説明

バランス型弾性波フィルタ

【課題】平衡−不平衡変換機能を有する縦結合共振子型弾性表面波フィルタにおいて、通過帯域内において現れる所望でないリップルを効果的に抑圧することが可能とされている構造を得る。
【解決手段】第1,第3及び第5のIDT11,13,15の一端が不平衡信号端子5に、第2,第4のIDT12,14がそれぞれ第1,第2の平衡信号端子6,7に接続され、第2のIDT12の両側の最外側電極指と、第1,第3のIDT11,13の最外側電極指と、第4のIDT14の最外側電極指とがア−スに接続される電極指またはシグナル電極指とされ、IDT13,15の最外側電極指がシグナル電極指またはアース電位に接続される電極指とされ、IDT13,14同士が隣接する部分において、最外側電極指14aに直列重み付けが施され、IDT14,15同士が隣接する部分において、最外側電極指14bに直列重み付が施されている、弾性表面波フィルタ装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性表面波や弾性境界波などの弾性波を用いた、平衡−不平衡変換機能を有するバランス型弾性波フィルタに関し、より詳細には、5IDT型の縦結合共振子型のバランス型弾性波フィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話機の小型化に伴って、携帯電話機のRF段に使用される帯域フィルタとして、平衡−不平衡変換機能を有する弾性表面波フィルタが求められている。それに伴って、高周波化に対応でき、かつ平衡−不平衡変換機能の要求に容易に対応し得るため、縦結合共振子型の弾性表面波フィルタがRF段の帯域フィルタとして広く用いられてきている。
【0003】
このような平衡−不平衡変換機能を有する弾性表面波フィルタの一例として、下記の特許文献1には、5個のIDTが表面波伝搬方向に配置されている縦結合共振子型の弾性表面波フィルタが開示されている。
【0004】
図14は、特許文献1に記載の弾性表面波フィルタの電極構造を示す模式的平面図である。弾性表面波フィルタ201では、圧電基板上に図示の電極構造が形成されている。すなわち、不平衡信号端子202に接続されるように、1ポ−ト型SAW共振子211が配置されている。1ポ−ト型SAW共振子211は、IDT212と、IDT212の表面波伝搬方向両側に配置された反射器213,214とを有する。
【0005】
IDT212の不平衡信号端子202と接続されている側とは反対側の端部が、5IDT型の縦結合共振子型弾性表面波フィルタ部220に接続されている。弾性表面波フィルタ部220は、表面波伝搬方向に配置された第1〜第5のIDT221〜225を有する。IDT221〜225が配置されている領域の表面波伝搬方向両側に第1,第2の反射器226,227が配置されている。
【0006】
第1,第3,第5のIDT221,223,225の一端が、SAW共振子211のIDT212にそれぞれ接続されている。IDT221,223,225の他端はア−ス電位に接続されている。また、第2,第4のIDT222,224の一端が第1,第2の平衡端子203,204にそれぞれ接続されている。IDT222,224の他端はア−ス電位に接続されている。
【0007】
ここでは、第2のIDT222の位相と、第4のIDT224の位相とが反転されており、従って、平衡−不平衡変換機能を有する縦結合共振子型弾性表面波フィルタ部220が構成されている。
【特許文献1】特開2001−313540
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載の弾性表面波フィルタ201は、通過帯域内における挿入損失が小さく、終端インピ−ダンスの構成が容易であるという利点を有する。しかしながら、弾性表面波フィルタ201では、設計パラメ−タによっては、通過帯域内に無視できないリップルが現れるという問題があった。
【0009】
本発明の目的は、上述した従来技術の現状に鑑み、平衡−不平衡変換機能を有する5IDT型の縦結合共振子型弾性波フィルタであって、通過帯域内のリップルを低減することが可能とされている弾性波フィルタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願の第1の発明は、圧電基板と、前記圧電基板上において弾性波伝搬方向に沿って配置された第1〜第5のIDTと、前記第1〜第5のIDTが設けられている部分の弾性波伝搬方向両側に配置された第1,第2の反射器とを備え、前記第1,第3及び第5のIDTの一端が不平衡信号端子に接続されており、前記第2のIDTの一端が第1の平衡信号端子に、前記第4のIDTの一端が第2の平衡信号端子に接続されており、平衡−不平衡変換機能を有する弾性波フィルタにおいて、前記第2のIDTの弾性波伝搬方向両側に位置している最外側電極指と、第1,第3のIDTの第2のIDTと隣り合う最外側電極指とがアース電位に接続される電極指とされており、前記第4のIDTの弾性波伝搬方向両側に位置する最外側電極指がアース電位に接続される電極指またはシグナル電極指とされており、前記第3,第5のIDTの第4のIDTと隣り合う最外側電極指がシグナル電極指またはアース電位に接続される電極指とされており、前記第4のIDTの前記第3のIDTと隣り合っている最外側電極指、及び第3のIDTの前記第4のIDTと隣り合っている側の最外側電極指の内の一方に直列重み付けが施されており、前記第4のIDTの前記第5のIDTと隣り合っている最外側電極指及び前記第5のIDTの第4のIDTと隣り合っている最外側電極指の内の一方において直列重み付けが施されていることを特徴とする。
【0011】
本願の第2の発明は、圧電基板と、前記圧電基板上において弾性波伝搬方向に沿って配置された第1〜第5のIDTと、前記第1〜第5のIDTが設けられている領域の弾性波伝搬方向両側に沿って配置された反射器とを備え、前記第2,第4のIDTの一端が不平衡信号端子に接続されており、前記第3のIDTの一端が2分割されて、第1,第2の分割IDT部が形成されており、第1のIDTの一端及び第3のIDTの第1の分割IDT部が第1の平衡信号端子に接続されており、前記第5のIDTの一端及び前記第3のIDTの第2の分割IDT部が第2の平衡信号端子に接続されており、平衡−不平衡変換機能を有する縦結合共振子型の弾性波フィルタにおいて、前記第2のIDTの弾性波伝搬方向両側に位置している最外側電極指と、第1,第3のIDTの第2のIDTと隣り合う側に位置している最外側電極指とがアース電位に接続される電極指とされており、前記第4のIDTの弾性波伝搬方向両側の最外側電極指がシグナル電極指またはアース電位に接続される電極指とされており、第3,第5のIDTの第4のIDTと隣り合う側の最外側電極指がアース電位に接続される電極指またはシグナル電極指とされており、第4のIDTの第3のIDTと隣り合う側の最外側電極指及び第3のIDTの第4のIDTと隣り合う側の最外側電極指の内の一方が直列重み付けされており、かつ第4のIDTの第5のIDTと隣り合う側の最外側電極指及び第5のIDTの第4のIDTと隣り合う側の最外側電極指の内の一方に直列重み付けが施されていることを特徴とする。
【0012】
第1,第2の発明、すなわち、本発明のある特定の局面では、前記不平衡信号端子と、前記第1,第3,第5のIDTとの間に接続された1ポート型弾性波共振子がさらに備えられている。
【0013】
また、本発明に係る弾性波フィルタの他の特定の局面では、上記弾性波として弾性表面波が用いられ、それによって本発明に従った弾性表面波フィルタが構成される。
【0014】
本発明のさらに他の特定の局面では、弾性波として弾性境界波が用いられ、それによって、本発明に従った弾性境界波フィルタが提供される。
【発明の効果】
【0015】
第1の発明では、第1〜第5のIDTが弾性波伝搬方向に配置された5IDT型の縦結合共振子型の弾性波フィルタにおいて、第2のIDTの弾性波伝搬方向両側に位置している最外側電極指と、第2のIDTと隣り合っている、第1,第3のIDTの最外側電極指とがア−ス電位に接続される電極指とされており、第4のIDTの両側の最外側電極指がア−ス電位に接続される電極指またはシグナル電極指とされており、第3,第5のIDTの第4のIDTと隣り合う最外側電極指がシグナル電極指またはアース電位に接続される電極指とされている。すなわち、2つのIDTが弾性波伝搬方向に隣接する部分において、一方のIDTの該隣接する部分に臨む最外側電極子と、他方のIDTの該隣接する部分に臨む最外側電極指の双方がシグナル電極指とならないように、第1〜第5のIDTの電極指の本数が決定されている。
【0016】
そして、第4のIDTの第3のIDTと隣り合っている最外側電極指、及び第3のIDTの第4のIDTと隣り合っている側の最外側電極指の内の一方に直列重み付けが施されており、第4のIDTの第5のIDTと隣り合っている最外側電極指及び第5のIDTと第4のIDTと隣り合っている最外側電極指の内の一方において直列重み付けが施されている。すなわち、IDT同士が隣接する部分において、シグナル電極指またはアース電位に接続される電極指である最外側電極指と、ア−ス電極指またはシグナル電極指である最外側電極指とが隣接し合っている部分において、一方の最外側電極指に直列重み付けが施されている。
【0017】
従って、後述の具体的な実施例から明らかように、通過帯域内におけるリップルを効果的に低減することができ、良好なフィルタ特性を得ることができる。
【0018】
第2の発明に係る弾性波フィルタでは、第1〜第5のIDTが弾性波伝搬方向に沿って配置されており、第2,第4のIDTの一方の端子が不平衡信号端子に接続されており、第3のIDTが弾性波伝播方向に2分割された第1,第2の分割IDT部を有し、第1のIDTの一端及び第3のIDTの第1の分割IDT部が第1の平衡信号端子に、第5のIDT及び第3のIDTの第2の分割IDT部が第2の平衡信号端子に接続されている、平衡−不平衡変換機能を有する5IDT型の縦結合共振子型の弾性波フィルタにおいて、第2のIDTの弾性波伝搬方向両側に位置している最外側電極指と、第1,第3のIDTの第2のIDTと隣り合う側に位置している最外側電極指とがア−ス電位に接続される電極指とされており、第4のIDTの両側の最外側電極指がシグナル電極指またはアース電位に接続される電極指とされており、第3,第5のIDTの第4のIDTと隣り合う側の最外側電極指がア−ス電位に接続される電極指またはシグナル電極指とされている。従って、第2の発明においても、IDT同士が隣接する部分において、該隣接する部分に臨む最外側電極指の双方がシグナル電極指とならないように第1〜第5のIDTの電極指の本数が決定されている。
【0019】
また、第4のIDTの第3のIDTと隣り合う側の最外側電極指及び第3のIDTの第4のIDTと隣り合う側の最外側電極指の内の一方が直列重み付けされており、かつ第4のIDTの第5のIDTと隣り合う側の最外側電極指及び第5のIDTの第4のIDTと隣り合う側の最外側電極指の一方に直列重み付けが施されているため、すなわち、IDT同士が隣接する部分であって、隣り合う最外側電極指の組み合わせがシグナル電極指とア−ス電極指となる部分において、一方のIDTの該最外側電極指に直列重み付けが施されている。
【0020】
よって、第2の発明においても、通過帯域内におけるリップルを効果的に低減することができ、良好なフィルタ特性を得ることができる。
【0021】
本発明において、不平衡信号端子との間に接続された1ポ−ト型弾性波共振子をさらに備える場合には、通過帯域高域側ごく近傍の減衰量を大きくすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、図面を参照しつつ、本発明の具体的な実施形態を説明することにより、本発明を明らかにする。
【0023】
図1は、本発明の第1の実施形態に係る弾性表面波フィルタ装置を示す模式的平面図である。
【0024】
本実施形態及び後述の第2の実施形態では、不平衡信号端子のインピ−ダンスが50Ω、平衡信号端子におけるインピ−ダンスが150ΩであるEGSM受信用帯域フィルタとして用いられる弾性表面波フィルタ装置を例にとり説明する。
【0025】
弾性表面波フィルタ装置1は、圧電基板2を有する。圧電基板2は、適宜の圧電材料から構成され得るが、本実施形態では、40±5°YcutX伝播LiTaO3基板が用いられている。
【0026】
圧電基板2上に、図示の電極構造を形成することにより、1ポ−ト型SAW共振子3,4及び縦結合共振子型弾性表面波フィルタ部10が構成されている。
【0027】
縦結合共振子型弾性表面波フィルタ部10では、表面波伝搬方向に沿って第1〜第5のIDT11〜15が配置されている。IDT11〜15が設けられている領域の表面波伝搬方向両側には第1,第2の反射器16,17が配置されている。
【0028】
第1,第3,第5のIDT11,13,15の各一端が接続点18において共通接続されている。接続点18は、1ポ−ト型SAW共振子3を介して不平衡信号端子5に接続されている。すなわち、1ポ−ト型SAW共振子3は、不平衡信号端子5と縦結合共振子型弾性表面波フィルタ部10との間に直列に接続されている。また、不平衡信号端子5とア−ス電位との間に、1ポ−ト型SAW共振子4が接続されている。
【0029】
1ポ−ト型SAW共振子3は、IDT3aと、IDT3aの表面波伝搬方向両側に配置された反射器3b,3cとを有する。1ポ−ト型SAW共振子4も同様に、IDT4aと、IDT4aの表面波伝搬方向両側に配置された反射器4b,4cとを有する。
【0030】
他方、縦結合共振子型弾性表面波フィルタ部10では共通接続点18と接続されている側と反対側の第1,第3,第5のIDT11,13,15の端部はア−ス電位に接続されている。また、第2,第4のIDT12,14の一端が、それぞれ、第1,第2の平衡信号端子,6,7に接続されており、各他端がア−ス電位に接続されている。
【0031】
なお、SAW共振子3,4及び縦結合共振子型弾性表面波フィルタ部10の各IDTや反射器の電極指の本数は、実際の数よりは少なく、模式的に図示していることを指摘しておく。
【0032】
また、上記電極構造は、Alにより形成されているが、本発明の弾性波フィルタにおける電極は、Al合金やAl以外の金属もしくは合金を用いて形成されてもよく、また、複数の金属膜を積層した構造であってもよい。
【0033】
なお、本実施形態では、IDT11〜15の電極構造は模式的に示されているが、実際には、IDT11〜15において、IDT同士が隣り合っている部分に臨む複数本の電極指が、当該IDTの残りの中央部分の電極指よりも電極指ピッチが狭い狭ピッチ電極指部を構成するように形成されている。狭ピッチ電極指部は、例えば、特開2002−9588に開示されているように、本願出願前より公知の構成であり、狭ピッチ電極指部をIDT同士が隣り合っている部分に設けることにより、IDT間の不連続性を小さくすることができる。そのため、狭ピッチ電極指部を設けることにより、挿入損失を小さくすることが可能となる。
【0034】
本実施形態の弾性表面波フィルタ装置1の特徴は、縦結合共振子型弾性表面波フィルタ部10において、IDT同士の隣り合っている部分において、隣接し合っている最外側電極指の双方がシグナル電極とはならないようにIDT11〜15が配置されており、かつIDT同士が隣接する部分において、該隣接する部分に臨む最外側電極指の一方がシグナル電極指、他方がア−ス電極指となる部分において、一方の最外側電極指に直列重み付けが施されていることにある。そして、このような構成を備えるため、弾性表面波フィルタ装置1では、通過帯域内に現れるリップルを効果的に低減することができる。これを、図1と、図2〜図4を参照して説明する。
【0035】
図1に示すように、本実施形態では、第2のIDT12の表面波伝播方向両側に位置している最外側電極指12a,12bと、第1,第3のIDTの第2のIDTと隣り合う最外側電極指11a,13aとがア−ス電位に接続される電極指とされている。また、第4のIDT14の両側の最外側電極指14a,14bがア−ス電位に接続される電極指とされており、第3,第5のIDTの第4のIDT14と隣り合う最外側電極指13a,15aがシグナル電極指とされている。よって、上述したように、IDT同士が隣接する部分において、隣接し合っているIDTの最外側電極指の双方がシグナル電極指とはならないように、IDT11〜15の電極指の本数が選ばれている。
【0036】
他方、図1に示すように、第4のIDT14においては、最外側電極指14a,14bに直列重み付けが施されている。すなわち、浮き電極指14c,14dを有するように最外側電極指が直列重み付けされている。言い換えれば、第3のIDT13と第4のIDT14とが隣接する部分においては、IDT13の電極指13bとIDT14の電極指14aとが隣り合っており、これらの内一方の最外側電極指14aに直列重み付けが施されている。なお、電極指14aではなく、電極指13bに直列重み付けが施されてもよい。さらに、IDT14,15が隣り合っている部分では、IDT14の外側電極指14bではなく、IDT15の最外側電極指15aに直列重み付けが施されてもよい。
【0037】
上記弾性表面波フィルタ装置1を、電極構造を以下の仕様となるようにして形成し、その周波数特性を測定した。結果を図2に示す。
【0038】
電極指交差幅:135μm
IDTの電極指の本数(IDT11〜15の順):25(6)/(8)55(6)/(4)56(4)/(6)55(8)/(6)25
なお、()内の電極指の本数は狭ピッチ電極指部の本数を示し、()外の電極指の本数は、狭ピッチ電極指部以外の本数を示す。第2のIDT205を例にとると、(8)55(6)は、第1のIDT11側の狭ピッチ電極指の電極指の本数が8本であり、第3のIDT側の狭ピッチ電極指の電極指の本数が6本であり、中央の狭ピッチ電極指部以外の電極指の本数が55本であることを意味する。
【0039】
各反射器の電極指の本数:70本
メタライゼ−ションレシオ:0.70
電極膜厚:0.092λI(λIは、電極指のピッチで定まる波長。)
〔弾性表面波共振子3の仕様〕
電極指交差幅:45μm
IDTの電極指の本数:161本
各反射器の電極指の本数:30本
メタライゼ−ションレシオ:0.60
〔弾性表面波共振子4の仕様〕
電極指交差幅:40μm
IDTの電極指の本数:161本
各反射器における電極指の本数:30本
メタライゼ−ションレシオ:0.60
比較のために、図3に示す比較例の弾性表面波フィルタ装置301を作成した。弾性表面波フィルタ装置301では、縦結合共振子型弾性表面波フィルタ部310において、第4のIDT314において直列重み付けを施さなかったこと、また隣り合うIDTの隣り合っている最外側電極指の極性がいずれもシグナル電極となるようにIDT311,312が配置されていることを除いては、上記実施形態の弾性表面波フィルタ装置10と同様に構成した。この比較例の弾性表面波フィルタ装置301のフィルタ特性を図4に示す。
【0040】
さらに、第2の比較例として、図5に示す弾性表面波フィルタ装置401を用意した。弾性表面波フィルタ装置401では、5IDT型の縦結合共振子型弾性表面波フィルタ部410において、第4のIDT414と、第3,第5のIDT413,415とが隣り合っている部分において直列重み付けを施さなかったことを除いては、第1の実施形態の弾性表面波フィルタ装置10と同様に構成した。なお、本比較例では、隣り合うIDT間において、シグナル電極である最外側電極指同士が隣り合っている部分が存在しない。
【0041】
第2の比較例の弾性表面波フィルタ装置401のフィルタ特性を測定した。結果を図6に示す。
【0042】
図7は、第3の比較例の弾性表面波フィルタ装置501の電極構造を示す模式的平面図である。第3の比較例の弾性表面波フィルタ装置501では、5IDT型の縦結合共振子型弾性表面波フィルタ部510において、第1,第2のIDT511,512が隣り合っている部分では、隣り合っている最外側電極指がいずれもシグナル電極とされている。その他の構成については、第1の実施形態の弾性表面波フィルタ装置1と同様とされている。第3の比較例の弾性表面波フィルタ装置501のフィルタ特性を図8に示す。
【0043】
図4,図6,図8から明らかように、第1〜第3の比較例の弾性表面波フィルタ装置301,401,501では、通過帯域内に矢印A1,A2で示す位置に大きなリップルが現れていることがわかる。
【0044】
これに対して、図2から明らかなように、本実施形態の弾性表面波フィルタ装置1では、通過帯域内に上記のような大きなリップルが現れておらず、良好なフィルタ特性を得られることがわかる。
【0045】
上記図1〜図8の結果から明らかなように、5IDT型の縦結合共振子型弾性表面波フィルタ部を有する弾性表面波フィルタ装置では、通過帯域内において上記リップルを抑制するには、隣り合うIDTの隣り合っている最外側電極指の極性がいずれもシグナル電極とはならないようにIDTを配置すること、並びに隣り合うIDTの隣り合っている最外側電極指の一方がシグナル電極、他方がア−ス電極となる部分において、一方の最外側電極指に直列重み付けを施すことが必要であることがわかる。
【0046】
図9は、第1の実施形態の弾性表面波フィルタ装置1の変形例の弾性表面波フィルタ装置を示す模式的平面図である。図9に示す弾性表面波フィルタ装置21では、縦結合共振子型弾性表面波フィルタ部30において、第1〜第5のIDT31〜35が表面波伝搬方向に配置されている。ここでは、第3,第4のIDT33,34が隣り合っている部分において、第3のIDT33の第4のIDT側の最外側電極指33bに直列重み付けが施されており、第4,第5のIDT34,35が隣り合っている部分では、第5のIDT35の第4のIDT34側の最外側電極指35aにおいて直列重み付けが施されている。このように、IDT33,35の第4のIDT34側の最外側電極指33b,35aを直列重み付けしてもよい。すなわち、2つのIDTが隣接する部分において、一方の最外側電極指がア−ス電極、他方の最外側電極指がシグナル電極とされている部分においては、いずれの電極指側において直列重み付けを施してもよい。その場合においても、第1の実施形態の場合と同様に、通過帯域内におけるリップルを効果的に低減することができる。
【0047】
第1の実施形態では、第4のIDTの最外側電極指、すなわち、平衡端子7に接続される最外側電極指14a,14bに直列重み付けが施されていた。また、上記比較例の弾性表面波フィルタ装置21では、不平衡信号端子5に接続される側のIDT33,35の最外側電極指33b,35aに直列重み付けが施されていた。これに対して、図10に示す変形例の弾性表面波フィルタ装置41のように、第1〜第5のIDT51〜55が配置されている弾性表面波フィルタ部50において、第3のIDT53の最外側電極指53bに直列重み付けを施し、第4のIDT54の第5のIDT55と隣り合っている側の最外側電極指54bに直列重み付けを施してもよい。すなわち、不平衡信号端子5に接続されているIDT53において直列重み付けを施し、かつ平衡端子7に接続されているIDT54においてもう1つの直列重み付けを施してもよい。
【0048】
図11は、本発明の第2の実施形態にかかる弾性表面波フィルタ装置を示す模式的平面図である。弾性表面波フィルタ装置71では、圧電基板72上に図示の電極が形成されている。すなわち、第1〜第5のIDT81〜85を有するIDT型の縦結合共振子型弾性表面波フィルタ部80が構成されている。IDT81〜85が設けられている領域の表面波伝搬方向両側に第1,第2の反射器86,87が配置されている。
【0049】
ここでは、第2,第4のIDT82,84の一端が接続点88により共通接続されている。接続点88と不平衡信号端子5との間に1ポ−ト型SAW共振子3が接続されている。また、IDT82,84の他端はア−ス電位に接続されている。
【0050】
他方、第3のIDT83の一方端子側が表面波伝搬方向に2分割されており、それによって第1,第2の分割IDT部83A,83Bが形成されている。本実施形態では、第1のIDT81及び第1の分割IDT部83Aが共通接続されて、第1の平衡信号端子6に接続されている。第1のIDT81の他端はア−ス電位に接続されている。また、第5のIDT85と、第2の分割IDT部83Bとが共通接続され、第2の平衡信号端子7に接続されている。第5のIDT85の他端はア−ス電位に接続されている。
【0051】
第1の平衡信号端子6と第2の平衡信号端子7との間には1ポ−ト型SAW共振子4が接続されている。
【0052】
そして、第2のIDT82の位相と、第4のIDT84の位相とが反転されており、それによって平衡−不平衡変換機能が実現されている。このように、平衡−不平衡変換機能を有する5IDT型の縦結合共振子型弾性表面波フィルタにおける5つのIDTの構造については特に限定されない。
【0053】
第2の実施形態においても、2つのIDT同士が隣接する部分において、該隣接する部分に臨む隣り合っている最外側電極指の双方がシグナル電極指とならないようにIDT81〜85が配置されている。そして、このような状態となるように、IDT81〜85の電極指の本数が選ばれている。
【0054】
また、2つのIDT同士が隣接する部分において、一方の最外側電極指がア−ス電極指、他方の最外側電極指がシグナル電極指とされている部分においては、一方の最外側電極指に直列重み付けが施される。すなわち、IDT83と84とが隣接する部分においては、IDT84の最外側電極指84aが、浮き電極指を有するように直列重み付けが施されている。同様にIDT84,85が隣接する部分においては、IDT84のIDT85側の最外側電極指84bに直列重み付けが施されている。従って、第1の実施形態の場合と同様に、通過帯域内におけるリップルを効果的に抑圧することができる。
【0055】
第2の実施形態においても、第1の実施形態の変形例の弾性表面波フィルタ装置の場合と同様に、直列重み付けは、第3,第5のIDT83,85の第4のIDT84側の最外側電極指に行われてもよい。
【0056】
図12は、第2の実施形態の弾性表面波フィルタ装置の変形例を示す模式的平面図である。第2の実施形態では、IDT83が、第1,第2の分割IDT部83A,83Bを有していたが、本変形例においても、第3のIDT93が、表面波伝搬方向に分割することにより設けられた第1,第2の分割IDT部93A,93Bを有する。もっとも、異なるところは、第3のIDT93では、第4のIDT94側に位置している最外側の電極指93aがシグナル電極指である。また、第4のIDT94において、第3のIDT93側に位置している最外側の電極指94aが、アース電位に接続される電極指とされている。第4のIDT94の第5のIDT95側の最外側の電極指95bも、アース電位に接続される電極指とされている。他方、第5のIDT95の第4のIDT94側の最外側の電極指95aは、シグナル電極指とされている。その他の点については、弾性表面波フィルタ装置71と同様に構成されているため、同一の部分については同一の参照番号を付することにより、その説明を省略する。
【0057】
弾性表面波フィルタ装置91から明らかなように、第3,第4のIDT93,94が隣り合う部分において、第3のIDT93の最外側の電極指93aがシグナル電極指、第4のIDT94の最外側の電極指94aがアース電位に接続される電極指であってもよく、第4のIDT94及び第5のIDT95が隣り合う部分において、最外側の電極指94bがアース電位に接続される電極指、第5のIDT95の最外側の電極指95aがシグナル電極指であってもよい。
【0058】
なお、上述した第1,第2の実施形態では、40±5°YcutX伝播LiTaO3基板を用いたが、64〜72°YcutX伝播LiNbO3基板、41°YcutX伝播LiNbO3基板などの様々なcut角及び様々な圧電単結晶からなる圧電基板を用いることができる。
【0059】
また、上述した第1,第2の実施形態は弾性表面波を利用した弾性表面波フィルタ装置であるが、本発明は、弾性境界波を利用した弾性境界波フィルタにも適用することができる。すなわち、図13に模式的に示すように、弾性境界波フィルタ171は、第1,第2の媒質172,173間の境界にIDT174を配置した構造を有する。ここでは、媒質172,173の少なくとも一方を圧電材料とし、両者の境界を伝播する弾性境界波を用いてフィルタ特性が得られる。弾性境界波フィルタ171においても、上述した実施形態における弾性表面波フィルタと同様に、電極構造を形成することにより、通過帯域内におけるリップルを効果的に抑圧することができ、良好なフィルタ特性を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る弾性表面波フィルタ装置を示す模式的平面図。
【図2】第1の実施形態の弾性表面波フィルタ装置のフィルタ特性を示す。
【図3】第1の比較例の弾性表面波フィルタ装置の模式的平面図。
【図4】第1の比較例の弾性表面波フィルタ装置のフィルタ特性を示す。
【図5】第2の比較例の弾性表面波フィルタ装置の模式的平面図。
【図6】第2の比較例の弾性表面波フィルタ装置のフィルタ特性を示す。
【図7】第3の比較例の弾性表面波フィルタ装置の模式的平面図。
【図8】第3の比較例の弾性表面波フィルタ装置のフィルタ特性を示す。
【図9】第1の実施形態の弾性表面波フィルタ装置の第1の変形例を説明するための模式的平面図。
【図10】第1の実施形態の弾性表面波フィルタ装置の第2の変形例を説明するための模式的平面図。
【図11】本発明の第2の実施形態に係る弾性表面波フィルタ装置の模式的平面図。
【図12】第2の実施形態に係る弾性表面波フィルタ装置の変形例を説明するための模式的平面図。
【図13】本発明が適用される弾性境界波フィルタの構造を模式的に示す正面断面図。
【図14】従来の弾性表面波フィルタの電極構造を示す模式的平面図。
【符号の説明】
【0061】
1…弾性表面波フィルタ装置
2…圧電基板
3…1ポ−ト型SAW共振子
3a…IDT
3b,3c…反射器
4…1ポ−ト型SAW共振子
4a…IDT
4b,4c…反射器
5…不平衡信号端子
6,7…第1,第2の平衡信号端子
10…縦結合共振子型弾性表面波フィルタ部
11〜15…第1〜第5のIDT
13a…電極指
14a,14b…電極指
14c,14d…浮き電極指
15a…電極指
16,17…第1,第2の反射器
21…弾性表面波フィルタ装置
30…縦結合共振子型弾性表面波フィルタ部
31〜35…第1〜第5のIDT
33b…電極指
35a…電極指
41…弾性表面波フィルタ装置
50…縦結合共振子型弾性表面波フィルタ部
51〜55…第1〜第5のIDT
53b…電極指
54b…電極指
71…弾性表面波フィルタ装置
72…圧電基板
80…縦結合共振子型弾性表面波フィルタ部
81〜85…第1〜第5のIDT
83A,83B…第1,第2の分割IDT部
84a,84b…電極指
86,87…第1,第2の反射器
91…弾性表面波フィルタ装置
93〜95…第3〜第5のIDT
93A,93B…第1,第2の分割IDT部
93a,94a,94b,95a…電極指
171…弾性境界波フィルタ
172,173…媒質層
174…IDT


【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電基板と、
前記圧電基板上において弾性波伝搬方向に沿って配置された第1〜第5のIDTと、
前記第1〜第5のIDTが設けられている部分の弾性波伝搬方向両側に配置された第1,第2の反射器とを備え、
前記第1,第3及び第5のIDTの一端が不平衡信号端子に接続されており、前記第2のIDTの一端が第1の平衡信号端子に、前記第4のIDTの一端が第2の平衡信号端子に接続されており、平衡−不平衡変換機能を有する弾性波フィルタにおいて、
前記第2のIDTの弾性波伝搬方向両側に位置している最外側電極指と、第1,第3のIDTの第2のIDTと隣り合う最外側電極指とがアース電位に接続される電極指とされており、前記第4のIDTの弾性波伝搬方向両側に位置する最外側電極指がアース電位に接続される電極指またはシグナル電極指とされており、前記第3,第5のIDTの第4のIDTと隣り合う最外側電極指がシグナル電極指またはアース電位に接続される電極指とされており、
前記第4のIDTの前記第3のIDTと隣り合っている最外側電極指、及び第3のIDTの前記第4のIDTと隣り合っている側の最外側電極指の内の一方に直列重み付けが施されており、前記第4のIDTの前記第5のIDTと隣り合っている最外側電極指及び前記第5のIDTの第4のIDTと隣り合っている最外側電極指の内の一方において直列重み付けが施されていることを特徴とする、弾性波フィルタ。
【請求項2】
圧電基板と、
前記圧電基板上において弾性波伝搬方向に沿って配置された第1〜第5のIDTと、
前記第1〜第5のIDTが設けられている領域の弾性波伝搬方向両側に沿って配置された反射器とを備え、
前記第2,第4のIDTの一端が不平衡信号端子に接続されており、前記第3のIDTの一端が2分割されて、第1,第2の分割IDT部が形成されており、第1のIDTの一端及び第3のIDTの第1の分割IDT部が第1の平衡信号端子に接続されており、前記第5のIDTの一端及び前記第3のIDTの第2の分割IDT部が第2の平衡信号端子に接続されており、平衡−不平衡変換機能を有する縦結合共振子型の弾性波フィルタにおいて、
前記第2のIDTの弾性波伝搬方向両側に位置している最外側電極指と、第1,第3のIDTの第2のIDTと隣り合う側に位置している最外側電極指とがアース電位に接続される電極指とされており、前記第4のIDTの弾性波伝搬方向両側の最外側電極指がシグナル電極指またはアース電位に接続される電極指とされており、第3,第5のIDTの第4のIDTと隣り合う側の最外側電極指がアース電位に接続される電極指またはシグナル電極指とされており、
第4のIDTの第3のIDTと隣り合う側の最外側電極指及び第3のIDTの第4のIDTと隣り合う側の最外側電極指の内の一方が直列重み付けされており、かつ第4のIDTの第5のIDTと隣り合う側の最外側電極指及び第5のIDTの第4のIDTと隣り合う側の最外側電極指の内の一方に直列重み付けが施されていることを特徴とする、弾性波フィルタ。
【請求項3】
前記不平衡信号端子と、前記第1,第3,第5のIDTとの間に接続された1ポート型弾性波共振子をさらに備える、請求項1または2に記載の弾性波フィルタ。
【請求項4】
前記弾性波として弾性表面波が用いられ、従って弾性表面波フィルタである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の弾性波フィルタ。
【請求項5】
前記弾性波として弾性境界波が用いられ、従って弾性境界波フィルタが構成されている、請求項1〜3のいずれか1項に記載の弾性波フィルタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2006−254410(P2006−254410A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−8313(P2006−8313)
【出願日】平成18年1月17日(2006.1.17)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】