説明

バルブ構造,氷結状態判定装置,氷結状態予測装置およびバルブ制御装置

【課題】 シート部と弁体との氷結による固着を防止する。
【解決手段】 シート部37を、その上端がバルブボディ内流路39の底面40aより上方位置となるように、シート部保持ばね45で弾性支持する。このときシート部37の側面に設けたバイパス通路37cがバルブボディ内流路39の水平流路40に開口している。システム停止時には、弁体35がシート部37に着座して開口部37eを塞いだ状態となり、燃料電池1からバルブ構造部に流れてきた水は、バイパス通路37cを通過してシート部内流路37dに流れ込み、下流に流れていく。このため、弁体35が着座しているシート部37の先端が水に漬かることを防止でき、燃料電池停止後に周囲温度が氷点下になったとしても、弁体35とシート部37との氷結による固着を防止できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池に燃料ガスを供給するアノードラインと、燃料電池に酸化剤ガスを供給するカソードラインとの少なくともいずれか一方に流量調整用バルブ装置を設置したバルブ構造,氷結状態判定装置,氷結状態予測装置およびバルブ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、燃料電池に燃料ガスを供給するアノードラインや、燃料電池に酸化剤ガスを供給するカソードラインに設けたバルブ構造部分の氷結対策として、例えば下記特許文献1に開示されているように、シート部をバルブボディ内の流路の底面より高くしたり、シート部先端を薄刃化するなどの提案がある。
【特許文献1】特開2004−162878号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記した従来のバルブ構造では、弁体がシート部に着座した状態で、燃料電池システムから流出する水がバルブ構造部分に流入すると、シート部および弁体が水没することがあり、この状態で氷結が発生した場合は、弁体とシート部とが氷で覆われてしまい相互の固着が発生する。
【0004】
そこで、本発明は、シート部と弁体との氷結による固着を防止することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、燃料電池に燃料ガスを供給するためのアノードラインと、前記燃料電池に酸化剤ガスを供給するためのカソードラインとの少なくともいずれか一方に流量調整用バルブ装置を設置し、この流量調整用バルブ装置は、鉛直方向上端が開口して内部にシート部内流路を備えるシート部と、このシート部の前記開口部を開放遮断する弁体とをそれぞれ有し、前記シート部上端を、前記シート部および前記弁体を収容するバルブボディ内の流路の底面よりも鉛直方向上方に配置するとともに、前記シート部を鉛直方向上方に移動可能に押圧してシート部を弾性支持するする弾性支持手段を設け、この弾性支持手段により前記シート部を鉛直方向上方に押圧移動させた状態で、前記バルブボディ内の流路の底面より鉛直方向上方位置の前記シート部の側面に、前記バルブボディ内の流路と前記シート部内流路とを連通するバイパス通路を設け、このバイパス通路は、前記弁体が前記シート部の上端を前記弾性支持手段の弾性力に抗して鉛直方向下方に押圧して下降させたときに、前記バルブボディ内の流路の底面より鉛直方向下方に移動して閉塞されることを最も主要な特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、バルブ構造部分に氷結の恐れがある燃料電池の停止中は、流量調整用バルブ装置におけるシート部が弾性支持手段で押し上げられる構成であり、また、シート部側面に、シート部上端がバルブボディ内の流路の底面より鉛直方向上方位置まで上昇したときに開口するバイパス通路を設けているため、燃料電池の停止後、燃料電池から排出されるガス中の水がバルブ構造部分に流れてきたとしても、その水は、バイパス通路を通ってバルブ下流に流れ、シート部に着座した弁体の水没を防ぎ、氷結による弁体とシート部との固着を回避することができる。
【0007】
また、シート部がバルブボディに氷結した場合でも、弁体はシート部に対して固着せず上下動可能であるので、流量制御は可能である。また、弁体が弾性支持手段の弾性力に抗してシート部を押し込むことで、バイパス通路がバルブボディ内の流路の底面より鉛直方向下方に移動して閉塞されるので、弁閉時でのバイパス通路を通しての流体漏れを防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づき説明する。
【0009】
図1は、本発明の第1の実施形態に係わる燃料電池システムの全体構成図であり、燃料ガスである水素と酸化剤ガスである酸素とを反応させて電力を取り出す燃料電池1に、水素の供給を受けるアノード入口ライン3および、空気の供給を受けるカソード入口ライン5をそれぞれ接続する。
【0010】
アノード入口ライン3には、その上流端に水素タンク7を、途中に圧力調整弁9をそれぞれ設ける。一方、カソード入口ライン5にはコンプレッサ11を設置する。
【0011】
また、燃料電池1には、発電に供された後に排出される水素(アノードオフガス)が流れるアノード出口ライン13および、発電に供された後に排出される空気(カソードオフガス)が流れるカソード出口ライン15をそれぞれ接続する。
【0012】
アノード出口ライン13は、途中で水素循環ライン17に分岐させて圧力調整弁9下流のアノード入口ライン3に接続し、図示しないエゼクタポンプなどによって水素を循環させる。
【0013】
アノード出口ライン13の水素循環ライン17との接続部より上流には、流量検出手段としての水素側流量計測器19を設置する。また、アノード出口ライン13の水素循環ライン17との接続部より下流には、流量調整用バルブ装置としてのパージ弁21を設置する。さらに、パージ弁21をバイパスするパージ弁バイパス路23にはリリーフ弁25を設置する。
【0014】
一方、カソード出口ライン15には、その上流側から、流量検出手段としての空気側流量計測器27および、流量調整用バルブ装置としての圧力調整弁29をそれぞれ設置する。
【0015】
本発明の第1の実施形態として、上記した燃料電池システムの構成の中で、燃料電池1に燃料ガスを供給するためのアノードラインとしてのアノード出口ライン13に設けたパージ弁21と、燃料電池1に酸化剤ガスを供給するためのカソードラインとしてのカソード出口ライン15に設けた圧力調整弁29との少なくともいずれか一方を、図2に示すようなバルブ構造とする。
【0016】
上記したアノード出口ライン13またはカソード出口ライン15の途中に、バルブボディ33を設置し、バルブボディ33内に円板形状の弁体35および円筒形状のシート部37を収容する。バルブボディ33内に形成したバルブボディ内流路37dは、水平流路40と、その下流側に位置して鉛直方向下方に延びる鉛直流路41とをそれぞれ備える。
【0017】
シート部37は、鉛直流路41内に鉛直方向に移動可能に収容し、シート部37の下端と鉛直流路41の内壁から突出する図示しないばね受けとの間に、シート部37を上方に押圧する弾性支持手段としてのシート部保持ばね45を介装する。
【0018】
図2に示すように、シート部保持ばね45により上方に押された状態のシート部37の上端は、水平流路40に突出してその底面40aよりも鉛直方向上方に位置し、その先端は先細となるよう内側にテーパ面37aを形成している。このテーパ面37a近傍のシート部37の側面には、シート部37の下方への移動を規制するストッパ用突起37bを設けている。
【0019】
また、ストッパ用突起37bより下方のシート部37には、シート部37がシート部保持ばね45により上方に押された状態で水平流路40に露出して開口するバイパス通路37cを複数設けている。
【0020】
一方、上記したシート部37の上方のバルブボディ33には凹部33aを形成し、この凹部33aに電磁コイル47を収容する。そして、この電磁コイル47内に、前記した弁体35の上面に連結する弁軸49を、摺動部51にて摺動可能に収容する。
【0021】
電磁コイル47は、シート部37がシート部保持ばね45に押されて最上部に移動した状態(氷結の可能性のある状態)を基準に、上方および下方にそれぞれ吸引力を発生することが可能な仕様とする。これは、コイルを二重に配置したダブルコイル構造で実現できる。
【0022】
このようなバルブ構造によれば、燃料電池1の停止中は、シート部37がシート部保持ばね45により押し上げられて最上部に位置し、バイパス通路37cが水平流路40に開口し、弁体35はシート部37の上端に着座して開口部37eを閉じている。そのため、燃料電池1の停止中に、燃料電池1から上記したバルブ構造部に水が流れてきても、この水は、図3に示すように、バイパス通路37cを通過してシート部内流路37dに流れ込み、下流に流れていく。
【0023】
このため、弁体35が着座しているシート部37の先端(図1中で上端)が水に漬かることを防止でき、燃料電池1の停止後に周囲温度が氷点下になったとしても、弁体35とシート部37との氷結による固着を防止できる。
【0024】
また、シート部37自体は、鉛直方向最上部に位置する状態で氷結によりバルブボディ33と固着するが、この状態から電磁コイル47により弁体35を上方に移動させることができるので、バルブストロークを充分確保でき、適正な流量制御が可能である。
【0025】
また、シート部37が鉛直方向最上部に位置する状態でのバルブ全閉時の漏れ量は、バイパス通路37cを通過する分発生するが、氷結状態を燃料電池1の運転後に解凍してシート部37とバルブボディ33との固着を解消した後は、電磁コイル47によって弁体35を下降させ、シート部37をバルブボディ33の鉛直流路41内に押し込むことで、バイパス通路37cを閉塞することができ、解凍後のバルブ全閉時の漏れ量も低減できる。
【0026】
本発明の第2の実施形態は、前記図2に示した第1の実施形態におけるシート部保持ばね45を、温度に応じて自由長が変化するようにしている。その他の構成は、第1の実施形態と同様である。
【0027】
温度に応じて自由長が変化するシート部保持ばね45は、例えば形状記憶合金や、バイメタルなどを使用することにより実現可能であり、ここでは周囲温度が氷結の恐れのある所定温度以下に低下した場合に、シート部37が前記図2に示した状態となるように自由長が長くなる構成とする。このため、周囲温度が所定温度を超える場合には、図2の状態からシート部保持ばね45が縮み、シート部37の上部に設けたストッパ用突起37bが水平流路40の底面40aに当接し、バイパス通路37cが鉛直流路内41に入り込んで閉塞された状態となる。
【0028】
第2の実施形態によるバルブ構造によれば、周囲温度が所定温度以下に低下した場合に、シート部37を自由長が長くなったシート部保持ばね45によって押し上げ、バイパス通路37cを水平流路40に開口させることができる。
【0029】
このため、燃料電池1の停止中に、燃料電池1から上記したバルブ構造部に水が流れてきても、この水は、図3に示すように、バイパス通路37cを通過してシート部内流路37dに流れ込み、弁体35が着座しているシート部37の先端(図1中で上端)が水に漬かることを防止でき、燃料電池1の停止後に周囲温度が氷点下になったとしても、弁体35とシート部37との氷結による固着を防止できる。
【0030】
また、氷結の恐れがない温度域では、シート部保持ばね45はその特性により自由長が短くなって縮んでおり、バイパス通路37cが鉛直流路内41に入り込んで閉塞された状態となる。したがって、この場合には、図3の状態から電磁コイル47によって弁体35を鉛直流路内41内に押し込む必要がなく、電磁コイル47はダブルコイルとする必要がなくシングルコイルで制御可能である。
【0031】
本発明の第3の実施形態は、前記した第2の実施形態に対し、温度に応じて自由長が変化するシート部保持ばね45の温度特性を、氷結の恐れのある状態となる直前に、自由長が長くなってバイパス通路37cを水平流路40に開口できるように設定にする。
【0032】
図4は、上記したシート部保持ばね45の温度特性に対応するシート部37の高さ特性を示す。周囲温度が5℃付近まで下がった状態で、シート部保持ばね45の自由長が伸び始め、0℃になる直前、すなわち氷結直前の1℃〜2℃となった時点で、シート部47の高さが最大となる。
【0033】
これにより、氷結が発生する直前にシート部37を押し上げてバイパス通路37cをバルブボディ内流路39に開口でき、弁体35とシート部37との氷結を事前に防止することができる。
【0034】
また、氷結の恐れがない温度域では、シート部保持ばね45はその特性により自由長が短くなって縮んでおり、バイパス通路37cが鉛直流路内41に入り込んで閉塞された状態となる。したがって、この場合には、図3の状態から電磁コイル47によって弁体35を鉛直流路内41内に押し込む必要がなく、電磁コイル47はダブルコイルとする必要がなくシングルコイルで制御可能である。
【0035】
図5は、本発明の第4の実施形態を示す、前記図2に対応する断面図である。この実施形態は、バルブシート53を、バルブボディ33における鉛直流路41の水平流路40への開口部上に設置固定してあり、このバルブシート53が、中心側の第1のシート部53aと、その外側の第2のシート部53bとをそれぞれ備えている。第1のシート部53aおよび第2のシート部53bは、鉛直方向位置すなわち図5中で上下方向位置が同一となっている。
【0036】
第1のシート部53aの中心部には、バルブボディ内流路39の水平流路40と鉛直流路41とを、シート部内流路として連通する内側連通路53cを設け、第1のシート部53aと第2のシート部53bとの間には、バルブボディ内流路39の水平流路40と鉛直流路41とを、シート部内流路として連通する複数の外側連通路53dを設けている。また、外側連通路53dの水平流路40への開口部53eは、流路断面積が広くなるよう形成してある。
【0037】
一方、弁体55は、その下面に、第1のシート部53aに着座する弾性変形可能な環状の第1の突起55aおよび、第1の突起55aの外側に位置して前記第2のシート部53bに着座する環状の第2の突起55bをそれぞれ設けている。
【0038】
上記した第1の突起55aは、弁体55が下降する際に、第2の突起55bが第2のシート部53bに着座するより先に第1のシート部53aに着座するよう下方への突出量を第2の突起55bより大きくし、かつ、第1のシート部53aに着座後、さらに弁体55が下降することで弾性変形し、第2の突起55bを第2のシート部53bに着座させる。
【0039】
すなわち、第1の突起55aが第1のシート部53aに着座した当初は、第2の突起55bが第2のシート部53bに接触しておらず、したがってこのとき、バルブボディ内流路39の水平流路40を流れる水は、外側連通路53dを通って鉛直流路41に流れる。
【0040】
上記した第4の実施形態によるバルブ構造によれば、燃料電池1の通常運転時は、弁体55を上下動させることで流量制御を行い、バルブ全閉時には、第1の突起55aを第1のシート部53aに着座させた後、第1の突起55aを弾性変形させて押し潰すよう電磁コイル47を作動させ、第2の突起55bも第2のシート部53bに着座させる。これによりバルブ全閉時では、内側連通路53cおよび外側連通路53dが共に閉じた状態となり、バルブ全閉時での流体の漏れを防止する。
【0041】
また、燃料電池1の停止後など、氷結が懸念される状態になった場合は、第1の突起55aを第1のシート部53a着座させて弾性変形させないよう電磁コイル47を作動させ、第2の突起55bを第2のシート部53bから離反させて着座させない状態とする。
【0042】
上記した第1の突起55aを弾性変形させる弁体55の動きと、第1の突起55aを弾性変形させない弁体55の動きは、電磁コイル47をダブルコイルにすることで実現可である。
【0043】
第2の突起55bを第2のシート部53bから離反させて着座させない状態では、外側連通路53dが開放されており、したがってこのとき、シート部53周囲の水が、シート部53上端の高さまで流れてきたときには、開口部53eで集められて外側連通路53dから鉛直流路41に排出する。このため、第2のシート部53bに着座している第1の突起55aへの水の付着を防止でき、第1の突起55aと第1のシート部53aとの氷結を防止することができる。
【0044】
図6は、本発明の第5の実施形態を示す、前記図2に対応する断面図である。この実施形態は、前記図5に示した第4の実施形態の変形例で、バルブシート57を、中心側の第1のシート部57aと、その外側の第2のシート部57bとから構成している。
【0045】
第1のシート部57aの中心部には、水平流路40と鉛直流路41とをシート部内流路として連通する内側連通路57cを設け、第1のシート部57aと第2のシート部57bとの間には、水平流路40と鉛直流路41とをシート部内流路として連通する環状の外側連通路57dを設けている。このため、ここでの第1のシート部57aと第2のシート部57bとは別体となっている。また、外側連通路57dの水平流路40への開口部57eは、流路断面積が広くなるよう形成してある。
【0046】
外側の第2のシート部57bは、鉛直流路41の水平流路40への開口部上に設置固定してあり、一方中心側の第1のシート部57aは、温度により鉛直方向長さを変える円筒形状の感温部材としてのサーモワックス59上に支持し、サーモワックス59は、鉛直流路41の内壁に外周面を固定した円盤状のサーモワックスホルダ61上に固定する。
【0047】
サーモワックス59は、温度が低く氷結する恐れのある場合は鉛直方向上方に伸び、図6に示すように、第1のシート部57aを第2のシート部57bより鉛直方向上方位置となるよう上昇させる。
【0048】
サーモワックス59およびサーモワックスホルダ61は、第1のシート部57aの内側連通路57cに整合して鉛直流路41に連通する貫通孔59aおよび61aをそれぞれ中心部に備えている。また、サーモワックス59より外側のサーモワックスホルダ61には、サーモワックスホルダ61を境にしてその上下流相互間を連通するバイパス通路61bを複数設ける。このバイパス通路61bと前記した外側連通路57dとは互いに連通している。
【0049】
上記したバルブ構造によれば、燃料電池1の停止時には、第1の突起55aが第1のシート部57aに着座し、ここで、温度が低く氷結する恐れのある場合は、サーモワックス59が鉛直方向上方に伸び、図6に示すように、第1のシート部57aを第2のシート部57bより高い位置に上昇させ、バルブ周囲に流れてくる水を、バイパス通路57dおよびサーモワックスホルダ61のバイパス通路61bを通してバルブ下流に排出する。
【0050】
これにより、第1のシート部57aと第1のシート部57aに着座する第1の突起55aとの氷結を防止し、弁体55の開閉制御が可能となる。
【0051】
また、燃料電池1の運転により温度が上昇した場合は、サーモワックス59が鉛直方向下方に縮み、第1のシート部57aを第2のシート部57bより低い位置に下降させる。このため、電磁コイル47の作動によって弁体55が上下動して流量制御がなされ、このときバルブ全閉時には、第2の突起55bが第2のシート部57bに着座してシールするため、バルブ全閉時での流体の漏れ量も低減できる。
【0052】
したがって、この場合には、第1の突起55aを、弾性変形させる必要がないので弾性部材で構成する必要がない。
【0053】
図7は、上記したサーモワックス59の温度特性に対応する第1のシート部57aの高さ特性を示す。温度が5℃付近となった状態で、サーモワックス59が伸び始めることで、第1のシート部57aが上昇し、2℃〜3℃となった時点で第2のシート部57bより高い位置となる。その後、0℃になる直前、すなわち氷結直前の1℃〜2℃となった時点で、第1のシート部57aの高さが最大となる。
【0054】
図8は、本発明の第6の実施形態を示す、前記図2に対応するバルブ断面図である。この実施形態は、前記図2に示した第1の実施形態に対し、シート部37の外周面に螺旋状のガイド溝37fを設け、このガイド溝37fに先端が挿入されてガイド溝37fに沿って相対移動可能ガイドピン63を、バルブボディ33の鉛直流路41の内面に固定している。その他の構成は、第1の実施形態と同様である。
【0055】
このようなバルブ構造によれば、燃料電池1の通常運転時に、シート部保持ばね45に押されて最上部に位置しているシート部37は、電磁コイル47の作動により、弁体35が下降して鉛直流路41に向かって押し込まれる。この際、ガイドピン63がガイド溝37fに対して相対移動することで、シート部37がバルブボディ33に対して回転するため、シート部37を押し込んでいる弁体35もそれに引きずられて回転する。
【0056】
弁体35の回転により弁軸49も回転運動をしながら上下運動をするので、バルブ摺動部51に挟まった異物をこじりながら外部に排出することができる。これにより、バルブ摺動部51の摺動クリアランスより細かい目のフィルタを設けたり、あるいはバルブ摺動部51の入口に異物侵入防止用のダイヤフラムを設けるなどの手法を採ることなく、弁軸49の固着を防止して弁体35の作動不良を防止することができる。
【0057】
上記したフィルタを設けた場合には、極低温時にフィルタが氷結すると、圧損が増大、システムバランスを崩す問題がある。また、ダイヤフラムを設けた場合には、ダイヤフラムが圧力を受け弁体に作動圧と大気圧の差圧が余計に加わるため、電磁石の強化、それに伴う駆動電圧または電流の増強などが必要となる問題点があり、いずも採用するには難点がある。
【0058】
本発明の第7の実施形態として、前記図4に示した第3の実施形態による温度特性を備えたシート部保持ばね45を有するバルブ構造において、このバルブ構造を備えるパージ弁21を設置しているアノード出口ライン13の水素側流量計測装置19または、圧力調整弁29を設置しているカソード出口ライン15の空気側流量計測装置27により流体の流量を計測する。
【0059】
周囲温度が氷結の恐れのある所定温度まで低下した状態(氷結時とする)では、シート部保持ばね45の自由長が伸びて図2に示すシート部37が上昇しており、逆に上記した所定温度を超えた状態(非氷結時とする)では、シート部保持ばね45の自由長が縮んでシート部37が下降している。したがって、上記した氷結時と非氷結時とでは、同じバルブ開度信号であっても、弁体35のシート部37に対するリフト量が異なることから流量も異なるものとなる。
【0060】
図9は、上記した氷結時(破線)と非氷結時(実線)でのバルブ開度信号と流量との関係を示しており、氷結時の特性は、全閉時付近ではバイパス通路37cから漏れ量があることから、非氷結時に比べて流量が多くなっているものの、開度が大きくなると、シート部37が下方に位置する非氷結時の方が流量が大となる。
【0061】
このような流量特性を利用し、冷機起動直後から、例えばバルブ開度信号V(診断開度)での流量を測定することで、シート部37周辺のライン内で氷結が発生しているか発生していないかの氷結状況を判定することができる。この判定により、解凍運転から通常運転への変更タイミングを温度センサを使用することなく、また、温度センサを設けたことによる伝熱の遅れやずれの影響を考慮することなく、直接温度を推定し判定することができる。
【0062】
すなわち、本実施形態は、燃料電池1の冷機始動時に、水素側流量計測装置19(または空気側流量計測装置27)の検出値とバルブ制御開度信号値とに基づいて、シート部37周辺のライン内の氷結状態を判定することになる。
【0063】
本発明の第8の実施形態として、前記図4に示した第3の実施形態による温度特性を備えたシート部保持ばね45を有するバルブ構造において、このバルブ構造を備えるパージ弁21を設置しているアノード出口ライン13の水素側流量計測装置19または、圧力調整弁29を設置しているカソード出口ライン15の空気側流量計測装置27により流体の流量を計測する。
【0064】
シート部37周辺のライン内の氷結直前には、シート部保持ばね45の自由長が伸びてシート部37が上昇しており、逆に氷結が発生しておらず、燃料電池1の通常運転時(暖機後の運転時)では、シート部保持ばね45の自由長が縮んでシート部37が下降している。したがって、上記した氷結直前時と暖機後とでは、同じバルブ開度信号であっても弁体35のリフト量が異なることから流量も異なるものとなる。
【0065】
図10は、上記した氷結直前(破線)と暖機後(実線)でのバルブ開度信号と流量との関係を示しており、氷結直前の特性は、バルブ全閉時付近ではバイパス通路37cから漏れ量があることから、暖機後に比べて流量が多くなっているものの、開度が大きくなると、シート部37が下方に位置する暖機後の方が流量が大となる。
【0066】
このような流量特性を利用し、暖機後の運転から、例えばバルブ開度信号V(診断開度)での流量を測定することで、氷結直前の状態となっているのか、あるいは暖機後の状態が継続しているのかを判定することができる。この判定により、通常運転から、運転温度を上げるなどの凍結予防運転への変更タイミングを温度センサなどを使用することなく、また、温度センサを設けたことによる伝熱の遅れやずれの影響を考慮することなく、シート部37周辺の氷結状態を予測判定することができる。
【0067】
すなわち、本実施形態は、燃料電池1の暖機後に、水素側流量計測装置19(または空気側流量計測装置27)の検出値とバルブ制御開度信号値とに基づいて、シート部37周辺のライン内が氷結するかどうかを予測判定することになる。
【0068】
本発明の第9の実施形態として、前記図10に示した第8の実施形態で、シート部37周辺のライン内が氷結すると予測したときに、氷結リスクを低減するために、図11に示すように、電磁コイル47に通電して弁体35をシート部37に着座させ、バイパス通路37cに全量制御流体を流すことにより、バイパス通路37cの入口近傍の流速を加速させ、この加速させた流体の力により、バルブ近傍の氷結に寄与する可能性のある水をバルブ下流に積極的に排出する。これにより、バルブ構造部分の氷結リスクを低減できる。
【0069】
なお、この第9の実施形態による動作は、前記図5,6に示した第5,第6の各実施形態によるバルブ構造にも適用可能である。すなわち、図5,6において、シート部37周辺のライン内が氷結すると予測したときに、電磁コイル47に通電して弁体55の第1の突起55aを第1のシート部53a,57aに着座させ、外側連通路53d,67dに全量制御流体を流す。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明の第1の実施形態に係わる燃料電池システムの全体構成図である。
【図2】図1の燃料電池システムにおけるバルブ構造を拡大して示す断面図である。
【図3】図1のバルブ構造における燃料電池の停止中の動作説明図である。
【図4】本発明の第3の実施形態に係わるもので、第2の実施形態のバルブ構造による温度に対するシート部の高さ特性図である。
【図5】本発明の第4の実施形態を示す、図2に対応する断面図である。
【図6】本発明の第5の実施形態を示す、図2に対応する断面図である。
【図7】第5の実施形態のバルブ構造による温度に対する第1のシート部の高さ特性図である。
【図8】本発明の第6の実施形態を示す、図2に対応する断面図である。
【図9】本発明の第7の実施形態を示す、氷結時と非氷結時でのバルブ開度信号と流量との相関図である。
【図10】本発明の第8の実施形態を示す、氷結直前と暖機後でのバルブ開度信号と流量との相関図である。
【図11】本発明の第9の実施形態を示す、図3に対応する断面図である。
【符号の説明】
【0071】
1 燃料電池
13 アノード出口ライン
15 カソード出口ライン
19 水素側流量計測装置(流量検出手段)
27 空気側流量計測装置(流量検出手段)
21 パージ弁(流量調整用バルブ装置)
29 圧力調整弁(流量調整用バルブ装置)
35,55 弁体
37,53,53 シート部
37c バイパス通路
37d シート部内流路
37e シート部の開口部
37f ガイド溝
39 バルブボディ内流路
40a バルブボディ内流路の底面
45 シート部保持ばね(弾性支持手段)
53a 第1のシート部
53b 第2のシート部
53c,57c 内側連通路(シート部内流路)
53d,57d 外側連通路(シート部内流路)
55a 弁体の第1の突起
55b 弁体の第2の突起
59 サーモワックス(感温部材)
63 ガイドピン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池に燃料ガスを供給するためのアノードラインと、前記燃料電池に酸化剤ガスを供給するためのカソードラインとの少なくともいずれか一方に流量調整用バルブ装置を設置し、この流量調整用バルブ装置は、鉛直方向上端が開口して内部にシート部内流路を備えるシート部と、このシート部の前記開口部を開放遮断する弁体とをそれぞれ有し、前記シート部上端を、前記シート部および前記弁体を収容するバルブボディ内の流路の底面よりも鉛直方向上方に配置するとともに、前記シート部を鉛直方向上方に移動可能に押圧してシート部を弾性支持するする弾性支持手段を設け、この弾性支持手段により前記シート部を鉛直方向上方に押圧移動させた状態で、前記バルブボディ内の流路の底面より鉛直方向上方位置の前記シート部の側面に、前記バルブボディ内の流路と前記シート部内流路とを連通するバイパス通路を設け、このバイパス通路は、前記弁体が前記シート部の上端を前記弾性支持手段の弾性力に抗して鉛直方向下方に押圧して下降させたときに、前記バルブボディ内の流路の底面より鉛直方向下方に移動して閉塞されることを特徴とするバルブ構造。
【請求項2】
前記弾性支持手段は、温度に応じて自由長が変化することを特徴とする請求項1に記載のバルブ構造。
【請求項3】
前記弾性支持手段は、前記流量調整用バルブ装置が氷結の可能性のある所定温度以下で、自由長が長くなって前記シート部の上端を前記バルブボディ内の流路の底面より鉛直方向上方に移動させることを特徴とする請求項2に記載のバルブ構造。
【請求項4】
燃料電池に燃料ガスを供給するためのアノードラインと、前記燃料電池に酸化剤ガスを供給するためのカソードラインとの少なくともいずれか一方に流量調整用バルブ装置を設置し、この流量調整用バルブ装置は、鉛直方向上端が開口して内部にシート部内流路を備えるシート部と、このシート部の前記開口部を開放遮断する弁体とをそれぞれ有し、前記シート部上端を、前記シート部および前記弁体を収容するバルブボディ内の流路の底面よりも鉛直方向上方に配置し、前記シート部は、前記バルブボディ内の流路に前記シート部内流路として連通する内側連通路を備える第1のシート部と、この第1のシート部に対し、前記バルブボディ内の流路に前記シート部内流路として連通する外側連通路を間に挟んでその外側に位置する第2のシート部とをそれぞれ備え、前記弁体には、前記第1のシート部に着座する第1の突起および、前記第2のシート部に着座する第2の突起をそれぞれ設け、前記第1の突起は、前記第2の突起より先に着座しかつ、着座後弾性変形して前記第2の突起を着座させることを特徴とするバルブ構造。
【請求項5】
燃料電池に燃料ガスを供給するためのアノードラインと、前記燃料電池に酸化剤ガスを供給するためのカソードラインとの少なくともいずれか一方に流量調整用バルブ装置を設置し、この流量調整用バルブ装置は、鉛直方向上端が開口して内部にシート部内流路を備えるシート部と、このシート部の前記開口部を開放遮断する弁体とをそれぞれ有し、前記シート部上端を、前記シート部および前記弁体を収容するバルブボディ内の流路の底面よりも鉛直方向上方に配置し、前記シート部は、前記バルブボディ内の流路に前記シート部内流路として連通する内側連通路を備える第1のシート部と、この第1のシート部に対し、前記バルブボディ内の流路に前記シート部内流路として連通する外側連通路を間に挟んでその外側に位置する第2のシート部とをそれぞれ備え、前記弁体には、前記第1のシート部に着座する第1の突起および、前記第2のシート部に着座する第2の突起をそれぞれ設け、前記第1のシート部は、前記流量調整用バルブ装置が氷結の可能性のある所定温度以下で、前記第2のシート部より鉛直方向上方に変位させる感温部材を介して前記バルブボディに設置し、前記所定温度以下で前記第1の突起が前記第1のシート部に着座する一方、前記所定温度を越えたときに、前記第1のシート部が前記第2のシート部より鉛直方向下方に変位して、前記第2の突起が前記第2のシート部に着座することを特徴とするバルブ構造。
【請求項6】
前記シート部は、前記弁体により前記弾性支持手段の弾性力に抗して鉛直方向下方に押圧されて下降する際に回転し、この回転に伴って前記弁体が回転することを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載のバルブ構造。
【請求項7】
前記シート部の外周面と前記バルブボディの内周面とのいずれか一方に螺旋状のガイド溝を設け、いずれか他方に前記ガイド溝に挿入されてガイド溝に沿って相対移動可能なガイドピンを設けたことを特徴とする請求項6に記載のバルブ構造。
【請求項8】
請求項3に記載のバルブ構造による前記流量調整用バルブ装置を設けた前記アノードラインと前記カソードラインとの少なくともいずれか一方に、流量検出手段を設け、前記燃料電池の冷機始動時に、前記流量検出手段の検出値とバルブ開度制御信号値とに基づいて、前記いずれかの一方のライン内の氷結状態を判定することを特徴とする氷結状態判定装置。
【請求項9】
請求項3に記載のバルブ構造による前記流量調整用バルブ装置を設けた前記アノードラインと前記カソードラインとの少なくともいずれか一方に、流量検出手段を設け、前記燃料電池の暖機後に、前記流量検出手段の検出値とバルブ開度制御信号値とに基づいて、前記いずれか一方のライン内が氷結状態となるのを予測することを特徴とする氷結状態予測装置。
【請求項10】
請求項9に記載の氷結状態予測装置により、前記いずれか一方のライン内が氷結状態となるのを予測したときに、前記弁体を前記シート部に着座させて、前記バルブボディ内の流路を流れる流体を、前記バイパス通路を通して前記シート部内流路に流し、前記バイパス通路近傍の流体の流速を加速させることを特徴とするバルブ制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2006−242327(P2006−242327A)
【公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−60829(P2005−60829)
【出願日】平成17年3月4日(2005.3.4)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】