説明

バーチャルドッキングアプローチを適用したプロテインキナーゼB阻害剤のスクリーニング方法並びにそれにより見出された化合物及び組成物

本発明は、Akt1プロテインキナーゼの酵素活性を阻害する活性について化合物をスクリーニングする改良方法を記載する。ここで、Akt1プロテインキナーゼはプロテインキナーゼBとしても知られ、アポトーシスの抑制において、そして従って癌及び神経変性疾患を含む他の症状の病因において、重要な役割を果たすと考えられている酵素である。概して、本発明の方法は(1)Akt1キナーゼ阻害活性を有すると推測される複数の化合物を準備し;(2)該複数の化合物のそれぞれと、Akt1、非加水分解性ATPアナログ、及び生理的なAKT基質由来のペプチド基質を含む三元複合体の結晶構造から得た標的結合部位とのドッキングをモデリングすることにより、非加水分解性ATPアナログから規定距離内にあるそれらの残基を含むものとしてタンパク質活性部位を規定し;(3)該ドッキングした化合物を適合度により順位付けし;(4)ドッキングの適合度により上位に順位付けされた化合物の中から、1以上のスクリーニング基準を用いることにより化合物をさらに選択し;(5)任意により、ステップ(4)で選択した化合物の構造を視覚的に分析して、有望でないドッキング形状を有する任意の化合物を排除し;さらに(6)ステップ(4)又はステップ(5)を行う場合はステップ(5)で選択した化合物を実験的に試験して、Akt1に対する該化合物の阻害活性を測定することによりAkt1阻害活性を有する化合物を選択することを含む。本発明は、本スクリーニング方法によりAkt1に対する阻害活性が見出された化合物を含む医薬組成物だけでなく、癌及び他の症状を治療する医薬組成物の使用方法も包含する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、35 U.S.C. 119(e)に則り、米国の仮出願(出願番号60/658,828号、2005年3月3日出願)に基づいて優先権の利益を主張するものである。上記参照出願の開示は、引用によりその全体が本明細書に含まれているものとする。
【0002】
発明の分野
本出願は、プロテインキナーゼB阻害剤のスクリーニング方法、特にバーチャルドッキングアプローチを適用したスクリーニング方法、並びにこれらのドッキング方法の使用により見出された化合物及び組成物に関する。
【背景技術】
【0003】
タンパク質のリン酸化は、増殖、分化、生存、及び血管新生のような多くの細胞事象において中心的な役割を果たす(1)。そのため、無調整のキナーゼ活性は、無制御の細胞成長、及び腫瘍形成の抑制の重要なメカニズムといえるアポトーシスの不適切な調節をもたらし得る(2)。
【0004】
このシナリオにおいて、プロテインキナーゼB(PKB)としても知られるAktは、その異常な活性化が、多くのヒト腫瘍における増殖過程及び抗アポトーシス過程で広範囲にわたり役割を担うことが知られているが故に、近年、科学者たちの注目を集めてきた(3)。Aktは3つの異なる細胞アイソフォーム、すなわちAkt1(PKBR)、Akt2(PKBβ)、及びAkt3(PKBγ)からなるサブファミリーである。Akt1は主に乳癌及び胃腺癌に関連し;Akt2は卵巣癌、膵臓癌、及び乳癌で増殖し;またAkt3は乳癌及び前立腺細胞系で増殖する(4)。
【0005】
Akt1は、キナーゼドメイン、N末端のプレクストリン相同(PH)ドメイン、及び短いカルボキシ末端の末端領域から構成される。このタンパク質は、Thr308及びSer473がリン酸化されると活性化される(5)。いったん活性化されると、Akt1は癌細胞を含む様々な細胞型で多くの標的をリン酸化することにより、アポトーシスを阻害し、細胞周期の進行を促す。そのため、プロテインキナーゼB活性を遮断することができる分子の開発は、抗癌剤の発見において価値のある手法といえる(6、7、8、9)。
【0006】
活性化したAkt1によりリン酸化されるタンパク質の1つは、BADとして知られるタンパク質であり、通常、細胞がプログラムされた細胞死、すなわちアポトーシスをうけるように促す。いったんリン酸化されると、BADは14-3-3で表される細胞質ゾルタンパク質と結合し、該細胞質ゾルタンパク質はBADを不活化する。Akt1はまた、他の細胞死活性化因子を阻害することにより、細胞の生存を促す;これを完遂するための経路の1つは、細胞死活性化因子をコードする遺伝子(例えば、アポトーシスを促進するタンパク質をコードする遺伝子の転写を促す遺伝子制御タンパク質であるフォークヘッドファミリーの遺伝子)の転写を阻害することによる。
【0007】
この経路は、癌だけでなく、正常なアポトーシス過程の崩壊が関連する他の疾患(神経変性症状を含む)において重要であるので、Akt1の阻害剤を見出すために改良されたスクリーニング方法のニーズのみならず、そのようなスクリーニング方法により見出された化合物及び組成物のニーズがある。
【発明の開示】
【0008】
本発明の1態様は、これらのニーズを満たすスクリーニング方法であり、Akt1阻害活性について化合物の効率的なハイスループットスクリーニングを提供する。概して、このスクリーニング方法は以下:
(1)Akt1キナーゼ阻害活性を有すると推測される複数の化合物を準備し;
(2)該複数の化合物のそれぞれと、Akt1、非加水分解性ATPアナログ、及び生理的なAKT基質由来のペプチド基質を含む三元複合体の結晶構造から得た標的結合部位とのドッキングをモデリングすることにより、非加水分解性ATPアナログから規定距離内にあるそれらの残基を含むものとしてタンパク質活性部位を規定し;
(3)該ドッキングした化合物を適合度により順位付けし;
(4)ドッキングの適合度により上位に順位付けされた化合物の中から、1以上のスクリーニング基準を用いることにより化合物をさらに選択し;
(5)任意により、ステップ(4)で選択した化合物の構造を視覚的に分析して、有望でないドッキング形状を有する任意の化合物を排除し;さらに
(6)ステップ(4)又はステップ(5)を行う場合はステップ(5)で選択した化合物を実験的に試験して、Akt1に対する該化合物の阻害活性を測定することによりAkt1阻害活性を有する化合物を選択すること;
を含む。
【0009】
通常、非加水分解性ATPアナログはAMP-PNPである。通常、ペプチド基質はGSK-3β由来のペプチド基質である。
【0010】
通常、非加水分解性アナログからの規定距離は約6.0Å〜約7.0Åである。好ましくは、非加水分解性アナログからの規定距離は約6.5Åである。
【0011】
通常、ドッキングのモデリングはドッキングアルゴリズムを用いて行われる。好ましくは、ドッキングアルゴリズムはFlexXである。
【0012】
通常、ドッキングの適合度により上位に順位付けされた化合物の中から、1以上のスクリーニング基準を用いることにより化合物をさらに選択するステップは、CSCORE (SYBYL)、Drugscore、Goldscore、Chemscore、及びGOLDのうち1以上を用いて行われる。
【0013】
好ましくは、ドッキングアルゴリズムがFlexXである場合に、ドッキングの適合度により上位に順位付けされた化合物の中から、1以上のスクリーニング基準を用いることにより化合物をさらに選択するステップは、最初にDrugscoreを用いた後、上位のドッキングした構造をそれぞれGoldscoreとChemscoreにより評価及び順位付けすることにより行われる。より好ましくは、GoldscoreとChemscoreがそれぞれ適用された際に、両スコア関数により上位に順位付けされた化合物を、その後、視覚分析により選択し、有望でないドッキング形状を有する化合物を排除する。
【0014】
通常、ステップ(4)又は行う場合はステップ(5)のスクリーニングにより得た化合物を実験的に試験するステップは、30μM以下の濃度で化合物を試験することにより行われる。より一般的には、該濃度は10μMである。
【0015】
通常、スクリーニング陽性の化合物は、ATPの触媒部位内に特異的に結合することができる。通常、スクリーニング陽性の化合物は、ATPと競合するAkt1の競合的阻害剤として作用する。通常、スクリーニング陽性の化合物は、Akt1の残基Lys181、Ala232、Thr292、及びThr162との水素結合相互作用に関与する。
【0016】
本発明の方法は、スコアリングパターンと、AMP-PMPとの複合体中のAkt1の結晶構造で観察される水素結合パターンと実質的に類似する水素結合パターンとのコンセンサス(一致度)を測定し、上位に順位付けされたスコアリングパターンと、AMP-PMPとの複合体中のAkt1の結晶構造で観察される水素結合パターンと実質的に類似の水素結合パターンの両方を提示する化合物を選択する追加のスクリーニングステップをさらに含み得る。
【0017】
本発明の別の態様は、Akt1キナーゼに対する阻害活性を有することが確認された化合物を誘導体化して、その阻害活性を改善する方法であって、以下のステップ:
(1)Akt1キナーゼに対する阻害活性を有する化合物を準備し;
(2)少なくとも1つの共有結合修飾を該化合物に導入することにより該化合物を誘導体化して、少なくとも1つの誘導体を生成し;さらに
(3)ステップ(2)で生成した誘導体をAkt1キナーゼに対する阻害活性についてスクリーニングし;さらに
(4)ステップ(1)で準備した化合物と比べAkt1キナーゼに対する阻害活性が改善された誘導体を選択すること;
を含む前記方法である。
【0018】
誘導体化ステップは通常、1以上の水素のハロゲンによる置換;ハロゲンの水素による置換;芳香環上のカルボキシル基の配置、除去又は再配置;カルボン酸のエステルへの変換及びその逆;アルコールのエーテルへの変換;アミン基上の水素のアルキル基による置換;並びにアミン基上のアルキル基の除去からなる群から選択される少なくとも1つの反応を含む。
【0019】
本発明の別の態様は、Akt1キナーゼを阻害する医薬組成物であって、以下:
(a)本発明のスクリーニング方法によりAkt1キナーゼを阻害する活性が見出された化合物であって、Akt1キナーゼを阻害するのに十分な量の該化合物;及び
(b)製薬上許容される担体、
を含む前記医薬組成物である。
【0020】
本発明のさらに別の態様は、アポトーシスの調節異常を特徴とする疾患又は症状を治療する方法であって、有効量の本発明の医薬組成物を、アポトーシスの調節異常を特徴とする疾患又は症状を患うと診断された被験体又はその疑いのある被験体に投与することを含み、これによりアポトーシスを正常化する前記方法である。該疾患又は症状は、癌又は神経変性症状のような別の症状であり得る。
【0021】
図面の簡単な説明
以下の発明は、明細書、添付した特許請求の範囲、及び添付の図面の参照により、一層理解されるであろう。
【0022】
図1は、採用したバーチャルドッキングアプローチの概略図である。(A)50,000個の化合物のドッキングとソフトウェアFlexXによる順位付けをした後に、CSCOREを用いる他のスコアリング関数で上位スコア2000個の化合物を順位付けすると共にDrugscore、Goldscore、及びChemscoreで上位に順位付けされた化合物を選択する一方で、FlexXで上位4000個の化合物を、GOLDを用いてドッキングすることを含み、次いで実験的な試験が行われるアプローチ;(B)50,000個のドッキングした化合物の中から、FlexX及びDrugscoreを用いて上位4000個の化合物を選択するアプローチ;その後、該上位4000個のドッキングした構造をGoldscoreとChemscore関数(CSCORE)により評価及び順位付けし;その後、両スコアリング関数により順位付けされた上位700個の化合物の中から、共通する(すなわち、両スコアで共に上位700個に入る)200個の化合物のリストを選び出した。そして、視覚分析により有望でないドッキング形状を有する構造を排除し、次いで残る100個の化合物を実験的に試験した。
【0023】
図2は、化合物1及び2についてのAkt1阻害アッセイを示す一連のグラフである。(A)化合物1のIC50評価;(B)化合物2のIC50評価;(C)Akt1についてのLineweaver-Burk Km及びKm(app)評価;(D)GSK-3を基質として用いたAkt1阻害アッセイ。化合物1及び化合物2のH89(10μM)との比較を示す。該比較では、ポリアクリルアミドゲル電気泳動及びニトロセルロース膜への転写のあとに、ウサギポリクローナル抗ホスホ-GSK-3α/β(Ser21/9)を使用する免疫学的アプローチを用いた;並びに(E)化合物1についての用量反応。
【0024】
図3は、ドッキングモデルを示す。(A-C)化合物1〜3がAkt1のATP結合部位にドッキングした構造;(D)化合物1とAkt1触媒ポケット中に存在するアミノ酸残基との水素結合。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明の1態様は、Akt1キナーゼ活性の阻害について化合物をスクリーニングする方法であって、以下のステップ:
(1)Akt1キナーゼ阻害活性を有すると推測される複数の化合物を準備し;
(2)該複数の化合物のそれぞれと、Akt1、非加水分解性ATPアナログ、及び生理的なAKT基質由来のペプチド基質を含む三元複合体の結晶構造から得た標的結合部位とのドッキングをモデリングすることにより、非加水分解性ATPアナログから規定距離内にあるそれらの残基を含むものとしてタンパク質活性部位を規定し;
(3)該ドッキングした化合物を適合度により順位付けし;
(4)ドッキングの適合度により上位に順位付けされた化合物の中から、1以上のスクリーニング基準を用いることにより化合物をさらに選択し;
(5)任意により、ステップ(4)で選択した化合物の構造を視覚的に分析して、有望でないドッキング形状を有する任意の化合物を排除し;さらに
(6)ステップ(4)又はステップ(5)を行う場合はステップ(5)で選択した化合物を実験的に試験して、Akt1に対する該化合物の阻害活性を測定することによりAkt1阻害活性を有する化合物を選択すること;
を含む前記方法である。
【0026】
通常、非加水分解性ATPアナログはAMP-PNPである。通常、ペプチド基質はGSK-3β由来のペプチド基質である。
【0027】
通常、非加水分解性アナログからの規定距離は約6.0Å〜約7.0Åである。好ましくは、非加水分解性アナログからの規定距離は約6.5Åである。
【0028】
通常、ドッキングのモデリングはドッキングアルゴリズムを用いて行われる。特に好ましいドッキングアルゴリズムはFlexX(BiosolveIT, Sankt Augustin, Germany)であるが、当技術分野では他のアルゴリズムも知られている。
【0029】
ドッキングの適合度により上位に順位付けされた化合物の中から、1以上のスクリーニング基準を用いることにより化合物をさらに選択するステップでは、当技術分野で公知の様々なスクリーニング基準、又はそれらのスクリーニング基準の組み合わせを適用し得る。例えば、スクリーニングはCSCORE (SYBYL)(14)、Drugscore(15)、Goldscore(16)、Chemscore(17)、又GOLD(18)を用いて遂行することができる。これらのスクリーニング方法を逐次的に適用することにより、1つのスクリーニング方法で上位に順位付けされた化合物はその後、第2の方法で再度スクリーニングし得、そして両方のスクリーニング方法で上位に順位付けされた化合物がさらなる分析により選択される。1つの特に好ましいアプローチでは、化合物はFlexX及びDrugscoreを用いることにより選択され、上位のドッキングした構造はそれぞれGoldscoreとChemscore関数により評価及び順位付けされる。GoldscoreとChemscoreがそれぞれ適用された際に両スコア関数により上位に順位付けされた化合物は、その後、視覚分析で選択され、有望でないドッキング形状を有する化合物が排除される。
【0030】
酵素に対する基質及び阻害剤の結合を規定する分子パラメーターは、当技術分野では周知である。通常、結合は水素結合、疎水性相互作用、イオン結合(塩結合)、(反応の特定の段階における)共有結合、及びファンデルワールス力により規定され;結合は通常、「鍵穴と鍵」のメカニズム又は「誘導適合」メカニズムのいずれかと関連する。これらは、2分子間の距離によって生じる相互作用の強度の変動と、1分子は他の分子に対して回転及び並進の6自由度と共に各分子の立体配座の自由度をもつこと、とを考慮した上で、適切なソフトウェア手段によりモデル化することができる。
【0031】
通常、ステップ(4)又は適用する場合はステップ(5)のスクリーニングで得た化合物を実験的に試験するステップは、10μM又は30μM以下の濃度で該化合物のAkt1阻害活性について試験する。通常、阻害活性は選択した化合物についてInvitrogen Corporationにより供給されるZ’-LYTEキットアッセイ(19)を用いて評価される。
【0032】
通常、スクリーニング陽性の化合物は、ATPの触媒部位内に特異的に結合することができ、該結合はATPの補因子であるアデノシン部分の結合と類似している(図3A-C)。動態解析は、これらの化合物が典型的な競合的阻害剤として作用することを立証しており;かかる阻害剤は、キナーゼにおける結合についてATPと拮抗する。従って、該化合物はキナーゼ反応のVmaxよりもKmに対し影響を与える。競合的阻害は酵素学の分野では十分に理解されており、競合的阻害の重要性については本明細書で改めて記載するまでもない。通常、スクリーニング陽性の化合物は、残基Lys181、Ala232、Thr292、及びThr162との水素結合相互作用に関与し(図3D)、該相互作用は、AMP-PNPとの複合体中のAkt1の結晶構造で観察される相互作用と類似している。従って、1つの好ましい代替の態様では、スコアリングパターンと、AMP-PMPとの複合体中Akt1の結晶構造で観察される水素結合パターンと実質的に類似の水素結合パターンとのコンセンサスを測定し、上位に順位付けされたスコアリングパターンと、AMP-PMPとの複合体中のAkt1の結晶構造で観察される水素結合パターンと実質的に類似の水素結合パターンの両方を提示する化合物を選択するものである別のスクリーニングステップが行われる。このコンセンサスの測定により、スクリーニング工程全体の的中率が実質的に改善される。
【0033】
選択に供される化合物は、小分子化合物の任意の好適なライブラリー由来のものであり得る。ライブラリーの1つは、Chembridge (San Diego, CA)から入手することができる。他のライブラリーも入手可能であり、それらの調製方法は例えばR.B. Silverman,「薬物設計及び薬物作用の有機化学(The Organic Chemistry of Drug Design and Drug Action)」(第2版, Elsevier. Amsterdam), pp. 41-43に記載されており、本参照により本明細書に含まれているものとする。合成用の骨格形成材料は、例えば、天然産物から誘導され得る。
【0034】
Akt1阻害活性を有する化合物のうち、化合物1及び2(表1)は低マイクロモル範囲のIC50値を示す。化合物3のIC50は25.1μMである。
【0035】
さらに、化合物4及び5(表2)は化合物1の誘導体であり、Akt1キナーゼに対し限定的な阻害活性を有する。
【0036】
従って、本発明の別の態様は、Akt1キナーゼに対する阻害活性を有することが確認された化合物を誘導体化して、その阻害活性を改善する方法であって、以下のステップ:
(1)Akt1キナーゼに対する阻害活性を有する化合物を準備し;
(2)少なくとも1つの共有結合修飾を該化合物に導入することにより該化合物を誘導体化して、少なくとも1つの誘導体を生成し;さらに
(3)ステップ(2)で生成した誘導体をAkt1キナーゼに対する阻害活性についてスクリーニングし;さらに
(4)ステップ(1)で準備した化合物と比べAkt1キナーゼに対する阻害活性が改善された誘導体を選択すること;
を含む前記方法である。
【0037】
誘導体化には、有機化学及び薬物設計の技術分野で周知の反応(1以上の水素のハロゲンによる置換及びハロゲンの水素による置換、芳香環上のカルボキシル基の配置、除去又は再配置、カルボン酸のエステルへの変換及びその逆、アルコールのエーテルへの変換、アミン基上の水素のアルキル基による置換又はアミン基上のアルキル基の除去、並びに他の類似反応を含む)のうち1以上が含まれ得る。誘導体化は、当技術分野で周知の試薬を適用して標準的な反応条件下で行われ得、これに関してはM.B. Smith & J. March, 「Marchの応用有機化学:反応、メカニズム、及び構造(March's Advanced Organic Chemistry:Reactions, Mechanisms, and Structure)」, 第5版, John Wiley & Sons, New York, 2001等に開示されており、該文献は本参照により本明細書に含まれているものとする。他の誘導体化反応も使用され得る。
【0038】
従って、本発明の別の態様は、Akt1キナーゼを阻害する医薬組成物であって、以下:
(1)上記のスクリーニング方法によりAkt1キナーゼを阻害する活性が見出された化合物であって、Akt1キナーゼを阻害するのに十分な量の該化合物;及び
(2)製薬上許容される担体、
を含む前記医薬組成物である。
【0039】
通常、化合物は約100μM未満のIC50を有する。好ましくは、化合物は約30μM未満のIC50を有する。より好ましくは、化合物は約10μM未満のIC50を有する。さらにより好ましくは、化合物は約5μM未満のIC50を有する。
【0040】
医薬組成物は、癌の治療又はアポトーシスの調節異常を特徴とする別の症状(神経変性症状を含む)の治療のために製剤化され得る。
【0041】
医薬組成物の調製につき好ましい化合物としては、化合物1、2、3、4、及び5がある。医薬組成物の調製につき特に好ましい化合物としては、化合物1及び2がある。従って、該化合物は、以下の式(I)の化合物1、式(II)の化合物2、式(III)の化合物3、式(IV)の化合物4及び5:
【化1】

【化2】

【化3】

【化4】

【0042】
[式(IV)中、化合物4におけるRはp-COOHであり、化合物5におけるRはm-COOHである]
からなる群から選択される。
【0043】
本発明の医薬組成物中の化合物の毒性及び治療有効性は、標準的な製薬手法により細胞培養物又は実験動物において測定され得る。例えば、LD50(集団の50%の致死用量)及びED50(集団の50%の治療有効用量)が測定される。毒性効果と治療効果との用量の比が治療指数であり、該治療指数はLD50/ED50の比で表すことができる。大きな治療指数を示す化合物が好ましい。これらの細胞培養アッセイ及び動物実験で得たデータは、ヒトで使用するための用量範囲を策定するために使用され得る。かかる化合物の用量は、好ましくは、ED50を含むが毒性が少ない又は無い血中濃度範囲内にある。該用量は、採用される剤形及び使用される投与経路に応じて、この範囲内で変更され得る。
【0044】
本発明の医薬化合物中で使用される任意の化合物については、まず治療有効量が細胞培養アッセイから推定され得る。例えば、動物モデルで用量を策定することにより、細胞培養物中で測定したときのIC50を含む循環血漿濃度(すなわち、慢性効果が認められる場合において、受容体シグナリングにつき最大改善の半分をもたらす被験化合物の濃度)範囲を得ることができる。そういった情報を利用することにより、ヒトで有用な用量をより正確に決定することができる。血漿レベルは、例えばHPLCにより測定され得る。
【0045】
本発明の医薬組成物についての正確な剤形、投与経路及び用量は、患者の状態を考慮してそれぞれの医師により選択され得る(例えば、Finglら, 「治療法の薬理学的基礎(The Pharmacological Basis of Therapeutics)」 1975, Ch. 1 p. 1を参照されたい)。主治医であれば、毒性や臓器不全にあわせて、どのように及びいつ投与を中止、中断、又は調節すべきかわかるであろうことに注意されたい。逆に、臨床応答(毒性を除く)が十分でない場合には、より高いレベルへと治療を調節すべきことも主治医であれば理解するであろう。目的とする疾患を管理する上での投与量の大小は、治療対象となる症状の重症度と投与経路によって変わるであろう。該症状の重症度は、例えば1つには標準的予後評価方法により評価され得る。さらに、用量及びおそらく投与頻度は、各患者の年齢、体重、及び反応によっても変わるであろう。上記に検討したものと同程度の施策が、獣医学に関しても使用され得る。
【0046】
治療対象となる特定の症状に応じて、かかる医薬組成物は製剤化され、全身的に又は局所的に投与され得る。通常、投与は全身的である。製剤化及び投与のための技術は、「Remingtonの製薬学(Remington's Pharmaceutical Sciences)」, 第18版, Mack Publishing Co., Easton, Pa. (1990)で知ることができるであろう。好適な経路には、経口投与、直腸投与、経皮投与、腟投与、経粘膜投与、又は腸内投与;筋肉内注射、皮下注射、髄内注射だけでなく、幾つか例を挙げると髄腔内注射、直接的な脳質内注射、静脈内注射、腹腔内注射、鼻腔内注射、又は眼内注射を含む非経口投与が含まれ得る。通常、経口投与が好ましい。
【0047】
注射用に、本発明の医薬組成物は水溶液中に製剤化され得る。経粘膜投与用では、浸透をうけるバリアに適した浸透剤が、製剤において使用される。かかる浸透剤は当技術分野で一般に知られている。
【0048】
製薬上許容される担体の使用は、本発明の範囲内にある。例えば、経口投与用の担体が当技術分野で広く知られている。かかる担体は、治療対象の患者が経口摂取できるように、本発明の化合物が錠剤、丸剤、カプセル、液剤、ゲル、シロップ、スラリー、懸濁液等として製剤化されることを可能にする。
【0049】
Akt1キナーゼ阻害活性を有する化合物のような活性成分に加え、これらの医薬組成物には、製薬上使用することができる製剤への活性化合物の加工を促進する好適な製薬上許容できる担体(賦形剤及び補助剤を含む)が含まれ得る。経口投与用に製剤化された製剤は、錠剤、糖衣錠、カプセル、又は溶液の形態をとり得る。本発明の医薬組成物は、公知の方法、例えば一般的な混合、溶解、粒状化、糖衣錠の生成、湿式粉砕(levigating)、乳化、カプセル化、混入、又は凍結乾燥化プロセスの手段により製造され得る。
【0050】
非経口投与用の医薬製剤には、水溶性型の活性化合物の水溶液が含まれる。さらに、活性化合物の懸濁液は、適当な油性注射懸濁液として調製され得る。好適な親油性溶媒やビヒクルは、ゴマ油のような脂肪油、又はオレイン酸エチル若しくはトリグリセリドのような合成脂肪酸エステルを含む。水性注射懸濁液は、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ソルビトール、又はデキストランのような懸濁液の粘度を増加させる物質を含み得る。任意により、懸濁液は、好適な安定化剤又は化合物の溶解性を上昇させて高濃度の溶液を調製することができる薬剤も含み得る。
【0051】
経口用の医薬製剤は、錠剤又は糖衣錠のコアを得るために必要に応じて好適な補助剤を加えた後で、活性化合物と固形の賦形剤とを結合させ、生成した混合物を任意で粉砕し、顆粒剤の混合物を加工することにより得ることができる。好適な賦形剤は、特に、ラクトース、スクロース、マンニトール又はソルビトールを含む糖のような充填剤;例えばとうもろこし澱粉、小麦澱粉、米澱粉、馬鈴薯澱粉、ゼラチン、トラガカントゴム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチル-セルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウムのようなセルロース調製物、及び/又はポリビニルピロリドン(PVP)である。必要に応じて、架橋ポリビニルピロリドン、寒天、又はアルギン酸若しくはアルギン酸ナトリウムのようなその塩といった崩壊剤が添加され得る。
【0052】
糖衣錠のコアは、好適なコーティングを施した状態で提供される。この目的のためには、濃縮糖溶液が使用され得、該溶液は任意でアラビアゴム、タルク、ポリビニルピロリドン、カーボポールゲル、ポリエチレングリコール、及び/又は二酸化チタニウム、ラッカ溶液並びに好適な有機溶媒若しくは溶媒混合物を含み得る。染料又は顔料を、錠剤や糖衣錠のコーティングへと添加することにより、活性化合物用量の様々な組み合わせを識別するか又は特徴付けることができ得る。
【0053】
経口で使用可能な医薬製剤には、ゼラチン製のプッシュフィットカプセルだけでなく、ゼラチン及び可塑剤(例えば、グリセロールやソルビトール)でできたソフト密封カプセルが含まれる。プッシュフィットカプセルは、ラクトースのような充填剤、スターチのような結合剤、及び/又はタルク若しくはステアリン酸マグネシウムのような滑沢剤、並びに任意で安定化剤を含む混合物中に、活性成分を含み得る。ソフトカプセル中で活性化合物は、脂肪油、流動パラフィン、又は液体ポリエチレングリコールのような好適な液体中に溶解や懸濁され得る。さらに、安定化剤が添加され得る。
【0054】
従って、本発明の別の態様は、アポトーシスの調節異常を特徴とする疾患又は症状を治療する方法であって、有効量の本発明の医薬組成物を、アポトーシスの調節異常を特徴とする疾患又は症状を患うと診断された被験体又はその疑いのある被験体に投与することを含み、これによりアポトーシスを正常化する前記方法である。該疾患又は症状は通常、癌であるが、神経変性症状でもあり得る。該疾患又は症状を患うと診断された被験体又はその疑いのある被験体は、ヒトであり得るが、他にイヌ、ネコ、ヒツジ、ウマ、ウシ、ブタ、ヤギ、ニワトリ、シチメンチョウ、アヒル、ガチョウ、及び任意の他の真核生物からなる群から選択される社会的に又は経済学的に重要な動物であり得る。アポトーシスは真核生物の細胞制御において共通のプロセスである。
【表1】

【0055】
【表2】

【0056】
本発明は、以下の実施例により説明される。この実施例は、説明的な目的のためだけに本明細書に含まれるものとし、本発明を限定することは意図しない。
【実施例】
【0057】
今日では、膨大な化学データベースのハイスループットスクリーニングが、リード同定において共通のアプローチといえる。しかしながら、タンパク質標的の3D構造がある場合には、コンピューターによるドッキング試験を用いることにより、試験対象となる数多くの化合物を限定できるはずである。
【0058】
この実施例において、本発明者らは、既報のAkt1キナーゼの結晶構造に基づいた数多くのアプローチを説明する。この方法により、阻害剤候補がATP結合部位へドッキングすると推測される能力に基づいて、幾つかの阻害剤候補を選択することができる。
【0059】
標的結合部位は、Akt1、ATPの非加水分解型(AMP-PNP pdb id: 1O6K)、及びGSK-3β由来のペプチド基質を含む三元複合体の結晶構造から得た(10)。タンパク質活性部位は、ATP模倣体から6.5Å以内にあるそれらの残基を含むものとして規定した。水素原子は、Sybyl(11)(Tripos, St. Louis, MO)を用いて計算し、水分子、ペプチド基質に加えATP模倣体を除外した。50000個の化合物(Chembridge San Diego, CA, USA)を逐次的にドッキングさせ、ソフトウェアFlexX (BioSolveIT, Sankt Augustin, Germany)(12、13)により順位付けした。最初の試みで、本発明者らは上位2000個の化合物を選択し、CSCORE(14)(Sybyl)を用いる他のスコアリング関数によりそれらを順位付けした。続いて、本発明者らは、Drugscore(15)で上位100個の化合物、Goldscore(16)で上位200個の化合物及びChemscore(17)で上位200個の別の化合物を10μMで実験的に試験した。残念なことに、Goldscore及びChemscoreによる選択で共通する阻害剤(化合物2、5809365)は、わずか1つであることが、Akt1アッセイを通じてわかった(表1)。一方、Drugscoreにより選択された化合物の中から阻害剤が発見されることはなかった。さらに、本発明者らはまた、GOLD(18)を用いてFlexXで上位4000個の化合物をドッキングさせ、続いて選択して、上位200個の化合物を試験した。すると再び、化合物2が唯一の阻害剤であるという結果が得られた(図1A)。図1は採用したバーチャルドッキングアプローチの概略図を示す。
【0060】
これらの結果から、本発明者らは図1Bに記載の別の方法に頼ることにした。図1Bの方法では、50000個のドッキングした化合物の中から上位4000個の化合物を、FlexX及びDrugscore (BioSolvIT)を用いて選択した。上位4000個のドッキングした構造をGoldscoreとChemscore関数(CSCORE)によりさらに評価及び順位付けした。その後、両スコアリング関数により順位付けされた上位700個の化合物の中から、共通する(すなわち、両スコアで共に上位700個に入る)200個の化合物のリストを選び出した(図1B)。そして、200個のドッキングした構造の視覚分析により、有望でないドッキング形状を有する100個の化合物を排除した。残る100個の化合物を、Akt1に対して30μM以下で実験的に試験した。Invitrogen Corporation (19)により供給されるZ’-LYTETMキットアッセイを用いて、選択した化合物について阻害活性を評価した。実験的に試験した化合物のうち、少なくとも3個の化合物が興味深い阻害剤として挙がり、そのうち2つは低マイクロモル範囲のIC50値を示した。特に、化合物1及び2(表1)は、唯一知られる市販のAkt1阻害剤であるH-89(20)に匹敵する濃度範囲でAkt1を阻害し、IC50値はそれぞれ2.6μM及び4.5μMであった(図2A-B)。化合物3のIC50値は25.1μMを示した。残りの選択した化合物は、30μM以下ではいかなる阻害活性も示さなかった。図2において:A)化合物1のIC50評価(2.6μM)。この曲線の傾き(Hill slope)は1.1である;B)化合物2のIC50評価(4.5μM)。Corning(登録商標)384-ウェル低容量プレート(20μl)を使用した。蛍光酵素アッセイを、Invitrogen Corporationにより供給されるプロトコールに従い、蛍光プレートリーダー(Victor2, Perkin-Elmer)を用いて実施した。IC50値は、データをシグモイド型の用量/反応式に当てはめ、GraphPad Prism(登録商標)を用いて阻害が観察された割合を阻害剤濃度の対数に対してプロットして、決定した。C)Akt1についてのLineweaver-Burk Km及びKm(app)評価。各測定は、三重に実施した。酵素反応のKm及びVmax値は、25℃でATP濃度を増加させて(5、10、15、20及び25μM)使用することにより測定した。Ki及びKm(app)は本文中で報告しているとおり、固定の阻害剤濃度で算出した。全ての定数値は、データをLineweaver-Burkプロットに当てはめることにより正確に評価した;D)GSK-3を基質として用いたAkt1阻害アッセイ。化合物1及び2(表1)のH89(10μM)との比較。E)化合物1についての用量反応。25μlの1×キナーゼ緩衝液(25 mM Tris(pH 7.5);5 mM β-グリセロールホスフェート;2 mMジチオスレイトール;0.1 mM Na3VO4;及び10 mM MgCl2)中に含まれるAkt(組換え酵素10 ng)を、2.5μlのDMSO(1%ストック)又はMPA-D(1%DMSO中100μM)と混合した。サンプルを氷上で1.5時間インキュベートし、この時間の間に基質として働くGSK-3融合タンパク質(Cell Signaling)1μgを加えた後、ATP(200μM)をそれぞれの反応混合物へ加えた。該懸濁液を30℃で20分間インキュベートした後、3×SDSサンプル緩衝液(187.5 mM Tris-HCl(pH 6.8);6%SDS;30%グリセロール;150 mMジチオスレイトール;及び0.03%ブロモフェノールブルー)を加えて、反応を停止させた。サンプルを5分間煮沸し、タンパク質を12%SDSポリアクリルアミドゲル上で分離し、続いてニトロセルロース膜へ転写した。膜をウサギポリクローナル抗ホスホ-GSK-3α/β (Ser21/9)(Cell Signaling)と共にインキュベートした。
【0061】
化合物1及び2の阻害活性をさらに評価するために、抗ホスホ-GSK-3α/β及び基質としてGSK-3を使用する(図2D-E)イムノブロッティングアッセイを用いることにより、第2のアッセイを行った。Z’-LYTETMアッセイの結果と一致するように、どちらの化合物も低マイクロモル範囲でGS3Kのリン酸化を阻害した。
【0062】
これらの結果を確認及び拡張するために、本発明者らは化合物1、2及び3によるAkt1阻害のKi値及びタイプを測定した(図2C)。これらの目的のために、本発明者らは始めに、Z’-LYTETMキットアッセイにより提供されるペプチドとAkt1が関与する酵素反応のKm及びVmaを、ATPの濃度を変化させて測定した。上記パラメーターとして、それぞれ7.9μM及び0.0205μmol min-1 mg-1が得られた。その後、本発明者らは濃度10μMの化合物1、20μMの化合物2及び50μMの化合物3を使用することにより、阻害剤のKi値を同定した(表1)。本発明者らの阻害剤は全て、反応のVmaxよりもKmに影響を与えたので(図2C)、該阻害剤は確かにAkt1のATP競合的阻害剤とみなすことができる。
【0063】
偶発的に生じ得る非特異的な相互作用の可能性を除外するために、本発明者らは、タンパク質濃度を10倍に増加させた場合だけでなく、化合物をAkt1とともに30分間プレインキュベートした後で、そのIC50値を測定しても、化合物1のIC50値について実質的な変化が検出されないことも立証した。これらの単純な試験は、非特異的リガンド-タンパク質相互作用の存在下では、劇的に異なるIC50値が得られることを証明している(21)。
【0064】
さらに、本発明者らは、本発明者らの化合物を、無関係のプロテインキナーゼであって本発明者らの研究所において研究中のチロシンキナーゼであるAbl1(22)に対し、試験した。本発明者らの化合物は、100μM以下の濃度では、このキナーゼを阻害しなかった。本発明者らは、様々なAktアイソフォームに対する本発明者らの化合物の選択性に関するデータを、現時点で有さない。
【0065】
従って、本発明者らの構造ベースのアプローチを用いることにより、本発明者らは3種類のAkt1の阻害剤を同定することができ(表1)、そのうち2つはH-89の阻害活性に匹敵する阻害活性を示した(図2):ドッキングした形状によると、本発明者らの実験データと一致するように、3つの阻害剤は全てATPの触媒部位に適切に配置すると考えられ、これは補因子であるアデノシン部分の結合と類似している(図3A、B、C)。実際に、それぞれの化合物は、残基Lys181、Ala232、Thr292及びThr162とのH-結合相互作用(図3D)に関与し、該相互作用はAMP-PNPとの複合体中のAkt1の結晶構造で観察される相互作用と類似している。図3において、A)、B)及びC)は化合物1、2及び3がAkt1のATP結合部位にドッキングした構造を示す。50000個の化合物の2D構造を、CONCORD(25)又はCORINA(26)を用いて3D構造へと変換した。2つのドッキングプログラムを使用して、Akt1キナーゼに対する化合物をスクリーニングした。FlexXプログラムをDrugscoreに適用して、ドッキング型を決定した。Goldscore適合関数を用いて、GOLDパッケージをリガンドにドッキングさせた。コンセンサススコアリングは、CSCORE (Sybyl)を用いることにより得た。D)化合物1とAkt1触媒ポケット中に存在する残基との水素結合。
【0066】
よって、化合物1のさらなる13アナログの阻害活性の測定により、上記残基と水素結合を形成することができる化合物4及び5のみが、マイクロモル範囲で感知可能な阻害を示すことが明らかとなった(表2)。
【0067】
従って、他のプロテインキナーゼ(23)や他のドッキング試験(27)で既に報告されているように、H-結合相互作用に関与する所与の化合物の能力が、全ての阻害剤-Akt1複合体において必須であると考えられる。事実、H-結合を形成する能力を阻害剤候補の選択に考慮するならば、僅か30個の化合物のみが選択されることになる。図1Bに記載のとおり、本発明者らが選択した30個の化合物は、3つのヒットする化合物を全て含み、よって、10%の的中率であった。
【0068】
多くの信頼できるin silicoアプローチ及び市販の頑強なin vitroアッセイが利用可能であるにも関わらず、Akt阻害剤の発見は未だにチャレンジングな仕事であることに変わりない。この分野では、幾つもの試みがなされてきたにも関わらず、市場性のあるAkt1に対する阻害剤はH-89以外には現時点で存在しない。事実、ハイスループットスクリーニングに基づいた研究を報告する最も最近の論文では、270,000個の被験化合物の中からわずか2個のAkt1低マイクロモル阻害剤の特性付けが導かれた(23)。
【0069】
さらに、本発明者らはAkt-キナーゼ活性を遮断することができる分子を同定するために継続して努力する中で、本発明者らは、2000個の天然産物のライブラリー(Microsource)を30μM以下の濃度でAkt1に対しても試験したが、有効な低マイクロモルの阻害剤は得られなかった(データは示していない)。
【0070】
結論として、当該実施例では、本発明者らはAkt1を阻害する化合物を見出すために本発明者らが採用した構造ベースの2つの異なる方法を記載する。図1Aに記載の方法を採用した場合、スコアリング関数によりもたらされた結果に単に頼るだけでは、非常に残念なことに、その的中率はランダムなアプローチから予測される的中率よりもわずかに優れているだけと考えられた(0.01-0.5%)(24)。しかしながら、スコアリング関数と、AMP-PNPとの複合体中のAkt1の結晶構造で観察されるH-結合パターンと類似するH-結合パターンとのコンセンサスを考慮して、本発明者らのドッキング方法の結果を分析すると、最終的には10%という驚くべき的中率が得られた(図1B)。
【0071】
本発明者らは、本明細書に記載の2つの低マイクロモル阻害剤が、ヒト腫瘍細胞においてAkt1活性を阻害可能な有力かつ選択的な分子を見出すための出発点を示し得ると信じている。
【0072】
参考文献
以下の参考文献は、引用番号により本明細書及び実施例に引用され;これらの参考文献は全て、本出願の本引用によりその全体が本明細書に含まれているものとする。


【0073】
本発明の利点
本発明は、膨大な量の化合物を、アポトーシス及び他の細胞機能を調節する上で決定的な酵素であるプロテインキナーゼBの阻害活性についてスクリーニングする迅速で効率的な方法を提供する。本発明の方法でドッキングモデルを使用することにより、本方法はランダムスクリーニングよりも高い的中率を有する。本発明のスクリーニング方法により阻害活性を有することが確認された化合物は、癌及びアポトーシスの調節異常を特徴とする他の症状を治療する上で有用である可能性があり、そのような化合物を含む医薬組成物が調製され得る。
【0074】
本明細書に実際に記載されている発明は、本明細書で特に開示のない任意の1又は複数の要素、1又は複数の限定が無い場合であっても、適切に実施することができる。従って、例えば、用語「含む(comprising、including、containing等)」は、広く解釈され、なんら限定的に解釈されるべきでない。さらに、本明細書で適用される用語及び表現は、説明のための用語として使用され、限定するための用語としては使用されず、将来的に提示及び記載されるであろうものと同程度のもの又はその一部をいずれも除くようなかかる用語及び表現の使用は意図しない。そして、本発明の特許請求の範囲内において、様々な変形が生じ得ることが理解されるであろう。従って、本発明は好ましい実施形態及び任意の特徴によって特徴的に開示されているが、本明細書で開示される発明の変形及び修正は当業者により報告され得、そのような変形及び修正は、本明細書に開示される発明の範囲内にあるとみなして理解すべきである。本発明は、本明細書において、広くかつ一般的に記載されている。一般的な開示の範囲内では、より狭い種(species)及び下位の一般的なグループもそれぞれ、これらの発明の一部を形成する。これには、それぞれの発明の一般的な説明であって、類(genus)から任意の対象を除くような但し書きや否定的な限定を有する説明が含まれ、除かれたものが明細書に残されているか否かは問わない。
【0075】
さらに、発明の特徴又は態様がマーカッシュグループにより記載される場合、該発明はそれにより、マーカッシュグループの個々のメンバー又はメンバーのサブグループのいずれかによって記載されることも、当業者には理解されるであろう。上記説明は説明的であって限定的でないことが意図されると理解すべきである。多くの実施形態が、上記記載を検討すれば当業者には明らかであろう。従って、本発明の範囲は、上記の参照により定められるべきではなく、代わりに、添付の特許請求の範囲及びそのような特許請求の範囲により権利が付与されるものに相当する全範囲を参照することにより、定められるべきである。特許公報を含め全ての記事及び参考文献の開示は、引用により本明細書に含まれているものとする。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】図1は、採用したバーチャルドッキングアプローチの概略図である。
【図2】図2は、化合物1及び2についてのAkt1阻害アッセイを示す一連のグラフである。
【図3】図3は、ドッキングモデルを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
化合物をAkt1キナーゼ活性の阻害についてスクリーニングする方法であって、以下のステップ:
(a)Akt1キナーゼ阻害活性を有すると推測される複数の化合物を準備し;
(b)該複数の化合物のそれぞれと、Akt1、非加水分解性ATPアナログ、及び生理的なAKT基質由来のペプチド基質を含む三元複合体の結晶構造から得た標的結合部位とのドッキングをモデリングすることにより、非加水分解性ATPアナログから規定距離内にあるそれらの残基を含むものとしてタンパク質活性部位を規定し;
(c)該ドッキングした化合物を適合度により順位付けし;
(d)ドッキングの適合度により上位に順位付けされた化合物の中から、1以上のスクリーニング基準を用いることにより化合物をさらに選択し;
(e)任意により、ステップ(d)で選択した化合物の構造を視覚的に分析して、有望でないドッキング形状を有する任意の化合物を排除し;さらに
(f)ステップ(d)又はステップ(e)を行う場合はステップ(e)で選択した化合物を実験的に試験して、Akt1に対する該化合物の阻害活性を測定することによりAkt1阻害活性を有する化合物を選択すること;
を含む前記方法。
【請求項2】
非加水分解性ATPアナログがAMP-PNPである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ペプチド基質がGSK-3β由来のペプチド基質である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
非加水分解性アナログからの規定距離が約6.0Å〜約7.0Åである、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
非加水分解性アナログからの規定距離が約6.5Åである、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
ドッキングのモデリングがドッキングアルゴリズムを用いて行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
ドッキングアルゴリズムがFlexXである、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
ドッキングの適合度により上位に順位付けされた化合物の中から、1以上のスクリーニング基準を用いることにより化合物をさらに選択するステップが、CSCORE (SYBYL)、Drugscore、Goldscore、Chemscore、及びGOLDのうち1以上を用いて行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
ドッキングの適合度により上位に順位付けされた化合物の中から、1以上のスクリーニング基準を用いることにより化合物をさらに選択するステップが、最初にDrugscoreを用いた後、上位のドッキングした構造をそれぞれGoldscoreとChemscoreにより評価及び順位付けすることにより行われる、請求項6に記載の方法。
【請求項10】
GoldscoreとChemscoreがそれぞれ適用された際に、両スコア関数により上位に順位付けされた化合物を、その後、視覚分析により選択して、有望でないドッキング形状を有する化合物を排除する、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
ステップ(d)又は行う場合はステップ(e)のスクリーニングにより得た化合物を実験的に試験するステップが、30μM以下の濃度で化合物を試験することにより行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記濃度が10μMである、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
スクリーニング陽性の化合物が、ATPの触媒部位内に特異的に結合することができる、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
スクリーニング陽性の化合物が、ATPと競合するAkt1の競合的阻害剤として作用する、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
スクリーニング陽性の化合物が、Akt1の残基Lys181、Ala232、Thr292、及びThr162との水素結合相互作用に関与する、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
スコアリングパターンと、AMP-PMPとの複合体中のAkt1の結晶構造で観察される水素結合パターンと実質的に類似する水素結合パターンとのコンセンサスを測定し、上位に順位付けされたスコアリングパターンと、AMP-PMPとの複合体中のAkt1の結晶構造で観察される水素結合パターンと実質的に類似の水素結合パターンの両方を提示する化合物を選択する追加のスクリーニングステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
Akt1キナーゼに対する阻害活性を有することが確認された化合物を誘導体化して、その阻害活性を改善する方法であって、以下のステップ:
(a)Akt1キナーゼに対する阻害活性を有する化合物を準備し;
(b)少なくとも1つの共有結合修飾を該化合物に導入することにより該化合物を誘導体化して、少なくとも1つの誘導体を生成し;さらに
(c)ステップ(b)で生成した誘導体をAkt1キナーゼに対する阻害活性についてスクリーニングし;さらに
(d)ステップ(a)で準備した化合物と比べAkt1キナーゼに対する阻害活性が改善された誘導体を選択すること;
を含む前記方法。
【請求項18】
誘導体化ステップが、1以上の水素のハロゲンによる置換;ハロゲンの水素による置換;芳香環上のカルボキシル基の配置、除去又は再配置;カルボン酸のエステルへの変換及びその逆;アルコールのエーテルへの変換;アミン基上の水素のアルキル基による置換;並びにアミン基上のアルキル基の除去からなる群から選択される少なくとも1つの反応を含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
Akt1キナーゼを阻害する医薬組成物であって、以下:
(a)請求項1に記載のスクリーニング方法によりAkt1キナーゼを阻害する活性が見出された化合物であって、Akt1キナーゼを阻害するのに十分な量の該化合物;及び
(b)製薬上許容される担体、
を含む前記医薬組成物。
【請求項20】
化合物が約100μM未満のIC50を有する、請求項19に記載の医薬組成物。
【請求項21】
化合物が約30μM未満のIC50を有する、請求項20に記載の医薬組成物。
【請求項22】
化合物が約10μM未満のIC50を有する、請求項21に記載の医薬組成物。
【請求項23】
化合物が約5μM未満のIC50を有する、請求項22に記載の医薬組成物。
【請求項24】
医薬組成物が癌の治療のために製剤化された、請求項19に記載の医薬組成物。
【請求項25】
医薬組成物が、アポトーシスの調節異常を特徴とする症状のうち癌以外の症状の治療のために製剤化された、請求項19に記載の医薬組成物。
【請求項26】
医薬組成物が、神経変性症状の治療のために製剤化された、請求項25に記載の医薬組成物。
【請求項27】
スクリーニング方法によりAkt1キナーゼを阻害する活性が見出された化合物が、以下の式(I)の化合物1、式(II)の化合物2、式(III)の化合物3、並びに式(IV)の化合物4及び5:
【化1】

【化2】

【化3】

【化4】

[式(IV)中、化合物4におけるRはp-COOHであり、化合物5におけるRはm-COOHである]
からなる群から選択される、請求項19に記載の医薬組成物。
【請求項28】
アポトーシスの調節異常を特徴とする疾患又は症状を治療する方法であって、有効量の請求項19に記載の医薬組成物を、アポトーシスの調節異常を特徴とする疾患又は症状を患うと診断された被験体又はその疑いのある被験体に投与することを含み、これによりアポトーシスを正常化する前記方法。
【請求項29】
アポトーシスの調節異常を特徴とする疾患又は症状が癌である、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
アポトーシスの調節異常を特徴とする疾患又は症状が神経変性症状である、請求項28に記載の方法。
【請求項31】
被験体がヒトである、請求項28に記載の方法。
【請求項32】
被験体がイヌ、ネコ、ヒツジ、ウマ、ウシ、ブタ、ヤギ、ニワトリ、シチメンチョウ、アヒル、及びガチョウからなる群から選択される社会的に又は経済学的に重要な動物である、請求項28に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2008−538102(P2008−538102A)
【公表日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−558288(P2007−558288)
【出願日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際出願番号】PCT/US2006/007730
【国際公開番号】WO2006/094230
【国際公開日】平成18年9月8日(2006.9.8)
【出願人】(507293516)ザ バーナム インスティテュート フォー メディカル リサーチ (4)
【Fターム(参考)】