説明

バリア基材用ポリエステルフィルム

【課題】 従来のPETフィルムよりも高い水蒸気バリア性を有し、PEN単体から組成されるフィルムと同等程度の水蒸気バリア性を有する安価なバリア基材用ポリエステルフィルムを提供する。
【解決手段】 結晶化度が35〜45%であるポリエステルフィルムの片面に、四級アンモニウム塩基含有ポリマー、ポリエチレングリコール含有アクリレートポリマーおよび架橋剤を含有する塗布液を塗布、乾燥して得られた塗布層を有することを特徴とするバリア基材用途ポリエステルフィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バリア基材用ポリエステルフィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、太陽電池、フラットパネルディスプレイ、有機EL、電子ペーパーなどの需要が高まっている。これらに使われる部材としては、ハイバリア性能、特に水蒸気バリア性能を有するフィルムが必要である。現在までに、水蒸気バリア性に優れるフィルムとして、ポリエチレンナフタレート(以後、PENと略記する場合がある)フィルムが代表的なものとして知られている。
【0003】
しかし、PENフィルムは、バリア性、熱安定性等に優れるものの、汎用であるPETフィルム等と比較して供給安定性が低い、コストが高いなどの問題がある。そこで、PEN単体のフィルムではなく、PEN成分の量を調整し、必要最小限で最大の効果が発揮できるようなフィルムが必要とされている。しかし、PENの量を減らし、例えば、PET/PENの共重合押出しを行うとなると、成分変化に伴う製膜性の悪化などが問題となってくる。
【0004】
また、水蒸気バリア性に着目した時に必要となるシリカ等の蒸着において、その蒸着を効率的に行うためには、フィルム表面のコーティングを工夫する必要がある。
【0005】
これらの問題を解決することで、PENと同等の水蒸気バリアフィルムをコストの低いPETを主体とするフィルムで提供することができるため、このフィルムの開発は重要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特願2000−337055号公報
【特許文献2】特開2007−144977号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記実情に鑑みなされたものであって、その解決課題は、従来のPETフィルムよりも高い水蒸気バリア性を有し、PEN単体から組成されるフィルムと同等程度の水蒸気バリア性を有する安価なバリア基材用ポリエステルフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記実情に鑑み鋭意検討した結果、特定の構成を有するポリエステルフィルムによれば、上記課題を容易に解決できることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明の要旨は、結晶化度が35〜45%であるポリエステルフィルムの片面に、四級アンモニウム塩基含有ポリマー、ポリエチレングリコール含有アクリレートポリマーおよび架橋剤を含有する塗布液を塗布、乾燥して得られた塗布層を有することを特徴とするバリア基材用途ポリエステルフィルムに存する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、安価なバリア基材用ポリエステルフィルムを提供することができ、その工業的価値は高い。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明でいうポリエステルフィルムとは、いわゆる押出法に従い押出口金から溶融押出されたシートを延伸したフィルムである。
【0012】
上記のフィルムを構成するポリエステルとは、ジカルボン酸と、ジオールとからあるいはヒドロキシカルボン酸から重縮合によって得られるエステル基を含むポリマーを指す。
ジカルボン酸としては、テレフタル酸、イソフタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸等を、ジオールとしては、エチレングリコール、1,4−ブタンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ポリエチレングリコール等を、ヒドロキシカルボン酸としては、p−ヒドロキシ安息香酸、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸等をそれぞれ例示することができる。かかるポリマーの代表的なものとして、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレン−2、6−ナフタレート等が例示される。
【0013】
本発明のフィルム中には、易滑性の付与および各工程での傷発生防止を主たる目的として、粒子を配合することが好ましい。配合する粒子の種類は、易滑性付与可能な粒子であれば特に限定されるものではなく、具体例としては、例えば、シリカ、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、硫酸カルシウム、リン酸カルシウム、リン酸マグネシウム、カオリン、酸化アルミニウム、酸化チタン等の粒子が挙げられる。また、特公昭59−5216号公報、特開昭59−217755号公報等に記載されているような耐熱性有機粒子を用いてもよい。この他の耐熱性有機粒子の例として、熱硬化性尿素樹脂、熱硬化性フェノール樹脂、熱硬化性エポキシ樹脂、ベンゾグアナミン樹脂等が挙げられる。さらに、ポリエステル製造工程中、触媒等の金属化合物の一部を沈殿、微分散させた析出粒子を用いることもできる。
【0014】
一方、使用する粒子の形状に関しても特に限定されるわけではなく、球状、塊状、棒状、扁平状等のいずれを用いてもよい。また、その硬度、比重、色等についても特に制限はない。これら一連の粒子は、必要に応じて2種類以上を併用してもよい。
【0015】
また、用いる粒子の平均粒径は、通常0.01〜3μm、好ましくは0.1〜2μmの範囲である。平均粒径が0.01μm未満の場合には、易滑性を十分に付与できない場合がある。一方、3μmを超える場合には、フィルムの製膜時に、その粒子の凝集物のために透明性が低下することがある他に、破断などを起こしやすくなり、生産性の面で問題になることがある。
【0016】
さらにポリエステル中の粒子含有量は、通常0.001〜5重量%、好ましくは0.005〜3重量%の範囲である。粒子含有量が0.001重量%未満の場合には、フィルムの易滑性が不十分な場合があり、一方、5重量%を超えて添加する場合には、フィルムの透明性が不十分な場合がある。
【0017】
ポリエステル層中に粒子を添加する方法としては、特に限定されるものではなく、従来公知の方法を採用しうる。例えば、各層を構成するポリエステルを製造する任意の段階において添加することができるが、好ましくはエステル化もしくはエステル交換反応終了後、添加するのが良い。
【0018】
また、ベント付き混練押出機を用い、エチレングリコールまたは水などに分散させた粒子のスラリーとポリエステル原料とをブレンドする方法、または、混練押出機を用い、乾燥させた粒子とポリエステル原料とをブレンドする方法などによって行われる。
【0019】
なお、本発明におけるポリエステルフィルム中には、上述の粒子以外に必要に応じて従来公知の酸化防止剤、帯電防止剤、熱安定剤、潤滑剤、染料、顔料等を添加することができる。
【0020】
本発明におけるポリエステルフィルムの厚みは、フィルムとして製膜可能な範囲であれば特に限定されるものではないが、通常10〜350μm、好ましくは15〜100μmの範囲である。
【0021】
次に本発明におけるポリエステルフィルムの製造例について具体的に説明するが、以下の製造例に何ら限定されるものではない。すなわち、先に述べたポリエステル原料を使用し、ダイから押し出された溶融シートを冷却ロールで冷却固化して未延伸シートを得る方法が好ましい。この場合、シートの平面性を向上させるためシートと回転冷却ドラムとの密着性を高めることが好ましく、静電印加密着法および/または液体塗布密着法が好ましく採用される。次に得られた未延伸シートは二軸方向に延伸される。その場合、まず、前記の未延伸シートを一方向にロールまたはテンター方式の延伸機により延伸する。延伸温度は、通常90〜140℃、好ましくは95〜120℃であり、延伸倍率は通常2.5〜7倍、好ましくは3.0〜6倍である。次いで、一段目の延伸方向と直交する方向に延伸するが、その場合、延伸温度は通常90〜170℃であり、延伸倍率は通常3.0〜7倍、好ましくは3.5〜6倍である。そして、引き続き180〜270℃の温度で緊張下または30%以内の弛緩下で熱処理を行い、二軸配向フィルムを得る。上記の延伸においては、一方向の延伸を2段階以上で行う方法を採用することもできる。その場合、最終的に二方向の延伸倍率がそれぞれ上記範囲となるように行うのが好ましい。
【0022】
また、本発明のポリエステルフィルム製造に関しては、同時二軸延伸法を採用することもできる。同時二軸延伸法は、前記の未延伸シートを通常90〜140℃、好ましくは80〜110℃で温度コントロールされた状態で機械方向および幅方向に同時に延伸し配向させる方法であり、延伸倍率としては、面積倍率で4〜50倍、好ましくは7〜35倍、さらに好ましくは10〜25倍である。そして、引き続き、170〜250℃の温度で緊張下または30%以内の弛緩下で熱処理を行い、延伸配向フィルムを得る。上述の延伸方式を採用する同時二軸延伸装置に関しては、スクリュー方式、パンタグラフ方式、リニアー駆動方式等、従来公知の延伸方式を採用することができる。
【0023】
次に本発明のポリエステルフィルムの塗布層の形成について説明する。塗布層に関しては、ポリエステルフィルムの延伸工程中にフィルム表面を処理する、いわゆるインラインコーティングにより設けられてもよく、一旦製造したフィルム上に系外で塗布する、いわゆるオフラインコーティングを採用してもよく、両者を併用してもよい。製膜と同時に塗布が可能であるため、製造が安価に対応可能であり、塗布層の厚みを延伸倍率により変化させることができるという点でインラインコーティングが好ましく用いられる。
【0024】
インラインコーティングについては、以下に限定するものではないが、例えば、逐次二軸延伸においては、特に縦延伸が終了した横延伸前にコーティング処理を施すことができる。インラインコーティングによりポリエステルフィルム上に塗布層が設けられる場合には、製膜と同時に塗布が可能になると共に塗布層を高温で処理することができ、ポリエステルフィルムとして好適なフィルムを製造できる。
【0025】
本発明において、塗布層は、蒸着層との易接着の他に、粘着剤層中へのオリゴマー成分の進入防止を図ることを目的として、四級アンモニウム塩基含有ポリマーを含有する塗布液を使用することを必須の要件とするものである。
【0026】
本発明において使用する4級アンモニウム塩基含有ポリマーに関しては、分子中の主鎖や側鎖に、4級アンモニウム塩基を含む構成要素を有するものが対象となる。具体例としては、ピロリジウム環、アルキルアミンの4級化物、さらにこれらをアクリル酸やメタクリル酸と共重合したもの、N−アルキルアミノアクリルアミドの4級化物、ビニルベンジルトリメチルアンモニウム塩、2−ヒドロキシ3−メタクリルオキシプロピルトリメチルアンモニウム塩等が挙げられる。さらに、これらを組み合わせたり、あるいは他のバインダーポリマーと共重合させたりしても構わない。また、これら4級アンモニウム塩の対イオンとなるアニオンとしては、例えば、ハロゲン、アルキルサルフェート、アルキルスルホネート、硝酸等のイオンが挙げられる。中でも、ハロゲン以外の対イオンが、特に耐熱性が良好となる点で本発明の用途上好ましい。
【0027】
また、4級アンモニウム塩基含有ポリマーの分子量に関して、分子量が低すぎる場合は、塗布層中から容易に除去されて経時的に性能が低下、或いは塗布層のブロッキング等の不具合を生じる場合がある。また、分子量が低いと耐熱安定性に劣る場合がある。
【0028】
かかる観点より、4級アンモニウム塩基含有ポリマーの数平均分子量は、通常、1000以上、好ましくは2000以上、さらに好ましくは5000以上である。一方、数平均分子量が高すぎる場合は、塗布液の粘度が高くなりすぎる等の不具合を生じる場合があるので、数平均分子量の上限は500、000以下を目安にするのが好ましい。また、これらの化合物は単独で用いてもよいし、2種類以上組み合わせて用いてもよい。
【0029】
塗布層中における四級アンモニウム塩基含有ポリマーの配合量は、乾燥重量比で20〜70重量%の範囲であるのが好ましく、さらに好ましくは40〜70重量%の範囲である。当該範囲を外れる場合、所望する蒸着を効率的に行うことが困難になる場合がある。
【0030】
本発明において、塗布層形成時における延伸追従性を良好とすることを目的として、塗布液中に、ポリエチレングリコール含有アクリレートポリマーを含有することを必須とする。具体的には、ポリエチレングリコールモノアクリレート、ポリプロピレングリコールモノアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート(ポリエチレグリコール単位の重合度は4〜14の範囲が好ましい)、ポリプロピレングリコールジアクリレート、ポリテトラメチレングリコールジアクリレート、ポリ(エチレングリコール−テトラメチレングリコール)ジアクリレート、ポリ(プロピレングリコール−テトラメチレングリコール)ジアクリレート、ポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコール−ポリエチレングリコールジアクリレート、ポリプロピレングリコール−ポリブチレングリコールモノメタクリレート、メトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート、メトキシポリエチレングリコールモノアクリレート、オクトキシポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコールモノメタクリレート、オクトキシポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコールモノアクリレート、ラウロキシポリエチレングリコールモノメタクリレート、ラウロキシポリエチレングリコールモノアクリレート、ステアロキシポリエチレングリコールモノメタクリレート、ステアロキシポリエチレングリコールモノアクリレート、アリロキシポリエチレングリコールモノメタクリレート、アリロキシポリエチレングリコールモノアクリレート等を出発原料とする重合体が例示される。
【0031】
本発明で用いるポリエチレングリコール含有アクリレートポリマーの数平均分子量は、通常1000以上、好ましくは2000以上、さらに好ましくは5000以上である。一方、数平均分子量が高すぎる場合は、塗布液の粘度が高くなりすぎる等の不具合を生じる場合がある。かかる観点より、数平均分子量の上限は500、000以下を目安にするのが好ましい。また、これらの化合物は単独で用いてもよいし、2種類以上組み合わせて用いてもよい。
【0032】
本発明において、さらに延伸追従性を良好とするために、ポリエチレングリコール含有アルキルアクリレートポリマーを併用するのがよい。アルキル鎖の鎖長については従来から、ポリマーとして重合可能な範囲であれば、特に限定されるわけではない。本発明における塗布層を構成するポリエチレングリコール含有アルキルアクリレートポリマーの含有量については延伸追従性を良好とするために5〜40重量%の範囲が好ましい。当該範囲を外れる場合、塗布層形成時における延伸追従性が不十分になる等の不具合を生じる場合がある。
【0033】
本発明のポリエステルフィルムの塗布層に関して、用いる四級アンモニウム塩基含有ポリマーおよびポリエチレングリコール含有アクリレートポリマーは混合物であってもよいし、あらかじめ、共重合されていてもよく、本発明の要旨を損なわない範囲においては特に限定されるわけではない。また、共重合化させる場合には、従来公知の製造方法を用いることができる。
【0034】
本発明において、塗布層のさらなる耐久性向上を目的として、塗布液として架橋剤を併用する必要がある。具体例として、メチロール化またはアルキロール化した尿素、メラミン、グアナミン、オキサゾリン、エポキシ化合物、アクリルアミド、ポリアミド化合物、エポキシ化合物、アジリジン化合物、イソシアネート化合物、チタンカップリング剤、ジルコ−アルミネートカップリング剤、ポリカルボジイミド等が挙げられる。
【0035】
架橋剤の中でも、特に本発明の用途上、塗布性、耐久密着性が良好となる点で、メラミン架橋剤が好ましい。メラミン架橋剤としては、特に限定されるものではないが、メラミン、メラミンとホルムアルデヒドを縮合して得られるメチロール化メラミン誘導体、メチロール化メラミンに低級アルコールを反応させて部分的あるいは完全エーテル化した化合物、およびこれらの混合物などを用いることができる。
【0036】
また、メラミン架橋剤は、単量体、あるいは2量体以上の多量体からなる縮合物のいずれであってもよく、あるいはこれらの混合物を用いてもよい。上記エーテル化に用いる低級アルコールとしては、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブタノール、イソブタノールなどを好ましく使用することができる。官能基としては、イミノ基、メチロール基、あるいはメトキシメチル基やブトキシメチル基等のアルコキシメチル基を1分子中に有するもので、イミノ基型メチル化メラミン、メチロール基型メラミン、メチロール基型メチル化メラミン、完全アルキル型メチル化メラミンなどを用いることができる。それらの中でもメチロール化メラミンが最も好ましい。さらに、メラミン架橋剤の熱硬化促進を目的として、例えば、p−トルエンスルホン酸などの酸性触媒を併用することもできる。
【0037】
本発明において用いるオキサゾリン架橋剤としては、分子内にオキサゾリン環を持つ化合物であり、オキサゾリン環を有するモノマーや、オキサゾリン化合物を原料モノマーの1つとして合成されるポリマーも含まれる。
【0038】
本発明で用いるイソシアネート化合物としては、分子内にイソシアネート基を持つ化合物を指し、具体的には、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、シクロヘキシレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネートや、これらの重合体、誘導体等が挙げられる。
【0039】
本発明で用いるエポキシ化合物としては、例えば、分子内にエポキシ基を含む化合物、そのプレポリマーおよび硬化物が挙げられる。代表的な例は、エピクロロヒドリンとビスフェノールAとの縮合物である。特に、低分子ポリオールのエピクロロヒドリンとの反応物は、水溶性に優れたエポキシ樹脂を与える。
【0040】
これらの架橋剤は、単独で用いてもよいし、複数種を混合して用いてもよい。さらにインラインコーティングへの適用等を配慮した場合、水溶性または水分散性を有することが好ましい。
【0041】
本発明において、本発明の要旨を損なわない範囲において、塗布層中にバインダーポリマーを併用することも可能である。
【0042】
本発明において使用する「バインダーポリマー」とは高分子化合物安全性評価フロースキーム(昭和60年11月 化学物質審議会主催)に準じて、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定による数平均分子量(Mn)が1000以上の高分子化合物で、かつ造膜性を有するものと定義する。
【0043】
バインダーポリマーの具体例としては、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ポリビニル(ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニル、塩化ビニル酢酸ビニル共重合体等)、ポリウレタン樹脂、ポリアルキレングリコール、ポリアルキレンイミン、メチルセルロース、ヒドロキシセルロース、でんぷん類等が挙げられる。
【0044】
塗布層を形成させるための塗布液中の成分の分析は、例えば、TOF−SIMS等の表面分析によって行うことができる。
【0045】
インラインコーティングによって塗布層を設ける場合は、上述の一連の化合物を水溶液または水分散体として、固形分濃度が0.1〜50重量%程度を目安に調整した塗布液をポリエステルフィルム上に塗布する要領にて積層ポリエステルフィルムを製造するのが好ましい。また、本発明の主旨を損なわない範囲において、水への分散性改良、造膜性改良等を目的として、塗布液中には少量の有機溶剤を含有していてもよい。有機溶剤は1種類のみでもよく、適宜、2種類以上を使用してもよい。
【0046】
本発明のポリエステルフィルムの塗布層に関して、ポリエステルフィルム上に設けられる塗布層の膜厚は、通常0.002〜1.0g/m、より好ましくは0.005〜0.5g/m、さらに好ましくは0.01〜0.2g/mの範囲である。膜厚が0.002g/m未満の場合は十分な密着性が得られない可能性があり、1.0g/mを超える場合は、外観や透明性、フィルムのブロッキング性が悪化する可能性がある。
【0047】
本発明のポリエステルフィルムにおいて、塗布層を設ける方法は、リバースグラビアコート、ダイレクトグラビアコート、ロールコート、ダイコート、バーコート、カーテンコート等、従来公知の塗工方式を挙げることができる。塗工方式に関しては「コーティング方式」槇書店 原崎勇次著 1979年発行に記載例がある。
【0048】
本発明において、ポリエステルフィルム上に塗布形成する際の乾燥および硬化条件に関しては、特に限定されるわけではなく、例えば、オフラインコーティングにより塗布層を設ける場合、通常、80〜200℃で3〜40秒間、好ましくは100〜180℃で3〜40秒間を目安として熱処理を行うのが良い。
【0049】
一方、インラインコーティングによりA層を設ける場合、通常、70〜280℃で3〜200秒間を目安として熱処理を行うのが良い。
【0050】
また、オフラインコーティングあるいはインラインコーティングに係わらず、必要に応じて熱処理と紫外線照射等の活性エネルギー線照射とを併用してもよい。本発明における積層ポリエステルフィルムを構成するポリエステルフィルムにはあらかじめ、コロナ処理、プラズマ処理等の表面処理を施してもよい。
【0051】
本発明では、得られたポリエステルフィルムの塗布層の面に、無機酸化物、無機窒化物あるいは無機酸化窒化物の層を設けることにより、水蒸気バリア性を付与する。具体的には、Si、Al、Ti、Zr、Ta、NbまたはSn等の酸化物、窒化物あるいは酸化窒化物等が好適である。
【0052】
上記無機物のうち価格が安価なことから好んで使用されるのは、組成式SiOで表わされるケイ素酸化物である。SiOにおいて、Xが1.5未満ではフィルムが黄色から茶色に着色し、光線透過率が低下する。また、Xが2.0を上回る場合には水蒸気バリアの屈曲の耐久性が低下する。すなわちSiOにおいて、Xが1.5〜2.0の範囲にあると水蒸気バリア性に加えて、光線透過率も改善される。
【0053】
層の形成方法としては、蒸着法・スパッター法・イオンプレーティング法・化学気相成長(CVD)法・ゾルゲル法を挙げることができる。このうち、経済上最も好ましいのは蒸着法であり、工程で熱が発生しにくいのは化学気相成長(CVD)法とゾルゲル法である。本発明のポリエステルフィルムを用いれば、いずれの方法でも層を設けることが可能である。
【0054】
無機酸化物、無機窒化物あるいは無機酸化窒化物層の化学組成の制御は、形成方法や装置により異なるが、蒸着物質やターゲット物質の選択、さらには雰囲気気体の種類と量により、決定される。
【0055】
例えば蒸着法で、SiO層を持つポリ乳酸系フィルムを得るには、真空チャンバー中で、所定の割合でSiOとSiOを混合したるつぼを熱線加熱・アーク蒸発・レーザー加熱・高周波加熱・電子ビーム加熱等の方法により加熱し、るつぼ上にフィルムを置く。必要に応じ、真空チャンバー中に巻き出し・巻き取り機を設置し、フィルムを連続で処理できるようにすることもできる。
【0056】
また、例えばスパッター法で、SiO層を持つポリエステルフィルムを得るには、ターゲット物質としてSiを用い、真空チャンバー中のスパッターガス中の酸素濃度を調整する。また、窒素、酸素と窒素の混合ガスを用いれば、それぞれ窒化物、酸化窒化物を得ることができる。さらには、バイアススパッター・マグネトロンスパッター・イオンビームスパッター方式を用いると、より純度の高い層を得ることができる。
【0057】
無機酸化物、無機窒化物あるいは無機酸化窒化物層の層厚は、化学組成により異なるが、5〜200nmの範囲が好適である。5nm 未満では、水蒸気バリア性が不十分になり、逆に200nmを超えると屈曲破壊を起こしやすくなる。
【0058】
本発明のポリエステルフィルムにおいて、結晶化度は高い水蒸気バリア性能を発揮するために必要な指標となるが、これは用いるPEN原料の配合量によって変更できる。本発明のポリエステルフィルムの結晶化度は、35〜45%の範囲であり、好ましくは37〜43%、さらに好ましくは39〜41%である。ポリエステルフィルムの結晶化度が35%よりも低い場合、製膜性が悪く、45%より高い場合は、フィルムにした時の水蒸気バリア性能が良くないという不具合が生じる。
【0059】
本発明のポリエステルフィルムにおける水蒸気バリア性は太陽電池などに使われる用途を視野に入れて、40℃,90%条件下で0.20〜0.05g/m/dayが好ましい。
【実施例】
【0060】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。また、本発明で用いた測定法および評価方法は次のとおりである。
【0061】
(1)ポリエステルの固有粘度の測定
ポリエステルに非相溶な他のポリマー成分および顔料を除去したポリエステル1gを精秤し、フェノール/テトラクロロエタン=50/50(重量比)の混合溶媒100mlを加えて溶解させ、30℃で測定した。
【0062】
(2)平均粒径(d50:μm)の測定
遠心沈降式粒度分布測定装置(株式会社島津製作所社製SA−CP3型)を使用して測定した等価球形分布における積算(重量基準)50%の値を平均粒径とした。
【0063】
(3)ポリエステルフィルムの透過率測定
JIS − K7105に準じ、日本電色工業社製積分球式濁度計NDH−300Aによりポリエステルフィルムの全光線透過率を測定した。次のような基準で判断する。
○:88.6%よりも高い透過率
△:88.1〜88.6%の範囲内の透過率の低下
×:88.1%よりも低い透過率
【0064】
(4)ポリエステルフィルムのヘーズ(濁度)測定
JIS − K7105に準じ、日本電色工業社製積分球式濁度計NDH−300Aによりポリエステルフィルムの全光線透過率を測定した。次のような基準で判断する。
○:2.0%より値が低い
△:2.0〜2.5%
×:2.5%より値が高い
【0065】
(5)DSC測定による結晶化度の計算
ポリマー10mgをパーキンエルマー社製DSC−1型差動熱量計(DSC)にセットし、N気流中で20℃/minの昇温速度で加熱してゆき、25〜300℃の測定範囲でポリマーの融解に伴う吸熱量(J/g)(実測融解熱:ΔHexp)を求めた。
ΔHexp(J/g)=(ポリマーの融解に伴う吸熱量)/(ポリマーの試料重量)
結晶化度は下記の式で算出できる。
Χc(%)=ΔHexp/ΔH×100
上記式中、ΔHexpは実測融解熱(J/g)、ΔHは完全結晶ポリエステルフィルムの融解熱(J/g)であり、下記式から算出できる。
ΔH=(ΔHPET×(フィルム全体の原料配合量(PET+PEN)100%−PENの配合量(%)/100)+ΔHPEN×(PENの配合量(%))/100)
上記式中、ΔHPETは完全結晶PETの融解熱(J/g)であり、ΔHPENは完全結晶PENの融解熱(J/g)を意味する。
ただし、PETのΔHPETは117.6J/gを用い、PENのΔHPENは103.7J/gを用いた。文献として、「飽和ポリエステル樹脂ハンドブック」(湯木 和男 編者 日刊工業新聞社 平成5年版 PP217〜)を参照した。
【0066】
得られた結晶化度から以下の基準で評価した。
○:39〜41%
△:35〜38、もしくは、42〜45%
×:35%よりも低い、もしくは、45%よりも高い
【0067】
(6)ポリエステルフィルムの水蒸気透過率測定
水蒸気透過率はパーマトランW3/31(モダンコントロールズ社製)を用い、JIS−K7126に準拠して、40℃,90%で測定した。単位は、g/m/dayである。次のような基準で判断する。
○:0.05〜0.10g/m/day
△:0.11〜0.20g/m/day
×:0.20g/m/dayよりも高い
【0068】
(7)総合評価
得られたバリア基材用途フィルムの総合評価を行った。次のような基準で判断する。
○:製膜性が良く、見た目も綺麗で、充分な水蒸気バリア性能を有する
△:製膜性が比較的良く、見た目も綺麗で、高い水蒸気バリア性能を有する
×:製膜性が悪い、見た目も悪い、充分な水蒸気バリア性能を示さない等いずれかの
欠点がある
【0069】
実施例および比較例において使用したポリエステルは、以下のようにして準備したものである。
【0070】
<ポリエステル(a)の製造方法>
テレフタル酸ジメチル100重量部とエチレングリコール60重量部とを出発原料とし、触媒としてテトラブトキシチタネートを加えて反応器にとり、反応開始温度を150℃とし、メタノールの留去とともに徐々に反応温度を上昇させ、3時間後に230℃とした。4時間後、実質的にエステル交換反応を終了させた後、4時間重縮合反応を行った。
すなわち、温度を230℃から徐々に昇温し280℃とした。一方、圧力は常圧より徐々に減じ、最終的には0.3mmHgとした。反応開始後、反応槽の攪拌動力の変化により、極限粘度0.61に相当する時点で反応を停止し、窒素加圧下ポリマーを吐出させ、極限粘度0.61のポリエステル(a)を得た。
【0071】
<ポリエステル(b)の製造方法>
ポリエステル(a)の製造方法において、エチレングリコールに分散させた平均粒子径2.0μmのシリカ粒子0.2部を加えて、極限粘度0.61に相当する時点で重縮合反応を停止した以外は、ポリエステル(a)の製造方法と同様の方法を用いて、極限粘度0.61のポリエステル(b)を得た。
【0072】
<PEN(c)の製造方法>
原料に2,6−ジメチルナフタレンを用いて、ポリエステル(a)と同様に、JIS −K7199に準じ、東洋精機製作所製溶融粘度計キャピログラフ 1Dにより、ポリエステルフィルム製膜条件に近い、290℃、せん断速度608s−1条件下における溶融粘度230Pa・s、融点260.6℃、結晶化度17.9%のPEN(c)を得た。
【0073】
実施例1:
ポリエステル(c)、(b)をそれぞれ95%、5%の割合で混合した混合原料を表層の原料とし、ポリエステル(a)を中間層の原料として、2台の押出機に各々を供給し、各々290℃で溶融した後、口金から押出し静電印加密着法を用いて表面温度を45℃に設定した冷却ロール上に、2種3層(表層/中間層/表層)の層構成で共押出し冷却固化させて未延伸シートを得た。次いで、ロール周速差を利用してフィルム温度120℃で縦方向に3.5倍延伸した後、この縦延伸フィルムの最外層1面に、次に下記塗布剤を塗布量(乾燥後)が0.03g/mになるように塗布した後、テンターに導き、横方向に120℃で4.3倍延伸し、225℃で熱処理を行った後、横方向に2%弛緩し、A層を有する厚さ25μm(表層4μm、中間層21μm)、融点224℃のポリエステルフィルム(I)を得た。
【0074】
塗布層を構成するために使用した化合物は以下のとおりである。
(化合物例)
・4級アンモニウム塩基含有ポリマー(A1):
2−ヒドロキシ3−メタクリルオキシプロピルトリメチルアンモニウム塩ポリマー
対イオン:メチルスルホネート 数平均分子量:30000
・ポリエチレングリコール含有アクリレートポリマー(B1):
ポリエチレングリコール含有モノアクリレートポリマー 数平均分子量:20000
・ポリエチレングリコール含有アクリレートポリマー(B2):
オクトキシポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコールモノアクリレート ポリマー 数平均分子量:32000
・架橋剤(C1):メラミン架橋剤 (DIC社製:ベッカミン「MAS」)
・架橋剤(C2):オキサゾリン架橋剤(日本触媒製:エポクロス「WS500」)
・粒子(D1):アルミナ表面変性コロイダルシリカ(平均粒径:50nm)
・粒子(D2):コロイダルシリカ(平均粒径:70nm)
【0075】
得られたポリエステルフィルム(I)について、電子ビーム加熱方式真空蒸着機( レイボルド社製) を用いて、SiO:SiO=1:2混合物を原料とし、真空度5× 10−5の空気雰囲気下で、連続的に蒸着処理した。なお、SiO層は片面にのみ設けた。処理中フィルムにトラブルが発生することなく、厚み500ÅのSiO1.67層を形成することができた。得られた試料の水蒸気透過率は0.10g/m/dayであった。
【0076】
実施例2〜4:
実施例1において、表層の厚みを変更する、PENの含有量を変更する、横方向の延伸の際の熱固定温度を変更する以外は実施例1と同様にして製造し、ポリエステルフィルムを得た。作製したポリエステルフィルムは表1に示す通りであった。
【0077】
【表1】

【0078】
比較例1〜2:
実施例1において、PEN原料を変更する、最外層1の厚みを変更する、PENの含有量を変更する、横方向の延伸の際の熱固定温度を変更する以外は実施例1と同様にして製造し、ポリエステルフィルムを得た。作製したポリエステルフィルムは表2に示す通りであった。
【0079】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明のポリエステルフィルムは、ハイコストなPEN単体で組成されるポリエステルフィルムに替わる、同等のハイバリア性を有する汎用ポリエステルフィルムとして産業上重要となりうる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶化度が35〜45%であるポリエステルフィルムの片面に、四級アンモニウム塩基含有ポリマー、ポリエチレングリコール含有アクリレートポリマーおよび架橋剤を含有する塗布液を塗布、乾燥して得られた塗布層を有することを特徴とするバリア基材用途ポリエステルフィルム。

【公開番号】特開2011−231269(P2011−231269A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−104800(P2010−104800)
【出願日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【出願人】(000006172)三菱樹脂株式会社 (1,977)
【Fターム(参考)】