説明

パイロットPLL回路及びFMステレオ復調回路

【課題】制御特性を向上させることが可能なパイロットPLL回路を提供することを目的とする。
【解決手段】制御データを与えられて出力周波数が変化するNCO31、出力周波数を与えられ第1の周波数の余弦波データを出力するROMテーブル32、FM復調データと第1の周波数の余弦波データとを与えられて乗算し乗算結果を出力する乗算器33、乗算結果を積分した累積加算データを出力する積分器35、乗算結果を与えられFM復調データと出力周波数との間の周波数偏差信号を出力するLPF34、累積加算データと周波数偏差信号とを加算して制御データを出力する加算器36、FM復調データのパイロット信号成分を検出してパイロット信号検出信号を出力するパイロット信号検出回路50を備え、積分器は累積加算データの値をパイロット信号検出信号に応じて制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はパイロットPLL回路及びFMステレオ復調回路に関し、特にディジタル対応型FM受信機のFMステレオ復調用に好適なものに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、受信信号を一旦中間周波数信号に変換した後、ディジタル信号に変換して復調処理を行うディジタル対応型FM受信機において、ステレオ復調に用いるサブキャリア信号を生成するパイロットPLL回路を、ディジタルPLL回路で構成することが行われている。
【0003】
しかし、従来のパイロットPLL回路では、FMステレオ復調データに含まれる19kHzのパイロット信号成分の有無にかかわらず、積分回路における累積加算データの値を用いて位相制御を行っており、制御特性を向上させることができなかった。
【特許文献1】特開2006−129536号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記事情に鑑み、制御特性を向上させることが可能なパイロットPLL回路及びFMステレオ復調回路を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様によるパイロットPLL回路は、信号L、Rの和信号が主チャンネル信号とされ、信号L、Rの差信号によりサブキャリア信号を平衡変調した信号が副チャンネル信号とされるFM復調データを与えられるパイロットPLL回路において、制御データを与えられて出力周波数が変化する数値制御発振器と、前記数値制御発振器からの前記出力周波数を与えられて第1の周波数の余弦波データを出力する第1のROMテーブルと、前記FM復調データと、前記第1の周波数の余弦波データとを与えられて乗算し、乗算結果を出力する乗算器と、前記乗算結果を与えられ、この乗算結果を積分した累積加算データを出力する積分器と、前記乗算結果を与えられ、前記FM復調データと前記数値制御発振器からの前記出力周波数との間の周波数偏差成分を含む周波数偏差信号を出力するローパスフィルタと、前記累積加算データと前記周波数偏差信号とを加算して、前記数値制御発振器に前記制御データとして出力する加算器と、前記FM復調データに含まれるパイロット信号成分の有無を検出してパイロット信号検出信号を出力するパイロット信号検出回路とを備え、前記積分器は、前記累積加算データの値を、前記パイロット信号検出信号に応じて制御することを特徴とする。
【0006】
本発明の一態様によるFMステレオ復調回路は、信号L、Rの和信号が主チャンネル信号とされ、信号L、Rの差信号によりサブキャリア信号を平衡変調した信号が副チャンネル信号とされるFM復調データを与えられて復調処理を行うFM復調回路において、制御データを与えられて出力周波数が変化する数値制御発振器と、前記数値制御発振器からの前記出力周波数を与えられて第1の周波数の余弦波データを出力する第1のROMテーブルと、前記数値制御発振器からの前記出力周波数を与えられて第2の周波数の正弦波データを出力する第2のROMテーブルと、前記FM復調データと、前記第1の周波数の余弦波データとを与えられて乗算し、乗算結果を出力する乗算器と、前記乗算結果を与えられ、この乗算結果を積分した累積加算データを出力する積分器と、前記乗算結果を与えられ、前記FM復調データと、前記数値制御発振器からの前記出力周波数との間の周波数偏差成分を含む周波数偏差信号を出力するローパスフィルタと、前記累積加算データと前記周波数偏差信号とを加算して、前記数値制御発振器に前記制御データとして出力する加算器と、前記FM復調データに含まれるパイロット信号成分の有無の検出を、第1の閾値に基づいて行った第1のパイロット信号検出信号と、第2の閾値に基づいて行った第2のパイロット信号検出信号とを出力するパイロット信号検出回路とを有し、前記積分器が前記累積加算データの値を前記第1のパイロット信号検出信号に応じて制御するパイロットPLL回路と、前記FM復調データと前記第2のパイロット信号検出信号とを与えられ、前記第2のパイロット信号検出信号がパイロット信号の存在を示す場合、前記FM復調データに対し前記パイロット信号をキャンセルする処理を行うパイロットキャンセル回路と、前記パイロットキャンセル回路からの出力と、前記第2の周波数の正弦波データとを与えられて、前記副チャンネル信号を生成する復調回路とを備えることを特徴とする。
【0007】
また、本発明の一態様によるFMステレオ復調回路は、信号L、Rの和信号が主チャンネル信号とされ、信号L、Rの差信号によりサブキャリア信号を平衡変調した信号が副チャンネル信号とされるFM復調データを与えられて復調処理を行うFM復調回路において、制御データを与えられて出力周波数が変化する数値制御発振器と、前記数値制御発振器からの前記出力周波数を与えられて第1の周波数の余弦波データを出力する第1のROMテーブルと、前記数値制御発振器からの前記出力周波数を与えられて第2の周波数の正弦波データを出力する第2のROMテーブルと、前記数値制御発振器からの前記出力周波数を与えられて前記第1の周波数の正弦波データを出力する第3のROMテーブルと、前記FM復調データと、前記第1の周波数の余弦波データとを与えられて乗算し、乗算結果を出力する乗算器と、前記乗算結果を与えられ、この乗算結果を積分した累積加算データを出力する積分器と、前記乗算結果を与えられ、前記FM復調データと、前記数値制御発振器からの前記出力周波数との間の周波数偏差成分を含む周波数偏差信号を出力するローパスフィルタと、前記累積加算データと前記周波数偏差信号とを加算して、前記数値制御発振器に前記制御データとして出力する加算器と、前記FM復調データと前記第1の周波数の正弦波データとを与えられて乗算し、第2の乗算結果を出力する第2の乗算器と、前記第2の乗算結果を与えられて第1の低周波成分を出力する第2のローパスフィルタと、前記第1の低周波成分の符号を正数に変換して出力する絶対値回路と、前記絶対値回路からの出力と第1の閾値とを比較した前記第1のパイロット信号検出信号を出力する第1の比較器と、前記FM復調データと前記第1の周波数の余弦波データとを与えられて乗算し、第3の乗算結果を出力する第3の乗算器と、前記第3の乗算結果を与えられて第2の低周波成分を出力する第3のローパスフィルタと、前記第2の低周波成分と第2の閾値とを比較した前記第2のパイロット信号検出信号を出力する第2の比較器と、前記第1のパイロット信号検出信号と前記第2のパイロット信号検出信号とを与えられて所定の論理演算を行い第3のパイロット信号検出信号を出力する論理回路とを有するパイロット信号検出回路とを有し、前記積分器が前記累積加算データの値を前記第1、第2又は第3のパイロット信号検出信号にいずれかに応じて制御するパイロットPLL回路と、前記FM復調データと前記第3のパイロット信号検出信号とを与えられ、前記第3のパイロット信号検出信号がパイロット信号の存在を示す場合、前記FM復調データに対し前記パイロット信号をキャンセルする処理を行うパイロットキャンセル回路と、前記パイロットキャンセル回路からの出力と、前記第2の周波数の正弦波データとを与えられて、前記副チャンネル信号を生成する復調回路とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明のパイロットPLL回路及びFMステレオ復調回路によれば、制御特性を向上させることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態によるパイロットPLL回路及びFMステレオ復調回路について、図面を参照して説明する。
【0010】
(1)実施の形態1
本実施の形態1によるパイロットPLL回路、このパイロットPLL回路を含むFMステレオ復調回路を備えるディジタル対応型FM受信機は、図1に示されるように、アンテナ端10、FMフロントエンド回路11、FM中間周波数アンプ12、A/Dコンバータ13、FM復調回路14、ステレオ復調回路15、聴感補正回路16a及び16b、D/Aコンバータ17a及び17b、スピーカ18a及び18bを備える。
【0011】
アンテナ端10により受信されたFM波は、FMフロントエンド回路11において希望の受信局の受信周波数信号が選択されて、FM中間周波数アンプ12において中間周波数帯に変換され増幅されて中間周波数信号として出力される。この中間周波数信号は、A/Dコンバータ13においてディジタル信号に変換され、FM復調回路14でFM復調データ(ベースバンド信号)に変換される。
【0012】
FMステレオ信号の場合、このFM復調データは、(L+R)の主チャネル信号、(L−R)の副チャネル信号になっており、ステレオ復調回路15においてこの主チャネル信号と副チャネル信号とがステレオ信号(L/R)に復調される。
【0013】
復調されたステレオ信号(L/R)は、それぞれ聴感補正回路16a、16bにおいて聴感補正され、D/Aコンバータ17a、17bにおいてアナログ音声信号として出力されて、スピーカ18a、18bにおいて再生される。
【0014】
ここで、ステレオ復調回路15の具体的な構成の一例を図2に示す。このステレオ復調回路15は、パイロットキャンセル回路21、副チャネル復調回路22、ステレオデマトリクス回路に相当するパイロットPLL回路23を有する。
【0015】
FM復調回路14から出力されたFM復調データが、パイロットキャンセル回路21とパイロットPLL回路23とに入力される。このFM復調データは、(L+R)の主チャネル信号、(L−R)の副チャネル信号になっている。
【0016】
後述するように、パイロットPLL回路23において、FM復調データに19kHzのパイロット信号が含まれるか否かを検出したパイロット信号検出信号がパイロットキャンセル回路21に出力される。さらに、パイロットPLL回路23において、19kHzのパイロット信号に基づいて生成した38kHzのサブキャリア信号が副チャネル復調回路22に出力される。
【0017】
パイロットキャンセル回路21において、後述するように、パイロット信号検出信号に基づき、FM復調データに19kHzのパイロット信号が重畳された状態で含まれている時は主信号からパイロット信号成分を減算することで除去する処理を行い、パイロット信号が含まれていない時は除去しないように動作する。
【0018】
パイロット信号が含まれていて除去されたFM復調データあるいは含まれていなかったFM復調データが副チャネル復調回路22に出力される。副チャネル復調回路22において、パイロット信号が含まれていないFM復調データと38kHzのサブキャリア信号とが与えられ、両者が乗算されることで副チャネル信号(L−R)が生成される。さらに、主チャネル信号(L+R)と副チャネル信号(L−R)とが加減算されてステレオ信号(L、R)が生成される。
【0019】
図3に、ステレオ復調回路15におけるパイロットPLL回路23に相当し、パイロット信号とサブキャリア信号とを生成するパイロットPLL回路の具体的な構成の一例を示す。
【0020】
このパイロットPLL回路23は、数値制御発振器(以下、NCOと称する)31、19kHz余弦波ROMテーブル32、乗算器33、ローパスフィルタ34、積分器35、加算器36、38kHz正弦波ROMテーブル37、19kHz正弦波ROMテーブル38、パイロット信号検出回路50とを備えている。パイロット信号検出回路50は、乗算器39、ローパスフィルタ40、比較器41を有している。
【0021】
上記構成を備えたパイロットPLL回路23の動作について説明する。先ず、NCO31は、制御データを与えられて、カウンタの一巡周期が変化するカウンタ値を出力するカウンタ回路に相当する。
【0022】
NCO31からカウンタ値が出力されると、19kHz余弦波ROMテーブル32、38kHz正弦波ROMテーブル37、19kHz正弦波ROMテーブル38にそれぞれ出力される。これらの19kHz余弦波ROMテーブル32、38kHz正弦波ROMテーブル37、19kHz正弦波ROMテーブル38には、それぞれ予め設定された周波数を有する余弦波あるいは正弦波のデータが格納されており、カウンタ値を与えられると各データが呼び出されて、それぞれ19kHz余弦波データ、38kHz正弦波データ、19kHz正弦波データが出力される。
【0023】
乗算器33には、FM復調データと、19kHz余弦波データとが与えられ、乗算結果が出力される。この乗算結果には、放送局からのFM復調データに含まれる19kHz成分と、受信機内で生成された19kHz成分との間に存在する位相偏差に相当する信号成分が含まれる。
【0024】
乗算器33からの乗算結果は、積分器35とローパスフィルタ34とに与えられる。積分器35からは、乗算結果に含まれる位相偏差を累積加算した値が出力される。
【0025】
一方、ローパスフィルタ34からは、乗算器33からの出力における低周波成分のみが出力されるが、これには、放送局からのFM復調データに含まれる19kHz成分と、受信機内で生成された19kHz成分との間に存在する周波数偏差に相当する信号成分が含まれる。
【0026】
加算器36において、積分器35からの出力とローパスフィルタ34からの出力とが加算され、制御データとしてNCO31にフィードバックされる。この制御データには、FM復調データに含まれる19kHz成分と、受信機内で生成された19kHz成分との間に存在する位相偏差に相当する信号成分と、周波数偏差に相当する信号成分とが含まれる。従って、NCO31では、これらの位相偏差並びに周波数偏差を考慮したカウンタ値を出力することになる。
【0027】
このような制御データが与えられたNCO31から出力されたカウンタ値が38kHz正弦波ROMテーブル37に与えられ、38kHz正弦波データがサブキャリア信号として出力されて復調回路22に出力される。
【0028】
尚、積分器33における累積加算データは、後述するようにパイロット信号検出回路50から出力されたパイロット信号検出信号により制御される。
【0029】
ここで、乗算器33から出力される乗算結果は、式(1)で表される。
sin(α)*cos(β)= sin(α)*cos(α+delta)=sin(α)*{cos(α)*cos(delta)-sin(α)*sin(delta)}
= sin(α)*cos(α)*cos(delta) - sin(α)*sin(α)*sin(delta)
= {sin(2α)}/2*cos(delta) + {1-cos(2α)}/2*sin(delta) (1)
【0030】
さらに乗算結果がローパスフィルタ34に与えられて出力された低周波成分は、sin(2α)及びcos(2α)の項が、ローパスフィルタ34により除去されると仮定することにより、上記式(1)は以下の式(2)のように表される。
sin(α)*cos(β) => 1/2*sin(delta) (2)
【0031】
このようにして、FM復調データに含まれる19kHzのパイロット信号成分と、NCO31と19kHz余弦波ROMテーブル32とによって生成された19kHz余弦波データとの位相偏差及び周波数偏差に応じて変化するデータを乗算器33から取り出すことができる。このデータを制御データとしてNCO31に与えることで、FM復調データに含まれる19kHzのパイロット信号に同期したパイロット信号を出力してパイロットキャンセル回路21に出力し、また38kHzのサブキャリア信号を生成して復調回路22に出力することができる。
【0032】
図4に、式(1)で示される検波特性を示す。具体的には、横軸に、乗算器33に入力されるFM復調データに含まれるパイロット信号の19kHzと、NCO31及び19kHz余弦波ROMテーブル32から出力された19kHzとの位相偏差を示し、縦軸に乗算器33の出力値を示す。
【0033】
位相偏差が「0」あるいは「π」のとき乗算器33の出力値は「0」であり、位相偏差がπ/2のとき乗算器33の出力は最大値をとる。
【0034】
パイロット信号検出回路50は、FM復調データに19kHzのパイロット信号成分の有無を検出するもの、即ち、ステレオ放送であるかモノラル放送であるか、あるいはステレオ放送であるが受信状態が悪く19kHzのパイロット信号成分が含まれていないかどうかを判別するものである。
【0035】
乗算器39に、FM復調データと、19kHz正弦波ROMテーブル37から出力された19kHzの正弦波データとが入力されて乗算される。ここで乗算器33には、19kHz正弦波であるパイロット信号を含むFM復調データと、19kHz余弦波データとが乗算され、これにより両者の位相偏差に対応した乗算結果が出力される。
【0036】
これに対し乗算器39では、入力されたデータの両者とも19kHz正弦波である。さらに、FM復調データにおける19kHzと19kHz余弦波ROMテーブル32から出力された19kHzとの位相偏差、周波数偏差が、NCO31に与えられる制御データによって収束していると考えられる。よって、乗算器39に入力される両者の位相偏差、周波数偏差も収束しているとみなされる。
【0037】
このため、FM復調データに19kHzのパイロット信号が含まれる場合と含まれない場合とで、乗算器39における演算結果が大きく異なる。従って、乗算結果をローパスフィルタ40に与えて低周波信号成分を取り出し、比較器41において所定の閾値と比較することで、パイロット信号成分の有無を検出する信号を取り出すことができる。
【0038】
得られたパイロット信号検出信号は、パイロットキャンセル回路21と積分器35とに入力される。パイロット信号検出信号が、FM復調データにパイロット信号成分が存在しないことを示す場合には、パイロットキャンセル回路21はFM復調データに対してパイロット信号をキャンセルする処理を行わずに復調回路22へ出力する。
【0039】
また、積分器33にパイロット信号検出信号が入力されると、上述したように、積分器33における累積加算データが制御される。具体的には、FM復調データにパイロット信号成分が存在しないと判断されたときは、累積加算データが「0」の値にクリアされる。これにより、ステレオ放送でない場合、あるいはステレオ放送であるが受信状態が悪くパイロット信号成分が存在しないと判断された場合には、パイロット信号が存在していたときに積分器35に累積された加算データを一旦クリアすることにより、制御特性を向上させることができる。
【0040】
ここで、本実施の形態1におけるパイロットPLL回路23の応答特性について述べる。
【0041】
上述のように積分器35は、放送信号に含まれる19kHzとパイロットPLL回路23で生成した19kHzとの間の位相偏差に相当するDCオフセット成分を累積加算していき、その値をローパスフィルタ34の出力と加算してNCO31に制御データとして出力する。これにより、放送信号とパイロットPLL回路23との間に位相偏差あるいは周波数偏差が存在している場合であっても、PLL動作を支障なく行うことができる。
【0042】
一方で、モノラル放送からステレオ放送への切り替え時やステレオ放送時の受信状態の変化等により、積分器35における累積加算データが収束値に対して大きくずれたような場合には、逆にPLLの応答特性に悪影響を与えることとなり、ロックするまでの時間が長くなったり、あるいはロックしなくなるおそれがある。
【0043】
そこで本実施の形態1では、FM復調データ内における19kHzのパイロット信号の有無を検知した結果に基づいて積分器35における累積加算データに制御を行う。具体的には、FM復調データからパイロット信号が検出されない場合、即ち、PLLの位相検波結果が「0」近傍となるロックに近い状態でない場合には、積分器35における累積加算データを一旦「0」にクリアする。そして、FM復調データからパイロット信号が検出されると、積分器35に本来の積分動作を動作させることで、DCオフセット成分を伝達させるようにしている。これにより、累積加算データが収束値に対して大きくずれることがなく、本来のDCオフセット成分の伝達という機能を確保しPLLの収束性を向上させることができる。
【0044】
(2)実施の形態2
本発明の実施の形態2によるパイロットPLL回路、このパイロットPLL回路を含むFMステレオ復調回路におけるパイロットPLL回路について、その構成を示した図5を参照して説明する。
【0045】
本実施の形態2では、上記実施の形態1と比較しパイロット信号検出回路50aの構成が相違する。本実施の形態2では、パイロット信号検出回路50aが、乗算器39、ローパスフィルタ40、さらに二つの比較器41a、41bを有する。他の上記実施の形態1と同一の構成要素には、同一の番号を付して説明を省略する。
【0046】
乗算器39に、FM復調データと、19kHz正弦波ROMテーブル37から出力された19kHzの正弦波データとが入力されて乗算される。乗算結果からローパスフィルタ34によって低周波成分が取り出され、比較器41a、41bにそれぞれ与えられる。
【0047】
比較器41aにおいて第1の閾値とローパスフィルタ40の出力とが比較され、その比較結果がパイロットキャンセル回路21に与えられ、パイロット信号が検出されたときはキャンセル処理が行われる。
【0048】
さらに、比較器41bにおいて第2の閾値とローパスフィルタ40の出力とが比較され、その比較結果が積分器35に与えられる。積分器35において、パイロット信号が検出されなかった場合に累積加算データが「0」にクリアされ、あるいはクリアされないように処理される。
【0049】
このように、パイロットキャンセル回路21におけるパイロット信号のキャンセル処理と、積分器35における累積加算データのクリア処理とにおいて、それぞれパイロット信号成分の有無を異なる閾値で判断し行ってもよい。これにより、それぞれの処理の最適化を図ることができる。
【0050】
(3)実施の形態3
本発明の実施の形態3によるパイロットPLL回路、このパイロットPLL回路を含むFMステレオ復調回路におけるパイロットPLL回路について、図6を参照して説明する。
【0051】
このパイロットPLL回路23bは、上記実施の形態1におけるパイロットPLL回路23と比較し、パイロット信号検出回路50bの構成が異なり、さらにパイロット信号検出回路50bからの2つの出力を切り替えていずれか一方を積分器35に入力する切替器49が設けられている点で相違する。他の同一の構成要素には同一の番号を付して説明を省略する。
【0052】
パイロット信号検出回路50bは、2系統のパイロット信号検出部を有する。一方は、乗算器41、ローパスフィルタ42、比較器43を有し、他方は乗算器44、ローパスフィルタ45、絶対値回路46、比較器47を有し、それぞれの出力を入力するAND回路48が設けられている。
【0053】
乗算器41に、FM復調データと19kHz余弦波ROMテーブル32から出力された19kHzの余弦波データとが入力されて乗算される。この乗算結果からローパスフィルタ42によって低周波成分が除去され、比較器43に与えられる。
【0054】
ここで、ローパスフィルタ42からの出力は、FM復調データのパイロット信号成分を「sin(α)」とすると、上記式(2)で示されたように、「1/2*sin(delta)」となる。
【0055】
一方、ローパスフィルタ45からの出力は、以下の式(3)で示されたように、「1/2*cos(delta)」となる。
sin(α)*cos(β)= sin(α)*sin(α+delta)=sin(α)*{sin(α)*cos(delta)+cos(α)*sin(delta)}
= sin(α)*sin(α)*cos(delta) + sin(α)*cos(α)*sin(delta)
= {sin(2α)}/2*sin(delta) + {1-cos(2α)}/2*cos(delta)
=> 1/2*cos(delta) (3)
【0056】
ここで、sin(2α)及びcos(2α)の項が、ローパスフィルタ42により除去されると仮定する。
【0057】
比較器43において、第1の閾値REF1とローパスフィルタ42からの出力とが比較され、比較結果がAND回路48及び切替器49とに与えられる。
【0058】
また、乗算器44にFM復調データと19kHz正弦波ROMテーブル38から出力された19kHzの正弦波データとが入力されて乗算される。この乗算結果からローパスフィルタ45によって低周波成分が除去され、絶対値回路46に与えられる。
【0059】
絶対値回路46は、ローパスフィルタ45からの出力の符号を正数に変換して出力する。出力された値は比較器47に与えられ、第2の閾値REF2と比較されて、比較結果がAND回路48に出力される。
【0060】
AND回路48において、比較器43、47における比較結果の論理積が求められ、この論理積の値が「1」である場合に、FM復調データにパイロット信号成分が存在すると判断する。即ち、比較器43、47においてともにパイロット信号成分が存在すると判断した期間のみにおいて、AND回路48からパイロット信号成分の存在を示す信号が出力される。このAND回路48からの出力は、切替器49と復調回路22とに与えられる。
【0061】
切替器49において、比較器43から出力された比較結果と、AND回路48から出力された論理積とが与えられ、図示されていない切替制御信号を与えられて、いずれか一方が積分器35に累積加算データをクリアするための制御信号として与えられる。
【0062】
本実施の形態3によるパイロットPLL回路23bにおける検出特性について、図7を用いて説明する。
【0063】
ローパスフィルタ42からの出力は曲線b1に示されるようであり、比較器43が有する第1の閾値REF1は直線b2に示されるようである。曲線b1のうち直線b2より値が大きい範囲において論理「1」となる比較結果信号b3が比較器43から出力される。
【0064】
一方、ローパスフィルタ45から出力され絶対値回路46を通過した出力は曲線a1に示されるようであり、比較器47が有する第2の閾値REF2は直線a2に示されるようである。曲線a1のうち直線a2より値が大きい範囲において論理「1」となる比較結果信号a3が比較器47から出力される。
【0065】
比較器43からの比較結果信号b3と比較器47からの比較結果信号a3とがAND回路48に与えられると、両者が共に論理「1」である期間が「1」となる比較結果信号cが出力される。
【0066】
本実施の形態3によれば、よりパルス幅の広い比較結果信号b3と、相対的にパルス幅が狭い比較結果信号cとを用いることで、乗算器33、積分器35、ローパスフィルタ34、NCO31、19kHz余弦波ROMテーブル32から成るPLLループにおけるアンロック状態、収束状態、ロック状態への状態遷移を検出し、これに応じて積分器35における累積加算データをクリアする動作を制御することができる。
【0067】
1)比較結果信号b3及びcが共に論理「0」の間は、PLLループはアンロック状態であると判断し、AND回路48から出力された比較結果信号c1が積分器35に与えられ、累積加算データが零にクリアされる。
【0068】
2)この状態から、比較結果信号b3は論理「1」であるが比較結果信号cは論理「0」である状態になると、PLLループは収束に近づきつつある状態であると判断し、切替器49からは比較結果信号b3が積分器35に与えられ、クリア動作は行われず積分動作が開始される。
【0069】
3)次に、比較結果信号b3及びcが共に論理「1」になると、PLLループがロックしたと判断し、切替器49から比較結果信号cが積分器35に与えられて、クリア動作は行われずに積分動作が継続される。
【0070】
4)この状態から、比較結果信号b3は論理「1」であるが比較結果信号cは論理「0」である状態になると、PLLループはロックしていないが収束に近い状態であると判断し、切替器49から比較結果信号cが積分器35に与えられて、累積加算データがクリアされて積分動作が停止される。
【0071】
5)さらに、比較結果信号b3及びcが共に論理「0」になると、その間、PLLループはアンロック状態であると判断し、AND回路48から出力された比較結果信号b3が積分器35に与えられ、累積加算データは零にクリアされた状態を維持するとともに、積分動作は停止状態にある。
【0072】
以上、1)から5)に示されたように、状態遷移に応じて累積加算データのクリア動作並びに積分動作が制御される。
【0073】
上述した実施の形態はいずれも一例であって、本発明を限定するものではなく、本発明の技術的範囲内において様々に変形することが可能である。例えば、上記実施の形態3では、図3において積分器35が切替回路49を介して与えられた比較器43からの出力、あるいはAND回路48からの出力に応じて累積した累積加算データをクリアしている。しかしこれに限らず、比較器43、比較器47、AND回路48からのいずれかの出力に応じて累積加算データをクリアしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】本発明の実施の形態1によるディジタル対応型FM受信機の構成を示すブロック図。
【図2】同FM受信機に含まれるFMステレオ復調回路の構成を示すブロック図。
【図3】同FMステレオ復調回路に含まれるパイロットPLL回路の構成を示すブロック図。
【図4】同パイロットPLL回路に含まれる乗算器33からの出力値と位相偏差との関係を示すグラフ。
【図5】本発明の実施の形態2によるFM受信機のFMステレオ復調回路に含まれるパイロットPLL回路の構成を示すブロック図。
【図6】本発明の実施の形態3によるFM受信機のFMステレオ復調回路に含まれるパイロットPLL回路の構成を示すブロック図。
【図7】同実施の形態3によるパイロットPLL回路におけるパイロット信号成分の検出特性を示すグラフ。
【符号の説明】
【0075】
15 FMステレオ復調回路
21 パイロットキャンセル回路
22 副チャネル復調回路
23、23a、23b パイロットPLL回路
31 数値制御発振器(NCO)
32 19kHz余弦波ROMテーブル
33、39 乗算器
34、40 ローパスフィルタ(LPF)
35 積分器
36 加算器
37 38kHz正弦波ROMテーブル
38 19kHz正弦波ROMテーブル
39 乗算器
41、41a、41b 比較器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
信号L、Rの和信号が主チャンネル信号とされ、信号L、Rの差信号によりサブキャリア信号を平衡変調した信号が副チャンネル信号とされるFM復調データを与えられるパイロットPLL回路において、
制御データを与えられて出力周波数が変化する数値制御発振器と、
前記数値制御発振器からの前記出力周波数を与えられて第1の周波数の余弦波データを出力する第1のROMテーブルと、
前記FM復調データと、前記第1の周波数の余弦波データとを与えられて乗算し、乗算結果を出力する乗算器と、
前記乗算結果を与えられ、この乗算結果を積分した累積加算データを出力する積分器と、
前記乗算結果を与えられ、前記FM復調データと前記数値制御発振器からの前記出力周波数との間の周波数偏差成分を含む周波数偏差信号を出力するローパスフィルタと、
前記累積加算データと前記周波数偏差信号とを加算して、前記数値制御発振器に前記制御データとして出力する加算器と、
前記FM復調データに含まれるパイロット信号成分の有無を検出してパイロット信号検出信号を出力するパイロット信号検出回路と、
を備え、
前記積分器は、前記累積加算データの値を、前記パイロット信号検出信号に応じて制御することを特徴とするパイロットPLL回路。
【請求項2】
請求項1記載の前記パイロットPLL回路と、
前記パイロットPLL回路にさらに含まれ、前記数値制御発振器からの前記出力周波数を与えられて第2の周波数の正弦波データを出力する第2のROMテーブルと、
前記FM復調データと前記パイロット信号検出信号とを与えられ、前記パイロット信号検出信号がパイロット信号の存在を示す場合、前記FM復調データに対し前記パイロット信号をキャンセルする処理を行うパイロットキャンセル回路と、
前記パイロットキャンセル回路からの出力と、前記第2の周波数の正弦波データとを与えられて、前記副チャンネル信号を生成する復調回路と、
を備えることを特徴とする請求項1記載のFMステレオ復調回路。
【請求項3】
信号L、Rの和信号が主チャンネル信号とされ、信号L、Rの差信号によりサブキャリア信号を平衡変調した信号が副チャンネル信号とされるFM復調データを与えられて復調処理を行うFMステレオ復調回路において、
制御データを与えられて出力周波数が変化する数値制御発振器と、
前記数値制御発振器からの前記出力周波数を与えられて第1の周波数の余弦波データを出力する第1のROMテーブルと、
前記数値制御発振器からの前記出力周波数を与えられて第2の周波数の正弦波データを出力する第2のROMテーブルと、
前記FM復調データと、前記第1の周波数の余弦波データとを与えられて乗算し、乗算結果を出力する乗算器と、
前記乗算結果を与えられ、この乗算結果を積分した累積加算データを出力する積分器と、
前記乗算結果を与えられ、前記FM復調データと、前記数値制御発振器からの前記出力周波数との間の周波数偏差成分を含む周波数偏差信号を出力するローパスフィルタと、
前記累積加算データと前記周波数偏差信号とを加算して、前記数値制御発振器に前記制御データとして出力する加算器と、
前記FM復調データに含まれるパイロット信号成分の有無の検出を、第1の閾値に基づいて行った第1のパイロット信号検出信号と、第2の閾値に基づいて行った第2のパイロット信号検出信号とを出力するパイロット信号検出回路とを有し、前記積分器が前記累積加算データの値を前記第1のパイロット信号検出信号に応じて制御するパイロットPLL回路と、
前記FM復調データと前記第2のパイロット信号検出信号とを与えられ、前記第2のパイロット信号検出信号がパイロット信号の存在を示す場合、前記FM復調データに対し前記パイロット信号をキャンセルする処理を行うパイロットキャンセル回路と、
前記パイロットキャンセル回路からの出力と、前記第2の周波数の正弦波データとを与えられて、前記副チャンネル信号を生成する復調回路と、
を備えることを特徴とするFMステレオ復調回路。
【請求項4】
前記パイロットPLL回路は、前記数値制御発振器からの前記出力周波数を与えられて前記第1の周波数の正弦波データを出力する第3のROMテーブルをさらに有し、
前記パイロット信号検出回路は、
前記FM復調データと前記第1の周波数の正弦波データとを与えられて乗算し、第2の乗算結果を出力する第2の乗算器と、
前記第2の乗算結果を与えられて低周波成分を出力する第2のローパスフィルタと、
前記低周波成分と第1の閾値とを比較した前記第1のパイロット信号検出信号を出力する第1の比較器と、
前記低周波成分と第2の閾値とを比較した前記第2のパイロット信号検出信号を出力する第2の比較器と、
を有することを特徴とする請求項3記載のFMステレオ復調回路。
【請求項5】
信号L、Rの和信号が主チャンネル信号とされ、信号L、Rの差信号によりサブキャリア信号を平衡変調した信号が副チャンネル信号とされるFM復調データを与えられて復調処理を行うFM復調回路において、
制御データを与えられて出力周波数が変化する数値制御発振器と、
前記数値制御発振器からの前記出力周波数を与えられて第1の周波数の余弦波データを出力する第1のROMテーブルと、
前記数値制御発振器からの前記出力周波数を与えられて第2の周波数の正弦波データを出力する第2のROMテーブルと、
前記数値制御発振器からの前記出力周波数を与えられて前記第1の周波数の正弦波データを出力する第3のROMテーブルと、
前記FM復調データと、前記第1の周波数の余弦波データとを与えられて乗算し、乗算結果を出力する乗算器と、
前記乗算結果を与えられ、この乗算結果を積分した累積加算データを出力する積分器と、
前記乗算結果を与えられ、前記FM復調データと、前記数値制御発振器からの前記出力周波数との間の周波数偏差成分を含む周波数偏差信号を出力するローパスフィルタと、
前記累積加算データと前記周波数偏差信号とを加算して、前記数値制御発振器に前記制御データとして出力する加算器と、
前記FM復調データと前記第1の周波数の正弦波データとを与えられて乗算し、第2の乗算結果を出力する第2の乗算器と、前記第2の乗算結果を与えられて第1の低周波成分を出力する第2のローパスフィルタと、前記第1の低周波成分の符号を正数に変換して出力する絶対値回路と、前記絶対値回路からの出力と第1の閾値とを比較した前記第1のパイロット信号検出信号を出力する第1の比較器と、
前記FM復調データと前記第1の周波数の余弦波データとを与えられて乗算し、第3の乗算結果を出力する第3の乗算器と、前記第3の乗算結果を与えられて第2の低周波成分を出力する第3のローパスフィルタと、前記第2の低周波成分と第2の閾値とを比較した前記第2のパイロット信号検出信号を出力する第2の比較器と、前記第1のパイロット信号検出信号と前記第2のパイロット信号検出信号とを与えられて所定の論理演算を行い第3のパイロット信号検出信号を出力する論理回路とを有するパイロット信号検出回路とを有し、前記積分器が前記累積加算データの値を前記第1、第2又は第3のパイロット信号検出信号にいずれかに応じて制御するパイロットPLL回路と、
前記FM復調データと前記第3のパイロット信号検出信号とを与えられ、前記第3のパイロット信号検出信号がパイロット信号の存在を示す場合、前記FM復調データに対し前記パイロット信号をキャンセルする処理を行うパイロットキャンセル回路と、
前記パイロットキャンセル回路からの出力と、前記第2の周波数の正弦波データとを与えられて、前記副チャンネル信号を生成する復調回路と、
を備えることを特徴とするFMステレオ復調回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−5272(P2009−5272A)
【公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−166572(P2007−166572)
【出願日】平成19年6月25日(2007.6.25)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】