説明

パターン形成方法、これによる基板の製造方法、基板、並びにパターン形成装置

【課題】
インクジェット方式を用いたパターニング方式においける表面処理を低コストでかつ撥液性の制御可能な方法で行うこと。
【解決手段】
基板に撥液性を付与するためのコーティング液をインクジェット方式により基板上に塗布、乾燥し、表面状態を制御した後、パターン形成用液体材料を基板上に吐出、乾燥、焼成することによってパターンを形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板上に液滴を吐出し、この液滴により形成した液膜を乾燥、焼成して配線パターンやベタパターン(Solid Pattern)を当該基板表面上に形成する方法、この方法を応用して得られた基板とその製造方法、及びこの方法による基板等の加工に適したパターン形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器等における微細配線パターンの形成には、フォトリソグラフィ(以下、フォトリソ法(Photolithographic Method))が多く用いられている。フォトリソ法を用いた配線パターンの形成方法では、まず基板の全面にスパッタ法等により金属薄膜が成膜される。次に成膜した金属薄膜上に感光性レジストが塗布され、このレジスト塗布膜の露光・現像により金属薄膜上にレジスト膜のパターンが形成され、このパターンを通して金属薄膜がエッチングされ、最後に当該レジストパターンが基板から剥離されることで、当該基板上に配線が形成される。このように多くの工程がフォトリソ法による配線パターンの形成に必要であり、真空装置、塗布装置、及び露光装置等の設備、フォトマスクや各種薬品も必要となる。従って、フォトリソ法でパターニングされた配線を備えた電子機器の製造コストの低減は、これに必要な長い製造工程と多様な製造設備等の存在で阻まれていた。
【0003】
一方、近年、各種電子機器製品は熾烈な低価格化競争にさらされ、その製造工程において、フォトリソに代わる抜本的に低コストな配線のパターニング方法の導入が望まれている。
【0004】
このような背景において、フォトリソ法に代わる配線形成技術の一つとして、インクジェットヘッドによりパターンを印刷する手法(以下、インクジェット法)が注目されてきた。インクジェット法による配線パターンの形成手法の一例では、金属ナノ粒子等の溶質を溶媒に分散させた液体材料をインクジェットヘッドから基板(被加工物)に吐出させ、この液滴を基板表面に連ねることで、所望のパターン(液膜パターン)を形成する。この液膜パターンの乾燥、焼成により、基板表面に金属配線パターンが形成される。
【0005】
インクジェット法による配線パターン形成手法の他の一例として、液体材料に対する撥液性((Liquid-)Repellent Property)を基板表面(被加工物)に付与した後、この液体材料をインクジェットヘッドから当該基板表面に吐出させて、この基板表面に細線をパターニングする方法が、特許文献1に開示されている。
【0006】
【特許文献1】特開2004−6700号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
インクジェット法を用いて所定の配線幅で配線パターンを形成するためには、この配線が形成される基板(被加工物)の表面状態を制御すことが必要である。配線幅を制御するには主に基板に撥液性を付与する。基板表面に撥液性を付与する方法として、この表面に撥液性を有する単分子膜(Liquid-repellent Monolayer(Monomolecular Film))を形成すること、フッ素を含むフルオロカーボン系ガスを処理ガスとしたプラズマで当該表面を処理することがある。基板表面に撥液性を付与する処理には撥液処理専用装置が必要であり、この処理専用のバッチ処理設備も必要となる。液晶表示パネル等のFPD(Flat Panel Display)の製造設備では、1m超の対角寸法を有するマザーガラス(母基板)の表面に撥液性を付与するために、巨大且つ高額な表面処理装置が必要となり、その表面処理工程のコストが高くなるという課題がある。
【0008】
また、インクジェットを用いたパターニング方法における最小線幅は、インクジェットにより吐出される液滴の着弾径(Landing Radius)によってほぼ決まる。基板表面における液滴の着弾径は、インクジェットヘッドからの当該液滴の吐出量(Discharge Amount)と、この液滴に対する基板表面の撥液性とで決まるため、基板の撥液性は基板上の最細線に合わせて調整する必要がある(詳細は後述)。通常、電子機器の基板の表面には、細線、太い配線、ベタ膜等の多様な導体パターンが混在している。これらの導体パターンを、インクジェットヘッドによる液体材料(導体パターンの前駆体)の印刷で基板表面に形成するとき、最細線幅以外の導体パターン、即ち、ベタ膜や太い配線の形成に多くの液体材料の吐出回数を要し、この基板製造のスループットが上げられないという課題がある。
【0009】
撥液性が付与された基板の表面にフォトマスクを介してUV光を照射して、当該表面の一部の撥液性を選択的に低下させることにより、この表面に撥液性の異なる領域をパターニングする方法もある。しかし、UV光を用いたフォトリソ法に要するフォトマスクは高価であり、その結果、基板の製造コストも上昇する。
【0010】
本発明の第1の目的は、プラズマ処理装置のような高価な装置を用いることなく基板表面の撥液性を制御する処理により、当該基板表面に滴下される液体材料で薄膜や導体のパターンを形成する方法の提供にある。
【0011】
本発明の第2の目的は、フォトマスクとUV処理装置を用いることなく、基板表面の撥液性を領域ごとに制御する処理により、この基板表面に滴下される液体材料で薄膜や導体のパターンを形成する方法の提供にある。
【0012】
本発明の第3の目的は、プラズマ処理装置のような高価な装置を用いることなく、基板表面の撥液性を制御する表面処理で、その表面に配線や素子等のパターンを形成することを特徴とするFPD(LCD、PDP、有機EL)用基板や実装配線用基板(プリント基板、セラミック基板)の製造方法の提供にある。
【0013】
本発明の第4の目的は、プラズマ処理装置のような高価な装置を用いないで、その表面の撥液性が制御されるように処理された基板と、この基板表面に撥液性に応じて形成された配線や素子等のパターンとを有するFPD(LCD、PDP、有機EL)装置、実装配線用基板(プリント基板、セラミック基板)、又は半導体装置を提供することである。
【0014】
本発明の第5の目的は、基板表面の撥液性を複数の領域毎に制御して、夫々の領域に撥液性に応じた線幅(精細度)のパターンを形成するに好適な装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
第1の目的を達成する手段は、液体材料(例えば前駆体)の液滴にてパターンが形成される基板等の表面に撥液性を付与するコーティング液の調製であり、前記液体材料に対する撥液性を発現する成分の前記コーティング液に含まれる濃度を制御することである。撥液性を発現する成分の濃度が調整されたコーティング液は、基板表面に塗布され且つ乾燥されることで、この基板表面に滴下された前記液体材料(液滴)の当該基板表面に対する接触角が制御される。基板表面に対するパターン形成用液体材料の接触角は、当該基板表面のパターン形成用液体材料に対する撥液性(換言すれば、濡れ性)を反映するため、その値を参照してコーティング液を調製すれば、これが塗布され且つ乾燥された基板表面上における当該液体材料の着弾径も制御される。基板表面上における液体材料の着弾径は、この表面に形成されるパターンの線幅を決める。上述された撥液性を発現する成分として、CF、CF等のフッ素化合物を末端に持つ分子が例示され、このフッ素化合物を溶媒中に分散させて、上記コーティング液が調製される。撥液性を発現する成分(例えば、フッ素化合物分子)の濃度が調製されたコーティング液を、例えばインクジェット法により基板上に一様に塗布し、乾燥することにより、この基板表面をプラズマに曝すことなく、その撥液性が制御できる。
【0016】
インクジェットを用いた基板表面における液体材料のパターン形成は、インクジェットのノズルから吐出される液滴(液滴材料)を基板上で配列して行われる一種の液体プロセスである。このためノズルから吐出された液体材料の基板上での液滴サイズが、形成するパターンサイズに大きく影響する。基板上の液滴は表面状態(表面エネルギ)が一様であれば円形に広がる。この時の液滴の直径を着弾径と称す。着弾径Dは、吐出された液滴の体積Vと基板上の液体の接触角θを用いて下記式1によってほぼ近似できる。
【0017】
【数2】

上記の如く、基板表面に対するパターン形成用液体材料(液滴)の接触角θは、当該液体材料が滴下される前の基板表面に塗布される上記コーティング液の組成にも依存するため、当該基板表面に滴下されたパターン形成用液体材料の着弾径Dは、コーティング液の組成から半経験的に求められる。例えば、上記式1で接触角θと着弾径Dとの関係を求めておけば、パターン形成に用いられるインクジェットヘッドからの液体材料の吐出量Vの1/3乗(V1/3)を式1の右辺に代入することで、着弾径Dを予測することが可能となる。式1にて求められる着弾径Dにより、パターン形成において重要な因子であるパターン幅を推定でき、パターン設計が効率的に行える。基板表面に着弾径Dの液滴を連ねて形成されたパターンは、乾燥され且つ焼成されて(baked)、固体膜(導体膜)のパターンとなる。
【0018】
第2の目的を達成する手段は、上述した第1の目的を達成する手段において、上記撥液性発現成分(例えば、フッ素化合物分子)の含有濃度が互いに異なる複数のコーティング液を用いて、基板表面内(同一基板上)に撥液性の異なる複数の領域を形成ことである。
【0019】
第3、4の目的を達成する手段は、液晶表示装置(LCD)、プラズマディスプレイパネル(PDP)、有機EL表示装置等の所謂平面表示装置(FPD)に用いられる基板(以下、FPD用基板)や、プリント基板、セラミック基板等の実装配線用基板に上記1、2の手段を用いてパターンを形成することであり、これにより得られたFPD用基板並びに実装配線用基板を提供することである。
【0020】
本発明の第5の目的を達成する手段は、基板等の被加工物が搭載される面を有するテーブル、並びにこのテーブルの面の上部に当該面と離されて配置された複数の液体吐出ヘッド(Liquid Discharge Heads)を備え、前記テーブルと前記液体吐出ヘッドとの少なくとも一方が、当該テーブルの面内における液体吐出ヘッドの位置が走査されるように構成されたパターン形成装置であり、前記複数の液体吐出ヘッドの少なくとも一つは前記基板表面(被加工面)に液体材料(形成せんとするパターンの前駆体)を吐出するパターン形成用ヘッドとして用いられ、このパターン形成用ヘッド以外の少なくとも一つは液体材料に対する撥液性を基板表面(被加工面)に付与するコーティング液を吐出するコーティング用ヘッドとして用いられる。液体吐出ヘッドとして、インクジェット式のプリンタ用に作製されたインクジェットヘッドを用いてもよく、液体材料やコーティング液(所謂インク)を加熱によりノズルから吐出させるサーマル方式のヘッドを用いても、これらを圧電素子の変位でノズルから吐出させるピエゾ方式のヘッドを用いてもよい。さらに、液体吐出ヘッドの複数個をコーティング用ヘッドとして用い、その夫々から吐出されるコーティング液の液体材料に対する撥液性が互いに異なるように、コーティング液の夫々の組成を調整する。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、インクジェット法により液滴のパターンが形成される基板等の表面に、この液滴(液体材料)に対する撥液性を付与する処理が、この撥液性を発現する成分を含むコーティング液の当該表面への塗布で可能となる。このため、表面を撥液化する処理にプラズマ装置等を用いる必要が無くなり、そのコストも低減される。
【0022】
インクジェット法では、被加工面(例えば、基板表面)における塗布範囲に応じて、この面内におけるインクジェットヘッドの走査領域が広げられる。このため、コーティング液及び液体材料(パターンの前駆体)の双方をインクジェット法で基板表面へ塗布すれば、基板の大型化(表面積の拡大)にも容易に対応し得る言わば基板サイズに制限されない表面処理及びパターン形成が可能となる。
【0023】
インクジェット法では、複数のノズルを備えたインクジェットヘッドが汎く用いられるが、この複数のノズルの各々をCAD情報等に応じて個々に駆動させることにより、基板表面上にオンデマンドでコーティング液をパターニング塗布できる。このため、基板表面内に撥液領域がフレキシブルに作製できる。従って、本発明により、半導体装置の実装基板や表示装置の基板の少量多品種生産(Small Amount of Multi-product Production)も効率化される。
【0024】
基板表面(被加工面)に撥液性を付与するコーティング液は、これに含まれる撥液性を発現する分子の濃度を調整することで、これにより処理される基板表面の撥液性を制御する。従って、基板表面に部分的にコーティング液を塗布し、又はその部分毎に上記撥液性発現分子の含有濃度が異なる複数種のコーティング液で塗り分け、このコーティング液を乾燥させることにより、当該表面内に撥液領域(Liquid-repellent/Lyophobic Area)と親液領域(Lyophilic Area)とが形成される。従って、基板表面の撥液領域中に親液領域をパターニングするために、フォトマスクとUV(紫外光)露光装置を用いて、撥液領域の一部をUV照射で親液化する処理が不要となり、そのコストは格段に低減される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明の実施形態を、実施例1〜3の各々において、これに関連する図面を参照して説明する。
【実施例1】
【0026】
本実施例では、本発明によるパターン形成方法を、その着想に到るまでの検討結果を含めて説明する。
【0027】
図2は、基板202の表面(被加工面)へのパターン形成に用いられるインクジェット装置201の概略構成を示し、インクジェット方式による液滴吐出に係る以降の説明にて、逐次参照される。インクジェット装置201は、基板202を搭載し且つ移動するテーブル203、基板202の表面(上面)に向けて液滴を吐出する液体吐出ヘッド(以降、インクジェットヘッドと記す)204、テーブル203とインクジェットヘッド204との相対的な位置を制御する制御装置205を備える。
【0028】
本構成のインクジェット装置201の動作について説明する。
【0029】
基板202はテーブル203に真空吸着等で固定されている。テーブル203は図示しないエンコーダを有し、その所定距離(後述する距離P)の移動毎に発生されるパルス信号206は制御装置205に取り込まれる。矢印208はテーブル203(基板202)の移動方向(以下、走査方向)を示す。一方、インジェットヘッド204には、図示しない複数個のノズルが、テーブル203の走査方向に交差する方向沿いに所定の間隔(後述するピッチP)で互いに隔てられながら1列に並べて設けられ、その各々からは液滴207が所定信号に従って吐出される。矢印209は、インクジェットヘッド204における複数のノズルの並設方向(以下、ノズル穴列方向)を示す。インクジェットヘッド204は、ノズル穴列方向に移動する。このインクジェットヘッド204に対してテーブル203は走査方向208に移動する。テーブル203の移動に伴いエンコーダからパルスが発生し、このパルスのタイミングに応じてノズルから液滴207が吐出される。
【0030】
図3は、基板202の表面内における液滴207の滴下(着弾)位置を説明するための図で、上述した走査方向208に延びる複数の線(縦軸)とノズル穴列方向209に延びる複数の線(横軸)からなる格子が基板202の表面内に仮想的に描かれる。図3の格子において、横軸の間隔はノズルのピッチP(隣接し合うノズルを隔てる)を示し、縦軸の間隔はパルス206とこれに続く次のパルス206との間にテーブル203が走査される(進む)距離Pを示す。テーブル203(基板202)の移動に伴うパルス206毎に、インクジェットヘッド204に設けられたノズルの全てから吐出された液滴は、基板202の表面の図3に示す格子の交点301に対応する位置毎にマトリクス状に滴下される。但し、インクジェットヘッド204に設けられた複数のノズルからの液滴吐出のON,OFFは、制御装置205内のデータに応じて当該ノズル毎に制御され、連続するパルス206間にテーブル203が走査される距離Pも適宜調整される。従って、インクジェット装置201により基板202の表面に形成可能なパターンの解像度は、ノズルのピッチPとテーブルの走査距離の単位(以下、走査方向の滴下ピッチ)Pで決まる。
【0031】
ノズル列方向209に対して解像度を上げたい場合には、インクジェットヘッド204をノズル列方向に移動し、ピッチPの中間に液滴を滴下する。
【0032】
上述したインクジェット装置を用いた基板表面における直線パターンの形成に関して、本発明者が検討した内容を以下に説明する。
【0033】
図4に、インクジェットヘッドのノズルから吐出されたパターン形成用液体材料の1滴により、基板401上に生じた着弾液滴(Landing Droplet)402を示す。インクジェット方式で吐出された液滴の径は数十μmと小さいため、その基板401上に着弾した後の形状は、液滴(液体)の表面張力、基板と液体間の濡れ性(接触角)により決まる。インクジェットヘッドから吐出される液滴に対して、これが着弾する表面状態を適切に調整することで、その着弾液滴は図4に示すようなほぼ真円の形状を呈する。図5に、インクジェット法により複数の液滴を基板等の表面に連ねて着弾させて、この表面に直線パターンを形成する様子を概念的に示す。インクジェット法による線状パターンの形成において、インクジェットヘッドのノズルの各々から基板表面上に逐次着弾される液滴501が互いにオーバラップし且つ連結し合えるように、当該インクジェットヘッドから液滴(液体材料)が吐出されるピッチ(例えば、上述した走査方向の滴下ピッチP)が制御される。基板表面に連なるようにして着弾された液体材料の液滴501は、その隣り合う一対毎に一体502となり、さらに液体材料の表面張力により、直線的に延びるチューブ状の液膜(Tubular Liquid Film)503に変わる。このように基板上で、着弾した液滴が連結して形成される液膜のパターンは、液滴の着弾径に近いパターン幅を呈する。
【0034】
図6には、基板上に着弾された液滴の側面図が示される。インクジェットにより吐出される液滴の体積は、球の直径に換算して数μm〜数十μmと見積もられる。このような微小液滴が基板上に着弾すると、球からその一部を切除した如き形状を呈すると考えられる。この着弾液滴の形状を欠球(Imperfect Sphere、半球に類似した形状)と仮定し、液滴と基板との接触角をθ、液滴の体積をVとすると、液滴の着弾径Dは、これらの幾何学的な関係から下記の式1で表される。
【0035】
【数3】

本発明者は、この式1がインクジェット法によるパターン形成に援用し得る可能性を確認するために、下記の実験を行った。
【0036】
確認実験は、パターン形成用液体材料(以下、液体材料)に対して撥液性が付与された基板表面に、インクジェットノズルから吐出された当該液体材料の規定量:Vの液滴を着弾させ、この基板表面に対する当該液滴の接触角:θを因子として、この因子と当該液滴の基板上における着弾径:Dとの実験的に求められた関係と、式1による計算結果として求められた関係とが比較された。
【0037】
確認実験において、前記基板表面にコーティング液を塗布し、且つその塗布層を乾燥させることで、この基板表面に前記液体材料(の液滴)に対する撥液性が付与された。コーティング液は、CF等のフッ素化合物分子を末端に持つ高分子を溶媒中に分散させることで調製され、その当該高分子(フッ素化合物分子)の含有濃度により、前記基板表面に付与される前記液滴に対する撥液性も変化する。
【0038】
コーティング液に含まれるフッ素化合物分子の濃度と、当該コーティング液により前記基板表面に付与された前記液体材料に対する撥液性との関係は、この撥液性を前記因子:θ、即ち当該基板表面に対する当該液体材料の液滴の接触角に置き換えて、図7に示される。コーティング液に含まれる撥液性発現成分(フッ素化合物分子)の濃度に対して、前記因子:θは10度以下から60度以上に亘る広い範囲で変化するため、コーティング液の調製により基板表面における前記液滴材料に対する撥液性が自在に制御できることがわかった。確認実験において、前記基板としてガラス基板が用いられ、その表面は、前記液体材料に対する撥液性が付与される前に、UV(紫外光)で照射されて、これに付着していた有機汚染物が除去される。一方、前記液体材料(パターン形成用液体材料)は、溶媒中にナノ粒子を分散させたものを用いた。例えば、配線や電極のパターニングに用いられる液体材料には、平均粒径:1〜10nmの金属粒子がナノ粒子として含まれる。確認実験に用いた液体材料の表面張力は28mN/mであり、粘度は10mPa・sであった。
【0039】
次に、組成(ここではフッ素化合物分子の含有濃度)が互いに異なるコーティング液で夫々処理された基板表面に規定量:Vの液体材料(液滴)を滴下させ、その液滴の基板表面に対する接触角:θとその着弾径:Dとの関係を求めた。液体材料の規定量:Vは、確認実験に用いたインクジェットヘッドのノズルから吐出される当該液体材料の1滴(即ち、基板表面に着弾される1粒の液滴)の体積=75plとして定まる。液体材料の基板表面に対する接触角:θと当該基板表面における着弾径:Dとの関係は、図8に示される。図8に実線で示された「式1による計算結果」と黒丸で示された「実験結果」とは良く合致することが判った。これらの確認実験の結果より、インクジェットノズルによる液滴の吐出量:Vと当該液滴の基板表面に対する接触角:θとがわかれば、これらを式1に代入して得られる基板表面における液滴の着弾径:Dから、この液滴により当該基板表面に形成されるパターン(配線や電極等)の幅が推定できることが判った。
【0040】
上記検討結果に基づいたパターン形成方法を、図9、図10を用いて説明する。図9は本発明におけるパターン形成を行うための装置構成を示す。
【0041】
インクジェット装置901は、被加工物たる基板902を搭載し且つ矢印930で示された方向(先述した走査方向)に移動する為のテーブル903と、当該基板902の表面(上面、被加工面)の上部を矢印931で示された方向(テーブル903の走査方向930と交差する方向)に移動する複数のインクジェットヘッド904,910、及びテーブル903の走査、並びにインクジェットヘッド904,910の移動とその各々における液体材料の吐出を制御する制御装置920を備える。
【0042】
基板902は、テーブル903の上面に真空吸着等により固定されている。複数の(ここでは一対の)インクジェットヘッド904,910は、矢印931方向に互いに独立してシフトされ、夫々から吐出される液体材料で互いに異なるパターンを基板902の表面に形成することもできる。
【0043】
テーブル903は図示しないエンコーダを有し、テーブルの所定距離毎の移動に応じてパルス921が発生するように構成されている。テーブル903の移動に伴いエンコーダからはパルス921が発生し、このパルスのタイミングでノズルから液滴が吐出する。
【0044】
インクジェットヘッド904に連結された液供給タンク905には、基板902に対し所定の撥液性を付与するためのコーティング液906が充填されている。インジェットヘッド910に連結された液供給タンク911には、基板902の表面にパターンを形成するための液体材料912が充填されている。
【0045】
基板902の表面に形成される配線等のパターンの幅(配線幅)は、その機能に応じて設定される。配線幅を決める因子は、インクジェットヘッド(ここでは参照番号910)から吐出されて基板902の表面に着弾する液体材料(液滴)の着弾径であり、着弾径:Dはインクジェットヘッドから吐出される当該液体材料の1滴の体積(吐出量):Vと、当該液体材料の基板902との接触角:θとを前記式1に代入することで推定可能である。式1を用いて必要な着弾径を得るためのインクジェットヘッド910の選定と基板に必要な撥液性(接触角)を付与するためのコーティング液906の濃度を適当に定める。
【0046】
上述したインクジェット装置901を用いて基板902の表面にパターンを形成する方法の一例を、図10に示した流れ図を参照して説明する。
【0047】
基板(被加工物)902にはガラス基板を用いる。ガラス基板の表面は、異物除去洗浄及びUV洗浄により、異物や有機汚染が除去された清浄な状態にされる。
【0048】
インクジェットヘッド904を用いて基板上の撥液性が必要な領域932に、濃度を調整したコーティング液906を、一様に塗布し乾燥することで、表面処理を完了する。
【0049】
次にインクジェットヘッド910を用いて撥液性を有する領域932で液体材料912を吐出し、パターンを形成する。
【0050】
次に液体材料中の溶媒を蒸発させるために乾燥を行い、さらに液体材料を配線機能材に変えるために焼成を行うことによってパターニングが終了する。
【0051】
この一連の工程により、基板902をプラズマ装置のような煩雑且つ高価な設備で処理することなく、その表面に所望の撥液性を与えるという「本発明の目的1」が達成される。
【実施例2】
【0052】
実施例1では、インクジェット装置901によって、基板902の表面に撥液性が制御された領域を形成したが、本実施例ではこの「撥液性が制御された領域」を基板902の表面内にパターニングする。本実施例で述べる撥液性も、基板902の表面のパターン形成用液体材料(パターンの前駆体溶液)を撥ねる性質と例示され、また、「液体材料」は格段の定義なき限り、「パターン形成用液体材料」を指す。本実施例にて、基板902の表面の撥液処理に用いるコーティング液は、当該表面に着弾される液滴の着弾径:Dとこの表面の当該液滴に対する接触角:θとの図8に示される如き関係を参照しながら、複数のパターン幅(液滴の着弾径:D)の夫々を具現化するに必要な基板902の表面の撥液性(接触角:θ)を特定し、更に図7に示される如き関係を参照しながら、その撥液性を基板に付与し得るに好適な組成で各々調製される。
【0053】
即ち、基板902の表面を領域毎に選択しながら、撥液性の異なる数種類のコーティング液の一つで当該領域を逐一処理することにより、同一基板上に撥液性の異なる複数の領域が形成される。基板902の表面の撥液性がその領域毎に異なるため、インクジェットヘッドから規定量(ノズルで決まる吐出量、例えば、先述の75pl)で逐次吐出された液体材料は、滴下した領域に応じて異なる着弾径の液滴になり、この液滴を連ねて成る配線等のパターンの幅を領域毎に異ならせしめる。従って、インクジェットヘッドから吐出される液体材料の量(液滴の体積)を変えることなく、これを基板902の表面の各領域に滴下させることで、同一基板の領域毎に線幅の異なるパターン(配線等)が同一基板上で形成可能となる。
【0054】
インクジェットヘッドから吐出される液体材料の「1滴」の液滴体積は一定である(規定量に固定される)ため、この液滴を連ねて形成されるパターン(配線他)の膜厚も、その線幅と同様に領域毎に異なる。従って、パターン(薄膜)の線幅が広がるほど、その厚みは薄くなり、例えば信号配線として形成された導体パターンの膜厚が、その機能を満たすに必要な厚みに至らないという問題も浮上する。この問題を解決するには、インクジェットヘッドの走査ピッチPを狭くする(隣り合って着弾された液滴の重畳比率を広げる)手法や、液体材料中の溶質濃度(例えば、導電性粒子の含有濃度)を高める手法で、パターンの膜厚を厚くするとよい。
【0055】
本実施例で述べたパターン形成方法では、基板902の表面上にパターニングされる材料のベタ膜(Solid Film)を形成する必要はなく、当該パターンを呈する当該材料の膜がインクジェット法で当該表面に印刷される。従って、マスクを用いた高価なフォトリソグラフィ法でベタ膜をパターニングすることなく、スクリーン印刷では形成が困難であった微細なパターンを形成するという「本発明の目的2」が達成される。
【0056】
なお、本実施例で用いられるパターン形成装置は、例えば、図9に示されたインクジェット装置901に類似するも、コーティング液906を貯える液供給タンク905とこれを基板902の表面に向けて吐出するインクジェットヘッド904とのセットを複数個備え、そのセット毎に撥液性成分濃度(組成)の異なるコーティング液906が貯えられ且つ吐出される。勿論、インクジェットヘッド904に設けられた複数のインクジェットノズル(ノズル穴列方向931に並設される,不図示)を複数のグループに分け、グループ毎に異なる液供給タンク905をノズルに接続して、1つのインクジェットヘッド904から撥液性成分濃度の異なるコーティング液906を吐出させてもよい。本実施例では、インクジェットヘッド904又はそのノズルに応じて、これから吐出される液体材料の組成を変え、基板902の表面における撥液性を領域に応じて選択的に変えることにより、「本発明の目的5」も達成される。
【実施例3】
【0057】
本実施例では、本発明による基板及びその製造方法について、実施例1及び実施例2で述べたパターニング方法のデバイス構造への適用例で説明する。
【0058】
まず、図11及び図12を図7及び図1とともに参照して、液晶ディスプレイパネルに、デバイスドライバ(ドライバIC)の取り付け用の配線パターンを形成する工程への本発明の適用が説明される。
【0059】
図11(a)は液晶ディスプレイパネルの全体を示す平面図であって、1101は液晶ディスプレイパネルのセルを、1102は表示領域を、1103はICチップ(ドライバIC)を表す。セル1101は、液晶層(不図示)を挟み且つ面積が互いに異なる一対の透明基板(ガラスやプラスチック等から成る)からなり、その面積の広い一方の周縁が面積の狭い他方の縁からはみ出すように貼り合わせられている。他方の基板からはみ出した一方の基板の周縁では、ICチップ1103が搭載され且つこれと一方の基板上の配線とが電気的に接続される。表示領域1102は、この二枚の基板とこれに挟まれた液晶層とで定義され、厳密には基板間に介在し且つ液晶層を囲む枠状のシール材(不図示)の内側に位置する。
【0060】
図11(b)は、一方の基板の周縁に搭載されたICチップ(ドライバIC)1103とその近傍の拡大図を示す。一方の基板の主面には、その周縁でICチップ1103と電気的に接続される2つの配線パターン1104,1105が形成されている。配線パターン1104,1105は、夫々を構成する複数の配線パターンの幅及び間隔が互いに異なり、その幅及び間隔が狭いパターン1104(以下、狭ピッチ細線パターン)と、その幅及び間隔が広いパターン1105(以下、広ピッチ太線パターン)とに分けられる。アクティブマトリクス方式で駆動される液晶ディスプレイパネルにおいて、狭ピッチ細線パターン1104は、一方の基板上を表示領域1102まで延在し且つ表示領域1102を成す複数の画素に夫々設けられた能動素子(不図示)の駆動や制御に寄与するソース配線、ドレイン配線、またはゲート配線として形成される。また、広ピッチ太線パターン1105は、液晶ディスプレイパネルとその外部回路とを接続する接続端子として形成され、前記一方の基板の縁に近いその一端には、液晶ディスプレイパネルと外部回路との信号又は電力の授受に係る可撓性の印刷回路基板(FPC(Flexible Printed Circuit),不図示)が接続される。従って、ドライバIC1103は、その電極パッド(不図示)の一方が配線パターン1105に接続されて、前記外部回路から映像情報を取り込む。また、ドライバIC1103の電極パッド(不図示)の他方は配線パターン1104に接続されて、ドライバIC1103から出力された映像信号や走査信号を表示領域1102に送り、前記映像情報を液晶ディスプレイパネルの画面に再生する。一方の基板の主面に形成された配線パターン1104,1105に対してドライバIC1103はCOG(Chip On Grass)方式で接続され、その電極パッドは図示しないACF(Anisotropic Conductive Film,異方性導電膜)を介して配線パターン1104,1105のいずれかに接続している。
【0061】
この液晶ディスプレイパネルの配線パターン1104,1105のインクジェット法による形成に、本発明によるパターン形成方法が適用される。この配線パターン1104,1105の形成工程を、図1を参照して説明する。図1は図11(b)と同様にドライバIC(ICチップ)1103の搭載位置近傍を拡大して示すが、ICチップを図示せず、その搭載予定位置(ICチップ1103の輪郭)が仮想線2の枠として示される。また、配線パターン1104,1105は、基板1の表面に着弾した液体材料の液滴の連なり(液滴列)6,7として示される。
【0062】
基板1の表面は、その配線パターンが形成される領域に応じて、選択的に撥液処理が施される。本実施例の液晶ディスプレイパネルの基板1は、その母基板(例えば、マザーガラス)からパネル毎に切り出され、その各々の表面には、ICチップの搭載予定位置2を貫く境界線3より表示領域側に、液体材料(パターンの前駆体溶液)に対して撥液処理された領域(撥液処理領域)4が延在して形成される。この境界線3より基板1の表面の縁側は撥液処理されない領域、即ち液体材料に対する親液領域5として残される。撥液処理領域4に滴下された液体材料の液滴は、親液領域5に滴下された液体材料の液滴より小さい着弾径を呈し、その液滴列6は言わば狭ピッチ細線パターンを形作る。一方、親液領域5の液滴列7は、広ピッチ太線パターンを形作り、ICチップが搭載される仮想線2の枠内で境界線3を介して狭ピッチ細線パターンと向き合う。
【0063】
狭ピッチ細線パターン、即ち、撥液処理領域4に形成される配線パターンを、この撥液処理領域4に対して60度の接触角を示す液体材料を用いて、50μmの幅で形成するとき、この液体材料の「撥液処理領域4に着弾させるべき液滴」のインクジェットヘッドからの望ましき吐出量は、式1を用いて15pl以下と見積もられる。この液滴の吐出量が15pl未満でも、隣接して着弾された液滴の相互の重なり面積(換言すれば、インクジェットノズルの走査ピッチ)を調整すれば、50μm幅の配線パターンが形成できる。本実施例では、液滴の撥液処理領域4への着弾間隔調整に対する余裕を考慮して、撥液処理領域4におけるパターン形成に吐出量10plのヘッドを用いた。
【0064】
図12に吐出量10plにおける接触角と着弾径の関係を、式1を用いて計算した結果を示す。この計算は、上述した実験に用いたパターン形成用液体材料を想定して行われ、その表面張力は28mN/mに、粘度は10mPa・sに、夫々設定されている。その結果、撥液処理領域4にパターン幅(着弾径)が50μmの液滴列を形成するには、当該液滴の撥液処理領域4に対する接触角を45度にする必要がある。この撥液処理領域4に、撥液性発現成分としてフッ素化合物分子を含むコーティング液を塗布して、当該液体材料が45度の接触角を示し得る「撥液性」を付与するには、このコーティング液に含有されるフッ素化合物分子の濃度を5.0×10−4%とすべきことが図7より見積もられる。このコーティング液が塗布され、続いて乾燥された撥液処理領域4の表面に前記液体材料の10plの液滴を着弾させることにより、この撥液処理領域4に50μm着弾径の液滴列6がパターニングされる。撥液処理を施さない親液部5にも撥液処理領域4と同様に、液体材料の10plの液滴が吐出されるが、その表面に着弾された液滴は撥液処理領域4に着弾した液滴より広がり、100μmの着弾径を持つ液滴列7がパターニングされる。
【0065】
このように本発明によれば撥液処理を基板表面(被加工面)の任意に選択された領域で実施できるため、同じ表面内に線幅の異なる配線パターンを効率良く形成することが出来る。また、インクジェット装置において液体材料の液滴を吐出するインクジェットヘッドは、吐出量:10plのノズルを備えた1基だけでよい。
【0066】
次に図13を用いて、ICチップの基板内実装への本発明の適用が説明される。
【0067】
図13(a)は本発明による電子装置(その実装基板)の平面図であり、基板(所謂「実装基板」)1201の表面にはICチップ1202が搭載され、このICチップ1202に接続される配線パターン1203が形成されている。基板1201の材質は特に限定されず、例えば、樹脂製の可撓基板、セラミックス基板、複数のガラス繊維層を重ねて成る多層基板等が用いられる。基板1201として樹脂製の可撓基板を用いたICチップ1202の実装構造はテープキャリアパッケージ(Tape Carrier Package,TCP)として知られる。
【0068】
図13(b)は、図13(a)のC−C線沿いに切断された電子装置の断面が示される。ICチップ1202の裏面には、基板1201の配線パターン1203と電気的に接続されるバンプ1204が設けられている。図13(c)は、図13(a)に示した基板1201の片側の配線領域1210を示し、前記配線パターン1203がインクジェットヘッドから吐出されたパターン形成用液体材料(配線パターン1203の前駆体溶液)の液滴列1211,1212により形成されている。図13(c)では、基板1201に搭載されるICチップ1202に代えて、その搭載予定領域が破線枠(1202)で示される。破線枠(1202)内へ延在した液滴列1211の各々の端部は、図13(b)に示される如く、ICチップ1202の裏面に形成された複数のバンプ1204の一つと接続される。
【0069】
ICチップ1202の裏面には、前記バンプ1204が高密度に配置されているため、基板表面1201のICチップ1202に対向する部分とその周辺とを含むチップ周辺領域1205では、前記配線パターン1203が細い線幅で且つ高密度に形成されている。一方、基板表面1201のチップ周辺領域1205より外側(換言すれば、周縁側)の領域1206では、配線パターン1203が広い線幅で形成される。本実施例による基板1201には、配線パターン1203が、その表面のチップ周辺領域1205に45μm幅の細線で、これより外側の領域1206には90μm幅の広い配線でそれぞれ形成される。
【0070】
基板1201の表面に前記液体材料に対する撥液性を付与するコーティング液は、上述した液晶ディスプレイパネルの基板1への撥液性付与に用いたそれと同様に、フッ素化合物分子(撥液性発現成分)を含む。しかし、ここに記される電子装置(実装基板1201)の製造では、フッ素化合物分子の濃度の異なる2種類のコーティング液が調製され、その一方(高濃度のフッ素化合物分子を含む)が領域1205に、その他方(低濃度のフッ素化合物分子を含む)が領域1206に、夫々塗布される。コーティング液に含まれるフッ素化合物分子の濃度は、液晶ディスプレイパネルの例でも述べたように、図12から基板1201の表面に形成させたいパターンの幅(液滴の着弾径)に対応する基板1201の表面の撥液性(液滴の接触角)を求め、次に図7から基板1201の表面に発現さすべき撥液性(当該表面に対する液滴の接触角)に対応するコーティング液中のフッ素化合物分子濃度として求められる。本実施例では、基板表面1201のチップ周辺領域1205(45μm幅の配線パターン形成領域)に塗布されるコーティング液のフッ素化合物分子濃度を1.0×10−3%に調整し、その領域1206(90μm幅の配線パターン形成領域)に塗布されるコーティング液のフッ素化合物分子濃度を1.0×10−5%に調整した。これらのコーティング液は、吐出量:10plのノズルを備えた2基のインクジェットヘッドに別々に充填されて、領域1205,1206に夫々着弾させられたが、インクジェット法以外の例えばスクリーン印刷で領域1205,1206に塗布されてもよい。
【0071】
これらの領域1205,1206に塗布されたコーティング液が乾燥された後、その各々には、図13(c)に示される如く、配線パターン形成用の液体材料の液滴列1211,1212が形成される。ここで用いられる液体材料も、上述した液晶ディスプレイパネルの配線パターン1104,1105と同様なものが用いられ、例えば実施例1に記したように、溶媒中にナノ粒子を分散させて調製される。基板1201の表面(領域1205,1206)への液体材料の滴下には、吐出量:10plのノズルを備えたインクジェットヘッド(前記の2基とは別)を用意した。インクジェットヘッドは、基板1201に対して図13(a)のC−C線沿い(横方向)に走査され、その走査方向に交差する方向(縦方向)に並べられた複数のノズル(不図示)からは、その走査位置に応じて液体材料の液滴が逐次吐出される。インクジェットヘッドは、例えば、基板表面1201の左側の領域1206からチップ周辺領域1205を経て、右側の領域1206へ走査されるが、その間に各ノズルから吐出される液滴は10plに維持される。しかし、液体材料に対するチップ周辺領域1205と領域1206との撥液性の相違により、夫々の領域に滴下された液滴の着弾径は、図13(c)に示される如く、明らかに異なる。その後、液滴列1211,1212が乾燥され且つ焼結されて、図13(a)に示されるような配線パターン1203が形成される。チップ周辺領域1205に形成された着弾径:45μmの液滴列1211は狭ピッチ細線パターンとなり、その外側の領域1206に形成された着弾径:90μmの液滴列1212は広ピッチ太線パターンとなる。
【0072】
本実施例で述べた液晶ディスプレイパネルや電子装置のいずれにおいても、基板表面(被加工面)の領域に応じて、コーティング液の塗布とその乾燥という簡易な処理を施すだけで、これらの領域に形成される配線の幅を高い精度で制御することが可能となる。本実施例による電子装置に形成された配線パターン1203には、狭ピッチ細線パターン(液滴列1211により形成)と広ピッチ太線パターン(液滴列1212により形成)との接続部が含まれるが、この接続部を介した電気信号の送信や電力の供給に伴う問題は生じず、接続部での抵抗による信号波形の劣化や電力の損失も認められなかった。従って、実装基板1201の表面上にて、液体材料に対する撥液性の異なる領域1205,1206に跨る配線を当該液体材料の液滴列で形成しても、その機能はなんら損なわれないため、ピッチや幅が変換されるパターンの形成にも本発明は十分適用される。本発明のパターン形成に用いる液体材料は、Ag、Au、Cu、Ni、等の導電性微粒子を溶媒中に分散させて調製される。また、この溶媒(又はその主成分)として、表面張力が20〜40mN/m程度の液体が用いられる。
【0073】
本実施例で述べた液晶ディスプレイパネル(ガラス基板)や電子装置(実装基板)において、インクジェット法による配線の形成工程やその形状は、電子部品の高密度実装が要請される製品に適用される確率が高い。即ち、液晶ディスプレイパネル(LCD)、プラズマディスプレイパネル(PDP)、有機エレクトロルミネセンス(有機EL)ディスプレイパネル等の平面画像表示パネル(FPD,Flat Display Panel)の基板や、電子装置モジュールに用いる部品搭載用の実装配線用基板(プリント基板、セラミック基板)、及び半導体装置等の各種配線パターン形成に本発明は適用される。
【0074】
従って、本実施例により、実施例1及び2にて述べた本発明によるパターン形成方法がディスプレイパネル、電子装置とそのモジュール、半導体装置の製造に適用され、それに好ましい基板の製造方法や基板の形状が提供される。従って、上述した「本発明の目的3」及び「本発明の目的4」も達成される。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明によるパターン形成方法はパターン形成基板に対し、インクジェットを用いて撥液性を制御可能な方法で表面処理を行った後インクジェットにてパターンを形成する方法を提供するものであり、液体材料の印刷により形成された配線等のパターンを備えた全ての製品に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】本発明のパターン形成方法に関わる説明図
【図2】インクジェット方式を説明する構成図。
【図3】インクジェットによる液滴吐出方法にかかわる説明図。
【図4】インクジェットにより基板上に吐出された液滴。
【図5】インクジェット液滴連結による直線パターン形成の説明図。
【図6】接触角と吐出量から着弾径を求める説明図と式。
【図7】コーティング液におけるフッ素化合物濃度成分と接触角の関係を表すグラフ。
【図8】接触角と着弾径の関係を表すグラフ(吐出量75pl)。
【図9】本発明のインクジェット装置の構成図。
【図10】本発明のインクジェット装置を用いたパターン形成方法の説明フロー。
【図11】液晶ディスプレイパネルのデバイスドライバ搭載部の配線構造説明図。
【図12】接触角と着弾径の関係を表すグラフ(吐出量10pl)。
【図13】ICチップの基板内実装の配線構造説明図。
【符号の説明】
【0077】
1…基板、4…撥液領域、5…親液領域、6…液滴列、7…液滴列、904、910…インクジェットヘッド、906…コーティング液、912…液体材料。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクジェット方式により液体材料を基板上に吐出して該基板の表面にパターンを形成する方法であって、
前記液体材料に対する前記基板表面の濡れ性を制御するために、該液体材料に対する撥液性を該基板表面に付与するコーティング液をインクジェット方式により該基板上に塗布し且つ乾燥させて、該基板の表面状態を制御する第1工程と、
前記液体材料をインクジェットヘッドから該液体材料に対する濡れ性が制御された前記基板上に吐出させて該基板の表面に前記パターンを形成し、その後、該液体材料のパターンを乾燥させ且つ焼成する第2工程とがこの順に行われ、
前記第2工程において、前記パターンは、前記基板表面に前記液体材料の液滴を連ねて形成され、
前記インクジェットヘッドから吐出されて前記液体材料に対する濡れ性が制御された前記基板表面に着弾する該液体材料の液滴の着弾径:Dは、該インクジェットヘッドから吐出される該液滴の1滴あたりの吐出量:Vの制御と、前記コーティング液に含まれる前記撥液性を発現する成分の濃度の調整による該液滴と該濡れ性が制御された基板表面との接触角:θの制御とにより、下記1式の関係を満たすように調整されていることを特徴とするパターン形成方法。
【数1】

【請求項2】
前記第1工程にて、前記基板表面をその部分に応じて前記液体材料に対する撥液性が異なる複数種類のコーティング液で塗り分けることにより、該基板表面内に該撥液性の互いに異なる複数の領域が形成され、
前記第2工程にて、前記複数の領域の夫々に前記インクジェットから吐出された前記液体材料の液滴を着弾させることにより、前記パターンの幅を該領域に応じて制御することを特徴とする請求項1記載のパターン形成方法。
【請求項3】
主面に薄膜パターンが形成された基板の製造方法であって、
請求項1、2記載のパターン形成方法を用いて、前記薄膜パターンが前記主面に形成されることを特徴とする基板の製造方法。
【請求項4】
請求項3記載の製造方法で作製され、ディスプレイパネル、実装配線、又は半導体集積回路に用いられることを特徴とする基板。
【請求項5】
被加工物が搭載される面を有するテーブル、並びに該テーブルの面の上部に該面と離されて配置された複数の液体吐出ヘッドを備え、
前記テーブルと前記液体吐出ヘッドとの少なくとも一方は、該テーブルの面内における該液体吐出ヘッドの位置が走査されるように構成され、
前記複数の液体吐出ヘッドの少なくとも一つは前記被加工物の表面に形成されるパターンの前駆体となる液体材料を吐出するパターン形成用ヘッドであり、該液体吐出ヘッドのパターン形成用ヘッド以外の少なくとも一つは該液体材料に対する撥液性を該被加工物の表面に付与するコーティング液を吐出するコーティング用ヘッドであることを特徴とするパターン形成装置。
【請求項6】
前記コーティング用ヘッドを複数個備え、該コーティング用ヘッドから吐出される前記コーティング液の夫々が前記被加工物の表面に付与する前記液体材料に対する撥液性は互いに異なることを特徴とする請求項5記載のパターン形成装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate


【公開番号】特開2009−255007(P2009−255007A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−109736(P2008−109736)
【出願日】平成20年4月21日(2008.4.21)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】