材への充填時や調理時の操作性に非常に優れている。
【0005】
このように、粘度の高い液状の油脂よりも、粉末状の油脂の需要が増大しており、このため、液状油や半固形状脂を粉末化又は顆粒化する方法が広く開発されている。例えば、(1)油脂、油脂包含用基材及びポリオールを含んでなる油脂含有組成物であって、その水分含量が15重量%以下であり、粒子径が最大10mm以下で、かつ平均粒子径が5mm以下、安息角が70°以下であることを特徴とする粉状又は粒状油脂及びその製造方法が開示されている(例えば特許文献1参照。)。該方法により、例えば、油脂としてバターオイルを用いて、粉末状バターを製造することができる。
【特許文献1】特許第2601300号公報
【特許文献2】特開2005−245438号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記(1)の方法により、液状油等を粉末化し、取り扱い性を向上させることができるが、該方法は、油脂特有の風味やコク味等を増強するものではない。このため、例えばバター特有の風味やコク味を十分に発揮させるためには、粉末に十分量のバターオイルを含有させる必要がある。
【0007】
一方、上記(2)の方法のように、酵母エキスをそのまま用いた場合には、飲食品の美味しさを損なわずに甘味とコク味を増強することはできなかった。酵母エキス自体にアミノ酸や核酸等の旨味成分が豊富に含まれているために、飲食品に用いた場合には、旨味が立ってしまい、そのバランスを調整する必要があるからである。さらに、酵母エキスには独特の酵母臭があるため、そもそも飲食品への添加量や使用用途が制限されているという問題もある。
【0008】
本発明は、飲食品のバター特有の風味やコク味の増強効果に優れた酵母エキスを含有するバター風味調味料組成物、該バター風味調味料組成物の製造方法、及び、該バター風味調味料組成物を用いた飲食品のバター風味増強方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、バター風味を有するオイル成分と酵母エキスとを混合させることにより、バター特有の風味やコク味が顕著に向上された粉末状又は顆粒状のバター風味調味料組成物を得られることを見出すことにより、本発明を完成させた。
【0010】
すなわち、本発明は、
(1) バター風味を有するオイル成分及び酵母エキスを含有し、粉末状、顆粒状、又はペースト状であることを特徴とするバター風味調味料組成物、
(2) バター風味を有するオイル成分及び酵母エキスを混合してなることを特徴とする前記(1)記載のバター風味調味料組成物、
(3) バター風味を有するオイル成分、基材、及び酵母エキスを含有し、粉末状、顆粒状、又はペースト状であることを特徴とするバター風味調味料組成物、
(4) バター風味を有するオイル成分、基材、及び酵母エキスを混合してなることを特徴とする前記(3)記載のバター風味調味料組成物、
(5) 前記バター風味を有するオイル成分の含有量が1〜50重量%であることを特徴とする前記(1)〜(4)のいずれかに記載のバター風味調味料組成物、
(6) バター風味調味料組成物中の遊離アミノ酸含有量が0.5重量%以上であることを特徴とする前記(1)〜(5)のいずれかに記載のバター風味調味料組成物、
(7) バター風味調味料組成物中のイノシン酸含有量とグアニル酸含有量の合算値が0.025重量%以上であることを特徴とする前記(1)〜(6)のいずれかに記載のバター風味調味料組成物、
(8) バター風味を有するオイル成分及び酵母エキスを混合し、粉末状、顆粒状、又はペースト状にすることを特徴とする、バター風味調味料組成物の製造方法、
(9) バター風味を有するオイル成分、基材、及び酵母エキスを混合し、粉末状、顆粒状、又はペースト状にすることを特徴とする、バター風味調味料組成物の製造方法、
(10) 前記(1)〜(7)のいずれかに記載のバター風味調味料組成物を配合することを特徴とする、飲食品のバター風味増強方法、
(11) 前記バター風味調味料組成物が0.01〜5重量%となるように配合することを特徴とする、前記(10)記載の飲食品のバター風味増強方法、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明のバター風味調味料組成物は、バター風味を有するオイル成分と酵母エキスとを混合させたものであり、飲食品に添加することにより、バター風味、特にバター特有の香味を損なうことなく、コク味を増強させることができる。このため、本発明のバター風味調味料組成物を飲食品に添加することにより、バター風味を損なうことなく、バターの使用量を低減させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明のバター風味調味料組成物は、バター風味を有するオイル成分(以下、バター風味オイル、という。)及び酵母エキスを含有し、粉末状、顆粒状、又はペースト状であることを特徴とする。バター風味オイルと酵母エキスとを混合させることにより、酵母臭を付加することなく、バター風味を増強させたものである。
【0013】
本発明において、バター風味とは、バター特有の風味やコク味全体を意味する。なお、コク味とは、味の厚みや広がりである。味の厚みとは、単純な基本味ではだせない、複数の呈味成分からなる統一感であり、味の広がりは、口中での持続性である。例えば、食品が本来有している味(風味)の強度や持続性を増し、濃厚感を付与することにより、食品のコク味を増強することができる。また、呈味物質を経口摂取した場合に、経口摂取直後に感じられる味を先味といい、その後に感じられる味を中味といい、時間が経っても残る味を後味という。一般に、食品の中味と後味の厚みと広がりを改善することにより、コク味を増強することができる。
【0014】
本発明のバター風味調味料組成物に用いられるバター風味オイルは、バター風味を有するオイルであれば特に限定されるものでなく、飲食品等に一般的に用いられているものの中から、適宜選択して用いることができる。該バター風味オイルとしては、バターそのものや、バターを単に溶解させて得られた溶解物であってもよく、バター由来成分を原料とした加工品であってもよい。該加工品として、例えば、バターから油分を抽出したもの、バターを酵素処理等することにより、その香味を強化したもの、植物油脂や精製油脂等の液油にバターの香気成分を加えたもの等が挙げられる。本発明において用いられるバター風味オイルは、市販のものを用いてもよく、常法により製造してもよい。
【0015】
本発明のバター風味調味料組成物のバター風味オイルの含有量は、飲食品のバター風味を増強するために十分な量であって、かつ、粉末状又は顆粒状に成形し得る量であれば、特に限定されるものではなく、バター風味オイルの種類や質、酵母エキスの質や量等を考慮して、適宜決定することができる。
【0016】
本発明においては、バター風味オイルと酵母エキスとを混合しているため、バター風味オイルが有するバター風味が、酵母エキスの呈味により増強される。このため、本発明においては、従来の粉末状バターに比べて、バター風味オイルの含有量が低い場合であっても、十分なバター風味を有するバター風味調味料組成物とすることができる。より具体的には、本発明のバター風味調味料組成物は、バター風味オイルの含有量が50重量%以下である場合でも、十分なバター風味を有する。本発明においては、高価なバター風味オイルの使用量を抑えつつ、顕著なバター風味を有する調味料組成物とし得ることから、バター風味調味料組成物におけるバター風味オイルの含有量は、1〜50重量%であることが好ましく、1〜30重量%であることがより好ましく、5〜20重量%であることがさらに好ましい。
【0017】
本発明において酵母エキスとは、酵母が有する様々な成分を抽出したものであり、アミノ酸やペプチド、核酸、ミネラル等が含まれている。また、酵母の種類や培養条件、抽出条件によって、各種成分の含有比を調整することができる。
【0018】
本発明において用いられる酵母エキスの原料となる酵母は、可食性の酵母であれば、特に限定されるものではなく、食品製造の分野において通常用いられている酵母を用いることができる。該酵母として、例えば、パン製造に用いられているパン酵母、食料や飼料等の製造に用いられているトルラ酵母、ビール製造に用いられているビール酵母等がある。増殖性が良好であることから、パン酵母やトルラ酵母であることが好ましく、サッカロマイセス(Saccharomyces)に属する菌やキャンディダ(Candida)に属する菌であることがより好ましく、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)に属する菌やキャンディダ・ユーティリス(Candida utilis)に属する酵母であることが特に好ましい。
【0019】
酵母エキスの原料として、1種類の酵母を用いてもよく、複数種類の酵母を用いてもよい。例えば、サッカロマイセス・セレビシエに属する酵母とキャンディダ・ユーティリスに属する酵母をそれぞれ別個に培養した後に集菌したものを混合した混合菌体から抽出することにより得られた酵母エキスであってもよく、培養した各酵母を別個に抽出することにより得られた酵母エキスを混合することにより得られた酵母エキスであってもよい。なお、酵母の培養は、常法により行うことができる。
【0020】
酵母エキスの抽出方法は、特に限定されるものではなく、酵母等の生物原料からエキスを抽出する際に通常用いられる方法のうち、いずれの方法を用いてもよい。該抽出方法として、例えば、自己消化法、酵素分解法等がある。ここで、自己消化法とは、酵母が本来有している酵素の働きにより、酵母を可溶化し、抽出する方法であり、遊離アミノ酸含有量の多い酵母エキスを得ることができる。一方、酵素分解法とは、熱処理等により、酵母が有する酵素等を不活性化した後、分解酵素を添加して酵母を可溶化し、抽出する方法である。外部から適当な酵素を添加することにより、酵素反応を簡便に制御し得るため、遊離アミノ酸や核酸の含有量を調整することができる。
【0021】
酵素分解法において用いられる酵素は、通常生体成分を分解する際に用いられる酵素であれば、特に限定されるものではなく、任意の酵素を用いることができる。該酵素として、例えば、酵母の細胞壁を分解し得る酵素、タンパク質分解酵素、核酸分解酵素等があり、これらを適宜併用することにより、酵母から各種成分を効率よく抽出することができる。
【0022】
該タンパク質分解酵素として、エンド型プロテアーゼとエキソ型プロテアーゼを併用することがより好ましい。酵母エキス中の遊離アミノ酸含量を多くすることができるためである。また、該核酸分解酵素として、5’−ホスホジエステラーゼを用いることがより好ましい。核酸成分のうち、主な呈味成分である5’−リボヌクレオチド類の酵母エキス中の含量を多くすることができるためである。
【0023】
本発明において用いられる酵母エキス中の遊離アミノ酸含有量は、特に限定されるものではなく、遊離アミノ酸含有量の多い酵母エキスを用いてもよく、遊離アミノ酸含有量の少ない酵母エキスを用いてもよい。本発明においては、バター風味調味料組成物中の、酵母エキス由来の遊離アミノ酸量が多いほど、バター風味オイルが有するバター風味に対する増強効果が強い。このため、用いる酵母エキスの遊離アミノ酸含有量を考慮して、バター風味調味料組成物への配合量を決定することにより、いずれの酵母エキスを用いた場合であっても、十分なバター風味増強効果が得られる。
【0024】
本発明において用いられる酵母エキスとしては、遊離アミノ酸含有量が5重量%以上の酵母エキスを用いることが好ましく、10重量%以上の酵母エキスを用いることがより好ましい。遊離アミノ酸含有量が5重量%以上と多い酵母エキスを用いることにより、より少量の酵母エキスをバター風味調味料組成物へ配合することによって、十分なバター風味増強効果を得ることができる。
【0025】
本発明において用いられる酵母エキスの核酸含有量は、特に限定されるものではなく、自己消化型酵母エキスのように核酸をほとんど含まない酵母エキスであってもよく、特定の酵素を用いて調製した酵素分解型酵母エキスのように核酸含有量の多い酵母エキスであってもよい。
【0026】
本発明において用いられる酵母エキスとして、核酸含有量の多い酵母エキスを原料として用いた場合には、バター風味オイルが有するバター風味に対する増強効果が増強されることに加え、味にまるみがでて、広がりのあるコク味となり、後味がさらに良好になる。特に、中味〜後味に強い濃厚感(コク味)が付与され、それに伴いバター風味が強く増強される。なお、このような効果が得られる理由は明らかではないが、遊離アミノ酸含有量と核酸含有量の双方が高い酵母エキスを用いることにより、本来の遊離アミノ酸による先味のコク味に加えて、該遊離アミノ酸中に含まれるグルタミン酸を主とした旨味成分と、イノシン酸やグアニル酸等の核酸との相乗効果により、さらにバター風味の中味、及び後伸びを助長する傾向が観察されるのではないかと推察される。
【0027】
核酸含有量の多い酵母エキスの中でも、旨味を有する核酸系呈味物質である5’−リボヌクレオチド類の含有量が多い酵母エキスが好ましい。該5’−リボヌクレオチド類として、例えば、5’−イノシン酸、5’−グアニル酸、5’−アデニル酸、5’−ウラジル酸、5’−シチジル酸、及び、これらの金属塩等があるが、イノシン酸及びグアニル酸の合計量、すなわち、酵母エキス中に含まれている5’−イノシン酸、5’−グアニル酸、及び、これらの金属塩等の合計量が多い酵母エキスであることがより好ましい。5’−リボヌクレオチド類のうち、イノシン酸とグアニル酸が呈味に強い影響を与える核酸であるためである。特に、酵母エキス中のイノシン酸含有量とグアニル酸含有量の合算値(以下、IG核酸含量という。)が0.25重量%以上であることがより好ましく、0.5重量%以上であることがさらに好ましい。
【0028】
本発明のバター風味調味料組成物に含有される酵母エキスは、1種類の酵母エキスであってもよく、複数種類の酵母エキス混合物であってもよい。複数種類の酵母エキス混合物を用いる場合には、上述した酵母エキス中の好ましい遊離アミノ酸含有量や核酸含有量は、該酵母エキス混合物全体として好ましい範囲のものであればよい。
【0029】
本発明のバター風味調味料組成物の酵母エキスの含有量は、酵母エキス特有の味や酵母臭等による影響を及ぼすことなく、バター風味オイルが有するバター風味を増強し得る量であれば、特に限定されるものではなく、酵母エキスの質や量、バター風味オイルの種類や質等を考慮して、適宜決定することができる。本発明においては、酵母臭や酵母特有の呈味による影響を抑えつつ、十分なバター風味増強効果が得られることから、バター風味調味料組成物中の酵母エキスの含有量が1〜50重量%であることが好ましく、1〜30重量%であることがより好ましく、5〜20重量%であることがさらに好ましい。
【0030】
本発明においては、特に、酵母エキス含有量を、バター風味調味料組成物中の遊離アミノ酸含有量が0.5重量%以上となるように規定することが好ましく、1重量%以上となるように規定することがより好ましく、1.5重量%以上となるように規定することがさらに好ましい。また、バター風味調味料組成物中のIG核酸含量が0.025重量%以上となるように規定することが好ましく、0.04重量%以上となるように規定することがより好ましく、0.08重量%以上となるように規定することさらに好ましい。
【0031】
本発明のバター風味調味料組成物は、バター風味オイル、基材、及び酵母エキスを含有し、粉末状、顆粒状、又はペースト状であってもよい。バター風味オイルと酵母エキスとを、基材と共に混合させることにより、酵母臭を付加することなくバター風味を増強させることができるという効果に加えて、バター風味調味料組成物を、特に粉末状又は顆粒状により効率よく成形することができる、という効果を奏する。
【0032】
本発明において、基材とは、バター風味オイルと酵母エキスと共に混合攪拌することにより、該混合物を粉末状、顆粒状、又はペースト状に成形するための基材をいう。本発明で用いる基材としては、食品に用いるものであり、かつ、水に容易に分散する物質であって、バター風味オイルの全量又は一部を包蔵又は含浸させ得るものであれば、特に限定されるものではない。
【0033】
該基材として、具体的には、植物タンパク質、動物タンパク質、ゼラチン、カゼイン、カゼインナトリウム、ホエータンパク、アルブミン等の親水性タンパク質、澱粉、化工澱粉(酸分解澱粉、酸化澱粉、α化澱粉、グラフト化澱粉、カルボキシメチル基、ヒドロキシアルキル基等を導入したエーテル化澱粉、酢酸、リン酸等を反応させたエステル化澱粉、2ケ所以上の水酸基間に多官能基を結合させた架橋澱粉、湿熱処理澱粉等)、結晶セルロース、アルギン酸塩、アラビアゴム、グアーガム、キサンタンガム、ペクチン、カルボキシメチルセルロース、アガロース等の親水性多糖類、HAP、HVP等のタンパク部分加水分解物、デキストリン、オリゴ糖等の澱粉部分加水分解物、グルタミン酸、リジンに代表される親水性アミノ酸またはその塩、乳糖に代表される糖類、酢酸、クエン酸、コハク酸、アジピン酸等の有機酸またはその塩、5’−イノシン酸ナトリウム、5’−グアニル酸ナトリウムに代表されるヌクレオチドまたはその塩、および塩化ナトリウム、塩化カリウム等の通常の食品に使用される塩類等が挙げられる。本発明で用いる基材としては、これらの1種類のみを用いてもよく、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0034】
本発明のバター風味調味料組成物に用いられる基材としては、上記で挙げられたもののうち、親水性多糖類、澱粉部分加水分解物等であることが好ましく、澱粉、結晶セルロース、デキストリン等であることがより好ましく、結晶セルロース又はデキストリンであることがさらに好ましく、デキストリンであることが特に好ましい。
【0035】
本発明のバター風味調味料組成物においては、本発明の効果を損なわない限り、塩類、糖類、安定剤(カゼインナトリウム、キサンタンガム)、乳化剤、酸化防止剤、香料等の固形成分を配合することができる。このような成分を添加することにより、さらに、粉末化や顆粒化が容易になることがある。
【0036】
本発明のバター風味調味料組成物は、バター風味オイル及び酵母エキスを混合し、粉末状、顆粒状、又はペースト状にすることにより、製造することができる。
添加されるバター風味オイルの形状は特に限定されるものではなく、液状のものであってもよく、粉末状のものであってもよい。また、添加される酵母エキスも、パウダー状のものであってもよく、ウェット状のものであってもよい。
【0037】
また、基材を含む本発明のバター風味調味料組成物は、バター風味オイル、基材、及び酵母エキスを混合し、粉末状、顆粒状、又はペースト状にすることにより、製造することができる。これら全てを同時に混合してもよく、これらを順次混合してもよい。たとえば、バター風味オイルと基材とを混合させた後、酵母エキスをさらに添加して混合してもよく、バター風味オイルと酵母エキスとを混合させた後、基材をさらに添加して混合してもよい。
【0038】
本発明のバター風味調味料組成物の製造において、バター風味オイルと酵母エキスとの混合撹拌や、バター風味オイルと基材と酵母エキスとの混合撹拌に用いる機器は、通常の食品製造工程上用いる混合機、混練機または造粒機等が使用でき、特に限定されない。具体的には、リボンブレンダー、スクリユーミキサー、ドウミキサー、擂潰機、各種ニーダー、及び混合造粒機、流動層造粒機、押出し造粒機等が挙げられる。混合時間は、スケールや使用する原料等を考慮して、適宜設定して行うことができる。
【0039】
本発明のバター風味調味料組成物の製造において、高速撹拌造粒機、撹拌翼付流動層造粒機等を用いることにより、平均粒径が200〜1000μmの比較的粒度の揃った粉末状又は顆粒状のバター風味調味料組成物を得ることができる。用いる機器または用途によっては、粉粒化後、ふるい分けによって、希望する粒度範囲のものを用いることも可能である。また、1〜5mmの粒状の揃った定型顆粒を欲する場合には、前述のように均一混合した後、押し出し造粒すればよい。
【0040】
本発明の飲食品のバター風味増強方法は、本発明のバター風味調味料組成物を飲食品に配合することを特徴とする。本発明のバター風味調味料組成物の、飲食品への配合量は、該飲食品のバター風味を増強し得る量であれば、特に限定されるものではなく、配合される飲食品の種類、バター風味調味料組成物のバター風味オイル含有量や酵母エキス含有量、含有されている酵母エキスの遊離アミノ酸量や核酸量等を考慮して、適宜決定することができる。例えば、飲食品に対して、バター風味調味料組成物が0.01〜5重量%、好ましくは0.01〜0.5重量%となるように配合することができる。
【0041】
本発明のバター風味調味料組成物は、粉末状、顆粒状、又はペースト状であるため、他の粉類調味料やペースト状調味料等と同様に、飲食品に配合することができる。本発明のバター風味調味料組成物としては、特に、より取り扱い性に優れ、飲食品への配合がより簡便にできるため、粉末状又は顆粒状であることが好ましい。さらに、粉末状又は顆粒状とした場合には、本発明のバター風味調味料組成物は、水分を添加することにより容易に崩壊し得るため、加水時の油の分離が速やかに起こり、乳化白濁が生じ難い。これにより、飲食品に添加させた場合に、バター風味オイルの香味が引き立ち、よりバター風味を増強することができる。
【0042】
本発明の飲食品のバター風味増強方法に供される飲食品の種類は、バター風味を有することが好まれる飲食品であれば、特に限定されるものではなく、そのまま喫食される飲食品であってもよく、他の飲食品の原料となるものであってもよい。
【0043】
本発明のバター風味調味料組成物は、バターやチーズ等の乳製品や該乳製品を原料とする飲食品等の様々な飲食品に配合することができる。このような飲食品として、具体的には、バター又はバター加工品;マーガリン、ショートニング等のバター代替品;チーズ又はチーズ加工品;牛乳、ヤギ乳、豆乳等の乳類;脱脂粉乳、ヨーグルト等の乳製品;バターフレーバー、チーズフレーバー、ミルクフレーバー等の香料等が挙げられる。
【0044】
本発明のバター風味調味料組成物は、ラーメンスープ、コーンスープ、ビシソワーズスープ等のスープ類;鍋つゆ、ホワイトソース、デミグラスソース、ミートソース等のたれ・つゆ・ソース類;ピラフ、炊き込みご飯、リゾット、混ぜご飯等の米飯類;オムレツ、スクランブルエッグ、茶碗蒸し等の卵料理類;パン、パンケーキ、蒸しパン等のパン及びパン様類;チップス、クラッカー、プレッツェル、パフ等の菓子類の生地;スプレッド、チーズクリーム、チーズスプレッド、ピーナツスプレッド、カレーフィリング等のパン類や菓子類等のフィリング類;シーズニング等の調味粉類;ハンバーグ等の肉惣菜類、ムニエル等の魚惣菜類、バターソテー等の野菜料理類、コロッケ、煮込み、豆惣菜等の惣菜類等に配合することも好ましい。
【実施例】
【0045】
次に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、以下において、特段の記載がない限り、「%」は重量%を意味する。
【0046】
[試作例1:バター風味オイルの作製]
常温に放置しておいたバター(雪印乳業社製)を60℃まで加熱することにより溶解させた。得られた溶解物を、バター風味オイルとした。
【0047】
[実施例1]
酵母エキスとしてイーストエキス21−A(ジェイティフーズ社製)及びイーストエキス21−TF(ジェイティフーズ社製)を、基材としてデキストリンを、それぞれ用いて、バター風味調味料組成物を製造した。
具体的には、まず、イーストエキス21−TF及びイーストエキス21−Aを、1:2の割合で混合した酵母エキス混合物を調製した。各酵母エキス及び該酵母エキス混合物の遊離アミノ酸含有量及びIG核酸含量を表1に示す。
【0048】
【表1】

【0049】
次に、表2記載の配合量にて、前記試作例にて得られたバター風味オイル、前記で調製した酵母エキス混合物、デキストリン(MAX 1000、松谷化学社製)を、適当量の水に添加し、60℃に加熱して攪拌し、均一に混合した後、80℃で20分間殺菌処理を施し、冷却した。この冷却した混合物を、連続真空乾燥により乾燥させた後、解砕し、ふるい分けして、平均粒径が200〜1000μmのバター風味調味料組成物(以下、バターパウダーという)を得た。
【0050】
【表2】

【0051】
[実施例2]
表3に記載の配合量にて、バターを配合したクッキー(対照P)と、バターに換えてショートニングを配合したクッキー(対照N)と、バターに換えてショートニングと実施例1において製造したバターパウダーを配合したクッキー(試料A)と、を常法により製造し、得られたクッキーのバター風味をそれぞれ評価した。
評価結果を表3に示す。表中、「○」はバター風味が良好であったことを示し、「△」はバター風味が弱かったことを示す。
【0052】
【表3】

【0053】
ショートニングを配合したクッキー(対照N)は、バターを配合したクッキー(対照P)と比べてバター風味が弱いことが確認された。これに対して、バターパウダーを配合したクッキー(試料A)は、バターを配合していないにもかかわらず、バターを配合したクッキー(対照P)と同様に好ましいバター風味を有していた。
つまり、これらの結果から、本発明のバター風味調味料組成物を配合することにより、バターに換えてバター代替品を用いた飲食品のバター風味を顕著に増強し得ることが明らかである。
【0054】
[実施例3]
塩バターラーメンスープに、実施例1において製造したバターパウダーを配合し、バター風味増強効果を調べた。
無塩バター0.5%を配合した通常の塩バターラーメンスープ(対照P)と、この塩バターラーメンスープ(対照P)にさらにバターパウダーを0.05%配合した塩バターラーメンスープ(試料B)と、塩バターラーメンスープ(対照P)のバターを50%減らしてバターパウダーを0.05%配合した塩バターラーメンスープ(試料C)とを、常法により製造し、得られた塩バターラーメンスープのバター風味をそれぞれ評価した。
評価結果を表4に示す。表中のバターパウダー欄において、「+」は配合したことを、「−」は配合していないことをそれぞれ示す。また、評価欄において、「○」はバター風味が有ることを、「◎」はバター風味が「○」よりも強いことを、それぞれ示している。塩バターラーメンスープ(対照P)では、全体がバターによって丸みを帯び、なめらかなコクとバターの香りが持続していた。一方、塩バターラーメンスープ(試料B)では、先〜中味において、バターの香りとコクが増し、濃厚感が増していた。さらに、塩バターラーメンスープ(試料C)では、バターの香りは塩バターラーメンスープ(対照P)ほど認識されないまでも、乳製品様のコク味とまろやかさは同等に付与されていた。
この結果から、本発明のバター風味調味料組成物は、バターを含有する飲食品に対して配合することにより、バター風味をより増強し得ること、及び、本発明のバター風味調味料組成物を配合することにより、バター風味を犠牲にすることなく、バターの配合量を低減できることが明らかである。
【0055】
【表4】

【0056】
[実施例4]
食パンに、実施例1において製造したバターパウダーを配合し、バター風味増強効果を調べた。
バター3.8%を配合した通常の食パン(対照P)と、この食パン(対照P)にさらにバターパウダーを0.19%配合した食パン(試料B)と、食パン(対照P)のバターを50%減らしてバターパウダーを0.19%配合した食パン(試料C)とを、常法により製造し、得られた食パンのバター風味をそれぞれ評価した。
評価結果を表5に示す。表中のバターパウダー欄及び評価欄の記載は表4と同様である。食パン(対照P)では、ごく一般的な食パンの風味がしたが、食パン(試料B)では、かむほどに甘みとコク味が感じられ、乳製品特有の味の丸みも付与されていた。また、粉くささも軽減されていた。これに対して、食パン(試料C)では、バター配合量を軽減したにもかかわらず、食パン(試料B)と同様に、かむほどに甘みとコク味が感じられ、乳製品特有の味の丸みも付与されており、かつ粉くささも軽減されていた。つまり、食パン(試料C)では、バターを減量したデメリットをカバーし、なおかつ食パン(対照P)を上回る味質であった。
【0057】
【表5】

【0058】
[実施例5]
ホワイトソースに、実施例1において製造したバターパウダーを配合し、バター風味増強効果を調べた。
無塩バター0.5%を配合した通常のホワイトソース(対照P)と、このホワイトソース(対照P)にさらにバターパウダーを0.1%配合したホワイトソース(試料B)とを、常法により製造し、得られたホワイトソースのバター風味をそれぞれ評価した。
評価結果を表6に示す。表中のバターパウダー欄及び評価欄の記載は表4と同様である。ホワイトソース(対照P)では、ごく一般的なホワイトソースの風味がしたが、ホワイトソース(試料B)では、乳製品特有の味の丸みとコクが付与されており、濃厚感がアップしていた。
【0059】
【表6】

【0060】
[実施例6]
じゃがバタシーズニングパウダーに、実施例1において製造したバターパウダーを配合し、バター風味増強効果を調べた。
バターオイル1.0%を配合した通常のじゃがバタシーズニングパウダー(対照P)と、このじゃがバタシーズニングパウダー(対照P)にさらにバターパウダーを0.5%配合したじゃがバタシーズニングパウダー(試料B)と、じゃがバタシーズニングパウダー(対照P)のバターオイルを50%減らしてバターパウダーを0.5%配合したじゃがバタシーズニングパウダー(試料C)とを、常法により製造し、得られたじゃがバタシーズニングパウダーのバター風味をそれぞれ評価した。
評価結果を表7に示す。表中のバターパウダー欄及び評価欄の記載は表4と同様である。じゃがバタシーズニングパウダー(対照P)は、バターの香り、まろやかな風味をもっていた。また、バターの風味は先に現れ、後味は途切れていた。これに対して、じゃがバタシーズニングパウダー(試料B)では、バターの風味とコク味が付与され、全体にまろやかになっていた。また、じゃがバタシーズニングパウダー(対照P)と比較して、塩カドも軽減され、持続性のある濃厚感が付与されていた。一方、じゃがバタシーズニングパウダー(試料C)では、じゃがバタシーズニングパウダー(試料B)と同様に、バター様のコク味と甘みを帯びた旨味が増強されており、塩カドも軽減され、乳製品様のまろやかな味が持続していた。
【0061】
【表7】

【0062】
[実施例7]
プロセスチーズに、実施例1において製造したバターパウダーを配合し、バター風味増強効果を調べた。
通常のプロセスチーズ(対照P)と、このプロセスチーズ(対照P)にさらにバターパウダーを0.2%配合したプロセスチーズ(試料B)と、プロセスチーズ(対照P)のチーズを25%減らしてバターパウダーを0.2%配合したプロセスチーズ(試料C)とを、常法により製造し、得られたプロセスチーズをそれぞれ評価した。
評価結果を表8に示す。表中のバターパウダー欄及び評価欄の記載は表4と同様である。プロセスチーズ(対照P)はごく一般的な薄味チーズの味がしたが、プロセスチーズ(試料B)では、プロセスチーズ(対照P)よりも濃厚感・熟成感が増し、全体に味に丸みがでてまろやかになり、カマンベールチーズ様になった。一方、プロセスチーズ(試料C)では、水の含有量が増したにもかかわらず、プロセスチーズ(対照P)と比較してコク味や乳感は劣っておらず、むしろコク味はプロセスチーズ(試料B)と比較しても強く感じられた。
これらの結果から、本発明のバター風味調味料組成物を配合することにより、チーズの風味やコク味をも増強し得ることが明らかである。これは、バターとチーズがもともと同じ乳から製造される乳製品であり、特有の風味が近似しているためと推察される。
【0063】
【表8】

【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明のバター風味調味料組成物を飲食品に添加することにより、バター風味を損なうことなく、バターの使用量を低減させることができるため、特に飲食品の製造分野等で利用が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バター風味を有するオイル成分及び酵母エキスを含有し、粉末状、顆粒状、又はペースト状であることを特徴とするバター風味調味料組成物。
【請求項2】
バター風味を有するオイル成分及び酵母エキスを混合してなることを特徴とする請求項1記載のバター風味調味料組成物。
【請求項3】
バター風味を有するオイル成分、基材、及び酵母エキスを含有し、粉末状、顆粒状、又はペースト状であることを特徴とするバター風味調味料組成物。
【請求項4】
バター風味を有するオイル成分、基材、及び酵母エキスを混合してなることを特徴とする請求項3記載のバター風味調味料組成物。
【請求項5】
前記バター風味を有するオイル成分の含有量が1〜50重量%であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のバター風味調味料組成物。
【請求項6】
バター風味調味料組成物中の遊離アミノ酸含有量が0.5重量%以上であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のバター風味調味料組成物。
【請求項7】
バター風味調味料組成物中のイノシン酸含有量とグアニル酸含有量の合算値が0.025重量%以上であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のバター風味調味料組成物。
【請求項8】
バター風味を有するオイル成分及び酵母エキスを混合し、粉末状、顆粒状、又はペースト状にすることを特徴とする、バター風味調味料組成物の製造方法。
【請求項9】
バター風味を有するオイル成分、基材、及び酵母エキスを混合し、粉末状、顆粒状、又はペースト状にすることを特徴とする、バター風味調味料組成物の製造方法。
【請求項10】
請求項1〜7のいずれかに記載のバター風味調味料組成物を配合することを特徴とする、飲食品のバター風味増強方法。
【請求項11】
前記バター風味調味料組成物が0.01〜5重量%となるように配合することを特徴とする、請求項10記載の飲食品のバター風味増強方法。

【公開番号】特開2010−124819(P2010−124819A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−306812(P2008−306812)
【出願日】平成20年12月1日(2008.12.1)
【出願人】(000140650)テーブルマーク株式会社 (55)
【Fターム(参考)】